説明

嵌合型接続端子に適した電子材料とその製造方法

【課題】嵌合型接続端子における端子の挿入時の圧力に起因する嵌合ウイスカの発生を防止できる、嵌合型接続端子に適した錫系めっき付き電子材料を製造する。
【解決手段】銅または銅合金からなる導電性基体に、下地のニッケルめっきと次に厚みが0.05〜0.5μmのフラッシュ銅めっきを順に施し、次いで錫もしくは錫合金めっきを行う。得られた錫系めっき付き電子材料は、経時中、または210℃以上の温度でのリフロー中に、フラッシュ銅めっき層が下地のニッケルめっき層と相互拡散して、銅−ニッケル合金層からなるバリア層に変化して、錫もしくは錫合金めっき皮膜中に金属間化合物による針状もしくは柱状晶が成長するのを防止する。固溶体であると考えられるこの合金層により、嵌合ウィスカの発生が効果的に抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、嵌合型接続端子に適した電子材料とその製造方法とに関する。本発明により、嵌合型接続端子の挿入時の圧力によるウィスカ(嵌合ウィスカ)の発生が抑制された嵌合型接続端子を形成できる電子材料が提供される。
【背景技術】
【0002】
自動車や各種電気・電子機器の電気配線のコネクタに使用される嵌合型接続端子は、銅または銅合金といった金属からなる導電性基体の表面に錫めっき(または錫合金めっき)が施された構造を持つ。錫めっきの主な目的は、端子の接続時に端子部の錫めっきの表面酸化皮膜が摩擦によって破壊されることにより、新鮮な錫が凝着して低い接触抵抗を安定して得るためである。こうして得られる錫めっきの接触抵抗は、高価な銀めっきに匹敵するほど小さい。錫めっきには、その後にはんだ付けする場合のはんだ付け性にも優れており、光沢めっきが可能で、外観も美麗であるという利点もある。
【0003】
錫めっきの一般的な問題点として、めっき後の環境変化によりウィスカと呼ばれるヒゲ状の析出物が生成し、短絡等の原因となることは良く知られている。以下、このウィスカを経時ウイスカと称する。経時ウィスカは、錫めっき皮膜の応力に原因があると考えられており、めっき皮膜の応力を解放するために、錫めっき後にリフローと呼ばれる熱処理を行うことが多い。
【0004】
ウィスカの抑制には銅または銅合金の基体の表面に下地ニッケルめっきを施すことが有効であることが知られている(非特許文献1参照)。
導電性基体が黄銅のような亜鉛含有銅合金である場合、基体から亜鉛が錫めっき皮膜中に拡散して、めっき皮膜の表面に酸化亜鉛の層が生ずる。特にリフロー中には亜鉛の拡散が起こり易い。めっき表面に生成した酸化亜鉛の層は、めっき皮膜の耐食性を低下と変色を生ずる上、接触抵抗の著しい増大をもたらす。下地ニッケルめっきは、亜鉛等の成分が基体から錫めっき皮膜中に拡散するのを防止するバリア層としても利用されている。
【0005】
特許文献1には、銅−亜鉛合金の母材の表面に、ニッケルめっき層、銅めっき層、および錫めっき層をこの順で形成した後、熱処理を行って、銅めっき層と錫めっき層との界面近傍にCuSn金属間化合物を生成させる嵌合型接続端子の製造方法が記載されている。ニッケルめっき層は、母材からの亜鉛の拡散を防止するバリア層である。このニッケル層の上に銅めっき層を形成するのは、銅めっき層と錫めっき層との界面近傍にCuSn金属間化合物を生成させるためである。CuSn金属間化合物を生成させるための熱処理は150〜170℃で行う。熱処理温度が170℃を超えると、金属間化合物が柱状晶のCuSnに変化し、表面凹凸が大きくなって端子の接触抵抗が増大する。
【0006】
特許文献2には、銅または銅合金からなる基体の上に、銅−錫合金層と表面の錫もしくは錫合金めっき層を有し、その上にさらに有機潤滑皮膜が形成された錫めっき付きコネクタ用の電子材料が記載されている。銅−錫合金層は、錫めっきとその下に形成された銅または銅合金めっき層とが熱処理を受けることにより形成され、この銅−錫合金層の下にニッケル層を有していてもよい。段落0006には、銅−錫合金層は全部または大部分が銅−錫金属間化合物のη相からなるものであると記載されている。リフロー熱処理は230〜600℃で行われる。
