工業用防腐・抗菌剤組成物
【課題】
防腐・抗菌性に優れる1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン系化合物の高濃度水性溶液を、冬季夜間などの低温条件で貯蔵した際、またはそれを低温貯蔵後に小分け分取する際に結晶析出することがあり、その後の煩雑な溶解作業などのトラブルの原因となり、使用現場での大きな悩みとなっていた。
【解決手段】
水と水酸基含有有機溶媒(例えばプロピレングリコール)および/又はケトン溶媒との混合溶媒中に、1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン系化合物(BIT)を高濃度に含有し、且つ結晶化抑止剤として有機アミン化合物と金属水酸化物の両方を含有する防腐・抗菌性組成物を特徴とする。有機アミンと金属水酸化物の相乗効果によりBIT塩の結晶析出・成長が防止されるものと推定された。
防腐・抗菌性に優れる1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン系化合物の高濃度水性溶液を、冬季夜間などの低温条件で貯蔵した際、またはそれを低温貯蔵後に小分け分取する際に結晶析出することがあり、その後の煩雑な溶解作業などのトラブルの原因となり、使用現場での大きな悩みとなっていた。
【解決手段】
水と水酸基含有有機溶媒(例えばプロピレングリコール)および/又はケトン溶媒との混合溶媒中に、1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン系化合物(BIT)を高濃度に含有し、且つ結晶化抑止剤として有機アミン化合物と金属水酸化物の両方を含有する防腐・抗菌性組成物を特徴とする。有機アミンと金属水酸化物の相乗効果によりBIT塩の結晶析出・成長が防止されるものと推定された。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は溶解性および貯蔵安定性に優れ、且つ安全性・取り扱い性が改良された防腐または抗菌性1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン系化合物を含有する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン(以下、BITと称する)系化合物は防腐、抗菌作用を有し、例えばエマルジョン塗料、合成高分子エマルジョン、ラテックス、金属加工油、接着剤、増粘剤、界面活性剤溶液、紙用コーティング剤、顔料、スラリー、コンクリート混和剤、インクジェット記録用インク、その他種々の分野で利用されている。
【0003】
BITは常温では粉末性の固体であるが昇華性があり、その蒸気は皮膚、粘膜を強く刺激するため粉末状態での取扱いは極めて不便である。また、殺菌対象物への添加時の利便性を考えてもBITを溶液状の組成物に変換することが望まれる。中でも殺菌対象物が水系のものに適用する際には分散性等を考えるとBITの水溶液であることが望ましい。更に輸送や貯蔵時の経済性を考慮するとできるだけBIT濃度の高い液剤とすることが望まれる。
【0004】
しかしながら、BITは水に対する溶解度が小さいため、溶媒が純水だけの場合には高濃度BIT液剤は得られない。BIT高濃度水性溶液を得る手段として、例えばエチレンジアミン等のアミンと水との混合物にBITを溶解する方法が知られている(特許文献1)が、該溶液中でのBITの経時安定性に問題がある。
【0005】
また、特許文献2にはジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ジエチレングリコール低級アルキルエーテル等と水、および水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物の混合物に、BITアルカリ金属塩を組成物中5重量%程度溶解した液状製剤が開示されている。しかしながら、この方法では溶解可能なBITの濃度は高々20%程度であり、更に高濃度にしようとすると一時的には完全に溶解した様に見えても低温で放置しておくと沈澱や結晶が析出してくる。
【0006】
また、特許文献3には、プロピレングリコ−ルと水、アルカノールアミンの三成分混合系に、BITを添加することにより、その貯蔵安定性が改良されることの記載があるが、それでも尚、低温安定性は不十分である。特に、従来の特許文献には記載が認められない現象、例えば低温のまま石油缶からビーカーなどに小分けする際に、ビーカー中で突然結晶化する現象が実際の作業現場で頻発し、使用工程の作業性を低下させる大きな原因となっている。このような低温貯蔵後の小分け時などの結晶化を防止するための方法は上記文献中に記載がなく、その解決が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭54−10612号公報
【特許文献2】特開昭54−59329号公報
【特許文献3】特許3489895号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、BIT濃度ができるだけ高く、また取り扱い安全性が高く、長期間の低温保存に対しても安定であり、また小分け・調液時の結晶化がないようなBIT高濃度水性溶液を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明者らは上記を目的として鋭意研究を行い、本発明に至った。
【0010】
即ち、本発明は、次の(1)から(4)に関するものである。
【0011】
(1)水と、水酸基含有有機溶媒および/又はケトン溶媒とを含む混合溶媒中に、1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン又はその誘導体を含む系に、有機アミン化合物と金属水酸化物を併用したことを特徴とする防腐抗菌剤組成物。
(2)1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン又はその誘導体10〜50重量%、水5〜40重量%、水酸基含有有機溶媒および/又はケトン溶媒10〜60重量%、有機アミン化合物10〜40重量%、金属水酸化物0.4〜15重量%を含むことを特徴とする、上記(1)の組成物。
(3)有機アミンが炭素原子2〜20個を有する脂肪族アミン、脂環式アミン、ヘテロ環式アミン、アルカノールアミン化合物から選択されることを特徴とする上記(1)または(2)の組成物。
(4)水と水酸基含有有機溶媒との混合溶媒が使用され、この際、水酸基含有有機溶媒が、アルコール類、グリコールのモノエーテル類、およびグリコールのモノエステル類から選択されることを特徴とする上記(1)〜(3)の組成物。
(5)金属水酸化物が、アルカリ金属水酸化物およびアルカリ土類金属水酸化物から選択されることを特徴とする上記(1)〜(4)の組成物。
