巻き取りロールの非定常熱伝導解析プログラム、及び巻き取りロールの非定常内部応力解析プログラム
【課題】実際の挙動に近いシミュレーションが可能な巻き取りロールの非定常熱伝導解析プログラムの提供。
【解決手段】巻き取りロール4内に巻き込まれた空気の影響を考慮した非定常熱伝導解析プログラムは、コンピュータに巻き取りロールの半径方向に対するウェブ1と空気層Airを合成した等価層について熱伝導率、密度、比熱の算出手順と、算出された等価層の熱伝導率、密度、比熱を非定常熱伝導の基礎方程式(1)に用い、巻き取りロール内の温度変化量の算出手順を実行する。
【解決手段】巻き取りロール4内に巻き込まれた空気の影響を考慮した非定常熱伝導解析プログラムは、コンピュータに巻き取りロールの半径方向に対するウェブ1と空気層Airを合成した等価層について熱伝導率、密度、比熱の算出手順と、算出された等価層の熱伝導率、密度、比熱を非定常熱伝導の基礎方程式(1)に用い、巻き取りロール内の温度変化量の算出手順を実行する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻き取りロールの非定常熱伝導解析プログラム、及び巻き取りロールの非定常内部応力解析プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
紙やプラスチックフィルム、金属薄膜に代表されるウェブの加工は、複数の工程で行われることが一般的である。そして、加工後のウェブは、保管や搬送の容易性からロール状に巻き取られることが多い。
【0003】
ところで、保管・輸送中の環境温度は季節や地域、熱処理などによって巻き取り時とは異なることが多い。例えばトラックや船による輸送において、夏場であればその環境温度は巻き取り時に比べて数十度も高くなることがある。
このような変化は、ロール温度に作用して巻き取りロールの内部応力を経時で変動させ、巻き取り直後には見られなかったブロッキングやシワなどに代表される巻き取り不良を発生させる場合がある。また、製膜プロセスにおいてエージングなどの熱処理を施すときにも同様の問題が生じ得る。
【0004】
このような問題に対して、巻き取りロールの内部応力状態を理論的に予測することが重要となる。内部応力解析についてはこれまでにいくつかの理論予測モデルが報告されている。
その中でもHakielのモデルが今日の巻き取り理論の基本を成しており、これを修正することで様々な影響を考慮したモデルが提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
ロール温度の変化にともなう熱応力について、Willetらは、熱弾性理論を適用してロール温度が均一に変化すると仮定したモデルを報告しており(例えば、非特許文献2参照)、その妥当性をQuallsらが実験的に検証している(例えば、非特許文献3参照)。
ただし、この温度変化に関する仮定は、ロール温度が環境温度に一致した定常状態あるいはロール半径に対して一様に変化する場合には適用できるが、ロール内に温度分布が生じる場合には成立しない。
これに対し、Leiらはロール温度の不均一な変化を仮定したモデルを提示している(例えば、非特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Hakiel,Z.,“Nonlinear Model for Wound Roll Stress”,TAPPI Journal, Vol. 70, No. 5 (1987),p. 113-117
【非特許文献2】Willett, M.S. and Poesch, W.L., “Determining the Stress Distributions in Wound Reels of Magnetic Tape Using a Nonlinear Finite-Difference Approach”, ASME Journal of Applied Mechanics, Vol. 55, (1988), p. 365-371
【非特許文献3】Qualls, W.R. and Good, J.K., “Thermal Analysis of a Round Roll”, ASME Journal of Applied Mechanics, Vol. 64, (1997), p. 871-876
【非特許文献4】Lei, H., Cole, K.A. and Weinstein, S.J., “Modeling Air Entrainment and Temperature Effects in Winding”, ASME Journal of Applied Mechanics, Vol. 70, (2003), pp. 902-914
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献4に開示された論文においては、非定常状態における内部応力の数値解析結果は示されておらず、単にモデルの提案にとどまっている。
一方、巻き取りロール内のウェブ間には巻き取り中の巻き込み空気によって空気層が形成され、その結果熱伝導状態が変化して内部応力に影響を及ぼすと考えられるが、これを考慮した理論モデルは見受けられない。
【0007】
本発明の目的は、空気を巻き込んだ巻き取りロールの熱伝導解析、内部応力解析を行うにあたり、実際の巻き取りロールの挙動に近いシミュレーションを行うことのできる巻き取りロールの非定常熱伝導解析プログラム、及び巻き取りロールの非定常内部応力解析プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、巻き取りロール内に巻き込まれた空気の影響を考慮した巻き取りロールの非定常熱伝導解析をコンピュータに実行させる巻き取りロールの非定常熱伝導解析プログラムであって、
前記コンピュータに、
前記巻き取りロール内のウェブの見掛けの接触面積Aaに対する真実接触面積Aの比A/Aaを、下記式(1)を用いて算出する手順と、
求められたA/Aaに基づいて、下記式(2)を用いて各ウェブ間の空気層の熱伝導率kal(W/(m・K))を算出する手順と、
求められた各ウェブ間の空気層の熱伝導率kal(W/(m・K))に基づいて、下記式(3)を用いて半径方向に対するウェブと空気層を合成した等価層の熱伝導率keq(W/(m・K))を算出する手順と、
下記式(4)を用いて前記等価層の密度ρeq(kg/m3)を算出する手順と、
下記式(5)を用いて前記等価層の比熱ceq(J/(kg・K))を算出する手順と、
算出された前記等価層の熱伝導率keq、密度ρeq、比熱ceqを、(6)で与えられる非定常熱伝導の基礎方程式におけるウェブの物性値に置き換え、前記巻き取りロール内の各層のウェブの温度を算出する手順と、
を実行させることを特徴とする。
【0009】
【数1】
【0010】
【数2】
【0011】
【数3】
【0012】
【数4】
【0013】
【数5】
【0014】
【数6】
【0015】
本発明は、前述した巻き取りロールの非定常熱伝導解析プログラムの解析結果に基づいて、前記巻き取りロール内に巻き込まれた空気の影響を考慮した巻き取りロールの非定常内部応力解析をコンピュータに実行させる巻き取りロールの非定常内部応力解析プログラムであって、
前記コンピュータに、
前述した巻き取りロールの非定常熱伝導解析プログラムの実行結果として得られる前記等価層の半径方向位置に応じた温度変化量ΔTfと、
前記巻き取りロールのウェブの最内層における境界条件式(7)と、
前記巻き取りロールの巻き取り中のウェブの最外層における境界条件式(8)と、
前記巻き取りロールの巻き取り完了後のウェブの最外層における境界条件式(9)とを、半径方向の応力増分に関する基礎方程式(10)に用いることにより、
前記巻き取りロールの最内層のウェブから第j番目の層に生じる式(11)で与えられる半径方向応力σr,jを求めることを特徴とする。
【0016】
【数7】
【0017】
【数8】
【0018】
【数9】
【0019】
【数10】
【0020】
【数11】
【0021】
本発明は、前述した巻き取りロールの非定常熱伝導解析プログラムの解析結果に基づいて、前記巻き取りロール内に巻き込まれた空気によるロール剛性の変化を考慮した巻き取りロールの非定常内部応力解析をコンピュータに実行させる巻き取りロールの非定常内部応力解析プログラムであって、
前記コンピュータに、
前述した巻き取りロールの非定常熱伝導解析プログラムの実行結果として得られる前記等価層の半径方向位置に応じた温度変化量ΔTfと、
ウェブと空気層を合成した等価層の半径方向のヤング率Ereqを、下記式(12)に基づいて算出する手順(空気層の半径方向ヤング率Eralは、下記式(13)で算出される)と、
前記等価層の円周方向のヤング率Eθeqを、下記式(14)に基づいて算出する手順と、
前記等価層の半径方向ヤング率Ereqと、
前記等価層の円周方向ヤング率Eθeqと、
前記等価層の最内層における境界条件式(15)と、
前記巻き取りロールの巻き取り中の最外層における境界条件式(16)と、
前記巻き取りロールの巻き取り完了後の最外層における境界条件式(17)とを、半径方向の応力増分に関する基礎方程式(18)に用いることにより、
前記巻き取りロールの最内層から第j番目の層に生じる式(19)で与えられる半径方向応力σr,jを求めることを特徴とする。
【0022】
【数12】
【0023】
【数13】
【0024】
【数14】
【0025】
【数15】
【0026】
【数16】
【0027】
【数17】
【0028】
【数18】
【0029】
【数19】
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、巻き取りロール内に巻き込まれた空気をウェブと合わせた等価層という概念で考慮しているため、巻き取りロール内の非定常熱伝導解析、非定常内部応力解析を高精度に行うことができる。従って、ウェブの巻き取り条件を設定する際、これらの解析プログラムを用いてシミュレーションを行うことにより、巻き取りロール内の実際の内部応力の発生状態に近い状態でシミュレーションを行うことができるため、ウェブの物性、巻き取りロールの保管・輸送等の環境条件に応じた巻き取り条件を設定することができ、保管・輸送中に巻き取りロールにブロッキングやシワが発生することを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】ニップローラがない場合のウェブの中心駆動巻き取りの構造を表す概念図。
【図2】ニップローラがある場合のウェブの中心駆動巻き取りの構造を表す概念図。
【図3】巻き込み空気によるウェブ間の分散接触状態を表す概念図とこれをモデル化した模式図。
【図4】巻き込み空気によるウェブ間の非接触状態を表す概念図とこれをモデル化した模式図。
【図5】検証実験に用いた試験装置の構造を表す模式図。
【図6】ウェブの半径方向の歪みと応力の相関を表すグラフ。
【図7】巻き取りロールの半径方向位置に応じた温度変化を予測値と測定値で比較したグラフ。
【図8】巻き取りロールの時間経過に応じた温度変化を予測値と測定値で比較したグラフ。
【図9】巻き取りロールの半径方向位置に応じた半径方向応力を予測値と測定値で比較したグラフ。
【図10】巻き取りロールの時間経過に応じた半径方向応力を予測値と測定値で比較したグラフ。
【図11】空気層厚さの変化に応じた等価層の熱伝導率の変化を表すグラフ。
【図12】空気層厚さの変化に応じた等価層の密度の変化を表すグラフ。
【図13】空気層厚さの変化に応じた等価層の比熱の変化を表すグラフ。
【図14】巻き取りロールの半径方向位置に応じた円周方向の応力を表すグラフ。
【図15】巻き取りロールの半径方向位置に応じた温度変化を巻き込み空気を考慮した場合と、無視した場合を比較したグラフ(条件A)。
【図16】巻き取りロールの半径方向位置に応じた温度変化を巻き込み空気を考慮した場合と、無視した場合を比較したグラフ(条件B)。
【図17】巻き取りロールの半径方向位置に応じた半径方向応力の変化を巻き込み空気を考慮した場合と、無視した場合を比較したグラフ(条件A)。
