層状金属酸化物を含む固体電解質及びその製造方法
【課題】アンモニアを燃料とした燃料電池において、高い起電力を得ることができる固体電解質を提供すること。
【解決手段】下記一般式(1)で表される層状金属酸化物を含む固体電解質。
(La1−xAx)(Sr1−yBy)3(Co1−zCz)3O10−δ (1)
[式中、AはLa以外の希土類元素であり、BはMg、Ca又はBaであり、CはTi、V、Cr又はMnであり、0≦x<1、0≦y<1、0≦z<1、δは酸素欠損量である。]
【解決手段】下記一般式(1)で表される層状金属酸化物を含む固体電解質。
(La1−xAx)(Sr1−yBy)3(Co1−zCz)3O10−δ (1)
[式中、AはLa以外の希土類元素であり、BはMg、Ca又はBaであり、CはTi、V、Cr又はMnであり、0≦x<1、0≦y<1、0≦z<1、δは酸素欠損量である。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、層状金属酸化物を含む固体電解質及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、固体電解質として層状金属酸化物であるNaCo2O4やLaFe3Sr3O10、Bi4Sr14Fe24O56を用いた燃料電池に関する発明が記載されている。これらの層状金属酸化物は、層間に水をインターカレートできるため、イオン電導性があると考えられており、当該燃料電池は、燃料としてヒドラジン(N2H4)や触媒として白金を使用せず、室温程度の低温条件下(20〜80℃程度)であっても高い起電力が得ることができることを特徴としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2010/007949号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1においては、燃料電池の燃料として水素を用いているが、アンモニアを燃料とし、NaCo2O4を固体電解質として用いた燃料電池においては、開回路電圧(OCV)として比較的高い起電力が得られたが、理論値1.17Vに対してはより向上させる余地が見られた。
【0005】
また、LaFe3Sr3O10やBi4Sr14Fe24O56を固体電解質として用いた燃料電池は、アンモニアを燃料として用いると開回路電圧が得られないという課題があった。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、アンモニアを燃料とした燃料電池において、高い起電力を得ることができる固体電解質及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明者らは燃料電池用の固体電解質として注目されている層状金属酸化物について鋭意検討した結果、上記課題を解決し得る最適な層状金属酸化物を見出し、以下の発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は、下記一般式(1)で表される層状金属酸化物を含む固体電解質を提供する。
(La1−xAx)(Sr1−yBy)3(Co1−zCz)3O10−δ (1)
[式中、AはLa以外の希土類元素であり、BはMg、Ca又はBaであり、CはTi、V、Cr又はMnであり、0≦x<1、0≦y<1、0≦z<1、δは酸素欠損量である。]
【0008】
本発明の固体電解質は、上記一般式(1)で表される特定の組成を有する層状金属酸化物を含むことによって、NaCo2O4を固体電解質として用いた燃料電池よりもさらに理論値に近い高い起電力を得ることができる。また、本発明者らは、LaFe3Sr3O10やBi4Sr14Fe24O56を固体電解質として用いたアンモニアを燃料とする燃料電池について鋭意検討したところ、Feを含む固体電解質は緻密性が良くないことによりガスリークが生じ易く、アノード電極だけでなくカソード電極においてもアンモニアを分解してしまう結果、反応選択性がなくなり電圧が得られないと推察した。これに対し、本発明者らの検討の結果、上記一般式(1)で表される層状金属酸化物は、Feを含まず緻密性が高いことから、アンモニアを燃料に用いてもガスリークが生じにくいことを見出した。また、このような層状金属酸化物は、共沈法を用いることによって均一な組成で製造することができることも見出した。そのため、上記一般式(1)で表される層状金属酸化物を固体電解質として用いることによって、アンモニアを燃料とする燃料電池でも、上記従来の固体電解質を用いた場合に比して高い起電力を得ることができる。
【0009】
本発明は、上記層状金属酸化物を含む固体電解質の製造方法を提供する。すなわち、本発明に係る固体電解質の製造方法は、La、Sr及びCoを含む水溶液をアルカリ水溶液に加えて、下記一般式(1)で表される層状金属酸化物の前駆体を含む沈殿物を生じさせる工程と、層状金属酸化物の前駆体を含む沈殿物を焼成する工程とを備える。
(La1−xAx)(Sr1−yBy)3(Co1−zCz)3O10−δ (1)
[式中、AはLa以外の希土類元素であり、BはMg、Ca又はBaであり、CはTi、V、Cr又はMnであり、0≦x<1、0≦y<1、0≦z<1、δは酸素欠損量である。]
【0010】
上記製造方法によれば、上記のLa、Sr及びCoを含む水溶液をアルカリ水溶液に加える工程、すなわち共沈法を用いることによって、上記一般式(1)で表される層状金属酸化物が均一な組成となった固体電解質を製造することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、アンモニアを燃料とした燃料電池において、高い起電力を得ることができる固体電解質及びその製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1のペレットAをX線回折(XRD)で構造解析した結果を示す回折パターンである。
