説明

崩壊遅延を防止または抑制したポリフェノール類、レシチン、ビタミンE含有ソフトカプセル

【課題】本発明の課題は、ポリフェノール類を含有するソフトカプセルにおいて、内容物のポリフェノール類とソフトカプセル皮膜部ゼラチン分子との反応により生じる崩壊遅延を防止または抑制することである。
【解決手段】ソフトカプセル内容物としてポリフェノール類を含有する場合、内容物にポリフェノール類とともに、界面活性剤としてレシチン、及び抗酸化剤としてビタミンEを配合することにより、内容物のポリフェノール類とソフトカプセル皮膜由来のゼラチン分子との反応により生じる崩壊遅延を防止または抑制できる。そして、この発明の構成を手段として、より簡便でより安定な品質を維持したソフトカプセルを得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、「医薬品」、「特定保健用食品」、「いわゆる健康食品」および食品に広く汎用されているソフトカプセルに関するものであり、ソフトカプセル皮膜としてゼラチンを使用し、その内容物としてポリフェノール類と共に、界面活性剤としてレシチン、及び抗酸化剤としてビタミンEを配合して形成されることを特徴とするソフトカプセルに係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来からソフトカプセルの皮膜部は、牛、豚、魚の骨や皮やうろこなどより製されているゼラチンを主成分とし、可塑剤としてグリセリンや糖アルコールなどを用いることで「医薬品」や「いわゆる健康食品」分野で広く使用されている。
【0003】
しかしながら、ゼラチンを皮膜部の成分とするソフトカプセルは、皮膜部ゼラチン分子と充填内容物との相互作用により、有効成分のバイオアベイラビリティーに繋がる皮膜の溶解性が経時的に低下するという崩壊遅延の問題を起こしやすいことが知られている。
上記問題を解消するべく、(1)ゼラチン皮膜へのアミノ酸、クエン酸、酒石酸、又はフマール酸の添加(特許文献1及び2)、(2)ゼラチン皮膜へのプルランの添加(特許文献3)、(3)ゼラチン皮膜へのイノシトール6リン酸(フィチン酸)の添加(特許文献4)等が提案されている。
【0004】
しかしながら、これらの先行技術では、ソフトカプセル内容物としてポリフェノール類を含有する場合、内容物のポリフェノール類とソフトカプセル皮膜部ゼラチン分子との反応に起因するソフトカプセルの崩壊遅延の問題を充分に抑制するには至っていない。
また、上記先行技術(3)のようにフィチン酸を用いると、フィチン酸がカルシウム、鉄、銅、亜鉛などの重要なミネラルに対して強いキレート作用を示すため、これら重要なミネラルの吸収が阻害されてしまうことが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭57−30088号公報
【特許文献2】特開昭59−39834号公報
【特許文献3】特開平05−65222号公報
【特許文献4】特開2006−328038
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような背景を認識してなされたものである。すなわち、本発明の課題は、ポリフェノール類を含有するソフトカプセルにおいて、内容物のポリフェノール類とソフトカプセル皮膜部ゼラチン分子との反応により生じる崩壊遅延を防止または抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
まず請求項1の、ソフトカプセルは、内容物をソフトな皮膜で被覆してなるソフトカプセルにおいて、
前記ソフトカプセル皮膜部は、ゼラチン、可塑剤、水を配合しており、
前記ソフトカプセル内容物を調整するにあたり、内容物成分として、ポリフェノール類を1〜60重量%及び界面活性剤を1〜20重量%及び抗酸化剤を1〜20重量%含有して形成されることを特徴として成るものである。
【0008】
また請求項2の、ソフトカプセルは、前記請求項1記載の要件に加え、前記ポリフェノール類が、イソフラボン、フラボノール、フラバノン、アントシアニン、フラバノール、フラボン、カテキン、タンニン、フラボノイド、クロロゲン酸、フェニルカルボン酸、エラグ酸、リグナン、クルクミン、クマリンからなる群から選ばれる1種類又は2種類以上の組み合わせであり、
前記界面活性剤がレシチンであり、
前記抗酸化剤が、ビタミンEであることを特徴として成るものである。
【0009】
