説明

工作機械の主軸の冷却機構

【課題】簡易な機構で残存油を経路内に留め、エア供給に異常が生じて冷却液の循環を停止させた際における戻り経路からの冷却液の逆流による漏れを防止することが可能な工作機械の主軸の冷却機構を提供する。
【解決手段】主軸1の冷却機構32は、冷却液を供給源21から主軸1内へ供給するための供給経路22,22・・および冷却液を主軸1内から供給源21へ戻すための戻り経路23,23・・を有する外部冷却液流路24と、主軸1内に冷却液を流すための内部冷却液流路25と、冷却液の漏洩を防止するためにハウジング2に固定された固定部品と主軸1との隙間にエアを供給するエアシール手段26とを有している。そして、戻り経路23,23・・に、冷却液を下向きに流下させた後に上向きに押し流すために曲げた冷却液受け部27が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受によって工作機械に回転可能に支持された主軸の冷却機構に関するものであり、詳しくは、マシニングセンタの主軸の如く高速回転する主軸の冷却機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、工作機械、特に、マシニングセンタ等の主軸の回転速度が高速化してきている。そのため、軸受の発熱量が大きくなってきており、主軸や工具の熱安定性等に悪い影響を与えることが懸念されている。工具の熱安定性を高め、かつ、軸受の内外輪の温度差による面圧の増加を抑えるためには、軸受を内輪側と外輪側との両側から冷却する方法が望ましく、主軸を直接冷却することで軸受の内輪側を冷却し、軸受の内外輪の温度差を小さくする冷却機構が開発されている。そのような冷却機構においては、主軸内に冷却液を流し込む際に、主軸とハウジングに固定された固定部品との隙間からの冷却液漏れを防ぐ必要があり、冷却液漏れを防ぐための従来の手段としては、主軸から固定部品への冷却液の流路を軸方向の前後で遮蔽するように、主軸と固定部品との隙間に高圧のエアを供給する所謂エアシール手段が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−288870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記した特許文献1の如きエアシール手段を設けた冷却機構は、エアが正常に供給されている間のみに有効であり、たとえば、コンプレッサの異常、エア配管の損傷等でエアが正常に供給されない場合には、冷却液漏れが発生してしまう虞れがある。エア供給の異常を検知し、冷却液の循環を停止させることは可能であるが、たとえば、主軸が立形に配置された工作機械であって、主軸内へ供給された冷却液を供給源へ戻す経路(戻り経路)が鉛直方向を向くように設置されている場合には、戻り経路内に残存する冷却液が主軸と固定部品との隙間へ逆流する事態を防止することができない。そのように冷却液漏れが生じると、供給源内の冷却液量が時間とともに減少するため、頻繁に冷却液の補充が必要となり、コストアップに繋がる。
【0005】
本発明の目的は、上記従来の工作機械の主軸の冷却機構が有する問題点を解消し、簡易な機構で残存油を経路内に留め、エア供給に異常が生じて冷却液の循環を停止させた際における戻り経路からの冷却液の逆流による漏れを防止することが可能な主軸の冷却機構を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の内、請求項1に記載された発明は、主軸が軸受を介してハウジングに回転可能に組み付けられた工作機械において、前記主軸を冷却するための冷却機構であって、冷却液を供給源から主軸内へ供給するための供給経路および冷却液を主軸内から供給源へ戻すための戻り経路を有する外部冷却液流路と、主軸内に冷却液を流すためのための内部冷却液流路と、冷却液の漏洩を防止する目的でハウジングに固定された部品と主軸との隙間にエアを供給するためのエアシール手段とを有しており、前記戻り経路に、冷却液を下向きに流下させた後に上向きに押し流すために曲げた冷却液受け部が少なくとも一つ以上設けられていることを特徴とするものである。
【0007】
請求項2に記載された発明は、請求項1に記載された発明において、前記冷却液受け部が管状機構を有しており、外部冷却液流路および内部冷却液流路で冷却液を循環させる際に、冷却液受け部全域で冷却液が滞留しないように構成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に係る工作機械の主軸装置の冷却機構によれば、エアシールの作動および冷却液の循環が停止した後に、戻り経路の残存油を経路内に留めることができるので、主軸装置内への流入(逆流)によって生じる油漏れを防止することができ、冷却液の補充に伴うコストを低減させることが可能である。
