説明

工業織物用ポリアミドモノフィラメント、その製造方法および工業織物

【課題】ポリエステルモノフィラメントと交織してなる工業織物の少なくとも一部に使用した場合に、目ずれの発生を効果的に抑えることができるとともに耐摩耗性にも優れ、高強度で耐久性の高い織物を与えることができる工業織物用ポリアミドモノフィラメント、その製造方法および工業織物の提供。
【解決手段】ポリエステルモノフィラメントと交織してなる工業織物の少なくとも一部に使用するポリアミドモノフィラメントであって、硫酸相対粘度が3.8〜5.0のナイロン66からなり、毎分60℃で加熱昇温した際の熱収縮応力の最大値が0.25〜0.45cN/dtex、かつ熱収縮応力が最大となる時の温度が230〜260℃であり、屈曲摩耗特性試験における破断時の屈曲摩耗回数が20000回以上、かつ沸騰水収縮率が6.5〜15%である工業織物用ポリアミドモノフィラメント。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステルモノフィラメントと交織してなる工業織物の少なくとも一部に使用した場合に、目ずれの発生を効果的に抑えることができるとともに、耐摩耗性にも優れ、高強度で耐久性の高い織物を与えることができる工業織物用ポリアミドモノフィラメント、その製造方法およびこの工業織物用ポリアミドモノフィラメントを使用した工業織物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
合成樹脂モノフィラメントは、抄紙ワイヤー(紙漉き用の網)、抄紙プレスフェルト、抄紙ドライヤーカンバスなどの抄紙用織物、コンベヤベルトや脱水ベルトなどのベルト用織物、および各種ベルトプレス用フィルターなどのフィルター用織物のほか、各種工業織物の構成素材として従来から幅広く使用されている。
【0003】
そして、これら工業織物は、実際に使用される際に、いずれも走行中の駆動ロールや制御ロールなどと接触して摩耗することから、これら織物に使用される合成樹脂モノフィラメントには、優れた耐摩耗性が要求されている。
【0004】
特に、製紙業界においては、従来は酸性製紙が主に製造されていたが、紙の経日劣化の問題が顕著となったために、中性製紙への転換が盛んに行われるようになってきた。
【0005】
しかし、酸性製紙から中性製紙への転換に伴って、填料と呼ばれる充填剤に従来のタルクよりも硬い炭酸カルシュウムが使用されるようになったため、抄紙工程中に抄紙用織物がますます摩耗しやすくなり、特に抄紙用織物の構成素材にポリエステルモノフィラメントを使用した場合は、摩耗により織物の寿命が短くなるという問題を抱えていた。
【0006】
一般的に、抄紙用織物は、それを構成する経糸の耐摩耗性が織物の安定性とその寿命に大きく影響を及ぼし、経糸が摩耗すると抄紙用織物に寸法変化が生じるばかりか、経糸が摩耗切断すると抄紙用織物自体が切断して寿命が短くなる。
【0007】
そこで、抄紙用織物の耐摩耗性を改善するために、ポリエステルモノフィラメントよりも耐摩耗性に優れたポリアミドモノフィラメントを上緯糸や下緯糸の少なくとも一部に使用し、ポリエステルモノフィラメントとこのポリアミドモノフィラメントとを交織した抄紙用織物が既に実用化されている。
【0008】
しかし、従来のポリアミドモノフィラメントは、熱による影響を受けやすいために糸質が低下し、抄紙用織物の耐久性低下を招きやすかった。
【0009】
そこで、耐摩耗性に優れ、抄紙織物用として好適なポリアミドモノフィラメントとして、ナイロン6/66共重合体にヒンダードフェノール系化合物とビスアミド系化合物を添加した工業織物用ポリアミドモノフィラメント(例えば、特許文献1参照)やポリアミドにアイオノマーをブレンドした工業織物用ポリアミドモノフィラメント(例えば、特許文献2参照)が既に知られている。
【0010】
しかし、近年の製紙業界では、製紙スピードの高速化と填料の使用量の増大に伴って、これら工業織物用ポリアミドモノフィラメントを使用した抄紙用織物であっても十分な耐久性を維持することが難しくなりつつあり、抄紙用織物に使用する工業織物用ポリアミドモノフィラメントには更に優れた耐摩耗性が要求されるようになった。