また請求項3の、ソフトカプセルは、前記請求項1または2記載の要件に加え、前記界面活性剤としてのレシチンと抗酸化剤としてのビタミンEの配合比率が、1:3〜3:1であることを特徴として成るものである。
【0010】
また請求項4の、ソフトカプセルは、前記請求項1、2または3記載の要件に加え、前記カプセル内容物成分として、ポリフェノール類を1〜50重量%、及び界面活性剤としてレシチンを1〜15重量%、及び抗酸化剤としてビタミンEを1〜15重量%の他、さらに1〜20重量%のタンパク質を含有し、
前記タンパク質が、カゼインホスホペプチド、大豆タンパク、ミルクペプチド、サーデンペプチド、ゴマペプチド、乳清パウダー、脱脂粉乳からなる群から選ばれる1種類又は2種類以上の組み合わせであることを特徴として成るものである。
【0011】
また請求項5の、ソフトカプセルは、前記請求項1、2、3または4記載の要件に加え、前記界面活性剤としてのレシチンの他に、懸濁化剤として、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ミツロウ、ライスワックス、水素添加加工油脂からなる群から選ばれる1種類又は2種類以上の組み合わせで使用することを特徴として成るものである。
【0012】
また請求項6の、ソフトカプセルは、前記請求項1、2、3、4または5記載の要件に加え、前記抗酸化剤として、ビタミンEの他に、ビタミンC、ビタミンB2及びその誘導体であるビタミンB2酪酸エステル、多価不飽和脂肪酸、スクワレンからなる群から選ばれる1種類又は2種類以上の組み合わせで使用することを特徴として成るものである。
【0013】
また請求項7の、ソフトカプセルの製造方法は、前記請求項1、2、3、4、5または6記載の要件に加え、前記ソフトカプセル内容物を調整するにあたり、35〜45℃で24〜36時間エージングしてから充填することを特徴として成るものである。
【0014】
本発明者らは、ソフトカプセル内容物としてポリフェノール類を含有する場合、内容物にポリフェノール類と共に、界面活性剤としてレシチン、及び抗酸化剤としてビタミンEを配合することにより、内容物のポリフェノール類とソフトカプセル皮膜由来のゼラチン分子との反応により生じる崩壊遅延を防止または抑制できることを見出した。そして、これら各請求項記載の発明の構成を手段として、より簡便でより安定な品質を維持したソフトカプセルを得ることができる。
【0015】
<カプセル内容物としてポリフェノール類と共に界面活性剤としてレシチン、及び抗酸化剤としてビタミンEを添加する作用効果>
カプセル内容物にポリフェノール類を含有する場合、内容物のポリフェノール類とソフトカプセル皮膜由来のゼラチン分子との反応により、カプセルの崩壊遅延が起きることが知られている。
このカプセル崩壊遅延発生のメカニズムは、必ずしも明らかではないが、本発明者らは、崩壊遅延が起きる初期段階として、水溶性であるポリフェノール類が、同じく水溶性であるゼラチン皮膜に移行し、ゼラチン皮膜内側表面又はゼラチン皮膜中でポリフェノール類が経時的に酸化されているのではないかと考えた。そして、そのポリフェノール類酸化生成物がゼラチン皮膜由来のゼラチン分子と経時的に反応を繰り返すことにより、カプセルの崩壊遅延が起きていると考えて、本発明の着想を得た。
すなわち、本発明の着想は、カプセル内容物としてポリフェノール類と共に界面活性剤としてレシチン、及び抗酸化剤としてビタミンEを添加することにより、崩壊遅延初期段階の、ゼラチン皮膜内側表面又はゼラチン皮膜中で起こるポリフェノール類の酸化を防止または抑制することである。
【0016】
本発明のカプセル内容物としてポリフェノール類と共に界面活性剤としてレシチン、及び抗酸化剤としてビタミンE添加の作用効果は必ずしも明らかではないが、レシチン及びビタミンEの物性により、その作用がなされるものと推察される。図1は、本発明のポリフェノール類含有ソフトカプセルにおけるレシチン及びビタミンE添加の作用効果の説明図である。以下に図1に基づいて、本発明のポリフェノール類含有ソフトカプセルにおけるレシチン及びビタミンE添加の作用効果について説明する。
図1において、本発明に用いられるビタミンE3は、ポリフェノール類の酸化を防ぐ抗酸化力は有しているが疎水性であるため、カプセル内容物としてビタミンE3だけ配合していても、水溶性のポリフェノール類1のようにゼラチン皮膜11へ移行していかない。従って、界面活性剤としてレシチン2を配合せずに、抗酸化剤として疎水性のビタミンE3を配合するだけでは、ゼラチン皮膜へ移行しているポリフェノール類1の酸化を十分に抑制できず、結果として、ポリフェノール類酸化生成物がソフトカプセル皮膜由来のゼラチン分子と反応することにより起こるカプセルの崩壊遅延を抑制できないと考えられる。
