説明

巻上機

【課題】クリーンルーム内で粉塵を飛散させずにブレーキカバーを外し、ブレーキ部のメンテナンス作業を行うことができるクレーンの巻上機を提供すること。
【解決手段】本発明の巻上機3は、モータ部11のモータ軸11aに固定されて一体に回転される回転体21と、回転体21に押接されるブレーキライニングとを有するブレーキ部12がブレーキカバー31で覆われた構成を有している。そして、ブレーキカバー31は、回転体21の径方向外側に対向する部位にて回転体21から径方向外側に離間する方向に向かって凹むように設けられた溜まり部32と、溜まり部32とカバー外部との間を連通して開閉可能な吸出部41とを有している。これにより、ブレーキライニングの摩耗によって発生する粉塵を溜まり部32に溜めて吸出部41から吸い出すことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻上機に関し、例えばクリーンルームで使用されるクレーンの巻上機に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体製造や食品製造における製造装置においては、クリーンルームが設備され、クリーンルーム内での部品搬送、装置の保守点検を行うため、天井走行クレーンが設置されている。クリーンルーム内では、天井走行クレーンを運転した場合に、巻上機から発生する粉塵がクリーンルーム内に飛散するのを防ぐ必要がある。
【0003】
天井走行クレーンの巻上機に装着されているブレーキ装置は、ブレーキライニングとブレーキディスクの摩擦により制動を行うため、ブレーキライニングの摩耗による粉塵が必ず発生する。ブレーキ装置は、ブレーキカバーで覆われており、ブレーキライニングの摩耗により発生する粉塵は、通常の使用状態ではクリーンルーム内に飛散することはない。
【0004】
なお、特許文献1には、巻上機の巻上用ワイヤロープを伸縮被覆筒で囲み、ワイヤロープから粉塵が発生しても、それらの粉塵を伸縮被覆筒内に落下させて収容するクレーンの技術が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開昭61-160185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ブレーキ装置のブレーキライニングは消耗品であり、巻上機の使用頻度に応じて摩耗量の点検や交換等のメンテナンス作業が必要である。このようなメンテナンス作業時には、ブレーキカバーを外さなければならず、ブレーキカバー内に蓄積した粉塵が飛散するおそれがある。
【0007】
したがって、クリーンルーム内では、ブレーキカバーを外すことができず、ブレーキライニング摩耗量の点検やブレーキライニングの交換は、巻上機をクリーンルーム外へ搬送してクリーンルーム外で行わなければならず、多大な時間と費用が発生していた。
【0008】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、粉塵(摩耗紛)を飛散させずにブレーキカバーを外し、ブレーキ装置の点検と交換を行うことのできる巻上機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成する本発明の巻上機は、モータ部のモータ軸に固定されて一体に回転される回転体と、回転体に押接されるブレーキライニングとを有するブレーキ部がブレーキカバーで覆われたクレーンの巻上機であって、ブレーキカバーは、回転体の径方向外側に対向する部位にて回転体から径方向外側に離間する方向に向かって凹むように設けられた溜まり部と、溜まり部とカバー外部との間を連通して開閉可能な吸出部とを有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ブレーキライニングの摩耗によって発生する粉塵を、ブレーキカバーに設けられた溜まり部に溜めることができ、溜まり部に連通する吸出部から、溜まり部の粉塵を吸い出すことができる。したがって、ブレーキカバーを取り外す前にブレーキカバー内の粉塵を除去することができ、ブレーキカバーを取り外したときに粉塵が飛散するのを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明が適用されるホイスト式クレーンの構成を模式的に示す図。
【図2】巻上機のブレーキ部を一部断面で示した図。
【図3】吸出部の構成を説明する図。
【図4】送風ファンによる風の流れを説明する図。
【図5】ブレーキホイールの構成を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施例について図に従って説明する。
図1から図5は、クリーンルーム等に使用するクレーンに搭載する粉塵吸出し口を備えたブレーキカバーを有する巻上機の一実施例を示している。
【0013】
ホイスト式クレーン1は、図1に示すように、横行レール2と巻上機3を有している。横行レール2は、図示していない一対のランウェイの間に架け渡されて、建屋の天井に沿って左右に延在するように配設されている。
【0014】
巻上機3は、横行装置4を間に介在させて横行レール2に往復移動可能に支持されている。巻上機3は、ワイヤロープ5を引き出し可能に捲回するドラム部10と、ドラム部10を回転駆動させるモータ部11と、モータ部11の回転にブレーキをかけるブレーキ部12を有している。
【0015】
