説明

差動伝送線路

【課題】左手系差動伝送線路を用いたコモンモードフィルタを無線通信機器に適合させるために、左手系差動伝送線路の構造を改善し、小型化ならびに薄型化を図る。
【解決手段】D−CRLH(デュアル型右手/左手複合)差動伝送線路を構成するために、平面導体パターンを利用した構造により、集積回路技術に適合したコモンモードフィルタを実現する。左手系差動伝送線路は、第1の伝送線路L1と、第2の伝送線路L2で構成された差動伝送線路である。第1の伝送線路L1は、Aパターン部L1AとBパターン部L1BとCパターン部L1Cから構成される。また、第2の伝送線路L2は、第1の伝送線路L1と同様に、Aパターン部L2AとBパターン部L2BとCパターン部L2Cから構成される。伝送線路は、本構造を基本構造(ユニットセル)とし、これを複数縦続接続させることで構成された差動伝送線路により解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気信号を通過または遮断する伝送線路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
2本の伝送線路を平行に対称に並べた差動伝送線路において、2本の伝送線路間に差動信号(ディファレンシャルモード)を伝搬させることにより、EMC(電磁環境両立性)に優れた通信線路が構成可能となる。この差動伝送線路において、ノイズとなる同相成分(コモンモード)が伝搬すると、周囲に電磁波を漏らして悪影響を与えるため、コモンモード成分を抑制するのにコモンモードフィルタが必要となる。
【0003】
最近の通信機器では,高速データ通信用のUSBやHDMIなどの通信規格が普及しており,これらは差動伝送方式を用いた高速シリアル通信方式である。
【0004】
差動伝送方式はEMC特性に優れているが,信号源で発生するコモンモード成分がノイズ輻射の原因となるため,コモンモードフィルタが必須部品となっている。
【0005】
さらに、最近のEMC関連研究により,信号ケーブルからのEMC問題のみならず,基板上あるいはIC内の伝送線路による部品間のEMC問題も顕在化しており,市販のコモンモードチョークやチップ部品では解決できないノイズ発生源近傍でのノイズ抑制が課題となっている。
【0006】
従来のコモンモードフィルタは、コモンモードチョークコイルやチップ素子によるコモンモードフィルタなどが一般的に知られており、大小様々なサイズ、適用周波数帯域の違いにより多種多様なコモンモードフィルタが開発されている。
【0007】
コモンモードフィルタの動作原理は、一般的に2本の伝送線路間の相互結合を利用し、特に相互インダクタンスMを利用して、ディファレンシャルモードとコモンモードのインピーダンスの差を利用しているものが多い。しかしながら、ディファレンシャルモードとコモンモードによるインピーダンスの差は、使用周波数帯域によっては十分な特性を得ることができないことが課題である。
【0008】
また、コモンモードチョークコイルやチップ素子によるコモンモードフィルタは、集中定数回路理論に基づく動作によるため、伝送線路が分布定数回路として扱われる高周波帯域では、満足な設計ができない。これらのコモンモードフィルタでは、分布定数回路となる寄生容量および寄生インダクタンスをできるだけ小さくして設計に影響が無いように工夫するか、発生する寄生成分を考慮した複雑な設計が求められる。
【0009】
いずれの場合も、2つのモードによるインピーダンスの差が十分に得られない場合は、コモンモードフィルタとして機能しない。
【0010】
また、上記の従来型コモンモードフィルタは、立体的な構造であり、小型のチップ部品であってもサブmmオーダーの部品の厚みがあるため、小型化・薄型化を必要とする通信機器の要求に応えることが難しい。
【0011】
一方で、近年、左手系デバイスあるいはメタマテリアル等と称される、物質の透磁率および誘電率が負の値として動作するものが多く発明されている。
【0012】
左手系伝送線路は、純粋に透磁率および誘電率が負の値となる材料が無いため、伝送線路の電気的等価回路において、誘導性(遅れ位相)素子と容量性(進み位相)素子を入れ替えた回路を構成することにより実現するものが主流である。この場合、既存の誘導性素子は寄生容量、容量性素子は寄生誘導を有するため、これらの寄生成分を考慮した右手/左手系複合(以下、CRLHと略記する。)伝送線路と呼ばれるものが、左手系デバイスとして実現されている(非特許文献1参照)。
【0013】
しかしながら、CRLH伝送線路は、伝送線路の直列要素に容量性素子が配置されるため、直流成分を伝送できないという問題がある。
【0014】
これに対し、デュアル型右手/左手系複合(D−CRLH)伝送線路と呼ばれるものが提案され、直流成分も伝送できる左手系伝送線路として知られている(非特許文献2参照)。ただし、信号線とグラウンドの1対の線路であるため、高周波で用いる伝送線路として、不要ノイズの放射等が問題である。
【0015】
通信に用いられる伝送線路は、ノイズの放射が少なく、かつ、外来ノイズの影響を受けにくくするため(EMC性能向上のため)、上述のような差動(逆相)電気信号で通信を行う差動伝送線路が主流となっている。ただし、差動伝送線路はコモン(同相)モード成分がノイズ等の発生原因となるため、コモンモードフィルタが必要となり、別途コモンモードフィルタを装荷する必要がある。
【0016】
左手系伝送線路においても、EMC性能向上のために差動伝送線路が発明されているが、この場合、2本の右手/左手系複合伝送線路を対称に並べた構造のため、直流信号を伝送できないという問題を有する(非特許文献3参照)。直流信号の伝送は電力の給電等の目的で必要である。
【0017】
D−CRLH差動伝送線路を含むCRLH差動伝送線路は、差動伝送信号が左手系伝送特性を有する周波数帯域において、原理的にコモンモードノイズ成分が伝搬できないため、左手系伝送特性を有するコモンモードフィルタとして機能する(非特許文献4参照)。
【0018】
また、D−CRLH差動伝送線路は、従来の左手系伝送線路で直流成分が導通されなかった欠点を補い、直流信号も伝送可能である利点を有するため、高周波データ信号と直流電力供給を同一線路上で実現することも可能である。
【0019】
加えて、本構造は伝送線路パターンにより実現する技術であるため、ICプロセスに適合し,将来的にICチップ内部に作り込むことも可能である。従って、上述したIC内部でのノイズ抑制にも有効な技術であると考えられる。
【0020】
従来の研究により、D−CRLH差動伝送線路が有するコモンモードフィルタ機能について、デバイスの試作と評価により原理的動作が実証された(非特許文献4参照)。
【0021】
しかしながら、コモンモードフィルタとして動作する左手系動作周波数帯域が狭いこと、動作周波数帯域が実用機器の周波数規格に対応しておらず、高周波化あるいは、低周波化が必要なこと、同周波数帯域において信号となるディファレンシャル(差動)モードの透過係数が小さく、損失が大きいこと、が課題であった。
【0022】
本発明では、通信機器から要求されるコモンモードフィルタの小型化・薄型化を満足し、実用性能を満足するために有効なコモンモードフィルタの構造を提案し、上記の技術課題を解決する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0023】
【非特許文献1】C. Caloz and T. Itoh: "Application of the Transmission Line Theory of Left-Handed (LH) Materials to the Realization of a Microstrip LH Transmission Line", in Proc. IEEE-AP-S USNC/URSI National Radio Science Meeting, l. 2, pp.412-415 (2002)
【非特許文献2】C. Caloz: "Dual Composite Right/Left-Handed (D-CRLH) Transmission Line Metamaterial", IEEE Microwave Wireless Components Letters, Vol.16, Issue 11, pp.585-587 (2006)
【非特許文献3】R. Goto, H. Deguchi and M. Tsuji : "Composite Right/Left- Handed Transmission Lines Based on Conductor-Backed Coplanar Strips," IEICE Trans. Electron., Vol. E89-C, No. 9, pp.1306-1311 (2006)
【非特許文献4】H. Nakayama, K. Fujisawa and T. Itoh: "Fabrication and Estimation of Dual Composite Right/Left Handed Differential Transmission Line", The Papers of Technical Meeting on Magnetics, IEE Japan, MAG-08-195, pp.21-26 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
以上に述べたコモンモードフィルタに対する要求と、従来のコモンモードフィルタにおける問題点により、小型・薄型に適合したコモンモードフィルタにおいて、技術課題を解決する幾つかのデバイス構造を提案する。
【0025】
解決すべき課題は、小型かつ薄型であり、コモンモード動作周波数帯域を実用周波数帯域に対応させるために周波数を調整(特に、低周波化)することと、動作周波数帯域を広帯域化させること、動作周波数帯域におけるディファレンシャルモードの損失を低減し、透過係数を大きくすること、コモンモードの透過係数を小さくすることを課題とする。
【0026】
本発明は、D−CRLH差動伝送線路を構成するデバイス構造について、小型・薄型化に適応し、課題とする特性を改善するための構造を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明に係る伝送線路は、上記の目的を達成するために、以下のデバイス構造の構成により、課題を解決する。
【0028】
本発明に係る伝送線路は、相互に並列に接続された第1の遅れ位相を持つ要素及び第1の進み位相を持つ要素を含む入出力間の直列インピーダンスをそれぞれ構成する一対の入出力間回路成分と、該一対の入出力間回路成分の間に相互に直列に接続された第2の遅れ位相を持つ要素及び第2の進み位相を持つ要素、並びに、前記一対の伝送線路とグランド電位の間にそれぞれ接続された第3の進み位相を持つ要素を含む分路アドミタンスを構成する分路回路成分とを備えた差動伝送線路である。
【0029】
この差動伝送線路によれば、直列インピーダンスを構成する一対の入出力間回路成分において、並列に接続された第1の遅れ位相を有するため直流の通路が確保され、分路アドミタンスを構成する分路回路成分において、直列に接続された第2の進み位相を持つ要素、並びに、第3の進み位相を持つ要素により直流の分路が遮断されるため、伝送線路の入出力間で直流の伝送が可能となる。
【0030】
また、ディファレンシャルモード伝送において、直列インピーダンスを構成する一対の入出力間回路成分の並列共振周波数と、分路アドミタンスを構成する分路回路成分の直列共振周波数とが動作周波数よりも低くなるように設計することにより、これらの共振周波数を超える周波数帯域において、直列インピーダンスは容量性、分路アドミタンスは誘導性として動作するため、左手系伝送線路として動作する。
【0031】
一方、コモンモード伝送において、2本の信号線を構成する一対の入出力間回路成分の位相が等しく同電位になるため、分路アドミタンスを構成する分路回路成分のうち、相互に直列に接続された第2の遅れ位相を持つ要素及び第2の進み位相を持つ要素が機能せず、伝送線路とグランド電位の間にそれぞれ接続された第3の進み位相を持つ要素のみが分路となる。このため、直列インピーダンス部分と分路アドミタンス部分がともに進み位相を持つ容量性負荷として動作するため、信号が伝播されず、コモンモードフィルタとして機能する。
【0032】
本発明は、特に、入出力方向に延在し、相互に並列した一対の導体パターンと、該一対の導体パターンに共に隣接するグランド導体とを有する。このように、入出力方向に延在し、相互に並列した一対の導体パターンと、該一対の導体パターンに共に隣接するグランド導体とを有する差動伝送線路によれば、入出力方向に延在した線路により、上記の差動伝送線路構造が複数個接続されるため、コモンモードフィルタとしての機能が積算され、大きなフィルタ効果を得ることができる。
【0033】
この場合に、前記一対の導体パターンは、それぞれ、前記入出力方向の入力側に配置された入力側パターン部と、前記入出力方向の出力側に配置された出力側パターン部と、前記入力側パターン部及び前記出力側パターン部よりも前記入出力方向と直交する方向に細幅に形成され、前記入力側パターン部と前記出力側パターン部を接続する中間接続パターン部とを有することが好ましい。これによれば、前記中間接続パターン部は、第1の遅れ位相を持つ要素を構成し、前記入力側パターン部と前記出力側パターン部の間の間隙領域は、第1の進み位相を持つ要素を構成する。
