説明

布と粘土からなる複合膜

【課題】自立膜として利用可能な機械的強度と靭性を有し、柔軟性が高く、耐熱性が高く、電気絶縁体であり、熱伝導率が低い、布と粘土層からなる多層膜を提供する。
【解決手段】布と粘土層から構成される多層膜であり、布及び粘土層の両者が密着して成型されており、物体表面上の支持膜として、あるいは自立膜としての形態を有する粘土膜であって、粘土層にクラックやピンホールなどが存在しない、粘土層が布の片面あるいは両面に存在するか、布が粘土層の両面に存在するか、これらの構造を含む多層膜。
【効果】耐水性、ガスバリア性、あるいは機械的強度を改善させた多層膜、及びそれらの製品を提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、布と粘土からなる複合膜に関するものであり、更に詳しくは、自立膜として利用可能な機械的強度を有し、高いガスバリア性を有し、柔軟性が高く、耐熱性が高く、電気絶縁体であり、断熱性に優れる、新規複合多層膜に関するものである。本発明は、耐熱フィルムの作製技術及びその製品の技術分野において、従来法では、自立膜として利用可能な機械的強度を有し、高いガスバリア性を有し、柔軟性が高く、耐熱性が高く、電気絶縁体であり、熱伝導率が低い多層膜を製造することは困難であり、その開発が強く要請されていたことを踏まえ、本発明は、自立膜として利用可能な機械的強度を有し、しかも、優れたガスバリア性や柔軟性や熱安定性を併せ持つ多層膜、及び電気絶縁フィルム、断熱材等の新技術・新素材を提供するものとして有用である。
【背景技術】
【0002】
一般に、多くの化学産業分野において、高温条件下での種々の生産プロセスが用いられている。それらの生産ラインの配管連結部などでは、例えば、パッキンや溶接などによって、液体や気体のリークを防止する方策がとられている。これまで、例えば、フレキシビリティーに優れたパッキンは、有機高分子材料を用いて作られていた。しかしながら、その耐熱性は、液晶ポリエステルの350℃が最高であり、これ以上の温度では、金属製パッキンを用いなければならないが、その金属製パッキンは、有機高分子材料のものと比較して、フレキシビリティーに劣るという問題点があった。アルミあるいは銅製等の金属パッキンは、完全なガスバリア性を得るためには強く締め付けることが必要であり、そのため、フランジのような締め付け機構を必要とする。また、金属パッキンは、周辺部品に傷をつけやすいという問題点がある。そのため、螺子部に巻きつけるシール材として利用することはできない。また、金属パッキンは、導電性であるため、絶縁をとる必要がある部分には適していないという問題点がある。一方、高温条件下で用いられるグランドパッキンとしては、粘土鉱物であるマイカやバーミキュライト等を用いたシートが用いられている(特許文献1,2,3,4)。しかし、これらのシートは、クラックやピンホールを完全に排除することができないため、これらのシートにより作製されたパッキン及びガスケットは、完全なガスシール性を有していないという問題点がある。
【0003】
粘土は、水やアルコールに分散し、その分散液をガラス板の上に広げ、静置乾燥することにより粒子の配向の揃った膜を形成することが知られており、例えば、この方法でX線回折用の定方位試料が調製されてきた(非特許文献1)。しかしながら、ガラス板上に膜を形成した場合、ガラス板から多層膜を剥がすことが困難であり、剥がす際に膜に亀裂が生じるなど、自立膜として得ることが難しいという問題があった。また、膜を剥がせたとしても、得られた膜が脆く、強度が不足であった。
【0004】
