説明

巨大分子濃縮方法

本発明は、巨大分子と有機重合体が入っている溶液から巨大分子を濃縮する方法を提供し、この方法は、最初に前記溶液に限外濾過を受けさせることで1番目の保持液を生じさせた後、前記1番目の保持液の導電率を前記有機重合体によって誘発されていくらか起こる蛋白質の沈澱が本質的に防止されるように調製することで2番目の保持液を生じさせそして次に前記2番目の保持液に限外濾過を受けさせることを含んで成る。好適な態様では、導電率を水、適切な希釈剤または緩衝液に対する透析濾過で調整する。本発明は、好適には、未変性または組換え型蛋白質が入っている溶液に濃縮を受けさせることに関する。更に、本発明は、好適には、生成物である蛋白質とPluronic系列のブロック共重合体である有機重合体、より好適にはPluronic F−68ブロック共重合体が入っている細胞培養上澄み液に濃縮を受けさせる方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は2002年11月1日付けで出願した米国出願連続番号60/422,999(これは引用することによって全体が本明細書に組み入れられる)の優先権を主張するものである。
【0002】
本発明は一般に巨大分子、例えば蛋白質などが入っている溶液に濃縮を受けさせることに関する。本発明の方法は、1つの態様において、巨大分子およびこれと一緒に濃縮を受ける有機重合体が入っている溶液に限外濾過を受けさせた後に透析濾過(diafiltration)を受けさせることで導電率を低くしそして次に2番目の限外濾過を受けさせることで巨大分子の濃縮を沈澱による有意な収率低下を起こさせることなくもたらすことを伴う。
【背景技術】
【0003】
蛋白質の生産は、蛋白質の溶液を比較的希釈された状態で多量に作り出すことを伴う。さらなる段階、例えば凍結、バルク貯蔵および解凍そして下流の精製などを容易に行なおうとするには発酵後に蛋白質に濃縮を受けさせておくのが好適である。しかしながら、一緒に濃縮を受ける有機重合体、例えば哺乳動物細胞培養物の収穫で得られるいろいろな細胞培養上澄み液に存在する有機重合体などが入っている溶液から製品に最適な蛋白質濃度を達成しようとする時、今までは、限外濾過で濃度を高くしている時に生成物である分子が沈澱する度合が高い(従って失われる度合が高い)ことが原因で、それを行うことが制限されていることが分かった。例えば、最初の細胞培養上澄み液に入っている蛋白質の濃度を限外濾過で10−20倍高くしようとすると、沈澱が過度に起こることで濃縮が邪魔されていた。
【0004】
単離、即ち一次回収工程が発酵と下流の精製の間の橋渡し役を構成しており、しばしば、生産能力および工程経済性の両方の点で重要である。そのような単離工程の主な目的は、さらなる処理および下流の精製を実施することができるように、生成物である蛋白質を粒子を含まない濃縮された溶液の状態で得ることにある。
【0005】
限外濾過(UF)は蛋白質溶液に濃縮を受けさせるに適した効率良い技術であり、しばしば、細胞培養上澄み液から蛋白質を単離する時の重要な段階として用いられる。限外濾過は特にバッチ式および潅流両方の細胞発酵工程で用いられる。連続潅流工程でもたらされる蛋白質生成物は比較的希釈された状態で多量であることから、下流の処理を容易に行なおうとするには、濃縮係数を高くするのが望ましい。通常の細胞培養が基になった蛋白質製造工程の主な制限は、蛋白質の単離で達成可能な濃縮係数である。単離工程中に限外濾過を用いた時に達成される濃縮係数はたいてい10−20倍のみである。濃度を高くしようとする試みが成されたが、その結果として、濾過性の問題が大きくなりかつ沈澱が原因で起こる生成物損失がもたらされた。そのような沈澱の性質および原因は一般に未知である。UF段階における濃縮度合を有意に高くしようとすると典型的に沈澱が更に増加することからそれの達成は容易ではない。それによって、処理すべき体積が非常に大きくなることから、次に行う処理段階の速度が遅くなる可能性がある。このことは特に連続潅流工程に当てはまる、と言うのは、この工程ではバッチ式発酵に比べて生成物のタイターが相対的に低くかつ処理体積が相対的に高いからである。
【0006】
細胞培養上澄み液は幅広い範囲の化合物で構成されている。それらには、細胞培養培地、例えば非イオン性ブロック共重合体、特にBASFが販売しているPluronic系列の非イオン性ブロック共重合体など、およびシリコンオイル、および細胞が分泌した化合物または細胞溶解で放出された化合物(例えば蛋白質、脂質)などが入っている上澄み液が含まれる。前記非イオン性ブロック共重合体であるPluronic F−68は、一般に、哺乳動物の細胞を保護する補足物(supplement)として細胞培養培地に入れることが要求される。
【0007】
本発明は、好適な態様において、生成物である巨大分子の収率の有意な損失も濾過の問題ももたらすことなく細胞培養上澄み液の濃度を非常に高くする方法に向けたものである。本出願者らは、驚くべきことに、生成物である巨大分子と有機重合体(限外濾過中に生成物である巨大分子と一緒に濃縮を受ける)、例えばPluronic共重合体などが入っている細胞培養上澄み液に最初に1番目の限外濾過を受けさせた後に保持液(retentate)の導電率を例えば注射用蒸留水(WFI)、希釈剤または緩衝液を用いた透析濾過などで調整しそして次にその溶液に2番目の限外濾過を受けさせることで前記上澄み液に濃縮を本出願者らが知っている報告された方法のいずれよりも高い収率で高度に受けさせることができることを見いだした。
【発明の開示】
【0008】
(発明の簡単な要約)
本発明に関連して、溶液成分(solution components)が入っている出発水溶液から巨大分子を濃縮する方法を提供する。前記溶液成分には巨大分子および有機重合体が含まれる。前記出発溶液に最初に限外濾過を受けさせて前記巨大分子を濃縮することで1番目の保持液を生じさせた後、前記1番目の保持液の導電率を前記有機重合体によって誘発される前記溶液成分の沈澱が実質的に防止されるか或は実質的に逆転するように調整することで2番目の保持液を生じさせ、そして次に前記2番目の保持液に限外濾過を受けさせて前記巨大分子を更に濃縮することで濃縮溶液を生じさせることによって、前記巨大分子の濃縮を行う。好適な態様では、前記導電率を水、適切な希釈剤または緩衝液に対する透析濾過で調整する。
【0009】
本発明は、好適には、未変性または組換え型蛋白質の水溶液に濃縮を受けさせることに関する。その出発溶液には、好適には、哺乳動物または昆虫細胞培養上澄み液が含まれる。更に、本発明は、好適には、生成物である蛋白質とPluronic系列のブロック共重合体である有機重合体が入っている細胞培養上澄み液、より好適にはPluronic F−68ブロック共重合体が入っている細胞培養上澄み液に濃縮を受けさせる方法に関する。本発明は、また、他の有機重合体、例えばポリエチレングリコールまたは消泡性化合物などが入っている細胞培養上澄み液を用いることでも実施可能である。本方法を用いると濃縮係数が高い(即ち20倍から100倍またはそれ以上、好適には75倍から100倍またはそれ以上の)蛋白質溶液がもたらされる。
【0010】
