説明

巻き替えポリイミドフィルムロール及びその製造方法

【課題】ポリイミドフィルムにスパッタリング等の処理を施す際に、空気や水分の影響を受けることなく、目的の金属層を確実かつ効率的に形成できる、巻き替えポリイミドフィルムロール及びその製造方法を提供する。
【解決手段】この巻き替えポリイミドフィルムロールの製造方法は、原反ポリイミドフィルムロール21からポリイミドフィルムFを引出して、幅方向に分割して裁断し、巻取って分割ポリイミドフィルムロール51を形成し、この分割ポリイミドフィルムロール51から再度ポリイミドフィルムFを引出して、真空環境下又は減圧環境下で巻き取るものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブル回路基板等に用いられる、巻き替えポリイミドフィルムロール及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドは耐熱性や電気絶縁性等に優れ、薄肉のフィルムであっても十分な剛性を有している。そのため、ポリイミドフィルムは、電気絶縁フィルム、断熱性フィルム、フレキシブル回路基板のベースフィルム等、産業分野において幅広く使用されている。なかでも、フレキシブル回路基板は、携帯電話や液晶テレビ等の需要拡大に伴って需要が増大しており、また、配線高密度化が進展している。これに伴いポリイミドフィルムにおいても、電気絶縁支持体としての性能及び加工性の向上の要求が高まっている。
【0003】
前記フレキシブル回路基板は、例えば、絶縁体としてのポリイミドフィルム上に、スパッタリング等によって金属層を形成し、この金属層を適宜パターンニングすることにより製造されている。
【0004】
金属層が形成されるポリイミドフィルムとして、例えば、下記特許文献1には、ポリイミド層bの片面又は両面にポリイミド層aを設け、前記ポリイミド層aの表面にメタライジング法により金属層を設けた、金属積層ポリイミドフィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第07/123161号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記ポリイミドフィルムは、通常はロール状に巻き取られている。そして、内部雰囲気を所定の真空度とした真空チャンバー内に配置され、ロールからポリイミドフィルムを所定長さで引き出しつつ、スパッタリング等が施されるようになっている。
【0007】
しかし、ロール状に巻き取られたポリイミドフィルムの間には、空気が介在した状態となっている。また、ポリイミドフィルムに水蒸気等の水分等が付着していることもある。
【0008】
上記のように、ポリイミドフィルム間に空気が介在していたり、水分が付着したりした状態で、前記真空チャンバー内で減圧する場合には、スパッタリング等の処理に必要な真空度が得られにくくなり、時間がかかるというデメリットが生じる。
【0009】
また、ポリイミドフィルム間に空気が介在している場合には、ロールの外径が空気の分だけ大きくなるので、ポリイミドフィルムを長く巻き取ることができず効率的ではない。
【0010】
更に、ポリイミドフィルム間に空気が介在した状態で、真空チャンバー内で減圧環境下に曝されると、ポリイミドフィルムにシワが寄ったりする等の悪影響が生じることがある。
【0011】
したがって、本発明の目的は、ポリイミドフィルムにスパッタリング等の処理を施す際に、空気や水分による影響を受けることなく、目的の金属層を確実かつ効率的に形成することができる、巻き替えポリイミドフィルムロール及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明の巻き替えポリイミドフィルムロールは、原反ポリイミドフィルムロールから引出されたポリイミドフィルムを幅方向に分割して裁断し、巻取って得られる分割ポリイミドフィルムロールから、再度ポリイミドフィルムを引出して、真空環境下又は減圧環境下で巻き取って得られたものであることを特徴とする。
【0013】
上記発明によれば、真空環境下又は減圧環境下で、分割ポリイミドフィルムロールから、再度ポリイミドフィルムを引出して巻き取られるため、ポリイミドフィルム間の空気や水分等が排除されて、ポリイミドフィルム同士が密着した状態で巻き替えられている。
その結果、巻き替えポリイミドフィルムロールからポリイミドフィルムを引き出して、スパッタリングやプラズマ処理等を施す際に、空気や水分等の影響を受けることなく、スパッタリング等を確実かつ効率的にポリイミドフィルムに施すことができる。
また、ポリイミドフィルム間に空気がなく、ポリイミドフィルム同士が密着しているので、ポリイミドフィルム間に空気が残存する場合に比べて、ポリイミドフィルムを長く巻き取ることができる。その結果、ポリイミドフィルムの引き出し長さを長くすることができるので、製造工程時のロール取り替えの回数が減り、効率化を図ることができる。
【0014】
本発明の巻き替えポリイミドフィルムロールは、前記ポリイミドフィルムの平均厚みが7.5〜35μmであることが好ましい。この態様によれば、ポリイミドフィルムの平均厚みが7.5〜35μmと薄いので、ポリイミドフィルムをより長く巻き取ることができる。
【0015】
本発明の巻き替えポリイミドフィルムロールは、前記ポリイミドフィルムの端面の膨れが1.5μm以下であることが好ましい。この態様によれば、ポリイミドフィルムの端面の膨れが1.5μm以下と極めて小さいので、巻き取ったときのロール端面のハイエッジ量を低く抑えることができる。