【非特許文献1】電気鍍金研究会編「環境調和型めっき技術」26頁
【特許文献1】特開平11−135226号公報(特許請求の範囲、段落0010、0029、0030)
【特許文献2】特開2003−183882号公報(特許請求の範囲、段落0006、0012)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
導電性基体の表面に錫もしくは錫合金めっき皮膜を有する電子材料から製造された嵌合型接続端子には、リフロー等により経時ウィスカ発生の防止を図った場合であっても、端子の挿入時に圧力が加わった端子部分に、嵌合ウィスカと呼ばれるウィスカが発生して、短絡の原因となるという問題点がある。
【0008】
本発明は、嵌合ウィスカの発生を防止できる、嵌合型接続端子に適した錫めっき付き電子材料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、導電性基体の表面に、ニッケルめっきとフラッシュ銅めっきとをこの順に行った後、錫もしくは錫合金めっき皮膜を形成することにより、上記課題を解決することができる。
【0010】
ニッケルめっき層の上に形成した銅めっき層が、フラッシュめっきよる非常に薄い層であると、特許文献1、2に記載されたような銅めっき層と錫めっき皮膜との界面で銅−錫金属間化合物が生成するのではなく、銅めっき層は下地のニッケルめっき層との相互拡散により合金化し、銅めっき層が銅−ニッケル合金層に変化することが判明した。この変化は熱処理で生じさせることができるが、熱処理しない場合でも経時により起こる。
【0011】
この変化により、導電性基体の表面にニッケル層、銅−ニッケル合金層、ならびに錫もしくは錫合金めっき皮膜をこの順に有する電子材料が得られる。銅−ニッケル合金層は、導電性基体の成分や下地めっき層のニッケルが表面の錫もしくは錫合金めっき皮膜に拡散して、めっき皮膜を変質させるのを防止するバリア層として機能する。そして、この銅−ニッケル合金層からなるバリア層が錫もしくは錫合金めっき皮膜の下に形成されていると、嵌合型接続端子の挿入時の嵌合ウィスカの発生を防止できることがわかった。
【0012】
ここに、本発明は、1態様において、導電性基体の表面に、下地ニッケル層と銅−ニッケル合金からなるバリア層とを介して錫もしくは錫合金めっき皮膜を有する錫系めっき付き電子材料である。この錫系めっき付き電子材料において、前記錫もしくは錫合金めっき皮膜は、針状もしくは柱状の結晶を実質的に含有していない。
【0013】
別の態様において、本発明は、導電性基体の表面に、下地ニッケルめっき層、厚み0.05〜0.5μmのフラッシュ銅めっき層、ならびに錫もしくは錫合金めっき皮膜をこの順に有する、錫めっきめっき付き電子材料である。
【0014】
前記導電性基体は好ましくは銅または銅合金からなる。
本発明によればまた、
・上記錫系めっき付き電子材料からなる嵌合型接続端子、ならびに
・導電性基体に、下地のニッケルめっきと厚み0.05〜0.5μmのフラッシュ銅めっきとをこの順に施し、次いで錫もしくは錫合金めっきを行うことを特徴とする、錫系めっき付き電子材料の製造方法、
もまた提供される。この製造方法は、錫もしくは錫合金めっきの後に210℃以上の温度で熱処理を行う工程をさらに含んでいてもよい。
【0015】
本発明に係る錫系めっき付き電子材料は、嵌合ウィスカの発生を防止できるので、特に嵌合型接続端子として好適であるが、用途はそれに限られるものではない。例えば、嵌合型ではない接続端子、スイッチ、リレー等にも使用可能である。
【0016】
前述したように、錫もしくは錫合金からなる錫系めっき皮膜に対して、ウィスカ抑制または導電性基体からの拡散防止の目的で、基体と錫系めっき皮膜との間に下地ニッケルめっき層を形成することが行われてきた。