(6) 上記(1)〜(5)のいずれか一つの組成物を含む、エマルジョン塗料、合成高分子エマルジョン、ラテックス、顔料スラリー、金属加工油、圧延油、スライムコントロール、接着剤、増粘剤、界面活性剤溶液、紡糸油、インクジェット記録用インク。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の特徴は、結晶化抑止剤として有機アミン化合物と金属水酸化物の併用(相乗)効果にある。前述した特許文献中にはグリコール類、有機アミン、およびアルカリ金属水酸化物のそれぞれの効果の記載はあるが、後述する実施例に見られるように、低温での保存安定性、特にビーカーなどの小分け時の結晶化に対してそれら従来知られた効果だけでは不十分である。本発明のアミンと金属水酸化物の組み合わせによる相乗効果によって初めて得られたものである。
【0013】
低温保存後の小分け時のショックによる結晶化は、本発明者により発見された現象であり、そのメカニズムについては不明な点も多いが、以下のように推察される。即ち、有機アミンと金属水酸化物を併用しないBIT高濃度液を低温保存すると、BITが過飽和(過冷却)状態として保存されるが、低温で振動・撹拌などの強いショックを与えると、何らかの結晶核の存在により、過冷却状態から急速に結晶化が進行するものと考えられる。
【0014】
上記の結晶化推定メカニズムを基に考えると、有機アミンや金属水酸化物の濃度を更に増加させる方法も、結晶化防止策として考えられる。しかしながら有機アミン高濃度化により溶解度を上げようとしても臭気や環境適性などで限界がある。また金属水酸化物濃度増加により溶解度を上げる方法は、溶液の高pH化、眼球粘膜への刺激などによる取り扱い性の低下を招くため、金属水酸化物濃度増大の効果にも限界がある。またグリコールなどの水酸基含有溶媒の種類、有機アミンの塩基度(pKb)の増加などの方法も考えられるが、爆発性や環境適性の懸念、後述する比較例10〜14などで例示するように、問題を解決できるに至っていない。
【0015】
そこで本発明者は、BITの溶解度の増大と、結晶核からの結晶成長を抑止するための方法について考察を行った。即ち、アミン共存下のBITはアミン塩として結晶成長すると考えられるが、生成する結晶形の異なる添加剤を加えると、それらの添加剤がBITアミン塩の結晶成長を遅延させるように作用する可能性があると、予想された。そのために、有機アミン類、アルカリ金属やアルカリ土類金属などのイオン種を変化させ、その併用効果を検討したところ、有機アミンと金属水酸化物の併用により特異的に結晶化が抑止されることを発見した。
【0016】
上記の現象は、BITアミン塩結晶が成長する過程ではBIT金属塩が、BITアミン塩結晶の成長を阻害し、BIT金属塩結晶が成長する過程ではBITアミン塩が結晶成長を阻害するためと推測された。有機アミン−金属水酸化物併用が、異なった構造の有機アミン同士の併用に比べ、その抑止効果が非常に大きいことから、それらの金属塩とアミン塩の結晶形が大きく異なることが一要因として予想される。
【0017】
上記の推定メカニズムの妥当性については今後検証は必要ではあるが、後述する実施例、比較例で示される本発明の効果は、有機アミンと金属水酸化物の相乗効果によって始めて説明される。
【0018】
尚、有機アミンとアルカリ金属水酸化物を、それぞれ別々にBIT水性溶液に添加することは、上記文献などで公知であるが、これら2成分を実際に併用してテストした実施例は、従来の特許文献中には見られない。
【0019】
本発明に用いられる1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン系化合物は、下記の化学式1により表される。
【0020】
【化1】
【0021】
[式中:
Rは、ヒドロキシ、ハロゲン(特に塩素)、炭素数1〜4のアルキル又は炭素数1〜4のアルコキシであり; そしてnは、0から4である]
本発明の組成物中のBITの濃度は、組成物全体を基準にして一般的に10重量%〜50重量%である。10重量%以下では、輸送費用、貯蔵スペースの点で効率が悪く、50重量%以上では低温での結晶化防止のためのアルカリ量などを増す必要があり、また取り扱い安全性などの理由でも好ましくない。好ましい濃度は、20〜45重量%、特に好ましくは30〜40重量%である。
本発明の組成物中の水としては、イオン交換などによる脱塩水が好ましいが、一般の水道水や井戸水などでもよい。水の濃度は、BITの溶解性や取り扱い性などから、組成物全体を基準にして5〜40重量%が好ましい。特に好ましくは10〜30重量%、特に15〜25重量%である。
【0022】
本発明のBITは、水酸基含有有機溶媒又はケトン溶媒あるいはこれらの混合物、および水と混合・溶解して工業殺菌、抗菌組成物として使用することができる。水酸基含有溶媒としては、アルコール類、グリコールのモノエーテル類、グリコールのモノエステル類などが好適であり、アルコールとしては、具体的には、一価アルコール、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノールなどの低級(炭素数1〜6)一価アルコール; 二価アルコール、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコールなどの炭素原子数2〜9のグリコール類、並びにポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコールなどのより高級のグリコール類(分子量200〜1000)
; 多価アルコール、例えばグリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、1,2,6−ヘキサントリオール、およびトリメチロールヘキサンなどの炭素原子数3〜10の三価アルコールなどが挙げられる。グリコールモノエーテルは、式R1−(O−Alkylene)n−OH (式中、R1は炭素数1〜4のアルキル基であり、Alkyleneは、炭素数2〜4のアルキレン基であり、nは1〜3の整数である。)に相当する。グリコールモノエステルは、式R2−CO−(O−Alkylene)n−OH(式中、R2は炭素数1〜4のアルキル基であり、Alkyleneは、炭素数2〜4のアルキレン基であり、nは1〜3の整数である)。また、発明に使用できるケトン溶媒としては、例えばアセトンが挙げられる。これらの水酸基含有溶媒およびケトン溶媒は、単独でまたは二種以上のものの混合物としても使用することができる。水酸基含有有機溶媒とケトン溶媒を混合して使用する場合は、その比率は任意であるが、例えば重量基準で1:9〜9:1とすることができる。
【0023】
しかし、引火性などの点で危険性が低いグリコール類が好ましく、その中でもプロピレングリコール、ジプロピレングリコールが特に好ましい。
【0024】
本発明の組成物中の水酸基含有有機溶媒又はケトン溶媒あるいはこれらの混合物の濃度は組成物全体を基準にして一般的には10〜60重量%、好ましくは15〜45重量%、特に好ましくは20〜30重量%である。
