説明

巻付糸の除去方法および除去装置

【課題】ローラーに巻き付いた糸を、停機することなく、安全に、しかも隣接で走行している糸に干渉することなく取り除くことができる生産性に有利なローラー巻付き糸の除去方法および除去装置を提供する。
【解決手段】並行して走行する複数本の糸条を誘導するローラーに対し、そのローラーの回転中、糸擦過部材をローラーに巻き付いた糸に押し付けて巻付糸を除去する巻付糸の除去方法において、上記糸擦過部材をローラーに巻き付いた糸に押し付けつつ、ローラーに巻き付いた糸のローラー軸方向への拡がりを抑制することを特徴とする巻付糸の除去方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維産業において、ローラーに巻き付いた糸を、停機することなく安全かつ安定に除去する巻付糸の除去方法および除去装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、繊維製造工程で有するような、複数本の糸を誘導するローラーにおいて、スタート時の糸掛けのミス、あるいはワインダーによる巻取式であれば玉揚げ時の糸掛けミス等によるローラーへの糸の巻き付きは避けられないものである。
【0003】
この際、従来技術としては、スクレーパ一方式により掻取る方法(例えば、特許文献1参照)が知られているが、この方法は少量の巻付き量でしか対応できず、掻き取る時間も長く、さらには掻き取った糸の処理が不完全であると再びローラーに巻き付くといった問題がある。
【0004】
また、糸が巻き付いたローラーにフリーローラーを押し付け接触回転させることで巻き付いた糸を除去する方法(例えば、特許文献2参照)もあるが、これもスクレーパー同様、少量の巻付き量でしか対応できない。
【0005】
ここで、ローラーへ巻き付いた大量の巻付糸の除去方法として、ローラーを回転させながらハサミやカッターといった刃物等を用いて切断除去する方法(例えば、特許文献3参照)があるが、このようないわゆる回転体作業と呼ばれるものは大きな危険を伴う。
【0006】
また、巻付糸を切断除去しようと刃物を押し付けた際、巻付糸が軸方向に拡がってしまい、もし隣接で走行している糸があれば、拡がった巻付糸と隣接糸とが干渉することで、巻付糸は隣接糸も巻き込み拡大してしまう危険性も非常に高い。さらに、高温に加熱されているローラーや、作業者が入りにくいような奥まった位置にあるローラーでは、除去作業そのものが難しい。よって現在は、労働安全上、必ず停機して取り除くようにしており、停機に伴う生産性の低下が著しく大きい。
【0007】
さらに、ローラーを回転させながら巻付糸を竹へら等で押し当ててローラー端に導いて除去する方法もあるが、これも前記と同様に作業安全上に問題あり、またもし隣接で走行している糸があればローラー端に導く際に隣接糸と干渉し巻き込む危険性が高い。
【0008】
一方、このようにローラーに巻付いた糸の除去作業を自動化する場合には、ローラーの軸に対して、刃物を高精度で正対させ、かつ糸の巻き量によりローラーと刃先との間隔を変化させるなどの必要性から高度な装置を要することや、切断後の糸をローラー系外へ排出する際に隣接の糸と接触させないための特別の配慮が必要となる。さらにこの場合、刃物による安全性の問題やローラー表面の損傷等が問題として残される。
【0009】
さらにまた、回転中のロールに、そのロールの軸端外から糸擦過部材と糸吸引部材とを移動させ、ロールに巻き付いた糸を、糸擦過部材をロールに押し付けてほぐしながら糸吸引部材で吸引、除去することを特徴とする巻付糸の除去方法および除去装置(例えば、特許文献4参照)が提案されているが、糸擦過部材を押し付けた際、巻付糸がローラー幅方向に拡がっていき、隣接で走行している糸を巻き込んで巻付糸を拡大させてしまう危険性がある。また、糸擦過部材を勢い余って移動させて隣接の糸と干渉を起こし、隣接糸を切って巻付糸を拡大させる危険性も非常に高い。
【0010】
