説明

岸壁クレーン及びその制御方法

【課題】
大規模地震に対応した免震構造及び制振構造を有するクレーンを提供する。つまり、あらゆる地震動の周期特性に対して免震及び制振することのできるクレーンを提供する。
【解決手段】
脚構造物3と走行装置2を有する岸壁クレーン1において、前記岸壁クレーン1が少なくとも、振動解析用モデルにおいて質点と見なせる第1質量体及び第2質量体を有し、地表面5と前記第1質量体の間に第1免震装置11を設置し、前記第1質量体と前記第2質量体の間に第2免震装置12を設置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、港湾や内陸地のコンテナターミナルなどでコンテナの荷役に使用するクレーン等に、地震対策を施した岸壁クレーン及びその制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
港湾や内陸地等のコンテナターミナルでは、岸壁クレーン、門型クレーン、コンテナトレーラによって、船舶及びトレーラ間のコンテナの荷役を行っている。このコンテナターミナルにおける地震対策として、岸壁クレーンに免震構造を備えたクレーンが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この免震構造とは、地盤とクレーンの絶縁により、クレーンが地震力を受けないようにするものである。
【0003】
他方、建築物においても免震装置を備えた建物が考案されている(例えば特許文献2参照)。特許文献2に記載の考案は、ダンパー装置の粘性減衰定数を可変に構成している。このダンパー装置は、地震により建物本体に生じる振動エネルギーを、効率よく吸収できる制振構造を有している。
【0004】
図7に、免震装置10を設置した従来型の岸壁クレーン1Xの1例を示す。岸壁クレーン1Xは、走行装置2と脚構造物3の間に、例えば積層ゴム等で構成したアイソレータからなる免震装置10を設置している。
【0005】
この脚構造物は、海側脚20a及び陸側脚20bと、この脚を連結する水平材であるポータルタイビーム29と、海側脚20aの上方に延伸したマスト24を有している。また、この脚構造物3は、岸壁5に平行な方向(図7の紙面手前から奥の方向)に、海側シルビーム21a、陸側シルビーム21b、海側タイビーム22a、及び陸側タイビーム22bを有している。更に、海側脚20aと、陸側脚20b又は陸側タイビーム22bを連結する斜材23と、マスト24と、ガーダ27又は陸側タイビーム22bを連結するマスト支持斜材25を有している。加えて、脚構造物3は、上方にブーム26及びガーダ27を有している。
【0006】
このブーム26及びガーダ27に沿って、トロリ6が走行し、コンテナ41の荷役を行うように構成している。なお、4はクレーン1Xの機械室を示し、40はコンテナ船を示している。
【0007】
図8に、岸壁クレーン1Xの免震構造のモデルを示す。図8Aに、コンテナの荷役作業等を行う通常時における岸壁クレーン1Xの振動解析用モデルを示す。このモデルは、地表面(岸壁)5上に、免震装置10を介して、岸壁クレーン1Xの重心である質点m0を支持している状態を示している。なお、免震装置10は、バネ機構14とダンパー機構15の組合せで示している。また、岸壁クレーン1Xにおける質量体を、振動解析用モデルでは、質点m0としてモデル化している。
【0008】
図8Bに、岸壁クレーン1Xのモデルに地震動を加え、質点m0が振動しているモード(1次振動モード)を示す。地震動により、クレーン1Xに対して海陸方向(図8の左右方向)の力が発生する。この力に対して免震装置10が作用し、質点m0の振幅Sを抑制することができる。また、ダンパー機構15をエネルギー吸収構造として、制振構造とすることもできる。この制振構造により、質点m0が振幅するエネルギーを吸収し、質点m0の振幅Sを減衰することができる。
【0009】
