説明

層状複水酸化物の製造方法

【課題】 アルミニウム再生工程等から排出されるアルミドロス、白ダスト等の物質を原料に用いて、ハイドロタルサイト様の層状複水酸化物を製造する方法を提供する。
【解決手段】 この発明に係る層状複水酸化物の製造方法は、アルミニウム再生工程から排出されたアルミドロス及び白ダストからなる群より選ばれる少なくとも1種のアルミニウム含有物質を酸に溶解せしめて酸水溶液を得る溶解工程と、前記酸水溶液と塩化マグネシウムとをMg/Alモル比が2〜4の範囲となる割合で混合せしめて混合液を得る工程と、前記混合液を、pH9〜12に調整されたアルカリ水溶液に滴下する工程とを包含することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えばアルミニウムを再生する工程等から排出されるアルミドロス、白ダスト等を原料に用いてハイドロタルサイト様の層状複水酸化物を製造する製造方法に関する。
【0002】
なお、この明細書において、「アルミニウム」の語は、アルミニウム及びその合金を含む意味で用いる。
【背景技術】
【0003】
近年、アルミニウムのリサイクルが積極的に行われているが、このアルミニウムの再生工程等からはアルミドロスや白ダスト等の廃棄物が多量に発生する。アルミドロスとは、アルミニウム溶融工程でアルミニウム溶湯表面に浮上するアルミニウム化合物であり、通常、アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化アルミニウムを合計で50〜80%含有する。アルミドロスの一部は、鉄鋼用脱酸剤(特許文献1参照)やブロック混和材(特許文献2参照)として利用されているが、その一方で年間約10万トンものアルミドロスは、埋立て処分されているのが現状である。また、アルミニウム溶融工程のバグフィルター部で回収される白ダストは、塩素分を多く含むアルミニウム化合物であるが、この白ダストも有効利用の途がなく、現状では廃棄物として処理されている。
【0004】
一方、例えば自動車エンジンや窓枠等として利用されて廃棄された、マグネシウムを含有するアルミニウム合金材料から金属アルミニウムを再生回収するような場合、アルミニウム融解工程で脱マグネシウム操作が行われるケースがあり、この脱マグネシウム操作によって粗製塩化マグネシウムの廃液が多量に発生するが、この粗製塩化マグネシウム廃液の有効利用の途も殆どないというのが実状であった。
【特許文献1】特開2004−190069号公報
【特許文献2】特開2003−246660号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年、埋立て処分地の確保が難しくなってきており、アルミドロス、白ダスト、粗製塩化マグネシウム廃液をこれまで通り埋立て処分する手法では、近い将来に限界が訪れることは明らかであるし、またこのような金属含有物質を埋立て処分するのは近年の地球環境保護の要請に対応する観点からも決して望ましいものではないことから、これらアルミドロス、白ダスト、粗製塩化マグネシウム廃液を再資源化する技術を開発することが強く求められていた。
【0006】
この発明は、かかる技術的背景に鑑みてなされたものであって、アルミニウム再生工程等から排出されるアルミドロス、白ダスト等の物質を原料に用いて、ハイドロタルサイト様の層状複水酸化物を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
【0008】
[1]アルミドロス及び白ダストからなる群より選ばれる少なくとも1種のアルミニウム含有物質を酸に溶解せしめて酸水溶液を得る溶解工程と、
前記酸水溶液と塩化マグネシウムとをMg/Alモル比が2〜4の範囲となる割合で混合せしめて混合液を得る工程と、
前記混合液を、pH9〜12に調整されたアルカリ水溶液に滴下する工程とを包含することを特徴とする層状複水酸化物の製造方法。
【0009】
[2]前記アルミニウム含有物質として、アルミニウム再生工程から排出されたアルミドロス及び白ダストからなる群より選ばれる少なくとも1種のアルミニウム含有物質を用いる前項1に記載の層状複水酸化物の製造方法。
