説明

工程紙基材用キャスト塗被紙

【課題】合成皮革製造用などの工程紙の基材として使用されるキャスト塗被紙において、光沢発現性に優れ、耐溶剤性が良好で繰り返しの使用性に優れたキャスト塗被紙を提供すること。
【解決手段】原紙の少なくとも一方の面に、顔料及び接着剤を主成分とするキャスト塗工層を設けたキャスト塗被紙であって、顔料100重量部当たり有機顔料を1〜20重量部配合することを特徴とする工程紙基材用のキャスト塗被紙。キャスト塗工層は凝固法で形成されることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成皮革製造等において繰り返し使用される工程紙の基材となるキャスト塗被紙に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般のコート紙より高い白紙光沢度と、鏡面様の面状を有するキャスト塗被紙は、用途別に大別すると、(1)ポスター、カタログ、カレンダー、パンフレット等の一般印刷用途、(2)インクジェットプリンター用紙に使用されるインクジェット用途、(3)高級ショッピングバッグやブックカバー等に使用される袋用途、(4)粘着ラベルの上紙として使用される粘着ラベル用途、(5)塩化ビニルレザーやウレタンレザーの工程紙の原紙として使用される工程紙用途等に分けられる。
【0003】
キャスト塗被紙は高い白紙光沢度が要求される他、求められる品質はそれぞれの用途で異なり、オフセット印刷等に使用される一般印刷用途では、面状や印刷表面強度、インキ乾燥性等印刷適性が要求される。インクジェット用途では、インクの吸収性、画像再現性等各種インクジェット適性が要求される。袋用途では、特に強い紙力と印刷表面強度が要求される。粘着ラベル用途では、凸版印刷が主体であり一般に高い表面強度は必要とはされないが、ピンホールのない良好な面状や耐水性(耐ブロッキング性)が要求される。また、印刷後巻き取った状態で印刷面のインキが剥離紙に付着し取られるケースがあるためインキ乾燥性が速いことが望まれる。工程紙用途では、チカチカ(ピンホール様の微小な凹状欠陥)のない良好な面感や耐溶剤性等が要求される。
【0004】
工程紙は、塩化ビニルレザーやウレタンレザー等の合成皮革やセラミックシート、シリコンゴム、マーキングフィルム等の製造工程において、ウレタンペーストや塩化ビニルペーストなどをキャスティングする剥離用シートとして用いられ、クラフト紙、上質紙、コート紙、プラスチックフィルム等の基材にアルキド系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂等の剥離層を有している。
【0005】
例えば、合成皮革の製造は、工程紙上にウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂などの合成樹脂を塗工し、乾燥・固化した後に必要に応じて接着剤を介して固化した合成樹脂層と基布とを貼合し、最終的に合成皮革を工程紙から剥がして造られる。工程紙は、これらの一連の工程を繰り返す使用に耐えうるものでなければならない。
【0006】
工程紙の基材として、上質紙、コート紙、キャスト塗被紙の他に、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのプラスチックフィルム、合成紙、あるいは金属箔なども使用されるが、リサイクル性に優れる点や、合成皮革の加工適性として重要である耐熱性に優れる点から、天然パルプを使用した紙基材のものが好まれている。紙基材の中でも、高い白紙光沢度と、鏡面様の面状を有するキャスト塗被紙は、キャスト面を転写することで高級感のあるエナメル調の合成皮革が得られるため、工程紙の基材として需要が増している(特許文献1、非特許文献1参照)。
【0007】
合成皮革の工程紙の基材としてキャスト塗被紙に求められる品質は、光沢ムラやチカチカ(ピンホール様の微小な凹状欠陥)のない良好な面感と、ポリウレタンや塩化ビニルペースト中に含まれるジメチルホルムアルデヒド(DMF)やメチルエチルケトン(MEK)、トルエンなどの溶剤に対するバリア性や堅牢性(以下「耐溶剤性」ということがある。)である。近年、合成皮革の厚物化に伴い、キャスト層の剥離による工程回数の減少、剥離されたキャスト層の転移による合成皮革の外観不良が問題となっている。この原因は、合成樹脂ペースト中に含まれる溶剤が合成皮革側より抜け難くなり、工程紙側の塗工層が劣化しやすいため、キャスト層が剥離すると考えられている。この問題を解決するために、工程紙の基材としてのキャスト塗被紙は、耐溶剤性の向上が大きな課題となっている。