【0017】
しかし、本発明者らが下地ニッケルめっきについて検討した結果、リフロー等の熱処理中(または長期の経時中)に、下地ニッケルめっきが上層の錫系めっき皮膜中に拡散して合金化し、下地ニッケルめっきは錫−ニッケル合金層に変化し、基体と錫系めっき皮膜の界面に錫−ニッケル合金層が生成することが判明した。この合金層は、実際には錫−ニッケル金属間化合物(NiSn)からなると考えられる。その場合、錫系めっき皮膜の見かけ硬度が著しく増大し、嵌合型接続端子とした場合に挿入時の圧力によって嵌合ウィスカが発生しやすくなる。
【0018】
この点についてより詳しく説明すると、上記界面に形成されたNiSnで示される錫−ニッケル金属間化合物からなる錫−ニッケル合金層は、図1のリフロー後の図に模式的に示すように、針状または柱状の形態をとり、錫系めっき皮膜の厚み方向に成長する。この針状または柱状晶(以下、単に針状晶という)の生成は、図3(a)に示す断面顕微鏡写真においても観察される。この写真からは、一部の針状晶が錫系めっき皮膜を厚み方向に貫通するまで成長することがわかる。このような針状晶が生成する理由は次のように推測される。
【0019】
ニッケルは銅より錫の方により容易に拡散する。従って、リフローまたは経時中にニッケルは下層の銅系基体ではなく、上層の錫系めっき皮膜中に拡散する。この場合、ニッケルの拡散は、図1(a)に模式的に示すように、錫系めっき皮膜の粒界に沿って進行するため、拡散により生成した錫−ニッケル合金層(NiSn)は針状または柱状の形態となる。既知のニッケルと錫の二元状態図から、NiSnの具体例として、NiSn、NiSn、NiSnが挙げられる。
【0020】
針状晶の一部が錫系めっき皮膜を貫通するようになると、めっき皮膜の耐食性が低下し、さらに表面凹凸が非常に大きくなって、接触抵抗も著しく増大する。また、嵌合型接続端子として使用した場合に嵌合ウィスカが発生し易くなるのは、上記針状晶が錫系めっき皮膜より硬く、めっき皮膜の見かけ硬度が高くなることが関係していると考えられる。
【0021】
これに対し、本発明では、図2に示すように、導電性基体の表面に下地ニッケルめっき層を形成し、その上にさらにフラッシュ銅めっきを施して極薄の銅めっき層を形成してから、その上に錫系めっき皮膜を形成する。この3層のめっき層を有する基体は、リフロー(熱処理)または経時変化により、ニッケルめっき層がその上のフラッシュ銅めっき層と合金化する。それにより、フラッシュ銅めっき層は消失して、ニッケルめっき層と錫系めっき皮膜との間に、フラッシュ銅めっき層より厚みの大きな銅−ニッケル合金層が生成する。
【0022】
その際に、ニッケルはその下側に存在する基体の銅ともいくらか合金化する可能性はあるが、上層のフラッシュ銅めっき層の方と優先的に合金化する。その理由は次のように推測される。
【0023】
ニッケルめっき層上に析出したフラッシュ銅めっき層は、水酸化銅[Cu(OH)またはCuOH]を形成し、安定状態にはないため、ニッケルに吸着した状態となる。水酸化銅により吸着されたニッケルは、拡散に必要な活性度が得られず、錫系めっき皮膜に対して拡散せず、針状晶の金属間化合物が成長できない。一方、ニッケル上に吸着された水酸化銅は不安定なため、熱処理や経時中にエネルギーを獲得すると、銅がニッケルと合金化して安定化しようとする。銅めっき層がフラッシュめっきではなく、通常の厚みの銅めっき層であると、銅が自己安定化して基体と同様の単なる金属銅として挙動するため、ニッケルに吸着することはなく、ニッケルの拡散が容易となる。つまり、銅めっき層が上記厚みのフラッシュ銅めっき層である場合だけに、ニッケルが上層の銅と優先的に合金化するのである。
【0024】
ニッケルと銅は、図4に示す二元状態図からもわかるように、全ての組成範囲において完全に安定した固溶体を形成する。従って、フラッシュ銅めっき層とニッケル層との合金化により生成した銅−ニッケル合金層は、銅−ニッケル固溶体からなると推測される。固溶体とは結晶レベルでお互いの金属が完全に混ざり合い、1つの金属のようになっている状態である。