【0010】
[3]前記塩化マグネシウムとして、アルミニウム再生工程から排出された塩化マグネシウム廃液を用いる前項1または2に記載の層状複水酸化物の製造方法。
【0011】
[4]前記酸として、塩酸、硝酸、硫酸及び王水からなる群より選ばれる少なくとも1種の酸を用いる前項1〜3のいずれか1項に記載の層状複水酸化物の製造方法。
【0012】
[5]前記アルカリ水溶液として、pH10〜11に調整されたアルカリ水溶液を用いる前項1〜4のいずれか1項に記載の層状複水酸化物の製造方法。
【0013】
[6]前記滴下終了後の液を所定時間攪拌する工程を含むことを特徴とする前項1〜5のいずれか1項に記載の層状複水酸化物の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
[1]の発明では、混合液を、pH9〜12に調整されたアルカリ水溶液に滴下することで共沈反応によってハイドロタルサイト様の層状複水酸化物を得ることができる。このように従来廃棄されていたアルミドロスや白ダストを有効利用して付加価値の高いハイドロタルサイト様の層状複水酸化物を製造することができて、アルミドロスや白ダストの再資源化を図ることができる(廃棄物から付加価値の高い無機材料を合成することができる)。本製造方法によれば、廃棄物の有効利用をなし得て廃棄物の減量を図ることができると共に、地球環境保護にも貢献できる。
【0015】
[2]の発明では、アルミニウム含有物質として、従来廃棄されていたアルミニウム再生工程からのアルミドロス及び/又は白ダストを用いるから、廃棄物の有効利用を十分に図ることができる。
【0016】
[3]の発明では、塩化マグネシウムとして、従来利用価値のあまりなかった、アルミニウム再生工程からの塩化マグネシウム廃液を用いるから、廃棄物の有効利用を十分に図ることができると共に、地球環境保護にも十分に貢献できる。また、廃棄物を有効利用することで、製造コストを低減することができる。
【0017】
[4]の発明では、酸として、塩酸、硝酸、硫酸及び王水からなる群より選ばれる少なくとも1種の酸を用いるので、溶解工程においてアルミドロス及び/又は白ダストをより多く溶解せしめることができて、再資源化率をさらに高めることができる利点がある。
【0018】
[5]の発明では、アルカリ水溶液として、pH10〜11に調整されたアルカリ水溶液を用いるので、共沈反応を効率よく進めることができる、即ちより多くのハイドロタルサイト様の層状複水酸化物を得ることができる。
【0019】
[6]の発明では、滴下終了後の液を所定時間攪拌するので、この攪拌操作によって層状複水酸化物の粒子径を大きくすることができると共に結晶性を高めることができる利点がある。攪拌は1時間以上行うのが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
この発明に係る層状複水酸化物の製造方法について説明する。まず、アルミニウム再生工程等から排出されたアルミドロス及び白ダストからなる群より選ばれる少なくとも1種のアルミニウム含有物質を酸に溶解せしめて酸水溶液を得る(溶解工程)。
【0021】
前記溶解工程において、アルミニウム含有物質(アルミドロス、白ダスト)の少なくとも一部が酸に溶解するものとなるが、未溶解の固形体については次の混合工程の前に固液分離操作を行うことによって分離除去するものとしても良い。未溶解の固形体の比率が小さい(酸可溶成分が多い)場合には、固液分離操作を行うことなくそのまま前記酸水溶液を次の混合工程に供しても良い。ただ、未溶解の固形体の比率が大きい場合には、目的生成物(層状複水酸化物)における不純物含有量を低減する観点から、固液分離操作を行うのが好ましい。前記固液分離操作としては、特に限定されるものではないが、例えばフィルタープレス、遠心分離等が挙げられる。
【0022】
前記アルミドロスとは、アルミニウムの再生等におけるアルミニウム溶融工程でアルミニウム溶湯表面に浮上するアルミニウム化合物であり、通常、主として、Al、Al23及びAlNの混合物である。なお、この明細書において、前記「アルミドロス」の語は、アルミドロスから金属アルミニウムを回収した後のアルミドロス残灰(アルミ残灰)も含む意味で用いている。