【0011】
また、近年の抄紙用織物には、さらなる耐久性向上のために高粘度ポリエステルモノフィラメントが使用されるようになり、この高粘度ポリエステルモノフィラメントとポリアミドモノフィラメントとを交織して得られる抄紙用織物には、高温で熱セットすることが必要とされている。
【0012】
そして、高温での熱セットが必要となった結果、この熱セット時において、工業織物、特に抄紙用織物に目ずれが発生しやすくなるという新たな問題が生じたばかりか、ポリアミドモノフィラメントは、ポリエステルモノフィラメントとのナックル部における押付け力が弱いことに起因して、使用中の織物においても目ずれが発生しやすくなるため、織物の走行安定性が阻害されるばかりか、目ずれにより発生した皺が抄紙用織物の破壊を招き、抄紙用織物の寿命が短くなるという不具合をきたしていた。
【0013】
この様な状況のもと、従来よりも高い耐摩耗性を持ち、ポリエステルモノフィラメントと交織した際には目ずれが発生しにくい工業織物用ポリアミドモノフィラメントの開発がしきりに求められているのが実状である。
【特許文献1】特開2002−69748号公報
【特許文献2】特開2005−273112号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、ポリエステルモノフィラメントと交織してなる工業織物の少なくとも一部に使用した場合に、目ずれの発生を効果的に抑えることができるとともに耐摩耗性にも優れ、高強度で耐久性の高い織物を与えることができる工業織物用ポリアミドモノフィラメント、その製造方法およびこの工業織物用ポリアミドモノフィラメントを使用した工業織物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の目的を達成するために本発明によれば、ポリエステルモノフィラメントと交織してなる工業織物の少なくとも一部に使用するポリアミドモノフィラメントであって、硫酸相対粘度が3.8〜5.0のポリヘキサメチレンアジパミドからなり、毎分60℃で加熱昇温した際の熱収縮応力の最大値が0.25〜0.45cN/dtex、かつ熱収縮応力が最大となる時の温度が230〜260℃であり、JIS L−1095−9.10.2Bの規定に準じて測定した屈曲摩耗特性試験における破断時の屈曲摩耗回数が20000回以上、かつJIS L1013:1999−8.18の規定に準じて測定した沸騰水収縮率が6.5〜15%であることを特徴とする工業織物用ポリアミドモノフィラメントが提供される。
【0016】
なお、本発明の工業織物用ポリアミドモノフィラメントにおいては、JIS L−1013:1999−8.5の規定に準じて測定した引張強度が6.0〜8.0cN/dtexであり、かつ引張伸度が20〜50%であることがさらに好ましい条件として挙げられる。
【0017】
また、本発明の工業織物用ポリアミドモノフィラメントの製造方法は、硫酸相対粘度が3.8〜5.0のポリヘキサメチレンアジパミドを溶融紡糸・延伸するに際して、延伸温度を60〜220℃、かつ延伸倍率を4.0〜6.0倍とし、延伸に引き続いて、処理温度が5〜45℃、かつセット倍率が0.98〜1.05倍のセット処理を行うことを特徴とする。
【0018】
さらに、本発明の工業織物は、前記工業織物用ポリアミドモノフィラメントを構成素材の少なくとも一部に使用し、ポリエステルモノフィラメントと交織してなることを特徴とし、特に抄紙用織物である場合に、目ずれの発生が少なく、耐摩耗性に優れるなどの効果を遺憾なく発揮する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の工業織物用ポリアミドモノフィラメントによれば、以下に説明する通り、ポリエステルモノフィラメントと交織してなる工業織物の少なくとも一部に使用した場合に、目ずれの発生を効果的に抑えることができるとともに耐摩耗性にも優れ、高強度で耐久性の高い工業織物、特に抄紙用織物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