本発明は更に生成物、組成物および中間体にも向けたものである。本出願者らは、限外濾過中に一緒に濃縮を受ける有機重合体、例えばPluronic F−68などによって巨大分子の沈澱が誘発されることを見いだした。また、そのような沈澱は当該溶液のイオン濃度に依存することも見いだした。従って、本発明に従い、巨大分子と有機重合体が入っている溶液に濃縮を受けさせる方法を提供する。本方法は、最初に前記溶液に濃縮を受けさせて1番目の保持液を生じさせ、適切な希釈剤を用いて前記1番目の保持液のイオン濃度を前記有機重合体によって誘発されていくらか起こる溶液成分の沈澱が実質的に防止されるか或は実質的に軽減されるように調整することで2番目の保持液を生じさせそして次に前記2番目の保持液に濃縮を濃度が前記出発溶液の巨大分子濃度より少なくとも50倍、好適には少なくとも100倍、更により好適には100倍以上高くなるまで受けさせることで前記巨大分子を75−100%、好適には少なくとも95.0%、より好適には少なくとも99.0%の収率、特に好適には前記巨大分子を99.5パーセント以上の収率で得ることを含んで成る。好適な態様において、前記有機重合体はPluronic系列の非イオン性ブロック共重合体の一員を含んで成り、より好適にはPluronic F−68を含んで成る。任意のさらなる処理段階を実施することも可能である。例えば、そのようにして精製した生成物に凍結、解凍そして解凍後の濾過などを受けさせることで、本発明の方法の生成物である巨大分子の純度を向上させるか或は望ましい治療用投薬物を調製してもよい。
【0011】
本発明は、特別な態様において、Pluronicによって誘発されて蛋白質が沈澱を起こすと言った問題を解決することに向けたものである。1番目の段階で、細胞培養上澄み液に濃縮を好適には限外濾過で生成物の損失が最小限である濃縮係数(例えば、元々の濃度に比べて20倍)まで受けさせる。次に、好適には同じ装置を用いて、前記1番目の段階で得た濃縮液の全部または一部に水(WFI)または別の適切な緩衝液に対する透析濾過を受けさせることで、導電率をPluronicによって誘発される生成物沈澱が実質的に防止される点、即ち6mS/cm未満、より好適には0.5から5mS/cmの導電率になるまで低下させる。本明細書で用いる如き導電率の測定は、特に明記しない限り、22℃で実施した測定である。最後に、その材料にさらなる濃縮を高い最終的な濃度係数(例えば元々の濃度に比べて75−100X)に至るまで受けさせるが、この濃縮では生成物の損失がほとんどまたは全く起こらずかつかさ高い蛋白質の沈澱も最小限である。3段階全部を同じ装置内で実施することができる。そのようにすると一般に複雑さが増すことがほとんどまたは全くなくかつ新しい材料もハードウエア資格認定も全く必要でない。最初の濾過段階を設けることで透析濾過段階中に起こるWFIの消費も緩衝液の消費も最小限になり得る。従って、透析濾過段階中に濾過すべき追加的体積が小さくなる(透析濾過中に追加的に要求される体積が通常は20%未満、しばしば15%未満になる)ことから、工程時間全体が有意に長くなることはない。
【0012】
別の態様では最初の限外濾過段階を設けない。その代わりに、本方法に、最初に出発水溶液(この出発溶液には溶液成分が入っていて、前記溶液成分には巨大分子および有機重合体が含まれる)の導電率を前記有機重合体によって誘発される前記溶液成分の沈澱が実質的に防止されるか或は実質的に逆転するように調整した後に前記溶液に限外濾過を受けさせて濃度が最初の出発濃度より50倍以上、好適には75倍以上、より好適には100倍以上高くなるようにすることを含める。
【0013】
本発明に従う方法を用いると、濃縮係数を有意に高くする、即ち20倍から100倍およびそれ以上にすることが可能になると同時にまた生成物の収率を通常の方法に比べて向上させることが可能になる。本方法を用いた時に得られる工程収率は75%から100%、好適には90%−100%、多くの場合、95%に及ぶか或は99.5%にまで及ぶが、従来技術で達成可能な濃縮係数はずっと低く、10−20倍未満のみであり得る。本発明に従う方法を用いるとかさ高い蛋白質の沈澱が有意に減少する。例えば、Pall Corporationが製造しているAcrodiscシリンジフィルター25ml(フィルター面積が2.8平方cm)を10ポンドの圧力で用いて20倍濃縮液を測定した時の濾過性は6から10mlの範囲である(10mlが理論的な最大値である)。これは、従来技術の方法を用いた時の1から5mlに比べて有意な向上である。本発明に従う方法を用いて濃縮した75倍濃縮液が達成した濾過性(平均で6ml)の方が、従来技術の通常方法を用いて濃縮した20倍濃縮液を濾過した時の濾過性(平均で約3ml、即ち図17に示した濾過性データを参照)よりも良好である。
【0014】
本発明は、更に、連続または半連続潅流方法でもたらされた哺乳動物細胞培養物に濃縮を蛋白質濃度が初期上澄み液中の蛋白質濃度に比べて20倍以上、好適には少なくとも50倍、特に好適には少なくとも75倍で有機重合体の濃度が少なくとも20g/l、好適には少なくとも50g/lの蛋白質溶液が少なくとも75%、より好適には少なくとも90%、より好適には少なくとも99%の収率(前記哺乳動物細胞培養物からもたらされる蛋白質の量を基準にして測定)が得られるように受けさせることにも向けたものである。加うるに、本発明は、哺乳動物細胞培養上澄み液から得た蛋白質溶液にも向けたものであり、この蛋白質溶液の蛋白質濃度は前記上澄み液中の濃度に比べて20倍でありかつこの上で考察したAcrodiscシリンジフィルター装置を用いてこれを測定した時の濾過性は少なくとも5ml、好適には少なくとも6mlである。
【0015】
本発明の追加的目的、特徴および利点を以下の説明の中に挙げるが、これらは、ある程度ではあるが、本説明から明らかになるか或は本発明の実施によって習得することができるであろう。本明細書に詳細に指摘する手段および組み合わせを用いて本発明の目的、特徴および利点を実現することができかつ得ることができる。
(好適な態様の詳細な説明)
本発明は、連続もしくは半連続潅流発酵およびバッチ式潅流発酵と一緒に用いるに有利である。より好適には、本発明は、連続もしくは半連続潅流発酵に向けたものである。本技術分野で良く知られているように、連続方法を用いた蛋白質の製造は特定の利点を有する。もたらされる蛋白質の品質は一般に生物反応器の中の保持時間が典型的に低いことが理由で良好である。また、連続方法でもたらされた蛋白質は劣化を起こす度合も低い。バッチ式方法では典型的に発酵上澄み液中の蛋白質濃度が高いが、連続方法でもたらされる蛋白質はより希釈された溶液の状態である。
【0016】
従って、本方法は、連続もしくは半連続潅流工程で得られた蛋白質生成物に濃縮を受けさせるに特に有益である、と言うのは、処理を受けさせるべき蛋白質溶液が比較的希釈された状態であるからである。連続潅流における蛋白質濃度はしばしば1g/lよりも有意に低く、時には0.1g/l未満である。下流のさらなる処理を容易に行なおうとするには濃縮係数を高くする、好ましくは100倍以上にするのが非常に望ましい。加うるに、何らかの理由で望まれるならば、バッチ式にもたらされた蛋白質に関して本発明を用いることも可能である。
【0017】
本発明は、溶液成分が入っている水溶液から巨大分子を濃縮することを伴う。そのような溶液成分には巨大分子および有機重合体が含まれる。そのような溶液成分には巨大分子および有機重合体が含まれる。そのような溶液成分には、また、他の化合物、例えば細胞培養上澄み液に通常存在する化合物なども含まれ得る。例えば、そのような成分には細胞培養培地の補足物、例えばシリコンオイルおよび消泡剤など、および細胞が分泌したか或は細胞溶解で放出された化合物(例えば蛋白質および脂質、例えば宿主細胞に存在するそれら)が含まれ得る。
