説明

差動信号伝送用ケーブル及びそれを用いたハーネス

【課題】対をなす導体が位置ずれしたり、反転したりすることを防止して、対をなす導体の導体間の距離が均一で特性インピーダンスのばらつきが小さい差動信号伝送用ケーブル及びそれを用いたハーネスを提供する。
【解決手段】導体11を絶縁層12で被覆した2本のコア13,13を平行に配置してなる2芯コア14と、2芯コア14の周囲に充実により設けられて、2芯コア14を一括して被覆すると共に2本のコア13,13の配置を固定する固定層15と、固定層15の外側に設けられたシールド16と、シールド16の外側を被覆するジャケット17と、を備えるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子ブック、ノートパソコン、携帯電話、液晶テレビ、プリンタ等の電子機器内に配線される差動信号伝送用ケーブル及びそれを用いたハーネスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子ブック、ノートパソコン、携帯電話、液晶テレビ、プリンタ等の電子機器において、電子機器間又は電子機器内の基板(回路基板)間の信号伝送には差動信号による伝送が用いられる。
【0003】
差動信号とは、位相を180°反転させた信号を対をなす2本の導体で伝送し、受信側で受信した各信号の差分を合成・出力するものである。1対の導体に流れる電流は互いに逆方向を向いて流れるため、伝送線路から放射される電磁波が小さいという利点がある。また、外部から受けたノイズは、1対の導体に等しく重畳するので、受信側で差分を合成出力することで、ノイズによる影響を打ち消すことができる。
【0004】
図6に示すように、差動信号による伝送に用いられる差動信号伝送用ケーブル60として、導体61を絶縁層62で被覆した2本のコア63,63を平行に配置し、その周囲に2重横巻シールドからなるシールド64を設け、更に、ポリエチレンテレフタレート(PET)テープの内面に金属層を有するシールドテープ65をその金属層がシールド64に接触するように巻き付け、その周囲をジャケット66で被覆したものがある(例えば、特許文献1)。
【0005】
また、特許文献2には、平行に延びる一対以上の内部導体を発泡絶縁体で一括被覆すると共にその発泡絶縁体の周囲に外部導体を備え、更にその外部導体を発泡絶縁体と共に絶縁ジャケットで隙間なく被覆する差動信号伝送用ケーブルが提案されている。
【0006】
更に、特許文献3には、互いに間隔を置いて平行に配列された導体を発泡ポリエチレン絶縁層によって一括被覆した線心の周囲に、テープ状のポリエチレン発泡体を巻き付け、この上にシールド層と外部被覆層を順次形成する差動信号伝送用ケーブルが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−36740号公報
【特許文献2】特開2001−35270号公報
【特許文献3】特開2000−40423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の差動信号伝送用ケーブル60では、互いに独立したコア63,63をシールド64で一括してまとめて、これらコア63,63の配置を固定するようにしているため、シールド64の巻き付け方向に力が加わり、この方向に2本のコア63,63が捩れてしまうことがある。その結果、対をなす導体61,61がケーブル周方向に位置ずれしたり、最悪の場合、対をなす導体61,61の位置が反転したりして特性インピーダンスのばらつきを招く虞がある。
【0009】
また、差動信号伝送用ケーブル60の端部において、ジャケット66をストリップし、シールド64にグランドバーを半田付けし、接地する際、半田がシールド64とコア63との間の隙間67に入り込み、コア63の絶縁層62に接触して絶縁層62を損傷し、絶縁不良を起こす可能性がある。
【0010】
更に、差動信号伝送用ケーブル60の端部において、ジャケット66、シールドテープ65、及びシールド64をストリップする際、コア63,63が互いに独立しているため、各々のコア63,63が単独にケーブル長手方向に位置ずれし、導体61,61の線路長に差が生じ、導体間にスキューが発生する問題もある。
【0011】
一方、特許文献2、及び特許文献3に記載の差動信号伝送用ケーブルでは、スキューの発生を防止することができるとされており、更に、特許文献3に記載された差動信号伝送用ケーブルでは、シールドとコアとの間に隙間が生じず、半田が隙間へ入り込むことによる絶縁不良の発生を防止することができるとされている。
【0012】
ところが、導体の周囲に絶縁層を押出被覆する際には、導体を送り出しながらその周囲に絶縁層の材料を押し出し、これをダイスに通過させて所定形状の絶縁層を形成するため、ダイス内で導体の位置ずれが生じ、対をなす導体の導体間の距離がケーブル長手方向に沿って不均一になり、特性インピーダンスのばらつきが発生してしまう場合がある。
