説明

嵌合型接続端子およびその製造方法

【課題】導電性基材上にSnめっき層が形成された雄端子と雌端子からなる嵌合型接続端子において、微摺動摩耗による電気抵抗値の上昇を安価に且つ十分に抑制することができる、嵌合型接続端子およびその製造方法を提供する。
【解決手段】導電性基材上にSnめっき層が形成された雄端子と雌端子からなる嵌合型接続端子において、雄端子および雌端子の一方の端子の他方の端子との接点部の表面に、長手方向に互いに離間した複数の溝または凹部が形成され、これらの溝または凹部の幅をa(μm)、深さをb(μm)、長手方向に隣接する溝と溝の間または凹部と凹部の間の距離をc(μm)、雄端子と雌端子が嵌合して固定された状態で雄端子と雌端子との間に生じ得る摺動距離をL(μm)、この摺動により生じ得る摩耗粉の酸化物の最大粒径をd(μm)とすると、d≦b、d≦a≦L、a+c≦Lを満たしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、嵌合型接続端子およびその製造方法に関し、特に、互いに嵌合する雄端子と雌端子の表面にSnめっき層が形成された嵌合型接続端子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、雄端子と雌端子が互いに嵌合する嵌合型接続端子の材料として、銅や銅合金などの導体素材の最外層にSnめっきを施したSnめっき材が使用されている。特に、Snめっき材は、接触抵抗が小さく、接触信頼性、耐食性、はんだ付け性、経済性などの観点から、自動車、情報通信機器、産業機器などに使用する様々な接続端子の材料として使用されている。
【0003】
近年、自動車などの接続端子では、端子の小型化により、ばね部の板厚が薄くなり、また、ばね変位量を十分に確保することができなくなって、雄端子と雌端子の間の接点において接触荷重が小さくなっている。特に、Snめっき材からなる嵌合型接続端子では、雄端子と雌端子の間の接点において接触荷重が小さくなると、その接点における微小な摺動による微摺動摩耗によって接触信頼性が損なわれるという問題がある。
【0004】
この問題を解消するため、小型端子の基材上に形成されたSnめっき層の表面にAg−Sn合金層を形成することにより、小型端子の微摺動摩耗による電気接触抵抗の上昇を抑えて電気接続信頼性を高めることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、接触片の接圧を補強するばね片を有する補強部材を設けることにより、振動による微摺動摩耗が生じ難い強い接圧を得ることや(例えば、特許文献2参照)、相手側端子のタブの先端部を相対変位規制状態に保持する保持部を設けることにより、端子金具間の微摺動摩耗を防止すること(例えば、特許文献3参照)が提案されている。
【0006】
さらに、電気コネクタの一方のコネクタの電気接触子上に角柱状凸起部を設けて、その上に他方のコネクタの電気接点を摺動させることにより、電気コネクタの電気接触子に半田などの不純物が付着し難く、接触不良が起こり難くすることや(例えば、特許文献4参照)、雄コネクタと雌コネクタの嵌合固定状態で雄端子と雌端子の間に生じ得る摺動距離を雄端子と雌端子の接点部との接触部分における接触痕の範囲より小さくすることにより、高摺動環境下においても接続信頼性を損なわないようにすることが提案されている(例えば、特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−37629号公報(段落番号0009−0011)
【特許文献2】特開2006−134681号公報(段落番号0007−0009)
【特許文献3】特開2006−80004号公報(段落番号0003−0004)
【特許文献4】特開2001−266990号公報(段落番号0005−0006)
【特許文献5】特開2005−141993号公報(段落番号0006−0007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、Snめっき層の表面にAg−Sn合金層を形成する特許文献1のように、導体素材の最外層にAuやAgなどの高価な貴金属めっきを施したり、あるいは、導体素材として高強度材料を用いて接触荷重を大きくすると、コストが非常に高くなってしまう。
【0009】