【図2】比較例1のペレットBをX線回折(XRD)で構造解析した結果を示す回折パターンである。
【図3】実施例1のペレットA(LaSr3Co3O10)を固体電解質として用いた評価装置(燃料電池)を示す模式断面図である。
【図4】図3の評価装置(燃料電池)のOCV及び電力密度の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、場合により図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0014】
<層状金属酸化物>
本発明の固体電解質に含まれる層状金属酸化物は、LaSr3Co3O10を基本構造とするペロブスカイト型の層状金属酸化物であり、下記一般式(1)で表される組成を有する。なお、ここでいう層状とは、原子又は原子団が特に平面上に配列してシート構造をつくり、この平面に垂直な方向にシート構造の繰り返しが見られる結晶構造を意味する。
(La1−xAx)(Sr1−yBy)3(Co1−zCz)3O10−δ (1)
【0015】
上記一般式(1)中、AはLaサイトに含まれる元素であり、La(ランタン)以外の希土類元素である。例えば、Sc(スカンジウム)、Y(イットリア)、Ce(セリウム)、Pr(プラセオジウム)、Nd(ネオジム)、Pm(プロメチウム)、Sm(サマリウム)、Eu(ユーロピウム)、Gd(ガドリニウム)、Tb(テルビウム)、Dy(ジスプロシウム)、Ho(ホルミウム)、Er(エルビウム)、Tm(ツリウム)、Yb(イッテルビウム)又はLu(ルテチウム)である。この中でもAは、好ましくはY、Sc、Ce、Eu、Sm、Gd、Pr、Ndであり、より好ましくはY、Eu、Sm、Gd、Ndである。また、xは0以上1未満であり、好ましくは0以上0.5以下であり、より好ましくは0以上0.1以下である。
【0016】
BはSrサイトに含まれる元素であり、Mg、Ca又はBaである。好ましくはBは、Ca又はBaである。また、yは0以上1未満であり、好ましくは0以上0.5以下であり、より好ましくは0以上0.1以下である。
【0017】
CはCoサイトに含まれる元素であり、Ti、V、Cr、Fe又はMnである。好ましくはCは、Mn、Fe又はCrであり、より好ましくはMn又はFeである。また、zは0以上1未満であり、好ましくは0以上0.5以下であり、より好ましくは0以上0.1以下である。
【0018】
また、δは酸素欠損量を示し、−0.2以上1.5以下の酸素欠損が生じる。すなわち、式(1)中の酸素の価数(原子価)は、8.5以上10.2以下となる。
【0019】
上記一般式(1)で示される層状金属酸化物は、水蒸気処理が施されると当該層状金属酸化物中の酸素欠陥に水分子が水和し、水酸化物イオンの伝導性が発現すると推察される。この層状金属酸化物を含有する電解質層を採用することで、室温であっても十分に高い起電力を得ることができる。水蒸気処理は、例えば、後述する固体電解質を作成した後に、当該固体電解質を、所定の温度、相対湿度及び圧力の条件にさらすことによって実施することができる。その条件は、水酸化物イオンの伝導性が発現する範囲で適宜設定することが好ましい。例えば、温度を50〜120℃の範囲とし、相対湿度を50〜90%の範囲とし、圧力を0.1〜1MPaの範囲とし、処理時間を2〜48時間の範囲とすることが好ましい。
【0020】
<層状金属酸化物を含む固体電解質の製造方法>
上記一般式(1)で示される層状金属酸化物を含む固体電解質は、以下の第1工程及び第2工程を含む方法により製造することができる。
【0021】
[第1工程]
第1工程においては、La、Sr及びCoを含む水溶液をアルカリ水溶液に加える。この工程により、上記一般式(1)で表される層状金属酸化物の前駆体を含む沈殿物を生じさせることができる。このような共沈法を用いることにより、水溶液中の原子を固まらせず、分散性を高め、均一な層状金属酸化物にすることができる。また、pHの変化を抑えることもできる。なお、前駆体とは、焼成することによって層状金属酸化物となるものをいう。
【0022】
La、Sr及びCoを含む水溶液は、水溶液にLa、Sr及びCoが所定量含まれていればよく、La、Sr及びCoの塩を水に溶解させた水溶液が好ましい。Laの塩としては例えばLa(NO3)3、Srの塩としては例えばSr(NO3)2、Coの塩としては例えばCo(NO3)2が挙げられる。La、Sr及びCoの含有割合は、上記一般式(1)を満たす範囲であればよく、好ましくは、La:Sr:Coが1:3:3の割合である。
【0023】
アルカリ水溶液としては、La、Sr及びCoを含む水溶液を加えることによって沈殿物を生じさせることができる塩基性を有するものであればよい。例えば、Na2CO3水溶液やK2CO3水溶液など炭酸イオンを含むものを好適に用いることができる。
【0024】
La、Sr及びCoを含む水溶液をアルカリ水溶液に加える工程としては、上記アルカリ水溶液に、上記La、Sr及びCoの全てを含む水溶液を一度に加えることが好ましい。La、Sr及びCoを含む水溶液をアルカリ水溶液に一度に加えることによって、分散性を高めることができ、均一な層状金属酸化物の前駆体を含む沈殿物を得ることができる。
【0025】