しかし、図1の本発明のように、カプセル内容物としてビタミンE3と共に、界面活性剤であるレシチン2を配合すると、本来疎水性であるビタミンE3が、レシチンの親水性基2Aを外側にしてレシチン2で覆われることで、レシチン2のゼラチン皮膜11への浸透作用が発揮されるようになる。そのため、本来疎水性であるビタミンE3が、水溶性のゼラチン皮膜11へ移行していくことが可能になる。
そうすると、ゼラチン皮膜11へ移行しているポリフェノール類1の酸化を十分に防止または抑制でき、その結果として、ポリフェノール類酸化生成物がソフトカプセル皮膜由来のゼラチン分子と反応することにより起こるカプセルの崩壊遅延を防止または抑制できると考えられる。
また、レシチン2の乳化作用で水溶性のポリフェノール類1が、レシチンの疎水性基2Bを外側にして覆われることにより、水溶性のゼラチン皮膜11への移行が抑制される。そのため、水溶性のポリフェノール類1が水溶性のゼラチン分子と直接接触する機会が減少して反応が抑制され、崩壊遅延を防止できると考えられる。
【0017】
本発明は、図1の本事例に限定されるものではなく、ポリフェノール類、及び界面活性剤としてレシチン、及び抗酸化剤としてビタミンEと共に他の成分がカプセル内容物として含まれていても、レシチン及びビタミンE添加による、経時的な崩壊遅延を防止または抑制する作用効果を阻害するものではないことは言うまでもない。
【0018】
ポリフェノール類とは、分子内に複数のフェノール性ヒドロキシ基(ベンゼン環、ナフタレン環などの芳香環に結合したヒドロキシ基)をもつ植物成分の総称であり、ほとんどの植物に含有され、その数は、5000種以上に及ぶ。
本発明に使用できるポリフェノール類は、イソフラボン、フラボノール、フラバノン、アントシアニン、フラバノール、フラボン、カテキン、タンニン、フラボノイド、クロロゲン酸、フェニルカルボン酸、エラグ酸、リグナン、クルクミン、クマリンからなる群から選ばれる1種類又は2種類以上の組み合わせである。その中でも、ビルベリーに多く含まれているアントシアニン、松の樹皮より抽出された天然の抗酸化物質ピクノジェノールやイチョウ葉エキスに多く含まれているフラボノイドが好適に用いられる。
ポリフェノール類の配合比率は、期待する効果等を考慮して適宜決定すれば良いが、カプセル内容物の総和に対して、ポリフェノール類が、1〜60重量%で好適に用いられる。さらに好ましくはポリフェノール類が5〜55重量%であり、とりわけ好ましくは10〜50重量%である。
【0019】
一般に界面活性剤は、水に溶かしたときに電離してイオンとなるイオン性界面活性剤と、イオンにならない非イオン性(ノニオン)界面活性剤とに分類され、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、レシチンなどが挙げられるが、本発明においてはいずれのものでも使用することができる。
その中でも、本発明に使用できる界面活性剤としてレシチンが好適に用いられる。本発明においてレシチンが好適に用いられるのは、レシチンが優れたゼラチン皮膜浸透作用を有するためである。ここで、レシチンとは、グリセロリン脂質の一種であり、自然界の動植物において全ての細胞中に存在しており、生体膜の主要構成成分である。レシチンの特性として、油を水に分散させてエマルジョンを作る乳化力、皮膚や粘膜から物質を透過吸収する浸透作用がある。市場では、原料に何を使用しているかで分類され、例えば卵黄を原料とするものは卵黄レシチン、大豆を原料とするものは大豆レシチンと呼ばれ区別されるが、本発明においては市場に販売されているレシチンであれば、いずれのものでも使用することができる。
【0020】
カプセル内容物におけるレシチンの配合比率の上限値に制限は無く、ポリフェノール類含有量、期待する効果等を考慮して適宜決定すれば良い。しかし、例としてあげればカプセル内容物の総和に対して、1〜20重量%で好適に用いられる。さらに好ましくは5〜15重量%、とりわけ好ましくは8〜12重量%である。レシチンが1重量%以下だと、効果が発現しにくい。一方、レシチンが20重量%以上だと、ゼラチン皮膜同士の接着を阻害してカプセル形成に支障をきたす可能性もでてきて好ましくない。
【0021】
