説明

工事代金債権信託方法、優先受益権価額算出装置およびコンピュータプログラム

【課題】 工事代金債権を信託により流動化して、工事請負業者の資金調達を可能にする。
【解決手段】 工事請負業者が、工事請負契約(S1)に基づく工事代金債権を当該工事の完成前に受託者に信託し(S4)、投資家が優先受益権の価額を工事請負契約の対象の工事のうち完了している工事出来高の査定結果に対応させて決定し、工事請負業者が該価額分の優先受益権を投資家に譲渡して(S13)、投資家が該価額と同額の対価を工事請負業者に支払う(S14)。工事の完成後に発注者から工事代金が支払われると(S15)、受託者は、工事代金のうちの少なくとも価額に対応する金額の償還を投資家に行う(S16)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信託方法、優先受益権価額算出装置およびそのコンピュータプログラムに関し、特に、工事代金債権の信託により資金供給および資金調達を実現する信託方法、その信託において設定される優先受益権の価額算出装置およびそのコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、各種の工事について、発注者と工事請負業者との間で工事請負契約が交わされて行われている。このような工事請負契約においては、通常は、工事の完成後に、あるいは一定部分の完成後にその工事代金が発注者から工事請負業者に支払われるため、工事完成前においても、工事請負業者は、発注者に対して工事代金債権を有している。
【0003】
このような工事請負業者は、工事を行う場合に資金を必要とする場合がある。この資金は、例えば、その工事請負業者における運転資金や下請業者に対する支払いなどに充てられる。工事代金債権を有している工事請負業者が自ら資金調達をするには、工事請負業者の信用力に基づいて、必要に応じて担保の提供を伴うなどして、金融機関(銀行)から融資を受ける資金調達が行われている。
【0004】
この資金調達の流れを、発注者が官公庁などである場合を例に図5に示す。この資金調達においては、まず、官公庁から工事請負業者が工事を受注する。この際、官公庁と工事請負業者が工事請負契約を締結する(S101)。その工事請負契約においては、工事完成後に工事内容が検収に合格して初めて工事代金を受け取ることが契約されている。工事が実際に始まって、例えば下請けへの支払い需要が発生すと、工事請負業者は、銀行に借り入れ申し込みを行う(S102)。銀行は、融資先の工事請負業者に決算書等の提出を求めて、工事請負業者の信用力を審査して、必要に応じて担保の提供を要求して融資が実施される(S103)。
【0005】
また、株式投資信託において受益権を交換する装置が特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特許第3662560号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
係る従来の融資方法においては、銀行は、工事請負業者の信用力に基づいて融資の可否や金利を決めており、工事請負業者に十分な信用力が無い場合には銀行から融資を受けることが出来ない。銀行から見れば、工事請負業者が官公庁などの優良な発注者からの工事請負契約を締結していても、その工事請負契約を信用力に反映させるためには、過去の実績などの間接的なデータや経験に基づいてその工事請負契約を工事請負業者の信用力に換算せざるを得ず、円滑な資金供給を行う障害となっている。また、上記受益権交換装置は、投資信託における信託受益権を対象としており、工事代金債権の信託受益権を扱ってはいない。本発明は係る問題の少なくともいずれかを解決することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明においては、信託を利用して上記課題を解決する。すなわち本発明においては、 工事請負業者と受託者とが、ある工事の全部または一部の完成後に発注者から受け取る工事代金の債権を信託財産とする信託を、該工事請負業者自身を受益者として、当該工事の全部または一部の完成前に設定し、投資家が、前記債権の信託において生じる信託受益権において前記工事請負業者に対する償還より優先して償還を受けることができる優先受益権の価額を、前記工事のうち完了している工事出来高の査定結果に対応させて決定して、該価額を前記工事請負業者または前記受託者に通知し、前記工事請負業者と前記受託者とが、前記信託受益権において該価額分の優先受益権を設定し、前記工事請負業者が、該優先受益権を前記投資家に譲渡し、前記投資家が、該価額と同額の対価を前記工事請負業者に支払い、前記工事の全部または一部の完成後に前記発注者から前記債権に基づいて工事代金が支払われると、前記受託者は、該工事代金のうちの少なくとも前記価額に対応する金額の償還を前記投資家に行う工事代金債権信託方法が提供される。また、本発明においては、工事出来高査定業者が前記工事の出来高の査定を行うことが好ましい。
【0008】
工事請負業者は、工事を発注者から請負い、工事請負契約どおりに工事を完成させる義務を負い、典型的には工事完成後に、その工事代金を受け取る金銭債権(工事代金債権)を有する任意の者である。典型的には、発注者から発注を受ける総合建設業者であり、大手の建設業者(いわゆるゼネコン:general contractor)や中小の建設業者である。
【0009】
発注者は、典型的には、国、地方公共団体などの官公庁などの信用力の高い者であり、また、十分な信用力を有する大手企業などである。企業などの法人が発注者である場合には、発注者の業態、業種、法人格などの設立準拠法は特に問うものではなく、発注者は、例えば、その工事の成果を自ら直接利用するために発注する企業や、工事の成果を販売等して次行を行う企業や、工事の全部または一部を単に下請けに委託する元請企業などであることもある。
【0010】
