説明

差次的抽出のための方法および系

差次的抽出は、細胞の分離に用いることができるいくつかの抽出法を表現するために用いられる広義の用語である。少なくとも2つの異なる細胞タイプからDNAを差次的抽出するための方法が提供される。差次的抽出法を実施するための系もまた提供される。多区画容器を用いる、少なくとも2つの異なる細胞タイプからDNAを差次的抽出するためのキットも提供される。法医学的なDNA分析は、精子細胞由来のDNA、および上皮細胞などの他の細胞由来のDNAの分析を伴うことが多い。特定の実施形態において、精子細胞の差次的抽出のための系が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2007年5月9日に出願された米国仮特許出願第60/916,999号の利益を主張し、2007年1月16日に出願された米国仮特許出願第60/880,787号、2007年2月2日に出願された米国仮特許出願第60/899,106号、2008年1月16日に出願された米国特許出願第12/015,414号、および2008年2月15日に出願された米国特許出願第12/032,270号に関連する。これらの出願の開示は、その全体が参考として援用される。
【0002】
限定はしないが、特許、特許出願、論文、本、論説、およびインターネットウェブページを含む、本出願において引用されるすべての文献および類似の資料は、そのような文献および類似の資料の形式にかかわらず、参照することにより、任意の目的でその全体が明らかに組み込まれる。限定はしないが、定義された用語、用語の使用法、記載された技術などを含む、組み込まれた文献および類似の資料の1つまたは複数が、本出願と異なるかまたは矛盾する場合、本出願が優先される。
【0003】
少なくとも2つの異なる細胞タイプからDNAを差次的抽出するための方法が提供される。差次的抽出法を実施するための系もまた提供される。
【背景技術】
【0004】
性的暴力事件の法医学的なDNA分析は、精子細胞由来のDNA、および上皮細胞などの他の細胞由来のDNAの分析を伴うことが多い。被害者から得られた試料は、精子と上皮細胞などの他の細胞との混合物を含んでいることが多い。上皮細胞などの他の細胞は、精子細胞の何倍も数が多い場合があるため、精子のDNAが抽出されている間、DNAの1つまたは複数の他の由来源からの汚染が生じ得る。したがって、分析の前に、精子細胞と上皮細胞とを分離すること、または上皮のDNAから精子のDNAを可能な限り多く分離することが望ましい場合が多い。特定の場合において、正確なプロフィールを得るために特定のDNAを分離および単離することが、加害者を同定するために重要である。
【0005】
差次的抽出は、細胞の分離に用いることができるいくつかの抽出法を表現するために用いられる広義の用語である。特定の場合において、精子細胞の固有の特徴により、精子細胞からの上皮細胞の差次的抽出が可能になる。差次的抽出の1つの手順は、1985年に記載された(非特許文献1)。特定の場合において、被害者のDNAプロフィールから精子細胞画分を分離することで、結果の曖昧性が減少し、強姦のケースにおける加害者のDNAプロフィールの解釈が容易になる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Gillら、(1985年)Nature 318巻:557〜9頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
特定の実施形態において、精子細胞の差次的抽出のための系が提供される。特定の実施形態において、系は複数の区画を含み、少なくとも1つの区画は選択的精子溶解緩衝液を含む。特定の実施形態において、系は、細胞捕捉マトリクスを含む第1の区画と、選択的精子溶解緩衝液を含む第2の区画とを含む。特定の実施形態において、系はさらに、複数のDNA結合粒子を含む第3の区画を含む。特定の実施形態において、系はさらに、溶出緩衝液を含む第4の区画を含む。
【0008】
いくつかの実施形態において、精子細胞の差次的抽出のための系は、細胞捕捉マトリクスを含む第1の区画と、細胞洗浄緩衝液を含む第2の区画と、選択的精子溶解緩衝液を含む第3の区画と、複数のDNA結合粒子を含む第4の区画と、DNA洗浄緩衝液を含む第5の区画と、溶出緩衝液を含む第6の区画とを含む。特定の実施形態において、系はさらに、DNA結合緩衝液を含む第7の区画を含む。特定の実施形態において、第7の区画はさらに、第2の複数のDNA結合粒子を含む。特定の実施形態において、系はさらに、第2の複数のDNA結合粒子を含む第8の区画を含む。
【0009】
特定の実施形態において、系は複数の区画を含み、複数の区画は、取り外し可能なカートリッジの一部である。
【0010】
特定の実施形態において、精子細胞および非精子細胞を含む生物学的試料における、精子細胞の差次的抽出の方法が提供される。特定の実施形態において、その方法は、(a)生物学的試料を、細胞捕捉マトリクスを含む、系の第1の区画内に置くステップと、(b)細胞捕捉マトリクスで精子細胞および非精子細胞を捕捉するステップと、(c)細胞捕捉マトリクスと捕捉された精子細胞および非精子細胞とを、選択的精子溶解緩衝液内でインキュベートして、精子細胞溶解物を形成するステップと、(d)精子細胞溶解物の精子細胞DNAを複数のDNA結合粒子に結合させるステップと、(e)DNA結合粒子から精子細胞DNAを溶出するステップとを含む。
【0011】
特定の実施形態において、細胞捕捉マトリクスで精子細胞および非精子細胞を捕捉するステップは、細胞捕捉マトリクスに磁力を加えるステップを含む。特定の実施形態において、細胞捕捉マトリクスと捕捉された精子細胞および非精子細胞とを、選択的精子溶解緩衝液内でインキュベートするステップは、系の第1の区画で行う。特定の実施形態において、精子細胞DNAを複数のDNA結合粒子に結合させるステップは、系の第2の区画で行う。特定の実施形態において、DNA結合粒子から精子細胞DNAを溶出するステップは、系の第2の区画で行う。特定の実施形態において、精子細胞溶解物は、第1の区画から第2の区画へ運ばれる。
【0012】
特定の実施形態において、細胞捕捉マトリクスと捕捉された精子細胞および非精子細胞とを、選択的精子溶解緩衝液内でインキュベートするステップは、系の第2の区画で行う。特定の実施形態において、精子細胞DNAを複数のDNA結合粒子に結合させるステップは、系の第2の区画で行う。特定の実施形態において、DNA結合粒子から精子細胞DNAを溶出するステップは、系の第3の区画で行う。特定の実施形態において、細胞捕捉マトリクスならびに捕捉された精子細胞および非精子細胞は、磁力を用いて第1の区画から第2の区画へ運ばれる。
【0013】
特定の実施形態において、非精子細胞は、選択的精子溶解緩衝液内での細胞捕捉マトリクスのインキュベーションの後、細胞捕捉マトリクス上に捕捉されたまま残る。特定の実施形態において、非精子細胞は溶解され、非精子細胞DNAは、細胞捕捉マトリクスに結合する。特定の実施形態において、非精子細胞は溶解され、非精子細胞DNAは、第2の複数のDNA結合粒子に結合する。
【0014】
当業者には、以下に記載する図面が例示のみを目的とすることが理解されよう。図面は、決して、特許請求の範囲に記載された発明の範囲を限定することを意図したものではない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】特定の実施形態に従った、精子細胞DNAおよび非精子細胞DNAを差次的抽出するための例示的な系を示す図である。図1の系は、区画間の流体の移動を伴うものである。図1の系は、非精子細胞を溶解しないが、その代わり、細胞捕捉マトリクスへの細胞の捕捉の後に試料内に存在する残留DNAを回収する。
【図2】特定の実施形態に従った、精子細胞DNAおよび非精子細胞DNAを差次的抽出するための例示的な系を示す図である。図2の系は、区画間の流体の移動を伴うものである。図2の系は、細胞捕捉マトリクスを、非精子細胞DNAのためのDNA結合粒子として用いる。
【図3】特定の実施形態に従った、精子細胞DNAおよび非精子細胞DNAを差次的抽出するための例示的な系を示す図である。図3の系は、区画間の流体の移動を伴うものである。図3の系は、DNA結合粒子の2つの個別の区画を含む。
【図4】特定の実施形態に従った、精子細胞DNAおよび非精子細胞DNAを差次的抽出するための例示的な系を示す図である。図4の系は、区画間の粒子の移動を伴うものであり、場合によっては、液体の移動を伴うものである。図4に示される系においては、細胞捕捉マトリクスは、非精子細胞DNAのためのDNA結合マトリクスとして用いられる。
【図5】特定の実施形態に従った、精子細胞DNAおよび非精子細胞DNAを差次的抽出するための例示的な系を示す図である。図5の系は、区画間の粒子の移動を伴うものである。図5に示される系においては、細胞捕捉マトリクスは、非精子細胞DNAのためのDNA結合マトリクスとして用いられる。