近年、岸壁クレーンは、大規模地震に対応することが求められている。図7に示すような現行の免震装置の配置で大規模地震動を受ける場合、海陸方向に約±1000mmの水平方向変形を吸収することが求められている。また、将来的には例えば海陸方向に約±2000mmなど、吸収すべき水平方向変形が増加する可能性もある。しかしながら、従来型の免震装置では免震ストロークが約±300mmしかない。そのため、大規模地震発生時には、免震装置がストローク限界に達して、免震装置が設置されていない状態と同じとなり、クレーンの転倒や、座屈等の事故が発生する危険性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005−75608号公報
【特許文献2】特開2009−41337号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記の問題を鑑みてなされたものであり、その目的は、大規模地震に対応した免震構造及び制振構造を有するクレーンを提供することにある。つまり、あらゆる地震動の周期特性に対して免震及び制振することのできるクレーンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するための本発明に係る岸壁クレーンは、脚構造物と走行装置を有する岸壁クレーンにおいて、前記岸壁クレーンが少なくとも、振動解析用モデルにおいて質点と見なせる第1質量体及び第2質量体を有し、地表面と前記第1質量体の間に第1免震装置を設置し、前記第1質量体と前記第2質量体の間に第2免震装置を設置したことを特徴とする。
【0013】
この構成により、クレーンは、2つ以上の質点(質量体)を有し、且つその質点同士を免震装置で連結する構成となる多質点系モデルを構築するため、あらゆる地震動の周期特性に対して免震及び制振することができる。つまり、地震動に対して、共振状態となることがほとんどないため、地震動によるクレーンの振動を抑制することができる。
【0014】
上記の岸壁クレーンにおいて、前記脚構造物を少なくとも上部構造物及び下部構造物に分割し、前記走行装置と前記下部構造物の間に第1免震装置を設置し、前記下部構造物と前記上部構造物の間に第2免震装置を設置したことを特徴とする。
【0015】
この構成により、第1免震装置が地表面から脚構造物に伝わる振動を抑制し、且つ、第2免震装置が脚構造物を2つの質点(質量体)に分割するため、クレーンが地震動と共振することを防止できる。
【0016】
上記の岸壁クレーンにおいて、前記脚構造物が、少なくとも海側脚、陸側脚、ブーム及びガーダを有しており、前記下部構造物が少なくとも前記陸側脚又は前記海側脚を有し、前記上部構造物が少なくとも前記海側脚又は前記陸側脚を有し、一部の免震装置を前記海側脚又は前記陸側脚の側方に設置することを特徴とする。
【0017】
この構成により、地震動を原因として海側脚又は陸側脚の端部にたわみ振動が発生した場合であっても、このたわみ振動が免震装置に与える影響を抑制することができる。そのため、クレーンは、大規模地震に対しても十分な免震及び制振効果を得ることができる。
【0018】
上記の岸壁クレーンにおいて、前記免震装置をバネ機構及びダンパー機構で構成し、第1の条件下では前記免震装置の揺動を固定具で固定し、第2の条件下では少なくとも前記
バネ機構のバネ定数又は前記ダンパー機構の粘性定数を制御して、前記免震装置の揺動を制御するように構成したことを特徴とする。
【0019】
この構成により、クレーンをアクティブに制御することができ、制振効果を向上することができる。つまり、地震動によるクレーンの振動に対して、この振動を打ち消すように免震装置の揺動(変位量)を制御できるため、積極的にクレーンの振動を減衰することができる。なお、第1の条件下とは、クレーンがコンテナの荷役作業等を行う通常時を想定しており、第2の条件下とは、地震発生時を想定している。
【0020】
上記の岸壁クレーンにおいて、前記免震装置に、ロック機能付き油圧ダンパーを設置し、前記ロック機能付き油圧ダンパーが、端部に可変流量ピストンを有する軸と、内部に前記可変流量ピストンを摺動自在に配置し、且つ流体を充填したケーシングを有しており、第1の条件下では、前記可変流量ピストンに形成した貫通孔を閉止し、前記軸を前記ケーシングに対して固定し、前記免震装置の揺動を禁止する制御を行い、第2の条件下では、前記可変流量ピストンに形成した貫通孔を連通し、前記軸を前記ケーシングに対して摺動自在とし、前記免震装置の揺動を自在とする制御を行うことを特徴とする。
