説明

工業ブラシ用毛材および工業ブラシ

【課題】従来の工業ブラシ用毛材に比べて被洗浄体表面およびその微細部分の汚れを効率よく洗浄することができるとともに、被洗浄体表面に傷を付けることがない工業ブラシ用毛材および工業ブラシの提供。
【解決手段】合成樹脂異形断面モノフィラメントのカットブリッスルからなる工業ブラシ用毛材1であって、異形断面は複数の球状凸部6とこの球状凸部6間に位置する凹部7とを有する多葉断面であり、カットブリッスルの本体部側面にその長さ方向に沿って前記球状凸部6からなる複数の螺旋状凸条部2を有するとともに、カットブリッスルの少なくとも一端側に球状凸部6からなる複数の分岐毛3を有し、かつこれら各分岐毛3の先端がテーパー状に形成されている工業ブラシ用毛材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来の工業ブラシ用毛材に比べて被洗浄体表面を傷付けることがなく、且つ清掃性に優れた工業ブラシ用毛材およびこの工業ブラシ用毛材を使用した工業ブラシに関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイやプラズマディスプレイに代表されるFDPや各種半導体の製造においては、基盤の精密洗浄が不可欠であり、その洗浄精度が製品の性能や不良率に大きく影響する。特にFDPは近年大型化が進み、その長大な基盤全体を高精度に洗浄する新たな技術が求められている。
【0003】
従来から、FDP用基盤の洗浄には、合成樹脂製毛材を植毛したロールブラシを回転させ、流水中でこのロールブラシをFDP表面に押し当てて物理的に汚れを除去する方法が採用されている。しかし、この方法ではロールブラシを押圧して洗浄するため、毛材全体が湾曲して毛材側面で摩擦洗浄することになり、その結果、FDPの平面部分の汚れは除去されるものの、細部には異物が残留しやすいといった欠点があった。
【0004】
また、従来の合成樹脂製毛材は、基台に植毛してブラシに加工する際に、毛材の長さを揃えるために切断加工を行う必要があり、その際に毛材の長さに誤差が生じるため、被洗浄体表面に傷が付いたり、さらには汚れが再付着したりするなどの問題があった。
【0005】
これに対し、先端にテーパー部を形成したブラシ用毛材(例えば、特許文献1参照)が知られており、このブラシ用毛材は、その毛先が被洗浄体表面の微細部分まで入りやすいために細かな汚れも落としやすく、また毛先が柔らかいために被洗浄体表面を傷付けにくいなどの特長を有するものであった。しかしながら、このブラシ用毛材を工業ブラシとして使用した場合には、毛材の摺動方向に沿って、毛材の側面が被洗浄体表面に付着した汚れに対し線接触するだけであるため、被洗浄体表面の汚れを落とす性能が弱いという問題があった。
【0006】
また、三角或いは四角断面モノフィラメントからなるブリッスルを捻り加工すると共に、このブリッスルの先端に複数の先鋭なテーパー状の分岐毛を形成したブラシ用毛材(例えば、特許文献2参照)も既に知られており、このブラシ用毛材は、毛材と被洗浄体表面との接触面積が増大することから、上述した従来のブラシ用毛材よりもさらに高い清掃性が得られるという特徴を有するものであった。しかしながら、このブラシ用毛材は、毛材の側面長手方向に捻り加工により形成された凸条の先端が鋭利であることから、被洗浄体表面に傷を付けやすいという問題を包含するものであった。
【0007】
これに対して、毛先にテーパー部とこのテーパー部の外周に捩り形成された螺旋状の溝とを形成することにより、異物を効果的に除去できるようにしたブラシ用毛材(例えば、特許文献3参照)が既に提案されている。しかし、このブラシ用毛材を工業ブラシ用として使用した場合もまた、期待するほどの清掃効果が得られないばかりか、その加工方法が極めて難しく、製造コストが高くなるなど製造面でも多くの問題を抱えていた。
【0008】
このように、従来のブラシ用毛材は、それぞれ特異的な特徴を有するものの、工業ブラシ用毛材としての要求特性を十分に満足するものではなかったため、新たな特性を備えた工業用ブラシの実現が頻りに求められていた。
【特許文献1】特許第3145213号公報
【特許文献2】特開2003−144229号公報