【0025】
その範囲以下ではBITの溶解度が低下し、またその範囲より大きいと添加できるアミン濃度が低下し、BIT低温安定性が低下する。
【0026】
本発明に使用することの出来るアミンとしては、脂肪族アミン、例えば炭素原子数が2〜20、特に15までの、中でも6までの脂肪族モノアミンおよびポリアミン、具体的には例えばジエチルアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレントリアミン、ジメチルアミノプロピルアミンなど、脂環式アミン、例えば炭素原子数が2〜20、特に3〜15、中でも6までの脂環式モノアミンおよびポリアミン、具体的には例えばジシクロヘキシルアミン、ジシクロペンチルアミン、ジシクロプロピルアミン、1,2−、1,3−および1,4−シクロヘキサンジアミン類、ジアミノジシクロヘキシルメタン、イソホロンジアミン、N−アミノエチルシクロヘキシルアミン、N−アミノプロピルシクロヘキシルアミンなど; 複素環式アミン、例えば炭素原子数が2〜20、特に4〜15、中でも6までのモノアミンおよびポリアミン、具体的には例えばピペラジン、ピロリジンなどが挙げられる。またアルカノールアミン類、例えば炭素原子数2〜20、好ましくは10までの、中でも6までのアルカノールアミン類、具体的には例えばトリエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミンなども同様に使用できる。また二種以上のアミン化合物を併用することもできる。
【0027】
本発明の組成物中の有機アミン濃度は組成物全体を基準にして一般的には10〜40重量%、好ましくは10〜30重量%、特に好ましくは10〜20重量%である。有機アミンによるBITの安定化は、溶解性の小さなBITが、溶解性の大きなBITアミン塩を形成するためであり、低温での貯蔵安定性を確保するためには、BIT濃度に対応した適量のアミン濃度を必要とする。有機アミン濃度が40重量%以上では、他の成分濃度を低下させることの弊害や、またアミンによる臭気などの問題を伴い易い。
【0028】
本発明に使用することの出来る金属水酸化物としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物を用いることが出来る。アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウムなど、またアルカリ土類金属としてはカルシウム、マグネシウム等いずれも使用可能であるが、コスト、本発明の組成物の低温安定性などを考慮すると、アルカリ金属の中でもナトリウムが特に好ましい。
本発明の組成物中の金属水酸化物濃度は組成物全体を基準にして一般的には0.4〜15重量%、好ましくは1.0〜10重量%、特に好ましくは1.4〜8重量%である。本発明における金属水酸化物は、BITと反応してBIT金属塩を形成するが、後述する比較例でも示すように、アミンが存在しない場合のBIT金属水酸化物塩の低温貯蔵安定性はかなり低い。それにもかかわらず、アミンを併用した系では金属水酸化物が1.0重量%程度の低濃度でも非常に高い結晶化抑制効果を示す。これは前述したようにBITアミン塩とBIT金属塩の相互作用、即ちBITアミン塩が結晶成長をしようとするところを、金属水酸化物またはそのBIT塩が、アミン塩の結晶化をブロックするメカニズムを考えることにより、比較的低いアルカリ濃度でも大きな効果を示すことが理解されやすい。金属水酸化物濃度が15重量%を越えると、組成物のpHが高くなり、眼球、皮膚への刺激性が高くなり好ましくない。また半導体機器用の部材加工などの機械切削油などに本組成物を添加する用途などの場合、残留アルカリが各種電子部品類に与える悪影響が問題となりやすい。
【0029】
本発明の組成物中のBITモル数と塩基モル数は、BIT濃度に依存するが、BITを1とすると添加塩基(有機アミンおよび金属水酸化物)合計モル数の割合は0.5以上、好ましくは0.8以上、特に好ましくは1.0以上である。添加塩基モル数に対してBITモル数が大きいと、塩構造でない低水溶性のBIT濃度が高くなり、結晶析出を誘発しやすい。
【0030】
本発明の組成物を製造するにはBITとグリコールなどの水酸基含有有機溶媒および/又はケトン溶媒、水、有機アミン、および金属水酸化物を通常の方法によって溶解混合すればよいが、その場合、溶解速度を大きくするために、溶液を加熱して行うことも好ましい。また有機アミンは、予めBITのアミン塩としたものを添加できると共に、金属水酸化物についても、予めBITの金属塩とした物を添加することができる。
【0031】
本発明の態様の一つでは、本発明で得られたBIT組成物は、上記の水、水酸基含有有機溶媒、ケトン溶媒、1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン系化合物、有機アミン化合物および金属水酸化物の他、本発明の効果を損なわない限りにおいて、他の殺菌、抗菌、防腐有効成分や、他の添加剤などを含むことができる。このような添加剤としては、例えば界面活性剤などが挙げられ、例えばアルキロールアミドやアルキルフェノールエチレンオキサイド付加物、脂肪酸エステルなどの非イオン系界面活性剤やラウリル硫酸ナトリウムなどのアニオン系界面活性剤などを加えることができる。
【0032】
しかし、本発明の態様の一つでは、該組成物は、上記の水、水酸基含有有機溶媒および/又はケトン溶媒、1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン系化合物、有機アミン化合物および金属水酸化物から本質的になり、添加剤等の他の成分は事実上含まないこともできる。
【0033】
本発明のBIT組成物は、BIT濃度等に依存して目的物質(例えば金属加工における金属加工油、防錆油など)、水、溶剤と混合、希釈し、産業用防腐、抗菌組成物として使用することができる。
【0034】
このようにして得られた産業用防腐、抗菌組成物は、防腐、殺菌、抗菌の目的であれば種々の対象に用いることができ、例えば、エマルジョン塗料、合成高分子エマルジョン、ラテックス、顔料スラリー、金属加工油、圧延油、スライムコントロール、接着剤、増粘剤、界面活性剤溶液、紡糸油、インクジェット記録用インクなど数多くの液状の対象物に好適に用いられる。
[発明の効果]
【0035】
本発明により得られる組成物は以下の特徴を有する。
(1)従来困難であった低温貯蔵、分取などの取り扱い時のBIT結晶析出を、金属水酸化物と有機アミンの併用効果により抑制することが可能となった。
(2)冬の野外放置による結晶析出を防止できるばかりでなく、それを分取・小分けする時のショックなどによる結晶化をも抑制できるため、出荷先(使用作業場)でのトラブルを防止できる。
(3)金属水酸化物と有機アミンの相乗効果により、併用しない場合に比べてアルカリ、有機アミンのそれぞれを低濃度とすることができるため、皮膚刺激性その他の取り扱い安全性、環境適性など好ましい特性を実現できる。