本発明では、界面活性剤としてのレシチンの他に、懸濁化剤として、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ミツロウ、ライスワックス、水素添加加工油脂からなる群から選ばれる1種類又は2種類以上の組み合わせを使用することができる。これら懸濁化剤としての配合比率に制限は無く、ポリフェノール類含有量、分散性、均一性、ソフトカプセル内容物の粘度などを考慮して適宜決定すれば良い。しかし、例としてあげればカプセル内容物の総和に対して、1〜40重量%で好適に用いられる。さらに好ましくは2〜30重量%、とりわけ好ましくは5〜25重量%である。懸濁化剤の配合比率が1重量%以下だと、分散性、均一性などの効果が発現しにくい。一方、懸濁化剤の配合比率が40重量%以上だと、ポリフェノール類含有量が少なくなってしまう可能性もでてきて好ましくない。
なお、ここで水素添加加工油脂とは、植物由来または動物由来の食用油脂類について水素添加または部分的に水素添加した食用精製加工油脂のことであり、大豆硬化油、ナタネ硬化油、魚硬化油、マーガリン、ショートニングオイルなどが挙げられる。
【0022】
本発明に使用できるビタミンEとは、トコフェロールとトコトリエノールであり、α−トコフェロール、β−トコフェロール、γ−トコフェロール、δ−トコフェロール、α−トコトリエノール、β−トコトリエノール、γ−トコトリエノール、δ−トコトリエノールからなる群から選ばれる1種類又は2種類以上の組み合わせいずれのものでも使用することができる。また、ビタミンE誘導体である酢酸トコフェロールなども使用することができる。さらに、本発明ではビタミンEと共に、抗酸化剤として、ビタミンC、ビタミンB2及びその誘導体であるビタミンB2酪酸エステルなどの抗酸化ビタミン、多価不飽和脂肪酸、スクワレンなどを使用することができる。
本発明におけるビタミンEの配合比率は、期待する効果等を考慮して適宜決定すれば良いが、カプセル内容物の総和に対して、ビタミンEが、1〜20重量%で好適に用いられる。さらに好ましくはビタミンEが5〜15重量%であり、とりわけ好ましくは8〜12重量%である。
【0023】
本発明に使用できる前記界面活性剤としてのレシチンと抗酸化剤としてのビタミンEの配合比率は、1:3〜3:1で好適に用いられる。さらに好ましくは1:2〜2:1、とりわけ好ましくは1:1である。
【0024】
また本発明のソフトカプセルの内容物には、ポリフェノール類及び界面活性剤としてレシチン、及び抗酸化剤としてビタミンEのほか、タンパク質を更に配合することで崩壊遅延防止効果を高めることが可能である。このタンパク質の配合比率は、期待する効果等を考慮して適宜決定すれば良いが、カプセル内容物の総和に対して、1〜30重量%で好適に用いられる。さらに好ましくは5〜25重量%であり、とりわけ好ましくは10〜20重量%である。
本発明に使用できるタンパク質は、カゼインホスホペプチド、大豆タンパク、ミルクペプチド、サーデンペプチド、ゴマペプチド、乳清パウダー、脱脂粉乳からなる群から選ばれる1種類又は2種類以上の組み合わせである。その中でもカゼインホスホペプチド、大豆タンパクが好適に用いられる。
【0025】
<本発明において、カプセル内容物としてレシチン及びビタミンEと共に、タンパク質を添加する作用効果>
本発明において、カプセル内容物としてレシチン及びビタミンEと共に、タンパク質を添加する作用効果は必ずしも明らかではないが、その物性により、その作用がなされるものと推察される。
すなわち、本発明ではカプセル内容物にポリフェノール類とともに、レシチン及びビタミンEの他、さらにタンパク質を配合して一定温度(35〜45℃)、一定時間(24〜36時間)エージングすることなどにより、カプセル内容物のポリフェノール類とタンパク質とが結合し、カプセル形成後にポリフェノール類が直接ゼラチン皮膜に作用することが抑制される。その結果、レシチン及びビタミンEの作用で、ゼラチン皮膜へ移行しているポリフェノール類の酸化を抑制する効果との相乗効果で、崩壊遅延防止効果を高めることが可能である。
【0026】
また本発明のソフトカプセルの内容物には、ポリフェノール類、レシチン及びビタミンEのほか、マスキング剤または賦形剤またはマスキング剤及び賦形剤を、更に配合することが可能であり、これらの配合比率は、期待する効果等を考慮して適宜決定すれば良いが、カプセル内容物の総和に対して、これらの総和は1〜60重量%で好適に用いられる。さらに好ましくは10〜50重量%であり、とりわけ好ましくは20〜40重量%である。