また、特許文献2および3にように、端子の構造により接点部を動き難くして摺動が生じないようにしても、Snめっき材からなる嵌合型接続端子では、接触荷重が小さくなると、接点が動き易くなり、微小な摺動による微摺動摩耗を抑えるのが困難になる。
【0010】
さらに、特許文献4のように、電気コネクタの一方のコネクタの電気接触子上に角柱状凸起部を設けたり、特許文献5のように、雄コネクタと雌コネクタの嵌合固定状態で雄端子と雌端子の間に生じ得る摺動距離を雄端子と雌端子の接点部との接触部分における接触痕の範囲より小さくしても、Snめっき材からなる嵌合型接続端子では、微小な摺動時に発生したSnめっきの摩耗粉の酸化物が接点部に堆積するのを防止して微摺動摩耗を抑制するには十分ではない。
【0011】
したがって、本発明は、このような従来の問題点に鑑み、導電性基材上にSnめっき層が形成された雄端子と雌端子からなる嵌合型接続端子において、微摺動摩耗による電気抵抗値の上昇を安価に且つ十分に抑制することができる、嵌合型接続端子およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、導電性基材上にSnめっき層が形成された雄端子と雌端子からなる嵌合型接続端子において、雄端子および雌端子の一方の端子の他方の端子との接点部の表面に、長手方向に互いに離間した複数の溝または凹部を形成し、これらの溝または凹部の幅をa(μm)、深さをb(μm)、長手方向に隣接する溝と溝の間または凹部と凹部の間の距離をc(μm)、雄端子と雌端子が嵌合して固定された状態で雄端子と雌端子との間に生じ得る摺動距離をL(μm)、この摺動により生じ得る摩耗粉の酸化物の最大粒径をd(μm)とすると、d≦b、d≦a≦L、a+c≦Lを満たすようにすることにより、微摺動摩耗による電気抵抗値の上昇を安価に且つ十分に抑制することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明による嵌合型接続端子は、導電性基材上にSnめっき層が形成された雄端子と雌端子からなる嵌合型接続端子において、雄端子および雌端子の一方の端子の他方の端子との接点部の表面に、長手方向に互いに離間した複数の溝または凹部が形成され、これらの溝または凹部の幅をa(μm)、深さをb(μm)、長手方向に隣接する溝と溝の間または凹部と凹部の間の距離をc(μm)、雄端子と雌端子が嵌合して固定された状態で雄端子と雌端子との間に生じ得る摺動距離をL(μm)、この摺動により生じ得る摩耗粉の酸化物の最大粒径をd(μm)とすると、d≦b、d≦a≦L、a+c≦Lを満たすことを特徴とする。
【0014】
この嵌合型接続端子において、複数の溝が、雄端子の長手方向に互いに略等間隔で離間し且つ幅方向に延びる平面形状が略矩形の細長い溝であるのが好ましい。また、複数の凹部が、雄端子の長手方向に互いに略等間隔で離間し且つ幅方向に互いに略等間隔で離間するとともに角部が隣接して配置された平面形状が略矩形の凹部であるのが好ましい。また、基材が銅または銅合金からなるのが好ましく、Snめっき層が純度99.9質量%以上のSnからなるのが好ましい。さらに、嵌合型接続端子が箱型の接続端子であり、雌端子の接点部が弾性片に設けられているのが好ましい。また、摺動距離Lが1000μm、最大粒径dが10μmであるのが好ましく、摺動距離Lが250μm、最大粒径dが30μmであるのがさらに好ましい。
【0015】
また、本発明による嵌合型接続端子の製造方法は、導電性基材上にSnめっき層が形成された雄端子と雌端子からなる嵌合型接続端子の製造方法において、雄端子および雌端子の一方の端子の導電性基材の表面の他方の端子との接点部に対応する部分に、溝または凹部の幅をa(μm)、深さをb(μm)、長手方向に隣接する溝と溝の間または凹部と凹部の間の距離をc(μm)、雄端子と雌端子が嵌合して固定された状態で雄端子と雌端子との間に生じ得る摺動距離をL(μm)、この摺動により生じ得る摩耗粉の酸化物の最大粒径をd(μm)とすると、d≦b、d≦a≦L、a+c≦Lを満たすように、長手方向に互いに離間した複数の溝または凹部を形成した後、雄端子と雌端子の導電性基材上にSnめっき層を形成することを特徴とする。
【0016】