【0016】
本発明の巻き替えポリイミドフィルムロールは、前記ポリイミドフィルムが500m以上巻き取られており、かつ、ロール端面の突出高さであるハイエッジ量が0.5mm以下であることが好ましい。この態様によれば、ポリイミドフィルムが500m以上巻き取られている場合でも、ロール端面のハイエッジ量が0.5mm以下と十分に小さいので、フィルム平面性が良好に保たれると共に、ポリイミドフィルムをより一層長く巻き取ることができる。
【0017】
本発明の巻き替えポリイミドフィルムロールは、引出されたポリイミドフィルムの表面の少なくとも一部に、スパッタリングによる金属層の形成又はプラズマ処理による表面改質が施されて用いられるものであることが好ましい。本発明の巻き替えポリイミドフィルムロールは、ポリイミドフィルム間の空気や水分等が排除されて、ポリイミドフィルム同士が密着した状態で巻き替えられているので、その表面の一部にスパッタリングやプラズマ処理を施すことが求められるフレキシブルプリント基板等の、製造用ポリイミドフィルムとして好適に利用することができる。
【0018】
一方、本発明の巻き替えポリイミドフィルムロールの製造方法は、原反ポリイミドフィルムロールからポリイミドフィルムを引出して、幅方向に分割して裁断し、巻取って分割ポリイミドフィルムロールを形成し、この分割ポリイミドフィルムロールから再度ポリイミドフィルムを引出して、真空環境下又は減圧環境下で巻き取ることを特徴とする。
【0019】
上記発明によれば、真空環境下又は減圧環境下で、分割ポリイミドフィルムロールから、再度ポリイミドフィルムを引出して巻き取ることにより、ポリイミドフィルム間の空気や水分等が排除され、ポリイミドフィルム同士を密着させた状態で、巻き替えポリイミドフィルムロールを製造することができる。
その結果、巻き替えポリイミドフィルムロールからポリイミドフィルムを引き出して、スパッタリングやプラズマ処理等を施す際に、空気や水分等の影響を受けることなく、スパッタリング等を確実かつ効率的にポリイミドフィルムに施すことができる。
また、ポリイミドフィルム間に空気がなく、ポリイミドフィルム同士が密着しているので、ポリイミドフィルムを長く巻き取ることができ、製造効率を向上させることができる。
【0020】
本発明の巻き替えポリイミドフィルムロールの製造方法は、前記ポリイミドフィルムとして、平均厚みが7.5〜35μmであるものを用いることが好ましい。この態様によれば、ポリイミドフィルムの平均厚みが7.5〜35μmと薄いので、ポリイミドフィルムをより長く巻き取ることができる。
【0021】
本発明の巻き替えポリイミドフィルムロールの製造方法は、前記分割ポリイミドフィルムロールとして、巻き取り長さが500m以上であり、ロール端面の突出高さであるハイエッジ量が100μm以下であるものを用いて、前記巻き替えポリイミドフィルムロールの前記ハイエッジ量が0.5mm以下となるようにすることが好ましい。
真空環境下又は減圧環境下でポリイミドフィルムの巻き替えを行うと、ポリイミドフィルム間の空気が排除されて、ポリイミドフィルム同士が密着するため、フィルムの凹凸やフィルム端面の膨れがはっきりとあらわれて、分割ポリイミドフィルムロールのハイエッジ量よりも、巻き替えポリイミドフィルムロールのハイエッジ量が相対的に高くなる。
この態様によれば、巻き替えポリイミドフィルムロールのハイエッジ量が0.5mm以下と十分に小さいので、フィルム平面性が良好に保たれると共に、ポリイミドフィルムをより一層長く巻き取ることができる。
【0022】
本発明の巻き替えポリイミドフィルムロールの製造方法は、前記分割ポリイミドフィルムロールとして、最大巻き硬度が200×9.8m/sec以上であるものを用いることが好ましい。この態様によれば、分割ポリイミドフィルムロールの最大巻き硬度が200×9.8m/sec以上と硬く巻かれているので、巻き取り時や搬送時における巻きズレを抑制することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、真空環境下又は減圧環境下で、分割ポリイミドフィルムロールから、再度ポリイミドフィルムを引出して巻き取ることにより、ポリイミドフィルム間の空気や水分等が排除され、ポリイミドフィルム同士を密着させた状態で、巻き替えポリイミドフィルムロールを製造することができる。その結果、空気や水分等の影響を受けることなく、スパッタリング等を確実かつ効率的にポリイミドフィルムに施すことができる。また、ポリイミドフィルム間に空気がないので、ポリイミドフィルムを長く巻き取ることができ、製造効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の巻き替えポリイミドフィルムロールの製造方法において、フィルムを裁断する際に用いられるスリッターの概略構成を示す斜視図である。
【図2】本発明の巻き替えポリイミドフィルムロールの製造方法を示す斜視図である。
【図3】本発明の巻き替えポリイミドフィルムロールの製造方法において、フィルムを裁断するスリッターのカッター装置の側面図である。
【図4】同カッター装置の要部拡大正面図である。
【図5】同カッター装置の要部拡大平面図である。
【図6】同カッター装置によるフィルムの裁断状態を示しており、(a)は図3のa−a矢示線でのフィルムの裁断状態を示す説明図、(b)は図3のb−b矢示線でのフィルムの裁断状態を示す説明図、(c)は図3のc−c矢示線におけるフィルムの裁断状態を示す説明図、(d)は図3のd−d矢示線におけるフィルムの裁断状態を示す説明図である。