【0008】
そこで、耐溶剤性を向上させるために、例えば、接着剤としてゲル含量が85重量%以上であるスチレン・ブタジエン系共重合体ラテックスを使用するキャスト塗工紙が提案されている(特許文献2参照)。さらに、耐溶剤性を向上させるために、接着剤としてポリアクリル酸―ポリビニルアルコールの共重合体を使用するキャスト塗工紙が提案されている(特許文献3参照)。しかしながら、これら従来の塗工紙は、要求される耐溶剤性やキャスト面感を満足するには至っていない。
【0009】
また、工程紙の光沢度は、エナメル調合成皮革の光沢度に直接影響するため、アルキド系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂等の剥離層を塗布した際の光沢度発現性を向上させることが大きな課題となっている。白紙光沢および印刷適性に優れたキャスト塗被紙として、塗被組成物中に空隙率が45%以上の中空プラスチックピグメントを含有することが提案されている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−55894号公報
【特許文献2】特開2005−97781号公報
【特許文献3】特許第4210313号公報
【特許文献4】特開平9−31891号公報
【非特許文献1】特殊機能紙 2001、p74〜78、紙業タイムズ社発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以上のような状況に鑑み、本発明は、工程紙、特に合成皮革製造用の工程紙の基材として使用されるキャスト塗被紙において、工程紙の光沢発現性に優れ、溶剤に対するバリア性や堅牢性が良好で繰り返しの使用性に優れたキャスト塗被紙を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、上記の課題について鋭意研究を重ねた結果、キャスト塗工層に有機顔料を使用することによって、課題を解決できることを見出し本発明を完成するに至った。詳しくは、本発明は、原紙の少なくとも一方の面に、顔料及び接着剤を主成分とするキャスト塗工層を設けたキャスト塗被紙であって、顔料100重量部当たり有機顔料を1〜20重量部配合することを特徴とする工程紙基材用のキャスト塗被紙に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、工程紙、特に合成皮革製造用の工程紙の基材として適したキャスト塗被紙として、光沢発現性に優れ、溶剤に対するバリア性や堅牢性が良好で繰り返しの使用性に優れるとともに、キャスト面感や操業性にも優れたバランスの良いキャスト塗被紙が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、原紙の少なくとも一方の面に、顔料及び接着剤を主成分とするキャスト塗工層を設け、顔料として有機顔料を使用する。有機顔料としては、プラスチックピグメント、尿素−ホルマリン樹脂、スチレン−メタクリル酸共重合樹脂、ポリスチレン樹脂、塩化ビニリデン等が挙げられる。中でも、光沢発現性、耐溶剤性に優れることから、プラスチックピグメントが好ましい。プラスチックピグメントとしては、顔料内に空隙のない密実型、顔料内に空隙を有する中空型、またはコア−シェル型等を必要に応じて単独または2種類以上混合して使用することができる。キャストドラム上で溶融させ、皮膜を形成し耐溶剤性や光沢発現性を発現させる上では、熱効率に優れた密実型であることがより好ましい。
【0015】
本発明において、キャスト塗工層にプラスチックピグメントなどの有機顔料を使用することにより優れた効果が得られる理由は明らかではないが、キャスト塗工層を形成させる場合、後述の接着剤として使用されるカゼインやスチレン・ブタジエン系共重合体ラテックス等は、100nm以下の微粒子であるため乾燥によるマイグレーションの影響を受けやすく、原紙内部に移動することになり、接着剤の効果が低くなる。これに対し、本発明で使用されるプラスチックピグメントは、カゼインやスチレン・ブタジエン系共重合体ラテックスに比べて粒子が比較的大きく、原紙内部に移動することなく塗工層内に留まって、キャスト塗工層の機能を維持すると考えられる。
【0016】
また、本発明の有機顔料は、顔料100重量部に対して1〜20重量部配合する。より好ましくは3〜10重量部である。1重量部未満の場合、塗被紙の耐溶剤性に劣り、20重量部を超える場合、キャストドラムからの剥離性が低下し、ドラムピックが発生し、面感が悪化する。
【0017】
