説明

差動ケースの内面加工方法及び内面加工装置

【課題】差動ケースをチャック機構に把持したままの状態で、差動ケース内の複数箇所の内面を正確に加工することができる差動ケースの内面加工方法と、その方法の実施に適した差動ケースの内面加工装置とを提供する。
【解決手段】差動ケース10の中心線Cを回転軸線として一体回転可能なチャック機構30を用いて、差動ケース10を把持する。チャック機構30及び差動ケース10の回転時に、チャック機構30側のセンターシャフト42及びサドル100側のシャフト101によってギア収納室11内にて挟着支持された平面カッター202で一対のギア用平面座15を形成する平面座加工、並びに、右側円筒部13から挿入したロングバイトで各円筒部12,13の内周面を切削加工する内周面加工を行う。その後、チャック機構30から差動ケース10を取り外し、別の装置で差動ケース10の他の内外面に加工を施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、差動装置の一構成要素である差動ケース(いわゆるデフケース)の内面を加工するための内面加工方法及び内面加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車の駆動力伝達系を構成する一装置として、左右の駆動輪あるいは前後の駆動車軸の回転数差を吸収して円滑な転がり走行を実現するための差動装置が知られている。差動装置の本体である差動ケースは、内部にギア収納室が区画形成された中空なケース体として構成され、そのギア収納室には複数種のギアが複雑に組み込まれる。このため、差動ケースが完成するまでには様々な内面加工が施される。より具体的には、上下一対の傘歯車状ピニオンギアを回転可能に支持するための上下一対の球面座、左右一対の傘歯車状サイドギアを回転可能に支持するための左右一対の平面座、車軸を挿通するために差動ケースの左右に開口した円筒部(円筒状支持部)の内周面などの各種内面が、差動ケースの内部に加工形成される。
【0003】
一般に、差動ケースの内外面の加工に際しては複数種の旋盤やマシニングセンターが工程ごとに使い分けられている。例えば、内面加工に限ってみても、差動ケース左側の円筒部の内周面を加工するのに旋盤Aを使用し、差動ケース右側の円筒部の内周面を加工するのに旋盤Bを使用し、差動ケース内の左右の平面座を加工するのにマシニングセンターCを使用し、差動ケース内の上下の球面座を加工するのにマシニングセンターDを使用するといった具合である。このように、工程毎にワークである差動ケースを新たな旋盤やマシニングセンターに付け替える作業(チャッキング)が頻繁に生じるため、全工程を通じた作業効率は決して高いものではなかった。また、チャッキングの回数が多くなるほど、被加工面間の相対位置精度の低下を助長する。本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものである。
【0004】
尚、本件出願人の先行技術調査では、差動ケース内のピニオンギア用球面座の加工方法に関する先行技術文献としては特許文献1、2及び3が、又、差動ケース内のサイドギア用平面座の加工方法に関する先行技術文献としては特許文献4がそれぞれ発見された。但し、特許文献1〜3の技術はいずれも、球面座の正確な加工形成を目的としたものである点で本発明とは明らかに異なる。また、特許文献1〜4の技術はいずれも、ワークである差動ケースを固定的に把持し切削工具類を回転駆動させることで内面加工を行う点で本発明とは明らかに異なる。
【0005】
【特許文献1】特開2004−90181号(差動装置のデフケースの製造方法)
【特許文献2】特開2005−125473号(デフケースの加工方法)
【特許文献3】特開2005−34974号(中空ワークの内面加工方法)
【特許文献4】特開2005−7534号(ワーク加工機及びワーク加工方法)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ワークである差動ケースをチャック機構に把持したままの状態で、差動ケース内の複数箇所の内面を正確に加工することができる差動ケースの内面加工方法を提供することにある。また、その方法の実施に適した差動ケースの内面加工装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、ギア収納室と、その両側に位置すると共にケースの中心線(C)に沿って延びる二つの円筒部とを有する差動ケースに対して内面加工を施す方法であって、差動ケースの中心線(C)を回転軸線として差動ケースと共に一体回転可能なチャック機構を用いて、差動ケースを把持した後、前記チャック機構及び差動ケースの回転時に、差動ケースの一方の円筒部に挿入した第1のシャフト及び差動ケースの他方の円筒部に挿入した第2のシャフトによってギア収納室内にて挟着支持された平面カッターで差動ケースのギア収納室の内壁部にギア用平面座を切削加工する平面座加工、並びに、差動ケースのいずれか一方の円筒部から挿入したロングバイトで差動ケースの円筒部の内周面を切削加工する内周面加工を行い、前記平面座加工及び内周面加工の完了後にチャック機構から差動ケースを取り外すことを特徴とする差動ケースの内面加工方法である。