【0021】
この構成により、クレーンの免震装置が作動を開始するタイミングを精密に制御することができる。つまり、予め設定した値を超える大きさの地震動が発生した場合に、免震装置が速やかに作動するように制御することができる。そのため、確実且つ精密な免震効果を得ることができる。
【0022】
上記の目的を達成するための本発明に係る岸壁クレーンの制御方法は、脚構造物と走行装置を有する岸壁クレーンで、前記岸壁クレーンが少なくとも、振動解析用モデルにおいて質点と見なせる第1質量体及び第2質量体を有し、地表面と前記第1質点の間に第1免震装置を設置し、前記第1質点と前記第2質点の間に第2免震装置を設置した岸壁クレーンの制御方法であって、前記免震装置をバネ機構及びダンパー機構で構成しており、第1の条件下では、前記免震装置の揺動を固定具で固定する制御を行い、第2の条件下では、少なくとも前記バネ機構のバネ定数又は前記ダンパー機構の粘性定数を制御して、前記免震装置の揺動を制御するように構成したことを特徴とする。この構成により、上記の岸壁クレーンと同様の作用効果を得ることができる。
【0023】
更に、前述の岸壁クレーンにおいて、前記脚構造物を少なくとも上部構造物、中間構造物、及び下部構造物に分割し、前記走行装置と前記下部構造物の間に第1免震装置を設置し、前記下部構造物と前記中間構造物の間に第2免震装置を設置し、前記中間構造物と前記上部構造物の間に第3免震装置を設置してもよい。
【0024】
この構成により、クレーンは、3つの質点(質量体)を有し、且つその質点同士を免震装置で連結する構成となる3質点系モデルを構築するため、2質点系モデル以上に、あらゆる地震動の周期特性に対して免震及び制振することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係るクレーンによれば、大規模地震動に対応した免震及び制振構造を得ることができる。すなわち、あらゆる地震動の周期特性に対して、クレーンが共振状態とならず、免震及び制振効果を効率的に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る実施の形態のクレーンの概要を示した図である。
【図2】本発明に係る実施の形態のクレーンの振動解析用モデルを示した図である。
【図3】本発明に係る実施の形態のクレーンの振動解析用モデルを示した図である。
【図4】本発明に係る異なる実施の形態のクレーンの概要を示した図である。
【図5】本発明に係る異なる実施の形態のクレーンの部分拡大図である。
【図6】本発明に係る実施の形態のクレーンのロック機能付き油圧ダンパーを示した図である。
【図7】従来の免震機構を有したクレーンの概要を示した図である。
【図8】従来の免震機構を有したクレーンの振動解析用モデルを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係る実施の形態のクレーンについて、図面を参照しながら説明する。図1に、脚構造物3を3つに分割し、その境界面に免震装置を設置した岸壁クレーン1を示す。脚構造物3を下部構造物、中間構造物、及び上部構造物の3つに分割し、それぞれの境界に第1免震装置11、第2免震装置12、及び第3免震装置13を設置している。第1免震装置11の下方には、走行装置2を配置している。
【0028】
第1免震装置11及び第2免震装置12の間には、海側シルビーム21a、陸側シルビーム21b、及びポータルタイビーム29を配置している(下部構造物)。第2免震装置12及び第3免震装置13の間には、海側脚20a、陸側脚20b、及び斜材23を配置している(中間構造物)。第3免震装置13の上部には、海側タイビーム22a、陸側タイビーム22b、マスト24、マスト支持斜材25、ブーム26、ガーダ27、及び機械室4を配置している(上部構造物)。
【0029】