工事は、工事請負契約に基づいて行われる。この工事請負契約は、発注者と工事請負業者とが締結し、工事の全部または一部の完成の対価として工事代金の支払い約束が含まれている契約をさす。この例としては、国土交通省が開示している公共工事標準請負契約約款(URL:http://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/const/kengyo/yakkan/KOUKYO(15.2.10).htm、以下、単に「標準約款」という)に沿って締結される契約がある。
【0011】
受託者は、例えば信託銀行などの信託業務を行いうる任意の主体をいい、例えば信託業法などの法規に則って、受益者のために活動する。
【0012】
工事の全部の完成とは、工事を全て工事請負契約どおりに完了することをいう。例えば、発注者が官公庁である場合には、発注された年度内に、契約に従って工事の全部が完成して検収され、工事代金支払いの条件が満たされることをいう。これに対し、工事の一部の完成とは、発注された工事の一部の完成が工事代金支払いの条件となっている場合において、その工事代金支払いを受けうる完成をいう。この一部の完成の例としては、工事の規模が大きく複数年度にまたがって行われる場合などにおいて、複数の工区や工期に区分されて工事が行われることが予定されており、その工区や工期のそれぞれが完成して検収されるごとに工事代金が逐次支払われる場合がある。このような場合には、工事代金支払いの条件を満たす一部の工区を完成させれば、工事代金支払いのための条件が満たされる。
【0013】
信託受益権は、工事代金債権の信託によって発生する権利であり、本発明においては、信託されている工事代金債権を履行するために工事代金が支払われた場合に、その工事代金を受け取る権利を含む。本発明においては、工事請負業者の工事代金債権が信託の対象となり、受益者は工事請負業者となる。このため、信託契約に特段の規定が無ければ、受益者である工事請負業者が信託の当初において信託受益権の享有主体となる(信託法第7条本文)。また、本発明においては、信託契約において、工事請負業者が受益者以外となる規定が設けられていても、信託契約の最初の段階で工事請負業者にすぐにその信託受託権が移転されるものとする。いずれの場合であっても、信託受益権の権利享有主体であることを示す受益証券の発行を伴うことができる。
【0014】
投資家は、利益を得る目的で事業に資金を投入するために出資を行う任意の主体である。ここでは、典型的には、投資家は銀行などの金融機関である。なお、受託者と投資家は、資金供給における機能において区別されていればよい。このため、法律上の人格において受託者と投資家とが同一となりうる。この場合の典型例は、信託業法により一般信託会社の免許を受けて受託者として機能しうる金融機関が、同時に、その投資家として機能している場合がある。このような場合であっても、会計上、受託者の機能に対して信託勘定が割り当てられていて、法規に則り信託財産(工事代金債権)が信託勘定と分離可能に管理されていて、さらに、投資家の機能に対して信託勘定および信託財産と完全に別個の銀行勘定が割り当てられていれば明確に機能が区分される。
【0015】
投資家は、本発明においては、工事請負契約の対象の工事のうち完了している工事出来高の査定結果に対応させて、投資額を決定する。工事請負業者と受託者は、その投資額に見合った優先受益権を信託受益権に設定して、その優先受益権を投資家に譲渡し、優先受益権の価額にそれに対応する対価(例えば、優先受益権と同額の対価)が投資家から工事請負業者に支払われる。優先受益権は、信託受益権において工事請負業者に対する償還より優先して償還を受けることができる権利である。優先受益権が投資家に譲渡されると、投資家は、工事代金が支払われた場合に、受託者が管理する債権からの償還を優先的にうけることができるので、自らの投資リスクを低減させることができる。
【0016】
工事出来高は、工事の進捗の割合であり、どの程度の進捗であるかは比較的客観的に把握される。判断に専門性を要する場合には、例えば、工事に応じた専門化が協力することにより、判断に必要な専門性が担保される。本発明においては、好ましくは、この判断を行う専門家として、工事出来高査定業者が参加する。工事出来高査定業者は、例えば一級建築士や、発注者として工事出来高を決定した経験を有する技術者などを含む出来高の査定を行う任意の主体である。例えば、一級建築士は、専門資格によって担保された知識と経験に基づいて、工事監理の業務によって工事の進捗を把握し、それを工事出来高として査定する。
【0017】
工事請負業者は、受託者と工事代金債権を信託財産として信託を設定した段階では資金調達ができないが、その信託受益権における優先受益権を投資家に販売することにより、自らの工事代金債権を流動化して、柔軟に資金調達を行うことができる。また、投資家は、必ずしも工事請負業者の信用力に対する評価を用いなくても、工事の進捗という実際に把握できる対象に基づいて投資リスクを適切に判断し、妥当な投資を実行することができる。
【0018】
また、工事が完成すると、発注者から受託者に工事代金の支払いが行われる。受託者は、工事代金のうち少なくとも優先受益権の価額だけ、投資家に償還を行う。投資家は、例えば、優先受益権の価額に加えて、配当金を受け取る契約とすることができる。受託者は、受託手数料(信託の受託者報酬)を工事代金から受け取り、工事請負業者は、工事代金から、投資家の優先受益権の価額、受託手数料、配当金(契約に含まれている場合)を差し引いた残りを受け取る。
【0019】
工事請負業者は、工事代金の全額を受け取ることはできないが、自らの信用ではなく工事の進捗に応じて資金調達を図ることができる。投資家は、本発明の工事代金債権の信託方法によって、例えば工事完成前に工事請負契約に規定される請負契約解除事由が生じても、投資資金回収が不能になるリスクを非常に小さくすることができ、工事請負業者は発注者の信用力を背景にして資金供給を受けることができる。