【0008】
請求項2の発明は、ギア収納室と、その両側に位置すると共にケースの中心線(C)に沿って延びる二つの円筒部とを有する差動ケースに対して内面加工を施す方法であって、差動ケースの中心線(C)を回転軸線として差動ケースと共に一体回転可能なチャック機構を用いて、差動ケースの一方の円筒部又はその近傍を把持するチャック工程と、前記チャック機構による差動ケースの把持状態の下、差動ケースのギア収納室内に平面カッターを搬入し、チャック機構の中心域に設けられた第1のシャフトを差動ケースの一方の円筒部に挿入すると共に当該第1のシャフトと対向する第2のシャフトを差動ケースの他方の円筒部に挿入し、これら第1及び第2のシャフトで平面カッターを挟着支持し、前記中心線(C)を回転軸線としたチャック機構及び差動ケースの回転時に、第1のシャフト、平面カッター及び第2のシャフトの三者を差動ケースの中心線(C)に沿って同期的に往復移動させることにより、差動ケースのギア収納室の内壁部に相対向する一対のギア用平面座を座ぐり加工する平面座加工工程と、前記チャック機構による差動ケースの把持状態の下、チャック機構の中心域に設けられた第1のシャフトを差動ケースの一方の円筒部から挿入すると共に、当該第1のシャフトの先端部をそれと対向するシャフト状工具としてのロングバイトの先端部に当接させ、前記中心線(C)を回転軸線としたチャック機構及び差動ケースの回転時に、第1のシャフト及びロングバイトを両者の当接状態を維持しながら差動ケースの中心線(C)に沿って同期移動させることにより、差動ケースの各円筒部の内周面を切削加工する内周面加工工程と、前記平面座加工工程及び内周面加工工程の完了後にチャック機構から差動ケースを取り外す工程とを備えることを特徴とする差動ケースの内面加工方法である。
【0009】
請求項3の発明は、ワーク把持回転及びシャフト駆動機構と、それに対向配置される工具送り機構とを少なくとも備えてなる差動ケースの内面加工装置であって、前記ワーク把持回転及びシャフト駆動機構は、ワークとしての差動ケースを把持可能で且つ差動ケースの中心線(C)を回転軸線(L)として差動ケースと共に一体回転可能なチャック機構と、前記チャック機構及びそれに把持された差動ケースを強制回転させるためのワーク駆動手段と、前記チャック機構の中心においてその回転軸線(L)に沿って移動可能に設けられたセンターシャフトと、前記センターシャフトを移動させるためのシャフト駆動手段とを具備し、前記工具送り機構は、ワーク把持回転及びシャフト駆動機構のセンターシャフトに対向配置可能なシャフト状工具としての平面カッター保持シャフト及び/又はロングバイトを具備すると共に、そのシャフト状工具を差動ケースに対して接近離間させるべく前記チャック機構の回転軸線(L)に沿って進退可能に構成されていることを特徴とする差動ケースの内面加工装置である。
【0010】
請求項4の発明は、請求項3に記載の差動ケースの内面加工装置において、ワークとしての差動ケースのギア収納室の内壁部にギア用平面座を座ぐり加工するための平面カッターを保持可能であると共に、前記チャック機構に把持された差動ケースのギア収納室内に平面カッターを搬入し及びギア収納室内から平面カッターを搬出するための平面カッター搬送機構を更に備えてなることを特徴とする。
【0011】
請求項5の発明は、請求項3又は4に記載の差動ケースの内面加工装置において、前記センターシャフトは、工具送り機構の平面カッター保持シャフトと協働して差動ケースのギア収納室内で平面カッターを保持する働きをすると共に、工具送り機構のロングバイトの先端部に当接して切削時にロングバイトの姿勢を安定させる働きをすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1及び2の差動ケースの内面加工方法によれば、差動ケースの中心線(C)を回転軸線として差動ケースと共に一体回転可能なチャック機構を用いて差動ケースを把持・回転中に、差動ケースの各円筒部に挿入した第1及び第2のシャフトにより狭着支持された平面カッターで平面座加工を行うと共に、差動ケースの円筒部に挿入したロングバイトで円筒部の内周面加工を行い、その後にチャック機構から差動ケースを取り外すという手順又は工程を採用した。このため、上記チャック機構による1回の把持状態(ワンチャック状態)を維持したまま差動ケース内の複数箇所の内面(平面座及び円筒部内周面)を加工することができ、差動ケースの内面加工の作業効率を従来よりも高めることができる。また、差動ケースの内面加工のためのチャッキング回数を従来よりも減らすことができるので、被加工面間の相対位置精度の低下を抑制して内面加工の正確性を高めることができる。
