工業用X線発生装置
【課題】X線管と高電圧発生部とを適正な位置関係で配置することにより、装置全体を小型、軽量に形成し、しかも少量のモールド材で十分な絶縁を確保できる工業用X線発生装置を提供する。
【解決手段】X線発生装置1において、昇圧回路27aは自身の低電圧入力端子T1aから高電圧出力端子T2aにわたって複数の昇圧段が順次に接続されることによって形成されている。昇圧回路27aは、自身の低電圧端子T1aがX線管7の陽極13に対応し自身の高電圧端子T2aがX線管7の陰極11に対応するようにX線管7の側部領域に配置される。陰極11からX線管7の外部へ延びているリード線28aが昇圧回路27aの高電圧端子T2aに接続されている。少なくともX線管7の陰極11側の端部と、陰極側の端部から延出するリード線28aと、昇圧回路27aの高電圧端子T2a側の端部は、絶縁性樹脂を含むモールド材Mによってモールド成形されている。
【解決手段】X線発生装置1において、昇圧回路27aは自身の低電圧入力端子T1aから高電圧出力端子T2aにわたって複数の昇圧段が順次に接続されることによって形成されている。昇圧回路27aは、自身の低電圧端子T1aがX線管7の陽極13に対応し自身の高電圧端子T2aがX線管7の陰極11に対応するようにX線管7の側部領域に配置される。陰極11からX線管7の外部へ延びているリード線28aが昇圧回路27aの高電圧端子T2aに接続されている。少なくともX線管7の陰極11側の端部と、陰極側の端部から延出するリード線28aと、昇圧回路27aの高電圧端子T2a側の端部は、絶縁性樹脂を含むモールド材Mによってモールド成形されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラントの配管パイプ等といった構造物の非破壊検査を行う際に用いられる工業用X線発生装置であって、陰極から放出された電子を陽極に当てて当該陽極からX線を発生する工業用X線発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子源である陰極をタングステンフィラメントによって形成して成るX線発生装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。一般には、フィラメントに通電してこれを2000℃以上に加熱してこれから熱電子を放出させている。フィラメントには高電圧が印加されるものであり、工業用X線管においてX線管球とX線電源とを1つのユニット内に設置する場合には、絶縁を確保するためにX線管球とX線電源とを高圧ガス容器に封入して絶縁を確保している(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−267692号公報(第2頁、図1)
【特許文献2】特開平3−149740号公報(第2〜3頁、第1図)
【特許文献3】特開平6−267692号公報(第5頁、図1)
【特許文献4】特開2001−135496号公報(第3頁、図2)
【特許文献5】特開2001−135497号公報(第3頁、図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
高圧ガス容器を用いた従来の工業用X線発生装置においては、高圧容器を使用しなければならないので、大型で重量が重いという問題があった。例えば、X線発生器と制御器との合計で30kg程度になっていた。
【0005】
また、フィラメントによって陰極を形成した工業用X線発生装置においては、フィラメント用の電源やフィラメント部を冷却するための構成が必要であるため、大型になると共に重量が重くなるという問題があった。
【0006】
また、ガスを用いた絶縁に代えて、モールド成形によって高電圧部の絶縁を行うことにした工業用X線発生装置も知られている(例えば、特許文献3、特許文献4、特許文献5等参照)。
【0007】
しかしながら、特許文献3に開示された装置では、ケーブルレセプタクルとX線管とをモールド成形によって覆っているだけであり、高電圧部とX線管との両方をモールド成形によって小型、軽量の絶縁構造に形成することはできていない。
【0008】
また、特許文献4及び特許文献5に開示された装置では、X線管と高電圧発生部とが位置的に互いに関連無く別々に配置された上で、高電圧発生部がモールド成形によって絶縁されている。この従来装置では、X線管と高電圧発生部とが位置的に関連付けされることなく別々に設けられているので、X線管と高電圧発生部とを含んだ装置全体の形状が大きくならざるを得ない。
【0009】
また、高電圧発生部は、その入力端子に数kV程度の低電圧を入力し、その出力端子から数十kV〜百数十kVといった高電圧を出力するものであるが、特許文献4及び特許文献5に開示された装置では、それらの高電圧部位と低電圧部位との配置位置に適切な考慮が払われておらず、絶縁を確実にするためには高電圧部位と低電圧部位との間に十分な距離を確保したり、モールド成形の大きさ、体積等を十分に大きくしなければならず、なかなか小型化が実現できなかった。
【0010】
一般にX線管を含むX線発生装置、特に工業用X線発生装置においては、X線が外部へ漏れないように鉛等から成るX線遮蔽部材によってX線管や高電圧発生部を覆う必要があるが、X線発生装置が大型になるとX線遮蔽部材も大型になり、その場合には、鉛等の影響により、重量が非常に重くなるという問題があった。
【0011】
本発明は、従来装置における上記の問題点に鑑みて成されたものであって、X線管と高電圧発生部との位置関係を考慮してそれらの配置位置を設定することにより、装置全体を小型に従って軽量に形成でき、しかも少量のモールド材で十分な絶縁を確保できる工業用X線発生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る工業用X線発生装置は、電子を放出する陰極と電子を引き付ける陽極とを管体に格納して成るX線管と、原子番号55以上の元素を主として含みX線を通し難い物質によって形成されており前記X線管を覆うX線遮蔽部材と、前記陰極に印加する高電圧を生成する昇圧回路とを有しており、前記陽極が接地されており、前記昇圧回路は、自身の低電圧端子から高電圧端子にわたって複数の昇圧段が順次に接続されることによって形成されており、前記昇圧回路は、自身の前記低電圧端子が前記X線管の陽極に対応し自身の前記高電圧端子が前記X線管の陰極に対応するように、前記X線管の側部領域に配置されており、前記陰極から前記X線管の外部へ延びている導電部材が前記昇圧回路の高電圧端子に接続されており、少なくとも前記X線管の陰極側の端部、当該陰極側の端部から延出する前記導電部材及び少なくとも前記昇圧回路の高電圧端子側の端部は、絶縁性樹脂を含むモールド材によってモールド成形されていることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る工業用X線発生装置によれば、X線管の高圧端子と昇圧回路の高圧端子が互いに近傍に隣接する。よって、それらの端子をつなぐ導電部材(例えば、リード線、ブスバー)は短くて済む。このため、導電部材を絶縁するためのモールド領域が非常に小さいので、工業用X線発生装置は小型、軽量である。
【0014】
モールドが小型のためそれを覆っているX線遮蔽部材を小さくできる。X線遮蔽部材は通常は鉛によって形成されていて重い。しかし、X線遮蔽部材を小さくできる本発明では鉛の量を減らすことができ、軽量である。
【0015】
本発明に係る工業用X線発生装置は、圧電トランスを含んでおり前記昇圧回路の低電圧端子に電力を供給するトランス回路と、前記圧電トランスに適合した周波数の交流電力を前記トランス回路に供給する電源ドライバと、を有することができる。この構成によれば、電磁トランスを用いた場合に比べて、工業用X線発生装置の重量及び体積を軽減できる。
【0016】
本発明に係る工業用X線発生装置において、前記電源ドライバ及び前記トランス回路は、前記X線管の前記陽極側の端部の近傍に配置されることが望ましい。電源ドライバ及び前記トランス回路は低電圧を取り扱うのでX線管の低圧側に配置した方が良いからである。
【0017】
本発明に係る工業用X線発生装置は、前記昇圧回路、前記トランス回路及び前記電源ドライバの動作を制御するコントローラをさらに有しており、前記トランス回路は前記コントローラに隣接して配置されることが望ましい。
【0018】
本発明に係る工業用X線発生装置は、前記X線管が載置されるベースをさらに有しており、前記電源ドライバが当該ベース上に載置され、当該電源ドライバの上に前記トランス回路が載置され、当該トランス回路の上に前記コントローラが配置されることを特徴とする。この構成によれば、トランス回路を構成している圧電トランスに含まれる鉛がコントローラへ向かうX線を遮蔽し、コントローラの誤動作を防止できる。また、圧電トランスをX線遮蔽要素として配置することにより、その分だけ鉛板等のX線遮蔽を不要にでき、X線発生装置の軽量化が達成される。
【0019】
本発明に係る工業用X線発生装置は、前記電源ドライバへ電圧を印加するバッテリをさらに有しており、当該バッテリは前記X線管の前記陽極側の端部の近傍の前記ベース上に配置されることが望ましい。
【0020】
本発明に係る工業用X線発生装置において、前記昇圧回路はコッククロフト・ウォルトン回路であることが望ましい。これにより、簡単な構成で所望の高圧を得ることができる。
また、前記モールド材は、原子番号55以上の元素を含む酸化物、いわゆる重金属酸化物をフィラーとして含有することが望ましい。これにより、モールド材によってX線を遮蔽できる。
また、前記モールド材の熱伝導率は10W/(m・K)以上であることが望ましい。これにより、工業用X線発生装置の内部に熱が蓄積してX線発生装置が必要以上の高温になることを防止できる。
【0021】
本発明に係る工業用X線発生装置において、前記陰極は電界放出(Field Emission:フィールドエミッション)に基づいて電子を放出することが望ましい。こうすれば、フィラメントを用いた熱電子放出型の電子放出素子を用いた場合に比べて、工業用X線発生装置を小型且つ軽量にできる。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る工業用X線発生装置によれば、X線管の高圧端子と昇圧回路の高圧端子が互いに近傍に隣接する。よって、それらの端子をつなぐ導電部材は短くて済む。このため、導電部材を絶縁するためのモールド領域が非常に小さくなり、工業用X線発生装置を小型、軽量に形成できる。
【0023】
また、モールド領域が小さいため、それを覆っているX線遮蔽部材を小さくできる。X線遮蔽部材は通常は鉛によって形成されていて重い。しかし、X線遮蔽部材を小さくできる本発明では鉛の量を減らすことができ、軽量である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る工業用X線発生装置の一実施形態の正面図である。
【図2】図1のA−A線に従った平面断面図である。
【図3】図1の矢印Bに従った工業用X線発生装置の底面図である。
【図4】(a)は図2のC−C線に従った側面断面図であり、(b)は図4(a)の矢印Eに従って昇圧回路の構成要素の配置を示す図である。
【図5】図1の工業用X線発生装置の使用例を示す図である。
【図6】図1の工業用X線発生装置で用いる制御系のブロック図である。
【図7】図6の制御系ブロック図の等価回路を示す回路図である。
【図8】図6のブロック図の具体的な回路構成の一実施形態を示す回路図である。
【図9】図8の回路で用いられる主要素子であるピエゾトランスの評価結果を示すグラフである。
【図10】本発明に係る工業用X線発生装置の他の実施形態を示す側面断面図である。
【図11】本発明に係る工業用X線発生装置のさらに他の実施形態で用いられる高圧電源部を示す回路図である。
【図12】本発明に係る工業用X線発生装置のさらに他の実施形態で用いられる制御系のブロック図である。
【図13】図12の一部を詳しく示す回路図である。
【図14】本発明に係る工業用X線発生装置のさらに他の実施形態の外観構造を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(工業用X線発生装置の第1の実施形態)
以下、本発明に係る工業用X線発生装置を実施形態に基づいて説明する。なお、本発明がこの実施形態に限定されないことはもちろんである。また、これ以降の説明では図面を参照するが、その図面では特徴的な部分を分かり易く示すために実際のものとは異なった比率で構成要素を示す場合がある。
【0026】