ドラム部10は、ドラム部10の回転中心が水平に延在するように設けられている。モータ部11は、ブラケット(ナカブラ)を介してドラム部10に取り付けられており、ドラム部10の軸方向一方側に配置されている。ブレーキ部12は、モータ部11のドラム部10と反対側の位置に配置されている。
【0016】
ワイヤロープ5には、シーブプーリ6を介してフック7が取り付けられており、モータ部11によりドラム部10を回転駆動させてワイヤロープ5を巻上げることにより、フック7を上昇させて荷物Mを持ち上げることができるようになっている。そして、巻上機3からケーブル8を介して押しボタンスイッチ9が吊り下げられている。
【0017】
ブレーキ部12は、図1のA部を拡大した図である図2に示すように、モータ部11から突出するモータ軸11aの端部に固定されて一体に回転されるブレーキホイール(回転体)21と、ブレーキホイール21に固定されるブレーキライニング22と、ブレーキライニング22に押圧されて摩擦接触されるブレーキディスク23と、ブレーキライニング22とブレーキディスク23との接触をコントロールするアクチュエータ24を備えている。
【0018】
ブレーキホイール21は、所定の板厚を有する円盤形状を有しており、図5に示すように、その側面でかつ径方向外側の領域にはブレーキライニング22が固定されている。そして、ブレーキホイール21の径方向中心側の鉄芯部分には、周方向に所定間隔をおいて開口するように複数の穴部21aが形成されている。
【0019】
ブレーキ部12は、巻上停止している状態では、アクチュエータ24によりブレーキホイール21のブレーキライニング22にブレーキディスク23を接触させて、その摩擦力でモータ軸11aを固定している。そして、巻上運転している状態では、アクチュエータ24によりブレーキライニング22とブレーキディスク23とを開放状態(非接触)とし、巻上停止したときに接触させて制動動作を行う。
【0020】
ブレーキ部12は、ブレーキカバー31によって覆われている。ブレーキカバー31は、モータ部11の端部に脱着可能に取り付けられており、カバー外部から隔絶されて密閉された空間部を形成し、その空間部内にブレーキ部12が収容されるようになっている。
【0021】
ブレーキカバー31は、溜まり部32と吸出部41を有している。溜まり部32は、ブレーキホイール21の径方向外側に対向する部位にてブレーキホイール21から径方向外側に離間する方向に向かって凹むように構成されている。
【0022】
溜まり部32は、溜まり部32の少なくとも一部がブレーキカバー31の下部に位置するように設けられており、本実施の形態では、ブレーキホイール21の外周に沿って周状に連続して形成されている。
【0023】
ブレーキカバー31は、モータ部11への取り付けにより、ブレーキ部12のアクチュエータ24が収容される第1の収容室31Aと、ブレーキホイール21が収容される第2の収容室31Bを形成する。第2の収容室31Bは、第1の収容室31Aの端部で段差を介して拡径することによって構成されており、この第2の収容室31B内に溜まり部32が形成される。
【0024】
ブレーキカバー31内には、第1の収容室31Aと第2の収容室31Bとの間を区画するように粉塵遮蔽板34が取り付けられており、ブレーキカバー31の溜まり部32に粉塵を導き、第2の収容室31B内で発生した粉塵が、第1の収容室31Aに侵入してアクチュエータ24等に付着するのを抑制できるようになっている。
【0025】
吸出部41は、溜まり部32とカバー外部との間を連通して開閉可能とするものであり、図3に示すように、溜まり部32に一端が開口し、他端がカバー外部に開口する連通路42と、連通路42を閉塞する蓋体43を有している。連通路42は、溜まり部32の底部から下方に向かって延在する第1通路部42Aと、第1通路部42Aの下端で折曲されて水平方向に延在する第2通路部42Bを有している。そして、第2通路部42Bの先端で折曲されて上方に向かって延在する第3通路部42Cと、第3通路部42Cの上端で上方に向かって開口する開口部42Dとを有している。
【0026】
蓋体43は、第3通路部42Cの上端に取り付けられて開口部42Dを閉塞する。蓋体43は、金属製もしくは樹脂製の板状部材によって構成されている。なお、蓋体43を、例えば無色透明のアクリル樹脂などによって形成することで、蓋体43を取り外すことなく、連通路42の内部を視認可能とし、ブレーキカバー31内における粉塵の溜まり具合等を点検できるように構成しても良い。
【0027】
ブレーキカバー31内には、ファン51が設けられている。ファン51は、送風によってブレーキカバー31内の粉塵を溜まり部32に積極的に集めるためのものである。ファン51は、モータ軸11aの端部に一体に回転可能に固定されており、図4に太矢印で示すように、モータ軸11aの回転によりブレーキカバー31内でブレーキホイール21の径方向中心側から径方向外側に沿って空気の流れを形成するように構成されている。そして、ブレーキホイール21の穴部21aを通過させて、ブレーキホイール21のモータ部側にも送風を行い、ブレーキホイール21の径方向中心側から径方向外側に沿って空気の流れを形成できるようになっている。
【0028】
上記構成を有する巻上機3は、巻き上げ停止したときに、アクチュエータ24によりブレーキホイール21のブレーキライニング22にブレーキディスク23を押圧させて制動動作を行う。このときに、ブレーキライニング22とブレーキディスク23から摩耗粉である粉塵が発生し、ブレーキカバー31内に蓄積される。