【0013】
特に請求項2によれば、チャック機構に把持された差動ケースをチャック機構と共に一体回転させる一方で、チャック機構の中心域に設けられた第1のシャフト及びそれに対向する第2のシャフトで平面カッターを狭着支持し、平面座加工時には、第1のシャフト、平面カッター及び第2のシャフトを差動ケースの中心線(C)に沿って同期的に往復移動させることとした。即ち、平面座加工時に必要になるところの、ワークである差動ケースと切削工具である平面カッターとの間の相対回転については、差動ケースを把持するチャック機構に分担させる一方で、平面カッターを狭着支持する第1及び第2のシャフトには、平面カッターを直線的に往復動させる切削送り機能を分担させている。それ故、チャック機構の回転駆動機構と第1及び第2のシャフトの駆動機構とをそれぞれ別のものとすることができ、それぞれの機械構造をシンプルにすることが可能になる。
【0014】
更に請求項2によれば、内周面加工工程において、差動ケースの一方の円筒部に挿入した第1のシャフトと、シャフト状工具としてのロングバイトとの当接状態を維持しながら、両者を差動ケースの中心線(C)に沿って同期移動させて差動ケースの各円筒部の内周面を切削加工することとした。つまり、ロングバイトが第1のシャフトの当接を受けこれと一体化することで両持ち支持状態となり、その状態で切削抵抗を受け止めることができるようにした。このため、円筒部内周面の切削加工時におけるロングバイトの姿勢が安定してロングバイトの振動や位置ブレが極力回避され、円筒部内周面の切削加工精度が高められる。また、第1のシャフトと一体化したロングバイトにより二つの円筒部の内周面加工を同一工程で完了することができるため、両円筒部の同軸性を確実に確保することができる。
【0015】
請求項3〜5の差動ケースの内面加工装置によれば、上記差動ケースの内面加工方法を円滑且つ確実に実施することができる。即ち、ワークである差動ケースをチャック機構に把持したままの状態で、差動ケース内の複数箇所の内面(平面座及び円筒部内周面)を優れた加工精度で正確に加工することができる。特にこの内面加工装置では、ワーク把持回転及びシャフト駆動機構を構成するチャック機構及びワーク駆動手段が差動ケースを把持及び回転させる機能を分担し、ワーク把持回転及びシャフト駆動機構を構成するセンターシャフト及びシャフト駆動手段、並びに、センターシャフトに対向するシャフト状工具を具備した工具送り機構が、平面カッター及び/又はロングバイトを直線的に切削送りする機能を分担している。このように、差動ケースの把持回転機能を担う部分と工具の切削送りを担う部分とが機械的に分離されているため、それぞれの機能を担う部分の機械構造の複雑化を避けて、比較的シンプルに構成することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の一実施形態を図面を参照しつつ以下に説明する。図1は内面加工の対象物(ワーク)である差動ケース10を示し、図2〜図6は本実施形態で使用する内面加工装置の構造及び作用の概要を示す。
【0017】
[差動ケースの内面加工装置]
図3〜図6に示すように、差動ケースの内面加工装置は、ワーク把持回転及びシャフト駆動機構20、工具送り機構としての第1のサドル100、並びに、平面カッター搬送機構としての第2のサドル200から構成されている。
【0018】
ワーク把持回転及びシャフト駆動機構20は、ワークとしての差動ケース10を把持すると共にその差動ケース10の中心線Cを回転軸線Lとして差動ケース10を強制回転させるためのチャック機構30と、そのチャック機構30の中心域に設けられると共にチャック機構30の回転軸線L(即ち前記中心線C)に沿って移動可能な第1のシャフトとしてのセンターシャフト42とを備えた特殊な装置である。このワーク把持回転及びシャフト駆動機構20の詳細については、後ほど図2を参照して説明する。
【0019】