【図6】特定の実施形態に従った、精子細胞DNAおよび非精子細胞DNAを差次的抽出するための例示的な系を示す図である。図6の系は、DNA結合粒子を、DNA結合緩衝液とは別に保存する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書において用いられる節の見出しは、編成を目的としたものにすぎず、記載される対象を限定するものであると解釈されるものではない。限定はしないが、特許、特許出願、論文、本、および論説を含む、本明細書において引用されるすべての文献または文献の一部は、参照することにより、任意の目的でその全体が明らかに本明細書に組み込まれる。限定はしないが、定義された用語、用語の使用法、記載された技術などを含む、組み込まれた文献または文献の一部の1つまたは複数が定義する用語が、本出願におけるその用語の定義と矛盾する場合、本出願が優先される。
【0017】
単数形の使用には、別段の記載がない限り、複数形が含まれる。「1つの(a)」または「1つの(an)」という語は、別段の記載がない限り、「少なくとも1つの」を意味する。「または」の使用は、別段の記載がない限り、「および/または」を意味する。複数の請求項を引用する従属請求項の状況における「または」の使用は、選択的であることのみを意味する。「少なくとも1つ」という表現の意味は、「1つまたは複数」という表現の意味に等しい。さらに、「含んでいる」という用語、ならびに「含む」および「含まれる」などの他の形態の使用は、限定的なものではない。また、「要素」または「構成要素」などの用語は、別段の記載がない限り、1つのユニットを含む要素または構成要素と、2つ以上のユニットを含む要素または構成要素との両方を包含するものである。
【0018】
本明細書において、標的分析物などの「1つの」部分の検出についての議論は、別段の記載がない限り、1つまたは複数のその部分を包含するものである。本明細書において論じられるすべての範囲には、両境界点および境界点の間のすべての値が含まれる。
【0019】
定義
「生物学的試料」という用語は、少なくとも1つの生物学的材料を含む任意の試料を言う。例示的な生物学的材料には、限定はしないが、血液、唾液、皮膚、便、尿、精子細胞、上皮細胞(限定はしないが、膣上皮細胞を含む)、筋肉組織、および骨が含まれる。
【0020】
「カートリッジ」という用語は、複数の区画を含んでおり、かつ個別の流体処理装置および/または磁気粒子処理装置を独立して機能させるのに十分な流体処理メカニズムおよび/または磁気粒子処理メカニズムを有していない系を言う。カートリッジは、特定の実施形態において、使い捨て用に設計することができ、使用の後、廃棄される。特定の実施形態において、カートリッジ内の区画の1つまたは複数は、試薬を有する。特定の実施形態において、カートリッジの区画のすべては、単一のユニット内に含まれる。特定の実施形態において、カートリッジの区画は、共にカートリッジを形成する2つ以上のユニットの間で分けられている。様々な実施形態において、単一のカートリッジは、1、2、4、6、8、12、16、24、48、96、または96個超の試料を処理するように設計される。様々な実施形態において、カートリッジは、1から48個の試料、または1から24個の試料、または2から24個の試料、または1から16個の試料、または2から16個の試料を処理するように設計される。特定の実施形態において、カートリッジが少なくとも2つの試料を処理するように設計されている場合、カートリッジは、試料の少なくとも2つを同時に処理するように設計される。特定の実施形態において、カートリッジは、試料のすべてを同時に処理するように設計される。
【0021】
「細胞混合物」という用語は、少なくとも2つ以上の異なる細胞タイプの異種的な集合体を言う。
【0022】
「細胞捕捉マトリクス」という用語は、限定はしないが精子細胞および上皮細胞を含む細胞を捕捉するマトリクスを言う。特定の例示的な細胞捕捉マトリクスは、例えば、米国仮特許出願第60/890,460号に記載されている。特定の実施形態において、細胞捕捉マトリクスは、細胞洗浄緩衝液の存在下では、細胞は捕捉するがDNAは結合せず、しかしDNA結合緩衝液においてはDNAを結合する能力を有する。
【0023】
「細胞洗浄緩衝液」という用語は、その中において細胞が細胞捕捉マトリクスに捕捉されるが溶解はされない緩衝液を言う。特定の実施形態において、DNAは、細胞洗浄緩衝液の存在下では細胞捕捉マトリクスに結合しない。例示的な細胞洗浄緩衝液には、限定はしないが、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、Tris−EDTA(TE)(pH7.5)、Tris−酢酸−EDTA(TAE)(pH8.5)、およびTris−ホウ酸−EDTA(TBE)(pH8)が含まれる。様々な実施形態において、当業者は、選択された細胞捕捉マトリクスおよび細胞タイプに従って、適切な細胞洗浄緩衝液を選択することができる。
【0024】
「区画」という用語は、流体を保持するように構成された個別の空間を規定する、任意の貯蔵構造を言う。例えば、区画は、流体を保持するように構成された内部空間を規定する、独立した容器または入れ物であり得る。あるいは、区画は、流体を保持するように構成された、容器または入れ物内の、複数の区分けされた空間の1つであり得る。さらに、区画により規定される、流体を保持する空間は、実質的に密封されているか、あるいは、少なくとも部分的に大気に通じている。
【0025】
「差次的抽出」という用語は、異種的な細胞集団から細胞タイプの小集団を抽出するために用いられる抽出法を言う。特定の実施形態において、差次的抽出には、精子細胞と、限定はしないが上皮細胞を含む非精子細胞との混合物における、精子細胞の選択的な溶解が含まれる。
【0026】
「DNA結合粒子」という用語は、適切な緩衝条件下においてDNAを結合することが可能な磁気粒子を言う。例示的な磁気粒子には、限定はしないが、強磁性の、常磁性の、および超常磁性の粒子が含まれる。特定の実施形態において、DNA結合粒子は、DNA結合緩衝液の存在下でDNAを結合する。
【0027】
「DNA結合緩衝液」という用語は、その中においてDNA結合粒子および/または細胞捕捉マトリクスがDNAを結合し得る緩衝液を言う。
【0028】
「選択的精子溶解緩衝液」という用語は、精子細胞と少なくとも1つのタイプの非精子細胞とを含む混合物において優先的に精子細胞を溶解し得る緩衝液を言う。特定の例示的な選択的精子溶解緩衝液は、例えば米国仮特許出願第60/899,106号および米国仮特許出願第60/890,470号に記載されている。「優先的に精子細胞を溶解する」とは、主に精子細胞が溶解されることを意味する。特定の実施形態において、ごく少量の非精子細胞が溶解される。様々な実施形態において、少なくとも80%、85%、90%、95%、または99%の精子細胞が溶解される。様々な実施形態において、少なくとも80%、85%、90%、または95%の非精子細胞が溶解されない。
【0029】
「希釈緩衝液」という用語は、選択的精子溶解緩衝液を希釈して、この緩衝液をDNA結合緩衝液とするために用いることができる緩衝液を言う。希釈緩衝液は、様々な実施形態において、カオトロピック塩、一価塩、および/またはアルコールを含み得る。
【0030】
「溶出緩衝液」という用語は、DNA結合粒子および/または細胞捕捉マトリクスからDNAを放出させる緩衝液を言う。特定の例示的な溶出緩衝液には、限定はしないが、低塩緩衝液(限定はしないが、TEおよび脱イオン水を含む)が含まれる。様々な実施形態において、当業者は、用いられるDNA結合粒子および/または細胞捕捉マトリクスに従って適切な溶出緩衝液を選択することができる。特定の実施形態において、溶出緩衝液の存在下でのDNAの溶出を容易にするために、熱が加えられる。
【0031】
「法医学的な試料」という用語は、限定はしないが、殺人、強姦、外傷、暴行、殴打、窃盗、強盗、他の刑事事件、身元確定検査、親確定検査、または実父確定検査を含む法的状況において生じる身元問題への対処に用いるために得られた生物学的試料、および入り混じった試料(mixed−up samples)を言う。
【0032】
「一般的な溶解緩衝液」という用語は、非精子細胞を溶解し、かつ精子細胞も溶解し得るかまたはし得ない緩衝液を言う。特定の例示的な一般的な溶解緩衝液は、当技術分野において知られており、様々な実施形態において、当業者は、意図した使用に基づいて一般的な溶解緩衝液を選択することができる。非限定的な例示的な一般的な溶解緩衝液は、2%SDS、20mMのEDTA、200mMのNaCl、20mMのTris(pH8)、および500μg/mLのプロテイナーゼKを含む。
【0033】
「溶解物」という用語は、溶解した細胞の残屑およびDNAを有する液相を言う。
【0034】
「医学的試料」という用語は、限定はしないが、研究、診断、ならびに組織および器官の移植片を含む医学的問題に対処するために得られた試料を言う。
【0035】
