説明

工業用織物接合用芯線

【課題】従来の工業用織物接合用芯線芯線と比較して極めて良好な耐摩耗性および耐摩擦性能を備えると共に、優れた耐久性を有し、工業用織物の耐久性向上をも具現化させ得る工業用織物接合用芯線を提供する。
【解決手段】工業用織物の織物両端部にループ状の継手部を形成し、この継手部同士を互いに噛み合わせて接合し無端状織物となす際に用いる工業用織物接合用芯線であって、固有粘度が0.80以上、屈曲摩耗試験による摩耗破断回数が5000回以上のポリエチレンテレフタレートモノフィラメントからなることを特徴とする工業用織物接合用芯線。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工業用織物の織物両端部にループ状の継手部を形成し、この継手部同士を互いに接合し無端状織物となす際に用いる工業用織物接合用芯線(以降、芯線と略称することもある)に関するものであり、さらに詳しくは、従来の芯線と比較し、極めて良好な耐摩耗性および耐摩擦性能を具備し、優れた耐久性を有する芯線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETという)は、優れた機械的特性を有しているため、各種工業用部品、衣料用および工業用繊維材料、各種織物用途などに使用されてきている。
【0003】
例えばPET繊維のうち、PETモノフィラメントは、抄紙ドライヤーカンバス、抄紙ワイヤー、各種ブラシ、筆毛、印刷スクリーン用紗、釣り糸、ゴム補強用繊維材料などに広く好適に用いられてきているが、特に抄紙工程に用いられる工業用織物の抄紙ワイヤーや抄紙ドライヤーカンバスなどに多く利用されている。
これら工業用織物は、経糸と緯糸を織成し工業用織物と成すが、織成した織物は、有端状織物であり、実際の搬送用ベルトなどとして利用される際には、織物両端部にループ状の継手部を形成し、この継手部同士を互いに連結接合し無端状織物として利用するのが一般的である。
【0004】
また、織物両端部に形成したループ状の継手部同士を互いに連結接合し無端状織物とする場合には、工業用織物本体の両端にある簾状の経糸もしくは緯糸を折り返してループを形成し、この継手部に接合用の芯線を挿通して連結するが、特に搬送用工業用織物などでは、使用中に織物上に汚れが付着してくるため、一定期間使用した後搬送用織物を搬送機から取り外し、交換や洗浄を行うことが一般化している。
【0005】
これら搬送用織物を搬送機から取り外す作業は極めて煩雑であり、多大な時間と作業工数を要するため、織物の接合連結部の構造は、取り外しや連結接合を行いやすくするため、織物本体と比較し単純な構造とされる場合が多い。
【0006】
そのため、上述した工業用織物の連結接合部は、実使用時に何らかの要因で織物に異常な張力が掛かった場合や、使用による織物の耐久劣化などにより、織物両端部に形成したループの切断や芯線そのものの破断により、無端状織物の破網トラブルの最も発生しやすい箇所であり、搬送用織物の中でも抄紙用工業用織物などは、抄紙速度の高速化や紙製品に含まれる硬度の高い微粒子などと接触して摩耗する問題が顕著となり、継手部および芯線には優れた耐久性が要求されるようになってきている。
【0007】
さらに、これら工業用織物からなる搬送用ベルトは、その使用用途によっては、150℃を越すような高温環境で用いられることもあり、このような高温環境に用いられる芯線の場合は、耐熱性の観点からポリフェニレンサルファイドやポリエーテルエーテルケトン、またテトラフルオロエチレン−エチレン共重合体などの樹脂からなるモノフィラメントが用いられるようになってきている。
【0008】
しかるに、これら樹脂からなるモノフィラメント製芯線は、その樹脂価格が極めて高価であるばかりか、生産性も悪いことから非常に高価な製品となってしまい、その使用が躊躇されることが多く、また、実際に使用された場合においても、搬送用ベルトの連続使用により、これら樹脂からなるモノフィラメント製芯線は、織物の経糸や緯糸を折り返して形成したループ状の継手部と接触する箇所が徐々に摩滅していき、酷い場合は凹状に削り取られたような状態となり、芯線が切断するトラブルが問題視されるようになってきた。
以上のような状況から、工業用織物の継手部に関しては、織物の取り外しや連結接合作業の効率化や芯線挿通性の向上による織継作業に関する技術、さらには継手部の耐久性向上に関する技術として、下記するような多くの提案がなされている。
