説明

工場排気ガス処理装置

【課題】印刷工場、塗装工場、金属表面処理工場等から排出される、光化学スモッグの原因となる微小粒子物質、特にVOC(揮発性有機化合物)及び塗料、インクなどの高沸点有機化合物並びにダスト等を、ろ布に担持した吸着剤を使って除去する。ハンドリング性に優れ、かつ吸着剤の消費量が少なく、また、吸着剤の再生が容易な排気ガス処理装置を提供する。
【解決手段】排気ガスを比表面積の大きなろ布21上に、吸着剤タンク23から吸引展着した活性炭等の吸着剤層22と接触させ、ガス中の有害成分を除去する。排気ガス送風機の停止に先立ち、吸着剤層22に水タンク24からのスプレー水を噴霧して吸着剤を凝集させ、ろ布面から回収タンク26に集める。運転再開前に、所定量の吸着材をろ布21面上に送風機の負圧を利用して展着させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、印刷、塗装、めっき等の各種工場から排出される、光化学スモックの原因となる微小粒子状物質を効果的に捕集、除去するための工場排気ガス処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
大気環境中に含まれる微小粒子状物質の規制は、健康上の観点から、粒子径が2.5μm以下のものが対象となり、WHO、その他各国において、PM2.5として各種の規制が設けられている。わが国における環境基準は、年平均15μg/m、かつ1日平均35μg/mという厳しい規制が設けられている。
【0003】
光化学オキシダントは窒素酸化物及び揮発性有機化合物(以下「VOC」という。)が主なものであり、前者の自動車や火力発電所等から発生する各種の窒素酸化物に対しては、技術的な対応が進んでいる。
【0004】
しかし、後者のVOCはベンゼン、トルエン、キシレン、酢酸エチルといった芳香族又は脂肪族の有機溶剤が主な成分であって、これらに加え、塗料粒子やインクに含まれる高沸点樹脂の飛沫粒子等が同伴されることが多い。発生源としては、塗装工場、印刷工場、金属表面処理工場等であり、近年の調査では、VOC発生量の90%近くがこれらの工場と推定されている。
【0005】
VOCの発生源は、産業的には中小規模の企業が多く、作業工程が複雑であり、完全な自動化が困難であるとともに、環境面での設備の投資も必ずしも十分とは言いがたい。
【0006】
例えば、一般的な塗装工場は、建屋内にいくつかの塗装ブースと乾燥ライン、塗料の配合・供給場所、また被塗装材の搬入と塵埃除去、研磨装置等があり、排気は複数の排気口に設けたプレフィルタで大粒のミストや塵埃を除き、専用の排気ダクトを通って外部の活性炭やゼオライトなどを充填した処理装置で吸着処理してから大気中に放出する。
【0007】
しかし、作業条件によっては、プレフィルタに溜まった水分にVOCが溶け込み、水滴となって壁面や床面を汚染したり、排気ダクト系の圧力損失の大きな原因になって排気処理設備が十分な性能を発揮していない場合がある。
【0008】
また、外部のVOC吸着装置の維持管理も面倒な作業であり、とかく疎かになりがちで、設備面と管理作業との両面から見ても、常に良好な排気性能を維持し続けることは困難である。そこで、取り扱いやすくしかも低廉なVOC吸着装置の開発が望まれている。
【0009】
VOCガス除去用フィルターとして、無機繊維層間に合成ゼオライト吸着材を一体型に担持、成形した再生可能なものが特許文献1および特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−49287号公報
【特許文献2】特開2009−61433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、前記の特許文献1及び2に記載の技術は、いずれもろ布とゼオライト吸着材とが一体に成形され、再生するには、高温度の雰囲気下で脱着または熱分解させている。したがって、合成ゼオライトの熱劣化や無機質成分の灰化と堆積によるフィルターの目詰まりなどが起こり易い。