【0009】
請求項2に係る工作機械の主軸装置の冷却機構によれば、冷却液受け部全域で冷却液が滞留しないため、冷却液受け部内のエアの占有比率が高くなり、エア供給異常により冷却液の循環を停止した際に、効率的に冷却液を留める空間を確保することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】工作機械の主軸の冷却機構を示す説明図(主軸の設置部分については、主軸の軸方向に沿った鉛直断面図)である。
【図2】冷却液受け部の変更例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<主軸の冷却機構の構成>
以下、本発明に係る工作機械の主軸の冷却機構の一実施形態について、図面に基づいて詳細に説明する。図1は、工作機械の主軸設置部分を示したものであり、工作機械Mにおいては、主軸1が、フロント側の軸受3(第一軸受3aおよび第二軸受3b)およびリア側の軸受(図示せず)を介して、ハウジング2に、鉛直軸を中心として回転可能に支持されている。
【0012】
また、工作機械Mには、冷却液を主軸1内に供給するための供給源21、冷却液を供給源21から主軸1内へ供給するための供給経路22,22・・および冷却液を主軸1内から供給源21へ戻すための戻り経路23,23・・を有する外部冷却液流路24、主軸1内に冷却液を流すための内部冷却液流路25,25・・、冷却液の漏洩を防止するためにハウジング2に固定された部品(固定部品)と主軸1との隙間にエアを供給するためのシールエア供給孔6a,6a・・、シールエア吐出口6b,6b・・、コンプレッサ31を含むエアシール手段26等からなる冷却機構が設けられている(なお、図1においては、一つの供給経路22、および、一つの戻り経路23のみが示されている)。
【0013】
主軸1は、先端に工具を装着するためのテーパ孔1aが設けられている(なお、図1においては、工具を装着するためのドローバ等の構成は省略されている)。また、第二軸受3bの上方には、矩形の断面形状を有する円環状溝である液受け部7が、外周にリング状に刻設されている。一方、第一軸受3aの下方には、扁平な円柱状で複数の流出孔11,11・・が、主軸1の外周方向において等間隔で、主軸1の軸方向と直交するように穿設されている。そして、それらの液受け部7と流出孔11,11・・とを連結するように複数の穴状流路8,8・・が直線状に設けられている。なお、それらの液受け部7、流出孔11,11・・、穴状流路8,8・・によって、主軸1内に冷却液を流すための内部冷却液流路25が構成されている。
【0014】
一方、ハウジング2は、主軸1を覆うように中空の円筒状に形成されている。そして、主軸1の液受け部7と対峙する位置には、外部冷却液流路24を循環した冷却液を液受け部7へ供給するための複数の冷却液供給孔9,9・・が、ハウジング2の外周方向において等間隔となるように穿設されている。
【0015】
各冷却液供給孔9,9・・は、それぞれ、冷却液供給口4,4・・に接続したジョイント金具12を介して、供給経路22に接続されている。なお、各冷却液供給孔9,9・・の供給口9aは、主軸1の液受け部7より幅狭になるように形成されており、液受け部7の幅方向(上下方向)の略中央に位置した状態になっている。
【0016】
また、ハウジング2の主軸1の流出孔11,11・・と対峙する位置には、主軸1内を流下した冷却液を流出孔11,11・・から回収して外部冷却液流路24へ導くための複数の冷却液回収孔10,10・・が、ハウジング2の外周方向において等間隔となるように穿設されている。そして、それらの冷却液回収孔10,10・・は、それぞれ、冷却液回収口5,5・・に接続したジョイント金具12を介して、戻り経路23,23・・に接続されている。
【0017】
さらに、工作機械Mには、冷却液供給孔9,9・・、および、冷却液回収孔10,10・・からの冷却液の漏洩を防止するためのエアシール手段26が付設されている。エアシール手段26は、ハウジング2の外部に設置されたコンプレッサ31、ハウジング2の各冷却液供給孔9,9・・の上下、および、各冷却液回収孔10,10・・の上下の内壁面に刻設された2個1組のシールエア吐出口6b,6b、それらのシールエア吐出口6b,6bとハウジング2の外面とを繋ぐように穿設されたシールエア供給孔6a,6a、それらのシールエア供給孔6a,6aとコンプレッサ31とを接続する配管28等によって構成されている。
