説明

履物の本底及び履物

【課題】 歩きやすく且つ疲れにくく、特にヒールの高い履物に適した本底を提供する。
【解決手段】 中足趾節関節部11と母趾部12に対応する部位に軟質材料を用い、母趾部12の外側に対応する部位2、3及び軟質材料から成る部位1よりも後方の部位8にそれぞれ硬質材料を用いたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歩行しやすいように硬質と軟質の材料を組み合わせた履物の本底、及び該本底を備えた履物に関する。
【背景技術】
【0002】
履物の歩行しやすさは、中足趾節関節部に対応する部位の屈曲性に依存するが、例えば特許文献1に記載された履物では、中敷きの母趾部に対応する部位に軟質材料、第2乃至第5趾部に対応する部位に硬質材料を用いて運動性を良好にしている。
【0003】
また、特許文献2に記載された履物の本底では、硬質材料と軟質材料を上下二層を成すように組み合わせて爪先が屈曲しやすいようにしている。
【0004】
さらに、特許文献3に記載された履物では、底面に第2趾部の付け根部分から第5趾部の付け根部分に沿って略L字形の溝を延設し、さらに底面における土踏まずの前縁に対応する部位に安定区域を形成するための横方向に延びる溝を設けることにより、前足部の屈曲性の向上を図っている。
【特許文献1】特開平02−114904号公報
【特許文献2】実公平02−23126号公報
【特許文献3】実登平05−4724号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
歩行時における中足趾節関節部の運動は、踵接地時に軽度背屈、足底接地時に中間位、踏み切り時に最大背屈するのが生理的であるが、この底屈背屈運動をできる限り阻害しない履物が理想的である。
【0006】
スポーツ用の靴では、本底の中足趾節関節部が屈曲しやすいように、本底の全体または一部に軟質材料を用いたものが存在するが、例えば高さ3cm以上のヒールを備えた婦人用パンプス靴(以下、パンプスと記す)のようなヒールの高い履物では見当たらない。これは、本底の中足趾節関節部が屈曲しやすいという機能性よりも美的外観を優先していることによる。
【0007】
従来、例えばパンプスのようなヒールの高い履物は、中足趾節関節を屈曲しやすくして歩行に適するように設計されておらず、ファッションの一部として見せるためのものありながら、実際には、様々な場面で使用され、中足趾節関節部が屈曲しづらいため、踵が脱け出たり、運動力伝達効率が悪くて疲れやすい等の問題が生じていた。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みて創案されたものであり、その目的は、歩きやすく且つ疲れにくく、特にヒールの高い履物に適用すると有効な本底及び該本底を備えた履物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、第1の発明は、中足趾節関節部11と母趾部12に対応する部位に屈曲性が良好な軟質材料を用い、母趾部12の外側に対応する部位2、3、及び軟質材料から成る部位1よりも後方の部位8にそれぞれ硬質材料を用いたことを特徴とする履物の本底である
また、第2の発明は、第1の発明において、歩行時に中足趾節関節部11が生理的屈曲方向へ補助誘導されるように軟質材料から成る部位1に屈曲誘導溝4、5、6、7を設けたことを特徴とする。
【0010】
また、第3の発明は、第1又は第2の発明において、第2中足骨頭部13と第3中足骨頭部14に対応する部位に除圧部1aを設けたことを特徴とする。
【0011】
また、第4の発明は、第1乃至第3のいずれかの発明の本底を備えたことを特徴とする履物である。
【0012】
また、第5の発明は、第4の発明において、ヒールの高さが3cm以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の本底によれば、中足趾節関節部11と母趾部12に対応する部位に軟質材料を用いたことにより、中足趾節関節部11と母趾部12が屈曲しやすく、歩行時の主たる推進力である母趾屈曲力の伝達効率が良い。また、母趾部12の外側に対応する部位2、3に硬質材料を用いることによって、歩行時の側方動揺を中心へと収束させることができる。したがって、歩行速度が上がっても歩き易く、疲れにくい。
【0014】
また、歩行時に中足趾節関節部11が生理的屈曲方向へ補助誘導されるように軟質材料から成る部位1に屈曲誘導溝4、5、6、7を設けることにより、踏み切り時に中足趾節関節部11が屈曲しやすくなり、歩行推進力の伝達効率が向上するためエネルギー効率が良くなり、歩行速度が上がっても、より歩きやすく疲れにくくなる。また、軟質材料から成る部位1が屈曲しやすいことにより、歩行時に踵が脱げにくくなる。