【0021】
本発明の工業織物用ポリアミドモノフィラメントは、硫酸相対粘度が3.8〜5.0のポリヘキサメチレンアジパミドからなり、毎分60℃で加熱昇温した際の前記ポリアミドモノフィラメントの熱収縮応力の最大値が0.25〜0.45cN/dtex、かつ熱収縮応力が最大となる時の温度が230〜260℃であり、JIS L−1095−9.10.2Bの規定に準じて測定した屈曲摩耗特性試験における破断時の往復摩耗回数が20000回以上、かつJIS L1013:1999−8.18の規定に準じて測定した沸騰水収縮率が6.5〜15%であることを特徴とする。
【0022】
従来、ポリアミド系樹脂としては、ポリカプラミド(以下、ナイロン6と言う)、ポリヘキサメチレンセバカミド、ポリヘキサメチレンドデカミド、ポリ(カプラミド/ヘキサメチレンアジパミド)共重合体およびポリ(カプラミド/ラウラミド)共重合体などが知られているが、ポリアミド系樹脂の中でも融点が高く、耐熱性および寸法安定性に優れているとの理由から、本発明の工業織物用ポリアミドモノフィラメントにはポリヘキサメチレンアジパミド(以下、ナイロン66という)が使用される。
【0023】
また、本発明の工業織物用ポリアミドモノフィラメントに使用されるナイロン66は、その硫酸相対粘度が3.8〜5.0であることが必要であり、好ましくは4.0〜4.6、さらには4.0〜4.2である。
【0024】
硫酸相対粘度が上記範囲を下回ると、高強度かつ耐摩耗性の高い工業織物用ポリアミドモノフィラメントが得られにくくなるばかりか、工業織物用ポリアミドモノフィラメントを溶融紡糸する際に、糸切れや原料の押し込み不良等のトラブルを招きやすく、さらに得られた工業織物用ポリアミドモノフィラメントを抄紙用織物に使用した場合には、目ずれが発生しやすくなる。逆に硫酸相対粘度が上記範囲を上回ると、ナイロン66樹脂原料の品質バラツキが大きくなり、この原料を使用して溶融紡糸するに際しては、糸切れや原料の押し込み不良等のトラブルを招きやすくなる。
【0025】
ここで、硫酸相対粘度とは、JIS K6810に準じて、2.5gのポリアミド系樹脂試料を25ccの98%硫酸に溶解し、温度25℃の条件下でオストワルド粘度計を使用して測定したものである。
【0026】
なお、本発明の工業織物用ポリアミドモノフィラメントには、その目的に応じて各種添加剤を含有せしめることもでき、添加剤としては、例えば、各種抗酸化剤、耐光剤、難燃剤、およびヨウ化銅、ヨウ化カリウム、2−メルカプトベンズイミダゾールなどの老化防止剤、酸化チタン、酸化珪素、硫酸バリウム、クレイ、タルク、カーボンブラックなどの無機粒子・顔料類、フタロシアニン金属系、コバルト青などの各種顔料、およびステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸バリウムなどのステアリン酸金属塩類、ε−カプロラクタム、エチレン・ビスステアリルアミド、ステアリン酸、メタ珪酸カルシウム、含水珪酸マグネシウム、アミノシラン、およびメラミンシアヌレートなどを挙げることができる。
【0027】
次に、本発明の工業織物用ポリアミドモノフィラメントの熱収縮応力の最大値は0.25〜0.45cN/dtexであることが必要であり、好ましくは0.30〜0.40cN/dtexである。
【0028】
また、熱収縮応力が最大となる時の温度は230〜260℃であることが必要であり、好ましくは240〜255℃である。
【0029】
熱収縮応力の最大値とその時の温度が上記範囲を下回る場合は、製織した工業織物を熱セットする際に、織物の表面修正が難しくなるばかりか、交織したポリエステルモノフィラメントとのナックル部における押付け力が不足し、目ずれが発生しやすくなるため好ましくない。
【0030】
