説明

巻回型固体電解コンデンサ

【課題】 ESRが低く、静電容量が大きく、しかも高温条件下の使用での信頼性が高い巻回型固体電解コンデンサを提供する。
【解決手段】 アルミニウム箔の表面に誘電体層を形成した陽極とアルミニウム箔からなる陰極とをセパレータを介して巻回して作製したコンデンサ素子に、2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシンと、アルキル部分の炭素数が1〜4の2−アルキル−2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシンとのモル比が0.05:1〜1:0.1のモノマー混合物を、有機スルホン酸の存在下で重合してなり、上記有機スルホン酸をドーパントとして含む導電性高分子の層を形成し、該導電性高分子を固体電解質として巻回型固体電解コンデンサを構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ESR(等価直列抵抗)が低く、かつ静電容量が大きく、しかも高温条件下における信頼性が高い巻回型固体電解コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
導電性高分子は、その高い導電性により、例えば、タンタル固体電解コンデンサ、アルミニウム固体電解コンデンサ、ニオブ固体電解コンデンサなどの固体電解コンデンサの固体電解質として用いられている。
【0003】
この用途における導電性高分子としては、例えば、チオフェンまたはその誘導体などを化学酸化重合または電解酸化重合することによって得られたものが用いられている。
【0004】
上記チオフェンまたはその誘導体などの化学酸化重合を行う際のドーパントとしては、主として有機スルホン酸が用いられ、その中でも、芳香族スルホン酸が適しているといわれており、酸化剤としては、遷移金属が用いられ、その中でも第二鉄が適しているといわれていて、通常、芳香族スルホン酸の第二鉄塩がチオフェンまたはその誘導体などの化学酸化重合にあたって酸化剤兼ドーパントとして用いられている。
【0005】
上記チオフェンまたはその誘導体としては、これまで、得られる導電性高分子の導電性および耐熱性のバランスがとれていて有用性が高いという理由から、3,4−エチレンジオキシチオフェンが多用されてきた(特許文献1〜2)。
【0006】
しかしながら、導電性高分子を固体電解質として用いる固体電解コンデンサの技術革新は日進月歩であり、さらなる特性の向上が望まれていることから、導電性高分子に対しても、さらなる特性の向上が要望されている。
【0007】
そこで、導電性を高めるべく、3,4−エチレンジオキシチオフェンをアルキル基で修飾した3,4−アルキレンジオキシチオフェンを用いることが提案されている(特許文献3)。しかしながら、3,4−アルキレンジオキシチオフェンを用いた場合には、耐熱性の低下が大きく、固体電解コンデンサの固体電解質として用いたときに、得られる固体電解コンデンサの高温条件下における信頼性が低下する上に、ESRも高(悪)くなり、実用性を欠くという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−160647号公報
【特許文献2】特開2004−265927号公報
【特許文献3】特表2004−525946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記のような事情に鑑み、ESRが低く、かつ静電容量が大きく、しかも高温条件下における信頼性が高い巻回型固体電解コンデンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、アルミニウム箔の表面に誘電体層を形成した陽極とアルミニウム箔からなる陰極とをセパレータを介して巻回して作製したコンデンサ素子に、2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシンと、2−メチル−2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシン、2−エチル−2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシン、2−プロピル−2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシンおよび2−ブチル−2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシンよりなる群から選ばれる少なくとも1種の2−アルキル−2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシンとのモル比が0.05:1〜1:0.1のモノマー混合物を、有機スルホン酸の存在下で重合してなり、上記有機スルホン酸をドーパントとして含む導電性高分子の層を形成し、上記導電性高分子を固体電解質とするときは、上記導電性高分子が、導電性が高く、かつ耐熱性が優れていることから、ESRが低く、かつ静電容量が大きく、しかも高温条件下における信頼性が高い巻回型固体電解コンデンサが得られることを見出し、それに基づいて完成したものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ESRが低く、かつ静電容量が大きく、しかも高温条件下の使用での信頼性が高い巻回型固体電解コンデンサを提供することができる。これは、上記巻回型固体電解コンデンサにおいて、固体電解質として用いる導電性高分子が、導電性が高く、かつ耐熱性が優れていることに基づくものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の巻回型固体電解コンデンサの構成にあたって、固体電解質として用いる導電性高分子は、その原料となるモノマーとして、2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシンと、2−アルキル−2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシンが、2−メチル−2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシン、2−エチル−2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシン、2−プロピル−2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシンおよび2−ブチル−2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシンよりなる群から選ばれる少なくとも1種の2−アルキル−2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシンとをモル比で0.05:1〜1:0.1の混合比率で混合したモノマー混合物を用いるが、そのモノマー混合物におけるそれぞれのモノマーは、下記の一般式(1)で表される化合物に該当する。
【0013】
【化1】

(式中、Rは水素または炭素数1〜4のアルキル基である)
【0014】