図1は本発明に係る工業用X線発生装置の一実施形態の長手方向を示す正面断面図である。図2は図1のA−A線に従った平面断面図である。図3は図1の矢印Bに従った工業用X線発生装置の底面図である。図4(a)は図2のC−C線に従った工業用X線発生装置の短手方向を示す側面断面図である。
【0027】
これらの図において、工業用X線発生装置1は長方形の板形状であるベース2を有している。ベース2は熱伝導性が良好である材料、例えばAl(アルミニウム)によって形成されている。ベース2の周縁には、後述する2次元X線検出器を支持するための支持部材、例えばワイヤが取り付けられる複数の取付用孔3が設けられている。図3に示すように、ベース2の底面には多数の線状の溝4が形成されており、それらの溝4の間にひれ状で板状の放熱用のフィン6が多数、平面内で2段の列状に設けられている。
【0028】
図1において、ベース2上にX線管7が設けられている。X線管7は円筒形状の管体14を有している。この管体14の内部に、電子を放出する陰極(カソード)11と、引出し電極であるグリッド12と、電子を引き付ける陽極(アノード)13とが設けられている。陽極13は電子が衝突してX線を発生する部材、すなわちターゲットの機能を有する。発生する白色X線のエネルギ、すなわち白色X線の波長は、陽極13と陰極11の間に印加される加速電圧によって決定され、また、発生する特性X線のエネルギは陽極13の材質によって決定される。
【0029】
陰極11は電界放出(Field Emission:フィールドエミッション)に基づいて電子を放出する。電界放出は、物質表面に強い電位を印加したときにその物質の表面から電子が放出される現象である。電界放出によって実用上十分な量の電子を放出できる物質としてカーボンナノチューブを含んだ物質、グラファイト粒子を含んだ物質等が知られている。
【0030】
カーボンナノチューブは、六炭素環で構成される針状、すなわちアスペクト比(粒子長/粒子径)が非常に大きい状態、で管状の粒子である。グラファイト粒子はグラファイトを含んで成る物質である。グラファイトとは、炭素六角網面(複数の六炭素環が連なって1つの層を構成している面)が複数個層状に積層されて成る層状構造物質である。
【0031】
X線管7の周囲には、フェライトによって形成されている円筒形状の磁気遮蔽部材16が設けられている。この磁気遮蔽部材16は、管体14の周囲を流れる電流によって励起される磁界がX線管7の内部の電子線に影響を与えることを防止する。この磁気遮蔽部材16は、図4(a)に示すように、X線管7の管体14の外周に沿って円筒状に配置されている。磁気シールドとしては透磁率が大きく、保磁力が小さく、電気絶縁性の高いことが必要である。本実施形態ではマンガン亜鉛フェライト((Mn,Zn)Fc3O4)を用いている。
【0032】
磁気遮蔽部材16のうち陽極13の側方に位置する部分であって、ベース2に対向する部分は開口となっており、さらに当該部分のベース2は加工によって薄く形成されている。これらの開口及び薄肉部分により、陽極13で発生したX線を外部へ取り出すための領域17が形成されている。ベース2の厚さは、例えば10mmであり、薄肉部分の厚さは、例えば5mmである。
【0033】
熱伝導率の高い材料、例えばAl(アルミニウム)、Cu(銅)等によって形成された伝熱体21がベース2の面上に設けられており、陽極13がこの伝熱体21に接合されている。この接合は、例えばメタライズ(金属を生成する処理)やハンダ接合等によって成されている。
【0034】
本実施形態では、陽極13が電気的に接地され、陰極11が負の高電圧(例えば、−80kV〜−200kVの範囲内の任意の電圧に設定される。陽極13が接地されているので、陽極13に伝熱体21を接触させても電気的な安定性が担保される。陽極13は、伝熱体21によってベース2にしっかりと固定されている。陽極13は電子の衝突により高い温度に昇温するが、伝熱体21を通して熱がベース2へ流れるので、陽極13は効率良く冷却され、損傷が回避される。陰極11は高電圧であり、しかも発熱していないので、ベース2に固定しない。
【0035】
図1においてX線管7の陽極13側の端部の外側のベース2上の領域8a、及び図2においてX線管7の両側部の外側のベース2上の領域8bに高圧電源部が設けられている。本実施形態の高圧電源部は、図1の領域8aに設けられているリチウムイオンバッテリ22と、電源ドライバ23a,23bと、トランス回路24a,24bと、制御装置であるコントローラ25と、図2の2つの側部領域8bに設けられている昇圧回路27a,27bとを含んでいる。この高圧電源部の回路構成については、後述する。
【0036】
リチウムイオンバッテリ22と、電源ドライバ23aと、トランス回路24aと、昇圧回路27aは、陰極11に高電圧を印加するための高圧電源部を構成している。陰極11には、例えば−200kVの負の高電圧が印加される。リチウムイオンバッテリ22と、電源ドライバ23bと、トランス回路24bと、昇圧回路27bは、グリッド12に高電圧を印加するための高圧電源部を構成している。グリッド12には、例えば−100kVの負の高電圧が印加される。
【0037】
後述するが図2の昇圧回路27a,27bはX線管7の長手方向に沿って長い外観形状を有している。これらの回路の陽極13側の端子部分T1a,T1bが低電圧を入力する低電圧端子である入力端子部である。そして、これらの回路の陰極11側の端子部分T2a,T2bが高電圧を出力する高電圧端子である出力端子部である。例えば、それぞれの昇圧回路27a,27bの入力端子部T1a,T1bに4〜10kV程度の電圧が入力され、陰極用昇圧回路27aの出力端子T2aに−200kVが出力され、グリッド用昇圧回路27bの出力端子T2bに−100kVが出力される。
【0038】
図2において、X線管7の陰極11側の端部において、陰極11から延びる導電部材としてのリード線28aがX線管7の外側へ出て陰極用昇圧回路27aの出力端子T2aに接続されている。他方、グリッド12から延びる導電部材としてのリード線28bがX線管7の外側へ出てグリッド用昇圧回路27bの出力端子T2bに接続されている。陰極用昇圧回路27a及びグリッド用昇圧回路27bのそれぞれの入力端子T1a及びT1bは、それぞれ、陰極用トランス回路24a及びグリッド用昇圧回路24bの出力端子に接続されている。なお、導電部材として、リード線に代えてブスバー(すなわち、バスバー)を用いても良い。
【0039】
リード線28a,28bは、絶縁処理が施されていない金属そのままの配線や、金属そのままではなくわずかな電流は通す状態(すなわち、非絶縁状態)の配線、等である。リード線の断面形状は、通常、円形である。また、ブスバーは、断面形状が非円形(矩形、楕円、長円、等)であって細長い金属製の板、棒等のことである。金属としては、例えば銅、銅合金等が用いられる。ブスバーは、一般に、リード線に比べて放熱効果が高い。
【0040】
ベース2上の所定位置に設置されたX線管7及び昇圧回路27a,27bは、モールド成形処理を受けてモールド材Mによって覆われている。モールド成形処理はそれ自体周知の処理であり、流動性を持ったモールド材を型枠の中に流し込んだ後、そのモールド材を固化させる処理である。陰極11と昇圧経路27aの出力端子T2aとをつないでいるリード線28a、及びグリッド12と昇圧経路27bの出力端子T2aとをつないでいるリード線28bもモールド材Mによって覆われている。
【0041】
モールド材Mの中に空間又は隙間があると、その部分で沿面放電やコロナ放電が発生するおそれがあるので、モールド成形処理時にはモールド材Mの中に泡が発生しないように真空槽内でモールド材Mを型枠内に充填する。本実施形態では、モールド材MがX線管7及び昇圧回路27a,27bの全てを覆うようにモールド成形が行われているが、最低限必要なのは、X線管7の陰極11側の端部、リード線28a,28b及び昇圧回路27a,27bの高電圧出力端子部T2a,T2b側の一部分がモールド材Mによって覆われることである。具体的には、5kV以上の高圧部が大気中で放電することに鑑み、そのような高圧部をモールドしている。
【0042】
本実施形態で用いたモールド材は、電気絶縁性を有する合成樹脂、例えばエポキシ系又はシリコン系の合成樹脂を主体とし、その中に窒化アルミニウム、アルミナ、シリカ等といったセラミックスや、Bi2O3等といった重金属酸化物をフィラーとして含有させて成る材料である。モールド材Mの中にセラミックスや重金属酸化物のフィラーを混在させたことにより、モールド材Mは絶縁性に加えてX線吸収性を有している。
【0043】
モールド樹脂と被モールド部材との接着性を高めるため、被モールド部材の表面は、良く洗浄した後、プライマーと呼ばれる表面処理材を塗布されることが望ましい。このような化学的な接着性が不十分な材質の場合は、被モールド部材の表面にサンドブラスト処理を施してその表面を粗面化することにより、物理的に接着力を高めることができる。このような粗面化処理はアンカー処理と呼ばれている。
【0044】
モールド材Mの中にセラミックスを混在させることにより、モールド材Mの熱伝導率を向上させることができる。平均的なエポキシ樹脂の熱伝導率は0.3W/)であり、同じくシリコン樹脂は0.16、窒化アルミニウムは300、アルミナは36.0、シリカは10.4である。熱伝導率を大きくするにはセラミックス等の充填率を大きくすることが重要であるが、単一の粒径の粒子から構成すると粒子と粒子とが接する細密充填でも充填率は74%である。そのため、2種又は3種以上の粒径の粒子を混ぜることにより、最大90%以上の充填率を得ることができる。
【0045】
また、モールド材Mの中に原子番号55以上の元素を含む酸化物(いわゆる、重金属酸化物)を混在させることにより、X線吸収性を向上することができる。本実施形態では、原子番号83、第15族元素の酸化物として化学的に安定なBi2O3を使用した。
【0046】
モールド材Mの外側であってX線管7に対応した領域にX線遮蔽部材29、例えば鉛によって形成された薄いシート状部材がX線管7を覆うように設けられている。これにより、X線管7の外部にX線が漏れ出ることが防止されている。鉛によって形成されたX線遮蔽部材29は重量が非常に重いので、工業用X線発生装置1を持ち運ぶことを考える場合にはX線遮蔽部材29ができるだけ小さいことが望まれる。
【0047】
一般に、X線遮蔽板を通過した後のX線強度Iは、
I=I0exp(−μt)
で表される。そして、透過率Tは、
T=I/I0=exp(−μt)
で表される。ここで、「μ」は物質の化学組成、密度によって決まる線吸収係数(1/m)、「t」はX線遮蔽板の厚さ(m)である。
【0048】
X線遮蔽板として鉛(Pb)を用いる場合、上式によれば、透過率を0.1%にするにはt=約3.5mmが必要となる。透過率TはX線遮蔽板の厚さの関数であり、X線遮蔽板が同じ厚さであればX線源からの距離を小さくすることにより、X線遮蔽板の面積を減らすことができ、面積を減らすことによりX線遮蔽板の重量を減らすことができる。本実施形態では、X線源からの距離が小さいモールド材部分それ自身にX線遮蔽性を持たせ、さらにその小さなモールド材の外側をX線遮蔽板で覆うことにしたので、X線遮蔽板の面積を小さくでき、それ故、X線遮蔽板の重量を低減することができた。この結果、工業用X線発生装置の全体の重量を大幅に低減できた。
【0049】
また、本実施形態においてモールド材Mの熱伝導率は10W/(m・K)以上に設定されている。これにより、工業用X線発生装置1の内部に熱が蓄積して、このX線発生装置1が必要以上の高温になることを防止できる。
【0050】
図1において、モールド材Mの外側に外装ケース31が設けられている。外装ケース31は、モールド材Mの全体を覆うようにしてベース2の上に固定されている。外装ケース31の上壁にハンドル32が取り付けられている。工業用X線発生装置1の使用者は、このハンドル32を持って工業用X線発生装置1を希望の測定場所へ持ち運んで、X線による非破壊検査を行う。
【0051】
本実施形態では、X線管7及び昇圧回路27a,27bがモールド材Mで覆われており、その外側に電源ドライバ23a,23b、トランス回路24a,24b及びコントローラー25が積み重ね状態で設けられている。モールド材Mで覆われているのは、5kV以上の高圧になる部分である。上記の回路の積み重ね部分は低圧部分であるので、その上にモールド材Mは装填されていない。
【0052】
そして、モールド部分とその積み重ね部分とが外装ケース31の中に収納され、陰極用とグリッド用とで兼用のバッテリ22が外装ケース31の外側のベース2上に設置されている。上記の回路の積み重ね部分が外気に接し、さらに塵埃が入ると放電の可能性があるので、外装ケース31は密閉されている。バッテリ22は着脱方式であり、保有電力が消耗した場合には、ベース2から外して図示しない充電器によって充電可能である。
