説明

差動出力圧電発振器および電子機器

【課題】 圧電発振回路と、この回路から出力されるクロック信号の分配回路とをパッケージに搭載した差動出力圧電発振器およびこの発振器を搭載した電子機器を提供する。
【解決手段】 差動出力圧電発振器10は、圧電発振回路と、前記圧電発振回路から出力される信号に基づいて差動信号を出力するバッファと、前記バッファに接続し、前記差動信号を伝送する一対の伝送線路24と、前記各伝送線路24上に電気的に接続し、いずれか一方の前記伝送線路を跨いで前記伝送線路24の側方に前記差動信号を引出す受動素子28と、前記受動素子28に接続し、前記受動素子28を介して引出された差動信号を伝送する分配伝送線路26とを備えた構成である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は差動出力圧電発振器および電子機器に係り、特に差動出力圧電発振器内部にクロック信号の分配回路を備えた差動出力圧電発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、圧電発振器から出力されるクロック信号を分配するには、図3に示す回路が使用されていた。図3は圧電発振器とクロック分配用バッファICとを用いてクロック信号を分配する回路の説明図である。すなわち圧電発振器1および1:4のクロック分配用バッファIC2が基板上に実装され、このバッファIC2を用いて圧電発振器1から出力されるクロック信号を分配するのが主流であった。前記圧電発振器1は、圧電発振回路(不図示)とこの回路からの出力信号を差動変換するバッファ3とをパッケージ内部に搭載して構成されている。この圧電発振器1は基板上に実装され、前記基板上に形成された伝送線路を介して前記基板上に実装された1:4のクロック分配用バッファIC2に接続されている。このバッファIC2は、圧電発振器1からの出力されるクロック信号を分配するものである。そして圧電発振器1とバッファIC2とを接続する伝送線路には、終端抵抗4が並列に接続されている。またバッファIC2の出力は、伝送線路と接続され、終端抵抗5を介してレシーバ(不図示)に接続されている。
【0003】
そして特許文献1および2には、信号の分配回路が開示されている。特許文献1に開示された信号分配回路は、信号を入力する複数のバッファアンプと、これらのバッファアンプに接続される信号伝送路から等間隔毎に分岐し前記信号を入力していずれか1つの信号を出力するセレクタと、このセレクタの接続によって低下した信号伝送路の特性インピーダンスと整合する終端回路とを備えたものである。
【0004】
また特許文献2に開示された信号分配回路は、外部から供給される信号に基づいて差動出力信号を生成する駆動回路と、差動出力信号の供給方向が互いに逆方向でIC回路内に分配する信号伝送経路を有する信号分配手段と、信号伝送経路の任意の観測点における差動出力信号を入力とし論理レベルの2値レベルのクロック信号に変換する電圧比較器とから構成するクロックスキュー低減手段を備えて信号を分配するものである。
【特許文献1】特開2000−236243号公報
【特許文献2】特開2002−132377号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
クロック分配用バッファICを用いて圧電発振器から出力された信号を分配する方法は、クロック信号の分配数に応じてバッファICの消費電流が増加する。例えば低電圧ポジティブエミッタ結合論理(LVPECL)出力の場合、1つのクロック信号を出力させるときの消費電流は約25[mA]なので、複数のクロック信号出力があると消費電流は約25×N[mA](Nは分配数)増加することになる。このためクロック分配用バッファICを使用する場合には、バッファICで生じる熱を放熱するための素子が必要になり、部品点数の増加を招くことになる。
【0006】
また圧電発振器の出力がクロック分配用バッファICを通って出力されるとバッファを多段通過することになるため、このクロック分配用バッファICの電源ノイズ等によってジッタの増加が引き起こされる虞がある。なお電源ノイズの問題は、クロック分配用バッファIC電源におけるデカップリングで回避することができるが、実装部品点数の増加を招くためコストの増加につながる。
【0007】