「塩」または「塩試薬」または「塩溶液」という用語は、正および/または負に帯電したイオン試薬を言う。特定の実施形態において、塩試薬は、精子のクロマチンを崩壊させる。塩試薬は、様々な実施形態において、一価の、二価の、または多価のイオンであり得る。例示的な塩試薬には、限定はしないが、LiCl、NaCl、KCl、LiSO、NaSO、KSO、MgCl、CaCl、MgSO、CaSO、NaNO、KNO、Mg(NO、およびCa(NOが含まれる。
【0036】
「ジスルフィド結合還元剤」という用語は、例えばタンパク質におけるジスルフィド結合を還元する作用物質を言う。特定の実施形態において、ジスルフィド結合還元剤は、精子細胞におけるプロタミンのジスルフィド架橋を崩壊させる。ジスルフィド結合還元剤は、不水溶性または水溶性であり得る。例示的な不水溶性作用物質には、限定はしないが、ジチオトレイトール(DTT)およびTris(2−カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(TCEP)が含まれる。例示的な水溶性作用物質には、限定はしないが、グルタチオン(GSH)およびメルカプトエタノール(ME)が含まれる。
【0037】
特定の例示的な選択的精子溶解緩衝液
特定の実施形態において、選択的精子溶解緩衝液は、少なくとも1つのジスルフィド結合還元試薬および少なくとも1つの塩試薬を含む。
【0038】
特定の実施形態において、ジスルフィド結合還元剤は、ME、DTT、GSH、およびTCEPから選択される。
【0039】
特定の実施形態において、少なくとも1つの塩試薬は、LiCl、NaCl、KCl、LiSO、NaSO、KSO、MgCl、CaCl、MgSO、CaSO、NaNO、KNO、Mg(NO、およびCa(NOから選択される。特定の実施形態において、少なくとも1つの塩試薬は、NaCl、KCl、およびMgClから選択される。
【0040】
特定の実施形態において、選択的精子溶解緩衝液は、少なくとも1つの塩試薬を、少なくとも0.1M、0.25M、0.5M、1M、1.5M、または2Mの濃度で含む。特定の実施形態において、選択的精子溶解緩衝液は、少なくとも1つの塩試薬を、0.1Mから2Mの濃度で含む。
【0041】
特定の実施形態において、選択的精子溶解緩衝液は、少なくとも1つのジスルフィド結合還元試薬を、少なくとも0.01M、0.05M、0.1M、0.2M、0.3M、0.4M、0.5M、0.7M、または0.8Mの濃度で含む。
【0042】
特定の実施形態において、選択的精子溶解緩衝液は、ME、DTT、GSH、およびTCEPから選択される少なくとも1つのジスルフィド結合還元試薬、ならびにNaCl、KCl、MgCl、およびCaClから選択される少なくとも1つの塩試薬を含む。特定の実施形態において、塩および還元剤の濃度は、選択的精子溶解緩衝液が優先的に精子細胞を溶解するようなものである。
【0043】
特定の実施形態において、選択的精子溶解緩衝液はNaClを含む。特定の実施形態において、NaClの濃度は少なくとも0.8Mである。特定の実施形態において、選択的精子溶解緩衝液はKClを含む。特定の実施形態において、KClの濃度は少なくとも0.8Mである。特定の実施形態において、選択的精子溶解緩衝液はMgClを含む。特定の実施形態において、MgClの濃度は少なくとも0.25Mである。特定の実施形態において、選択的精子溶解緩衝液は、DTTを少なくとも50mMの濃度で含む。
【0044】
様々な実施形態において、当業者は、最終的な塩濃度のレベルを、優先的に精子細胞を溶解するように最適化することができる。
【0045】
特定の実施形態において、選択的精子溶解緩衝液は、DNA結合緩衝液となるように、希釈緩衝液で希釈される。特定の実施形態において、選択的精子溶解緩衝液は、DNA結合緩衝液で希釈され、それにより得られた緩衝液はDNA結合緩衝液である。様々な実施形態において、当業者は、選択的精子溶解緩衝液と混合した後に、DNA結合緩衝液が生じるかまたはDNA結合緩衝液のDNA結合特性が維持されるように、適切な希釈緩衝液および/または適切な希釈量を選択することができる。
【0046】
特定の例示的な細胞捕捉マトリクスおよびDNA結合粒子
細胞捕捉マトリクスは、限定はしないが精子細胞および上皮細胞を含む細胞を捕捉するマトリクスである。特定の実施形態において、細胞捕捉マトリクスは、細胞を捕捉するために用いられる条件と同一であり得るかまたは異なり得る適切な条件下で、DNAを結合する。様々な実施形態において、細胞捕捉マトリクスは、磁気粒子からなる。例示的な磁気粒子には、限定はしないが、強磁性の、常磁性の、および超常磁性の粒子が含まれる。
【0047】
例示的な細胞捕捉マトリクスおよび/またはDNA結合粒子には、限定はしないが、超磁性のコアを有する多孔質シリカビーズが含まれる。超磁性のコアを有する例示的な多孔質シリカビーズには、限定はしないが、MP−50(6.5μm)およびMP−85(>8μm)(W.R.Grace、Columbia、MD)、DNA IQ(商標)シリカ粒子(Promega、Madison、WI)、MagPrep(登録商標)シリカ粒子(Novagen、San Diego、CA)、BcMag(登録商標)シリカ修飾磁気ビーズ(5μmまたは1μm)(Bioclone Inc.、San Diego、CA)、ならびに超磁気シリカ粒子(1μmまたは0.75μm、G.Kisker GbR、Steinfurt、Germany)が含まれる。特定の例示的な非シリカ細胞捕捉マトリクスには、限定はしないが、ストレプトアビジンで固定された酸化鉄(Sigma、St.Louis、MO)、酸化鉄(III)粉末(5μm)(Sigma)、MagMAX(登録商標)磁気粒子(1μm、Applied Biosytems、Foster City、CA)、およびDynabeads(登録商標)(Invitrogen、Carlsbad、CA)が含まれ、これらは、異なるタイプの表面官能基(例えば、Dynabeads(登録商標)MyOneカルボン酸ビーズ、Dynabeads(登録商標)WCX、Dynabeads(登録商標)TALON、およびDynabeads(登録商標)MyOneトシル活性化)を含み得る。
【0048】
特定の例示的な細胞捕捉方法
様々な実施形態において、細胞捕捉マトリクスは、磁気粒子を含む。特定の実施形態において、細胞捕捉マトリクスは、磁場の不存在下で細胞を捕捉する。特定の実施形態において、細胞捕捉マトリクスは、磁場の存在下で細胞を捕捉する。細胞の捕捉のタイミングおよびメカニズムは、様々な実施形態において、用いられる細胞捕捉マトリクスおよび緩衝液の条件に依存する。
【0049】
細胞捕捉マトリクスは、任意の様々なメカニズムによって細胞を捕捉し得る。特定の実施形態において、細胞捕捉マトリクスは、非共有結合的な相互作用を介して細胞を捕捉する。特定の例示的な非共有結合的な相互作用には、限定はしないが、水素結合、陽イオン−Π相互作用、Π−Π相互作用、イオン結合、疎水性相互作用、双極子−双極子相互作用、双極子誘発性の双極子相互作用、電荷−双極子相互作用、およびファンデルワールス相互作用が含まれる。特定の実施形態において、細胞は、イオン相互作用を介して細胞捕捉マトリクスによって捕捉される。特定の実施形態において、細胞は、抗体/抗原相互作用を介して細胞捕捉マトリクスによって捕捉される。
【0050】
特定の実施形態において、非共有結合的な相互作用の継続時間および強さは、細胞が細胞捕捉マトリクスにより捕捉され続けるがマトリクスが1つの位置から別の位置へ移動するようなものである。特定のこのような実施形態において、細胞捕捉マトリクスは磁気粒子を含み、移動は、磁場を加えることにより生じる。細胞と細胞捕捉マトリクスとの間の非共有結合的な関連のタイプ、継続時間、および強さは、様々な実施形態において、マトリクスのサイズ、形状、表面特性、表面形態、および/もしくは密度、捕捉される細胞のサイズ、形状、表面特性、表面形態、および/もしくは密度、ならびに/または緩衝液の組成、pH、および/もしくは温度によって決定される。
【0051】
特定の実施形態において、細胞捕捉マトリクスは、例えば磁場を加えた場合に、物理的に細胞を捕捉する。このような物理的捕捉は、特定の実施形態において、磁場における細胞捕捉マトリクス粒子の凝集に起因し得る。特定の実施形態において、細胞捕捉マトリクスは、細胞のこのような物理的捕捉を容易にするために、不規則な形状をした粒子を含む。様々な実施形態において、細胞捕捉マトリクス粒子は、捕捉される細胞よりも小さいかもしくは大きいものであり得るか、または、捕捉されるいくつかの細胞よりも大きく、かつ捕捉される他の細胞よりも小さいものであり得る。特定の実施形態において、細胞捕捉マトリクスは、細胞を磁場源の方向に押して、細胞を上清から隔離することにより、細胞を捕捉し得る。特定のこのような実施形態において、細胞捕捉マトリクスは、粒子間の空間が、試料内の最も小さい細胞のサイズよりも小さくなるような密度にある粒子からなる。
【0052】