また、La、Sr及びCoを含む水溶液をアルカリ水溶液に加える工程においては、La、Sr及びCoを含む水溶液を速やかにアルカリ水溶液に加えることが好ましく、例えば、1〜10秒でアルカリ水溶液に加えることが好ましい。より好ましくは2〜5秒で加え、さらに好ましくは2〜3秒で一気に加えることである。短時間でアルカリ水溶液にLa、Sr及びCoを含む水溶液を加えることによって、原子を固まらせず分散性を高め、均一な層状金属酸化物の前駆体を含む沈殿物を生じさせることが可能となる。
【0026】
第一工程においては、上記アルカリ水溶液とLa、Sr及びCoを含む水溶液の混合液を、1〜10時間攪拌する工程を有することが好ましい。より好ましくは1〜4時間、さらに好ましくは1〜2時間攪拌する。また、攪拌後には、18〜24時間静置する工程を有することが好ましい。より好ましくは20〜22時間、さらに好ましくは20〜21時間静置する。攪拌及び静置の工程により、上記一般式(1)で示される層状金属酸化物の前駆体を含む沈殿物をより均一な組成とすることが可能となる。
【0027】
[第2工程]
第2工程においては、上記の第1工程で得られた層状金属酸化物の前駆体を含む沈殿物を焼成して、上記一般式(1)で表される層状金属酸化物を含む固体電解質を形成する。この第2工程では、後述する焼成工程の前に、必要に応じて、第1工程後の水分等を含有している上記混合液中に生じた沈殿物を、乾燥させる工程(乾燥工程)を行うことが好ましい。乾燥工程は、より好ましくは、風乾により実施することができる。また、この乾燥工程前には、水やエタノールなどを用いて沈殿物を数回洗浄する工程を行うことも好ましい。
【0028】
乾燥させた沈殿物は、次いで、焼成工程において600〜900℃で15〜60分焼成する。これにより、上記一般式(1)で示される層状金属酸化物を含む粉末状の固体電解質を得ることができる。焼成温度は好ましくは650〜850℃であり、より好ましくは700〜800℃である。また、焼成時間は好ましくは20〜50分であり、より好ましくは30〜40分である。
【0029】
<固体電解質層>
上記で得られた粉末状の固体電解質は、圧縮成型して焼成することによって固体電解質層に成型することができる。その場合、まず、上記一般式(1)で示される層状金属酸化物を含む粉末状の固体電解質を、好ましい形状や厚みにする。例えば、使用する燃料電池に適合するサイズにすることが好ましく、直径が18〜22mmのほぼ円形で、厚みが1〜1.5mmのペレット状にすることが好ましい。ペレット状にするためには、粉末状の固体電解質を例えば錠剤成型器に入れ、圧力30〜40MPaを3〜5分保持すればよい。
【0030】
次に、このペレット状にした固体電解質を900〜1100℃で15〜60分焼成する。これにより、上記一般式(1)で示される層状金属酸化物を含む固体電解質層(ペレット)を得ることができる。焼成温度は好ましくは950〜1050℃であり、より好ましくは970〜1020℃である。また、焼成時間は好ましくは20〜50分であり、より好ましくは30〜40分である。
【0031】
固体電解質層には、上記一般式(1)で示される層状金属酸化物が含まれるが、上記一般式(1)で示される層状金属酸化物以外の酸化物や不純物が、当該層状金属酸化物の機能発揮を阻害しない程度に含まれていてもよい。
【0032】
<燃料電池>
上記一般式(1)で示される層状金属酸化物を含む固体電解質層を用い、その一方面にアノード電極を、もう一方の面にカソード電極を備えることによって、燃料電池を構成することができる。本燃料電池は、アンモニアを燃料とすることが好ましいが、水素など他のガスを燃料とすることも可能である。
【0033】
アノード電極としては電極触媒と層状金属酸化物を含むものであればよい。例えば、Fe−Co−Ni電極触媒とNaCo2O4焼結体を所定の割合で混合し、ペースト状にして発泡Ni上に塗布したものを使用することができる。ここで、電極触媒であるFe−Co−Ni電極触媒は、Fe、Co及びNiを含む合金部分と、合金部分を形成していないFe部分を含む合金材料を有するものであることが、高い起電力や十分な電流密度を得る観点から好ましい。
【0034】
また、カソード電極としては、カーボン材料と層状金属酸化物を含むものを適用できる。例えば、NaCo2O4焼結体と、カーボンブラックを所定の割合で混合させカーボンペーパー上に塗布したものを使用することができる。
【0035】
上記燃料電池においては、発電する前に固体電解質層(ペレット)を250〜300℃に昇温させ、室温で加湿した水素を5〜10ml/分の割合で15〜60分流し、前処理することが好ましい。これにより、固体電解質層内をOH−イオンが伝導しやすくなる。また、アノード電極も同様に前処理することが好ましいが、カソード電極は同様の前処理を施さないことが好ましい。
【0036】
上記燃料電池で発電するには、アノード電極にアンモニアを含むガスを供給し、カソード電極に酸素を含むガスを供給する。これにより、燃料電池内において以下の反応が生じ、発電する。
アノード電極:NH3+3OH− → 1/2N2+3H2O+3e−
カソード電極:3/4O2+3/2H2O+3e− → 3OH−
燃料電池全体:NH3+3/4O2 → 1/2N2+3/2H2O
【0037】
以上のとおり、本発明により、上記一般式(1)で示される層状金属酸化物を含む固体電解質及びその製造方法を提供することができる。また、当該固体電解質を燃料電池の固体電解質層として用いることによって、アンモニアを燃料とする燃料電池を高い起電力で作動させることが可能となる。
【0038】
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0039】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0040】
(実施例1)
<層状金属酸化物の調製>
