説明

巻胴式エレベータの戸開走行防止システム

【課題】戸の開放を検知して調速機を動作して非常止め装置によりかごの戸開走行を防止すること。
【解決手段】 調速機9のレバー42に接続されてレバー42を変位するアクチュエータ54と、乗り場戸14、かご戸4の開放を少なくとも一つを検知すると共に、開放の検知に基づいてアクチュエータ54を動作する戸開放検知部100と、を備え、アクチュエータ54の動作に基づいてレバー42を介してラッチ部29をラチェット30に係合して非常止め装置7を動作する、ものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻胴式エレベータの戸開走行防止システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
エレベータの戸開走行を防止するために、制動装置の二重化が導入されつつある。殊に、既設の巻胴式エレベータの制動装置を二重化するには、巻上機ブレーキを二重化したり、かご、ドラム、ロープのどれかに作用する別の制動装置を付加したりしなければならない。
しかし、巻上機ブレーキを二重化したり、かご、ドラムに新たにブレーキ追加したりすることは極めて困難である。
上記二重化を図るに当たり、下記文献1に示すようなロープブレーキを用いてロープを制動する手段が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第5228540号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記ロープブレーキはロープを挟持する板部材を備え、該板部材にロープを通過するための溝が設けられている。このため、巻胴式エレベータのように、ロープがドラムの溝にそって移動すると、該ロープの位置がドラムの溝に沿って移動するので、上記板部材の溝によってロープを案内できなくなる。したがって、上記ロープブレーキを巻胴式エレベータには適用することができないという課題を有している。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、かごの戸等の開放を検知して調速機を動作して非常止め装置によりかごの戸開走行を防止する巻胴式エレベータの戸開走行防止システムを得ることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る巻胴式エレベータの戸開走行防止システムは、かごの下降を非常停止させる非常止め装置と、前記かごに連結された調速機ロープと、前記かごが停止する乗場に設けられた乗り場戸と、前記かごに設けられたかご戸とを有する巻胴式エレベータにおいて、 前記調速機ロープにより綱車が回転し、この回転によって作用する遠心力により外方に拡がるフライウエイトで、前記かごの速度が設定値を越えたとき前記かごの下降を前記非常止め装置により止める調速機を備え、該調速機は、前記かごの下降速度が予め設定された過速度に達したときに前記綱車と共に、回転するラチェットと、該ラチェットに係合するラッチ部と、前記ラチェットを回転したとき前記調速機ロープを制動するシューと、待機位置と、前記フライウエイトを回動して前記ラッチ部を前記ラチェットに係合する係合位置との間で変位可能に形成したレバーと、前記レバーに接続されて前記レバーを変位するアクチュエータと、前記乗り場戸、前記かご戸の開放を少なくとも一つを検知すると共に、前記開放の検知に基づいて前記アクチュエータを動作する戸開放検知手段と、を備え、前記アクチュエータを動作に基づいて前記レバーを介して前記ラッチ部を前記ラチェットに係合して前記非常止め装置を動作する、ことを特徴とするものである。
本発明の巻胴式エレベータの戸開走行防止システムによれば、戸開放検知手段が乗り場戸、かご戸の開放を少なくとも一つ検知してアクチュエータを動作すると、アクチュエータの動作に基づいてレバーを介してラッチ部をラチェットに係合して非常止め装置を動作してかごを停止する。したがって、戸の開放で調速機を介して非常止め装置を動作するようにしたので、かごの戸開走行を簡易に防止できる。
【0007】
本発明に係る巻胴式エレベータの戸開走行防止システムにおける戸開放検知手段は、戸の開放を一定時間検知することにより戸の開放を検知する、ことが好ましい。
戸開放検知手段の戸の開放を例えば、スイッチにより検知しようとすると、スイッチの接触不良等による誤動作に基づく瞬時開放により戸の開放を検知する、ことを防止することができる。
【0008】
本発明に係る巻胴式エレベータの戸開走行防止システムにおける戸開放検知手段の電源は、該電源が消滅した際に蓄電池によりバックアップする、ことが好ましい。
これにより、戸開放検知手段の電源が停電した際でも、蓄電池によりバックアップしているので、停電による非常止め装置の動作を防止できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の巻胴式エレベータの戸開走行防止システムによれば、戸の開放を検知して調速機を動作して非常止め装置によりかごの戸開走行を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の一実施の形態による巻胴式エレベータの全体図である。
【図2】図1の調速機を示す正面図である。
【図3】図1に示す巻胴式エレベータの戸開走行防止システムの戸開放検知部である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態1.