【0009】
織機上で抄紙機上の経糸となる打ち込み糸の折り返しにより端部接合用のループが形成されると共に、前記ループを形成する1対の経糸の双方に緯糸を絡合させた2重織りで地部が形成された基布を有する製紙用シーム付きフェルトであって、前記基布における前記ループの近傍に、そのループを形成する1対の経糸の各々で構成された1重織りの織物層を互いに重ね合わせた態様のラミネート構造部が設けられ、このラミネート構造部において、2つの前記織物層をそれぞれ構成する緯糸が、互いに対称となる組織で織り込まれると共に、互いに厚さ方向に重なり合う製紙用シーム付きフェルト(例えば、特許文献1参照)、
有端状織物の経糸端部を緯糸に織り込むことによって無端状にする無端状工業用織物において、該工業用織物が少なくとも1本の上面側緯糸の上側を通り、1本の下面側緯糸の下側を通る組織の経糸からなり、織物組織は1本の下面側緯糸の下側を通る部分と、3本以上の下面側緯糸と複数本の上面側緯糸の間を通る部分を有し、下面側織物を形成する下面側緯糸はポリエステルフィラメントとポリアミドフィラメントが交互に配置された偶数シャフトの多層織物であって、織り継ぎ部では経糸端末を織物下面側に向けた織り継ぎ方式で、且つ織物組織上通るべき1本の下面側緯糸の下側は通り、3本以上の下面側緯糸と複数本の上面側緯糸の間を通る部分で1本のポリアミドフィラメント下面側緯糸を挟んでその両側に経糸端末を出す織り継ぎ方式を用いた工業用織物の織り継ぎ方法(例えば、特許文献2参照)、
経糸及び緯糸により織成したプラスチック織物からなる有端状のカンバス本体の両端部を無端状に連結した継手部において、予めカンバス本体の両端耳部の織物組織内に織り込まれた補強用線条体同士が連結されていることを特徴とする耳部が補強された抄紙用ドライヤーカンバスの継手部(例えば、特許文献3参照)、
製紙機械用布の両端を接合して無端状とする継手部に挿通する接合芯線および前記接合芯線先端に接続されたリーディングワイヤーの収容具であって、該収容具が、前記接合芯線およびリーディングワイヤーを捲回して収容する芯線収容リールと、該芯線収容リールに装着されるリール保持器とから構成されており、前記芯線収容リールが、前記接合芯線およびリーディングワイヤーを捲回して収容できる芯線収容部と、使用する者が手指または手指および掌を挿通して該芯線収容リールを保持するための保持手段とを具備しており、前記リール保持器が、その両端部に前記芯線収容リールが挿通される開口部を有し、かつ、この開口部に前記芯線収容リールに捲回して収容された前記接合芯線およびリーディングワイヤーを挿通するための挿通孔を有する端部平板部を具備することを特徴とする製紙機械用布の継手接合芯線およびリーディングワイヤーの収容具(例えば、特許文献4参照)。
【0010】
また、本発明者等も、接合用芯線および芯線挿通作業の効率化を図る技術として、有端状織物の両端に経糸と直行する幅方向に沿って設けた継手部分同士を互いに接合して無端状とするための接合用芯線であって、前記継手部に設けた挿通孔に挿入される細径部と、前記挿通孔に挿通される太径部とを繊維軸方向に有する合成樹脂繊維からなることを特徴とする接合用芯線(例えば、特許文献5参照)を提案している。
【0011】
しかるに、上述した従来技術は、有端状織物を効率的に無端状織物に成すための工業用織物の接合用継手部や、継手部の耐久性向上に関するものであり、効率良く無端状織物を製作することを可能とし、また継手部の耐久性向上を実現する優れた技術ではあるが、いずれもこれら継手部に挿通される芯線そのものの耐久性向上を意図したものではなく、継手部の構造改良による作業性改善や継手部ループの耐久性向上は図れるものの、芯線そのものの耐久性については何ら言及するものではなかった。
【0012】
したがって、上記従来技術は、工業用織物の継手部の耐久性向上を実現するためには依然として満足な技術とは言えず、高温環境でも使用可能であり且つ安価な工業用織物接合用芯線の耐久性向上を図る技術の実現が頻りに望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2009−144281号公報
【特許文献2】特開2006−152493号公報
【特許文献3】特開2003−293280号公報
【特許文献4】特開2003−200984号公報