【0023】
また、前記白ダストとは、アルミニウムの再生等におけるアルミニウム溶融工程のバグフィルター部で回収される物質であり、塩素分を多く含むアルミニウム化合物である。
【0024】
次に、前記酸水溶液と塩化マグネシウム液とをMg/Alモル比が2〜4の範囲となる割合で混合せしめて混合液を得る(混合工程)。通常、混合時又は混合後に攪拌を行うことによって混合液の均一化を図る。この混合工程においてMg/Alモル比は2〜4の範囲に設定する。この規定範囲を逸脱すると、即ちMg/Alモル比が2未満であると、或いはMg/Alモル比が4を超えると、次の共沈反応において層状複水酸化物の収率が低下する。なお、前記「Mg/Alモル比」における「Alモル数」は酸水溶液に溶解したAlのモル数のことであり、酸水溶液に未溶解の固形体中のAlのモル数は含まない。中でも、Mg/Alモル比は2.2〜3.5の範囲に設定するのが好ましい。
【0025】
次に、前記混合工程で得られた混合液を、pH9〜12に調整されたアルカリ水溶液に滴下することによってハイドロタルサイト様の層状複水酸化物を得る(共沈工程)。前記アルカリ水溶液としては、pH9〜12の水溶液であれば特に限定されるものではないが、例えばNa2CO3水溶液、塩化アンモニウム水溶液等の弱塩基性の水溶液や、一般的な緩衝溶液などが挙げられる。この共沈工程において、アルカリ水溶液のpHはpH9〜12に保持する。即ち、前記混合液を滴下中はアルカリ水溶液のpHをpH9〜12に保持する。前記混合液は酸性溶液であり、混合液の滴下に伴いアルカリ水溶液のpHが酸性側にシフトすることから、混合液の滴下操作中は、例えばNaOH等のアルカリ水溶液等を同時に滴下することによってpH9〜12に保持する。
【0026】
前記共沈工程において、アルカリ水溶液のpHが9未満ではMgが溶解するために共沈が生じ難いし、アルカリ水溶液のpHが12を超えるとAlが溶解するために層状複水酸化物が生じ難い。中でも、前記共沈工程において、アルカリ水溶液のpHはpH10〜11に調整するのが好ましく、この場合にはMgとAlの沈殿率を高めることができる、即ちより多くのハイドロタルサイト等の層状複水酸化物を製造できる利点がある。
【0027】
次いで、前記滴下操作終了後の液を所定時間攪拌する。このように共沈後にさらに攪拌を行うことによって、得られた層状複水酸化物の粒子径を大きくすることができると共に、層状複水酸化物粒子の結晶性を高めることができる。なお、滴下操作終了後の液を所定時間加温することによっても、層状複水酸化物の粒子径を制御することができる。
【0028】
この発明において、前記アルミニウム含有物質(アルミドロス及び/又は白ダスト)としては、アルミニウム再生工程から排出されたものを用いるのが好ましい。勿論、アルミニウム再生工程以外から排出されたアルミドロス及び/又は白ダストを用いても良い。
【0029】
この発明において、前記塩化マグネシウム液としては、アルミニウム再生工程から排出された塩化マグネシウム廃液を用いるのが好ましい。この場合には、市販のマグネシウム塩またはマグネシウム塩の水溶液を用いる場合と比較して、廃棄物の有効利用を十分に図ることができると共に、地球環境保護にも十分に貢献できる。
【0030】
また、溶解工程で用いる酸としては、特に限定されるものではないが、塩酸、硝酸、硫酸及び王水からなる群より選ばれる少なくとも1種の酸を用いるのが好ましい。この場合には、溶解工程でアルミドロス及び/又は白ダストをより多く溶解せしめることができて、再資源化率をさらに高めることができる。
【0031】
この発明の製造方法によれば、従来廃棄されていたアルミドロスや白ダストを有効利用して付加価値の高いハイドロタルサイト様のMg/Al系層状複水酸化物を製造することができて、アルミドロスや白ダストの再資源化を図ることができ、このように廃棄物の有効利用をなし得て廃棄物の減量を図ることができるとともに地球環境保護にも貢献できる。
【0032】