すなわち、図3は、上記従来の巻付糸除去方法および装置を示す概略図であり、糸擦過部材4をローラー1に巻き付いた糸2に押し付けて、回転摩擦力により巻付糸2をローラー1から掻き取るが、その過程で巻付糸2がローラー1の軸方向に拡がってしまい、隣接で走行している糸3に干渉し、結果、巻付糸2は隣接糸3を巻き込みさらに拡大してしまう危険性がある。
【特許文献1】特公昭44−70113号公報
【特許文献2】特開平04−18109号公報
【特許文献3】実開平04−40073号公報
【特許文献4】特開平08−27632号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点を解消するローラー巻付き糸の除去方法および除去装置を提供することにある。
【0012】
すなわち、本発明の目的はローラーに巻き付いた糸を、停機することなく、安全に、しかも隣接で走行している糸に干渉することなく取り除くことができる生産性に有利なローラー巻付き糸の除去方法および除去装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は上記課題を解決するために次の構成を有する。すなわち、
(1)並行して走行する複数本の糸条を誘導するローラーに対し、そのローラーの回転中、糸擦過部材をローラーに巻き付いた糸に押し付けて巻付糸を除去する巻付糸の除去方法において、上記糸擦過部材をローラーに巻き付いた糸に押し付けつつ、ローラーに巻き付いた糸のローラー軸方向への拡がりを抑制することを特徴とする巻付糸の除去方法。
【0014】
(2)ローラーに巻き付いた巻付糸に押し付けて擦過するための糸擦過部材を備えた巻付糸除去装置において、上記糸擦過部材による巻付糸の拡がりを抑制するための糸拡がり抑制部材を設けたことを特徴とする巻付糸の除去装置。
【0015】
(3)前記糸擦過部材と前記糸拡がり抑制部材とが一体として、ローラーの軸端外からローラー軸方向に可動とする可動機構を備えてなることを特徴とする前記(2)に記載の巻付糸の除去装置。
【0016】
(4)前記可動機構が、前記糸擦過部材と前記糸拡がり抑制部材、およびそれらを連結させているガイドバーを一体として載架した台部材を、ローラー軸に並行するように設けたレール部材上に搭載したものであり、かつ上記ガイドバーは、押し引きすることでローラー軸端外からローラー軸方向に台部材を稼働させるとともに、回転させることで前記糸擦過部材と前記糸拡がり抑制部材をローラー表面に向かって移動させるものであることを特徴とする前記(2)または(3)に記載の巻付糸の除去装置。
【0017】
(5)糸拡がり部材が、ゴム、竹およびプラスチックからなる群から選ばれる少なくとも1種からなることを特徴とする前記(2)〜(4)のいずれかに記載の巻付糸の除去装置。
【発明の効果】
【0018】
本発明装置によれば、ローラーに巻き付いた巻付糸を除去する際、押し付けられて拡がる巻付糸の隣接糸との干渉を防ぎ、停機することなく、安全に、かつ安定に取り除くことができる。したがって、生産性が大きく向上するばかりでなく、作業者が回転中のローラーに直接関わることがないから労働安全上の問題もなく、確実に巻付糸を除去することができる。また高温に加熱されているようなローラーに対しても、容易に適用できる。さらに、この発明は、ローラーの前面に作業者が位置する必要がなく、常時はローラーの軸に並行するレール部材を設けておくだけであるから、作業者が入りにくいような奥まった位置のあるローラーに対しても容易に適用できるし、1台の装置で多数のローラーに適用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を図面を参照しながらさらに詳細に説明する。
【0020】
図1は、本発明の巻付糸の除去方法および除去装置の一例を示す概略図であり、糸擦過部材4をローラー1に巻き付いた巻付糸2に押し付けると同時に、糸拡がり抑制部材5をローラー1の表面に押し当てることで、巻付糸2がローラー1の軸方向に拡がろうとするのを糸拡がり抑制部材5で壁の役割を果たして差し止めるようにしたものである。
【0021】