【特許文献5】特開2005−97805号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
以上のような状況を鑑み、本発明は、従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものである。
【0015】
したがって、本発明の目的は、従来の工業用織物接合用芯線と比較して極めて良好な耐摩耗性および耐摩擦性能を備えると共に、優れた耐久性を有し、工業用織物の耐久性向上をも具現化させ得る工業用織物接合用芯線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するため本発明によれば、工業用織物の織物両端部にループ状の継手部を形成し、この継手部同士を互いに噛み合わせて接合し無端状織物となす際に用いる工業用織物接合用芯線であって、固有粘度が0.80以上、屈曲摩耗試験による摩耗破断回数が5000回以上のポリエチレンテレフタレートモノフィラメントからなることを特徴とする工業用織物接合用芯線が提供される。
【0017】
ここで、本発明のPETモノフィラメント製工業用織物接合用芯線においては、PETモノフィラメントの末端カルボキシル基濃度が10当量/10g以下の条件を満足することによって、より一層の優れた効果の発揮が期待できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、以下に説明する通り、従来から用いられている接合用芯線に比較し、PETモノフィラメントの極めて高い固有粘度がもたらす耐久性向上効果により、高い耐摩耗性能の実現を可能とし、このPETモノフィラメントを工業用織物の接合用芯線として用いた場合、極めて好適に使用することができ、高温環境下でも十分に使用に耐え得る工業用織物接合用芯線を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0020】
本発明の工業用織物接合用芯線は、固有粘度が0.80以上、屈曲摩耗試験による摩耗破断回数が5000回以上のポリエチレンテレフタレートモノフィラメントからなることを特徴とする。
【0021】
ここで、本発明のPETモノフィラメントは、ジカルボン酸成分の90モル%以上がテレフタル酸からなり、グリコール成分の90モル%がエチレングリコールからなるPETから構成されることが好適である。
【0022】
本発明の効果を効率よく発現させるために、PETモノフィラメントを構成するPET樹脂中にリン化合物を、リン原子として50ppm 以下で、かつ一般式5×10−3≦P≦M+8×10−3(式中のPはポリエステルを構成する二塩基酸に対するリン原子のモル%であり、MはPET樹脂中の金属で、周期律表II族、VII 族、VIII族でかつ第3,4周期の内より選択された1種もしくは2種以上の金属原子のポリエステルを構成する二塩基酸に対するモル%である。また、M=0であってもよい)の範囲内の量を含有させることができる。
【0023】
さらに、本発明で用いるPETには、上記のPET以外に他のポリマをブレンドしても良く、上記PET樹脂以外に、例えば、ポリアミド、ポリエステルアミド、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアクリレート、ポリプロピレンおよびフッ素樹脂などを本発明の特性を疎外しない範囲で必要に応じてブレンドしたものでもよい。
【0024】
ここで、本発明で用いるPETモノフィラメントの固有粘度は0.80以上であることが必要であり、好ましくは0.85以上、さらに0.88以上である場合、特に耐摩耗性向上効果が顕著となり好ましい。
ここで、本発明でいう固有粘度は、以下の方法によって測定したものである。
【0025】
即ち、溶解用試験管(以降、試験管という)に、溶媒として25mlのオルソクロロフェノール(以降、OCPという)と約3mmにカットしたPETモノフィラメント試料2g±0.001gを入れる。試料を投入した試験管をドライ・ブロックバスにセットし100℃で30分間加熱しながらPETモノフィラメント試料をOCPに溶解する(以降、PETモノフィラメント試料をOCPに溶解したものをOCP溶液という)。このOCP溶液を流水にて15分間冷却後、OCP溶液20mlをホールピペットで計量しオストワルド粘度管に採取する。
【0026】
