説明

山留め壁の漏水位置推定方法および地盤掘削工法

【課題】山留め壁の健全性を掘削開始前に確認し漏水を生じる危険性の有無やその位置を精度良く推定するための推定方法と、その推定に基づいて必要な事前対策を施したうえで安全かつ効率的に掘削するための地盤掘削工法を提供する。
【解決手段】初期揚水試験により透水量係数Tと影響圏半径Rを算出し、山留め壁1の内側の掘削域2への掘削を開始する以前に確認揚水試験を実施して揚水量Qと各観測孔での地下水位低下量sとを計測し、それらの値に基づいて各観測孔4から仮定湧水地点までの距離rを算出し、その距離rに基づいて漏水個所5を推定する。距離rをThiemの定常井戸理論式に基づいて算出する。上記方法により掘削開始後に漏水が生じると想定される場合には事前に漏水個所5への補修工事を実施し、必要に応じて確認揚水試験を再度実施して漏水が生じないと推定された後に掘削を開始する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤掘削に際して掘削域の周囲に先行施工される止水性の山留め壁を対象としてその山留め壁の掘削開始後における漏水の有無と漏水個所を事前に推定するための推定方法、およびその推定方法を利用する地盤掘削工法に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、透水性地盤に対する中規模以上の地下工事では、掘削時の地下水対策として止水性の山留め壁を掘削域を取り囲むように先行施工することにより、山留め壁の外側からその内側への地下水の漏水を防止しつつ掘削を行うことが一般的であるが、その場合においても山留め壁の止水性が十分ではないような場合には掘削時に無視し得ない漏水が生じてしまう場合もある。
【0003】
そのように掘削時に漏水が生じた際には、掘削作業を中断して漏水個所に対して薬液注入工法などの追加止水対策を実施する必要があるが、漏水量が多量であるような場合には必ずしも容易に止水できない場合もあるし、山留め壁の外側(背面側)に過大な薬液注入圧をかけると山留め壁が内側に倒れ込むように変形する懸念もあるから、そのような作業は慎重を要する面倒な作業であるし多大の費用と工期を要してしまうことが通常である。
【0004】
上記のような掘削開始後の漏水事故を防止するためには、掘削に先だって山留め壁の健全性を十分に確認し、掘削時に漏水が発生することが想定される場合には掘削を開始する以前に予め適切な止水対策を施しておくことが望まれるのであるが、現時点では掘削以前に山留め壁の健全性を確認し得て漏水発生の危険性やその位置を推定し得るような有効適切な手法は確立されておらず、そのような事前対策は不可能である。
【0005】
なお、地盤掘削に関連するものではないが、特許文献1には廃棄物処分場における漏水個所の有無と位置を検知するために光ファイバを利用して遮水面状体の損傷を検知するという漏水検知装置が提案されており、その漏水検知装置を山留め壁の周囲に設置すればそこでの漏水の有無や位置を事前に推定することは可能と思われるが、仮設構造物である山留め壁を対象としてそのような複雑かつ高度の検知装置を適用するようなことは施工性やコストの点で現実的ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−45226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記事情に鑑み、本発明は、地盤掘削に際して掘削域の周囲に設けられる止水性の山留め壁を対象として、その山留め壁が掘削開始後に漏水を生じる危険性の有無やその位置を事前に精度良く推定することを可能とする有効適切な推定方法を提供し、併せてその推定方法を利用する有効適切な地盤掘削工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の発明は、地盤掘削に際して掘削域への地下水の流入を防止するべくその周囲を取り囲むように先行施工される山留め壁を対象として、該山留め壁の外側からその内側の掘削域への漏水の有無と漏水個所を掘削前に推定するための推定方法であって、掘削域の周辺地盤に対して初期揚水試験を実施して透水量係数Tと影響圏半径Rを算出し、前記山留め壁の外側に少なくとも3個所の観測孔を設置するとともに該山留め壁の内側に揚水井を設けて確認揚水試験を実施することにより揚水量Qと前記各観測孔での地下水位低下量sとを計測し、前記透水量係数T、前記影響圏半径R、揚水量Q、地下水位低下量sに基づいて各観測孔から仮定湧水地点までの距離rを算出し、前記各観測孔に対応する仮定湧水地点までの距離rに基づいて各観測孔を中心とする湧水位置想定円を描き、前記各湧水位置想定円の交点範囲内もしくは交点範囲近傍の山留め壁個所を漏水個所と推定することを特徴とする。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の山留め壁の漏水位置推定方法であって、前記各観測孔から仮定湧水地点までの距離rを、Thiemの定常井戸理論式に基づく次式
