説明

巨大環状のキレート化剤によるビオチンジアミノ誘導体およびその複合体

各基が明細書に定義されている式(I)の化合物、その調製方法、および、ヒトおよび動物の治療および診断、特に腫瘍などの病状の診断および治療のための放射性核種との複合体の調製のためのその使用を記載する。


(I)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書において記載する本発明は、ヒトおよび動物の診断および治療、特に腫瘍などの病状の診断および治療に使用される放射性核種との複合体の調製に有用な修飾ビオチンに関する。
【背景技術】
【0002】
腫瘍療法は、主に癌細胞の破壊を目的とする物質の使用によって行われている。これは、その効果を完全に発揮するために腫瘍細胞に侵入しなければならない細胞毒性物質、または細胞を殺傷するのに十分なエネルギーの照射による腫瘍細胞の処理の手段によって達成され得る。両方の場合において問題となるのは、周囲の健康な細胞を損傷させてしまわないように、できる限り標的細胞に該物質を選択的に送達することである。放射性医薬品、即ち放射性部分を有する物質の場合には、体内での放射性核種の拡散または腫瘍の周囲の健康な細胞との相互作用を出来る限り避けるため、該活性部分(即ち放射性部分)の腫瘍標的への選択的な送達の問題が特に重要であると考えられる。
【0003】
今日までのこの関係する問題点および提案されている解決法に関する議論については、NeoRx社に譲渡された、米国特許第5283342号、5608060号および5955605号を参照されたい。
【0004】
これらの記述においては、特に放射性核種を担持する分子の、身体の代謝的攻撃に対する耐性の問題が論じられている。具体的には、ビオチン分子が最も注目されており、これはアビジンとの相互作用がよく知られているため、腫瘍細胞への放射性核種の送達のためにまず選択されるものの1つである。ビオチンは、放射性核種-キレート化部分、例えばテトラ−アザシクロドデカンテトラ酢酸[DOTA]分子に、リンカーを介して結合する。ビオチン−DOTA複合体の使用に関連する主要な問題の一つは、リンカーを介して放射性核種と結合した場合、ビオチン分子を含有する錯体のビオチニダーゼに対する耐性である。ビオチニダーゼは該複合体中に存在するペプチド結合を切断する酵素である。このペプチド結合は、キレート化剤とビオチンとの結合から生じる。
【0005】
特に望ましいその特性のなかで、この複合体は、迅速かつ効率的に体外へと除去されなければならず、また、それが腫瘍細胞に結合する細胞外体液中へ容易に分布できるように十分に小さく(分子量<1000)なければならない。さらに、それは非腫瘍細胞による取りこみが最小となるようなインビボでの安定性および迅速な(腎)クリアランスが立証されていなければならず、また代謝されてはならない。
【0006】
さらに、キレート化部分は、インビボで放出されてはならない、即ち身体内で強力な毒性化合物を放出してはならない。当業者であれば、様々なタイプの放射能および高エネルギー照射をもたらし、それゆえ高度に障害性の、身体にとって完全に異物である金属イオンを含む、キレート化部分による放射性核種の放出の問題に精通しているであろう。
【0007】
同出願(WO 02/066075)からの先の特許出願において、我々は、結合、安定性および親和性試験と共に、新規ビオチン-DOTA複合体の合成を行った。新規複合体の新規性は、アミドカルボキシル基をメチレン基へと還元し、こうしてN−アミノヘキシルビオチンアミド誘導体(r-BHD)を生成させる、ここで該アミドは、Av/Sav結合に関与するビオチンの側鎖の長さに影響せずに二級アミンに変換されたことであった。この化合物におけるDOTAリガンドを、4つのN−酢酸アームの一つを介して還元したビオチン-ヘキサメチレンジアミン誘導体のアミノ基に直接結合させた。
【0008】
さらに、r−BHDの合成の柔軟性により、より強い放射線を腫瘍に送達させることにより標的化放射線療法の効率を高める目的でもって、多様な新規ビオチン誘導体、例えばビオチンの側鎖に結合した2つのDOTAキレート形成剤を有する誘導体、を生成することができる。
【0009】