なお、免震装置は、積層ゴムで構成したアイソレータを利用することが望ましいが、他の免震装置を利用することもできる。例えば、水平スライダー機構、バネ機構、ダンパー機構等を単独又は組み合わせた免震装置を利用することができる。
【0030】
図2に、図1に示した岸壁クレーン1の振動解析用モデルを示す。この振動解析用モデルにおいて、下部構造物、中間構造物、及び上部構造物(質量体)の重心を、第1質点m1、第2質点m2、及び第3質点m3として表している。また、それぞれの質点(質量体)を、第1免震装置11、第2免震装置12、及び第3免震装置13を介して連結している。なお、免震装置11、12、13を、バネ機構14とダンパー機構15の組合せで表現している。更に、高さh1、h2、h3は、地表面(岸壁)5からそれぞれの質点m1、m2、m3までの高さを示している。
【0031】
次に、クレーン1における免震装置の動作について説明する。コンテナの荷役等を行う通常時(第1の条件下)には、クレーン1の免震装置11、12、13は、せん断ピン等の固定具で固定し、剛の状態としている。地震発生時(第2の条件下)には、せん断ピン等が破断し、免震装置が作用して、クレーン1に発生する振動を抑制及び減衰するように構成している。
【0032】
図3に、クレーン1の振動解析用モデルの振動する様子を示す。図3Aに、クレーン1がコンテナ41の荷役等を行う通常時の状態を示す。図3Bに、地震発生時の状態であり、第3質点m3の位置が地表面5に対して停止し、第1質点m1及び第2質点m2がそれぞれ逆方向に振動しているモードを示す。図3Cに、地震発生時の状態であり、第2質点m2の位置が地表面5に対して停止し、第1質点m1及び第3質点m3がそれぞれ逆方向に振動しているモードを示す。なお、これらの振動モードは、入力される地震動と、各質点mの重量、地表面から各質点までの高さh、バネ機構14のバネ定数k、ダンパー機構15の粘性定数cをパラメータとして決定される。そのため、図3B及びCに示すクレーン1の振動モードが、低次のクレーン固有振動モードになるように設定すれば、互いの質点m1、m2、m3の運動が地震動による揺れを相殺しあい、クレーン全体としての揺れを抑制することができる。
【0033】
ここで、免震装置11、12、13をパッシブ制御とすることを想定している。他方で、免震装置をアクティブ制御とし、積極的にクレーン1の振動を減衰するように構成してもよい。つまり、地震発生時に、振動モードを決定するパラメータであるバネ定数k、又は粘性定数c等を変更する制御を行い、積極的に免震装置の揺動を制御するように構成してもよい。更に、免震装置の固定及び開放において、せん断ピンの代わりに、固定具として油圧駆動ロックピン、電動駆動ロックピン、又はロック機能付き油圧ダンパー等を使用してもよい。
【0034】
次にクレーン1の振動制御に関して説明する。まず、免震装置11、12、13をパッシブ制御とした場合を説明する。免震装置をパッシブ制御とする場合は、クレーン1を構成する各パラメータ(質量m、高さh、バネ定数k、粘性定数c)を変数として、クレーン1の設計を行う。例えば、このクレーン1の振動が、予め想定した地震動に対して、発散せず、図3B又はCに示す振動モードとなるように設計することが望ましい。すなわち、図3B又はCの振動モードが低次のクレーン固有振動モードとなるように設計することが望ましい。
【0035】
コンテナの荷役等を行う通常時には、クレーン1の免震装置11、12、13は、せん断ピン、油圧駆動ロックピン、電動駆動ロックピン、またはロック機能付き油圧ダンパー等で固定し、剛の状態としている。地震発生時には、せん断ピンの破断等により免震装置が作用して、図3B及びCに示すモード、あるいはそれらが重ね合わさった状態で振動する。油圧駆動ロックピン、電動駆動ロックピン、及びロック機能付き油圧ダンパー等を利用する場合は、地震発生をセンサ等で感知して免震装置を開放するように構成する。
【0036】