そして、上記一般式(1)中のRが水素の化合物は、IUPAC名称で表示すると、上記のように「2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシン」であるが、この化合物は、IUPAC名称で表示されるよりも、一般名称の「エチレンジオキシチオフェン」で表示されることが多いので、本書では、以下、この「2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシン」を「エチレンジオキシチオフェン」と表示する。なお、この「エチレンジオキシチオフェン」は前出の「3,4−エチレンジオキシチオフェン」と同じものである。そして、一般式(1)中のRがメチル基の化合物は、IUPAC名称で表示すると、「2−メチル−2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシン(2−Methyl−2,3−dihydro−thieno〔3,4−b〕〔1,4〕dioxine)」であるが、以下、これを簡略化して「メチル化エチレンジオキシチオフェン」と表示する。一般式(1)中のRがエチル基の化合物は、IUPAC名称で表示すると、「2−エチル−2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシン(2−Ethyl−2,3−dihydro−thieno〔3,4−b〕〔1,4〕dioxine)」であるが、以下、これを簡略化して「エチル化エチレンジオキシチオフェン」と表示する。一般式(1)中のRがプロピル基の化合物は、IUPAC名称で表示すると、「2−プロピル−2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシン(2−Propyl−2,3−dihydro−thieno〔3,4−b〕〔1,4〕dioxine)」であるが、以下、これを簡略化して「プロピル化エチレンジオキシチオフェン」と表示する。そして、一般式(1)中のRがブチル基の化合物は、IUPAC名称で表示すると、「2−ブチル−2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシン(2−Butyl−2,3−dihydro−thieno〔3,4−b〕〔1,4〕dioxine)」であるが、以下、これを簡略化して「ブチル化エチレンジオキシチオフェン」と表示する。また、「2−アルキル−2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシン」を、以下、簡略化して「アルキル化エチレンジオキシチオフェン」で表わす。
【0015】
そして、上記モノマー混合物におけるエチレンジオキシチオフェン(すなわち、2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシン)とアルキル化エチレンジオキシチオフェン(すなわち、2−アルキル−2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシン)との混合比率を上記のようにモル比で0.05:1〜1:0.1にするのは、そうすることによって、得られる導電性高分子の導電性をモノマーとしてエチレンジオキシチオフェンのみを用いて合成した導電性高分子の導電性より高め、かつ得られる導電性高分子の耐熱性をモノマーとしてアルキル化エチレンジオキシチオフェンのみを用いて合成した導電性高分子の耐熱性より優れたものにすることができるからであり、モノマー混合物におけるエチレンジオキシチオフェンの比率が上記より少なくなると、耐熱性が悪くなり、エチレンジオキシチオフェンの比率が上記より多くなると、所望とする高導電性が得られなくなる。
【0016】
本発明において、このモノマー混合物におけるエチレンジオキシチオフェンと、アルキル化エチレンジオキシチオフェン誘導体との混合比率としては、モル比で0.1:1〜1:0.1が好ましく、0.2:1〜1:0.2がより好ましく、0.3:1〜1:0.3がさらに好ましい。
【0017】
特にエチレンジオキシチオフェンと混合して用いるアルキル化エチレンジオキシチオフェンとして、エチル化エチレンジオキシチオフェンやプロピル化エチレンジオキシチオフェンを用いるときは、得られる導電性高分子の導電性をエチル化エチレンジオキシチオフェンやプロピル化エチレンジオキシチオフェン由来の高い導電性とほぼ同等の高い導電性に向上させることができ、かつ、得られる導電性高分子の耐熱性をエチル化エチレンジオキシチオフェンやプロピル化エチレンジオキシチオフェン由来の低い耐熱性から大幅に向上させてエチレンジオキシチオフェン由来の優れた耐熱性にほぼ近付けさせることができ、それによって、導電性、耐熱性がハイレベルでバランスのとれた特性の優れた導電性高分子が得られるようになる。つまり、アルキル化エチレンジオキシチオフェンとしてエチル化エチレンジオキシチオフェンやプロピル化エチレンジオキシチオフェンを用いて、エチレンジオキシチオフェンと混合したモノマー混合物を重合させて得られる導電性高分子は、後記の参考例1〜7で示すように、モノマーとしてエチル化エチレンジオキシチオフェンやプロピル化エチレンジオキシチオフェンをそれぞれ単独で重合させて得られた導電性高分子とほぼ同等の高い導電性を有し、かつ、モノマーとしてエチレンジオキシチオフェン単独で重合させて得られた導電性高分子とほぼ同等の優れた耐熱性を有している。
【0018】
本発明において用いる導電性高分子のドーパントとなる有機スルホン酸としては、特に特定のものに限定されることはないが、例えば、ベンゼンスルホン酸またはその誘導体、ナフタレンスルホン酸またはその誘導体、アントラキノンスルホン酸またはその誘導体などの芳香族系スルホン酸や、ポリスチレンスルホン酸、スルホン化ポリエステル、フェノールスルホン酸ノボラック樹脂などの高分子スルホン酸が好適に用いられる。
【0019】
上記ベンゼンスルホン酸またはその誘導体におけるベンゼンスルホン酸誘導体としては、例えば、トルエンスルホン酸、エチルベンゼンスルホン酸、プロピルベンゼンスルホン酸、ブチルベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、メトキシベンゼンスルホン酸、エトキシベンゼンスルホン酸、プロポキシベンゼンスルホン酸、ブトキシベンゼンスルホン酸、フェノールスルホン酸、クレゾールスルホン酸、ベンゼンジスルホン酸などが挙げられ、ナフタレンスルホン酸またはその誘導体におけるナフタレンスルホン酸誘導体としては、例えば、ナフタレンジスルホン酸、ナフタレントリスルホン酸、メチルナフタレンスルホン酸、エチルナフタレンスルホン酸、プロピルナフタレンスルホン酸、ブチルナフタレンスルホン酸などが挙げられ、アントラキノンスルホン酸またはその誘導体におけるアントラキノンスルホン酸誘導体としては、例えば、アントラキノンジスルホン酸、アントラキノントリスルホン酸などが挙げられるが、これらの芳香族系スルホン酸としては、特に、トルエンスルホン酸、メトキシベンゼンスルホン酸、フェノールスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ナフタレントリスルホン酸が好ましい。
【0020】
導電性高分子を合成するにあたっての酸化重合は、化学酸化重合、電解酸化重合のいずれも採用することができ、それらの酸化重合は、水中または水と水混和性溶剤との混合物からなる水性液中で、あるいはアルコール系溶剤中で行われる。導電性高分子の合成を固体電解コンデンサの作製時に行う場合、モノマーは液状なので、モノマーをそのまま用いてもよいし、また、重合反応をよりスムーズに進行させるために、モノマーを、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アセトン、アセトニトリルなどの有機溶剤で希釈して有機溶剤溶液として用いてもよい。また、その際には、酸化剤兼ドーパントは、上記有機溶剤で液状にして用いることが好ましい。なお、以下の説明においては、主として、通常に導電性高分子を合成する場合について説明し、必要に応じ、固体電解コンデンサの作製時に導電性高分子を合成する場合について説明する。
【0021】
上記水性液を構成する水混和性溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトン、アセトニトリルなどが用いられ、これらの水混和性溶剤の水との混合割合としては、水性液全体中の50質量%以下が好ましい。
【0022】
上記のような水中または水性液中での酸化重合は、ドーパントとなる有機スルホン酸をイミダゾール塩などの有機塩にして用いる場合や酸化剤として過硫酸アンモニウムなどの過硫酸を用いる場合に適しているが、酸化剤として鉄などの遷移金属を用い、有機スルホン酸を金属塩として用いる場合には、酸化重合はアルコール系溶剤中で行うのが適している。上記のようなアルコール系溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどや、それらのアルコールにアセトン、アセトニトリルなどを添加したものなどが用いられる。
