説明

岩盤内低温流体貯蔵施設

【課題】岩盤貯槽の設置地盤における地下水位低下と地盤沈下を確実に防止する。
【解決手段】岩盤内に掘削した空洞の表面に吹付コンクリート2、躯体コンクリート3、保冷材4、メンブレン材5からなる覆工を形成し、吹付コンクリート中に排水管路網6を埋設するとともに、躯体コンクリート中に加温管路網7を埋設してなるメンブレン式の岩盤貯槽1を備え、加温管路網により躯体コンクリートの少なくとも外周部とその外側の吹付コンクリートおよび周囲岩盤を凍結温度以上に維持しつつ、かつ排水管路網により周囲岩盤から地下水を集水して排水しつつ低温流体を貯蔵する構成の岩盤内低温流体貯蔵施設であって、岩盤貯槽の上方の地盤に地表部より水を供給して地下水を人工的に涵養するための地下水涵養設備10を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LPGやLNG、DME等の低温流体を岩盤内に設けた貯槽に貯蔵するための施設に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の施設は安定した地下深部の岩盤内に大規模な空洞を掘削し、その空洞をタンク(貯槽)として機能せしめてLPG(液化石油ガス)やLNG(液化天然ガス)、DME(ジメチルエーテル)等の低温液化ガス、あるいはその他の低温液体や低温気体を貯蔵するものであって、空洞の内面に設ける覆工の構造によって「凍結式」のものと「メンブレン式」のものに大別される。
「凍結式」は空洞周辺の岩盤が凍結することで自ずと形成される安定な凍結領域により気密性や液密性を確保するものであり、「メンブレン式」は空洞内面に設けたメンブレン材により気密性や液密性を確保するものであり、沸点が比較的高いLPG(−42℃)やDME(−25℃)の貯蔵には前者の適用が可能であるが、沸点が極低温であるLNG(−162℃)の貯蔵には後者の方が貯槽の構造的な安定性や信頼性の点で有利であるとされている。
【0003】
しかし、メンブレン式の貯槽においても構造的な安定性や信頼性を充分に確保するためには、周囲岩盤の凍結膨張による悪影響と周囲岩盤から受ける地下水圧による悪影響とを排除する必要があるとされ、そのため特許文献1に示される構造のメンブレン式の岩盤貯槽が提案されている。
これは、覆工を吹付コンクリート、躯体コンクリート、保冷材、メンブレン材とにより構成したうえで、躯体コンクリート中に加温管路網を埋設して温水やブライン等の加温媒体を循環させ、かつ吹付コンクリート中に排水管路網を埋設して周囲岩盤から地下水を集水し排水するようにしたものである。
【0004】
これによれば、加温管路網により躯体コンクリートとその外側の周囲岩盤を加温することにより周囲岩盤の凍結を防止して凍結膨張による悪影響を受けることがなく、かつ周囲岩盤中の地下水を排水管路網により集水して排水することにより覆工に過大な地下水圧が作用することを防止してそれによる悪影響も防止でき、したがってメンブレン式の岩盤貯槽の構造的な安定性と信頼性と充分に確保し得るものであり、今後の普及が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−230849号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように特許文献1に示される構造のメンブレン式の岩盤貯槽は充分に有効ではあるものの、以下の点で改良の余地を残しているものである。
すなわち、上記の構造では貯槽周囲から地下水を排水することから、立地条件によっては地下水位の低下が生じる余地があり、それに起因して周辺の地下水環境に悪影響が及んだり、さらには地盤沈下が生じる懸念もある。そのため、地下水位低下や地盤沈下が許されない施設や構造物がある区域の地下には上記構造の貯槽を設置できないし、逆に上記構造の貯槽の上方の地表部にはそのような施設や構造物を設置すべきではないから、立地条件が極めて厳しくなる。
特に、この種の岩盤貯槽を設置する場合にはその直上の地表部に様々な関連施設を設置する必要もあるが、それら関連施設が地下水位低下や地盤沈下の悪影響を受けることが想定される場合にはその悪影響が及ばないような遠隔地に設置しなければならず、施設を運用するうえで極めて不便であり不合理である。