第1のサドル100は、前記ワーク把持回転及びシャフト駆動機構20に対して対向配置される工具送り機構である。第1のサドル100はタレット旋盤と同様のタレットヘッド(図示略)を備え、そのタレットヘッドに複数種の工具を装備している。第1のサドル100のタレットヘッドには、第2のシャフトとしての平面カッター保持シャフト101(図3参照)及びロングバイト102(図5参照)を含む少なくとも二種類のシャフト状工具、並びに、通常型バイトその他の一般工具(図示略)が装備される。タレットヘッドに装備された工具の中からシャフト状工具(平面カッター保持シャフト101又はロングバイト102)が選択されると、その選択されたシャフト状工具はワーク把持回転及びシャフト駆動機構20のセンターシャフト42に対向する位置に配置される。内面加工装置の作動時には少なくとも第1のサドル100は、選択されたシャフト状工具101又は102をチャック機構30に把持された差動ケース10に対し接近離間させる工具送り機構として機能する。
【0020】
なお、図5及び図6に示すように、ロングバイト102は、シャフト形状のバイトホルダー103と、その先端付近に装着された内面旋削用の切削刃104とからなる。バイトホルダー103の先端は平らな端面となっている。
【0021】
第2のサドル200は、前記ワーク把持回転及びシャフト駆動機構20のチャック機構30に把持された差動ケース10の側方(図3では下方)に配置されると共に、平面カッター202を把持するためのアーム201を備えており、そのアーム201に把持された平面カッター202を差動ケース10内に搬入し又は差動ケース10内から搬出する平面カッター搬送機構として機能する。なお、平面カッター202はその左右両側に切削刃を備え、その左右両側がそれぞれに正面フライスとして機能するものである。
【0022】
なお、ワーク把持回転及びシャフト駆動機構20、第1のサドル100及び第2のサドル200は図示しない制御装置に電気的に接続されており、その制御装置に予め組み込まれた制御プログラムに基づいて数値制御される。即ち、本実施形態の内面加工装置は、差動ケース10の内面加工用に特化された一種のNC旋盤である。
【0023】
[ワーク把持回転及びシャフト駆動機構20]
図2に示すように、ワーク把持回転及びシャフト駆動機構20は、その中心に設けられたスピンドルケース21、スピンドルケース21の前方(図2の右方)に設けられたチャック機構としての三つ爪チャック30、並びに、スピンドルケース21の後方(図2の左方)に設けられた第1駆動シリンダ22及び第2駆動シリンダ23を少なくとも具備している。
【0024】
スピンドルケース21の前端には、スピンドル24、面板25及び三つ爪チャック30が一体回転可能に支持されている。また、スピンドルケース21の中心域には、長尺円筒状のドローバー26がスピンドルケース21を水平貫通すると共に、回転可能且つ前後方向に摺動可能に設けられている。ドローバー26の後端部はアダプター27を介して第2駆動シリンダ23に作動連結され、ドローバー26の先端部はジョイント28を介して三つ爪チャック30に作動連結されている。
【0025】
三つ爪チャック30は、その回転軸線Lを等角度間隔で取り囲むように3つの親爪31(一つのみ図示)を具備し、各親爪31にはそれぞれ子爪32が装着されている。三つ爪チャック30が備える3組の親爪31及び子爪32は、三つ爪チャック30の内部機構及びジョイント28を介してドローバー26と作動連結関係にある。それ故、第2駆動シリンダ23の作用によるドローバー26の前後摺動に基づいて3組の親爪31及び子爪32が同期して開閉動作し、これにより三つ爪チャック30によってワークが把持又は解放される。
【0026】
また、三つ爪チャック30には、基準金33が設けられると共に、前記3組の親爪31及び子爪32と対向するように3つのスイング式クランプアーム34(一つのみ図示)が設けられている。各クランプアーム34は、ワーク着脱時にワークに干渉しない待機位置と、クランプ位置(図2に示す位置)との間を切替え配置可能となっている。クランプ位置に配置されたクランプアーム34は、その先端のクランプ爪35でワークの一部を基準金33に押し付けることで、ワークのスラスト方向位置決めを行うと共に切削加工時におけるワーク浮きを防止する。
【0027】
ドローバー26につながる第2駆動シリンダ23は回り止め29によって回転不能に保持されている。その一方で、ドローバー26、スピンドル24、面板25及び三つ爪チャック30はワーク駆動手段としてのビルトインモータ(図示略)に作動連結されており、このビルトインモータによって一体的に強制回転される。
【0028】