なお、前記ハイドロタルサイトは、[M2+1-x3+x(OH)2x+・[(An-x/n・mH2O]x-の組成式で示される複水酸化物である。M2+およびM3+は、それぞれ2価の金属イオン、3価の金属イオンであり、An-はn価の陰イオンである。ハイドロタルサイトは、一般に、水酸化物層(ホスト層)と、陰イオンおよび水分子からなる層(ゲスト層)とが交互に積層した層状構造を有する。ホスト層中のM2+の一部がM3+と同型置換されており、このM3+の部分に永久正電荷が生じる。電気的なバランスを保つためにイオン交換可能な陰イオンが層間に取り込まれる。ハイドロタルサイトは、数少ない無機陰イオン交換体の一つであり、付加価値の高い優れた機能性材料である。
【実施例】
【0033】
次に、この発明の具体的実施例について説明する。
【0034】
<実施例1>
アルミニウム再生工程から排出されたアルミドロスの乾燥粉末5gに、1Mの塩酸水溶液200cm3を加えて室温で浸出操作を行った。即ち、アルミドロスを酸に溶解せしめて酸水溶液を得た。次いで、固液分離操作を行うことによって、塩酸に未溶解の固形体を分離除去して浸出液を回収した。
【0035】
次に、前記浸出液に、アルミニウム再生工程から排出された塩化マグネシウム廃液を混合して攪拌を行うことによって混合液を得た。この時、Mg/Alモル比が2.5となる割合で混合した。
【0036】
前記混合液を、ビーカー内で攪拌状態にあるNa2CO3水溶液(pH10.5)に一定流量で滴下して共沈操作を行った。なお、前記混合液の滴下開始と同時にビーカー内に30w/v%NaOH水溶液を滴下することによってビーカー内の液のpHを10.5に保持した(pHメーターを観察しつつNaOH水溶液の滴下量を微調整した)。滴下終了後2日間ビーカー内の液の攪拌を継続した。しかる後、減圧濾過による固液分離操作を行うことによって、反応生成物を回収し、水洗した後、343Kの温度で乾燥させた。
【0037】
こうして得られた反応生成物のX線回折パターンを図2(b)に示す。図2(a)に示す市販の試薬から合成されたCO32-型ハイドロタルサイト(HT)のX線回折パターンと一致しており、このことから得られた反応生成物をCO32-型ハイドロタルサイト(HT)と同定した。即ち、得られた反応生成物のX線回折パターンには、CO32-型ハイドロタルサイトのX線回折パターンのみが認められ、そのX線回折強度もほぼ同程度であった。なお、図2(a)のハイドロタルサイトは、MgCl2・6H2OとAlCl3・6H2Oを用いて実施例と同様にして混合液を調製して共沈操作を行って得たものである。
【0038】
また、得られた反応生成物の化学組成を表2に示す。各成分のwt%は、反応生成物を硝酸にて全溶解したときに水溶液中に含まれる金属成分の値を示す。Mgが64.8wt%、Alが28.3wt%であり、従ってMg/Alモル比は2.5であった。これは調製した混合溶液のMg/Alモル比と一致している。そのほかアルミドロスに含まれていた金属類が僅かに混入している。
【0039】
前記表2に示す反応生成物の化学組成分析の結果および熱重量分析の結果に基づくと、この実施例1で得られたCO32-型ハイドロタルサイトの化学式は、[Mg2+0.714Al3+0.286(OH)20.286+・[(CO32-0.143・0.93H2O]0.286-であると推定される。式中のH2Oの係数は、室温下での自由水および水和水の量から求めた値である。この化学式からハイドロタルサイトの陰イオン交換容量を計算すると、340meq/100gと評価することができる。
【0040】
なお、この実施例1で用いたアルミドロスのX線回折パターンを図1に示す。アルミドロス中の結晶性物質としてAl、AlN、Al23、SiO2およびFe23のピークが認められた。また、このアルミドロスは、数μm〜数百μmの幅広い粒度分布を呈しており、メジアン径は約100μmであった。また、この実施例1におけるアルミドロスの可溶成分(1Mの塩酸水溶液に溶解した成分)の化学組成を表1に示す。各成分のwt%は、アルミドロスの塩酸浸出液中に含まれる金属成分の総和を100wt%としたときの値を示す。アルミドロスの可溶成分中にはハイドロタルサイトの原料となるAlが87.3wt%、Mgが3.9wt%存在しており、少量成分としてFe、Ca、K、Na、Zn、Mn、PbおよびSi等が含まれている。アルミドロスの47.0wt%が1Mの塩酸水溶液に溶解し、53.0wt%が残渣として残った。なお、この残渣中には、自然発火やアンモニアガス発生の原因となるAlやAlNが含まれておらず、Al浸出はアルミドロスの無害化処理にも繋がる。また、実施例1で用いた塩化マグネシウム廃液の化学組成を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【0043】