【0018】
本発明は、特に、有機重合体、例えばPluronic系列のブロック共重合体の一員が入っている、より好適にはPluronic F−68(これは蛋白質製造工程で用いられるいろいろな細胞培養培地の必須成分である)が入っている溶液に関して用いるに有用である。また、他の有機重合体も限外濾過中に所望巨大分子と一緒に濃縮を受けることで巨大分子または蛋白質の沈澱をもたらすと考えている。従って、本発明の方法を、一緒に濃縮を受ける他の有機重合体、例えばポリエチレングリコール(「PEG」)、消泡性重合体および他の重合体などが入っている溶液の濃縮にも適用する。蛋白質の沈澱はたいてい限外濾過後の濃縮溶液が示す誘電率が低くなる結果として起こるばかりでなくその一緒に沈澱する有機重合体と巨大分子の溶媒和に要する水分子の競合が高まる結果として起こると考えている。
【0019】
有機重合体、例えばPluronic F−68などの濃度が高くなることで巨大分子の沈澱が誘発される基本的な機構は、本実施例に具体的に考察するそれを超えて、他の蛋白質と巨大分子が入っている溶液にも当てはまると考えている。従って、本発明の方法は多種多様な有機重合体および巨大分子に関しても使用可能である。本発明の方法で用いる巨大分子の溶液は、巨大分子、好適には大型の生物学的巨大分子、より好適には蛋白質のいずれかが入っている溶液であってもよい。1つの態様では、本発明に従う方法を組換え型蛋白質インターロイキン2選択的作動薬(「IL−2SA」)に関して用いることができる。本発明の技術を用いて処理を受けさせることができる他の組換え型蛋白質生成物には、Bayer Corp.がKogenate(商標)として販売している組換え型ヒトIII因子、Centocor,Inc.がRemicade(商標)として販売している組換え型インフリキシマブ、Johnson and JohnsonがReopro(商標)として販売している組換え型アブシキシマブ(abciximab)、Genzyme Inc.がFabrazyme(商標)として販売しているアガルフィダフェベータ(agalfidafe beta)、Wyeth AyerstがRefacto(商標)として販売している組換え型抗血友病因子、およびBaxter Inc.がRecombinate(商標)として販売している組換え型抗血友病因子、そしてそれらの第二および第三世代更新のいずれかおよび全部ばかりでなく他の数多くの蛋白質生成物が含まれる。
【0020】
Pluronic F−68の主な機能は、細胞をスパージング(sparging)(これは生産規模の生物反応器の中に酸素が充分に送り込まれることを確保する目的で必要である)によって引き起こされる可能性のある損傷から保護する機能である[例えばMurhammerおよびGoochee、1988;MurhammerおよびGoochee、1990;Jordan他、1994(引用することによって本明細書に組み入れられる)を参照]。Pluronic F−68のような保護用物質を添加しないと、細胞が気体−液体界面に接着してしまう(ChalmersおよびBavarian、1991)。その後、気泡が崩壊する時に細胞が非常に高いせん断応力を受ける。最大エネルギー逸散率は気泡の直径に応じて9.52*10J*m−3*s−1に及ぶと報告されており、気泡が小さければ小さいほど曝気を充分に行う必要があるが、それによってもたらされるせん断応力もまた高い(Boulton−StoneおよびBlake、1993;Garcia−Briones他、1994)。比較として、境界明瞭な流れ場(well−defined flow fields)の中で細胞死をもたらすエネルギー逸散率は10−10J*m−3*s−1の桁であることが知られている(例えばSchurch他、1988、Augenstein他、1971)。
【0021】
Pluronic F−68は、細胞が空気−液体界面に接着しないようにすることで細胞がそのような高いせん断応力を受けないように保護するが(Garcia−BrionesおよびChalmers、1992)、それはPluronic F−68が動的表面張力を下げる結果であると思われる(Michaels他、1995b)。その上、Pluronic F−68は細胞膜と直接相互作用する結果としてせん断感受性を有意に下げることも分かっている(Goldblum他、1990;Michaels他、1991)。
【0022】
Pluronic F−68による保護の度合は培地中のそれの濃度に依存する。文献では、多くの場合、1g/lが最適であると見なされている(例えばMizrahi、1984、Maiorella他、1988)。また、IL−2SAの場合、Pluronic F−68の濃度を好適には1g/l(0.1%)にする。
Pluronicの構造および命名
Pluronicは一般に親水性ポリオキシエチレン(PEO)ブロック間に中心の疎水性ポリオキシプロピレン(PPO)ブロックを含んで成り、従って、一般にPEO−PPO−PEOトリブロック分子であると記述可能である(図1を参照)。PEOブロックの数はいろいろなPluronicで異なり、m=2−130である一方、PPOブロックの数はn=15−67に及んで多様である。BASF Corp.(Parsippany NJ)が供給している如きPluronicの命名には、物理的形態を示す文字コード、即ち液状(L)、ペースト(P)またはフレーク(F)が含まれている。その文字の後に2桁また3桁の数字が続く。最初の数字、即ち3桁コードの場合の最初の2桁の数字に300を掛けた値が、疎水性PPO部分のおおよその分子量を示す。最後の桁の数字に10を掛けた値が分子全体の中の親水性PEOのおおよその含有量を示す(例えば「8」はPEOが80%であることを表す)。
Pluronic F−68の物性
Pluronic F−68はPEO含有量が80%の固体(フレーク)である。分子全体の平均分子量は約8.4kD(BASF Corp.、NJ)である。この分子は親水性PEOの含有量が高い(即ち80%)であることから、他のいろいろなPluronicに比べて高い溶解性を示す(25℃の水に>100g/l;製造業者であるBASF Corp.、NJの情報)。
【0023】
通常の界面活性剤とは対照的に、そのような両親媒性トリブロック共重合体が形成するミセルは本質的により複雑であり、一般に、明確なCMC(臨界ミセル濃度、即ち所定温度でミセルが生じる時の濃度)もCMT(臨界ミセル温度、即ち所定濃度でミセルが生じる時の温度)も観察されない。その代わりに、光散乱および/または分光技術、例えば蛍光プローブ(AlexandridisおよびHatton、1995)などを用いた時に見られるCMCおよび/またはCMTの範囲は幅広い。この範囲は一般に>100g/lである。ミセルの形成はエントロピーで推進されかつミセル形成の自由エネルギーは主に疎水性PPOブロックの関数であることから、主に親水性特徴を有するPluronic F−68は室温の水中では容易にはミセルを形成しない(Alexandridis他、1994)。その代わりに、水中の濃度を10g/lにした時のCMTは約45−50℃である一方、濃度を100g/lにした時のCMTは約30−35℃である。従って、室温の時のCMCは>100g/lである(Alexandridis他、1994)。
【0024】
