説明

工業用二層織物

【課題】織り合わせ部で生じる接結糸の偏りをなくし、織物全体で均一な脱水性を得ることができ、表面平滑性、剛性、ろ水性、耐摩耗性、繊維支持性に優れ、かつ網厚の増大を防ぐ工業用二層織物を提供する。
【解決手段】上面側織物は経糸2本組からなる上面側経糸組織及び1本組からなる上面側経糸組織によって上面側完全組織が形成され、前記下面側織物では少なくとも下面側経糸の一部が上面側織物と下面側織物を接結する機能を有する接結糸であり、当該接結糸は経糸2本組が上面側緯糸を織り込んでいる箇所において経糸2本組の間で上面側緯糸を織り込むことにより経糸2本組と接結糸とが協働して前記上面側経糸組織を形成することを特徴とした工業用二層織物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、織り合わせ部で生じる接結糸の偏りをなくし、剛性、ろ水性、耐摩耗性、繊維支持性に優れ、織物全体で均一な脱水特性を有する工業用二層織物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から工業用織物として経糸、緯糸で製織したものが広く使用されており、例えば製紙用織物や搬送用ベルト、ろ布等があり、それぞれ用途や使用環境に適した織物特性が要求されている。これらの織物のうち、織物の網目を利用して原料の脱水等を行う製紙工程で使用される抄紙用織物での要求は特に厳しい。例えば、紙に織物のワイヤーマークが転写しにくい表面平滑性に優れた織物、また原料に含まれる余分な水分を十分且つ均一に脱水するための脱水性、過酷な環境下でも好適に使用できる程度の剛性、耐摩耗性を持ち合わせ、更に良好な紙を製造するために必要な条件を長期間持続することのできる織物が要求されている。その他にも繊維支持性、製紙の歩留まりの向上、寸法安定性、走行安定性等が要求されている。さらに近年では抄紙マシンが高速化しているため、それに伴い抄紙用織物への要求も一段と厳しいものとなっている。
【0003】
工業用織物の中でも最も要求が厳しい抄紙用織物について説明すれば、現行のほとんどの工業用織物の要求とその解決について理解できる。そこで、以下、抄紙用織物を一例に挙げて説明する。
【0004】
近年では抄紙マシンの高速化に伴い、特に優れた脱水性、表面平滑性が要求されている。抄紙マシンや抄造物により求められる脱水特性は異なっているが、どのような抄造物であっても均一な脱水性は必須条件である。また、近年では故紙の利用が増え、微細繊維が多く混在することで脱水不足になり、十分且つ均一な脱水がより重要となり、抄紙用織物への要求特性の充足は一段と難しい状況にある。
【0005】
脱水性の良い織物としては、上面側から下面側にまで貫通する脱水孔が形成される二層織物等がある。特に抄紙用織物に要求される表面性、繊維支持性、脱水性を満たすことを目的とした織物として、上面側緯糸、下面側緯糸と織り合わされて上面側経糸組織及び下面側経糸組織を形成する経地糸接結糸を用いた二層織物等が知られている。特許文献1には、経地糸接結糸を用いた二層織物が示されている。このような従来技術は、経糸の一部を上面側層と下面側層を織り合わせる接結糸として機能する地糸とした二層織物であり、組になった経地糸接結糸が上面側経糸組織と下面側経糸組織を補完し合い、各々の表面組織を形成するため、表面性、接結強度に優れた織物となる。
【0006】
また、均一な脱水性を目的として、上面側経糸と経糸接結糸からなる組を配置した二層織物が特許文献2に示されている。この織物は、上下面を織り合わせる経糸接結糸の上面側ナックルと上面側経糸組織を組み合わせることで、表面に均一な組織を形成したものである。この織物は、経糸が接結する際、上経糸の組織を一部崩した箇所で接結していることから、接結糸が片側に偏っていた。そのため、ワイヤーによる転写マークや脱水マークが発生してしまうという問題があった。
【0007】