Axworthy Donald B.らによる米国特許出願2004/0241172は、ベンジル基を介してDOTA分子の中心に直接結合される、特異的リンカーによって2つのDOTA基を組み込んでいるビオチン誘導体を開示している。DOTA基のこの修飾により、キレート化部分の結合能力を低下させることができた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
放射線/用量の比率を改良するために、新規ビオチン誘導体の新規のクラスを設計し、合成した。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(発明の詳細な説明)
本発明の主な目的は、高比率の放射線/用量の要件を満たす新規ビオチン誘導体を提供することである。
【0012】
特に、本発明は、ビオチン分子あたりに2つのキレート基を担持する新規分類のビオチン誘導体に関する。
【0013】
この方法では、ビオチン誘導体の同一モル量を用いると、腫瘍細胞に到達する放射活性は二倍である。
【0014】
本明細書に記載の本発明の目的の一つは、下記のような式(I)の化合物である:
【化1】

(I)
{式中、
Aは、CH2またはCOである;
Bは、H、CHOまたはCOOHである;
但し、
AがCH2である場合、Qは-(CH2)n-基(ここで、nは4〜12の整数である)であり、この場合Rが存在しない;
AがCOである場合、Qは-(CH2)a-CH(R−)-(CH2)b-(ここで、aおよびbは、独立して0〜n−1の整数であり、そしてRは下記のとおりに規定される)からなる群から選択される;
Wは、C-C12アルキレンまたはC2-C12アルケニレン直鎖または官能化ポリエチレングリコールであるか;またはC-C10芳香族基であるか;またはグリコフラノース残基である;または
Wは、単独または、−(CH2)C-NHR’および-(CH2)d-NHR”鎖を支持する窒素原子と共に、O、N、Sから選択される1以上のヘテロ原子を含有する5または6員環を有する複素環基である;
Wが芳香族残基、複素環基または糖部分である場合、-(CH2)-NHR’および-(CH2)d-NHR’’鎖を支持する窒素原子は存在していなくてもよく、該-(CH2)-NHR’および-(CH2)d-NHR”鎖は、直接または独立して、芳香族環および複素環の炭素または窒素原子に結合しているか、またはグリコフラノース基の酸素原子に結合している;
cおよびdは、独立して、3〜10の整数である;
R’およびR”は、独立して-Λであり、ここで-Λは式(II)の巨大環である:
【化2】

(II)
[式中、
Yは、同一または異なっており、水素、直鎖または分枝鎖C-C4アルキル、-(CH2)m-COOH(ここで、mは1から3の整数である)からなる群から選択される;
Xは、水素または−CH2−U基(Uは、メチル、エチル、p-アミノフェニルから選択される)であるか;または
Xは−(CHJ)o−Z基(ここで、oは1から5の整数であり、Jは水素、メチルまたはエチルであり、Zは、O、N−R(ここで、Rが水素原子または直鎖または分枝鎖C-C4アルキル基である)およびSから選択される1以上のヘテロ原子を含む5または6員環を有する複素環基であるか、またはZは、-NH2、-NH−C(=NH−)-NH2、または-S−R2(R2は直鎖または分枝鎖C-C4アルキル基である)から選択される;
pは、2または3の整数である;
Rは、直鎖または分枝鎖C-C4アルキル、シクロアルキル、複素環または-(CH2)q-T(ここで、Tは、S−CH3、-OHまたは-COOHからなる群から選択され、qは0、1または2の整数である)からなる群から選択される]}。
【0015】
「直鎖または分枝鎖C-C4アルキル基」とは、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、イソ−ブチルまたはter−ブチルの意味である。
【0016】
「五員環または六員環の複素環」とは、例えば、2−、3−または4−ピリジルまたは2−、4−または5−イミダゾリルなどの、環中にO、N−R、またはSから選択される少なくとも1つのヘテロ原子を有する芳香族または非芳香族複素環の意味である。
【0017】