【特許文献3】特開2003−189943号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものある。すなわち、本発明は、従来の工業ブラシ用毛材に比べて被洗浄体表面を傷付けることがなく、且つ清掃性に優れた工業ブラシ用毛材およびこの工業ブラシ用毛材を使用した工業ブラシを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために本発明によれば、合成樹脂異形断面モノフィラメントのカットブリッスルからなる工業ブラシ用毛材であって、前記異形断面は複数の球状凸部とこの球状凸部間に位置する凹部とを有する多葉断面であり、前記カットブリッスルの本体部側面にその長さ方向に沿って前記球状凸部からなる複数の螺旋状凸条部を有するとともに、前記カットブリッスルの少なくとも一端側に前記球状凸部からなる複数の分岐毛を有し、かつこれら各分岐毛の先端がテーパー状に形成されていることを特徴とする工業ブラシ用毛材が提供される。
【0011】
なお、本発明の工業ブラシ用毛材においては、
前記異形断面が3〜6つの球状凸部を有する多葉断面であること、
前記螺旋状凸条部の螺旋回数が0.5〜4.0回転/cmであること、
前記ブリッスルの本体部外接円直径が10〜180μmであること、および
前記合成樹脂異形断面モノフィラメントがポリエステル系樹脂からなること
が、いずれも好ましい条件として挙げられ、これらの条件を満たすことによりさらに優れた効果を取得することができる。
【0012】
また、本発明の工業ブラシは、上記の工業ブラシ用毛材を毛材の少なくとも一部に使用したことを特徴とし、従来の工業ブラシに比べて洗浄体表面およびその微細部分の汚れを効率よく洗浄することができるとともに、被洗浄体表面に傷を付けることがないなどの優れた効果を奏する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の工業ブラシ用毛材および工業ブラシは、その毛先にテーパー形状を有する複数本の分岐毛を有するために、毛先が被洗浄体表面の微細部分にまで入り込み、細かな汚れを効率よく除去することができるとともに、毛材の本体部側面長手方向に沿った螺旋状凸条部の先端が球状で丸みを帯びているため、被洗浄体表面を傷付けることがなく、被洗浄体表面の汚れをより効果的に除去することができる。
【0014】
よって、本発明によれば、より一層高い清掃効果を備えた工業ブラシを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を図面に従って具体的に説明する。
【0016】
図1の(a)は本発明の工業ブラシ用毛材の一例を示した概略図であり、1は工業ブラシ用毛材、2は螺旋状凸条部、3は分岐毛、4は本体部をそれぞれ示している。
【0017】
また、図1の(b)および(c)はそれぞれ図1(a)の工業ブラシ用毛材1を線A−AおよびB−Bで切断した際に現れる断面図であり、5は工業ブラシ用毛材1の本体部分4における異形断面、6はその異形断面5の球状凸部、7は同じく異形断面5の凹部、8は工業ブラシ用毛材1の分岐毛3の断面を示している。
【0018】
本発明の工業ブラシ用毛材1は、図1に示すように、合成樹脂異形断面モノフィラメントのカットブリッスルからなり、異形断面5は複数の球状凸部6とこの球状凸部間に位置する凹部7とを有する多葉断面からなり、カットブリッスルの本体部4側面にその長さ方向に沿って球状凸部6からなる螺旋状凸条部溝2を有するとともに、カットブリッスルの少なくとも一端側に球状凸部6からなる複数の分岐毛3を有し、かつこれら各分岐毛3の先端がテーパー状に形成されていることを特徴とする。
【0019】
本発明の工業ブラシ用毛材1の側面に形成された螺旋状凸条部2は、工業ブラシに使用した場合に、被洗浄体表面に付着した汚れを効率よく除去することができるため、高い清掃性を得る上で重要な役目を持っている。
【0020】
すなわち、本発明の工業ブラシ用毛材を工業ブラシとして使用した場合には、毛材の摺動方向に沿って、毛材の側面に形成された複数の螺旋状凸条部が、被洗浄体表面に付着した汚れに対し線接触と点接触とで接触し、全体の接触面積が増大するため、被洗浄体表面の汚れを落とす性能が飛躍的に向上するばかりか、螺旋状凸条部の先端が球状で丸みを帯びているため、被洗浄体表面を傷付けることがなく、被洗浄体表面の汚れをより効果的に除去することができるのである。
【0021】