【0023】
化学酸化重合を行うにあたっての酸化剤としては、例えば、遷移金属や過硫酸塩などが用いられ、その遷移金属としては、鉄、銅、セリウム、クロム、マンガン、ルテニウム、亜鉛などが用いられるが、特に鉄が好ましく、過硫酸塩としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸カルシウム、過硫酸バリウムなどが用いられるが、特に過硫酸アンモニウムが好ましい。
【0024】
ドーパントとして、芳香族系スルホン酸を用いる場合、酸化剤として鉄を用い、酸化剤兼ドーパントとして芳香族系スルホン酸鉄を用いると、重合反応が速やかに進行するので、生産性が高く、かつ、コスト的にも安価であることから、特に好ましい。
【0025】
上記酸化剤兼ドーパントとして用いる芳香族系スルホン酸鉄において、その芳香族系スルホン酸と鉄とのモル比は、2.00:1〜2.95:1が好ましく、芳香族系スルホン酸の鉄に対するモル比が上記より少ない場合は、溶液中での芳香族系スルホン酸鉄の安定性が悪くなり、また、芳香族系スルホン酸の鉄に対するモル比が上記より多い場合は、反応速度が速くなりすぎて、得られる導電性高分子の導電性が悪くなるおそれがある。
【0026】
また、上記芳香族系スルホン酸鉄は、水、水性液または有機溶剤で液状にしておくことが、使用しやすいことから好ましく、また、そのような液中において、芳香族系スルホン酸鉄の濃度は30〜70質量%が好ましい。つまり、芳香族系スルホン酸鉄の濃度が30質量%より低い場合は、固体電解コンデンサに付着する導電性高分子量が少なくなるおそれがあり、また、芳香族系スルホン酸鉄の濃度が70質量%より高い場合は、粘度が高くなって、取扱性が悪くなるおそれがある。
【0027】
ドーパントとして、高分子スルホン酸を用いる場合は、酸化剤として過硫酸塩を用いることが適しているが、過硫酸塩は、例えば、フェノールスルホン酸、クレゾールスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、ナフタレントリスルホン酸、アントラキノンスルホン酸などの芳香族系スルホン酸と組み合せて用いることもできる。
【0028】
導電性高分子を合成するにあたっての化学酸化重合は、通常に導電性高分子を合成する場合と、固体電解コンデンサの作製時に導電性高分子を合成する場合のいずれにも適用でき、通常に導電性高分子を合成する場合の化学酸化重合時の温度は、5〜95℃が好ましく、重合時間は、1時間〜72時間が好ましい。そして、固体電解コンデンサの作製時に化学酸化重合により導電性高分子を合成する場合は、種々の条件によって、幅広い温度、重合時間が採用されていて、一般に、温度は0〜300℃、時間は1分〜72時間で化学酸化重合が行われる。
【0029】
電解酸化重合は、定電流でも定電圧でも行い得るが、例えば、定電流で電解酸化重合を行う場合、電流値としては0.05mA/cm〜10mA/cmが好ましく、上記範囲内で0.2mA/cm以上がより好ましく、定電圧で電解酸化重合を行う場合は、電圧としては0.5V〜10Vが好ましく、上記範囲内で、1.5V以上がより好ましい。電解酸化重合時の温度としては、5〜95℃が好ましく、10℃以上がより好ましく、30℃以下がより好ましい。また、重合時間としては、1時間〜72時間が好ましく、8時間以上がより好ましく、24時間以下がより好ましい。なお、電解酸化重合にあたっては、触媒として硫酸第一鉄または硫酸第二鉄を添加してもよい。
【0030】
上記のようにして得られる導電性高分子は、重合直後、水中または水性液中に分散した状態で得られ、酸化剤や触媒として用いた硫酸鉄塩やその分解物などを含んでいる。そこで、その不純物を含んでいる導電性高分子の水分散液を超音波ホモジナイザーや遊星ボールミルなどの分散機にかけて不純物を分散させた後、カチオン交換樹脂で金属成分を除去することが好ましい。このときの導電性高分子の粒径としては、100μm以下が好ましく、特に10μm以下が好ましい。その後、エタノール沈殿法、限外濾過法、陰イオン交換樹脂などにより、酸化剤や触媒の分解により生成した硫酸などをできるかぎり除去することが好ましい。
【0031】
上記のようにして得られた導電性高分子は、導電性が高く、かつ耐熱性が優れていることから、本発明の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサの固体電解質として用いるのに適していて、ESRが低く、かつ静電容量が大きく、しかも高温条件下における信頼性が高い巻回型固体電解コンデンサを提供することができる。
【0032】
本発明の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサを作製する場合、まず、上記のように、特定のモノマー混合物を用いて導電性高分子を合成し、それを水、水性液または有機溶剤で分散液の状態にし、その導電性高分子の分散液を上記巻回型アルミニウム固体電解コンデンサの作製に供してもよいし、また、これまでにも少し触れてきたように、巻回型アルミニウム固体電解コンデンサの作製時に、導電性高分子を合成して、それを固体電解質としてもよい。
【0033】
本発明において、上記特定のモノマー混合物を用いて合成した導電性高分子を巻回型アルミニウム固体電解コンデンサの固体電解質として用いる場合、上記導電性高分子を分散液にし、それを巻回型アルミニウム固体電解コンデンサの作製に供してもよいし、また、巻回型アルミニウム固体電解コンデンサの作製時に、上記特定の導電性高分子を合成して、それを固体電解質としてもよい。
【0034】
例えば、上記導電性高分子を分散液の状態で使用に供する場合、まず、アルミニウム箔の表面をエッチング処理した後、化成処理を行って誘電体層を形成した陽極にリード端子を取り付け、また、アルミニウム箔からなる陰極にリード端子を取り付け、それらのリード端子付き陽極と陰極とをセパレータを介して巻回してコンデンサ素子を作製し、そのコンデンサ素子を上記特定の導電性高分子の分散液に浸漬し、取り出して、乾燥した後、アルミニウム箔のエッチングにより形成された細孔に入っていない導電性高分子を取り除くため、純水に浸漬し、取り出した後、乾燥して、上記特定の導電性高分子からなる固体電解質層を形成したのち、外装材で外装して、巻回型アルミニウム固体電解コンデンサを作製することができる。
【0035】
そして、巻回型アルミニウム固体電解コンデンサの製造時に上記特定の導電性高分子を合成して、それを固体電解質とする場合、例えば、前記モノマー混合物を含む液中に前記コンデンサ素子を浸漬し、取り出し、その後、ドーパントとなる有機スルホン酸と酸化剤を含む液に浸漬し、取り出し、重合を行い、その後、水に浸漬し、取り出して、乾燥して、上記特定の導電性高分子からなる固体電解質層を形成し、その固体電解質層を有するコンデンサ素子を外装材で外装して、巻回型アルミニウム固体電解コンデンサを作製することができる。
【0036】
また、それらの固体電解コンデンサの作製時において、上記特定の導電性高分子で固体電解質を構成した後、さらにその固体電解質の上に他の導電性高分子で固体電解質を構成して巻回型固体電解コンデンサを作製してもよい。
【実施例】
【0037】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はそれらの実施例に例示のもののみに限定されることはない。なお、溶液や分散液などの濃度を示す%や純度を示す%は、特にその基準を付記しない限り質量基準による%である。また、実施例の説明に先立って、実施例などで用いるアルキル化エチレンジオキシチオフェン、つまり、プロピル化エチレンジオキシチオフェン、エチル化エチレンジオキシチオフェン、メチル化エチレンジオキシチオフェンおよびブチル化エチレンジオキシチオフェンの合成例を合成例1〜4で示し、モノマー混合物の調製例を調製例1〜14として示す。