r=R/exp(2πTs/Q)
により算出することを特徴とする。
【0010】
請求項3記載の発明は、地盤掘削に際し、掘削域への地下水の流入を防止するべくその周囲を取り囲むように山留め壁を先行施工した後、該山留め壁の内側を掘削する地盤掘削工法であって、前記山留め壁の内側を掘削するに先立ち、該山留め壁の外側からその内側の掘削域への漏水の有無と漏水個所を推定するための確認揚水試験を実施して請求項1または2記載の推定方法により漏水の有無と漏水個所を推定し、漏水が生じると推定された際にはその漏水個所への補修工事を実施した後、前記山留め壁の内側を掘削することを特徴とする。
【0011】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の地盤掘削工法であって、漏水個所への補修工事を実施した後、前記確認揚水試験を再度実施して前記推定方法により漏水の有無と漏水個所を再度推定することにより、漏水が生じると推定された際には漏水個所への補修工事を繰り返し、漏水が生じないと推定された後に掘削を開始することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の推定方法によれば、初期揚水試験により透水量係数Tと影響圏半径Rを算出し、掘削開始以前に確認揚水試験を実施して揚水量Qと各観測孔での地下水位低下量sとを計測することのみで、それらのデータからたとえばThiemの定常井戸理論式に基づいて漏水個所を的確に推定することができる。
【0013】
本発明の地盤掘削工法によれば、山留め壁の内側の掘削を開始する以前に上記の推定結果に基づいて山留め壁の健全性を確認し、掘削開始後に漏水が生じることが想定される場合には漏水個所を特定して事前に補修を行ったうえで掘削を開始することにより、掘削開始後に予期し得ない揚水が生じることを防止することができ、したがって掘削開始後に漏水が生じた場合のように掘削工程を中断して漏水補修を行うような事態を未然に回避でき、全体として効率的な掘削作業が可能となって工費削減、工費短縮に寄与し得る。
しかも、事前の補修工事に際しては山留め壁の内側地盤は未だ掘削されていないのであるから、掘削開始後に同様の補修作業を行う場合に比べれば漏水量は遙かに少なく、したがって補修作業を確実かつ容易に実施することが可能であるし、補修工事を薬液注入により行う際にその注入圧が仮に過大であったとしても内側地盤からの支圧反力により山留め壁が内側に大きく変形してしまうような懸念もない。
また、補修工事が終了した後に再度の試験を行って補修が十分になされたか否かを確認し、不十分である場合には同様の手順で確認揚水試験による漏水個所の推定と補修工事を繰り返すことにより、掘削開始以前に万全の止水対策を必要最小限の手間と費用で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の地盤掘削工法の実施形態を示すもので、掘削に先立って実施する確認揚水試験と漏水個所への補修工程の概要を示す図である。
【図2】本発明の推定方法の実施形態を示すもので、漏水個所の推定手法の概要を示す図である。
【図3】同、数値解析手法の概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1〜図3を参照して本発明の実施形態を説明する。
まず、図1を参照して本発明の地盤掘削工法の実施形態を説明する。本実施形態の地盤掘削工法は、透水性地盤に対する地盤掘削に際して通常のように止水性の山留め壁1を掘削域2を取り囲むように先行施工して、その山留め壁1の外側から掘削域2内への漏水を防止しつつその内側を掘削することを基本とするものであるが、本実施形態では掘削に先立って山留め壁1の健全性を確認するための試験を実施して掘削時に十分な止水性能を発揮し得るか否かを評価し、仮に漏水が生じることが想定される場合には後述する推定方法によって漏水位置5を特定したうえでその漏水位置5に対して止水性を確保するための補修工事を先行実施することにより、山留め壁1の健全性を確保したうえで掘削を開始することを主眼とする。
【0016】
具体的には、図1(a)に示すように掘削域2の周囲に山留め壁1を施工した後、その内側に1本の揚水井3を設けるとともに、山留め壁1の外側に水位変動を観測するための観測孔4を複数設置する。