【0053】
検査を行う際には、例えば図5に示すように、工業用X線発生装置1を検査対象物33(図示の例ではプラント設備として用いられる鋼管、すなわちパイプ)に接触させて設置し、ベース2の取付用孔3(図2参照)に支持用部材34を取り付ける。そして、この支持用部材34によって2次元X線検出器36を支持して、この2次元X線検出器36を検査対象物33のX線発生装置1と反対側の部分に配置する。2次元X線検出器36は、X線フィルム、イメージングプレート、CCD(Charge Coupled Device)検出器、等によって構成できる。
【0054】
図1において、例えば、X線管7の外径Dは50mmであり、X線管7の長さLは170mmであり、モールド高さHは70mmである。次の理由、すなわち(1)フィラメントによる熱電子放出でなく電界放出による電子放出を採用したこと、(2)高圧電源部の構成要素である昇圧回路27a,27bをX線管7の側方部分にX線管7に沿わせて隣接して配置したこと、(3)高圧電源部の高圧部分である昇圧回路27a,27bの出力端子T2a,T2bをX線管7の高圧部分である陰極11側の端部に対応させて配置し、高圧電源部のその他の構成要素(すなわち、バッテリ22、電源ドライバ23a,23b、トランス回路24a,24b、コントローラ25等)は、X線管7の陽極13側(すなわち、接地側)の端部の近傍にまとめて配置したこと、等により、本実施形態の工業用X線発生装置1は従来のものに比べて、非常に小型、軽量になっており、良好な可搬性を実現している。
【0055】
以下、高圧電源部の回路構成について説明する。
既述の通り、本実施形態で用いる高圧電源部は、図1及び図2に示した、X線管7の陽極13側の端部の近傍領域8a及びX線管7の両側部の領域8b,8bに設けられている。X線管7の陽極13側の端部の近傍領域8aは、とりもなおさず接地電位にある領域である。そして、X線管7の両側部の領域8b,8bは、電位が接地電位から高電圧へ昇圧して行く領域である。
【0056】
図6は、本実施形態で用いる高圧電源部の回路構成のブロックダイアグラムを示している。コントローラ25、バッテリ22、陰極用電源ドライバ23a、陰極用トランス回路24a、陰極用昇圧回路27a、グリッド用電源ドライバ23b、グリッド用トランス回路24b、そしてグリッド用昇圧回路27bは、それぞれ、図1、図2及び図4(a)において同じ符号で示した要素と同じものである。
【0057】
陰極用の電源ドライバ23a、トランス回路24a、昇圧回路27aによってカソード電源モジュール38が構成されている。一方、グリッド用の電源ドライバ23b、トランス回路24b、昇圧回路27bによってグリッド電源モジュール39が構成されている。カソード電源モジュール38は陰極11に印加される電圧を制御し、グリッド電源モジュール39はグリッド12に印加される電圧を制御する。例えば、グリッド電圧は−100kVに制御され、陰極電圧は−200kVに制御される。本実施形態では、陽極13(すなわち、ターゲット)が接地されている。
【0058】
図6のブロック図は、回路図としては図7に示す回路図と等価である。すなわち、X線管7において、接地された陽極13とグリッド12との間に可変グリッド電源39aが設置され、接地された陽極13と陰極11との間に可変カソード電源38aが設置されている。
【0059】
図6において、コントローラ25は、CPU(Central Processing Unit)、メモリ等を備えたマイクロコンピュータによって構成されている。CPUはメモリ内に記憶されたプログラムソフトに従ってカソード電源モジュール38及びグリッド電源モジュール39の動作を制御する機能を実現する。具体的には、出力電圧を何ボルトにするかを指示したり、動作の開始を指示したり、動作の終了を指示したり、実際の電圧及び電流をモニタしたりする。
【0060】
図8は、陰極11に高電圧、例えば−200kVを供給するための高圧電源部の具体的な回路構成の一実施形態を示している。グリッド12に高電圧、例えば−100kVを供給するための回路構成は基本的には図8に示す回路と同じである。陰極11用の高圧電源部は、バッテリ22、電源ドライバ23a、トランス回路24a、昇圧回路27a、モニタ部41aによって構成されている。グリッド12用の高圧電源部は同様の構成となっているので、以下の説明では代表して主に陰極11用の高電圧電源について説明することにする。
【0061】
バッテリ22は、例えば24Vの直流電力を出力する。電源ドライバ23aは、PWM(パルス幅変調)信号を発生するPWM信号発生部23a−1と、そのPWM信号に応じた電圧を発生する電源部23a−2とを有している。図示はしていないが、グリッド12側の電源ドライバ23bも同じ構成である。電源ドライバ23aはコントローラ25から伝送される電圧設定指示信号に従って、PWM(パルス幅変調)制御により、後段のトランス回路24aに適合した高周波電力を生成する。トランス回路24aは、複数(本実施形態では4個)のピエゾ(圧電)トランス42a,42b,42c,42dを含んでいる。ピエゾトランス42a〜42dはそれ自体周知の変圧素子であり、チタン酸バリウムやチタン酸ジルコニウム酸鉛等といった圧電性を備えたセラミックスと金属電極とをそれぞれ複数個、交互に積層して焼成することによって形成されている。本実施形態では、鉛を含有したチタン酸ジルコニウム酸鉛を用いた。
【0062】
ピエゾトランス42a〜42dは、共振周波数に近い周波数の交流電力が入力端子に入力されると、100倍程度に昇圧された高周波電力を出力端子に出力する。ピエゾトランス42a〜42dは、後述のように、ベース2の方向から進入するX線がコントローラ25へ入ることを防止して、コントローラ25がX線を受けて誤動作することを防止する機能も有している。本実施形態では、大型でコストの高い大電力のピエゾトランスを用いるよりも、小型で低電力の液晶バックライト冷陰極管用のピエゾトランスを複数用いることにより、50Wの出力を得られるようにしている。これにより、小型で低コストのトランス回路を構成している。このトランス回路24aにより、4〜8kV程度の高周波電力を出力端子に得ている。
【0063】
図9は、本実施形態で使用したピエゾトランスに関して行った評価の結果を示している。グラフにおいて、線分Aが評価対象であるピエゾトランスの出力特性を示している。曲線Bは目標である電力を160kV×50Wと想定した場合に、その電力が一定であることを示している曲線である。本実施形態で用いたピエゾトランスはこの電力一定曲線を超える領域にあるので、特性的に問題がないことが分かる。また、出力電圧も160kV程度が得られているので、これも問題がないことが分かる。
【0064】
図8において、トランス回路24aの高周波出力電力は、昇圧回路27aの入力端子に入力される。本実施形態では、昇圧回路27aはコッククロフト・ウォルトン回路43によって構成されている。コッククロフト・ウォルトン回路43は、それ自体周知の昇圧回路であり、2個のコンデンサと2個のダイオードとをブリッジ接続して成る1つの昇圧段44を複数、直列に接続して成る昇圧回路である。
【0065】
本実施形態のコッククロフト・ウォルトン回路43は、1つの昇圧段44で電圧を2倍に昇圧するようになっており、これを数十個順次に接続することにより、4〜8kV程度のトランス回路24aの高周波出力電力を200kVの直流高電圧まで昇圧している。コッククロフト・ウォルトン回路43の出力端子は制限抵抗60を介して陰極11に接続されている。本実施形態では陽極13が接地されているので、陰極11は負の高圧となっている。図2において、陰極用昇圧回路27aの入力端子T1aに昇圧前の低電圧が入力され、出力端子T2aに昇圧後の高電圧が出力される。
【0066】
図8において、陰極11からの引出し線に電圧モニタ用の抵抗R1,R2,R3,R4が直列に接続されている。これらの抵抗によって電圧降下した後の電圧が、電圧モニタ端子46において測定される。他方、ダイオード47を介して取り出される電流が電流モニタ端子48において測定される。これらの測定データは、図6においてコントローラ25へ制御用のデータとして伝送される。
【0067】
陰極11にリップルフィルタ61が接続されている。このリップルフィルタ61は、高圧電源から発生するリップルを低減する。陰極11の近傍に小型で高耐圧のコンデンサを実装することは困難であるので、本実施形態では図1に示すように、陰極11の外側に適宜の寸法のモールド材Mを挟んで電極62を配置して並行平板型コンデンサを構成してリップルフィルタ61としている。
【0068】
具体的には、モールド樹脂の絶縁破壊電圧が約25kV/mmであり、比誘電率が約3.5であり、陰極11側のモールド樹脂の厚さを10mmとし、その外側に面積250mm2 の電極62を配置することにより、耐圧250kV、静電容量8.5pFのコンデンサを配置した。
【0069】
図4(a)において、陰極用昇圧回路27aを構成するコンデンサ(実施形態ではセラミックコンデンサ)51及びダイオード52は、ベース2側からハンドル32側へ向けて縦方向に配置されている。また、これらと同様に図8の電圧モニタ用抵抗R1〜R4の個々が、縦方向に延びるように設けられている。これらのコンデンサ51等は、回路基板を用いずに、接続用のジグを用いて立体的且つフレキシブルにハンダ接合で互いに配線されている。モールドの硬化時の収縮、使用時の温度の上昇による熱膨張、使用時の温度の下降による熱収縮、等の際に破壊しないようにするためである。
【0070】
これらの電子要素を図4(a)の矢印E方向から見ると、すなわち図1と同じ断面状態で見ると、図4(b)に示すように、抵抗R1〜R4が高圧側から順に斜めに並べて配置され、コンデンサ51が上下2段に分けて並べて配置され、複数のダイオード52が各コンデンサ51の入出力端子に接続されている。図では最も左側に置かれたコンデンサに接続されている3個のダイオードだけを代表して示し、それ以外のダイオードの図示を省略している。
【0071】
以上のように、陰極用昇圧回路27aの構成要素である各電子要素は、工業用X線発生装置1の高さ方向の空間領域を有効に活用すると共に幅方向に関しては非常に狭い領域内に集約されて収められているので、工業用X線発生装置1の小型化に寄与している。
【0072】
X線管7に関して陰極用昇圧回路27aの反対側に設けられたグリッド用昇圧回路27bは、構成要素としては陰極用昇圧回路27aと同じ電子要素によって形成されている。但し、最終的に求められる高電圧の値が陰極11とグリッド12とで異なっているので、用いられる電子要素の個数がそれに応じて異なっている。このようにグリッド用昇圧回路27bの構成は陰極用昇圧回路27aの構成に基づいて容易に理解できるので、説明を省略することにする。
【0073】
図5において、工業用X線発生装置1の実際の使用の仕方を説明したが、本実施形態では高エネルギのX線がX線発生装置1から検査対象物33へ向けて放射される。例えば、160kV程度の高エネルギのX線が放射される。このため、検査対象物33から比較的高強度の散乱X線や蛍光X線が発生し、それらが図1の領域8aに配置された電子回路部分を照射するおそれがある。仮に、X線がコントローラ25を照射すると、コントローラ25の内部に設けられたCPUやフラッシュメモリ等が誤作動するおそれがある。
【0074】
しかしながら、本実施形態では、コントローラ25の下にトランス回路24a及び24bを設けており、これらのトランス回路の構成要素であるピエゾトランス42a〜42dは材料として鉛を含んでおり、この鉛はX線を遮断する性質を有しているので、散乱X線や蛍光X線がコントローラ25を照射することをその下に配置したトランス回路24a,24bによって防止でき、これにより、コントローラ25が誤動作することを防止できる。
【0075】
また、ピエゾトランスをX線遮蔽要素として配置することにより、その分だけ鉛板等のX線遮蔽を不要にでき、X線発生装置の軽量化に寄与している。
【0076】
本実施形態によれば、X線管7と昇圧回路27a,27b(つまり、高圧電源部)との間を、体積の大きな高電圧用コネクタを用いずに、リード線、ブスバー等といった導電部材で直接に接続し、それらをモールド材Mによって絶縁している。これにより、工業用X線発生装置の小型化及び軽量化を実現している。
【0077】
(変形例)