またクロック信号を分配する伝送線路を構成する場合、基幹となる伝送線路の一方を跨いで分配されるクロック信号分配用の伝送線路を形成する必要があるので、伝送線路を跨ぐためのスルーホールを基板に設ける必要がある。しかしクロック信号は、スルーホールを用いると、このスルーホールによって発生するインピーダンスの不連続のために反射の問題が発生する。これはクロック信号が高速になるにつれてより反射の影響を受けやすくなる。
【0008】
またクロック分配用バッファICを使用しないでクロック信号を分配する場合、基板上において信号を分配する方法がある。この方法は、シングルエンド出力(CMOS、TTL)では一般的であるが、差動出力ではほとんど行われていない。この理由の一つとして基板上のスペース等の問題によって分配した線路長が異なり、チャンネル間スキュー等の問題を引き起こす虞があるからである。
【0009】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたもので、クロック信号の分配回路を圧電発振器のパッケージ内部において構成した差動出力圧電発振器を提供することを目的とする。またこの差動出力圧電発振器を搭載した電子機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係る差動出力圧電発振器は、圧電発振回路と、前記圧電発振回路から出力される信号に基づいて差動信号を出力するバッファと、前記バッファに接続し、前記差動信号を伝送する一対の伝送線路と、前記各伝送線路上に電気的に接続し、いずれか一方の前記伝送線路を跨いで前記伝送線路の側方に前記差動信号を引出す受動素子と、前記受動素子に接続し、前記受動素子を介して引出された差動信号を伝送する分配伝送線路と、を備えたことを特徴としている。これにより差動出力圧電発振器の内部でクロック信号を分配することができる。また差動出力圧電発振器の内部でクロック信号を分配しているので、一対の分配伝送線路それぞれの線路長を同じにすることができるとともに、各分配伝送線路の線路長の違いを最小限に抑えることができる。したがってチャンネル間スキューの発生を抑えることができる。
【0011】
また前記受動素子は、抵抗素子であることを特徴としている。これにより圧電発振回路から出力されるクロック信号を分配することができる。また抵抗素子は、分配伝送線路の遠端において全反射して帰ってくる反射波を吸収することができ、またインピーダンスのマッチングの役割を果たすことができる。
【0012】
また前記伝送線路の前記バッファ側に終端抵抗を接続した送端終端を採用したことを特徴としている。近年、電子機器は小型化されているのにともない電子機器内部に搭載される実装基板も小型化されているので、前記実装基板上に実装される部品の実装スペースが少なくなっている。その為クロック分配用バッファICを使用した場合は分配数に応じて終端抵抗の数が増えるため、実装面積の増大を招く。この点、発明に係る差動出力圧電発振器は、終端抵抗が搭載されているので、実装基板に実装される部品点数の削減が可能であり、且つ実装面積の低減も可能となる。
【0013】
また本発明に係る電子機器は、上述した差動出力圧電発振器を備えたことを特徴としている。これにより上述した特徴を有する電子機器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明に係る差動出力圧電発振器および電子機器の好ましい実施の形態について説明する。図1は差動出力圧電発振器の概略平面図である。また図2は差動出力圧電発振器の回路構成を示す説明図である。なお図2では、パッケージベース上部に接合される蓋体を省略した形態で記載している。差動出力圧電発振器10は、圧電振動片12をパッケージベース14上に搭載した構成である。この圧電振動片12は、これに電気信号を供給すると圧電基板の圧電効果によって励振し、所定のクロック信号を出力するものであり、例えばATカット等の圧電振動片や音叉型圧電振動片、弾性表面波共振片を用いることができる。そして集積回路(IC)チップ16は、パッケージベース14上に搭載されて圧電振動片12と電気的に接続されている。このICチップ16は、圧電振動片12を発振させるための回路であり、インバータ18や帰還抵抗Rf、制限抵抗Rd、ドレイン容量Cd、ゲート容量Cg等を備えている。そして圧電振動片12と前記回路とで圧電発振回路20が構成されている。また圧電発振回路20から出力されるクロック信号に基づいて差動信号を出力するバッファ22がICチップ16に設けられ、圧電発振回路20の出力段に接続されている。なお実施形態によっては、ICチップ16は、電圧補償回路や温度補償回路、プログラマブル回路を付加してもよい。また圧電振動片12を発振させる前記回路は、図2に示すようなCMOSインバータ18を用いる形態に限定されることはなく、またICチップ16のかわりにディスクリートによって構成されてもよい。