【図7】(a)は分割ポリイミドフィルムロールの正面図、(b)は巻き替えポリイミドフィルムロールの正面図である。
【図8】ロール及びロールから引き出したフィルムを示す説明図である。
【図9】従来の上刃及び下刃によるフィルムの裁断状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
一般にフィルムは、原材料から形成された幅広シートを所定幅に裁断し、ロール状に巻き取られた形態で、次の工程に搬送されるようになっている。
【0026】
すなわち、ポリイミドの原材料から形成された幅広のポリイミドフィルムを、ロール状に巻き取ることにより、原反ポリイミドフィルムロールが形成される。この幅広の原反ポリイミドフィルムロールからポリイミドフィルムを引き出し、幅方向に所定幅で裁断して複数のポリイミドフィルムに分割し、各ポリイミドフィルムをそれぞれ巻き取ることにより、複数の分割ポリイミドフィルムロールが形成される。
【0027】
上記のように、原反ポリイミドフィルムロールからポリイミドフィルムを引き出し、裁断して複数に分割する際には、スリッターと呼ばれる裁断装置が用いられている。以下、スリッターについて説明する。
【0028】
図1に示すように、このスリッター10は、ポリイミドフィルムF(以下、「フィルムF」という)が巻き取られた原反ポリイミドフィルムロール21(以下、「原反ロール21」という)が回転支持される巻出部20と、原反ロール21から引き出されたフィルムFを、所定幅に裁断し分割するカッター装置30と、カッター装置30により分割された各フィルムFを再度巻き取って、複数の分割ポリイミドフィルムロール51(以下、「分割ロール51」という)を形成する巻取部50とを備えている。
【0029】
前記巻出部20は、図示しないフィルム送り装置を有しており、その回転軸に前記原反ロール21がセットされ、原反ロール21から所定速度でフィルムFが引き出されるようになっている。また、フィルム送り方向(矢印参照)の上流側の所定位置には、フィルムFに張力を付与するためのテンションローラ23が配置されている。
【0030】
また、前記巻取部50は、図示しない巻取り装置を複数備えており、その回転軸に前記カッター装置30で分割されたフィルムFがそれぞれ巻き取られて、複数の分割ロール51が形成されるようになっている。また、巻取部50のカッター装置30近傍には、振分けローラ53が回動可能に配置され、カッター装置30で分割されたフィルムFを、複数の巻取り装置に振分けて送り出すように構成されている(この実施形態では、上下2つずつ、合計4つの巻取り装置にフィルムFを振分けるようになっている)。
【0031】
そして、上記スリッター10を介して形成された複数の分割ロール51から、再度フィルムFが引き出されて、真空環境下又は減圧環境下で巻き取られて、巻き替えポリイミドフィルムロール61(以下、「巻き替えロール61」という)が製造されるようになっている。
【0032】
以下、本発明の巻き替えポリイミドフィルムロール及びその製造方法の一実施形態について説明する。
【0033】
すなわち、本発明の巻き替えポリイミドフィルムロールの製造方法は、原反ロール21からフィルムFを引出して、幅方向に分割して裁断し、巻取って得られる分割ロール51から、再度フィルムFを引き出して、真空環境下又は減圧環境下で巻き取ることを特徴とする。
【0034】
図2を併せて説明すると、この製造方法では、巻き替え処理を施すべきフィルムFの寸法や形状等に対応して、所定の真空チャンバー60が用いられる。真空チャンバー60は周知であるので、その詳しい構造については省略するが、内部雰囲気を減圧するための図示しない真空ポンプや、前記分割ロール51を回動可能に支持するための図示しない軸受け、更にセットされた分割ロール51から所定速度でフィルムFを引き出すための図示しないフィルム引出し装置を有している。
【0035】
そして、図示しないフィルム引出し装置により、所定速度でフィルムFを引き出しつつ、真空環境下又は減圧環境下で、フィルムFを巻き替えて、巻き替えロール61が製造されるようになっている。なお、フィルムFの送り方向上流側には、フィルムFに張力を付与するためのテンションローラ63が配置されている。また、真空チャンバー60内の減圧雰囲気の圧力としては、例えば、1〜10×10−3Torrであることが好ましく、2〜6×10-3Torrであることがより好ましい。
【0036】
このように、この製造方法においては、真空環境下又は減圧環境下で、分割ロール551から、再度フィルムFを引出して巻き取るので、フィルムF間の空気や水分等が排除されて、フィルムF同士を密着させた状態で、巻き替えロール61を製造することができる。
【0037】
そして、フレキシブル回路基板等の製造にあたっては、上記のように製造された巻き替えロール61から更にフィルムFが引き出されて、このフィルムFの表面の少なくとも一部に、スパッタリングにより金属層が形成されたり、或いは、プラズマ処理により表面改質が施されたりするようになっている。
【0038】
このとき、この製造方法によって製造された巻き替えロール61は、フィルムF間に空気や水分等が排除されて巻き付けられた状態となっているので、空気や水分等の影響を受けることなく、上記のスパッタリングやプラズマ処理等を、確実かつ効率的にフィルムFに施すことができる。
【0039】