【0015】
また、第2中足骨頭部13と第3中足骨頭部14に対応する部位に除圧部1aを設けることにより、体重負荷に対する地面からの反作用としての圧力が第2中足骨頭部13と第3中足骨頭部14に集中しなくなるため、胼胝を生じにくくするとともに、従来の履物を長期間使用することによって既に生じている胼胝を改善することができ、これに伴う疼痛を軽減させることができる。
【0016】
また、上記のような構造的特徴を備えた履物は、歩行時における足の生理的な運動を阻害せず、歩行速度が上昇しても歩きやすく、疲れにくい。
【0017】
このような効果は、特に、ヒールの高さが3cm以上の履物において顕著となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の第1の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明の第1の実施形態である靴の本底(左足用)の底面図、図2は第1の実施形態の作用効果の説明図であり、左足の底面から見た骨格及びCOP軌跡、図3は図1の本底と左足の骨格との位置関係を示す図、図4は図1の本底を使用したパンプスを斜め下方から見た斜視図である。
【0019】
図2によれば、通常の歩行速度において、足部が接地して踏み切るまでの間、足底圧力中心(Center Of Pressure、以下COPと記す)の軌跡は、矢印9のように踵部から足部外側を通り、足幅を外側から内側へと横切るように進んで母趾部12の先端とへ移動し、歩行速度が上昇するにしたがってCOPの軌跡は次第に中心部側へ収束し、矢印10のようになる。
【0020】
エネルギー効率の良い歩行とは、足の底面から垂直上方に向けて身長の約55%の高さの位置にある重心点の移動範囲が小さいことであり、足部においてはCOP軌跡の横方向移動が中心側に収束することにより達せられる。このため歩行速度が上昇すると、エネルギー効率を良くしようとCOPが矢印10の方向に変化するために、下肢の筋は通常歩行速度よりも筋負担が増加して疲労度が増す。
【0021】
さらに本底の外側が軟質材料であったり、摩耗している場合は、COP軌跡を中心に収束させにくいため、さらに下肢の筋負担が増加して疲労度が増すことになる。
【0022】
そこで、前足部の外側部分に硬質材料を用いて、踏み切り時におけるCOPの側方動揺を抑制することにより、COP軌跡を中心部側に収束させ、歩行速度が上昇した場合にエネルギー効率の良い歩行を得ることができる。
【0023】
また踏み切り時には中足趾節関節部11より後方は接地しておらず、接地している前足部の中でも主として母趾部12の底屈力が歩行の推進力となる。図3を参照して、この際の屈曲部である中足趾節関節部11及び母趾部12に対応する部位が屈曲しやすければ運動伝達効率がよいので、中足趾節関節部11及び母趾部12に対応する部位に軟質材料を用いることによって、踏み切りを行う母趾屈曲力の伝達を良好に行うことができる。
【0024】
以上の効果を得るために、図1乃至図3に示すように、上記軟質材料から成る部位1(以下、軟質部と記す)は、硬度65乃至75程度の軟質材料を用い、中足趾節関節部11と母趾部12の屈曲を容易にするために略L字形にしてその範囲をカバーする形状としている。なお、その表面は滑り止めのためにエンボス加工等をしてもよい。
【0025】
軟質部1には、深さ0.5乃至1mm程度の近位中足趾節関節屈曲誘導溝4及び遠位中足趾節関節屈曲誘導溝5を設けて、中足趾節関節部11の屈曲を補助誘導する。また、深さ0.5乃至1mm程度の近位母趾屈曲誘導溝6及び遠位母趾屈曲誘導溝7を設けて、母趾部12の屈曲を補助誘導する。
【0026】
母趾部12の外側部分、すなわち滑り止め部2及びその外側の部位3(以下、外側硬質部と記す)は硬度75乃至85程度の硬質材料を用いて、歩行時のCOPが外側に流れずに中心部側へ収束するように誘導させる。なお、歩行時の滑り防止の目的により、滑り止め部2には厚さ0.5乃至1mm程度の突起模様を設けるのが良い。また、軟質部1よりも後方の部位8(以下、後方硬質部と記す)についても滑り止め部2と同様の硬質材料を用いる。
【0027】
軟質部1、滑り止め部2、外側硬質部3、及び後方硬質部8の素材は、ゴム、発泡ラテックスなど、靴の本底に通常用いられている素材で良い。
【0028】
これら軟質部1、滑り止め部2、外側硬質部3、及び後方硬質部8は、一体形成されることが、強度及び外観上好ましい。
【0029】
本発明の本底は、板状で一様の厚みを持ち、パンプス用には3乃至5mm程度、婦人用カジュアルシューズもしくは紳士靴用には5乃至15mm程度の厚さとするのが好ましい。