特定の実施形態において、2つ以上のタイプの非共有結合的な相互作用が、細胞と細胞捕捉マトリクスとの間に存在する。特定のこのような実施形態において、非共有結合的な相互作用の1つのタイプは細胞の捕捉にさらに寄与し得、その相互作用の優位性は、試料内の細胞タイプごとに変化し得る。
【0053】
精子細胞は、約5μmの直径を有し、上皮細胞は、約50μμの直径を有する。様々な実施形態において、精子細胞および上皮細胞を捕捉するために用いられる細胞捕捉マトリクスは、0.5μmから100μmの直径を有する粒子を含む。特定の実施形態において、粒子は1μmから10μmの直径を有する。特定の実施形態において、細胞捕捉マトリクスにおける少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%の粒子が、0.5μmから100μm、または1μmから10μmの直径を有する。当業者は、様々な実施形態において、特定の適用に従って細胞を捕捉するために、粒子の適切なサイズ、形状、密度、および表面特性を選択することができる。
【0054】
特定の実施形態において、細胞捕捉マトリクスは、1つまたは複数の抗体を含む。特定のこのような実施形態において、抗体の1つまたは複数は、試料内の細胞の少なくとも1つのタイプ上に存在する細胞表面抗原を結合する。特定の実施形態において、細胞捕捉マトリクスは、試料内の2つ以上の細胞タイプ上の少なくとも1つの細胞表面抗原に共に結合する、1つまたは複数の抗体を含む。非制限的な例として、特定の実施形態において、細胞捕捉マトリクスは、上皮細胞上の細胞表面抗原を結合する抗体で被覆された粒子の第1のセット、および精子細胞上の細胞表面抗原を結合する抗体で被覆された粒子の第2のセットを含み得る。
【0055】
精子細胞および/または上皮細胞を結合する特定の例示的な抗体には、限定はしないが、ヒト上皮抗原であるEpCAM(上皮細胞接着分子)を結合するモノクローナル抗体BerEP4、精子プロタミンに対する抗体、ヒト精子凝集抗原I(SAGA−I)上に位置する炭水化物エピトープに対する抗体(例えば、米国特許第5,605,803号を参照されたい)、核空胞および精子の核の冗長膜内に存在する精子タンパク質であるSPAN−Xに対する抗体(例えば、PCT/US99/24973を参照されたい)、C58またはSMARC32に対する抗体(例えば、米国特許出願公開第2002/0182751号を参照されたい)が含まれる。特定の実施形態において、抗体は、複数の細胞タイプ上に存在する細胞表面抗原(例えば、タンパク質または炭水化物)を結合する。
【0056】
特定の実施形態において、区画の下に磁場が加えられると、細胞は、細胞捕捉マトリクスによって、区画の底部に押されるか、引っ張られるか、または運ばれる。特定の実施形態において、区画の側面から磁場が加えられると、細胞は、細胞捕捉マトリクスによって、区画の側面に押されるか、引っ張られるか、または運ばれる。特定の実施形態において、細胞は、細胞捕捉マトリクスによって、区画内に挿入された磁性の棒に押されるか、引っ張られるか、または運ばれる。特定のこのような実施形態において、磁性の棒は、例えば磁性の棒の汚染を防ぐための取り外し可能な保護物で覆われている。特定の実施形態において、磁性の棒は、細胞捕捉マトリクスを1つの区画から別の区画へ移動させるために用いることができる。
【0057】
特定の実施形態において、Dynabeads(登録商標)MyOneカルボン酸ビーズ(Dynal Biotech)が、細胞を捕捉するための細胞捕捉マトリクスとして用いられる。粒子は1μmであり、特定の実施形態において、約55個細胞/μLを含む試料1μlに対して約10個の粒子の密度で用いられる(例えば、約1000個の精子細胞および約1万個の上皮細胞を含む200μL)。特定の実施形態において、1μl当たり10個超の粒子が用いられ得る。特定の実施形態において、1μl当たり10個未満の粒子が用いられる。
【0058】
様々な実施形態において、試料内の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%のインタクトな細胞が、細胞捕捉マトリクスにより捕捉される。様々な実施形態において、1つの細胞タイプが溶解された後、試料内の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%の残存しているインタクトな細胞が、細胞捕捉マトリクスに捕捉されるか、または、捕捉されたまま残る。
【0059】
特定の例示的なDNA結合緩衝液
特定の実施形態において、DNA結合粒子がシリカビーズである場合、DNA結合緩衝液はカオトロピック塩を含む。特定の例示的なカオトロピック塩には、限定はしないが、グアニジウムイソチオシアネート(GuSCN)および塩化グアニジウムが含まれる。特定の実施形態において、例えばDNA結合粒子が非シリカビーズである場合、DNA結合緩衝液はカオトロピック塩およびアルコールを含む。特定のこのような実施形態において、DNA結合緩衝液はさらに、一価の塩を含む。特定の例示的な一価の塩には、限定はしないが、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、酢酸カリウム、塩化カリウム、酢酸アンモニウム、および塩化アンモニウムが含まれる。特定の例示的なアルコールには、限定はしないが、イソプロパノールおよびエタノールが含まれる。特定の実施形態において、アルコールは、DNA結合緩衝液において、30%以上の濃度である。特定の実施形態において、カオトロピック塩およびアルコールを含むDNA結合緩衝液は、「DNA沈殿緩衝液」と呼ばれる。特定の例示的なDNA結合緩衝液は、例えば、米国特許第5,234,809号、米国特許第5,523,231号、および米国特許第5,705,628号に記載されている。当業者は、用いられるDNA結合粒子および/または細胞捕捉マトリクスに従って、適切なDNA結合緩衝液を選択することができる。
【0060】
シリカベースのDNA結合粒子に適した、例示的なDNA結合緩衝液には、限定はしないが、BloodPrep(商標)DNA精製溶液(Applied Biosystems)およびDNA IQ(商標)溶解溶液(Promega)が含まれる。様々な実施形態において、非シリカDNA結合粒子では、当業者は、BloodPrep(商標)DNA精製溶液(Applied Biosystems)またはDNA IQ(商標)溶解溶液(Promega)に、適切な量のアルコールを加えることができる。非限定的な例として、様々な実施形態において、DNA沈殿緩衝液を作製するために、これらの溶液の1つにイソプロパノールが30%の最終濃度まで加えられる。さらなる非限定的な例として、様々な実施形態において、DNA沈殿緩衝液を作製するために、これらの溶液の1つにエタノールが40〜50%の最終濃度まで加えられる。
【0061】
特定の実施形態において、DNA結合粒子は、本明細書において記載される系においてDNA結合緩衝液内に保存される。特定の実施形態において、DNA結合粒子は、本明細書において記載される系においてDNA結合緩衝液とは別に保存される。特定の実施形態において、DNA結合緩衝液がDNA沈殿緩衝液である場合、DNA結合粒子は個別に保存される。
【0062】
特定の実施形態において、非精子細胞はDNA結合緩衝液内で溶解される。特定の実施形態において、非精子細胞は、DNA結合緩衝液内で熱を加えながら溶解される。特定の実施形態において、DNA結合緩衝液がDNA沈殿緩衝液である場合、非精子細胞はまず、アルコールを含まないDNA結合緩衝液内で溶解される。特定の実施形態において、次に、DNA沈殿緩衝液を作製するために、溶解物にアルコールが加えられる。
【0063】
特定の例示的なDNA洗浄緩衝液
特定の実施形態において、DNA洗浄緩衝液は、ゲノムDNAがDNA洗浄緩衝液に実質的にまったく溶解しないように調製される。特定の実施形態において、DNA洗浄緩衝液は、大きなDNA(例えば、約1kb超)がDNA洗浄緩衝液に実質的にまったく溶解しないように調製される。特定の例示的なDNA洗浄緩衝液は、当技術分野において知られており、通常は少なくとも1つのアルコールを含む。DNA洗浄緩衝液において用い得る特定の例示的なアルコールには、限定はしないが、エタノールおよびイソプロパノールが含まれる。
【0064】
特定の実施形態において、1つのDNA洗浄緩衝液が用いられる場合、それは90%エタノールを含む。特定の実施形態において、DNAが2回洗浄される場合、同一のDNA洗浄緩衝液が両方の洗浄に用いられる。特定の実施形態において、DNAが2回洗浄される場合、2つの異なるDNA洗浄緩衝液が用いられる。特定の実施形態において、2つの異なるDNA洗浄緩衝液が用いられる場合、第2のDNA洗浄緩衝液は、第1のDNA洗浄緩衝液よりも高いアルコール濃度を有する。特定の実施形態において、DNA洗浄緩衝液はGuSCNおよび/またはGuClを含む。特定の実施形態において、DNA洗浄緩衝液は、GuSCNおよびイソプロパノールを含む。特定の実施形態において、DNA洗浄緩衝液は70%エタノールを含む。特定の実施形態において、DNA洗浄緩衝液は90%エタノールを含む。