ここで、熱収縮応力とは、ポリミドモノフィラメントに初荷重10gを掛け、毎分60℃で加熱昇温した際に生じるポリミドモノフィラメントの収縮力(cN)を測定し、単位繊度(dtex)当たりに換算したものである。そして、熱収縮応力の最大値およびその時の温度は、温度と熱収縮応力との関係を示すチャートから読み取ったピーク時の熱収縮応力と温度である。
【0031】
また、本発明の工業織物用ポリアミドモノフィラメントは、屈曲摩耗特性試験における破断時の屈曲摩耗回数が20000回以上であることが必要であり、好ましくは30000〜70000回である。
【0032】
工業織物用ポリアミドモノフィラメントの屈曲摩耗回数が上記範囲を下回ると、耐摩耗性に欠けた工業織物となりやすいため好ましくない。
【0033】
ここで、屈曲摩耗回数とは、JIS L−1095:1999−9.10.2B法に準じ、屈曲摩耗特性試験により測定された値であり、具体的には、固定された直径1.0mmの摩擦子(硬質鋼線(SWP−A))の上に接触させた工業織物用ポリアミドモノフィラメントを、工業織物用ポリアミドモノフィラメントが摩擦子の左右各55°の角度で屈曲するように設けられた2個のフリーローラー(2個のローラー間の距離100mm)の下に掛け、さらに別の1個のフリーローラーの上を介して、工業織物用ポリアミドモノフィラメントの一端に0.196cN/dtexの荷重をかけてセットし、速度120往復/分かつ往復ストローク25mmで工業織物用ポリアミドモノフィラメントを摩擦子に往復接触させて、工業織物用ポリアミドモノフィラメントが破断するまでの回数である。
【0034】
さらに、本発明の工業織物用ポリアミドモノフィラメントは、JIS L1013:1999−8.18の規定に準じて測定した沸騰水収縮率が6.5〜15%であることが必要であり、好ましくは8.5〜12%である。
【0035】
工業織物用ポリアミドモノフィラメントの沸騰水収縮率が上記範囲を下回ると、熱セット後の抄紙用織物の納まりが悪くなるばかりか、目ずれ等も発生しやすくなり、逆に上記範囲を上回る場合は、寸法安定性に欠けた抄紙用織物が得られやすいからである。
【0036】
さらにまた、本発明の工業織物用ポリアミドモノフィラメントを使用した工業織物は、120〜200℃の温度で容易に熱セットできるため、従来の工業織物のように高温で熱セットする必要もなく、高温で熱セットすることによる目ずれを必然的に解消できるという利点がある。
【0037】
なお、本発明の工業織物用ポリアミドモノフィラメントにおいては、さらに強度および耐摩耗性などの耐久性の高い工業織物が得られるとの理由から、JIS L−1013:1999−8.5の規定に準じて測定した引張強度が6.0〜8.0cN/dtex、特に6.5〜7.7cN/dtexであり、また引張伸度が20〜50%、特に20〜30%であることが好ましい。
【0038】
本発明の工業織物用ポリアミドモノフィラメントは、例えば、次の方法で製造することができる。
【0039】
まず、ナイロン66樹脂を先端に計量用ギヤポンプとスピンブロックを有するエクストルダー型紡糸機に供給し、ナイロン66樹脂の融点より20〜60℃高い温度でナイロン66樹脂を溶融混練した後、その溶融物を紡糸口金から紡出し、冷却固化して未延伸糸を得る。
【0040】
次に、得られた未延伸糸を、二段階で延伸するが、所望の熱収縮特性や耐摩耗性および沸騰水収縮特性を得るために、一段目の延伸を比較的低い温度と高倍率で行い、二段目の延伸は、安定な延伸性を得るために一段目の延伸温度よりも高い温度で、総合延伸倍率が4.0〜6.0倍になるように行う。
【0041】
これは、延伸倍率が低すぎると得られる工業織物用ポリアミドモノフィラメントに所望の熱収縮特性が得られにくくなり、逆に高すぎると糸切れの原因となりやすいためであり、より良好な熱収縮特性を得るためには、さらに4.5〜5.5倍であることが好ましい。
【0042】
また、延伸温度が低すぎると延伸時に高い張力が掛かり、糸切れの原因となりやすく、逆に高すぎるとナイロン66樹脂の融点に近くなり、延伸浴内で糸切れが発生しやすくなるため、延伸温度を60〜220℃とすることが必要であり、さらには70〜200℃とすることが好ましい。
