説明

岩石試料からのゲノム及び/又はDNAの抽出方法並びにそのためのキット

【課題】岩石試料から、PCR反応等の遺伝子解析実験に用いることが可能なDNA試料を直接取得する方法を提供する。
【解決手段】粉砕した岩石試料をアルカリ溶液に加え、高温、好ましくは90〜95℃で、長時間、好ましくは2時間以上加熱し、その後、クロロホルム又はクロロホルムを含む有機溶剤による抽出、及びアルコールによる沈殿により精製を行うことにより、PCR反応を阻害する物質が取りのぞかれたDNA試料を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、岩石試料中に存在するゲノム及び/又はDNAの抽出方法並びにそのためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
微生物生態系の評価方法は、これまで、培養作業に基づく技術が主だった。
しかしながら、近年のDNA解析を中心とした分子生物学の目覚ましい進展により、土壌や汚泥、湖水、海水などの環境試料から、培養を経ずに直接ゲノム及び/又はDNA(なお、本件において、「ゲノム及び/又はDNA」とは、ゲノムDNA及びその断片DNAの双方を含むことを意味するものであって、以下、これらをまとめて、単に「DNA」ということもある。)を抽出することによって、不特定多数の微生物種からなる環境試料から微生物種を特定することが可能になり、現在様々な環境を対象に盛んに用いられている。
【0003】
こうした環境試料、なかでも、特に土壌については、DNAを抽出する方法は種々提案されているが(特許文献1〜5等)、これらの方法では、いずれも界面活性剤を含む緩衝液を用いて、DNAを抽出している。
例えば、特許文献1では、瞬間凍結した土壌を凍結乾燥した後粉砕し、これから、界面活性剤を含む緩衝液を用いてDNAを抽出するものである。
また、特許文献2、3では、緩衝液に、微生物の細胞壁や細胞膜を破砕するタンパク質分解酵素及び界面活性剤を含有させた液を、抽出液(溶菌液)として用いている。
また、特許文献4、5では、界面活性剤を含有するDNA抽出液の存在下で環境試料をbeads-beating処理及び/又は加熱処理してDNAを抽出している。
そして、近年では、ISOIL(ニッポンジーン)や、PowerCleanDNA Clean-UP Kit(MoBio)等の、土壌試料からDNAを抽出するためのキットが販売されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−81061号公報
【特許文献2】特開2004−337027号公報
【特許文献3】特開2005−73643号公報
【特許文献4】国際公開第2005/73377号
【特許文献5】特開2008−500066号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Kouduka M, Matuoka A, Nishigaki K. Acquisition of genome information from single-celled unculturable organisms (radiolaria) by exploiting genome profiling (GP). BMC Genomics 2006
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、岩石中には地表の植物に匹敵する生物が存在すると考えられている。しかしながら、これまでの報告はいずれも土壌試料についてのものばかりで、第三紀堆積岩とよばれる深い深度から得られるような固結した岩石等から直接DNA等を取得したという報告はなく、これまで、岩石、例えば、ボーリングした地下深部コアから直接DNAを抽出することは困難とされてきた。そのため、岩石中の微生物生態系の評価は、主に岩石中から湧出する水を対象として行われている。
しかしながら、岩石中と岩石中から湧出する水中では、生息する微生物種が異なる可能性がある。
【0007】
新たなニーズとして、地下空間の利用が検討されており、例えば二酸化炭素の地下での貯留や地層処分、資源開発、バイオ分野(新種微生物、新規遺伝子の発見と利用)等があり、岩石試料からのDNAの直接抽出は、今後ますます望まれている。
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであって、岩石試料から、PCR反応等の遺伝子解析実験、或いは塩基配列決定に用いることが可能なDNA試料を直接取得する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、岩石試料からのDNA抽出が困難である理由の一つに、多量に含まれるシリカ鉱物へのリン酸基を持つDNAの吸着が挙げられることが判明した。
また、岩石試料中には、腐植物質などの、PCR反応(遺伝子増幅反応)を阻害する有機物質が多量に含まれており、岩石試料からのDNAの抽出を困難にしていることも判明した。