図10は、陰極用昇圧回路27a及びグリッド用昇圧回路27bを構成しているセラミックコンデンサ51、ダイオード52及び抵抗R1〜R4の配置の仕方の、図4(a)に示した配置の仕方とは異なった例を示している。この変形例によれば、図から明らかなように、セラミックコンデンサ51を縦方向で斜めに傾けて配置したため、高さ方向の寸法は図4(a)の例よりも若干大きくなっているが、幅方向の寸法を大きく減少できた。
【0078】
(工業用X線発生装置の第2の実施形態)
図11は、本発明に係る工業用X線発生装置の他の実施形態で用いられる高圧電源部を示している。以下、この実施形態について説明する。
【0079】
図8に示した先の実施形態の高圧電源部においては、陰極11から延びる引出し線に電圧モニタ用の抵抗R1,R2,R3,R4を直列に接続した。そして、これらの抵抗によって電圧降下した後の電圧が、電圧モニタ端子46において測定された。そして、この測定データが図6のコントローラ25へ伝送されて制御用のデータとして用いられた。つまり、図8の実施形態では、抵抗R1、R2、R3及びR4を含む電圧測定回路がコッククロフト・ウォルトン回路43の最終段の電圧を測定した。
【0080】
これに対し、図11に示す本実施形態の高圧電源部では、1個又は複数個の抵抗を直列に接続して成るR1を含む電圧測定回路がコッククロフト・ウォルトン回路43の入力端から出力端の中間位置Pの電圧を測定する。そして、その測定値を図6のコントローラ25へ伝送して制御用のデータとして用いる。どの位置を中間位置Pとするかは、使用する抵抗R1の耐圧によって決めることができる。例えば、一般的な抵抗を抵抗R1として用いることを考えれば、電位が30kV程度となる所から電位を取り出すことができる。一般的には、コッククロフト・ウォルトン回路43の最終段の電位の1/2以下の電位を取り出すことが好ましい。
【0081】
本実施形態によれば、図4(b)において使用される抵抗を抵抗R1の1つだけにすることができる。これにより、X線発生装置をより一層、小型で軽量に形成することが可能となる。なお、本実施形態において、図11に示した高圧電源部以外の構成は、図1、2,3,4,5,6,7,9に示した先の実施形態と同じである。
【0082】
(工業用X線発生装置の第3の実施形態)
図12及び図13は、本発明に係る工業用X線発生装置のさらに他の実施形態で用いられる主要回路部分を示している。具体的には、図12は制御系のブロック図を示しており、図13はそのブロック図の具体的な回路構成の一実施形態を示している。以下、この実施形態について説明する。
【0083】
図6及び図8に示した先の実施形態の高圧電源部においては、電源ドライバ23aがPWM信号発生部23a−1と電源部23a−2との両方を内蔵していた。そして、コントローラ25からグリッド電源モジュール39及びカソード電源モジュール38へ電圧設定指示信号を出していた。そして、電圧設定指示信号に従ったPWM信号がPWM信号発生部23a−1から出力され、そのPWM信号に応じた電圧が電源部23a−2から出力されていた。
【0084】
これに対し図12及び図13に示す本実施形態の高圧電源部では、電源ドライバ23aがPWM信号発生部23a−1及び電源部23a−2によって形成されていることは変わりが無いが、図12に示すように、電源部23a−2及び23b−2がトランス回路24a及び24bの前段に設けられ、PWM信号発生部23a−1及び23b−1がMCU(Micro Control Unit)によって構成されたコントローラ25に内蔵されている。
【0085】
本実施形態では、パルス幅変調を行うための信号、すなわちPWM信号がコントローラ25に内蔵されたPWM信号発生部23a−1及び23b−1から各電源モジュール38及び39へ出力される。このようにPWM信号をコントローラ25で発生させるようにしたことにより、制御ループのシステムディレイを低減でき、そのため、電圧及び電流の安定性を向上させることができた。なお、本実施形態において、図12及び図13に示した高圧電源部以外の構成は、図1、2,3,4,5,7,9に示した先の実施形態と同じである。
【0086】
(工業用X線発生装置の第4の実施形態)
図14は、本発明に係る工業用X線発生装置のさらに他の実施形態の外観構造を示している。以下、この実施形態について説明する。
【0087】
図1に示した先の実施形態においては、ベース2から見て、陰極用電源ドライバ23a、グリッド用電源ドライバ23b、陰極用トランス回路24a、グリッド用トランス回路24b、そしてコントローラ25の各基板を横置き(すなわちベース2に対して平行)で順番に積み重ねて配置した。これに対して図14に示す本実施形態の工業用X線発生装置71では、陰極用電源ドライバ23aとグリッド用電源ドライバ23bとを1つの回路基板であるドライバ基板23上に実装し、このドライバ基板23とコントローラ25とを横置きで順番に積み重ねた。
【0088】
そして、陰極用トランス回路24aとグリッド用トランス回路24bとを1つの回路基板であるトランス基板24上に実装し、コントローラ25等の積層構造体とモールド部Mとの間にトランス基板24を縦置き(すなわち、コントローラ25等の積層構造体に対して直角又は略直角)で配置した。モールド部MはX線管7を内蔵している。
【0089】
つまり、本実施形態では、電源ドライバ23a,23bとコントローラ25とが横置きで互いに重ねられて構造体を形成しており、その構造体が空間を隔ててX線管7に並んで設けられている。そして、トランス回路24a,24bは、上記の空間内に縦置きで設けられることにより上記の構造体とX線管7とを空間的に遮蔽している。
【0090】
図14において、符号2はベースを示し、符号9はハンドルを示し、符号10は取付金具を示し、符号15は外部電源コネクタを示し、符号31は外装ケースを示している。なお、本実施形態において、図14に示した外観構造以外の構成は、図3,4,5,6,7,8,9に示した先の実施形態と同じである。
【0091】
本実施形態によれば、低電圧、中間電圧、そして高電圧への連続的な昇圧を容易に行うことができると共に、それらの電圧間の絶縁を正確に行うことを容易に実現できる。また、鉛を含むピエゾトランスを保有しているトランス基板24をコントローラ25等の積層基板部とモールド部Mとの間に縦置きで配置したことにより、X線管7で発生したX線をトランス基板24で吸収することができ、そのため、コントローラ25等に含まれている半導体素子にX線が照射されることを防止できる。この結果、半導体素子がX線によって誤動作する可能性を低減できる。
【0092】
(その他の実施形態)
以上、好ましい実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明はその実施形態に限定されるものでなく、請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々に改変できる。
例えば、上記実施形態では陰極11を電界放出型の電子発生部材によって形成したが、これに代えてフィラメントのような熱電子発生型の電子発生部材を用いることも可能である。
【符号の説明】
【0093】
1.工業用X線発生装置、 2.ベース、 3.取付用孔、 4.溝、 6.フィン、 7.X線管、 8a.ベース上の低電圧領域、 8b.ベース上におけるX線管の側方領域、 9.ハンドル、 10.取付金具、 11.陰極(カソード)、 12.グリッド、 13.陽極(アノード)、 14.管体、 15.外部電源コネクタ、 16.磁気遮蔽部材、 17.X線取出し領域、 21.伝熱体、 22.バッテリ、 23.ドライバ基板、 23a.陰極用電源ドライバ、 23b.グリッド用電源ドライバ、 24.トランス基板、 24a.陰極用トランス回路、 24b.グリッド用トランス回路、 25.コントローラ、 27a.陰極用昇圧回路、 27b.グリッド用昇圧回路、 28a,28b.リード線(導電部材)、 29.X線遮蔽部材、 31.外装ケース、 32.ハンドル、 33.検査対象物、 34.検査対象物の支持用部材、 36.2次元X線検出器、 38.カソード電源モジュール、 38a.可変カソード電源、 39.グリッド電源モジュール、 39a.可変グリッド電源、 41a.モニタ部、 42a〜42d.ピエゾトランス、 43.コッククロフト・ウォルトン回路、 44.1つの昇圧段、 46.電圧モニタ端子、 47.ダイオード、 48.電流モニタ端子、 51.コンデンサ、 52.ダイオード、 60.制限抵抗、 61.コンデンサ、 62.電極、 D.X線管の外径、 H.モールド高さ、 L.X線管の長さ、 M.モールド材、 T1a,T1b.入力端子部(低電圧端子)、 T2a,T2b.出力端子部(高電圧端子)
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラントの配管パイプ等といった構造物の非破壊検査を行う際に用いられる工業用X線発生装置であって、陰極から放出された電子を陽極に当てて当該陽極からX線を発生する工業用X線発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子源である陰極をタングステンフィラメントによって形成して成るX線発生装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。一般には、フィラメントに通電してこれを2000℃以上に加熱してこれから熱電子を放出させている。フィラメントには高電圧が印加されるものであり、工業用X線管においてX線管球とX線電源とを1つのユニット内に設置する場合には、絶縁を確保するためにX線管球とX線電源とを高圧ガス容器に封入して絶縁を確保している(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−267692号公報(第2頁、図1)
【特許文献2】特開平3−149740号公報(第2〜3頁、第1図)
【特許文献3】特開平6−267692号公報(第5頁、図1)
【特許文献4】特開2001−135496号公報(第3頁、図2)
【特許文献5】特開2001−135497号公報(第3頁、図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
高圧ガス容器を用いた従来の工業用X線発生装置においては、高圧容器を使用しなければならないので、大型で重量が重いという問題があった。例えば、X線発生器と制御器との合計で30kg程度になっていた。
【0005】
また、フィラメントによって陰極を形成した工業用X線発生装置においては、フィラメント用の電源やフィラメント部を冷却するための構成が必要であるため、大型になると共に重量が重くなるという問題があった。
【0006】
また、ガスを用いた絶縁に代えて、モールド成形によって高電圧部の絶縁を行うことにした工業用X線発生装置も知られている(例えば、特許文献3、特許文献4、特許文献5等参照)。
【0007】
しかしながら、特許文献3に開示された装置では、ケーブルレセプタクルとX線管とをモールド成形によって覆っているだけであり、高電圧部とX線管との両方をモールド成形によって小型、軽量の絶縁構造に形成することはできていない。
【0008】
また、特許文献4及び特許文献5に開示された装置では、X線管と高電圧発生部とが位置的に互いに関連無く別々に配置された上で、高電圧発生部がモールド成形によって絶縁されている。この従来装置では、X線管と高電圧発生部とが位置的に関連付けされることなく別々に設けられているので、X線管と高電圧発生部とを含んだ装置全体の形状が大きくならざるを得ない。
【0009】
また、高電圧発生部は、その入力端子に数kV程度の低電圧を入力し、その出力端子から数十kV〜百数十kVといった高電圧を出力するものであるが、特許文献4及び特許文献5に開示された装置では、それらの高電圧部位と低電圧部位との配置位置に適切な考慮が払われておらず、絶縁を確実にするためには高電圧部位と低電圧部位との間に十分な距離を確保したり、モールド成形の大きさ、体積等を十分に大きくしなければならず、なかなか小型化が実現できなかった。
【0010】
一般にX線管を含むX線発生装置、特に工業用X線発生装置においては、X線が外部へ漏れないように鉛等から成るX線遮蔽部材によってX線管や高電圧発生部を覆う必要があるが、X線発生装置が大型になるとX線遮蔽部材も大型になり、その場合には、鉛等の影響により、重量が非常に重くなるという問題があった。
【0011】