【図18】巻き取りロールの半径方向位置に応じた半径方向応力の変化を巻き込み空気を考慮した場合と、無視した場合を比較したグラフ(条件B)。
【図19】巻き取りロールの半径方向位置に応じた円周方向応力の変化を巻き込み空気を考慮した場合と、無視した場合を比較したグラフ(条件A)。
【図20】巻き取りロールの半径方向位置に応じた円周方向応力の変化を巻き込み空気を考慮した場合と、無視した場合を比較したグラフ(条件B)。
【図21】巻き取りロールの空気層の厚さ変化に応じた等価層の熱伝導率の変化を表すグラフ。
【図22】非定常熱伝導解析プログラムの処理手順を表すフローチャート。
【図23】非定常内部応力解析プログラムの処理手順を表すフローチャート。
【図24】非定常内部応力解析プログラムの処理手順を表すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
[1]巻き込み空気の影響を考慮した非定常熱伝導解析
基本的な巻き取り方式であるウェブの中心駆動巻き取りにおいて、図1にはニップローラがない場合の巻き取り概念図が示され、図2にはニップローラ3がある場合の概念図が示されている。
ウェブ1は、図1の場合では巻き取り張力Twが与えられた状態で巻芯2に巻き取られる。一方、ニップローラ3がある図2の場合では、ウェブ1は、巻き取り張力Twに加え、ニップローラ3の押し付け荷重Lが与えられた状態で巻芯2に巻き取られる。
【0033】
ウェブ1の最外層と、既に巻き取られた部分の間に周辺の空気Airが巻き込まれ、その結果としてウェブ1間に空気層が形成される。
このような空気層を有する巻き取りロール4内の熱伝導は、ウェブ1が巻き取られた部分を均質な材料からなるロール構造体とみなした場合とは異なったものとなる。
ここで、ニップローラ3は巻き込み空気量を制限し、後述する見かけの巻き取りロール4の剛性を調整する目的で一般的に使用されている。
巻き取りロール4内において、発熱及び円周方向と軸方向に対する温度変化がないとした熱伝導状態を仮定する。
このような場合、非定常熱伝導の基礎方程式は、巻き取りロール4の半径方向に関する式(20)で表される。
【0034】
【数20】
【0035】
巻き取りロール4と周辺空気の接触面において、対流伝熱による熱移動が支配的であると仮定すると、巻き取りロール4の最外層面における境界条件は式(21)で与えられる。
【0036】
【数21】
【0037】
一方、巻き取りロール4の巻芯2の内側面における境界条件は式(22)で与えられる。
【0038】
【数22】
【0039】
また、巻芯2とウェブ1の接触面において巻芯2側とウェブ1側の熱流束及び温度がそれぞれ等しいとすると、この接触面における境界条件は、式(23)及び式(24)のように与えられる。
【0040】
【数23】
【0041】
【数24】
【0042】
一方、巻き取りロール4内の空気層厚さは次のように見積もることができる。ニップローラ3がない場合、最外層に形成される初期空気層厚さhal0(m)は、巻き取られるウェブ1と既に巻き取った部分の関係にフォイル軸受モデルを適用して導出した式(25)から求めることができる(Hashimoto, H., “Air Film Thickness Estimation in Web Handling Process”, Trans. ASME. Journal of Tribology, Vol. 124 (1999), p. 50-55)。
【0043】
【数25】
【0044】
ここで、λはウェブ1の幅に関する無次元パラメータであり、式(26)のように定義される。
【0045】
【数26】
【0046】
また、図2のように、ニップローラ3がある場合では、巻き取りロール4とニップローラ3間に対して弾性流体潤滑理論を適用することで評価することができる。本実施形態では式(27)に示すChangの結果を利用する(Chang, Y.B., Chambers, F.W. and Shelton, J.J., “Elastohydrodynamic Lubrication of Air Lubricated Rollers”, ASME Journal of Tribology, Vol. 118, (1996), p. 623-628)。
【0047】
【数27】
【0048】
ここで、巻き取りロール4とニップローラ3の等価半径rneqは式(28)で、巻き取りロール4とニップローラ3の等価ヤング率Eneqは式(29)で与えられる。
【0049】
【数28】
【0050】
【数29】
【0051】
巻き取りロール4内における空気層は巻き取りの進行に伴い、増大する半径方向応力σrによって圧縮される。これにより、空気層厚さはhal0からhalに減少する。巻き込まれた空気が巻き取りロール4外に流出しないと仮定し、最外層に巻かれたときの状態を基準としてボイルの法則を適用すると式(30)の関係が得られる。
【0052】
【数30】
【0053】
式(30)から、巻き取り中及び巻き取り完了後の巻き取りロール4内における空気層厚さhalは、式(31)のように表される。
【0054】
【数31】
【0055】
尚、巻き取り完了後に熱応力が生じて半径方向応力が変化した場合の空気層厚さは、その時の半径方向応力を式(31)に代入して得られる。
ここで、ウェブ1の表面には粗さが存在するため、巻き取りロール4内におけるウェブ1同士の接触面は理想的な面接触にはならず、図3(A)、図4(A)に示すように実際には空気層厚さによって分散接触又は非接触となる。ウェブ1間に介在する空気の熱伝導率は、一般にウェブ1に比べて低いことから、空気層内及び粗さ部分の温度勾配は隣接するウェブ1内とは異なってくる。
【0056】
このような熱伝導状態のモデル化に際して、図3(B)、図4(B)に示すようにウェブ1と空気層をいずれも平行平面とみなし、それぞれの層における半径方向の温度勾配が一定であると仮定する。また、空気層厚さhalとウェブ1の表裏面の合成自乗平均平方根粗さRffの関係からウェブ1間の接触状態を次のように定義する。
粗さの突起高さは多くの場合で正規分布をする。したがって、ウェブ1間の空気層厚さhalが合成自乗平均平方根粗さRffの3倍を超える場合、粗さ同士は確率的に接触しない(橋本巨,“基礎から学ぶトライボロジー”,(2006), p. 94, 森北出版)。
そこで,hal≦3Rffの場合には分散接触とし、空気層内の粗さ部分を矩形状の単一要素とみなすこととする。一方、hal>3Rffの場合には非接触とし、粗さ部分が存在しないと考える。
ウェブ1と空気層を通過する熱流束が等しい場合、半径方向に対するウェブ1と空気層を合成した等価層の熱伝導率keqは、式(32)のように表される。
【0057】
【数32】
【0058】
図3(B)に示す分散接触の場合には、真実接触部と空気の間の熱移動が無視でき、熱流がそれぞれを並列に通過すると仮定すれば、空気層の熱伝導率kalは式(33)で表すことができる。
【0059】
【数33】
【0060】
ここで、A/Aaは、見掛けの接触面積に対する真実接触面積の比を示しており、真実接触部のヤング率を円周方向に等しいと仮定すると、半径方向応力σrによる変形を考慮した式(34)から求められる(黒崎晏夫,佐藤勲,“伝熱工学”,(2009), p. 29, コロナ社)。
【0061】
【数34】
【0062】
また、等価層の密度ρeq及び比熱ceqは、空気層に占める真実接触部の体積比が上述の面積比A/Aaに等しいとみなすと、式(35)、式(36)のように表すことができる。
【0063】
【数35】
【0064】
【数36】
【0065】
一方、図4(B)に示される非接触の場合には、空気層に真実接触部が存在しないため、等価層の熱伝導率、密度、比熱はそれぞれ式(33)、式(35)、式(36)において、A/Aa=0として求めることができる。
基礎方程式(20)及び境界条件式(21)、式(23)に含まれるウェブ1の熱物性を等価層の熱物性に置き換えて上述の諸式を解くことにより、巻き込み空気の影響を考慮した非定常状態における巻き取りロール内の温度を予測することができる。
【0066】
[2]巻き取りロール4の非定常内部応力解析
巻き取りロール4において、既に巻き取られた部分の応力は、巻き取り中における新たなウェブ1の追加及び巻き取り後のロール温度の変化に起因するウェブ1と巻芯2の熱歪みによって逐次変化する。
また、空気層が存在すると見かけのロール剛性は著しく低下し,内部応力が大きく変化する。
このような内部応力状態に対して、本実施形態では、前述したHakielの理論を基礎とし、巻き取りロール4内の熱歪み及び空気層によるロール剛性の変化を考慮できるように修正した解析モデルを採用する。
巻き取りロール4内における巻芯2側から数えて第j番目の層(第j層)の半径方向応力σr,jは,新たなウェブ1の追加及び熱歪みに起因する半径方向の応力増分Δσr,jを第j層の巻き取りが完了した時間tj+1から現在の時間tiまで足し合わせることで求められ、式(37)のように表される。
【0067】
【数37】
【0068】
また、ウェブ1の熱歪みを考慮した線形弾性体の構成方程式は、半径方向であれば、式(38)、円周方向であれば式(39)で与えられる。
【0069】
【数38】
【0070】
【数39】
【0071】
式(38)、式(39)を、円筒座標系における応力の釣り合い方程式及び歪みに対する適合条件式に代入して半径方向応力について整理し、これに歪みエネルギーの制約に基づいて導かれたMaxwellの式及び式(37)を適用すると、半径方向の応力増分Δσrに関する基礎方程式が式(40)のように得られる。
【0072】
【数40】
【0073】
式(40)を解くために課せられる巻き取り部分の最内層及び最外層における境界条件はそれぞれ次のように設定される。
まず、最内層において巻芯に生じる歪みがウェブ1の第1層目の歪みに等しいと仮定し、ウェブ1と巻芯2の熱歪みを考慮すると最内層境界条件式は式(41)のように与えられる。
【0074】
【数41】
【0075】
ここで、巻芯温度の変化量ΔTcは平均値として式(42)で与えられる。
【0076】
【数42】
【0077】
最外層における応力増分Δσrが、新たに追加されるウェブ1の内側に巻き込まれた空気層のゲージ圧に等しいとすると、巻き取り中の最外層境界条件は式(43)のように与えられる。
【0078】
【数43】
【0079】
なお,ニップローラ3がある場合の巻き取り張力Twは初期張力Tw0にニップ部での摩擦によって誘起される張力を加算した式(44)により求められる(Good, J.K., Wu, Z., and Fikes, M.W.R., “The Internal Stresses in Wound Rolls with the Presence of a Nip Roller,” ASME Journal of Applied Mechanics, Vol. 61, No. 1, (1994), p. 182-185)。
【0080】
【数44】
【0081】
また、最外層には新たなウェブ1が追加されないので,巻き取り完了後の最外層境界条件は式(45)のように設定される。
【0082】
【数45】
【0083】
[3]巻き込み空気による巻き取りロール4の剛性の低下
巻き込み空気による巻き取りロール4の剛性の低下は、前述したウェブ1のヤング率を等価層のヤング率に置き換えることで考慮することができる(Good, J.K. and Holmberg, M.W, “The Effect of Air Entrainment in Center Wound Rolls”, Proceedings of the Second International Conference on Web Handling, (1993), p. 246-264/谷本光史, 河野和清, 高橋定, 佐々木将志, 吉田総仁, “空気巻き込みを考慮した巻き取りロールの内部応力解析”, 日本機械学会論文集A編,Vol. 68, No. 665, (2002), p. 161-168)。尚、等価層の半径方向ヤング率Ereqは式(46)、等価層の円周方向ヤング率Eθeqはそれぞれ式(47)で与えられる。