【0020】
本発明においては、工事代金債権の信託において用いる優先受益権の価額を算出する装置が提供される。すなわち、本発明においては、工事代金の債権を信託財産とする信託において生じる信託受益権に設定される優先受益権の価額を決定する優先受益権価額算出装置であって、ここで、前記工事代金は、工事の全部または一部の完成後に発注者が支払うものであり、前記信託は、工事請負業者と受託者とが該工事請負業者を受益者として設定されるものであり、前記優先受益権は、前記信託受益権において工事請負業者に対する償還より優先して償還を受けることができる権利であり、工事代金の金額と完了している工事出来高の査定結果における割合との積の演算を少なくとも含んで規定される工事出来高相応額関数により工事代金における工事出来高の相応額を求めるための第1関数情報を記憶する第1記憶部と、該工事出来高の相応額を含んで規定される優先受益権価額関数により前記優先受益権の価額を求めるための第2関数情報を記憶する第2記憶部と、前記価額を算出する工事に関しての工事代金の金額のデータと、前記査定の割合のデータとの入力を受付ける入力部と、前記第1記憶部から前記第1関数情報を読み込んで工事代金の金額と工事の出来高の査定結果における割合との積を少なくとも含む前記工事出来高相応額関数に従う演算処理手順を設定し、工事代金の金額と工事の出来高の査定結果における割合とを前記入力部から受信し、前記工事出来高相応額関数に従う演算によって工事出来高の相応額を算出する工事出来高相応額演算部と、前記第2記憶部から前記第2関数情報を読み込んで少なくとも該工事出来高の相応額を含む前記優先受益権価額関数に従う演算処理手段を設定し、前記工事出来高の相応額を工事出来高相応額演算部から受信し、前記優先受益権価額関数に従う演算によって優先受益権の価額を算出する優先受益権価額演算部とを備える優先受益権価額算出装置が提供される。
【0021】
本発明は、例えばキーボード、マウスなどの入力装置と、ALU(算術論理ユニット)などの演算部をふくむMPU(マイクロプロセッサユニット)などの演算装置と、ハードディスクドライブなどの記憶装置と、コンピュータモニタディスプレイなどの表示装置とを備えるコンピュータにおいて実現される。記憶装置には、MPUの動作を行うための主記憶装置となるRAM(ランダムアクセスメモリー)やレジスタファイルなどの揮発性記憶装置も含まれる。また、必要に応じてネットワークインターフェースなどの外部の装置との通信を行う通信装置も含まれる。
【0022】
第1および第2記憶部は、不揮発性記憶装置などによって構成されており、関数を設定するための関数情報を格納している。この関数情報は、例えば処理に用いられる関数を組み込んだプログラムとして記憶装置に格納されていることができる。また、別の例としては、この関数情報は、設定ファイルとして格納されていることができる。第1記憶部と第2記憶部との区別は、適当なOS(オペレーティングシステム)によって管理されるコンピュータファイル内のアドレスの違い、ファイルの違い、記憶装置の違いなど、任意の論理的に識別可能な区分によって行われる。例えば、関数情報がプログラムとして格納されている場合には、一つの実行形式のファイルにおいてアドレスの異なる二つの部分が、それぞれ、第1記憶部、第2記憶部として区別される。
【0023】
第1記憶部が記憶するのは第1関数情報である。この第1関数情報は、工事出来高相応額関数により工事代金における工事出来高の相応額を求めるためのものであり、例えば、数値同士の積の演算を規定する実行形式ファイルの情報である。この工事出来高相応額関数は、工事代金の金額と完了している工事出来高の査定結果における割合との積の演算を少なくとも含む。典型的には、第1関数情報は、工事代金の金額を表す変数と完了している工事出来高の査定結果の割合を表す変数との積だけで規定される演算を表現する実行形式ファイルの部分である。
【0024】
これに対し、第2記憶部が記憶するのは第2関数情報である。この第2関数情報は、優先受益権価額関数により前記優先受益権の価額を求めるためのものである。この優先受益権価額関数は、相応額を含む。典型的には、第2関数情報は、工事出来高の相応額を一つの項として含む演算を表現する実行形式ファイルの部分である。
【0025】
入力部は、入力装置や通信装置などにより実現され、工事代金の金額のデータと工事出来高の査定の割合とを受け付ける。工事代金は、工事請負契約における金額を適当な通貨によって表現した数値とすることができ、工事出来高の査定の割合は、工事の進捗の程度を、契約に応じて工事代金が支払われるための完成(工事の全部の完成または一部の完成)を100パーセントとした場合の割合によって表現することができる。工事代金の金額と工事出来高の査定結果は、入力部から価額演算部に送信される。
【0026】
工事出来高相応額演算部は、演算装置と主記憶装置などによって実現される機能手段であり、第1関数情報を読み込んで工事出来高の相応額を算出する。また、優先受益権価額演算部も演算装置と主記憶装置などによって実現される機能手段であり、工事出来高の相応額を工事出来高相応額演算部から受信し、第2関数情報を読み込んで、優先受益権の価額を計算する。
【0027】
この工事出来高相応額演算部によって算出された優先受益権の価額は、例えば、投資家が、工事請負業者に対して優先受益権の譲渡を受け際の優先受益権の目安として利用される。
【0028】
本発明の価額算出装置においては、前記第2記憶部に記憶された第2関数情報は、工事出来高の査定結果が発注者によって判定される工事出来高より過大となるリスクを低下させるために、前記優先受益権価額関数において、0以上1以下の数値であるリスク調整掛目による比率で割引計算をするための情報をさらに含み、前記入力部は、リスク調整掛目のデータをさらに受付け、前記優先受益権価額演算部は、該リスク調整掛目を前記入力部からさらに受信し、前記優先受益権価額関数に従う演算によって該リスク調整掛目による割引計算を行って優先受益権の価額を算出すると好適である。