ここでマスキング剤としては、グルコン酸カルシウム、炭酸カルシウム、真珠カルシウム、乳酸カルシウム、ミルクカルシウム、貝カルシウム等のカルシウム誘導体、賦形剤としては、デキストリン、サイクロデキストリン、セルロース、ポリサッカライドなどが挙げることができる。しかしこれらに限定されるものではないことは言うまでもない。
【0027】
本発明に使用できる可塑剤は、グリセリン、糖アルコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、二糖類、オリゴ糖、イソマルトオリゴ糖などである。また可塑剤の配合比率は、ゼラチン100重量部に対して、20〜300重量部で好適に用いられる。さらに好ましくは30〜200重量部、とりわけ好ましくは35〜50重量部である。
【発明の効果】
【0028】
本発明により、ポリフェノール類を含有するソフトカプセルにおいて内容物のポリフェノール類とソフトカプセル皮膜由来のゼラチン分子との反応により生じる崩壊遅延を防止または抑制し、生産性、コスト面、品質性に優れた従来にないソフトカプセルを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は本発明のポリフェノール類含有ソフトカプセルにおけるレシチン及びビタミンE添加の作用効果の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明を実施するには、定法に従ってソフトカプセルを製造すればよく、例えばロータリー式、シームレス式または平板式などの方法を使用することができる。ロータリー式の例であるロータリーダイ式自働ソフトカプセル製造機によるソフトカプセル製造方法は、本出願人が既に特許出願に及んでいる特開2004−351007の段落番号0024〜0031に開示している方法を用いることができる。
【実施例】
【0031】
以下に実施例を示して本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、植物油、動物油、植物油と動物油の組み合わせ、さらには各油脂類に動植物エキス類およびエキス類粉末を含有する懸濁油などありとあらゆる油脂との混合物でカプセル化が可能なもの全てに適用できるものである。
【0032】
<試験例1>
表1の内容物処方で常法に従い、界面活性剤としてのレシチンを配合し、抗酸化剤としてのビタミンEを配合した実施例1〜6のポリフェノール類含有カプセルと、レシチン及び/又はビタミンEを含まない比較例1〜6のポリフェノール類含有カプセルの内容物を各10kgずつ製造した。この比較例1〜6は、実施例1〜6における界面活性剤としてのレシチン(ツルーレシチン工業株式会社製の商品名 SLP−ペーストNG)及び/又は抗酸化剤としてのビタミンE(α−トコフェロール タマ生化学株式会社製の商品名 E−MIX−α1000)をまるまるオリーブオイルに置き換えたものであり、具体的には下記の通りである。
【0033】
【表1】

※各数値の単位は重量%である。
※抗酸化剤としてのビタミンEはトコフェロール(α−トコフェロール)で、タマ生化学株式会社製の商品名 E−MIX−α1000を用いる。

イチョウ葉エキスには、一般に心臓疾患や老化予防に良いとされるポリフェノール類のフラボノイドが豊富に含まれている。実施例1、2、3及び比較例1、2、3のイチョウ葉エキスは、タマ生化学株式会社製の商品名 イチョウエキス−Fを用いる。
ビルベリーは、一般に目の網膜に良いとされるポリフェノール類のアントシアニンが豊富に含まれている。実施例4〜6及び比較例4〜6のビルベリーエキスは、株式会社 常盤植物化学研究所製の商品名 ビルベロン−25 を用いる。
【0034】
<比較例1〜比較例6の内容物調合>
表1のオリーブオイルの配合処方量の1/4量に、配合処方量のグリセリン脂肪酸エステルを加え、温度40〜70℃で加熱溶解後、冷却し、オリーブオイルとグリセリン脂肪酸エステルのペーストを作成する。次にこの作成したオリーブオイルとグリセリン脂肪酸エステルのペーストに、残りのオリーブオイルを加え、適当な高速攪拌機で攪拌均一化する。このときの攪拌速度は、オリーブオイルの温度が上昇しない程度のものとする(3000rpm以下)。更に均一化したオリーブオイルとグリセリン脂肪酸エステルの混合物(ペースト状態)に配合処方量のイチョウ葉エキスまたはビルベリーエキスを加え、比較例1、4を除く、比較例2、3、5、6では、表1の処方に従って、さらに界面活性剤としてのレシチンまたは抗酸化剤としてのビタミンEを加え、温度40〜60℃の状態を保ちながら、高速攪拌機を、3000rpm〜6000rpmの回転速度で約15分間攪拌して均一な配合薬液とする。