【0012】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、再生処理が容易で、VOC並びに塗料ミストまたは工場ダスト等を確実に捕捉でき、吸着剤の消費量を制御できる経済的な工場排気ガス処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記の課題を達成するために、本発明は、工場内に複数配置されている排気ダクト入り口のプレフィルターを使わずに、VOC、高沸点有機化合物粒子や塵埃等を含む工場内の排気ガスを直接外部に設置してある処理装置に送風して一括処理するものである。外部処理装置は、ろ布面にVOC吸着剤を送風機の負圧を利用して担持したろ過装置であり、VOCの最大想定日排出量の1日分(排気ダクト送風機の連続運転時間)を単位とする所定量の吸着剤を担持する。
【0014】
送風機の運転停止の直前に水分を吸着剤に散布して、粉体を塊状にして自然落下し易くして処理装置の底部に堆積させる。所定量溜まったところで外部に排出して、再生処理し、一部は焼却処理等で処分する。
【0015】
排気ガス処理装置の運転再開に先立ち、未使用または再生済みの吸着剤を入り口側ダクト又はろ布面近傍に供給し、排気ダクトの送風機の負圧を利用して所定量の吸着剤をろ布面上に均一に担持させる。続いて工場内からの排気ガスを連続的に流通させ、排気ガス処理運転を再開する。
【0016】
VOC吸着剤としては、各種の活性炭、ゼオライト、シリカサンド、アルミナ、チタニア等を使用することができる。
【0017】
すなわち、本発明の請求項1は、工場内からの排気ダクトに接続する排ガス処理装置であり、該装置は可撓性を有するろ布と該ろ布を保持して入り口側と出口側の空間を隔離する保持材と、前記ろ布面に所定量堆積したVOC吸着剤と、該吸着剤に水分を供給してろ布面から剥離除去する手段と、所定量のVOC吸着材をろ布面上に堆積させる手段と、を備えたことを特徴とする工場排気ガス処理装置である。
【0018】
そして請求項2の発明は、請求項1において、ろ布は下方に開口した円筒袋状のバグフィルタであることを特徴とする工場排気ガス処理装置である。
【0019】
また請求項3の発明は、請求項1において、ろ布は上下に対向する少なくとも1対の回転軸間を巻回移動可能なVOC吸着剤を担持した無端状ろ布体であり、該無端状ろ布の上部にある水スプレー手段と、下端部にあってVOC吸着材を掻き落す回転ブラシと、掻き落したろ布面に新しい吸着材を吸引担持させる吸着材供給手段、を備えたことを特徴とする工場排気ガス処理装置である。
【発明の効果】
【0020】
請求項1に基づく本発明では、工場建屋から引き出される複数の排気ダクト出口にプレフィルタ等を設けていないため、排気系の圧力バランスの変動が低く抑えられ、トータルの圧力損失が低く排気動力が減少する。またプレフィルタ設置部でのドレインによる建造物の汚染がなく、塗料ミスト、VOC、塵埃、高沸点有機物等の汚染物質は、一括してろ布の表面に担持された活性炭、ゼオライト、シリカサンド等の吸着剤に捕獲される。吸着剤は排気ファンの停止とともにろ布面から一部が剥落する。
【0021】
さらに、逆送風や槌打等の機械的振動を加えることによって完全に剥離し、排ガス処理装置の下方部にVOCを吸着した吸着剤が溜まるので、所定時間ごとに回収し、減圧下で加熱することでVOCの脱着及び塗料ミストの熱分解工程を経て吸着剤の再生をすることができる。
【0022】
ろ布上のVOCを吸着した吸着剤の剥離に先立ち、剥離性と回収性を高めるために水を散布する。吸着剤に水を散布することによって、吸着材粒子同士が塊状に集合しやすくなる。通常、吸着材は、ミクロンオーダないしミリメータ以下の微細な粒子であって、乾燥状態では飛散しやすくハンドリングが容易ではない。しかし、十分に加湿することによって、静電気が失われて粒子同士に付着力が発生して粒子化し、塊状のものになって、空気中での落下速度を著しく高なるので吸着材の回収作業が容易になる。
【0023】