Pluronic F−68は、最初の濃縮/単離でしばしば利用される限外濾過段階中にいくらか起こる追加的膜汚れの原因になることが知られている。この上で引用したSchulz他(1997)が考察したように、限外濾過中に二次的な膜が生じ、それの特性によって有機重合体の保持が左右される。その結果として、高分子量のカットオフ(cut−off)膜を用いた時でさえPluronic F−68が少なくともある程度ではあるが保持され、それが起こり得るのは特に大型の生成物(例えば100kD)の場合のみである。従って、Pluronic F−68を濾過工程で除去するのは非常に困難である(Schulz他、1997)。
【0025】
例えば、組換え型蛋白質(IL−2SA)単離方法で得られたデータが示されている。Pluronic F−68が限外濾過工程中に一緒に濃縮を受けることで濃縮係数が20−25倍を超えると(Pluronic F−68が培地中1g/lの時に)有意な蛋白質沈澱が誘発されると言った詳細な調査が示された。
【0026】
本発明の方法は限外濾過を伴うが、これは、本分野の技術者に公知の標準な装置および条件を用いて達成可能である。本発明は、また、溶液の導電率を調整する段階も伴う。これは、本分野の技術者に公知の如何なる方法で達成されてもよい。特に透析濾過、希釈またはゲル濾過が好適である。透析濾過が最も好適である。本明細書で用いる如き「溶液」は溶液または懸濁液を指す。
【0027】
以下の実施例で本発明を更に詳細に記述するが、本実施例は詳述の目的で含めるものであり、記述する如き本発明を限定するものでない。
[実施例1]
【0028】
沈澱物の性質の同定
細胞培養上澄み液に限外濾過濃縮を受けさせている間に生じた沈澱物を赤外分光法で分析することで蛋白質が沈澱物の主成分であることが明らかに分かっている。
【0029】
IL−2SA発酵から25倍濃度の収穫物を得た。その上澄み液に遠心分離を受けさせた後、その沈澱物をPBSに再溶解させた。UF濃縮収穫物、25倍濃縮物の上澄み液および沈澱物再溶解液をSDSゲル電気泳動法に続く銀染色(図3aを参照)および抗−hIL−2SA−抗体による免疫染色(ZAP分析)で分析した(図3bを参照)。前記沈澱物を緩衝液に少なくともある程度再溶解させると実際にそれに蛋白質が有意な量で入っていることが図3aの(4)から分かるであろう。図3bの(4)から分かるであろうように、IL−2SAもまたいくらか沈澱する。しかしながら、沈澱したIL−2SAの量は相対的に少ないと思われ[3bの(4)と(3)を比較]、これは、通常の限外濾過方法におけるかなり妥当な収率である約90%に一致している。従って、細胞培養上澄み液に限外濾過を受けさせている時に見られる沈澱物は大部分がかさ高い蛋白質(宿主細胞の蛋白質)が沈澱することで生じた沈澱物であると結論付けることができる。
[実施例2]
【0030】
Pluronic F−68が一緒に濃縮
Pluronic F−68の平均分子量は8.4kDであり、これは比較的大きい。限外濾過工程中に二次的膜が生じかつ交差流通路に沿った条件は本質的に均一ではないことから、通常のUF技術が示す選択率では、一般に、Pluronicの大きさの範囲の分子を有意に分離するのは不可能である。rFVIIIまたはgp220/350のように最も大型の蛋白質生成物で用いられる如き100kDのUF膜を用いた時でも、Pluronic F−68の如き重合体が有意に保持されて一緒に濃縮を受けることが一般に観察される(例えばSchulz他、1997を参照)。整数分子量カットオフ(nominal molecular weight cut−off)(NMWCO)が例えば10kDの限外濾過過程中にPluronic F−68が示す保持係数は1(または100%)に近いであろうと仮定することができる。発酵中に充分な細胞保護を得るに必要なPluronic F−68濃度(培地中の)は1g/l(0.1%)であることから、従って、30倍に濃縮すると結果としてUF濃縮液中のPluronic F−68は30g/l(または3%)になるであろう。
【0031】
このような仮定を立証する目的で、濃縮係数がいろいろな保持液サンプル(1X=培養上澄み液、2X、4X、8X、16Xおよび約50X)に薄層クロマトグラフィー(TLC)による分析を受けさせた。結果として得た推定Pluronic F−68濃度は1Xおよび2Xの場合には1−2g/lであり、4Xの場合には4g/lであり、8Xの場合には4−10g/lであり、16Xの場合には10g/lでありそして50Xの場合には50g/lであった。TLC方法は本質的に正確ではないことを考慮すると、そのような結果は明らかにPluronic F−68のほとんど全部が一緒に濃縮を受けたことを立証している。
【0032】
このようにPluronic F−68が一緒に濃縮を受けると、勿論、生成物の溶液の粘度が高くなると言った追加的影響が生じる。図4から分かるであろうように、いくつかのUF実験で得た濃縮液が示した粘度特徴(推定Pluronic F−68濃度の関数として)は、実際、培養培地または希培養培地のいずれかを用いて生じさせた既知濃度のPluronic F−68溶液のそれと同様である。
[実施例3]
【0033】
Pluronic F−68添加実験
限外濾過保持液中の最終Pluronic F−68濃度は一般に非常に高いことが分かっていることから、Pluronic F−68の濃度をそのように高くした時に蛋白質の溶解性が受ける影響を特徴付ける目的で、培養上澄み液およびいろいろな濃度係数の濃縮液を用いた添加実験を実施した。図5から分かるであろうように、前以て濃縮を受けさせておいた培養上澄み液のサンプルにPluronic F−68を添加すると実際に強烈な沈澱が生じる。予測したように、Pluronic F−68によって誘発される沈澱は濃度係数が高ければ高いほど激しく起こると思われる。図6に、溶液の中に残存する総蛋白質(遠心分離後)をブラッドフォード検定で測定した時の値を濃縮係数およびPluronic F−68濃度の関数として示す。この結果はA580測定値と一致しており、添加したPluronic F−68の濃度および全体としての濃縮係数の関数として蛋白質が析出することを立証している。図7から分かるであろうように、そのことは原則としてまたIL−2SA生成物分子の例にも当てはまる。
【0034】
このようにPluronic F−68濃度を高くすると蛋白質の沈澱が誘発されるが、これは下記の2つの影響によって引き起こされると考えている。1番目として、水分子がPluronic F−68の親水性PEOブロックと結合すると水分子が蛋白質の水和外皮(hydration hull)で利用される度合が低くなる。2番目として、Pluronic F−68の濃度が高くなると培地の誘電率が低くなることから蛋白質分子間のクーロン相互作用が高くなる。全体としてもたらされる結果は静電遮蔽の低下であり、従って、その系が蛋白質分子と完全に溶媒和する能力が低下する。
【0035】
Pluronic F−68の濃度が約20−30g/lになると蛋白質が沈澱し始める(図8を参照)。これは、通常の方法では約20−25倍に濃縮した時にひどい沈澱が起こり始めることと一致している、と言うのは、Pluronic F−68の出発濃度が培地中1g/lで保持が100%の時の最終濃度は20−25g/lであるからである。
【0036】
IL−2SAの例の場合、生成物分子の沈澱はPluronic F−68の濃度がいくらか高い時に起こり(図9を参照)、このことは、そのような沈澱が起こると結果として次の段階で生じる損失が高くなりはするが通常方法を用いてUF工程自身でかなり妥当な収率が得られることを説明している。