また、従来の二層織物は上面側層から下面側層まで完全に貫通する脱水孔が全面に配置されているため脱水性は良好ではあるが、強力なバキューム等によりワイヤー上のシート原料が織物に刺さり込んだり、繊維や填料等の抜けが発生し、脱水マークの発生が顕著になることもある。このように表面性、繊維支持性および耐摩耗性等の全てを満足させる工業用織物は未だ開発されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−36052号公報
【特許文献2】特開2004−68168号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、織り合わせ部で生じる接結糸の偏りをなくし、織物全体で均一な脱水性を得ることができ、表面平滑性、剛性、ろ水性、耐摩耗性、繊維走行性に優れ、かつ網厚の増大を防ぐ工業用二層織物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る工業用二層織物は、上面側織物において経糸2本組の間に接結糸を配置するため、織物表面の組織を崩すことなく接結部を形成することが出来ることである。
本発明は、上記従来技術の課題を解決するために、以下の構成を採用した。
(1)上面側経糸と上面側緯糸とからなる上面側織物と、下面側経糸と下面側緯糸とからなる下面側織物からなる工業用二層織物において、前記上面側織物は経糸2本組からなる上面側経糸組織及び1本組からなる上面側経糸組織によって上面側完全組織が形成され、前記下面側織物では少なくとも下面側経糸の一部が上面側織物と下面側織物を接結する機能を有する接結糸であり、当該接結糸は経糸2本組が上面側緯糸を織り込んでいる箇所において経糸2本組の間で上面側緯糸を織り込むことにより経糸2本組と接結糸とが協働して前記上面側経糸組織を形成することを特徴とした工業用二層織物である。
【0011】
(2)上面側経糸と上面側緯糸とからなる上面側織物と、下面側経糸と下面側緯糸とからなる下面側織物からなる工業用二層織物において、前記上面側織物は経糸2本組からなる上面側経糸組織を連続して配置することによって上面側完全組織が形成され、前記下面側織物では少なくとも下面側経糸の一部が上面側織物と下面側織物を接合する接結する機能を有する接結糸であり、当該接結糸は経糸2本組が上面側緯糸を織り込んでいる箇所において経糸2本組の間で上面側緯糸を織り込むことにより経糸2本組と接結糸とが協働して上面側経糸組織を形成することを特徴とした工業用二層織物である。
【0012】
(3)前記経糸2本組からなる上面側経糸組織と、1本組からなる上面側経糸組織とが、交互に配置されていることを特徴とする上記(1)に記載された工業用二層織物である。
(4)前記下面側経糸の全てが上面側織物と下面側織物を接結する機能を有する接結糸であることを特徴とする上記(1)乃至(3)のいずれか一に記載された工業用二層織物である。
(5)前記2本組からなる上面側経糸組織における経糸の線径が、1本組からなる上面側経糸組織における経糸の線径に比べ、径が小さいことを特徴とする上記(1)乃至(4)に記載された工業用二層織物である。
(6)前記上面側経糸組織が、平織、綾織、崩し綾織り、朱子織、崩し朱子織のいずれかであることを特徴とする上記(1)乃至(5)のいずれか一に記載された工業用二層織物である。
(7)前記上面側緯糸間に1本または2本以上の補助緯糸が配置されたことを特徴とする上記(1)ないし(6)のいずれか一に記載された工業用二層織物である。
(8)前記上面側緯糸の本数が、下面側緯糸の本数の1から2倍の本数であることを特徴とする上記(1)ないし(7)のいずれか一に記載された工業用二層織物である。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、織り合わせ部で生じる接結糸の偏りをなくし、織物全体で均一な脱水性を得ることができ、表面平滑性、剛性、ろ水性、耐摩耗性、繊維走行性に優れ、かつ網厚の増大を防ぐ工業用二層織物を提供するという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施例1の完全組織を示す意匠図である。