有機顔料の重量平均粒子径は、100〜2000nmが好ましく、より好ましくは200〜1200nmである。粒子径が小さすぎると乾燥によるマイグレーションの影響で、原紙内部に移動することになり、結果として塗被紙の耐溶剤性が低下し、逆に多すぎると塗被紙の白紙光沢が低下する。本発明における重量平均粒子径の値は、透過型電子顕微鏡を用いて、有機顔料粒子200個の粒子径を測定して、その重量平均(nm)から求める。
【0018】
本発明の有機顔料を構成する共重合体のガラス転移温度(Tg)は、60〜120℃が好ましく、より好ましくは80〜100℃ である。Tgが低すぎるとキャストドラムに貼りつき、操業上のトラブルとなり、Tgが高すぎる場合、皮膜の形成が不十分となり、耐溶剤性や堅牢性が低下する。
【0019】
本発明の有機顔料の構成成分は、共役ジエン単量体、芳香族ビニル単量体、エチレン性不飽和カルボン酸単量体及びこれらと共重合可能な他の単量体よりなる単量体混合物を乳化共重合して得られるものである。
【0020】
共役ジエン単量体としては、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−エチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン及びクロロプレン等を挙げることができる。これらは単独で、又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。なかでも、1,3−ブタジエンが好適である。共役ジエン単量体の使用量は、全単量体の5〜25重量% 、好ましくは8〜20重量%である。この使用量が少なすぎると塗被紙の白紙光沢および表面強度に劣り、逆に多すぎると塗被紙のキャストドラムからの剥離性が低下する。
【0021】
芳香族ビニル単量体としては、スチレン、α − メチルスチレン、p − メチルスチレン、ヒドロキシメチルスチレン等が挙げられる。これらは単独で、又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。なかでもスチレンが好適である。芳香族ビニル単量体の使用量は、全単量体の50〜94.5重量% 、好ましくは65〜85重量%である。この使用量が少ないと塗被紙の塗被紙のキャストドラムからの剥離性が低下し、逆に多いと塗被紙の白紙光沢および表面強度に劣る。
【0022】
エチレン性不飽和カルボン酸単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などの不飽和モノカルボン酸; フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、ブテントリカルボン酸などの不飽和多価カルボン酸; マレイン酸モノエチル、イタコン酸モノメチルなどのエチレン性不飽和多価カルボン酸の部分エステル化物などが挙げられる。これらのエチレン性不飽和カルボン酸単量体はアルカリ金属塩又はアンモニウム塩として用いることもできる。これらのエチレン性不飽和カルボン酸単量体は、単独で、又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。エチレン性不飽和カルボン酸単量体の使用量は、全単量体の0.5 〜10重量% 、好ましくは1〜5重量%である。この使用量が少なすぎると、有機顔料の製造時のコロイド安定性が低下して凝集物が多量に発生したり、塗被紙の表面強度が低下したりする。逆にこの使用量が多すぎると、塗被紙の表面強度が低下する。
【0023】
上記の単量体と共重合可能なその他の単量体としては、( メタ) アクリル酸メチル、( メタ) アクリル酸エチル、( メタ) アクリル酸プロピル、( メタ) アクリル酸ブチル、( メタ) アクリル酸− 2 − エチルヘキシル、( メタ) アクリル酸トリフルオロエチル、( メタ) アクリル酸テトラフルオロプロピル、マレイン酸ジブチル、フマル酸ジブチル、マレイン酸ジエチル、( メタ) アクリル酸メトキシメチル、( メタ) アクリル酸エトキシエチル、( メタ) アクリル酸メトキシエトキシエチル、( メタ) アクリル酸シアノメチル、( メタ) アクリル酸2 − シアノエチル、アクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸グリシジル等のエチレン性不飽和カルボン酸エステルが挙げられる、
【0024】
これらの単量体のうち、芳香族ビニル単量体の含有量は、全単量体の80〜100重量% 、好ましくは85〜95重量%である。芳香族ビニル単量体の含有量が少なすぎると塗被紙の耐溶剤性が低下し、逆に多すぎると有機顔料の構造を維持することが困難となり、光沢発現性が低下する。