【0007】
また、この種の岩盤貯槽を設置するための用地確保は必ずしも容易ではないことから、各種の既存施設の地下を有効利用して岩盤貯槽を設置したいという要請も多いが、現時点では現実的ではない。
すなわち、この種の岩盤貯槽をたとえば既に稼働している既存のLNG基地の地下にLNG貯蔵用の岩盤貯槽を設けることとすれば、新たな用地確保を必要とせず、しかも既存の地上施設との連係も図ることが可能であって有効であると考えられるが、それが可能であるためには岩盤貯槽を設置することによる既存の地上施設に対する悪影響を回避するために地盤沈下を確実に防止する必要があるが、現時点では地盤沈下の懸念を払拭することは困難である。
【0008】
以上のことから、上記構造の岩盤貯槽はその有効性が認められつつもその普及を図るためには地下水位低下と地盤沈下を確実に防止しなければならず、それを可能とする手段の開発が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、岩盤内に掘削した空洞の表面に吹付コンクリート、躯体コンクリート、保冷材、メンブレン材からなる覆工を形成し、前記吹付コンクリート中に周囲岩盤から地下水を集水して排水するための排水管路網を埋設するとともに、前記躯体コンクリート中に温水やブライン等の加温媒体を循環させるための加温管路網を埋設してなるメンブレン式の岩盤貯槽を備え、前記加温管路網により前記躯体コンクリートの少なくとも外周部とその外側の吹付コンクリートおよび周囲岩盤を凍結温度以上に維持しつつ、かつ前記排水管路網により周囲岩盤から地下水を集水して排水しつつ、該岩盤貯槽に低温流体を貯蔵する構成の岩盤内低温流体貯蔵施設であって、前記岩盤貯槽の上方の地盤に地表部より水を供給して地下水を人工的に涵養するための地下水涵養設備を具備してなることを特徴とする。
【0010】
本発明における地下水涵養設備としては、岩盤貯槽の上方および側方に配置した複数の注水井によるもの、あるいは、岩盤貯槽の上方に設けた給水立坑および注水トンネルと該注水トンネルからその周囲に向けて形成された多数の注水孔からなるものが好適であり、いずれも注水井あるいは給水立坑に対して水を供給するための水供給設備を備え、必要に応じて注水井または注水孔の目詰まりを防止するための水質調整装置を備えることが好適である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、岩盤貯槽の上方の地盤に地下水涵養設備を設置したことにより、岩盤貯槽が周囲の地下水を排水管路網により集水し排水することに伴う地下水位の低下が防止され、したがって周辺の地下水環境に悪影響を及ぼすことはないし、地下水位低下に起因する地盤沈下を生じることもなく、そのため岩盤貯槽の立地条件を大幅に緩和することが可能であり、たとえば既存のLNG基地の地下への岩盤貯槽の設置も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の岩盤内低温流体貯蔵施設の実施形態を示す概要図である。
【図2】本発明の岩盤内低温流体貯蔵施設の他の実施形態を示す概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1に本発明の岩盤内低温流体貯蔵施設の実施形態を示す。これは、上述した構造のメンブレン式の岩盤貯槽1を設置した場合にその上方の地盤において地下水位の低下やそれに起因する地盤沈下を防止するもので、そのための地下水涵養設備10を設置したものである。
【0014】
本実施形態における岩盤貯槽1は特許文献1に示されているものと同様に、岩盤内に掘削したトンネル状の空洞の表面に吹付コンクリート2(図示例では一次吹付コンクリート2aと二次吹付コンクリート2bとの2層)、躯体コンクリート3、保冷材4、メンブレン材5からなる覆工を形成し、吹付コンクリート2中(図示例では二次吹付コンクリート2b中)に周囲岩盤から地下水を集水して排水するための排水管路網6を埋設するとともに、躯体コンクリート3中に温水やブライン等の加温媒体を循環させるための加温管路網7を埋設してなるものである。
