層間剥離耐性評価方法
【課題】短時間で実施するのに適した層間剥離耐性評価方法を提供すること。
【解決手段】本発明の層間剥離耐性評価方法は、積層構造体においてTMA法による厚さ変化測定の対象となる箇所を特定する工程S1と、特定された箇所を積層構造体から切り出す工程S2と、切り出された部分構造体についてTMA法により厚さ変化測定を行う工程S3とを含む。積層構造体は例えば多層プリント配線板である。
【解決手段】本発明の層間剥離耐性評価方法は、積層構造体においてTMA法による厚さ変化測定の対象となる箇所を特定する工程S1と、特定された箇所を積層構造体から切り出す工程S2と、切り出された部分構造体についてTMA法により厚さ変化測定を行う工程S3とを含む。積層構造体は例えば多層プリント配線板である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層プリント配線板などの積層構造体について耐熱性に係る層間剥離耐性を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
所定の目的を達成するために異種または同種の層が複数積層された積層構造を伴う構造体が、様々な分野で利用されている。例えばエレクトロニクスの分野では、そのような積層構造体として、多層プリント配線板が挙げられる。多層プリント配線板には半導体チップ等の電子部品が搭載されるところ、多層プリント配線板に対して電子部品を機械的かつ電気的に接続するための手法としては、ハンダリフロー法が採用される場合が多い。
【0003】
ハンダリフロー法による多層プリント配線板への電子部品の接続に際しては、例えば、まず、多層プリント配線板表面の接続パッド上にハンダペーストを印刷法により塗布する。次に、当該ハンダペーストを介して電子部品を多層プリント配線板上に搭載する。次に、電子部品を伴う多層プリント配線板をリフロー炉内にてリフロー加熱する。リフロー加熱によって一旦溶融したハンダがその後の降温過程で凝固することによって、電子部品が多層プリント配線板に接続されることとなる。
【0004】
リフロー加熱における最高到達温度は相当程度に高温であり、ハンダリフロー法により電子部品が接続される多層プリント配線板には、そのようなリフロー加熱に充分に耐え得る程度の耐熱性が求められる。ハンダペースト中のハンダ材料として、比較的高融点の鉛フリーハンダ(例えばSn−Ag−Cuハンダ)を用いる場合には、比較的低融点の従来の鉛含有ハンダ(例えばPb−Snハンダ)を用いる場合よりも高温(例えば250℃以上)にてリフロー加熱を行う必要があるので、より高い耐熱性が多層プリント配線板には求められる。多層プリント配線板における耐熱性に関する技術については、例えば下記の特許文献1〜3に記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開2005−248179号公報
【特許文献2】特開2004−319888号公報
【特許文献3】特開平5−138752号公報
【0006】
多層プリント配線板に求められる耐熱性の現れの一つとして、いわゆる層間剥離耐性がある。多層プリント配線板の積層構造をなす複数の層についての密着ないし接合に係る耐熱性である。多層プリント配線板については、この層間剥離耐性を評価する必要の生ずる場合がある。
【0007】
多層プリント配線板の層間剥離耐性を調べるうえでは、一般に、リフロー試験が実施される。リフロー試験においては、ハンダリフロー法による上述の電子部品接続の過程で使用されるリフロー炉が使用され、且つ、実際の電子部品接続過程での加熱処理と同様の加熱処理が多層プリント配線板の全体に施され、その後、当該多層プリント配線板の内部において層間剥離が生じているかどうかが確認される。例えば、大きく剥離した場合には目視によって当該剥離を確認することができ、また、超音波探査装置等を用いた測定によっても剥離の有無を確認することができる。層間剥離が生じない場合に、当該多層プリント配線板について、当該加熱処理に耐え得る程度の層間剥離耐性を有するものと評価される。
【0008】
しかしながら、このようなリフロー試験による層間剥離耐性評価には、長時間を要する。リフロー試験に使用するリフロー炉の炉内温度の安定化ないし平均化に数時間を必要とするからであり、これに加えて、評価対象である多層プリント配線板に対してリフロー試験前に前処理として吸湿処理を施す必要があるからである。吸湿処理では、40〜160時間程度の長時間にわたり、恒温恒湿槽内における所定温度および所定湿度(評価レベルに応じて選択)の下に多層プリント配線板がおかれる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような事情のもとで考え出されたものであって、多層プリント配線板などの積層構造体について、耐熱性に係る層間剥離耐性の評価を短時間で行うのに適した方法を提供することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の側面により提供される層間剥離耐性評価方法は、層間剥離耐性評価の対象である積層構造体において、TMA(thermomechanical analysis)法による厚さ変化測定の対象となる箇所を特定する工程(特定工程)と、積層構造体から当該特定箇所を切り出す工程(切出し工程)と、切り出された部分構造体についてTMA法により厚さ変化測定を行う工程(測定工程)とを含む。
【0011】
本方法における特定工程では、例えば、評価対象である積層構造体において層間剥離耐性ないし層間密着性の最も弱いと考えられる部分を含む箇所が選択される。そのような部分の層間剥離耐性を調べることによって、積層構造体全体の層間剥離耐性評価を適切に行うことが可能である(積層構造体において層間剥離耐性の最も弱い部分にて層間剥離が発現しない熱的条件では、当該積層構造体のいずれの箇所にも層間剥離は生じない)。
【0012】
本方法における切出し工程では、特定工程にて特定された箇所を、TMA法による厚さ変化測定が可能な小片たる部分構造体として切り出す。
【0013】