ドローバー26の内部には、やや長い円筒状シャフトブッシュ41を介して、センターシャフト42及びアダプターシャフト43が前後方向(回転軸線Lに沿った方向)に摺動可能に支持されている。センターシャフト42とアダプターシャフト43とは前後に直列連結されて事実上1本のシャフト連結体を構成している。アダプターシャフト43の後端部はナックル44を介してシャフト駆動手段としての第1駆動シリンダ22に連結されており、この第1駆動シリンダ22の作用によってシャフト連結体(42,43)が前後方向に強制スライドされる。シャフトブッシュ41の先端部は、三つ爪チャック30の中心域に設けられたベアリングケース45内のベアリング46によって支持されている。このため、ドローバー26、スピンドル24、面板25及び三つ爪チャック30が前記ビルトインモータによって一体回転するときも、それに追従してシャフトブッシュ41が連れ回りすることはなく、センターシャフト42及びアダプターシャフト43がドローバー26等の回転の影響を受けることもない。
【0029】
なお、ワークとしての差動ケース10が三つ爪チャック30に把持されたとき、差動ケースの中心線C、三つ爪チャック30の回転軸線L及びセンターシャフト42の中心軸線は、いずれも一致する。
【0030】
[差動ケースに対する内外面加工の全過程の概要]
図1に示すように、差動ケース10は、その内部に複数のピニオンギア及びサイドギアを組み込むためのギア収納室11を区画するケース体として構成されている。差動ケース10は、ギア収納室11の両側に位置する左側円筒部12及び右側円筒部13を有している。これら二つの円筒部12,13は、車輌のアクスル軸を通すためのトンネル部分を提供するものであり、差動ケース10の中心線Cに沿って延びている。また、差動ケース10の外周部には、中心線Cを取り囲むようにフランジ部14が設けられている。このフランジ部14は、エンジンの駆動力を当該差動ケース10に伝達するための傘歯状リングギアをボルト等の締結具を用いて固定するための取り付け部であり、当該フランジ部14には取付穴(図示略)が設定されている。更に、ギア収納室11の左右内壁部にはそれぞれ、各サイドギアの平らな背面を着座させるための平面座(平面状座面)15が設定されると共に、ギア収納室11の上下内壁部にはそれぞれ、各ピニオンギアの球面状背面を着座させるための球面座(球面状座面)16が設定されている。ギア収納室11の上下内壁部にはまた、二つのピニオンギアを同軸装着するピニオンギアシャフトを挿通するための上下一対のピニオン穴17が設定されている。なお、差動ケース10には、図1の紙面に対し直交する方向に沿った両側(つまり紙面の表側及び裏側)において比較的大きな側面開口が設けられており、二つの側面開口のいずれかを介して、平面カッター202をギア収納室11内に搬入し又はギア収納室11内から搬出することが可能となっている。
【0031】
そして、鋳造により得られた中間製品としての差動ケース10に対して、例えば以下に記すような四つの加工段階からなるところの、ケースの内面及び外面に対する各種加工を施すことにより、最終製品としての差動ケース10が完成する。即ち、第1の加工段階では、差動ケース10を横型NC旋盤に装着し、そのNC旋盤によって左側円筒部12の内周部及び外周部の荒削り加工やフランジ部14の端面に対する旋削加工等を行う。第2の加工段階では、上記横型NC旋盤から取り外した差動ケース10を本実施形態の内面加工装置に装着し、ギア収納室11の内壁部に対するサイドギア用平面座15の加工及び左右両円筒部12,13の内周面の仕上げ加工等を行う。この第2の加工段階での一連の加工手順については後ほど詳述する。第3の加工段階では、本実施形態の内面加工装置から取り外した差動ケース10を上記第1の加工段階で用いたNC旋盤とは異なる別の横型NC旋盤に装着し、そのNC旋盤によって円筒部(12,13)その他の部位の外側表面の仕上げ加工やフランジ部14に対する取付穴(図1では図示略)の穿孔を行う。第4の加工段階では、上記第3の加工段階で用いたNC旋盤から取り外した差動ケース10を横型マシニングセンターに装着し、そのマシニングセンターによってピニオンギヤ用球面座16の仕上げ加工やピニオン穴17の内径仕上げ加工を行う。このように第1〜第4の加工段階を経て最終製品としての差動ケース10が得られる。
【0032】
[本実施形態の内面加工装置を用いた内面加工方法]
上記第2の加工段階における、本実施形態の内面加工装置を用いた一連の内面加工手順について、図3〜図6を参照しつつ更に詳細に説明する。
【0033】
