説明

差圧・圧力計

【課題】ダイアフラム及び溶接部を透過する水素分子の浸透を遅延させる構造を有する差圧・圧力計を提供する。
【解決手段】円板状に形成された接液ブロックと、ドーナツ状のシールリングと、
このシールリングの外径よりは小さく内径よりも大きな外径を有し一方の面に金メッキが施されたダイアフラムと、を備えた差圧・圧力計において、
前記ダイアフラムは金メッキされた側から前記シールリングの一方の面に径の異なる複数箇所で溶接され、前記シールリングは他方の面から前記ダイアフラムの外径より外側で前記接液ブロックに溶接されるとともに、前記径の異なる複数の溶接箇所の間に溝を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、差圧・圧力計に関し、特にダイアフラムにより差圧・圧力を測定する際に、被測定流体に含まれる水素が当該ダイアフラムを透過して封入液に浸入する速度を遅延させた差圧・圧力計に関する。
【背景技術】
【0002】
図3(a,b)は本発明が適用される差圧・圧力計を示し、(a)は差圧計の概観図、(b)は圧力計の正面図を示している。図3(c)は接液ブロックの拡大断面図、(d)は(c)のA部拡大断面図である。
【0003】
差圧・圧力計は被測定流体(気体又は液体)の圧力をダイアフラムの変位に変換して被測定流体の圧力及び差圧を測定するものである。
図3(a)において、21a(高圧側),21b(低圧側)は差圧計を構成する一対のダイアフラムシールである。それぞれのダイアフラムシールは接液ブロック1a、1bを有しており、これらの接液ブロック一方の面にはダイアフラム5a,5bの周縁部が溶接により固定されている。これらの接液ブロックの外周にはフランジ9a,9bが固定され、接液ブロックの側面にはそれぞれキャピラリーチューブ10a,10bの一端が接続されており、これらのキャピラリーチューブの他端は伝送器本体20を構成するカバーフランジ22に接続されている。
【0004】
図3(c,d)に示すように、接液ブロック1a,1bはそれぞれ曲面形状に形成したセンサ室2と、このセンサ室に導通する所定径に形成された圧力伝達部3と、センサ室2と被測定流体B側との間を封止した状態にするダイアフラム5と、このダイアフラムの周縁部を係止するシールリング6と、ダイアフラム5により封止されたセンサ室2に充填した封入液7とから構成されている。
【0005】
シールリング6は、接液ブロック1に対してダイアフラム5を挟み込んで溶接により接合した溶接部8を設けた構造となっている。被測定流体Bと接するダイアフラム5の面の反対側、即ち、封入液7と接する面には、その全面に金メッキ5aが施されている。
【0006】
このような構造の差圧・圧力計においては、被測定流体との接液部分にダイアフラム5を使用して、封入液7を介して圧力のみを図示しないセンサに伝えている。
ここで、被測定流体Bに水素分子が含まれている場合、ダイアフラム5を透過した水素分子による悪影響を予防するために、被測定流体Bが接しない面の表面に金メッキ5aやセラミックスコーティングを施し水素分子の透過を抑えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−071494号公報
【特許文献2】特開2002−156301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述した従来技術においては被測定対象Bが水素分子を含む場合、図4(a)に示すように、例えダイアフラムに水素分子の透過を防止する金メッキ又はセラミックスコーティングを施こしても、センサ室2との隔壁であるダイアフラム5の膜を水素分子が透過し、センサ室2内に気体水素が留まることになる。センサ室において低圧での測定の場合には、この透過した水素分子が膨張して最悪の場合には気泡が生じ、ダイアフラム膜を変形させることにより、センサ室2内の圧力変動、測定値に水素分子の透過に基づく誤差が生じてしまうという問題がある。
【0009】
そこで、図4(b)に示すように第2溶接部8aを溶接し、この溶接部を含むように金メッキ5aを施し、ダイアフラム5から水素が侵入してくる部分を無くした構造とする場合がある。
しかし、水素透過が激しい場合等には、このような構造でも図4(c)に矢印cで示すように溶接部から水素が侵入し、伝送器がすぐに使えなくなる場合がある。
【0010】
従って本発明は、ダイアフラム及び溶接部を透過する水素分子の浸透を遅延させる構造を有する差圧・圧力計を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明に係る差圧・圧力計は請求項1においては、