この岩盤貯槽1では、加温管路網7により躯体コンクリート3とその外側の周囲岩盤を加温することにより周囲岩盤の凍結を防止して凍結膨張による悪影響を受けることがなく、かつ周囲岩盤中の地下水を排水管路網6により集水して底部排水溝8を通して排水することにより、覆工に過大な地下水圧が作用することを防止してそれによる悪影響も防止できるものであり、したがって構造的な安定性と信頼性を充分に確保し得るものである。
【0015】
しかし、既に述べたようにこのような構造の岩盤貯槽1では、図中の矢印で示すように周囲岩盤から地下水を集水し排水することから図中に破線で示すように地下水位が低下してしまうことが想定され、またそれに起因して地表部において地盤沈下が生じることも想定されることから、本実施形態では地下水涵養設備10を設置することによって地下水位の低下とそれに起因する地盤沈下を確実に防止するようにしている。
【0016】
本実施形態における地下水涵養設備10は、岩盤貯槽1の上方および側方に多数の注水井11を岩盤貯槽1の軸方向に所定の間隔をおいて配置し、地表部に設置した水供給設備12から各注水井11に水を供給することにより、各注水井11を通して岩盤貯槽1の上方および側方の地盤に水を注水し浸透させるものである。
これにより、各注水井11から供給された水は図示しているように岩盤貯層1に向かって流れていって岩盤貯層1の周囲岩盤からの排水に伴う地下水位の低下が補償され、地下水位を実線で示すように高く維持することができる。
【0017】
本実施形態の水供給設備12は、地表部に設置した水供給タンク13から各注水井11に対して給水管14を通して供給水を供給することを基本とするが、注水井11への供給は供給タンク13からの自然流下によることでも良いし、必要であればポンプにより圧送して加圧注入することでも良く、場合によっては水供給タンク13を省略して適宜の水源から各注水井11に直接供給することでも良い。
【0018】
供給水としては工業用水、下水処理水、雨水を利用することが好適であり、立地条件によって可能であれば河川水や湖沼水を利用したり、あるいは岩盤貯槽1から回収した地下水(排水管路網6により集水して地表に排水した地下水)を利用することも考えられるが、供給水の水質によっては注水井11が目詰まりを生じることも想定されるから、本実施形態ではその対策として水質調整装置15を備え、水供給タンク13の前段でその水質調整装置15により注水井11が目詰まりを生じない程度の水質に調整するようにしており、それにより長期間にわたって安定な地下水涵養を行うことが可能である。
水質調整装置15による処理工程は原水の水質および供給水に要求される水質に応じて適宜設定すれば良いが、大きい懸濁物から微細な懸濁物まで多段の処理装置で除去することを基本として、微生物等の増殖が懸念される場合には塩素系の薬品の添加装置を付加し、重金属イオンが無視できない場合には強制酸化装置や濾過装置を付加すれば良い。勿論、原水が充分に清浄であって目詰まりの懸念がなければ水質調整装置15は充分に簡略なもので良いしあるいは省略して差し支えない。
【0019】
上記の地下水涵養設備10を設置したことにより、岩盤貯槽1が周囲の地下水を排水管路網6により集水して排水してしまうことに伴う地下水位の低下が防止され、したがって周辺の地下水環境に悪影響を及ぼすことはないし、地下水位低下に起因する地盤沈下を生じることもない。
そのため、上記の岩盤貯槽1の立地条件が大幅に緩和され、従来においては地下水位低下や地盤沈下が生じる懸念からこのような岩盤貯槽1を設置することができない区域に対しても支障なく設置することが可能となるし、岩盤貯槽1の関連施設をその直上の地表部に支障なく設置することができる。
同様の理由により、従来においては現実的ではなかった既存施設の下方地盤、たとえば既存のLNG基地の地下への岩盤貯槽1の設置も可能となり、それにより新たな用地を確保することなく岩盤貯槽1を建設することが可能となるし、既存施設とその地下に新設する岩盤貯槽1との連係を図ることで施設全体の合理的な計画や運用が可能となる。
【0020】