次に、免震装置11、12、13をアクティブ制御とした場合を説明する。免震装置をアクティブ制御とする場合は、クレーン1を構成する各パラメータを変数として、クレーン1の設計を行う。更に、地震発生時にバネ定数k及び粘性定数cを可変として、積極的に制御できるように構成する。地震発生時には、バネ機構14のバネ定数k又はダンパー機構15の粘性定数cを制御し、クレーン1が任意の振動モードで振動するように制御する。
【0037】
上記の構成により、以下のような作用効果を得ることができる。第1に、クレーン1が、2つ以上の質点m(m1、m2、m3等)を有する構成により、大規模地震に対しても十分な免震及び制振効果を得ることができる。つまり、免震装置を介して連結した2つ以上の質点mは、地表面(岸壁)5で発生する地震動に対して、発散型の共振状態となることがほとんどないため、地震動によるクレーン1の振動を抑制することができる。
【0038】
第2に、従来の免震装置を利用して、大規模地震に対応するクレーン1を構成することができるため、クレーン1の大幅な重量増加、地震対策の実施によるコスト増加を防止することができる。つまり、免震ストロークが約±300mmの免震装置であっても、上記の構成により、±1000mmの地震動及びそれ以上の地震動に対して免震及び制振効果を得ることができる。
【0039】
第3に、クレーン1に設計段階において、予め想定される地震動に応じて、各質点mの重量、地表面(岸壁)5から各質点mまでの高さh、バネ機構14のバネ定数k、ダンパー機構15の粘性定数cを変更することができる。そのため、例えば、300secの長時間にわたり、高いエネルギーを放出し続けるような地震を想定した場合であっても、十分な免震及び制振効果を得ることができる。特に、従来は対応することのできなかった、長周期の地震動に対しても、クレーン1が発散型の共振することなく、十分な免震及び制振効果を得ることができる。
【0040】
第4に、免震装置をアクティブ制御とする場合、あらゆる周波数の地震動に対して、クレーン1の振動を効果的に減衰するように制御することができる。つまり、地震によりクレーン1が振動している間、例えばダンパー機構15の粘性定数cを変更する制御により、任意の振動モードとすることができる。
【0041】
具体的には、例えばクレーン1の上方の質点m3を、地震動の方向と逆方向に振動するように制御する。この制御により、質点m3を、クレーン1に対する制振マス(振動を打ち消すためのおもり)として利用することができる。
【0042】
第5に、免震装置の固定及び開放において、せん断ピンの代わりに、油圧駆動ロックピン、電動駆動ロックピン、又はロック機能付き油圧ダンパー等を使用した場合、地震発生時に作用する免震装置を選択的に制御することができる。つまり、地震発生時に開放しない免震装置を意図的につくり、振動モードを制御するように構成することもできる。
【0043】
具体的には、地震動が継続している間に、免震装置の固定及び開放の制御を行い、振動モードを制御することができる。例えば、地震発生初期段階においては、第1免震装置11及び第2免震装置12を開放し、第3免震装置13を固定する。その後、全ての免震装置を開放する制御を行うことができる。
【0044】
また、地震動の振幅の大きさから、免震装置の固定及び開放を決定し、振動モードを制御することができる。具体的には、例えば、地震動の振動の幅が、±300mm以下の場合は、第1免震装置11のみ開放し、残りを固定する。地震動の振動の幅が、±300mmから±500mmの場合は、第1免震装置11及び第2免震装置12を開放し、第3免震装置13を固定する。地震動の振動の幅が、±500mm以上の場合は、すべての免震装置を開放する等の制御を行うことができる。
【0045】
なお、クレーン1の振動モードの制御において、地震速報等の情報をもとに、免震装置をアクティブ制御するように構成してもよい。具体的には、まず、無線等で受信した情報から、地震動の振幅等を取得する。この地震動に対して、任意の振動モード(図3B又はCの振動モード等)で振動するように、開放する免震装置を決定し、バネ機構14のバネ定数k及びダンパー機構15の粘性定数c等の制御を開始する。次に、地震動の変化に応じて、開放する免震装置を変更し、バネ定数k及び粘性定数cを制御するように構成してもよい。