【0043】
ここで、延伸工程で使用する熱媒体としては、工業織物用ポリアミドモノフィラメントの表面から容易に除去することができ、かつ工業織物用ポリアミドモノフィラメントに対して物理的、化学的な変化を本質的に与えることがない物質であれば如何なるものをも使用することができるが、本発明は比較的低い温度で一段目の延伸を行うことから、経済的には温水浴または加熱空気浴が好適である。また、二段目の延伸工程で使用する熱媒体としては、一般的に、高沸点の不活性液体を満たした液体浴、空気炉、不活性ガス炉、赤外線炉および高周波炉などの加熱装置が好適である。
【0044】
二段階で延伸された工業織物用ポリアミドモノフィラメントは、延伸工程で得られた所望の熱収縮特性をさらに向上させ、かつそれを保持するために、常温でのセット処理に供されるが、このセット処理の温度は5〜45℃とすることが必要であり、さらには20〜40℃とすることが好ましい。
【0045】
このセット温度条件は、所望の熱収縮特性や耐摩耗性および沸騰水収縮特性を得るために必要な条件であり、高温条件でセット処理を行う従来の工業織物用ポリアミドモノフィラメントとは異なる特異的な製造条件である。
【0046】
また、セット倍率が低すぎると、得られる工業織物用ポリアミドモノフィラメントの沸騰水収縮率が低くなるため、抄紙用織物の熱セット後の納まりが悪くなるばかりか、目ずれ等も発生しやすくなり、逆にセット倍率が高すぎると、糸切れの原因となりやすいため、セット倍率を0.98〜1.05倍とすることが必要であり、さらには0.99〜1.01倍とすることが好ましい。
【0047】
ここで、セット処理工程で使用する加熱装置としては、上述した二段目の延伸と同様な高沸点の不活性液体を満たした液体浴、空気炉、不活性ガス炉、赤外線炉および高周波炉などを挙げることができる。
【0048】
そして、セット処理された工業織物用ポリアミドモノフィラメントは、その表面に必要に応じて油剤が付与され、その後巻具に巻き取られる。
【0049】
こうして得られた本発明の工業織物用ポリアミドモノフィラメントは、従来のポリアミドモノフィラメントにはない熱収縮特性、耐摩耗性および沸騰水収縮特性を有するため、この工業織物用ポリアミドモノフィラメントを、ポリエステルモノフィラメントと交織してなる工業織物の少なくとも一部に使用した場合には、従来の工業織物用ポリアミドモノフィラメントを使用した場合に比べて、目ずれの発生を効果的に抑えることができるとともに耐摩耗性にも優れ、高強度で耐久性の高い工業織物が得られるのである。
【0050】
また、本発明の工業織物用ポリアミドモノフィラメントとポリエステルモノフィラメントとを交織した工業織物は、抄紙用織物だけではなく、コンベヤベルトや脱水ベルトなどのベルト用織物やベルトプレス用フィルターなどのフィルター用織にも使用することもでき、得られたこれらの各種工業織物は、その織面の熱修正を容易に行うことができるとともに、目ずれが発生しにくく安定した織面を保持することが可能であり、さらに耐摩耗性に優れるなどの効果を遺憾なく発揮する。
【0051】
なお、本発明の工業織物用ポリアミドモノフィラメントは、一本の連続糸であるが、必要に応じて複数本合わせて撚糸・熱セットしたもの、および単糸を捻って熱セットしたものであってもよい。
【0052】
また、本発明の工業織物用ポリアミドモノフィラメントの断面形状については、その用途に応じて適宜選定することができ、特に限定されるものではないが、例えば、丸、楕円、3角、T、Y、H、+、5葉,6葉,7葉,8葉などの多葉形状、正方形、長方形、菱形、繭型および馬蹄型などを挙げることができ、また、これらの形状を一部変更したものであってもよい。
【0053】
さらにまた、本発明の工業織物用ポリアミドモノフィラメントの直径についても、その用途に応じて適宜選定することができ、特に限定されるものではないが、例えば、工業織物用途としては、直径0.10〜1.00mmのものが主に使用される。
【実施例】
【0054】