【0084】
【数46】
【0085】
【数47】
【0086】
ただし,空気層の半径方向ヤング率Eralは前述の式(31)に示した空気層厚さの関係式を歪みの定義に適用して導出される式(48)により求められる。
【0087】
【数48】
【0088】
以上に示した各式をもちいることにより、巻き取りロール4の内部の温度変化により生じる熱歪み及び巻き込み空気による剛性の変化を考慮した巻き取りロール4の半径方向応力σrを予測することができる。
従って、巻き込み空気により巻き取りロール4の剛性が低下した場合、式(40)で与えられたΔσrに関する基礎方程式は、式(49)のようになる。
【0089】
【数49】
【0090】
また、式(41)の巻き取りロール4の最内層の境界条件も下記式(50)のようになる。
【0091】
【数50】
【0092】
一方、巻き取りロール4の円周方向応力σθは、次の式(51)に示す円筒座標系における応力の釣り合い方程式に、半径方向応力の予測値を用いることにより求めることができる。
【0093】
【数51】
【0094】
[4]実験による検証
次に、前述した理論予測モデルに基づく巻き取りロールにおける非定常熱伝導解析プログラム、及び非定常内部応力解析プログラムの有効性について実験的に検証した。具体的には、巻き取りロール周辺の環境温度を意図的に変化させ、その際に測定したロール温度及び半径方向応力の実験値を予測値と比較・検討した。
本実験では、ウェブ1としてポリエチレンテレフタレートフィルムを用い、図5に示すような巻き出し部11とニップローラ12を有する巻き取り部18から構成される試験装置10で巻き取りを実施した。
本試験装置10は、巻き取りロールを巻き出し部11に設置し、張力や速度を制御するためのローラ15、16を介してウェブ1を搬送する。ローラ16には張力センサ17が設けられている。
最終的には最下流に位置する巻き取り軸に固定した巻芯14に、ニップローラ12による押付け荷重を負荷した状態で巻き取る機構になっている。
【0095】
巻き取りロール13周辺の環境温度は、巻き取り後のロールを保管庫に投入することで変化させた。この保管庫は、熱源、ファンと温度センサを設けた断熱材で囲った箱を用い、その中の温度が一定になるように温度センサの信号によって熱源を制御する機構になっている。尚、環境温度として、実際の輸送環境を想定し変化させた。巻き取り完了後、巻き取り中の温度より20K高い温度に制御された保管庫に巻き取りロール13を投入し、その2時間後に巻き取り中の温度に保たれた室内に取り出すことで温度変化を与えた。
【0096】
巻き取りロール13内の温度と半径方向応力の測定には、それぞれ薄膜の温度センサと圧力センサ(Hashimoto, H., Puttha, J. and Mongkol M, ”Optimum Winding Tension and Nip-load into Wound Webs for Protecting Wrinkles and Slippage”, JSME Journal of Advanced Mechanical Design, Systems, and Manufacturing, Vol. 4, No.1, (2010), pp.214-225)を用いた。
これらを所定のロール半径位置に設置されるように適宜巻き取り中の最外層部分から挿入し、巻き取りロール13を保管庫に投入した直後から測定を開始した。尚、測定に際しては半径方向応力の測定精度を考慮し、温度測定と応力測定をそれぞれ独立に各3回以上行った。
また、ロール端部からの熱移動の影響を小さくするため,センサの感部がウェブ1の幅に対して中央部に位置するように設置した。
表1にウェブ1であるポリエチレンテレフタレートフィルムの物性値、表2に加工条件をそれぞれ示す。ここで、ウェブ1は図6に示すように半径方向応力σrに対して非線形圧縮特性を有する。そこで本実験では、この図6を基に半径方向ヤング率Erを式(52)によって累乗近似して評価する。
【0097】
【数52】
【0098】
【表1】
【0099】
また、表2に示した熱伝達率κは、実際の保管環境における実測値である。この測定では巻芯14内側面及びロール最外層面の近傍に熱流速センサを設置し、保管庫内外における熱流束qと熱流束センサ測定部の表面温度Tsを計測する。これらの測定値を式(53)に代入すればその保管環境における熱伝達率κが算出できる。
【0100】
【数53】
【0101】
【表2】
【0102】
[5]実験検証結果及び考察
図7〜図10に巻き取りロール13の温度の変化量(Tf−T0)及び半径方向応力σrについて、本発明の解析プログラムを用いた予測値と実測値をそれぞれ示す。図7及び図9は、巻き取りロール13の半径位置を、巻芯14の半径で除した無次元ロール半径位置r/rc、図8及び図10は時間tに対する結果である。
ここで、巻き込み空気が熱伝導に及ぼす影響を検討するため、この影響を無視した場合の予測値を得たが、本理論予測モデルによる予測値とほとんど一致したことから、両者を同一の実線で表している。なお、図中のプロットは実測値の平均値であり、ばらつきの範囲をエラーバーで表示している。
また,図8及び図10中に示している斜線部は巻き取りロール13を保管庫に投入している時間範囲を表している。
【0103】
図7及び図8に示すロール温度の変化量の予測値から、巻き取り完了後に巻き取りロール13の周辺の環境温度が変化すると、巻き取りロール13の内部に温度分布が生じて時々刻々と変化することがわかる。巻き取りロール13を保管庫に投入している時間t=0〜2(h)では、環境温度が巻き取り中の温度より高くなるため、周辺空気と巻き取りロール13の接触面である巻芯14の内側面及び巻き取りロール13の最外層面から熱が流入して巻芯14側及び外層側からロール温度が上昇する。
このとき、温度変化は巻芯14側に比べて外層側で大きいことがわかる。
これは、保管庫内における巻き取りロール13の最外層面の熱伝達率が巻芯14の内側面より高いためであり、その結果として対流伝熱により流入する熱量が多くなることに起因する。
【0104】
巻き取りロール13を室内に取り出した後の時間t=2〜12(h)では、環境温度が保管庫内の温度から巻き取り中の温度に低下する。そのため、保管庫内の場合とは反対に巻き取りロール13外に熱が流出してロール温度が低くなり、時間の経過にともなって室温に近づいていく。
このときの温度変化は外層側で大きくなることが確認できるが、これは保管庫内の場合と同様に熱伝達率が、巻き取りロール13の最外層面で高いことに加え、時間t=2(h)において、室温との温度差が外層側で大きいことが作用していると考えられる。
また、図8からわかるように、室内におけるロール温度の変化は保管庫内に比べて緩やかであること、また、ロール温度が最大値を示す時刻は内層側ほど環境温度が室温に変化する時間t=2(h)から遅れる傾向にあることが確認できる。
前者は巻き取りロール13の最外層面の熱伝達率が低下すること、後者は外層ほどロール温度が高い状態にあるため、環境温度が室温に転じても内層に向けて熱移動が生じることが原因と考えられる。
【0105】
一方、半径方向応力σrは、図9、図10に示すようにロール温度の変化に対応して変化する。すなわち、ロール温度が上昇すると半径方向応力σrは増加し、ロール温度が上昇から低下に転じて室温に近づくと巻き取りロール13を保管庫に投入した時間t=0(h)と同程度の状態に戻る。
このような巻き取りロール13の内部に生じる熱応力は、ウェブ1の線膨張係数の異方性、及びウェブ1と巻芯14の線膨張係数の差に起因している。
表1及び表2に示したようにウェブ1の円周方向の線膨張係数αθは、半径方向の線膨張係数αrに比べて一桁小さく、巻芯14の線膨張係数αcと同程度である。
したがって、前述した式(40)及び式(49)、式(41)及び式(50)を考慮すれば,ウェブ1と巻芯14の組み合わせでは、このウェブ1の異方性が主として熱応力に影響を及ぼし、その結果として半径方向応力σrが温度上昇により増大、温度低下により減少したものと考えられる。
【0106】
前述したように巻き込み空気が熱伝導に及ぼす影響を考慮した場合と、これを無視した場合のロール温度及び半径方向応力はほとんど一致している。これは、等価層の熱物性がウェブ1の熱物性と同程度とみなすことができるためである。
図11〜図13は、それぞれ空気層厚さに対する等価層の熱伝導率keq、密度ρeq、比熱ceqの計算値を示している。
ここで、図11〜図13に示す斜線部は巻き取りロール13内に存在する空気層厚さの予測値の範囲を示している。これより、等価層の熱物性は空気層厚さが大きくなるに従ってウェブの熱物性から空気の熱物性の値へと遷移する傾向にあるが、本発明の検討範囲内ではウェブ1の熱物性値にほぼ一致していることがわかる。
【0107】
図7〜図10に示したロール温度及び半径方向応力の予測値と実測値は、ほぼ一致しており、本発明の解析プログラムは有効であることが実証された。さらに、本発明の検討範囲内では巻き込み空気が熱伝導及び熱応力に及ぼす影響を無視し得ることがわかった。
本実験における内部応力の予測値をもとに前述した巻き取り不良との関係について検討を加える。
ここで、図14は、図9に示した半径方向応力の予測値より求められる円周方向応力の予測値を示している。環境温度が上昇する場合、半径方向応力は経時で増大する。
これはウェブ1同士を圧着させるように作用するため、ブロッキングを発生させる要因となる。
【0108】
一方、円周方向応力は無次元ロール半径位置が概ねr/rc=1.6より内層側で減少し、外層側で増大する傾向にある。このような場合、内層側の負となる範囲でウェブ1が座屈することによるシワ、外層側で塑性変形によるフィルムの機能低下が生じるおそれがある。
このように環境温度の変化に起因した巻き取り後に発生する巻き取り不良に対し、その発生メカニズムを明らかにすること、さらに対策手段を検討することにおいて、本発明の解析プログラムは有用であるといえる。
【0109】
[6]巻き込み空気が熱伝導及び熱応力に影響を及ぼす場合の検討
電子デバイスに用いられる熱伝導フィルムや導電性材料が表面に設けられた薄膜フィルムなど、半径方向に対するウェブ1の熱伝導率が高くなるような場合には、巻き込み空気が巻き取りロール13の熱伝導及び熱応力に及ぼす影響は無視できないと考えられる。
そこで、本理論予測モデルを用いたパラメータ研究により、巻き込み空気の影響が無視できない場合についても検討しておく。
【0110】
図15〜図20は、それぞれ熱伝導率kf=1(W/(m・K))、円周方向及び半径方向の線膨張係数αθ=αr=8.0×10−5(1/K)のウェブ1を巻き取り張力Tw=100(N/m)、ニップロール線荷重L=100(N/m)で巻き取った場合(以下、条件A)、巻き取り張力Tw=200(N/m)、ニップロール線荷重L=0(N/m)で巻き取った場合(以下、条件B)の巻き取りロール13を巻き取り中の温度から20K高い温度に1時間保管したときの巻き取りロール13の温度の変化量(Tf−T0)、半径応力σr、円周方向応力σθについて、本発明の解析プログラムを用いた予測値を示している。尚、本発明の解析プログラムの有効性を検証するために、巻き込み空気の影響を無視した場合の予測値も併記している。
【0111】
図21は、半径方向応力σr=0.1、1、10(MPa)としたときの空気層厚さに対する等価層の熱伝導率の計算値を示している。ここで、ウェブ1間を分散接触とみなせるhal≦3Rffにおいて、半径方向応力σrが0.1(MPa)の場合と1(MPa)の場合の計算値がほぼ一致したことから、両者を同一の実線で表している。図21中の斜線部はそれぞれ条件A及び条件Bで巻き取った巻き取りロール13に存在する空気層厚さの予測値の範囲を表している。
図15〜図20から、ロール温度の変化量、半径方向応力、円周方向応力のいずれにおいても巻き込み空気を考慮した場合と、これを無視した場合の予測値に有意差が認められ、その差は、条件Aに比べて空気層が厚くなる条件Bで顕著に現れることがわかる。