本方法における測定工程(TMA法による厚さ変化測定)は、いわゆるTMA装置を使用して行う。具体的には、測定対象である部分構造体に対してその厚さ方向に所定の荷重を作用させた状態で、当該部分構造体の厚さ変化(即ち、部分構造体の初期厚さからの厚さ変化量)を測定しつつ、室温から所定の設定温度(例えば260℃以上)へと徐々に部分構造体を昇温させ、そして、当該設定温度にて部分構造体を所定時間(例えば10分以上)保持する。昇温期間に部分構造体内で層間剥離が発現しない場合、当該昇温期間では、部分構造体は徐々に膨張し続け、部分構造体の厚さ変化量は、昇温に伴って比例的に徐々に増大する。温度保持期間に部分構造体内で層間剥離が発現しない場合、当該温度保持期間では、部分構造体の厚さ変化量は、略一定に維持される。昇温期間または温度保持期間において部分構造体内の所定の層間に剥離が発現する場合には、その時点において、測定に係る厚さ変化量は急激に上昇し且つその直後に急激に下降する。厚さ変化をグラフ化すると、厚さ変化量のこのような上昇および下降は、ピークとして現れる。本発明者らは、厚さ変化量のこのような急激な変化が、層間剥離の発現した瞬間に特有のものであり、層間剥離現象に対応付けられることを明らかにした。本発明は、このような知見に基づくものである。
【0014】
TMA法による上述の厚さ変化測定は、比較的短時間で終了することができる。また、TMA法による上述の厚さ変化測定は、比較的簡便に実施することができる。したがって、本方法は、多層プリント配線板などの積層構造体について、耐熱性に係る層間剥離耐性の評価を短時間で行うのに適するのである。
【0015】
好ましくは、評価対象である積層構造体において、厚さ変化測定の対象として特定される部分構造体は、金属膜および樹脂膜からなる積層構造を含む。金属膜および樹脂膜の積層界面は、金属膜どうしの積層界面よりも、また、樹脂膜どうしの積層界面よりも、層間密着性は弱い傾向にあり、従って、耐熱性に係る層間剥離耐性も低い傾向にある。そのため、金属膜および樹脂膜からなる積層構造を含む部分は、当該積層構造体全体において、層間密着性の最も弱い部分に該当する場合が多い。金属膜および樹脂膜からなる積層構造を含むこのような部分構造体について、TMA法による厚さ変化測定を実施することにより、積層構造体全体の層間剥離耐性評価を適切に行うことが可能である。
【0016】
好ましくは、金属膜は銅箔である。評価対象である積層構造体が例えば多層プリント配線板である場合には、本発明において厚さ変化測定の対象として特定される部分構造体は、銅箔および樹脂膜からなる積層構造を含むのが好ましい。銅箔および樹脂膜の積層界面は、当該多層プリント配線板において、層間密着性の最も弱い部分に該当する場合がある。本発明者らは、これを確認している。したがって、銅箔および樹脂膜からなる積層構造を含むこのような部分構造体について、TMA法による厚さ変化測定を実施することにより、多層プリント配線板全体の層間剥離耐性評価を適切に行うことが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1は、本発明に係る層間剥離耐性評価方法のフローチャートを表す。本発明の層間剥離耐性評価方法は、特定工程S1、切出し工程S2、および測定工程S3を含み、例えば、図2に示すような部分断面を有する多層プリント配線板Xの耐熱性に係る層間剥離耐性を評価することができるように、構成されたものである。
【0018】
層間剥離耐性評価対象の一例である多層プリント配線板Xは、例えば、コア層10と、当該コア層10の両面に設けられた多層配線部20とからなる積層構造を有する。コア層10は、例えばカーボンファイバ強化樹脂(CFRP)の板材が複数積層されてなる。多層配線部20は、例えば、一括積層法により配線が多層化された部位であり、絶縁層21、微細配線パターン22、およびベタ配線パターン23を含む積層構造を有する。絶縁層21は、例えば、ガラスクロスに樹脂材料を含浸させてなるプリプレグを用いて形成されたものよりなる。微細配線パターン22は、その幅が50〜100μm程度の配線パターンであり、例えば銅により構成されており、各々、絶縁層21間において所望のパターン形状を有している。ベタ配線パターン23は、その幅が3〜5mm程度の配線パターンであり、例えば銅により構成されており、各々、絶縁層21間において所望のパターン形状を有している。ベタ配線パターン23は、電磁波のシールドやノイズ対策などの目的で設けられるものである。また、多層配線部20内の所定の箇所には、スルーホールビア等のビア(図示略)が設けられている。そして、多層配線部20の表面には、外部接続用の図外の電極パッドに対応して開口しているオーバーコート層24が設けられている。このような多層プリント配線板Xの厚さは例えば1.5mmである。
【0019】
本発明の層間剥離耐性評価方法においては、まず、特定工程S1を行う。特定工程S1では、多層プリント配線板Xにおいて、後の測定工程S3でのTMA(thermomechanical analysis)法による厚さ変化測定の対象となる箇所を、特定する。多層プリント配線板Xにおいては、絶縁層21とベタ配線パターン23(例えば銅箔)の積層界面が密着性の最も弱い部分に該当するところ、本工程では、絶縁層21とベタ配線パターン23の積層構造を含む箇所(例えば、図2において破線で囲まれた箇所)を特定ないし選択する。この特定は、例えば、多層プリント配線板Xの内部構造をX線撮影等によって調べたうえで行う。或は、当該多層プリント配線板Xの設計図を参照して特定を行ってもよい。積層構造体たる多層プリント配線板Xにおいて層間密着性の最も弱い部分にて層間剥離が生じない熱的条件では、当該多層プリント配線板Xのいずれの箇所にも層間剥離は生じないので、層間密着性の最も弱い部分の層間剥離耐性を調べることによって、多層プリント配線板X全体の層間剥離耐性評価を適切に行うことが可能である。
【0020】
次に、切出し工程S2を行う。具体的には、多層プリント配線板Xにおいて特定された箇所(例えば、図2において破線で囲まれた箇所)を、TMA法による厚さ変化測定が可能な小片たる部分構造体Xaとして、多層プリント配線板Xから切り出す。例えばダイアモンドソーを使用して、本工程を実行することができる。
【0021】
次に、測定工程S3を行う。本工程では、いわゆるTMA装置を使用して、TMA法による厚さ変化測定を行う。具体的には、測定対象である部分構造体Xaに対してその厚さ方向に所定の荷重を作用させた状態で、部分構造体Xaの厚さ変化(即ち、部分構造体Xaの初期厚さからの厚さ変化量)を測定しつつ、室温から所定の設定温度(例えば260℃以上)へと徐々に部分構造体Xaを昇温させ、そして、当該設定温度にて部分構造体Xaを所定時間(例えば10分以上)保持する。
【0022】