本発明の一実施の形態を図1から図3によって説明する。図1は本発明の実施の一実施の形態による巻胴式エレベータの全体図、図2は図1の調速機を示す正面図、図3は図1に示す巻胴式エレベータの戸開走行防止システムの戸開放検知部である。
図1において、巻胴式エレベータは、昇降路1内の下部には、駆動装置2が設置されており、駆動装置2の綱車2aには、主索3の一端部が結合されると共に、巻回されている。主策3の他端部には、返し車5を介してかご4が吊り下げられている。昇降路1内には、かご4の昇降を案内する一対のかごガイドレール6が設置されている。
【0012】
かご4はかごの戸4aを有していて、下部には、かご4を非常停止させるための非常止め装置7が設けられている。かごガイドレール6の上端部近傍には、調速機支持部材8が固定されている。この調速機支持部材8上には、かご6の過速度を検出して非常止め装置7を動作させる調速機(ガバナ)9が支持されている。
【0013】
昇降路1の底部近傍には、回転自在の張り車10が設けられている。調速機9及び張り車10には、調速機ロープ11の上端部及び下端部がそれぞれ巻き掛けられている。調速機ロープ11は、レバー12を介して非常止め装置7に接続されており、かご4の昇降に伴って循環移動される。乗場13には、各階に乗場の戸14が設けられている。
【0014】
図2において、調速機9は調速機ロープ11が巻かれた綱車21を有しており、綱車21は、綱車軸22を中心に回転自在に基台23に支持されている。綱車21の側面には、一対のピン24を中心に回動自在な一対のフライウエイト25が取り付けられている。これら一対のフライウエイト25は、リンク26により互いに連結されている。
【0015】
一方のフライウエイト25の一端部には、作動爪37が固定されている。フライウエイト25は、綱車21の回転による遠心力により回動される。これにより、作動爪37は、綱車21の径方向外側へ変位される。一方のフライウエイト25の他端部と綱車21との間には、遠心力に対抗する平衡ばね27が設けられている。基台23には、駆動装置2のブレーキ装置(図示せず)を動作するかご停止用スイッチ28が取り付けられている。
かご停止用スイッチ28は、作動爪37により操作されるスイッチレバー28aを有している。
【0016】
一方のフライウエイト25の他端部には、ラッチ部29が設けられている。基台23には、綱車軸22を中心に回転自在なラチェット30が設けられている。このラチェット30の外周部には、綱車21が図の反時計方向へ回転しているときにフライウエイト25が予め設定された量だけ回動した場合にラッチ部29に係合する歯が設けられている。
【0017】
基台23に回動自在に取り付けられたアーム31には、調速機ロープ11に押し付けられるシュー32が回動自在に取り付けられている。アーム31のばね受け部31aには、ばね軸33が貫通されている。ばね軸33の一端部とラチェット30との間には、接続レバー34が接続されている。ばね軸33の他端部には、ばね受け部材35が設けられている。ばね受け部31aとばね受け部材35との間には、シュー32を調速機ロープ11に押し付けるためのロープ掴みばね36が設けられている。
【0018】
基台23には、レバー42が軸43を中心に揺動可能に取り付けられている。一方のフライウエイト25には、レバー42が揺動することにより押圧される回転自在のローラ44が設けられている。
【0019】
アクチュエータ54には、ばね55が設けられており、アクチュエータ54のソレノイドを励磁すると、ばね55に抗してレバー42を通常側に押し戻す方向に力を発生させると共に、アクチュエータ55のソレノイドを消磁すると、ばね55によりレバー42が点検側(ガバナ動作側)に引かれた状態となり、アクチュエータ54のソレノイドを励磁するとレバー42は通常側に戻される。
【0020】
戸開走行防止システムの戸開放検知手段としての戸開放検知部100は、図3に示すように形成されており、停電バックアップ付の直流電源101からかご4の戸4aが閉められていると閉成し、かご4の戸4aが開放したら開放するかご戸スイッチ103、各階に設けられた乗場の戸14が閉められていると閉成し、例えば1階から3階の各階の戸14が開放したら、閉成から開放する乗場戸スイッチ105a〜105cを介して遅延釈放型の戸開放検知リレー107を励磁するように形成されている。さらに、戸開放検知部100は、直流電源101を介して戸開放検知リレー107の常開接点107aを介して調速機トリップリレー117を励磁するように形成されている。
そして、かご戸スイッチ103、乗場戸スイッチ105a〜105cの少なくとも一つが開放すると、すなわち、戸開すると、戸開放検知リレー107が消磁して常開接点107aが開放して調速機トリップリレー117を消磁してアクチュエータ54のソレノイドの電源を遮断するように形成されている。
【0021】
ここで、戸開放検知リレー107に遅延釈放型を用いるのは、戸スイッチ103,105a〜105cの接触不良等による瞬時開放による誤動作により戸開放検知リレー107の釈放を防止するためである。
さらに、直流電源は停電バックアップ付とすることで、停電による非常止め装置7の動作を防止している。
【0022】
上記のように構成された巻胴式エレベータの戸開走行防止システムの動作を図1から図3によって説明する。
<正常時>
いま、かごの戸4a、乗場の戸14が閉まっていると、かご戸スイッチ103及び乗場戸スイッチ105a・・105cが閉成して戸開放検知リレー107を付勢する。レバー42を図2に示す状態にするので、ラチェット30の歯にラッチ部29が非係合となる。これにより、通常の調速機9が有する機能の動作をすることになる。
【0023】
<異常時>