【図2】本発明の実施例2の完全組織を示す意匠図である。
【図3】本発明の実施例3の完全組織を示す意匠図である。
【図4】本発明の実施例4の完全組織を示す意匠図である。
【図5】本発明に係る織物の上面側表面の平面写真である。
【図6】本発明に係る織物の下面側表面の平面写真である。
【図7】従来の発明に係る織物の上面側表面の平面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る工業用二層織物の実施形態を説明する。以下に示す実施形態は、本発明の一例であって、本発明を限定するものではない。
本発明に係る工業用二層織物は、上面側織物における経糸2本組の間で接結糸が上面側緯糸を織り込むことにより経糸2本組と接結糸とが協働して上面側経糸組織を形成していることを特徴としている。
ここで、上面側完全組織の構成としては、経糸2本組からなる上面側経糸組織と1本組からなる上面側経糸組織によって形成するか、または前記経糸2本組のみを連続して配置することによって形成しているものがある。ここで、経糸2本組からなる上面側経糸組織と1本組からなる上面側経糸組織とは、交互に配置しても良い。
【0016】
本実施形態では、上面側の経糸2本組の間に下面側から接結糸が織り込まれる。そのため、2本組の経糸がそれぞれ接結糸の両側に移動するため接結糸に偏りが生じない。
それに対し、従来の織物では上下の経糸2本が入れ替わり、接結した箇所でどうしても上経糸の組織を崩し経糸が片側に偏っていた。そのため、紙に脱水マークやワイヤーの転写マークなどが発生しやすくなってしまうのである。
【0017】
本実施形態では、経糸2本の間で下面側から上網を接結している。その接結機能を有する経糸は上面側緯糸を織り込む際、上面側経糸2本組が同時に上面側緯糸を織り込んだ箇所の中央に配置されることを特徴とする。こうすることにより、接結糸を偏らせることなく上面側経糸組織を形成することができるため表面平滑性が向上する。また、2本組の経糸がそれぞれ接結糸の両側に移動するため脱水経路が偏らず、ろ水性も向上する。
【0018】
上面側織物組織に関しては特に限定はなく、平織、綾織り、崩し綾織り、サテン織り、ランダムにシフトさせた朱子織り等その他織物組織とすればよく、これらによって得られた完全組織を上下左右に繋げて、斜め剛性、走行安定性、耐摩耗性に優れた組織を採用すればよい。複数種類の経糸完全組織で構成される上面側層完全組織であってもよい。また、上面側緯糸間に上面側緯糸よりも線径の小さい補助緯糸を配置しても構わない。
【0019】
下面側表面組織についても特に限定はなく、例えば下面側緯糸が連続する2本の下面側経糸及び/又は下経地糸接結糸の上側を通り、次いで連続する2本以上の下面側経糸及び/又は下経地糸接結糸の下側を通って下面側表面に下面側緯糸のロングクリンプを形成する組織等が好ましい。下面側の隣り合う2本の経糸が1本の下面側緯糸を同時に織り込む組織とすることで、下面側緯糸ロングクリンプがさらに表面に突出する構造となるため耐摩耗性が向上し、同時に剛性も向上する。さらに隣り合う2本の経糸が1本の下面側緯糸を下面側から織り込み、その部分で隣り合う左右の経糸と交互に接近し、実質的に経糸が蛇行したジグザグ配置とするとよい。
【0020】