以下、実施例を挙げて本発明の工業織物用ポリアミドモノフィラメントをさらに詳細に説明する。
【0055】
なお、実施例における硫酸相対粘度、融点、熱収縮応力、引張強伸度、沸騰水収縮率、屈曲摩耗回数、製糸工程における操業性、織物の目ずれ評価および耐摩耗性評価は次の方法で行った。
【0056】
[硫酸相対粘度(ηr)]
JIS K6810に準じて、2.5gのポリアミド系樹脂試料を2.5ccの98%硫酸に溶解し、温度25℃の条件下でオストワルド粘度計を使用して測定した。
【0057】
[熱収縮応力の最大値とその温度]
島津製作所製熱機械分析装置TMA−60を使用して、ポリミドモノフィラメントに初荷重10gを掛け、毎分60℃で加熱昇温した際に生じるポリミドモノフィラメントの熱収縮応力(cN/dtex)を測定した。そして、温度と熱収縮応力との関係を示すチャートから、ピーク時の熱収縮応力と温度を読み取った。なお、熱収縮応力(cN/dtex)は、熱により生じるポリミドモノフィラメントの収縮力(cN)を単位繊度(dtex)当たりに換算したものである。
【0058】
[引張強度および引張伸度]
JIS L−1013:1999−8.5準じて、試長250mm、引張速度300mm/分の条件で破断時の引張強度(cN/dtex)および引張伸度(%)を測定した。なお、引張強度は、測定した引張強さ(N)を測定試料の単位繊度(dtex)当たりに換算したものである。
【0059】
[繊度]
JIS L1015:1999の8.5.1のa)A法に準じて測定した。
【0060】
[沸騰水収縮率]
JIS L1013:1999−8.18収縮率の規定に準じて測定した。
【0061】
[屈曲摩耗回数]
JIS L−1095:1999−9.10.2B法に準じ、固定された直径1.0mmの摩擦子(硬質鋼線(SWP−A))の上に接触させたポリアミドモノフィラメントを、ポリアミドモノフィラメントが摩擦子の左右各55°の角度で屈曲するように設けられた2個のフリーローラー(2個のローラー間の距離100mm)の下に掛け、さらに別の1個のフリーローラーの上を介して、ポリアミドモノフィラメントの一端に0.196cN/dtexの荷重をかけてセットし、速度120往復/分かつ往復ストローク25mmでポリアミドモノフィラメントを摩擦子に往復接触させて、同一試料につき各10本のポリアミドモノフィラメントについて、破断するまでの回数を測定し、その平均値を屈曲摩耗回数とした。なお、屈曲摩耗回数が大きいほど耐摩耗性に優れていることを示す。
【0062】
[操業性]
連続押出し紡糸を行う際の状況を観察し、糸切れや原料の紡糸機への押し込み安定性から次の3段階で評価した。
○:全く問題なく、至って良好であった、
△:糸切れがややあったが操業可能であった、
×:糸切れや原料の押し込み不良が多発するため操業性が困難であった。
【0063】
[織物の実用評価]
経糸に直径0.150mmのポリエチレンテレフタレート(以下、PETと言う)モノフィラメントを使用し、上緯糸に直径0.170mmPETモノフィラメントと各実施例および比較例で得られた直径0.130mmの工業織物用ポリアミドモノフィラメント、さらに下緯糸に直径0.200mmのPETモノフィラメントおよび直径は異なるが各実施例および比較例と同じ条件で製造した直径0.200mmの工業織物用ポリアミドモノフィラメントを使用して無端状2.5重織の織物を製織し、さらにこの織物を190℃で熱セットして目付800g/mの抄紙ワイヤーを作製した。
【0064】
まず、抄紙ワイヤーの目ずれ評価については、得られた抄紙ワイヤー1mを目視で外観(筋、縞、段)検査し、目ずれの程度を次の5段階で評価した。なお、4以上を外観品位が良好な水準とする。
5:筋、縞、段が判らない、
4:角度によっては筋、縞、段が認められる、
3:角度とは無関係に、僅かに筋、縞、段が認められる、
2:一目で筋、縞、段が判別できる、
1:筋、縞、段の発生が著しい。
【0065】
さらに、得られた抄紙ワイヤーを緯糸方向に10mm、経糸方向に100mm切断し、幅10mm、長さ100mmの耐摩耗性評価用の試料片を作成した。