(比較実施例4)
【0037】
蛋白質の沈澱を最低限にする流体力学的方策
蛋白質の沈澱を最低限にしようとする場合、その系の中の最大蛋白質濃度を最低限にすべきである。所定の交差流限外濾過装置では、保持されている溶質が対流によって膜表面の方向に移動することから、膜表面の所の層流境界層の中で最大蛋白質濃度に到達する、即ちそれはcwallに相当する。簡単な質量平衡による当然の結果として壁の所の濃度は指数関数的に透過流量(permeate flux)Jと物質移動係数kに依存する(図10を参照):
【0038】
【数1】

【0039】
完全な保持の場合の質量平衡(R=1;図10を参照)
空間が満たされている流路および膜表面の所の層流境界層の中で乱流が起こる場合(フィルムモデル)、下記の質量平衡が当てはまる:
(膜の所の蛋白質質量の蓄積)=(対流輸送)−(拡散逆輸送)
【0040】
【数2】

【0041】
ここで、dm/dt=c*F(F=膜を貫通する体積流量[例えばリットル/時])
【0042】
【数3】

【0043】
定常状態における表面の所の蛋白質蓄積は=0であり、変数分離法によって下記がもたらされる:
【0044】
【数4】

【0045】
y=0(c=cwall)からy=境界層厚δ(c=cbulk)まで積分:
【0046】
【数5】

【0047】
すると結果として下記がもたらされ:
【0048】
【数6】

【0049】
従って、比流速(完全な保持):
【0050】
【数7】

【0051】
がもたらされる。従って、調整した任意の濾液流量Jに関して正規化した表面濃度は下記である:
【0052】
【数8】

【0053】
記号表
A 面積
C 濃度
eq 平衡状態の濃度
D 拡散係数
δ 層流境界層の厚み
F 体積流量
J 透過流量
物質移動係数
M 質量
eq 平衡状態で樹脂1単位当たりに結合した質量
物質移動係数(これはシャーウッド数とレイノルズおよびシュミット数を経験的または半経験的に相互に関係付けることを基にして推定可能)は当該系における交差流速およびそれの幾何に依存する。しかしながら、せん断力と圧力発生の固有のカップリングが理由で通常の交差流装置の中の物質移動を最適にするのは困難である[即ち、Vogel,J.H.:「Kontrollierte Scheraffinitatsfiltration:Eine neue Technik zur integrierten Aufarbeitung pharmazeutischer Proteine aus tierischer Zellkultur」、Fortschr.−Ber. VDI Reihe 17、Nr.185、VDI Verlag、Dueeseldorf、ISBN 3−18−318517−2.ISSN 0178−9600、1999、Vogel,J.H.、Anspach,B.、Kroner,K.−H、Piret,J.M.、Haynes,C.A.:Controlled Shear Affinity Filtration(CSAF):A New Technology for Integration of Cell Separation and Protein Isolation from Mammalian Cell Cultures.Biotechnology and Bioengineering、78巻、7、806−814頁、200(両方とも引用することによって本明細書に組み入れられる)を参照のこと]。より具体的には、kを大きくしようとして交差流速を高くするとまた流路内の圧力降下も大きくなってしまう。それによって今度は不均一な条件が作り出され、そのような条件ではcwallが流路に沿って変化し得る。
【0054】
如何なる場合にも、Pluronicによって誘発される全蛋白質沈澱をcwallを低くしようとする流体力学的アプローチで軽減することができるとしても若干のみであり、このように、より高い濃度係数を追加的収率損失無しに達成しようとしても僅かのみであることが分かっている。従って、基本的に新しい解決法が求められていたが、本発明に従う方法および生成物を用いることで、そのような問題を成功裏に解決した。
[実施例5]
【0055】
Pluronicによって誘発される蛋白質沈澱に対して導電率が示す影響
蛋白質が細胞培養培地および収穫物の生理学的条件下で示す溶解度は一般に良好である。しかしながら、細胞培養上澄み液を濃縮するとPluronicの濃度が高くなることで蛋白質の水和外皮から水がより多い量で引き抜かれ、それによって、蛋白質間の疎水性相互作用が熱力学的に推進される可能性が非常に高くなり、その結果として、最終的に蛋白質の沈澱が起こると言った仮説を立てた。そのような状況は、実際、蛋白質の溶解性を維持するに要する水分子の「競合が高まる」ことを特徴とし得る。Pluronicを有効に分離するのは不可能であることから、さらなる添加実験を用いて、WFI(注射用蒸留水)に対する透析濾過によって塩含有量を低くするのが蛋白質溶解の維持に役立つか否かを試験した。導電率を11−12mS/cm(収穫物の場合の如き)から約1−1.5mS/cmにまで低くした図11から分かるであろうように、蛋白質が沈澱を起こすのはPluronic F−68濃度が高い時のみであると思われる。
【0056】
導電率の影響を立証する目的で、導電率が低いサンプルに塩を添加して細胞培養上澄み液の元々の導電率を回復させた(図12を参照)。透析濾過を受けさせた50X濃縮液(約0.9mS/cm、pH7.14)にNaCl(1Mの原液)を混合下で段階的に添加することで導電率を上昇させた。A580吸収が上昇し、可溶蛋白質が減少することから塩を添加すると低くなっていた導電率の効果が逆転することが分かる。この場合、A580で測定されるように、強烈な蛋白質沈澱が誘発される(図12を参照)。
【0057】
このような結果は、塩の濃度を低くすると生成物の沈澱が有意に減少するか或は沈澱しなくなることさえあり得ることを示している。
[実施例6]
【0058】
pHが沈澱に対して示す影響
導電率を低くすると(即ち0.5から5、特に1.2mS/cm)沈澱が効率良く回避されることが図13から分かるであろう。そのような条件は、例えば、pHを6.7より高いpHに維持することなどで達成可能である。pHが約6.7未満にまで低下すると、沈澱が起こったことを示すA580上昇が起こると同時に材料の濾過性が低下し始める。細胞培養発酵物のpHをほぼ中性条件(明らかに沈澱が最小限になる範囲内)に制御することを注目すべきである。貯蔵中にpHが低下する可能性はあるが、貯蔵収穫物の中にいくらか残存する生存細胞が示す代謝活性は4℃の貯蔵温度では低いことから無視することができる。それとは対照的に、細胞培養培地の緩衝系はしばしば重炭酸塩が基になっていることから、COの発生(例えばUF中)によってpHが更に若干上昇する。如何なる場合にも、pH値が妥当に高い場合には沈澱が導電率に関して示す感受性の方がpHに関して示す感受性よりも高い(図14を参照)。
[実施例7]
【0059】
本発明の好適な単離計画:UF/DF/UF