これは、図21に示すように、本計算条件において等価層の熱伝導率が、ウェブ1の熱伝導率より小さく、また、空気層が厚い条件Bの方が、熱伝導率が小さいことに起因する。
【0112】
ウェブ1の熱伝導率が高い場合、巻き取りロール13に流入した熱は内部に移動し易いため、ロール温度がロール半径位置に対して均一に上昇する。これに対して、ウェブ1の熱伝導率が低い場合、熱が内部に移動しにくいため、熱が流入する近傍の温度が上昇する。
これより、図15、図16に示すように本計算条件における巻き込み空気を考慮した場合、特に条件Bで巻き取りロール13内の温度勾配が大きくなったと考えられる。なお、図21に示すように、本計算条件における半径方向応力の範囲内ではウェブ1間の接触状態が等価層の熱伝導率に及ぼす影響はわずかであり、その効果は無視できると考えてよい。
【0113】
図17〜図20からわかるように半径方向応力及び円周方向応力はロール温度に応じて変化する。この変化の傾向は、ウェブ1の円周方向の線膨張係数αθが巻芯14の線膨張係数αcより大きいことに起因している。
特に巻芯14の近傍において、それぞれの応力は経時で大きく低下する傾向にあり、これはウェブ1間が滑ることによる巻ズレ、前述したようなシワを発生させる要因となり得る。
また、いずれの応力においても巻き込み空気を無視した場合の方が巻き込み空気を考慮した場合よりも高くなっている。これより、予測値をもとに巻き取り不良の発生について検討する際、巻き込み空気を無視した場合においては過大評価となり、実際の現象を適切に評価できないおそれがあると考えられ、このような場合において本発明の解析プログラムは有用であるといえる。
以上の結果から、半径方向に対するウェブ1の熱伝導率が高くかつ空気層が厚くなる条件下においては、巻き込み空気が巻き取りロール13の熱伝導及び熱応力に及ぼす影響は無視できないことがわかる。
【0114】
[7]検証結果のまとめ
本実施形態では、熱伝導に及ぼす巻き込み空気の影響を考慮した非定常状態の巻き取りロール13の熱伝導及び内部応力に関する解析プログラムを提示し、その有効性を実験検証及びパラメータ研究から確認することができた。得られた結論としては、次のことがいえる。
(1)巻き込み空気によってウェブ1間に形成される空気層の厚さ及び隣接するウェブ1同士の接触状態を考慮した巻き取りロール13における非定常熱伝導解析プログラムを提供することができた。
(2)内部応力解析に本実施形態に係る非定常熱伝導解析を適用することにより、巻き込み空気が熱伝導に及ぼす影響を考慮した、非定常状態における巻き取りロール13の内部応力解析プログラムを提供することができた。
【0115】
(3)ロール温度の変化量と半径方向応力について、巻き取り完了後に巻き取りロール13の周辺の環境温度を変化させて測定した実測値と、本発明の解析プログラムによる予測値は概ね一致し、本発明の解析プログラムの有効性が確認された。
(4)本発明の解析プログラムを用いたパラメータ研究から、半径方向に対するウェブ1の熱伝導率が高くかつ空気層が厚くなる条件下において、巻き込み空気が巻き取りロール13の熱伝導及び熱応力に及ぼす影響は無視できないことがわかった。
【0116】
[8]非定常熱伝導解析プログラム及び非定常内部応力解析プログラムの作用
前述した非定常熱伝導解析プログラム及び非定常内部応力解析プログラムは、汎用のコンピュータで実行処理されるプログラムとして構成することができ、コンピュータ上では、図22〜図24のフローチャートに基づいて、実行処理が行われる。
まず、図22に示されるように、初期設定値として表1に示されるようなウェブ1の物性値、表2に示されるような巻き取り条件を入力する(手順S1)。
次に、予測値を算出する経過時間tを設定する時間増分を設定する(手順S2)。
前述した式(34)を用いて巻き取りロールの見掛けの接触面積に対する真実接触面積の比A/Aaを算出する(手順S3)。
【0117】
見掛けの接触面積に対する真実接触面積の比A/Aaが算出されたら、式(33)に代入して空気層の熱伝導率kalを算出する(手順S4)。
算出された空気層の熱伝導率kalを式(32)に代入し、等価層の熱伝導率keqを算出する(手順S5)。
同様に算出された見掛けの接触面積に対する真実接触面積の比A/Aaを式(35)に代入し、等価層の密度ρeqを算出し(手順S6)、さらに、見掛けの接触面積に対する真実接触面積の比A/Aaを式(36)に代入して等価層の比熱ceqを算出する(手順S7)。
式(21)乃至式(24)に基づいて、境界条件の設定を行う(手順S8)。
算出された等価層の熱伝導率keq、密度ρeq、及び比熱ceqとを式(20)に代入するとともに、式(21)乃至式(24)に設定された境界条件を用いて、巻き取りロール4の半径位置rにおける温度変化量ΔTを算出する(手順S9)。
算出された温度変化量ΔTをコンピュータのメモリ等に記録保存する(手順S10)。
コンピュータは、空気層の影響を考慮しない内部応力解析Aのプログラムと、空気層の影響を考慮した内部応力解析Bのプログラムの選択を促す(手順S11)。
【0118】
内部応力解析プログラムAが選択された場合(手順S12)、図23に示されるように、手順S10で記録保存された温度変化量ΔTの読み出しを行い(手順SA1)、式(43)、式(45)に基づいて最外層の境界条件を設定し、式(41)に基づいて、最内層の境界条件を設定する(手順SA2)。
設定された境界条件に基づいて、基礎方程式(40)から応力増分Δσrを算出する(手順SA3)。
算出された応力増分Δσrを、式(37)に代入して各層のロール内半径方向応力Δσrを更新する(手順SA4)。
尚、内部応力解析プログラムAは、内部応力の解析にあたり、事前の測定に基づいて求めた半径方向ヤング率Er、円周方向ヤング率Eθを用いたものである。
【0119】
一方、内部応力解析プログラムBが選択された場合(手順S13)、巻き込み空気によるロール剛性の変化を考慮して巻き取りロール4の応力増分Δσrを算出する。
具体的には、図24に示されるように、内部応力解析プログラムAと同様に温度変化量ΔTの読み出しを行い(手順SB1)、式(38)により空気層の厚さを算出し、式(48)により空気層の半径方向ヤング率Eralを算出する(手順SB2)。
算出された空気層の厚さhal、空気層の半径方向ヤング率Eralに基づいて、式(46)により、等価層の半径方向ヤング率Ereqを算出し、式(47)により等価層の円周方向ヤング率Eθeqを算出する(手順SB3)。
【0120】
等価層の半径方向ヤング率Ereq及び等価層の円周方向ヤング率Eθeqが算出されたら、式(43)、式(45)に基づいて最外層の境界条件を設定し、式(50)に基づいて等価層の最内層の境界条件を設定する(手順SB4)。
設定された境界条件に基づいて、基礎方程式(49)から応力増分Δσrを算出する(手順SB5)。
算出された応力増分Δσrを、式(37)に代入して各層のロール内半径方向応力σrを更新する(手順SB6)。
【0121】
内部応力解析プログラムA又は内部応力解析プログラムBのいずれかによる解析が終了したら、手順S2に戻って、繰り返し(手順S14)、終了時間までの解析が終了したら、解析プログラムの実行処理を終了する。
【0122】
このような非定常熱伝導解析プログラム及び非定常内部応力解析プログラムをコンピュータ上で実行処理させることにより、巻き取りロール4の温度変化に伴う内部応力の発生状況をシミュレーションできるため、シミュレーション結果に基づいて、最適な巻き取り条件を設定することができ、巻き取りロール4の保管・輸送時にブロッキングやシワが発生することを防止することができる。
【符号の説明】
【0123】
1…ウェブ、2…巻芯、3…ニップローラ、4…巻き取りロール、10…試験装置、11…巻き出し部、12…ニップローラ、13…巻き取りロール、14…巻芯、15、16…ローラ、17…張力センサ、18…巻き取り部
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻き取りロールの非定常熱伝導解析プログラム、及び巻き取りロールの非定常内部応力解析プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
紙やプラスチックフィルム、金属薄膜に代表されるウェブの加工は、複数の工程で行われることが一般的である。そして、加工後のウェブは、保管や搬送の容易性からロール状に巻き取られることが多い。
【0003】
ところで、保管・輸送中の環境温度は季節や地域、熱処理などによって巻き取り時とは異なることが多い。例えばトラックや船による輸送において、夏場であればその環境温度は巻き取り時に比べて数十度も高くなることがある。
このような変化は、ロール温度に作用して巻き取りロールの内部応力を経時で変動させ、巻き取り直後には見られなかったブロッキングやシワなどに代表される巻き取り不良を発生させる場合がある。また、製膜プロセスにおいてエージングなどの熱処理を施すときにも同様の問題が生じ得る。
【0004】
このような問題に対して、巻き取りロールの内部応力状態を理論的に予測することが重要となる。内部応力解析についてはこれまでにいくつかの理論予測モデルが報告されている。
その中でもHakielのモデルが今日の巻き取り理論の基本を成しており、これを修正することで様々な影響を考慮したモデルが提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
ロール温度の変化にともなう熱応力について、Willetらは、熱弾性理論を適用してロール温度が均一に変化すると仮定したモデルを報告しており(例えば、非特許文献2参照)、その妥当性をQuallsらが実験的に検証している(例えば、非特許文献3参照)。
ただし、この温度変化に関する仮定は、ロール温度が環境温度に一致した定常状態あるいはロール半径に対して一様に変化する場合には適用できるが、ロール内に温度分布が生じる場合には成立しない。
これに対し、Leiらはロール温度の不均一な変化を仮定したモデルを提示している(例えば、非特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Hakiel,Z.,“Nonlinear Model for Wound Roll Stress”,TAPPI Journal, Vol. 70, No. 5 (1987),p. 113-117
【非特許文献2】Willett, M.S. and Poesch, W.L., “Determining the Stress Distributions in Wound Reels of Magnetic Tape Using a Nonlinear Finite-Difference Approach”, ASME Journal of Applied Mechanics, Vol. 55, (1988), p. 365-371
【非特許文献3】Qualls, W.R. and Good, J.K., “Thermal Analysis of a Round Roll”, ASME Journal of Applied Mechanics, Vol. 64, (1997), p. 871-876
【非特許文献4】Lei, H., Cole, K.A. and Weinstein, S.J., “Modeling Air Entrainment and Temperature Effects in Winding”, ASME Journal of Applied Mechanics, Vol. 70, (2003), pp. 902-914
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献4に開示された論文においては、非定常状態における内部応力の数値解析結果は示されておらず、単にモデルの提案にとどまっている。
一方、巻き取りロール内のウェブ間には巻き取り中の巻き込み空気によって空気層が形成され、その結果熱伝導状態が変化して内部応力に影響を及ぼすと考えられるが、これを考慮した理論モデルは見受けられない。
【0007】