【0009】
ところで、本発明者らは、これまでに、シリカの生体鉱物で包まれた放散虫について、アルカリ抽出法を用いることにより、同様な問題を解決した上での単一細胞からのゲノム抽出と、その後のゲノム解析に成功している(非特許文献1)。
すなわち、アルカリ抽出法自体は生体試料において一般的に知られている方法であって、生物の細胞を壊しDNAを取り出すことを目的としているために加熱は行わないものであるが、本発明者らは、アルカリ溶液中で加熱することにより、単一細胞生物である放散虫の殻を壊すことができることを見いだしたものである。
【0010】
本発明者らはさらに検討を行った結果、岩石試料に、前記の放散虫で確立したアルカリ抽出法を応用し、さらに高温、好ましくは90〜95℃で、長時間、好ましくは2時間以上加熱することにより、岩石中に多量に含まれるシリカ鉱物を溶かし、岩石中に存在する微生物のDNAを取得することに成功した。また、クロロホルムを含む有機溶剤による処理及びアルコールによる沈殿を用いて、抽出物からPCR反応を阻害する物質を取り除くことにより、岩石試料からのPCR反応等遺伝子解析実験に用いることが可能なDNA試料を取得することが可能となることを見いだした。
【0011】
本発明はこれらの知見に基づいて完成に至ったものであり、以下のとおりのものである。
[1]少なくとも、粉砕した岩石試料をアルカリ溶液に加えて加熱する工程、得られた溶液からクロロホルム又はクロロホルムを含む有機溶媒を用いて抽出する工程、及びアルコールによる沈殿により精製する工程、を含むことを特徴とする岩石試料からのゲノム及び/又はDNAの抽出方法。
[2]前記岩石試料が、堆積し固結した岩石試料であることを特徴とする上記[1]に記載のゲノム及び/又はDNAの抽出方法。
[3]前記加熱を、90〜95℃で、少なくとも2時間行うことを特徴とする上記[1]又は[2]のゲノム及び/又はDNAの抽出方法。
[4]粉砕した岩石試料からゲノム及び/又はDNAを抽出するためのキットであって、少なくとも、アルカリ溶液、クロロホルム又はクロロホルムを含む有機溶剤、及びアルコールを含むことを特徴とするゲノム及び/又はDNAの抽出キット。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、岩石試料からゲノムDNA及び/又はDNAが抽出にできるばかりでなく、抽出されたゲノムDNA及び/又はDNAに含まれるPCR反応阻害物質を取り除くことができるので、岩石中の微生物に対する遺伝子解析等が可能となる。また、岩石中の微生物生態系を明らかにし、物質循環や環境変動等の総合レベルでの正確な理解に繋がると考えられる。さらに、地下微生物生態系の実態と物質移行を解明することにより、近年注目される、微生物を利用した環境保全、資源エネルギーの利用、環境修復の発展も期待される。また本発明によれば、これまでDNA抽出の成功例がない第三紀堆積岩とよばれる深い深度から得られるような固結した岩石等からもNDA試料を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】従来の市販の土壌用DNA抽出キットによる抽出と、本発明の方法を用いて行ったDNA抽出の、DNA溶液の濃度比較を示す図。
【図2】DNA抽出溶液をテンプレートとして行ったPCR反応(遺伝子増幅反応)産物の電気泳動による確認結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のゲノム及び/又はDNAの抽出方法は、岩石試料を粉砕後、アルカリ溶液加え、加熱することにより、試料中のシリカ鉱物を溶かすと同時に試料中のDNAを溶出し、さらに、得られた溶液を、クロロホルム又はクロロホルムを含む有機溶媒による処理と、アルコールによる沈殿によって精製し、DNA抽出溶液を得るものであり、特に、本発明のDNA抽出方法は、第三紀堆積岩とよばれる深い深度から得られるような堆積して固結した岩石にも有効な方法である。
【0015】
本発明において、岩石試料は、粉砕して用いられるが、粉砕方法は特に制限されるものでなく、たとえば、ハンマー等により、直径1mm以下程度の大きさにまるまで粉砕しておくのが好ましい。
岩石材料としては、深度200Mより深いところから掘削により得られた「固結した岩石試料(ボーリングコアを使用)を用いることが可能であり、具体的は、凝灰岩、泥質岩、泥岩などの堆積岩を用いることができる。
【0016】
本発明に用いられるアルカリ溶液としては、特に限定されないが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの、アルカリ金属の水酸化物溶液が好ましく用いられ、その濃度は、0.1〜1.0規定の濃度のものが用いられる。
【0017】
本発明においては、岩石中のシリカ鉱物を壊しながらDNAを取得する必要がため、加熱は、前述の非特許文献1に記載されたものよりも、さらに高温で、かつ、長時間行う必要があり、好ましくは、90〜95℃で、少なくとも2時間行う。