【0025】
上記の有機顔料の他、本発明のキャスト塗工層には、顔料として重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、カオリン、タルク、酸化チタン、ホワイトカーボン、サチンホワイト、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、石膏、水酸化アルミニウム、焼成カオリン、デラミネーテッドカオリン、シリカ、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、亜硫酸カルシウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウムなどの無機顔料を1種以上使用することもできる。
【0026】
本発明において、キャスト塗工層に使用する接着剤として、スチレン・ブタジエン系共重合体ラテックス、カゼイン、大豆蛋白や合成蛋白、ポリビニルアルコール、酸化澱粉、エステル化澱粉等の澱粉類、カルボキシルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、スチレン−アクリル樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、尿素樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、ポリエチレン等の中から適宜選択して使用することができ、1種以上を併用しても良い。その配合量は、一概には言えないが、例えば、カゼインの場合は、顔料100重量部に対して1〜8重量部が好ましい。カゼインが少なすぎる場合、ドラムピックが発生し、操業性が低下し易く、カゼインが多すぎると、塗料濃度が低下するため塗工速度が低下し生産性が低下する。また、ドラム途中で剥離するため白紙光沢度が低下し易く、加えて、黄変し易いため、保存性が低下する。
【0027】
本発明において、キャスト塗工層に、分散剤、離型剤、増粘剤、保水剤、消泡剤、防腐剤、耐水化剤等の通常使用される各種助剤を含有させても良い。離型剤としてはステアリン酸カルシウム等脂肪酸若しくは高級脂肪酸の金属塩、脂肪酸アミド、高級アルコール、ワックスエマルジョン、ポリエチレンエマルジョン、ノニオン系界面活性剤等を使用することができる。
【0028】
本発明で使用するキャスト塗被紙の原紙としては、一般の印刷用塗被紙やキャスト塗被紙に用いられる坪量50〜400g/mの原紙であり、目的により上質紙、中質紙を選択して使用する。また、原紙の片面あるいは両面に、一般の顔料と接着剤を有する塗被層を設けた塗被紙も原紙として使用できる。
【0029】
原紙にキャスト塗被液を塗工する方式としては、ブレードコーター、エアナイフコーター、ロールコーター、コンマコーター、ブラッシュコーター、キスコーター、スクイズコーター、カーテンコーター、バーコーター、グラビアコーター等の公知の塗工機を用いた方法の中から適宜選択することができる。
【0030】
原紙への塗被量は、原紙の片面当たり固形分で10〜35g/mの範囲であるのが好ましい。塗被量が10g/m未満の場合は、耐溶剤性が低下し、35g/mより多い場合は乾燥負荷が大きくなるため塗工速度が低下し、生産性が低下する。
【0031】
原紙上に形成された塗工層の仕上げには、湿潤状態で加熱された鏡面ドラムに圧接・乾燥されるキャスト法が用いられる。キャスト法としては、塗被後の未乾燥状態のままキャストドラムに圧着する直接法、塗被後に凝固液で塗被層をゲル状態にして圧着する凝固法、あるいは塗被後一旦乾燥した塗被層に再湿潤液により可塑化して圧着する再湿潤法を用いることができる。
【0032】
上記の方法で製造したキャスト塗工層の表面は、工程紙の表面となる剥離層の品質に影響するため、光沢度が高いことと、光沢ムラやピンホールがないことが要求される。直接法の場合、基材の表面に光沢ムラやピンホールが発生しやすく、再湿潤法の場合、塗被層が一旦乾燥されるため、光沢度が発現しにくい。そのため、本発明のキャスト塗工層を形成させる方法としては、光沢発現性に優れ、光沢ムラやピンホールなどが発生し難く、良好な面感を得られる凝固法がより好ましい。
【0033】
