説明

工業用薬剤の簡易濃度測定試薬および濃度測定方法

【課題】
薬剤、特に木材保存剤希釈液の処理槽における濃度を、簡易かつ迅速に測定し、濃度管理を行えるようにする。
【解決手段】
非イオン系界面活性剤を含有する木材保存剤の希釈液の濃度を簡易に測定するために、呈色試薬としてチオシアン酸塩およびコバルト塩を含有する水溶液を用いて呈色させ、これを同様にして発色させた標準液と比色することにより、または吸光度を測定することにより木材保存剤濃度を迅速に決定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非イオン系界面活性剤を含有する工業用薬剤、またはその水希釈液の濃度を簡易的に測定し、管理するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工業用薬剤を水で希釈し、使用する例として木材保存剤、除草剤がある。木材保存剤の使用にあたっては、処理を行う季節、木材の樹種などによって木材保存剤の濃度を調整するため、木材保存剤の濃度を定期的に測定する必要がある。
【0003】
木材保存剤の有効成分は、従来ハロゲン化フェノール化合物が主として用いられていた。ハロゲン化フェノールは2価の銅イオンと錯体を形成し茶色に発色するため、硫酸銅や塩化銅を含有させた試験紙を用いて簡易に濃度を測定することが可能であった。
【0004】
近年、ハロゲン化フェノール化合物は急性及び慢性毒性が強く、また難分解性であることから、蓄積による二次公害の懸念があり、また処理された木材を焼却することによってダイオキシンの発生の危険性があり、環境汚染に対する配慮から使用が敬遠され、代替剤が望まれていた。
【0005】
このような理由から、近年ハロゲン化フェノール化合物を含まない薬剤が次々と開発され、使用されている。これらの非ハロゲン化フェノール製剤を使用する場合にも簡易に濃度を測定する必要がある。例えば、メチレンビスチオシアネートを有効成分とする木材防カビ剤希釈液の濃度測定方法として、前処理試薬に水酸化ナトリウム等アルカリ性試薬または亜硫酸塩等の還元性試薬、発色試薬として3価の鉄イオンを含有する試薬を用いる方法が提案されている。しかし本法は、メチレンビスチオシアネートを有効成分とする木材防カビ剤にのみ適用できるものであった。
また、リン酸塩をインジケーターとして簡易に木材防カビ剤の濃度を測定することが提案されているが、発色が明瞭ではなく、汚れがある液体では発色の程度が確認できないという問題があった。
【0006】
非ハロゲン化フェノール系の木材保存剤成分は多くの種類があり、それらは一種または二種以上の有効成分を含有している。しかし、これらの成分を簡易に測定することは非常に困難であり、有効成分毎に簡易濃度測定方法を開発する必要があった。
【0007】
また、木材保存剤の希釈液を採取し、保存剤のメーカーに送付し、濃度分析方法として高速液体クロマトグラフ装置(HPLC)やガスクロマトグラフ装置(GC)等の機器を用いて分析する方法が行われているが、結果が迅速に得られず、しかも手間とコストがかかるものである。分析結果を得られることが遅いと木材保存剤の濃度を補正するのが遅れ、濃度低下によるカビの発生等の障害が起こりやすい。
【0008】
【特許文献1】特開平6−230005号公報
【特許文献2】特開2008−197022公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
工業用薬剤、特に木材保存剤希釈液の処理槽における濃度を、簡易かつ迅速に測定することが、本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は鋭意研究を重ねた結果、木材保存剤中に配合されている非イオン系界面活性剤を木材保存剤のインジケーターとして簡易に測定することによって、木材保存剤の濃度を迅速に見積もることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち本発明は、呈色試薬としてチオシアン酸塩およびコバルト塩を含有する水溶液を用いることを特徴とする、非イオン系界面活性剤を含有する木材保存剤の濃度測定試薬であり、また希釈液中の木材保存剤の濃度をこの呈色試薬を用いて発色させ、これを同様にして発色させた標準液と比色することにより、木材保存剤の濃度を決定することを特徴とする濃度測定方法である。また、実際に製材工場などで木材を浸漬処理し、木材の抽出物や金属イオンの混入により着色した木材保存剤希釈液では、呈色試薬としてチオシアン酸塩およびコバルト塩を含有する水溶液のみを用いた場合に、着色により判定しづらい場合があるが、シュウ酸や1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸を含有する溶液を用いることで着色を低減させ比色しやすくするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の試薬または方法を用いることにより、非イオン系界面活性剤を含有する工業用薬剤剤、特に木材保存剤希釈液の処理槽における濃度を、簡易かつ迅速に測定することができる。
【0013】
木材保存剤の希釈液における非イオン系界面活性剤の濃度は木材保存剤の濃度と比例するため、非イオン系界面活性剤濃度を測定することによって間接的に木木材保存剤の濃度を求めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の呈色試薬は、チオシアン酸塩およびコバルト塩の水溶液で、非イオン系界面活性剤と反応し呈色させるために用いられる。
チオシアン酸塩は、アルカリ金属イオンやアンモニウムイオン等いずれの塩を用いても差し支えなく、通常はチオシアン酸アンモニウムを用いることができる。コバルト塩については、硝酸イオンや硫酸イオン等いずれの塩を用いても差し支えない。チオシアン酸塩とコバルト塩の水溶液はチオシアン酸塩とコバルト塩の重量比率が、10:1〜1:10となるように、加温しながら水に溶解することが望ましい。
【0015】
濃度を測定される木材保存剤は非イオン系界面活性剤を含有するものであれば特に制限はなく、どのような製剤でも良い。例えば水溶製剤、乳剤またはフロアブル製剤でも差し支えない。非イオン系界面活性剤は特に限定するものではないが、例えば、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどが挙げられる。また、これらのノニオン系界面活性剤は一種を単独に用いても二種以上を併用してもよく、製剤に対して重量%で0.0005〜50%添加することが望ましい。また、アニオン系界面活性剤と併用することも可能である。
【0016】
木材保存剤として用いられる有効成分には特に制限はないが、3−ヨード−2−プロピニルブチルカーバメート、4−クロロフェニル−3−ヨードプロパギルホルマール、メチレンビスチオシアネート、ジヨードメチルパラトリルスルホン、3−ブロモ−2,3−ジヨード−2−プロペニルエチルカルボナート、2−n−オクチルイソチアゾリン−3−オン、4,5−ジクロロ−n−オクチルイソチアゾリン−3−オン、2−チオシアノメチルチオベンゾチアゾール、トリス−N−シクロヘキシルジアゼニウムジオキシ−アルミニウム塩及びカリウム塩、2−(4−チアゾリル)ベンズイミダゾール、2−ベンズイミダゾールカルバミン酸メチルなどの防腐・防カビ剤等が挙げられる。