【0034】
また、前記一対の導体パターンの間には、前記入力側パターン部同士が並列方向の両側に対向配置された入力側間隙領域と、前記出力側パターン部同士が前記並列方向の両側に対向配置された出力側間隙領域とが設けられることが好ましい。これによれば、前記入力側間隙領域と前記出力側間隙領域とは、それぞれ分路アドミタンスを構成する分路回路成分の第2の進み位相を持つ要素を構成する。
【0035】
ここで、前記直列インピーダンスを構成する前記第1の遅れ位相を持つ要素及び前記第1の進み要素を持つ要素は、前記入力側パターン部及び前記出力側パターン部が前記中間接続パターン部を介して前記入出力方向に接続されたパターン構造により構成される。また、前記分路アドミタンスを構成する前記第2の遅れ位相を持つ要素及び前記第2の進み位相を持つ要素は、前記一対の導体パターンの前記入力側パターン部及び前記出力側パターン部と、前記一対の導体パターンにそれぞれ属する前記入力側パターン部同士が前記並列方向に間隙を介して対向する構造と、前記一対の導体パターンにそれぞれ属する前記出力側パターン部同士が前記並列方向に間隙を介して対向する構造とによって構成される。
【0036】
このようにすると、前記差動伝送線路は導体パターンによって構成されるため、平面パターンの積層構造で実現可能であるため、薄膜プロセスに適合し、デバイスの薄型化が可能である。また、薄膜プロセスは微細加工に適しており、パターンの微細化によってデバイスの小型化が可能である。さらに、前記差動伝送線路はシンプルな導体パターンの構成によって実現可能であるため、製作プロセスが容易な構造となり、製作コストを下げることが可能である。
【0037】
本発明において、前記一対の導体パターンの前記入力側パターン部は、本体部と、相互に他方の前記入力側パターン部に向けて前記本体部から突出し、前記本体部よりも前記入出力方向に細幅の突出部とを具備し、該突出部の先端同士が前記入力側間隙領域を介して前記並列方向に対向し、前記出力側パターン部は、本体部と、相互に他方の前記出力側パターン部に向けて前記本体部から突出し、前記本体部よりも前記入出力方向に細幅の突出部とを具備し、該突出部の先端同士が前記出力側間隙領域を介して前記並列方向に対向することが好ましい。これによれば、前記細幅の突出部を有することにより、分路アドミタンスの第2の遅れ位相を持つ要素となるインダクタンス成分を調整し、特に大きくすることができる。これにより、分路アドミタンスの共振周波数を調整し、特に低周波化することが可能となる。また、前記細幅の突出部が、主として分路アドミタンスの第2の遅れ位相を持つ要素を構成するため、第2の進み位相を持つ要素と独立して設計することができるため、分路アドミタンスの共振周波数を調整するための設計が容易となる。
【0038】
これに加えて、前記突出部は先端が前記入出力方向に延長されたT字状に形成されることが望ましい。これによれば、前記突出部がT字状に形成されることで、前記の分路アドミタンスの第2の遅れ位相を持つ要素と、第2の進み位相を持つ要素とをそれぞれ独立させて設計することができるため、分路アドミタンスの共振周波数を調整するための設計がさらに容易となる。
【0039】
本発明において、前記一対の導体パターンは絶縁層を介して前記グランド導体と積層されることが好ましい。これによれば、積層構造により実現される差動伝送線路は、平面的な専有面積が小さくなるため、小型化が可能となる。また、間隙部分で形成する遅れ位相を持つ要素を、同一平面の間隙ではなく、積層導体間の間隙によって形成するため、大きなキャパシタンスを実現することができる。これにより、直列インピーダンス並びに分路アドミタンスの共振周波数を調整し、特に低周波化することが可能となる。
【0040】
本発明において、前記一対の導体パターンは同一平面上に形成されることが好ましい。これによれば、同一平面上に導体パターンを形成する構造による差動伝送線路は、1層の導体層によりデバイスを構成できるため、製作プロセスが簡略化され、製作コストを下げることができる。
【0041】
本発明において、前記一対の導体パターンは絶縁層を介して相互に積層されることが好ましい。これによれば、積層構造により実現される差動伝送線路は、平面的な専有面積が小さくなるため、小型化が可能となる。また、間隙部分で形成する遅れ位相を持つ要素を、同一平面の間隙ではなく、積層導体間の間隙によって形成するため、大きなキャパシタンスを実現することができる。これにより、直列インピーダンス並びに分路アドミタンスの共振周波数を調整し、特に低周波化することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】この発明の実施の形態1に係る左手系差動伝送線路の構成を示す構造図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係る左手系差動伝送線路の構成を示す回路図である。
【図3】この発明の実施の形態2に係る左手系差動伝送線路の構成を示す構造図である。
【図4】この発明の実施の形態3に係る左手系差動伝送線路の構成を示す構造図である。
【図5】この発明の実施の形態4に係る左手系差動伝送線路の構成を示す構造図である。
【図6】この発明の実施の形態5に係る左手系差動伝送線路の構成を示す構造図である。
【図7】この発明の実施の形態6に係る左手系差動伝送線路の構成を示す構造の鳥瞰図である。
【図8】この発明の実施の形態6に係る左手系差動伝送線路の構成を示す構造の導体ラインパターンの上面図である。
【図9】この発明の実施の形態6に係る左手系差動伝送線路の構成について、ユニットセルを3つ縦続接続させた構造の鳥瞰図である。
【図10】この発明の実施の形態6に係る図9のユニットセルを3つ縦続接続させたデバイスについて、3次元電磁界解析を用いて特性シミュレーションを行った結果、ディファレンシャル(差動信号)モードおよびコモン(同相ノイズ)モードの透過係数の大きさの周波数特性を比較したものである。
【図11】この発明の実施の形態6に係る図9のユニットセルを3つ縦続接続させたデバイスについて、試作したデバイスの伝送特性を測定した結果、ディファレンシャル(差動信号)モードおよびコモン(同相ノイズ)モードの透過係数の大きさの周波数特性を比較したものである。
【図12】この発明の実施の形態6に係る図9のユニットセルを3つ縦続接続させたデバイスについて、試作したデバイスの伝送特性を測定した結果、ディファレンシャル(差動信号)モードの透過係数の位相の周波数特性を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0043】
次に、添付図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0044】
実施の形態1
図1は、この発明の実施の形態1に係る左手系差動伝送線路の構成を示す構造図である。図2は、この発明の実施の形態1に係る、図1の構造の左手系差動伝送線路の等価回路図である。図1の左手系差動伝送線路は、プリント基板などの平面導体による構造である。図1の平面線路に対して、その下面に絶縁層を介してグラウンドを配置したマイクロストリップ線路型、その上下両面に絶縁層を介してグラウンドを配置したストリップ線路型、および、その同一平面上にグラウンドを配置したコプレーナ線路型なども構成できる。
【0045】
本構造の伝送線路は、プリント基板作製技術やIC作製技術などを用いて実現することができる。一般的には、フォトリソグラフィ技術に基づいて作製される。また、本構造の伝送線路は、導体パターンとグラウンドとの間の電磁界伝搬媒質に生じる電磁界の伝搬により動作する。電磁界伝搬媒質は、単純な絶縁材料でも良いが、誘電率が高い材料や透磁率が高い材料を使うことにより、電磁波の波長が短縮される。また、低損失な材料を用いることにより、デバイスの挿入損失を軽減することができる。導体およびグラウンドを構成する材料は、導電率が高い材料を選択することにより、デバイスの挿入損失を軽減することができる。
【0046】
図1の左手系差動伝送線路は、第1の伝送線路L1と、第2の伝送線路L2で構成された差動伝送線路である。第1の伝送線路L1は、入力側パターン部に相当するAパターン部L1Aと出力側パターン部に相当するBパターン部L1Bと中間接続パターン部に相当するCパターン部L1Cから構成される。また、第2の伝送線路L2は、第1の伝送線路L1と同様に、Aパターン部L2AとBパターン部L2BとCパターン部L2Cから構成される。伝送線路は、本構造を基本構造(ユニットセル)とし、これを複数縦続接続させることで伝送線路を形成する。なお、本構造(ユニットセル)の長さは、使用する周波数の電磁波波長の四分の1の長さよりも十分に小さいことが好ましい。
【0047】
Aパターン部L1AおよびL2Aは、幅wa、長さlaの長方形パターンであり、Bパターン部L1BおよびL2Bは、幅wb、長さlbの長方形パターンである。Cパターン部L1CおよびL2Cは、Aパターン部とBパターン部を接続する、幅wc、長さlcの帯状パターンである。ここで、wc<waおよびwc<wbであり、図示例ではwa=wbである。Cパターン部の内側の辺は、Aパターン部およびBパターン部の内側の辺から外側に距離dcだけ離して配置する。第1の伝送線路L1と第2の伝送線路L2の対称性から、Aパターン部、Bパターン部、Cパターン部はそれぞれ、第1の伝送線路と第2の伝送線路の中心線に対して線対称であることが好ましい。Aパターン部L1AとL2Aの間には入出力方向に見て一定のギャップ幅daを備えた入力側間隙領域が設けられ、Bパターン部L1BとL2Bの間には入出力方向に見て一定のギャップ幅dbを備えた出力側間隙領域が設けられている。
【0048】
図1の左手系差動伝送線路は、図2の等価回路で表される。図1の構造と図2の等価回路の主な対応はそれぞれ次の通りである。図1のAパターン部L1AおよびL2Aは、図2の等価回路の点線で囲われたA12部分に対応し、図1のBパターン部L1BおよびL2Bは、図2の等価回路の点線で囲われたB12部分に対応し、図1のCパターン部L1CおよびL2Cは、図2の等価回路の点線で囲われたC1部分およびC2部分にそれぞれ対応する。
【0049】
図2の等価回路のA12部分を構成するA12LLは、Aパターン部分における、第1の伝送線路L1と第2の伝送線路L2との間の線間インダクタンス成分A12LLである。A12LLと同様に、図2の等価回路のB12部分を構成するB12LLは、Bパターン部分における、第1の伝送線路L1と第2の伝送線路L2との間の線間インダクタンス成分B12LLである。これらの線間インダクタンス成分は、Aパターン部分およびBパターン部分の導体パターンのうち、Cパターン部分と連結する位置よりも内側の導体パターンが寄与し、wa、wbおよびdcの長さが主要パラメータとなる。A12LLおよびB12LLは、分路要素の線間インダクタンス成分として寄与し、コモンモードフィルタが動作する左手系周波数帯域において、分路要素の遅れ位相を持つ回路素子として機能する。
【0050】
図2の等価回路のA12部分を構成するA12CRは、Aパターン部分における、第1の伝送線路L1と第2の伝送線路L2との間の線間キャパシタンス成分A12CRである。A12CRと同様に、図2の等価回路のB12部分を構成するB12CRは、Bパターン部分における、第1の伝送線路L1と第2の伝送線路L2との間の線間インダクタンス成分B12CRである。これらの線間キャパシタンス成分は、Aパターン部分およびBパターン部分における、第1の伝送線路L1と第2の伝送線路L2との間ギャップが寄与し、wa、wbおよびギャップ幅daおよびdbの長さが主要パラメータとなる。A12CRおよびB12CRは、分路要素の線間キャパシタンス成分として寄与し、コモンモードフィルタが動作する左手系周波数帯域よりも低い周波帯域において、分路要素の進み位相を持つ回路素子として機能する。
【0051】
図2の等価回路のA12部分を構成するA1CPおよびA2CPは、Aパターン部分における、第1の伝送線路L1および第2の伝送線路L2と接地導体GNDの間に生じる寄生キャパシタンス成分A1CPおよびA2CPである。A1CPおよびA2CPと同様に、図2の等価回路のB12部分を構成するB1CPおよびB2CPは、Bパターン部分における、第1の伝送線路L1および第2の伝送線路L2と接地導体GNDの間に生じる寄生キャパシタンス成分B1CPおよびB2CPである。これらの寄生キャパシタンス成分は、Aパターン部分およびBパターン部分における、第1の伝送線路L1および第2の伝送線路L2と接地導体GNDの間のキャパシタンスであり、Aパターン部分およびBパターン部分の寸法と伝送線路パターンと接地導体GNDパターンとの間の間隔ddが寄与し、wa、la、wb、lbによる面積および間隔ddの長さが主要パラメータとなる。A1CP、A2CP、B1CPおよびB2CPは、分路要素の寄生キャパシタンス成分として寄与し、コモンモードフィルタが動作する左手系周波数帯域よりも高い周波帯域において、分路要素の進み位相を持つ回路素子として機能する。
【0052】