本実施形態に使用される糸は用途によって選択すればよいが、例えば、モノフィラメントの他、マルチフィラメント、スパンヤーン、捲縮加工や嵩高加工等を施した一般的にテクスチャードヤーン、バルキーヤーン、ストレッチヤーンと称される加工糸、あるいはこれらを撚り合わせる等して組み合わせた糸が使用できる。また、糸の断面形状も円形だけでなく四角形状や星型等の短形状の糸や楕円形状、中空等の糸が使用できる。また、糸の材質としても、自由に選択でき、ポリエステル、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリフッ化ビニリデン、ポリプロ、アラミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンナフタレート、ポリテトラフルオロエチレン、綿、ウール、金属等が使用できる。もちろん、共重合体やこれらの材質に目的に応じてさまざまな物質をブレンドしたり含有させた糸を使用しても良い。抄紙用ワイヤーとしては一般的には、上面側経糸、下面側経糸、下経地糸接結糸、上面側緯糸には剛性があり、寸法安定性に優れるポリエステルモノフィラメントを用いるのが好ましい。また、耐摩耗性が要求される下面側緯糸にはポリエステルモノフィラメントとポリアミドモノフィラメントを交互に配置する等、交織するのが剛性を確保しつつ耐摩耗性を向上できて好ましい。
【0021】
また、本実施形態において、2本組からなる上面側経糸組織における経糸の線径が1本組からなる上面側経糸組織における経糸の線径より細いものを使用しても良い。2本組の線径を細くすることにより、ナックル形成時に緯糸に掛かる力を1本組と同程度にすることができ、表面平滑性、繊維支持性等を向上させる事ができる。また、線材と合わせて線径を選択することで線径を調節することもできるため、線径、線材は適宜選択できる。
【0022】
本実施形態に係る織物は、上面側表面を形成する経糸が2本組の経糸と1本組の経糸の2種類を配置するか、または前記経糸2本組のみを連続して配置することによって形成されている。本実施形態に係る織物は、上下網を接結する際、下面側経糸の一部である接結糸を2本組の間に出現させていることから、形状を変えることなく、また入れ替わり交差をする箇所を設けることなく表面組織を形成し、且つ常に同じ位置に経糸接結糸が存在することになる。従来の織物のように経糸が入れ替わり交差する箇所がないため、横方向にずれたり、偏って配置されたりすることがない。
また、本実施形態に係る織物では、下面側の経糸比率が少なくなるため、十分な脱水経路が確保された状態となる。このことから、上面側の網目は従来技術と比較すると閉塞傾向にあるのだが、垂直方向の脱水経路は常に確保されているため、脱水性に影響を与えることはない。当然、斜め方向の脱水経路も十分確保されているため、部分的な網目の閉塞がなく、均一な脱水性とともに優れた表面平滑性が得られるという顕著な効果を奏する。
【実施例】
【0023】
本発明の工業用二層織物に係る実施例を図面に則して説明する。図1〜図4は本発明の工業用二層織物に係る一例を示す意匠図である。意匠図とは織物組織の最小の繰り返し単位であって、この完全組織が上下左右につながって織物全体の組織が形成される。意匠図において、経糸はアラビア数字、例えば1、2、3・・・で示した。本実施例では上面側では2本組の上面側経糸の場合と一本組の上面側経糸の場合、下面側では下面側経糸の場合と接結糸の場合がある。緯糸はダッシュを付したアラビア数字、例えば1’、2’、3’・・・で示した。配置比率によって上面側緯糸と下面側緯糸が上下に配置されている場合と、上面側緯糸のみの場合がある。また、×印は上面側経糸が上面側緯糸の上側に位置していることを示し、■印は接結糸が上面側緯糸の上側に位置していることを示し、□印は接結糸が下面側緯糸の下側に位置していることを示し、○印(図面中、楕円形状のものを含む。)は下面側経糸が下面側緯糸の下側に位置していることを示す。上面側経糸と下面側経糸、および上面側緯糸と下面側緯糸は上下に重なって配置されている。緯糸については配置比率から一部上面側緯糸の下に下面側緯糸が配置されていないところもある。意匠図では糸が上下に正確に重なって配置されることになっているが、これは図面の都合上であって実際の織物ではずれて配置されても構わない。
【0024】
実施例1
図1は本発明の工業用二層織物に係る実施例1の意匠図である。2本組の上面側経糸と接結糸からなる上下経糸の組(1,3,5,7,9)と、1本組の上面側経糸(2,4,6,8,10)を交互に配置した10シャフトの織物である。上面側緯糸と下面側緯糸の配置比率は2:1である。