図3(a)は、測定工程S3にて部分構造体Xa内で層間剥離が発現しない場合の測定結果の一例を表すグラフである。図3(a)のグラフでは、横軸は経過時間(単位は例えばmin)を表し、縦軸は厚さ変化量(単位は例えばμm)を表す。昇温期間A1に部分構造体Xa内で層間剥離が発現しない場合、その昇温期間A1では、部分構造体Xaは徐々に膨張し続け、図3(a)に示すように、部分構造体Xaの厚さ変化量は昇温に伴って比例的に徐々に増大する。温度保持期間A2に部分構造体Xa内で層間剥離が発現しない場合、その温度保持期間A2では、部分構造体Xaの厚さ変化量は、略一定に維持される。層間剥離が発現しない場合、部分構造体Xaは、本工程の全期間にわたり、図4(a)に示すような状態を維持する。
【0023】
図3(b)は、測定工程S3にて部分構造体Xa内で層間剥離が発現した場合の測定結果の一例を表すグラフである。図3(b)のグラフでは、横軸は経過時間(単位は例えばmin)を表し、縦軸は厚さ変化量(単位は例えばμm)を表す。測定工程S3にて部分構造体Xa内に層間剥離が発現する場合には、図3(b)のグラフにおいて瞬間的なピークP1として現れているように、層間剥離の発現した時点において、測定に係る厚さ変化量は急激に上昇し且つその直後に急激に下降する。本工程にて部分構造体Xa内に層間剥離が発現すると、具体的には、図4(b)に誇張して示すように、層間剥離Wの発現した箇所において、急激なガス膨張に起因して瞬間的に空間が形成され、その直後、脱ガスされて、図4(c)に示すように空間が収縮する。図5は、測定工程S3を経て層間剥離Wが発現した所定の部分構造体の断面のSEM写真である。図6は、図5のSEM写真の一部を拡大したものである。
【0024】
また、測定工程S3においては、図3(b)のグラフに示すような緩慢なピークP2が観測される場合がある。緩慢なピークP2は、部分構造体Xa内の所定箇所の樹脂材料から発生したガスが半溶融状態にある樹脂中にボイドBdを形成し、このボイドBdが徐々に膨張していくことに伴う部分構造体Xa全体の厚み変化に対応する(即ち、緩慢なピークP2は、層間剥離Wの発現を意味しない)。図7は、測定工程S3を経てそのようなボイドBdが生じた所定の部分構造体の部分断面のSEM写真である。
【0025】
以上の工程を経て得られた情報(層間剥離の有無,層間剥離が発現するまでに要する時間等)に基づき多層プリント配線板Xの層間剥離耐性を評価することができる。
【0026】
TMA法による上述のような厚さ変化測定は、比較的短時間で終了することができる。また、TMA法による上述のような厚さ変化測定は、比較的簡便に実施することができる。したがって、本方法によると、多層プリント配線板Xなどの積層構造体について、耐熱性に係る層間剥離耐性の評価を短時間で行うことが可能である。
【実施例】
【0027】
〔試料A〕
第1の多層プリント配線板(FR−4)において、その設計図に基づき、TMA法による厚さ変化測定の対象となる箇所として、ベタ銅配線パターン(幅3mm)と絶縁層(エポキシ材料)の積層構造を含む箇所(7mm×7mm)を特定し、その後、当該箇所をダイアモンドソーによって切り出して部分構造体(7mm×7mm,厚さ1.5mm)を得た。これを試料Aとし、試料Aについて、TMA法による厚さ変化測定を行った(測定工程)。具体的には、TMA装置(商品名:TMA6100,エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製)を使用し、窒素雰囲気下で、その圧縮モードにおいて試料Aに対してその厚さ方向に荷重1gを作用させた状態で、試料Aの初期厚さからの厚さ変化量を測定しつつ、室温から265℃へと徐々に試料Aを昇温させ(昇温速度10℃/min)、そして、265℃にて試料Aを20分間保持した。
【0028】
試料Aについての上述の測定工程では、温度保持期間開始時から約11分経過後に瞬間的なピークが現れた。また、測定工程を経た試料Aについて、樹脂包埋してサイズアップを図った後、研磨を行って断面を露出させ、当該断面を走査型電子顕微鏡(商品名:S−4500,日立製作所製)を使用して観察した。これにより、図9のSEM写真に示すように、試料Aにおける所定の絶縁層21と所定のベタ銅配線パターン23との間に層間剥離Wが発現していることが確認された。測定結果および断面観察結果については、図8の表にまとめる(後出の試料についても同様である)。
【0029】
〔試料B〕
第2の多層プリント配線板(FR−4)において、その設計図に基づき、TMA法による厚さ変化測定の対象となる箇所として、ベタ銅配線パターン(幅約3mm)と絶縁層(エポキシ材料)の積層構造を含む箇所(7mm×7mm)を特定し、その後、当該箇所を切り出して部分構造体(7mm×7mm,厚さ1.5mm)を得た。これを試料Bとし、試料Bについて、試料Aと同様に、TMA法による厚さ変化測定を行った。試料Bについての測定工程では、温度保持期間開始時から約7分経過後に瞬間的なピークが現れた。この瞬間的ピークの後に、緩慢なピークも現れた。また、測定工程を経た試料Bについて、試料Aと同様にして断面観察を行ったところ、図10のSEM写真に示すように、試料Bにおける所定箇所に層間剥離Wが発現していること、および、図11のSEM写真に示すように、所定の絶縁層内に複数のボイドBdが発生していることが確認された。
【0030】
〔試料C〕
第3の多層プリント配線板(FR−4)において、その設計図に基づき、TMA法による厚さ変化測定の対象となる箇所として、ベタ銅配線パターン(幅約3mm)と絶縁層(エポキシ材料)の積層構造を含む箇所(7mm×7mm)を特定し、その後、当該箇所を切り出して部分構造体(7mm×7mm,厚さ1.5mm)を得た。これを試料Cとし、試料Cについて、試料Aと同様に、TMA法による厚さ変化測定を行った。試料Cについての測定工程では、温度保持期間開始時から約14分経過後に瞬間的なピークが現れた。また、測定工程を経た試料Cについて、試料Aと同様にして断面観察を行ったところ、図12のSEM写真に示すように、試料Cにおける所定箇所に層間剥離Wが発現していることが確認された。
【0031】
〔試料D〕