次に高圧ホモジナイザーもしくは石臼式粉砕機(マスコロイダー、マイコロイダーなど)を用いて配合薬液を粉砕し、60メッシュの篩で篩過する。更に720mmHg/cm以下の真空下で脱泡した後、室温(20〜25℃)で24時間エージングして、比較例1〜比較例6のソフトカプセル内容物を調合した。
【0035】
<実施例1〜実施例6の内容物調合>
表1のオリーブオイルの配合処方量の1/4量に、配合処方量のグリセリン脂肪酸エステルを加え、温度40〜70℃で加熱溶解後、冷却し、オリーブオイルとグリセリン脂肪酸エステルのペーストを作成する。次にこの作成したオリーブオイルとグリセリン脂肪酸エステルのペーストに、残りのオリーブオイルを加え、適当な高速攪拌機で攪拌均一化する。このときの攪拌速度は、オリーブオイルの温度が上昇しない程度のものとする(3000rpm以下)。更に均一化したオリーブオイルとグリセリン脂肪酸エステルの混合物(ペースト状態)に配合処方量のイチョウ葉エキスまたはビルベリーエキスを加え、さらに界面活性剤としてのレシチン及び抗酸化剤としてのビタミンEを加え、温度40〜60℃の状態を保ちながら、高速攪拌機を、3000rpm〜6000rpmの回転速度で約15分間攪拌して均一な配合薬液とする。
次に高圧ホモジナイザーもしくは石臼式粉砕機(マスコロイダー、マイコロイダーなど)を用いて配合薬液を粉砕し、60メッシュの篩で篩過する。更に720mmHg/cm以下の真空下で脱泡した後、室温(20〜25℃)で24時間エージングして、実施例1〜実施例6のソフトカプセル内容物を調合した。
【0036】
続いて表2のソフトカプセル皮膜処方で常法に従い、ゼラチン50kg(100重量部)、グリセリン20kg(40重量部)、RO水35kg(70重量部)を混合後、約70℃で加温溶解し、真空脱泡してカプセル皮膜剤とした。なお、RO水のROは、(Reverse Osmosis)の略である。
上記のようにして得たソフトカプセル内容物とカプセル皮膜剤を従来のカプセルの充填製造方法であるロータリーダイ式自働ソフトカプセル製造機を用いてカプセル化した。
【0037】
【表2】

【0038】
<評価項目と評価基準>
表1、2の処方で上記手法によって得たソフトカプセルを、温度40℃、湿度75%RHの条件下で2ヶ月保存後及び4ヶ月保存後、比較評価した。その評価項目と評価基準を以下に示す。なお、上記条件で、2ヶ月保存することは、一般の流通市場で1年間保存されることに相当し、4ヶ月保存することは、一般の流通市場で2年間保存されることに相当する。
(1) 崩壊時間評価(日本薬局方 十五局 試験液 イオン交換水)
日本薬局方十五局崩壊試験法に準拠して試験評価した。試験液は、イオン交換水である。一般的に崩壊時間は、20分以内であればカプセル化に適していると評価できる。
(2) 崩壊性評価
温度40℃、湿度75%RHの条件下で4ヶ月保存後の上記(1)崩壊時間評価(日本薬局方 十五局 試験液 イオン交換水)の崩壊時間をもとに、下記基準で評価した。
◎:非常に良い(16分以内) ○: 良い (17分〜20分) △: やや劣る (21分〜34分) ×: 悪い (35分以上)
<評価結果>
【0039】
表1、2の処方で上記手法によって得たソフトカプセルを、温度40℃、湿度75%RHの条件下で2ヶ月保存後及び4ヶ月保存後、比較評価した結果を表3、4に示す。
【0040】
【表3】

【0041】
表3で比較例1〜3と実施例1〜3の崩壊性を比較した。レシチン及びビタミンEの両方を含まない比較例1、レシチン又はビタミンEのどちらかを含まない比較例2、比較例3では、2ヵ月保存後及び4ヶ月保存後に35分間以上かかり崩壊遅延が起きていた。
しかし、レシチン及びビタミンEの両方を含む実施例1〜3では、2ヶ月保存後及び4ヶ月保存後においても比較例1〜3のような崩壊遅延が起きておらず、21分間以内に崩壊していることが確認された。
【0042】
【表4】

【0043】
表4で比較例4〜6と実施例4〜6の崩壊性を比較した。レシチン及びビタミンEの両方を含まない比較例4、レシチン又はビタミンEのどちらかを含まない比較例5、比較例6では、4ヶ月保存後には崩壊しなかった。
しかし、レシチン及びビタミンEの両方を含む実施例4〜6では、2ヶ月保存後及び4ヶ月保存後においても比較例4〜6のような崩壊遅延が起きておらず、23分間以内に崩壊していることが確認された。
【0044】
<試験例2>
<実施例7〜実施例8のタンパク質を配合したソフトカプセル>