【0025】
上面側織物は上面側経糸が1本の上面側緯糸の上、下を交互に通る1/1組織(平織組織)を形成し、かつ2本組の上面側経糸と1本組の上面側経糸が交互に配置されている。2本組の上面側経糸はそれぞれ同じ上面側緯糸を織り込み、2本組となって経糸1本文の組織を形成する。その隣に配置される1本組の上面側経糸は、2本組の上面側経糸と同様の組織を形成し、上面側緯糸1本分シフトさせて平織組織を形成している。接結糸は2本組の上面側経糸の下に配置されており、上面側緯糸と織り込む際2本組の間から出現して接結する。
【0026】
具体的には、2本組の上面側経糸1は2本組となって経糸1本分の組織を形成し、本来上側を通るはずの上面側緯糸1’の上側を通らず、上面側緯糸2’の下、上面側緯糸3’の上、上面側緯糸4’の下、上面側緯糸5’の上、上面側緯糸6’の下、上面側緯糸7’の上、下面側緯糸8’の下、次いで上面側緯糸9’の上を通り、上面側緯糸10’の下を通る。その隣に配置される1本組の上面側経糸2は、2本組の上面側経糸と同様の組織を形成するが、上面側緯糸1本分シフトさせて平織組織を形成している。具体的には上面側緯糸2’の上、上面側緯糸3’の下を通る平織組織を形成している。
【0027】
下面側織物の組織は限定されない。本実施例1では下面側緯糸ロングクリンプを形成しているため、耐摩耗性に良好な織物となる。 具体的には、下面側経糸である接結糸1は下面側緯糸5’、9’の下側を通り、他の下面側緯糸1’、3’、7’の上側を通る、1/2−1/1組織を形成している。接結糸1は、上面側緯糸1’を織り込んでいる。その隣の接結糸3は下面側緯糸1’、5’の下側を通り、他の下面側緯糸3’、7’、9’の上側を通る、1/2−1/1組織を形成している。接結糸3は、上面側緯糸7’を織り込んでいる。接結糸3は下面側緯糸3本分シフトさせて1/2−1/1組織を形成している。
【0028】
従来の織物では上面側経糸と下面側経糸の重なりについて接結糸の組と経糸の組で差があった。経糸の組とは上面側経糸は上面側緯糸のみと織り合わされ、下面側経糸は下面側緯糸のみと織り合わされる、上面側経糸と下面側経糸の組である。そのため、ワイヤーを上面側から下面側へ垂直方向に見た場合、上下の経糸はほぼ重なった状態となる。一方、接結糸の組については、経糸2本を上下方向に配置するが、必ずどちらか一方が上下の緯糸両方を織り込む必要があることと、経糸1本分の組織を形成しなければならないため、この2本が入れ替わる箇所が必ず存在する。そのため、経糸の組のようにほぼ完全に上下方向に重なることはない。特に入れ替わる箇所では経糸2本が横方向に並んだ状態となるため、その部分では網目が閉塞し、脱水経路の閉塞、織物表面の平滑性低下など複合的な要因となり、脱水マーク発生の原因となっていた。
【0029】
それに対して、本実施例1は上面側表面を形成する経糸は2本組の上面側経糸と1本組の上面側経糸の2種類である。本実施例1では上下網を接結させようとする場合、接結糸が2本組の間から出現して接結するため、形状を変えることなくまた入れ替わることなく表面組織を形成し、且つ常に同じ位置に存在することになる。従来の織物のような経糸が入れ替わる箇所がないため、横方向にずれたり、偏って配置されたりすることがない。また、本実施例1では下面側の経糸比率が少なくなるため、十分な脱水経路が確保された状態となる。このことから、上面側の網目は従来の織物と比較すると閉塞傾向にあるのだが、垂直方向の脱水経路は常に確保されているため、脱水性に影響を与えることはない。当然、斜め方向の脱水経路も十分確保されているため、部分的な網目の閉塞がなく、均一な脱水性とともに優れた表面平滑性が得られるという顕著な効果を奏する。このような構造及び機能は、図5と図7を比較することで理解できる。
【0030】