本発明は、従来装置における上記の問題点に鑑みて成されたものであって、X線管と高電圧発生部との位置関係を考慮してそれらの配置位置を設定することにより、装置全体を小型に従って軽量に形成でき、しかも少量のモールド材で十分な絶縁を確保できる工業用X線発生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る工業用X線発生装置は、電子を放出する陰極と電子を引き付ける陽極とを管体に格納して成るX線管と、原子番号55以上の元素を主として含みX線を通し難い物質によって形成されており前記X線管を覆うX線遮蔽部材と、前記陰極に印加する高電圧を生成する昇圧回路とを有しており、前記陽極が接地されており、前記昇圧回路は、自身の低電圧端子から高電圧端子にわたって複数の昇圧段が順次に接続されることによって形成されており、前記昇圧回路は、自身の前記低電圧端子が前記X線管の陽極に対応し自身の前記高電圧端子が前記X線管の陰極に対応するように、前記X線管の側部領域に配置されており、前記陰極から前記X線管の外部へ延びている導電部材が前記昇圧回路の高電圧端子に接続されており、少なくとも前記X線管の陰極側の端部、当該陰極側の端部から延出する前記導電部材及び少なくとも前記昇圧回路の高電圧端子側の端部は、絶縁性樹脂を含むモールド材によってモールド成形されていることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る工業用X線発生装置によれば、X線管の高圧端子と昇圧回路の高圧端子が互いに近傍に隣接する。よって、それらの端子をつなぐ導電部材(例えば、リード線、ブスバー)は短くて済む。このため、導電部材を絶縁するためのモールド領域が非常に小さいので、工業用X線発生装置は小型、軽量である。
【0014】
モールドが小型のためそれを覆っているX線遮蔽部材を小さくできる。X線遮蔽部材は通常は鉛によって形成されていて重い。しかし、X線遮蔽部材を小さくできる本発明では鉛の量を減らすことができ、軽量である。
【0015】
本発明に係る工業用X線発生装置は、圧電トランスを含んでおり前記昇圧回路の低電圧端子に電力を供給するトランス回路と、前記圧電トランスに適合した周波数の交流電力を前記トランス回路に供給する電源ドライバと、を有することができる。この構成によれば、電磁トランスを用いた場合に比べて、工業用X線発生装置の重量及び体積を軽減できる。
【0016】
本発明に係る工業用X線発生装置において、前記電源ドライバ及び前記トランス回路は、前記X線管の前記陽極側の端部の近傍に配置されることが望ましい。電源ドライバ及び前記トランス回路は低電圧を取り扱うのでX線管の低圧側に配置した方が良いからである。
【0017】
本発明に係る工業用X線発生装置は、前記昇圧回路、前記トランス回路及び前記電源ドライバの動作を制御するコントローラをさらに有しており、前記トランス回路は前記コントローラに隣接して配置されることが望ましい。
【0018】
本発明に係る工業用X線発生装置は、前記X線管が載置されるベースをさらに有しており、前記電源ドライバが当該ベース上に載置され、当該電源ドライバの上に前記トランス回路が載置され、当該トランス回路の上に前記コントローラが配置されることを特徴とする。この構成によれば、トランス回路を構成している圧電トランスに含まれる鉛がコントローラへ向かうX線を遮蔽し、コントローラの誤動作を防止できる。また、圧電トランスをX線遮蔽要素として配置することにより、その分だけ鉛板等のX線遮蔽を不要にでき、X線発生装置の軽量化が達成される。
【0019】
本発明に係る工業用X線発生装置は、前記電源ドライバへ電圧を印加するバッテリをさらに有しており、当該バッテリは前記X線管の前記陽極側の端部の近傍の前記ベース上に配置されることが望ましい。
【0020】
本発明に係る工業用X線発生装置において、前記昇圧回路はコッククロフト・ウォルトン回路であることが望ましい。これにより、簡単な構成で所望の高圧を得ることができる。
また、前記モールド材は、原子番号55以上の元素を含む酸化物、いわゆる重金属酸化物をフィラーとして含有することが望ましい。これにより、モールド材によってX線を遮蔽できる。
また、前記モールド材の熱伝導率は10W/(m・K)以上であることが望ましい。これにより、工業用X線発生装置の内部に熱が蓄積してX線発生装置が必要以上の高温になることを防止できる。
【0021】
本発明に係る工業用X線発生装置において、前記陰極は電界放出(Field Emission:フィールドエミッション)に基づいて電子を放出することが望ましい。こうすれば、フィラメントを用いた熱電子放出型の電子放出素子を用いた場合に比べて、工業用X線発生装置を小型且つ軽量にできる。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る工業用X線発生装置によれば、X線管の高圧端子と昇圧回路の高圧端子が互いに近傍に隣接する。よって、それらの端子をつなぐ導電部材は短くて済む。このため、導電部材を絶縁するためのモールド領域が非常に小さくなり、工業用X線発生装置を小型、軽量に形成できる。
【0023】
また、モールド領域が小さいため、それを覆っているX線遮蔽部材を小さくできる。X線遮蔽部材は通常は鉛によって形成されていて重い。しかし、X線遮蔽部材を小さくできる本発明では鉛の量を減らすことができ、軽量である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る工業用X線発生装置の一実施形態の正面図である。
【図2】図1のA−A線に従った平面断面図である。
【図3】図1の矢印Bに従った工業用X線発生装置の底面図である。
【図4】(a)は図2のC−C線に従った側面断面図であり、(b)は図4(a)の矢印Eに従って昇圧回路の構成要素の配置を示す図である。
【図5】図1の工業用X線発生装置の使用例を示す図である。
【図6】図1の工業用X線発生装置で用いる制御系のブロック図である。
【図7】図6の制御系ブロック図の等価回路を示す回路図である。
【図8】図6のブロック図の具体的な回路構成の一実施形態を示す回路図である。
【図9】図8の回路で用いられる主要素子であるピエゾトランスの評価結果を示すグラフである。
【図10】本発明に係る工業用X線発生装置の他の実施形態を示す側面断面図である。
【図11】本発明に係る工業用X線発生装置のさらに他の実施形態で用いられる高圧電源部を示す回路図である。
【図12】本発明に係る工業用X線発生装置のさらに他の実施形態で用いられる制御系のブロック図である。
【図13】図12の一部を詳しく示す回路図である。
【図14】本発明に係る工業用X線発生装置のさらに他の実施形態の外観構造を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(工業用X線発生装置の第1の実施形態)
以下、本発明に係る工業用X線発生装置を実施形態に基づいて説明する。なお、本発明がこの実施形態に限定されないことはもちろんである。また、これ以降の説明では図面を参照するが、その図面では特徴的な部分を分かり易く示すために実際のものとは異なった比率で構成要素を示す場合がある。
【0026】
図1は本発明に係る工業用X線発生装置の一実施形態の長手方向を示す正面断面図である。図2は図1のA−A線に従った平面断面図である。図3は図1の矢印Bに従った工業用X線発生装置の底面図である。図4(a)は図2のC−C線に従った工業用X線発生装置の短手方向を示す側面断面図である。
【0027】
これらの図において、工業用X線発生装置1は長方形の板形状であるベース2を有している。ベース2は熱伝導性が良好である材料、例えばAl(アルミニウム)によって形成されている。ベース2の周縁には、後述する2次元X線検出器を支持するための支持部材、例えばワイヤが取り付けられる複数の取付用孔3が設けられている。図3に示すように、ベース2の底面には多数の線状の溝4が形成されており、それらの溝4の間にひれ状で板状の放熱用のフィン6が多数、平面内で2段の列状に設けられている。
【0028】
図1において、ベース2上にX線管7が設けられている。X線管7は円筒形状の管体14を有している。この管体14の内部に、電子を放出する陰極(カソード)11と、引出し電極であるグリッド12と、電子を引き付ける陽極(アノード)13とが設けられている。陽極13は電子が衝突してX線を発生する部材、すなわちターゲットの機能を有する。発生する白色X線のエネルギ、すなわち白色X線の波長は、陽極13と陰極11の間に印加される加速電圧によって決定され、また、発生する特性X線のエネルギは陽極13の材質によって決定される。
【0029】
陰極11は電界放出(Field Emission:フィールドエミッション)に基づいて電子を放出する。電界放出は、物質表面に強い電位を印加したときにその物質の表面から電子が放出される現象である。電界放出によって実用上十分な量の電子を放出できる物質としてカーボンナノチューブを含んだ物質、グラファイト粒子を含んだ物質等が知られている。
【0030】
カーボンナノチューブは、六炭素環で構成される針状、すなわちアスペクト比(粒子長/粒子径)が非常に大きい状態、で管状の粒子である。グラファイト粒子はグラファイトを含んで成る物質である。グラファイトとは、炭素六角網面(複数の六炭素環が連なって1つの層を構成している面)が複数個層状に積層されて成る層状構造物質である。
【0031】
X線管7の周囲には、フェライトによって形成されている円筒形状の磁気遮蔽部材16が設けられている。この磁気遮蔽部材16は、管体14の周囲を流れる電流によって励起される磁界がX線管7の内部の電子線に影響を与えることを防止する。この磁気遮蔽部材16は、図4(a)に示すように、X線管7の管体14の外周に沿って円筒状に配置されている。磁気シールドとしては透磁率が大きく、保磁力が小さく、電気絶縁性の高いことが必要である。本実施形態ではマンガン亜鉛フェライト((Mn,Zn)Fc3O4)を用いている。
【0032】
磁気遮蔽部材16のうち陽極13の側方に位置する部分であって、ベース2に対向する部分は開口となっており、さらに当該部分のベース2は加工によって薄く形成されている。これらの開口及び薄肉部分により、陽極13で発生したX線を外部へ取り出すための領域17が形成されている。ベース2の厚さは、例えば10mmであり、薄肉部分の厚さは、例えば5mmである。
【0033】
熱伝導率の高い材料、例えばAl(アルミニウム)、Cu(銅)等によって形成された伝熱体21がベース2の面上に設けられており、陽極13がこの伝熱体21に接合されている。この接合は、例えばメタライズ(金属を生成する処理)やハンダ接合等によって成されている。
【0034】
本実施形態では、陽極13が電気的に接地され、陰極11が負の高電圧(例えば、−80kV〜−200kVの範囲内の任意の電圧に設定される。陽極13が接地されているので、陽極13に伝熱体21を接触させても電気的な安定性が担保される。陽極13は、伝熱体21によってベース2にしっかりと固定されている。陽極13は電子の衝突により高い温度に昇温するが、伝熱体21を通して熱がベース2へ流れるので、陽極13は効率良く冷却され、損傷が回避される。陰極11は高電圧であり、しかも発熱していないので、ベース2に固定しない。
【0035】
図1においてX線管7の陽極13側の端部の外側のベース2上の領域8a、及び図2においてX線管7の両側部の外側のベース2上の領域8bに高圧電源部が設けられている。本実施形態の高圧電源部は、図1の領域8aに設けられているリチウムイオンバッテリ22と、電源ドライバ23a,23bと、トランス回路24a,24bと、制御装置であるコントローラ25と、図2の2つの側部領域8bに設けられている昇圧回路27a,27bとを含んでいる。この高圧電源部の回路構成については、後述する。
【0036】
リチウムイオンバッテリ22と、電源ドライバ23aと、トランス回路24aと、昇圧回路27aは、陰極11に高電圧を印加するための高圧電源部を構成している。陰極11には、例えば−200kVの負の高電圧が印加される。リチウムイオンバッテリ22と、電源ドライバ23bと、トランス回路24bと、昇圧回路27bは、グリッド12に高電圧を印加するための高圧電源部を構成している。グリッド12には、例えば−100kVの負の高電圧が印加される。
【0037】
後述するが図2の昇圧回路27a,27bはX線管7の長手方向に沿って長い外観形状を有している。これらの回路の陽極13側の端子部分T1a,T1bが低電圧を入力する低電圧端子である入力端子部である。そして、これらの回路の陰極11側の端子部分T2a,T2bが高電圧を出力する高電圧端子である出力端子部である。例えば、それぞれの昇圧回路27a,27bの入力端子部T1a,T1bに4〜10kV程度の電圧が入力され、陰極用昇圧回路27aの出力端子T2aに−200kVが出力され、グリッド用昇圧回路27bの出力端子T2bに−100kVが出力される。