また、この巻き替えロール61は、フィルムF間に空気がなく、フィルムF同士が密着した状態で巻回されているので、フィルムF間に空気が残存する場合に比べて、フィルムFを長く巻き取ることができる。その結果、フィルムFの引き出し長さを長くすることができるので、製造工程時のロール取り替えの回数が減り、効率化を図ることができる。
【0040】
次に、ポリイミドフィルム、分割ポリイミドフィルムロール、及び巻き替えポリイミドフィルムロールの材質、物性等について説明する。
【0041】
本発明に用いられるポリイミドフィルムとしては、特に限定はなく、公知の方法で製造したものを用いることができる。例えば、(1)ポリイミドの前駆体であるポリアミック酸溶液を支持体に流延又は塗布し、イミド化して得られたポリイミドフィルム、(2)ポリイミド溶液を支持体に流延、塗布し、必要に応じて加熱して得られたポリイミドフィルム、などが挙げられる。
【0042】
フィルムFは、平均厚みが7.5〜35μmであることが好ましく、12.5〜35μmであることがより好ましい。フィルムFの平均厚みが7.5〜35μmの場合、フィルムFが極めて薄いので、厚いフィルムFと比較して長く巻き取ることができ、分割ロール51や巻き替えロール61の長尺化を図ることができる。
【0043】
また、フィルムFの引張り強さは、50〜100kgf/mmであることが好ましく、50〜70kgf/mmであることがより好ましい。これによれば、フィルムFが適度な引張り強さを有しているので、フィルムを適当な張力で引き伸ばしつつ、後述するカッター装置30の上刃31及び下刃41でフィルムFを裁断することができ、フィルムFを裁断しやすくなる。なお、フィルムFの引張り強さが50kgf/mm未満だと、裁断時にあたってフィルムFを所定張力で引き伸ばすことができず、裁断しにくくなるので好ましくない。フィルムFの引張り強さが100kgf/mmを超えると、フィルム自身の剛性により裁断しにくくなるので好ましくない。
【0044】
更に、フィルムFの弾性率は、500〜1500kgf/mmであることが好ましく、800〜1000kgf/mmであることがより好ましい。これによれば、フィルムFが適度な弾性率を有しているので、後述するカッター装置30の上刃31及び下刃41でフィルムFを裁断するときに、上刃31及び下刃41でしっかりと挟持することができ(刃がフィルムに食いつきやすく、逃げがない)、フィルムFを裁断しやすくなる。なお、フィルムFの弾性率が500kgf/mm未満だと、切断時の変形によりバリが生じやすくなるので好ましくなく、フィルムFの弾性率が1500kgf/mmを超えると、刃の磨耗による端面の浪打(フレア)が生じやすくなるので好ましくない。なお、弾性率の値は、ASTM・D882に基づいて測定した値を意味する。
【0045】
図8には、フィルムFを巻き取られてなる分割ロール51若しくは巻き替えロール61の斜視図が示されている。このロールに巻回されたフィルムF(図8中想像線で示す)は、その幅方向(フィルムの長さ方向に直交する方向)の端縁に向かって山型に盛り上がって、フィルム端面に膨れSが生じている。
【0046】
このように、端面に膨れSが生じたフィルムFを巻き取ってロールを形成すると、ロール端面にハイエッジEと呼ばれる盛り上がりが生じる。このハイエッジEの量は、ロール端面の突出高さで定義され(ロール最外周のフィルム端面からハイエッジEの最大突出部までの高さ)、ここでは便宜上、分割ロール51のハイエッジ量をE1とし(図7(a)参照)、巻き替えロール61のハイエッジ量をE2とする(図7(b)参照)。
【0047】
そして、この実施形態においては、上記のフィルム端面の膨れSが1.5μm以下であることが好ましく、0.8μm以下であることがより好ましい。これによれば、フィルムFの端面の膨れSが1.5μm以下と極めて小さいので、巻き取ったときのロール端面のハイエッジ量E1、E2(図7(a),(b)参照)を低く抑えることができる。
【0048】
ここで、図7(a),(b)に示すように、分割ロール51のハイエッジ量E1に対して、巻き替えロール61のハイエッジ量E2の方が大きい。すなわち、本発明のように、真空環境下又は減圧環境下でフィルムFを巻き取ると、フィルムF同士が密着するので、フィルムFの凹凸やフィルム端面の膨れSがはっきりとあらわれて、分割ロール51のハイエッジ量E1よりも、巻き替えロール61のハイエッジ量E2が相対的に高くなる。
【0049】
これに関連して、この実施形態においては、分割ロール51として、巻き取り長さが500m以上であり、ロール端面の突出高さであるハイエッジ量E1が100μm以下であるものを用いて、巻き替えロール61のハイエッジ量E2が0.5mm以下となるようにすることが好ましい。
【0050】
これによれば、巻き替えロール61のハイエッジ量E2が0.5mm以下と十分に小さいので、フィルム平面性が良好に保たれると共に、フィルムFを長く巻き取ることができる。また、図7(a),(b)に示すような、分割ロール51と巻き替えロール61とのハイエッジ量の差を十分に小さくすることができる。
【0051】
また、この実施形態においては、分割ロール51として、最大巻き硬度が200×9.8m/sec以上であるものを用いることが好ましい。これによれば、分割ロール51の最大巻き硬度が200×9.8m/sec以上と硬く巻かれているので、巻き取り時や搬送時における巻きズレを抑制することができる。巻き硬度が200×9.8m/sec未満であると、保形性が悪く、経時的に型崩れが生じる傾向となるので、好ましくない。なお、本発明において、巻き硬度の値は、ロール硬度計(TAPIO Technologies社製 RQP)を用いてロール表面を一定加重(5N)で押し込んだときの減加速度を測定した値を意味する。