キレート化部分の結合能力を低下させる本発明の好ましい化合物の第1のグループは、式(I)の化合物において、AはCHであり、Bは水素であり、Qは-(CH−(ここで、nは4〜8の整数、好ましくは6である)であり、cおよびdは共に3または6であり、R’およびR’’は−Λ(ここで、Yは常に−CH−COOHであり、Xは水素であり、pは2である)である。
【0018】
本明細書において記載する本発明のさらなる目的は、診断および/または治療用の放射性同位元素を有する式(I)の化合物である。これら同位元素の例としては、以下のものが挙げられる:Fe−52、Mn−52m、Co−55、Cu−64、Ga−67、Ga−68、Tc−99m、In−111、I−123、I−125、I−131、P−32、Sc−47、CU−67、Y−90、Pd−109、Ag−111、Pm−149、Re−186、Re−188、At−211、Bi−212、Bi−213、Rh−105、Sm−153、LU−177、およびAU−198。
【0019】
本発明による好適な錯体の第1のグループは、式(I)の化合物において、AがCH、BがH、Qが−(CH−であり、ここでnは4〜8の整数、好ましくは6であり、cおよびdは共に3または6であり、R’およびR’’は−Λであり、Yは常に−CH−COOHであり、Xは水素であり、pは2であり、そして放射性同位元素がY−90である。
【0020】
本明細書において記載する本発明のさらなる目的は、式(I)の化合物およびその放射性医薬品との錯体の調製方法である。
【0021】
本明細書において記載する本発明のさらなる目的は式(I)の化合物および上記のその錯体を含む医薬および/または診断組成物である。
【0022】
本明細書において記載する本発明の別の目的は、式(I)の化合物およびその放射性同位元素との錯体の、医薬または診断手段として、特に腫瘍の治療または診断に有用な医薬の調製のための使用である。
【0023】
これらおよびその他の本明細書に記載する本発明に関する目的を以下の部分および実施例において詳細に記載する。
【0024】
本明細書において記載する本発明の化合物は以下のスキームによって調製でき、これは以下の工程を含む:
a)ビオチンのカルボキシル基とHN−Q−NHジアミンの一級アミン基との間にアミド結合を形成し、もう一方の、一級アミン基は、必要であれば、例えばBoc基により好適に保護する;あるいは、別法として、このカップリングは、好適に保護されたω-アミノ基であるα,ω-ジアミノ酸(即ちLys)のα−α−NH2基を用いて行うことができる、
b)一級アミン基の脱保護;
c)アミド基からアミン基への還元、AがCHである場合;
d)アミンと、操作する当業者には既知の方法によって調製される式(III)
【化3】

(III);
(式中、VおよびLは好適な保護基であり、およびcおよびdは、独立して3〜10の範囲である)のN保護されたN,N−ビス-置換グリシンアミンとのカップリング;
e)所望の式(II)のキレート化剤−Λとの結合。
【0025】
ビオチンは市販の製品であり、アミノ酸としてはLysである。HN−Q−NHジアミンは市販されており、またいずれにしても少なくとも公知の方法により調製できる。
【0026】
一級アミン基の保護は、例えばBocまたはFmocなどの公知の保護基を用いて簡単に達成でき、保護基は少なくとも文献に報告されているものの中から見出され得る(例えば、T. W. Greene, P. G. M. Wuts,"Protective groups in organic synthesis", 3rd Ed., J. Wiley & Sons, Inc., New York, 1999; Handbook of Reagents for Organic Synthesis,"Oxidizing and Reducing Agents", Edited by S. D. Burke and R. L. Danheiser, J. Wiley & Sons, Inc., New York, 1999を参照されたい)。
【0027】
あるいは、AがCO基であるなら式(I)の化合物は、工程c)を除いた上記スキームに従って調製できる。
【0028】