本発明の好適な方法は限外濾過、透析濾過に続く限外濾過(「UF/DF/UF」)を含んで成る(図15を参照)。1番目の段階で細胞培養上澄み液に限外濾過による濃縮を生成物の損失を引き起こさないと認識される濃度係数、例えば20Xにまで受けさせる。次に、同じUF装置内で、その濃縮液に水(WFI)または緩衝液に対する透析濾過を受けさせることで、導電率をPluronicによって誘発される生成物沈澱が効率良く防止される点にまで低くする。最後に、その材料にさらなる濃縮を生成物の損失が起こらずかつかさ高い蛋白質の沈澱が最小限であるように受けさせることで非常に高い最終的濃度係数(例えば75−100X)を達成する。最初に行う濃縮は水/緩衝液の消費量および全工程時間を最小限にすることを意図したものである。このような段階を用いることで、次の透析濾過を受けさせるに必要な体積が細胞培養上澄み液の出発体積のほぼ15%のみになる。透析濾過後に濃縮を再開して非常に高い最終的濃縮係数に到達させる(例えば>75−100倍)。そのようにイオン濃度を低くしたことから、蛋白質は溶液の状態のままでありかつ濾過性も高いままである。
【0060】
望まれるならば、3段階全部を同じ装置内で実施してもよい。そのようにすると複雑さが増すことはなくかつ新規な材料もハードウエア資格認定も全く必要でない。最初のUF段階を設けるとWFIの消費量が最小限になる。従って、DF段階中に濾過すべき追加的体積が低く(通常は15%以上低く)なることから、全工程時間が有意に長くなることはない。
【0061】
図16に、IL−2SAの例に関して20Xから100Xの最終的濃度係数に至るいろいろな段階で測定した本発明に従う方法の収率を示す。分かるであろうように、本新規方法を用いると通常方法に比べて濃度係数を有意に高くすることができると同時に生成物の収率を最大限にすることができる。濃度係数が5倍高くなりかつ収率が最大限になる。図17に示した濾過性データから分かるであろうように、沈澱が有意に減少する。
[実施例8]
【0062】
高いPluronic濃度が下流の処理/カチオン交換クロマトグラフィーに対して示す影響
本UF−DF−UF方法を用いるとより高い濃度係数を達成することができることは、1番目の精製塔の中に入る当該材料のPluronic F−68濃度も同様に高くなる、例えば目標値である75Xの場合には約75g/l(または7.5%)にまで高くなることを意味する。従って、そのように高いPluronic濃度が下流の最初の精製段階に対して否定的な影響を与える可能性があるか否かを評価するさらなる試験を実施した。最初の精製段階はしばしばカチオン交換クロマトグラフィーである。図18に、20℃の標準的なイオン交換樹脂がPluronic F−68の追加的添加有り無しで示した吸着等温線を示す。Pluronic F−68は必須培地成分であることから、Pluronicを全く含有しない濃縮液は利用不可である。しかしながら、「対照」等温線を測定する目的、特に等温線の最初の傾きを測定する目的で、本UF−DF−UF−TCF 75倍濃縮液を160倍希釈することで非常に低いPluronic F−68濃度を得た。それとは対照的に、前以て希釈しておいた培地にPluronic F−68を75g/l入れることで生じさせた溶液を用いた希釈で等温線のあらゆる点のPluronic F−68の最終濃度である75g/lを生じさせた。この図から分かるであろうように、両方の等温線とも非常に類似しており、このことは、Pluronicの濃度を高くしても吸着熱力学に否定的な影響が生じることはないことを示している。
【0063】
Pluronicは実際にあらゆる限外濾過工程中に一緒に濃縮を受ける。その結果として蛋白質の沈澱が誘発されるが、これは一般に濃度係数がほぼ20−25倍の時に始まる。このような「普遍的」蛋白質沈澱問題によって収量の損失がもたらされかつ単離/精製工程中に他の問題がもたらされることで、より高い濃度係数の達成が邪魔される。
【0064】
IL−2SAを模範例として用いて、培養上澄み液のイオン濃度を低くするとPluronicによって誘発される蛋白質沈澱がPluronicの濃度を非常に高くしても効率良く防止されるか或は最小限になり得ることが分かった。
【0065】
結果として得た新規な単離計画(UF/DF/UF)は沈澱問題に対する効率良い健全な解決法を与えるものである。それによって100倍に及ぶ濃度(即ち、古い方法に比べて5倍高い濃度)を達成することができることに加えて収率が最大限になりかつ濾過性が向上する。それによって今度は下流のさらなる操作が劇的に容易になる。
【0066】
その上、結果として得た高いPluronic F−68濃度(75g/l以上に及ぶ)が下流のカチオン交換中のIL−2SA結合に否定的な影響を与えることはないことも分かった。
【0067】
従って、本UF/DF/UF工程計画は細胞培養発酵から蛋白質を単離するに非常に適した「プラットフォーム技術」であると主張する。これは性能が向上している以外に実施が健全かつ容易であり、通常のUFと同じ標準的限外濾過装置および洗浄手順を用いる。
【0068】
追加的利点、特徴および修飾形が本分野の技術者に容易に思い浮かぶであろう。従って、本発明の幅広い面において、本発明を本明細書に示しかつ記述した特定の詳細および代表的装置に限定するものでない。従って、本明細書に定義する如き本発明の一般的な概念および相当物の精神からも範囲からも逸脱しない限りいろいろな修飾を成すことができる。
【0069】
出版された下記の資料は、一般に、限外濾過を用いて哺乳動物および昆虫細胞培養物から産生蛋白質を回収することに関するばかりでなくそれに関連して用いられた特定の材料、例えば重合体などに関する資料である:
Alexandridis,P.およびHatton,T.A.:Poly(ethylene oxide)−poly(propylene oide)−poly(ethylene oxide)block copolymer surfactants in aqueous solutions and at interfaces:thermodynamics,structure,dynamics,and modeling、Colloids and Surfaces A:Physicochemical and Engineering Aspects 96、1−46、1995。
【0070】
Alexandridis,P.、Holzwarth,J.F.およびHarton,T.A.、Macromolecules、27、2414、1994。
【0071】
Augenstein,D.C.、Sinskey,A.J.およびWang,D.I.C.:Effect of shear on the death of two strains of mammalian tissue cells、Biotechnol.Bioeng.13、409−418、1971。
【0072】
Bavarian,F.、Chalmers,J.J.:Microscopic visualization of insect cell−bubble interactions、II:The bubble film and bubble rupture、Biotechnol.Prog.7、2、151−58、1991。
【0073】
Boulton−Stone,J.M.およびBlake,J.R.:Gas−bubbles bursting at a free surface、J.Fluid Mech.154、437−466、1993。
【0074】
Garcia−Briones,M.A.およびChalmers,J.J.:Cell−bubble interactions:Mechanisms of suspended cell damage、Ann.N.Y.Acad.Sci.655、219−229、1992。