表1、表4の実施例5に、カプセル内容物としてカゼインホスホペプチド(タンパク質)又は大豆タンパク(タンパク質)を配合し、内容液を40℃で24時間エージングすること以外は、カプセル内容物、皮膜処方、製法を同様にして、表5の処方にてソフトカプセル内容物を調合し、実施例7〜実施例8のソフトカプセルを得た。
【0045】
<実施例7〜実施例8のタンパク質を配合した内容物調合>
表5のオリーブオイルの配合処方量の1/4量に、配合処方量のグリセリン脂肪酸エステルを加え、温度40〜70℃で加熱溶解後、冷却し、オリーブオイルとグリセリン脂肪酸エステルのペーストを作成する。次にこの作成したオリーブオイルとグリセリン脂肪酸エステルのペーストに、残りのオリーブオイルを加え、適当な高速攪拌機で攪拌均一化する。このときの攪拌速度は、オリーブオイルの温度が上昇しない程度のものとする(3000rpm以下)。更に均一化したオリーブオイルとグリセリン脂肪酸エステルの混合物(ペースト状態)に配合処方量のビルベリーエキスを加え、さらに界面活性剤としてのレシチン及び抗酸化剤としてのビタミンEを加え、実施例7ではカゼインホスホペプチド(タンパク質)、実施例8では大豆タンパク(タンパク質)を加え、温度40〜60℃の状態を保ちながら、高速攪拌機を、3000rpm〜6000rpmの回転速度で約15分間攪拌して均一な配合薬液とする。
次に高圧ホモジナイザーもしくは石臼式粉砕機(マスコロイダー、マイコロイダーなど)を用いて配合薬液を粉砕し、60メッシュの篩で篩過する。更に720mmHg/cm以下の真空下で脱泡した後、40℃で24時間エージングして、実施例7〜実施例8のソフトカプセル内容物を調合した。
【0046】
上記のようにして得た実施例7〜8のソフトカプセル内容物とカプセル皮膜剤を従来のカプセルの充填製造方法でロータリーダイ式自働ソフトカプセル製造機を用いてカプセル化した。
なお表5の比較例4、実施例5は、表1、表4の比較例4、実施例5と同一品である。これらのソフトカプセルを、温度40℃、湿度75%RHの条件下で2ヶ月保存後及び4ヶ月保存後、比較評価した。その評価結果を表5に示す。
【0047】
【表5】


※ 比較例4、実施例5は、表1、表4の比較例4、実施例5と同一品である
※カゼインホスホペプチド(タンパク質)は、株式会社 明治フードマテリア製の商品名 明治CPP-IIを用いる。
※大豆タンパク(タンパク質)は、不二製油株式会社製の商品名 プロリーナ200を用いる。
【0048】
レシチン及びビタミンEと共に、カゼインホスホペプチド又は大豆タンパクを含む実施例7、実施例8では、2ヶ月保存後及び4ヶ月保存後においても比較例4のような崩壊遅延が起きておらず、20分間という規定時間内に崩壊していることが確認された。
また、実施例5、7、8を比較すると、レシチン及びビタミンEだけを含む実施例5よりも、レシチン及びビタミンEと共に、カゼインホスホペプチド又は大豆タンパクを含む実施例7、実施例8のほうが、崩壊遅延防止効果が高まっていることが確認された。
【0049】
<試験例3>
ソフトカプセル内容物のポリフェノール類の代りにブドウ糖を用いる以外は、表1、表2のカプセル内容物、皮膜処方、製法を同様にして、表6の処方にてソフトカプセル内容物を調整し、比較例7〜10のソフトカプセルを得た。
これらのソフトカプセルを、温度40℃、湿度75%RHの条件下で2ヶ月保存後及び4ヶ月保存後、比較評価した。その評価結果を表6に示す。
【0050】
【表6】

※ブドウ糖は、日本食品化工株式会社製の商品名 日食無水結晶ぶどう糖(♯300)を用いる。
【0051】
表6の評価結果より、ソフトカプセル内容物のポリフェノール類の代りにブドウ糖を用いた比較例7〜10は、4ヶ月保存後にはいずれも崩壊遅延が起きており、崩壊に25分間以上かかっていることが確認された。
また、ソフトカプセル内容物がブドウ糖を含む場合に、レシチンを配合した比較例8やレシチンとビタミンEを両方配合した比較例10は、レシチンとビタミンEを配合していない比較例7に比べ、崩壊遅延が進みやすくなっていることが確認された。
【0052】
<試験例4>
抗酸化剤としてのビタミンEを、表1、3、4、5、6で使用したトコフェロールの代わりに、トコトリエノールを用いる以外は、表1、表2のカプセル内容物、皮膜処方、製法を同様にして、表7の処方にてソフトカプセル内容物を調整し、比較例11〜12及び実施例9〜10のソフトカプセルを得た。これらのソフトカプセルを、温度40℃、湿度75%RHの条件下で2ヶ月保存後及び4ヶ月保存後、比較評価した。その評価結果を表7に示す。