【0052】
次に、図3〜5を参照して、カッター装置30について説明する。図3には、カッター装置30の側面図が示されており、図4には、カッター装置30の要部拡大正面図が示されており、図5には、カッター装置30の要部拡大平面図が示されている。
【0053】
このカッター装置30は、原反ロール21から引き出されたフィルムFを、幅方向に複数に裁断して分割するために、上下一組の上刃31及び下刃41を有している。この上下一組の上刃31及び下刃41は、フィルムFの幅方向に沿って所定間隔を設けて複数配置されている(図1参照)。
【0054】
また、カッター装置30は、互いに平行に配置された回転軸33,43を有している。そして、各回転軸33,43に、円形状をなした上刃31及び下刃41がそれぞれ固設されていると共に、各刃31,41の対向する一側面35a,45aどうしが互いに摺接した状態で配置されている。また、各回転軸33,43は、図示しない駆動機構で所定方向に回転するように構成され、上刃31及び下刃41がそれぞれ回転するようになっている。
【0055】
そして、連続的に走行されるフィルムFを、互いの刃先35,45の一側面35a,45aを摺接させるようにして回転する上刃31と下刃41との間に挿入し、走行方向に沿ってかつ幅方向に分割するように、フィルムFが裁断されるようになっている。また、図1に示すように、フィルムFは、山形に屈曲した状態でカッター装置30に導入されており、フィルムを屈曲させた状態で裁断する、いわゆるシャーカットと呼ばれる裁断方法によって、裁断されるようになっている。
【0056】
図4に示すように、上刃31の外周は、フィルムFを裁断するための刃先35をなしている。そして、この実施形態における刃先35の刃先角は、刃先角が鋭利な場合に発生しやすいフィルムFの膨れS(図9参照)を防止するために、次のように設定されている。
【0057】
すなわち、回転軸33の軸心に直交すると共に下刃41に対向する一側面35aに対して、フィルム上面に接触する刃先面35bの角度を、刃先35の刃先角θ1とし、この刃先角θ1が80〜90°で形成されており、好ましくは85〜90°で形成されている。
【0058】
刃先角θ1が、80°未満である場合には、フィルムFに急角度で鋭く突き刺さるので、図9に示すように、上刃31の刃先35の外側周縁部が盛り上がって、フィルム端面の膨れSの原因となることがあり好ましくない。
【0059】
また、この実施形態では、刃先35の下刃41から離反する側の他側面35cは、上刃周縁に向かって、刃先35を次第に肉薄にするテーパ状をなしている。
【0060】
一方、下刃41の外周も、フィルムFを裁断するための刃先45をなしている。この刃先45の刃先角θ2、すなわち、回転軸43の軸心に平行でフィルム下面を支持する刃先面45bに対して、上刃31に対向する一側面45aの角度が80〜90°で形成されており、好ましくは85〜90°で形成されている。なお、刃先角θ2が80°未満だと、刃先45の外側周縁部が盛り上がり、フィルム端面の膨れSの原因となり好ましくない。
【0061】
上記上刃31及び下刃41の材質は、例えば、高速度工具鋼(SKH)や、合金工具鋼(例えば、SKD)、超硬合金等で形成されており、フィルムFの厚さや裁断条件等により適宜設定される。また、図4に示す上刃31の厚さt1及び下刃41の厚さt2も、フィルムFの厚さ等により適宜設定されるようになっている。
【0062】
また、この実施形態では、図4の部分拡大図に示すように、上刃31としては、下刃41に近接する刃先角部36の半径寸法Rが50μm以下で、下刃41と対向する一側面35aの面粗さRzが0.2Z以下のものを用いることが好ましい。同様に、下刃41の上刃31に近接する刃先角部46の半径寸法Rは50μm以下で、上刃31と対向する一側面45aの面粗さRzが0.2Z以下のものを用いることが好ましい。
【0063】
各刃先角部36の半径寸法Rが50μmを超えると、刃先角部36のエッジが丸みを帯びてしまって、両刃31,41によりフィルムFが裁断されたときに、鋭利な裁断面を得にくく、その結果、フィルム端面の膨れSが大きくなるので好ましくない。また、各刃31,41の一側面35a,45aの面粗さRzが、0.2Zを超えると、一側面35a,45aの面粗さが悪くなり(面粗さが粗くなる)、この場合もフィルムFが裁断されたときに鋭利な裁断面とならず、フィルム端面の膨れSが大きくなるので好ましくない。
【0064】
また、図4に示すように、下刃41の刃先45に対する上刃31の刃先35の重なり量、すなわち、下刃41に対する上刃31の侵入深さDは、0.4〜0.6mmとなるように設定されることが好ましい。前記侵入深さDが、0.4mm未満の場合は、厚いフィルムを裁断するときに裁断しにくくなり、0.6mmを超えると、上下両刃31,41の摺接量が大きくなって各刃の磨耗量が増えるので好ましくない。
【0065】
更に、上下両刃31,41は、図5に示すようにトーイン角θ3が設定されている。すなわち、図5中の矢印で示すフィルムFの送り方向(下刃41の回転軸43に直交する方向)に対する上刃31の角度を、上刃31のトーイン角θ3とし、この上刃31のトーイン角θ3は、0〜0.1°に設定されている。その結果、上刃31のフィルム受け入れ側の刃先35の一側面35aが、下刃41の刃先45の一側面45aに所定圧力で接触すると共に、上刃31のフィルム送り出し側の刃先35は、下刃41から離れた状態となっている。なお、上刃31のトーイン角θ3が0.1°よりも大きいと、フィルムFの裁断面の歪み(ダレやバリ)が目立ち、品質が低下すると共に、フィルム端面の膨れの原因ともなり、更に上刃31の摩耗を早めるので好ましくない。