【0046】
図4に、本発明に係る異なる実施の形態の岸壁クレーン1Aを示す。クレーン1Aは、脚構造物3を下部構造物及び上部構造物の2つに分割し、走行装置2と下部構造物の間に第1免震装置11を、下部構造物と上部構造物の間に第2免震装置12及び追加免震装置16を設置している。
【0047】
第1免震装置11と、第2免震装置12及び追加免震装置16の間には、海側シルビーム21a、陸側シルビーム21b、陸側脚20b、陸側タイビーム22b、機械室4及びポータルタイビーム29を配置している(下部構造物)。
【0048】
第2免震装置12及び追加免震装置16の上部には、追加ビーム17、海側脚20a、海側タイビーム22a、斜材23、マスト24、マスト支持斜材25、ブーム26、及びガーダ27を配置している(上部構造物)。
【0049】
図5に、追加免震装置16を中心とする拡大図を示す。この追加免震装置16は、陸側脚20bの側方に設置した架台18上に載置している。追加免震装置16上には、追加ビ
ーム17を固定している。この追加ビーム17及びマスト支持斜材25を、ガーダ27と連結している。また、斜材23は、追加ビーム17に固定している。他方で、下部構造物側は、陸側脚20bと、その上部に陸側タイビーム22bを介して設置した機械室4を有している。
【0050】
上記の構成により、以下のような作用効果を得ることができる。第1に、クレーン1Aが、2つの質点を有する構成により、大規模地震に対しても十分な免震及び制振効果を得ることができる。第2に、脚構造物3を構成する主要な梁部材(下部構造物)が、門型あるいは三角形構造を構成しているので、たわみ剛性を高めることが可能となる。そのため、第2免震装置12及び追加免震装置16に発生する免震ストロークを、梁部材のたわみ変形で相殺してしまう事態を回避することが可能となる。
【0051】
以上、クレーン1の質点を3つとする場合、及び2つとする場合について説明したが、本発明はこれらに限られるものではなく、クレーン1の質点を4つ以上に構成しても同様の作用効果を得ることができる。具体的には、例えば、海側タイビーム22a及び陸側タイビーム22bから懸吊しているブーム25及びガーダ27において、免震機構を介して懸吊するように構成することができる。
【0052】
図6に、免震装置11、12、13に設置するロック機能付き油圧ダンパー31の例を示す。このロック機能付き油圧ダンパー31は、免震装置に設置するせん断ピンの代わりに設置するものである。図6Aに示す様に、このロック機能付き油圧ダンパー31は、免震装置の両端部を連結して固定するように設置する。ここで、免震装置は、鋼板とゴムを積層した積層ゴム36と、リンク機構37を有している。このリンク機構37は、積層ゴム36の揺動を海陸方向(図6の左右方向)に拘束するように構成している。
【0053】
図6Bに、ロック機能付き油圧ダンパー31の部分断面図を示す。ロック機能付き油圧ダンパー31は、端部に可変流量ピストン33を有する二重管状の軸32と、内部に油等の流体を満たしたケーシング34を有している。この可変流量ピストン33は、貫通孔35を有しており、この貫通孔35の開口面積を制御することができるように構成している。
【0054】
具体的には、それぞれ貫通孔35を形成した円板状部材を重ねて、可変流量ピストン33を構成する。この円板状部材の一方を回転し、この回転により円板状部材の互いの貫通孔35を連通又は閉止できるように構成している。
【0055】
なお、可変流量ピストン33の回転は、モータ等の動力を設置して制御してもよい。また、バネ等の弾性体と電磁石等の固定部材を組み合わせて設置してもよい。つまり、通常時には、可変流量ピストン33は、弾性体の復元力に逆らって貫通孔35を閉止した状態にあり、このピストン33を固定部材により固定する。そして、地震発生時には、固定部材による固定を解除し、ピストン33が弾性体により貫通孔35を連通するように回転するように構成してもよい。
【0056】