【0017】
木材保存剤が鉄汚染などにより着色する場合があり、上記の呈色試薬を添加したときに試料液の濃度を測定するのに障害となる場合がある。このような場合には呈色試薬と合わせて、金属キレート剤を添加し、鉄汚染などによる着色を生じないようにすることができる。添加されるキレート剤に特に制限はないが、5%シュウ酸水溶液であれば重量%で0.0005〜10%添加することが望ましく、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸の場合DEQUEST2010(ソルーシア・ジャパン製、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸の60%水溶液)のような市販品が使用できる。
【0018】
本発明の測定方法を利用して希釈液中の保存剤の濃度を求めるには、本発明の呈色試薬を用いて発色させた保存剤希釈液と、標準となる保存剤の希釈液を発色させた液の呈色を比色することによって、保存剤の濃度を求めることができる。比色する希釈液の濃度については、日本工業規格JIS Z 8721のマンセル表色系において、色相10RP〜10Bを示すように採取する希釈液の量および添加する呈色試薬の量を調整することが可能である。
【実施例】
【0019】
次に本発明の実施例及び試験例をあげて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0020】
(呈色試薬)
チオシアン酸アンモニウム310gと硝酸コバルト6水和物を140g秤量し、少量の水で溶解する。加温しながらイオン交換水を加えて液量を1000mLとした呈色液とした。
(金属キレート剤1)
シュウ酸5g水95gに溶解させ金属キレート剤溶液とした。
(金属キレート剤2)
1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸60%水溶液(DEQUEST2010:ソルーシア・ジャパン製)を用いた。
【0021】
前記呈色液と金属キレート剤を用いて表1の組合せで試験を実施した。

【0022】
【表1】

【0023】
(試験例1)
非イオン系界面活性剤を含む木材保存剤(ネオシントールW−5200、住化エンビロサイエンス株式会社製)の希釈液を用い、これらの処理液1mLに前記表1の組合せで示す呈色試薬を0.1g、金属キレート剤を0.02g添加し発色させた。発色程度を表1に示す。表1より本発明の測定条件での発色は、日本工業規格JIS Z 8721のマンセル表色系において、色相10RP〜10Bを示した。
【0024】
【表2】

【0025】
(試験例2)
針葉樹を主に製材する製材所において使用されている非イオン系界面活性剤を含む木材保存剤(ネオシントールW−5200、住化エンビロサイエンス株式会社製)の処理液(6点)を採取し、これらの処理液1mLに前記表1の組合せで呈色試薬0.1g、金属キレート剤0.02gを添加し発色させた。これを発色させた木材保存剤の標準液と比較し木材保存剤の濃度を求めた。また、液体クロマトグラフ装置(HPLC)を用いて有効成分の濃度を測定し、木材保存剤の濃度を求めた。結果を表2に示す。
【0026】
【表3】

【0027】
(試験例3)
広葉樹を主に製材する製材所において使用されている非イオン系界面活性剤を含む木材保存剤(ネオシントールW−1500、住化エンビロサイエンス株式会社製)の処理液(3点)を採取し、これらの処理液1mLに前記実施例に示す呈色試薬を0.1g、金属キレート剤を0.02g添加し発色させた。これを同様に発色させた木材保存剤の標準液と比較し木材保存剤の濃度を求めた。また、液体クロマトグラフ装置(HPLC)を用いて有効成分の濃度を測定し、木材保存剤の濃度を求めた。結果を表3に示す。
【0028】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の試薬を用いて木材保存剤希釈液の濃度を簡易かつ迅速に測定することができ、希釈倍率の管理を簡便に行うことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一種類以上の非イオン系界面活性剤を含有する工業用薬剤において、チオシアン酸塩およびコバルト塩を含有する溶液を用いた呈色反応であることを特徴とする組成物の濃度測定試薬。
【請求項2】
請求項1記載の濃度測定試薬使用時に、金属キレート剤を添加することを特徴とする工業用薬剤の濃度測定試薬。
【請求項3】
請求項2記載の金属キレート剤としてシュウ酸または/および1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸を少なくとも1種類以上含有することを特徴とする工業用薬剤の濃度測定試薬。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか記載の呈色試薬を用いて発色させ、発色させた標準液と比色して測定することを特徴とする工業用薬剤の濃度測定方法。

【公開番号】特開2011−179887(P2011−179887A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−42606(P2010−42606)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(000250018)住化エンビロサイエンス株式会社 (69)
【Fターム(参考)】