【0038】
合成例1 プロピル化エチレンジオキシチオフェン(すなわち、2−プロピル−2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシン)の合成
次の1−(1)〜1−(3)の工程を経てプロピル化エチレンジオキシチオフェンを合成した。
【0039】
1−(1) ペンタン−1,2−ジイル−ビス(4−メチルベルゼンスルホネート)〔Pentane−1,2−diyl−bis(4−methylbenzen sulfonate)〕の合成
氷冷化、反応容器にトシルクロリド5.89kg(30モル)と1,2−ジクロロエタン7.30kgを入れ、容器内の温度が10℃になるまで撹拌し、その中にトリエチルアミン3.83kg(37.5モル)を滴下した。
【0040】
上記の混合物を撹拌しながら、容器内の温度が40℃を超えないようにしつつ、1、2−ペンタンジオール1.56kg(15モル)を60分かけて注意深く滴下した。容器内の温度を40℃に保ちながら混合物を6時間撹拌した。反応終了液を室温まで冷却し、水3kgを加えて撹拌し、その後、静置した。
【0041】
反応終了液を水相と有機相の2層に分け、有機層を濃縮して、黒赤色オイル状物を得た。氷冷下、反応容器に水とメタノールとの質量比1:2の混合物550gを入れて撹拌し、上記のようにして得た黒赤色オイル状物を滴下しながら撹拌し、沈殿する白色固体を濾取した。その白色固体を少量のメタノールで洗浄し、ついで乾燥して、生成物としてペンタン−1,2−ジイル−ビス(4−メチルベンゼンスルホネート)を3.77kg得た。固形分換算での収率は60%であった。
【0042】
1−(2) 2−プロピル−2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシン−5,7−ジカルボキシリックアシッド〔2−Propyl−2,3−dihydrothieno〔3,4−b〕〔1,4〕dioxine−5,7−dicarboxylic acid〕の合成
反応容器にジソジウム−2,5−ビス(アルコキシカルボニル)チオフェン−3,4−ジオレート〔Disodium−2,5−bis(alkoxycarbonyl)thiophene−3,4−diolate〕1.18kg(3.88モル)と、上記1−(1)のようにして得たペンタン−1,2−ジイル−ビス(4−メチルベンゼンスルホネート)2.80kg(6.79モル)と、炭酸カリウム107g(0.77モル)と、ジメチルホルムアミド5kgとを入れ、容器内の温度を120℃に保ちながら混合物を4時間撹拌した。
【0043】
反応終了液を濃縮し、残留した茶色固体に5%炭酸水素ナトリウム(NaHCO)水溶液5kgを入れ、室温で15分間撹拌して茶色固体を濾取した。
【0044】
反応容器に濾取した茶色固体と7%水酸化ナトリウム水溶液5.32kgを入れて、容器内の温度を80℃に保ちながら2時間撹拌した。
【0045】
容器内が室温になるまで冷却し、容器内の温度が30℃を超えないようにしながら、反応終了液に98%硫酸1.94kgを注意深く滴下し、容器内の温度を80℃に保ちながら2時間攪拌した。
【0046】
容器内が室温になるまで攪拌しながら冷却し、沈殿する灰色固体を濾取した。さらに、反応終了液を冷却して灰色固体を濾取した。それらの灰色固体を少量の水で洗浄した後、乾燥して、生成物として2−プロピル−2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシン−5,7−ジカルボキシリックアシッドを727g得た。固形分換算での収率は68%であった。
【0047】
1−(3) プロピル化エチレンジオキシチオフェンの合成
上記1−(2)のようにして得た2−プロピル−2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシン−5,7−ジカルボキシリックアシッド1.12kg(4.1モル)を反応容器内でジメチルホルムアミド1.2kgに溶解し、その中に酸化銅227gを加え、容器内の温度を125℃に保ちながら混合物を5.5時間攪拌した。
【0048】
ジメチルホルムアミドを濃縮し、エチレングリコール700gを入れて、混合物を内圧20hpaで、徐々に温度を上げながら蒸留し、水と初留を留出させ、エチレングリコールを含有する本留900gを留出させた。
【0049】
得られた本留に10%水酸化ナトリウム水溶液1kgを加え、容器内の温度を100℃に保ちながら2時間攪拌した後、静置した。
【0050】
2層に分れた溶液を分液し、そのうちの下層の黄色透明液体を目的物のプロピル化エチレンジオキシチオフェンとして180g得た。収率は24%であった。
【0051】
合成例2 エチル化エチレンジオキシチオフェン(すなわち、2−エチル−2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシン)の合成
次の2−(1)〜2−(3)の工程を経てエチル化エチレンジオキシチオフェンを合成した。
【0052】
2−(1) ブタン−1,2−ジイル−ビス(4−メチルベンゼンスルホネート)〔Butane−1,2−diyl−bis(4−methylbenzen sulfonate)〕の合成
氷冷下、反応容器にトシルクロリド14.25kg(73.28モル)と1,2−ジクロロエタン16kgを入れ、容器内の温度が10℃になるまで攪拌し、その中にトリエチルアミン9.36kg(91.6モル)を滴下した。
【0053】
上記の混合物を攪拌しながら、その混合物に容器内の温度が40℃を超えないようにしつつ1,2−ブタンジオール3.36kg(36.64モル)を60分間かけて注意深く滴下し、容器内の温度を40℃に保ちながら混合物を6時間攪拌した。反応終了液を室温まで冷却し、水5kgを加えて攪拌し、その後、静置した。
【0054】
反応終了液を水相と有機相の2層に分け、有機層を濃縮して、黒赤色オイル状物を得た。氷冷下、反応容器にメタノール1.25kgを入れて攪拌し、そこに上記のようにして得た黒赤色オイル状物を滴下しながら攪拌し、沈殿する白色固体を濾取した。その白色固体を少量のメタノールで洗浄した後、乾燥し、生成物としてブタン−1,2−ジイル−ビス(4−メチルベンゼンスルホネート)を12.05kg得た。固形分換算での収率は82%であった。
【0055】
2−(2) 2−エチル−2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシン−5,7−ジカルボキシリックアシッド〔2−Ethyl−2,3−dihydrothieno〔3,4−b〕〔1,4〕dioxine−5,7−dicarboxylic acid〕の合成
反応容器にジソジウム−2,5−ビス(アルコキシカルボニル)チオフェン−3,4−ジオレート250g(0.9モル)と、上記2−(1)のようにして得たブタン−1,2−ジイル−ビス(4−メチルベンゼンスルホネート)725g(1.82モル)と、炭酸カリウム29g(0.27モル)と、ジメチルアセトアミド1kgとを入れ、容器内の温度を125℃に保ちながら混合物を4時間攪拌した、
【0056】
反応終了液を濃縮し、残留した茶色固体に5%炭酸水素ナトリウム水溶液1.8kgを入れ、室温で15分攪拌して茶色固体を濾取した。
【0057】
反応容器に濾取した茶色固体と7%水酸化ナトリウム水溶液1.25kgを入れて、容器内の温度を80℃に保ちながら2時間攪拌した。
【0058】
容器内が室温になるまで冷却し、容器内の温度が30℃を超えないようにしつつ反応終了液に98%硫酸455gを注意深く滴下し、容器内の温度を80℃に保ちながら2時間攪拌した。
【0059】
容器内が室温になるまで攪拌しながら冷却し、沈殿する灰色固体を濾取した。さらに、反応終了液を冷却して灰色固体を濾取した。それらの灰色固体を少量の水で洗浄した後、乾燥し、生成物として2−エチル−2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシン−5,7−ジカルボキシリックアシッドを128g得た。固形分換算での収率は54%であった。