引き続き、25℃に温度調整した恒温水槽にOCP溶液を採取したオストワルド粘度管をセットし30分間放置、定法に従いオストワルド粘度管内を流下するOCP溶液の流下時間を測定し算出した固有粘度値である。
【0027】
なお、本発明で用いることのできるPET樹脂の製造方法は、公知の溶融重縮合方法あるいは溶融重縮合と固相重縮合を組み合わせた方法にて製造することができる。
【0028】
本発明の芯線を構成するPETモノフィラメントは、前記した高い固有粘度特性に加え、屈曲摩耗破断回数が7000回以上の特性を有することを特徴とする。
【0029】
本発明でいう屈曲摩耗破断回数とは、JIS2008 L1095 9.10.2 B法に準じた屈曲摩耗特性試験機によって測定したPETモノフィラメント製芯線の屈曲摩耗破断回数であり、本発明のPETモノフィラメント製芯線においては、屈曲疲労破断回数が5000回以上であることが必須であり、さらには7000回以上、より好ましくは10000回以上であるとき、これを工業用織物の芯線として用いた際、飛躍的な耐摩耗性能を発揮し、工業用織物の寿命延長に大きく寄与する結果となる。
【0030】
そして、本発明のPETモノフィラメント製芯線では、前記した極めて高い固有粘度特性と優れた屈曲耐久性を同時に満たすことによって、工業用織物用に使用するPETモノフィラメント製芯線とした場合、芯線の摩耗切断による工業用織物の破網が改善され、織物の使用期間を大幅に延長するという効果の創出に繋がる。
【0031】
また、本発明のPETモノフィラメント製芯線は、末端カルボキシル基濃度が10当量/10g以下であるPETモノフィラメントからなることが好ましいが、末端カルボキシル基濃度が5当量/10g以下であることがより好適な効果の発現に繋がる。
【0032】
ここで、PETモノフィラメント製芯線の末端カルボキシル基濃度が10当量/10gを越える場合は、耐加水分解性が不十分となるため好ましくないという傾向が招かれることがある。
【0033】
なお、本発明のPETモノフィラメント製芯線の末端カルボキシル基濃度の測定は、PohlによりANALYTICAL CHEMISTRY 第26巻、1614頁に記載された方法で測定したものであり、本発明のPETモノフィラメントからPETだけを分析前に分離することなく、本発明のPETモノフィラメント製芯線そのものを分析に供して測定することができる。
【0034】
本発明の末端カルボキシル基濃度が10当量/10g以下のPETモノフィラメント製芯線を得るには、末端カルボキシル基濃度が10当量/10gより多いPET樹脂に対し、PET樹脂の溶融状態で原料となるPET樹脂の末端カルボキシル基濃度および反応条件などから、末端カルボキシル基濃度が10当量/10g以下になるようにカルボジイミド化合物を反応させた場合、特に好ましい効果の発揮が期待できる。
【0035】
またここで、PETモノフィラメント製芯線の耐加水分解性能をより長期に亘り持続させるためには、反応後のPET中のカルボジイミド化合物が、0.01重量部〜1.5重量部の範囲で未反応の状態で残存するようにカルボジイミド化合物を反応させることが望ましい。
【0036】
すなわち、カルボジイミド化合物の含有量が0.01重量部未満の場合は、耐加水分解性向上効果が不十分であり、逆に1.5重量部を越える場合は、PETモノフィラメントの物性を損なうばかりか、ポリマ中よりカルボジイミド化合物がブリードアウトしやすくなり、さらには溶融紡糸時にエクストルダーなど紡糸機への原料供給不良などの問題が生じるため好ましくない。
【0037】
なお、本発明のPETモノフィラメント製芯線中の未反応の状態のカルボジイミド化合物の含有量は次の方法で測定したものである。
(1)100mlメスフラスコに試料約200mgを秤取する、
(2)ヘキサフルオロイソプロパノール/クロロホルム(容量比1/1)2mlを加えて試料を溶解させる、
(3)試料が溶解したら、クロロホルム8mlを加える、
(4)アセトニトリル/クロロホルム(容量比9/1)を徐々に加えポリマを析出させながら100mlとする、
(5)試料溶液を目開き0.45μmのディスクフィルターで濾過し、HPLCで定量分析する。HPLC分析条件は次の通りである。
カラム:Inertsil ODS−2 4.6mm×250mm
移動相:アセトニトリル/水(容量比94/6)
流 量:1.5ml/min.