あるいは、本発明による嵌合型接続端子の製造方法は、導電性基材上にSnめっき層が形成された雄端子と雌端子からなる嵌合型接続端子の製造方法において、雄端子と雌端子の導電性基材上にSnめっき層を形成した後、雄端子および雌端子の一方の端子の他方の端子との接点部の表面に、溝または凹部の幅をa(μm)、深さをb(μm)、長手方向に隣接する溝と溝の間または凹部と凹部の間の距離をc(μm)、雄端子と雌端子が嵌合して固定された状態で雄端子と雌端子との間に生じ得る摺動距離をL(μm)、この摺動により生じ得る摩耗粉の酸化物の最大粒径をd(μm)とすると、d≦b、d≦a≦L、a+c≦Lを満たすように、長手方向に互いに離間した複数の溝または凹部を形成することを特徴とする。
【0017】
これらの嵌合型接続端子の製造方法において、複数の溝が、雄端子の長手方向に互いに略等間隔で離間し且つ幅方向に延びる平面形状が略矩形の細長い溝であるのが好ましい。また、複数の凹部が、雄端子の長手方向に互いに略等間隔で離間し且つ幅方向に互いに略等間隔で離間するとともに角部が隣接して配置された平面形状が略矩形の凹部であるのが好ましい。さらに、基材が銅または銅合金からなるのが好ましく、Snめっき層が純度99.9質量%以上のSnからなるのが好ましい。さらに、嵌合型接続端子が箱型の接続端子であり、雌端子の接点部が弾性片に設けられているのが好ましい。また、摺動距離Lが1000μm、最大粒径dが10μmであるのが好ましく、摺動距離Lが250μm、最大粒径dが30μmであるのがさらに好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、導電性基材上にSnめっき層が形成された雄端子と雌端子からなる嵌合型接続端子において、微摺動摩耗による電気抵抗値の上昇を安価に且つ十分に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1A】本発明による嵌合型接続端子の一実施の形態の雄端子の雌端子との接点部の平面図である。
【図1B】図1AのIB−IB線断面図である。
【図1C】図1Aの雄端子を使用した本発明による嵌合型接続端子の一実施の形態の雄端子と雌端子との接点部を示す断面図である。
【図2A】図1Aの雄端子の雌端子との接点部の変形例の平面形状を示す図である。
【図2B】図2AのIIB−IIB線断面図である。
【図3A】図1Aおよび図2Aの雄端子の雌端子との接点部の断面形状の第1の変形例を示す図である。
【図3B】図1Aおよび図2Aの雄端子の雌端子との接点部の断面形状の第2の変形例を示す図である。
【図3C】図1Aおよび図2Aの雄端子の雌端子との接点部の断面形状の第3の変形例を示す図である。
【図4】本発明による嵌合型接続端子の例として箱型の接続端子の一部を切断した側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して、本発明による嵌合型接続端子およびその製造方法の実施の形態について詳細に説明する。
【0021】
図1A〜図1Cに示すように、本発明による嵌合型接続端子の一実施の形態は、互いに嵌合可能な雄端子10と雌端子12からなる。雄端子10と雌端子12の導電性基材の表面には、(好ましくは純度99.9質量%以上のSnからなる)Snめっき層が形成されており、雄端子10の雌端子12(の半球状のインデント12a)との接点部の表面に、雄端子10の長手方向に互いに略等間隔で離間し且つ幅方向に延びる平面形状および断面形状が略矩形の細長い多数の微細な溝10aが形成されている。
【0022】
これらの溝10aは、その幅(雄端子10の長手方向の長さ)をa、深さをbとし、長手方向に隣接する溝10aと溝10aの間の距離をc、雄端子10と雌端子12が嵌合して固定された状態(嵌合固定状態)で雄端子10と雌端子12との間に生じ得る摺動距離をL、この摺動により生じ得る摩耗粉の酸化物の最大粒径をdとすると、d≦b、d≦a≦L、a+c≦Lを満たすように形成されている。
【0023】
具体的には、溝10aは、雄端子10と雌端子12が嵌合して固定された状態で雄端子10と雌端子12との間に生じ得る摺動距離Lを1000(μm)、この摺動により生じ得る摩耗粉の酸化物の最大粒径dを10(μm)として、10(μm)≦b、10(μm)≦a≦1000(μm)、a+c≦1000(μm)を満たすように形成されており、好ましくは、摺動距離Lを250(μm)、摩耗粉の酸化物の最大粒径dを30(μm)として、30(μm)≦b、30(μm)≦a≦250(μm)、a+c≦250(μm)を満たすように形成されている。