【0075】
Garcia−Briones,M.A.、Brodkey,R.S.およびChalmers,J.J.:Computer simulations of the rupture of a gas bubble at a gas−liquid interface and its implications in animal cell damage、Chem.Eng.Sci.49、2301−2320、1994。
【0076】
Godblum,S.、Bae,Y.、Hink,W.F.およびChalmers,J.J.:Protective effect of methylcellulose and other polymers on insect cells subjected to laminar shear stress、Biotechnol.Prog.6、383−390、1991。
【0077】
Jordan,M.、Sucker,H.、Einsele,A.、Widmer,F.、Eppenberger,H.M.:Interactions between animal cells and gas bubbles:the influence of serum and Pluronic F−68 on the physical properties of the bubble surface、Biotechnol.Bioeng.43巻、1994。
【0078】
Maiorella,B.、Inlow,D.、Shauger,A.、Harano,D.:Large−Scale Insect Cell−Culture for Recombinant Protein Production、Bio/technol.6、1406−1410、1988。
【0079】
Michaels,J.D.、Peterson,J.F.、McIntire,L.V.Papoutsakis,E.T:Protection mechanism of freely suspended animal cells(CRL 8018)from fluid−mechanical injury。Viscometric and bioreactor studies using serum,Pluronic F−68 and polyethylene glycol、Biotechnol.Bioeng.38、169−180、1991。
【0080】
Michaels,J.D.、Nowak,J.E.Malik,A.K.、Koczo,K.、Wason,D.T.、Papoutsakis,E.T.:Analysis of cell−to−bubble attachment in sparged bioreactors in the presence of cell−protecting addtives、Biotechnol.Bioeng.47、420−430、1995a。
【0081】
Michaels,J.D.、Nowak,J.E.、Malik,A.K.、Koczo,K.、Wason,D.T.、Papoutsakis,E.T:Interfacial properties of cell culture media with cell−protecting additives、Biotechnol.Bioeng.47、407−419、1995b。
【0082】
Mizrahi,A.:Oxygen in human lymphoblastoid cell line cultures and effect of polymers in agitated and aerated cultures、Develop.Biol.Standard 55、93−102、1984。
【0083】
Murhammer,D.W.、Goochee,C.F.:Scale−up of insect cell cultures:protective effects of Pluronic F−68、Biotechnology、6巻、1988。
【0084】
Murhammer,D.W.、Goochee,C.F.:Structural features of non−ionic polyglycol polymer molecules responsible for the protective effect in sparged animal cell bioreactors、Biotechnology Progress、1990。
【0085】
Schurch,U.、Kramer,H.、Einsele,A.、Widmer,F.およびEppenberger,H.M.:Experimental evaluation of laminar shear stress on the behaviour of hybridoma mass cell cultures producing antibodies againt mitochondrial creatinine jinase、J.Biotechnol.7、179−191、1988。
【0086】
Schulz,C.、Vogel,J.H.、Scharfenberg,K.:Influence of Pluronic F−68 on the Ultrafiltration of Cell Culture Supernatants in:Carrondo他(編集)、Animal Cell Technology,From Vaccines to Genetic Medicine、Kluwer Academic Publishers、1997。
【0087】
Vogel,J.H.:「Kontrollierte Scheraffinitatsfiltration:Eine neue Technik zur integrierten Aufarbeitung pharmazeutischer Proteine aus tierischer Aellkultur」、Fortschr.−Ber.VDI Reihe 17、Nr.185、VDI Verlag、Duesseldorf、ISBN 3−18−318517−2、ISSN 0178−9600、1999。
【0088】
Vogel,J.H.、Anspach,B.Kroner,K.−H.、Piret,J.M.、Haynes,C.A.:Controlled Shear Affinity Filtration(CSAF):A New Technology for Integration of Cell Separation and Protein Isolation from Mammalian Cell Cultures、Biotechnology and Bioengineering、78巻、7、806−814頁、2002。
【図面の簡単な説明】
【0089】
本明細に組み入れられかつ本明細の一部を構成する添付図に本発明の現在のところ好適な態様を示しかつ本図をこの上に与えた一般的な説明およびこの上に与えた好適な態様の詳細な説明と一緒に用いて本発明の原理を説明する。
【図1】図1に、典型的なPluronicブロック共重合体を示す。