本発明の目的は、空気を巻き込んだ巻き取りロールの熱伝導解析、内部応力解析を行うにあたり、実際の巻き取りロールの挙動に近いシミュレーションを行うことのできる巻き取りロールの非定常熱伝導解析プログラム、及び巻き取りロールの非定常内部応力解析プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、巻き取りロール内に巻き込まれた空気の影響を考慮した巻き取りロールの非定常熱伝導解析をコンピュータに実行させる巻き取りロールの非定常熱伝導解析プログラムであって、
前記コンピュータに、
前記巻き取りロール内のウェブの見掛けの接触面積Aaに対する真実接触面積Aの比A/Aaを、下記式(1)を用いて算出する手順と、
求められたA/Aaに基づいて、下記式(2)を用いて各ウェブ間の空気層の熱伝導率kal(W/(m・K))を算出する手順と、
求められた各ウェブ間の空気層の熱伝導率kal(W/(m・K))に基づいて、下記式(3)を用いて半径方向に対するウェブと空気層を合成した等価層の熱伝導率keq(W/(m・K))を算出する手順と、
下記式(4)を用いて前記等価層の密度ρeq(kg/m3)を算出する手順と、
下記式(5)を用いて前記等価層の比熱ceq(J/(kg・K))を算出する手順と、
算出された前記等価層の熱伝導率keq、密度ρeq、比熱ceqを、(6)で与えられる非定常熱伝導の基礎方程式におけるウェブの物性値に置き換え、前記巻き取りロール内の各層のウェブの温度を算出する手順と、
を実行させることを特徴とする。
【0009】
【数1】
【0010】
【数2】
【0011】
【数3】
【0012】
【数4】
【0013】
【数5】
【0014】
【数6】
【0015】
本発明は、前述した巻き取りロールの非定常熱伝導解析プログラムの解析結果に基づいて、前記巻き取りロール内に巻き込まれた空気の影響を考慮した巻き取りロールの非定常内部応力解析をコンピュータに実行させる巻き取りロールの非定常内部応力解析プログラムであって、
前記コンピュータに、
前述した巻き取りロールの非定常熱伝導解析プログラムの実行結果として得られる前記等価層の半径方向位置に応じた温度変化量ΔTfと、
前記巻き取りロールのウェブの最内層における境界条件式(7)と、
前記巻き取りロールの巻き取り中のウェブの最外層における境界条件式(8)と、
前記巻き取りロールの巻き取り完了後のウェブの最外層における境界条件式(9)とを、半径方向の応力増分に関する基礎方程式(10)に用いることにより、
前記巻き取りロールの最内層のウェブから第j番目の層に生じる式(11)で与えられる半径方向応力σr,jを求めることを特徴とする。
【0016】
【数7】
【0017】
【数8】
【0018】
【数9】
【0019】
【数10】
【0020】
【数11】
【0021】
本発明は、前述した巻き取りロールの非定常熱伝導解析プログラムの解析結果に基づいて、前記巻き取りロール内に巻き込まれた空気によるロール剛性の変化を考慮した巻き取りロールの非定常内部応力解析をコンピュータに実行させる巻き取りロールの非定常内部応力解析プログラムであって、
前記コンピュータに、
前述した巻き取りロールの非定常熱伝導解析プログラムの実行結果として得られる前記等価層の半径方向位置に応じた温度変化量ΔTfと、
ウェブと空気層を合成した等価層の半径方向のヤング率Ereqを、下記式(12)に基づいて算出する手順(空気層の半径方向ヤング率Eralは、下記式(13)で算出される)と、
前記等価層の円周方向のヤング率Eθeqを、下記式(14)に基づいて算出する手順と、
前記等価層の半径方向ヤング率Ereqと、
前記等価層の円周方向ヤング率Eθeqと、
前記等価層の最内層における境界条件式(15)と、
前記巻き取りロールの巻き取り中の最外層における境界条件式(16)と、
前記巻き取りロールの巻き取り完了後の最外層における境界条件式(17)とを、半径方向の応力増分に関する基礎方程式(18)に用いることにより、
前記巻き取りロールの最内層から第j番目の層に生じる式(19)で与えられる半径方向応力σr,jを求めることを特徴とする。
【0022】
【数12】
【0023】
【数13】
【0024】
【数14】
【0025】
【数15】
【0026】
【数16】
【0027】
【数17】
【0028】
【数18】
【0029】
【数19】
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、巻き取りロール内に巻き込まれた空気をウェブと合わせた等価層という概念で考慮しているため、巻き取りロール内の非定常熱伝導解析、非定常内部応力解析を高精度に行うことができる。従って、ウェブの巻き取り条件を設定する際、これらの解析プログラムを用いてシミュレーションを行うことにより、巻き取りロール内の実際の内部応力の発生状態に近い状態でシミュレーションを行うことができるため、ウェブの物性、巻き取りロールの保管・輸送等の環境条件に応じた巻き取り条件を設定することができ、保管・輸送中に巻き取りロールにブロッキングやシワが発生することを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】ニップローラがない場合のウェブの中心駆動巻き取りの構造を表す概念図。
【図2】ニップローラがある場合のウェブの中心駆動巻き取りの構造を表す概念図。
【図3】巻き込み空気によるウェブ間の分散接触状態を表す概念図とこれをモデル化した模式図。
【図4】巻き込み空気によるウェブ間の非接触状態を表す概念図とこれをモデル化した模式図。
【図5】検証実験に用いた試験装置の構造を表す模式図。
【図6】ウェブの半径方向の歪みと応力の相関を表すグラフ。
【図7】巻き取りロールの半径方向位置に応じた温度変化を予測値と測定値で比較したグラフ。
【図8】巻き取りロールの時間経過に応じた温度変化を予測値と測定値で比較したグラフ。
【図9】巻き取りロールの半径方向位置に応じた半径方向応力を予測値と測定値で比較したグラフ。
【図10】巻き取りロールの時間経過に応じた半径方向応力を予測値と測定値で比較したグラフ。
【図11】空気層厚さの変化に応じた等価層の熱伝導率の変化を表すグラフ。
【図12】空気層厚さの変化に応じた等価層の密度の変化を表すグラフ。
【図13】空気層厚さの変化に応じた等価層の比熱の変化を表すグラフ。
【図14】巻き取りロールの半径方向位置に応じた円周方向の応力を表すグラフ。
【図15】巻き取りロールの半径方向位置に応じた温度変化を巻き込み空気を考慮した場合と、無視した場合を比較したグラフ(条件A)。
【図16】巻き取りロールの半径方向位置に応じた温度変化を巻き込み空気を考慮した場合と、無視した場合を比較したグラフ(条件B)。
【図17】巻き取りロールの半径方向位置に応じた半径方向応力の変化を巻き込み空気を考慮した場合と、無視した場合を比較したグラフ(条件A)。
【図18】巻き取りロールの半径方向位置に応じた半径方向応力の変化を巻き込み空気を考慮した場合と、無視した場合を比較したグラフ(条件B)。
【図19】巻き取りロールの半径方向位置に応じた円周方向応力の変化を巻き込み空気を考慮した場合と、無視した場合を比較したグラフ(条件A)。
【図20】巻き取りロールの半径方向位置に応じた円周方向応力の変化を巻き込み空気を考慮した場合と、無視した場合を比較したグラフ(条件B)。
【図21】巻き取りロールの空気層の厚さ変化に応じた等価層の熱伝導率の変化を表すグラフ。
【図22】非定常熱伝導解析プログラムの処理手順を表すフローチャート。
【図23】非定常内部応力解析プログラムの処理手順を表すフローチャート。
【図24】非定常内部応力解析プログラムの処理手順を表すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
[1]巻き込み空気の影響を考慮した非定常熱伝導解析
基本的な巻き取り方式であるウェブの中心駆動巻き取りにおいて、図1にはニップローラがない場合の巻き取り概念図が示され、図2にはニップローラ3がある場合の概念図が示されている。
ウェブ1は、図1の場合では巻き取り張力Twが与えられた状態で巻芯2に巻き取られる。一方、ニップローラ3がある図2の場合では、ウェブ1は、巻き取り張力Twに加え、ニップローラ3の押し付け荷重Lが与えられた状態で巻芯2に巻き取られる。
【0033】
ウェブ1の最外層と、既に巻き取られた部分の間に周辺の空気Airが巻き込まれ、その結果としてウェブ1間に空気層が形成される。
このような空気層を有する巻き取りロール4内の熱伝導は、ウェブ1が巻き取られた部分を均質な材料からなるロール構造体とみなした場合とは異なったものとなる。
ここで、ニップローラ3は巻き込み空気量を制限し、後述する見かけの巻き取りロール4の剛性を調整する目的で一般的に使用されている。
巻き取りロール4内において、発熱及び円周方向と軸方向に対する温度変化がないとした熱伝導状態を仮定する。
このような場合、非定常熱伝導の基礎方程式は、巻き取りロール4の半径方向に関する式(20)で表される。
【0034】
【数20】
【0035】
巻き取りロール4と周辺空気の接触面において、対流伝熱による熱移動が支配的であると仮定すると、巻き取りロール4の最外層面における境界条件は式(21)で与えられる。
【0036】
【数21】
【0037】
一方、巻き取りロール4の巻芯2の内側面における境界条件は式(22)で与えられる。
【0038】
【数22】
【0039】
また、巻芯2とウェブ1の接触面において巻芯2側とウェブ1側の熱流束及び温度がそれぞれ等しいとすると、この接触面における境界条件は、式(23)及び式(24)のように与えられる。
【0040】
【数23】
【0041】
【数24】
【0042】
一方、巻き取りロール4内の空気層厚さは次のように見積もることができる。ニップローラ3がない場合、最外層に形成される初期空気層厚さhal0(m)は、巻き取られるウェブ1と既に巻き取った部分の関係にフォイル軸受モデルを適用して導出した式(25)から求めることができる(Hashimoto, H., “Air Film Thickness Estimation in Web Handling Process”, Trans. ASME. Journal of Tribology, Vol. 124 (1999), p. 50-55)。
【0043】
【数25】
【0044】
ここで、λはウェブ1の幅に関する無次元パラメータであり、式(26)のように定義される。
【0045】
【数26】
【0046】
また、図2のように、ニップローラ3がある場合では、巻き取りロール4とニップローラ3間に対して弾性流体潤滑理論を適用することで評価することができる。本実施形態では式(27)に示すChangの結果を利用する(Chang, Y.B., Chambers, F.W. and Shelton, J.J., “Elastohydrodynamic Lubrication of Air Lubricated Rollers”, ASME Journal of Tribology, Vol. 118, (1996), p. 623-628)。
【0047】
【数27】
【0048】
ここで、巻き取りロール4とニップローラ3の等価半径rneqは式(28)で、巻き取りロール4とニップローラ3の等価ヤング率Eneqは式(29)で与えられる。
【0049】
【数28】
【0050】
【数29】
【0051】
巻き取りロール4内における空気層は巻き取りの進行に伴い、増大する半径方向応力σrによって圧縮される。これにより、空気層厚さはhal0からhalに減少する。巻き込まれた空気が巻き取りロール4外に流出しないと仮定し、最外層に巻かれたときの状態を基準としてボイルの法則を適用すると式(30)の関係が得られる。
【0052】
【数30】
【0053】
式(30)から、巻き取り中及び巻き取り完了後の巻き取りロール4内における空気層厚さhalは、式(31)のように表される。
【0054】
【数31】
【0055】
尚、巻き取り完了後に熱応力が生じて半径方向応力が変化した場合の空気層厚さは、その時の半径方向応力を式(31)に代入して得られる。