ビオチンの−COOH基の活性化は、ペプチド合成の公知の方法(P. Lloyd-Williams, F. Albericio, E. Giralt,"Chemical Approaches to the Synthesis of Peptides and Proteins", CRC Press, Boca Raton, New York, 1997)に従って達成できる;カップリングが、α,ω-ジアミノ酸(即ち、Lys)を用いて行い得るなら、この反応を適当な樹脂上にアミノ酸を固定し、次いで固相ペプチド合成技術において既知の方法に従って実施できる。
【0029】
本明細書の本発明によって構想される錯体を生成するために、本発明による化合物と放射性同位元素との結合は、当該技術分野で公知の従来法を用いて行うことが出来る。例えば、Paganelli, Chinol et al. European Journal of Nuclear Medicine Vol. 26, No 4; April 1999;348-357に記載されている。
【0030】
本発明の好ましい化合物の一つは、化合物において、AはCH2基であり、Qは−(CH2)n-であり(ここで、nは6であるのが好ましく)、c=dは3または6であり、R’=R’’はΛ(ここで、mは1であり、Yは常に-CH2-COOHであり、Xは水素であり、pは2である)である。(DOTAキレート化剤)。
【0031】
この好ましい化合物を調製するための方法は下記の工程を含む:
a)ビオチンのカルボキシル基と、所望により例えばBoc基で好適に保護されたヘキサメチレンジアミンの一級アミン基との間のアミド結合の形成;
b)ヘキサメチレンジアミンのアミン基の脱保護;
c)アミド基からアミン基への還元;
d)式(III)アミン(c=d=3または6、V=LがFmoc保護基である)との結合、
e)得られたアミンの脱保護
f)キレート化剤−Λとの結合。
【0032】
本明細書に記載の本発明の方法における工程a)は、ビオチンカルボキシル基とヘキサメチレンジアミン−Bocの一級アミン基との間のアミド結合の形成である。ビオチンをHATUで処理して、ヘキサメチレンジアミン−Bocのアミン基と反応させて系内で非常に活性なエステルを形成し、対応するアミドを形成する。固相でのペプチド合成にとりわけ用いられるこの活性化機構は、塩基性媒体を必要とする。塩基が活性のエステルと反応することを防ぐために、ジ−イソプロピルエチルアミン(DIPEA)またはN−メチルモルホリン(NMM)などの三級有機塩基を用いる。ヘキサメチレンジアミンの2つのアミン基のうち1つのBoc(ter−ブチルオキシカルボニル)による保護は、ジアミン鎖の両末端に対するビオチンの結合を防ぐために必要である。最終生成物は、溶媒(DMF)の蒸発および水による沈殿の後に反応媒体から単離される。生成物をプロパノールにより再結晶させて、H−NMR、元素分析およびESI−MSによって特徴付けを行った。反応収率はおよそ88%である。
【0033】
工程b)において、ビオチニル−ヘキサメチレンジアミン−BocをAcOEt/HCl、およそ3Mの混合物に可溶化し、Boc基を脱離させる。溶媒混合物の除去後に、生成物を凍結乾燥して完全にHClを除去した。試料を塩基性pHの水性溶液による再結晶化によって精製し、H−NMRおよびTLCによって特徴付けた。
【0034】
工程c)においてBHTHFによってアミド基の還元を行った。還元剤は非常に反応性があるので、工程は無水条件で行わなければならない。開始物質を反応前に真空下に保ち、次いで無水THF(ナトリウムおよびベンゾフォンで希釈した)に溶解した。反応混合物を、アミド基の完全な還元が起こるまで(H−NMRスペクトルによってモニターして)、窒素雰囲気下で還流した。減圧下で溶媒を蒸発させた後、反応混合物をHCl水溶液で処理した。酸性溶液の凍結乾燥後、生成物を塩基性pHの水溶液からの再結晶により、次いで逆相カラムクロマトグラフィーにより精製した。生成物の分析を分析TLCによって行ったところ純粋であった。反応収率はおよそ55%である。
【0035】
工程d)は、溶媒としてNMP中でHATU/NMMとの活性化による、還元したビオチニル−ヘキサメチレンジアミンと保護アミン(III)との結合反応を提供した。
工程e)において、塩基性ピペリジンを用いて、Fmoc基を除去した。
【0036】