【表7】

※ビタミンE(トコトリエノール)は、富士化学工業株式会社製の商品名 トコトリールオイル65(トコトリエノール)を用いる。
【0053】
表7の評価結果より、抗酸化剤としてのビタミンEを、トコフェロールの代わりにトコトリエノールを用いた本試験においても、表1、表3のように今までと同様の傾向が確認された。すなわち、レシチン及びビタミンE(トコトリエノール)の両方を含まない比較例11、レシチンを含まず、ビタミンE(トコトリエノール)のみを含む比較例12では、4ヶ月保存後に45分間以上かかり崩壊遅延が起きていた。
しかし、レシチン及びビタミンE(トコトリエノール)の両方を含む実施例9〜10では、2ヶ月保存後及び4ヶ月保存後においても比較例11〜12のような崩壊遅延が起きておらず、19分間以内に崩壊していることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、「医薬品」、「特定保健用食品」、「いわゆる健康食品」および食品の分野のほか、内容物の選択により、例えば工業用調剤を内包したものなど工業の分野において利用することができる。
【符号の説明】
【0055】
1 ポリフェノール類
2 レシチン
2A レシチンの親水性基
2B レシチンの疎水性基
3 ビタミンE
10 ソフトカプセル
11 ゼラチン皮膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内容物をソフトな皮膜で被覆してなるソフトカプセルにおいて、
前記ソフトカプセル皮膜部は、ゼラチン、可塑剤、水を配合しており、
前記ソフトカプセル内容物を調整するにあたり、内容物成分として、ポリフェノール類を1〜60重量%及び界面活性剤を1〜20重量%及び抗酸化剤を1〜20重量%含有して形成されることを特徴とするソフトカプセル。
【請求項2】
前記ポリフェノール類が、イソフラボン、フラボノール、フラバノン、アントシアニン、フラバノール、フラボン、カテキン、タンニン、フラボノイド、クロロゲン酸、フェニルカルボン酸、エラグ酸、リグナン、クルクミン、クマリンからなる群から選ばれる1種類又は2種類以上の組み合わせであり、
前記界面活性剤がレシチンであり、
前記抗酸化剤が、ビタミンEであることを特徴とする請求項1記載のソフトカプセル。
【請求項3】
前記界面活性剤としてのレシチンと抗酸化剤としてのビタミンEの配合比率が、1:3〜3:1であることを特徴とする請求項1または2記載のソフトカプセル。
【請求項4】
前記カプセル内容物成分として、ポリフェノール類を1〜50重量%、及び界面活性剤としてレシチンを1〜15重量%、及び抗酸化剤としてビタミンEを1〜15重量%の他、さらに1〜20重量%のタンパク質を含有し、
前記タンパク質が、カゼインホスホペプチド、大豆タンパク、ミルクペプチド、サーデンペプチド、ゴマペプチド、乳清パウダー、脱脂粉乳からなる群から選ばれる1種類又は2種類以上の組み合わせであることを特徴とする請求項1、2または3記載のソフトカプセル。
【請求項5】
前記界面活性剤としてのレシチンの他に、懸濁化剤として、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ミツロウ、ライスワックス、水素添加加工油脂からなる群から選ばれる1種類又は2種類以上の組み合わせで使用することを特徴とする請求項1、2、3または4記載のソフトカプセル。
【請求項6】
前記抗酸化剤として、ビタミンEの他に、ビタミンC、ビタミンB2及びその誘導体であるビタミンB2酪酸エステル、多価不飽和脂肪酸、スクワレンからなる群から選ばれる1種類又は2種類以上の組み合わせで使用することを特徴とする請求項1、2、3、4または5記載のソフトカプセル。
【請求項7】
前記ソフトカプセル内容物を調整するにあたり、35〜45℃で24〜36時間エージングしてから充填することを特徴とする請求項1、2、3、4、5または6記載のソフトカプセルの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−79786(P2011−79786A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−234486(P2009−234486)
【出願日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【出願人】(594069580)株式会社三協 (13)
【Fターム(参考)】