試料量:20μl検出器:UV(280nm)。
【0038】
本発明のPETモノフィラメント製芯線が含有する未反応のカルボジイミド化合物としては、1分子中に1個または2個以上のカルボジイミド基を有する化合物であればいかなるものでもよく、例えば、N,N´−ジ−o−トリイルカルボジイミド、N,N´−ジフェニルカルボジイミド、N,N´−ジオクチルデシルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジメチルフェニルカルボジイミド、N−トリイル−N´−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジ−tert. −ブチルフェニルカルボジイミド、N−トリイル−N´−フェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−ニトロフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−アミノフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−ヒドロキシフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−トリイルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−ジ−o−トリイルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−ジシクロヘキシルカルボジイミド、ヘキサメチレン−ビス−ジシクロヘキシルカルボジイミド、エチレン−ビス−ジフェニルカルボジイミドや芳香族ポリカルボジイミドなどが挙げられる。
【0039】
また、本発明では、これらのカルボジイミド化合物の中から1種または2種以上の化合物を任意に選択してPET樹脂に含有させればよいが、PET樹脂に添加後の安定性の観点から、芳香族骨格を有する化合物が有利な傾向にあり、中でもN,N´−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジ−tert. −ブチルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジメチルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−o−トリイルカルボジイミドなどが有利な傾向にあり、特にN,N´−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド(以下、TICという)が反応性に優れていることから最も好適に用いられ、またTICと芳香族ポリカルボジイミドとを併用する場合には、さらなる耐加水分解性の向上効果が認められるため一層好ましい。
【0040】
なお、上述した本発明のPETモノフィラメント製芯線には、耐加水分解性以外の機能の付与として防汚性(撥水・撥油性)を発現させる目的で公知の各種フッ素樹脂を含有することもでき、また耐乾熱性付与の目的のため公知の酸化防止剤を含有させることも可能である。
【0041】
上記特性を有する本発明のPETモノフィラメント製芯線は、優れた耐摩耗性能を有すると共に、優れた耐熱性や耐加水分解性を有することから、各種工業織物用芯線として好適に利用できるものであり、このPETモノフィラメント製芯線を用い無端状織物と成した工業用織物は、本発明のPETモノフィラメント製芯線の優れた耐摩耗性および耐熱、耐加水分解性から抄紙ドライヤーカンバス、抄紙ワイヤー、サーマルボンド法不織布熱接着工程用ネットコンベア、乾燥機および熱処理機内搬送用ベルトさらにはフィルターなどとして使用される工業用織物の芯線として非常に好ましいものである。
【0042】
本発明のPETモノフィラメント製芯線は、その用途や特性を満足させるため、繊維軸方向に垂直な断面の形状を円形、楕円形、扁平、正多角形および不定形な形状を含む多角形といかなる形状をも取り得るものであり、必要に応じて複合繊維であってもよい。
【0043】
なお、ここでいう扁平とは楕円もしくは長方形のことを意味するが、数学的に定義される正確な楕円、長方形以外に概ね楕円、長方形またはこれに類似した形状を含み、正多角形とは数学的に定義される正多角形以外に、概ねこれに類似した形状を含むものである。
【0044】
また、本発明のポリエステルモノフィラメントの直径は、その使用用途に合わせ適宜選択することができるが、通常は0.1〜4.0mm程度の範囲のものが好適に使用される。