まず、La:Sr:Coが1:3:3になるように、La(NO3)3・6H2Oを1.759g、Sr(NO3)2を2.580g、Co(NO3)2・6H2Oを3.548g、蒸留水100ml中に溶解させて、金属塩を含む水溶液を準備した。次にアルカリ水溶液として、Na2CO315gを水100mlに溶解させたNa2CO3水溶液(Na2CO3=0.14モル、CO32−/M=5)を準備した。共沈法として、このNa2CO3水溶液を攪拌させながら、金属塩を含む水溶液を加えた。この際に、金属塩を含む水溶液は2〜3秒で一気にNa2CO3水溶液に加え、1時間攪拌した後、20時間静置させた。
【0041】
20時間静置後、上記混合水溶液中に生成した沈殿物を、遠心分離装置(製品名:テーブルトップ遠心機5420、(株)久保田製作所製)を用い、水で5回、エタノールで3回洗浄した。洗浄後の沈殿物を一晩空気中で乾燥(風乾)させ、乾燥させた粉末を800℃で30分仮焼した(昇温速度:10K/min)。この仮焼粉末を直径20mm、厚さ1mmのペレット状に成型し(圧力:60MPa、保持時間:10分)、1000℃で30分焼成してペレットAを得た(昇温速度:10K/min)。
【0042】
<ペレットAの構造解析>
粉末X線回折装置(Rigaku、RINT−Ulitima+)を用いてペレットAの構造解析を行った。測定条件は以下のとおりである。
線源:CuKα、
波長λ:0.154056nm、
管電圧:40kV、
電流:20mA、
測定範囲2θ:2〜80°、
走査軸:2θ/θ、
スキャンステップ:0.02°、
スキャンスピード:2°/分、
発散スリット:1/2°、
散乱スリット:1/2°、
受光スリット:0.15mm。
【0043】
このペレットAのXRDパターンを図1に示す。得られた回折線から、LaSr3Co3O10層状金属酸化物には多々の結晶構造面があることが確認できた。
【0044】
(比較例1)
実施例1は共沈法を用いて層状金属化合物を調製したのに対し、比較例1では固相法を用いた。まず、La:Sr:Coが1:3:3になるように、La2O3を3.26g、SrCO3を8.86g、Co3O4を6.88g、遊星型ボールミル(FRITSCH pulverisette)に収容し、回転速度300rpm、処理時間1時間の条件で粉砕・混合させた。この混合物を錠剤成型器に入れ、ペレット状に成型後(圧力:20MPa、保持時間:5分)、マッフル炉において1400℃で3時間焼成してペレットBを得た。
【0045】
<ペレットBの構造解析>
上記ペレットAと同様の装置、測定条件でペレットBの構造解析を行った。ペレットBのXRDパターンを図2に示す。図2のとおり、得られた回折線は単純ペロブスカイト相である(La,Sr)CoO3に帰属され、ペレットBが層状金属酸化物(LaSr3Co3O10)ではないことを示した。
【0046】
(実施例2)
<発電試験>
実施例1で得たペレットAの燃料電池用固体電解質層としての性能を評価するために、図3の評価装置(燃料電池)を準備した。燃料電池10は、ペレットA(LaSr3Co3O10)を固体電解質層1とし、アノード電極2としてFe−Co−Ni/C触媒とNaCo2O4を粉砕・混合し、ペースト状に塗布したもの、カソード電極3としてカーボンペーパー上にカーボンブラックとNaCo2O4を塗布したものを使用した。また、上記燃料電池においては、アノード電極2及びカソード電極3の面上にPt網4を配置し、これに接続された導線5(Pt線)からの出力を測定した。また、アノード電極2側には燃料ガス供給口7、カソード電極3側には酸素ガス供給口8を設け、さらに、ガスが燃料電池10から漏れないように、それらの外側にセル本体部9を配置するとともに、セル本体部9と固体電解質層1との間にガスケット6を配置した。
【0047】
測定は、以下の手順に従って行った。
(1)厚さ1mmのペレットAを280℃に昇温させ、室温で加湿した水素を5ml/分で30分流し、前処理した。
(2)Fe−Co−Ni/C触媒とNaCo2O4を面上に有する発泡Ni(アノード電極2)を280℃に昇温させ、室温で加湿した水素を5ml/分で30分流し、前処理した。
(3)アノード電極2にアンモニアとHeの混合ガスを20ml/分で供給するとともに、カソード電極3に酸素を20ml/分で95℃加湿されたものを供給した。
(4)セル温度は73℃とした。
【0048】
測定結果の一例を図4に示す。図4は、上記の測定条件で燃料電池10を動作させたときの、得られる電流密度(mAcm−2)の値に対する、そのときのセル電圧(V)及び電力密度(mAcm−2)の値を示すグラフである。図4のとおり、ペレットA(LaSr3Co3O10)を固体電解質層1とした燃料電池10は、OCVが0.96V、最大電力密度が4.7mW/cm2と高い性能を示した。
【符号の説明】
【0049】
1…固体電解質層、2…アノード電極、3…カソード電極、10…燃料電池。
【技術分野】
【0001】
本発明は、層状金属酸化物を含む固体電解質及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、固体電解質として層状金属酸化物であるNaCo2O4やLaFe3Sr3O10、Bi4Sr14Fe24O56を用いた燃料電池に関する発明が記載されている。これらの層状金属酸化物は、層間に水をインターカレートできるため、イオン電導性があると考えられており、当該燃料電池は、燃料としてヒドラジン(N2H4)や触媒として白金を使用せず、室温程度の低温条件下(20〜80℃程度)であっても高い起電力が得ることができることを特徴としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2010/007949号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1においては、燃料電池の燃料として水素を用いているが、アンモニアを燃料とし、NaCo2O4を固体電解質として用いた燃料電池においては、開回路電圧(OCV)として比較的高い起電力が得られたが、理論値1.17Vに対してはより向上させる余地が見られた。