また、図2は、本発明を応用した方法および装置を示す概略図であり、ローラー1にはその軸に並行するようにレール部材8が設けられている。一方、このレール部材8上をローラー1の軸方向に移動させることができるように、台部材7が設けられている。この台部材7には、ガイドバー6が取り付けられ、ガイドバー6のローラー1の軸先端方向末端にはハンドル部材9が、反対側のローラー1の軸根本方向には糸擦過部材4と、糸拡がり抑制部材5が取り付けられている。
【0022】
ここで、糸擦過部材4は、ハサミやカッターといった刃物などもあるが、ローラー1の表面の損傷等の影響を考えて、竹やプラスチック製ののへら、真ちゅう製のブラシ、アラミド繊維製の布などが好ましい。糸擦過部材4はガイドバー6に取り付けられ、着脱可能に取り付けることで交換することができる。
【0023】
糸拡がり抑制部材5は、ローラー1に押し付けた際ローラー1の表面を傷つけず、かつ巻付糸2を通さないよう、ゴム、発泡プラスチックといったクッション材もしくはナイロンなどのプラスチック、竹材などが好ましい。糸拡がり抑制部材5は糸擦過部材4の両サイドの位置にガイドバー6で取り付けられている。この両サイドの位置間隔は、巻付糸2と隣接糸3のピッチに随時合わせられるよう調整可能であることが好ましい。また糸拡がり抑制部材5も糸擦過部材4と同様に、着脱可能に取り付けることで交換することができる。
【0024】
糸擦過部材4と糸拡がり抑制部材5はガイドバー6に取り付けられ、ハンドル部材9をローラー1の軸方向に押し引きすることで、レール部材8上を一体に移動することができ、またハンドル部材9を回すことで、ガイドバー6、したがって、糸擦過部材4と糸拡がり抑制部材5をともに回動させることができる。
【0025】
今、図示するように矢印方向に回転しているローラー1に糸2が巻き付いたとする。糸2が巻き付くと、レール部材8にローラー1の軸先端方向から台部材7を載せ、ローラー1の軸に沿ってレール部材8上を移動させる。
【0026】
糸擦過部材4が巻付糸2の位置までくると、ハンドル部材9を矢印の方向に回して糸擦過部材4を巻付糸2に、同時に糸拡がり抑制部材5を巻付糸2と巻付糸隣接の走行糸3の間のローラー1表面に押し付ける。このときの押付力は、糸擦過部材4の種類等にもよるが、数kgから数十kg程度でよい。
【0027】
糸擦過部材4をローラー1に押し付けると、巻付糸2が糸擦過部材4に擦過されて単糸切れを起こし、自然落下あるいはローラー1の回転遠心力ではじかれてローラー1上から分離して除去される。その過程で巻付糸2が糸擦過部材4に圧迫され軸方向に拡がろうという現象が生じるが、隣接の糸3と干渉し巻付糸2を拡大してしまう前に、糸拡がり抑制部材5が巻付糸2の拡がりを物理的に遮断することが可能となる。
【0028】
除去作業が終わると、台部材7を引き戻し、レール部材8上から外す。すなわち、この台部材7は、常時はローラー1の軸端外に置かれており、巻付糸2を除去する必要があるときだけレール部材8上に載せられる。
【0029】
なお、レール部材8の方向にローラー1が多数併設されている場合において、1台の装置で多数のローラーに適用できる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明する。
【0031】
実施例1、比較例1
複数のアクリルニトリル繊維が100mmピッチの一定間隔で走行している直径φ300の回転ローラー1において、図2と同じ構成でローラー1の軸に並行するようにレール部材8が設けられ、そのレール部材8上をローラー1の軸方向に移動させることができるように、台部材7と直径φ8のガイドバー6が取り付けられている。またガイドバー6の軸先端方向にはハンドル部材9が、軸根本方向には糸擦過部材4のみ(比較例1)、もしくは糸擦過部材4と糸拡がり抑制部材5が取り付けられた。
巻付量が同じになるように、ローラーの回転を100m/minにし一定のまま、出側の走行糸切断→巻付開始→入側の巻付糸切断といった一過程の巻付時間を30秒とした巻付糸を40回作成し、糸擦過部材のみの場合と糸擦過部材と糸拡がり抑制部材を両方備えた場合とで巻付除去成功確率を20回ずつ比較した結果、比較例1の糸擦過部材のみの場合、隣接の糸との干渉が発生したため成功率が80%であったのに対し、糸擦過部材と糸拡がり抑制部材を両方備えた本発明実施例1の場合は100%であった。