工程f)は、2つのDOTA基のカップリングを提供するものであって、これは水性媒体におけるアミド結合形成のための特異的試薬:1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミド塩酸塩(EDC)およびスルホ−NHSを用いて行った。DOTA(ビオチン誘導体に対して4モル等量)を水に溶解して、4つのカルボキシル基のうち1つを主に活性化するために好適なpHに調整した(G. Sabatino, M. Chinol, G. Paganelli, S. Papi, M. Chelli, G. Leone, A. M. Papini, A. DeLuca and M. Ginanneschi, J. Med. Chem. 2003, 46, 3170-3173)。このようにして、副生成物を生成させる可能性を減らすことが出来る。この塩基性溶液に、スルホ−NHSおよび最後にEDCを添加した。系内での活性エステルの形成後、還元したビオチニル−ヘキサメチレンジアミンのN,N−ビス-アルキルアミノグリシン誘導体を添加し、溶液のpHがおよそ7.5に保たれていることを確認した。粗生成物の予備精製をSPE(固相抽出)により為し、粗生成物の精製を半 分取RP−HPLCによって行った。
【0037】
本明細書において記載する本発明の目的は、活性成分として少なくとも1つの式(I)の化合物を含有する医薬または診断組成物である。これは放射性同位元素との錯体の形態であってもよく、本明細書において記載する疾患の処置に有用なその他の活性成分、例えば抗癌活性を有するその他の物質と組み合わせた式(I)の化合物の場合、別々の用量形態であっても併用療法に好適な形態であってもよい。本発明による活性成分は、医薬技術分野で通常用いられる好適なビヒクルおよび/または賦形剤、例えば"Remington's Pharmaceutical Sciences Handbook"最新版に記載のものなどとの混合物の形態であってもよい。本発明の組成物は、治療的に有効な量の活性成分を含むものである。用量は、当業者、例えば臨床医または一次診療医であれば、治療すべき疾患の型および患者の病状、あるいは同時にその他の活性成分の投与に応じて決定することが出来る。
【0038】
医薬組成物の例は、非経口または局所投与できるものである。この目的に好適な医薬組成物は、溶液、懸濁液または使用時に再構成される凍結乾燥形態である。
【0039】
本発明の工業的適用に好適な形態は、例えば欧州特許第0496074号、Paganelli, Chinol et alによる論文. the European Journal of Nuclear Medicine Vol. 26, No 4; April 1999; 348-357, 米国特許第5968405号および関連文献に記載のような癌の放射線治療用のキットである。
【0040】
本明細書に記載した本発明のさらなる目的は、放射能による腫瘍の治療または診断用キットである。これは該キットの構成成分の少なくとも1つが、式(I)の化合物または好適な放射性同位元素とのその錯体の1つを含むことを特徴とする。
【0041】
本発明の化合物は、腫瘍の治療および診断のための治療薬および/または診断薬の調製に有用である。
【0042】
診断用および/または治療用用途のための放射性同位元素との結合(前述のように)に供する本発明の化合物は、様々な医薬的用途のためのアビジンコロイドの放射標識調製物に有用である。
【0043】
これらは、例えば欧州特許第0496074号、Paganelli, Chinol et al.による論文 the European Journal of Nuclear Medicine Vol. 26, No 4; April 1999; 348-357、米国特許第5968405号および関連文献に記載のものなどの抗癌放射性医薬品による腫瘍治療方法に利用できる。
以下の実施例において本発明をさらに詳細に記載する。
【実施例】
【0044】
実施例
BisDOTA−C3の調製-化合物4
化合物4の調製を、明細書に記載した工程に従って実施した。
還元したビオチンアミドヘキシルアミン(r−BHD)の合成−化合物1