【0045】
次に、本発明のPETモノフィラメント製芯線の製造方法としては、従来公知の製法によって製造が可能である。
【0046】
例えば、PET樹脂をエクストルダーなどの紡糸機で溶融混練し押出し、紡糸機先端に設置された紡糸口金ノズルから溶融ポリマを押出した後に冷却し未延伸糸とし、引き続きこの未延伸糸を1段または多段に延伸、必要に応じ熱セットを行なうことによって製造することが可能である。
【0047】
なおここで、本発明のPETモノフィラメント製芯線の好ましい特性である、末端カルボキシル基濃度を10当量/10g以下のPETモノフィラメントを得るには、重縮合反応終了直後の溶融状態のPET樹脂にカルボジイミド化合物を添加し、撹拌・反応させる方法、PETチップにカルボジイミド化合物を添加・混合した後に反応缶やエクストルダーなどの紡糸機で混練・反応させる方法、および紡糸機でポリエステルにカルボジイミド化合物を連続的に添加し、混練・反応させる方法などにより行なうことができる。
【0048】
その中でも操業の簡便さから、PET樹脂を通常の溶融紡糸に使用されるエクストルダー型紡糸機などに供給すると同時に、エクストルダーなどの入り口またはベント部などから所定量のカルボジイミド化合物を連続的に供給しながら、紡糸機で混練・反応させる方法が好ましく用いられ、混練・反応後の溶融ポリエステルポリマを紡糸機先端に設けられた紡糸口金から押し出し、公知の方法で冷却、延伸、熱セットを行なうことにより、本発明のPETモノフィラメント製芯線を効率よく製造することができる。
【0049】
かくしてなる本発明のPETモノフィラメント製芯線は、高い固有粘度を有することから、従来のPETモノフィラメント製芯線にはない優れた耐摩耗性を実現すると共に、優れた耐熱および耐加水分解性をも具備し、工業用織物用の芯線素材として好適に利用することができ、中でも抄紙ドライヤーカンバス、抄紙ワイヤー、サーマルボンド法不織布接着工程用ネットコンベア、乾燥機および熱処理機内搬送用ベルトさらにはフィルターなどに用いられるPETモノフィラメント製工業用織物接合用芯線として極めて優れた耐久特性を発揮するものであるといえる。
【実施例】
【0050】
以下、本発明のポリエステルモノフィラメントの実施例に関しさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0051】
また、上記および下記に記載の本発明のPETモノフィラメント製芯線における、固有粘度、屈曲摩耗破断回数、芯線摩擦耐久性試験などの評価は以下の方法により測定、評価したものである。
【0052】
(1)PETモノフィラメント固有粘度
溶解用試験管に溶媒として25mlにOCPと約3mmにカットしたPETモノフィラメント試料2g±0.001gを入れる。試料を投入した試験管をドライ・ブロックバスにセットし100℃で30分間加熱しながらPETモノフィラメント試料をOCPに溶解しOCP溶液とし、このOCP溶液を流水にて15分間冷却後、OCP溶液20mlをホールピペットで計量しオストワルド粘度管に採取する。25℃に温度調整した恒温水槽にOCP溶液を採取したオストワルド粘度管をセットし30分間放置、定法に従いオストワルド粘度管内を流下するOCP溶液の流下時間を測定し固有粘度値を算出した。
【0053】
(2)屈曲摩耗破断回数
JIS2008 L1095 9.10.2 B法に準じた屈曲摩耗特性試験機を用い、前記試験機に固定された直径1.0mmの摩擦子(硬質鋼線(SWP−A))の上に接触させたモノフィラメントを該モノフィラメントが摩擦子の左右各55°の角度で屈曲するように設けた2個のフリーローラー(2個のローラー間の距離100mm)の下に掛け、さらに別の1個のフリーローラーの上を介して、モノフィラメントの一端に0.196cN/dtexの荷重をかけてセットし、速度120往復/分かつ往復ストローク25mmでモノフィラメントを摩擦子に往復接触させ、PETモノフィラメント製芯線が破断するまでの回数を同一試料につき各10本測定し、その平均値を算出した。
【0054】
(3)芯線摩擦耐久性試験