【0065】
様々な実施形態において、当業者は、選択された適用に従って1つまたは複数のDNA洗浄緩衝液を調製することができる。
【0066】
特定の例示的なDNA分析法
DNAが単離された後、様々な方法を、制限断片長多型(RFLP)分析などのDNA分析、および、限定はしないが短鎖縦列反復(STR)分析を含む、様々なポリメラーゼ連鎖反応(PCR)に基づいた方法に用いることができる。
【0067】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、限定はしないが少量のDNAを含む核酸を増幅するために用いることができる反応を言う。PCRは、標的DNAのさらなるコピーを生じさせるために、変性、1つまたは複数のプライマーとのアニーリング、および1つまたは複数のDNAポリメラーゼでの伸長からなるサイクルを用いる技術である。特定の実施形態において、PCRはDNA配列を10倍超増幅する。特定の例示的なPCR法は、例えば、米国特許第4,683,195号、米国特許第4,965,188号、および米国特許第4,683,202号、ならびに欧州特許第201184号および欧州特許第200362号に記載されている。
【0068】
特定の実施形態において、DNAサンプルは、例えば目的のSTRを含むそれぞれの遺伝子座に特異的なプライマーを用いるPCR増幅に供される。STRの遺伝子座は、それぞれが例えば2から7bpの長さである縦列反復配列からなる。様々な実施形態において、4bp(テトラヌクレオチド)および/または5bpの反復配列を含む遺伝子座が、ヒトの同定に用いられる。4および5bpの反復配列は、ヒトゲノムの全体にわたって見られ、特定の場合において、高度に多型である。テトラヌクレオチド反復のSTRの遺伝子座での対立遺伝子の数は、様々な実施形態において、約4から20である。
【0069】
特定の実施形態において、単離されたDNAが多型STRの検出に用いられる場合、個別のDNA試料から増幅された対立遺伝子を、1つまたは複数のサイズ標準、例えば市販のDNAマーカーおよび/または遺伝子座特異的対立遺伝子ラダーと比較して、それぞれの遺伝子座に存在する対立遺伝子を決定することができる。特定の実施形態において、対立遺伝子ラダーは、特定の遺伝子座に由来する2つ以上の既知の対立遺伝子に相当する、2つ以上の異なる長さのDNAを含む。様々な実施形態において、DNAは、限定はしないが、銀染色、放射性標識、蛍光標識、様々な色素および染料を含む、任意の技術によって、視覚化することができる。特定の実施形態において、視覚化の前に、変性ゲル電気泳動もしくは未変性ゲル電気泳動、または任意の他のサイズ分離法を用いて、DNAを分離する。
【0070】
特定の実施形態において、増幅された対立遺伝子は、DNA配列分析に供される。
【0071】
特定の例示的なDNA増幅および分析の方法は、当技術分野において知られており、例えば、Budowleら(DNA Typing Protocols:Molecular Biology and Forensic Analysis、Eaton Publishing:MA、USA(2000年))に記載されている。
【0072】
特定の例示的な磁気粒子処理装置
特定の実施形態において、差次的抽出系は、磁気粒子処理装置、および複数の区画を含む取り外し可能なカートリッジを含み、ここで、区画の少なくとも1つは、差次的抽出系において用いられる少なくとも1つの試薬を含む。
【0073】
特定の実施形態において、磁気粒子処理装置は、BioRobot EZ1 Workstation(Qiagen)に類似したものである。例えば、EZ1 DNA Handbook、第2版(2004年2月)(Qiagen)を参照されたい。BioRobot EZ1 Workstationは、床面と平行な面を移動し得るステージ、ステージに対して上方および下方に移動し得るピペット、ならびにピペットの方におよびピペットから離れるように移動し得る磁石を含む。BioRobot EZ1 Workstationは、区画間で磁気粒子および液体の両方を移動させることが可能である。特定の実施形態において、BioRobot EZ1 Workstationは、以下のように機能する。複数の液体試薬を含む複数の区画を有する、取り外し可能なカートリッジは、BioRobot EZ1 Workstationのステージ上に置かれている。取り外し可能なカートリッジはまた、磁気粒子を有する少なくとも1つの区画を含む。ステージは、磁気粒子を有する区画を、ピペットの真下の位置に移動させる。ピペットは区画内へ下降し、磁気粒子を含む溶液を吸い上げる。磁石はピペットの方へ移動して、ピペット内部の磁気粒子を保持し、一方で、ピペットは、磁気粒子を残して溶液を吐き出す。ステージは、次に、試薬を有する第2の区画を、磁石によって保持されている磁気粒子を有するピペットの真下の位置に移動させる。ピペットは第2の区画から試薬を吸い上げ、磁石はピペットから離れるように移動し、そしてピペットは、試薬および磁気粒子を第2の区画内に吐き出す。
【0074】
特定の実施形態において、磁気粒子処理装置は、Maxwell 16 Instrument(Promega)に類似したものである。例えば、Maxwell 16 Instrument Operating Manual(2005年9月)(Promega)を参照されたい。Maxwell 16 Instrumentは、床面と平行な面を移動し得るステージ、ステージに対して上方および下方に移動し得るプランジャー、ならびに、プランジャー内部に位置し、プランジャーの端部に対して上方および下方に移動し得る磁石を含む。Maxwell 16 Instrumentは、区画間で磁気粒子を移動させ得るが、液体は移動させ得ない。特定の実施形態において、Maxwell 16 Instrumentは、以下のように機能する。複数の液体試薬を含む複数の区画を有する、取り外し可能なカートリッジは、Maxwell 16 Instrumentのステージ上に置かれている。取り外し可能なカートリッジはまた、磁気粒子を含む少なくとも1つの区画を含む。ステージは、磁気粒子を有する区画を、プランジャーの真下の位置に移動させる。プランジャーピペットは区画内へ下降し、磁石はプランジャー内部を下降し、プランジャーの端部に磁気粒子を引き付ける。プランジャーおよび磁石は次に上昇し、ステージは、試薬を有する第2の区画を、磁石によって保持されている磁気粒子を有するプランジャーの真下の位置に移動させる。プランジャーは第2の区画内に下降し、磁石はプランジャーの端部から離れるように上昇し、磁気粒子を第2の区画内に放出する。
【0075】
特定の実施形態において、磁気粒子処理装置は、床面と平行な面を移動し得るステージ、ステージに対して上方および下方に移動し得るピペット、ならびに、ステージ上に置かれたカートリッジへの磁石の接触を可能にする位置にある磁石を含む。様々な実施形態において、磁石は、カートリッジの真下、またはカートリッジの1つもしくは複数の側面上に位置し得る。特定の実施形態において、磁石は、カートリッジの少なくとも1つの区画に対して磁力を付与および放出するために、カートリッジの方におよびカートリッジから離れるように移動し得る。特定の実施形態において、磁石は静止しており、カートリッジの少なくとも1つの区画に対して磁力を付与および放出するために、電子的にオンおよびオフされ得る。そのような例示的な磁気粒子処理装置は、以下のように機能する。複数の液体試薬を含む複数の区画を有する取り外し可能なカートリッジは、装置のステージ上に置かれている。取り外し可能なカートリッジはまた、磁気粒子を有する少なくとも1つの区画を含む。ステージは、試薬を有する区画を、ピペットの真下の位置に移動させる。ピペットは試薬を吸い上げ、ステージは、磁気粒子を有する区画を、ピペットの真下の位置に移動させる。ピペットは次に、試薬を区画内に吐き出す。磁石は、ピペットから離れた、区画内の1つの位置に磁気粒子を引き付け、ピペットは次に、磁気粒子を残して液体を吸い上げる。このようにして、ピペットは、磁気粒子に試薬をもたらすため、および磁気粒子から試薬を取り除くために用いることができ、一方、磁石は、磁気粒子をピペットの通り道から離れたところに保持するために用いられる。
【0076】
様々な実施形態において、当業者は、本明細書において記載される方法を実施するための装置を設計および/またはプログラムすることができる。特定の実施形態において、このような装置は、上述した装置の1つまたは複数に類似し得る。
【0077】
差次的抽出のための特定の例示的な系および方法
様々な実施形態において、差次的抽出のための系は、複数の区画を含むカートリッジを含み、区画の少なくとも1つは、選択的精子溶解緩衝液を含む。差次的抽出のための特定の例示的な系および方法が、本明細書において記載される。特定の実施形態において、その方法は、区画間で流体を移動させるステップを含む。特定の実施形態において、その方法は、区画間でDNA結合粒子を移動させるステップを含む。特定の実施形態において、その方法は、区画間で流体およびDNA結合粒子を移動させるステップを含む。