【0015】
またパッケージベース14の底面には、一対の伝送線路24が形成されている。この伝送線路24は、ICチップ16と電気的に接続され、ICチップ16から出力される差動信号を伝送するものである。またこの伝送線路24から差動信号を引出す一対の分配伝送線路26が、伝送線路24の側方に複数形成されている。詳しくは、分配伝送線路26は、受動素子28を介してその一端を伝送線路24と電気的に接続できる距離をとって伝送線路24の近傍に設けられ、その他端をパッケージベース14の外側における側面や裏面等に形成された外部端子32と接続させた構成である。なお図1および図2では、差動出力圧電発振器10から出力される差動信号の数が4つの場合を記載しているが、差動出力圧電発振器10から出力される差動信号の数はこれに限定されることはない。
【0016】
前記受動素子28は、例えば抵抗素子であり、この受動素子28の接続端子(不図示)は、伝送線路24と分配伝送線路26とに電気的および機械的に接続されている。すなわち受動素子28は、一方(他方)の伝送線路24a(24b)と一方(他方)の分配伝送線路26a(24b)とを電気的に接続し、また一方(他方)の伝送線路24a(24b)を跨いで他方(一方)の伝送線路24b(24a)と他方(一方)の分配伝送線路26b(26a)とを電気的に接続するものである。一方(他方)の伝送線路24a(24b)を跨ぐ場合、他方(一方)の伝送線路24b(24a)と他方(一方)の分配伝送線路26b(24a)とを電気的に接続する受動素子28は、一方(他方)の伝送線路24a(24b)と電気的に接続することはない。なお受動素子28に抵抗素子を用いた場合、その抵抗値は適宜設定されればよく、例えば出力波形の立上がり部分や立下り部分にオーバーシュートやアンダーシュートが生じない抵抗値にされればよい。
【0017】
またICチップ16近傍の伝送線路24、すなわちICチップ16と電気的に接続される伝送線路24の一端と、差動信号が伝送線路24から最初に分配される伝送線路24と分配伝送線路26との接続箇所との間において、各伝送線路上に終端抵抗30が電気的および機械的に接続される。この終端抵抗30の接続端子(不図示)は、一方(他方)の伝送線路24a(24b)と、伝送線路24の側方に設けられたパッド31とに接続されている。このパッド31は接地されている。なお終端抵抗30の抵抗値は、差動出力圧電発振器10の電源電圧に合わせて適宜設定されればよい。また分配伝送線路26を用いて差動信号(クロック信号)を分配する場合、終端抵抗30よりもICチップ16側の伝送線路24の特性インピーダンスをZ0とすると、分配伝送線路26の特性インピーダンスをZ0×Nとするのが好ましい(図2参照)。ここでNは分配数であり、本実施形態の場合N=4となる。これは分配される箇所での反射を避けるためである。そして特性インピーダンスは、数式1のように表され、伝送線路の材料や伝送線路の厚み、パッケージ、基板材料等によって変化する。
【数1】

ここでRはレジスタンス、Cはキャパシタンス、Gは漏れコンダクタンス、Lはインダクタンスであり、それぞれ単位長当たりの値である。
【0018】
次に、差動出力圧電発振器10の動作について説明する。前記圧電振動片12は、電気信号がICチップ16から入力されると所定の周波数で発振し、前記回路はこの周波数に基づいてクロック信号を出力する。バッファ22は、クロック信号を入力して、このクロック信号に基づいた差動信号を出力する。この差動信号は、前記圧電発振回路20の出力となり、伝送線路24へ出力される。そして差動信号は、終端抵抗30を介して伝送された後、受動素子28を介して各分配伝送線路26へ分配され、各外部端子32へ出力される。なおパッケージは数mm〜十数mm角程度の大きさなので、各外部端子32から出力される差動信号に発生するチャンネル間スキューを最小限に抑えることができる。
【0019】