また、光沢発現性と耐溶剤性を改善させる方法として、キャスト塗工層の有機顔料の皮膜性を最適化することが重要である。皮膜性を最適化する方法としては、有機顔料をキャスト塗工層の表面に分布させ、鏡面ドラムで圧接・乾燥させる際に、有機顔料を十分に溶融させることで最適化できる。直接法の場合、有機顔料が乾燥時のマイグレーションによりキャスト塗工層の深部に分布しやすい。再湿潤法の場合、有機顔料はキャスト塗工層の表面に分布するが、有機顔料が十分に溶融しないため、光沢度や耐溶剤性が発現しにくい。そのため、本発明のキャスト塗工層を形成させる方法としては、凝固法がより好ましい。
【0034】
本発明のキャスト塗被紙において、凝固法で用いる凝固液は、凝固剤を水溶液等に溶解したものであり、凝固剤としては、ギ酸、酢酸、リンゴ酸、イタコン酸、アクリル酸、クエン酸、乳酸、塩酸、硫酸、炭酸、ホウ酸等の酸、及びこれらのカルシウム、亜鉛、バリウム、鉛、カリウム、ナトリウム、カドミウム、アルミニウム等との塩、及び硼砂等を使用することができるが一般的であるが、ギ酸塩を使用することが好ましく、その中でもギ酸に酸化亜鉛を混合したものが耐溶剤性の面から好ましい。また凝固液中にも塗被液中に用いた各種離型剤を適宜使用することが可能である。
【0035】
本発明のキャスト塗被紙は、工程紙用の基材であり、工程紙の中でも特に合成皮革製造用の工程紙の基材に適しているが、セラミックグリーンシート、マジックフィルム等の工程紙の基材にも利用できる。
【0036】
工程紙の基材として、かくして得られたキャスト塗被紙を使用する場合、キャスト塗被紙のキャスト塗工層表面に、剥離剤を塗被して、剥離層を設ける。剥離剤としては、アルキド系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリル系樹脂等が使用できる。その塗被量は特に限定されるものではないが、0.1〜2.0g/mが好ましい。塗被量が少なすぎると剥離性が不足し、合成皮革から工程紙を剥がす時、紙むけや紙破れが起こる。塗被量が多すぎる場合、剥離性が過剰になり、工程中にレザー塗膜の浮きや剥がれが発生する。
【0037】
また、本発明では、オフセットインキを用いた方法により、キャスト塗被紙にアルキド系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂等の剥離層を形成した際の優劣を予測・評価することができる。まず、本発明では、キャスト塗被紙にオセット印刷したとき、印刷後のインキ転移量が溶剤に対するバリア性と相関することを見出した。すなわち、オフセット印刷後のインキ転移量が多いほど、キャスト塗被紙の溶剤に対するバリア性が高まって、剥離層の皮膜性が高くなり工程紙の耐溶剤性の効果を増すことができる。本発明においては、オフセット印刷用インキ0.6ccをRI印刷機にて印刷し、100秒後に未乾燥のインキを白紙のキャスト塗被紙に転写し、転写されたインキ濃度を測定したときの値が0.5以上であることが望ましい。また、本発明では、オフセット印刷後の印刷光沢度が光沢発現性と相関することを見出し、JIS−P8741に準じて測定される印刷光沢度(20°)が45以上であることが望ましい。
【0038】
さらに、本発明では、キャスト塗被紙を有機溶剤に浸透させた後にキャスト塗工層の堅牢性を測定することにより、合成皮革等の製造における工程紙の繰り返し使用性を予測評価できることを見出した。すなわち、キャスト塗被紙の溶剤に対する堅牢性を高くすることにより、工程紙の使用回数を増加させることができる。本発明においては、キャスト塗被紙をジメチルホルムアミド(DMF)に浸漬した後、乾燥してキャスト塗工層面に透明粘着テープを貼りゴムロールで20回擦り180度の方向に剥がしたとき、塗工層の白点取られが生じない最長の浸漬時間が30分以上であることが望ましい。
【実施例】
【0039】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に示すが、これらによって本発明は何等制約を受けるものではない。なお、例中の部及び%はそれぞれ重量部および重量%を示す。
【0040】
[原紙の製造]
原料として広葉樹晒クラフトパルプ100%のパルプを使用し、フリーネスを370mlとした。絶乾パルプ100部に対して、カチオン化澱粉を0.5部、サイズ剤0.2部、填料として軽質炭酸カルシウムを灰分10%となるよう内添した。長網抄紙機で抄造・乾燥後、サイズプレスを用いて、酸化澱粉100部とサイズ剤0.02部とを混合した塗工液を、片面あたり乾燥質量で1.0g/mとなるよう塗工した。更にブレードコーターで、クレー50部、軽質炭酸カルシウム50部、スチレン系のラテックス5部、酸化澱粉3部からなる塗被液を、片面13g/m塗布し、スーパーカレンダー(SC)で平坦化処理して、坪量150g/mの本発明のキャスト塗被紙原紙となる塗工紙を得た。