図示例の場合には、図2(a)に示すように掘削域2の周囲に4面の山留め壁1を連続的に設けてそれらの全体で掘削域2を取り囲み、その内側ほぼ中心位置に揚水井3を設け、各山留め壁1の外側中央部の直近位置にそれぞれ上記の観測孔4を設置しているが、本発明においては観測孔4は少なくとも3個所に設置すれば良く、揚水井3や各観測孔4の位置も特に限定されることなく任意である。
【0017】
そして、図1(a)に示すように揚水井3から揚水を行って山留め壁1の内側の水位を低下させ、それに伴う山留め壁1の外側の地下水位の変動を各観測孔4により観測する。
この試験により、山留め壁1が健全であって外側から内側への漏水がなければ、山留め壁1の内側からの揚水の影響が外側にまで大きく影響することはないから、外側での地下水位は大きく変動することなく自然地下水位がほぼ維持され、そのことが各観測孔4に対する水位観測から検知し得る。つまり、その場合は山留め壁1が健全であって掘削開始後に漏水が生じる危険性はないと評価し得る。
【0018】
しかし、仮に(a)に示しているように山留め壁1に漏水個所5となる止水性不良個所があるような場合には、内側での地下水位の低下に伴ってその漏水個所5から内側への漏水が生じ、それに伴って山留め壁1の外側でも無視し得ない地下水位低下が生じる。この場合、漏水個所5に近い観測孔4ほど地下水位が早期にかつ顕著に生じるから、各観測孔4での地下水位観測により漏水が生じていること、およびその概略位置を定性的に検知し得る。
【0019】
そこで、本実施形態の地盤掘削工法では、後述する本発明の推定方法によって漏水個所5を精度良く特定したうえでその漏水個所5を塞ぐための補修工事を実施する。
その補修工事としては、漏水個所5の直上部からたとえば薬液注入工法等による追加止水対策を実施することにより、(b)に示すように漏水個所5の外側にそれを塞ぐような追加止水壁6を形成すると良い。
この際、山留め壁1の内側地盤は未だ掘削されていないのであるから、通常のように掘削開始後に同様の補修作業を行う場合に比べれば漏水量は遙かに少なく、したがって補修作業を確実かつ容易に実施することが可能であるし、補修工事を薬液注入により行う際にその注入圧が仮に過大であったとしても内側地盤からの支圧反力を受けて山留め壁1が内側に大きく変形してしまうような懸念もない。
【0020】
以上のようにして漏水個所5への補修を行った後、(c)に示すように再度の試験を行う。すなわち、(a)と同様に揚水井3から揚水し、それに伴う各観測孔4での水位変動をさらに観測することで漏水の有無を評価する。
この再度の試験によっても観測孔4での地下水位低下が観測された場合には補修工事による効果が十分ではない(補修が完全ではない)か、あるいは他の個所で新たな漏水が生じたと推定されるから、その場合は同様の手順により補修および試験を繰り返し、最終的に漏水を防止し得たことを確認してから掘削を開始すれば良い。
【0021】
以上のように本実施形態の地盤掘削工法では、掘削開始前に山留め壁1の健全性を確認して、掘削開始後に漏水が生じることが想定される場合には漏水個所5を特定して事前に補修を行ったうえで掘削を開始するので、掘削開始後に予期し得ない漏水が生じることを防止することができ、したがって掘削開始後に漏水が生じた場合のように掘削工程を中断して漏水補修を行うような事態を未然に回避でき、全体として効率的な掘削作業が可能となって工費削減、工費短縮に寄与し得る。
【0022】
なお、複数の帯水層があるような条件で上記の試験を行うためには、各帯水層に対応する複数の揚水井3と観測孔4を個別に設けておいて各帯水層に対する試験を順次行うか、あるいは揚水井3と観測孔4を最下層の帯水層に達するように設けたうえでたとえば特許第2788954号公報に示される部分揚水試験法や特許第2847127号公報に示される多段式間隙水圧測定方法に準じて各帯水層から順次揚水を行って各帯水層の水位を個別に順次測定することも可能である。
【0023】
さて、上記の地盤掘削工法においては、掘削開始以前に補修すべき個所、すなわち掘削開始後に漏水が生じると想定される漏水個所5を事前に精度良く推定可能であることが前提であるから、漏水個所5を特定するために本発明の推定方法を利用する必要がある。
以下、本発明の推定方法の実施形態について図2を参照して説明する。
【0024】
本実施形態の推定方法では、予め掘削域2およびその周辺地盤に対する初期揚水試験を実施して透水量係数Tと影響圏半径Rを算出しておく。
その算出は公知のs−log(r)プロットによる直線勾配法を利用して容易に求めることができる。すなわち、揚水井3から各観測孔4までの距離と各観測孔4での水位低下量の関係を片対数グラフにプロットして直線近似し、その傾きと切片から透水量係数Tと影響圏半径Rを求めれば良い。
【0025】
また、上記の初期揚水試験により得られたデータである透水量係数Tと影響圏半径R、および上記の確認揚水試験により得られるデータである揚水量Qと各観測孔4での地下水位低下量sとから、各観測孔4から仮定湧水地点までの距離rを公知の理論式に基づいて算出する。