第4の多層プリント配線板(FR−4)において、その設計図に基づき、TMA法による厚さ変化測定の対象となる箇所として、ベタ銅配線パターン(幅約3mm)と絶縁層(エポキシ材料)の積層構造を含む箇所(7mm×7mm)を特定し、その後、当該箇所を切り出して部分構造体(7mm×7mm,厚さ1.5mm)を得た。これを試料Dとし、試料Dについて、試料Aと同様に、TMA法による厚さ変化測定を行った。試料Dについての測定工程では、温度保持期間開始時から約14分経過後に瞬間的なピークが現れた。この瞬間的ピークの後に、緩慢なピークも現れた。また、測定工程を経た試料Dについて、試料Aと同様にして断面観察を行ったところ、図13のSEM写真に示すように、試料Dにおける所定箇所に層間剥離Wが発現していること、および、図14のSEM写真に示すように所定の絶縁層内に複数のボイドBdが発生していることが確認された。
【0032】
〔試料E〕
第5の多層プリント配線板(FR−4)において、その設計図に基づき、TMA法による厚さ変化測定の対象となる箇所として、ベタ銅配線パターン(幅約3mm)と絶縁層(エポキシ材料)の積層構造を含む箇所(7mm×7mm)を特定し、その後、当該箇所を切り出して部分構造体(7mm×7mm,厚さ1.5mm)を得た。これを試料Eとし、試料Eについて、試料Aと同様に、TMA法による厚さ変化測定を行った。試料Eについての測定工程では、瞬間的なピークは現れなかったが、緩慢なピークは現れた。また、測定工程を経た試料Eについて、試料Aと同様にして断面観察を行ったところ、層間剥離は確認されず、ボイドが確認された。
【0033】
〔試料F〕
第6の多層プリント配線板(FR−4)において、その設計図に基づき、TMA法による厚さ変化測定の対象となる箇所として、ベタ銅配線パターン(幅約3mm)と絶縁層(エポキシ材料)の積層構造を含む箇所(7mm×7mm)を特定し、その後、当該箇所を切り出して部分構造体(7mm×7mm,厚さ1.5mm)を得た。これを試料Fとし、試料Fについて、試料Aと同様に、TMA法による厚さ変化測定を行った。試料Fについての測定工程では、瞬間的なピークも緩慢なピークも現れなかった。また、測定工程を経た試料Fについて、試料Aと同様にして断面観察を行ったところ、層間剥離もボイドも確認されなかった。
【0034】
〔試料G〜I〕
第7の多層プリント配線板(FR−4)において、その設計図に基づき、TMA法による厚さ変化測定の対象となる箇所として、第1〜第3の箇所(7mm×7mm)を特定し、その後、当該第1〜第3箇所の各々を切り出して第1〜第3部分構造体(7mm×7mm,厚さ1.5mm)を得た。第1部分構造部は、ベタ銅配線パターン(幅約3mm)と絶縁層(エポキシ材料)の積層構造を含む箇所であり、これを試料Gとした。第2部分構造部は、ベタ銅配線パターンを含まずに、微細銅配線パターン(幅約100μm)と絶縁層(エポキシ材料)の積層構造を含む箇所であり、これを試料Hとした。第3部分構造部は、配線パターンを含まずに、絶縁層(エポキシ材料)どうしの積層構造を含む箇所であり、これを試料Iとした。
【0035】
これら試料G〜Iについて、試料Aと同様に、TMA法による厚さ変化測定を行った。その測定結果たるグラフを図15〜図17に示す。図15〜図17の各グラフでは、横軸は経過時間(分)を表し、縦軸は厚さ変化量(μm)を表す。試料Gについての測定工程では、図15のグラフにおいて瞬間的なピークが現れているように、層間剥離が発現した。試料Hについての測定工程では、図16のグラフにおいて瞬間的なピークは現れず、層間剥離は発現しなかった。試料Iについての測定工程では、図17のグラフにおいて瞬間的なピークは現われず、剥離は発現しなかった。
【0036】
〔評価〕
試料A〜Fについての上述のような測定結果および断面観察結果から、測定工程における瞬間的なピークの有無と層間剥離の有無とは、明確に対応付けできることが判る。加えて、試料G〜Iについての上述の測定結果から、単一多層プリント配線板内であっても部位によって層間剥離耐性ないし層間密着性が異なることが判る。これらより、多層プリント配線板において層間密着性の最も弱い部分の層間剥離耐性を調べることによって、当該多層プリント配線板の層間剥離耐性評価を適切に行うことが可能であることが理解できよう。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係る層間剥離耐性評価方法のフローチャートを表す。
【図2】実施形態における層間剥離耐性評価対象である多層プリント配線板の部分断面図である。
【図3】TMA法による厚さ変化測定結果の一例のグラフである。
【図4】測定工程における部分構造体の状態を表す。
【図5】測定工程を経て層間剥離が発現した部分構造体の断面の走査型電子顕微鏡写真である。
【図6】図5の走査型電子顕微鏡写真の部分拡大写真である。
【図7】測定工程を経てボイドが発生した部分構造体の部分断面の走査型電子顕微鏡写真である。
【図8】試料A〜Iの部分構造体についての測定結果および断面観察結果をまとめた表である。
【図9】測定工程を経た試料Aの断面の一部の走査型電子顕微鏡写真である。
【図10】測定工程を経た試料Bの断面の一部の走査型電子顕微鏡写真である。
【図11】測定工程を経た試料Bの断面の他の一部の走査型電子顕微鏡写真である。
【図12】測定工程を経た試料Cの断面の一部の走査型電子顕微鏡写真である。
【図13】測定工程を経た試料Dの断面の一部の走査型電子顕微鏡写真である。
【図14】測定工程を経た試料Dの断面の他の一部の走査型電子顕微鏡写真である。
【図15】試料Gの部分構造体についての測定結果たるグラフである。
【図16】試料Hの部分構造体についての測定結果たるグラフである。
【図17】試料Iの部分構造体についての測定結果たるグラフである。
【符号の説明】
【0038】
X 多層プリント配線板
Xa 部分構造体
10 コア層
20 多層配線部
21 絶縁層
22 微細配線パターン
23 ベタ配線パターン
W 剥離
Bd ボイド
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層プリント配線板などの積層構造体について耐熱性に係る層間剥離耐性を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
所定の目的を達成するために異種または同種の層が複数積層された積層構造を伴う構造体が、様々な分野で利用されている。例えばエレクトロニクスの分野では、そのような積層構造体として、多層プリント配線板が挙げられる。多層プリント配線板には半導体チップ等の電子部品が搭載されるところ、多層プリント配線板に対して電子部品を機械的かつ電気的に接続するための手法としては、ハンダリフロー法が採用される場合が多い。
【0003】