<実施例2>
アルミニウム再生工程から排出された白ダストの乾燥粉末5gに、王水200cm3を加えて室温で浸出操作(3時間)を行った。即ち、白ダストを王水に溶解せしめて酸水溶液を得た。次いで、固液分離操作を行うことによって、酸に未溶解の固形体を分離除去して浸出濾液を回収した。
【0044】
次に、前記浸出濾液に、アルミニウム再生工程から排出された塩化マグネシウム廃液を混合して攪拌を行うことによって混合液を得た。この時、Mg/Alモル比が2.5となる割合で混合した。
【0045】
前記混合液を、ビーカー内で攪拌状態にあるNa2CO3水溶液(pH10.5)に一定流量で滴下して共沈操作を行った。なお、前記混合液の滴下開始と同時にビーカー内に30w/v%NaOH水溶液を滴下することによってビーカー内の液のpHを10.5に保持した(pHメーターを観察しつつNaOH水溶液の滴下量を微調整した)。滴下終了後2日間ビーカー内の液の攪拌を継続した。しかる後、減圧濾過による固液分離操作を行って反応生成物を回収し、水洗した後、343Kの温度で乾燥させることによって、ハイドロタルサイトを得た。
【0046】
こうして得られた反応生成物のX線回折パターンを図3に示す。図2(a)に示す市販の試薬から合成されたCO32-型ハイドロタルサイト(HT)のX線回折パターンと対応しており、このことから得られた反応生成物をCO32-型ハイドロタルサイト(HT)と同定した。
【0047】
なお、この実施例2における白ダストの酸可溶成分(王水に溶解した成分)の化学組成を表3に示す。各成分のwt%は、白ダストの王水浸出液中に含まれる金属成分の総和を100wt%としたときの値を示す。
【0048】
【表3】

【0049】
<実施例3>
実施例1における1Mの塩酸水溶液による浸出操作後の固液分離操作を省略するものとした(塩酸に未溶解の固形体を分離除去しない、即ち浸出液に未溶解の固形体が混ざった状態とした)以外は、実施例1と同様にして反応生成物であるハイドロタルサイトを得た。
【0050】
<陰イオン交換性能の評価>
実施例1で得られた反応生成物(CO32-型ハイドロタルサイト)、その焼成物、実施例3で得られた反応生成物(CO32-型ハイドロタルサイト)の焼成物のそれぞれについて陰イオン交換性能を評価した。即ち、前記各物質を用いて、水溶液中のクロム酸イオン(CrO42-)の除去を試みた。
【0051】
図4に、実施例1のハイドロタルサイトの773Kでの焼成物0.3gを、30cm3のクロム酸水溶液(K2CrO4水溶液)に混合したときのクロム酸イオン(CrO42-)の平衡濃度とクロム酸イオン除去量の関係を示した。また、図4に、実施例3のハイドロタルサイトの773Kでの焼成物0.3gを、30cm3のクロム酸水溶液に混合したときのクロム酸イオン(CrO42-)の平衡濃度とクロム酸イオン除去量の関係を示した。更に、この図4に、実施例1のハイドロタルサイト0.3gを、30cm3のクロム酸水溶液に混合したときのクロム酸イオン(CrO42-)の平衡濃度とクロム酸イオン除去量の関係を示した。いずれの場合でも、クロム酸イオンの平衡濃度の増加に伴ってクロム酸イオン除去量は増加する傾向を示した。
【0052】