先ず図3に示すように、ワーク把持回転及びシャフト駆動機構20の三つ爪チャック30によって差動ケース10の左側円筒部12を把持する。即ち、差動ケース10の左側円筒部12を三つ爪チャック30の中心域に配置した状態で、第2駆動シリンダ23によって3組の親爪31及び子爪32を互いに接近する方向に閉動作させる。すると、三つ爪チャック30の回転軸線Lに差動ケース10の中心線Cが一致した状態で、差動ケース10の左側円筒部12が三つ爪チャック30によって把持される。また、差動ケース10のフランジ部14を基準金33(図2参照)に当接させた状態でクランプアーム34をクランプ位置に切り替え、クランプアーム34のクランプ爪35でフランジ部14を基準金33に対し押し付けることにより、差動ケース10のスラスト位置決めを行う。
【0034】
次に、差動ケース10の前記二つの側面開口のうちの一方が第2のサドル200と向き合うように三つ爪チャック30及び差動ケース10の位置(回転位相)を調節した後、第2のサドル200を図3の待機位置から差動ケース10の方にスライドさせ、アーム201に保持された平面カッター202を差動ケース10のギア収納室11内に搬入する。続いて、第1駆動シリンダ22を作動させてセンターシャフト42を差動ケース10の左側円筒部12に挿入する。また、工具として平面カッター保持シャフト101が選択された第1のサドル100を図3の待機位置から三つ爪チャック30に接近する方向にスライドさせ、その保持シャフト101を差動ケース10の右側円筒部13に挿入する。そして図4に示すように、三つ爪チャック30側のセンターシャフト42と第1サドル100側の保持シャフト101とで平面カッター202をその左右から狭着する。こうして、三つ爪チャック30の回転軸線Lに平面カッター202の中心軸を一致させつつ、二本のシャフト42,101で平面カッター202を狭着支持し、平面カッター202がギア収納室11内で浮いた状態にする。
【0035】
この状態で、前記ビルトインモータにより三つ爪チャック30及び差動ケース10を強制回転させる。そして、この強制回転中にセンターシャフト42及び平面カッター保持シャフト101を同方向に同速度で同期スライドさせる。即ち、両シャフト42,101のスライド方向、スライド速度及びスライド量(変位量)を数値制御することにより、センターシャフト42、平面カッター202及び平面カッター保持シャフト101の三者を差動ケース10の中心線Cに沿って同期的に左及び右にスライド(即ち往復移動)させる。こうして差動ケース10のギア収納室11の左右の内壁部には平面カッター202による座ぐり加工(フライス削り)が施され、その結果、ギア収納室11の当該部位には相対向する一対のギア用平面座15が形成される。
【0036】
一対のギア用平面座15の加工が完了したら、両平面座15の中間位置に平面カッター202を戻すと共に、三つ爪チャック30及び差動ケース10の回転も一旦停止する。その後、平面カッター202を第2のサドル200のアーム201によって把持し、第2のサドル200と一緒に図3の待機位置に戻す。また、センターシャフト42及び平面カッター保持シャフト101を、図3の待機位置に戻す。
【0037】
続いて、三つ爪チャック30による差動ケース10の把持状態を保ったまま、両円筒部12,13の内周面の仕上げ加工を行う。その際には先ず、第1のサドル100側のタレットヘッドに装備された工具の中からシャフト状工具の一つであるロングバイト102を選択すると共に、そのロングバイト102を前記センターシャフト42に対し対向配置させる(図5参照)。そして図5に示すように、センターシャフト42が差動ケース10の左側円筒部12、ギア収納室11及び右側円筒部13を貫通する位置までセンターシャフト42を右方向に前進させた後、センターシャフト42の先端部をロングバイト102の先端部に当接させる。
【0038】
この状態で、前記ビルトインモータにより三つ爪チャック30及び差動ケース10を強制回転させる。そしてこの強制回転中に、センターシャフト42及びロングバイト102を左方向(三つ爪チャック30に接近する方向)に同速度で同期スライドさせる。即ち、センターシャフト42及びロングバイト102のスライド方向、スライド速度及びスライド量(変位量)を数値制御することにより、センターシャフト42とロングバイト102との当接状態を維持しつつこれらを一体として差動ケースの中心線Cに沿い同期的に左スライドさせる(図6参照)。このように、ロングバイト102を右側円筒部13から差動ケース10内に進入させ、左側円筒部12の左端に到達させることにより、差動ケースの各円筒部12,13の内周部にはロングバイト102の切削刃104による旋削が施され、両円筒部12,13の各内周面が仕上げ加工される。
【0039】