【0024】
また、図2A〜図2Bに示すように、溝10aを形成した雄端子10の代わりに、長手方向に互いに略等間隔で離間し且つ幅方向に互いに略等間隔で離間するとともに角部が隣接(または略当接)して配置された平面形状および断面形状が略矩形の多数の微細な凹部が形成された雄端子110を使用してもよい。
【0025】
これらの凹部110aは、その幅(雄端子110の長手方向の長さ)をa、深さをbとし、長手方向に隣接する凹部110aと凹部110aの間の距離をc、雄端子110と雌端子12が嵌合して固定された状態で雄端子110と雌端子12との間に生じ得る摺動距離をL、この摺動により生じ得る摩耗粉の酸化物の最大粒径をdとすると、d≦b、d≦a≦L、a+c≦Lを満たすように形成されている。
【0026】
具体的には、凹部110aは、雄端子110と雌端子12が嵌合して固定された状態で雄端子110と雌端子12との間に生じ得る摺動距離Lを1000(μm)、この摺動により生じ得る摩耗粉の酸化物の最大粒径dを10(μm)として、10(μm)≦b、10(μm)≦a≦1000(μm)、a+c≦1000(μm)を満たすように形成されており、好ましくは、摺動距離Lを250(μm)、摩耗粉の酸化物の最大粒径dを30(μm)として、30(μm)≦b、30(μm)≦a≦250(μm)、a+c≦250(μm)を満たすように形成されている。
【0027】
なお、摺動距離Lを1000(μm)、好ましくは250(μm)としたのは、雄端子10または110と雌端子12が嵌合して固定された状態(雄端子10または110と雌端子12の間に(3N以下の)微小荷重が加えられた状態)で雄端子10または110と雌端子12との間に生じ得る摺動距離Lは30〜1000μmであり、通常50〜250μmであるからである。また、摩耗粉の酸化物の最大粒径dを10(μm)、好ましくは30(μm)としたのは、摩耗粉の酸化物の最大粒径dは通常3μm程度であるが、摩耗粉の酸化物は、凝集しても殆ど10μm以下の大きさであり、30μmを超えないことがわかったからである。
【0028】
このように溝10aまたは凹部110aを形成することにより、雄端子10または110と雌端子12が嵌合して固定された状態で雄端子10または110と雌端子12との間に生じた摩耗粉の酸化物を溝10aまたは凹部110aに落ちるようにし、雄端子10または110の雌端子12との接点部の表面に摩耗粉の酸化物が堆積するのを防止し、微摺動摩耗による電気抵抗値の上昇を抑えて電気接続信頼性を高めることができる。
【0029】
また、この嵌合型接続端子の雄端子10または110と雌端子12の導電性基材の表面とSnめっき層との間には、導電性基材側からSnめっき層側に、Niめっき層とCuめっき層をこの順で形成してもよく、Niめっき層とCuめっき層とCuSnめっき層をこの順で形成してもよく、CuSnめっき層またはNiめっき層を形成してもよい。
【0030】
また、嵌合型接続端子の雄端子10または110と雌端子12の導電性基材として、銅または銅合金からなる導電性基材を使用するのが好ましく、Cu−Ni−Sn系合金(例えば、DOWAメタルテック株式会社製のNB−109やNB−105などの銅合金)、りん青銅、黄銅などからなる導電性基材を使用することができる。特に、雌端子10または110の導電性基材として、Be銅やチタン銅などの高強度の銅合金からなる導電性基材を使用してもよいが、これらの銅合金は高コストであるため、より低コストのCu−Ni−Si系(コルソン)合金、Cu−Ni−Sn系合金、りん青銅などからなる導電性基材を使用するのが好ましく、雄端子12の導電性基材として、黄銅からなる導電性基材を使用するのが好ましい。また、雄端子10または110と雌端子12の導電性基材として、ステンレス(SUS)などの鉄系材料やアルミニウム合金などからなる導電性基材を使用してもよい。
【0031】