【0030】
図4に示したパンプスは、図3のように、本底の近位中足趾節関節屈曲誘導溝4及び遠位中足趾節関節屈曲誘導溝5が、中足趾節関節部11を挟み込む位置に、また近位母趾屈曲誘導溝6及び遠位母趾屈曲誘導溝7が母趾部12の位置に設定される履物であるため、履物のサイズに応じて本底の大きさも適切に増減させることが必要である。
【0031】
このパンプスを着用して歩行すると、本底の近位中足趾節関節屈曲誘導溝4及び遠位中足趾節関節屈曲誘導溝5が、中足趾節関節部11を挟み込むようにして、中足趾節関節部11の屈曲を補助誘導し、また近位母趾屈曲誘導溝6及び遠位母趾屈曲誘導溝7が母趾部12の屈曲を補助誘導するため、歩きやすく疲れにくい。
【0032】
次に、本発明の第2の実施形態を説明する。図5は第2の実施形態である靴の本底(左足用)の底面図、図6は図5の本底に設けた除圧部と左足の骨格との位置関係を示す図である。
【0033】
図5に示すように、本実施形態では、第2中足骨頭部13(図6参照)及び第3中足骨頭部14(図6参照)に対応する部位に、深さ1乃至3mm程度の窪み状の除圧部1aを設けている。
【0034】
例えばパンプスのように前足部よりも踵部の方が高くなっていると、体重負荷は前足部に集中して足骨格を保持する横アーチが消失し、本来体重を受ける骨形態になっていない第2中足骨頭部13と第3中足骨頭部14に圧力が集中するので、生体防御反応として当該部位に胼胝を生じ、疼痛の発生や歩きにくくなるといった問題がある。
【0035】
このため第2中足骨頭部13と第3中足骨頭部14において、体重負荷に対する地面からの反作用としての圧力を集中させないため、除圧部1aを設けて地面に接しないようにして当該部分を除圧すると、胼胝を生じにくくするばかりか、従来の履物を長期間使用することによって既に生じている胼胝を改善することができ、これに伴う疼痛を軽減させることができる。
【0036】
なお、上記実施形態では、先端部が尖った形状の本底及び履物を例に挙げて説明したが、先端部に丸みを持たせたり、あるいは先端部が幅広のもの等、いかなる形状のものにも本発明を適用することができる。その他にも、本発明の要旨を逸脱しない範囲で上記実施形態に種々の改変を施すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の第1の実施形態である靴の本底(左足用)の底面図である。
【図2】第1の実施形態の作用効果の説明図であり、左足の底面から見た骨格及び方向時のCOP軌跡である。
【図3】図1の本底と左足の骨格との位置関係を示す図である。
【図4】図1の本底を使用したパンプスの斜め下方から見た斜視図である。
【図5】本発明の第2の実施形態である靴の本底(左足用)の底面図である。
【図6】図5の本底に設けた除圧部と左足の骨格との位置関係を示す図である。
【符号の説明】
【0038】
1 軟質部
1a 除圧部
2 滑り止め部
3 外側硬質部
4 近位中足趾節関節屈曲誘導溝
5 遠位中足趾節関節屈曲誘導溝
6 近位母趾屈曲誘導溝
7 遠位母趾屈曲誘導溝
8 後方硬質部
11 中足趾節関節部
12 母趾部
13 第2中足骨頭部
14 第3中足骨頭部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中足趾節関節部と母趾部に対応する部位に軟質材料を用い、母趾部の外側に対応する部位及び前記軟質材料から成る部位よりも後方の部位にそれぞれ硬質材料を用いたことを特徴とする履物の本底。
【請求項2】
歩行時に中足趾節関節部が生理的屈曲方向へ補助誘導されるように、前記軟質材料から成る部位に屈曲誘導溝を設けたことを特徴とする請求項1記載の履物の本底。
【請求項3】
第2中足骨頭部と第3中足骨頭部に対応する部位に除圧部を設けたことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の履物の本底。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一項記載の本底を備えたことを特徴とする履物。
【請求項5】
ヒールの高さが3cm以上であることを特徴とする請求項4記載の履物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−198087(P2006−198087A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−11792(P2005−11792)
【出願日】平成17年1月19日(2005.1.19)
【出願人】(591025901)株式会社村井 (18)
【Fターム(参考)】