両円筒部12,13の内周面の仕上げ加工が完了したら、差動ケース10等の回転を停止させ、切削刃104が両円筒部12,13の内周面に接触しないようにロングバイト102を待機位置(図5参照)に引き戻し、第2の加工段階を終了する。尚、クランプアーム34をクランプ位置から待機位置に切替え配置すると共に3組の親爪31及び子爪32を互いに離間する方向に開動作することで、三つ爪チャック30から差動ケース10が取り外される。
【0040】
[実施形態の効果]
本実施形態によれば、三つ爪チャック機構30による1回の把持状態(ワンチャック状態)で、差動ケースギア収納室11内の一対の平面座15の座ぐり加工と、左右両円筒部12,13の内周面加工とを施すことができるので、差動ケース10の内面加工の作業効率を従来よりも高めることができる。また、差動ケース10の内面加工のためのチャッキング回数を従来よりも減らすことができるので、被加工面間の相対位置精度の低下を抑制することができる。
【0041】
本実施形態の内面加工装置では、ワーク把持回転及びシャフト駆動機構20を構成する三つ爪チャック30及びワーク駆動手段としてのビルトインモータが、差動ケース10を把持及び回転させる機能を分担している。その一方で、ワーク把持回転及びシャフト駆動機構20を構成するセンターシャフト42及びシャフト駆動手段としての第1駆動シリンダ22、並びに、センターシャフト42に対向し得るシャフト状工具(101又は102)を具備した工具送り機構としての第1のサドル100が、平面カッター202やロングバイト102を直線的に切削送りする機能を分担している。つまり、差動ケース10の把持回転機能を担う部分と工具の切削送り機能を担う部分とが機械的に分離されている。このため、それぞれの機能を担う部分の機械構造の複雑化を避けて各部分を比較的シンプルに構成することができ、ひいては設備費の低減を図ることが可能となる。
【0042】
図5及び図6に示す円筒部12,13の内周面加工工程では、第1のサドル100側に片持ち支持されたロングバイト102が、センターシャフト42の当接を受けこれと一体化することであたかも両持ち支持状態となる。故に、内周面切削時におけるロングバイト102の姿勢が安定してロングバイト102の振動や位置ブレが極力回避され、円筒部内周面の切削加工精度が高まる。また、センターシャフト42と一体化したロングバイト102の一方向への移動で、左右両円筒部12,13の内周面加工を一度に完了するため、両円筒部12,13の同軸性を確実に確保することができる。
【0043】
[変更例]上記実施形態では、差動ケース10の一方の円筒部12を三つ爪チャック30で把持したが、これに代えて、差動ケース10のフランジ部14の周囲を三つ爪チャック30で把持するようにしてもよい。
【0044】
[変更例]上記実施形態における第2の加工段階では、平面カッター202による平面座15の加工とロングバイト102による円筒部12,13の内周面加工とを行ったが、これらに加えて、三つ爪チャック30による差動ケース10の把持状態を維持したまま、第1のサドル100側のタレットヘッドに装備された工具の中から通常型バイトを選択すると共に、その通常型バイトで、例えば右側円筒部13の外周部に荒旋削加工を施してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】ワークとしての差動ケースの断面図。
【図2】内面加工装置のワーク把持回転及びシャフト駆動機構の概略断面図。
【図3】平面カッターによる平面座加工の開始前を示す図。
【図4】平面カッターによる平面座加工時を示す図。
【図5】ロングバイトによる円筒部内周面加工の開始前を示す図。
【図6】ロングバイトによる円筒部内周面加工時を示す図。
【符号の説明】
【0046】
10…差動ケース(ワーク)、11…ギア収納室、12…左側の円筒部、13…右側の円筒部、14…フランジ部、15…平面座、16…球面座、20…ワーク把持回転及びシャフト駆動機構、22…第1駆動シリンダ(シャフト駆動手段)、23…第2駆動シリンダ、30…三つ爪チャック(チャック機構)、42…センターシャフト(第1のシャフト)、43…アダプターシャフト、100…第1のサドル(工具送り機構)、101…平面カッター保持シャフト(第2のシャフト)、102…ロングバイト、200…第2のサドル(平面カッター搬送機構)、202…平面カッター、C…差動ケースの中心線、L…回転軸線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ギア収納室と、その両側に位置すると共にケースの中心線(C)に沿って延びる二つの円筒部とを有する差動ケースに対して内面加工を施す方法であって、
差動ケースの中心線(C)を回転軸線として差動ケースと共に一体回転可能なチャック機構を用いて、差動ケースを把持した後、