ここで、ウェブ1の表面には粗さが存在するため、巻き取りロール4内におけるウェブ1同士の接触面は理想的な面接触にはならず、図3(A)、図4(A)に示すように実際には空気層厚さによって分散接触又は非接触となる。ウェブ1間に介在する空気の熱伝導率は、一般にウェブ1に比べて低いことから、空気層内及び粗さ部分の温度勾配は隣接するウェブ1内とは異なってくる。
【0056】
このような熱伝導状態のモデル化に際して、図3(B)、図4(B)に示すようにウェブ1と空気層をいずれも平行平面とみなし、それぞれの層における半径方向の温度勾配が一定であると仮定する。また、空気層厚さhalとウェブ1の表裏面の合成自乗平均平方根粗さRffの関係からウェブ1間の接触状態を次のように定義する。
粗さの突起高さは多くの場合で正規分布をする。したがって、ウェブ1間の空気層厚さhalが合成自乗平均平方根粗さRffの3倍を超える場合、粗さ同士は確率的に接触しない(橋本巨,“基礎から学ぶトライボロジー”,(2006), p. 94, 森北出版)。
そこで,hal≦3Rffの場合には分散接触とし、空気層内の粗さ部分を矩形状の単一要素とみなすこととする。一方、hal>3Rffの場合には非接触とし、粗さ部分が存在しないと考える。
ウェブ1と空気層を通過する熱流束が等しい場合、半径方向に対するウェブ1と空気層を合成した等価層の熱伝導率keqは、式(32)のように表される。
【0057】
【数32】
【0058】
図3(B)に示す分散接触の場合には、真実接触部と空気の間の熱移動が無視でき、熱流がそれぞれを並列に通過すると仮定すれば、空気層の熱伝導率kalは式(33)で表すことができる。
【0059】
【数33】
【0060】
ここで、A/Aaは、見掛けの接触面積に対する真実接触面積の比を示しており、真実接触部のヤング率を円周方向に等しいと仮定すると、半径方向応力σrによる変形を考慮した式(34)から求められる(黒崎晏夫,佐藤勲,“伝熱工学”,(2009), p. 29, コロナ社)。
【0061】
【数34】
【0062】
また、等価層の密度ρeq及び比熱ceqは、空気層に占める真実接触部の体積比が上述の面積比A/Aaに等しいとみなすと、式(35)、式(36)のように表すことができる。
【0063】
【数35】
【0064】
【数36】
【0065】
一方、図4(B)に示される非接触の場合には、空気層に真実接触部が存在しないため、等価層の熱伝導率、密度、比熱はそれぞれ式(33)、式(35)、式(36)において、A/Aa=0として求めることができる。
基礎方程式(20)及び境界条件式(21)、式(23)に含まれるウェブ1の熱物性を等価層の熱物性に置き換えて上述の諸式を解くことにより、巻き込み空気の影響を考慮した非定常状態における巻き取りロール内の温度を予測することができる。
【0066】
[2]巻き取りロール4の非定常内部応力解析
巻き取りロール4において、既に巻き取られた部分の応力は、巻き取り中における新たなウェブ1の追加及び巻き取り後のロール温度の変化に起因するウェブ1と巻芯2の熱歪みによって逐次変化する。
また、空気層が存在すると見かけのロール剛性は著しく低下し,内部応力が大きく変化する。
このような内部応力状態に対して、本実施形態では、前述したHakielの理論を基礎とし、巻き取りロール4内の熱歪み及び空気層によるロール剛性の変化を考慮できるように修正した解析モデルを採用する。
巻き取りロール4内における巻芯2側から数えて第j番目の層(第j層)の半径方向応力σr,jは,新たなウェブ1の追加及び熱歪みに起因する半径方向の応力増分Δσr,jを第j層の巻き取りが完了した時間tj+1から現在の時間tiまで足し合わせることで求められ、式(37)のように表される。
【0067】
【数37】
【0068】
また、ウェブ1の熱歪みを考慮した線形弾性体の構成方程式は、半径方向であれば、式(38)、円周方向であれば式(39)で与えられる。
【0069】
【数38】
【0070】
【数39】
【0071】
式(38)、式(39)を、円筒座標系における応力の釣り合い方程式及び歪みに対する適合条件式に代入して半径方向応力について整理し、これに歪みエネルギーの制約に基づいて導かれたMaxwellの式及び式(37)を適用すると、半径方向の応力増分Δσrに関する基礎方程式が式(40)のように得られる。
【0072】
【数40】
【0073】
式(40)を解くために課せられる巻き取り部分の最内層及び最外層における境界条件はそれぞれ次のように設定される。
まず、最内層において巻芯に生じる歪みがウェブ1の第1層目の歪みに等しいと仮定し、ウェブ1と巻芯2の熱歪みを考慮すると最内層境界条件式は式(41)のように与えられる。
【0074】
【数41】
【0075】
ここで、巻芯温度の変化量ΔTcは平均値として式(42)で与えられる。
【0076】
【数42】
【0077】
最外層における応力増分Δσrが、新たに追加されるウェブ1の内側に巻き込まれた空気層のゲージ圧に等しいとすると、巻き取り中の最外層境界条件は式(43)のように与えられる。
【0078】
【数43】
【0079】
なお,ニップローラ3がある場合の巻き取り張力Twは初期張力Tw0にニップ部での摩擦によって誘起される張力を加算した式(44)により求められる(Good, J.K., Wu, Z., and Fikes, M.W.R., “The Internal Stresses in Wound Rolls with the Presence of a Nip Roller,” ASME Journal of Applied Mechanics, Vol. 61, No. 1, (1994), p. 182-185)。
【0080】
【数44】
【0081】
また、最外層には新たなウェブ1が追加されないので,巻き取り完了後の最外層境界条件は式(45)のように設定される。
【0082】
【数45】
【0083】
[3]巻き込み空気による巻き取りロール4の剛性の低下
巻き込み空気による巻き取りロール4の剛性の低下は、前述したウェブ1のヤング率を等価層のヤング率に置き換えることで考慮することができる(Good, J.K. and Holmberg, M.W, “The Effect of Air Entrainment in Center Wound Rolls”, Proceedings of the Second International Conference on Web Handling, (1993), p. 246-264/谷本光史, 河野和清, 高橋定, 佐々木将志, 吉田総仁, “空気巻き込みを考慮した巻き取りロールの内部応力解析”, 日本機械学会論文集A編,Vol. 68, No. 665, (2002), p. 161-168)。尚、等価層の半径方向ヤング率Ereqは式(46)、等価層の円周方向ヤング率Eθeqはそれぞれ式(47)で与えられる。
【0084】
【数46】
【0085】
【数47】
【0086】
ただし,空気層の半径方向ヤング率Eralは前述の式(31)に示した空気層厚さの関係式を歪みの定義に適用して導出される式(48)により求められる。
【0087】
【数48】
【0088】
以上に示した各式をもちいることにより、巻き取りロール4の内部の温度変化により生じる熱歪み及び巻き込み空気による剛性の変化を考慮した巻き取りロール4の半径方向応力σrを予測することができる。
従って、巻き込み空気により巻き取りロール4の剛性が低下した場合、式(40)で与えられたΔσrに関する基礎方程式は、式(49)のようになる。
【0089】
【数49】
【0090】
また、式(41)の巻き取りロール4の最内層の境界条件も下記式(50)のようになる。
【0091】
【数50】
【0092】
一方、巻き取りロール4の円周方向応力σθは、次の式(51)に示す円筒座標系における応力の釣り合い方程式に、半径方向応力の予測値を用いることにより求めることができる。
【0093】
【数51】
【0094】
[4]実験による検証
次に、前述した理論予測モデルに基づく巻き取りロールにおける非定常熱伝導解析プログラム、及び非定常内部応力解析プログラムの有効性について実験的に検証した。具体的には、巻き取りロール周辺の環境温度を意図的に変化させ、その際に測定したロール温度及び半径方向応力の実験値を予測値と比較・検討した。
本実験では、ウェブ1としてポリエチレンテレフタレートフィルムを用い、図5に示すような巻き出し部11とニップローラ12を有する巻き取り部18から構成される試験装置10で巻き取りを実施した。
本試験装置10は、巻き取りロールを巻き出し部11に設置し、張力や速度を制御するためのローラ15、16を介してウェブ1を搬送する。ローラ16には張力センサ17が設けられている。
最終的には最下流に位置する巻き取り軸に固定した巻芯14に、ニップローラ12による押付け荷重を負荷した状態で巻き取る機構になっている。
【0095】
巻き取りロール13周辺の環境温度は、巻き取り後のロールを保管庫に投入することで変化させた。この保管庫は、熱源、ファンと温度センサを設けた断熱材で囲った箱を用い、その中の温度が一定になるように温度センサの信号によって熱源を制御する機構になっている。尚、環境温度として、実際の輸送環境を想定し変化させた。巻き取り完了後、巻き取り中の温度より20K高い温度に制御された保管庫に巻き取りロール13を投入し、その2時間後に巻き取り中の温度に保たれた室内に取り出すことで温度変化を与えた。
【0096】
巻き取りロール13内の温度と半径方向応力の測定には、それぞれ薄膜の温度センサと圧力センサ(Hashimoto, H., Puttha, J. and Mongkol M, ”Optimum Winding Tension and Nip-load into Wound Webs for Protecting Wrinkles and Slippage”, JSME Journal of Advanced Mechanical Design, Systems, and Manufacturing, Vol. 4, No.1, (2010), pp.214-225)を用いた。
これらを所定のロール半径位置に設置されるように適宜巻き取り中の最外層部分から挿入し、巻き取りロール13を保管庫に投入した直後から測定を開始した。尚、測定に際しては半径方向応力の測定精度を考慮し、温度測定と応力測定をそれぞれ独立に各3回以上行った。
また、ロール端部からの熱移動の影響を小さくするため,センサの感部がウェブ1の幅に対して中央部に位置するように設置した。
表1にウェブ1であるポリエチレンテレフタレートフィルムの物性値、表2に加工条件をそれぞれ示す。ここで、ウェブ1は図6に示すように半径方向応力σrに対して非線形圧縮特性を有する。そこで本実験では、この図6を基に半径方向ヤング率Erを式(52)によって累乗近似して評価する。
【0097】
【数52】
【0098】
【表1】
【0099】
また、表2に示した熱伝達率κは、実際の保管環境における実測値である。この測定では巻芯14内側面及びロール最外層面の近傍に熱流速センサを設置し、保管庫内外における熱流束qと熱流束センサ測定部の表面温度Tsを計測する。これらの測定値を式(53)に代入すればその保管環境における熱伝達率κが算出できる。
【0100】
【数53】
【0101】
【表2】
【0102】
[5]実験検証結果及び考察
図7〜図10に巻き取りロール13の温度の変化量(Tf−T0)及び半径方向応力σrについて、本発明の解析プログラムを用いた予測値と実測値をそれぞれ示す。図7及び図9は、巻き取りロール13の半径位置を、巻芯14の半径で除した無次元ロール半径位置r/rc、図8及び図10は時間tに対する結果である。
ここで、巻き込み空気が熱伝導に及ぼす影響を検討するため、この影響を無視した場合の予測値を得たが、本理論予測モデルによる予測値とほとんど一致したことから、両者を同一の実線で表している。なお、図中のプロットは実測値の平均値であり、ばらつきの範囲をエラーバーで表示している。
また,図8及び図10中に示している斜線部は巻き取りロール13を保管庫に投入している時間範囲を表している。