【0066】
なお、ここで試料片の抄紙ワイヤーの駆動ロールと接触する側の面をA面、抄紙と接触する側の面をB面とする。
【0067】
そして、試料片のA面が直径150mmのセラミック製円筒表面に接触するように、試料片の一端を固定し、さらに試料片のもう片方の端に0.22cN/dtexの荷重を掛けて、試料片を耐摩耗性評価機器にセットした。
【0068】
その後、試料片のB面に、炭酸カルシウム粉末(三共製薬(株)製、エスカロン(登録商標)、♯8000)を0.5%含む中性紙抄紙用填料(液温30±5℃)を0.6リットル/分で滴下しながらセラミック製円筒を1500rpmで回転させ、試料片が切断するまでの時間を測定した。試料片の切断時間が長い程、耐摩耗性に優れた織物であることを示す。
【0069】
[実施例1]
ポリアミド系樹脂としてナイロン66(BASF(株)社製、“ウルトラミッド”A4、硫酸相対粘度ηr=4.06)を使用した。
【0070】
このナイロン66チップを1軸エクストルダー型紡糸機に供給し、溶融混練した後、計量用ギヤポンプを介して、口金孔から溶融押出し、冷却水槽に導き冷却固化した。
【0071】
次に、冷却固化した未延伸糸を、80℃の熱水浴中で一段目の延伸をし、引き続き180℃の熱風浴中で二段目の延伸を行い、総合延伸倍率4.80倍の延伸を行った。
【0072】
そしてさらに、30℃の常温風浴中で0.99倍にセット処理することにより、直径約0.130mmの工業織物用ポリアミドモノフィラメントを得た。
【0073】
[実施例2〜4]
延伸条件、セット条件を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同じ硫酸相対粘度のナイロン66を使用して業織物用ポリアミドモノフィラメントを得た。
【0074】
[実施例5〜7]
ポリアミド系樹脂を、実施例1〜4で使用したナイロン66とは硫酸相対粘度の異なるナイロン66(BASF(株)社製、“ウルトラミッド”A5、硫酸相対粘度ηr=4.69)に変更したこと以外、は実施例1〜3と同じ条件で工業織物用ポリアミドモノフィラメントを得た。
【0075】
[比較例1]
ポリアミド樹脂を、実施例1〜7で使用したナイロン66とは硫酸相対粘度の異なるナイロン66(東レ(株)社製、“アミラン”ポリアミドチップM3001、硫酸相対粘度ηr=2.91)に変更したこと以外は、実施例1と同じ条件で工業織物用ポリアミドモノフィラメントを得た。
【0076】
[比較例2〜6]
延伸条件、セット条件を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同じ硫酸相対粘度のナイロン66を使用して業織物用ポリアミドモノフィラメントを得た。
【0077】
[比較例7]
ポリアミド樹脂を、ナイロン6(東レ(株)社製、“アミラン”ポリアミドチップM1041T、硫酸相対粘度ηr=4.40)に変更したこと以外は、実施例1と同じ条件で工業織物用ポリアミドモノフィラメントを得た。
【0078】
以上、実施例および比較例で得られた工業織物用ポリアミドモノフィラメントの各評価結果を表1に併せて示す。
【0079】
【表1】

【0080】
表1の結果から明らかなように、本発明の工業織物用ポリアミドモノフィラメント(実施例1〜7)は、熱収縮応力の最大値が0.25〜0.45cN/dtexかつその時の温度が230〜260℃であり、屈曲摩耗回数が20000〜70000回かつ沸騰水収縮率が6.5〜15%という特性を有するものであった。
【0081】
また、同じ製造条件であっても、硫酸相対粘度ηrが4.06のナイロン66を使用した工業織物用ポリアミドモノフィラメント(実施例1〜3)は、硫酸相対粘度ηrが4.69のナイロン66を使用した工業織物用ポリアミドモノフィラメント(実施例5〜7)に比べて耐摩耗性に優れ、沸騰水収縮率が高い工業織物用ポリアミドモノフィラメントであることが分かる。
【0082】