【0036】
本発明を次の実施例で詳述するが、本発明の範囲はこれらのみに限定されるものではない。ここで実施例中の「%」は、「重量%」、「部」は「重量部」を示す。
【実施例】
【0037】
(実施例1)
水酸化ナトリウム(以下、NaOHと略)水溶液(48.6%濃度水溶液)513部(6.2モル)、プロピレングリコール(PGと略)3480部、脱塩水2285部を70℃で混合、撹拌しながらN,N−ジメチルアミノプロピルアミン(DMAPAと略)2375部(23モル)、およびBIT(化学式1において、n=0の構造)4260部(28モル)を添加し、溶解した。各成分の重量組成は水 19.8%、PG 26.9%、DMAPA 18.4%、NaOH 1.9%、BIT 33.0%であった。室温まで徐冷後、石油缶に封入し0℃から5℃の保冷庫に1週間放置した。放置後、石油缶中には結晶析出物は認められず、またガラスビーカーに1kg取り出し、撹拌しても結晶の析出は認められなかった。
【0038】
(比較例1)
NaOHを添加しないことを除き、実施例1と全く同じようにBIT溶液を作成し、石油缶に封入後、0℃から5℃の保冷庫に1週間放置し、取り出した。開封後、内容物を観察したところ結晶析出は認められなかったが、低温のままガラスビーカーに1kg取り出したところ、瞬間的に結晶が析出した。それを再溶解するためには、再度加熱するなど、煩雑な作業を必要とした。
【0039】
(比較例2)
DMAPAを添加しないことを除き、実施例1と全く同じようにBIT溶液を作成し、石油缶に封入後、0℃から5℃保冷庫に1週間放置し、取り出した。開封後、内容物を観察したところ、既に結晶が析出していた。それを再溶解するためには、再度加熱するなどの煩雑な作業を必要とした。
【0040】
(実施例2)
実施例1と同じ組成のBIT溶液を、同じ方法で合計516g調液した。次いでこのBIT溶液をビーカーに等量に分けて1日間、0℃から5℃の保冷庫に放置した。その後サンプルの一方(B)には1mgのBITのDMAPA塩(種結晶)を添加(接種)し、0℃から5℃の保冷庫に更に1日放置した。他の一方のサンプル(A)については、種結晶を添加せずに同様に続けて1日放置した。その後放置されたままの状態で(A)および(B)を観察したところ、両者共に、結晶析出は認められなかった。
【0041】
(比較例3)
NaOHを添加しないことを除き、実施例2と全く同じようにBIT溶液を作成し、ビーカーに等量に分けた後、1日冷却放置した。その後、一方(A)には種結晶を添加せず、他方(B)には種結晶を添加して、同様の方法により続けて1日間保冷後、取り出し観察したところ、サンプル(A)は結晶析出は認められず、他方の(B)には結晶析出が認められた。
【0042】
(比較例4)
DMAPAを添加しないことを除き、実施例2と全く同じようにBIT溶液516gを作成し、ビーカーに等量に分けた後、一方には種結晶を添加し、他方には種結晶を添加せずに、同様の方法により冷却保存したところ、両方共に結晶析出が認められた。
【0043】
以上の実施例1、比較例1〜2の石油缶スケールの結果から、DMAPA単独添加は保冷庫静置に対して結晶化抑制できるものの、小分けなどの機械的ショックによる結晶析出は防止できないこと、また実施例2、比較例3〜4のビーカースケール実験から、アミンを添加しないNaOH単独添加系では、保冷保存だけで結晶析出が進むことがわかる。更に、DMAPAとNaOHの併用系では種結晶添加、保冷しても結晶析出抑制されるのに対して、非併用系では種結晶添加すると結晶析出が進行することが理解される。以上から、DMAPAとNaOHを併用すると、結晶核が生成してもその成長を抑制できるため、機械的ショックなどを受けても結晶析出を防止できるものと推定された。
【0044】
(比較例5、および実施例3〜7)
PG、水、BITそれぞれの濃度、溶液合計量をほぼ一定としつつ、NaOH添加量を変化させた以外は、実施例2と同様の方法により、ビーカースケールサンプルを作成した。種結晶有り、無しの両方につき保冷後の結晶析出を観察した。また、NaOHの代わりに、KOHを用いてのテストも実施した。その組成、結果を表1に示す。BIT33.0重量%、DMAPA22重量%程度の溶液では、NaOH固形分濃度が0.30重量%以下では効果が認められず、NaOHが約0.4重量%以上で、効果が認められた。
【0045】
【表1】
【0046】
(比較例6〜9)
非併用系でDMAPA濃度、またはNaOH濃度を変化させて、ビーカースケールのサンプルを作成し、種結晶有り、無しの両方につき保冷後の結晶析出を観察した。非併用系では、DMAPA又はNaOHを高濃度化しても結晶析出を防止できなかった。
【0047】
【表2】
【0048】
(比較例10〜14)
比較例6におけるDMAPA0.617モル添加の代わりに、エチレンジアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジシクロヘキシルアミン、モルホリンをそれぞれ等モル相当添加した以外は、全く同様の方法、組成によりサンプルを作成し、それぞれを比較例10〜14とした。実施例2と同様の方法により、BIT塩を種結晶として添加した後、保冷庫に放置した。1日放置後観察したところ、これら全ての比較例サンプルに結晶析出が認められた。これらの比較例結果は、上記実施例1〜7の結果が、溶液の塩基度による効果ではなく、有機アミンと金属水酸化物の併用によるBIT塩の結晶析出・成長を抑制する効果であることを、示唆するものと考えられた。
【技術分野】
【0001】
本発明は溶解性および貯蔵安定性に優れ、且つ安全性・取り扱い性が改良された防腐または抗菌性1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン系化合物を含有する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン(以下、BITと称する)系化合物は防腐、抗菌作用を有し、例えばエマルジョン塗料、合成高分子エマルジョン、ラテックス、金属加工油、接着剤、増粘剤、界面活性剤溶液、紙用コーティング剤、顔料、スラリー、コンクリート混和剤、インクジェット記録用インク、その他種々の分野で利用されている。
【0003】
BITは常温では粉末性の固体であるが昇華性があり、その蒸気は皮膚、粘膜を強く刺激するため粉末状態での取扱いは極めて不便である。また、殺菌対象物への添加時の利便性を考えてもBITを溶液状の組成物に変換することが望まれる。中でも殺菌対象物が水系のものに適用する際には分散性等を考えるとBITの水溶液であることが望ましい。更に輸送や貯蔵時の経済性を考慮するとできるだけBIT濃度の高い液剤とすることが望まれる。
【0004】