【0005】
また、LaFe3Sr3O10やBi4Sr14Fe24O56を固体電解質として用いた燃料電池は、アンモニアを燃料として用いると開回路電圧が得られないという課題があった。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、アンモニアを燃料とした燃料電池において、高い起電力を得ることができる固体電解質及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明者らは燃料電池用の固体電解質として注目されている層状金属酸化物について鋭意検討した結果、上記課題を解決し得る最適な層状金属酸化物を見出し、以下の発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は、下記一般式(1)で表される層状金属酸化物を含む固体電解質を提供する。
(La1−xAx)(Sr1−yBy)3(Co1−zCz)3O10−δ (1)
[式中、AはLa以外の希土類元素であり、BはMg、Ca又はBaであり、CはTi、V、Cr又はMnであり、0≦x<1、0≦y<1、0≦z<1、δは酸素欠損量である。]
【0008】
本発明の固体電解質は、上記一般式(1)で表される特定の組成を有する層状金属酸化物を含むことによって、NaCo2O4を固体電解質として用いた燃料電池よりもさらに理論値に近い高い起電力を得ることができる。また、本発明者らは、LaFe3Sr3O10やBi4Sr14Fe24O56を固体電解質として用いたアンモニアを燃料とする燃料電池について鋭意検討したところ、Feを含む固体電解質は緻密性が良くないことによりガスリークが生じ易く、アノード電極だけでなくカソード電極においてもアンモニアを分解してしまう結果、反応選択性がなくなり電圧が得られないと推察した。これに対し、本発明者らの検討の結果、上記一般式(1)で表される層状金属酸化物は、Feを含まず緻密性が高いことから、アンモニアを燃料に用いてもガスリークが生じにくいことを見出した。また、このような層状金属酸化物は、共沈法を用いることによって均一な組成で製造することができることも見出した。そのため、上記一般式(1)で表される層状金属酸化物を固体電解質として用いることによって、アンモニアを燃料とする燃料電池でも、上記従来の固体電解質を用いた場合に比して高い起電力を得ることができる。
【0009】
本発明は、上記層状金属酸化物を含む固体電解質の製造方法を提供する。すなわち、本発明に係る固体電解質の製造方法は、La、Sr及びCoを含む水溶液をアルカリ水溶液に加えて、下記一般式(1)で表される層状金属酸化物の前駆体を含む沈殿物を生じさせる工程と、層状金属酸化物の前駆体を含む沈殿物を焼成する工程とを備える。
(La1−xAx)(Sr1−yBy)3(Co1−zCz)3O10−δ (1)
[式中、AはLa以外の希土類元素であり、BはMg、Ca又はBaであり、CはTi、V、Cr又はMnであり、0≦x<1、0≦y<1、0≦z<1、δは酸素欠損量である。]
【0010】
上記製造方法によれば、上記のLa、Sr及びCoを含む水溶液をアルカリ水溶液に加える工程、すなわち共沈法を用いることによって、上記一般式(1)で表される層状金属酸化物が均一な組成となった固体電解質を製造することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、アンモニアを燃料とした燃料電池において、高い起電力を得ることができる固体電解質及びその製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1のペレットAをX線回折(XRD)で構造解析した結果を示す回折パターンである。
【図2】比較例1のペレットBをX線回折(XRD)で構造解析した結果を示す回折パターンである。
【図3】実施例1のペレットA(LaSr3Co3O10)を固体電解質として用いた評価装置(燃料電池)を示す模式断面図である。
【図4】図3の評価装置(燃料電池)のOCV及び電力密度の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、場合により図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0014】
<層状金属酸化物>
本発明の固体電解質に含まれる層状金属酸化物は、LaSr3Co3O10を基本構造とするペロブスカイト型の層状金属酸化物であり、下記一般式(1)で表される組成を有する。なお、ここでいう層状とは、原子又は原子団が特に平面上に配列してシート構造をつくり、この平面に垂直な方向にシート構造の繰り返しが見られる結晶構造を意味する。
(La1−xAx)(Sr1−yBy)3(Co1−zCz)3O10−δ (1)
【0015】
上記一般式(1)中、AはLaサイトに含まれる元素であり、La(ランタン)以外の希土類元素である。例えば、Sc(スカンジウム)、Y(イットリア)、Ce(セリウム)、Pr(プラセオジウム)、Nd(ネオジム)、Pm(プロメチウム)、Sm(サマリウム)、Eu(ユーロピウム)、Gd(ガドリニウム)、Tb(テルビウム)、Dy(ジスプロシウム)、Ho(ホルミウム)、Er(エルビウム)、Tm(ツリウム)、Yb(イッテルビウム)又はLu(ルテチウム)である。この中でもAは、好ましくはY、Sc、Ce、Eu、Sm、Gd、Pr、Ndであり、より好ましくはY、Eu、Sm、Gd、Ndである。また、xは0以上1未満であり、好ましくは0以上0.5以下であり、より好ましくは0以上0.1以下である。