【0032】
実施例2、比較例2
実施例1において、糸条のピッチを50mmにし、糸擦過部材のみの場合と糸擦過部材と糸拡がり抑制部材を両方備えた場合とで巻付除去成功確率を20回ずつ比較した結果、比較例2の糸擦過部材のみの場合、隣接の糸との干渉が発生したため成功率が65%であったのに対し、本発明実施例2の糸擦過部材と糸拡がり抑制部材を両方備えた場合は100%であった。
【0033】
実施例3、比較例3
さらに実施例2において、巻付時間を60秒にしたところ、比較例3の糸擦過部材のみの場合、隣接の糸との干渉が発生したため成功率が40%であったのに対し、本発明実施例3の糸擦過部材と糸拡がり抑制部材を両方備えた場合は100%であった。
【0034】
実施例4、比較例4
さらに実施例2において、ローラー回転数を200m/minにしたところ、比較例4の糸擦過部材のみの場合、隣接の糸との干渉が発生したため成功率が35%であったのに対し、本発明実施例4の糸擦過部材と糸拡がり抑制部材を両方備えた場合は100%であった。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施態様に係る巻付糸除去装置の概略図である。
【図2】本発明のもう一つの実施態様に係る巻付糸除去装置の概略図である。
【図3】従来の巻付糸除去装置の一実施態様の概略図である。
【符号の説明】
【0036】
1:ローラー
2:巻付糸
3,3‘:走行糸(3は巻付糸隣接の走行糸)
4:糸擦過部材
5:糸拡がり抑制部材
6:ガイドバー
7:台部材
8:レール部材
9:ハンドル部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
並行して走行する複数本の糸条を誘導するローラーに対し、そのローラーの回転中、糸擦過部材をローラーに巻き付いた糸に押し付けて巻付糸を除去する巻付糸の除去方法において、上記糸擦過部材をローラーに巻き付いた糸に押し付けつつ、ローラーに巻き付いた糸のローラー軸方向への拡がりを抑制することを特徴とする巻付糸の除去方法。
【請求項2】
ローラーに巻き付いた巻付糸に押し付けて擦過するための糸擦過部材を備えた巻付糸除去装置において、上記糸擦過部材による巻付糸の拡がりを抑制するための糸拡がり抑制部材を設けたことを特徴とする巻付糸の除去装置。
【請求項3】
前記糸擦過部材と前記糸拡がり抑制部材とが一体として、ローラーの軸端外からローラー軸方向に可動とする可動機構を備えてなることを特徴とする請求項2に記載の巻付糸の除去装置。
【請求項4】
前記可動機構が、前記糸擦過部材と前記糸拡がり抑制部材、およびそれらを連結させているガイドバーを一体として載架した台部材を、ローラー軸に並行するように設けたレール部材上に搭載したものであり、かつ上記ガイドバーは、押し引きすることでローラー軸端外からローラー軸方向に台部材を稼働させるとともに、回転させることで前記糸擦過部材と前記糸拡がり抑制部材をローラー表面に向かって移動させるものであることを特徴とする請求項2または3に記載の巻付糸の除去装置。
【請求項5】
糸拡がり部材が、ゴム、竹およびプラスチックからなる群から選ばれる少なくとも1種からなることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の巻付糸の除去装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−19076(P2008−19076A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−193737(P2006−193737)
【出願日】平成18年7月14日(2006.7.14)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)