図5は、本発明の工業用二層織物に係る上面側の一例を示す部分写真であり、図6はその下面側の部分写真であり、図7は従来技術に係る工業用二層織物の上面側の部分写真である。 図5及び図6における工業用二層織物は、上面側織物が経糸2本組からなる上面側経糸組織及び経糸1本組からなる上面側経糸組織によって構成されており、下面側織物が全て接結糸で構成されている。接結糸は上面側緯糸と織り込む際2本組の上面側経糸の間から出現している。
図7に示す織物は、連続する織り合わせにおいてナックルが1箇所欠如した上面側経糸の欠如箇所を経糸接結糸によって形成されたナックルで補完することで組織の崩れをなくして上下織物を織り合わせた織物である。
【0031】
しかし、図7に示す織物は、実際には経糸接結糸が上面側にナックルを形成している部分では、前記上面側経糸と交差部を形成しているため、それらが横並びに配置された状態において経糸接結糸は完全に上面側経糸に寄りきっていない。そのため図7の写真に示す如く、他の部分と比べると網目が塞がれているのが見てとれる。そして、経糸接結糸で補完されたナックルは斜めに連続して配列しているため、図7のX−Y軸間に示す如く網目が開いている部分と、図7のY−Z間に示す如く網目が塞がれている部分とで明白な境界が生じ、斜めに斑が発生しているのが確認できる。これが製紙工程において脱水の斑となって紙に斜めのマークを与えてしまうのである。
【0032】
さらに従来の織物では、上面側表面を形成する上面側経糸は上面側経糸1種類なので、上面側表面組織を崩さずに形成しようとした場合、上面側経糸と下面側経糸が互いに協働して経糸1本分として組織を形成させる必要があった。上面側経糸と下面側経糸が経糸1本分の組織を形成しているが、例えば下面側経糸が上面側緯糸を織り合わせるところでは、上面側経糸は本来織り込む上面側緯糸を織り込まずに、上面側緯糸の下側を通る。その際、経糸2本は織物の垂直方向に重なって経糸1本分の組織を形成させているが、実際にはお互い横方向にずれて偏って配置されるため、特に上下の経糸が入れ替わる箇所だけは、図7に示すY−Z間の如く2本分の経糸が並んで存在するような状態になる。さらにはその部分以外でも上面側経糸と下面側経糸が完全に重なった状態となることはない。このように経糸の偏りおよび接結糸が上下に移動する箇所で網目の空隙部と閉塞部の差が大きく生じてしまい、十分な脱水経路が確保されていない箇所が所々に出来てしまう。そのため、抄紙マシン上で原料が着地し脱水される工程において、紙への脱水マークやワイヤーの転写マークなどが発生しやすくなり、できあがった紙に凹凸や厚薄ムラなどが生じてしまうのである。従来の織物における接結組織では、協働で接結するためどうしても引き込まれる箇所が出てきてしまう。それは、上面側または下面側経糸のみで経糸組織を形成する経糸とは異なり、経糸接結糸を含む経糸は上下に行き来することに起因している。
【0033】
その他、従来の織物においては、上面側経糸と下面側経糸の重なりについても接結糸の組と上面側経糸の組で差があった。ここで経糸の組とは、上面側緯糸のみと織り合わされる上面側経糸と、下面側緯糸のみと織り合わされる下面側経糸との組のことである。このような構造においては、ワイヤーを上面側から下面側へ垂直方向に見た場合、上下の経糸はほぼ重なった状態となる。一方、接結糸の組については、経糸2本を上下方向に配置することとなるが、必ずどちらか一方の経糸において上下の緯糸両方を織り込む必要があることと、経糸1本分の組織を形成しなければならないため、この2本が入れ替わり交差する箇所が必ず存在する。そのため、経糸の組のようにほぼ完全に上下方向に重なることはない。特に入れ替わる箇所では経糸2本が横方向に並んだ状態となるため、その部分では網目が閉塞され、脱水経路の閉塞、織物表面の平滑性低下など複合的な要因となり、脱水マーク発生の原因となっていた。
【0034】