しかしながら、BITは水に対する溶解度が小さいため、溶媒が純水だけの場合には高濃度BIT液剤は得られない。BIT高濃度水性溶液を得る手段として、例えばエチレンジアミン等のアミンと水との混合物にBITを溶解する方法が知られている(特許文献1)が、該溶液中でのBITの経時安定性に問題がある。
【0005】
また、特許文献2にはジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ジエチレングリコール低級アルキルエーテル等と水、および水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物の混合物に、BITアルカリ金属塩を組成物中5重量%程度溶解した液状製剤が開示されている。しかしながら、この方法では溶解可能なBITの濃度は高々20%程度であり、更に高濃度にしようとすると一時的には完全に溶解した様に見えても低温で放置しておくと沈澱や結晶が析出してくる。
【0006】
また、特許文献3には、プロピレングリコ−ルと水、アルカノールアミンの三成分混合系に、BITを添加することにより、その貯蔵安定性が改良されることの記載があるが、それでも尚、低温安定性は不十分である。特に、従来の特許文献には記載が認められない現象、例えば低温のまま石油缶からビーカーなどに小分けする際に、ビーカー中で突然結晶化する現象が実際の作業現場で頻発し、使用工程の作業性を低下させる大きな原因となっている。このような低温貯蔵後の小分け時などの結晶化を防止するための方法は上記文献中に記載がなく、その解決が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭54−10612号公報
【特許文献2】特開昭54−59329号公報
【特許文献3】特許3489895号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、BIT濃度ができるだけ高く、また取り扱い安全性が高く、長期間の低温保存に対しても安定であり、また小分け・調液時の結晶化がないようなBIT高濃度水性溶液を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明者らは上記を目的として鋭意研究を行い、本発明に至った。
【0010】
即ち、本発明は、次の(1)から(4)に関するものである。
【0011】
(1)水と、水酸基含有有機溶媒および/又はケトン溶媒とを含む混合溶媒中に、1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン又はその誘導体を含む系に、有機アミン化合物と金属水酸化物を併用したことを特徴とする防腐抗菌剤組成物。
(2)1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン又はその誘導体10〜50重量%、水5〜40重量%、水酸基含有有機溶媒および/又はケトン溶媒10〜60重量%、有機アミン化合物10〜40重量%、金属水酸化物0.4〜15重量%を含むことを特徴とする、上記(1)の組成物。
(3)有機アミンが炭素原子2〜20個を有する脂肪族アミン、脂環式アミン、ヘテロ環式アミン、アルカノールアミン化合物から選択されることを特徴とする上記(1)または(2)の組成物。
(4)水と水酸基含有有機溶媒との混合溶媒が使用され、この際、水酸基含有有機溶媒が、アルコール類、グリコールのモノエーテル類、およびグリコールのモノエステル類から選択されることを特徴とする上記(1)〜(3)の組成物。
(5)金属水酸化物が、アルカリ金属水酸化物およびアルカリ土類金属水酸化物から選択されることを特徴とする上記(1)〜(4)の組成物。
(6) 上記(1)〜(5)のいずれか一つの組成物を含む、エマルジョン塗料、合成高分子エマルジョン、ラテックス、顔料スラリー、金属加工油、圧延油、スライムコントロール、接着剤、増粘剤、界面活性剤溶液、紡糸油、インクジェット記録用インク。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の特徴は、結晶化抑止剤として有機アミン化合物と金属水酸化物の併用(相乗)効果にある。前述した特許文献中にはグリコール類、有機アミン、およびアルカリ金属水酸化物のそれぞれの効果の記載はあるが、後述する実施例に見られるように、低温での保存安定性、特にビーカーなどの小分け時の結晶化に対してそれら従来知られた効果だけでは不十分である。本発明のアミンと金属水酸化物の組み合わせによる相乗効果によって初めて得られたものである。
【0013】
低温保存後の小分け時のショックによる結晶化は、本発明者により発見された現象であり、そのメカニズムについては不明な点も多いが、以下のように推察される。即ち、有機アミンと金属水酸化物を併用しないBIT高濃度液を低温保存すると、BITが過飽和(過冷却)状態として保存されるが、低温で振動・撹拌などの強いショックを与えると、何らかの結晶核の存在により、過冷却状態から急速に結晶化が進行するものと考えられる。
【0014】
上記の結晶化推定メカニズムを基に考えると、有機アミンや金属水酸化物の濃度を更に増加させる方法も、結晶化防止策として考えられる。しかしながら有機アミン高濃度化により溶解度を上げようとしても臭気や環境適性などで限界がある。また金属水酸化物濃度増加により溶解度を上げる方法は、溶液の高pH化、眼球粘膜への刺激などによる取り扱い性の低下を招くため、金属水酸化物濃度増大の効果にも限界がある。またグリコールなどの水酸基含有溶媒の種類、有機アミンの塩基度(pKb)の増加などの方法も考えられるが、爆発性や環境適性の懸念、後述する比較例10〜14などで例示するように、問題を解決できるに至っていない。
【0015】
そこで本発明者は、BITの溶解度の増大と、結晶核からの結晶成長を抑止するための方法について考察を行った。即ち、アミン共存下のBITはアミン塩として結晶成長すると考えられるが、生成する結晶形の異なる添加剤を加えると、それらの添加剤がBITアミン塩の結晶成長を遅延させるように作用する可能性があると、予想された。そのために、有機アミン類、アルカリ金属やアルカリ土類金属などのイオン種を変化させ、その併用効果を検討したところ、有機アミンと金属水酸化物の併用により特異的に結晶化が抑止されることを発見した。
【0016】
上記の現象は、BITアミン塩結晶が成長する過程ではBIT金属塩が、BITアミン塩結晶の成長を阻害し、BIT金属塩結晶が成長する過程ではBITアミン塩が結晶成長を阻害するためと推測された。有機アミン−金属水酸化物併用が、異なった構造の有機アミン同士の併用に比べ、その抑止効果が非常に大きいことから、それらの金属塩とアミン塩の結晶形が大きく異なることが一要因として予想される。
【0017】
上記の推定メカニズムの妥当性については今後検証は必要ではあるが、後述する実施例、比較例で示される本発明の効果は、有機アミンと金属水酸化物の相乗効果によって始めて説明される。
【0018】