ハンダリフロー法による多層プリント配線板への電子部品の接続に際しては、例えば、まず、多層プリント配線板表面の接続パッド上にハンダペーストを印刷法により塗布する。次に、当該ハンダペーストを介して電子部品を多層プリント配線板上に搭載する。次に、電子部品を伴う多層プリント配線板をリフロー炉内にてリフロー加熱する。リフロー加熱によって一旦溶融したハンダがその後の降温過程で凝固することによって、電子部品が多層プリント配線板に接続されることとなる。
【0004】
リフロー加熱における最高到達温度は相当程度に高温であり、ハンダリフロー法により電子部品が接続される多層プリント配線板には、そのようなリフロー加熱に充分に耐え得る程度の耐熱性が求められる。ハンダペースト中のハンダ材料として、比較的高融点の鉛フリーハンダ(例えばSn−Ag−Cuハンダ)を用いる場合には、比較的低融点の従来の鉛含有ハンダ(例えばPb−Snハンダ)を用いる場合よりも高温(例えば250℃以上)にてリフロー加熱を行う必要があるので、より高い耐熱性が多層プリント配線板には求められる。多層プリント配線板における耐熱性に関する技術については、例えば下記の特許文献1〜3に記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開2005−248179号公報
【特許文献2】特開2004−319888号公報
【特許文献3】特開平5−138752号公報
【0006】
多層プリント配線板に求められる耐熱性の現れの一つとして、いわゆる層間剥離耐性がある。多層プリント配線板の積層構造をなす複数の層についての密着ないし接合に係る耐熱性である。多層プリント配線板については、この層間剥離耐性を評価する必要の生ずる場合がある。
【0007】
多層プリント配線板の層間剥離耐性を調べるうえでは、一般に、リフロー試験が実施される。リフロー試験においては、ハンダリフロー法による上述の電子部品接続の過程で使用されるリフロー炉が使用され、且つ、実際の電子部品接続過程での加熱処理と同様の加熱処理が多層プリント配線板の全体に施され、その後、当該多層プリント配線板の内部において層間剥離が生じているかどうかが確認される。例えば、大きく剥離した場合には目視によって当該剥離を確認することができ、また、超音波探査装置等を用いた測定によっても剥離の有無を確認することができる。層間剥離が生じない場合に、当該多層プリント配線板について、当該加熱処理に耐え得る程度の層間剥離耐性を有するものと評価される。
【0008】
しかしながら、このようなリフロー試験による層間剥離耐性評価には、長時間を要する。リフロー試験に使用するリフロー炉の炉内温度の安定化ないし平均化に数時間を必要とするからであり、これに加えて、評価対象である多層プリント配線板に対してリフロー試験前に前処理として吸湿処理を施す必要があるからである。吸湿処理では、40〜160時間程度の長時間にわたり、恒温恒湿槽内における所定温度および所定湿度(評価レベルに応じて選択)の下に多層プリント配線板がおかれる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような事情のもとで考え出されたものであって、多層プリント配線板などの積層構造体について、耐熱性に係る層間剥離耐性の評価を短時間で行うのに適した方法を提供することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の側面により提供される層間剥離耐性評価方法は、層間剥離耐性評価の対象である積層構造体において、TMA(thermomechanical analysis)法による厚さ変化測定の対象となる箇所を特定する工程(特定工程)と、積層構造体から当該特定箇所を切り出す工程(切出し工程)と、切り出された部分構造体についてTMA法により厚さ変化測定を行う工程(測定工程)とを含む。
【0011】
本方法における特定工程では、例えば、評価対象である積層構造体において層間剥離耐性ないし層間密着性の最も弱いと考えられる部分を含む箇所が選択される。そのような部分の層間剥離耐性を調べることによって、積層構造体全体の層間剥離耐性評価を適切に行うことが可能である(積層構造体において層間剥離耐性の最も弱い部分にて層間剥離が発現しない熱的条件では、当該積層構造体のいずれの箇所にも層間剥離は生じない)。
【0012】
本方法における切出し工程では、特定工程にて特定された箇所を、TMA法による厚さ変化測定が可能な小片たる部分構造体として切り出す。
【0013】
本方法における測定工程(TMA法による厚さ変化測定)は、いわゆるTMA装置を使用して行う。具体的には、測定対象である部分構造体に対してその厚さ方向に所定の荷重を作用させた状態で、当該部分構造体の厚さ変化(即ち、部分構造体の初期厚さからの厚さ変化量)を測定しつつ、室温から所定の設定温度(例えば260℃以上)へと徐々に部分構造体を昇温させ、そして、当該設定温度にて部分構造体を所定時間(例えば10分以上)保持する。昇温期間に部分構造体内で層間剥離が発現しない場合、当該昇温期間では、部分構造体は徐々に膨張し続け、部分構造体の厚さ変化量は、昇温に伴って比例的に徐々に増大する。温度保持期間に部分構造体内で層間剥離が発現しない場合、当該温度保持期間では、部分構造体の厚さ変化量は、略一定に維持される。昇温期間または温度保持期間において部分構造体内の所定の層間に剥離が発現する場合には、その時点において、測定に係る厚さ変化量は急激に上昇し且つその直後に急激に下降する。厚さ変化をグラフ化すると、厚さ変化量のこのような上昇および下降は、ピークとして現れる。本発明者らは、厚さ変化量のこのような急激な変化が、層間剥離の発現した瞬間に特有のものであり、層間剥離現象に対応付けられることを明らかにした。本発明は、このような知見に基づくものである。
【0014】
TMA法による上述の厚さ変化測定は、比較的短時間で終了することができる。また、TMA法による上述の厚さ変化測定は、比較的簡便に実施することができる。したがって、本方法は、多層プリント配線板などの積層構造体について、耐熱性に係る層間剥離耐性の評価を短時間で行うのに適するのである。
【0015】
好ましくは、評価対象である積層構造体において、厚さ変化測定の対象として特定される部分構造体は、金属膜および樹脂膜からなる積層構造を含む。金属膜および樹脂膜の積層界面は、金属膜どうしの積層界面よりも、また、樹脂膜どうしの積層界面よりも、層間密着性は弱い傾向にあり、従って、耐熱性に係る層間剥離耐性も低い傾向にある。そのため、金属膜および樹脂膜からなる積層構造を含む部分は、当該積層構造体全体において、層間密着性の最も弱い部分に該当する場合が多い。金属膜および樹脂膜からなる積層構造を含むこのような部分構造体について、TMA法による厚さ変化測定を実施することにより、積層構造体全体の層間剥離耐性評価を適切に行うことが可能である。