【0041】
[実施例1]
カオリン(商品名:ウルトラホワイト90、エンゲルハルド社製)50部、軽質炭酸カルシウム(商品名:タマパールTP121−7C、奥多摩工業社製)45部、有機顔料として密実型のプラスチックピグメント(商品名:Nipol V1004 ゼオン社製)5部の顔料スラリーを調製した。これに、接着剤としてアンモニアを用いて溶解したカゼイン水溶液(固形分濃度17%)6部及び、スチレン・ブタジエン系共重合体ラテックス(商品名:PA0330、日本A&L社製)16部を加え、離型剤(SN−3035、サンノプコ社製)2部配合し、最後に水、アンモニアを加えて固形分濃度51%、pHを10に調整した。また、凝固液として、固形分濃度10%のギ酸カルシウム水溶液を調製した。
上記の方法により調製した塗被液を用い、キャスト塗被紙原紙の片面に、乾燥塗被量が20g/mとなるように塗被液をロールコータで塗被し、湿潤状態にある塗被層を凝固液に接触させて塗被層を凝固させた後、直径750mmのプレスロールと表面温度105℃、直径3000mmのキャストドラムにプレス圧150kg/cmで圧着し、乾燥後テークオフロールでキャストドラムから剥離してキャスト塗被紙を得た。
【0042】
[実施例2]
軽質炭酸カルシウム(商品名:タマパールTP121−7C奥多摩工業社製)40部、有機顔料(商品名:Nipol V1004 ゼオン社製)10部で顔料スラリーを調製した以外は実施例1と同様にキャスト塗被紙を得た。
【0043】
[実施例3]
軽質炭酸カルシウム(商品名:タマパールTP121−7C、奥多摩工業社製)35部、有機顔料(商品名:Nipol V1004 ゼオン社製)15部で顔料スラリーを調製した以外は実施例1と同様にキャスト塗被紙を得た。
【0044】
[実施例4]
軽質炭酸カルシウム(商品名:タマパールTP121−7C、奥多摩工業社製)30部、有機顔料(商品名:Nipol V1004 ゼオン社製)20部で顔料スラリーを調製した以外は実施例1と同様にキャスト塗被紙を得た。
【0045】
[実施例5]
軽質炭酸カルシウム(商品名:タマパールTP121−7C、奥多摩工業社製)45部、有機顔料として中空型のプラスチックピグメント(商品名:AE851 JSR社製)5部で顔料スラリーを調製した以外は実施例1と同様にキャスト塗被紙を得た。
【0046】
[実施例6]
軽質炭酸カルシウム(商品名:タマパールTP121−7C、奥多摩工業社製)40部、有機顔料(商品名:AE851 JSR社製)10部で顔料スラリーを調製した以外は実施例1と同様にキャスト塗被紙を得た。
【0047】
[実施例7]
軽質炭酸カルシウム(商品名:タマパールTP121−7C、奥多摩工業社製)35部、有機顔料(商品名:AE851 JSR社製)15部で顔料スラリーを調製した以外は実施例1と同様にキャスト塗被紙を得た。
【0048】
[実施例8]
軽質炭酸カルシウム(商品名:タマパールTP121−7C、奥多摩工業社製)30部、有機顔料(商品名:AE851 JSR社製)20部で顔料スラリーを調製した以外は実施例1と同様にキャスト塗被紙を得た。
【0049】
[比較例1]
カオリン(商品名:ウルトラホワイト90、エンゲルハルド社製)50部、軽質炭酸カルシウム(商品名:タマパールTP121−7C、奥多摩工業社製)50部、有機顔料無配合で顔料スラリーを調製した以外は実施例1と同様にキャスト塗被紙を得た。
【0050】
[比較例2]
スチレン・ブタジエン系共重合体ラテックス(商品名:PA0330、日本A&L社製)を21部として調製した以外は比較例1と同様にキャスト塗被紙を得た。
【0051】
[比較例3]
スチレン・ブタジエン系共重合体ラテックス(商品名:PA0330、日本A&L社製)を26部として調製した以外は比較例1と同様にキャスト塗被紙を得た。
【0052】
[比較例4]
スチレン・ブタジエン系共重合体ラテックス(商品名:PA0330、日本A&L社製)を31部として調製した以外は比較例1と同様にキャスト塗被紙を得た。
【0053】
〔評価方法〕
以上のようにして製造した各種塗被紙について、以下のとおり評価を行った。結果は、表1に示した。
【0054】
1) 溶剤に対する堅牢性試験
試料をジメチルホルムアミド(DMF)に所定時間浸漬後、熱風乾燥した。得られた試料のキャスト面に、幅18mmの透明粘着テープ(商品名セロハンテープ)を貼り、ゴムロールで20回強く擦った後、180度の方向に剥がし、塗工層の白点取られを目視で評価した。塗工層の白点取られが生じない最長の溶剤浸漬時間が長いほど溶剤に対する堅牢性に優れ、繰り返し使用性に優れる。