【0018】
すなわち、ハウジング2の内壁面の冷却液供給孔9,9・・の上下には、それぞれ、主軸1上にエアシールを形成するためのシールエア吐出口6b,6b・・がリング状(周状)に刻設されており、液受け部7を上下で挟んだ状態になっている。さらに、冷却液供給孔9,9・・の上下でハウジング2を貫通するように、コンプレッサ31からエアを供給するための複数のシールエア供給孔6a,6a・・が、ハウジング2の外周方向において等間隔で、主軸1の軸方向と直交するように穿設されており、各シールエア吐出口6b,6b・・と連通した状態になっている。
【0019】
また、ハウジング2の内壁面の冷却液回収孔10,10・・の上下にも、それぞれ、冷却液供給孔9,9・・の上下と同様に、主軸1上にエアシールを形成するためのシールエア吐出口6b,6b・・がリング状に刻設されており、流出孔11を上下で挟んだ状態になっている。さらに、冷却液回収孔10,10・・の上下でハウジング2を貫通するように、複数のシールエア供給孔6a,6a・・が、ハウジング2の外周方向において等間隔で、主軸1の軸方向と直交するように穿設されており、各シールエア吐出口6b,6b・・と連通した状態になっている。
【0020】
一方、ハウジング2の外部には、冷却液を貯留させるタンクおよび冷却液を循環させるためのポンプ等を備えた供給源21が設置されている。そして、当該供給源21は、供給経路22,22・・、ジョイント金具12,12・・を介して、ハウジング2の各冷却液供給孔9,9・・と連結されているとともに、戻り経路23,23・・、ジョイント金具12,12・・を介して、ハウジング2の各冷却液回収孔10,10・・と連結されている。
【0021】
上記した供給経路22,22・・および戻り経路23,23・・は、いずれも曲げることが可能なチューブによって構成されている。そして、戻り経路には、略半円弧状(U字状)に湾曲した冷却液受け部27が形成されており、冷却液を下向きに流下させた後に上向きに押し流すように構成されている。
【0022】
加えて、上記した主軸1の冷却機構32においては、各冷却液受け部27,27・・の容積(図1におけるαからβまでの部分の容積)をVoとし、各戻り経路23,23・・における主軸1から鉛直方向の頂点までの容積(図1におけるβからγまでの部分の容積)をVuとし、冷却液の循環中(シールエア手段の作動中)の各戻り経路23,23・・内における冷却液の占有比率をRとした場合に、各冷却液受け部27,27・・の容積Voが、下式(1)を満たすように設計されている。
Vo>( Vu+Vo)×R ・・・(1)
【0023】
<主軸の冷却機構の作用>
上記した主軸1の冷却機構32においては、供給源21から供給経路22に供給された冷却液は、主軸1の各冷却液供給孔9,9・・の供給口9aから液受け部7に供給される。液受け部7に供給された冷却液は、各穴状流路8,8・・、各流出孔11,11・・、各冷却液回収孔10,10・・を順に通り、フロント側の軸受3a,3bを主軸1内から冷却した後に、供給源21に回収される。
【0024】
また、エアシール手段26の作動中には、主軸1の表面に形成された液受け部7および流出孔11,11・・が、それぞれの上下に設けられたシールエア吐出口6b,6bから吹き出す高圧エアによってシールされるため、冷却液が主軸1とハウジング2の固定部品との隙間から漏れない。
【0025】
さらに、各戻り経路23,23・・に、冷却液を下向きに流下させた後に上向きに押し流すために曲げた冷却液受け部27が設けられているため、エアシール手段26の作動および冷却液の循環が停止した後には、各戻り経路23,23・・の残存油が湾曲した冷却液受け部27内に留められ、主軸1内へ流入(逆流)する事態が生じない。
【0026】
<主軸の冷却機構による効果>
主軸1の冷却機構32は、上記の如く、冷却液を供給源21から主軸1内へ供給するための供給経路22,22・・および冷却液を主軸1内から供給源21へ戻すための戻り経路23,23・・を有する外部冷却液流路24と、主軸1内に冷却液を流すための内部冷却液流路25と、冷却液の漏洩を防止する目的でハウジング2に固定された固定部品と主軸1との隙間にエアを供給するためのエアシール手段26とを有しており、戻り経路23,23・・に、冷却液を下向きに流下させた後に上向きに押し流すために曲げた冷却液受け部27が設けられている。したがって、主軸1の冷却機構32によれば、エアシール手段26の作動および冷却液の循環が停止した後に戻り経路23,23・・の残存油を経路内に留めることができるので、主軸1内への流入(逆流)によって生じる油漏れを防止することができ、冷却液の補充に伴うコストを低減させることができる。