本発明による嵌合型接続端子の製造方法の一実施の形態では、雄端子10または110の導電性基材の表面の雌端子12との接点部に対応する部分に、溝10aまたは凹部110aの幅をa、深さをbとし、長手方向に隣接する溝10aと溝10aの間または凹部110aと凹部110aの間の距離をc、雄端子10または110と雌端子12が嵌合して固定された状態で雄端子10または110と雌端子12との間に生じ得る摺動距離をL、この摺動により生じ得る摩耗粉の酸化物の最大粒径をdとすると、d≦b、d≦a≦L、a+c≦Lを満たすように、長手方向に互いに略等間隔で離間し且つ幅方向に延びる平面形状および断面形状が略矩形の細長い多数の微細な溝10aまたは長手方向に互いに略等間隔で離間し且つ幅方向に互いに略等間隔で離間するとともに角部が隣接(または略当接)して配置された平面形状および断面形状が略矩形の多数の微細な凹部110aを形成した後、雄端子10または110と雌端子12の導電性基材上にSnめっき層を形成する。
【0032】
あるいは、雄端子10または110と雌端子12の導電性基材上にSnめっき層を形成した後、雄端子10または110の雌端子12との接点部の表面に、溝10aまたは凹部110aの幅をa、深さをbとし、長手方向に隣接する溝10aと溝10aの間または凹部110aと凹部110aの間の距離をc、雄端子10または110と雌端子12が嵌合して固定された状態で雄端子10または110と雌端子12との間に生じ得る摺動距離をL、この摺動により生じ得る摩耗粉の酸化物の最大粒径をdとすると、d≦b、d≦a≦L、a+c≦Lを満たすように、長手方向に互いに略等間隔で離間し且つ幅方向に延びる平面形状および断面形状が略矩形の細長い多数の微細な溝10aまたは長手方向に互いに略等間隔で離間し且つ幅方向に互いに略等間隔で離間するとともに角部が隣接(または略当接)して配置された平面形状および断面形状が略矩形の多数の微細な凹部110aを形成する。
【0033】
これらの嵌合型接続端子の製造方法において、溝10aは、具体的には、雄端子10と雌端子12が嵌合して固定された状態で雄端子10と雌端子12との間に生じ得る摺動距離Lを1000(μm)、この摺動により生じ得る摩耗粉の酸化物の最大粒径dを10(μm)として、10(μm)≦b、10(μm)≦a≦1000(μm)、a+c≦1000(μm)を満たすように形成し、好ましくは、摺動距離Lを250(μm)、摩耗粉の酸化物の最大粒径dを30(μm)として、30(μm)≦b、30(μm)≦a≦250(μm)、a+c≦250(μm)を満たすように形成する。また、凹部110aは、具体的には、雄端子110と雌端子12が嵌合して固定された状態で雄端子110と雌端子12との間に生じ得る摺動距離Lを1000(μm)、この摺動により生じ得る摩耗粉の酸化物の最大粒径dを10(μm)として、10(μm)≦b、10(μm)≦a≦1000(μm)、a+c≦1000(μm)を満たすように形成し、好ましくは、摺動距離Lを250(μm)、摩耗粉の酸化物の最大粒径dを30(μm)として、30(μm)≦b、30(μm)≦a≦250(μm)、a+c≦250(μm)を満たすように形成する。
【0034】
溝10aまたは凹部110aの形成は、プレス加工により端子形状に形成された雄端子10または110の導電性基材(溝10aまたは凹部110aの形成前にSnめっきを施す場合はSnめっき層)の表面の雌端子12との接点部に対応する部分をプレス加工、エッチング加工、放電加工、機械加工またはレーザー加工することによって行うことができる。また、Snめっきを施す際に溝10aまたは凹部110aを形成してもよい。この場合、電気めっきによって行うのがコスト面から好ましく、必要に応じてリフロー処理を行ってもよい。
【0035】
また、雄端子10または110の溝10aまたは凹部110aの断面形状は、様々な形状に変形することができ、図3Aに示すように波形でもよいし、図3Bに示すように略三角形でもよいし、図3Cに示すように溝10aまたは凹部110aの間に略半球状の凸部を形成するような形状でもよい。なお、図3A〜図3Cの変形例では、雄端子10または110の長手方向に隣接する溝10aと溝10aの間または凹部110aと凹部110aの間の距離cを0とみなすことができる。
【0036】
また、雄端子10または110に溝10aまたは凹部110aを形成する代わりに、雄端子10または110と嵌合する雌端子の雄端子との接点部の表面に、溝10aまたは凹部110aと同様の形状の溝または凹部を形成してもよい。例えば、図4に示すように、本発明による嵌合型接続端子の実施の形態を箱型の接続端子に適用する場合には、雄端子10または110に溝10aまたは凹部110aを形成する代わりに、雌端子112の弾性片(ばね部)112aに設けられた半球状のインデント(接触突起部)112bまたは弾性片112aに対向する隆起部(打ち出し部)112cに、溝10aまたは凹部110aと同様の形状の溝または凹部を形成してもよい。