【0078】
差次的抽出系の以下の例は、非限定的なものである。例えば、図面に示される、および本明細書において記載される区画の配置は、比喩的なものであり、非限定的なものである。様々な実施形態において、当業者は、本明細書における教示、目的とされる使用、および選択される装置に基づいて、系を設計することができる。様々な実施形態において、このような系は、本明細書において記載される任意の以下の例示的な系よりも多いかまたは少ない区画を含む。様々な実施形態において、このような系は、以下の例示的な系の1つまたは複数において組み合わせて示されている個別の区画内に試薬を分離する。
【0079】
区画間の流体の移動を用いる特定の例示的な系および方法
図1は、特定の実施形態に従った、精子細胞と、例えば上皮細胞である非精子細胞との差次的抽出のための、第1の非限定的な例示的な系を示す。例えば試料が精子細胞と比較して過剰な非精子細胞を含む(例えば、精子細胞よりも非精子細胞が少なくとも10倍多い)場合、図1に示された系が用いられる。図1の系は、非精子細胞を溶解しないが、その代わり、細胞捕捉マトリクス上に細胞が捕捉された後に試料内に存在している残留DNAを回収する。このような残留DNAは、系の中に試料を置く前の細胞の破砕に起因して存在し得る。このような細胞の破砕は、様々な実施形態において、回収の前、回収の最中、保存の最中、輸送の最中、および1つの容器から別の容器への試料の移動の最中に生じ得る。試料中で精子細胞と比較して非精子細胞が過剰であることにより、残留DNAは、精子細胞DNAと比較して過剰な非精子細胞DNAを含む。
【0080】
図1に記載された実施形態において、精子細胞と非精子細胞との混合物を含む試料は、区画1内に置かれる。区画1は、精子細胞および非精子細胞を捕捉する、細胞捕捉マトリクスを含む。区画1の上清を次に、回収管に取り出す(図示はしていない)。元の試料が、精子細胞と比較して、過剰な非精子細胞、例えば上皮細胞を含んでいた(例えば、精子細胞よりも非精子細胞が10倍超多い)場合、試料の結合から得られた上清は、分析に十分な非精子細胞DNAを含んでいる可能性がある。
【0081】
区画2に位置している細胞洗浄緩衝液は、次に、区画1に移される。区画1からの細胞洗浄上清は次に、区画0と示される廃棄物入れに移される。廃棄物入れは、図1に示される系の連続した部分であって良いか、またはそうでなくても良い。特定の実施形態において、図1の区画1から6がカートリッジ内に含まれる場合、廃棄物区画0はカートリッジの一部ではない。特定の実施形態において、カートリッジは、図1の区画0から6を含む。
【0082】
区画1から細胞洗浄上清が取り除かれた後、選択的精子溶解緩衝液は、区画3から区画1に移される。選択的精子溶解緩衝液は、区画1において、細胞捕捉マトリクスに結合した精子細胞を溶解する。精子細胞の溶解の後、溶解物の上清は区画1から区画4に移され、この区画4は、DNA結合粒子と、選択的精子溶解緩衝液と組み合わされた場合にはDNA結合緩衝液を形成する、希釈緩衝液とを有する。DNA結合の後、区画4の上清は、廃棄物区画0に移される。DNA洗浄緩衝液は次に、区画5から区画4に移される。DNA洗浄緩衝液の上清は次に、区画4から廃棄物区画0に移される。
【0083】
特定の実施形態において、第2のDNA洗浄緩衝液は、区画7(図1には示されていない)内に含まれる。特定のこのような実施形態において、第2のDNA洗浄緩衝液は次に、区画4に移される。第2のDNA洗浄緩衝液の上清は次に、区画4から廃棄物区画0に移される。
【0084】
最後に、溶出緩衝液が、区画6から区画4に移される。溶出緩衝液は、DNA結合粒子から溶出上清内に精子細胞DNAを放出する。特定の実施形態において、溶出緩衝液は、結合したDNAの溶出を容易にするために加熱される。特定の実施形態において、溶出上清は次に、区画4から第2の回収管(図1には示されていない)に移される。精子細胞DNAは次に、DNA分析に供され得る。
【0085】
図2は、特定の実施形態に従った、精子細胞と、例えば上皮細胞である非精子細胞との差次的抽出のための、第2の非限定的な例示的な系を示す。図2に示される系において、細胞捕捉マトリクスはまた、非精子細胞DNAのためのDNA結合マトリクスとしても機能する。
【0086】
図2に示される実施形態において、精子細胞と非精子細胞との混合物を含む試料は、区画1内に置かれる。区画1は、精子細胞および非精子細胞を捕捉する、細胞捕捉マトリクスを含む。区画1の上清は次に、区画0と示される廃棄物入れに移される。廃棄物入れは、図2に示される系の連続した部分であって良いか、またはそうでなくても良い。特定の実施形態において、図2の区画1から7がカートリッジ内に含まれる場合、廃棄物区画0はカートリッジの一部ではない。特定の実施形態において、カートリッジは、図2の区画0から7を含む。
【0087】
区画2内に位置する細胞洗浄緩衝液は、次に、区画1に移される。区画1からの細胞洗浄上清は次に、区画0と示される廃棄物入れに移される。区画1から細胞洗浄上清が取り除かれた後、選択的精子溶解緩衝液は、区画3から区画1に移される。選択的精子溶解緩衝液は、区画1において、細胞捕捉マトリクスにより捕捉された精子細胞を溶解する。精子細胞の溶解の後、溶解物の上清は区画1から区画5に移され、この区画5は、DNA結合粒子と、選択的精子溶解緩衝液と組み合わされた場合にはDNA結合緩衝液を形成する、希釈緩衝液とを有する。DNA結合緩衝液は次に、区画4から区画1に移され、この区画1は今や、細胞捕捉マトリクスにより捕捉された非精子細胞を含む。DNA結合緩衝液は、例えば上皮細胞である非精子細胞を溶解するために、細胞捕捉マトリクスと共に、約70℃まで加熱しながら(加熱要素は図2には示されていない)5分間インキュベートされる。加熱要素は、特定の実施形態において、流体処理装置または磁気粒子処理装置の一部である。非精子細胞DNAは、DNA結合緩衝液内において、細胞捕捉マトリクスに結合する。
【0088】
区画1および5におけるDNAの結合の後、区画1および5の上清は、廃棄物区画0に移される。DNA洗浄緩衝液は次に、区画6から区画1および5のそれぞれに移される。DNA洗浄緩衝液の上清は次に、区画1および5から廃棄物区画0に移される。
【0089】
特定の実施形態において、第2のDNA洗浄緩衝液は、区画8(図2には示されていない)に含まれる。特定のこのような実施形態において、第2のDNA洗浄緩衝液は次に、区画1および5に移される。第2のDNA洗浄緩衝液の上清は次に、区画1および5から廃棄物区画0に移される。
【0090】
最後に、溶出緩衝液が、区画7から区画1および5のそれぞれに移される。溶出緩衝液は、区画5においてDNA結合粒子から溶出上清内に精子細胞DNAを放出し、区画1においてDNA結合粒子から溶出上清内に非精子細胞DNAを放出する。特定の実施形態において、溶出緩衝液は、結合したDNAの溶出を容易にするために加熱される。特定の実施形態において、溶出上清は次に、区画5から回収管(図3には示されていない)に移される。精子細胞DNAは次に、DNA分析に供され得る。特定の実施形態において、溶出上清は次に、区画1から第2の回収管(図3には示されていない)に移される。非精子細胞DNAは次に、DNA分析に供され得る。
【0091】
図3は、特定の実施形態に従った、精子細胞と、例えば上皮細胞である非精子細胞との差次的抽出のための、第3の非限定的な例示的な系を示す。図3に示される系は、一方は精子細胞DNAを結合するために用いられ、もう一方は非精子細胞DNAを結合するために用いられる、DNA結合粒子を含む2つの個別の区画を含む。
【0092】
図3に示される実施形態において、精子細胞と非精子細胞との混合物を含む試料は、区画1内に置かれる。区画1は、精子細胞および非精子細胞を捕捉する、細胞捕捉マトリクスを含む。区画1の上清は次に、区画0と示される廃棄物入れに移される。廃棄物入れは、図3に示される系の連続した部分であって良いか、またはそうでなくても良い。特定の実施形態において、図3の区画1から7がカートリッジ内に含まれる場合、廃棄物区画0はカートリッジの一部ではない。特定の実施形態において、カートリッジは、図3の区画0から7を含む。
【0093】
区画2に位置している細胞洗浄緩衝液は、次に、区画1に移される。区画1からの細胞洗浄上清は次に、区画0と示される廃棄物入れに移される。区画1から細胞洗浄上清が取り除かれた後、選択的精子溶解緩衝液は、区画3から区画1に移される。選択的精子溶解緩衝液は、区画1において、細胞捕捉マトリクスにより捕捉された精子細胞を溶解する。精子細胞の溶解の後、溶解物の上清は区画1から区画5に移され、この区画5は、DNA結合粒子と、選択的精子溶解緩衝液と組み合わされた場合にはDNA結合緩衝液を形成する、希釈緩衝液とを有する。DNA結合緩衝液は次に、区画4から区画1に移され、この区画1は今や、細胞捕捉マトリクスにより捕捉された非精子細胞を含む。特定の実施形態において、区画4からのDNA結合緩衝液の移動の間に、DNA結合粒子は、DNA結合粒子がDNA結合緩衝液と共に除去されることを防ぐために、流体処理装置上の磁石により区画4において保持される。DNA結合緩衝液は、例えば上皮細胞である非精子細胞を溶解するために、細胞捕捉マトリクスと共に、約70℃まで加熱しながら(加熱要素は図3には示されていない)5分間インキュベートされる。加熱要素は、特定の実施形態において、流体処理装置または粒子処理装置の一部である。DNA結合緩衝液/溶解物の上清は次に、区画1から、DNA結合粒子を含む区画4に戻される。