このように差動出力圧電発振器10の分配回路は、受動素子、すなわち伝送線路24や分配伝送線路26、受動素子28(例えば抵抗素子)から構成されているので、差動出力圧電発振器10のパッケージ内部で差動信号(クロック信号)を分配することができる。したがって一対の分配伝送線路26における差動出力間の線路長の違いを最小限に抑えることができるとともに、各分配伝送線路26の線路長の違いを最小限に抑えることができ、チャンネル間スキューの発生を抑えることができる。そして差動出力圧電発振器10を用いて電子機器を形成する設計者は、差動出力圧電発振器10を搭載する基板上の配線の長さを整えるだけでよい。また差動出力圧電発振器10に搭載される部品点数を削減することができる。また受動素子28のみで分配回路を構成しているため、差動信号にジッタの劣化が発生することはない。また本実施形態に係る差動出力圧電発振器10は、従来技術に係るクロック信号の分配回路のようにクロック分配用バッファICを設ける必要がないので、消費電流の増加がほとんどない。したがって差動出力圧電発振器10に放熱用部品を搭載する必要がないので、差動出力圧電発振器10を小型化することができる。また前記分配回路内で発生するノイズは熱雑音のレベルであるため、差動信号(クロック信号)のジッタ増加という問題が発生することはなく、差動出力圧電発振器10は低ノイズの差動信号を出力することができる。
【0020】
また差動出力圧電発振器10は、送端終端を行った後に差動信号(クロック信号)を分配する構成であり、分配後の差動信号は、外部端子32に接続される高い入力インピーダンスを有するレシーバ(不図示)にて受信される。このとき差動信号の分配によって信号振幅に減衰が生じるが、出力される差動信号を高インピーダンスのレシーバで受けるので全反射が起こり、遠端部分では十分な振幅を得ることができる。
【0021】
また受動素子28は、差動信号を分配するために伝送線路間に挿入されているので、差動信号が遠端で全反射されて帰ってくる反射波の吸収やインピーダンスマッチングの役割を果たすことができる。
このような差動出力圧電発振器10は、例えば信号の伝送速度が速い回路に設けられて、電子機器を構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本実施形態に係る差動出力圧電発振器の概略平面図である。
【図2】本実施形態に係る差動出力圧電発振器の回路構成を示す説明図である。
【図3】従来技術に係り、差動出力圧電発振器とクロック分配用バッファICとを用いてクロック信号を分配する回路の説明図である。
【符号の説明】
【0023】
10………差動出力圧電発振器、12………圧電振動片、16………集積回路(IC)チップ、24………伝送線路、26………分配伝送線路、28………受動素子、30………終端抵抗。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電発振回路と、
前記圧電発振回路から出力される信号に基づいて差動信号を出力するバッファと、
前記バッファに接続し、前記差動信号を伝送する一対の伝送線路と、
前記各伝送線路上に電気的に接続し、いずれか一方の前記伝送線路を跨いで前記伝送線路の側方に前記差動信号を引出す受動素子と、
前記受動素子に接続し、前記受動素子を介して引出された差動信号を伝送する分配伝送線路と、
を備えたことを特徴とする差動出力圧電発振器。
【請求項2】
前記受動素子は、抵抗素子であることを特徴とする請求項1に記載の差動出力圧電発振器。
【請求項3】
前記伝送線路の前記バッファ側に終端抵抗を接続したことを特徴とする請求項1に記載の差動出力圧電発振器。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の差動出力圧電発振器を備えたことを特徴とする電子機器。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−41932(P2006−41932A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−218961(P2004−218961)
【出願日】平成16年7月27日(2004.7.27)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】