【0025】
従って、本発明では、錫系めっき皮膜の下側に生成する銅−ニッケル合金層は、金属と同様に挙動する固溶体からなると考えられ、前述した錫−ニッケル合金層のような針状晶の形態はとらない。この点は、本発明の錫系めっき付き材料の皮膜構造を示す図3(b)の断面顕微鏡写真からも明らかである。この写真に見られるように、錫−ニッケル合金層は、下地のニッケルめっき層と表面の錫系めっき皮膜との間に薄く広がった層状の形態で存在し、図3(a)のような針状晶は見られない。
【0026】
図3(a)の従来の皮膜構造では、錫系めっき皮膜中に侵入するように多数の針状晶が成長し、錫系めっき皮膜が変質するため、前述したように、耐食性や接触抵抗の劣化、嵌合ウィスカの発生、といった種々の問題を生ずる。一方、図3(b)の本発明の皮膜構造では、錫系めっき皮膜は健全なまま保持されるので、耐食性や接触抵抗の劣化は起こらない。
【0027】
また、錫系めっき層と導電性基体との間に銅−ニッケル合金層が存在すると、嵌合型接続端子の挿入時に嵌合ウィスカの発生が防止される。その理由としては、この銅−ニッケル合金層が固溶体であって、金属と同様に柔らかく靱性が高いため、嵌合型接続端子の挿入時の圧力による応力を吸収しやすく、嵌合ウィスカ発生の原因となる歪みが抑制されることと、この銅−ニッケル合金層がニッケルの拡散による錫−ニッケル合金(針状晶)の生成を防止するバリア層として機能して、嵌合ウィスカの発生につながる針状晶の生成を防止できることから、嵌合ウィスカの発生が効果的に防止されるのではないかと考えられる。
【0028】
銅−ニッケル合金は、キュプロニッケル(白銅)として広く流通しており、また抵抗材料コンスタンタンとしても流通しているため、電気特性は詳しく調べられている。従って、本発明においてバリア層として機能する銅−ニッケル合金は特性の把握が容易である。
【0029】
フラッシュ銅めっき層は非常に薄いため、フラッシュ銅めっき層が完全に銅−ニッケル合金層に変化しても、その下層にニッケル層が残る。このニッケル層により、導電性基体が例えば亜鉛のような合金元素を含有していても、基体から錫系めっき皮膜への亜鉛の拡散を防止することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、錫系めっき皮膜を健全に保持したまま、嵌合型接続端子の挿入時の嵌合ウィスカの発生を防止することができる。最上層の錫系めっき皮膜は、針状晶の生成といった変質を受けないため、耐食性の低下が起こらず、錫系めっき皮膜固有の良好な耐食性が保持される。また、金属間化合物が錫系めっき皮膜の表面に露出すると、表面凹凸が増大して、材料の接触抵抗が著しく増大するが、そのような接触抵抗の増大も避けることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明の嵌合型接続端子に適した錫系めっき付き電子材料とその製造方法について、より具体的に説明する。但し、以下の説明は例示にすぎず、本発明を制限するものでない。
本発明において、導電性基体は、導電性が十分であれば、その組成は特に制限されない。嵌合型接続端子の場合、一般に基体は銅または銅合金である。銅合金の代表例としては、黄銅のような銅−亜鉛合金が例示される。より広義には、亜鉛、ニッケル、ケイ素、マグネシウム、クロム、鉄、錫、リンおよびジルコニウムから選ばれた1種または2種以上の合金元素を含有する銅合金でよい。導電性基体は全体が銅または銅合金からなるものでも、例えば、フレキシブル基板のように、表面だけが銅または銅合金からなるものでもよい。
【0032】