【0038】
図2において、X線管7の陰極11側の端部において、陰極11から延びる導電部材としてのリード線28aがX線管7の外側へ出て陰極用昇圧回路27aの出力端子T2aに接続されている。他方、グリッド12から延びる導電部材としてのリード線28bがX線管7の外側へ出てグリッド用昇圧回路27bの出力端子T2bに接続されている。陰極用昇圧回路27a及びグリッド用昇圧回路27bのそれぞれの入力端子T1a及びT1bは、それぞれ、陰極用トランス回路24a及びグリッド用昇圧回路24bの出力端子に接続されている。なお、導電部材として、リード線に代えてブスバー(すなわち、バスバー)を用いても良い。
【0039】
リード線28a,28bは、絶縁処理が施されていない金属そのままの配線や、金属そのままではなくわずかな電流は通す状態(すなわち、非絶縁状態)の配線、等である。リード線の断面形状は、通常、円形である。また、ブスバーは、断面形状が非円形(矩形、楕円、長円、等)であって細長い金属製の板、棒等のことである。金属としては、例えば銅、銅合金等が用いられる。ブスバーは、一般に、リード線に比べて放熱効果が高い。
【0040】
ベース2上の所定位置に設置されたX線管7及び昇圧回路27a,27bは、モールド成形処理を受けてモールド材Mによって覆われている。モールド成形処理はそれ自体周知の処理であり、流動性を持ったモールド材を型枠の中に流し込んだ後、そのモールド材を固化させる処理である。陰極11と昇圧経路27aの出力端子T2aとをつないでいるリード線28a、及びグリッド12と昇圧経路27bの出力端子T2aとをつないでいるリード線28bもモールド材Mによって覆われている。
【0041】
モールド材Mの中に空間又は隙間があると、その部分で沿面放電やコロナ放電が発生するおそれがあるので、モールド成形処理時にはモールド材Mの中に泡が発生しないように真空槽内でモールド材Mを型枠内に充填する。本実施形態では、モールド材MがX線管7及び昇圧回路27a,27bの全てを覆うようにモールド成形が行われているが、最低限必要なのは、X線管7の陰極11側の端部、リード線28a,28b及び昇圧回路27a,27bの高電圧出力端子部T2a,T2b側の一部分がモールド材Mによって覆われることである。具体的には、5kV以上の高圧部が大気中で放電することに鑑み、そのような高圧部をモールドしている。
【0042】
本実施形態で用いたモールド材は、電気絶縁性を有する合成樹脂、例えばエポキシ系又はシリコン系の合成樹脂を主体とし、その中に窒化アルミニウム、アルミナ、シリカ等といったセラミックスや、Bi2O3等といった重金属酸化物をフィラーとして含有させて成る材料である。モールド材Mの中にセラミックスや重金属酸化物のフィラーを混在させたことにより、モールド材Mは絶縁性に加えてX線吸収性を有している。
【0043】
モールド樹脂と被モールド部材との接着性を高めるため、被モールド部材の表面は、良く洗浄した後、プライマーと呼ばれる表面処理材を塗布されることが望ましい。このような化学的な接着性が不十分な材質の場合は、被モールド部材の表面にサンドブラスト処理を施してその表面を粗面化することにより、物理的に接着力を高めることができる。このような粗面化処理はアンカー処理と呼ばれている。
【0044】
モールド材Mの中にセラミックスを混在させることにより、モールド材Mの熱伝導率を向上させることができる。平均的なエポキシ樹脂の熱伝導率は0.3W/)であり、同じくシリコン樹脂は0.16、窒化アルミニウムは300、アルミナは36.0、シリカは10.4である。熱伝導率を大きくするにはセラミックス等の充填率を大きくすることが重要であるが、単一の粒径の粒子から構成すると粒子と粒子とが接する細密充填でも充填率は74%である。そのため、2種又は3種以上の粒径の粒子を混ぜることにより、最大90%以上の充填率を得ることができる。
【0045】
また、モールド材Mの中に原子番号55以上の元素を含む酸化物(いわゆる、重金属酸化物)を混在させることにより、X線吸収性を向上することができる。本実施形態では、原子番号83、第15族元素の酸化物として化学的に安定なBi2O3を使用した。
【0046】
モールド材Mの外側であってX線管7に対応した領域にX線遮蔽部材29、例えば鉛によって形成された薄いシート状部材がX線管7を覆うように設けられている。これにより、X線管7の外部にX線が漏れ出ることが防止されている。鉛によって形成されたX線遮蔽部材29は重量が非常に重いので、工業用X線発生装置1を持ち運ぶことを考える場合にはX線遮蔽部材29ができるだけ小さいことが望まれる。
【0047】
一般に、X線遮蔽板を通過した後のX線強度Iは、
I=I0exp(−μt)
で表される。そして、透過率Tは、
T=I/I0=exp(−μt)
で表される。ここで、「μ」は物質の化学組成、密度によって決まる線吸収係数(1/m)、「t」はX線遮蔽板の厚さ(m)である。
【0048】
X線遮蔽板として鉛(Pb)を用いる場合、上式によれば、透過率を0.1%にするにはt=約3.5mmが必要となる。透過率TはX線遮蔽板の厚さの関数であり、X線遮蔽板が同じ厚さであればX線源からの距離を小さくすることにより、X線遮蔽板の面積を減らすことができ、面積を減らすことによりX線遮蔽板の重量を減らすことができる。本実施形態では、X線源からの距離が小さいモールド材部分それ自身にX線遮蔽性を持たせ、さらにその小さなモールド材の外側をX線遮蔽板で覆うことにしたので、X線遮蔽板の面積を小さくでき、それ故、X線遮蔽板の重量を低減することができた。この結果、工業用X線発生装置の全体の重量を大幅に低減できた。
【0049】
また、本実施形態においてモールド材Mの熱伝導率は10W/(m・K)以上に設定されている。これにより、工業用X線発生装置1の内部に熱が蓄積して、このX線発生装置1が必要以上の高温になることを防止できる。
【0050】
図1において、モールド材Mの外側に外装ケース31が設けられている。外装ケース31は、モールド材Mの全体を覆うようにしてベース2の上に固定されている。外装ケース31の上壁にハンドル32が取り付けられている。工業用X線発生装置1の使用者は、このハンドル32を持って工業用X線発生装置1を希望の測定場所へ持ち運んで、X線による非破壊検査を行う。
【0051】
本実施形態では、X線管7及び昇圧回路27a,27bがモールド材Mで覆われており、その外側に電源ドライバ23a,23b、トランス回路24a,24b及びコントローラー25が積み重ね状態で設けられている。モールド材Mで覆われているのは、5kV以上の高圧になる部分である。上記の回路の積み重ね部分は低圧部分であるので、その上にモールド材Mは装填されていない。
【0052】
そして、モールド部分とその積み重ね部分とが外装ケース31の中に収納され、陰極用とグリッド用とで兼用のバッテリ22が外装ケース31の外側のベース2上に設置されている。上記の回路の積み重ね部分が外気に接し、さらに塵埃が入ると放電の可能性があるので、外装ケース31は密閉されている。バッテリ22は着脱方式であり、保有電力が消耗した場合には、ベース2から外して図示しない充電器によって充電可能である。
【0053】
検査を行う際には、例えば図5に示すように、工業用X線発生装置1を検査対象物33(図示の例ではプラント設備として用いられる鋼管、すなわちパイプ)に接触させて設置し、ベース2の取付用孔3(図2参照)に支持用部材34を取り付ける。そして、この支持用部材34によって2次元X線検出器36を支持して、この2次元X線検出器36を検査対象物33のX線発生装置1と反対側の部分に配置する。2次元X線検出器36は、X線フィルム、イメージングプレート、CCD(Charge Coupled Device)検出器、等によって構成できる。
【0054】
図1において、例えば、X線管7の外径Dは50mmであり、X線管7の長さLは170mmであり、モールド高さHは70mmである。次の理由、すなわち(1)フィラメントによる熱電子放出でなく電界放出による電子放出を採用したこと、(2)高圧電源部の構成要素である昇圧回路27a,27bをX線管7の側方部分にX線管7に沿わせて隣接して配置したこと、(3)高圧電源部の高圧部分である昇圧回路27a,27bの出力端子T2a,T2bをX線管7の高圧部分である陰極11側の端部に対応させて配置し、高圧電源部のその他の構成要素(すなわち、バッテリ22、電源ドライバ23a,23b、トランス回路24a,24b、コントローラ25等)は、X線管7の陽極13側(すなわち、接地側)の端部の近傍にまとめて配置したこと、等により、本実施形態の工業用X線発生装置1は従来のものに比べて、非常に小型、軽量になっており、良好な可搬性を実現している。
【0055】
以下、高圧電源部の回路構成について説明する。
既述の通り、本実施形態で用いる高圧電源部は、図1及び図2に示した、X線管7の陽極13側の端部の近傍領域8a及びX線管7の両側部の領域8b,8bに設けられている。X線管7の陽極13側の端部の近傍領域8aは、とりもなおさず接地電位にある領域である。そして、X線管7の両側部の領域8b,8bは、電位が接地電位から高電圧へ昇圧して行く領域である。
【0056】
図6は、本実施形態で用いる高圧電源部の回路構成のブロックダイアグラムを示している。コントローラ25、バッテリ22、陰極用電源ドライバ23a、陰極用トランス回路24a、陰極用昇圧回路27a、グリッド用電源ドライバ23b、グリッド用トランス回路24b、そしてグリッド用昇圧回路27bは、それぞれ、図1、図2及び図4(a)において同じ符号で示した要素と同じものである。
【0057】
陰極用の電源ドライバ23a、トランス回路24a、昇圧回路27aによってカソード電源モジュール38が構成されている。一方、グリッド用の電源ドライバ23b、トランス回路24b、昇圧回路27bによってグリッド電源モジュール39が構成されている。カソード電源モジュール38は陰極11に印加される電圧を制御し、グリッド電源モジュール39はグリッド12に印加される電圧を制御する。例えば、グリッド電圧は−100kVに制御され、陰極電圧は−200kVに制御される。本実施形態では、陽極13(すなわち、ターゲット)が接地されている。
【0058】
図6のブロック図は、回路図としては図7に示す回路図と等価である。すなわち、X線管7において、接地された陽極13とグリッド12との間に可変グリッド電源39aが設置され、接地された陽極13と陰極11との間に可変カソード電源38aが設置されている。
【0059】
図6において、コントローラ25は、CPU(Central Processing Unit)、メモリ等を備えたマイクロコンピュータによって構成されている。CPUはメモリ内に記憶されたプログラムソフトに従ってカソード電源モジュール38及びグリッド電源モジュール39の動作を制御する機能を実現する。具体的には、出力電圧を何ボルトにするかを指示したり、動作の開始を指示したり、動作の終了を指示したり、実際の電圧及び電流をモニタしたりする。
【0060】
図8は、陰極11に高電圧、例えば−200kVを供給するための高圧電源部の具体的な回路構成の一実施形態を示している。グリッド12に高電圧、例えば−100kVを供給するための回路構成は基本的には図8に示す回路と同じである。陰極11用の高圧電源部は、バッテリ22、電源ドライバ23a、トランス回路24a、昇圧回路27a、モニタ部41aによって構成されている。グリッド12用の高圧電源部は同様の構成となっているので、以下の説明では代表して主に陰極11用の高電圧電源について説明することにする。
【0061】
バッテリ22は、例えば24Vの直流電力を出力する。電源ドライバ23aは、PWM(パルス幅変調)信号を発生するPWM信号発生部23a−1と、そのPWM信号に応じた電圧を発生する電源部23a−2とを有している。図示はしていないが、グリッド12側の電源ドライバ23bも同じ構成である。電源ドライバ23aはコントローラ25から伝送される電圧設定指示信号に従って、PWM(パルス幅変調)制御により、後段のトランス回路24aに適合した高周波電力を生成する。トランス回路24aは、複数(本実施形態では4個)のピエゾ(圧電)トランス42a,42b,42c,42dを含んでいる。ピエゾトランス42a〜42dはそれ自体周知の変圧素子であり、チタン酸バリウムやチタン酸ジルコニウム酸鉛等といった圧電性を備えたセラミックスと金属電極とをそれぞれ複数個、交互に積層して焼成することによって形成されている。本実施形態では、鉛を含有したチタン酸ジルコニウム酸鉛を用いた。
【0062】