【0060】
2−(3) エチル化エチレンジオキシチオフェンの合成
上記2−(2)のようにして得た2−エチル−2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシン−5,7−ジカルボキシリックアシッド500g(1.94モル)を反応容器内でジメチルホルムアミド1kgに溶解し、そこへ酸化銅102gを加え、容器内の温度を125℃に保ちながら混合物を5.5時間攪拌した。
【0061】
ジメチルホルムアミドを濃縮し、エチレングリコール1.7kgを入れて、混合物を内圧20hpaで、徐々に温度を上げながら蒸留し、水と初留を留出させ、エチレングリコールを含有する本留1.82kgを留出させた。
【0062】
得られた本留に10%水酸化ナトリウム水溶液1kgを加え、容器内の温度を100℃に保ちながら2時間攪拌し、その後、静置した。2層に分れた溶液を分液し、そのうちの下層の黄色透明液体を目的物のエチル化エチレンジオキシチオフェンとして130g得た。収率は39%であった。
【0063】
合成例3 メチル化エチレンジオキシチオフェン(すなわち、2−メチル−2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシン)の合成
次の3−(1)〜3−(3)の工程を経てメチル化エチレンジオキシチオフェンを合成した。
【0064】
3−(1) プロパン−1,2−ジイル−ビス(4−メチルベンゼンスルホネート)〔Propane−1,2−diyl−bis(4−methylbenzen sulfonate)〕の合成
氷冷下、反応容器にトシルクロリド7.86kg(40モル)と1,2−ジクロロエタン7kgを入れ、容器内の温度が10℃になるまで攪拌し、その中にトリエチルアミン5.11kg(50モル)を滴下した。
【0065】
上記の混合物を攪拌しながら、その混合物に容器内の温度が40℃を超えないようにしつつ1,2−プロパンジオール1.55kg(20モル)を60分かけて注意深く滴下し、容器内の温度を40℃に保ちながら混合物を6時間攪拌した。
【0066】
反応終了液を室温まで冷却し、水4kgを加えて攪拌し、その後、静置した。反応終了液を水相と有機相の2層に分け、有機層を濃縮して、黒赤色オイル状物を得た。
【0067】
氷冷下、反応容器にメタノール500gを入れて攪拌し、そこに上記のようにして得た黒赤色オイル状物を滴下しながら攪拌し、沈殿する白色固体を濾取した。その白色固体を少量のメタノールで洗浄した後、乾燥して、生成物としてプロパン−1,2−ジイル−ビス(4−メチルベンゼンスルホネート)を3.87kg得た。固形分換算での収率は50%であった。
【0068】
3−(2) 2−メチル−2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシン−5,7−ジカルボキシリックアシッド〔2−Methyl−2,3−dihydrothieno〔3,4−b〕〔1,4〕dioxine−5,7−dicarboxylic aced〕の合成
反応容器にジソジウム−2,5−ビス(アルコキシカルボニル)チオフェン−3,4−ジオレート508g(1.67モル)と、上記3−(1)のようにして得たプロパン−1,2−ジイル−ビス(4−メチルベンゼンスルホネート)960g(2.5モル)と、炭酸カリウム46g(0.33モル)と、ジメチルホルムアミド2.5kgとを入れ、容器内の温度を120℃に保ちながら混合物を4時間攪拌した。
【0069】
反応終了液を濃縮し、残留した茶色固体に5%炭酸水素ナトリウム水溶液3.7kgを入れ、室温で15分間攪拌して茶色固体を濾取した。反応容器に濾取した茶色固体と7%水酸化ナトリウム水溶液2.47kgを入れて、容器内の温度を80℃に保ちながら2時間攪拌した。
【0070】
容器内が室温になるまで冷却し、容器内の温度が30℃を超えないようにしつつ反応終了液に98%硫酸759gを注意深く滴下し、容器内の温度を80℃に保ちながら2時間攪拌した。
【0071】
容器内が室温になるまで攪拌しながら冷却し、沈殿する灰色固体を濾取した。さらに、反応終了液を冷却して灰色固体を濾取した。それらの灰色固体を少量の水で洗浄した後、乾燥して、生成物として2−メチル−2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシン−5,7−ジカルボキシリックアシッドを310g得た。固形分換算での収率は76%であった。
【0072】
3−(3) メチル化エチレンジオキシチオフェン(2−メチル−2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシン)の合成
上記3−(2)のようにして得た2−メチル−2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシン−5,7−ジカルボキシリックアシッド880g(3.6モル)を反応容器内で3kgのポリエチレングリコール300(林純薬工業社製)に溶解し、酸化銅176gを加え、混合物を内圧20hpaで、徐々に温度を上げながら蒸留し、水と初留を留出させ、ポリエチレングリコール300を含有する本留に水400gを加えて攪拌し、静置した。
【0073】
2層に分れた溶液を分液し、そのうちの下層の黄色透明液体を生成物のメチル化エチレンジオキシチオフェンとして343g得た。収率は60%であった。
【0074】
合成例4 ブチル化エチレンジオキシチオフェン(すなわち、2−ブチル−2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシン)の合成
次の4−(1)〜4−(3)の工程を経てブチル化エチレンジオキシチオフェンを合成した。
【0075】
4−(1) ヘキサン−1,2−ジイル−ビス(4−メチルベンゼンスルホネート)〔Hexane−1,2−diyl−bis(4−methylbenzen sulfonate)〕の合成
氷冷下、反応容器にトシルクロリド5.89kg(30モル)と1,2−ジクロロエタン7.3kgを入れ、容器内の温度が10℃になるまで攪拌し、その中にトリエチルアミン3.83kg(37.5モル)を滴下した。
【0076】
上記の混合物を攪拌しながら、その混合物に容器内の温度が40℃を超えないようにしつつ1,2−ヘキサンジオール1.77kg(15モル)を60分かけて注意深く滴下し、容器内の温度を40℃に保ちながら混合物を6時間攪拌した。
【0077】
反応終了液を室温まで冷却し、水3kgを加えて攪拌し、その後、静置した。反応終了液を水相と有機相の2層に分け、有機層を濃縮して、黒赤色オイル状物を得た。
【0078】
氷冷下、反応容器に水とメタノールとの質量比1:2の混合液550gを入れて攪拌し、そこに上記のようにして得た黒赤色オイル状物を滴下しながら攪拌し、沈殿する白色固体を濾取した。その白色固体を少量のメタノールで洗浄した後、乾燥して、生成物としてヘキサン−1,2−ジイル−ビス(4−メチルベンゼンスルホネート)を3.52kg得た。固形分換算での収率は55%であった。
【0079】
4−(2) 2−ブチル−2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシン−5,7−ジカルボキシリックアシッド〔2−Butyl−2,3−dihydrothieno〔3,4−b〕〔1,4〕dioxine−5,7−dicarboxylic acid〕の合成
反応容器にジソジウム−2,5−ビス(アルコキシカルボニル)チオフェン−3,4−ジオレート1.18kg(3.88モル)と、上記4−(1)のようにして得たヘキサン−1,2−ジイル−ビス(4−メチルベンゼンスルホネート)2.9kg(6.79モル)と、炭酸カリウム107g(0.77モル)と、ジメチルホルムアミド5kgとを入れ、容器内の温度を120℃に保ちながら混合物を4時間攪拌した。
【0080】