【0066】
次に、上記構造のカッター装置30による、フィルムFの裁断方法について説明する。
【0067】
巻出部20にセットされた原反ロール21から、図示しないフィルム送り装置により所定速度で引き出されたフィルムFは、テンションローラ23を介してカッター装置30に送られる。
【0068】
そして、フィルムFの幅方向に沿って複数配置されると共に、互いの刃先35,45の一側面35a,45aどうしを摺接させるようにして回転する上刃31と下刃41との間に、フィルムFが導入される(図1,3参照)。その結果、上下一対の上刃31及び下刃41によって、フィルムFの走行方向(送り方向)に沿ってかつ幅方向に分割するように、フィルムFが複数のシート状に裁断されるようになっている。
【0069】
ところで、従来用いられている上刃31の刃先角θ1は、図9に示すように、比較的鋭利な角度を有していた。この場合、上刃31の刃先35が、フィルム上面にくさびのように斜めに深く入り込んで、刃先35の外側周縁に盛り上がりが生じることがあった。このような、フィルムFの裁断面の盛り上がりは、フィルム端面の膨れS(図9参照)となり、フィルムFをロール状に巻いてロールを形成したときの、ロール端面のハイエッジ量の増加の原因となっていた(同図9参照)。
【0070】
これに対して、この実施形態におけるカッター装置30を用いた裁断方法を採用することにより、上記問題を解決できるようになっている。
【0071】
これについて、図6を参照して説明する。図6(a)は、図3のa−a矢示線でのフィルムFの裁断状態を示す説明図、図6(b)は、図3のb−b矢示線でのフィルムFの裁断状態を示す説明図、図6(c)は、図3のc−c矢示線におけるフィルムFの裁断状態を示す説明図、図6(d)は、図3のd−d矢示線におけるフィルムFの裁断状態を示す説明図である。
【0072】
図6(a)に示す、上下両刃31,41の間にフィルムFが挿入され始めた状態では、下刃41の刃先45の刃先面45bにフィルム下面が支持されると共に、上刃31の刃先35の刃先面35bにフィルム上面が押圧され、上下両刃31,41の間にフィルムFが挟持されている。
【0073】
図9に示す従来形状の上刃31では、鋭利な刃先35がフィルムに深く突き刺さることにより、刃先35の外側周縁が大きく盛り上がって、高さの高い膨れSが形成されていた。これに対し、この実施形態では、上刃31の刃先角θ1及び下刃41の刃先角θ2が共に80〜90°をなすので、フィルムFの裁断部周縁の広い範囲に、上下両刃31,41の刃先面35b,45bが当接し、刃先35,45の外側周縁に生じるフィルムFの盛り上がりが抑制されて、膨れSを小さくすることが可能となる。
【0074】
上記状態でフィルムFが送られると、図6(b)に示すように、上下両刃31,41の刃先面35b,45bによって、フィルムFの裁断部周縁が押えられて、フィルムFの盛り上がりが抑制されつつ、回転する下刃41及び上刃31によって、フィルムFが徐々に裁断される。この状態では、フィルムFの下刃41に支持された部分(図中左側)に対して、フィルムFの図中右側部分が、上刃31に押圧されて下方にやや湾曲している。
【0075】
そして、フィルムFが更に送られると、図6(c)に示すように、下刃41、及び、該下刃41に対して所定の侵入深さDで重なった上刃31によって、フィルムFが完全に裁断されて複数のフィルムFに分割される。このとき、図中右側のフィルムFは、上刃31の刃先35の他側面35cに押圧されて、その端面が下方に屈曲付勢されている。
【0076】
その後、フィルムFが送られると、図6(d)に示すように、図中右側のフィルムFの端面が、その弾性により元の形状に戻って、複数に分割されたフィルムFが形成される。その後、これら複数のフィルムFが巻取部50へと送られて、複数の分割ロール51が形成される。
【0077】
以上説明したように、この実施形態におけるフィルムの裁断方法によれば、上刃31の刃先角θ1及び下刃41の刃先角θ2が共に80〜90°をなすので、フィルムFの裁断部周縁の広い範囲が上下両刃31,41の刃先面35b,45bに当接し、フィルムFが上下両刃31,41に挟持されつつ裁断される。その結果、上下両刃31,41の各刃先35,45の外側周縁に生じやすいフィルムFの盛り上がりを効果的に抑制して、フィルム端面の膨れSを最小限にすることができ、ロール状に巻いて分割ロール51を形成したときに、同分割ロール51のロール端面のハイエッジ量E1(図7(a)参照)を低く抑えることができる。
【0078】
ところで、ロール端面のハイエッジ量が増大すると、ロール端面とロール中間との高低差が増加するので、ロールの端部周縁に過大な応力が作用して、フィルムが無理に引っ張られた状態となり、シワが発生することがあった。
【0079】
しかし、この実施形態では、上記のようにロール端面のハイエッジ量を低く抑えることができるので、シワの発生を抑制することができ、製品として使用可能な部分を大きくとることができる。また、フィルム端面の膨れを最小限にすることができるので、フィルム端面の毛羽立ち(フィルム端面に細かい毛のようなものが立設すること)を抑制して、それによる塵の発生を防止することができる。その結果、製品の歩留まりを向上させることができる。