図2の等価回路のC1およびC2部分を構成するC1LRおよびC2LRは、Cパターン部分における、Aパターン部分とBパターン部分との間のインダクタンス成分C1LRおよびC2LRであり、Cパターン部分L1CおよびL2Cのインダクタンスに対応する。これらのインダクタンス成分は、Cパターン部分の寸法が寄与し、wc、lcの長さが主要パラメータとなる。C1LRおよびC2LRは、伝送線路の直列要素の並列インダクタンス成分として寄与し、コモンモードフィルタが動作する左手系周波数帯域よりも低い周波帯域において、直列要素の遅れ位相を持つ回路素子として機能する。
【0053】
図2の等価回路のC1およびC2部分を構成するC1CLおよびC2CLは、Cパターン部分における、Aパターン部分とBパターン部分との間のキャパシタンス成分C1CLおよびC2CLであり、Cパターン部分L1CおよびL2Cを除く、Aパターン部分とBパターン部分との間のギャップによって形成されるキャパシタンス成分に対応する。これらのキャパシタンス成分は、Aパターン部分とBパターン部分との間のギャップの寸法が寄与し、wa、wb、wcとlcの長さが主要パラメータとなる。C1CLおよびC2CLは、伝送線路の直列要素の並列キャパシタンス成分として寄与し、コモンモードフィルタが動作する左手系周波数帯域において、直列要素の進み位相を持つ回路素子として機能する。
【0054】
図2の等価回路のC1およびC2部分を構成するC1LPおよびC2LPは、Cパターン部分における、Aパターン部分とBパターン部分との間のキャパシタンス成分C1CLおよびC2CLに寄生するインダクタンス成分に対応する。これらのインダクタンス成分は、Aパターン部分およびBパターン部分の寸法が寄与し、wa、wb、laおよびlbの長さが主要パラメータとなる。C1LPおよびC2LPは、伝送線路の直列要素の並列キャパシタンスの寄生インダクタンス成分として寄与し、コモンモードフィルタが動作する左手系周波数帯域よりも高い周波数帯域において、直列要素の遅れ位相を持つ回路素子として機能する。
【0055】
図1の構造は、パターン形状が簡単であるため、伝送線路を設計する際の寸法パラメータの要素数が少ないため、設計を容易にすることが可能である。また、簡単な形状であるため、薄膜の微細パターン技術に応じてサイズの小型化が図りやすい利点を有する。
【0056】
図2の等価回路による差動伝送線路の動作を以下に述べる。図1の実施の形態1の構造に基づく、図2の等価回路の左手系差動伝送線路は、2本の伝送線路L1およびL2で構成され、信号成分はそれぞれに逆相となる差動信号を与えて動作する。なお、直列インピーダンスC1およびC2部分における要素C1CLおよびC2CLは、通常キャパシタンス素子で構成され、内部に寄生誘導成分があるため、寄生成分による自己共振周波数よりも高周波では遅れ位相要素になり得るが、自己共振周波数を十分に高くすることにより進み位相要素として左手系伝送を実現させる。また、伝送線路とグラウンド間の要素A1CP、A2CP、B1CP、B2CPは一般的に進み位相を持つ要素であり、分路アドミタンスA12およびB12におけるキャパシタンスA12CRおよびB12CRと並列共振を起こすが、この並列共振周波数を要素A12LLとA12CRとの直列共振周波数およびB12LLとB12CRとの直列共振周波数よりも十分に高くすることにより左手系伝送を実現させる。
【0057】
この伝送線路の直流における動作は、直列インピーダンス要素C1およびC2における遅れ位相を持つインダクタンス成分C1LRおよびC2LRが直流通路となり、分路アドミタンス要素A12およびB12における進み位相を持つキャパシタンス成分A12CRおよびB12CRが直流の分路を阻止するため、伝送線路の入出力において、直流が伝送可能となる。
【0058】
この伝送線路の低周波帯域における動作は、直列インピーダンス要素C1におけるC1LRとC1CLの組み合わせ、および、直列インピーダンス要素C2におけるC2LRとC2CLの組み合わせによる並列共振周波数よりも低い周波数帯域と、分路アドミタンス要素A12におけるA12LLとA12CRの組み合わせ、および、分路アドミタンス要素B12におけるB12LLとB12CRの組み合わせによる直列共振周波数よりも低い周波数帯域であり、直列インピーダンス要素C1およびC2は等価的に遅れ要素、分路アドミタンス要素A12およびB12は等価的に進み要素として作用するため、伝送線路は右手系伝送特性を有するものとなる。
【0059】
この伝送線路の高周波帯域における動作は、直列インピーダンス要素C1におけるC1LRとC1CLの組み合わせ、および、直列インピーダンス要素C2におけるC2LRとC2CLの組み合わせによる並列共振周波数よりも高い周波数帯域と、分路アドミタンス要素A12におけるA12LLとA12CRの組み合わせ、および、分路アドミタンス要素B12におけるB12LLとB12CRの組み合わせによる直列共振周波数よりも高い周波数帯域であり、かつ、それぞれの寄生インダクタンスおよび寄生キャパシタンスによる第2の共振周波数よりも低い周波数帯域において、直列インピーダンス要素C1およびC2は等価的に進み要素、分路アドミタンス要素A12およびB12は等価的に遅れ要素として作用するため、伝送線路は左手系伝送特性を有するものとなる。
【0060】
上記の周波数帯域よりもさらに高い周波数帯域、すなわち、直列インピーダンス要素C1およびC2の寄生インダクタンス成分C1LPおよびC2LPによる第2の自己共振周波数と、分路アドミタンス要素A12およびB12の寄生キャパシタンス成分A12CPおよびB12CPによる第2の自己共振周波数のそれぞれよりも高い周波数帯域では、直列インピーダンスは等価的に遅れ要素、分路アドミタンスは等価的に進み要素として作用するため、伝送線路は右手系伝送特性を有するものとなる。
【0061】
一方で、コモンモード信号については、2本の信号線が同電位となるため、その間の分路アドミタンス要素A12およびB12のうち、A12LL、A12CR、B12LLおよびB12CRが機能しない。このため、分路アドミタンス要素A12およびB12は、接地導体GNDとの寄生キャパシタンスであるA1CP、A2CP、B1CPおよびB2CPの進み要素のみとなる。したがって、直列インピーダンス要素C1およびC2が等価的に進み要素として作用する周波数帯域(上述の左手系伝送特性を有する周波数帯域)では、伝送線路は直列インピーダンス要素および分路アドミタンス要素がともに進み要素となるため、コモンモード信号が伝搬できない。したがって、上述の左手系伝送特性を有する同周波数帯域においては、差動信号モードのみ伝搬するため、この伝送線路はコモンモードフィルタとして機能する。
【0062】
一方、直列インピーダンス要素および分路アドミタンス要素がともに進み要素、あるいはともに遅れ要素である場合、信号は伝搬できない。これらの状態となる周波数帯域をストップバンドと称し、ストップバンドが小さくなるように、直列インピーダンス要素と分路アドミタンス要素の共振周波数を一致させることが好ましい。
【0063】
実施の形態2
図3は、この発明の実施の形態2に係る左手系差動伝送線路の構成を示す構造図である。図3の構造の伝送線路は、図1の構造の伝送線路と同様に、図2の等価回路図で表される。図3の構造の伝送線路は、図2の等価回路図で表されることから、回路動作は図1の実施の形態1に係る左手系差動伝送線路と同様の動作をする。図3の左手系差動伝送線路の構造は、図1に示される実施の形態1と同様に次のことが言える。本構造は、プリント基板などの平面導体による構造である。図3の平面線路に対して、その下面に絶縁層を介してグラウンドを配置したマイクロストリップ線路型、その上下両面に絶縁層を介してグラウンドを配置したストリップ線路型、および、その同一平面上にグラウンドを配置したコプレーナ線路型なども構成できる。
【0064】
本構造の伝送線路は、プリント基板作製技術やIC作製技術などを用いて実現することができる。一般的には、フォトリソグラフィ技術に基づいて作製される。また、本構造の伝送線路は、導体パターンとグラウンドとの間の電磁界伝搬媒質に生じる電磁界の伝搬により動作する。電磁界伝搬媒質は、単純な絶縁材料でも良いが、誘電率が高い材料や透磁率が高い材料を使うことにより、電磁波の波長が短縮される。また、低損失な材料を用いることにより、デバイスの挿入損失を軽減することができる。導体およびグラウンドを構成する材料は、導電率が高い材料を選択することにより、デバイスの挿入損失を軽減することができる。
【0065】
図3の左手系差動伝送線路は、第1の伝送線路L1と、第2の伝送線路L2で構成された差動伝送線路である。第1の伝送線路L1は、Aパターン部L1AとBパターン部L1Bと、それに挟まれるCパターン部L1CおよびCLパターン部CL1から構成される。また、第2の伝送線路L2は、第1の伝送線路L1と同様に、Aパターン部L2AとBパターン部L2Bと、それに挟まれるCパターン部L2CおよびCLパターン部CL2から構成される。また、第1の伝送線路L1のAパターン部と第2の伝送線路L2のAパターン部とに挟まれるCRパターン部CR1AおよびCR2Aと、第1の伝送線路L1のBパターン部と第2の伝送線路L2のBパターン部とに挟まれるCRパターン部CR1BおよびCR2Bから構成される。ここで、Cパターン部L1C、L2Cの幅がAパターン部L1A、L2AおよびBパターン部L1B、L2Bの幅よりも小さい点は上記実施の形態1と同様である。また、この点は後述する他の実施の形態でも同様である。
【0066】
伝送線路は、本構造を基本構造(ユニットセル)とし、これを複数縦続接続させることで伝送線路を形成する。なお、本構造(ユニットセル)の長さは、使用する周波数の電磁波波長の四分の1の長さよりも十分に小さいことが好ましい。
【0067】
Aパターン部L1AおよびL2Aは、幅wa、長さlaの長方形パターンであり、Bパターン部L1BおよびL2Bは、幅wb、長さlbの長方形パターンである。Cパターン部L1CおよびL2Cは、Aパターン部とBパターン部を接続する、幅wc、長さlcの帯状パターンである。CLパターン部CL1およびCL2は、Aパターン部とBパターン部の間で、L1CおよびL2Cに対してそれぞれ隣接して並列接続で配置され、インターディジタルキャパシタ構造のパターンである。Cパターン部L1CおよびL2Cの内側の辺は、Aパターン部およびBパターン部の内側の辺から外側に距離dcだけ離して配置する。CLパターン部CL1およびCL2は、L1CおよびL2Cに対して、図示のように内側のみに配置されても、外側のみに配置されても、両側に配置されても良い。
【0068】
第1の伝送線路L1のAパターン部L1Aと第2の伝送線路L2のAパターン部L2Aの間に、CRパターン部CR1AおよびCR2Aを配置し、第1の伝送線路L1のBパターン部L1Bと第2の伝送線路L2のBパターン部L2Bの間に、CRパターン部CR1BおよびCR2Bを配置する。CRパターン部CR1AとCR2Aがペアとなり、CRパターン部CR1BとCR2Bがペアとなることにより、分路アドミタンス要素を構成する。CRパターン部は、それぞれT字状パターンであり、インダクタンスおよびキャパシタンスを形成する。T字状パターンは、インターディジタルキャパシタ構造のパターンと比較して、インダクタンスとキャパシタンスの設計を独立させることができるため、設計が容易となる。第1の伝送線路L1と第2の伝送線路L2の対称性から、Aパターン部、Bパターン部、Cパターン部はそれぞれ、第1の伝送線路と第2の伝送線路の中心線に対して線対称であることが好ましい。
【0069】
図3の左手系差動伝送線路は、図1と同様に図2の等価回路で表される。図2の等価回路の動作は、実施の形態1と同様である。図3の構造と図2の等価回路の主な対応はそれぞれ次の通りである。
【0070】
図3のAパターン部L1AおよびL2Aと、CRパターン部CR1AおよびCR2Aは、図2の等価回路の点線で囲われたA12部分に対応し、図3のBパターン部L1BおよびL2Bと、CRパターン部CR1BおよびCR2Bは、図2の等価回路の点線で囲われたB12部分に対応し、図3のCパターン部L1C、L2C、CL1、CL2は、図2の等価回路の点線で囲われたC1部分およびC2部分にそれぞれ対応する。
【0071】
図2の等価回路のA12部分を構成するA12LLは、Aパターン部分における、第1の伝送線路L1と第2の伝送線路L2との間の線間インダクタンス成分A12LLである。A12LLと同様に、図2の等価回路のB12部分を構成するB12LLは、Bパターン部分における、第1の伝送線路L1と第2の伝送線路L2との間の線間インダクタンス成分B12LLである。これらの線間インダクタンス成分は、Aパターン部分およびBパターン部分の導体パターンのうち、Cパターン部分と連結する位置よりも内側の導体パターンおよびCRパターン部が主に寄与する。A12LLおよびB12LLは、分路要素の線間インダクタンス成分として寄与し、コモンモードフィルタが動作する左手系周波数帯域において、分路要素の遅れ位相を持つ回路素子として機能する。
【0072】
図2の等価回路のA12部分を構成するA12CRは、Aパターン部分における、第1の伝送線路L1と第2の伝送線路L2との間の線間キャパシタンス成分A12CRである。A12CRと同様に、図2の等価回路のB12部分を構成するB12CRは、Bパターン部分における、第1の伝送線路L1と第2の伝送線路L2との間の線間インダクタンス成分B12CRである。これらの線間キャパシタンス成分は、Aパターン部分およびBパターン部分における、第1の伝送線路L1と第2の伝送線路L2との間のCRパターン部が主に寄与する。A12CRおよびB12CRは、分路要素の線間キャパシタンス成分として寄与し、コモンモードフィルタが動作する左手系周波数帯域よりも低い周波帯域において、分路要素の進み位相を持つ回路素子として機能する。