【0027】
また、主軸1の冷却機構32は、冷却液受け部27,27・・が管状機構を有しており、外部冷却液流路24および内部冷却液流路25で冷却液を循環させる際に、各冷却液受け部27,27・・内のエアの占有比率が高くなり、エア供給異常により冷却液の循環を停止した際に、効率的に冷却液を留める空間を確保することが可能となる。
【0028】
さらに、主軸1の冷却機構32は、エアシール手段26を用いているため、主軸1と固定部品との隙間に供給されたエアが冷却経路(内部冷却液流路25および外部冷却液流路24)内に混入し、経路内を油とエアが混在して流れるため、冷却液の循環停止後に戻り経路23,23・・内に残存する油の量が、戻り経路23,23・・の容積より小さくなっている。加えて、上記の如く、各冷却液受け部27,27・・の容積Voが、上式(1)を満たすように設計されているため、戻り経路23,23・・の残存油を確実に経路内に留めることができるので、主軸1内への流入によって生じる油漏れをより確実に防止することができる。
【0029】
<主軸の冷却機構の変更例>
本発明に係る主軸の冷却機構の構成は、上記実施形態の態様に何ら限定されるものではなく、外部冷却液流路(供給経路、戻り経路)、内部冷却液流路、エアシール手段、供給源等の構成を、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、必要に応じて適宜変更することができる。また、本発明に係る主軸の冷却機構を設ける工作機械の構成も、上記実施形態の態様に何ら限定されるものではなく、主軸、軸受、ハウジングの形状、構造等の構成を、必要に応じて適宜変更することができる。
【0030】
たとえば、戻り経路に設ける冷却液受け部の形状は、上記実施形態の如く、単純に配管をU字状に湾曲させた形状に限定されず、図2(a)の如く、配管を複数回に亘って上下に屈曲させた形状や、図2(b)の如く、主軸の回収孔よりも下側の位置に水平な円形部分を設けた形状、図2(c)の如く、配管を螺旋状に湾曲させた形状等に変更することも可能である。また、冷却液受け部の設置位置は、上記実施形態の如く、戻り経路に限定されず、供給経路でも良いし、ハウジングに穿設する冷却液供給孔や冷却液回収孔の途中に冷却液受け部を設けることも可能である。
【符号の説明】
【0031】
M・・工作機械
1・・主軸
2・・ハウジング
3(3a,3b)・・軸受
22・・供給経路
23・・戻り経路
24・・外部冷却液流路
25・・内部冷却液流路
26・・エアシール手段
27・・冷却液受け部
32・・冷却機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主軸が軸受を介してハウジングに回転可能に組み付けられた工作機械において、前記主軸を冷却するための冷却機構であって、
冷却液を供給源から主軸内へ供給するための供給経路および冷却液を主軸内から供給源へ戻すための戻り経路を有する外部冷却液流路と、主軸内に冷却液を流すための内部冷却液流路と、冷却液の漏洩を防止する目的でハウジングに固定された部品と主軸との隙間にエアを供給するためのエアシール手段とを有しており、
前記戻り経路に、冷却液を下向きに流下させた後に上向きに押し流すために曲げた冷却液受け部が少なくとも一つ以上設けられていることを特徴とする工作機械の主軸の冷却機構。
【請求項2】
前記冷却液受け部が管状機構を有しており、外部冷却液流路および内部冷却液流路で冷却液を循環させる際に、冷却液受け部全域で冷却液が滞留しないように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の工作機械の主軸の冷却機構。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−103299(P2013−103299A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−248918(P2011−248918)
【出願日】平成23年11月14日(2011.11.14)
【出願人】(000149066)オークマ株式会社 (476)
【Fターム(参考)】