すなわち、上記の各データ間には、Thiemの定常井戸理論式として公知の
s=(Q/2πT)ln(R/r)
なる関係があるから、その式を変形して
r=R/exp(2πTs/Q)
なる関係式から、各観測孔から仮定湧水地点までの距離rを求めることができる。
【0026】
そして、上記の距離rを半径として各観測孔4を中心とする湧水位置想定円を描くことにより、各湧水位置想定円の交点を漏水個所5と推定することができる。
たとえば、図2(a)に示すように4個所の観測孔4(図中にNo.1〜No.4として示す)での水位低下量sがそれぞれs=1.65m、1.28m、1.04m、1.23mであり、上式から各観測孔4に対応する距離rが(b)に示すようにそれぞれr=10m、35m、70m、40mとして求められたすると、各観測孔4を中心としてそれぞれの距離rの値を半径とする湧水位置想定円を描く。
これら4つの円の交点が1つの交点になることはまずないから、2つの円同士の交点で形成される4つの交点から4つの円の交点範囲が推定される。この交点範囲内に山留め壁があればこの山留め壁個所を漏水個所5として推定し、交点範囲内に山留め壁が入ってなければ交点範囲近傍(最も近い個所)の山留め壁個所を漏水個所5として推定する。
【0027】
上記の推定方法によれば、山留め壁1の施工以前に初期揚水試験を実施して透水量係数Tと影響圏半径Rを算出しておき、また山留め壁1施工後に掘削開始以前に確認揚水試験を実施して揚水量Qと各観測孔での地下水位低下量sとを計測することのみで、それらのデータから漏水個所5を的確に推定することができ、したがってその推定結果に基づいて特定した漏水個所の5の周囲の必要最小限の範囲に対してのみ追加止水工事を実施すれば十分であり、事前の漏水補修工事を合理的かつ効率的に実施することが可能となる。
勿論、上述したように補修工事が終了した後に再度の試験を行って補修が十分になされたか否かを確認し、不十分である場合には同様の手順で確認揚水試験による漏水個所の推定と補修工事を繰り返すことにより、掘削開始以前に万全の止水対策を必要最小限の手間と費用で実施することができる。
【0028】
なお、本発明においては、上記の確認揚水試験による漏水個所の推定に併せて、漏水個所を特定するための数値解析を併用することも好ましく、そのために採用して好適な数値解析手法について図3を参照して説明する。
これは、漏水が生じると想定される範囲内において多数の漏水個所を仮設定して予備解析を事前に実施しておくものである。
具体的には、たとえば図3(a)に示す場合での予備解析を説明する。1辺が150mの平面視矩形の山留め壁外部の当該1辺に平行で一直線に3個所の観測井(No.1〜No.3)を設置し、山留め壁内部に揚水井を設置して地下水位を低下させる事例である。観測井の設置ラインは山留め壁から10m離れた位置である。No.2の観測井は当該山留め壁の中央位置であり、No.1とNo.3の観測井はその両側で150m離れた位置である。帯水層の厚さは8mであり、透水係数はk=1.4×10−3cm/sである。そして、山留め壁内の地下水位を3.9m低下させた場合で、山留め壁の当該1辺において5mピッチで漏水個所を仮設定した場合に想定される各観測井での水位低下量を有限要素法による平面二次元浸透流解析で解析して(b)に示すようなグラフを作成する。また、そのグラフに基づき、最大水位低下量に対する他の観測井での水位低下量比を求めて(c)に示すグラフを作成する。
【0029】
そして、山留め壁内部の揚水井による確認揚水試験により得られた各観測井4での実際の水位低下量から、最大水位低下量に対する水位低下量比を計算し、上記のグラフ(c)により漏水地点を想定する。
具体的には、図3(a)に示すように3本の観測井での水位低下量がそれぞれs1=0.65m、s2=0.91m、s3=0.57mであった場合、最大水位低下量smax=s2=0.91mであり、水位低下量比はs1/smax=0.71、s3/smax=0.63であるから、それらの値から(c)のグラフにより複数の観測井のデータが重複するポイントであるy=-30mの位置を漏水個所として求めることができる。
【0030】
以上、定常井戸理論式に基づいて各観測孔から仮定湧水地点までの距離rで描かれる円(仮定湧水円)の交点範囲から漏水箇所を推定する方法(交点法と称する)と、山留め壁内部の揚水による山留め壁外部の各観測井の実際の水位低下状況を、想定の地下水位低下に基づく浸透流解析グラフを変形したものに当てはめて漏水ヵ所を推定する方法(解析法と称する)とを説明した。ただ、水位低下曲線が単純な井戸理論式(Thiem式)で表わせない場合は交点法が使えないし、山留め壁の設置延長が平面視で比較的長い場合は解析法が適用できる等、これら二つの方法は山留め壁の形状や工事場所の土質条件等により基本的に使い分けされるものであるが、解析法を適用可能な事例において交点法を適用できる場合は、双方の推定方法を適用してより推定精度を高めるができる。