最近、ラングミュアーブロジェット法(Langmuir−Blodgett Method)を応用した粘土薄膜の作製が行われている(非特許文献2)。しかし、この方法では、粘土薄膜は、ガラス等の材料でできた基板表面上に形成されるものであり、多孔体にはならない。更に、自立膜としての強度を有する粘土薄膜を得ることができなかった。更に、従来、例えば、機能性粘土薄膜等を調製する方法が種々報告されている。例えば、ハイドロタルサイト系層間化合物の水分散液を膜状化して乾燥することからなる粘土薄膜の製造方法(特許文献5)、層状粘土鉱物と燐酸又は燐酸基との反応を促進させる熱処理を施すことによる層状粘土鉱物が持つ結合構造を配向固定した層状粘土鉱物薄膜の製造方法(特許文献6)、スメクタイト系粘土鉱物と2価以上の金属の錯化合物を含有する皮膜処理用水性組成物(特許文献7)、等をはじめ、多数の事例が存在する。しかしながら、これまで、自立膜として利用可能な機械的強度を有し、柔軟性に優れた多層膜の開発例はなかった。
【0005】
種々の繊維から作製された布、例えば、平織布、不織布等が市販されており、これらの布は十分な機械的強度を有し、柔軟であり、繰り返し曲げに対しても耐久性を有するなどの特徴がある。これらの布の耐熱性や耐薬品性は、布を構成する繊維原料に依存している。布を構成する繊維としては、鉱物繊維、グラスウール、セラミックス繊維、金属繊維、セラミックス繊維、植物繊維、有機高分子繊維などがある。しかしながら、これらの布は、織目を完全にシールすることができず、ガスバリア性を有しないという問題点がある。
【0006】
【特許文献1】特開昭50−2699号公報
【特許文献2】特開昭53−39318号公報
【特許文献3】特開昭55−142539号公報
【特許文献4】特開平5−262514号公報
【特許文献5】特開平6−95290号公報
【特許文献6】特開平5−254824号公報
【特許文献7】特開2002−30255号公報
【非特許文献1】白水晴雄「粘土鉱物学−粘土科学の基礎−」、朝倉書店、p.57(1988)
【非特許文献2】梅沢泰史、粘土科学、第42巻、第4号、p.218−222(2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、自立膜として利用可能な機械的強度を有し、しかも、優れたガスバリア性とフレキシビリティーを有し、高温度条件下で使用できる新しい膜を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねる過程で、粘土に必要に応じて少量の添加物あるいは少量の補強材を含む均一な分散液を調製し、この分散液を布の表面に塗布する、あるいは布を分散液に浸した後、分散媒である液体を種々の乾燥方法、例えば、真空乾燥、凍結真空乾燥、又は加熱蒸発法で除去し、布の片面あるいは両面に粘土層を形成させることにより機械的強度が著しく高まった多層膜を得られることに注目し、更に研究を重ねて、均一な厚みで、布と粘土との密着性に優れた多層膜を得ることに成功し、本発明を完成するに至った。本発明は、自立膜として利用可能な機械的強度と靭性を有し、しかも、優れたガスバリア性、柔軟性、熱安定性、多孔性を併せ持つ多層膜、及び電気絶縁材、断熱材として使用可能な部材等の新技術・新素材を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)布と粘土から構成され、柔軟性を有し、自立膜として利用可能であり、耐熱性を有し、粘土層にクラックやピンホールが存在せず、ガスバリア性を有する、粘土層及び布の複合多層構造を有することを特徴とする多層膜。
(2)粘土層が、布の片面あるいは両面に存在するか、又は布が粘土層の両面に存在するか、又はそれらの構造を含む前記(1)に記載の多層膜。
(3)粘土層が、粘土のみ、粘土と少量の添加物、粘土と少量の補強材、又は粘土と少量の添加物と少量の補強材から構成される前記(1)に記載の多層膜。
(4)粘土層の主要構成成分が、天然粘土又は合成粘土である前記(1)に記載の多層膜。
(5)前記天然粘土又は合成粘土が、雲母、バーミキュライト、モンモリロナイト、鉄モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト、及びノントロナイトからなる群のうちの一種以上である前記(4)に記載の多層膜。