【0016】
好ましくは、金属膜は銅箔である。評価対象である積層構造体が例えば多層プリント配線板である場合には、本発明において厚さ変化測定の対象として特定される部分構造体は、銅箔および樹脂膜からなる積層構造を含むのが好ましい。銅箔および樹脂膜の積層界面は、当該多層プリント配線板において、層間密着性の最も弱い部分に該当する場合がある。本発明者らは、これを確認している。したがって、銅箔および樹脂膜からなる積層構造を含むこのような部分構造体について、TMA法による厚さ変化測定を実施することにより、多層プリント配線板全体の層間剥離耐性評価を適切に行うことが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1は、本発明に係る層間剥離耐性評価方法のフローチャートを表す。本発明の層間剥離耐性評価方法は、特定工程S1、切出し工程S2、および測定工程S3を含み、例えば、図2に示すような部分断面を有する多層プリント配線板Xの耐熱性に係る層間剥離耐性を評価することができるように、構成されたものである。
【0018】
層間剥離耐性評価対象の一例である多層プリント配線板Xは、例えば、コア層10と、当該コア層10の両面に設けられた多層配線部20とからなる積層構造を有する。コア層10は、例えばカーボンファイバ強化樹脂(CFRP)の板材が複数積層されてなる。多層配線部20は、例えば、一括積層法により配線が多層化された部位であり、絶縁層21、微細配線パターン22、およびベタ配線パターン23を含む積層構造を有する。絶縁層21は、例えば、ガラスクロスに樹脂材料を含浸させてなるプリプレグを用いて形成されたものよりなる。微細配線パターン22は、その幅が50〜100μm程度の配線パターンであり、例えば銅により構成されており、各々、絶縁層21間において所望のパターン形状を有している。ベタ配線パターン23は、その幅が3〜5mm程度の配線パターンであり、例えば銅により構成されており、各々、絶縁層21間において所望のパターン形状を有している。ベタ配線パターン23は、電磁波のシールドやノイズ対策などの目的で設けられるものである。また、多層配線部20内の所定の箇所には、スルーホールビア等のビア(図示略)が設けられている。そして、多層配線部20の表面には、外部接続用の図外の電極パッドに対応して開口しているオーバーコート層24が設けられている。このような多層プリント配線板Xの厚さは例えば1.5mmである。
【0019】
本発明の層間剥離耐性評価方法においては、まず、特定工程S1を行う。特定工程S1では、多層プリント配線板Xにおいて、後の測定工程S3でのTMA(thermomechanical analysis)法による厚さ変化測定の対象となる箇所を、特定する。多層プリント配線板Xにおいては、絶縁層21とベタ配線パターン23(例えば銅箔)の積層界面が密着性の最も弱い部分に該当するところ、本工程では、絶縁層21とベタ配線パターン23の積層構造を含む箇所(例えば、図2において破線で囲まれた箇所)を特定ないし選択する。この特定は、例えば、多層プリント配線板Xの内部構造をX線撮影等によって調べたうえで行う。或は、当該多層プリント配線板Xの設計図を参照して特定を行ってもよい。積層構造体たる多層プリント配線板Xにおいて層間密着性の最も弱い部分にて層間剥離が生じない熱的条件では、当該多層プリント配線板Xのいずれの箇所にも層間剥離は生じないので、層間密着性の最も弱い部分の層間剥離耐性を調べることによって、多層プリント配線板X全体の層間剥離耐性評価を適切に行うことが可能である。
【0020】
次に、切出し工程S2を行う。具体的には、多層プリント配線板Xにおいて特定された箇所(例えば、図2において破線で囲まれた箇所)を、TMA法による厚さ変化測定が可能な小片たる部分構造体Xaとして、多層プリント配線板Xから切り出す。例えばダイアモンドソーを使用して、本工程を実行することができる。
【0021】
次に、測定工程S3を行う。本工程では、いわゆるTMA装置を使用して、TMA法による厚さ変化測定を行う。具体的には、測定対象である部分構造体Xaに対してその厚さ方向に所定の荷重を作用させた状態で、部分構造体Xaの厚さ変化(即ち、部分構造体Xaの初期厚さからの厚さ変化量)を測定しつつ、室温から所定の設定温度(例えば260℃以上)へと徐々に部分構造体Xaを昇温させ、そして、当該設定温度にて部分構造体Xaを所定時間(例えば10分以上)保持する。
【0022】
図3(a)は、測定工程S3にて部分構造体Xa内で層間剥離が発現しない場合の測定結果の一例を表すグラフである。図3(a)のグラフでは、横軸は経過時間(単位は例えばmin)を表し、縦軸は厚さ変化量(単位は例えばμm)を表す。昇温期間A1に部分構造体Xa内で層間剥離が発現しない場合、その昇温期間A1では、部分構造体Xaは徐々に膨張し続け、図3(a)に示すように、部分構造体Xaの厚さ変化量は昇温に伴って比例的に徐々に増大する。温度保持期間A2に部分構造体Xa内で層間剥離が発現しない場合、その温度保持期間A2では、部分構造体Xaの厚さ変化量は、略一定に維持される。層間剥離が発現しない場合、部分構造体Xaは、本工程の全期間にわたり、図4(a)に示すような状態を維持する。
【0023】
図3(b)は、測定工程S3にて部分構造体Xa内で層間剥離が発現した場合の測定結果の一例を表すグラフである。図3(b)のグラフでは、横軸は経過時間(単位は例えばmin)を表し、縦軸は厚さ変化量(単位は例えばμm)を表す。測定工程S3にて部分構造体Xa内に層間剥離が発現する場合には、図3(b)のグラフにおいて瞬間的なピークP1として現れているように、層間剥離の発現した時点において、測定に係る厚さ変化量は急激に上昇し且つその直後に急激に下降する。本工程にて部分構造体Xa内に層間剥離が発現すると、具体的には、図4(b)に誇張して示すように、層間剥離Wの発現した箇所において、急激なガス膨張に起因して瞬間的に空間が形成され、その直後、脱ガスされて、図4(c)に示すように空間が収縮する。図5は、測定工程S3を経て層間剥離Wが発現した所定の部分構造体の断面のSEM写真である。図6は、図5のSEM写真の一部を拡大したものである。