ここで、工業ブラシ用毛材の側面に、その長さ方向に沿って形成される螺旋状凸条部の螺旋回数は、工業ブラシ用毛材の長さ方向に沿って0.5〜4.0回転/cmであることが好ましく、さらには1.0〜3.0回転/cmであることがより好ましい。
【0022】
この理由は、螺旋状凸条部の螺旋回数が上記範囲を下まわる場合は、清掃性に欠けた工業ブラシ用毛材となりやすく、逆に上記範囲を上回る場合は、工業ブラシ用毛材に曲がり癖が付きやすくなるばかりか、強度低下など、物性面に影響が及びやすいからである。
【0023】
なお、本発明の工業ブラシ用毛材を構成するブリッスルの本体部外接円直径は、10〜180μmであることが好ましく、さらには20〜150μmであることがより好ましい。
【0024】
この理由は、本体部外接円直径が上記範囲を下まわる場合は、清掃性に欠けた工業ブラシ用毛材となりやすく、逆に上記範囲を上回る場合は、糸質が硬くなり、被洗浄体表面を傷付ける場合があるからである。
【0025】
次に、本発明の工業ブラシ用毛材の少なくとも一端側に形成されるテーパー状の分岐毛は、被洗浄体表面の微細部分の細かな汚れを効率よく除去し、かつ被洗浄体表面を傷付けることがないなどの重要な役割を持つ。
【0026】
つまり、本発明の工業ブラシ用毛材は、その一端にテーパー形状を有する複数本の分岐毛を有することにより、被洗浄体表面の微細部分に入り込みやすく、細かな汚れを効率よく除去することができるとともに、被洗浄体表面を傷付けることがなく、綺麗に洗浄することができるのである。
【0027】
なお、本発明の工業ブラシ用毛材の螺旋状の螺旋状凸条部は何ら特殊な方法で形成する必要はなく、例えば、異形断面モノフィラメントを捻り、熱セットすることで容易に形成することができる。
【0028】
また、異形断面の形状については、被洗浄体表面の洗浄効果と後に記すアルカリ溶液による減量加工で容易に分岐毛を形成せしめることができるとの理由から、図1(b)および図2の(イ)〜(ホ)に示すような複数の球状凸部6を有する多葉形が好ましく、さらには3〜6つの球状凸部6を有する多葉形が好ましい。
【0029】
さらに、本発明の工業ブラシ用毛材を構成する合成樹脂については、ポリカプラミド、ポリヘキサメチレンアジパミド、ポリヘキサメチレンセバカミド、ポリヘキサメチレンドデカミド、ナイロン46、ナイロンMDX6、ナイロン11、ナイロン12、ポリ(カプラミド/ヘキサメチレンアジパミド)共重合体およびポリ(カプラミド/ラウラミド)共重合体などのポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリメチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリプロピレンナフタレートなどのポリエステル系樹脂、ポリフェニレンサルファイド、ポリフッ化ビニリデン、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・フッ化ビニリデン共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン・フッ化ビニリデン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、エチレンクロライド・テトラフルオロエチレン共重合体、フルオロビニルエーテルなどのフッ素系樹脂、ポリオレフィン系樹脂などから1種類または2種類以上適宜選択して使用することができ、特に限定されないが、後に記すアルカリ溶液による減量加工を利用して、工業ブラシ用毛材の一端にテーパー形状の分岐毛を容易に形成することができるとの理由から、本発明の工業ブラシ用毛材にはポリエステル系樹脂の使用が好ましく、さらには摩耗や弾性回復性などの耐久性に優れるとの理由から、ポリブチレンテレフタレートの使用が好ましい。
【0030】