【0029】
工事出来高の査定結果が、契約解除事由発生時に実際に発注者によって決められる工事出来高より大きい値である場合には、契約解除事由が発生しても投資家が投資した全ての資金が工事代金から償還されない元本割れとなる。したがって、この元本割れのリスクを適切に管理するために、リスク調整掛目と呼ぶ数値によって割引計算を行う。この割引計算によって工事出来高の査定に内在する不確実さを反映した優先受益権の価額を算出することが可能となり、リスクを適切に管理することができる。
【0030】
また、本発明では、前記第2記憶部に記憶された前記第2関数情報は、発注者が工事請負業者に工事完成前に支払う前払金の控除計算をするための情報をさらに含み、前記入力部は、前払金のデータをさらに受付け、前記優先受益権価額演算部は、前記前払金を前記入力部からさらに受信し、前記優先受益権価額関数に従う演算によって前記前払金を控除した優先受益権の価額を前記関数情報に従って算出すると好適である。さらに、前記第2記憶部に記憶された前記第2関数情報は、工事請負契約解除事由が生じた場合に工事請負業者が発注者に支払う違約金の控除計算をするための情報をさらに含み、前記入力部は、違約金のデータをさらに受付け、前記優先受益権価額演算部は、該違約金を前記入力部からさらに受信し、前記優先受益権価額関数に従う演算によって前記違約金を控除した優先受益権の価額を前記関数情報に従って算出すると好適である。
【0031】
前払金とは、工事請負契約において、工事請負業者の便宜を考慮して発注者が工事完成前に支払う工事代金の一部の対価である。前払金は、工事請負業者が自らのために用いるため、信託の対象にならず、優先受益権の価額には算入しない。また、違約金とは、契約に定められた契約解除事由が発生し、その原因が工事請負業者側にあるときに、ペナルティとして定められる工事請負業者から発注者に支払われる金銭を言う。違約金が発生するような契約解除事由とは、例えば工事請負業者の倒産などである。このような場合には、その時点で工事の完成出来高を発注者が決定し、工事出来高部分から違約金相当額(標準約款に従っていれば、請負契約額の10%相当額)を控除した金額が工事請負業者に対して支払われる。したがって、投資家より優先して発注者に支払われるため、優先受益権の価額には算入しない。
【0032】
前払金や違約金を含む契約条件に即して優先受益権の価額を算出することにより、工事請負業者と発注者との間で締結される契約内容に基づいて、工事代金債権のうち発注者から履行される金額を適切に評価して、工事請負業者に供給すべき資金の金額算出の精度を高めることができる。
【0033】
さらに、本発明においては、前記第1記憶部または前記第2記憶部の少なくとも少なくともいずれかが、複数の契約タイプを識別するための契約タイプIDに対応付けて複数の関数情報を格納して前記第1関数情報または前記第2関数情報としており、該複数の契約タイプは、契約解除時に発注者から支払われる工事代金債権の支払い額の算出規定が異なるものであり、前記入力部は、信託が設定される工事請負契約が属する契約タイプについての選択入力をさらに受付け、前記工事出来高相応額演算部または前記優先受益権価額演算部のいずれかは、前記入力部から該選択入力を受信して、前記複数の関数情報のうち該選択入力により選択された契約タイプIDに対応する関数情報を読み出して算出を行うと好適である。
【0034】
工事請負契約は、多くが典型的ないくつかのタイプに分類される。この一つの典型例が、上述の標準約款にそった契約である。典型的な契約のタイプによって、工事出来高相応額関数や優先受益権価額関数が異なる場合がある。このような場合には、工事請負契約のタイプの入力を受け付けて、それによってその工事請負契約のタイプに合わせた第1関数情報や第2関数情報を選択するように装置が構成されていると、本発明の優先受益権価額計算装置を使用する使用者は、信託が設定されている契約のタイプに合った価額を容易に得ることができる。
【0035】
加えて、本発明においては、コンピュータを上記の各優先受益権価額算出装置として動作させるコンピュータプログラムが提供される。
【発明の効果】
【0036】
本発明の信託方法を用いれば、工事代金債権を信託して生じる信託受益権に工事の進捗を適切に反映させて優先受益権を設定することが可能となり、従来は適切に信用力に換算することが難しかった工事代金債権の流動化を可能にし、信託制度を利用して、資金需要に適切に対応して資金供給を図ることが可能となる。
【0037】
また、本発明の優先受益権価額算出装置やコンピュータプログラムを用いることにより、必要なデータを入力するだけで、工事代金債権の信託制度を利用して信託受益権に設定する優先受益権の価額として適切な数値を容易に算出することが可能となり、迅速な資金供給の判断が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本実施の形態の信託方法の実施形態を示す説明図である。発注者は、例えば官公庁などの信用力の高い主体である。工事請負業者は、発注者が予め工事の実績などを考慮して発注を行う相手である。発注者に工事の需要が生じ、工事請負業者が発注者の要求する資格を有する場合には、例えば入札/応札などの手続を経て、工事請負業者が発注者である官公庁との間で工事請負契約を締結する(S1)。このとき、工事請負契約には、工事の完成に応じて工事代金が支払われる旨の規定が明示されており、発注後は、工事請負業者は、当該工事の工事代金の受け取り債権を有する(S2)。
【0039】