円板状に形成された接液ブロックと、
ドーナツ状のシールリングと、
このシールリングの外径よりは小さく内径よりも大きな外径を有し一方の面に金メッキが施されたダイアフラムと、
を備えた差圧・圧力計において、
前記ダイアフラムは金メッキされた側から前記シールリングの一方の面に径の異なる複数箇所で溶接され、
前記シールリングは他方の面から前記ダイアフラムの外径より外側で前記接液ブロックに溶接されるとともに、前記径の異なる複数の溶接箇所の間に溝を形成したことを特徴とする。
【0012】
請求項2においては、
円板状に形成された接液ブロックと、
ドーナツ状のシールリングと、
このシールリングの外径よりは小さく内径よりも大きな外径を有し一方の面に金メッキが施されたダイアフラムと、
を備えた差圧・圧力計において、
前記ダイアフラムは金メッキされた側から前記シールリングの一方の面に溶接され、該溶接部分の外側であって前記金メッキが施された部分で覆われるように前記シールリングに所定の径の溝を形成し、該溝に水素を吸着・貯蔵できる部材を埋め込み、前記シールリングの他方の面から前記ダイアフラムの外径より外側で前記接液ブロックを溶接したことを特徴とする。
【0013】
請求項3においては、請求項2に記載の差圧・圧力計において、
前記水素を吸着・貯蔵できる部材はNiまたはNi金属を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の差圧・圧力計の請求項1によれば、
ダイアフラムの金メッキされた側からこのダイアフラムをシールリングの一方の面に径の異なる複数箇所で溶接し、シールリングの他方の面からダイアフラムの外径より外側で接液ブロックに溶接し、径の異なる複数の溶接箇所の間に溝を形成したので、シールリングとダイアフラムの内周部分の溶接箇所を透過した水素は、溶接部と溶接部の間の空間を経て、外周部分の溶接箇所を透過して封入液側に侵入して留まる。その結果、封入液中に水素の気泡が発生するまでの時間を遅らせることができる。
【0015】
請求項2、3によれば、
ダイアフラムの金メッキされた側がシールリングの一方の面に溶接され、この溶接部分の外側であって前記金メッキが施された部分で覆われるようにシールリングに所定の径の溝を形成し、その溝に水素を吸着・貯蔵できる部材を埋め込み、シールリングの他方の面から前記ダイアフラムの外径より外側で接液ブロックに溶接したので、溶接部分を透過した水素は、まず水素を吸着・貯蔵できる金属中に溜まっていき、その金属が水素を溜めることが出来なくなってから、封入液中に水素が侵入していくことになる。
その結果、封入液中に水素の気泡が発生するまでの時間を遅らせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の差圧・圧力計のダイアフラムシール部分の一実施例を示す要部断面図である。
【図2】本発明の差圧・圧力計のダイアフラムシール部分の他の実施例を示す要部断面図である。
【図3】従来の差圧計の概観図(a)、圧力計の正面図(b)、ダイアフラムシール部分の拡大図(c)および(c)図のA部拡大である。
【図4】従来のダイアフラムシール部分における水素の侵入経路を示す要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は本発明の差圧・圧力計のダイアフラムシール部分の実施形態の一例を示す要部断面図である。図1において、1は円板状の接液ブロックで一方の面の中央部に円状の凹部1cが形成されている。6はドーナツ状のシールリングで一方の面の内周寄りにリング状の溝11が形成されている。
【0018】
5は一方の面に金メッキが施されたダイアフラムで、このダイアフラムの外径はシールリング6の外径より小さく、内径より大きく形成されている。そして、このダイアフラムは前記シールリングに形成されたリング状の溝11を金メッキが施されていない側(接液側)で覆った状態とされ、前記リング状の溝11の内側(第2溶接部8b)と外側(第3溶接部8c)でシールリング6に溶接されている。その結果、リング状の溝11は気密にダイアフラム5の面で閉塞された状態となる。
【0019】
このようにダイアフラム5が溶接されたシールリング6は金メッキが施された(非接液)側を前記円状に形成された前記接液ブロックの凹部1cの底部に接するように挿入する。
挿入された状態で接液ブロック1の一方の面とシールリングの他方の面は面一になる。
そして、その状態で前記ダイアフラムの外周より外側の前記シールリングの他方の面から接液ブロックに溶接(第1溶接部8a)により固定される。