【0080】
また、ロール端面のハイエッジ量低減によってシワの発生が抑制されるので、上記のように分割ロール51を形成した後、再度フィルムFを引き出して、巻き替えロール61に巻き替えるときや、この巻き替えロール61からフィルムFを引き出してスパッタリング等を施すときに、フィルムFをスムーズに引き出すことができ、製造効率を向上させる。
【0081】
また、この実施形態におけるフィルムの裁断方法においては、前記上刃31として、前記下刃41に近接する刃先角部36のRが50μm以下で、前記下刃41と対向する一側面35aの面粗さRzが0.2Z以下であるものを用い、前記下刃41として、前記上刃31に近接する刃先角部46のRが50μm以下で、前記上刃31と対向する一側面45aの面粗さRzが0.2Z以下であるものを用いるものとされている。これによれば、上下両刃31,41の刃先角部36,46の半径寸法Rが50μm以下で、かつ、他方の刃に対向する一側面35a,45aの面粗さRzが0.2Z以下とされているので、フィルムFの裁断面がシャープに裁断されて、フィルム端面の膨れSをより効果的に抑制することができる。
【0082】
更に、この実施形態におけるフィルムの裁断方法においては、前記下刃41に対する前記上刃31の侵入深さD(図4参照)が0.4〜0.6mmとなるように、前記上刃31と前記下刃41とを摺接させるように構成されている。これによれば、所定厚さのフィルムFを確実に裁断できると共に、両刃31,41の摩耗を最小限に抑えることができる。
【0083】
更にまた、この実施形態におけるフィルムの裁断方法においては、上刃31のトーイン角θ3(フィルムFの送り方向に対する上刃31の角度)が、0〜0.1°に設定されている。これによれば、上刃31のフィルム受け入れ側の刃先35が、適度な角度で下刃1の刃先45の一側面45aに圧接されるので、フィルムFの裁断面の歪みを抑制した状態で、フィルムFを裁断することができ、フィルムFの品質を向上させると共に、フィルム端面の膨れSをより小さくでき、更に上刃31の摩耗を最小限にすることができる。
【実施例】
【0084】
(実施例1)
原材料から35μmのポリイミドフィルムを形成し、これを巻き取って、幅1570mmで、巻き取り長さが3000mの原反ポリイミドフィルムロールを製造した。
この原反ポリイミドフィルムロールを、図1に示すスリッター10で、幅500mmで、巻き取り長さが1500mの分割ポリイミドフィルムローラを製造した。
スリッター10の上刃31は、材質がSKH2、厚さt1が1mm、刃先角θ1が90°、刃先35の一側面35aの面粗さRzが0.2Z、刃先角部36の半径寸法Rが5μm以下のものを用いた。
一方、下刃41は、材質がSKD11、厚さt2が8mm、刃先角θ2が85°、刃先45の一側面45aの面粗さRzが0.2Z、刃先角部46の半径寸法Rが5μm以下のものを用いた。
また、下刃41の刃先45の一側面45aに対して、上刃31の刃先35の一側面35aを、25Nの圧力で接触させた。
そして、上刃31及び下刃41で裁断したポリイミドフィルムを、70Nの張力を付与しつつ引張って、巻取部50で6インチの芯材に巻き付けて、分割ポリイミドフィルムロールを製造した。
その後、所定の減圧環境下で、分割ポリイミドフィルムロールを巻き替えて、巻き替えポリイミドフィルムロールを製造した。
【0085】
(実施例2)
原材料から12.5μmのポリイミドフィルムを形成し、幅1570mm、巻き取り長さが3000mの原反ポリイミドフィルムロールを製造し、スリッター10で、幅500mmで、巻き取り長さが1000mの分割ポリイミドフィルムローラを製造した。
フィルム裁断にあたっては、スリッター10の上刃31の刃先角θ1を85°とした以外は、前記実施例1と同じ条件のものを用いた。
また、下刃41の刃先45の一側面45aに対して、上刃31の刃先35の一側面35aを、25Nの圧力で接触させた。
そして、裁断されたポリイミドフィルムを、30Nの張力を付与しつつ引張って、巻取部50で3インチの芯材に巻き付けて、分割ポリイミドフィルムロールを製造した。
その後、所定の減圧環境下で、分割ポリイミドフィルムロールを巻き替えて、巻き替えポリイミドフィルムロールを製造した。
【0086】
(比較例1)
上刃31の刃先角θ1を45°とした以外は、実施例1と同様の条件で、分割ポリイミドフィルムロールを製造した。
その後、所定の減圧環境下で、分割ポリイミドフィルムロールを巻き替えて、巻き替えポリイミドフィルムロールを製造した。
【0087】
(比較例2)
上刃31の一側面35aの面粗さRzを1.6Z以下とし、下刃41の一側面45aの面粗さRzを1.6Z以下とした以外は、実施例1と同様の条件で、分割ポリイミドフィルムロールを製造した。
その後、所定の減圧環境下で、分割ポリイミドフィルムロールを巻き替えて、巻き替えポリイミドフィルムロールを製造した。
【0088】
(比較例3)
上刃31の刃先角部36の半径寸法Rを50μm以下とし、下刃41の刃先角部46の半径寸法Rを50μm以下とした以外は、実施例1と同様の条件で、分割ポリイミドフィルムロールを製造した。
その後、所定の減圧環境下で、分割ポリイミドフィルムロールを巻き替えて、巻き替えポリイミドフィルムロールを製造した。
【0089】
(分割ポリイミドフィルムロールに巻回されたポリイミドフィルムの端面観察)
分割ポリイミドフィルムロールに巻き取られたポリイミドフィルムの端面を観察した。
