説明

工業材用複合糸

【課題】汎用織機で織成できる工業材用複合糸及び工業材用複合糸からなる織物を提供すること。
【解決手段】一本の又は引き揃えられた複数本の導電性線材(wire)12を芯材14とし、補強糸16を芯材14に対して粗(露出させて)にスパイラル巻きする。そして、該工業材用複合糸から、織成等により布地を製造して電磁波シールド基材等に使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性線材(wire)を芯材とし、該芯材が補強糸(yarn)で粗に螺旋巻き(スパイラル巻き)されてなる新規な構成の工業材用複合糸に関する。
【0002】
本発明の工業材用複合糸は、特に、電磁波遮蔽・吸収基材、ガスケット基材、帯電防止・静電防止ろ過基材等の工業材料として好適なものである。
【0003】
ここでは、電磁波遮蔽織物に適用する場合を、主として、例に採り説明する。
【背景技術】
【0004】
昨今、電子機器(OA機器)の普及に伴い、電子機器をそれ以外の電磁波発生体(電子機器を含む。)から発生する電磁波から保護するために、逆に、電子機器から発生する電磁波を遮断するための可撓性布地の出現が要望されている。
【0005】
しかし、そのような可撓性布地を織成しようとした場合、金属線のままでは特別な織機を使用しなければ織成が困難であった。
【0006】
なお、工業材料用ではないが、肌触りの良い編物乃至織物を編み織できる複合糸として、芯線に金属線を含み、芯線を有機繊維糸でZ撚り及び/又はS撚りで被覆した編織用複合糸が特許文献1・2に記載されている。しかし、特許文献1・2に記載されているものは、金属線の太さは、直径が10〜50μmの鉄や鉄合金を予定しており、用途として電磁波遮断を目的とするものの衣料を予定しており、本発明におけるものとはその指向するところが異なる。
【特許文献1】特開2004−11033公報(請求項1)
【特許文献2】特開2004−190194公報(請求項1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記にかんがみて、汎用織機で織成できる工業材用複合糸及び工業材用複合糸からなる織物を提供することを目的(課題)とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意開発する過程で、相対的に太めの金属線材に対して、化学繊維等からなる糸を補強糸として粗に螺旋巻きすれば、汎用織機でも織成可能なことを知見して下記構成の工業材用複合糸に想到した。
【0009】
一本の又は引き揃えられた複数本の導電性線材(wire)を芯材とし、
該芯材に対して補強糸を螺旋巻き(スパイラル巻き)してなることを特徴とする。
【0010】
上記構成において、芯材を、前記導電性線材に対して、さらに、一本の又は複数本の補助補強糸(yarn)を添えた構成とすることもできる。
【0011】
上記構成において、補強糸の構成繊維を化学繊維で構成する場合、補強糸の繊度は33〜333dtex(30〜300d)とする。
【0012】
上記構成において、前記螺旋巻きの巻き数は、通常、100〜1000回/mとする。
【0013】
上記各構成において、前記導電性線材を金属線とした場合、該金属線の径は30〜120μmとする。
【0014】
上記金属線は、酸化防止処理銅線とすることが望ましい。
【0015】
上記補強糸は、ポリエステル糸とすることができる。
【0016】
そして、本発明は、上記各構成の工業用複合糸で形成した工業製品用布地又は織成されてなる工業製品用織物に及ぶ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0018】
本発明の工業用複合糸は、一本の又は引き揃えられた複数本の導電性線材(wire)12を芯材14とし、芯材14に対して補強糸16を粗に螺旋巻き(螺旋巻き)してなる(図1参照)。
【0019】
ここで、導電性線材としては、銅、銀、アルミニウム、鉄(ステンレス)等の金属線材ばかりでなく、炭素繊維線材(黒鉛繊維を含む。)や導電性ポリマー繊維及びそれらに導電性増強処理(例えば、銀めっき)を施したものも使用できる。
【0020】
導電性線材の太さは、金属線材の場合、1本換算で、30〜120μm、更には50〜100μmが好ましい。細すぎては強度とともに所要の電磁遮断能(電気移動能)を確保し難い。また、太すぎると汎用織機での織成が困難となる。
【0021】
なお、金属線材で、銅やアルミニウムのような酸化被膜が形成されやすいものの場合、酸化防止処理をすることが望ましい。酸化被膜の形成により、導電性が低化して、電磁波遮蔽効果が低減するおそれがあるためである。例えば、銅線の場合、錫めっき銅線を使用する。