これに対し、本発明の条件を満たさない工業織物用ポリアミドモノフィラメント(比較例1〜7)は、熱収縮応力特性、耐摩耗性および沸騰水収縮性のうち少なくともいずれかが実施例1〜7の工業織物用ポリアミドモノフィラメントに比べて低いものであった。
【0083】
また、実施例1〜7で得られた工業織物用ポリアミドモノフィラメントを使用した抄紙用ワイヤーは、いずれも目ずれが発生しにくく、耐久性にも優れたものであることが表1の結果から分かる。
【0084】
これに対し、比較例1〜7で得られた工業織物用ポリアミドモノフィラメントを使用した抄紙用ワイヤーは、実施例1〜7の結果に比べて、目ずれが発生しやすいばかりか、耐久性に欠けたものであった。
【産業上の利用可能性】
【0085】
以上説明したように、本発明の工業織物用ポリアミドモノフィラメントは、従来のポリアミドモノフィラメントにはない熱収縮特性、耐摩耗性および沸騰水収縮特性を有するため、この工業織物用ポリアミドモノフィラメントを、ポリエステルモノフィラメントと交織してなる抄紙用織物の少なくとも一部に使用した場合には、従来の工業織物用ポリアミドモノフィラメントを使用した場合に比べて、目ずれの発生を効果的に抑えることができるとともに耐摩耗性にも優れ、高強度で耐久性の高い工業織物が得られるのである。
【0086】
また、本発明の工業織物用ポリアミドモノフィラメントとポリエステルモノフィラメントとを交織した工業織物は、抄紙用織物だけではなく、コンベヤベルトや脱水ベルトなどのベルト用織物やベルトプレス用フィルターなどのフィルター用織にも使用することもでき、得られたこれらの各種工業織物は、その織面の熱修正を容易に行うことができるとともに、目ずれが発生しにくく安定した織面を保持することが可能であり、さらに耐摩耗性に優れるなどの効果を遺憾なく発揮する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルモノフィラメントと交織してなる工業織物の少なくとも一部に使用するポリアミドモノフィラメントであって、硫酸相対粘度が3.8〜5.0のポリヘキサメチレンアジパミドからなり、毎分60℃で加熱昇温した際の熱収縮応力の最大値が0.25〜0.45cN/dtex、かつ熱収縮応力が最大となる時の温度が230〜260℃であり、JIS L−1095−9.10.2Bの規定に準じて測定した屈曲摩耗特性試験における破断時の屈曲摩耗回数が20000回以上、かつJIS L1013:1999−8.18の規定に準じて測定した沸騰水収縮率が6.5〜15%であることを特徴とする工業織物用ポリアミドモノフィラメント。
【請求項2】
JIS L−1013:1999−8.5の規定に準じて測定した引張強度が6.0〜8.0cN/dtexであり、かつ引張伸度が20〜50%であることを特徴とする請求項1に記載の工業織物用ポリアミドモノフィラメント。
【請求項3】
硫酸相対粘度が3.8〜5.0のポリヘキサメチレンアジパミドを溶融紡糸・延伸するに際して、延伸温度を60〜220℃、かつ延伸倍率を4.0〜6.0倍とし、延伸に引き続いて、処理温度が5〜45℃、かつセット倍率が0.98〜1.05倍のセット処理を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の工業織物用ポリアミドモノフィラメントの製造方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の工業織物用ポリアミドモノフィラメントを構成素材の少なくとも一部に使用し、ポリエステルモノフィラメントと交織してなることを特徴とする工業織物。
【請求項5】
抄紙用織物であることを特徴とする請求項4に記載の工業織物。

【公開番号】特開2007−204897(P2007−204897A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−27950(P2006−27950)
【出願日】平成18年2月6日(2006.2.6)
【出願人】(000219288)東レ・モノフィラメント株式会社 (239)
【Fターム(参考)】