工事請負業者が資金を必要とした場合には、工事請負業者は、工事代金債権を信託譲渡することについて、発注者から承諾を得る(S3)。この承諾に基づいて、工事請負業者は、信託銀行などの受託者との間で工事代金債権の信託契約を締結する(S4)。この信託契約は、工事代金受け取り債権を受託者に移転することを規定し、その代わりに、信託の受益者が工事請負業者にされる債権信託契約である。この契約により、信託受益権の権利享有主体は工事請負業者となる。この段階での信託受益権は、工事代金が支払われた後に工事代金を受け取ることができる権利に過ぎず、工事請負業者は工事が完成するまで資金の提供を受けることができない。信託受益権を表示するための受益証券を受託者が発行することもできる(S5)
【0040】
工事請負業者は、資金供給を受けるために、信託受益権に内在している潜在的な価値の一部を処分して対価として資金を得ようとする。そこで、工事請負業者は、信託受益権の販売を受託者に依頼する(S6)。その依頼を受けた受託者は、投資家に信託受益権の購入を打診する(S7)。ここで、信託受益権の販売や購入は、実際には、信託受益権のうちの特定の価額部分に対して優先受益権を設定し、その優先受益権を譲渡しそれに応じた対価を提供することによって実現される。
【0041】
投資家は、優先受益権の設定を受けるに当たり、信託受益権のうちの引受額を決定する。その決定のために、投資家は、建築士などの専門家を含む工事出来高査定業者に、工事の進捗(工事の出来高)の査定を依頼する(S8)。工事出来高査定業者は、工事請負業者が工事請負契約に従って実施している工事の進捗を査定し(S9)、その結果を工事完成を100パーセントとする割合など適当な指標によって報告する(S10)。投資家は、この査定結果に応じて、優先受益権の価額を算定し、その金額分の優先受益権を工事代金債権の信託受益権において設定し譲渡を引き受ける旨の申し込み(優先受益権の購入申し込み)を行う(S11)。この申し込みを受けた受託者は、工事請負業者との間で、工事代金債権の信託受益権のうちの上記価額分を優先受託権とし、残りを劣後受託権とする信託契約の変更を行い(S12)、そのうちの優先受託権を工事請負業者から投資家に譲渡する(S13)。投資家からは、工事請負業者に上記価額分の資金が優先受益権の譲渡に対する対価として支払われる(S14)。こうして、信託制度を利用して、工事請負業者は投資家から資金を得ることができる。
【0042】
なお、この工程S6〜S14は、工事完成までに複数回繰り返すことができる。工事が進捗して優先受益権の価額がより高くなると、直前に算定した前回の価額との差額分だけ新たに資金提供を行うことができる。
【0043】
工事の全部または一部が完成して、工事請負契約に基づいて工事代金が発注者から受託者に支払われると(S15)、受託者は、原理的には、工事代金から債権信託契約に基づいて、優先受益権の価額に応じて投資家に償還を行ない、劣後受益権の価額に応じて工事請負業者に償還を行う。実際の償還に際しては、投資家に工事請負業者が配当を支払う契約を予め行っている。また、受託者は、受託手数料を工事代金から受け取る契約を信託契約の変更(S12)の際に行っている。したがって、受託者は、工事代金から、投資家に優先受益権の価額と配当金の金額を加えた金銭を支払い、自ら受託手数料を受け取り、その残りを工事請負業者に支払う(S16)。
【0044】
工事が完成するまでに工事請負契約の解除事由が発生した場合には、その時点で、発注者が工事請負契約の規定に従って工事出来高に見合った分の工事代金を支払う。この際、違約金等が差し引かれる場合もある。その工事代金は信託財産である工事代金債権を管理する受託者に支払われるため、この受託者は、その時点で信託受益権に設定されている優先受益権の権利享有主体(投資家)に優先して工事代金を償還し、残った工事代金を工事請負業者に支払う。
【0045】
次に、信託受益権中における優先受益権の価額を算出する具体的手法について説明する。工事請負契約には、様々な形態のものが考えられるが、発注者が官公庁である場合などの場合には、例えば、国土交通省が開示している標準約款などに従うことができる。
【0046】
信託契約の目的である工事請負契約の工事代金債権から得られる利益を受けうる権利である信託受益権は、信託契約において受益者とされる工事請負業者が権利享有主体となって発生する。この信託受益権において設定される優先受益権の価額Pは、一般に、工事請負契約額W(円)と、工事出来高R(%)と、前払金A(円)と、違約金D(円)と、リスク調整掛目F(%)の関数である。
【数1】

具体的には、工事出来高に対応する金額(工事出来高相応額)は、
【数2】

と表現することができる。この工事出来高は、例えば、工事請負業者の責めに帰すべき契約解除事由が発生して契約が解除された場合に、発注者から支払われる工事出来高見合いの額である。本実施の形態では、式(2)に示したように、工事出来高相応額は、工事請負契約額Wと工事出来高Rの積により算出される。
【0047】
本実施の形態においては、より契約内容に即して優先受益権の価額を算出するために契約内容に即した算出を行うことも出来る。例えば、標準約款に示されたような契約解除事由が発生すると、その時点で工事の完成出来高を発注者(官公庁)が検収し、工事出来高部分から違約金相当額(例えば、請負契約額の10%相当額)を控除した金額が工事請負業者に対して支払われること(例えば、標準約款第50条第3項第一文)を考慮することができる。この場合には、仮に工事途中で工事請負業者が倒産したとしても、その時点において工事代金債権として工事代金債権者が受領しうる金額は、(WR−A−D)と表現される。
【0048】
また、本実施の形態においては、工事出来高Rは工事出来高査定業者によって見積もられた数値であり、これが発注者が実際に検収する数値と異なるリスクを管理することができる。リスク調整掛目と呼ぶ数値Fによって割引計算を行う。すなわち、リスク調整掛目Fを含む優先受益権の価額は、例えば、
【数3】