それに対して、本発明に係る工業用二層織物の一例では、上面側表面を形成する経糸が2本組の経糸と1本組の経糸の2種類から構成されている。本実施例の織物では上下網を接結させようとする場合、接結糸が上面側緯糸と織り込む際2本組の間に出現するため、経糸組織の形状を変えることなく、また入れ替わることなく表面組織を形成し、且つ経糸2本組における経糸が常に同じ位置に存在することになる。
従来の織物のように経糸が入れ替わり交差する箇所がないため、経糸が横方向にずれたり、偏って配置されることがない。また、本実施例の織物では下面側の経糸比率が少なくなるため、十分な脱水経路が確保された状態となる。このことから、上面側の網目は従来の織物と比較すると閉塞傾向にあるのだが、垂直方向の脱水経路は常に確保されているため、脱水性に影響を与えることはない。当然、斜め方向の脱水経路も十分確保されているため、部分的な網目の閉塞がなく、均一な脱水性とともに優れた表面平滑性が得られるという顕著な効果を奏する。このような構造及び機能は、図5と図7の写真を比較することで理解できる。
【0035】
すなわち、本実施例1では、接結部で接結糸が2本組の間から出現しているため、接結糸が行き来することによる糸のずれの影響を受けない。本実施例1では、2本組で経糸1本分の組織を形成させているので、所々で横方向にずれたり、偏ったりすることはない。元々経糸2本分の空間が確保されているからである。それに対し、従来技術では上下の経糸2本が入れ替わったり協働したりすることで表面組織を崩すことなく上下網を接結していた。そのため接結する箇所でどうしても緯糸が引き込まれることによる織物表面の凹凸や、経糸が並列することによる脱水経路の閉塞が生じていたのである。すると、紙に脱水マークやワイヤーの転写マークなどが発生しやすくなってしまうのである。
【0036】
実施例2
図2は本発明の工業用二層織物に係る実施例2の意匠図である。
本実施例2では実施例1には無かった下面側経糸がある。すなわち2本組の上面側経糸と下面側経糸の一部である接結糸からなる上下経糸の組(1,3)と、1本組の上面側経糸と下面側経糸からなる上下経糸の組(2,4)を交互に配置した4シャフトの織物である。上面側緯糸と下面側緯糸の配置比率は2:1である。
下面側経糸である接結糸1は下面側緯糸7’の下側を通り、他の下面側緯糸1’、3’、5’の上側を通り、上面側緯糸1’を織り込んでいる。その隣の接結糸3は下面側緯糸3’の下側を通り、他の下面側緯糸1’、5’、7’の上側を通り、上面側緯糸5’を織り込んでいる。
本実施例2に係る工業用二層織物を採用することにより、織り合わせ部で生じる接結糸の偏りをなくし、織物全体で均一な脱水性を得ることができ、表面平滑性、剛性、ろ水性、耐摩耗性、繊維走行性に優れ、かつ網厚の増大を防ぐ工業用二層織物を提供することができる。
【0037】
実施例3
図3は本発明の工業用二層織物に係る実施例3の意匠図である。
実施例1では上面側織物が2本組と1本組から構成されていたが、本実施例では2本組のみで構成されている。すなわち2本組の上面側経糸と下面側経糸の一部である接結糸からなる上下経糸の組(1,3)と、2本組の上面側経糸と下面側経糸からなる上下経糸の組(2,4)を交互に配置した4シャフトの織物である。上面側緯糸と下面側緯糸の配置比率は2:1である。
下面側経糸である接結糸1は下面側緯糸7’の下側を通り、他の下面側緯糸1’、3’、5’の上側を通り、上面側緯糸1’を織り込んでいる。その隣の接結糸3は下面側緯糸3’の下側を通り、他の下面側緯糸1’、5’、7’の上側を通り、上面側緯糸5’を織り込んでいる。
本実施例3に係る工業用二層織物を採用することにより、織り合わせ部で生じる接結糸の偏りをなくし、織物全体で均一な脱水性を得ることができ、表面平滑性、剛性、ろ水性、耐摩耗性、繊維走行性に優れ、かつ網厚の増大を防ぐ工業用二層織物を提供することができる。
【0038】
実施例4
図4は本発明の工業用二層織物に係る実施例4の意匠図である。