【0016】
BはSrサイトに含まれる元素であり、Mg、Ca又はBaである。好ましくはBは、Ca又はBaである。また、yは0以上1未満であり、好ましくは0以上0.5以下であり、より好ましくは0以上0.1以下である。
【0017】
CはCoサイトに含まれる元素であり、Ti、V、Cr、Fe又はMnである。好ましくはCは、Mn、Fe又はCrであり、より好ましくはMn又はFeである。また、zは0以上1未満であり、好ましくは0以上0.5以下であり、より好ましくは0以上0.1以下である。
【0018】
また、δは酸素欠損量を示し、−0.2以上1.5以下の酸素欠損が生じる。すなわち、式(1)中の酸素の価数(原子価)は、8.5以上10.2以下となる。
【0019】
上記一般式(1)で示される層状金属酸化物は、水蒸気処理が施されると当該層状金属酸化物中の酸素欠陥に水分子が水和し、水酸化物イオンの伝導性が発現すると推察される。この層状金属酸化物を含有する電解質層を採用することで、室温であっても十分に高い起電力を得ることができる。水蒸気処理は、例えば、後述する固体電解質を作成した後に、当該固体電解質を、所定の温度、相対湿度及び圧力の条件にさらすことによって実施することができる。その条件は、水酸化物イオンの伝導性が発現する範囲で適宜設定することが好ましい。例えば、温度を50〜120℃の範囲とし、相対湿度を50〜90%の範囲とし、圧力を0.1〜1MPaの範囲とし、処理時間を2〜48時間の範囲とすることが好ましい。
【0020】
<層状金属酸化物を含む固体電解質の製造方法>
上記一般式(1)で示される層状金属酸化物を含む固体電解質は、以下の第1工程及び第2工程を含む方法により製造することができる。
【0021】
[第1工程]
第1工程においては、La、Sr及びCoを含む水溶液をアルカリ水溶液に加える。この工程により、上記一般式(1)で表される層状金属酸化物の前駆体を含む沈殿物を生じさせることができる。このような共沈法を用いることにより、水溶液中の原子を固まらせず、分散性を高め、均一な層状金属酸化物にすることができる。また、pHの変化を抑えることもできる。なお、前駆体とは、焼成することによって層状金属酸化物となるものをいう。
【0022】
La、Sr及びCoを含む水溶液は、水溶液にLa、Sr及びCoが所定量含まれていればよく、La、Sr及びCoの塩を水に溶解させた水溶液が好ましい。Laの塩としては例えばLa(NO3)3、Srの塩としては例えばSr(NO3)2、Coの塩としては例えばCo(NO3)2が挙げられる。La、Sr及びCoの含有割合は、上記一般式(1)を満たす範囲であればよく、好ましくは、La:Sr:Coが1:3:3の割合である。
【0023】
アルカリ水溶液としては、La、Sr及びCoを含む水溶液を加えることによって沈殿物を生じさせることができる塩基性を有するものであればよい。例えば、Na2CO3水溶液やK2CO3水溶液など炭酸イオンを含むものを好適に用いることができる。
【0024】
La、Sr及びCoを含む水溶液をアルカリ水溶液に加える工程としては、上記アルカリ水溶液に、上記La、Sr及びCoの全てを含む水溶液を一度に加えることが好ましい。La、Sr及びCoを含む水溶液をアルカリ水溶液に一度に加えることによって、分散性を高めることができ、均一な層状金属酸化物の前駆体を含む沈殿物を得ることができる。
【0025】
また、La、Sr及びCoを含む水溶液をアルカリ水溶液に加える工程においては、La、Sr及びCoを含む水溶液を速やかにアルカリ水溶液に加えることが好ましく、例えば、1〜10秒でアルカリ水溶液に加えることが好ましい。より好ましくは2〜5秒で加え、さらに好ましくは2〜3秒で一気に加えることである。短時間でアルカリ水溶液にLa、Sr及びCoを含む水溶液を加えることによって、原子を固まらせず分散性を高め、均一な層状金属酸化物の前駆体を含む沈殿物を生じさせることが可能となる。
【0026】
第一工程においては、上記アルカリ水溶液とLa、Sr及びCoを含む水溶液の混合液を、1〜10時間攪拌する工程を有することが好ましい。より好ましくは1〜4時間、さらに好ましくは1〜2時間攪拌する。また、攪拌後には、18〜24時間静置する工程を有することが好ましい。より好ましくは20〜22時間、さらに好ましくは20〜21時間静置する。攪拌及び静置の工程により、上記一般式(1)で示される層状金属酸化物の前駆体を含む沈殿物をより均一な組成とすることが可能となる。
【0027】
[第2工程]
第2工程においては、上記の第1工程で得られた層状金属酸化物の前駆体を含む沈殿物を焼成して、上記一般式(1)で表される層状金属酸化物を含む固体電解質を形成する。この第2工程では、後述する焼成工程の前に、必要に応じて、第1工程後の水分等を含有している上記混合液中に生じた沈殿物を、乾燥させる工程(乾燥工程)を行うことが好ましい。乾燥工程は、より好ましくは、風乾により実施することができる。また、この乾燥工程前には、水やエタノールなどを用いて沈殿物を数回洗浄する工程を行うことも好ましい。
【0028】
乾燥させた沈殿物は、次いで、焼成工程において600〜900℃で15〜60分焼成する。これにより、上記一般式(1)で示される層状金属酸化物を含む粉末状の固体電解質を得ることができる。焼成温度は好ましくは650〜850℃であり、より好ましくは700〜800℃である。また、焼成時間は好ましくは20〜50分であり、より好ましくは30〜40分である。