化合物1の詳細な合成方法および物理化学的特性は、G. Sabatino, M. Chinol, G. Paganelli, S. Papi, M. Chelli, G.Leone, A. M. Papini, A. De Luca, and M. Ginanneschi, J. Med. Chem., 2003, 46, 3170-3173による論文にて報告されている。本明細書中で報告した生成物のNMRスペクトルを、DMSO−d溶液中でVarian 400にて記録した。実施例のN,N−bis[3-(Fmoc−アミノ)プロピル]グリシンを、硫酸カリウム塩としてFluka(Switzerland)より購入した。
【0045】
r−BHD複合体とN,N−bis[3-アミノ)プロピル]グリシンとの合成−化合物2
HATU(66.5 mg, 0.175 mmol, 0.7mole等量)のNMP(0.5 mL)溶液を、NMP(1 mL)中のN,N-bis[3-(Fmoc−アミノ)プロピル]グリシン硫酸カリウム(115.5 mg, 0.15 mmol, 0.6 mole eq.)およびNMM(33.05μL,0.3 mmol, 1.2 mole 等量)に添加した。この溶液を、5分間、NMM(27.5μL, 0.25 mmol, 1 mole等量)を含有するNMP(5 mL)中のr−BHD(化合物1)(100mg, 0.25 mmol)懸濁液に滴加した。反応混合物を室温で攪拌し、RP−HPLC(溶出:Bが30%〜100%、20分間;tR =13.4分間)による反応を追跡する。2.5時間後に、化合物1(57.7 mg, 0.08 mmol, 0.3 mole 等量)を反応混合物に再び添加した。2.5時間後に、この反応を停止させ、該溶媒を減圧下で蒸発させた。黄橙色油状物を、攪拌下に0℃で水に懸濁させ、RP−CC(Lichroprep RP-8, 40-63 μm;170x20mm;溶出:CH3CN/H2O/HCl=50:50:0.1, 1 mL/分)によって精製された白色沈殿物を得て、化合物2(130 mg; 55%収率)を得る。該Fmoc−保護されたビス-アミノ誘導体(化合物2)は、T.L.C.分析(CH3CN/H2O/HCl=50:50:0.1)により、純粋であることを確認した。1HNMR (200 MHz, DMSO):δ 9.63 (br s, 1H), 8.64 (br s, 3H), 7.87 (d, 4H), 7.65 (d, 4H), 7.43-7.27 (m, 8H), 6.41 (d, 2H), 4.31-4.14 (m, 8H)HNMR (200 MHz, DMSO): δ 9.63 (br s, 1H), 8.64 (br s, 3H), 7.87 (d, 4H), 7.65 (d, 4H), 7.43-7.27 (m, 8H), 6.41 (d, 2H), 4.31-4.14 (m, 8H3.85 (s, 2H), 3.14-3.03 (m, 11H), 2.82-2.76 (m, 4H), 2.6 (d, 2H), 1.76-1.25 (m, 20H) ESI-MS (m/e): 計算値[M+H]944.5, 実測値944.5.
【0046】
Fmoc−保護されたビス-アミン 誘導体(化合物2)(88 mg, 0.09 mmol)を、25%のピペリジン(5 mL)を含有するDMFに溶解した。該溶液を、攪拌しながら室温で6時間保持し、RP−HPLC(Bが30から100%、20分間;tR =16.7分間)により反応を追跡する。次いで、該反応混合物を減圧下で蒸発させ、粗製油を最小量のMeOHに溶解させ、Et2Oで沈殿させた。回収した固体を、エーテルで2回洗浄し、水に溶解させ、凍結乾燥し、SPE(固相抽出;LiChroprep RP-18,25-40μm;170x20 mm;溶出:H2O100%-MeOH4−100%)によって精製した白色生成物を得た。溶出画分を回収し、凍結乾燥させて、脱保護ビス-アミン(化合物3)(30mg, 75%収率)を得る。1HNMR (200 MHz, CDCl3):δ 8.12 (br s, 2H), 6.45 (s, 2H), 4.26 (m, 1H), 4.12 (m, 1H), 3.59-2.95 (m, 7H), 2.95-2.70 (m, 12H), 2.50 (d, 2H), 1.80-1.20 (m, 20H) ESI-MS (m/e): 計算値[M+H]443.6, 実測値443.1.