【0020】
上述の差圧・圧力計のダイアフラムシール部分の構造によれば、被測定体に含まれる水素が溝の内周側の溶接部から浸透しても溝11が水素溜まりとして機能し、ここに充満した水素は溝の外周側の溶接部(第3溶接部8c)を経て封入液側に浸透する。
その結果、封入液中に水素の気泡が発生するまでの時間を遅らせることができる。
【0021】
図2は請求項2における実施例を示す要部断面図である。図2において、図1と異なる部分はシールリング6に水素を吸着できる金属(例えばNi又はNi合金)12を埋め込んだ点である。
図2において、1は円板状の接液ブロックで一方の面の中央部に円状の凹部1cが形成されている。6はドーナツ状のシールリングで一方の面に溝11aが形成されこの溝に水素を吸着できるNi又はNi合金がシールリングの一方の面と面一に埋め込まれている。
【0022】
5は一方の面に金メッキが施されたダイアフラムで、このダイアフラムの外径はシールリング6の外径より小さく、内径より大きく形成されている。そして、このダイアフラムは前記シールリング6に形成されたNi又はNi合金を金メッキが施されていない側(接液側)の一部を覆った状態とされ、溝11aより内側で溶接シールリングに溶接されている(第2の溶接部8b)。
【0023】
また、Ni又はNi合金を一部覆ったダイアフラム5の外周部分も溶接(第3溶接部8c)され、更にNi又はNi合金部分の外周はシールリングに溶接されている(第4溶接部8d)。そしてこのシールリング6はNi又はNi合金部分が埋め込まれた側を下にして接液ブロックの凹部1cに挿入され他方の面から接液ブロック1に溶接(第1溶接部8a)される。
【0024】
上述の差圧・圧力計のダイアフラムシール部分の構造によれば、溶接部分を透過した水素は、まず水素を吸着・貯蔵できる金属中に溜まっていき、その金属が金属中に充満し水素を溜めることが出来なくなってから、封入液中に水素が侵入していくことになる。その結果、封入液中に水素の気泡が発生するまでの時間を遅らせることができる。
【0025】
なお、以上の説明は、本発明の説明および例示を目的として特定の好適な実施例を示したに過ぎない。
従って本発明は、上記実施例に限定されることなく、その本質から逸脱しない範囲で更に多くの変更、変形を含むものである。
【符号の説明】
【0026】
1 接液ブロック
2 センサ室
3 圧力伝達部
5 ダイアフラム
6 シールリング
7 封入液
8 溶接部
9 フランジ
10 キャピラリーチューブ
11 溝(水素溜まり用空間)
12 水素を吸着できる金属(NiまたはNi合金)
20 伝送器本体
21 ダイアフラムシール
22 カバーフランジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円板状に形成された接液ブロックと、
ドーナツ状のシールリングと、
このシールリングの外径よりは小さく内径よりも大きな外径を有し一方の面に金メッキが施されたダイアフラムと、
を備えた差圧・圧力計において、
前記ダイアフラムは金メッキされた側から前記シールリングの一方の面に径の異なる複数箇所で溶接され、
前記シールリングは他方の面から前記ダイアフラムの外径より外側で前記接液ブロックに溶接されるとともに、前記径の異なる複数の溶接箇所の間に溝を形成したことを特徴とする差圧・圧力計。
【請求項2】
円板状に形成された接液ブロックと、
ドーナツ状のシールリングと、
このシールリングの外径よりは小さく内径よりも大きな外径を有し一方の面に金メッキが施されたダイアフラムと、
を備えた差圧・圧力計において、
前記ダイアフラムは金メッキされた側から前記シールリングの一方の面に溶接され、該溶接部分の外側であって前記金メッキが施された部分で覆われるように前記シールリングに所定の径の溝を形成し、該溝に水素を吸着・貯蔵できる部材を埋め込み、前記シールリングの他方の面から前記ダイアフラムの外径より外側で前記接液ブロックを溶接したことを特徴とする差圧・圧力計。
【請求項3】
前記水素を吸着・貯蔵できる部材はNiまたはNi金属を含むことを特徴とする請求項2に記載の差圧・圧力計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−61212(P2013−61212A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−199232(P2011−199232)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】