反応終了液を濃縮し、残留した茶色固体に5%炭酸水素ナトリウム水溶液5kgを入れ、室温で15分間攪拌して茶色固体を濾取した。反応容器に濾取した茶色固体と7%水酸化ナトリウム水溶液5.32kgを入れて、容器内の温度を80℃に保ちながら2時間攪拌した。
【0081】
容器内が室温になるまで冷却し、容器内の温度が30℃を超えないようにしつつ反応終了液に98%硫酸759gを注意深く滴下し、容器内の温度を80℃に保ちながら2時間攪拌した。
【0082】
容器内が室温になるまで攪拌しながら冷却し、沈殿する灰色固体を濾取した。さらに、反応終了液を冷却して灰色固体を濾取した。それらの灰色固体を少量の水で洗浄した後、乾燥して、生成物として2−ブチル−2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシン−5,7−ジカルボキシリックアシッドを689g得た。固形分換算での収率は62%であった。
【0083】
4−(3) ブチル化エチレンジオキシチオフェンの合成
上記4−(2)のようにして得た2−ブチル−2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシン−5,7−ジカルボキシリックアシッド1.18kg(4.11モル)を反応容器内で1.2kgのジメチルホルムアミドに溶解し、酸化銅227gを加え、容器内の温度を125℃に保ちながら、混合物を5.5時間攪拌した。
【0084】
次に、上記ジメチルホルムアミドを濃縮し、エチレングリコール700gを入れて、反応混合物を内圧20hpaで、徐々に温度を上げながら蒸留し、水と初留を留出させ、エチレングリコールを含有する本留900gを留出させた。
【0085】
得られた本留に10%水酸化ナトリウム水溶液を加え、容器内の温度を100℃に保ちながら2時間攪拌し、その後、静置した。
【0086】
2層に分れた溶液を分液し、そのうちの下層の黄色透明液体を生成物のブチル化エチレンジオキシチオフェンとして130g得た。収率は16%であった。
【0087】
調製例1
合成例1で得たプロピル化エチレンジオキシチオフェン(つまり、2−プロピル−2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシン)とエチレンジオキシチオフェン(つまり、2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシン)とをモル比0.3:1で混合してモノマー混合物を調製した。
【0088】
調製例2
合成例1で得たプロピル化エチレンジオキシチオフェンとエチレンジオキシチオフェンとをモル比1:1で混合してモノマー混合物を調製した、
【0089】
調製例3
合成例1で得たプロピル化エチレンジオキシチオフェンとエチレンジオキシチオフェンとをモル比1:0.3で混合してモノマー混合物を調製した。
【0090】
調製例4
合成例2で得たエチル化エチレンジオキシチオフェン(つまり、2−エチル−2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシン)とエチレンジオキシチオフェンとをモル比0.3:1で混合してモノマー混合物を調製した。
【0091】
調製例5
合成例2で得たエチル化エチレンジオキシチオフェンとエチレンジオキシチオフェンとをモル比1:1で混合してモノマー混合物を調製した。
【0092】
調製例6
合成例2で得たエチル化エチレンジオキシチオフェンとエチレンジオキシチオフェンとをモル比1:0.3で混合してモノマー混合物を調製した。
【0093】
調製例7
合成例1で得たプロピル化エチレンジオキシチオフェンと合成例2で得たエチル化エチレンジオキシチオフェンとエチレンジオキシチオフェンとをモル比0.5:0.5:1で混合してモノマー混合物を調製した。
【0094】
調製例8
合成例3で得たメチル化エチレンジオキシチオフェンとエチレンジオキシチオフェンとをモル比0.3:1で混合してモノマー混合物を調製した。
【0095】
調製例9
合成例3で得たメチル化エチレンジオキシチオフェン(つまり、2−メチル−2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシン)とエチレンジオキシチオフェンとをモル比1:1で混合してモノマー混合物を調製した。
【0096】
調製例10
合成例3で得たメチル化エチレンジオキシチオフェンとエチレンジオキシチオフェンとをモル比1:0.3で混合してモノマー混合物を調製した。
【0097】
調製例11
合成例4で得たブチル化エチレンジオキシチオフェン(つまり、2−ブチル−2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシン)とエチレンジオキシチオフェンとをモル比1:1で混合してモノマー混合物を調製した、
【0098】
調製例12
合成例4で得たブチル化エチレンジオキシチオフェンとエチレンジオキシチオフェンとをモル比0.1:1で混合してモノマー混合物を調製した。
【0099】
調製例13
合成例4で得たブチル化エチレンジオキシチオフェンと合成例1で得たプロピル化エチレンジオキシチオフェンとエチレンジオキシチオフェンとをモル比0.05:0.05:1で混合してモノマー混合物を調製した。
【0100】
調製例14
合成例2で得たエチル化エチレンジオキシチオフェンとエチレンジオキシチオフェンとをモル比1:0.1で混合してモノマー混合物を調製した。
【0101】
参考例1〜10および比較例1〜4
この参考例1〜10および比較例1〜4では、導電性高分子を合成(製造)して、その特性を評価する。
【0102】
酸化剤兼ドーパントとして、濃度が40%のパラトルエンスルホン酸鉄n−ブタノール溶液(テイカ社製、上記パラトルエンスルホン酸鉄におけるパラトルエンスルホン酸と鉄とのモル比は2.8:1である)を用い、上記のように調製した調製例1〜10のモノマー混合物、エチレンジオキシチオフェンおよび合成例1〜3で得たアルキル化エチレンジオキシチオフェン(すなわち、合成例1はプロピル化エチレンジオキシチオフェン、合成例2はエチル化エチレンジオキシチオフェン、合成例3はメチル化エチレンジオキシチオフェン)のそれぞれ60μlに、上記40%パラトルエンスルホン酸鉄n−ブタノール溶液をそれぞれ500μlずつ添加し、充分かき混ぜることにより、モノマーの化学酸化重合を開始させ、それらを直ちに、3cm×5cmのセラミックプレート上に180μl滴下した、そして、相対湿度60%、温度25℃で3時間重合させた後、上記セラミックプレートを水中に浸漬して洗浄し、150℃で24時間乾燥してセラミックプレート上にドーパントとしてパラトルエンスルホン酸を含む導電性高分子をシート状に形成した。
【0103】
次に上記セラミックプレート上の導電性高分子シートに1.5トンの荷重をかけたまま5分間静置してシートにかかる圧力を均等にした後、該導電性高分子の導電率を4探針方式の測定器(三菱化学社製MCP−T600)により測定した。その結果を表1に示す。
【0104】
また、上記導電率測定後の参考例1〜10および比較例1〜4の導電性高分子シートを150℃の恒温槽中に静置状態で貯蔵し、48時間経過後の導電率を測定し、導電率の保持率を求めた。その結果も表1に示す。なお、表1には、導電性高分子の合成にあたって用いたモノマーも示しているが、その種類を示すにあたっては、スペース上の関係で、簡略化して、参考例1〜10では調製例番号で示し、比較例2〜4では合成例番号で示している。ただし、比較例1でモノマーとして用いたエチレンジオキシチオフェンについては、調製例番号や合成例番号がないので、「EDOT」と簡略化して示している。
【0105】
なお、導電率の保持率は、経時後の導電率を初期導電率(150℃の恒温槽中での貯蔵前に測定した導電率)で割り、パーセント(%)で表示したものである。これを式で表すと、次のようになる。保持率の高い方が、熱に対する導電率の低下が起こりにくいことになり、耐熱性が優れていることを示す。
【0106】
【数1】

【0107】
【表1】

【0108】