【0031】
なお、本発明の推定方法では漏水個所5の平面的位置は精度良く推定し得るものの、帯水層が複数あるような場合においては深さ方向の漏水位置は必ずしも高精度で推定し得ない場合も生じるが、その場合は水位低下が顕著に生じた帯水層の位置で漏水が生じていると見なすことができるから、その帯水層の深度周辺に対して補修を行うことで通常は十分である。
【0032】
また、帯水層が複数ある場合において特定の帯水層が厚く、その帯水層中における漏水個所を特定する必要がある場合には、図3に示した数値解析手法と同様に漏水個所を上下方向に多数仮設定した場合の予備解析を事前に実施しておくことにより、その解析結果と観測孔での観測結果とのマッチングにより上下方向の漏水個所も精度良く特定することが可能である。
【0033】
以上で本発明の推定方法および地盤掘削工法の実施形態について説明したが、上記実施形態はあくまで好適な一例であって本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で適宜の設計的変更や応用が可能である。
たとえば、上記実施形態では透水量係数T、影響圏半径R、揚水量Q、地下水位低下量sのデータに基づいて各観測孔から仮定湧水地点までの距離rをThiemの定常井戸理論式に基づいて算出したが、必ずしもThiemの定常井戸理論式によることはなく、それら各要素の関係から距離rを求め得るものであれば他の理論式に基づいて推定を行うことも可能であるし、予め実験的にそれら各要素の相互関係を求めておいてその関係との対照により推定を行うことも妨げるものではない。
【符号の説明】
【0034】
1 山留め壁
2 掘削域
3 揚水井
4 観測孔
5 漏水個所
6 追加止水壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤掘削に際して掘削域への地下水の流入を防止するべくその周囲を取り囲むように先行施工される山留め壁を対象として、該山留め壁の外側からその内側の掘削域への漏水の有無と漏水個所を掘削前に推定するための推定方法であって、
掘削域の周辺地盤に対して初期揚水試験を実施して透水量係数Tと影響圏半径Rを算出し、
前記山留め壁の外側に少なくとも3個所の観測孔を設置するとともに該山留め壁の内側に揚水井を設けて確認揚水試験を実施することにより揚水量Qと前記各観測孔での地下水位低下量sとを計測し、
前記透水量係数T、前記影響圏半径R、揚水量Q、地下水位低下量sに基づいて各観測孔から仮定湧水地点までの距離rを算出し、
前記各観測孔に対応する仮定湧水地点までの距離rに基づいて各観測孔を中心とする湧水位置想定円を描き、
前記各湧水位置想定円の交点範囲内もしくは交点範囲近傍の山留め壁個所を漏水個所と推定することを特徴とする山留め壁の漏水位置推定方法。
【請求項2】
請求項1記載の山留め壁の漏水位置推定方法であって、
前記各観測孔から仮定湧水地点までの距離rを、Thiemの定常井戸理論式に基づく次式
r=R/exp(2πTs/Q)
により算出することを特徴とする山留め壁の漏水位置推定方法。
【請求項3】
地盤掘削に際し、掘削域への地下水の流入を防止するべくその周囲を取り囲むように山留め壁を先行施工した後、該山留め壁の内側を掘削する地盤掘削工法であって、
前記山留め壁の内側を掘削するに先立ち、該山留め壁の外側からその内側の掘削域への漏水の有無と漏水個所を推定するための確認揚水試験を実施して請求項1または2記載の推定方法により漏水の有無と漏水個所を推定し、漏水が生じると推定された際にはその漏水個所への補修工事を実施した後、前記山留め壁の内側を掘削することを特徴とする地盤掘削工法。
【請求項4】
請求項3記載の地盤掘削工法であって、
漏水個所への補修工事を実施した後、前記確認揚水試験を再度実施して前記推定方法により漏水の有無と漏水個所を再度推定することにより、漏水が生じると推定された際には漏水個所への補修工事を繰り返し、漏水が生じないと推定された後に掘削を開始することを特徴とする地盤掘削工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−197603(P2012−197603A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62426(P2011−62426)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】