【0103】
図7及び図8に示すロール温度の変化量の予測値から、巻き取り完了後に巻き取りロール13の周辺の環境温度が変化すると、巻き取りロール13の内部に温度分布が生じて時々刻々と変化することがわかる。巻き取りロール13を保管庫に投入している時間t=0〜2(h)では、環境温度が巻き取り中の温度より高くなるため、周辺空気と巻き取りロール13の接触面である巻芯14の内側面及び巻き取りロール13の最外層面から熱が流入して巻芯14側及び外層側からロール温度が上昇する。
このとき、温度変化は巻芯14側に比べて外層側で大きいことがわかる。
これは、保管庫内における巻き取りロール13の最外層面の熱伝達率が巻芯14の内側面より高いためであり、その結果として対流伝熱により流入する熱量が多くなることに起因する。
【0104】
巻き取りロール13を室内に取り出した後の時間t=2〜12(h)では、環境温度が保管庫内の温度から巻き取り中の温度に低下する。そのため、保管庫内の場合とは反対に巻き取りロール13外に熱が流出してロール温度が低くなり、時間の経過にともなって室温に近づいていく。
このときの温度変化は外層側で大きくなることが確認できるが、これは保管庫内の場合と同様に熱伝達率が、巻き取りロール13の最外層面で高いことに加え、時間t=2(h)において、室温との温度差が外層側で大きいことが作用していると考えられる。
また、図8からわかるように、室内におけるロール温度の変化は保管庫内に比べて緩やかであること、また、ロール温度が最大値を示す時刻は内層側ほど環境温度が室温に変化する時間t=2(h)から遅れる傾向にあることが確認できる。
前者は巻き取りロール13の最外層面の熱伝達率が低下すること、後者は外層ほどロール温度が高い状態にあるため、環境温度が室温に転じても内層に向けて熱移動が生じることが原因と考えられる。
【0105】
一方、半径方向応力σrは、図9、図10に示すようにロール温度の変化に対応して変化する。すなわち、ロール温度が上昇すると半径方向応力σrは増加し、ロール温度が上昇から低下に転じて室温に近づくと巻き取りロール13を保管庫に投入した時間t=0(h)と同程度の状態に戻る。
このような巻き取りロール13の内部に生じる熱応力は、ウェブ1の線膨張係数の異方性、及びウェブ1と巻芯14の線膨張係数の差に起因している。
表1及び表2に示したようにウェブ1の円周方向の線膨張係数αθは、半径方向の線膨張係数αrに比べて一桁小さく、巻芯14の線膨張係数αcと同程度である。
したがって、前述した式(40)及び式(49)、式(41)及び式(50)を考慮すれば,ウェブ1と巻芯14の組み合わせでは、このウェブ1の異方性が主として熱応力に影響を及ぼし、その結果として半径方向応力σrが温度上昇により増大、温度低下により減少したものと考えられる。
【0106】
前述したように巻き込み空気が熱伝導に及ぼす影響を考慮した場合と、これを無視した場合のロール温度及び半径方向応力はほとんど一致している。これは、等価層の熱物性がウェブ1の熱物性と同程度とみなすことができるためである。
図11〜図13は、それぞれ空気層厚さに対する等価層の熱伝導率keq、密度ρeq、比熱ceqの計算値を示している。
ここで、図11〜図13に示す斜線部は巻き取りロール13内に存在する空気層厚さの予測値の範囲を示している。これより、等価層の熱物性は空気層厚さが大きくなるに従ってウェブの熱物性から空気の熱物性の値へと遷移する傾向にあるが、本発明の検討範囲内ではウェブ1の熱物性値にほぼ一致していることがわかる。
【0107】
図7〜図10に示したロール温度及び半径方向応力の予測値と実測値は、ほぼ一致しており、本発明の解析プログラムは有効であることが実証された。さらに、本発明の検討範囲内では巻き込み空気が熱伝導及び熱応力に及ぼす影響を無視し得ることがわかった。
本実験における内部応力の予測値をもとに前述した巻き取り不良との関係について検討を加える。
ここで、図14は、図9に示した半径方向応力の予測値より求められる円周方向応力の予測値を示している。環境温度が上昇する場合、半径方向応力は経時で増大する。
これはウェブ1同士を圧着させるように作用するため、ブロッキングを発生させる要因となる。
【0108】
一方、円周方向応力は無次元ロール半径位置が概ねr/rc=1.6より内層側で減少し、外層側で増大する傾向にある。このような場合、内層側の負となる範囲でウェブ1が座屈することによるシワ、外層側で塑性変形によるフィルムの機能低下が生じるおそれがある。
このように環境温度の変化に起因した巻き取り後に発生する巻き取り不良に対し、その発生メカニズムを明らかにすること、さらに対策手段を検討することにおいて、本発明の解析プログラムは有用であるといえる。
【0109】
[6]巻き込み空気が熱伝導及び熱応力に影響を及ぼす場合の検討
電子デバイスに用いられる熱伝導フィルムや導電性材料が表面に設けられた薄膜フィルムなど、半径方向に対するウェブ1の熱伝導率が高くなるような場合には、巻き込み空気が巻き取りロール13の熱伝導及び熱応力に及ぼす影響は無視できないと考えられる。
そこで、本理論予測モデルを用いたパラメータ研究により、巻き込み空気の影響が無視できない場合についても検討しておく。
【0110】
図15〜図20は、それぞれ熱伝導率kf=1(W/(m・K))、円周方向及び半径方向の線膨張係数αθ=αr=8.0×10−5(1/K)のウェブ1を巻き取り張力Tw=100(N/m)、ニップロール線荷重L=100(N/m)で巻き取った場合(以下、条件A)、巻き取り張力Tw=200(N/m)、ニップロール線荷重L=0(N/m)で巻き取った場合(以下、条件B)の巻き取りロール13を巻き取り中の温度から20K高い温度に1時間保管したときの巻き取りロール13の温度の変化量(Tf−T0)、半径応力σr、円周方向応力σθについて、本発明の解析プログラムを用いた予測値を示している。尚、本発明の解析プログラムの有効性を検証するために、巻き込み空気の影響を無視した場合の予測値も併記している。
【0111】
図21は、半径方向応力σr=0.1、1、10(MPa)としたときの空気層厚さに対する等価層の熱伝導率の計算値を示している。ここで、ウェブ1間を分散接触とみなせるhal≦3Rffにおいて、半径方向応力σrが0.1(MPa)の場合と1(MPa)の場合の計算値がほぼ一致したことから、両者を同一の実線で表している。図21中の斜線部はそれぞれ条件A及び条件Bで巻き取った巻き取りロール13に存在する空気層厚さの予測値の範囲を表している。
図15〜図20から、ロール温度の変化量、半径方向応力、円周方向応力のいずれにおいても巻き込み空気を考慮した場合と、これを無視した場合の予測値に有意差が認められ、その差は、条件Aに比べて空気層が厚くなる条件Bで顕著に現れることがわかる。
これは、図21に示すように、本計算条件において等価層の熱伝導率が、ウェブ1の熱伝導率より小さく、また、空気層が厚い条件Bの方が、熱伝導率が小さいことに起因する。
【0112】
ウェブ1の熱伝導率が高い場合、巻き取りロール13に流入した熱は内部に移動し易いため、ロール温度がロール半径位置に対して均一に上昇する。これに対して、ウェブ1の熱伝導率が低い場合、熱が内部に移動しにくいため、熱が流入する近傍の温度が上昇する。
これより、図15、図16に示すように本計算条件における巻き込み空気を考慮した場合、特に条件Bで巻き取りロール13内の温度勾配が大きくなったと考えられる。なお、図21に示すように、本計算条件における半径方向応力の範囲内ではウェブ1間の接触状態が等価層の熱伝導率に及ぼす影響はわずかであり、その効果は無視できると考えてよい。
【0113】
図17〜図20からわかるように半径方向応力及び円周方向応力はロール温度に応じて変化する。この変化の傾向は、ウェブ1の円周方向の線膨張係数αθが巻芯14の線膨張係数αcより大きいことに起因している。
特に巻芯14の近傍において、それぞれの応力は経時で大きく低下する傾向にあり、これはウェブ1間が滑ることによる巻ズレ、前述したようなシワを発生させる要因となり得る。
また、いずれの応力においても巻き込み空気を無視した場合の方が巻き込み空気を考慮した場合よりも高くなっている。これより、予測値をもとに巻き取り不良の発生について検討する際、巻き込み空気を無視した場合においては過大評価となり、実際の現象を適切に評価できないおそれがあると考えられ、このような場合において本発明の解析プログラムは有用であるといえる。
以上の結果から、半径方向に対するウェブ1の熱伝導率が高くかつ空気層が厚くなる条件下においては、巻き込み空気が巻き取りロール13の熱伝導及び熱応力に及ぼす影響は無視できないことがわかる。
【0114】
[7]検証結果のまとめ
本実施形態では、熱伝導に及ぼす巻き込み空気の影響を考慮した非定常状態の巻き取りロール13の熱伝導及び内部応力に関する解析プログラムを提示し、その有効性を実験検証及びパラメータ研究から確認することができた。得られた結論としては、次のことがいえる。
(1)巻き込み空気によってウェブ1間に形成される空気層の厚さ及び隣接するウェブ1同士の接触状態を考慮した巻き取りロール13における非定常熱伝導解析プログラムを提供することができた。
(2)内部応力解析に本実施形態に係る非定常熱伝導解析を適用することにより、巻き込み空気が熱伝導に及ぼす影響を考慮した、非定常状態における巻き取りロール13の内部応力解析プログラムを提供することができた。
【0115】
(3)ロール温度の変化量と半径方向応力について、巻き取り完了後に巻き取りロール13の周辺の環境温度を変化させて測定した実測値と、本発明の解析プログラムによる予測値は概ね一致し、本発明の解析プログラムの有効性が確認された。
(4)本発明の解析プログラムを用いたパラメータ研究から、半径方向に対するウェブ1の熱伝導率が高くかつ空気層が厚くなる条件下において、巻き込み空気が巻き取りロール13の熱伝導及び熱応力に及ぼす影響は無視できないことがわかった。
【0116】
[8]非定常熱伝導解析プログラム及び非定常内部応力解析プログラムの作用
前述した非定常熱伝導解析プログラム及び非定常内部応力解析プログラムは、汎用のコンピュータで実行処理されるプログラムとして構成することができ、コンピュータ上では、図22〜図24のフローチャートに基づいて、実行処理が行われる。
まず、図22に示されるように、初期設定値として表1に示されるようなウェブ1の物性値、表2に示されるような巻き取り条件を入力する(手順S1)。
次に、予測値を算出する経過時間tを設定する時間増分を設定する(手順S2)。
前述した式(34)を用いて巻き取りロールの見掛けの接触面積に対する真実接触面積の比A/Aaを算出する(手順S3)。
【0117】
見掛けの接触面積に対する真実接触面積の比A/Aaが算出されたら、式(33)に代入して空気層の熱伝導率kalを算出する(手順S4)。
算出された空気層の熱伝導率kalを式(32)に代入し、等価層の熱伝導率keqを算出する(手順S5)。
同様に算出された見掛けの接触面積に対する真実接触面積の比A/Aaを式(35)に代入し、等価層の密度ρeqを算出し(手順S6)、さらに、見掛けの接触面積に対する真実接触面積の比A/Aaを式(36)に代入して等価層の比熱ceqを算出する(手順S7)。
式(21)乃至式(24)に基づいて、境界条件の設定を行う(手順S8)。
算出された等価層の熱伝導率keq、密度ρeq、及び比熱ceqとを式(20)に代入するとともに、式(21)乃至式(24)に設定された境界条件を用いて、巻き取りロール4の半径位置rにおける温度変化量ΔTを算出する(手順S9)。
算出された温度変化量ΔTをコンピュータのメモリ等に記録保存する(手順S10)。
コンピュータは、空気層の影響を考慮しない内部応力解析Aのプログラムと、空気層の影響を考慮した内部応力解析Bのプログラムの選択を促す(手順S11)。
【0118】
内部応力解析プログラムAが選択された場合(手順S12)、図23に示されるように、手順S10で記録保存された温度変化量ΔTの読み出しを行い(手順SA1)、式(43)、式(45)に基づいて最外層の境界条件を設定し、式(41)に基づいて、最内層の境界条件を設定する(手順SA2)。