【0094】
区画4および5におけるDNAの結合の後、区画4および5の上清は、廃棄物区画0に移される。DNA洗浄緩衝液は次に、区画6から区画4および5のそれぞれに移される。DNA洗浄緩衝液の上清は次に、区画4および5から廃棄物区画0に移される。
【0095】
特定の実施形態において、第2のDNA洗浄緩衝液は、区画8(図3には示されていない)に含まれる。特定のこのような実施形態において、第2のDNA洗浄緩衝液は次に、区画4および5に移される。第2のDNA洗浄緩衝液の上清は次に、区画4および5から廃棄物区画0に移される。
【0096】
最後に、溶出緩衝液が、区画7から区画4および5のそれぞれに移される。溶出緩衝液は、区画5においてDNA結合粒子から溶出上清内に精子細胞DNAを放出し、区画4においてDNA結合粒子から溶出上清内に非精子細胞DNAを放出する。特定の実施形態において、溶出緩衝液は、結合したDNAの溶出を容易にするために加熱される。特定の実施形態において、溶出上清は次に、区画5から回収管(図3には示されていない)に移され得る。精子細胞DNAは次に、DNA分析に供され得る。特定の実施形態において、溶出上清は次に、区画4から第2の回収管(図3には示されていない)に移され得る。非精子細胞DNAは次に、DNA分析に供され得る。
【0097】
特定の実施形態において、希釈緩衝液および/またはDNA結合緩衝液は、DNA結合反応が実施されるまで、系内においてDNA結合粒子から分離したまま維持される。特定の実施形態において、希釈緩衝液またはDNA結合緩衝液がアルコールを含む場合、このような構成要素を分離したまま維持することが望ましい場合がある。当業者であれば、DNA結合反応が実施されるまで、DNA結合粒子を希釈緩衝液および/またはDNA結合緩衝液から分離したまま維持するために、図1から3の系のいずれかを修飾することができる。
【0098】
特定の実施形態において、細胞の捕捉を容易にするために、磁力が細胞捕捉マトリクスに加えられる。磁力は、特定の実施形態において、差次的抽出系の装置部分によって加えられる。
【0099】
区画間でのDNA結合粒子の移動を用いる特定の例示的な系および方法
図4は、特定の実施形態に従った、精子細胞と、例えば上皮細胞である非精子細胞との差次的抽出のための、第4の非限定的な例示的な系を示す。図4に示される系は、区画間で液体を移動させることも可能な磁気粒子処理装置のために設計されたものである。例えば、BioRobot EZ1 Workstation(Qiagen)を参照されたい。図4に示される系は、区画3から6において精子細胞DNAを処理し、区画7から9において非精子細胞DNAを処理する。細胞捕捉マトリクスはまた、図4に示される例示的な系における非精子細胞DNAのためのDNA結合マトリクスとしても機能する。その系における細胞捕捉マトリクスは磁性である。
【0100】
図4に示される実施形態において、精子細胞と非精子細胞との混合物を含む試料は、区画1内に置かれる。区画1は、精子細胞および非精子細胞を捕捉する、細胞捕捉マトリクスを含む。細胞捕捉マトリクスは、細胞洗浄緩衝液を有する区画2に移される。細胞捕捉マトリクスは次に、選択的精子溶解緩衝液を有する区画3に移される。選択的精子溶解緩衝液は、細胞捕捉マトリクスにより捕捉された精子細胞を溶解する。精子細胞の溶解の後、依然として非精子細胞を捕捉している細胞捕捉マトリクスは、区画7内のDNA結合緩衝液に移される。区画7内のDNA結合緩衝液は、例えば上皮細胞である非精子細胞を溶解するために、細胞捕捉マトリクスと共に、約70℃まで加熱しながら(加熱要素は図4には示されていない)5分間インキュベートされる。加熱要素は、特定の実施形態において、流体処理装置または粒子処理装置の一部である。非精子細胞DNAは、DNA結合緩衝液内において、細胞捕捉マトリクスに結合する。結合した非精子細胞DNAを有する細胞捕捉マトリクスは、次に、細胞洗浄緩衝液を有する区画8に移される。最後に、結合した非精子細胞DNAを有する細胞捕捉マトリクスは、溶出緩衝液を有する区画9に移される。特定の実施形態において、溶出緩衝液は、結合したDNAの溶出を容易にするために加熱される。特定の実施形態において、溶出上清は次に、区画9から回収管(図4には示されていない)に移され得る。非精子細胞DNAは次に、DNA分析に供され得る。
【0101】
区画3における選択的精子溶解緩衝液の上清は、DNA結合粒子と、選択的精子溶解緩衝液と組み合わされた場合にはDNA結合緩衝液を形成する希釈緩衝液とを有する、区画4に移される。結合した精子細胞DNAを有するDNA結合粒子は、次に、DNA洗浄緩衝液を有する区画5に移される。最後に、結合した精子細胞DNAを有するDNA結合粒子は、溶出緩衝液を有する区画6に移される。特定の実施形態において、溶出緩衝液は、結合したDNAの溶出を容易にするために加熱される。特定の実施形態において、溶出上清は次に、区画6から第2の回収管(図4には示されていない)に移され得る。精子細胞DNAは次に、DNA分析に供され得る。
【0102】
特定の実施形態において、第2のDNA洗浄緩衝液は、区画10および区画11(図4には示されていない)に含まれる。特定のこのような実施形態において、結合した非精子細胞DNAを有する細胞捕捉マトリクスは、溶出区画に移される前に、第2のDNA洗浄緩衝液を有する区画10に移される。特定のこのような実施形態において、結合した精子細胞DNAを有するDNA結合マトリクスは、溶出区画に移される前に、第2のDNA洗浄緩衝液を有する区画11に移される。
【0103】
図5は、特定の実施形態に従った、精子細胞と、例えば上皮細胞である非精子細胞との差次的抽出のための、第5の非限定的な例示的な系を示す。図5に示される系は、区画間で液体を移動させることも不可能な磁気粒子処理装置のために設計されたものである。例えば、Maxwell 16 Instrument(Promega)を参照されたい。図5に示される系は、区画3から5において精子細胞DNAを処理し、区画6から8において非精子細胞DNAを処理する。細胞捕捉マトリクスはまた、図5に示される例示的な系における非精子細胞DNAのためのDNA結合マトリクスとしても機能する。その系における細胞捕捉マトリクスは磁性である。
【0104】
図5に示される実施形態において、精子細胞と非精子細胞との混合物を含む試料は、区画1内に置かれる。区画1は、精子細胞および非精子細胞を捕捉する、細胞捕捉マトリクスを含む。細胞捕捉マトリクスは、細胞洗浄緩衝液を有する区画2に移される。細胞捕捉マトリクスは次に、区画3に移される。図5における区画3は、互いに分割された2つの区域を含む。区域間の分割部は、例えば物理的な力により、磁気粒子処理装置によって破壊可能である。区画3の上部は、選択的精子溶解緩衝液を含む。上部から分割されている、区画3の下部は、DNA結合粒子および希釈緩衝液を有する。細胞捕捉マトリクスは、最初に上部に移される。選択的精子溶解緩衝液は、細胞捕捉マトリクスに捕捉されている精子細胞を溶解する。精子細胞の溶解の後、依然として非精子細胞を捕捉している細胞捕捉マトリクスは、区画6内のDNA結合緩衝液に移される。DNA結合緩衝液は、例えば上皮細胞である非精子細胞を溶解するために、細胞捕捉マトリクスと共に、約70℃まで加熱しながら(加熱要素は図5には示されていない)5分間インキュベートされる。加熱要素は、特定の実施形態において、流体処理装置または粒子処理装置の一部である。非精子細胞DNAは、DNA結合緩衝液内において、細胞捕捉マトリクスに結合する。結合した非精子細胞DNAを有する細胞捕捉マトリクスは、次に、DNA洗浄緩衝液を有する区画7に移される。最後に、結合した非精子細胞DNAを有する細胞捕捉マトリクスは、溶出緩衝液を有する区画8に移される。特定の実施形態において、溶出緩衝液は、結合したDNAの溶出を容易にするために加熱される。特定の実施形態において、溶出上清は次に、区画8から回収管(図5には示されていない)に移され得る。非精子細胞DNAは次に、DNA分析に供され得る。
【0105】