尚、有機アミンとアルカリ金属水酸化物を、それぞれ別々にBIT水性溶液に添加することは、上記文献などで公知であるが、これら2成分を実際に併用してテストした実施例は、従来の特許文献中には見られない。
【0019】
本発明に用いられる1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン系化合物は、下記の化学式1により表される。
【0020】
【化1】
【0021】
[式中:
Rは、ヒドロキシ、ハロゲン(特に塩素)、炭素数1〜4のアルキル又は炭素数1〜4のアルコキシであり; そしてnは、0から4である]
本発明の組成物中のBITの濃度は、組成物全体を基準にして一般的に10重量%〜50重量%である。10重量%以下では、輸送費用、貯蔵スペースの点で効率が悪く、50重量%以上では低温での結晶化防止のためのアルカリ量などを増す必要があり、また取り扱い安全性などの理由でも好ましくない。好ましい濃度は、20〜45重量%、特に好ましくは30〜40重量%である。
本発明の組成物中の水としては、イオン交換などによる脱塩水が好ましいが、一般の水道水や井戸水などでもよい。水の濃度は、BITの溶解性や取り扱い性などから、組成物全体を基準にして5〜40重量%が好ましい。特に好ましくは10〜30重量%、特に15〜25重量%である。
【0022】
本発明のBITは、水酸基含有有機溶媒又はケトン溶媒あるいはこれらの混合物、および水と混合・溶解して工業殺菌、抗菌組成物として使用することができる。水酸基含有溶媒としては、アルコール類、グリコールのモノエーテル類、グリコールのモノエステル類などが好適であり、アルコールとしては、具体的には、一価アルコール、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノールなどの低級(炭素数1〜6)一価アルコール; 二価アルコール、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコールなどの炭素原子数2〜9のグリコール類、並びにポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコールなどのより高級のグリコール類(分子量200〜1000)
; 多価アルコール、例えばグリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、1,2,6−ヘキサントリオール、およびトリメチロールヘキサンなどの炭素原子数3〜10の三価アルコールなどが挙げられる。グリコールモノエーテルは、式R1−(O−Alkylene)n−OH (式中、R1は炭素数1〜4のアルキル基であり、Alkyleneは、炭素数2〜4のアルキレン基であり、nは1〜3の整数である。)に相当する。グリコールモノエステルは、式R2−CO−(O−Alkylene)n−OH(式中、R2は炭素数1〜4のアルキル基であり、Alkyleneは、炭素数2〜4のアルキレン基であり、nは1〜3の整数である)。また、発明に使用できるケトン溶媒としては、例えばアセトンが挙げられる。これらの水酸基含有溶媒およびケトン溶媒は、単独でまたは二種以上のものの混合物としても使用することができる。水酸基含有有機溶媒とケトン溶媒を混合して使用する場合は、その比率は任意であるが、例えば重量基準で1:9〜9:1とすることができる。
【0023】
しかし、引火性などの点で危険性が低いグリコール類が好ましく、その中でもプロピレングリコール、ジプロピレングリコールが特に好ましい。
【0024】
本発明の組成物中の水酸基含有有機溶媒又はケトン溶媒あるいはこれらの混合物の濃度は組成物全体を基準にして一般的には10〜60重量%、好ましくは15〜45重量%、特に好ましくは20〜30重量%である。
【0025】
その範囲以下ではBITの溶解度が低下し、またその範囲より大きいと添加できるアミン濃度が低下し、BIT低温安定性が低下する。
【0026】
本発明に使用することの出来るアミンとしては、脂肪族アミン、例えば炭素原子数が2〜20、特に15までの、中でも6までの脂肪族モノアミンおよびポリアミン、具体的には例えばジエチルアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレントリアミン、ジメチルアミノプロピルアミンなど、脂環式アミン、例えば炭素原子数が2〜20、特に3〜15、中でも6までの脂環式モノアミンおよびポリアミン、具体的には例えばジシクロヘキシルアミン、ジシクロペンチルアミン、ジシクロプロピルアミン、1,2−、1,3−および1,4−シクロヘキサンジアミン類、ジアミノジシクロヘキシルメタン、イソホロンジアミン、N−アミノエチルシクロヘキシルアミン、N−アミノプロピルシクロヘキシルアミンなど; 複素環式アミン、例えば炭素原子数が2〜20、特に4〜15、中でも6までのモノアミンおよびポリアミン、具体的には例えばピペラジン、ピロリジンなどが挙げられる。またアルカノールアミン類、例えば炭素原子数2〜20、好ましくは10までの、中でも6までのアルカノールアミン類、具体的には例えばトリエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミンなども同様に使用できる。また二種以上のアミン化合物を併用することもできる。
【0027】
本発明の組成物中の有機アミン濃度は組成物全体を基準にして一般的には10〜40重量%、好ましくは10〜30重量%、特に好ましくは10〜20重量%である。有機アミンによるBITの安定化は、溶解性の小さなBITが、溶解性の大きなBITアミン塩を形成するためであり、低温での貯蔵安定性を確保するためには、BIT濃度に対応した適量のアミン濃度を必要とする。有機アミン濃度が40重量%以上では、他の成分濃度を低下させることの弊害や、またアミンによる臭気などの問題を伴い易い。
【0028】
本発明に使用することの出来る金属水酸化物としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物を用いることが出来る。アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウムなど、またアルカリ土類金属としてはカルシウム、マグネシウム等いずれも使用可能であるが、コスト、本発明の組成物の低温安定性などを考慮すると、アルカリ金属の中でもナトリウムが特に好ましい。
本発明の組成物中の金属水酸化物濃度は組成物全体を基準にして一般的には0.4〜15重量%、好ましくは1.0〜10重量%、特に好ましくは1.4〜8重量%である。本発明における金属水酸化物は、BITと反応してBIT金属塩を形成するが、後述する比較例でも示すように、アミンが存在しない場合のBIT金属水酸化物塩の低温貯蔵安定性はかなり低い。それにもかかわらず、アミンを併用した系では金属水酸化物が1.0重量%程度の低濃度でも非常に高い結晶化抑制効果を示す。これは前述したようにBITアミン塩とBIT金属塩の相互作用、即ちBITアミン塩が結晶成長をしようとするところを、金属水酸化物またはそのBIT塩が、アミン塩の結晶化をブロックするメカニズムを考えることにより、比較的低いアルカリ濃度でも大きな効果を示すことが理解されやすい。金属水酸化物濃度が15重量%を越えると、組成物のpHが高くなり、眼球、皮膚への刺激性が高くなり好ましくない。また半導体機器用の部材加工などの機械切削油などに本組成物を添加する用途などの場合、残留アルカリが各種電子部品類に与える悪影響が問題となりやすい。