設定された境界条件に基づいて、基礎方程式(40)から応力増分Δσrを算出する(手順SA3)。
算出された応力増分Δσrを、式(37)に代入して各層のロール内半径方向応力Δσrを更新する(手順SA4)。
尚、内部応力解析プログラムAは、内部応力の解析にあたり、事前の測定に基づいて求めた半径方向ヤング率Er、円周方向ヤング率Eθを用いたものである。
【0119】
一方、内部応力解析プログラムBが選択された場合(手順S13)、巻き込み空気によるロール剛性の変化を考慮して巻き取りロール4の応力増分Δσrを算出する。
具体的には、図24に示されるように、内部応力解析プログラムAと同様に温度変化量ΔTの読み出しを行い(手順SB1)、式(38)により空気層の厚さを算出し、式(48)により空気層の半径方向ヤング率Eralを算出する(手順SB2)。
算出された空気層の厚さhal、空気層の半径方向ヤング率Eralに基づいて、式(46)により、等価層の半径方向ヤング率Ereqを算出し、式(47)により等価層の円周方向ヤング率Eθeqを算出する(手順SB3)。
【0120】
等価層の半径方向ヤング率Ereq及び等価層の円周方向ヤング率Eθeqが算出されたら、式(43)、式(45)に基づいて最外層の境界条件を設定し、式(50)に基づいて等価層の最内層の境界条件を設定する(手順SB4)。
設定された境界条件に基づいて、基礎方程式(49)から応力増分Δσrを算出する(手順SB5)。
算出された応力増分Δσrを、式(37)に代入して各層のロール内半径方向応力σrを更新する(手順SB6)。
【0121】
内部応力解析プログラムA又は内部応力解析プログラムBのいずれかによる解析が終了したら、手順S2に戻って、繰り返し(手順S14)、終了時間までの解析が終了したら、解析プログラムの実行処理を終了する。
【0122】
このような非定常熱伝導解析プログラム及び非定常内部応力解析プログラムをコンピュータ上で実行処理させることにより、巻き取りロール4の温度変化に伴う内部応力の発生状況をシミュレーションできるため、シミュレーション結果に基づいて、最適な巻き取り条件を設定することができ、巻き取りロール4の保管・輸送時にブロッキングやシワが発生することを防止することができる。
【符号の説明】
【0123】
1…ウェブ、2…巻芯、3…ニップローラ、4…巻き取りロール、10…試験装置、11…巻き出し部、12…ニップローラ、13…巻き取りロール、14…巻芯、15、16…ローラ、17…張力センサ、18…巻き取り部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻き取りロール内に巻き込まれた空気の影響を考慮した巻き取りロールの非定常熱伝導解析をコンピュータに実行させる巻き取りロールの非定常熱伝導解析プログラムであって、
前記コンピュータに、
前記巻き取りロール内のウェブの見掛けの接触面積Aaに対する真実接触面積Aの比A/Aaを、下記式(1)を用いて算出する手順と、
求められたA/Aaに基づいて、下記式(2)を用いて各ウェブ間の空気層の熱伝導率kal(W/(m・K))を算出する手順と、
求められた各ウェブ間の空気層の熱伝導率kal(W/(m・K))に基づいて、下記式(3)を用いて半径方向に対するウェブと空気層を合成した等価層の熱伝導率keq(W/(m・K))を算出する手順と、
下記式(4)を用いて前記等価層の密度ρeq(kg/m3)を算出する手順と、
下記式(5)を用いて前記等価層の比熱ceq(J/(kg・K))を算出する手順と、
算出された前記等価層の熱伝導率keq、密度ρeq、比熱ceqを、(6)で与えられる非定常熱伝導の基礎方程式におけるウェブの物性値に置き換え、前記巻き取りロール内の各層のウェブの温度を算出する手順と、
を実行させることを特徴とする巻き取りロールの非定常熱伝導解析プログラム。
【数1】
【数2】
【数3】
【数4】
【数5】
【数6】
【請求項2】
請求項1に記載の巻き取りロールの非定常熱伝導解析プログラムの解析結果に基づいて、前記巻き取りロール内に巻き込まれた空気の影響を考慮した巻き取りロールの非定常内部応力解析をコンピュータに実行させる巻き取りロールの非定常内部応力解析プログラムであって、
前記コンピュータに、
請求項1に記載の巻き取りロールの非定常熱伝導解析プログラムの実行結果として得られる前記等価層の半径方向位置に応じた温度変化量ΔTfと、
前記巻き取りロールのウェブの最内層における境界条件式(7)と、
前記巻き取りロールの巻き取り中のウェブの最外層における境界条件式(8)と、
前記巻き取りロールの巻き取り完了後のウェブの最外層における境界条件式(9)とを、半径方向の応力増分に関する基礎方程式(10)に用いることにより、
前記巻き取りロールの最内層のウェブから第j番目の層に生じる式(11)で与えられる半径方向応力σr,jを求めることを特徴とする巻き取りロールの非定常内部応力解析プログラム。
【数7】
【数8】
【数9】
【数10】
【数11】
【請求項3】
請求項1に記載の巻き取りロールの非定常熱伝導解析プログラムの解析結果に基づいて、前記巻き取りロール内に巻き込まれた空気によるロール剛性の変化を考慮した巻き取りロールの非定常内部応力解析をコンピュータに実行させる巻き取りロールの非定常内部応力解析プログラムであって、
前記コンピュータに、
請求項1に記載の巻き取りロールの非定常熱伝導解析プログラムの実行結果として得られる前記等価層の半径方向位置に応じた温度変化量ΔTfと、
ウェブと空気層を合成した等価層の半径方向のヤング率Ereqを、下記式(12)に基づいて算出する手順(空気層の半径方向ヤング率Eralは、下記式(13)で算出される)と、
前記等価層の円周方向のヤング率Eθeqを、下記式(14)に基づいて算出する手順と、
前記等価層の半径方向ヤング率Ereqと、
前記等価層の円周方向ヤング率Eθeqと、
前記等価層の最内層における境界条件式(15)と、
前記巻き取りロールの巻き取り中の最外層における境界条件式(16)と、
前記巻き取りロールの巻き取り完了後の最外層における境界条件式(17)とを、半径方向の応力増分に関する基礎方程式(18)に用いることにより、
前記巻き取りロールの最内層から第j番目の層に生じる式(19)で与えられる半径方向応力σr,jを求めることを特徴とする巻き取りロールの非定常内部応力解析プログラム。
【数12】
【数13】
【数14】
【数15】
【数16】
【数17】
【数18】
【数19】
【請求項1】
巻き取りロール内に巻き込まれた空気の影響を考慮した巻き取りロールの非定常熱伝導解析をコンピュータに実行させる巻き取りロールの非定常熱伝導解析プログラムであって、
前記コンピュータに、
前記巻き取りロール内のウェブの見掛けの接触面積Aaに対する真実接触面積Aの比A/Aaを、下記式(1)を用いて算出する手順と、
求められたA/Aaに基づいて、下記式(2)を用いて各ウェブ間の空気層の熱伝導率kal(W/(m・K))を算出する手順と、
求められた各ウェブ間の空気層の熱伝導率kal(W/(m・K))に基づいて、下記式(3)を用いて半径方向に対するウェブと空気層を合成した等価層の熱伝導率keq(W/(m・K))を算出する手順と、
下記式(4)を用いて前記等価層の密度ρeq(kg/m3)を算出する手順と、
下記式(5)を用いて前記等価層の比熱ceq(J/(kg・K))を算出する手順と、
算出された前記等価層の熱伝導率keq、密度ρeq、比熱ceqを、(6)で与えられる非定常熱伝導の基礎方程式におけるウェブの物性値に置き換え、前記巻き取りロール内の各層のウェブの温度を算出する手順と、
を実行させることを特徴とする巻き取りロールの非定常熱伝導解析プログラム。
【数1】
【数2】
【数3】
【数4】
【数5】
【数6】
【請求項2】
請求項1に記載の巻き取りロールの非定常熱伝導解析プログラムの解析結果に基づいて、前記巻き取りロール内に巻き込まれた空気の影響を考慮した巻き取りロールの非定常内部応力解析をコンピュータに実行させる巻き取りロールの非定常内部応力解析プログラムであって、
前記コンピュータに、
請求項1に記載の巻き取りロールの非定常熱伝導解析プログラムの実行結果として得られる前記等価層の半径方向位置に応じた温度変化量ΔTfと、
前記巻き取りロールのウェブの最内層における境界条件式(7)と、
前記巻き取りロールの巻き取り中のウェブの最外層における境界条件式(8)と、
前記巻き取りロールの巻き取り完了後のウェブの最外層における境界条件式(9)とを、半径方向の応力増分に関する基礎方程式(10)に用いることにより、
前記巻き取りロールの最内層のウェブから第j番目の層に生じる式(11)で与えられる半径方向応力σr,jを求めることを特徴とする巻き取りロールの非定常内部応力解析プログラム。
【数7】
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【請求項3】
請求項1に記載の巻き取りロールの非定常熱伝導解析プログラムの解析結果に基づいて、前記巻き取りロール内に巻き込まれた空気によるロール剛性の変化を考慮した巻き取りロールの非定常内部応力解析をコンピュータに実行させる巻き取りロールの非定常内部応力解析プログラムであって、
前記コンピュータに、
請求項1に記載の巻き取りロールの非定常熱伝導解析プログラムの実行結果として得られる前記等価層の半径方向位置に応じた温度変化量ΔTfと、
ウェブと空気層を合成した等価層の半径方向のヤング率Ereqを、下記式(12)に基づいて算出する手順(空気層の半径方向ヤング率Eralは、下記式(13)で算出される)と、
前記等価層の円周方向のヤング率Eθeqを、下記式(14)に基づいて算出する手順と、
前記等価層の半径方向ヤング率Ereqと、
前記等価層の円周方向ヤング率Eθeqと、
前記等価層の最内層における境界条件式(15)と、
前記巻き取りロールの巻き取り中の最外層における境界条件式(16)と、
前記巻き取りロールの巻き取り完了後の最外層における境界条件式(17)とを、半径方向の応力増分に関する基礎方程式(18)に用いることにより、
前記巻き取りロールの最内層から第j番目の層に生じる式(19)で与えられる半径方向応力σr,jを求めることを特徴とする巻き取りロールの非定常内部応力解析プログラム。
【数12】
【数13】
【数14】
【数15】
【数16】
【数17】
【数18】
【数19】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【公開番号】特開2013−96873(P2013−96873A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−240580(P2011−240580)
【出願日】平成23年11月1日(2011.11.1)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 掲載年月日:平成23年8月25日 掲載アドレス:http://www.jstage.jst.go.jp/browse/kikaic/77/780/_contents/−char/ja/
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【出願人】(511005723)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月1日(2011.11.1)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 掲載年月日:平成23年8月25日 掲載アドレス:http://www.jstage.jst.go.jp/browse/kikaic/77/780/_contents/−char/ja/
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【出願人】(511005723)
【Fターム(参考)】
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