【0073】
図2の等価回路のA12部分を構成するA1CPおよびA2CPは、Aパターン部分における、第1の伝送線路L1および第2の伝送線路L2と接地導体GNDの間に生じる寄生キャパシタンス成分A1CPおよびA2CPである。A1CPおよびA2CPと同様に、図2の等価回路のB12部分を構成するB1CPおよびB2CPは、Bパターン部分における、第1の伝送線路L1および第2の伝送線路L2と接地導体GNDの間に生じる寄生キャパシタンス成分B1CPおよびB2CPである。これらの寄生キャパシタンス成分は、Aパターン部分、Bパターン部分、CRパターン部における、第1の伝送線路L1および第2の伝送線路L2と接地導体GNDの間のキャパシタンスであり、Aパターン部分およびBパターン部分の寸法と伝送線路パターンと接地導体GNDパターンとの間の間隔ddが寄与し、パターンの面積および間隔ddの長さが主要パラメータとなる。A1CP、A2CP、B1CPおよびB2CPは、分路要素の寄生キャパシタンス成分として寄与し、コモンモードフィルタが動作する左手系周波数帯域よりも高い周波帯域において、分路要素の進み位相を持つ回路素子として機能する。
【0074】
図2の等価回路のC1およびC2部分を構成するC1LRおよびC2LRは、Cパターン部分における、Aパターン部分とBパターン部分との間のインダクタンス成分C1LRおよびC2LRであり、Cパターン部分L1CおよびL2Cのインダクタンスに対応する。これらのインダクタンス成分は、Cパターン部分の寸法が寄与する。C1LRおよびC2LRは、伝送線路の直列要素の並列インダクタンス成分として寄与し、コモンモードフィルタが動作する左手系周波数帯域よりも低い周波帯域において、直列要素の遅れ位相を持つ回路素子として機能する。
【0075】
図2の等価回路のC1およびC2部分を構成するC1CLおよびC2CLは、Cパターン部分における、Aパターン部分とBパターン部分との間のキャパシタンス成分C1CLおよびC2CLであり、Cパターン部分L1CおよびL2Cを除く、Aパターン部分とBパターン部分との間のCLパターン部CL1およびCL2によって形成されるキャパシタンス成分に対応する。これらのキャパシタンス成分は、Aパターン部分とBパターン部分との間のCLパターン部CL1およびCL2が寄与する。C1CLおよびC2CLは、伝送線路の直列要素の並列キャパシタンス成分として寄与し、コモンモードフィルタが動作する左手系周波数帯域において、直列要素の進み位相を持つ回路素子として機能する。
【0076】
図2の等価回路のC1およびC2部分を構成するC1LPおよびC2LPは、Cパターン部分における、Aパターン部分とBパターン部分との間のキャパシタンス成分C1CLおよびC2CLに寄生するインダクタンス成分に対応する。これらのインダクタンス成分は、Aパターン部分、Bパターン部分、Cパターン部の寸法が寄与する。C1LPおよびC2LPは、伝送線路の直列要素の並列キャパシタンスの寄生インダクタンス成分として寄与し、コモンモードフィルタが動作する左手系周波数帯域よりも高い周波数帯域において、直列要素の遅れ位相を持つ回路素子として機能する。
【0077】
図3の構造は、図1の構造と比較して、Cパターン部にCLパターン部が追加されている。CLパターン部は、図2におけるキャパシタンスC1CLおよびC2CLと、その寄生インダクタンスとなるC1LPおよびC2LPを構成する。
【0078】
CLパターン部は、インターディジタルキャパシタ構造であり、図1の単純なギャップによるキャパシタンスに比べて、パターン間の対向面積を大きくできるため、小さな面積で大きなキャパシタンスを得ることができる。このため、小型化に適した構造である。
【0079】
また、図3の構造は、図1の構造と比較して、2本の伝送線路間の間隔daおよびdbの部分に、T字型の導体パターンの配置している。この部分で、図2におけるインダクタンスA12LLおよびB12LLと、キャパシタンスA12CRおよびB12CRを形成する。
【0080】
この部分を、図3のようなT字型にすることにより、比較的簡単な構造でありながら、インダクタンスLLおよびキャパシタンスCRの設計値を、T字の縦線部分(Aパターン部およびBパターン部から内側へ突出する細幅部分)および横線部分(細幅部分の先端(内側)において入出力方向に広がった幅広部分)に分けて設計することが可能であるため、LLとCRの独立した設計が可能となるため、図3の構造は、設計回路パラメータを簡単に柔軟に設定することに適した構造である。
【0081】
実施の形態3
図4は、この発明の実施の形態3に係る左手系差動伝送線路の構成を示す構造図である。図4の構造の伝送線路は、図1の構造の伝送線路と同様に、図2の等価回路図で表される。図4の構造の伝送線路は、図2の等価回路図で表されることから、回路動作は図1の実施の形態1に係る左手系差動伝送線路と同様の動作をする。
【0082】
図4の左手系差動伝送線路の構造は、図1に示される実施の形態1と同様に次のことが言える。本構造は、プリント基板などの平面導体による構造である。図4の平面線路に対して、その下面に絶縁層を介してグラウンドを配置したマイクロストリップ線路型、その上下両面に絶縁層を介してグラウンドを配置したストリップ線路型、および、その同一平面上にグラウンドを配置したコプレーナ線路型なども構成できる。
【0083】
本構造の伝送線路は、プリント基板作製技術やIC作製技術などを用いて実現することができる。一般的には、フォトリソグラフィ技術に基づいて作製される。また、本構造の伝送線路は、導体パターンとグラウンドとの間の電磁界伝搬媒質に生じる電磁界の伝搬により動作する。電磁界伝搬媒質は、単純な絶縁材料でも良いが、誘電率が高い材料や透磁率が高い材料を使うことにより、電磁波の波長が短縮される。また、低損失な材料を用いることにより、デバイスの挿入損失を軽減することができる。導体およびグラウンドを構成する材料は、導電率が高い材料を選択することにより、デバイスの挿入損失を軽減することができる。
【0084】
図4の左手系差動伝送線路は、第1の伝送線路L1と、第2の伝送線路L2で構成された差動伝送線路である。第1の伝送線路L1は、Aパターン部L1AとBパターン部L1Bと、それに挟まれるCパターン部L1CおよびCLパターン部CL1から構成される。また、第2の伝送線路L2は、第1の伝送線路L1と同様に、Aパターン部L2AとBパターン部L2Bと、それに挟まれるCパターン部L2CおよびCLパターン部CL2から構成される。また、第1の伝送線路L1のAパターン部と第2の伝送線路L2のAパターン部とに挟まれるCRパターン部CR1AおよびCR2Aと、第1の伝送線路L1のBパターン部と第2の伝送線路L2のBパターン部とに挟まれるCRパターン部CR1BおよびCR2Bから構成される。
【0085】
伝送線路は、本構造を基本構造(ユニットセル)とし、これを複数縦続接続させることで伝送線路を形成する。なお、本構造(ユニットセル)の長さは、使用する周波数の電磁波波長の四分の1の長さよりも十分に小さいことが好ましい。
【0086】
Aパターン部L1AおよびL2Aは、幅wa、長さlaの長方形パターンであり、Bパターン部L1BおよびL2Bは、幅wb、長さlbの長方形パターンである。Cパターン部L1CおよびL2Cは、Aパターン部とBパターン部を接続する幅wc、長さlcの帯状パターンであるが、線路長lcを長くしてインダクタンスを大きくするために、つづら折れ構造となっている。Cパターン部L1CおよびL2Cは、つづら折れ構造の他にもスパイラル構造・ダブルスパイラル構造など、小型で大きなインダクタンスを得るパターンとして種々の形状が考えられる。Cパターン部CL1およびCL2は、Aパターン部とBパターン部の間で、L1CおよびL2Cに対してそれぞれ隣接して並列接続で配置され、インターディジタルキャパシタ構造のパターンである。Cパターン部L1CおよびL2Cの内側の辺は、Aパターン部およびBパターン部の内側の辺から外側に距離dcだけ離して配置する。図示例では、Cパターン部L1CおよびL2CはAパターン部およびBパターン部よりも外側に配置されている。CLパターン部CL1およびCL2は、L1CおよびL2Cに対して、図示のように内側のみに配置されても、外側のみに配置されても、両側に配置されても良い。
【0087】
第1の伝送線路L1のAパターン部L1Aと第2の伝送線路L2のAパターン部L2Aの間に、CRパターン部CR1AおよびCR2Aを配置し、第1の伝送線路L1のBパターン部L1Bと第2の伝送線路L2のBパターン部L2Bの間に、CRパターン部CR1BおよびCR2Bを配置する。CRパターン部CR1AとCR2Aがペアとなり、CRパターン部CR1BとCR2Bがペアとなることにより、分路アドミタンス要素を構成する。CRパターン部は、それぞれT字状パターンであり、インダクタンスおよびキャパシタンスを形成する。T字状パターンは、インターディジタルキャパシタ構造のパターンと比較して、インダクタンスとキャパシタンスの設計を独立させることができるため、設計が容易となる。第1の伝送線路L1と第2の伝送線路L2の対称性から、Aパターン部、Bパターン部、Cパターン部はそれぞれ、第1の伝送線路と第2の伝送線路の中心線に対して線対称であることが好ましい。
【0088】
図4の左手系差動伝送線路は、図1と同様に図2の等価回路で表される。図2の等価回路の動作は、実施の形態1と同様である。図4の構造と図2の等価回路の主な対応はそれぞれ次の通りである。
【0089】
図4のAパターン部L1AおよびL2Aと、CRパターン部CR1AおよびCR2Aは、図2の等価回路の点線で囲われたA12部分に対応し、図4のBパターン部L1BおよびL2Bと、CRパターン部CR1BおよびCR2Bは、図2の等価回路の点線で囲われたB12部分に対応し、図4のCパターン部L1C、L2CおよびCLパターン部CL1、CL2は、図2の等価回路の点線で囲われたC1部分およびC2部分にそれぞれ対応する。
【0090】
図2の等価回路のA12部分を構成するA12LLは、Aパターン部分における、第1の伝送線路L1と第2の伝送線路L2との間の線間インダクタンス成分A12LLである。A12LLと同様に、図2の等価回路のB12部分を構成するB12LLは、Bパターン部分における、第1の伝送線路L1と第2の伝送線路L2との間の線間インダクタンス成分B12LLである。これらの線間インダクタンス成分は、Aパターン部分およびBパターン部分の導体パターンのうち、Cパターン部分と連結する位置よりも内側の導体パターンおよびCRパターン部が主に寄与する。A12LLおよびB12LLは、分路要素の線間インダクタンス成分として寄与し、コモンモードフィルタが動作する左手系周波数帯域において、分路要素の遅れ位相を持つ回路素子として機能する。
【0091】
図2の等価回路のA12部分を構成するA12CRは、Aパターン部分における、第1の伝送線路L1と第2の伝送線路L2との間の線間キャパシタンス成分A12CRである。A12CRと同様に、図2の等価回路のB12部分を構成するB12CRは、Bパターン部分における、第1の伝送線路L1と第2の伝送線路L2との間の線間インダクタンス成分B12CRである。これらの線間キャパシタンス成分は、Aパターン部分およびBパターン部分における、第1の伝送線路L1と第2の伝送線路L2との間のCRパターン部が主に寄与する。A12CRおよびB12CRは、分路要素の線間キャパシタンス成分として寄与し、コモンモードフィルタが動作する左手系周波数帯域よりも低い周波帯域において、分路要素の進み位相を持つ回路素子として機能する。
【0092】
図2の等価回路のA12部分を構成するA1CPおよびA2CPは、Aパターン部分における、第1の伝送線路L1および第2の伝送線路L2と接地導体GNDの間に生じる寄生キャパシタンス成分A1CPおよびA2CPである。A1CPおよびA2CPと同様に、図2の等価回路のB12部分を構成するB1CPおよびB2CPは、Bパターン部分における、第1の伝送線路L1および第2の伝送線路L2と接地導体GNDの間に生じる寄生キャパシタンス成分B1CPおよびB2CPである。これらの寄生キャパシタンス成分は、Aパターン部分、Bパターン部分、CRパターン部における、第1の伝送線路L1および第2の伝送線路L2と接地導体GNDの間のキャパシタンスであり、Aパターン部分およびBパターン部分の寸法と伝送線路パターンと接地導体GNDパターンとの間の間隔ddが寄与し、パターンの面積および間隔ddの長さが主要パラメータとなる。A1CP、A2CP、B1CPおよびB2CPは、分路要素の寄生キャパシタンス成分として寄与し、コモンモードフィルタが動作する左手系周波数帯域よりも高い周波帯域において、分路要素の進み位相を持つ回路素子として機能する。
【0093】