として計算される。このようなリスク調整掛目Fを用いることによって、本実施の形態においては、工事出来高の査定と検収される出来高の齟齬によるリスクを回避する。リスク調整掛目Fは、0以上1以下の範囲の値をとりうる実数である。リスク調整掛目F=1(100%)とするのは、工事出来高の査定が全く正確である場合の優先受益権の価額を計算をすることを意味している。典型的には、Fは90%とすることができる。なお、式(3)の代わりに、例えばFを工事出来高に依存して変化する様にすることも出来る。例えば、工事出来高の査定の精度が、工事出来高が小さい(工事が進捗していない)場合には悪く、工事出来高が大きい(工事が進捗している)場合にはよい場合には、工事出来高に応じてFが増加するようにすることも有用である。
【0049】
上述の式(3)に従って具体的な事例を計算すると、工事請負契約が300百万円、受領済みの前払金が120百万円、工事出来高の査定結果が80%、リスク調整掛目90%である場合には、P=81百万円と算出できる。すなわち、300百万円の工事を請け負って工事出来高が80%と査定できるということは、信用力の高い発注者(官公庁)からの支払いを受けうる債権のうち工事という有形のものによって計測可能な金額が81百万円分に該当するということである。これは、仮に工事請負業者に経済的な信用力が全くない場合であっても変わらない。実際に工事請負業者が倒産したとしても、受託者が信託財産である工事代金債権を分別管理しており、優先受益権の譲渡を受けてその優先受益権の価額分の受益者となる投資家にとっては、その優先受益権の価額分の受け取りの保証があり、元本割れのリスクが非常に少ない。元本割れとなるのは、Fの値によって調整されている以上に工事出来高の査定結果が実際の工事出来高より過大である場合だけである。
【0050】
次に、工事出来高に応じて優先受益権の価額を計算する計算装置について説明する。本計算装置は、コンピュータによって実現される。図2は、このコンピュータ20の構成を示すブロック構成図である。コンピュータ20においては、適当なバス21にMPU22が接続され、そのMPU22にはメインメモリ23が接続される。バス21には、ハードディスクドライブなどの記憶装置24も接続され、バス21に接続された入出力インターフェース25には、マウス26やキーボード27といった入力装置が接続される。バス21には、さらにGPU(Graphic Processing Unit)などの描画ユニット28が接続され、その描画ユニット28の出力は、CRT(陰極線管)やLCD(液晶ディスプレイ)などの表示装置29によって視認可能な表示としてユーザに提供される。
【0051】
記憶装置24には、例えば式(3)に示した演算をMPU22に実行させるためのコンピュータプログラムが記憶されている。このコンピュータプログラムがMPU22にロードされると、ユーザーに数値の入力を促す画面がユーザーに提供される。
【0052】
図3は、図2に示したコンピュータによって実現される優先権価額算出装置10の機能上の構成を示すブロック構成図である。この優先権価額算出装置10には、第1〜第3記憶部121〜123と、入力部14と、工事出来高相応額演算部161、優先受益権価額演算部162、比較判定部163と、価額表示部181と、表示装置182とが備えられている。
【0053】
第1記憶部121は、第1関数情報を記憶する。この第1関数情報は、工事代金の金額(工事請負契約額)Wと完了している工事出来高の査定結果における割合Rとの積の演算を含んで規定される工事出来高相応額関数WRにより工事代金における工事出来高の相応額W00を求めるための情報である。なお、W0はWの実現値のデータであり、R0はRの実現値のデータである。
【0054】
第2記憶部122は、第2関数情報を記憶する。この第2関数情報は、工事出来高の相応額W00を含んで規定される優先受益権価額関数f()により優先受益権の価額f0を求めるための情報である。ここで、f()には、0以上1以下の数値であるリスク調整掛目Fが、例えば式(3)のように因数として含まれていて、この比率で割引計算をすることができる。また、第2関数情報は、式(3)のように、前払金Aや違約金Dも含む優先受益権価額関数f()によって優先受益権の価額f0を求めるための情報とすることができる。
【0055】
第3記憶部123は、優先受益権価額の上限データおよび/または下限データを格納する。この上限データは、例えば、この価格算出装置を使用する人に対応付けられた限度額としたり、意思決定を行う者の職務レベルに応じて変更されていることができる。下限データは、例えば0とすることができる。これにより、優先受益権の価額が所定の値(例えば0)以上にならない場合の表示を停止するように構成することができる。
【0056】
入力部14は、例えばキーボードなどの数値を入力しうる数値入力手段141や、マウスなどの数値を選択して入力しうる選択入力手段142、コンピュータネットワークなどの電気通信回線とのインターフェースとなる通信入力手段143のいずれかを含んで構成されることもできる。これらの入力部14は、価額を算出する工事に関しての工事代金の金額のデータW0、査定の割合のデータR0の入力を受付け、工事出来高相応額演算部161に送信する。また、これらの入力部14は、リスク調整掛目のデータF0、前払金のデータA、違約金Dの入力を受付け、優先受益権価額演算部162に送信する
【0057】
工事出来高相応額演算部161は、工事代金の金額W0と工事の出来高の査定結果R0とを入力部14から受信し、第1記憶部121から第1関数情報を読み込んで、少なくとも工事代金の金額Wと工事の出来高の査定結果Rとの積WRを含む工事出来高相応額関数に従う演算によって工事出来高の相応額W00を算出する。
【0058】
優先受益権価額演算部162は、工事出来高の相応額W00を工事出来高相応額演算部161から受信し、第2記憶部122から第2関数情報を読み込んで、少なくとも工事出来高の相応額W00から優先受益権価額関数f()に従う演算によって優先受益権の価額f0を算出する。このとき、優先受益権価額演算部162は、リスク調整掛目のデータF0を入力部から受信し、優先受益権価額関数f()に従う演算によってリスク調整掛目F0による割引計算を行って優先受益権の価額f0を算出する。