【0037】
また、厚さ0.15〜0.25mmの薄い平板状の導体基材にSnめっきを施したSnめっき材から雄端子10または110と雌端子12を作製する場合には、Snめっき材の破断を防止するために、溝10aまたは凹部110aの深さbを80μm以下にするのが好ましく、70μm以下にするのがさらに好ましい。
【実施例】
【0038】
以下、本発明による嵌合型接続端子およびその製造方法の実施例について詳細に説明する。
【0039】
[実施例1]
まず、厚さ0.25mmのCu−Ni−Sn系合金(DOWAメタルテック株式会社製のNB109−EN材)からなる平板状の導体基材に厚さ1μmの(純度99.9質量%以上のSnからなる)Snめっきを施したSnめっき材を2枚用意した。一方のSnめっき材を金型によりプレス加工して、図1A〜図1Cに示すように、その一方の面に幅a=100μm、深さb=50μm、間隔c=100μmの複数の溝を形成し、溝付き平板状試験片(雄端子としての試験片)とした。他方のSnめっき材をインデント加工(R1mmの半球状の打ち出し加工)して得られた試験片をインデント付き試験片(雌端子としての試験片)とした。
【0040】
次に、溝付き平板状試験片を電動式微摺動摩耗試験装置のステージに固定し、その溝付き平板状試験片にインデント付き試験片のインデントを接触させた後、荷重0.7Nでインデント付き試験片を溝付き平板状試験片の表面に押し付けながら、溝付き平板状試験片を固定したステージを水平方向に片道200μmの範囲において1秒間に1往復の摺動速度で30往復させる摺動試験を行い、その摺動試験後の溝付き平板状試験片とインデント付き試験片との間の接点部の電気抵抗値を4端子法によって連続的に測定した。その結果、摺動試験中の抵抗値の最大値は2mΩであった。なお、溝付き平板状試験片の溝には、溝の幅より小さい摩耗粉の酸化物(酸化錫粉)が入っていた。
【0041】
[実施例2]
実施例1の溝の代わりに、一方のSnめっき材を金型によりプレス加工して、図2A〜図2Bに示すように、幅a=100μm、深さb=50μm、間隔c=100μmの複数の凹部を形成した以外は、実施例1と同様の試験片を使用して、実施例1と同様の方法により、接点部の電気抵抗値を測定したところ、摺動試験中の抵抗値の最大値は2mΩであった。なお、凹部付き平板状試験片の溝には、凹部の幅より小さい摩耗粉の酸化物(酸化錫粉)が入っていた。
【0042】
[比較例]
実施例1の溝を形成しなかった以外は、実施例1と同様の試験片を使用して、実施例1と同様の方法により、接点部の電気抵抗値を測定したところ、摺動試験中の抵抗値の最大値は248mΩであった。なお、平板状試験片の表面に摩耗粉の酸化物(酸化錫粉)が残留し、平板状試験片にインデント付き試験片のインデントが接触していなかった。また、平板状試験片上に凝集した摩耗粉の大きさは10μm以下であった。
【符号の説明】
【0043】
10、110 雄端子
10a 溝
12、112 雌端子
110a 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性基材上にSnめっき層が形成された雄端子と雌端子からなる嵌合型接続端子において、雄端子および雌端子の一方の端子の他方の端子との接点部の表面に、長手方向に互いに離間した複数の溝または凹部が形成され、これらの溝または凹部の幅をa(μm)、深さをb(μm)、長手方向に隣接する溝と溝の間または凹部と凹部の間の距離をc(μm)、雄端子と雌端子が嵌合して固定された状態で雄端子と雌端子との間に生じ得る摺動距離をL(μm)、この摺動により生じ得る摩耗粉の酸化物の最大粒径をd(μm)とすると、d≦b、d≦a≦L、a+c≦Lを満たすことを特徴とする、嵌合型接続端子。
【請求項2】
前記複数の溝が、前記雄端子の長手方向に互いに略等間隔で離間し且つ幅方向に延びる平面形状が略矩形の細長い溝であることを特徴とする、請求項1に記載の嵌合型接続端子。
【請求項3】