図2の等価回路のC1およびC2部分を構成するC1LRおよびC2LRは、Cパターン部分における、Aパターン部分とBパターン部分との間のインダクタンス成分C1LRおよびC2LRであり、Cパターン部分L1CおよびL2Cのインダクタンスに対応する。これらのインダクタンス成分は、Cパターン部分の寸法が寄与する。C1LRおよびC2LRは、伝送線路の直列要素の並列インダクタンス成分として寄与し、コモンモードフィルタが動作する左手系周波数帯域よりも低い周波帯域において、直列要素の遅れ位相を持つ回路素子として機能する。
【0094】
図2の等価回路のC1およびC2部分を構成するC1CLおよびC2CLは、Cパターン部分における、Aパターン部分とBパターン部分との間のキャパシタンス成分C1CLおよびC2CLであり、Cパターン部分L1CおよびL2Cを除く、Aパターン部分とBパターン部分との間のCLパターン部CL1およびCL2によって形成されるキャパシタンス成分に対応する。これらのキャパシタンス成分は、Aパターン部分とBパターン部分との間のCLパターン部CL1およびCL2が寄与する。C1CLおよびC2CLは、伝送線路の直列要素の並列キャパシタンス成分として寄与し、コモンモードフィルタが動作する左手系周波数帯域において、直列要素の進み位相を持つ回路素子として機能する。
【0095】
図2の等価回路のC1およびC2部分を構成するC1LPおよびC2LPは、Cパターン部分における、Aパターン部分とBパターン部分との間のキャパシタンス成分C1CLおよびC2CLに寄生するインダクタンス成分に対応する。これらのインダクタンス成分は、Aパターン部分、Bパターン部分、Cパターン部の寸法が寄与する。C1LPおよびC2LPは、伝送線路の直列要素の並列キャパシタンスの寄生インダクタンス成分として寄与し、コモンモードフィルタが動作する左手系周波数帯域よりも高い周波数帯域において、直列要素の遅れ位相を持つ回路素子として機能する。
【0096】
図4の構造は、図1の構造と比較して、Cパターン部にCLパターン部が追加されている。CLパターン部は、図2におけるキャパシタンスC1CLおよびC2CLと、その寄生インダクタンスとなるC1LPおよびC2LPを構成する。図3の構造と同様の特徴を有する。CLパターン部は、インターディジタルキャパシタ構造であり、図1の単純なギャップによるキャパシタンスに比べて、パターン間の対抗面積を大きくできるため、小さな面積で大きなキャパシタンスを得ることができる。このため、小型化に適した構造である。
【0097】
図4の構造は、図3の構造と比較して、Cパターン部のL1CおよびL2Cパターンがつづら折れ構造になっている。これにより、大きなインダクタンスを構成できる。また、この部分をスパイラル形状やダブルスパイラル形状にすることも考えられる。
【0098】
また、図4の構造は、図3と同様に、2本の伝送線路間の間隔daおよびdbの部分に、T字型の導体パターンの配置している。この部分で、図2におけるインダクタンスA12LLおよびB12LLと、キャパシタンスA12CRおよびB12CRを形成する。この部分を、図4のようなT字型にすることにより、比較的簡単な構造でありながら、インダクタンスLLおよびキャパシタンスCRの設計値を、T字の縦線部分および横線部分に分けて設計することが可能であるため、LLとCRの独立した設計が可能となるため、図4の構造は、設計回路パラメータを簡単に柔軟に設定することに適した構造である。
【0099】
実施の形態4
図5は、この発明の実施の形態4に係る左手系差動伝送線路の構成を示す構造図である。図5の構造の伝送線路は、図1の構造の伝送線路と同様に、図2の等価回路図で表される。図5の構造の伝送線路は、図2の等価回路図で表されることから、回路動作は図1の実施の形態1に係る左手系差動伝送線路と同様の動作をする。
【0100】
図5の左手系差動伝送線路の構造は、図1に示される実施の形態1と同様に次のことが言える。本構造は、プリント基板などの平面導体による構造である。図5の平面線路に対して、その下面に絶縁層を介してグラウンドを配置したマイクロストリップ線路型、その上下両面に絶縁層を介してグラウンドを配置したストリップ線路型、および、その同一平面上にグラウンドを配置したコプレーナ線路型なども構成できる。
【0101】
本構造の伝送線路は、プリント基板作製技術やIC作製技術などを用いて実現することができる。一般的には、フォトリソグラフィ技術に基づいて作製される。また、本構造の伝送線路は、導体パターンとグラウンドとの間の電磁界伝搬媒質に生じる電磁界の伝搬により動作する。電磁界伝搬媒質は、単純な絶縁材料でも良いが、誘電率が高い材料や透磁率が高い材料を使うことにより、電磁波の波長が短縮される。また、低損失な材料を用いることにより、デバイスの挿入損失を軽減することができる。導体およびグラウンドを構成する材料は、導電率が高い材料を選択することにより、デバイスの挿入損失を軽減することができる。
【0102】
図5の左手系差動伝送線路は、第1の伝送線路L1と、第2の伝送線路L2で構成された差動伝送線路である。第1の伝送線路L1は、Aパターン部L1AとBパターン部L1Bと、その間の要素となるCパターン部L1CおよびCLパターン部CL1から構成される。また、第2の伝送線路L2は、第1の伝送線路L1と同様に、Aパターン部L2AとBパターン部L2Bと、その間の要素となるCパターン部L2CおよびCLパターン部CL2から構成される。また、第1の伝送線路L1のAパターン部と第2の伝送線路L2のAパターン部との間の要素となるCRパターン部CR1AおよびCR2Aと、第1の伝送線路L1のBパターン部と第2の伝送線路L2のBパターン部との間の要素となるCRパターン部CR1BおよびCR2Bから構成される。
【0103】
なお、CL1、CL2、CR2A、CR2Bの各パターンは、それ以外のパターン部である第1パターン層に対し、絶縁層SUB1あるいはSUB2を介して第2パターン層として形成される。この第2パターン層は、第1パターン層の上部でも下部でものいずれか片側で良く、あるいは、上下両側であっても良い。片側の場合は、構造が簡単である。両側の場合は、大きなキャパシタンスなどを構成することができる。
【0104】
伝送線路は、本構造を基本構造(ユニットセル)とし、これを複数縦続接続させることで伝送線路を形成する。なお、本構造(ユニットセル)の長さは、使用する周波数の電磁波波長の四分の1の長さよりも十分に小さいことが好ましい。
【0105】
Aパターン部L1AおよびL2Aは、幅wa、長さlaの長方形パターンであり、Bパターン部L1BおよびL2Bは、幅wb、長さlbの長方形パターンである。Cパターン部L1CおよびL2Cは、Aパターン部とBパターン部を接続する幅wc、長さlcの帯状パターンである。Cパターン部L1CおよびL2Cは、線路長lcを長くしてインダクタンスを大きくするために、つづら折れ構造、スパイラル構造、ダブルスパイラル構造など、小型で大きなインダクタンスを得るパターンとして種々の形状が考えられる。Cパターン部L1CおよびL2Cの内側の辺は、Aパターン部およびBパターン部の内側の辺から外側に距離dcだけ離して配置する。
【0106】
CLパターン部CL1およびCL2は、Aパターン部とBパターン部の間で、L1CおよびL2Cに対してそれぞれ隣接して並列接続で配置されるパターンである。CLパターン部CL1およびCL2は、L1CおよびL2Cが配置される第1パターン層に対して、絶縁層SUB1を介して別の第2パターン層に配置されるパターンである。CLパターン部CL1およびCL2は、主としてAパターン部やBパターン部と静電結合され、Aパターン部とBパターン部の間にキャパシタンスC1CLおよびC2CLを形成する。キャパシタンスC1CLおよびC2CLは、MIMキャパシタ構造であり、絶縁層(I)の厚さを変えるか、金属(M)パターン間の対向面積を変えることによりキャパシタンスを調整できる。したがって、図4に示されるインターディジタルキャパシタ構造よりも、構造が簡単でキャパシタンスの調整や、大きなキャパシタンスを構成するのに適している。
【0107】
第1の伝送線路L1のAパターン部L1Aと第2の伝送線路L2のAパターン部L2Aの間に、CRパターン部CR1AおよびCR2Aを配置し、第1の伝送線路L1のBパターン部L1Bと第2の伝送線路L2のBパターン部L2Bの間に、CRパターン部CR1BおよびCR2Bを配置する。CRパターン部CR1AとCR2Aがペアとなり、CRパターン部CR1BとCR2Bがペアとなることにより、分路アドミタンス要素を構成する。CRパターン部CR2AおよびCR2Bは、CR1AおよびCR1Bが配置される第1パターン層に対して、絶縁層SUB1を介して別の第2パターン層に配置されるパターンである。CRパターン部CR2AおよびCR2Bは、CR1AおよびCR1Bと静電結合され、キャパシタンスA12CRおよびB12CRを形成する。キャパシタンスA12CRおよびB12CRは、MIMキャパシタ構造であり、絶縁層(I)の厚さを変えるか、金属(M)パターン間の対向面積を変えることによりキャパシタンスを調整できる。したがって、図4に示されるインターディジタルキャパシタ構造やT字状パターンよりも、構造が簡単でキャパシタンスの調整や、大きなキャパシタンスを構成するのに適している。第1の伝送線路L1と第2の伝送線路L2の対称性から、Aパターン部、Bパターン部、Cパターン部はそれぞれ、第1の伝送線路と第2の伝送線路の中心線に対して線対称であることが好ましい。
【0108】
図5の左手系差動伝送線路は、図1と同様に図2の等価回路で表される。図2の等価回路の動作は、実施の形態1と同様である。図5の構造と図2の等価回路の主な対応はそれぞれ次の通りである。
【0109】
図5のAパターン部L1AおよびL2Aと、CRパターン部CR1AおよびCR2Aは、図2の等価回路の点線で囲われたA12部分に対応し、図5のBパターン部L1BおよびL2Bと、CRパターン部CR1BおよびCR2Bは、図2の等価回路の点線で囲われたB12部分に対応し、図5のCパターン部L1C、L2C、および、CLパターン部CL1、CL2は、図2の等価回路の点線で囲われたC1部分およびC2部分にそれぞれ対応する。
【0110】
図2の等価回路のA12部分を構成するA12LLは、Aパターン部分における、第1の伝送線路L1と第2の伝送線路L2との間の線間インダクタンス成分A12LLである。A12LLと同様に、図2の等価回路のB12部分を構成するB12LLは、Bパターン部分における、第1の伝送線路L1と第2の伝送線路L2との間の線間インダクタンス成分B12LLである。これらの線間インダクタンス成分は、Aパターン部分およびBパターン部分の導体パターンのうち、Cパターン部分と連結する位置よりも内側の導体パターンおよびCRパターン部が主に寄与する。A12LLおよびB12LLは、分路要素の線間インダクタンス成分として寄与し、コモンモードフィルタが動作する左手系周波数帯域において、分路要素の遅れ位相を持つ回路素子として機能する。
【0111】
図2の等価回路のA12部分を構成するA12CRは、Aパターン部分における、第1の伝送線路L1と第2の伝送線路L2との間の線間キャパシタンス成分A12CRである。A12CRと同様に、図2の等価回路のB12部分を構成するB12CRは、Bパターン部分における、第1の伝送線路L1と第2の伝送線路L2との間の線間インダクタンス成分B12CRである。これらの線間キャパシタンス成分は、Aパターン部分およびBパターン部分における、第1の伝送線路L1と第2の伝送線路L2との間のCRパターン部が主に寄与する。A12CRおよびB12CRは、分路要素の線間キャパシタンス成分として寄与し、コモンモードフィルタが動作する左手系周波数帯域よりも低い周波帯域において、分路要素の進み位相を持つ回路素子として機能する。
【0112】
図2の等価回路のA12部分を構成するA1CPおよびA2CPは、Aパターン部分における、第1の伝送線路L1および第2の伝送線路L2と接地導体GNDの間に生じる寄生キャパシタンス成分A1CPおよびA2CPである。A1CPおよびA2CPと同様に、図2の等価回路のB12部分を構成するB1CPおよびB2CPは、Bパターン部分における、第1の伝送線路L1および第2の伝送線路L2と接地導体GNDの間に生じる寄生キャパシタンス成分B1CPおよびB2CPである。これらの寄生キャパシタンス成分は、Aパターン部分、Bパターン部分、CRパターン部における、第1の伝送線路L1および第2の伝送線路L2と接地導体GNDの間のキャパシタンスであり、Aパターン部分およびBパターン部分の寸法と伝送線路パターンと接地導体GNDパターンとの間の間隔ddが寄与し、パターンの面積および間隔ddの長さが主要パラメータとなる。A1CP、A2CP、B1CPおよびB2CPは、分路要素の寄生キャパシタンス成分として寄与し、コモンモードフィルタが動作する左手系周波数帯域よりも高い周波帯域において、分路要素の進み位相を持つ回路素子として機能する。
【0113】
図2の等価回路のC1およびC2部分を構成するC1LRおよびC2LRは、Cパターン部分における、Aパターン部分とBパターン部分との間のインダクタンス成分C1LRおよびC2LRであり、Cパターン部分L1CおよびL2Cのインダクタンスに対応する。これらのインダクタンス成分は、Cパターン部分の寸法が寄与する。C1LRおよびC2LRは、伝送線路の直列要素の並列インダクタンス成分として寄与し、コモンモードフィルタが動作する左手系周波数帯域よりも低い周波帯域において、直列要素の遅れ位相を持つ回路素子として機能する。
【0114】