【0029】
<固体電解質層>
上記で得られた粉末状の固体電解質は、圧縮成型して焼成することによって固体電解質層に成型することができる。その場合、まず、上記一般式(1)で示される層状金属酸化物を含む粉末状の固体電解質を、好ましい形状や厚みにする。例えば、使用する燃料電池に適合するサイズにすることが好ましく、直径が18〜22mmのほぼ円形で、厚みが1〜1.5mmのペレット状にすることが好ましい。ペレット状にするためには、粉末状の固体電解質を例えば錠剤成型器に入れ、圧力30〜40MPaを3〜5分保持すればよい。
【0030】
次に、このペレット状にした固体電解質を900〜1100℃で15〜60分焼成する。これにより、上記一般式(1)で示される層状金属酸化物を含む固体電解質層(ペレット)を得ることができる。焼成温度は好ましくは950〜1050℃であり、より好ましくは970〜1020℃である。また、焼成時間は好ましくは20〜50分であり、より好ましくは30〜40分である。
【0031】
固体電解質層には、上記一般式(1)で示される層状金属酸化物が含まれるが、上記一般式(1)で示される層状金属酸化物以外の酸化物や不純物が、当該層状金属酸化物の機能発揮を阻害しない程度に含まれていてもよい。
【0032】
<燃料電池>
上記一般式(1)で示される層状金属酸化物を含む固体電解質層を用い、その一方面にアノード電極を、もう一方の面にカソード電極を備えることによって、燃料電池を構成することができる。本燃料電池は、アンモニアを燃料とすることが好ましいが、水素など他のガスを燃料とすることも可能である。
【0033】
アノード電極としては電極触媒と層状金属酸化物を含むものであればよい。例えば、Fe−Co−Ni電極触媒とNaCo2O4焼結体を所定の割合で混合し、ペースト状にして発泡Ni上に塗布したものを使用することができる。ここで、電極触媒であるFe−Co−Ni電極触媒は、Fe、Co及びNiを含む合金部分と、合金部分を形成していないFe部分を含む合金材料を有するものであることが、高い起電力や十分な電流密度を得る観点から好ましい。
【0034】
また、カソード電極としては、カーボン材料と層状金属酸化物を含むものを適用できる。例えば、NaCo2O4焼結体と、カーボンブラックを所定の割合で混合させカーボンペーパー上に塗布したものを使用することができる。
【0035】
上記燃料電池においては、発電する前に固体電解質層(ペレット)を250〜300℃に昇温させ、室温で加湿した水素を5〜10ml/分の割合で15〜60分流し、前処理することが好ましい。これにより、固体電解質層内をOH−イオンが伝導しやすくなる。また、アノード電極も同様に前処理することが好ましいが、カソード電極は同様の前処理を施さないことが好ましい。
【0036】
上記燃料電池で発電するには、アノード電極にアンモニアを含むガスを供給し、カソード電極に酸素を含むガスを供給する。これにより、燃料電池内において以下の反応が生じ、発電する。
アノード電極:NH3+3OH− → 1/2N2+3H2O+3e−
カソード電極:3/4O2+3/2H2O+3e− → 3OH−
燃料電池全体:NH3+3/4O2 → 1/2N2+3/2H2O
【0037】
以上のとおり、本発明により、上記一般式(1)で示される層状金属酸化物を含む固体電解質及びその製造方法を提供することができる。また、当該固体電解質を燃料電池の固体電解質層として用いることによって、アンモニアを燃料とする燃料電池を高い起電力で作動させることが可能となる。
【0038】
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0039】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0040】
(実施例1)
<層状金属酸化物の調製>
まず、La:Sr:Coが1:3:3になるように、La(NO3)3・6H2Oを1.759g、Sr(NO3)2を2.580g、Co(NO3)2・6H2Oを3.548g、蒸留水100ml中に溶解させて、金属塩を含む水溶液を準備した。次にアルカリ水溶液として、Na2CO315gを水100mlに溶解させたNa2CO3水溶液(Na2CO3=0.14モル、CO32−/M=5)を準備した。共沈法として、このNa2CO3水溶液を攪拌させながら、金属塩を含む水溶液を加えた。この際に、金属塩を含む水溶液は2〜3秒で一気にNa2CO3水溶液に加え、1時間攪拌した後、20時間静置させた。
【0041】
20時間静置後、上記混合水溶液中に生成した沈殿物を、遠心分離装置(製品名:テーブルトップ遠心機5420、(株)久保田製作所製)を用い、水で5回、エタノールで3回洗浄した。洗浄後の沈殿物を一晩空気中で乾燥(風乾)させ、乾燥させた粉末を800℃で30分仮焼した(昇温速度:10K/min)。この仮焼粉末を直径20mm、厚さ1mmのペレット状に成型し(圧力:60MPa、保持時間:10分)、1000℃で30分焼成してペレットAを得た(昇温速度:10K/min)。
【0042】
<ペレットAの構造解析>
粉末X線回折装置(Rigaku、RINT−Ulitima+)を用いてペレットAの構造解析を行った。測定条件は以下のとおりである。
線源:CuKα、
波長λ:0.154056nm、
管電圧:40kV、
電流:20mA、
測定範囲2θ:2〜80°、
走査軸:2θ/θ、
スキャンステップ:0.02°、
スキャンスピード:2°/分、
発散スリット:1/2°、
散乱スリット:1/2°、
受光スリット:0.15mm。
【0043】