【0047】
ビスDOTA−C3化合物4を得るための化合物3と活性化したDOTAの複合体
スルホ-NHS(26 mg, 0.12 mmol)を、H2O(0.750 mL)中のDOTA・0.31HO(49.2 mg, 0.12 mmol)溶液に添加した。次いで、pHを、0.1M NaOHを用いて6.5に調整し、H2O(0.5 mL)中のEDC(23 mg, 0.12 mmol)溶液を0℃で滴加した。反応混合物を、0℃で30分間攪拌し、次いで化合物3(15 mg, 0.03 mmol)のH2O溶液(0.750 mL, pH7.8)を5分間滴加した。
該反応を、RP−HPLC(Bが5〜100%、30分間;tR=16.4分間)により確認した。
2時間後、反応混合物を凍結乾燥し、粗製化合物をSPEによって予備精製した(固相抽出;LiChroprep RP−18, 25-40 μm;15x65 mm;溶出:a)HO;b)H2O中の4% MeOH;c)100% MeOH。抽出した分画物のHPLC試験により、化合物4が主に画分c中に存在することが判った。メタノール溶液を蒸発させ、該生成物をRP−HPLC(Bが5〜30%、30分間:tR=16.4分間)によって精製し、純粋なビスDOTA(化合物4)(15 mg, 24%収率)を白色固体として得た。
ESI-MS: m/e 計算値[M+H]+ 1272.7, 実測値1272.7;[M-H]1270.7, 実測値,1270.9. 分析(C56H101N15O16S・6TFA・5H2O) C, H, N.
【0048】
標識試験、放射化学的純度および血清安定性試験を、上記実施例に示した化合物について行った。
標識試験を、ビスDOTA−CのMilliQ水溶液(2mg/mL)を用いて行った。1.0 mM 酢酸ナトリウム緩衝液(pH 5.0)をビスDOTA−C3に添加し、続いて1mCi/7.2μgの比活性の放射性同位元素の塩化物溶液(MCl3, M=111In、90Y、177LU)を加えた。最後に、これらの溶液を95℃で30分間インキュベートした。
【0049】
放射化学物質の純度(RCP)を決定するために、Silica Gel Instant Thin Chromatography (ITLC-SG)を使用した。放射標識された混合物のアリコートを、モル過剰のアビジンおよびDTPAに添加し、次いで液滴をITLCストリップ上に染み付けて、生理食塩水にて展開させた。該ストリップを、Radio-TLC装置によって分析した;この系において、ビスDOTA−C3およびアビジンによって形成した錯体は元のままであったが、結合していない放射性金属はDTPAによって錯体化され、溶媒最前部と共に移動した。得られたRCP値は通常>96%であった。
【0050】
安定性アッセイを、ラジカルスカベンジャーとしてアスコルビン酸(AA)を用いたものと、用いないものにより行った。標識した分子からのアリコートを、4倍量の生理食塩水またはAA溶液(1.0M 酢酸ナトリウム緩衝液中で4 mg/mL,pH5.0)と共に37℃でインキュベートした。安定性試験を、24および48時間行い、RCPを前記したとおりのITLC−SG方法を用いて計算した。この結果から、AAの存在下において放射性標識したM−ビスDOTA−C3は48時間まで放射性分解に対して安定であることが判った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】


(I)
{式中、
Aは、CH2またはCOである;
Bは、H、CHOまたはCOOHである;
但し、
AがCH2である場合、Qは-(CH2)n-基(ここで、nは4〜12の整数である)であり、この場合Rが存在しない;
AがCOである場合、Qは-(CH2)a-CH(R−)-(CH2)b-(ここで、aおよびbは、独立して0〜n−1の整数であり、そしてRは下記のとおりに規定される)からなる群から選択される;
Wは、C-C12アルキレンまたはC2-C12アルケニレン直鎖または官能化ポリエチレングリコールであるか;またはC-C10芳香族基であるか;またはグリコフラノース残基である;または
Wは、単独または、−(CH2)C-NHR’および-(CH2)d-NHR”鎖を支持する窒素原子と共に、O、N、Sから選択される1以上のヘテロ原子を含有する5または6員環を有する複素環基である;