【0029】
したがって、そのままブレーキカバー31を取り外してしまうと、ブレーキカバー31内に堆積した粉塵が飛散するおそれがあり、クリーンルーム等、粉塵を嫌う場所での分解は困難である。
【0030】
巻上機3によれば、ブレーキカバー31の円周方向にブレーキライニング22とブレーキディスク23の摩耗粉である粉塵の溜まり部32を設けているので、ブレーキホイール21の回転による遠心力によって、粉塵を外側へ吹き飛ばし、ブレーキカバー31の溜まり部32に移動させることができる。そして、モータ軸11aにファン51が装着されているので、図4に示すように、ファン51の回転により発生した空気の流れを利用して、ブレーキカバー31内の粉塵を粉塵たまり部32に積極的に導くことができる。
【0031】
溜まり部32内に導かれた粉塵は、重力によって溜まり部32内を下側に向かって移動し、溜まり部32の下部に蓄積される。溜まり部32の下部には、吸出部41が設けられているので、吸出部41の連通路42から蓋体43を取り外すことにより、ブレーキカバー31とカバー外部との間を連通させ、クリーンルーム用クリーナー等によってカバー外部からブレーキカバー31内の有効な粉塵の吸出しが可能になる。
【0032】
連通路42は、溜まり部32から下方に向かって延在する第1通路部42Aの下端で第2の通路部42Bが折曲されて水平に延在する構成を有しているので、蓋体43を取り外してクリーンルーム用クリーナーを取り付けるときに、連通路42内の粉塵が開口部42Dから飛散するのを防止することができる。
【0033】
さらに、第2通路部42Bの先端で第3通路部42Cが折曲されて上方に向かって延在し、開口部が第3通路部の上端で上方に向かって開口する構造を有しているので、蓋体43を取り外したときに、連通路42内の粉塵が開口部42Dから飛散するのを防ぐことができる。
【0034】
なお、本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。例えば、上述の実施の形態では、吸出部41の連通路42が第1通路部42A〜第3通路部42Cを有する場合を例に説明したが、第3通路部42Cを省略して開口部42Dを第2通路部42Bの先端で上方に向かって開口するように形成した構成としてもよい。
【符号の説明】
【0035】
1 ホイスト式クレーン
3 巻上機
11 モータ部
11a モータ軸
12 ブレーキ部
21 ブレーキホイール(回転体)
21a 穴部
23 ブレーキディスク
31 ブレーキカバー
32 溜まり部
41 吸出部
42 連通路
42A 第1通路部
42B 第2通路部
42C 第3通路部
42D 開口部
43 蓋体
51 ファン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータ部のモータ軸に固定されて一体に回転される回転体と、該回転体に押圧されるブレーキディスクとを有するブレーキ部がブレーキカバーで覆われたクレーンの巻上機であって、
該ブレーキカバーは、
前記回転体の径方向外側に対向する部位にて前記回転体から径方向外側に離間する方向に向かって凹むように設けられた溜まり部と、
該溜まり部とカバー外部との間を開閉可能な吸出部と、
を有することを特徴とする巻上機。
【請求項2】
前記吸出部は、前記溜まり部に一端が開口し、他端がカバー外部に開口する連通路と、該連通路を閉塞する蓋体とを有することを特徴とする請求項1に記載の巻上機。
【請求項3】
前記溜まり部は、該溜まり部の少なくとも一部が前記ブレーキカバーの下部に位置するように設けられており、
前記連通路は、前記溜まり部から下方に向かって延在する第1通路部と、該第1通路部の下端で折曲されて水平方向に延在する第2通路部とを有することを特徴とする請求項2に記載の巻上機。
【請求項4】
前記連通路は、前記第2通路部の先端で折曲されて上方に向かって延在する第3通路部と、該第3通路部の上端で上方に向かって開口する開口部とを有し、
前記蓋体は、前記第3通路部の上端に取り付けられて前記開口部を閉塞する構成を有することを特徴とする請求項3に記載の巻上機。
【請求項5】
前記溜まり部は、前記回転体の外周に沿って周状に連続して形成されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の巻上機。
【請求項6】
前記モータ軸に一体に回転可能に取り付けられており、該モータ軸の回転により前記ブレーキカバー内で前記回転体の径方向中心から径方向外側に向かう空気の流れを形成するファンを有することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の巻上機。
【請求項7】
前記回転体には、前記ファンから送られた空気を通過させることが可能な穴部が形成されていることを特徴とする請求項6に記載の巻上機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−225321(P2011−225321A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−96256(P2010−96256)
【出願日】平成22年4月19日(2010.4.19)
【出願人】(502129933)株式会社日立産機システム (1,140)