図5に、実施例1のハイドロタルサイトの773Kでの焼成物0.3gを、30cm3のクロム酸水溶液に混合したときのクロム酸イオンの初期濃度とクロム酸イオン除去率の関係を示した。同様に、図5に、実施例3のハイドロタルサイトの773Kでの焼成物を用いた時の結果及び実施例1のハイドロタルサイトを用いた時の結果についても示した。クロム酸イオンの初期濃度の増加に伴ってクロム酸イオンの除去率は低下し、初期濃度が約1100mg/cm3のとき焼成物では約45%、未焼成物では約22%の除去率であった。低いクロム酸イオン濃度の領域では、クロム酸イオンの除去率は100%に近い値を示した。焼成物の除去率が、未焼成物の除去率よりも高くなる理由は、焼成過程でハイドロタルサイト中のCO32-が脱離するために、再水和時にハイドロタルサイト中の陰イオン交換サイトに捕捉されるクロム酸イオンの量が増加したものと推定される。
【0053】
このようにこの発明の製造方法で得られたハイドロタルサイトを用いて水溶液中のクロム酸イオンを除去することができた。得られたハイドロタルサイトを例えば773Kで焼成処理すると、ハイドロタルサイトに保持されているイオン交換し難いCO32-を除去できるので、ハイドロタルサイトの焼成物は、未焼成ハイドロタルサイトよりもクロム酸イオンの除去量、除去率が高い。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】実施例1で用いたアルミドロスのX線回折パターンを示す。
【図2】(a)は試薬から合成されたCO32-型ハイドロタルサイトのX線回折パターンであり、(b)は実施例1で得られた反応生成物のX線回折パターンである。
【図3】実施例2で得られた反応生成物のX線回折パターンである。
【図4】この発明の製造方法で得たハイドロタルサイトを用いたときのクロム酸イオンの平衡濃度とクロム酸イオン除去量の関係を示すグラフである。
【図5】この発明の製造方法で得たハイドロタルサイトを用いたときのクロム酸イオンの初期濃度とクロム酸イオン除去率の関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミドロス及び白ダストからなる群より選ばれる少なくとも1種のアルミニウム含有物質を酸に溶解せしめて酸水溶液を得る溶解工程と、
前記酸水溶液と塩化マグネシウムとをMg/Alモル比が2〜4の範囲となる割合で混合せしめて混合液を得る工程と、
前記混合液を、pH9〜12に調整されたアルカリ水溶液に滴下する工程とを包含することを特徴とする層状複水酸化物の製造方法。
【請求項2】
前記アルミニウム含有物質として、アルミニウム再生工程から排出されたアルミドロス及び白ダストからなる群より選ばれる少なくとも1種のアルミニウム含有物質を用いる請求項1に記載の層状複水酸化物の製造方法。
【請求項3】
前記塩化マグネシウムとして、アルミニウム再生工程から排出された塩化マグネシウム廃液を用いる請求項1または2に記載の層状複水酸化物の製造方法。
【請求項4】
前記酸として、塩酸、硝酸、硫酸及び王水からなる群より選ばれる少なくとも1種の酸を用いる請求項1〜3のいずれか1項に記載の層状複水酸化物の製造方法。
【請求項5】
前記アルカリ水溶液として、pH10〜11に調整されたアルカリ水溶液を用いる請求項1〜4のいずれか1項に記載の層状複水酸化物の製造方法。
【請求項6】
前記滴下終了後の液を所定時間攪拌する工程を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の層状複水酸化物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−151744(P2006−151744A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−344201(P2004−344201)
【出願日】平成16年11月29日(2004.11.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年6月1日 環境資源工学会発行の「環境資源工学 2004夏季号 第51巻 第2号」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年6月3日 社団法人化学工学会関西支部、学校法人関西大学共催の「環境資源工学会112回例会」において文書をもって発表
【出願人】(399030060)学校法人 関西大学 (208)
【Fターム(参考)】