基体は、予め嵌合型接続端子の形状に加工したものでもよい。一般に嵌合型接続端子は雄型と雌型の端子からなる。例えば、図5に示すように、雄型端子はフレキシブル基板のような基板からなり、雌型端子はコネクタの内部に形成することができる。雄型端子は、基板以外にも、例えば、コネクタ、リードフレームとすることもできる。雌型端子も他の形態をとりうるが、典型的にはコネクタの内部に形成される。
【0033】
基体の上に、下地ニッケルめっきを施してニッケルめっき層を形成する。ニッケルめっき層の厚みは0.1〜4μmの範囲が好ましい。従って、このような膜厚のめっき皮膜が一度に形成できる電気めっきによりニッケルめっき層を形成することが好ましい。電気めっき浴は、公知のワット浴、塩化浴、スルファミン酸ニッケル浴などのいずれも使用できるが、好ましいのはスルファミン酸ニッケル浴である。ニッケルめっき層の厚みは、その上に形成されるフラッシュ銅めっき層の厚みの2倍以上とすることが好ましく、より好ましくは5倍以上とする。
【0034】
次いで、フラッシュ銅めっき(短時間の電気めっき)を行って、ニッケルめっき層の上に薄い銅めっき層を形成する。このフラッシュ銅めっき層の膜厚は0.05〜0.5μmである。フラッシュ銅めっき層が0.05μmより薄いか、0.5μmより厚いと、嵌合ウィスカの抑制効果が十分に得られない。銅めっき浴も特に制限されないが、好ましいのは硫酸銅めっき浴である。
【0035】
その後、錫もしくは錫合金めっきを施して、フラッシュ銅めっき層の上に錫もしくは錫合金めっきからなる錫系めっき層を形成する。この錫系めっき層の膜厚は0.5〜15μmの範囲が好ましい。錫系めっきも一般に電気めっきにより行われ、めっき浴としては、例えばホウフッ酸塩浴、有機酸塩浴などが使用されるが、それに制限されるものではない。錫系めっきは、光沢剤を含有させた光沢めっきとすることもできる。
【0036】
錫系めっきが錫合金めっきである場合、錫合金の例としては、錫と、銅、ビスマス、銀、亜鉛、インジウムから選ばれた1種または2種以上との合金が挙げられる。好ましい錫系めっきは、錫−銅合金である。錫−銅合金のめっき皮膜は、錫めっき皮膜よりやや硬いため、嵌合型接続端子の挿入力が少なくてすむ。但し、錫系めっき皮膜が純錫または錫と銅以外の金属との合金であっても、本発明の嵌合ウィスカ抑制効果は同様に得られる。
【0037】
基体が予め嵌合型接続端子の形状に加工されている場合、基体の形状が非常に小さい場合には、上記の各電気めっきをバレルめっきにより行うこともできる。その場合には、バレルめっきに適しためっき浴を選択することができる。
【0038】
こうして、導電性基体の上に下地ニッケルめっき層、薄いフラッシュ銅めっき層、錫系めっき層を有する本発明に係る錫系めっき付き電子材料が得られる。このフラッシュ銅めっき層を有する錫系めっき付き電子材料は、そのままリフローせずに、嵌合型接続端子その他の用途に使用することもできる。その場合でも、前述したように、経時変化によってフラッシュ銅めっき層が下地のニッケル層と合金化し、銅−ニッケル合金層に変化し、上記の嵌合ウィスカ発生防止効果を得ることができる。
【0039】
リフローしない場合には、錫系めっき皮膜の経時ウィスカの発生を防止するために、リフロー以外の他の経時ウィスカ抑制手段(例、錫系めっき浴の光沢剤の変更)を採用してもよい。
【0040】
経時ウィスカの発生を防止するために、好ましくは、錫系めっき皮膜を形成した後に、リフロー(熱処理)を行って、錫系めっき層の歪みを解放する。このリフローにより同時に、フラッシュ銅めっき層が下地のニッケルめっき層と合金化して、銅−ニッケル合金層が生成し、こうして嵌合ウィスカの発生も防止することができる。但し、銅めっき層はニッケル層に比べて非常に薄いので、銅が完全にニッケルと合金化しても、ニッケル層の大半は合金化せずに残り、その上に銅−ニッケル合金層が存在する。この銅−ニッケル合金層は、上述したように、状態図から見て、金属と同じ性質を示す固溶体であると考えられ、拡散防止層として機能すると同時に、嵌合ウィスカの発生を防止する。
【0041】