【0013】
そこで、本発明の目的は、対をなす導体が位置ずれしたり、反転したりすることを防止して、対をなす導体の導体間の距離が均一で特性インピーダンスのばらつきが小さい差動信号伝送用ケーブル及びそれを用いたハーネスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この目的を達成するために創案された本発明は、導体を絶縁層で被覆した2本のコアを平行に配置してなる2芯コアと、前記2芯コアの周囲に充実により設けられて、前記2芯コアを一括して被覆すると共に前記2本のコアの配置を固定する固定層と、前記固定層の外側に設けられたシールドと、前記シールドの外側を被覆するジャケットと、を備える差動信号伝送用ケーブルである。
【0015】
前記絶縁層と前記固定層がフッ素樹脂からなり、前記固定層を構成するフッ素樹脂の融点が前記絶縁層を構成するフッ素樹脂の融点以下であると良い。
【0016】
前記絶縁層を構成するフッ素樹脂がテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)であり、前記固定層を構成するフッ素樹脂がテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)であると良い。
【0017】
前記シールドは、前記固定層の一方の平坦面上に前記2芯コアの長手方向に沿って設けられた金属条で構成されると良い。
【0018】
前記2本のコアは、互いに接触して配置されると良い。
【0019】
前記2芯コアの導体間の距離は、コネクタの端子間の距離と等しいと良い。
【0020】
また本発明は、前記差動信号伝送用ケーブルと、前記差動信号伝送用ケーブルの端部に接続されたコネクタと、を備えるハーネスである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、対をなす導体が位置ずれしたり、反転したりすることを防止して、対をなす導体の導体間の距離が均一で特性インピーダンスのばらつきが小さい差動信号伝送用ケーブル及びそれを用いたハーネスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態に係る差動信号伝送用ケーブルを示す断面図である。
【図2】本発明の実施の形態の変形例に係る差動信号伝送用ケーブルを示す断面図である。
【図3】本発明の実施の形態の変形例に係る差動信号伝送用ケーブルを示す断面図である。
【図4】本発明の実施の形態の変形例に係る差動信号伝送用ケーブルを示す断面図である。
【図5】本発明の実施の形態の変形例に係る差動信号伝送用ケーブルを示す断面図である。
【図6】従来の差動信号伝送用ケーブルを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0024】
図1は、本発明の好適な実施の形態に係る差動信号伝送用ケーブルを示す断面図である。
【0025】
図1に示すように、本実施の形態に係る差動信号伝送用ケーブル10は、導体11を絶縁層12で被覆した2本のコア13,13を平行に配置してなる2芯コア14と、2芯コア14の周囲を一括して被覆すると共に2本のコア13,13の配置を固定する固定層15と、固定層15の外側に設けられたシールド16と、シールド16の外側を被覆するジャケット17と、を備える。
【0026】
導体11は、複数(例えば、7本)の素線18を撚り合わせたAWG(American Wire Gauge)38〜42番程度の撚り線からなる。それぞれの素線18は、導電性に優れた金属、例えば、銅や銅合金からなる。なお、導体11は単線からなっても良いが、可撓性の観点からは撚り線からなることが望ましい。
【0027】
絶縁層12は、低誘電率のフッ素樹脂、例えば、誘電率が2.1のテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)からなる。このように、絶縁層12を低誘電率の材料で構成することにより信号の高速化が図れる。
【0028】
コア13は、導体11の外周に絶縁層12を押出被覆することにより形成される。具体的には、導体11を送り出しながらその周囲に絶縁層12の材料を押し出し、これをダイスに通過させて所定径の絶縁層12を形成する。
【0029】
2本のコア13,13は、互いに接触して配置されて2芯コア14とされる。このとき、2芯コア14の導体間幅(導体11,11との距離)が、差動信号伝送用ケーブル10の端部に接続されるコネクタの端子間の距離(例えば、0.3〜0.5mm)と等しくなるように、コア13の製造時に絶縁層12の外径が調整されることが好ましい。
【0030】