ピエゾトランス42a〜42dは、共振周波数に近い周波数の交流電力が入力端子に入力されると、100倍程度に昇圧された高周波電力を出力端子に出力する。ピエゾトランス42a〜42dは、後述のように、ベース2の方向から進入するX線がコントローラ25へ入ることを防止して、コントローラ25がX線を受けて誤動作することを防止する機能も有している。本実施形態では、大型でコストの高い大電力のピエゾトランスを用いるよりも、小型で低電力の液晶バックライト冷陰極管用のピエゾトランスを複数用いることにより、50Wの出力を得られるようにしている。これにより、小型で低コストのトランス回路を構成している。このトランス回路24aにより、4〜8kV程度の高周波電力を出力端子に得ている。
【0063】
図9は、本実施形態で使用したピエゾトランスに関して行った評価の結果を示している。グラフにおいて、線分Aが評価対象であるピエゾトランスの出力特性を示している。曲線Bは目標である電力を160kV×50Wと想定した場合に、その電力が一定であることを示している曲線である。本実施形態で用いたピエゾトランスはこの電力一定曲線を超える領域にあるので、特性的に問題がないことが分かる。また、出力電圧も160kV程度が得られているので、これも問題がないことが分かる。
【0064】
図8において、トランス回路24aの高周波出力電力は、昇圧回路27aの入力端子に入力される。本実施形態では、昇圧回路27aはコッククロフト・ウォルトン回路43によって構成されている。コッククロフト・ウォルトン回路43は、それ自体周知の昇圧回路であり、2個のコンデンサと2個のダイオードとをブリッジ接続して成る1つの昇圧段44を複数、直列に接続して成る昇圧回路である。
【0065】
本実施形態のコッククロフト・ウォルトン回路43は、1つの昇圧段44で電圧を2倍に昇圧するようになっており、これを数十個順次に接続することにより、4〜8kV程度のトランス回路24aの高周波出力電力を200kVの直流高電圧まで昇圧している。コッククロフト・ウォルトン回路43の出力端子は制限抵抗60を介して陰極11に接続されている。本実施形態では陽極13が接地されているので、陰極11は負の高圧となっている。図2において、陰極用昇圧回路27aの入力端子T1aに昇圧前の低電圧が入力され、出力端子T2aに昇圧後の高電圧が出力される。
【0066】
図8において、陰極11からの引出し線に電圧モニタ用の抵抗R1,R2,R3,R4が直列に接続されている。これらの抵抗によって電圧降下した後の電圧が、電圧モニタ端子46において測定される。他方、ダイオード47を介して取り出される電流が電流モニタ端子48において測定される。これらの測定データは、図6においてコントローラ25へ制御用のデータとして伝送される。
【0067】
陰極11にリップルフィルタ61が接続されている。このリップルフィルタ61は、高圧電源から発生するリップルを低減する。陰極11の近傍に小型で高耐圧のコンデンサを実装することは困難であるので、本実施形態では図1に示すように、陰極11の外側に適宜の寸法のモールド材Mを挟んで電極62を配置して並行平板型コンデンサを構成してリップルフィルタ61としている。
【0068】
具体的には、モールド樹脂の絶縁破壊電圧が約25kV/mmであり、比誘電率が約3.5であり、陰極11側のモールド樹脂の厚さを10mmとし、その外側に面積250mm2 の電極62を配置することにより、耐圧250kV、静電容量8.5pFのコンデンサを配置した。
【0069】
図4(a)において、陰極用昇圧回路27aを構成するコンデンサ(実施形態ではセラミックコンデンサ)51及びダイオード52は、ベース2側からハンドル32側へ向けて縦方向に配置されている。また、これらと同様に図8の電圧モニタ用抵抗R1〜R4の個々が、縦方向に延びるように設けられている。これらのコンデンサ51等は、回路基板を用いずに、接続用のジグを用いて立体的且つフレキシブルにハンダ接合で互いに配線されている。モールドの硬化時の収縮、使用時の温度の上昇による熱膨張、使用時の温度の下降による熱収縮、等の際に破壊しないようにするためである。
【0070】
これらの電子要素を図4(a)の矢印E方向から見ると、すなわち図1と同じ断面状態で見ると、図4(b)に示すように、抵抗R1〜R4が高圧側から順に斜めに並べて配置され、コンデンサ51が上下2段に分けて並べて配置され、複数のダイオード52が各コンデンサ51の入出力端子に接続されている。図では最も左側に置かれたコンデンサに接続されている3個のダイオードだけを代表して示し、それ以外のダイオードの図示を省略している。
【0071】
以上のように、陰極用昇圧回路27aの構成要素である各電子要素は、工業用X線発生装置1の高さ方向の空間領域を有効に活用すると共に幅方向に関しては非常に狭い領域内に集約されて収められているので、工業用X線発生装置1の小型化に寄与している。
【0072】
X線管7に関して陰極用昇圧回路27aの反対側に設けられたグリッド用昇圧回路27bは、構成要素としては陰極用昇圧回路27aと同じ電子要素によって形成されている。但し、最終的に求められる高電圧の値が陰極11とグリッド12とで異なっているので、用いられる電子要素の個数がそれに応じて異なっている。このようにグリッド用昇圧回路27bの構成は陰極用昇圧回路27aの構成に基づいて容易に理解できるので、説明を省略することにする。
【0073】
図5において、工業用X線発生装置1の実際の使用の仕方を説明したが、本実施形態では高エネルギのX線がX線発生装置1から検査対象物33へ向けて放射される。例えば、160kV程度の高エネルギのX線が放射される。このため、検査対象物33から比較的高強度の散乱X線や蛍光X線が発生し、それらが図1の領域8aに配置された電子回路部分を照射するおそれがある。仮に、X線がコントローラ25を照射すると、コントローラ25の内部に設けられたCPUやフラッシュメモリ等が誤作動するおそれがある。
【0074】
しかしながら、本実施形態では、コントローラ25の下にトランス回路24a及び24bを設けており、これらのトランス回路の構成要素であるピエゾトランス42a〜42dは材料として鉛を含んでおり、この鉛はX線を遮断する性質を有しているので、散乱X線や蛍光X線がコントローラ25を照射することをその下に配置したトランス回路24a,24bによって防止でき、これにより、コントローラ25が誤動作することを防止できる。
【0075】
また、ピエゾトランスをX線遮蔽要素として配置することにより、その分だけ鉛板等のX線遮蔽を不要にでき、X線発生装置の軽量化に寄与している。
【0076】
本実施形態によれば、X線管7と昇圧回路27a,27b(つまり、高圧電源部)との間を、体積の大きな高電圧用コネクタを用いずに、リード線、ブスバー等といった導電部材で直接に接続し、それらをモールド材Mによって絶縁している。これにより、工業用X線発生装置の小型化及び軽量化を実現している。
【0077】
(変形例)
図10は、陰極用昇圧回路27a及びグリッド用昇圧回路27bを構成しているセラミックコンデンサ51、ダイオード52及び抵抗R1〜R4の配置の仕方の、図4(a)に示した配置の仕方とは異なった例を示している。この変形例によれば、図から明らかなように、セラミックコンデンサ51を縦方向で斜めに傾けて配置したため、高さ方向の寸法は図4(a)の例よりも若干大きくなっているが、幅方向の寸法を大きく減少できた。
【0078】
(工業用X線発生装置の第2の実施形態)
図11は、本発明に係る工業用X線発生装置の他の実施形態で用いられる高圧電源部を示している。以下、この実施形態について説明する。
【0079】
図8に示した先の実施形態の高圧電源部においては、陰極11から延びる引出し線に電圧モニタ用の抵抗R1,R2,R3,R4を直列に接続した。そして、これらの抵抗によって電圧降下した後の電圧が、電圧モニタ端子46において測定された。そして、この測定データが図6のコントローラ25へ伝送されて制御用のデータとして用いられた。つまり、図8の実施形態では、抵抗R1、R2、R3及びR4を含む電圧測定回路がコッククロフト・ウォルトン回路43の最終段の電圧を測定した。
【0080】
これに対し、図11に示す本実施形態の高圧電源部では、1個又は複数個の抵抗を直列に接続して成るR1を含む電圧測定回路がコッククロフト・ウォルトン回路43の入力端から出力端の中間位置Pの電圧を測定する。そして、その測定値を図6のコントローラ25へ伝送して制御用のデータとして用いる。どの位置を中間位置Pとするかは、使用する抵抗R1の耐圧によって決めることができる。例えば、一般的な抵抗を抵抗R1として用いることを考えれば、電位が30kV程度となる所から電位を取り出すことができる。一般的には、コッククロフト・ウォルトン回路43の最終段の電位の1/2以下の電位を取り出すことが好ましい。
【0081】
本実施形態によれば、図4(b)において使用される抵抗を抵抗R1の1つだけにすることができる。これにより、X線発生装置をより一層、小型で軽量に形成することが可能となる。なお、本実施形態において、図11に示した高圧電源部以外の構成は、図1、2,3,4,5,6,7,9に示した先の実施形態と同じである。
【0082】
(工業用X線発生装置の第3の実施形態)
図12及び図13は、本発明に係る工業用X線発生装置のさらに他の実施形態で用いられる主要回路部分を示している。具体的には、図12は制御系のブロック図を示しており、図13はそのブロック図の具体的な回路構成の一実施形態を示している。以下、この実施形態について説明する。
【0083】
図6及び図8に示した先の実施形態の高圧電源部においては、電源ドライバ23aがPWM信号発生部23a−1と電源部23a−2との両方を内蔵していた。そして、コントローラ25からグリッド電源モジュール39及びカソード電源モジュール38へ電圧設定指示信号を出していた。そして、電圧設定指示信号に従ったPWM信号がPWM信号発生部23a−1から出力され、そのPWM信号に応じた電圧が電源部23a−2から出力されていた。
【0084】
これに対し図12及び図13に示す本実施形態の高圧電源部では、電源ドライバ23aがPWM信号発生部23a−1及び電源部23a−2によって形成されていることは変わりが無いが、図12に示すように、電源部23a−2及び23b−2がトランス回路24a及び24bの前段に設けられ、PWM信号発生部23a−1及び23b−1がMCU(Micro Control Unit)によって構成されたコントローラ25に内蔵されている。
【0085】
本実施形態では、パルス幅変調を行うための信号、すなわちPWM信号がコントローラ25に内蔵されたPWM信号発生部23a−1及び23b−1から各電源モジュール38及び39へ出力される。このようにPWM信号をコントローラ25で発生させるようにしたことにより、制御ループのシステムディレイを低減でき、そのため、電圧及び電流の安定性を向上させることができた。なお、本実施形態において、図12及び図13に示した高圧電源部以外の構成は、図1、2,3,4,5,7,9に示した先の実施形態と同じである。
【0086】
(工業用X線発生装置の第4の実施形態)
図14は、本発明に係る工業用X線発生装置のさらに他の実施形態の外観構造を示している。以下、この実施形態について説明する。
【0087】
図1に示した先の実施形態においては、ベース2から見て、陰極用電源ドライバ23a、グリッド用電源ドライバ23b、陰極用トランス回路24a、グリッド用トランス回路24b、そしてコントローラ25の各基板を横置き(すなわちベース2に対して平行)で順番に積み重ねて配置した。これに対して図14に示す本実施形態の工業用X線発生装置71では、陰極用電源ドライバ23aとグリッド用電源ドライバ23bとを1つの回路基板であるドライバ基板23上に実装し、このドライバ基板23とコントローラ25とを横置きで順番に積み重ねた。
【0088】
そして、陰極用トランス回路24aとグリッド用トランス回路24bとを1つの回路基板であるトランス基板24上に実装し、コントローラ25等の積層構造体とモールド部Mとの間にトランス基板24を縦置き(すなわち、コントローラ25等の積層構造体に対して直角又は略直角)で配置した。モールド部MはX線管7を内蔵している。
【0089】
つまり、本実施形態では、電源ドライバ23a,23bとコントローラ25とが横置きで互いに重ねられて構造体を形成しており、その構造体が空間を隔ててX線管7に並んで設けられている。そして、トランス回路24a,24bは、上記の空間内に縦置きで設けられることにより上記の構造体とX線管7とを空間的に遮蔽している。
【0090】