◎=塗工層の白点取られが生じない最長の溶剤浸漬時間が60分以上
○=塗工層の白点取られが生じない最長の溶剤浸漬時間が30分以上60分未満
△=塗工層の白点取られが生じない最長の溶剤浸漬時間が15分以上30分未満
×=塗工層の白点取られが生じない最長の溶剤浸漬時間が15分未満
【0055】
2) 溶剤に対するバリア性試験オフセット印刷用インキ(ハイユニティ MZ:東洋インキ社製)0.6ccをRI印刷機にて印刷試験を行った。印刷100秒後に未乾燥のインキを白紙の塗工紙に転写し、転写されたインキ濃度を濃度計(SpectroEye:X−rite社製)にて測定した。インキ濃度が高いほどキャスト塗被紙はインキ中の溶剤に対するバリア性に優れる。
◎=RI印刷100秒に転写されたインキ濃度が2.0以上
○=RI印刷100秒に転写されたインキ濃度が0.5以上2.0未満
△=RI印刷100秒に転写されたインキ濃度が0.1以上0.5未満
×=RI印刷100秒に転写されたインキ濃度が0.1未満
【0056】
3) 剥離層の光沢発現性試験
オフセット印刷用インキ(ハイユニティ MZ:東洋インキ社製)0.6ccをRI印刷機にて印刷試験を行った。印刷光沢度を光沢度計(Gloss Meter VG7000:日本電色社製)を用い、JIS−P8741に準じ、入反射角度20度で測定した。光沢度が高いほどキャスト塗被紙は剥離層を塗布した際の光沢発現性に優れる。
◎=印刷部の光沢度(20°)が60以上
○=印刷部の光沢度(20°)が45以上60未満
△=印刷部の光沢度(20°)が30以上45未満
×=印刷部の光沢度(20°)が30未満
【0057】
4) キャスト塗被紙の面感評価
キャスト塗被紙の表面にチカチカ(ピンホール様の微小な凹状欠陥)の有無を目視で評価した。チカチカが多い場合、アルキド系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂等の剥離層を付与した際のピンホールの原因となり、合成皮革を製造する際の表面欠陥や耐溶剤性の低下等の品質低下を引き起こす。
○=キャスト塗被紙の表面にチカチカは見られず、面感に優れる。
△=キャスト塗被紙の表面にチカチカが散見され、面感に劣る。
×=キャスト塗被紙の表面にチカチカが多く見られ、面感の低下と光沢度の低下が見られる。
【0058】
5) キャスト塗被紙を製造時の操業性評価
本発明の実施例、及び比較例の塗被液をキャスト塗被紙原紙に塗被し、キャストドラム上で乾燥させ、テークオフロールでキャストドラムから剥離した際の操業性を目視で評価した。操業性の劣るものは、剥離性に劣り、ドラムピックが発生し、同時にキャスト塗被紙の光沢度を低下させる。
○=剥離性に優れ、ドラムピックの発生がなく、キャスト塗被紙の光沢度が優れる。
△=剥離性に劣り、ドラムピックが発生し、キャスト塗被紙の光沢度が劣る。
×=剥離性に著しく劣り、キャスト塗被紙がキャストドラムに貼りつき、製造が困難となる。
【0059】
【表1】

【0060】
表1から明らかなように、実施例1〜8のキャスト塗被紙は耐溶剤性、光沢発現性、キャスト面感、操業性に優れ、合成皮革製造用などの工程紙の基材として優れている。一方、有機顔料を含有しない比較例1は、耐溶剤性、光沢発現性に劣っていた。有機顔料に代えてスチレン・ブタジエン系共重合体ラテックスを増配した比較例2〜4は、耐溶剤性、光沢発現性、キャスト面感、操業性のバランスに劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原紙の少なくとも一方の面に、顔料及び接着剤を主成分とするキャスト塗工層を設けたキャスト塗被紙であって、顔料100重量部当たり有機顔料を1〜20重量部配合することを特徴とする工程紙基材用のキャスト塗被紙。
【請求項2】
キャスト塗工層が湿潤状態の塗工層を凝固液でゲル化させて鏡面ドラムに圧着・乾燥して形成されたことを特徴とする請求項1に記載のキャスト塗被紙。
【請求項3】
請求項1または2記載のキャスト塗被紙のキャスト塗工層表面に剥離層が設けられた工程紙。

【公開番号】特開2012−62600(P2012−62600A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−207783(P2010−207783)
【出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(000183484)日本製紙株式会社 (981)
【Fターム(参考)】