固定層15は、低誘電率のフッ素樹脂、例えば、誘電率が2.1のテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)からなる。前述した絶縁層12と同様に、固定層15を低誘電率の材料で構成することにより信号の高速化が図れる。
【0031】
また、固定層15を構成するフッ素樹脂の融点が絶縁層12を構成するフッ素樹脂の融点以下であることが好ましい。これにより、2芯コア14の周囲に固定層15を一括して被覆する際に、固定層15を構成するフッ素樹脂の熱により、絶縁層12が融けて固定層15の寸法にばらつきが生じ、規定の範囲に入らなくなることを防ぐことができる。なお、PFAとFEPの融点は、製品のグレードによっても異なるが、PFAが300〜310℃、FEPが280〜290℃である。
【0032】
この固定層15は、従来の差動信号伝送用ケーブル60において、コア63とシールド64との間に生じていた隙間67を埋め、その部分が平坦面15aとなるように被覆される。具体的には、2本のコア13,13を接触させた状態で送り出しながらその周囲に固定層15の材料を充実により押し出し、これをダイスに通過させて所定形状の固定層15を形成する。
【0033】
シールド16は、固定層15の外周に素線を2重に横巻して巻き付けた2重横巻シールドで構成される。シールド16の外周には、ポリエチレンテレフタレート(PET)テープの内面に0.1〜10μm程度の厚さの金属層を有するシールドテープ19が巻き付けられる。このシールドテープ19は、その金属層がシールド16に接触するようにシールド16の外周に螺旋状に巻き付けられる。
【0034】
ジャケット17は、シールドテープ19の上からPETテープを巻き付けるか、或いはPFA、FEP、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)等のフッ素樹脂をシールドテープ19の上に押出被覆して形成される。
【0035】
このような構造の差動信号伝送用ケーブル10によれば、導体11を絶縁層12で被覆した2本のコア13,13を平行に配置してなる2芯コア14と、2芯コア14の周囲に充実により設けられ、2芯コア14を一括して被覆すると共に2本のコア13,13の配置を固定する固定層15と、固定層15の外側に設けられたシールド16と、シールド16の外側を被覆するジャケット17と、を備えることにより、2本のコア13,13が固定層15によって一体的に固定されるため、対をなす導体11,11の位置ずれや反転、及び線路長の差に起因するスキューの発生を防止することができる。また、シールド16とコア13との間の隙間が固定層15によって埋められているため、半田が隙間へ入り込むことによる絶縁不良の発生を防止することができる。
【0036】
更に、導体11を絶縁層12で被覆した2本のコア13,13の周囲を一括して固定層15で被覆することにより、対をなす導体11の周囲を直接に固定層15で被覆する場合に比べて、ダイス径に対する被覆対象の外径が大きくなり、ダイス内での被覆対象の位置ずれを小さくすることができる。その結果、導体11の位置ずれを小さくすることができ、対をなす導体11,11の導体間の距離をケーブル長手方向に亘って均一により近づけることができる。よって、差動信号伝送用ケーブル10によれば、ケーブル長手方向に亘って特性インピーダンスのばらつきを低減することができる。
【0037】
また、従来はダイス内で被覆対象、即ち、導体が位置ずれした際、場合によっては導体間の距離が極端に狭くなり、対をなす導体に電流を流したときに導体間における絶縁を十分に保てず、絶縁破壊に至る虞があった。これに対し、差動信号伝送用ケーブル10では、導体11が絶縁層12で絶縁された2本のコア13,13の周囲を充実により一括して固定層15で被覆するため、たとえ、固定層15の被覆時にコア13が位置ずれを起こしたとしても、導体間の距離が絶縁層12の外径よりも狭くなることはなく、導体間における絶縁を十分に保つことができる。
【0038】
また、従来の差動信号伝送用ケーブルでは、差動信号伝送用ケーブルの導体をコネクタの端子に接続する際、対をなす導体をコネクタの端子間の距離まで広げて接続するため、シールドと導体との間の距離が広がり、この間のインピーダンスが増大し、端末でのインピーダンス不整合が起こっていた。これに対し、差動信号伝送用ケーブル10では、2芯コア14の導体間の距離がコネクタの端子間の距離と等しくなるように、コア13の絶縁層12の外径が調整されるため、コネクタの端子に合わせて導体を広げる必要がなく、端末でのインピーダンスの増大、及び不整合を防止することができる。
【0039】
なお、本発明は前述した形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0040】