前記チャック機構及び差動ケースの回転時に、差動ケースの一方の円筒部に挿入した第1のシャフト及び差動ケースの他方の円筒部に挿入した第2のシャフトによってギア収納室内にて挟着支持された平面カッターで差動ケースのギア収納室の内壁部にギア用平面座を切削加工する平面座加工、並びに、差動ケースのいずれか一方の円筒部から挿入したロングバイトで差動ケースの円筒部の内周面を切削加工する内周面加工を行い、
前記平面座加工及び内周面加工の完了後にチャック機構から差動ケースを取り外すことを特徴とする差動ケースの内面加工方法。
【請求項2】
ギア収納室と、その両側に位置すると共にケースの中心線(C)に沿って延びる二つの円筒部とを有する差動ケースに対して内面加工を施す方法であって、
差動ケースの中心線(C)を回転軸線として差動ケースと共に一体回転可能なチャック機構を用いて、差動ケースの一方の円筒部又はその近傍を把持するチャック工程と、
前記チャック機構による差動ケースの把持状態の下、差動ケースのギア収納室内に平面カッターを搬入し、チャック機構の中心域に設けられた第1のシャフトを差動ケースの一方の円筒部に挿入すると共に当該第1のシャフトと対向する第2のシャフトを差動ケースの他方の円筒部に挿入し、これら第1及び第2のシャフトで平面カッターを挟着支持し、前記中心線(C)を回転軸線としたチャック機構及び差動ケースの回転時に、第1のシャフト、平面カッター及び第2のシャフトの三者を差動ケースの中心線(C)に沿って同期的に往復移動させることにより、差動ケースのギア収納室の内壁部に相対向する一対のギア用平面座を座ぐり加工する平面座加工工程と、
前記チャック機構による差動ケースの把持状態の下、チャック機構の中心域に設けられた第1のシャフトを差動ケースの一方の円筒部から挿入すると共に、当該第1のシャフトの先端部をそれと対向するシャフト状工具としてのロングバイトの先端部に当接させ、前記中心線(C)を回転軸線としたチャック機構及び差動ケースの回転時に、第1のシャフト及びロングバイトを両者の当接状態を維持しながら差動ケースの中心線(C)に沿って同期移動させることにより、差動ケースの各円筒部の内周面を切削加工する内周面加工工程と、
前記平面座加工工程及び内周面加工工程の完了後にチャック機構から差動ケースを取り外す工程とを備えることを特徴とする差動ケースの内面加工方法。
【請求項3】
ワーク把持回転及びシャフト駆動機構と、それに対向配置される工具送り機構とを少なくとも備えてなる差動ケースの内面加工装置であって、
前記ワーク把持回転及びシャフト駆動機構は、ワークとしての差動ケースを把持可能で且つ差動ケースの中心線(C)を回転軸線(L)として差動ケースと共に一体回転可能なチャック機構と、前記チャック機構及びそれに把持された差動ケースを強制回転させるためのワーク駆動手段と、前記チャック機構の中心においてその回転軸線(L)に沿って移動可能に設けられたセンターシャフトと、前記センターシャフトを移動させるためのシャフト駆動手段とを具備し、
前記工具送り機構は、ワーク把持回転及びシャフト駆動機構のセンターシャフトに対向配置可能なシャフト状工具としての平面カッター保持シャフト及び/又はロングバイトを具備すると共に、そのシャフト状工具を差動ケースに対して接近離間させるべく前記チャック機構の回転軸線(L)に沿って進退可能に構成されている
ことを特徴とする差動ケースの内面加工装置。
【請求項4】
ワークとしての差動ケースのギア収納室の内壁部にギア用平面座を座ぐり加工するための平面カッターを保持可能であると共に、前記チャック機構に把持された差動ケースのギア収納室内に平面カッターを搬入し及びギア収納室内から平面カッターを搬出するための平面カッター搬送機構を更に備えてなることを特徴とする請求項3に記載の差動ケースの内面加工装置。
【請求項5】
前記センターシャフトは、工具送り機構の平面カッター保持シャフトと協働して差動ケースのギア収納室内で平面カッターを保持する働きをすると共に、工具送り機構のロングバイトの先端部に当接して切削時にロングバイトの姿勢を安定させる働きをすることを特徴とする請求項3又は4に記載の差動ケースの内面加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−30101(P2007−30101A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−217101(P2005−217101)
【出願日】平成17年7月27日(2005.7.27)
【出願人】(000100805)アイシン高丘株式会社 (202)
【Fターム(参考)】