なお、本発明で使用するポリエステル系樹脂には、本発明の目的を阻害しない範囲であれば、他のジカルボン酸成分およびジオール成分を共重合成分として含有せしめることができ、例えば、ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ベンゾフェノンジカルボン酸、フェニルインダンジカルボン酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバチン酸、シクロヘキサンジカルボン酸およびデカリンジカルボン酸などが挙げられ、ジオール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、オクタメチレングリコール、デカメチレングリコール、ネオペンチレングリコール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノールなどの脂肪族グリコール、o−キシリレングリコール、p−キシリレングリコール、m−キシリレングリコール、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシエトキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(2−ヒドロキシエトキシエトキシ)ビフェニル、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシエトキシ)フェニル]プロパン、1,3−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,3−ビス(2−ヒドロキシエトキシエトキシ)ベンゼン、1,2−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,2−ビス(2−ヒドロキシエトキシエトキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ジフェニルスルホン、4,4’−ビス(2−ヒドロキシエトキシエトキシ)ジフェニルスルホンなどの芳香族グリコール、およびヒドロキノン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、レゾルシン、カテコール、ジヒドロキシナフタレン、ジヒドロキシビフェニル、ジヒドロキシジフェニルスルホンなどのジフェノール類などが挙げられるが、これらの中から2種以上を選択して適宜使用することもできる。
【0031】
また、本発明の工業ブラシ用毛材1には、発明の効果を阻害しない範囲であれば、その目的に応じて、各種無機粒子、各種金属粒子および架橋高分子粒子などの粒子類のほか、公知の抗酸化剤、耐光剤、耐侯剤、イオン交換剤、着色防止剤、耐電防止剤、各種着色剤、ワックス類、シリコーンオイル、各種界面活性剤および各種強化繊維類などを適宜任意に添加せしめることもできる。
【0032】
次に、本発明の工業ブラシ用毛材および工業ブラシの製造方法について説明する。
【0033】
まず、本発明の工業ブラシ用毛材に使用される合成樹脂異形断面モノフィラメントの製造には、何ら特殊な製造装置を使用する必要はなく、例えば、公知のエクストルーダー型溶融紡糸機を使用して製造することができる。
【0034】
具体的にポリエステル系樹脂を使用して工業ブラシ用毛材を製造する場合には、予め乾燥したポリエステル系樹脂をエクストルーダー型溶融紡糸機に供給し、ポリエステル系樹脂の融点より20〜100℃高い温度で溶融混練した後、異形断面形状の吐出孔を有する紡糸口金からポリエステル系樹脂の溶融物を押し出す。
【0035】
次に、押し出されたポリエステル系樹脂の溶融物は、冷却浴中で冷却固化した後、90℃以上ポリエステル系樹脂の融点以下の温度条件下で3.5〜6.0倍に加熱延伸され、さらに必要に応じて加熱弛緩処理が施されて一旦巻き取られる。
【0036】
ここで、巻き取られた異形断面モノフィラメントには、その長さ方向に波形状を付与することもでき、波形状を付与することによりさらに触感性に優れた工業ブラシ用毛材を取得することができる。
【0037】
そして、一旦巻き取られた異形断面モノフィラメントは、例えば、捻りながら熱セット加工することにより、その側面に長さ方向に沿って螺旋状凸条部が形成される。
【0038】
次に、螺旋状凸条部が形成された異形断面モノフィラメントは、再び複数本に束ねられた後、使用する工業ブラシに応じた長さに切断され、カットブリッスルに加工され、さらにアルカリ溶液に浸漬され減量加工が施される。
【0039】
そして、アルカリ溶液による減量加工により、異形断面モノフィラメントの異形断面5の凹部が球状凸部よりも先に溶解して、球状凸部同士がそれぞれ分離し、さらに分離した各先端部分がテーパー状に溶解して分岐毛3が形成される。
【0040】
その後、洗浄および乾燥工程を経て得られたカットブリッスルは、工業ブラシ用毛材として通常の製造方法により工業ブラシに植毛される。
【実施例】
【0041】