【0018】
加熱処理された溶液は、クロロホルム又はクロロホルムを含有する有機溶媒を用いてDNAが抽出され、さらにアルコールによる沈殿処理により精製され、PCR反応を阻害する有機物質等が除去される。
本発明に用いるクロロホルムを含む有機溶媒としては、フェノールクロロホルム溶液が用いられる。クロロホルムをそのまま用いても可能である。
なお、比較的、腐植物質など有機物質が岩中の含量が少ない場合は、クロロホルム又はクロロホルムを含む有機溶剤を用いる工程を省いても良い。
【0019】
本発明におけるアルコールによる沈殿には、好ましくはエタノール又はメタノール等が用いられる。
アルコール沈殿の際、DNA溶液中にシリカが多量に含まれている場合、DNA溶液のpHの変化により溶液がゲル化することがある。その際には、ゲル化した試料を遠心分離し、上澄みを破棄し、沈殿物(ゲル化した部分)にバッファー(Trisバッファー、TEバッファーなど一般的にDNAを保存する際に使うような遺伝子工学実験に用いられる溶媒)を加え、DNAを溶出ことが可能である。バッファーを加えた後、撹拌もしく沈殿物をすり潰し、遠心分離して得られた上澄みにDNAが含まれている。
【実施例】
【0020】
以下、本発明の方法による地下岩石試料からのDNA抽出能力について、従来用いられてきた土壌試料用のDNA抽出キットを用いて、比較検討を行った。
なお、本発明は、これらの例により何ら限定されるものではない。
【0021】
〈使用した岩石試料〉
本実施例では、岩石試料として、凝灰岩、泥質岩、泥岩などの堆積岩を用いた。
図1に示した、凝灰岩、泥質岩は、共にバイオマーカーの実験により微生物の存在が確認されている領域である。
【0022】
〈使用した方法(DNA抽出キット)〉
本発明(アルカリ加熱方法)のキット
・1M NaOH
・ミネラルオイル
・クロロホルム
・100%エタノール
・3M酢酸ナトリウム
・70%エタノール
・TEバッファー(pH8.0)
・1.5mlチューブ

市販キット1:ISOIL(ニッポンジーン社製)
・Lysis Solution HE
・Lysis Solution 20S
・Purification Solution
・Precipitation Solution
・Wash Solution
・Ethachinmate
・TE(pH8.0)
・ポリロート

市販キット2:UltraCleanTM Soil DNA Isolation kit (Mo BIO社製)
・ソルーションS1〜S5
・ソルーションIRS
・PowerdBead Tube
・Spin filter
・Collection 2ml tube
【0023】
なお、市販キット1、2は、共に土壌試料に対応したDNA抽出キットであるが、ここでの土壌は比較的深度の浅い部分(岩石ではない土)に対応しているものである。すなわち、ISOILは日本製であり、火山灰を含む日本国内の土壌を試料としたDNA抽出に有用な使用となっている。一方、UltraCleanTM Soil DNA Isolation kit は米国製であり、日本国内の土壌からのDNA抽出も可能であるが、海外でも多く使用されているキットである。
【0024】
〈DNA抽出〉
それぞれ、以下の手順でDNA抽出を行った。
(本発明)
(1)岩石試料(0.25g)を1.5mlチューブに入れる。
(2)1M NaOH(1ml)を加え、撹拌する。
(3)94℃で、120分インキュベートする。途中、チューブを撹拌する。この際、溶液の蒸発に備え、ミネラルオイル(5μl)を加える。
(4)水層を新しい1.5mlチューブに移す。この際、ミネラルオイルが入らないように気をつける。
(5)クロロホルム(1ml)を加え、激しく撹拌させ、遠心分離(12,000×g,1分間)し、上澄みを新しい1.5mlチューブに移す。
(6)100%エタノール(1ml)及び0.3mM酢酸ナトリウム(50μl)を加え、インキュベートする(−20℃、30分)。
(7)遠心分離(12,000×g,1分間)し、上澄みを捨てる。
(8)70%エタノールを(1ml)加え、遠心分離(12,000×g,1分間)し、上澄みを捨て、沈殿物を乾燥させる。
(9)沈殿を、TEバッファー(pH8.0)(50μl)に溶解する。
【0025】
(比較例1:市販キット1を用いたDNA抽出)
(1)岩石試料(0.25g)を2mlチューブに入れる。
(2)Lysis Solution HE(475μl)とLysis Solution 20S(25μl)を添加し、転倒混和にて十分に混合した後、65℃で1時間インキュベートする。
(3)遠心(12,000×g、1分間、室温)する。
(4)上清(300μl)を新しいチューブに移し、Purification Solution(200μl)を添加し、十分に混合する。