(6)添加物が、エチレングリコール、グリセリン、イプシロンカプロラクタム、デキストリン、澱粉、セルロース系樹脂、ゼラチン、寒天、小麦粉、グルテン、アルキド樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、フェノール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリビニル樹脂、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアマイド、ポリエチレンオキサイド、タンパク質、デオキシリボヌクレイン酸、リボヌクレイン酸及びポリアミノ酸、フェノール類、安息香酸類化合物、及びシリコン樹脂のうちから選択される一種以上である前記(1)に記載の多層膜。
(7)補強材が、鉱物繊維、グラスウール、セラミックス繊維、セラミックス繊維、植物繊維、及び有機高分子繊維からなる群のうちの一種以上である前記(1)に記載の粘土膜。
(8)布が、有機高分子繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、ガラス繊維、セラミックス繊維、又はそれらの中間組成物、あるいはそれら二種以上からなる複合体である前記(1)に記載の多層膜。
(9)加熱、光照射等の任意の手段により、付加反応、縮合反応、重合反応等の化学反応を行わせ、粘土、添加物、及び布の成分同士、あるいは成分間において、新たな化学結合を生じさせて、耐水性、ガスバリア性、又は機械的強度を改善させた前記(1)から(7)のいずれかに記載の多層膜。
(10)室温における、空気、酸素ガス、窒素ガス、水素ガス、又はヘリウムガスに対する透過係数が、1×10−12cm−1cmHg−1未満である前記(1)に記載の多層膜。
(11)600℃、24時間、通常空気雰囲気下で熱処理後の、空気、酸素ガス、窒素ガス、水素ガス、又はヘリウムガスに対する透過係数が、1×10−12cm−1cmHg−1未満である前記(1)に記載の多層膜。
(12)通常空気雰囲気下の示差熱分析で、200℃から600℃までの減量が5%以下である前記(1)に記載の多層膜。
(13)円、正方形、長方形等の任意の平面形状を有し、自立膜として用いることが可能である前記(1)に記載の多層膜。
(14)粘土層の厚さが、1mmよりも薄く、多層膜の面積が、1cmよりも大きい前記(1)に記載の多層膜。
(15)添加物の、全固体に対する重量割合が、30パーセント以下である前記(1)に記載の多層膜。
(16)補強材の、全固体に対する重量割合が、30パーセント以下である前記(1)に記載の多層膜。
(17)表面処理を施して、撥水、防水、補強、及び/又は表面平坦化をした前記(1)に記載の多層膜。
(18)前記表面処理が、フッ素系膜、シリコン系膜、ポリシロキサン膜、フッ素含有オルガノポリシロキサン膜、アクリル樹脂膜、塩化ビニル樹脂膜、ポリウレタン樹脂膜、高撥水メッキ膜、金属蒸着膜、又はカーボン蒸着膜を表面に形成することである前記(17)に記載の多層膜。
(19)膜に対して、垂直方向の直流電気抵抗が、1メガΩ以上である前記(1)に記載の多層膜。
(20)前記(1)から(19)のいずれかに記載の多層膜からなることを特徴とするガスバリア性、水蒸気バリア性、及び/又は電気絶縁性を有する部材。
(21)部材が、シール材、絶縁材、又は断熱材である前記(20)に記載の部材。
【0009】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、布と粘土から構成され、柔軟性を有し、自立膜として利用可能であり、耐熱性を有し、クラックやピンホールが存在せず、ガスバリア性を有すること、室温における、空気、酸素ガス、窒素ガス、水素ガス、ヘリウムガスに対する透過係数が、1×10−12cm−1cmHg−1未満であることを特徴とする多層膜である。また、本発明は、600℃、24時間、通常空気雰囲気下で熱処理後の、空気、酸素ガス、窒素ガス、水素ガス、ヘリウムガスに対する透過係数は、1×10−12cm−1cmHg−1未満であり、また、通常空気雰囲気下の示差熱分析で、200℃から600℃までの減量が5%以下であることを特徴とする多層膜である。