【0029】
本発明の組成物中のBITモル数と塩基モル数は、BIT濃度に依存するが、BITを1とすると添加塩基(有機アミンおよび金属水酸化物)合計モル数の割合は0.5以上、好ましくは0.8以上、特に好ましくは1.0以上である。添加塩基モル数に対してBITモル数が大きいと、塩構造でない低水溶性のBIT濃度が高くなり、結晶析出を誘発しやすい。
【0030】
本発明の組成物を製造するにはBITとグリコールなどの水酸基含有有機溶媒および/又はケトン溶媒、水、有機アミン、および金属水酸化物を通常の方法によって溶解混合すればよいが、その場合、溶解速度を大きくするために、溶液を加熱して行うことも好ましい。また有機アミンは、予めBITのアミン塩としたものを添加できると共に、金属水酸化物についても、予めBITの金属塩とした物を添加することができる。
【0031】
本発明の態様の一つでは、本発明で得られたBIT組成物は、上記の水、水酸基含有有機溶媒、ケトン溶媒、1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン系化合物、有機アミン化合物および金属水酸化物の他、本発明の効果を損なわない限りにおいて、他の殺菌、抗菌、防腐有効成分や、他の添加剤などを含むことができる。このような添加剤としては、例えば界面活性剤などが挙げられ、例えばアルキロールアミドやアルキルフェノールエチレンオキサイド付加物、脂肪酸エステルなどの非イオン系界面活性剤やラウリル硫酸ナトリウムなどのアニオン系界面活性剤などを加えることができる。
【0032】
しかし、本発明の態様の一つでは、該組成物は、上記の水、水酸基含有有機溶媒および/又はケトン溶媒、1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン系化合物、有機アミン化合物および金属水酸化物から本質的になり、添加剤等の他の成分は事実上含まないこともできる。
【0033】
本発明のBIT組成物は、BIT濃度等に依存して目的物質(例えば金属加工における金属加工油、防錆油など)、水、溶剤と混合、希釈し、産業用防腐、抗菌組成物として使用することができる。
【0034】
このようにして得られた産業用防腐、抗菌組成物は、防腐、殺菌、抗菌の目的であれば種々の対象に用いることができ、例えば、エマルジョン塗料、合成高分子エマルジョン、ラテックス、顔料スラリー、金属加工油、圧延油、スライムコントロール、接着剤、増粘剤、界面活性剤溶液、紡糸油、インクジェット記録用インクなど数多くの液状の対象物に好適に用いられる。
[発明の効果]
【0035】
本発明により得られる組成物は以下の特徴を有する。
(1)従来困難であった低温貯蔵、分取などの取り扱い時のBIT結晶析出を、金属水酸化物と有機アミンの併用効果により抑制することが可能となった。
(2)冬の野外放置による結晶析出を防止できるばかりでなく、それを分取・小分けする時のショックなどによる結晶化をも抑制できるため、出荷先(使用作業場)でのトラブルを防止できる。
(3)金属水酸化物と有機アミンの相乗効果により、併用しない場合に比べてアルカリ、有機アミンのそれぞれを低濃度とすることができるため、皮膚刺激性その他の取り扱い安全性、環境適性など好ましい特性を実現できる。
【0036】
本発明を次の実施例で詳述するが、本発明の範囲はこれらのみに限定されるものではない。ここで実施例中の「%」は、「重量%」、「部」は「重量部」を示す。
【実施例】
【0037】
(実施例1)
水酸化ナトリウム(以下、NaOHと略)水溶液(48.6%濃度水溶液)513部(6.2モル)、プロピレングリコール(PGと略)3480部、脱塩水2285部を70℃で混合、撹拌しながらN,N−ジメチルアミノプロピルアミン(DMAPAと略)2375部(23モル)、およびBIT(化学式1において、n=0の構造)4260部(28モル)を添加し、溶解した。各成分の重量組成は水 19.8%、PG 26.9%、DMAPA 18.4%、NaOH 1.9%、BIT 33.0%であった。室温まで徐冷後、石油缶に封入し0℃から5℃の保冷庫に1週間放置した。放置後、石油缶中には結晶析出物は認められず、またガラスビーカーに1kg取り出し、撹拌しても結晶の析出は認められなかった。
【0038】
(比較例1)
NaOHを添加しないことを除き、実施例1と全く同じようにBIT溶液を作成し、石油缶に封入後、0℃から5℃の保冷庫に1週間放置し、取り出した。開封後、内容物を観察したところ結晶析出は認められなかったが、低温のままガラスビーカーに1kg取り出したところ、瞬間的に結晶が析出した。それを再溶解するためには、再度加熱するなど、煩雑な作業を必要とした。
【0039】
(比較例2)
DMAPAを添加しないことを除き、実施例1と全く同じようにBIT溶液を作成し、石油缶に封入後、0℃から5℃保冷庫に1週間放置し、取り出した。開封後、内容物を観察したところ、既に結晶が析出していた。それを再溶解するためには、再度加熱するなどの煩雑な作業を必要とした。
【0040】
(実施例2)
実施例1と同じ組成のBIT溶液を、同じ方法で合計516g調液した。次いでこのBIT溶液をビーカーに等量に分けて1日間、0℃から5℃の保冷庫に放置した。その後サンプルの一方(B)には1mgのBITのDMAPA塩(種結晶)を添加(接種)し、0℃から5℃の保冷庫に更に1日放置した。他の一方のサンプル(A)については、種結晶を添加せずに同様に続けて1日放置した。その後放置されたままの状態で(A)および(B)を観察したところ、両者共に、結晶析出は認められなかった。
【0041】
(比較例3)
NaOHを添加しないことを除き、実施例2と全く同じようにBIT溶液を作成し、ビーカーに等量に分けた後、1日冷却放置した。その後、一方(A)には種結晶を添加せず、他方(B)には種結晶を添加して、同様の方法により続けて1日間保冷後、取り出し観察したところ、サンプル(A)は結晶析出は認められず、他方の(B)には結晶析出が認められた。
【0042】
(比較例4)
DMAPAを添加しないことを除き、実施例2と全く同じようにBIT溶液516gを作成し、ビーカーに等量に分けた後、一方には種結晶を添加し、他方には種結晶を添加せずに、同様の方法により冷却保存したところ、両方共に結晶析出が認められた。
【0043】