熱処理条件は、フラッシュめっきにより形成された薄い銅めっき層が完全にニッケルと合金化するように選択することが好ましく、210℃以上とすることが本発明の目的に特に有効である。温度の上限は特に制限されないが、コストを考慮すると、310℃以下とすることが有利である。好ましい熱処理温度は210〜265℃の範囲である。熱処理時間は通常は100〜500秒間の範囲内で十分であろう。好ましい熱処理時間は200〜300秒である。
【0042】
こうして、導電性基体の上に、好ましくはニッケル層を介して、銅−ニッケル合金層が存在し、その上に錫もしくは錫合金からなる錫系めっき皮膜を有する錫系めっき付き電子材料が製造される。銅−ニッケル合金層が錫系めっき皮膜へのニッケルの拡散を防止するバリア層として機能するため、錫系めっき皮膜は健全に保たれ、このめっき皮膜は針状ないし柱状のニッケル−錫金属間化合物を実質的に含有していない。
【0043】
特許文献2には、基体上に下地ニッケルめっき層、銅めっき層および錫めっき皮膜を形成した後にリフローすると、リフロー中に銅めっき層の銅が錫系めっき層に拡散して、錫めっき層と銅めっき層との間に銅−錫金属間化合物からなる層が生成することが記載されている。
【0044】
本発明では、銅めっき層が上側の錫系めっき皮膜ではなく、下側のニッケルめっき層との相互拡散により銅−ニッケル合金層を生成する。その理由は、前述したように、銅めっき層が極薄のフラッシュ銅めっき層であって、ニッケル上に不安定な状態で吸着されているため、ニッケルとの間で合金化するものと考えられる。
【実施例】
【0045】
(実施例1)
厚み0.2mmの銅板(20×50mm)からなる基体に、電気めっきにより、下地ニッケルめっき層(厚み1μm、スルファミン酸塩浴)、フラッシュ銅めっき層(厚み0.1μm、硫酸塩浴)、錫−銅合金めっき層(厚み3μm、銅含有量1.5質量%、有機酸塩浴)を順に形成した。その後、この基体を250℃のオーブンに入れて250秒間の熱処理を行った。
【0046】
こうして基体上に形成されためっき層の断面顕微鏡写真を図3(b)に示す。この写真からわかるように、基板上のめっき皮膜は、下からニッケル層、銅−ニッケル合金層、および錫−銅合金めっき層の3層が順に積層した構造を有し、針状晶は見られなかった。表面の錫−銅合金めっき層は、緻密で健全な状態を保持していた。
【0047】
(比較例1)
比較のために、フラッシュ銅めっき層を形成しなかった以外は実施例1と全く同様にして、基体の上に下地ニッケルめっきと錫−銅合金めっき層を形成し、熱処理を行った。こうして基体上に形成されためっき層の断面顕微鏡写真を図3(a)に示す。この写真からわかるように、基体の上には多数の針状晶(錫−ニッケル金属間化合物<NiSn>からなると推定される)が錫−銅合金めっき層の中に突き出て成長していた。この結晶の一部は、表面の錫−銅合金めっき層を完全に貫通して、めっき表面に現れていた。
【0048】
実施例1および比較例1で製造した錫系めっき付き電子材料のめっき表面のビッカース硬度(Hv)を調べた結果、実施例1ではHv16.88であったのに対し、比較例1ではHv34.54と、硬度が2倍以上に高くなった。比較例1では、錫系めっき皮膜中に侵入するように金属間化合物からなる針状晶が析出しているため、錫系めっき皮膜の下が固溶体からなる銅−ニッケル合金層になっている実施例1に比べて、めっき皮膜の見かけ硬度が高くなったと考えられる。
【0049】
さらに、実施例1および比較例1の錫系めっき付き電子材料について、先端径が1mmのステンレス鋼(SUS316)製プローブをめっき表面に垂直に当てて300gWの力で上から500時間押圧することにより嵌合ウィスカの発生状況を調べた。その結果を示す写真を図6(a)(比較例1)、図6(b)(実施例1)に示す。
【0050】
図6(a)に示す比較例1の場合には嵌合ウイスカが著しく発生したのに対し、図6(b)に示す実施例1の場合には嵌合ウイスカが全く発生しなかった。
(比較例2)