再起動前に、入り口側のダクト又はろ布面の近傍に供給した未使用または再生済みのVOC吸着剤に気流を流して流動化させ、ろ布の表面に均一に吸引・堆積させた後に、工場からの排気ガスを流入させて処理する。吸着剤の堆積量は、ろ布前後の差圧を測定することによって、正確に制御することができるので、無駄に吸着剤を消費することを避けられる。
【0024】
更に、特定のVOC成分の濃度を、ろ布面の前後で測定することができるので、ろ過装置の性能を確認するとともに、必要な吸着剤量を正確に算出することができるため、過剰な吸着剤を減らし、空気抵抗を減らして送風機動力を減らすことができる。
【0025】
このように、使用済み吸着材の回収及び未使用吸着材の装着作業がきわめて簡便であり、排気系送風機の停止・起動に伴って行なわれるために、ガス処理装置の性能が常に更新されて、VOCの高い回収率が達せられる。
【0026】
請求項2に係る発明では、ろ布は下方に開口した複数の可撓性を有する袋体(バグ)であって、単位容積あたりのろ過面積を大きくすることができる。また、使用済みの吸着剤の回収も逆送風、槌打、バネによる振動等で容易に剥落させることができる。
【0027】
請求項3の発明は、ろ布は上下に対向する少なくとも1対の回転軸間を巻回移動可能なVOC吸着剤を担持した無端状ろ布体であり、該無端状ろ布体の上部にある水スプレー手段と、下端部に位置するVOC吸着剤を掻き落す回転ブラシと、掻き落したろ布面に新しい吸着剤を吸着担持させる吸着材供給手段、を備えている。使用済みの吸着剤は、ろ布が下方の回転軸によって織目が伸ばされた状態で回転するブラシに接触するため、粉塵となって舞い上がる量も少なく、確実に剥離して回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は、本発明の工場排気ガス処理装置を塗装工場の排ガス処理に適用した実施例の説明図である。
【図2】図2の(A)は活性炭吸着剤に水を噴霧したときの拡大外観図であり、(B)は、乾燥状態の活性炭吸着剤表面の拡大外観図である。
【図3】図3は、排ガス処理装置の他の実施の形態の一部展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面に基づいて本発明を説明する。
【0030】
[第1の実施の形態]
図1は、塗装工場10からの排気ガスを処理する工場排気ガス処理装置の全体構成図である。
【0031】
排気口は、塗装ブースごと又は建屋の壁面に設けられ、工場内の空気が、直接外部に漏出できないようにしている。排気ダクト15内の空気は送風機16によって吸引され、切替弁14を経由してバグフィルタ装置12に入る。このバグフィルタ装置12には、上下の保持材間に張設された下方に開口した袋状のろ布21が複数あり、ろ布21の内表面に活性炭等の吸着剤層22が展着している。排気ガスに含まれる有害成分は、吸着剤層22に捕捉され、清浄空気が送風機16から大気中に放出される。有害成分を吸着した吸着剤層22は、切替弁14及び排出弁34を閉じ、槌打装置等による振動を与えてろ布21の内面から払い落とすことができる。しかし、バグフィルタ装置12内に浮遊する粉塵は自然沈降させようとすると時間がかかるので、水供給タンク24から水を噴霧する。好ましくは、吸着剤がろ布21面に堆積している状態で水を噴霧すると、100μm前後の粒子が互いに凝集して数ミリの塊状物になって、容易にろ布21面から剥落して装置の底部に落下する。落下した吸着剤は、装置下方の吸着剤回収タンク26に保管され、必要に応じて、加熱、賦活処理によって再生され、吸着剤供給器23に戻して再利用される。
【0032】
図2(A)は、メッシュ上に堆積した活性炭の吸着剤層22に、超音波加湿器で発生したミストをあてたときの外観拡大写真の模式図であり、吸着剤の微粒子が互いに付着しあって粒状又は塊状の粒子に変化していることが分かる。図2(B)は、乾燥状態の活性炭の吸着剤の表面を拡大した写真の模式図であり、微粒子のままである。
【0033】