以上の実施例1、比較例1〜2の石油缶スケールの結果から、DMAPA単独添加は保冷庫静置に対して結晶化抑制できるものの、小分けなどの機械的ショックによる結晶析出は防止できないこと、また実施例2、比較例3〜4のビーカースケール実験から、アミンを添加しないNaOH単独添加系では、保冷保存だけで結晶析出が進むことがわかる。更に、DMAPAとNaOHの併用系では種結晶添加、保冷しても結晶析出抑制されるのに対して、非併用系では種結晶添加すると結晶析出が進行することが理解される。以上から、DMAPAとNaOHを併用すると、結晶核が生成してもその成長を抑制できるため、機械的ショックなどを受けても結晶析出を防止できるものと推定された。
【0044】
(比較例5、および実施例3〜7)
PG、水、BITそれぞれの濃度、溶液合計量をほぼ一定としつつ、NaOH添加量を変化させた以外は、実施例2と同様の方法により、ビーカースケールサンプルを作成した。種結晶有り、無しの両方につき保冷後の結晶析出を観察した。また、NaOHの代わりに、KOHを用いてのテストも実施した。その組成、結果を表1に示す。BIT33.0重量%、DMAPA22重量%程度の溶液では、NaOH固形分濃度が0.30重量%以下では効果が認められず、NaOHが約0.4重量%以上で、効果が認められた。
【0045】
【表1】
【0046】
(比較例6〜9)
非併用系でDMAPA濃度、またはNaOH濃度を変化させて、ビーカースケールのサンプルを作成し、種結晶有り、無しの両方につき保冷後の結晶析出を観察した。非併用系では、DMAPA又はNaOHを高濃度化しても結晶析出を防止できなかった。
【0047】
【表2】
【0048】
(比較例10〜14)
比較例6におけるDMAPA0.617モル添加の代わりに、エチレンジアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジシクロヘキシルアミン、モルホリンをそれぞれ等モル相当添加した以外は、全く同様の方法、組成によりサンプルを作成し、それぞれを比較例10〜14とした。実施例2と同様の方法により、BIT塩を種結晶として添加した後、保冷庫に放置した。1日放置後観察したところ、これら全ての比較例サンプルに結晶析出が認められた。これらの比較例結果は、上記実施例1〜7の結果が、溶液の塩基度による効果ではなく、有機アミンと金属水酸化物の併用によるBIT塩の結晶析出・成長を抑制する効果であることを、示唆するものと考えられた。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と、水酸基含有有機溶媒および/又はケトン溶媒とを含む混合溶媒中に1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン系化合物を含む防腐・抗菌剤組成物であって、更に有機アミン化合物と金属水酸化物を含有することを特徴とする、前記組成物。
【請求項2】
1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン系化合物10〜50重量%、水5〜40重量%、水酸基含有有機溶媒および/又はケトン溶媒10〜60重量%、有機アミン化合物10〜40重量%、金属水酸化物0.4〜15重量%を含むことを特徴とする、請求項1の組成物。
【請求項3】
有機アミンが炭素原子2〜20個を有する脂肪族アミン、脂環式アミン、ヘテロ環式アミン、アルカノールアミン化合物から選択されることを特徴とする請求項1または2の組成物。
【請求項4】
水と水酸基含有有機溶媒との混合溶媒が使用され、この際、水酸基含有有機溶媒が、アルコール類、グリコールのモノエーテル類、およびグリコールのモノエステル類から選択されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つの組成物。
【請求項5】
金属水酸化物が、アルカリ金属水酸化物およびアルカリ土類金属水酸化物から選択されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つの組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一つの組成物を含む、エマルジョン塗料、合成高分子エマルジョン、ラテックス、顔料スラリー、金属加工油、圧延油、スライムコントロール、接着剤、増粘剤、界面活性剤溶液、紡糸油、またはインクジェット記録用インク。
【請求項1】
水と、水酸基含有有機溶媒および/又はケトン溶媒とを含む混合溶媒中に1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン系化合物を含む防腐・抗菌剤組成物であって、更に有機アミン化合物と金属水酸化物を含有することを特徴とする、前記組成物。
【請求項2】
1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン系化合物10〜50重量%、水5〜40重量%、水酸基含有有機溶媒および/又はケトン溶媒10〜60重量%、有機アミン化合物10〜40重量%、金属水酸化物0.4〜15重量%を含むことを特徴とする、請求項1の組成物。
【請求項3】
有機アミンが炭素原子2〜20個を有する脂肪族アミン、脂環式アミン、ヘテロ環式アミン、アルカノールアミン化合物から選択されることを特徴とする請求項1または2の組成物。
【請求項4】
水と水酸基含有有機溶媒との混合溶媒が使用され、この際、水酸基含有有機溶媒が、アルコール類、グリコールのモノエーテル類、およびグリコールのモノエステル類から選択されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つの組成物。
【請求項5】
金属水酸化物が、アルカリ金属水酸化物およびアルカリ土類金属水酸化物から選択されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つの組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一つの組成物を含む、エマルジョン塗料、合成高分子エマルジョン、ラテックス、顔料スラリー、金属加工油、圧延油、スライムコントロール、接着剤、増粘剤、界面活性剤溶液、紡糸油、またはインクジェット記録用インク。
【公開番号】特開2011−46624(P2011−46624A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−194484(P2009−194484)
【出願日】平成21年8月25日(2009.8.25)
【出願人】(398056207)クラリアント・ファイナンス・(ビーブイアイ)・リミテッド (182)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月25日(2009.8.25)
【出願人】(398056207)クラリアント・ファイナンス・(ビーブイアイ)・リミテッド (182)
【Fターム(参考)】
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