【0022】
なお、芯材14は、上記導電性線材12に加えて、一本の又は複数本の補助補強糸(yarn)18を添えたものとしてもよい(図1(D)参照)。補助補強糸としては、後述の補強糸と同様のものを使用可能である。
【0023】
導電性線材の本数は、通常、複数本とする場合、例えば、線径30μmの場合3本以下とする(合計線径が120μm以下とすることが望ましい。)。本数が多すぎると、工業用布地が厚くなり、単位面積あたりの重量が増大するとともに可撓性もなくなる。
【0024】
上記補強糸としては、フィラメント糸(モノフィラメント糸又はマルチフィラメント撚り糸(双糸、三子糸等)、フィラメント引き揃え糸)、スパン糸(紡績糸)いずれでもよいが、マルチフィラメント糸が強度を付与しやすくて望ましい。
【0025】
補強糸の構成繊維としては、強度を付与できるものなら、天然繊維、化学繊維(合成繊維、半合成繊維、再生繊維、無機繊維)を問わない。
【0026】
紡糸によりフィラメントを得ることができ、強度も確保し易い極性合成繊維や無機繊維が望ましい。
【0027】
極性化学繊維としては、ポリエステル系(PET)、ポリアミド系(脂肪族ポリアミド、芳香族ポリアミド、脂環式ポリアミド)、アクリル系等の合成繊維、アセテート等の半合成繊維、レーヨン等の再生繊維、を挙げることができる。
【0028】
無機繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、セラミック繊維、金属繊維(ステンレス繊維)等を挙げることができる。
【0029】
上記以外に比較的強度が得やすいポリオレフィン系繊維(PPやPE)や耐熱性を得やすいフッ素系繊維のような無極性合成繊維であってもよい。
【0030】
そして補強糸の繊度は、補強糸の構成繊維の種類及び要求される補強度、更には、螺旋巻きピッチ等により異なる。例えば、33〜333dtex(30〜300d)、更には55〜275dtex(50〜250d)の範囲で適宜選択することが好ましい。
【0031】
螺旋巻きの態様は、S巻き(右巻きシングルカバー)(図1(A))、Z巻き(左巻きシングルカバー)(図1(B))S・Z巻き(ダブルカバー)(図1(C))いずれでもよい。強度的な見地からはS・Z巻き(ダブルカバー)が好ましい。
【0032】
例えば、ダブルカバーによる補強糸は、下記のようにして二段撚糸機を使用して製造する(図2参照)。
【0033】
最下段に配された導電性線材を線材供給ボビン(供給パッケージ)22から繰り出した芯材14を、中段の第1補強糸供給ボビン24の高速回転する回転軸(スピンドル)内を通過させて、ボビン24から繰り出される第1補強糸12で芯材をS巻き(S撚り)する。その後、さらに、S巻きされた芯材14を、上段の第2補強糸供給ボビン26の高速回転する回転軸(スピンドル)内を通過させて、第2補強糸12AでZ巻き(Z撚り)して、高速回転する複合糸巻取ボビン(巻取パッケージ)28で巻き取る。
【0034】
ここで、巻き採りボビン28の巻取速度と、第1・第2補強糸供給ボビン24、26の回転速度により螺旋巻きピッチを調整する。なお、30は糸道(案内リング)である。
【0035】
上記螺旋巻きの粗の態様は、隣接糸相互が非接触(密でない)であれば特に限定されない。補強糸の構成繊維の種類及び要求される補強度により異なる。例えば、巻き数で、100〜1000回/m、更には200〜800回/mの範囲で適宜選択することが好ましい。
【0036】
こうして調製(製造)した工業材用複合糸10は、種々の工業製品用布地の材料とすることができる。布地の態様は、特に限定されず、用途に応じて、織物(平織、斜文織(綾織)、朱子織)、編物(レース)、網状体等とする。
【0037】
例えば、100cm幅で100mのロール巻きに織成する。
【0038】
そして、それらの工業製品用布地は、電磁波シールド基材、ガスケット基材、帯電防止・静電防止ろ過基材等として使用が期待できる。
【0039】
さらに、中空組紐として、内側にハーネスや光ファイバー等の線状体を挿通させて、電磁波遮蔽管状体としても使用が期待できる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明の理解を更に容易にするために、実施例について説明する。
【0041】
なお、金属線(芯線)は、いずれも銅線(80μmφ)を、有機繊維糸(被覆線)は、ポリエステルウーリー加工糸(150d又は75d)を使用した。なお、最後の括弧内は有機繊維糸の繊度である。