フィルム端面の膨れSは、ロールから所定長さのフィルムを切出して、裁断面周縁が観察できるように所定の治具で固定し、CCDカメラ(キーエンス社製、VHX−900)を用い、1000倍の視野でフィルムの端部幅a(図8参照)を5箇所で撮像し、その平均値を算出した。また、非接触厚み計(ミツトヨ社製、リニヤゲージ:表示量0.1μmのもの)を用いて、フィルム一端面から1mm内側のフィルム厚みb(図8参照)を測定した。そして、フィルム端面の膨れSを以下の式(i)で算出した。
フィルム端面の膨れS=a−b・・・(i)
【0090】
(ロール端面のハイエッジ量の測定)
分割ポリイミドフィルムロールの端面のハイエッジ量E1、及び、巻き替えポリイミドフィルムロールの端面のハイエッジ量E2を測定した。
2次元変位センサー(キーエンス社製、LJ−G030)を用い、ロール端面の外周に沿って120ずつ3箇所で測定して、その平均値を算出した。
【0091】
(分割ポリイミドフィルムロールの最大巻き硬度の測定)
分割ポリイミドフィルムロールの最大巻き硬度を測定した。
ロール表面に厚さ40μmのポリエチレンシートを2枚被覆させて、ロール硬度計(TAPIO Technologies社製、TapioRQP)で3回測定して、その平均値を算出した。
【0092】
(まとめ)
上記実施例1,2及び比較例1〜3の観察・測定結果を、下記表1にまとめて示す。
【0093】
【表1】

【0094】
上記表1によれば、フィルム端面の膨れS、分割ポリイミドフィルムロールのハイエッジ量E1、及び巻き替えポリイミドフィルムロールのハイエッジ量E2は、比較例1〜3と比べて、実施例1,2の方が小さいことが分かる。
【符号の説明】
【0095】
10 スリッター
20 巻出部
21 原反ポリイミドフィルムロール(原反ロール)
23 テンションローラ
30 カッター装置
31 上刃
33 回転軸
35 刃先
35a 一側面
35b 刃先面
35c 他側面
36 刃先角部
41 下刃
43 回転軸
45 刃先
45a 一側面
45b 刃先面
46 刃先角部
50 巻取部
51 分割ポリイミドフィルムロール(分割ロール)
53 振り分けローラ
60 真空チャンバー
61 巻き替えポリイミドフィルムロール(巻き替えロール)
63 テンションローラ
E ハイエッジ
E1 ハイエッジ量(分割ロールのハイエッジ量)
E2 ハイエッジ量(巻き替えロールのハイエッジ量)
F ポリイミドフィルム(フィルム)
θ1 刃先角(上刃31の刃先35の刃先角度)
θ2 刃先角(下刃41の刃先45の刃先角度)
θ3 トーイン角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原反ポリイミドフィルムロールから引出されたポリイミドフィルムを幅方向に分割して裁断し、巻取って得られる分割ポリイミドフィルムロールから、再度ポリイミドフィルムを引出して、真空環境下又は減圧環境下で巻き取って得られたものであることを特徴とする巻き替えポリイミドフィルムロール。
【請求項2】
前記ポリイミドフィルムの平均厚みが7.5〜35μmである、請求項1に記載の巻き替えポリイミドフィルムロール。
【請求項3】
前記ポリイミドフィルムの端面の膨れが1.5μm以下である、請求項1又は2に記載の巻き替えポリイミドフィルムロール。
【請求項4】
前記ポリイミドフィルムが500m以上巻き取られており、かつ、ロール端面の突出高さであるハイエッジ量が0.5mm以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の巻き替えポリイミドフィルムロール。
【請求項5】
引出されたポリイミドフィルムの表面の少なくとも一部に、スパッタリングによる金属層の形成又はプラズマ処理による表面改質が施されて用いられるものである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の巻き替えポリイミドフィルムロール。
【請求項6】
原反ポリイミドフィルムロールからポリイミドフィルムを引出して、幅方向に分割して裁断し、巻取って分割ポリイミドフィルムロールを形成し、この分割ポリイミドフィルムロールから再度ポリイミドフィルムを引出して、真空環境下又は減圧環境下で巻き取ることを特徴とする巻き替えポリイミドフィルムロールの製造方法。
【請求項7】
前記ポリイミドフィルムとして、平均厚みが7.5〜35μmであるものを用いる、請求項6に記載の巻き替えポリイミドフィルムロールの製造方法。
【請求項8】
前記分割ポリイミドフィルムロールとして、巻き取り長さが500m以上であり、ロール端面の突出高さであるハイエッジ量が100μm以下であるものを用いて、前記巻き替えポリイミドフィルムロールの前記ハイエッジ量が0.5mm以下となるようにする、請求項6又は7に記載の巻き替えポリイミドフィルムロールの製造方法。
【請求項9】
前記分割ポリイミドフィルムロールとして、最大巻き硬度が200×9.8m/sec以上であるものを用いる、請求項6〜8のいずれか1項に記載の巻き替えポリイミドフィルムロールの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2010−228180(P2010−228180A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−76203(P2009−76203)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】