図2の等価回路のC1およびC2部分を構成するC1CLおよびC2CLは、Cパターン部分における、Aパターン部分とBパターン部分との間のキャパシタンス成分C1CLおよびC2CLであり、Cパターン部分L1CおよびL2Cを除く、Aパターン部分とBパターン部分との間ギャップとCLパターン部CL1およびCL2によって形成されるキャパシタンス成分に対応する。これらのキャパシタンス成分は、Aパターン部分とBパターン部分との間ギャップとCLパターン部CL1およびCL2が寄与する。C1CLおよびC2CLは、伝送線路の直列要素の並列キャパシタンス成分として寄与し、コモンモードフィルタが動作する左手系周波数帯域において、直列要素の進み位相を持つ回路素子として機能する。
【0115】
図2の等価回路のC1およびC2部分を構成するC1LPおよびC2LPは、Cパターン部分における、Aパターン部分とBパターン部分との間のキャパシタンス成分C1CLおよびC2CLに寄生するインダクタンス成分に対応する。これらのインダクタンス成分は、Aパターン部分、Bパターン部分、Cパターン部の寸法が寄与する。C1LPおよびC2LPは、伝送線路の直列要素の並列キャパシタンスの寄生インダクタンス成分として寄与し、コモンモードフィルタが動作する左手系周波数帯域よりも高い周波数帯域において、直列要素の遅れ位相を持つ回路素子として機能する。
【0116】
図5の構造は、図1の構造と比較して、Cパターン部にCLパターン部が追加されている。CLパターン部は、図2におけるキャパシタンスC1CLおよびC2CLと、その寄生インダクタンスとなるC1LPおよびC2LPを構成する。図3および図4の構造と同様の特徴を有する。
【0117】
CLパターン部は、MIMキャパシタ構造であり、図1の単純なギャップによるキャパシタンスに比べて、パターン間の対抗面積を大きくできるため、小さな面積で大きなキャパシタンスを得ることができる。このため、小型化に適した構造である。また、図3および図4のインターディジタルキャパシタ構造に比べて、構造が簡単であるため、設計が容易で、大きなキャパシタンスを得ることができる。
【0118】
図5の構造のCパターン部のL1CおよびL2Cパターンは、図4と同様につづら折れ形状やスパイラル形状やダブルスパイラル形状などにしても良い。これにより、大きなインダクタンスを構成できる。
【0119】
また、図5の構造は、図1の構造と比較して、2本の伝送線路間の間隔daおよびdbの部分に、CRパターン部分を配置している。この部分で、図2におけるインダクタンスA12LLおよびB12LLと、キャパシタンスA12CRおよびB12CRを形成する。
【0120】
この部分を、図5のようなMIMキャパシタ構造により、図1の単純なギャップによるキャパシタンスに比べて、パターン間の対向面積を大きくできるため、小さな面積で大きなキャパシタンスを得ることができる。このため、小型化に適した構造である。また、図3および図4のT字状構造に比べて、設計が容易で、大きなキャパシタンスを得ることができる。
【0121】
実施の形態5
図6は、この発明の実施の形態5に係る左手系差動伝送線路の構成を示す構造図である。図6の構造の伝送線路は、図1の構造の伝送線路と同様に、図2の等価回路図で表される。図6の構造の伝送線路は、図2の等価回路図で表されることから、回路動作は図1の実施の形態1に係る左手系差動伝送線路と同様の動作をする。
【0122】
図6の左手系差動伝送線路の構造は、図1に示される実施の形態1と同様に次のことが言える。本構造は、プリント基板などの平面導体による構造である。図6の平面線路に対して、その下面に絶縁層を介してグラウンドを配置したマイクロストリップ線路型、その上下両面に絶縁層を介してグラウンドを配置したストリップ線路型、および、その同一平面上にグラウンドを配置したコプレーナ線路型なども構成できる。
【0123】
本構造の伝送線路は、プリント基板作製技術やIC作製技術などを用いて実現することができる。一般的には、フォトリソグラフィ技術に基づいて作製される。また、本構造の伝送線路は、導体パターンとグラウンドとの間の電磁界伝搬媒質に生じる電磁界の伝搬により動作する。電磁界伝搬媒質は、単純な絶縁材料でも良いが、誘電率が高い材料や透磁率が高い材料を使うことにより、電磁波の波長が短縮される。また、低損失な材料を用いることにより、デバイスの挿入損失を軽減することができる。導体およびグラウンドを構成する材料は、導電率が高い材料を選択することにより、デバイスの挿入損失を軽減することができる。
【0124】
図6の左手系差動伝送線路は、第1の伝送線路L1と、第2の伝送線路L2で構成された差動伝送線路である。第1の伝送線路L1は、Aパターン部L1AとBパターン部L1Bと、その間の要素となるCパターン部L1Cから構成される。また、第2の伝送線路L2は、第1の伝送線路L1と同様に、Aパターン部L2AとBパターン部L2Bと、その間の要素となるCパターン部L2Cから構成される。
【0125】
なお、第1の伝送線路L1を構成するパターン部である第1パターン層と、第2の伝送線路L2を構成するパターン部である第2パターン層とは、絶縁層SUB1あるいはSUB2を介して積層して形成される。この第1パターン層と第2パターン層の上下位置関係は、どちらが上であっても構わない。
【0126】
伝送線路は、本構造を基本構造(ユニットセル)とし、これを複数縦続接続させることで伝送線路を形成する。なお、本構造(ユニットセル)の長さは、使用する周波数の電磁波波長の四分の1の長さよりも十分に小さいことが好ましい。
【0127】
Aパターン部L1AおよびL2Aは、幅wa、長さlaの長方形パターンであり、Bパターン部L1BおよびL2Bは、幅wb、長さlbの長方形パターンである。Cパターン部L1CおよびL2Cは、Aパターン部とBパターン部を接続する幅wc、長さlcの帯状パターンである。Cパターン部L1CおよびL2Cは、線路長lcを長くしてインダクタンスを大きくするために、つづら折れ構造、スパイラル構造、ダブルスパイラル構造など、小型で大きなインダクタンスを得るパターンとして種々の形状が考えられる。Cパターン部L1CおよびL2の辺は、Aパターン部およびBパターン部よりも内側に距離dcだけ離して配置する。また、図6には示されていないが、キャパシタンスを大きくするために図4と同様にCLパターン部CL1およびCL2を設けても良い。CLパターン部CL1およびCL2は、Aパターン部とBパターン部の間で、L1CおよびL2Cに対してそれぞれ隣接して並列接続で配置される、インターディジタルキャパシタ構造が適当である。第1の伝送線路L1と第2の伝送線路L2の対称性から、Aパターン部、Bパターン部、Cパターン部はそれぞれ、第1の伝送線路と第2の伝送線路の中心線に対して線対称であることが好ましい。
【0128】
図6の左手系差動伝送線路は、図1と同様に図2の等価回路で表される。図2の等価回路の動作は、実施の形態1と同様である。図6の構造と図2の等価回路の主な対応はそれぞれ次の通りである。
【0129】
図6のAパターン部L1AおよびL2Aは、図2の等価回路の点線で囲われたA12部分に対応し、図6のBパターン部L1BおよびL2Bは、図2の等価回路の点線で囲われたB12部分に対応し、図6のCパターン部L1CおよびL2Cは、図2の等価回路の点線で囲われたC1部分およびC2部分にそれぞれ対応する。
【0130】
図2の等価回路のA12部分を構成するA12LLは、Aパターン部分における、第1の伝送線路L1と第2の伝送線路L2との間の線間インダクタンス成分A12LLである。A12LLと同様に、図2の等価回路のB12部分を構成するB12LLは、Bパターン部分における、第1の伝送線路L1と第2の伝送線路L2との間の線間インダクタンス成分B12LLである。これらの線間インダクタンス成分は、Aパターン部分およびBパターン部分の導体パターンのうち、Cパターン部分と連結する位置よりも内側の導体パターンが主に寄与する。A12LLおよびB12LLは、分路要素の線間インダクタンス成分として寄与し、コモンモードフィルタが動作する左手系周波数帯域において、分路要素の遅れ位相を持つ回路素子として機能する。
【0131】
図2の等価回路のA12部分を構成するA12CRは、Aパターン部分における、第1の伝送線路L1と第2の伝送線路L2との間の線間キャパシタンス成分A12CRである。A12CRと同様に、図2の等価回路のB12部分を構成するB12CRは、Bパターン部分における、第1の伝送線路L1と第2の伝送線路L2との間の線間インダクタンス成分B12CRである。これらの線間キャパシタンス成分は、Aパターン部分およびBパターン部分における、第1の伝送線路L1と第2の伝送線路L2との間ギャップが主に寄与する。A12CRおよびB12CRは、分路要素の線間キャパシタンス成分として寄与し、コモンモードフィルタが動作する左手系周波数帯域よりも低い周波帯域において、分路要素の進み位相を持つ回路素子として機能する。
【0132】
図2の等価回路のA12部分を構成するA1CPおよびA2CPは、Aパターン部分における、第1の伝送線路L1および第2の伝送線路L2と接地導体GNDの間に生じる寄生キャパシタンス成分A1CPおよびA2CPである。A1CPおよびA2CPと同様に、図2の等価回路のB12部分を構成するB1CPおよびB2CPは、Bパターン部分における、第1の伝送線路L1および第2の伝送線路L2と接地導体GNDの間に生じる寄生キャパシタンス成分B1CPおよびB2CPである。これらの寄生キャパシタンス成分は、Aパターン部分およびBパターン部分における、第1の伝送線路L1および第2の伝送線路L2と接地導体GNDの間のキャパシタンスであり、Aパターン部分およびBパターン部分の寸法と伝送線路パターンと接地導体GNDパターンとの間の間隔ddが寄与し、パターンの面積および間隔ddの長さが主要パラメータとなる。A1CP、A2CP、B1CPおよびB2CPは、分路要素の寄生キャパシタンス成分として寄与し、コモンモードフィルタが動作する左手系周波数帯域よりも高い周波帯域において、分路要素の進み位相を持つ回路素子として機能する。
【0133】
図2の等価回路のC1およびC2部分を構成するC1LRおよびC2LRは、Cパターン部分における、Aパターン部分とBパターン部分との間のインダクタンス成分C1LRおよびC2LRであり、Cパターン部分L1CおよびL2Cのインダクタンスに対応する。これらのインダクタンス成分は、Cパターン部分の寸法が寄与する。C1LRおよびC2LRは、伝送線路の直列要素の並列インダクタンス成分として寄与し、コモンモードフィルタが動作する左手系周波数帯域よりも低い周波帯域において、直列要素の遅れ位相を持つ回路素子として機能する。
【0134】
図2の等価回路のC1およびC2部分を構成するC1CLおよびC2CLは、Cパターン部分における、Aパターン部分とBパターン部分との間のキャパシタンス成分C1CLおよびC2CLであり、Cパターン部分L1CおよびL2Cを除く、Aパターン部分とBパターン部分との間のギャップによって形成されるキャパシタンス成分に対応する。これらのキャパシタンス成分は、Aパターン部分とBパターン部分との間ギャップが寄与する。C1CLおよびC2CLは、伝送線路の直列要素の並列キャパシタンス成分として寄与し、コモンモードフィルタが動作する左手系周波数帯域において、直列要素の進み位相を持つ回路素子として機能する。
【0135】
図2の等価回路のC1およびC2部分を構成するC1LPおよびC2LPは、Cパターン部分における、Aパターン部分とBパターン部分との間のキャパシタンス成分C1CLおよびC2CLに寄生するインダクタンス成分に対応する。これらのインダクタンス成分は、Aパターン部分およびBパターン部分の寸法が寄与する。C1LPおよびC2LPは、伝送線路の直列要素の並列キャパシタンスの寄生インダクタンス成分として寄与し、コモンモードフィルタが動作する左手系周波数帯域よりも高い周波数帯域において、直列要素の遅れ位相を持つ回路素子として機能する。
【0136】
図6の構造は、図1と同様に、パターン形状が簡単であるため、伝送線路を設計する際の寸法パラメータの要素数が少ないため、設計を容易にすることが可能である。また、簡単な形状であるため、薄膜の微細パターン技術に応じてサイズの小型化が図りやすい利点を有する。さらに、図6の構造は、図1の構造と比較して、第1の伝送線路L1と第2の伝送線路L2が、2つの層に分かれて積層されるため、占有面積が小さくできる利点がある。
【0137】
実施の形態6
図7は、この発明の実施の形態6に係る左手系差動伝送線路の構成を示す構造の鳥瞰図である。図8は、この発明の実施の形態6に係る左手系差動伝送線路の構成を示す構造の導体ラインパターンの上面図である。図7および図8は、同じ構造の視点を変えたものであり、左手系差動伝送線路の基本構造となるユニットセルを示している。図7および図8の構造の伝送線路は、図1の構造の伝送線路と同様に、図2の等価回路図で表される。図7および図8の構造の伝送線路は、図2の等価回路図で表されることから、回路動作は図1の実施の形態1に係る左手系差動伝送線路と同様の動作をする。
【0138】
図7および図8の構造は、上記図3に示したこの発明の実施の形態2を基本とした同様の構造である。したがって、図3の実施の形態2に係る左手系差動伝送線路と同様の特徴を有する。本構造は、上記図3と同様の特徴を有するので、特に、従来の技術(非特許文献4)では、分路アドミタンス部分がインターディジタルキャパシタ構造であり、分路アドミタンスを構成する直列インダクタンス要素LLと直列キャパシタンス要素CRの要素設計が独立できずに複雑であったが、本構造では同部分をT字型に変更したため、LLとCRの設計を分離して設計し易くなった。