JIS2008 L1095 9.10.2 B法に準じた屈曲摩耗特性試験機を用い、芯線耐久性試験を行った。即ち、前記屈曲摩耗破断回数を測定する際に使用した直径1.0mmの摩擦子(硬質鋼線(SWP−A))の代わりに、耐久性試験を実施するPETモノフィラメント製芯線を0.5cN/dtexの荷重を掛けた状態で試験機に固定する(以降、屈曲摩耗試験機に固定した芯線を評価試料という)。次に、この評価試料の上に、評価試料と同一の芯線を接触させ、該芯線が評価試料と左右各55°の角度で屈曲するように設けた2個のフリーローラー(2個のローラー間の距離100mm)の下に掛け、さらに別の1個のフリーローラーの上を介して、芯線の一端に0.10cN/dtexの荷重をかけてセットし、速度120往復/分かつ往復ストローク25mmで前記芯線を前記評価試料に接触させて糸−糸摩擦処理を行ない、PETモノフィラメント製芯線が破断するまでの回数を同一試料につき各10本測定、その平均値にて芯線の摩擦耐久性を以下の基準で判定した。
◎(極めて良好):糸−糸摩擦処理時、PETモノフィラメント製芯線の破断回数が45000回以上であり、ポリエステルモノフィラメント製芯線として、極めて優れた耐久性を有する。
○(良好):糸−糸摩擦処理時、PETモノフィラメント製芯線の破断回数が30000回以上であり、ポリエステルモノフィラメント製芯線として、問題の無い耐久性を有する。
×(不良):糸−糸摩擦処理時、PETモノフィラメント製芯線の破断回数が30000回未満であり、ポリエステルモノフィラメント製芯線として、使用に問題がある。
【0055】
(4)耐加水分解性試験
ポリエチレンテレフタレートモノフィラメントを100リットルオートクレーブに入れ、121℃の飽和水蒸気雰囲気下で10日間連続処理を実施した。水蒸気処理後のモノフィラメントの引張強力をJIS2008 L1013 8.5項に準じて島津製作所製“オートグラフ”AG−1000G型引張試験機を用い、試長:250mm、引張速度:300mm/分の条件で測定、同様に未処理のモノフィラメントの引張強力を測定し、処理前後のモノフィラメントの引張強力から強力保持率を算出し、耐加水分解性の尺度とした。なお、算式は、強力保持率(%)=(処理後モノフィラメントの強力÷処理前モノフィラメントの強力)×100であり、強力保持率が高いほど耐加水分解性が優れることを示す。
【0056】
[実施例1]
PET樹脂として、特開昭56−85704公報に記載の方法に準じて得た極限粘度0.93、末端カルボキシル濃度15当量/10gのPET乾燥チップを準備し、次いで、カルボジイミド化合物としてTIC(ラインケミー社製Stabaxol(登録商標)I)を撹拌装置付き加熱溶解槽で80℃にて溶解し、このTIC溶液を上記PET樹脂と同時にエクストルダー紡糸機供給口から1.50%供給し、紡糸機温度290℃にて混練溶融し、溶融ポリエステル組成物を紡糸ノズルから押し出した後、ただちに温度80℃の温水中で冷却固化させた未延伸糸を得た。
【0057】
引き続き、上記未延伸糸を常法に従って、トータル倍率5.4倍に延伸、熱セットを行ない、直径0.80mmの末端カルボキシル基濃度が1eq/10gのPETモノフィラメントを得た。
【0058】
得られたPETモノフィラメントの固有粘度、末端カルボキシル基濃度、屈曲摩耗破断回数、芯線耐久性試験および耐加水分解性試験後強力保持率などを評価した結果を表1に示す。
【0059】
[実施例2]
実施例1と同一のPET樹脂を用い、同一の製造条件にてTICを非添加として、直径0.80mmの末端カルボキシル基濃度が19eq/10gのPETモノフィラメントを得た。
【0060】
得られたPETモノフィラメントの固有粘度、末端カルボキシル基濃度、屈曲摩耗破断回数、芯線耐久性試験および耐加水分解性試験後強力保持率などを評価した結果を表1に示す。
【0061】
[実施例3および4]
実施例1と同様の製造条件にて、使用するPET樹脂を東レ(株)製T701Tに変更、カルボジイミド化合物としてTIC(ラインケミー社製Stabaxol(登録商標)I)を添加した、直径0.80mmのPETモノフィラメント(実施例3)およびTICを非添加とした直径0.80mmのPETモノフィラメント(実施例4)を得た。
得られたPETモノフィラメントの固有粘度、末端カルボキシル基濃度、屈曲摩耗破断回数、芯線耐久性試験および耐加水分解性試験後強力保持率などを評価した結果を表1に示す。
【0062】
[比較例1]
実施例1と同様の製造条件にて、使用するPET樹脂を東レ(株)製T301Tに変更し、直径0.80mmのPETモノフィラメントを得た。
得られたPETモノフィラメントの固有粘度、末端カルボキシル基濃度、屈曲摩耗破断回数、芯線耐久性試験および耐加水分解性試験後強力保持率などを評価した結果を表1に示す。
【0063】
[比較例2]
比較例1と同様の製造条件およびPET原料にて、カルボジイミド化合物としてTICを添加し、直径0.80mmのPETモノフィラメントを得た。