細胞捕捉マトリクスが取り除かれた後、装置は、区画3の上部と区画3の下部との間の破壊可能な分割部を破壊して、DNA結合粒子を有する選択的精子溶解緩衝液の上清と、選択的精子溶解緩衝液と組み合わされた場合にはDNA結合緩衝液を形成する希釈緩衝液とを混合する。結合した精子細胞DNAを有するDNA結合粒子は、次に、DNA洗浄緩衝液を有する区画4に移される。最後に、結合した精子細胞DNAを有するDNA結合粒子は、溶出緩衝液を有する区画5に移される。特定の実施形態において、溶出緩衝液は、結合したDNAの溶出を容易にするために加熱される。特定の実施形態において、溶出上清は次に、区画5から第2の回収管(図5には示されていない)に移される。精子細胞DNAは次に、DNA分析に供され得る。
【0106】
特定の実施形態において、第2のDNA洗浄緩衝液は、区画9および区画10(図5には示されていない)に含まれる。特定のこのような実施形態において、結合した非精子細胞DNAを有する細胞捕捉マトリクスは、溶出区画に移される前に、第2のDNA洗浄緩衝液を有する区画9に移される。特定のこのような実施形態において、結合した精子細胞DNAを有するDNA結合マトリクスは、溶出区画に移される前に、第2のDNA洗浄緩衝液を有する区画10に移される。
【0107】
図6は、特定の実施形態に従った、精子細胞DNAを結合するために用いられるDNA結合粒子が希釈緩衝液とは別の区画(区画4)内に維持されることを除いて、図5の系と類似している系を示す。図6に示される実施形態において、区画3は、図5の系の区画3に類似した、破壊可能な封印により分離された2つの個別の区域を有する。しかし、図6に示される実施形態において、下方の区画は希釈緩衝液のみを有しており、したがって、装置が封印を破壊する場合、選択的精子溶解緩衝液および希釈緩衝液はDNA結合緩衝液を形成する。装置は次に、DNA結合粒子を区画4から区画3に移動させ、精子細胞DNAを結合させる。
【0108】
特定の実施形態において、希釈緩衝液またはDNA結合緩衝液は、DNA結合反応が実施されるまで、系内においてDNA結合粒子から分離したまま維持される。特定の実施形態において、希釈緩衝液またはDNA結合緩衝液がアルコールを含む場合、このような構成要素を分離したまま維持することが望ましい場合がある。様々な実施形態において、当業者であれば、DNA結合反応が実施されるまで、DNA結合粒子を希釈緩衝液および/またはDNA結合緩衝液から分離したまま維持するために、図3から6の系のいずれかを修飾することができる。
【0109】
特定の実施形態において、系は1つまたは複数の空の区画を含む。1つまたは複数の空の区画は、特定の実施形態において、例えば洗浄後および溶出前に、DNA結合粒子を乾燥させるための場所として用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の区画を含む、精子細胞の差次的抽出のための系であって、少なくとも1つの区画が選択的精子溶解緩衝液を含む系。
【請求項2】
細胞捕捉マトリクスを含む第1の区画と、選択的精子溶解緩衝液を含む第2の区画とを含む、請求項1に記載の系。
【請求項3】
複数のDNA結合粒子を含む第3の区画をさらに含む、請求項2に記載の系。
【請求項4】
溶出緩衝液を含む第4の区画をさらに含む、請求項3に記載の系。
【請求項5】
細胞捕捉マトリクスを含む第1の区画と、
細胞洗浄緩衝液を含む第2の区画と、
選択的精子溶解緩衝液を含む第3の区画と、
複数のDNA結合粒子を含む第4の区画と、
DNA洗浄緩衝液を含む第5の区画と、
溶出緩衝液を含む第6の区画と
を含む、請求項1に記載の系。
【請求項6】
前記第1、第2、第3、第4、第5、および第6の区画が、取り外し可能なカートリッジの一部である、請求項5に記載の系。
【請求項7】
DNA結合緩衝液を含む第7の区画をさらに含む、請求項5に記載の系。
【請求項8】
前記第7の区画が、第2の複数のDNA結合粒子をさらに含む、請求項7に記載の系。
【請求項9】
第2の複数のDNA結合粒子を含む第8の区画をさらに含む、請求項7に記載の系。
【請求項10】
精子細胞および非精子細胞を含む生物学的試料における、精子細胞の差次的抽出の方法であって、
(a)前記生物学的試料を、系の第1の区画内に置くステップであって、ここで該第1の区画が細胞捕捉マトリクスを含む、ステップと、
(b)前記細胞捕捉マトリクスで前記精子細胞および前記非精子細胞を捕捉するステップと、
(c)前記細胞捕捉マトリクスと前記捕捉された精子細胞および非精子細胞とを、選択的精子溶解緩衝液内でインキュベートして、精子細胞溶解物を形成するステップと、
(d)前記精子細胞溶解物由来の精子細胞DNAを複数のDNA結合粒子に結合させるステップと、
(e)前記DNA結合粒子から前記精子細胞DNAを溶出するステップと
を含む方法。
【請求項11】
前記細胞捕捉マトリクスで前記精子細胞および前記非精子細胞を捕捉する前記ステップが、前記細胞捕捉マトリクスに磁力を加えるステップを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記細胞捕捉マトリクスと前記捕捉された精子細胞および非精子細胞とを、選択的精子溶解緩衝液内でインキュベートする前記ステップを、前記系の前記第1の区画で行う、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記精子細胞DNAを複数のDNA結合粒子に結合させる前記ステップを、前記系の第2の区画で行う、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記DNA結合粒子から前記精子細胞DNAを溶出する前記ステップを、前記系の前記第2の区画で行う、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記精子細胞溶解物が前記第1の区画から前記第2の区画へ運ばれる、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記細胞捕捉マトリクスと前記捕捉された精子細胞および非精子細胞とを、選択的精子溶解緩衝液内でインキュベートする前記ステップを、前記系の第2の区画で行う、請求項10に記載の方法。
【請求項17】
前記精子細胞DNAを複数のDNA結合粒子に結合させる前記ステップを、前記系の第2の区画で行う、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記DNA結合粒子から前記精子細胞DNAを溶出する前記ステップを、前記系の第3の区画で行う、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記細胞捕捉マトリクスならびに前記捕捉された精子細胞および非精子細胞が、磁力を用いて前記第1の区画から前記第2の区画へ運ばれる、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記非精子細胞が、前記選択的精子溶解緩衝液内での前記細胞捕捉マトリクスのインキュベーションの後、前記細胞捕捉マトリクス上に捕捉されたまま残る、請求項10に記載の方法。
【請求項21】
前記非精子細胞が溶解され、前記非精子細胞DNAが前記細胞捕捉マトリクスに結合する、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記非精子細胞が溶解され、前記非精子細胞DNAが、第2の複数のDNA結合粒子に結合する、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
多区画容器を含む、精子細胞の差次的抽出のためのキットであって、少なくとも1つの区画が選択的精子溶解緩衝液を含むキット。
【請求項24】
前記多区画容器の少なくとも1つの区画が、細胞捕捉マトリクスを含む、請求項23に記載の精子細胞の差次的抽出のためのキット。
【請求項25】
前記多区画容器の少なくとも1つの区画が、複数のDNA結合粒子を含む、請求項23に記載の精子細胞の差次的抽出のためのキット。
【請求項26】
前記多区画容器の少なくとも1つの区画が、溶出緩衝液を含む、請求項23に記載の精子細胞の差次的抽出のためのキット。
【請求項27】
前記多区画容器が、
細胞捕捉マトリクスを含む第1の区画と、
細胞洗浄緩衝液を含む第2の区画と、
選択的精子溶解緩衝液を含む第3の区画と、
複数のDNA結合粒子を含む第4の区画と、
DNA洗浄緩衝液を含む第5の区画と、
溶出緩衝液を含む第6の区画と
を含む、請求項23に記載の精子細胞の差次的抽出のためのキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2010−527442(P2010−527442A)
【公表日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−507701(P2010−507701)
【出願日】平成20年5月9日(2008.5.9)
【国際出願番号】PCT/US2008/063273
【国際公開番号】WO2008/141203
【国際公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【出願人】(509130413)アプライド バイオシステムズ, エルエルシー (48)
【Fターム(参考)】