このペレットAのXRDパターンを図1に示す。得られた回折線から、LaSr3Co3O10層状金属酸化物には多々の結晶構造面があることが確認できた。
【0044】
(比較例1)
実施例1は共沈法を用いて層状金属化合物を調製したのに対し、比較例1では固相法を用いた。まず、La:Sr:Coが1:3:3になるように、La2O3を3.26g、SrCO3を8.86g、Co3O4を6.88g、遊星型ボールミル(FRITSCH pulverisette)に収容し、回転速度300rpm、処理時間1時間の条件で粉砕・混合させた。この混合物を錠剤成型器に入れ、ペレット状に成型後(圧力:20MPa、保持時間:5分)、マッフル炉において1400℃で3時間焼成してペレットBを得た。
【0045】
<ペレットBの構造解析>
上記ペレットAと同様の装置、測定条件でペレットBの構造解析を行った。ペレットBのXRDパターンを図2に示す。図2のとおり、得られた回折線は単純ペロブスカイト相である(La,Sr)CoO3に帰属され、ペレットBが層状金属酸化物(LaSr3Co3O10)ではないことを示した。
【0046】
(実施例2)
<発電試験>
実施例1で得たペレットAの燃料電池用固体電解質層としての性能を評価するために、図3の評価装置(燃料電池)を準備した。燃料電池10は、ペレットA(LaSr3Co3O10)を固体電解質層1とし、アノード電極2としてFe−Co−Ni/C触媒とNaCo2O4を粉砕・混合し、ペースト状に塗布したもの、カソード電極3としてカーボンペーパー上にカーボンブラックとNaCo2O4を塗布したものを使用した。また、上記燃料電池においては、アノード電極2及びカソード電極3の面上にPt網4を配置し、これに接続された導線5(Pt線)からの出力を測定した。また、アノード電極2側には燃料ガス供給口7、カソード電極3側には酸素ガス供給口8を設け、さらに、ガスが燃料電池10から漏れないように、それらの外側にセル本体部9を配置するとともに、セル本体部9と固体電解質層1との間にガスケット6を配置した。
【0047】
測定は、以下の手順に従って行った。
(1)厚さ1mmのペレットAを280℃に昇温させ、室温で加湿した水素を5ml/分で30分流し、前処理した。
(2)Fe−Co−Ni/C触媒とNaCo2O4を面上に有する発泡Ni(アノード電極2)を280℃に昇温させ、室温で加湿した水素を5ml/分で30分流し、前処理した。
(3)アノード電極2にアンモニアとHeの混合ガスを20ml/分で供給するとともに、カソード電極3に酸素を20ml/分で95℃加湿されたものを供給した。
(4)セル温度は73℃とした。
【0048】
測定結果の一例を図4に示す。図4は、上記の測定条件で燃料電池10を動作させたときの、得られる電流密度(mAcm−2)の値に対する、そのときのセル電圧(V)及び電力密度(mAcm−2)の値を示すグラフである。図4のとおり、ペレットA(LaSr3Co3O10)を固体電解質層1とした燃料電池10は、OCVが0.96V、最大電力密度が4.7mW/cm2と高い性能を示した。
【符号の説明】
【0049】
1…固体電解質層、2…アノード電極、3…カソード電極、10…燃料電池。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される層状金属酸化物を含む固体電解質。
(La1−xAx)(Sr1−yBy)3(Co1−zCz)3O10−δ (1)
[式中、AはLa以外の希土類元素であり、BはMg、Ca又はBaであり、CはTi、V、Cr又はMnであり、0≦x<1、0≦y<1、0≦z<1、δは酸素欠損量である。]
【請求項2】
La、Sr及びCoを含む水溶液をアルカリ水溶液に加えて、下記一般式(1)で表される層状金属酸化物の前駆体を含む沈殿物を生じさせる工程と、
前記層状金属酸化物の前駆体を含む沈殿物を焼成する工程と、
を備える、固体電解質の製造方法。
(La1−xAx)(Sr1−yBy)3(Co1−zCz)3O10−δ (1)
[式中、AはLa以外の希土類元素であり、BはMg、Ca又はBaであり、CはTi、V、Cr又はMnであり、0≦x<1、0≦y<1、0≦z<1、δは酸素欠損量である。]
【請求項1】
下記一般式(1)で表される層状金属酸化物を含む固体電解質。
(La1−xAx)(Sr1−yBy)3(Co1−zCz)3O10−δ (1)
[式中、AはLa以外の希土類元素であり、BはMg、Ca又はBaであり、CはTi、V、Cr又はMnであり、0≦x<1、0≦y<1、0≦z<1、δは酸素欠損量である。]
【請求項2】
La、Sr及びCoを含む水溶液をアルカリ水溶液に加えて、下記一般式(1)で表される層状金属酸化物の前駆体を含む沈殿物を生じさせる工程と、
前記層状金属酸化物の前駆体を含む沈殿物を焼成する工程と、
を備える、固体電解質の製造方法。
(La1−xAx)(Sr1−yBy)3(Co1−zCz)3O10−δ (1)
[式中、AはLa以外の希土類元素であり、BはMg、Ca又はBaであり、CはTi、V、Cr又はMnであり、0≦x<1、0≦y<1、0≦z<1、δは酸素欠損量である。]
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図2】
【図3】
【図4】
【公開番号】特開2012−164610(P2012−164610A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−26125(P2011−26125)
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】
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