実施例3では2本組の上面側経糸の下には1本の経糸が配置されていたが、本実施例では2本組上面側経糸の下に2本の経糸が配置されている。すなわち2本組の上面側経糸と下面側経糸の一部である接結糸と下面側経糸からなる上下経糸の組(1,3)と、2本組の上面側経糸と2本の下面側経糸からなる上下経糸の組(2,4)を交互に配置した4シャフトの織物である。上面側緯糸と下面側緯糸の配置比率は2:1である。
下面側経糸である接結糸1は下面側緯糸3’、7’の下側を通り、他の下面側緯糸1’、5’、7’の上側を通り、上面側緯糸1’を織り込んでいる。その隣の接結糸3は下面側緯糸3’、7’の下側を通り、他の下面側緯糸1’、5’の上側を通り、上面側緯糸5’を織り込んでいる。
本実施例4に係る工業用二層織物を採用することにより、織り合わせ部で生じる接結糸の偏りをなくし、織物全体で均一な脱水性を得ることができ、表面平滑性、剛性、ろ水性、耐摩耗性、繊維走行性に優れ、かつ網厚の増大を防ぐ工業用二層織物を提供することができる。
【符号の説明】
【0039】
1〜10 経糸
1’〜10’ 緯糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面側経糸と上面側緯糸とからなる上面側織物と、下面側経糸と下面側緯糸とからなる下面側織物からなる工業用二層織物において、前記上面側織物は経糸2本組からなる上面側経糸組織及び1本組からなる上面側経糸組織によって上面側完全組織が形成され、前記下面側織物では少なくとも下面側経糸の一部が上面側織物と下面側織物を接結する機能を有する接結糸であり、当該接結糸は経糸2本組が上面側緯糸を織り込んでいる箇所において経糸2本組の間で上面側緯糸を織り込むことにより経糸2本組と接結糸とが協働して前記上面側経糸組織を形成することを特徴とした工業用二層織物。
【請求項2】
上面側経糸と上面側緯糸とからなる上面側織物と、下面側経糸と下面側緯糸とからなる下面側織物からなる工業用二層織物において、前記上面側織物は経糸2本組からなる上面側経糸組織を連続して配置することによって上面側完全組織が形成され、前記下面側織物では少なくとも下面側経糸の一部が上面側織物と下面側織物を接合する接結する機能を有する接結糸であり、当該接結糸は経糸2本組が上面側緯糸を織り込んでいる箇所において経糸2本組の間で上面側緯糸を織り込むことにより経糸2本組と接結糸とが協働して上面側経糸組織を形成することを特徴とした工業用二層織物。
【請求項3】
前記経糸2本組からなる上面側経糸組織と、1本組からなる上面側経糸組織とが、交互に配置されていることを特徴とする請求項1に記載された工業用二層織物。
【請求項4】
前記下面側経糸の全てが上面側織物と下面側織物を接結する機能を有する接結糸であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一に記載された工業用二層織物。
【請求項5】
前記2本組からなる上面側経糸組織における経糸の線径が、1本組からなる上面側経糸組織における経糸の線径に比べ、径が小さいことを特徴とする請求項1乃至4に記載された工業用二層織物。
【請求項6】
前記上面側経糸組織が、平織、綾織、崩し綾織り、朱子織、崩し朱子織のいずれかであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載された工業用二層織物。
【請求項7】
前記上面側緯糸間に1本または2本以上の補助緯糸が配置されたことを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載された工業用二層織物。
【請求項8】
前記上面側緯糸の本数が、下面側緯糸の本数の1から2倍の本数であることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載された工業用二層織物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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