【0059】
比較判定部163は、優先受益権価額演算部122から優先受益権価額のデータf0を受信し、第3記憶部123から上限データおよび/または下限データを受信し、優先受益権価額と上限および/または下限と比較し、比較結果を出力する。この比較結果は、上限データと下限データの範囲内であるか、その範囲外であるかを示すtrue/falseビットにより表現される。優先受益権価額演算部122により算出された優先受益権の価額を表示できる価額表示部181も備えられている。
【0060】
価額表示部181は、比較判定部163からの比較結果を受信し、優先受益権価額が上限以下で下限以上の範囲に含まれることを比較結果が示す場合には優先受益権の価額を表示し、優先受益権価額が上限より大きいかまたは下限より小さいことを比較結果が示す場合には、優先受益権価額が上限より大きいことまたは下限より小さいことを示す表示を少なくとも行う。優先受益権の価額が上限より大きいことまたは下限より小さいことを示す表示は、例えば、価額が限度額を超えていることを伝えるメッセージや、価額が負になることを示すメッセージとすることができる。これらのメッセージや、優先受益権の価額は、表示装置182によってユーザーに提示される。
【0061】
入力部14は、工事請負契約がどの契約タイプに属するかを選択する入力を受け付けることができる。この入力図3においては、識別番号IDCによって表されていて、第1記憶部121や第2記憶部122における関数情報の選択に用いられる。つまり、入力部14からのこの選択入力が識別番号IDCとして工事出来高相応額演算部161や優先受益権価額演算部162で受信されると、その識別番号IDCに対応する関数情報が選択されて、工事出来高相応額演算部161や優先受益権価額演算部162で算出に用いられる関数の形式が変化する。契約タイプが異なってもそれにあわせた工事出来高相応額関数や優先受益権価額関数が格納されていれば、種々の契約タイプに応じて適切に優先受益権の価額を算出することができる。
【0062】
図4は、ユーザーに示される画面の構成を示す説明図である。ユーザーは、キーボード27やマウス26(図2)などの入力装置を適宜用いて、ウインドウ画面30のテキストボックス321〜325にデータを入力する。例えば、工事契約額の欄のテキストボックス321には、300との数値をキーボード27で入力し、同様に、前払金の欄のテキストボックス322には120、違約金の欄のテキストボックス323には30との数値を入力する。また、工事出来高査定業者の資料に基づいて、工事出来高の欄のテキストボックスのテキストボックス324には、80との数値を入力する。そして計算実行ボタン34をマウス26により選択することにより、これらの入力値がMPU44に送信されて、コンピュータプログラムにおいて規定された式(3)の計算を実行する処理が、MPUにおいて実行される。こうして、優先受益権の価額Pの計算が完了する。そして、この価額は、ウインドウ画面30の優先受益権価額表示欄36に表示される。なお、契約タイプを指定する選択は、ウインドウ画面30の最上段においてオプションボタン38によって選択することができる。図では、契約が標準約款に従ったタイプであることが示されている。
【0063】
以上、本発明の実施の形態につき述べたが、本発明は既述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて各種の変形、変更および組み合わせが可能である。例えば、工事請負業者に信用力がある場合には、上記優先受益権の価額に対して金額を上乗せすることができる。また、コンピュータの計算においてプログラム中の関数によって計算する例を示したが、本発明は、例えば、関数情報を換算テーブルの形で有して記憶部に格納されており、記憶部からその換算テーブルを読み出して優先受益権の価額を計算してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】図1は本発明の信託方法の実施形態を示す説明図である。
【図2】図2は本発明の優先受益権価額計算装置が実現されるコンピュータの実施形態の構成を示すブロック構成図である。
【図3】図2は本発明の優先受益権価額計算装置の機能手段の相互の構成を示すブロック構成図である。
【図4】図4は本発明の優先受益権価額計算装置においてユーザーに示される画面の実施形態の構成を示す説明図である。
【図5】図5は従来の工事請負業者の資金調達の手法を示す説明図である。
【符号の説明】
【0065】
10 優先権価額算出装置
12 記憶部
14 入力部
161 工事出来高相応額演算部
162 優先受益権価額演算部
163 比較判定部
181 価額表示部
20 コンピュータ
22 MPU
24 記憶装置
26 マウス
27 キーボード
28 描画ユニット
29 表示装置
30 ウインドウ画面
32 テキストボックス
36 優先受益権価額表示欄

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工事請負業者と受託者とが、ある工事の全部または一部の完成後に発注者から受け取る工事代金の債権を信託財産とする信託を、該工事請負業者自身を受益者として、当該工事の全部または一部の完成前に設定し、
投資家が、前記債権の信託において生じる信託受益権において前記工事請負業者に対する償還より優先して償還を受けることができる優先受益権の価額を、前記工事のうち完了している工事出来高の査定結果に対応させて決定して、該価額を前記工事請負業者または前記受託者に通知し、
前記工事請負業者と前記受託者とが、前記信託受益権において該価額分の優先受益権を設定し、
前記工事請負業者が、該優先受益権を前記投資家に譲渡し、
前記投資家が、該価額と同額の対価を前記工事請負業者に支払い、