(5)クロロホルム(300μl)を添加し、15秒間ボルテックスした後、遠心(12,000×g、15分間、室温)する。
(6)中間層を入れないように注意しながら水層(400μl)を新しいチューブに移し、Precipitation Solution(400μl)を添加して十分に混合し、遠心(20,000×g、15分間、4℃)する。
(7)上清を捨て、Wash Solution(500μl)を加えて数回転倒混和し、遠心(20,000×g、10分間、4℃)する。
(8)上清を捨て、70%エタノール(500μl)とEthachinmate(2μl)を加えてボルテックスした後、遠心(20,000×g、5分間、4℃)する。
(9)上清を捨て、風乾した後、沈殿を50μlのTE(pH8.0)に溶解する。
【0026】
(比較例2:市販キット2を用いたDNA抽出)
(1)岩石試料(0.25g)をPowerBeadチューブに入れる。
(2)ソリューションS1(60μl)を加え、チューブを緩やかに撹拌する。
(3)ソリューションIRS(200μl)を加え、10分間撹拌する。
(4)遠心分離(10,000×g,30秒間)する。
(5)上清をCollection 2ml Tubeへ移す。
(6)ソリューションS2(250μl)を加え、4℃下に5分間置く。
(7)遠心分離(10,000×g,1分間)する。
(8)上清をCollection 2ml Tubeへ移す。
(9)ソリューションS3(900μl)を加え、4秒間撹拌する。
(10)上澄みをspinfilterに移し、遠心分離(10,000×g,30秒間)する。この時、spinfilter には700μlまでしか入らないので、複数回に分けて行う。
(11)ソリューションS4(300μl)を加え、遠心分離(10,000×g,30秒間)する。
(12)溶液を捨て、遠心分離(10,000×g,30秒間)を行うことにより、フィルターを乾かす。
(13)spinfirterを新しいCollection 2ml Tubeにのせる。
(14)ソリューションS5(50μl)をspinfilter のメンブレン部の中央に加え、遠心分離(10,000×g,30秒間)を行うことによりDNAを溶出する。
【0027】
〈得られたDNA溶液の濃度(OD)測定〉
本発明方法、及び市販キット1、2にて抽出したDNA溶液の濃度をNanoDrop ND-1000(分光光度計)を用いて測定し、比較した。その結果を図1に示す。
図1に示すとおり、本発明のアルカリ加熱法によれば、凝灰岩、及び泥質岩より得られたDNA溶液濃度は、それぞれ22.41μg/μl、及び36.98μg/μlであった。これに対して、市販キット1を用いた場合は、それぞれ0.01μg/μl、及び1.03μg/μlであり、また市販キット2を用いた場合は、それぞれ8.07μg/μl、及び7.75μg/μlであった。
【0028】
また、PCR反応用のテンプレートとして用いた検証では、本発明方法によって得たDNA試料をテンプレートとした場合、目的の遺伝子を得ることに成功した。一方、市販のDNA抽出キットを用いて得られたDNA溶液をテンプレートとした場合、目的の遺伝子を増幅させることはできなかった。
この結果から、従来の土壌用DNA抽出キットに比べ、本発明方法ではPCR反応を行うのに十分な量のDNA抽出に成功し、その後の反応に用いるのに阻害物質となる腐植物質等を十分に取り除くことに成功していることがいえる。
結果、本発明の方法(アルカリ加熱法)では、従来用いられてきたDNA抽出キットに比べ、泥岩からのDNA抽出に対し有用であることが示された。
【0029】
〈得られた試料(DNA溶液)を用いたPCR反応(遺伝子増幅実験)〉
本発明法によって得られたDNA溶液がPCRのテンプレートとして用いることができるか、配列決定に用いることができるかを検討した。
実際に、得られたDNAを用いて16SrRNA遺伝子解析を行った結果について報告する。
【0030】
1)PCR反応による特定遺伝子増幅実験
本発明方法で得られた、DNA溶液をテンプレートとして、以下に示す方法で16SrRNA遺伝子をターゲットとするPCR反応を行った。
(PCR反応溶液組成)
・LA Taq (TAKARA BIO, Tokyo):1.0U
・10×Buffer (LA Taq用) :20μl
・2.5mM dNTP:20μl
・テンプレート:100ng
・プライマー:0.5pmol
・HO:全体で20μl
(プログラム)
(1)94℃ 2分
(2)94℃ 30秒
(3)50℃ 1分
(4)72℃ 1分
(5)72℃ 5分
(1)の後、(2)〜(4)を35サイクル行い、最後に(5)を行った。
【0031】
2)1)で得られたPCR産物の電気泳動による確認
電気泳動用ゲル組成:1xTAE、1% アガロース
バッファー組成:1xTAE (40 mM Tris-acetate/ 1 mM EDTA)
電気泳動条件:100V、30min、室温
電気泳動マーカー:100bp DNA Ladder