得られたPETモノフィラメントの固有粘度、末端カルボキシル基濃度、屈曲摩耗破断回数、芯線耐久性試験および耐加水分解性試験後強力保持率などを評価した結果を表1に示す。
【0064】
[比較例3]
比較例1と同様の製造条件にて、使用するPET樹脂を東レ(株)製T301Tおよび三井化学(株)製J155を1:1に混合したPET原料を用い、直径0.80mmのPETモノフィラメントを得た。
【0065】
得られたPETモノフィラメントの固有粘度、末端カルボキシル基濃度、屈曲摩耗破断回数、芯線耐久性試験および耐加水分解性試験後強力保持率などを評価した結果を表1に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
表1の結果から明らかなように、本発明によるPETモノフィラメント製芯線(実施例1〜4)は、いずれも高い固有粘度を有することにより、極めて高い耐屈曲摩耗性を発揮し、さらに、糸−糸摩擦試験においても優れた摩擦耐久性を具備することから、これら性能を兼ね備えるPETモノフィラメントは、工業用織物接合用芯線に求められる高い屈曲疲労耐久性および摩擦耐久性を有していることがわかる。
【0068】
また、本発明のPETモノフィラメント製芯線の好ましい要件である、末端カルボキシル基濃度が10当量/10以下の特徴を備える実施例1および3の場合、高い屈曲摩耗耐久性や摩擦耐久性に加え、優れた耐加水分解性能を有することから、これらPETモノフィラメント製芯線は、例えば、抄紙ドライヤーカンバスや高温かつ高湿度の条件下で使用される搬送用ベルト織物に利用されるPETモノフィラメント製接合用芯線として、極めて好適な要件を備えたものと言うことができる。
【0069】
一方、本発明の規定を満たさない比較例1〜3のPETモノフィラメント製芯線は、PETモノフィラメントの固有粘度が低いため、接合用芯線の重要な特性である屈曲摩耗性能や耐摩耗性能に劣ることが明らかである。
【0070】
また、TICを添加した比較例2の場合でも、耐加水分解性能の改善は見られるものの、接合用芯線の重要な特性である屈曲摩耗性能や耐摩耗性能が低く、使用に際し問題を来たす芯線となってしまった。
【0071】
また、工業用織物接合用芯線の実用評価として、工業用織物の両端部の経糸を折り返してループ状の継手部を形成し、これらループ状の継手部を互いに噛み合わせた共通孔内に実施例1と比較例2の各芯線を挿通して無端状織物とつくり、これを抄紙ドライヤーカンバスとして実用に供した。その結果、実施例1の芯線は、芯線の削れや摩滅も無く極めて良好な耐久性を発揮したのに対し、比較例1の芯線は、継手部のループが繰返し該芯線と摩擦することによって摩滅してしまい、実施例1の芯線を用いた場合と比較して、織物としての耐久寿命が60%程度と低くなる好ましくない結果を招いた。
【産業上の利用可能性】
【0072】
以上説明したように、本発明のPETモノフィラメント製接合用芯線は、従来の接合用芯線にはない優れた耐摩耗性能や耐摩擦性能を有すると共に、優れた耐熱および耐加水分解性をも具備し、工業用織物用の芯線素材として好適に利用することができ、中でも抄紙ドライヤーカンバス、抄紙ワイヤー、サーマルボンド法不織布接着工程用ネットコンベア、乾燥機および熱処理機内搬送用ベルトさらにはフィルターなどに用いられるPETモノフィラメント製工業用織物接合用芯線として極めて優れた耐久特性を発揮するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工業用織物の織物両端部にループ状の継手部を形成し、この継手部同士を互いに噛み合わせて接合し無端状織物となす際に用いる工業用織物接合用芯線であって、固有粘度が0.80以上、屈曲摩耗試験による摩耗破断回数が5000回以上のポリエチレンテレフタレートモノフィラメントからなることを特徴とする工業用織物接合用芯線。
【請求項2】
前記ポリエチレンテレフタレートモノフィラメントの末端カルボキシル基濃度が10当量/10g以下であることを特徴とする請求項1に記載の工業用織物接合用芯線。

【公開番号】特開2011−208295(P2011−208295A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−75311(P2010−75311)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000219288)東レ・モノフィラメント株式会社 (239)
【Fターム(参考)】