例えば、差動信号伝送用ケーブル10では、シールド16を2重横巻シールドで構成したが、2重横巻シールド以外にも、製品に要求されるシールド特性等に応じて、1重横巻シールド16a(図2の差動信号伝送用ケーブル20参照)、編組16b(図3の差動信号伝送用ケーブル30参照)、金属条16c(図4の差動信号伝送用ケーブル40参照)のいずれかで構成しても良い。特に、金属条16cで構成する際には、図4に示すように、固定層15の一方の平坦面15aに断面が丸い素線を圧延加工して得られた断面が平角状の金属条16c(例えば、厚さ0.03〜0.08mm、幅0.4〜1.0mm)を縦添えし、その外周にシールドテープ19を巻き付けて固定層15の一方の平坦面15aに金属条16cを固定するようにすると良い。この差動信号伝送用ケーブル40では、金属条16cが縦添えされた部分に被覆されたジャケット17が盛り上がるため、差動信号伝送用ケーブル40の表裏が目視で判別でき、ひいては差動信号伝送用ケーブル40の両端におけるコア13,13の配列位置を区別することができる。
【0041】
また、差動信号伝送用ケーブル10では、2芯コア14の導体間の距離がコネクタの端子間の距離と等しくなるように、コア13の絶縁層12の外径を調整したが、図5の差動信号伝送用ケーブル50のように、2芯コア14の導体間の距離Lがコネクタの端子間の距離と等しくなるように、コア13,13の離間距離を調整しても良い。差動信号伝送用ケーブル10では、コネクタの端子間の距離が広い場合には絶縁層12の外径を大きくする必要があり、これに伴って差動信号伝送用ケーブルの厚み(平坦面15a,15a間の距離)を増大させることになるが、差動信号伝送用ケーブル50では、コア13,13の離間距離を調整することにより、差動信号伝送用ケーブルの厚みを増大させることなく、導体間の距離を調整することが可能となる。
【0042】
また、差動信号伝送用ケーブル10,20,30,50では、シールド16の外周にシールドテープ19が設けられる構成で説明したが、シールドテープ19を設けない構成であっても構わない。
【0043】
更に、これら差動信号伝送用ケーブル10,20,30,40,50の端部にコネクタを接続してハーネスとすることで、特性インピーダンスのばらつきを低減するハーネスを得ることができる。
【0044】
従って、本発明によれば、対をなす導体11,11が位置ずれしたり、反転したりすることを防止し、対をなす導体11,11の導体間の距離が均一で特性インピーダンスのばらつきが小さい差動信号伝送用ケーブル10,20,30,40,50及びそれを用いたハーネスを提供することができる。
【符号の説明】
【0045】
10 差動信号伝送用ケーブル
11 導体
12 絶縁層
13 コア
14 2芯コア
15 固定層
16 シールド
17 ジャケット
18 素線
19 シールドテープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体を絶縁層で被覆した2本のコアを平行に配置してなる2芯コアと、
前記2芯コアの周囲に充実により設けられて、前記2芯コアを一括して被覆すると共に前記2本のコアの配置を固定する固定層と、
前記固定層の外側に設けられたシールドと、
前記シールドの外側を被覆するジャケットと、
を備えることを特徴とする差動信号伝送用ケーブル。
【請求項2】
前記絶縁層と前記固定層がフッ素樹脂からなり、前記固定層を構成するフッ素樹脂の融点が前記絶縁層を構成するフッ素樹脂の融点以下である請求項1に記載の差動信号伝送用ケーブル。
【請求項3】
前記絶縁層を構成するフッ素樹脂がテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)であり、前記固定層を構成するフッ素樹脂がテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)である請求項2に記載の差動信号伝送用ケーブル。
【請求項4】
前記シールドは、前記固定層の一方の平坦面上に前記2芯コアの長手方向に沿って設けられた金属条で構成される請求項1〜3のいずれかに記載の差動信号伝送用ケーブル。
【請求項5】
前記2本のコアは、互いに接触して配置される請求項1〜4のいずれかに記載の差動信号伝送用ケーブル。
【請求項6】
前記2芯コアの導体間の距離は、コネクタの端子間の距離と等しい請求項1〜5のいずれかに記載の差動信号伝送用ケーブル。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の差動信号伝送用ケーブルと、
前記差動信号伝送用ケーブルの端部に接続されたコネクタと、
を備えることを特徴とするハーネス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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