以下、本発明の工業ブラシ用毛材について、実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0042】
なお、実施例および比較例における工業ブラシ用毛材の各物性および工業ブラシの実用評価については以下の通り行った。
【0043】
また、工業ブラシの評価には、実施例および比較例で得られた工業ブラシ用毛材を植毛したチャンネル型のロールブラシ(直径10mm、長さ500mm)を使用した。
【0044】
〔液晶基板の清掃性〕
得られたロールブラシを液晶基板(730mm×920mm)上に接触させ、加温した純水を噴霧しながら500rpmの回転で液晶基板を洗浄した。
【0045】
その後、液晶基板の表面を光学顕微鏡もしくは走査型電子顕微鏡にて観察し、汚れの付着状態を確認した。なお、判定基準は以下の3段階とした。
A・・液晶基板上の汚れの数が0〜10の範囲であった、
B・・液晶基板上の汚れの数が11〜35の範囲であった、
C・・液晶基板上の汚れの数が36以上であった。
【0046】
〔液晶基板上の傷の状況〕
上記評価方法と同時に、洗浄後の液晶基板の表面を光学顕微鏡もしくは走査型電子顕微鏡で観察し、傷の発生状態を確認した。なお、判定基準は以下の3段階とした。
1・・液晶基板上の傷の数が0〜5の範囲であった、
2・・液晶基板上の傷の数が6〜15の範囲であった、
3・・液晶基板上の傷の数が15以上であった。
【0047】
〔実施例1〕
ポリブチレンテレフタレート樹脂(東レ(株)製 1200S、以下、PBTという)を溶融紡糸機に供給して溶融混練した後、紡糸口金から溶融物を押し出し、冷却固化して未延伸を得た。
【0048】
その後、巻き取ることなく、温水浴および乾熱熱風浴中で加熱延伸し、さらに乾熱熱風浴中で加熱弛緩処理を施して、直径100μm、かつ3葉形断面の異形断面モノフィラメントを製糸した。
【0049】
次に、得られた異形断面モノフィラメントを熱セットしながら捻り加工し、異形断面モノフィラメントの側面にその長さ方向に沿って螺旋回数1.5回転/cmの螺旋状凸条部を設けた。
【0050】
さらに、この異形断面モノフィラメントを複数本に束ねて、その束の外周に紙テープを巻き、30cmの長さのカットブリッスルに加工した。そして、このカットブリッスルを水酸化ナトリウム水溶液に浸漬して減量加工を施し、カットブリッスルの両端にテーパー形状を有する分岐毛を3本形成し、工業ブラシ用毛材を作成した。
【0051】
〔実施例2、3〕
異形断面モノフィラメントの断面を6葉形と8葉形に変更したこと以外は、実施例1と同じ方法により工業ブラシ用毛材を作成した。
【0052】
〔実施例4、5〕
螺旋状凸条部の螺旋回数を0.4回転/cmと4.5回転/cmに変更したこと以外は、実施例1と同じ方法により工業ブラシ用毛材を作成した。
【0053】
〔実施例6〕
PBTの代わりにポリエチレンテレフタレート樹脂(東レ(株)製 T250M、以下、PETという)を使用したこと以外は、実施例1と同じ方法により工業ブラシ用毛材を作成した。
【0054】
〔比較例1〕
異形断面モノフィラメントの断面を丸形とし、さらに捻り加工を施さなかったこと以外は、実施例1と同じ方法により、単一テーパー形状の工業ブラシ用毛材を作成した。
【0055】
〔比較例2〕
異形断面モノフィラメントの断面を三角形としたこと以外は、実施例1と同じ方法により、単一テーパー形状の工業ブラシ用毛材を作成した。
【0056】
〔比較例3〕
異形断面モノフィラメントおよびそのカットブリッスルに捻り加工と水酸化ナトリウム溶液による減量加工を施さなかったこと以外は、実施例1と同じ方法により工業ブラシ用毛材を作成した。
【0057】
〔比較例4〕
異形断面モノフィラメントに捻り加工を施さなかったこと以外は、実施例1と同じ方法により工業ブラシ用毛材を作成した。
【0058】
〔比較例5〕
異形断面モノフィラメントのカットブリッスルに水酸化ナトリウム溶液による減量加工を施さなかったこと以外は、実施例1と同じ方法により工業ブラシ用毛材を作成した。
【0059】
以上、得られた工業ブラシ用毛材の評価結果を表1に併せて記載する。
【0060】
【表1】

【0061】
表1から明らかなように、本発明の条件を満たした工業ブラシ用毛材(実施例1〜6)は、比較例の工業ブラシ用毛材に比べて清掃性に優れ、液晶パネル用ガラス基盤表面に傷を付けることがないなど、優れた機能を有するものであることが分かる。