泳動サンプル:PCR産物5μl+色素1μl
【0032】
上記の条件で、電気泳動を行った結果を図2に示す。
図中、レーン1は、DNA抽出 negative control、レーン2は、凝灰岩の試料、レーン3は、泥質岩の試料、のそれぞれのPCR産物であり、Mは、マーカー(100bp DNA Ladder)である。
該図から、レーン1には何もないが、レーン2、3にはバンドが確認できる。これは、試料から遺伝子増幅がされたことを示している。また、マーカーとの対応関係から得られた遺伝子の長さは450bpであり、目的の遺伝子の長さであることを確認した。これらの結果は、遺伝子を試料から、目的遺伝子の増幅反応に成功したことを示している。
【0033】
〈遺伝子解析結果〉
得られたPCR産物に対し、ライゲーションと形質転換(クローニング処理)を行った後、遺伝子の配列決定を行った。得られた配列を元に、微生物の群集構造解析を行った。
解析の結果、微生物の16S rRNA遺伝子の配列であることが確認され、先行研究により用いた岩石試料中に棲息すると予想された微生物が見つかった。特に、メタン酸化細菌(Methylobacterium sp.)、好熱性細菌(Geobacillus stearothermophilus、Thermus thermophilus)、脱窒細菌(Pseudomonas sp.)等が多く検出された。
【0034】
また、好熱菌A(Thermus thermophilus)と好熱菌B(Geobacillus stearothermophilus)とされた遺伝子配列のGC含量を調べたところ、好熱菌Aは66.3%、好熱菌Bは61.3%と他の解析した配列中のGC含量より有為に高かった。GC含量は微生物の生育温度と正の相関線があることが証明されており(Kimura et al. 2006)、相関式から推定した結果、好熱菌Aは約65℃、好熱菌Bは約60℃で生育する微生物と同レベルだった。岩石試料を得た現在の掘削現場の地下温度は約25℃であり、得られた好熱菌の遺伝子は化石由来であることが予想された。これは、過去に岩石中の温度が約60〜65℃となり、そこに好熱性細菌が棲息していたことを示唆している。
また、岩石中の鉱物(シリカ鉱物)から過去の温度を知ることができるが(地質温度計)、今回得られた遺伝子配列から算出した過去の温度はそれに矛盾しない結果だった。
本発明では、岩石中に優先している微生物種を特定して調べ、岩石中の微生物生態系を明らかにし、化石由来の遺伝子を解析することにより、過去の環境についても推測することができた。
【0035】
以上のとおり、従来の方法では岩石試料からDNAを得ることができなかったが、本発明の方法では、その後の実験に用いるのに十分な量のDNAを得ることに成功した。
さらに得られたDNA試料に対し、16S rRNA遺伝子配列の解析を行った結果、現在、存在すると予想された微生物のほか、化石由来と考えられるDNA情報を取得することに成功した。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の方法は、岩石中の微生物生態系の実態と物質移行の解明に有用であり、微生物を利用した環境保全、資源エネルギーの利用、環境修復の発展が期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、粉砕した岩石試料をアルカリ溶液に加えて加熱する工程、得られた溶液からクロロホルム又はクロロホルムを含む有機溶媒を用いて抽出する工程、及びアルコールによる沈殿により精製する工程、を含むことを特徴とする岩石試料からのゲノム及び/又はDNAの抽出方法。
【請求項2】
前記岩石試料が、堆積し固結した岩石試料であることを特徴とする請求項1に記載のゲノム及び/又はDNAの抽出方法。
【請求項3】
前記加熱を、90〜95℃で、少なくとも2時間行うことを特徴とする請求項1又は2に記載のゲノム及び/又はDNAの抽出方法。
【請求項4】
粉砕した岩石試料からゲノム及び/又はDNAを抽出するためのキットであって、少なくとも、アルカリ溶液、クロロホルム又はクロロホルムを含む有機溶剤、及びアルコールを含むことを特徴とするゲノム及び/又はDNAの抽出キット。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−136716(P2010−136716A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−118272(P2009−118272)
【出願日】平成21年5月15日(2009.5.15)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、経済産業省「核燃料サイクル施設安全対策技術調査(放射性廃棄物処分安全技術調査等のうち地層処分に係る地質情報データの整備)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】