いま、かごの戸4a、または乗場の戸14が開くとかご戸スイッチ103または乗場戸スイッチ105a〜105cのいずれかが開放すると、戸開放検知リレー107が開放から一定時間後に釈放する。
戸開により、戸開放検知リレー107が釈放されると、常開接点107aが開放して調速機9に設けられたアクチュエータ54のソレノイドの電源を遮断し、レバー42及びローラ44が点検用レバー42によって押圧される。そして、フライウエイト25がピン24を中心に回動して、ラチェット30の歯にラッチ部29が係合する。
この状態で、かご4が何らかの要因で下降すると、ラチェット30が綱車21とともに僅かに回転して、接続レバー34が左方へ変位する。
これにより、シュー32が調速機ロープ11に当接するとともに、ロープ掴みばね36によりシュー32が調速機ロープ11に押し付けられ、調速機ロープ11が制動する。調速機ロープ11の循環が停止されると、かご4が下降し続けることにより、レバー12が操作され、非常止め装置7が動作してかご4の戸開走行を防止する。
【0024】
上記実施形態による巻胴式エレベータの戸開走行防止システムは、かご4の下降を非常停止させる非常止め装置7と、かご4に連結された調速機ロープ11と、かご4が停止する乗場に設けられた乗り場戸14と、かご4に設けられたかご戸4aとを有する巻胴式エレベータにおいて、調速機ロープ11により綱車21が回転し、この回転によって作用する遠心力により外方に拡がるフライウエイト25で、かご4の速度が設定値を越えたときかご4の下降を非常止め装置7により止める調速機9を備え、該調速機9は、かご4の下降速度が予め設定された過速度に達したときに綱車21と共に、回転するラチェット30と、該ラチェット30に係合するラッチ部29と、ラチェット30を回転したとき調速機ロープ11を制動するシュー32と、待機位置と、フライウエイト25を回動してラッチ部29をラチェット30に係合する係合位置との間で変位可能に形成したレバー42と、レバー42に接続されてレバー42を変位するアクチュエータ54と、乗り場戸14、かご戸4の開放を少なくとも一つを検知すると共に、開放の検知に基づいてアクチュエータ54を動作する戸開放検知部100と、を備え、アクチュエータ54の動作に基づいてレバー42を介してラッチ部29をラチェット30に係合して非常止め装置7を動作する、ものである。
これにより、戸開放検知部100の戸の開放の検知に基づいて調速機9を動作して非常止め装置7によりかご4の戸開走行を防止できる。
【0025】
上記実施形態による戸開走行防止システムにおける戸開放検知部100は、戸4a,105a〜105cの開放を一定時間検知することにより戸4a,105a〜105cの開放を検知する、ことが好ましい。戸開放検知部100が戸4a,105a〜105cの開放を例えば、スイッチにより検知しようとすると、スイッチの接触不良等による誤動作に基づく瞬時開放により戸の開放を検知する、ことを防止することができる。
【0026】
上記実施形態による戸開走行防止システムにおけるにおける戸開放検知部100の電源は、該電源が消滅した際に蓄電池によりバックアップする、ことが好ましい。
これにより、戸開放検知部100の電源が停電した際でも、蓄電池によりバックアップしているので、停電による非常止め装置7の動作を防止できる。
【符号の説明】
【0027】
1 巻胴式エレベータの戸開走行防止システム、4 かご、4a かご戸、7 非常止め装置、9 調速機、14 乗場戸、21 綱車、25 フライウエイト、29 ラッチ部、30 ラチェット、32シュー、54アクチュエータ、100 戸開放検知部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
かごの下降を非常停止させる非常止め装置と、前記かごに連結された調速機ロープと、前記かごが停止する乗場に設けられた乗り場戸と、前記かごに設けられたかご戸とを有する巻胴式エレベータにおいて、
前記調速機ロープにより綱車が回転し、この回転によって作用する遠心力により外方に拡がるフライウエイトで、前記かごの速度が設定値を越えたとき前記かごの下降を前記非常止め装置により止める調速機を備え、
該調速機は、前記かごの下降速度が予め設定された過速度に達したときに前記綱車と共に、回転するラチェットと、
該ラチェットに係合するラッチ部と、
前記ラチェットを回転したとき前記調速機ロープを制動するシューと、
待機位置と、前記フライウエイトを回動して前記ラッチ部を前記ラチェットに係合する係合位置との間で変位可能に形成したレバーと、
前記レバーに接続されて前記レバーを変位するアクチュエータと、
前記乗り場戸、前記かご戸の開放を少なくとも一つを検知すると共に、前記開放の検知に基づいて前記アクチュエータを動作する戸開放検知手段と、を備え、
前記アクチュエータを動作に基づいて前記レバーを介して前記ラッチ部を前記ラチェットに係合して前記非常止め装置を動作する、
ことを特徴とする巻胴式エレベータの戸開走行防止システム。
【請求項2】
前記戸開放検知段は、前記開放を一定時間検知することにより前記開放を検知する、
ことを特徴とする請求項3に記載の巻胴式エレベータの戸開走行防止システム。
【請求項3】
前記戸開放検知手段の電源は、該電源が消滅した際に蓄電池によりバックアップする、
ことを特徴とする請求項1又は2記載の巻胴式エレベータの戸開走行防止システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−246241(P2011−246241A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−121588(P2010−121588)
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】