前記工事の全部または一部の完成後に前記発注者から前記債権に基づいて工事代金が支払われると、前記受託者は、該工事代金のうちの少なくとも前記価額に対応する金額の償還を前記投資家に行う工事代金債権信託方法。
【請求項2】
工事出来高査定業者が前記工事の出来高の査定を行う、請求項1に記載の工事代金債権信託方法。
【請求項3】
工事代金の債権を信託財産とする信託において生じる信託受益権に設定される優先受益権の価額を決定する優先受益権価額算出装置であって、ここで、前記工事代金は、工事の全部または一部の完成後に発注者が支払うものであり、前記信託は、工事請負業者と受託者とが該工事請負業者を受益者として設定されるものであり、前記優先受益権は、前記信託受益権において工事請負業者に対する償還より優先して償還を受けることができる権利であり、
工事代金の金額と完了している工事出来高の査定結果における割合との積の演算を少なくとも含んで規定される工事出来高相応額関数により工事代金における工事出来高の相応額を求めるための第1関数情報を記憶する第1記憶部と、
該工事出来高の相応額を含んで規定される優先受益権価額関数により前記優先受益権の価額を求めるための第2関数情報を記憶する第2記憶部と、
前記価額を算出する工事に関しての工事代金の金額のデータと、前記査定の割合のデータとの入力を受付ける入力部と、
前記第1記憶部から前記第1関数情報を読み込んで工事代金の金額と工事の出来高の査定結果における割合との積を少なくとも含む前記工事出来高相応額関数に従う演算処理手順を設定し、工事代金の金額と工事の出来高の査定結果における割合とを前記入力部から受信し、前記工事出来高相応額関数に従う演算によって工事出来高の相応額を算出する工事出来高相応額演算部と、
前記第2記憶部から前記第2関数情報を読み込んで少なくとも該工事出来高の相応額を含む前記優先受益権価額関数に従う演算処理手段を設定し、前記工事出来高の相応額を工事出来高相応額演算部から受信し、前記優先受益権価額関数に従う演算によって優先受益権の価額を算出する優先受益権価額演算部と
を備える優先受益権価額算出装置。
【請求項4】
前記第2記憶部に記憶された第2関数情報は、工事出来高の査定結果が発注者によって判定される工事出来高より過大となるリスクを低下させるために、前記優先受益権価額関数において、0以上1以下の数値であるリスク調整掛目による比率で割引計算をするための情報をさらに含み、
前記入力部は、リスク調整掛目のデータをさらに受付け、
前記優先受益権価額演算部は、該リスク調整掛目を前記入力部からさらに受信し、前記優先受益権価額関数に従う演算によって該リスク調整掛目による割引計算を行って優先受益権の価額を算出する、請求項3に記載の優先受益権価額算出装置。
【請求項5】
前記第2記憶部に記憶された前記第2関数情報は、発注者が工事請負業者に工事完成前に支払う前払金の控除計算をするための情報をさらに含み、
前記入力部は、前払金のデータをさらに受付け、
前記優先受益権価額演算部は、前記前払金を前記入力部からさらに受信し、前記優先受益権価額関数に従う演算によって前記前払金を控除した優先受益権の価額を前記関数情報に従って算出する、請求項3に記載の優先受益権価額算出装置。
【請求項6】
前記第2記憶部に記憶された前記第2関数情報は、工事請負契約解除事由が生じた場合に工事請負業者が発注者に支払う違約金の控除計算をするための情報をさらに含み、
前記入力部は、違約金のデータをさらに受付け、
前記優先受益権価額演算部は、該違約金を前記入力部からさらに受信し、前記優先受益権価額関数に従う演算によって前記違約金を控除した優先受益権の価額を前記関数情報に従って算出する、請求項3に記載の優先受益権価額算出装置。
【請求項7】
優先受益権価額の上限および/または下限を指定する優先受益権価額の上限データおよび/または下限データを格納する第3記憶部と、
前記優先受益権価額演算部から優先受益権価額のデータを受信し、該第3記憶部から上限データおよび/または下限データを受信し、該優先受益権価額と該上限および/または該下限と比較して、比較結果を出力する比較判定部と、
前記優先受益権価額演算部により算出された優先受益権の価額を表示できる価額表示部と
をさらに備え、
該価額表示部は、比較判定部からの前記比較結果を受信し、前記優先受益権価額が前記上限以下で前記下限以上の範囲に含まれることを該比較結果が示す場合には前記優先受益権の価額を表示し、前記優先受益権価額が前記上限より大きいかまたは前記下限より小さいことを該比較結果が示す場合には、前記優先受益権価額が前記上限より大きいことまたは前記下限より小さいことを示す表示を少なくとも行うものである、請求項3〜6のいずれかに記載の優先受益権価額算出装置。
【請求項8】
前記第1記憶部または前記第2記憶部の少なくとも少なくともいずれかが、複数の契約タイプを識別するための契約タイプIDに対応付けて複数の関数情報を格納して前記第1関数情報または前記第2関数情報としており、
該複数の契約タイプは、契約解除時に発注者から支払われる工事代金債権の支払い額の算出規定が異なるものであり、
前記入力部は、信託が設定される工事請負契約が属する契約タイプについての選択入力をさらに受付け、
前記工事出来高相応額演算部または前記優先受益権価額演算部のいずれかは、前記入力部から該選択入力を受信して、前記複数の関数情報のうち該選択入力により選択された契約タイプIDに対応する関数情報を読み出して算出を行う、請求項3〜7のいずれかに記載の優先受益権価額算出装置。
【請求項9】
コンピュータを、請求項3〜8に記載のいずれかの優先権価額算出装置として動作させるコンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−41776(P2007−41776A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−224120(P2005−224120)
【出願日】平成17年8月2日(2005.8.2)
【出願人】(504132825)株式会社新銀行東京 (4)