次に、ロック機能付き油圧ダンパー31の動作に関して説明する。通常時(第1の条件下)は、可変流量ピストン33の貫通孔35を閉止し、ケーシング34内で、充填した流体が移動しないように制御する。この制御により、軸32はケーシング34に対して固定した状態となるため、免震装置は、固定された状態(剛の状態)となる。
【0057】
地震発生時(第2の条件下)には、円板状部材を回転し、可変流量ピストン33の貫通孔35を連通する。そして、ケーシング34内で、充填した流体が貫通孔35を経由して自由に移動するように制御する。この制御により、軸32はケーシング34に対して摺動
自在となるため、免震装置は揺動可能となり、その効果を発揮する。
【0058】
上記のロック機能付き油圧ダンパー31を利用する構成により、クレーン1の免震装置を適切に作動することができる。従来は、せん断ピンの破断により免震装置の作動を開始していたが、このせん断ピンの破断する力の制御が困難であった。このせん断ピンに対して、ロック機能付き油圧ダンパー31は、免震装置が作動するタイミングを制御できるため、確実且つ精密な免震及び制振効果を得ることができる。
【0059】
ここで、可変流量ピストン33の制御をアクティブに行うように構成しても良い。つまり、免震装置の変位量をもとに、貫通孔35の開口面積をリアルタイムで制御する。この構成により、ロック機能付き油圧ダンパー31における可変流量ピストン33の摺動抵抗を制御できるため、免震装置の減衰特性の制御を行うことができる。
【0060】
以上より、クレーン1、1Aの免震及び制振効果を向上することができるため、大規模地震に対する耐震性を向上することができる。
【符号の説明】
【0061】
1 クレーン(岸壁クレーン)
2 走行装置
3 脚構造物
5 地表面(岸壁)
11 第1免震装置
12 第2免震装置
13 第3免震装置
14 バネ機構
15 ダンパー機構
20a 海側脚 20b 陸側脚
26 ブーム
27 ガーダ
31 ロック機能付き油圧ダンパー
32 軸
33 可変流量ピストン
34 ケーシング
35 貫通孔
k バネ定数
c 粘性定数
m1 第1質点
m2 第2質点
m3 第3質点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海側脚、陸側脚、ブーム及びガーダを有する脚構造物と、走行装置を有する岸壁クレーンにおいて、
前記脚構造物を少なくとも上部構造物及び下部構造物に分割し、前記走行装置と前記下部構造物の間に第1免震装置を設置し、前記下部構造物と前記上部構造物の間に第2免震装置を設置し、
前記免震装置をバネ機構及びダンパー機構で構成したことを特徴とする岸壁クレーン。
【請求項2】
前記岸壁クレーンが、前記免震装置を固定及び開放する固定具を有しており、
前記固定具により前記免震装置の固定及び開放を制御して振動モードを制御する構成を有していることを特徴とする請求項1に記載の岸壁クレーン。
【請求項3】
前記岸壁クレーンが、前記脚構造物を少なくとも上部構造物、中間構造物及び下部構造物に分割し、前記下部構造物と前記中間構造物の間に第2免震装置を設置し、前記中間構造物と前記上部構造物の間に第3免震装置を設置したことを特徴とする請求項1又は2に記載の岸壁クレーン。
【請求項4】
地震発生時に、少なくとも前記バネ機構のバネ定数又は前記ダンパー機構の粘性定数を制御して、前記免震装置の揺動を制御するように構成したことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の岸壁クレーン。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2013−32230(P2013−32230A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−253881(P2012−253881)
【出願日】平成24年11月20日(2012.11.20)
【分割の表示】特願2009−272930(P2009−272930)の分割
【原出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】