Wが芳香族残基、複素環基または糖部分である場合、-(CH2)-NHR’および-(CH2)d-NHR’’鎖を支持する窒素原子は存在していなくてもよく、該-(CH2)-NHR’および-(CH2)d-NHR”鎖は、直接または独立して、芳香族環および複素環の炭素または窒素原子に結合しているか、またはグリコフラノース基の酸素原子に結合している;
cおよびdは、独立して、3〜10の整数である;
R’およびR”は、独立して-Λであり、ここで-Λは式(II)の巨大環である:
【化2】

(II)
[式中、
Yは、同一または異なっており、水素、直鎖または分枝鎖C-C4アルキル、-(CH2)m-COOH(ここで、mは1から3の整数である)からなる群から選択される;
Xは、水素または−CH2−U基(ここで、Uは、メチル、エチル、p-アミノフェニルから選択される)であるか;または
Xは−(CHJ)o−Z基、ここでoは1から5の整数であり、Jは水素、メチルまたはエチルであり、Zは、O、N−R(ここでRは水素原子または直鎖または分枝鎖C-C4アルキル基である)およびSから選択される1以上のヘテロ原子を含む5または6員環を有する複素環基であるか、またはZは、-NH2、-NH−C(=NH−)-NH2または-S−R2(ここでR2は直鎖または分枝鎖C-C4アルキル基である)から選択される;
pは、2または3の整数である;
Rは、直鎖または分枝鎖C-C4アルキル、シクロアルキル、複素環または-(CH2)q-T(ここで、Tは、S−CH3、-OHまたは-COOHからなる群から選択され、qは0、1または2の整数である)からなる群から選択される]}
の化合物。
【請求項2】
独立して、AはCH2であり、BはHであり、Qは-(CH)n-(ここで、nは4〜8の整数、好ましくは6の整数である)であり、cおよびdは両方3または6であり、R’およびR”は−Λ(ここで、Yは常に-CH2-COOHであり、Xは水素であり、pは2である)である、請求項1記載の式(I)の化合物。
【請求項3】
放射性同位元素を有する、請求項1または2記載の式(I)の化合物の錯体。
【請求項4】
放射性同位元素が、Fe−52、Mn−52m、Co−55、Cu−64、Ga−67、Ga−68、Tc−99m、In−111、I−123、I−125、I−131、P−32、Sc−47、CU−67、Y−90、Pd−109、Ag−111、I−131、PM−149、Re−186、Re−188、At−211、Bi−212、Bi−213、Rh−105、Sm−153、LU−177およびAU−198からなる群から選択される、請求項3記載の錯体。
【請求項5】
Qが-(CHn−であり、nが4〜8の整数、好ましくは6であり、Yが-CH-COOHであり、放射性同位元素がY−90である、請求項3または4記載の錯体。
【請求項6】
請求項1または2に記載の化合物を好適なビヒクルおよび/または賦形剤との混合物中に含有する、医薬および/または診断組成物。
【請求項7】
腫瘍の治療に有用な薬剤の調製のための、請求項1または2記載の化合物の使用。
【請求項8】
請求項3、4または5のいずれかに記載の錯体を好適なビヒクルおよび/または賦形剤との混合物中に含有する、医薬および/または診断組成物。
【請求項9】
抗癌放射性医薬品としての請求項3、4または5のいずれかに記載の錯体の使用。
【請求項10】
キットの少なくとも1つの成分が請求項1記載の化合物または請求項3記載の錯体を含有することを特徴とする、腫瘍の放射線治療または診断のためのキット。

【公表番号】特表2009−510009(P2009−510009A)
【公表日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−532721(P2008−532721)
【出願日】平成18年9月18日(2006.9.18)
【国際出願番号】PCT/EP2006/066440
【国際公開番号】WO2007/039437
【国際公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【出願人】(591043248)シグマ−タウ・インドゥストリエ・ファルマチェウチケ・リウニテ・ソシエタ・ペル・アチオニ (92)
【氏名又は名称原語表記】SIGMA−TAU INDUSTRIE FARMACEUTICHE RIUNITE SOCIETA PER AZIONI
【Fターム(参考)】