【0042】
複合糸1(シングルカバー):S撚り300T/m(150d)
複合糸2(シングルカバー):S撚り600T/m(150d)
複合糸3(ダブルカバー):S撚り300T/m(150d)、Z撚り600T/m(150d)、
複合糸4(シングルカバー):S撚り600T/m(75d)
そして、上記各複合糸を使用して、表1に示す組合せで、汎用織機(石川製作所、グリッパータイプ/725ドビー装置)を使用して、下記条件で織物(平織)を作成した。
【0043】
応用例3を除いて、いずれも円滑に織ることができた。応用例3で使用した複合糸4は、75d補強糸のシングルカバーであるため、強度不足であったと推定される。当然、上記銅線のみでは、上記織機を使用した平織の織成は不可能であると推定される。
【0044】
なお、複合糸2について、JIS L 1013に基づいて、下記条件で引張、初期引張抵抗度試験を行った。
【0045】
試験条件)試験機種類:定速伸長形、つかみ間隔:20cm、
引張り速度:20cm/min
その結果は、下記の通りであった。
【0046】
引張り強さ:8.20N、
引張伸び率:26.1%、
初期引張強度:3.9N/texであった。
【0047】
また、応用例2−2の織布について、JIS L 1096に規定するA法(ラベルドストリップ法)に基づいて、下記条件で引張、初期引張抵抗度試験を行った。
【0048】
試験条件)試験機種類:定速伸長形、つかみ間隔:10cm、
引張り速度:10cm/min
その結果は、下記のとおりであった。
【0049】
引張強さ: たて糸方向 803N、よこ糸方向 914N、
引張伸び率:たて糸方向35.7%、 よこ糸方向 28.8%、
【0050】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の工業材用複合糸の各態様を示すモデル図である。
【図2】本発明の工業材用複合糸においてS・Z巻きでダブルカバーする場合の製造方法の説明図である。
【符号の説明】
【0052】
10 複合糸
12 導電性線材
14 芯材
16 補強糸
18 補助補強糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一本の又は引き揃えられた複数本の導電性線材(wire)を芯材とし、
該芯材に対して補強糸を粗に螺旋巻きしてなることを特徴とする工業材用複合糸。
【請求項2】
前記芯材が、前記導電性線材に対して、さらに、一本の又は複数本の補助補強糸(yarn)を添えたものであることを特徴とする請求項1記載の工業材用複合糸。
【請求項3】
前記補強糸の構成繊維が化学繊維であるとともに、前記補強糸の繊度が33〜333dtex(30〜300d)であることを特徴とする請求項1又は2記載の工業材用複合糸。
【請求項4】
前記螺旋巻きの巻き数が100〜1000回/mであることを特徴とする請求項3記載の工業材用複合糸。
【請求項5】
前記導電性線材が金属線であり、該金属線の径が30〜120μmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の工業材用複合糸。
【請求項6】
前記金属線が酸化防止処理銅線であることを特徴とする請求項5記載の工業材用複合糸。
【請求項7】
前記補強糸がポリエステル糸であることを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載の工業材用複合糸。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の工業材用複合糸で形成されてなる工業製品用布地。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載の工業用複合糸で織成されてなる工業製品用織物。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−277745(P2007−277745A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−103223(P2006−103223)
【出願日】平成18年4月4日(2006.4.4)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第3項適用申請有り 平成17年10月26日〜27日 産学交流テクノフロンティア実行委員会主催の「産学交流テクノフロンティア2005」に出品
【出願人】(598071518)青山産業株式会社 (2)
【Fターム(参考)】