表1に示すように、参考例1〜10の導電性高分子は、比較例1の導電性高分子に比べて、高い導電率を有し、導電性が高く、また、比較例2〜4の導電性高分子に比べて、導電率の保持率が高く、耐熱性が優れていた。すなわち、モノマーとして調製例1〜10で調製したアルキル化エチレンジオキシチオフェン(つまり、2−アルキル−2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシン)とエチレンジオキシチオフェン(つまり、2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシン)との混合物を用いて合成した参考例1〜10の導電性高分子は、モノマーとしてEDOT、つまり、モノマーとしてエチレンジオキシチオフェンを単独で用いて合成した比較例1の導電性高分子に比べて、高い導電率を有し、導電性が高く、また、モノマーとして合成例1〜3で得たアルキル化エチレンジオキシチオフェンをそれぞれ単独で用いて合成した比較例2〜4の導電性高分子に比べて、導電率の保持率が高く、耐熱性が優れていた。
【0109】
特にモノマーとして調製例1〜7のモノマー混合物、すなわち、モノマーとしてプロピル化エチレンジオキシチオフェンとエチレンジオキシチオフェンとの混合物(調製例1〜3)、エチル化エチレンジオキシチオフェンとエチレンジオキシチオフェンとの混合物(調製例4〜6)およびプロピル化エチレンジオキシチオフェンとエチル化エチレンジオキシチオフェンとエチレンジオキシチオフェンとの3種混合物(調製例7)を用いて合成した参考例1〜7の導電性高分子は、モノマーとしてプロピル化エチレンジオキシチオフェンを単独で用いて合成した比較例2の導電性高分子やモノマーとしてエチル化エチレンジオキシチオフェンを単独で用いて合成した比較例3の導電性高分子とほぼ同等の高い導電率を有し、また、モノマーとしてエチレンジオキシチオフェンを単独で用いて合成した比較例1の導電性高分子とほぼ同等の優れた導電率の保持率を有していて、プロピル化エチレンジオキシチオフェンやエチル化エチレンジオキシチオフェン由来の高い導電率をほぼ維持し、また、エチレンジオキシチオフェン由来の優れた耐熱性をほぼ維持していた。
【0110】
参考例11〜20および比較例5〜8
この参考例11〜20および比較例5〜8では、タンタル固体電解コンデンサを作製し、そのタンタル固体電解コンデンサで特性を評価する。
【0111】
タンタル焼結体を濃度が0.1%のリン酸水溶液に浸漬した状態で、該タンタル焼結体に20Vの電圧を印加することによって化成処理を行い、タンタル焼結体の表面に誘電体層となる酸化被膜を形成してコンデンサ素子とした、次に上記調製例1〜10で調製したモノマー混合物、エチレンジオキシチオフェンおよび合成例1〜3で得たアルキル化エチレンジオキシチオフェンをそれぞれエタノールで希釈して、濃度を25v/v%に調整したそれぞれの溶液に上記コンデンサ素子を浸漬し、1分後に取り出し、5分間放置した。
【0112】
その後、あらかじめ用意しておいた濃度が40%のパラトルエンスルホン酸鉄エタノール溶液(上記パラトルエンスルホン酸は酸化剤兼ドーパントであって、上記パラトルエンスルホン酸鉄におけるパラトルエンスルホン酸と鉄のモル比は2.8:1である)に浸漬し、30秒後に取り出し、室温で80分間放置して重合を行った。その後、純水中に上記のように形成した導電性高分子層を有するコンデンサ素子を浸漬し、30分間放置した後、取り出して70℃で30分間乾燥した。この操作を15回繰り返した後、カーボンペースト、銀ペーストで導電性高分子からなる固体電解質層を覆い、外装材で外装してタンタル固体電解コンデンサを作製した。
【0113】
上記のように作製した参考例11〜20および比較例5〜8のタンタル固体電解コンデンサについて、そのESRおよび静電容量を測定した。その結果を表2に示す。なお、ESRおよび静電容量の測定方法は以下に示す通りである。ESRの測定にはHEWLETT PACKARD社製のLCRメーター(4284A)を用い、25℃、100kHzでESRを測定し、静電容量の測定にはHEWLETT PACKARD社製のLCRメーター(4284A)を用い、25℃、120Hzで静電容量を測定した。それらの測定は、各試料とも、10個ずつについて行い、表2に示すESR値および静電容量値は、それら10個の平均値を求め、小数点以下を四捨五入して示したものである。
【0114】
【表2】

【0115】
また、上記特性測定後の参考例11〜20および比較例5〜8のタンタル固体電解コンデンサ(以下、これら参考例11〜20および比較例5〜8の「タンタル固体電解コンデンサ」に関して簡略化して「コンデンサ」という)を150℃の恒温槽中に静置状態で貯蔵し、100時間後に、前記と同様に、ESRおよび静電容量の測定を行った。その結果を表3に示す。
【0116】
【表3】

【0117】
表2に示すように、参考例11〜20のコンデンサは、比較例5のコンデンサに比べて、ESRが低く、コンデンサとしての特性が優れていた。すなわち、モノマーとして調製例1〜10で調製したアルキル化エチレンジオキシチオフェンとエチレンジオキシチオフェンとの混合物を用いて合成した導電性高分子を固体電解質とする参考例11〜20のコンデンサは、モノマーとしてエチレンジオキシチオフェンを単独で用いて合成した導電性高分子を固体電解質とする比較例5のコンデンサに比べて、ESRが低く、コンデンサとしての特性が優れていた。これは、参考例11〜20のコンデンサの固体電解質として用いられている導電性高分子が、比較例5のコンデンサの固体電解質として用いられている導電性高分子に比べて、導電率が高いことに基づくものと考えられる。
【0118】
なお、比較例6〜8のコンデンサの固体電解質として用いられている導電性高分子は、モノマーとして合成例1〜3で得たアルキル化エチレンジオキシチオフェンをそれぞれ単独で用いて合成されたものであって、比較例5のコンデンサの固体電解質として用いられている導電性高分子に比べて、前記表1で示すように導電率が高いにもかかわらず、比較例6〜8のコンデンサは、表2に示すように、比較例5のコンデンサより、ESRが大きくなっていた。これはコンデンサの作製にあたって、導電性高分子を何層も積層して固体電解質層を形成していくが、比較例6〜8のコンデンサは、比較例5のコンデンサに比べて、その固体電解質層の形成時の導電性高分子層間の接触抵抗が高かったことに基づくものと考えられる。
【0119】
また、参考例11〜20のコンデンサが、比較例6〜8のコンデンサと同様に、固体電解質層を構成する導電性高分子がモノマーとしてアルキル化エチレンジオキシチオフェンを含んで合成されたものであるにもかかわらず、比較例6〜8のコンデンサよりESRが小さいのは、参考例11〜20のコンデンサの場合は、固体電解質層を構成する導電性高分子がモノマーとしてエチレンジオキシチオフェンを含んで合成されたものであるため、そのエチレンジオキシチオフェンに基づく部分が導電性高分子層を積層して固体電解質層を形成する際の接触抵抗を低下させたことによるものと考えられる。
【0120】
また、表3に示すように、参考例11〜20のコンデンサは、比較例6〜8のコンデンサに比べて、高温での貯蔵によるESRの増加が少なく、耐熱性が優れていた。
【0121】
実施例21〜34および比較例9〜13
この実施例21〜34および比較例9〜13では、巻回型アルミニウム固体電解コンデンサを作製し、その巻回型アルミニウム固体電解コンデンサで特性を評価する。
【0122】
アルミニウム箔の表面をエッチング処理した後、化成処理を行って誘電体層を形成した陽極にリード端子を取り付け、また、アルミニウム箔からなる陰極にリード端子を取り付け、それらのリード端子付き陽極と陰極とをセパレータを介して巻回して、コンデンサ素子を作製した。
【0123】