【0139】
図3の構造との相違点は、図3におけるCLパターン部CL1およびCL2のインターディジタルキャパシタ構造が、指の本数を増やして細長くし、指間の間隔を狭めることにより、大きなキャパシタンスCLを構成している点である。加えて、図3におけるCパターン部L1CおよびL2Cのインダクタンス要素の配置が、図3ではCL1およびCL2部分よりも伝送線路の外側に配置しているのに対して、図7および図8の構造では伝送線路の内側に配置されている点である。インダクタンス要素を内側に配置することにより、差動伝送線路の2本の伝送線路間における結合が強まるため、相互インダクタンスが大きくなり、ディファレンシャルモードの場合とコモンモードの場合の等価回路のインダクタンスに大きな差異を生むことができる。これにより、コモンモードフィルタの特性改善が見込まれる。
【0140】
図9は、この発明の実施の形態6に係る左手系差動伝送線路の構成について、ユニットセルを3つ縦続接続させた構造の鳥瞰図である。これは、原理的には図7および図8の構造のユニットセルを縦続接続して、3つのユニットセル要素からなるデバイスを構成したものである。
【0141】
図7および図8の構造と異なる特徴点として、図9の入力端で分路アドミタンスを構成する部分および出力端で分路アドミタンスを構成する部分、つまり伝送線路の両端における分路要素は、図7および図8のデバイスと同じ寸法で設計すれば良いが、入出力端以外の中間の分路アドミタンスを構成する部分はその寸法設計が端部と異なる。
【0142】
ユニットセルを縦続接続で連結する場合に、互いのユニットセルが構造的に干渉する場合はもちろん、電磁気的にも干渉する場合は、単にユニットセル構造を並べただけでは、等価回路の動作が所望した設計に対して変わってしまう。ユニットセルを縦続接続する場合は、構造的にただ連結するのではなく、動作する等価回路が所望の特性を満足するように適宜変更する必要がある。
【0143】
図9の構造では、入出力端の分路アドミタンス要素の構造に対して、T字型を示す導体パターンは、主としてそのインダクタンスを構成する縦線部分の幅を太くすることでインダクタンスを小さく設計し、T字の向かい合わせとなる横線部分を大きくして、2つのT字の間隔を狭くすることにより、キャパシタンスを大きく設計している。これらの工夫により、等価回路のパラメータを調整し、連結するユニットセルのインダクタンス成分およびキャパシタンス成分を相互に合わせて共振周波数やブロッホインピーダンス特性を一致させることにより、複数のユニットセルを連結した場合の特性劣化を防いでいる。
【0144】
図10は、この発明の実施の形態6に係る図9のユニットセルを3つ縦続接続させたデバイスについて、3次元電磁界解析を用いて特性シミュレーションを行った結果、ディファレンシャル(差動信号)モードおよびコモン(同相ノイズ)モードの透過係数の大きさの周波数特性を比較したものである。3次元電磁界解析は、米国Sonnet Software社製3次元電磁界解析ソフトウェアSONNETを用いて行った。SONNETは平面構造のデバイスモデルの解析に適しており、モーメント法に基づいた解析手法を用いている。
【0145】
3次元電磁界解析条件としては、デバイス周囲の空気層は境界の影響と計算可能な解析領域を考慮して、デバイスの厚さ方向に約15mm、デバイスの幅方向に約5mmとした。導体材料は厚さ17μmの銅とし、誘電体材料は厚さ1.575mmのRogers社製RT/5880(比誘電率εr=2.2、tanδ=0.0009@10GHz)を想定した。解析に用いたセルサイズは0.01mm×0.01mmとした。デバイス寸法を最適化した結果、デバイスの外形寸法は、3つのユニットセルを合わせて長さ約17.2mm、幅約21.2mm、厚さ約1.6mmとなった。
【0146】
デバイス各部の寸法パラメータはそれぞれ次のように設定した。各入出力ポートのライン幅W1は4.58mm、ポート間の間隔dは12.02mmとした。直列インピーダンス要素を構成するインターディジタルキャパシタによるキャパシタンスCLは、指の線幅WCLを0.08mm、間隔SCLを0.12mm、長さLCLを2.7mmとして、10対のインターディジタルキャパシタとした。直列インピーダンス要素を構成するマイクロストリップラインによるインダクタンスLRは、長さL2を2.82mm、線幅WLRを0.38mmとして、インターディジタルキャパシタCLと互いに並列となるように配置し、併せて直列インピーダンス要素Zを構成した。伝送線路の両端部分(入出力端部)にある分路アドミタンス要素を構成するT字型構造の横線部分による分路キャパシタンスCR1は、T字の横線部分の幅WCR1を1.18mm、長さLCR1を4.08mmとして、2つのT字パターンが向かい合う間隔SCR1を0.12mmとした。伝送線路の両端部分(入出力端部)にある分路アドミタンス要素を構成するT字型構造の縦線部分のマイクロストリップラインによる分路インダクタンスLL1は、T字の縦線部分の長さLLL1を4.77mm、線幅WLL1を0.08mmとした。一方、伝送線路の中間部分(入出力端部以外)にある分路アドミタンス要素を構成するT字型構造の横線部分による分路キャパシタンスCR2は、T字の横線部分の幅WCR2を0.98mm、長さLCR2を5.58mmとして、2つのT字パターンが向かい合う間隔SCR2を0.12mmとした。伝送線路の中間部分(入出力端部以外)にある分路アドミタンス要素を構成するT字型構造の縦線部分のマイクロストリップラインによる分路インダクタンスLL2は、T字の縦線部分の長さLLL2を4.97mm、線幅WLL2を0.58mmとした。
【0147】
3つのユニットセルを縦続接続したデバイスについて検討すると、ユニットセル1つのデバイスに対して、減衰が大きくなる。このとき、コモンモード成分の減衰が大きくなることは良いが、ディファレンシャルモード成分の減衰も大きくなるため注意が必要である。実用性能を満足する上では、コモンモード成分の透過係数を目標値よりも小さくし、ディファレンシャルモード成分の透過係数を目標値よりも大きくする必要がある。したがって、ユニットセルの縦続接続によりデバイスを構成する場合、コモンモード成分を十分抑制できるセル数以上で、かつ、ディファレンシャルモード成分が十分に透過するセル数以下の範囲で縦続接続するセル数を設定する必要がある。本デバイスの設計においては、3つが適切なセル数であった。
【0148】
上記寸法にて設計したデバイスを試作した結果について示す。作製には、Rogers社製RT/5880基板(比誘電率εr=2.2、tanδ=0.0009@10GHz、誘電体厚さ1.575mm、銅箔厚さ17μm、両面銅箔)を用いて、裏面を全面をグラウンドプレーンとしてそのまま使用し、表面をフォトリソグラフィとウェットエッチング加工により導体パターンを形成した。完成した伝送線路基板の4つの入出力ポートにそれぞれSMAコネクタを接続し、4ポートネットワークアナライザ(Advantest社製R3767CG)を用いて、付属のdifferential/common modeソフトウェアフィクスチャ機能により、ディファレンシャルモードおよびコモンモードの伝送特性を測定した。
【0149】
図11は、この発明の実施の形態6に係る図9のユニットセルを3つ縦続接続させたデバイスについて、試作したデバイスの伝送特性を測定した結果、ディファレンシャル(差動信号)モードおよびコモン(同相ノイズ)モードの透過係数の大きさの周波数特性を比較したものである。
【0150】
図12は、この発明の実施の形態6に係る図9のユニットセルを3つ縦続接続させたデバイスについて、試作したデバイスの伝送特性を測定した結果、ディファレンシャル(差動信号)モードおよびコモン(同相ノイズ)モードの透過係数の大きさの周波数特性を比較したものである。
【0151】
図11の特性より、特にコモンモード成分は、実用目標仕様である−20dB以下を満足する帯域が得られた。一方、ディファレンシャルモード成分の減衰も大きくなっており、4GHz近傍において−2〜−4dB程度となり、やや大きな損失が生じた。
【0152】
図12の特性より、左手系信号伝送帯域を分析すると、透過係数S21の位相(入出力の位相差)が約4.2GHzで0度になることが読み取れる。位相は、−180度から+180度の範囲で周期的性質を持つため、本質的な0度位相を見出すのは難しいが、電磁界解析による結果との照合および1つのユニットセルデバイスの結果との比較により、位相変化の分析できる。このことから、約4.2GHzより高周波側が右手系動作であり、低周波側が左手系動作であると分析できる。さらに、上述のストップバンドの周波数を考慮すると、左手系信号伝送帯域は約3.7〜4.2GHzの帯域であることがわかり、従来のデバイスの左手系信号伝送帯域よりも僅かに広がった結果が得られた。
【0153】
図11の透過係数の周波数特性より、3つのユニットセルのデバイスのコモンモードフィルタとしての特性を整理すると、約3.8〜4.0GHzの周波数帯域において、コモンモード成分は−20dB以下の実用目標仕様を満足しており、一方、ディファレンシャルモード成分は最大で−2dB程度の値であり、実用目標仕様の−1dB以上を満足することはできなかった。しかしながら、従来の試作デバイスの−8dBよりも大きな値となり、特性改善の効果が得られた。
【0154】
尚、本発明の伝送線路は、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0155】
図1に示される符号の説明は次の通りである。+入力端子と+出力端子間の導体パターンを第1の伝送線路L1とする。−入力端子と−出力端子間の導体パターンを第2の伝送線路L2とする。L1A、L1B、L1C、L2A、L2B、L2Cはそれぞれ導体パターンである。L1A:第1の伝送線路L1のうち入力側Aパターン部の導体パターン、L1B:第1の伝送線路L1のうち出力側Bパターン部の導体パターン、L1C:第1の伝送線路L1のうち入力側Aパターンと出力側Bパターン部の中間のCパターン部の導体パターン、L2A:第2の伝送線路L2のうち入力側Aパターン部の導体パターン、L2B:第2の伝送線路L2のうち出力側Bパターン部の導体パターン、L2C:第2の伝送線路L2のうち入力側Aパターンと出力側Bパターン部の中間のCパターン部の導体パターン。
【0156】
wa、wb、wcはそれぞれ導体パターンの幅方向(伝送線路に対して垂直な方向)寸法である。wa:L1AおよびL2Aの導体パターンの幅方向(伝送線路に対して垂直な方向)寸法、wb:L1BおよびL2Bの導体パターンの幅方向(伝送線路に対して垂直な方向)寸法、wc:L1CおよびL2Cの導体パターンの幅方向(伝送線路に対して垂直な方向)寸法。
【0157】
la、lb、lcはそれぞれ導体パターンの長さ方向(伝送線路の線路方向)寸法である。la:L1AおよびL2Aの導体パターンの長さ方向(伝送線路の線路方向)寸法、lb:L1BおよびL2Bの導体パターンの長さ方向(伝送線路の線路方向)寸法、lc:L1CおよびL2Cの導体パターンの長さ方向(伝送線路の線路方向)寸法。
【0158】
da、db、dcはそれぞれ第1の伝送線路L1と第2の伝送線路L2との間の間隙部分の間隔に関する寸法である。da:L1AおよびL2Aの導体パターンの間の間隙部分の間隔、db:L1BおよびL2Bの導体パターンの間の間隙部分の間隔、dc:L1AおよびL2Aの導体パターン、あるいはL1BおよびL2Bの導体パターンが、L1CおよびL2Cの導体パターンに対して伝送線路の内側に吐出している部分の長さ寸法。
【0159】
図2に示される符号の説明は次の通りである。+入力端子と+出力端子間の導体パターンを第1の伝送線路L1とする。−入力端子と−出力端子間の導体パターンを第2の伝送線路L2とする。入力側分路アドミタンス要素となる回路部分をA12とする。出力側分路アドミタンス要素となる回路部分をB12とする。第1の伝送線路L1の直列インピーダンス要素となる回路部分をC1とする。第2の伝送線路L2の直列インピーダンス要素となる回路部分をC2とする。
【0160】
A12、B12、C1、C2はそれぞれ回路要素の集合である。A12:入力側分路アドミタンス要素となる回路部分、B12:出力側分路アドミタンス要素となる回路部分、C1:第1の伝送線路L1の直列インピーダンス要素となる回路部分、C2:第2の伝送線路L2の直列インピーダンス要素となる回路部分。
【0161】
A12LL、A12CR、A1CP、A2CPはそれぞれ入力側分路アドミタンス要素となる回路部分A12に含まれる回路要素である。A12LL:第1の伝送線路L1と第2の伝送線路L2の線路間に作用する直列インダクタンス成分、A12CR:第1の伝送線路L1と第2の伝送線路L2の線路間に作用する直列キャパシタンス成分、A1CP:第1の伝送線路L1とグラウンドの間に作用する分路キャパシタンス成分、A2CP:第2の伝送線路L2とグラウンドの間に作用する分路キャパシタンス成分。
【0162】