図2は本発明の岩盤内低温流体貯蔵施設の他の実施形態を示す。これは地下水涵養設備10を給水立坑16と注水トンネル17、およびその注水トンネル17からその周囲に向けて形成された多数の注水孔18により構成し、注水孔18を岩盤貯槽1の軸方向(つまり注水トンネル17の軸方向)に所定間隔で櫛歯状に多数設けてその全体で岩盤貯槽1の上方を覆うように配置したものである。
この場合も、供給水を水質調整装置15から給水立坑16に供給して注水トンネル17から各注水孔18を通して岩盤貯槽1の上方の地盤に供給することにより、各注水孔18から供給された水は図示しているように岩盤貯層1に向かって流れていって岩盤貯層1の周囲岩盤からの排水に伴う地下水位の低下が補償され、地下水位が破線で示すように低下してしまうことなく実線で示すように高く維持することができるから地下水位低下と地盤沈下を防止することができるし、注水孔18が目詰まりすることなく長期にわたって安定な地下水涵養が可能である。
【0021】
なお、本発明においては、排水管路網6を通しての地下水排水により想定される地下水位低下を補償して涵養後の地下水位を自然地下水位と同等となるように維持すれば良く、そのためには注水量を岩盤貯槽1からの排水量と同等とすれば良いが、必要であれば涵養後の地下水位を所望の水位に維持するように注水量を制御することも可能であり、そのためには排水量や地下水位を常に監視して注水量を適正に調節するための制御手段を地下水涵養設備10に備えておくことも好ましい。
【符号の説明】
【0022】
1 岩盤貯槽
2 吹付コンクリート
2a 一次吹付コンクリート
2b 二次吹付コンクリート
3 躯体コンクリート
4 保冷材
5 メンブレン材
6 排水管路網
7 加温管路網
8 底部排水溝
10 地下水涵養設備
11 注水井
12 水供給設備
13 水供給タンク
14 給水管
15 水質調整装置
16 給水立坑
17 注水トンネル
18 注水孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
岩盤内に掘削した空洞の表面に吹付コンクリート、躯体コンクリート、保冷材、メンブレン材からなる覆工を形成し、前記吹付コンクリート中に周囲岩盤から地下水を集水して排水するための排水管路網を埋設するとともに、前記躯体コンクリート中に温水やブライン等の加温媒体を循環させるための加温管路網を埋設してなるメンブレン式の岩盤貯槽を備え、前記加温管路網により前記躯体コンクリートの少なくとも外周部とその外側の吹付コンクリートおよび周囲岩盤を凍結温度以上に維持しつつ、かつ前記排水管路網により周囲岩盤から地下水を集水して排水しつつ、該岩盤貯槽に低温流体を貯蔵する構成の岩盤内低温流体貯蔵施設であって、
前記岩盤貯槽の上方の地盤に地表部より水を供給して地下水を人工的に涵養するための地下水涵養設備を具備してなることを特徴とする岩盤内低温流体貯蔵施設。
【請求項2】
請求項1記載の岩盤内低温流体貯蔵施設であって、
前記地下水涵養設備は、前記岩盤貯槽の上方および側方に配置した複数の注水井と、該注水井に水を供給する水供給設備からなることを特徴とする岩盤内低温流体貯蔵施設。
【請求項3】
請求項1記載の岩盤内低温流体貯蔵施設であって、
前記地下水涵養設備は、前記低温岩盤貯槽の上方に設けた給水立坑および注水トンネルと、該注水トンネルからその周囲に向けて形成された多数の注水孔と、前記給水立坑に水を供給する水供給設備からなるからなることを特徴とする岩盤内低温流体貯蔵施設。
【請求項4】
請求項2または3記載の岩盤内低温流体貯蔵施設であって、
前記水供給設備には、前記注水井または前記注水孔の目詰まりを防止するための水質調整装置を備えたことを特徴とする岩盤内低温流体貯蔵施設。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−31998(P2011−31998A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−176953(P2009−176953)
【出願日】平成21年7月29日(2009.7.29)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】