図14において、符号2はベースを示し、符号9はハンドルを示し、符号10は取付金具を示し、符号15は外部電源コネクタを示し、符号31は外装ケースを示している。なお、本実施形態において、図14に示した外観構造以外の構成は、図3,4,5,6,7,8,9に示した先の実施形態と同じである。
【0091】
本実施形態によれば、低電圧、中間電圧、そして高電圧への連続的な昇圧を容易に行うことができると共に、それらの電圧間の絶縁を正確に行うことを容易に実現できる。また、鉛を含むピエゾトランスを保有しているトランス基板24をコントローラ25等の積層基板部とモールド部Mとの間に縦置きで配置したことにより、X線管7で発生したX線をトランス基板24で吸収することができ、そのため、コントローラ25等に含まれている半導体素子にX線が照射されることを防止できる。この結果、半導体素子がX線によって誤動作する可能性を低減できる。
【0092】
(その他の実施形態)
以上、好ましい実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明はその実施形態に限定されるものでなく、請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々に改変できる。
例えば、上記実施形態では陰極11を電界放出型の電子発生部材によって形成したが、これに代えてフィラメントのような熱電子発生型の電子発生部材を用いることも可能である。
【符号の説明】
【0093】
1.工業用X線発生装置、 2.ベース、 3.取付用孔、 4.溝、 6.フィン、 7.X線管、 8a.ベース上の低電圧領域、 8b.ベース上におけるX線管の側方領域、 9.ハンドル、 10.取付金具、 11.陰極(カソード)、 12.グリッド、 13.陽極(アノード)、 14.管体、 15.外部電源コネクタ、 16.磁気遮蔽部材、 17.X線取出し領域、 21.伝熱体、 22.バッテリ、 23.ドライバ基板、 23a.陰極用電源ドライバ、 23b.グリッド用電源ドライバ、 24.トランス基板、 24a.陰極用トランス回路、 24b.グリッド用トランス回路、 25.コントローラ、 27a.陰極用昇圧回路、 27b.グリッド用昇圧回路、 28a,28b.リード線(導電部材)、 29.X線遮蔽部材、 31.外装ケース、 32.ハンドル、 33.検査対象物、 34.検査対象物の支持用部材、 36.2次元X線検出器、 38.カソード電源モジュール、 38a.可変カソード電源、 39.グリッド電源モジュール、 39a.可変グリッド電源、 41a.モニタ部、 42a〜42d.ピエゾトランス、 43.コッククロフト・ウォルトン回路、 44.1つの昇圧段、 46.電圧モニタ端子、 47.ダイオード、 48.電流モニタ端子、 51.コンデンサ、 52.ダイオード、 60.制限抵抗、 61.コンデンサ、 62.電極、 D.X線管の外径、 H.モールド高さ、 L.X線管の長さ、 M.モールド材、 T1a,T1b.入力端子部(低電圧端子)、 T2a,T2b.出力端子部(高電圧端子)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子を放出する陰極と、電子を引き付ける陽極とを管体に格納して成るX線管と、
原子番号55以上の元素を主として含みX線を通し難い物質によって形成されており前記X線管を覆うX線遮蔽部材と、
前記陰極に印加する高電圧を生成する昇圧回路と、を有しており、
前記陽極が接地されており、
前記昇圧回路は、自身の低電圧端子から高電圧端子にわたって複数の昇圧段が順次に接続されることによって形成されており、
前記昇圧回路は、自身の前記低電圧端子が前記X線管の陽極に対応し自身の前記高電圧端子が前記X線管の陰極に対応するように、前記X線管の側部領域に配置されており、
前記陰極から前記X線管の外部へ延びている導電部材が前記昇圧回路の高電圧端子に接続されており、
少なくとも前記X線管の陰極側の端部、当該陰極側の端部から延出する前記導電部材及び少なくとも前記昇圧回路の高電圧端子側の端部は、絶縁性樹脂を含むモールド材によってモールド成形されている
ことを特徴とする工業用X線発生装置。
【請求項2】
圧電トランスを含んでおり前記昇圧回路の低電圧端子に電力を供給するトランス回路と、
前記圧電トランスに適合した周波数の交流電力を前記トランス回路に供給する電源ドライバと、
を有することを特徴とする請求項1記載の工業用X線発生装置。
【請求項3】
前記電源ドライバ及び前記トランス回路は、前記X線管の前記陽極側の端部の近傍に配置されることを特徴とする請求項2記載の工業用X線発生装置。
【請求項4】
前記昇圧回路、前記トランス回路及び前記電源ドライバの動作を制御するコントローラをさらに有しており、
前記トランス回路は前記コントローラに隣接して配置される
ことを特徴とする請求項2又は請求項3記載の工業用X線発生装置。
【請求項5】
前記X線管が載置されるベースをさらに有しており、前記電源ドライバが当該ベース上に載置され、当該電源ドライバの上に前記トランス回路が載置され、当該トランス回路の上に前記コントローラが配置される
ことを特徴とする請求項4記載の工業用X線発生装置。
【請求項6】
前記陰極に対して所定幅の前記モールド材を介して電極が配置されることにより、前記陰極にコンデンサが接続されていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1つに記載の工業用X線発生装置。
【請求項7】
前記昇圧回路はコッククロフト・ウォルトン回路を有することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1つに記載の工業用X線発生装置。
【請求項8】
前記モールド材は原子番号55以上の元素を含む酸化物をフィラーとして含有することを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1つに記載の工業用X線発生装置。
【請求項9】
前記モールド材の熱伝導率が10W/(m・K)以上であることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1つに記載の工業用X線発生装置。
【請求項10】
前記陰極は電界放出に基づいて電子を放出することを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか1つに記載の工業用X線発生装置。
【請求項11】
前記複数の昇圧段の前記低電圧端子と前記高電圧端子との中間位置の電圧を測定する電圧測定回路を有し、
当該電圧測定回路の出力電圧は前記コントローラへ伝送されて制御のための情報として用いられる
ことを特徴とする請求項4記載の工業用X線発生装置。
【請求項12】
前記電源ドライバは、パルス幅変調を行うための信号であるPWM信号を出力するPWM信号発生部と、前記PWM信号に応じて電圧を発生する電源部とを有しており、
前記電源部は前記トランス回路の前段に設けられ、前記PWM信号発生部は前記コントローラの内部に設けられ、
前記コントローラでPWM信号を発生し、前記電源部でPWM信号に応じて電圧を発生する
ことを特徴とする請求項4記載の工業用X線発生装置。
【請求項13】
前記電源ドライバ及び前記コントローラが互いに重ねられて成る構造体が空間を隔てて前記X線管に並んで設けられており、
前記トランス回路は、前記空間内に設けられることにより前記構造体と前記X線管とを空間的に遮蔽する
ことを特徴とする請求項4記載の工業用X線発生装置。
【請求項1】
電子を放出する陰極と、電子を引き付ける陽極とを管体に格納して成るX線管と、
原子番号55以上の元素を主として含みX線を通し難い物質によって形成されており前記X線管を覆うX線遮蔽部材と、
前記陰極に印加する高電圧を生成する昇圧回路と、を有しており、
前記陽極が接地されており、
前記昇圧回路は、自身の低電圧端子から高電圧端子にわたって複数の昇圧段が順次に接続されることによって形成されており、
前記昇圧回路は、自身の前記低電圧端子が前記X線管の陽極に対応し自身の前記高電圧端子が前記X線管の陰極に対応するように、前記X線管の側部領域に配置されており、
前記陰極から前記X線管の外部へ延びている導電部材が前記昇圧回路の高電圧端子に接続されており、
少なくとも前記X線管の陰極側の端部、当該陰極側の端部から延出する前記導電部材及び少なくとも前記昇圧回路の高電圧端子側の端部は、絶縁性樹脂を含むモールド材によってモールド成形されている
ことを特徴とする工業用X線発生装置。
【請求項2】
圧電トランスを含んでおり前記昇圧回路の低電圧端子に電力を供給するトランス回路と、
前記圧電トランスに適合した周波数の交流電力を前記トランス回路に供給する電源ドライバと、
を有することを特徴とする請求項1記載の工業用X線発生装置。
【請求項3】
前記電源ドライバ及び前記トランス回路は、前記X線管の前記陽極側の端部の近傍に配置されることを特徴とする請求項2記載の工業用X線発生装置。
【請求項4】
前記昇圧回路、前記トランス回路及び前記電源ドライバの動作を制御するコントローラをさらに有しており、
前記トランス回路は前記コントローラに隣接して配置される
ことを特徴とする請求項2又は請求項3記載の工業用X線発生装置。
【請求項5】
前記X線管が載置されるベースをさらに有しており、前記電源ドライバが当該ベース上に載置され、当該電源ドライバの上に前記トランス回路が載置され、当該トランス回路の上に前記コントローラが配置される
ことを特徴とする請求項4記載の工業用X線発生装置。
【請求項6】
前記陰極に対して所定幅の前記モールド材を介して電極が配置されることにより、前記陰極にコンデンサが接続されていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1つに記載の工業用X線発生装置。
【請求項7】
前記昇圧回路はコッククロフト・ウォルトン回路を有することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1つに記載の工業用X線発生装置。
【請求項8】
前記モールド材は原子番号55以上の元素を含む酸化物をフィラーとして含有することを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1つに記載の工業用X線発生装置。
【請求項9】
前記モールド材の熱伝導率が10W/(m・K)以上であることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1つに記載の工業用X線発生装置。
【請求項10】
前記陰極は電界放出に基づいて電子を放出することを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか1つに記載の工業用X線発生装置。
【請求項11】
前記複数の昇圧段の前記低電圧端子と前記高電圧端子との中間位置の電圧を測定する電圧測定回路を有し、
当該電圧測定回路の出力電圧は前記コントローラへ伝送されて制御のための情報として用いられる
ことを特徴とする請求項4記載の工業用X線発生装置。
【請求項12】
前記電源ドライバは、パルス幅変調を行うための信号であるPWM信号を出力するPWM信号発生部と、前記PWM信号に応じて電圧を発生する電源部とを有しており、
前記電源部は前記トランス回路の前段に設けられ、前記PWM信号発生部は前記コントローラの内部に設けられ、
前記コントローラでPWM信号を発生し、前記電源部でPWM信号に応じて電圧を発生する
ことを特徴とする請求項4記載の工業用X線発生装置。
【請求項13】
前記電源ドライバ及び前記コントローラが互いに重ねられて成る構造体が空間を隔てて前記X線管に並んで設けられており、
前記トランス回路は、前記空間内に設けられることにより前記構造体と前記X線管とを空間的に遮蔽する
ことを特徴とする請求項4記載の工業用X線発生装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−49123(P2012−49123A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−167813(P2011−167813)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000250339)株式会社リガク (206)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000250339)株式会社リガク (206)
【Fターム(参考)】
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