前記複数の凹部が、前記雄端子の長手方向に互いに略等間隔で離間し且つ幅方向に互いに略等間隔で離間するとともに角部が隣接して配置された平面形状が略矩形の凹部であることを特徴とする、請求項1に記載の嵌合型接続端子。
【請求項4】
前記基材が銅または銅合金からなることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載の嵌合型接続端子。
【請求項5】
前記Snめっき層が純度99.9質量%以上のSnからなることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれかに記載の嵌合型接続端子。
【請求項6】
前記嵌合型接続端子が箱型の接続端子であり、前記雌端子の接点部が弾性片に設けられていることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれかに記載の嵌合型接続端子。
【請求項7】
前記摺動距離Lが1000μmであり、前記最大粒径dが10μmであることを特徴とする、請求項1乃至6のいずれかに記載の嵌合型接続端子。
【請求項8】
前記摺動距離Lが250μmであり、前記最大粒径dが30μmであることを特徴とする、請求項1乃至6のいずれかに記載の嵌合型接続端子。
【請求項9】
導電性基材上にSnめっき層が形成された雄端子と雌端子からなる嵌合型接続端子の製造方法において、雄端子および雌端子の一方の端子の導電性基材の表面の他方の端子との接点部に対応する部分に、溝または凹部の幅をa(μm)、深さをb(μm)、長手方向に隣接する溝と溝の間または凹部と凹部の間の距離をc(μm)、雄端子と雌端子が嵌合して固定された状態で雄端子と雌端子との間に生じ得る摺動距離をL(μm)、この摺動により生じ得る摩耗粉の酸化物の最大粒径をd(μm)とすると、d≦b、d≦a≦L、a+c≦Lを満たすように、長手方向に互いに離間した複数の溝または凹部を形成した後、雄端子と雌端子の導電性基材上にSnめっき層を形成することを特徴とする、嵌合型接続端子の製造方法。
【請求項10】
導電性基材上にSnめっき層が形成された雄端子と雌端子からなる嵌合型接続端子の製造方法において、雄端子と雌端子の導電性基材上にSnめっき層を形成した後、雄端子および雌端子の一方の端子の他方の端子との接点部の表面に、溝または凹部の幅をa(μm)、深さをb(μm)、長手方向に隣接する溝と溝の間または凹部と凹部の間の距離をc(μm)、雄端子と雌端子が嵌合して固定された状態で雄端子と雌端子との間に生じ得る摺動距離をL(μm)、この摺動により生じ得る摩耗粉の酸化物の最大粒径をd(μm)とすると、d≦b、d≦a≦L、a+c≦Lを満たすように、長手方向に互いに離間した複数の溝または凹部を形成することを特徴とする、嵌合型接続端子の製造方法。
【請求項11】
前記複数の溝が、前記雄端子の長手方向に互いに略等間隔で離間し且つ幅方向に延びる平面形状が略矩形の細長い溝であることを特徴とする、請求項9または10に記載の嵌合型接続端子の製造方法。
【請求項12】
前記複数の凹部が、前記雄端子の長手方向に互いに略等間隔で離間し且つ幅方向に互いに略等間隔で離間するとともに角部が隣接して配置された平面形状が略矩形の凹部であることを特徴とする、請求項9または10に記載の嵌合型接続端子の製造方法。
【請求項13】
前記基材が銅または銅合金からなることを特徴とする、請求項9乃至12のいずれかに記載の嵌合型接続端子の製造方法。
【請求項14】
前記Snめっき層が純度99.9質量%以上のSnからなることを特徴とする、請求項9乃至13のいずれかに記載の嵌合型接続端子の製造方法。
【請求項15】
前記嵌合型接続端子が箱型の接続端子であり、前記雌端子の接点部が弾性片に設けられていることを特徴とする、請求項9乃至14のいずれかに記載の嵌合型接続端子の製造方法。
【請求項16】
前記摺動距離Lが1000μmであり、前記最大粒径dが10μmであることを特徴とする、請求項9乃至15のいずれかに記載の嵌合型接続端子の製造方法。
【請求項17】
前記摺動距離Lが250μmであり、前記最大粒径dが30μmであることを特徴とする、請求項9乃至15のいずれかに記載の嵌合型接続端子の製造方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4】
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