フラッシュ銅めっき層の厚みを1μmと厚くした点を除いて、実施例1と全く同様にして3種類のめっき(ニッケルめっき、銅めっき、および錫−銅合金めっき)とリフローを行い、錫系めっき付き電子材料を製造した。
【0051】
この電子材料の断面を顕微鏡で観察して皮膜構造を調べたところ、図3(c)に示すように、錫−銅合金めっき皮膜中に多数の針状晶が見られた。即ち、ニッケル層と錫系めっき皮膜との間に介在させる銅めっきの厚みが0.5μmより厚くなると、銅−ニッケル合金層によるバリア効果を満足に得ることができず、NiSnの成長が再び起こるようになる。但し、図2(a)のように針状晶が錫−銅合金めっき皮膜を貫通するほどまでには成長していなかった。
【0052】
この電子材料について嵌合ウィスカの発生試験を上記と同様に行ったところ、明らかに嵌合ウィスカの発生が確認された。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】銅基体上に下地ニッケルめっきおよび錫系めっき(図中では錫−銅合金めっき)を形成した従来技術におけるめっき直後とリフローによる拡散後の状況を模式的に示す説明図である。
【図2】本発明に従って銅基体上下地ニッケルめっき、フラッシュ銅めっき、および錫系めっき(図中では錫−銅合金めっき)を形成した場合のめっき直後とリフローによる拡散後の状況を模式的に示す説明図である。
【図3】図3はリフロー後の皮膜構造を示す断面顕微鏡写真(×4000)であり、図3(a)は図1と同様の従来技術の場合、図3(b)は図2と同様の本発明の場合、図3(c)は、銅めっきが厚すぎた比較例の場合をそれぞれ示す。
【図4】ニッケル−銅二元系状態図を示す。
【図5】嵌合型接続端子の構造の1例と嵌合ウィスカの発生位置を模式的に示す説明図である。
【図6】嵌合型接続端子として使用した場合の端子挿入後の嵌合ウイスカの発生状況を示す図であり、図6(a)は従来技術の場合、図6(b)は本発明の場合をそれぞれ示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性基体の表面に、下地ニッケル層と銅−ニッケル合金からなるバリア層とを介して錫もしくは錫合金めっき皮膜を有する、嵌合ウィスカ発生が抑制された錫系めっき付き電子材料。
【請求項2】
前記錫もしくは錫合金めっき皮膜が、針状もしくは柱状の結晶を実質的に含有していない、請求項1に記載の錫系めっき付き電子材料。
【請求項3】
導電性基体の表面に、下地ニッケルめっき層、厚み0.05〜0.5μmのフラッシュ銅めっき層、ならびに錫もしくは錫合金めっき皮膜をこの順に有する、嵌合ウィスカ発生が抑制された錫めっき付き電子材料。
【請求項4】
前記導電性基体が銅または銅合金からなる、請求項1〜3のいずれかに記載の錫系めっき付き電子材料。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の錫系めっき付き電子材料からなる嵌合型接続端子。
【請求項6】
導電性基体に、下地のニッケルめっきと厚み0.05〜0.5μmのフラッシュ銅めっきとをこの順に施し、次いで錫もしくは錫合金めっきを行うことを特徴とする、嵌合ウィスカ発生が抑制された錫系めっき付き電子材料の製造方法。
【請求項7】
錫もしくは錫合金めっきの後に210℃以上の温度で熱処理を行う、請求項6に記載の方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−161127(P2006−161127A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−357103(P2004−357103)
【出願日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【出願人】(504453328)株式会社高松メッキ (16)
【出願人】(000115072)ユケン工業株式会社 (33)
【Fターム(参考)】