【0024】
また、測定工程S3においては、図3(b)のグラフに示すような緩慢なピークP2が観測される場合がある。緩慢なピークP2は、部分構造体Xa内の所定箇所の樹脂材料から発生したガスが半溶融状態にある樹脂中にボイドBdを形成し、このボイドBdが徐々に膨張していくことに伴う部分構造体Xa全体の厚み変化に対応する(即ち、緩慢なピークP2は、層間剥離Wの発現を意味しない)。図7は、測定工程S3を経てそのようなボイドBdが生じた所定の部分構造体の部分断面のSEM写真である。
【0025】
以上の工程を経て得られた情報(層間剥離の有無,層間剥離が発現するまでに要する時間等)に基づき多層プリント配線板Xの層間剥離耐性を評価することができる。
【0026】
TMA法による上述のような厚さ変化測定は、比較的短時間で終了することができる。また、TMA法による上述のような厚さ変化測定は、比較的簡便に実施することができる。したがって、本方法によると、多層プリント配線板Xなどの積層構造体について、耐熱性に係る層間剥離耐性の評価を短時間で行うことが可能である。
【実施例】
【0027】
〔試料A〕
第1の多層プリント配線板(FR−4)において、その設計図に基づき、TMA法による厚さ変化測定の対象となる箇所として、ベタ銅配線パターン(幅3mm)と絶縁層(エポキシ材料)の積層構造を含む箇所(7mm×7mm)を特定し、その後、当該箇所をダイアモンドソーによって切り出して部分構造体(7mm×7mm,厚さ1.5mm)を得た。これを試料Aとし、試料Aについて、TMA法による厚さ変化測定を行った(測定工程)。具体的には、TMA装置(商品名:TMA6100,エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製)を使用し、窒素雰囲気下で、その圧縮モードにおいて試料Aに対してその厚さ方向に荷重1gを作用させた状態で、試料Aの初期厚さからの厚さ変化量を測定しつつ、室温から265℃へと徐々に試料Aを昇温させ(昇温速度10℃/min)、そして、265℃にて試料Aを20分間保持した。
【0028】
試料Aについての上述の測定工程では、温度保持期間開始時から約11分経過後に瞬間的なピークが現れた。また、測定工程を経た試料Aについて、樹脂包埋してサイズアップを図った後、研磨を行って断面を露出させ、当該断面を走査型電子顕微鏡(商品名:S−4500,日立製作所製)を使用して観察した。これにより、図9のSEM写真に示すように、試料Aにおける所定の絶縁層21と所定のベタ銅配線パターン23との間に層間剥離Wが発現していることが確認された。測定結果および断面観察結果については、図8の表にまとめる(後出の試料についても同様である)。
【0029】
〔試料B〕
第2の多層プリント配線板(FR−4)において、その設計図に基づき、TMA法による厚さ変化測定の対象となる箇所として、ベタ銅配線パターン(幅約3mm)と絶縁層(エポキシ材料)の積層構造を含む箇所(7mm×7mm)を特定し、その後、当該箇所を切り出して部分構造体(7mm×7mm,厚さ1.5mm)を得た。これを試料Bとし、試料Bについて、試料Aと同様に、TMA法による厚さ変化測定を行った。試料Bについての測定工程では、温度保持期間開始時から約7分経過後に瞬間的なピークが現れた。この瞬間的ピークの後に、緩慢なピークも現れた。また、測定工程を経た試料Bについて、試料Aと同様にして断面観察を行ったところ、図10のSEM写真に示すように、試料Bにおける所定箇所に層間剥離Wが発現していること、および、図11のSEM写真に示すように、所定の絶縁層内に複数のボイドBdが発生していることが確認された。
【0030】
〔試料C〕
第3の多層プリント配線板(FR−4)において、その設計図に基づき、TMA法による厚さ変化測定の対象となる箇所として、ベタ銅配線パターン(幅約3mm)と絶縁層(エポキシ材料)の積層構造を含む箇所(7mm×7mm)を特定し、その後、当該箇所を切り出して部分構造体(7mm×7mm,厚さ1.5mm)を得た。これを試料Cとし、試料Cについて、試料Aと同様に、TMA法による厚さ変化測定を行った。試料Cについての測定工程では、温度保持期間開始時から約14分経過後に瞬間的なピークが現れた。また、測定工程を経た試料Cについて、試料Aと同様にして断面観察を行ったところ、図12のSEM写真に示すように、試料Cにおける所定箇所に層間剥離Wが発現していることが確認された。
【0031】
〔試料D〕
第4の多層プリント配線板(FR−4)において、その設計図に基づき、TMA法による厚さ変化測定の対象となる箇所として、ベタ銅配線パターン(幅約3mm)と絶縁層(エポキシ材料)の積層構造を含む箇所(7mm×7mm)を特定し、その後、当該箇所を切り出して部分構造体(7mm×7mm,厚さ1.5mm)を得た。これを試料Dとし、試料Dについて、試料Aと同様に、TMA法による厚さ変化測定を行った。試料Dについての測定工程では、温度保持期間開始時から約14分経過後に瞬間的なピークが現れた。この瞬間的ピークの後に、緩慢なピークも現れた。また、測定工程を経た試料Dについて、試料Aと同様にして断面観察を行ったところ、図13のSEM写真に示すように、試料Dにおける所定箇所に層間剥離Wが発現していること、および、図14のSEM写真に示すように所定の絶縁層内に複数のボイドBdが発生していることが確認された。
【0032】
〔試料E〕
第5の多層プリント配線板(FR−4)において、その設計図に基づき、TMA法による厚さ変化測定の対象となる箇所として、ベタ銅配線パターン(幅約3mm)と絶縁層(エポキシ材料)の積層構造を含む箇所(7mm×7mm)を特定し、その後、当該箇所を切り出して部分構造体(7mm×7mm,厚さ1.5mm)を得た。これを試料Eとし、試料Eについて、試料Aと同様に、TMA法による厚さ変化測定を行った。試料Eについての測定工程では、瞬間的なピークは現れなかったが、緩慢なピークは現れた。また、測定工程を経た試料Eについて、試料Aと同様にして断面観察を行ったところ、層間剥離は確認されず、ボイドが確認された。
【0033】
〔試料F〕
第6の多層プリント配線板(FR−4)において、その設計図に基づき、TMA法による厚さ変化測定の対象となる箇所として、ベタ銅配線パターン(幅約3mm)と絶縁層(エポキシ材料)の積層構造を含む箇所(7mm×7mm)を特定し、その後、当該箇所を切り出して部分構造体(7mm×7mm,厚さ1.5mm)を得た。これを試料Fとし、試料Fについて、試料Aと同様に、TMA法による厚さ変化測定を行った。試料Fについての測定工程では、瞬間的なピークも緩慢なピークも現れなかった。また、測定工程を経た試料Fについて、試料Aと同様にして断面観察を行ったところ、層間剥離もボイドも確認されなかった。