【0062】
これに対して、本発明の条件を満たさない工業ブラシ用毛材(比較例1〜5)は、清掃性に欠けるばかりか、液晶パネル用ガラス基盤表面に傷を付けやすいものであることが分かり、例えば、溝も分岐毛も持たない単一テーパー形状の工業ブラシ用毛材(実施例1)は清掃性に欠け、螺旋状凸条部を有するが、分岐毛を持たない単一テーパー形状の工業ブラシ用毛材(実施例2)も洗浄性に欠け、凸条部を有するが、その凸条部が螺旋状に形成されておらず、かつ分岐毛を持たない工業ブラシ用毛材(比較例3)は清掃性に欠けるばかりか、液晶パネル用ガラス基盤表面に傷が付きやすく、凸条部と分岐毛を有するが、その凸条部が螺旋状に形成されていない工業ブラシ用毛材(比較例4)は清掃性に欠け、さらに螺旋状凸条部を有するが、分岐毛を持たない工業ブラシ用毛材(比較例5)も清掃性に欠けたものであった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の工業ブラシ用毛材および工業ブラシによれば、その毛先にテーパー形状を有する複数本の分岐毛を有するために、被洗浄体表面の細かな汚れを効率よく除去することができるとともに、毛材の本体部側面長手方向に沿った螺旋状凸条部の先端が球状で丸みを帯びているため、被洗浄体表面を傷付けることがなく、被洗浄体表面の汚れをより効果的に除去することができ、より一層高い清掃効果が得られる。
【0064】
そして、本発明の工業ブラシ用毛材を使用した工業ブラシは、その特長を活かして、特にFDPや各種半導体の基盤の製造工程など、高精度な洗浄が要求される精密洗浄分野に極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】図1の(a)は本発明の工業ブラシ用毛材の一例を示す模式図、(b)および(c)はそれぞれ工業ブラシ用毛材の線A−Aおよび線B−Bにおける断面図である。
【図2】図2の(イ)〜(ホ)は本発明の工業ブラシ用毛材を構成するブリッスルの異形断面を示す断面図である。
【符号の説明】
【0066】
1 工業ブラシ用毛材
2 螺旋状凸条部
3 分岐毛
4 本体部
5 工業ブラシ用毛材の本体部分の異形断面
6 球状凸部
7 凹部
8 工業ブラシ用毛材の分岐毛部分の断面


【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂異形断面モノフィラメントのカットブリッスルからなる工業ブラシ用毛材であって、前記異形断面は複数の球状凸部とこの球状凸部間に位置する凹部とを有する多葉断面であり、前記カットブリッスルの本体部側面にその長さ方向に沿って前記球状凸部からなる複数の螺旋状凸条部を有するとともに、前記カットブリッスルの少なくとも一端側に前記球状凸部からなる複数の分岐毛を有し、かつこれら各分岐毛の先端がテーパー状に形成されていることを特徴とする工業ブラシ用毛材。
【請求項2】
前記異形断面が3〜6つの球状凸部を有する多葉断面であることを特徴とする請求項1に記載の工業ブラシ用毛材。
【請求項3】
前記螺旋状凸条部の螺旋回数が0.5〜4.0回転/cmであることを特徴とする請求項1または2に記載の工業ブラシ用毛材。
【請求項4】
前記ブリッスルの本体部外接円直径が10〜180μmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の工業ブラシ用毛材。
【請求項5】
前記合成樹脂異形断面モノフィラメントがポリエステル系樹脂からなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の工業ブラシ用毛材。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の工業ブラシ用毛材を毛材の少なくとも1部に使用したことを特徴とする工業ブラシ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−260199(P2007−260199A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−90026(P2006−90026)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(000219288)東レ・モノフィラメント株式会社 (239)
【Fターム(参考)】