運転再開は、送風機16を稼動させ、これの吸引力を利用して、吸着剤供給器23内の吸着剤層22を流動化し、切替弁14を経てろ布21の表面に導入・堆積させる。吸着剤層22の堆積量は、ろ布21の表面側及び裏側間の圧力差を測定する差圧計28によって確認することができる。150μm以下の活性炭の嵩密度は0.3〜0.5であり、圧力差が2000Paのとき、堆積量は300〜500mg/m、堆積厚さに換算すると、約100μm程度である。堆積厚さが2倍になると圧力差も2倍強になる。なお、VOCの吸着量は、活性炭重量の1/10〜1/5である。
【0034】
工場排気ガスの処理作業中は、ろ布21を通過する前後のVOC濃度を濃度計29によって連続的または間歇的に測定し、環境に対する保証をするとともに、活性炭の吸着剤層22の最適使用量を求めることができる。
【0035】
[第2の実施の形態]
図3は、本発明に係る工場排ガス処理装置の別の態様のものである。なお、第1の実施の形態と同様の部材及び装置は同符号を付して説明する。
【0036】
バグフィルタ装置12の中に、上下に位置する少なくとも1対の回転軸46及び47があり、この軸体間に掛け渡された回動自在な無端状ろ布21があって、その表面に堆積、保持されている吸着剤層22を排ガスが通過する間に、VOC等の有害成分がろ過される。すなわち、工場からの排ガスはダクト15によってバグフィルタ装置12に導入され、吸着剤層22を有する無端状ろ布21の面を通過して、ろ布21の内部空間に移動し、次いで排気ダクト17から大気中に放出される。
【0037】
吸着作業が終了した後、水散布ノズル27から霧状にした水をろ布21上に堆積している吸着剤層22に散布して湿潤状態にした後、下部の回転軸47の下方に並行に位置する回転ブラシ25によって完全に剥離除去される。次に回転ブラシ25の後段に設けた未使用吸着剤の吸着剤供給器23から吸着剤を吸引ろ過して、ろ布21の表面に吸着剤層22を形成して再生作業を完了する。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の工場排ガス処理装置は、塗料ミスト、VOC,高沸点有機化合物並びに各種のダスト等の有害成分をろ布を使って除去するものであり、きわめて有効な発明であって、産業上の利用が可能である。
【符号の説明】
【0039】
10…工場、14…切替弁、16…送風機、21…ろ布、22…吸着剤層、23…吸着剤供給器、24…水供給タンク、25…回転ブラシ、27…水散布ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工場内からの排気ダクトに接続する排ガス処理装置であり、該装置は可撓性を有するろ布と、該ろ布を保持して入り口側と出口側の空間を隔離する保持材と、前記ろ布面上に所定量のVOC吸着材層を堆積させる手段と、該吸着剤層に水分を供給してろ布面から剥離除去する手段と、を備えたことを特徴とする工場排気ガス処理装置。
【請求項2】
請求項1において、前記ろ布は下方に開口した円筒袋状のバグフィルタであることを特徴とする工場排気ガス処理装置。
【請求項3】
請求項1において、前記ろ布は上下に対向する少なくとも1対の回転軸間を巻回移動可能なVOC吸着剤を担持した無端状ろ布であり、該無端状ろ布の上部にある水スプレー手段と、下端部に位置するVOC吸着材を掻き落す回転ブラシと、掻き落したろ布面に新しい吸着材を吸引担持させる吸着材供給手段、を備えたことを特徴とする工場排気ガス処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−200837(P2011−200837A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−72806(P2010−72806)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(595145050)日立プラント建設サービス株式会社 (4)
【出願人】(506209422)地方独立行政法人 東京都立産業技術研究センター (134)
【Fターム(参考)】