次に調製例1〜14のモノマー混合物、エチレンジオキシチオフェンおよび合成例1〜4のアルキル化エチレンジオキシチオフェンをそれぞれエタノールで希釈し、濃度を30v/v%に調整したそれぞれの溶液に上記コンデンサ素子を浸漬し、取り出した後、濃度が63%のパラトルエンスルホン酸鉄エタノール溶液(上記パラトルエンスルホン酸鉄のパラトルエンスルホン酸と鉄のモル比は2.8:1である)に、上記コンデンサ素子をそれぞれ別々に浸漬し、取り出した後、60℃で2時間加熱した後、150℃で2時間加熱し、最後に180℃で1時間加熱することによって、モノマーを重合させて導電性高分子からなる固体電解質層を形成した。これを外装材で外装して、巻回型アルミニウム固体電解コンデンサを作製した。
【0124】
上記のようにして作製した実施例21〜34および比較例9〜13の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサについて、前記参考例11と同様に、ESRおよび静電容量を測定し、かつ、漏れ電流を測定し、漏れ電流不良の発生を調べた。その結果を表4に示す。なお、漏れ電流の測定方法および漏れ電流不良発生の評価方法は次の通りである。
【0125】
漏れ電流:
巻回型アルミニウム固体電解コンデンサに、25℃で16Vの定格電圧を60秒間印加した後、デジタルオシロスコープにて漏れ電流を測定した。
漏れ電流不良の発生:
上記漏れ電流の場合と同様に漏れ電流を測定し、漏れ電流が100μA以上のものは漏れ電流不良が発生していると判断した。
【0126】
なお、測定は、各試料とも、20個ずつについて行い、ESRおよび静電容量に関して表4に示す数値は、その20個の平均値を求め、小数点以下を四捨五入して示したものである。また、この漏れ電流不良の発生の有無を調べた結果の表4への表示にあたっては、試験に供した全コンデンサ個数を分母に示し、漏れ電流不良の発生があったコンデンサ個数を分子に示す態様で「漏れ電流不良発生個数」として表示する。
【0127】
また、上記特性測定後の実施例21〜34および比較例9〜13の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサを150℃の恒温槽中に静置状態で貯蔵し、100時間後に、前記と同様に、ESRおよび静電容量の測定を行った。その結果を表5に示す。
【0128】
【表4】

【0129】
【表5】

【0130】
表4に示すように、実施例21〜34の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサ(以下、「巻回型アルミニウム固体電解コンデンサ」に関して簡略化して「コンデンサ」という)は、比較例9のコンデンサに比べて、ESRが低く(小さく)、かつ静電容量が大きく、コンデンサとしての特性が優れていた。すなわち、モノマーとして調製例1〜14で調製したアルキル化エチレンジオキシチオフェンとエチレンジオキシチオフェンとの混合物を用いて合成した導電性高分子を固体電解質とする実施例21〜34のコンデンサは、モノマーとしてエチレンジオキシチオフェンを単独で用いて合成した導電性高分子を固体電解質とする比較例9のコンデンサに比べて、ESRが低く、かつ静電容量が大きく、コンデンサとしての特性が優れていた。このように、実施例21〜34のコンデンサが比較例9のコンデンサよりESRが低かったのは、実施例21〜34のコンデンサの固体電解質として用いられている導電性高分子が、比較例9のコンデンサの固体電解質として用いられている導電性高分子に比べて、導電率が高いことに基づくものと考えられる。また、実施例21〜34のコンデンサが比較例9のコンデンサより静電容量が大きかったのは、実施例21〜34のコンデンサの固体電解質として用いられている導電性高分子が、アルキル化エチレンジオキシチオフェンを含んだモノマー混合物を用いて合成されたものであって、その重合時にアルキル化エチレンジオキシチオフェンが重合速度を遅くさせ、アルミニウム箔のエッチング孔の内部にまで充分に染み込んだことによるものと考えられる。また、モノマーとしてエチレンジオキシチオフェンを単独で用いて合成した導電性高分子を固体電解質とする比較例9のコンデンサでは、漏れ電流不良が発生したが、実施例21〜34のコンデンサには、そのような漏れ電流不良の発生がなかった。
【0131】
そして、表5に示すように、実施例21〜34のコンデンサは、比較例10〜13のコンデンサに比べて、高温での貯蔵によるESRの増加が少なく、耐熱性が優れていた。つまり、実施例21〜34のコンデンサは、モノマーとして合成例1〜4で得たアルキル化エチレンジオキシチオフェンをそれぞれ単独で用いて合成した導電性高分子を固体電解質とする比較例10〜13のコンデンサに比べて、高温での貯蔵によるESRの増加が少なく、耐熱性が優れていた。
【0132】
また、上記実施例21〜34および比較例9〜13のコンデンサのうち、実施例22、実施例24、実施例27、実施例29、実施例31、実施例34および比較例9のコンデンサについて、破壊電圧試験を行った結果を表6に示す。なお、上記破壊電圧試験は、それぞれのコンデンサに対し、1V/秒の速度で電圧をかけていき、電流が0.5Aを超えたところの数値を読み取って、それを破壊電圧とした。表6に示す試験結果は、それぞれのコンデンサについて5個ずつ試験を行い、その5個の平均値を求め、小数点以下を四捨五入して示したものである。
【0133】
【表6】

【0134】
表6に示すように、実施例22、24、27、29、31、34のコンデンサは、比較例9のコンデンサより、破壊電圧が高く、高電圧に耐え得ることを示していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム箔の表面に誘電体層を形成した陽極とアルミニウム箔からなる陰極とをセパレータを介して巻回して作製したコンデンサ素子に、2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシンと、2−メチル−2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシン、2−エチル−2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシン、2−プロピル−2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシンおよび2−ブチル−2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシンよりなる群から選ばれる少なくとも1種の2−アルキル−2,3−ジヒドロ−チエノ〔3,4−b〕〔1,4〕ジオキシンとのモル比が0.05:1〜1:0.1のモノマー混合物を、有機スルホン酸の存在下で重合してなり、上記有機スルホン酸をドーパントとして含む導電性高分子の層を形成し、上記導電性高分子を固体電解質とすることを特徴とする巻回型固体電解コンデンサ。
【請求項2】
重合が、化学酸化重合であることを特徴とする請求項1記載の巻回型固体電解コンデンサ。
【請求項3】
有機スルホン酸が、芳香族系スルホン酸であって、化学酸化重合に用いる酸化剤兼ドーパントが、芳香族系スルホン酸鉄であることを特徴とする請求項2記載の巻回型固体電解コンデンサ。
【請求項4】
芳香族系スルホン酸鉄の芳香族系スルホン酸と鉄とのモル比が、2.00:1〜2.95:1であることを特徴とする請求項3記載の巻回型固体電解コンデンサ。
【請求項5】
芳香族系スルホン酸鉄が、パラトルエンスルホン酸鉄およびメトキシベンゼンスルホン酸鉄よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項3または4記載の巻回型固体電解コンデンサ。

【公開番号】特開2012−169681(P2012−169681A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−134406(P2012−134406)
【出願日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【分割の表示】特願2011−544230(P2011−544230)の分割
【原出願日】平成22年11月16日(2010.11.16)
【出願人】(000215800)テイカ株式会社 (108)