【図2】図2:Pluronic F−68添加実験の実験組み立て。サンプルを典型的なUF濃縮実験から採取した[1X−50X;50X(最終)サンプルを装置から排出して来る最終的UF濃縮液から採取した]。標準的な細胞培養培地を用いてPluronic F−68の溶液を調製した(0−200g/l)。その結果として25種類の溶液の行列がもたらされ、上澄み液と比較した最終濃度係数は0.5−25倍でありかつPluronic F−68の濃度は0.5から125g/lである(UF中にPluronic F−68が完全に保持されかつ培地中のPluronic F−68濃度が1g/lであると仮定)。
【図3】図3:(a)SDSゲル電気泳動に続く銀染色:(1)=IL−2SA標準(5mg/l);(2)=UF濃縮収穫物(25X);(3)=25Xに遠心分離を受けさせた後の上澄み液;(4)沈澱物を1mlの緩衝液に再溶解させた液;(b)ZAP(抗hIL−2−抗体を用いた染色を受けさせたウエスタンブロット);(1)=濃縮を受けさせていない収穫物;(2)=UF濃縮収穫物(25X);(3)=25Xに遠心分離を受けさせた後の上澄み液;(4)=沈澱物を10mlに再溶解させた液。
【図4】図4:細胞培養培地を用いて調製したPluronic F−68溶液およびいろいろな限外濾過濃縮液の粘度。WFIを用いて培養培地の希釈を導電率が1−1.5mS/cmに到達するように実施した。
【図5】図5:限外濾過を受けさせたいろいろな濃度の培養収穫物にPluronic F−68を添加している時に起こった沈澱(標準的分光光度計を用い、標準的なキュベットを用いて、580nmの所の吸光度の上昇で測定)(また図2も参照)。25X(最終)サンプルの材料は、最終的に排出された濃縮液から採取した材料であった。
【図6】図6:Pluronic F−68添加実験で遠心分離を行った後に残存する総蛋白質(また図2も参照)。25X(最終)サンプルの材料は、最終的に排出された濃縮液から採取した材料であった。
【図7】図7:Pluronic F−68添加実験で遠心分離を行った後に残存する溶液の中のIL−2SA(また図2も参照)。25X(最終)サンプルの材料は、最終的に排出された濃縮液から採取した材料であった。
【図8】図8:Pluronic F−68で沈澱を誘発させた後のかさ高い蛋白質の収率。いろいろな蛋白質濃度の曲線を示す(図2を参照)。25X(最終)サンプルの材料は、最終的に排出された濃縮液から採取した材料であった。
【図9】図9:Pluronic F−68で沈澱を誘発させた後のIL−2SA収率。いろいろな蛋白質濃度の曲線を示す(図2を参照)。25X(最終)サンプルの材料は、最終的に排出された濃縮液から採取した材料であった。
【図10】図10:(a)膜表面の所に保持されている溶質の濃度プロファイル(図式的)、(b)交差流濾過中の圧力分布の不均一さそしてその結果として起こる透過流量不均一さ(Vogel他、2002による)、「TMP」は膜貫通圧力。
【図11】図11:Pluronicによって誘発されて沈澱した総蛋白質およびIL−2SAそして導電率の低下による沈澱減少(添加実験)。低導電率=1−1.5mS/cm。
【図12】図12:透析濾過を受けさせた低導電率の濃縮液に塩を添加した時のかさ高い蛋白質の沈澱に対する影響。
【図13】図13:pHが沈澱に対して示す影響。UF/DF/UFの75X濃縮液のpHを段階的に下げる目的で濃燐酸を用いた。
【図14】図14:異なる2種類のpHに関して導電率が沈澱に対して示す影響(濃燐酸を添加することでpHを6.0に調整)。両方の場合ともUF/DF/UFの75X濃縮液を用いた。
【図15】図15:本発明の好適な態様に従うUF/DF/UF単離工程計画。
【図16】図16:本発明のUF/DF/UF単離工程計画を通常のUF工程と比較した時の性能。
【図17】図17:本新規UF/DF/UF単離工程計画によって生じさせた濃IL−2SAバルク(bulk)が示した濾過性を通常のUF/DF方法のそれと比較。
【図18】図18:高いPluronic F−68濃度(75g/l)がIL−2SAとカチオン交換樹脂SP Sepharose FF(Amersham Pharmacia Biotech)の結合に対して示す影響。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
巨大分子と有機重合体を含んで成る溶液成分が入っている出発水溶液から巨大分子を濃縮する方法であって、(1)前記出発水溶液に限外濾過を受けさせて前記巨大分子を濃縮することで1番目の保持液を生じさせ、(2)前記1番目の保持液の導電率を前記有機重合体によって誘発される前記溶液成分の沈澱が実質的に防止されるか或は実質的に逆転するように調整することで2番目の保持液を生じさせ、そして(3)前記2番目の保持液に限外濾過を受けさせて前記巨大分子を更に濃縮することで濃縮溶液を生じさせることを含んで成る方法。
【請求項2】
前記導電率を水、適切な希釈剤または緩衝液に対する透析濾過で調整する請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記1番目の保持液の導電率を22℃で測定して約6mS/cm未満に調整する請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記1番目の保持液の導電率を22℃で測定して約0.5から5mS/cmの範囲に調整する請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記1番目の保持液の導電率を22℃で測定して約1.0から1.5mS/cmの範囲に調整する請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記有機重合体が非イオン性ブロック共重合体である請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記有機重合体がPluronic(商標)F−68ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体である請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記巨大分子が蛋白質である請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記出発溶液が哺乳動物または昆虫細胞培養上澄み液を含んで成る請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記濃縮溶液の前記巨大分子濃度の方が前記出発溶液のそれよりも少なくとも50倍高くなるようにする請求項1記載の方法。
【請求項11】
前記濃縮溶液の前記巨大分子濃度の方が前記出発溶液のそれよりも少なくとも100倍高くなるようにする請求項1記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図3】
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【公表番号】特表2006−504525(P2006−504525A)
【公表日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−550265(P2004−550265)
【出願日】平成15年11月1日(2003.11.1)
【国際出願番号】PCT/US2003/034522
【国際公開番号】WO2004/042012
【国際公開日】平成16年5月21日(2004.5.21)
【出願人】(503106111)バイエル・ヘルスケア・エルエルシー (154)
【Fターム(参考)】