B12LL、B12CR、B1CP、B2CPはそれぞれ出力側分路アドミタンス要素となる回路部分B12に含まれる回路要素である。B12LL:第1の伝送線路L1と第2の伝送線路L2の線路間に作用する直列インダクタンス成分、B12CR:第1の伝送線路L1と第2の伝送線路L2の線路間に作用する直列キャパシタンス成分、B1CP:第1の伝送線路L1とグラウンドの間に作用する分路キャパシタンス成分、B2CP:第2の伝送線路L2とグラウンドの間に作用する分路キャパシタンス成分。
【0163】
C1LR、C1CL、C1LPはそれぞれ第1の伝送線路L1の直列インピーダンス要素となる回路部分C1に含まれる回路要素である。C1LR:第1の伝送線路L1の直列インピーダンス要素における並列インダクタンス成分、C1CL:第1の伝送線路L1の直列インピーダンス要素における並列キャパシタンス成分、C1LP:第1の伝送線路L1の直列インピーダンス要素における並列キャパシタンス成分に含まれる寄生インダクタンス成分。
【0164】
C2LR、C2CL、C2LPはそれぞれ第2の伝送線路L2の直列インピーダンス要素となる回路部分C2に含まれる回路要素である。C2LR:第2の伝送線路L2の直列インピーダンス要素における並列インダクタンス成分、C2CL:第2の伝送線路L2の直列インピーダンス要素における並列キャパシタンス成分、C2LP:第2の伝送線路L2の直列インピーダンス要素における並列キャパシタンス成分に含まれる寄生インダクタンス成分。
【0165】
図3に示される符号の説明は次の通りである。+入力端子と+出力端子間の導体パターンを第1の伝送線路L1とする。−入力端子と−出力端子間の導体パターンを第2の伝送線路L2とする。
【0166】
L1A、L1B、L1C、L2A、L2B、L2Cはそれぞれ導体パターンであり、図1に示される符号と同様である。L1A:第1の伝送線路L1のうち入力側Aパターン部の導体パターン、L1B:第1の伝送線路L1のうち出力側Bパターン部の導体パターン、L1C:第1の伝送線路L1のうち入力側Aパターンと出力側Bパターン部の中間のCパターン部において主としてインダクタンス成分を構成するための導体パターン、L2A:第2の伝送線路L2のうち入力側Aパターン部の導体パターン、L2B:第2の伝送線路L2のうち出力側Bパターン部の導体パターン、L2C:第2の伝送線路L2のうち入力側Aパターンと出力側Bパターン部の中間のCパターン部において主としてインダクタンス成分を構成するための導体パターン。
【0167】
CL1、CL2はそれぞれキャパシタンス成分を形成するための導体パターンである。CL1:第1の伝送線路L1のうち入力側Aパターンと出力側Bパターン部の中間のCパターン部において主としてキャパシタンス成分を構成するための導体パターン、CL2:第2の伝送線路L2のうち入力側Aパターンと出力側Bパターン部の中間のCパターン部において主としてキャパシタンス成分を構成するための導体パターン。
【0168】
CR1A、CR2A、CR1B、CR2Bはそれぞれ分路アドミタンス要素となる回路部分の直列インダクタンス成分および直列キャパシタンス成分を構成する導体パターンである。CR1A、CR2Aが合わせて入力側分路アドミタンス要素となり、CR1B、CR2Bが合わせて入力側分路アドミタンス要素となる。
【0169】
図4に示される符号の説明は、図3に示される符号と同様であり、次の通りである。+入力端子と+出力端子間の導体パターンを第1の伝送線路L1とする。−入力端子と−出力端子間の導体パターンを第2の伝送線路L2とする。
【0170】
L1A、L1B、L1C、L2A、L2B、L2Cはそれぞれ導体パターンであり、図1に示される符号と同様である。L1A:第1の伝送線路L1のうち入力側Aパターン部の導体パターン、L1B:第1の伝送線路L1のうち出力側Bパターン部の導体パターン、L1C:第1の伝送線路L1のうち入力側Aパターンと出力側Bパターン部の中間のCパターン部において主としてインダクタンス成分を構成するための導体パターン、L2A:第2の伝送線路L2のうち入力側Aパターン部の導体パターン、L2B:第2の伝送線路L2のうち出力側Bパターン部の導体パターン、L2C:第2の伝送線路L2のうち入力側Aパターンと出力側Bパターン部の中間のCパターン部において主としてインダクタンス成分を構成するための導体パターン。
【0171】
CL1、CL2はそれぞれキャパシタンス成分を形成するための導体パターンである。CL1:第1の伝送線路L1のうち入力側Aパターンと出力側Bパターン部の中間のCパターン部において主としてキャパシタンス成分を構成するための導体パターン、CL2:第2の伝送線路L2のうち入力側Aパターンと出力側Bパターン部の中間のCパターン部において主としてキャパシタンス成分を構成するための導体パターン。
【0172】
CR1A、CR2A、CR1B、CR2Bはそれぞれ分路アドミタンス要素となる回路部分の直列インダクタンス成分および直列キャパシタンス成分を構成する導体パターンである。CR1A、CR2Aが合わせて入力側分路アドミタンス要素となり、CR1B、CR2Bが合わせて入力側分路アドミタンス要素となる。
【0173】
図5に示される符号の説明は、図3に示される符号とほぼ同様であり、次の通りである。+入力端子と+出力端子間の導体パターンを第1の伝送線路L1とする。−入力端子と−出力端子間の導体パターンを第2の伝送線路L2とする。
【0174】
L1A、L1B、L1C、L2A、L2B、L2Cはそれぞれ導体パターンであり、図1に示される符号と同様である。L1A:第1の伝送線路L1のうち入力側Aパターン部の導体パターン、L1B:第1の伝送線路L1のうち出力側Bパターン部の導体パターン、L1C:第1の伝送線路L1のうち入力側Aパターンと出力側Bパターン部の中間のCパターン部において主としてインダクタンス成分を構成するための導体パターン、L2A:第2の伝送線路L2のうち入力側Aパターン部の導体パターン、L2B:第2の伝送線路L2のうち出力側Bパターン部の導体パターン、L2C:第2の伝送線路L2のうち入力側Aパターンと出力側Bパターン部の中間のCパターン部において主としてインダクタンス成分を構成するための導体パターン。
【0175】
CL1、CL2はそれぞれキャパシタンス成分を形成するための導体パターンである。CL1:第1の伝送線路L1のうち入力側Aパターンと出力側Bパターン部の中間のCパターン部において主としてキャパシタンス成分を構成するための導体パターン、CL2:第2の伝送線路L2のうち入力側Aパターンと出力側Bパターン部の中間のCパターン部において主としてキャパシタンス成分を構成するための導体パターン。
【0176】
CR1A、CR2A、CR1B、CR2Bはそれぞれ分路アドミタンス要素となる回路部分の直列インダクタンス成分および直列キャパシタンス成分を構成する導体パターンである。CR1A、CR2Aが合わせて入力側分路アドミタンス要素となり、CR1B、CR2Bが合わせて入力側分路アドミタンス要素となる。
【0177】
ただし、図5における以下の符号は、図3と異なる符号である。SUB1およびSUB2は、2層に分かれて積層される導体パターンのそれぞれの層の基板を示す。主となる第1導体パターン層をSUB1、副となる第2導体パターン層をSUB2とする。
【0178】
図6に示される符号の説明は、図5に示される符号とほぼ同様であり、次の通りである。+入力端子と+出力端子間の導体パターンを第1の伝送線路L1とする。−入力端子と−出力端子間の導体パターンを第2の伝送線路L2とする。
【0179】
L1A、L1B、L1C、L2A、L2B、L2Cはそれぞれ導体パターンであり、図1に示される符号と同様である。L1A:第1の伝送線路L1のうち入力側Aパターン部の導体パターン、L1B:第1の伝送線路L1のうち出力側Bパターン部の導体パターン、L1C:第1の伝送線路L1のうち入力側Aパターンと出力側Bパターン部の中間のCパターン部において主としてインダクタンス成分を構成するための導体パターン、L2A:第2の伝送線路L2のうち入力側Aパターン部の導体パターン、L2B:第2の伝送線路L2のうち出力側Bパターン部の導体パターン、L2C:第2の伝送線路L2のうち入力側Aパターンと出力側Bパターン部の中間のCパターン部において主としてインダクタンス成分を構成するための導体パターン。
【0180】
SUB1およびSUB2は、2層に分かれて積層される導体パターンのそれぞれの層の基板を示す。第1の伝送線路L1が配置される第1導体パターン層をSUB1、第2の伝送線路L2が配置される第2導体パターン層をSUB2とする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相互に並列に接続された第1の遅れ位相を持つ要素及び第1の進み位相を持つ要素を含む入出力間の直列インピーダンスをそれぞれ構成する一対の入出力間回路成分と、該一対の入出力間回路成分の間に相互に直列に接続された第2の遅れ位相を持つ要素及び第2の進み位相を持つ要素、並びに、前記一対の伝送線路とグランド電位の間にそれぞれ接続された第3の進み位相を持つ要素を含む分路アドミタンスを構成する分路回路成分とを備えた差動伝送線路であって、
入出力方向に延在し、相互に並列した一対の導体パターンと、該一対の導体パターンに共に隣接するグランド導体とを有し、
前記一対の導休パターンは、それぞれ、前記入出力方向の入力側に配置された入力側パターン部と、前記入出力方向の出力側に配置された出力側パターン部と、前記入力側パターン部及び前記出力側パターン部よりも前記入出力方向と直交する方向に細幅に形成され、前記入力側パターン部と前記出力側パターン部を接続する中間接続パターン部とを有し、
前記一対の導体パターンの間には、前記入力側パターン部同士が並列方向の両側に対向配置された入力側間隙領域と、前記出力側パターン部同士が前記並列方向の両側に対向配置された出力側間隙領域とが設けられ、
前記直列インピーダンスを構成する前記第1の遅れ位相を持つ要素及び前記第1の進み要素を持つ要素は、前記入力側パターン部及び前記出力側パターン部が前記中間接続パターン部を介して前記入出力方向に接続されたパターン構造により構成され、
前記分路アドミタンスを構成する前記第2の遅れ位相を持つ要素及び前記第2の進み位相を持つ要素は、前記一対の導体パターンの前記入力側パターン部及び前記出力側パターン部と、前記一対の導体パターンにそれぞれ属する前記入力側パターン部同士が前記並列方向に間隙を介して対向する構造と、前記一対の導体パターンにそれぞれ属する前記出力側パターン部同士が前記並列方向に間隙を介して対向する構造とによって構成される、
ことを特徴とする差動伝送線路。
【請求項2】
前記一対の導体パターンの前記入力側パターン部は、本体部と、相互に他方の前記入力側パターン部に向けて前記本体部から突出し、前記本体部よりも前記入出力方向に細幅の突出部とを具備し、該突出部の先端同士が前記入力側間隙領域を介して前記並列方向に対向し、
前記出力側パターン部は、本体部と、相互に他方の前記出力側パターン部に向けて前記本体部から突出し、前記本体部よりも前記入出力方向に細幅の突出部とを具備し、該突出部の先端同士が前記出力側間隙領域を介して前記並列方向に対向する、
ことを特徴とする請求項1に記載の差動伝送線路。
【請求項3】
前記突出部は先端が前記入出力方向に延長されたT字状に形成されることを特徴とする請求項2に記載の差動伝送線路。
【請求項4】
前記一対の導体パターンは絶縁層を介して前記グランド導体と積層されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の差動伝送線路。
【請求項5】
前記一対の導体パターンは同一平面上に形成されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の差動伝送線路。
【請求項6】
前記一対の導体パターンは絶縁層を介して相互に積層されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の差動伝送線路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−191530(P2012−191530A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−54821(P2011−54821)
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り (刊行物) 発行者名 社団法人電気学会 刊行物名 平成22年電気学会基礎・材料・共通部門大会Proceedings(CD−ROM) 発行年月日 2010年9月13日 (学会発表) 研究集会名 平成22年電気学会基礎・材料・共通部門大会 主催者名 社団法人電気学会 開催日 2010年9月13日 (刊行物) 発行者名 社団法人電気学会 刊行物名 電気学会研究会資料マグネティックス研究会MAG−10−199〜201・203〜212 発行年月日 2010年12月16日 (学会発表) 研究集会名 電気学会マグネティックス研究会 主催者名 社団法人電気学会 開催日 2010年12月16日 (刊行物) 発行者名 社団法人電気学会 刊行物名 平成23年電気学会全国大会講演論文集(CD−ROM) 発行年月日 2011年3月5日
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【Fターム(参考)】