【0034】
〔試料G〜I〕
第7の多層プリント配線板(FR−4)において、その設計図に基づき、TMA法による厚さ変化測定の対象となる箇所として、第1〜第3の箇所(7mm×7mm)を特定し、その後、当該第1〜第3箇所の各々を切り出して第1〜第3部分構造体(7mm×7mm,厚さ1.5mm)を得た。第1部分構造部は、ベタ銅配線パターン(幅約3mm)と絶縁層(エポキシ材料)の積層構造を含む箇所であり、これを試料Gとした。第2部分構造部は、ベタ銅配線パターンを含まずに、微細銅配線パターン(幅約100μm)と絶縁層(エポキシ材料)の積層構造を含む箇所であり、これを試料Hとした。第3部分構造部は、配線パターンを含まずに、絶縁層(エポキシ材料)どうしの積層構造を含む箇所であり、これを試料Iとした。
【0035】
これら試料G〜Iについて、試料Aと同様に、TMA法による厚さ変化測定を行った。その測定結果たるグラフを図15〜図17に示す。図15〜図17の各グラフでは、横軸は経過時間(分)を表し、縦軸は厚さ変化量(μm)を表す。試料Gについての測定工程では、図15のグラフにおいて瞬間的なピークが現れているように、層間剥離が発現した。試料Hについての測定工程では、図16のグラフにおいて瞬間的なピークは現れず、層間剥離は発現しなかった。試料Iについての測定工程では、図17のグラフにおいて瞬間的なピークは現われず、剥離は発現しなかった。
【0036】
〔評価〕
試料A〜Fについての上述のような測定結果および断面観察結果から、測定工程における瞬間的なピークの有無と層間剥離の有無とは、明確に対応付けできることが判る。加えて、試料G〜Iについての上述の測定結果から、単一多層プリント配線板内であっても部位によって層間剥離耐性ないし層間密着性が異なることが判る。これらより、多層プリント配線板において層間密着性の最も弱い部分の層間剥離耐性を調べることによって、当該多層プリント配線板の層間剥離耐性評価を適切に行うことが可能であることが理解できよう。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係る層間剥離耐性評価方法のフローチャートを表す。
【図2】実施形態における層間剥離耐性評価対象である多層プリント配線板の部分断面図である。
【図3】TMA法による厚さ変化測定結果の一例のグラフである。
【図4】測定工程における部分構造体の状態を表す。
【図5】測定工程を経て層間剥離が発現した部分構造体の断面の走査型電子顕微鏡写真である。
【図6】図5の走査型電子顕微鏡写真の部分拡大写真である。
【図7】測定工程を経てボイドが発生した部分構造体の部分断面の走査型電子顕微鏡写真である。
【図8】試料A〜Iの部分構造体についての測定結果および断面観察結果をまとめた表である。
【図9】測定工程を経た試料Aの断面の一部の走査型電子顕微鏡写真である。
【図10】測定工程を経た試料Bの断面の一部の走査型電子顕微鏡写真である。
【図11】測定工程を経た試料Bの断面の他の一部の走査型電子顕微鏡写真である。
【図12】測定工程を経た試料Cの断面の一部の走査型電子顕微鏡写真である。
【図13】測定工程を経た試料Dの断面の一部の走査型電子顕微鏡写真である。
【図14】測定工程を経た試料Dの断面の他の一部の走査型電子顕微鏡写真である。
【図15】試料Gの部分構造体についての測定結果たるグラフである。
【図16】試料Hの部分構造体についての測定結果たるグラフである。
【図17】試料Iの部分構造体についての測定結果たるグラフである。
【符号の説明】
【0038】
X 多層プリント配線板
Xa 部分構造体
10 コア層
20 多層配線部
21 絶縁層
22 微細配線パターン
23 ベタ配線パターン
W 剥離
Bd ボイド
【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層構造体において、TMA法による厚さ変化測定の対象となる箇所を特定する工程と、
前記積層構造体から前記箇所を切り出す工程と、
切り出された部分構造体についてTMA法により厚さ変化測定を行う工程と、を含む、層間剥離耐性評価方法。
【請求項2】
前記積層構造体は多層プリント配線板である、請求項1に記載の層間剥離耐性評価方法。
【請求項3】
前記部分構造体は、金属膜および樹脂膜からなる積層構造を含む、請求項1または2に記載の層間剥離耐性評価方法。
【請求項4】
前記金属膜は銅箔である、請求項3に記載の層間剥離耐性評価方法。
【請求項1】
積層構造体において、TMA法による厚さ変化測定の対象となる箇所を特定する工程と、
前記積層構造体から前記箇所を切り出す工程と、
切り出された部分構造体についてTMA法により厚さ変化測定を行う工程と、を含む、層間剥離耐性評価方法。
【請求項2】
前記積層構造体は多層プリント配線板である、請求項1に記載の層間剥離耐性評価方法。
【請求項3】
前記部分構造体は、金属膜および樹脂膜からなる積層構造を含む、請求項1または2に記載の層間剥離耐性評価方法。
【請求項4】
前記金属膜は銅箔である、請求項3に記載の層間剥離耐性評価方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図8】
【図15】
【図16】
【図17】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図8】
【図15】
【図16】
【図17】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2008−224479(P2008−224479A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−64650(P2007−64650)
【出願日】平成19年3月14日(2007.3.14)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月14日(2007.3.14)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
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