【0010】
本発明の多層膜は、粘土層が布の片面あるいは両面に存在するか、又は布が粘土層の両面に存在するか、又はこれらの構造を含む。本発明の多層膜は、粘土のみ、あるいは粘土と少量の添加物、あるいは粘土と少量の添加物、あるいは粘土と少量の添加物と少量の補強材から構成される。粘土層の主要構成成分は、天然粘土あるいは合成粘土である。前記多層膜の主要構成成分としては、例えば、雲母、バーミキュライト、モンモリロナイト、鉄モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト及びノントロナイトが例示される。
【0011】
前記添加物としては、例えば、エチレングリコール、グリセリン、イプシロンカプロラクタム、デキストリン、澱粉、セルロース系樹脂、ゼラチン、寒天、小麦粉、グルテン、アルキド樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、フェノール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリビニル樹脂、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアマイド、ポリエチレンオキサイド、タンパク質、デオキシリボヌクレイン酸、リボヌクレイン酸及びポリアミノ酸、フェノール類、安息香酸類化合物、シリコン樹脂が例示される。
【0012】
前記補強材としては、鉱物繊維、グラスウール、セラミックス繊維、セラミックス繊維、植物繊維、有機高分子繊維、のうちの1種以上が例示される。前記布としては、有機高分子繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、ガラス繊維、セラミックス繊維又はそれらの中間組成物、あるいはこれら二種以上からなる複合体が例示される。
【0013】
本発明では、例えば、加熱、光照射等の任意の方法及び手段により、付加反応、縮合反応、重合反応等の化学反応を行わせ、粘土、添加物、及び補強材の成分同士、あるいは成分間において、新たな化学結合を生じさせて、耐水性、ガスバリア性、あるいは機械的強度を改善させた多層膜も対象とされる。
【0014】
本発明では、例えば、室温における、空気、酸素ガス、窒素ガス、水素ガス、又はヘリウムガスに対する透過係数が、1×10−12cm−1cmHg−1未満である多層膜を提供できる。本発明では、例えば、円、正方形、長方形等に代表される任意の二次元平面形状、あるいは平板、管、円柱、コーン、球又はその組み合わせである任意の三次元平面形状を有し、自立膜として用いることが可能であり、厚さは1mmよりも薄く、面積は1cmよりも大きい多層膜を提供できる。
【0015】
本発明では、例えば、撥水、防水、補強、表面平坦化を目的として表面処理が行われることがあり、表面処理がフッ素系膜、シリコン系膜、ポリシロキサン膜、フッ素含有オルガノポリシロキサン膜、アクリル樹脂膜、塩化ビニル樹脂膜、ポリウレタン樹脂膜、高撥水メッキ膜、金属蒸着膜、カーボン蒸着膜を表面に形成することが可能である。前記添加物の、全固体に対する重量割合は、好適には、30パーセント以下である。前記補強材の、全固体に対する重量割合は、好適には、30パーセント以下である。本発明の多層膜は、容器あるいは物体表面から剥離した自立膜として、又は容器あるいは物体表面に支持されて使用される。
【0016】
本多層膜は、自立膜、柔軟、加工容易、機能化容易、厚さは、例えば、3〜100μm、配向性はマイクロメートル、ナノオーダーで高配向、であるという特徴を有する。本多層膜はJIS K7127による引っ張り強度は10MPa以上という特徴を有する。本多層膜の基本性能については、ガスバリア性は、ヘリウムで測定限界値未満(アルミホイル相当)、耐熱性は600℃、24時間処理後ガスバリア性の低減なし、引っ張り強さは10MPa以上である。本多層膜では、特に、主要成分の粘土の割合を高めることで高い耐熱性が得られる。
【0017】
本発明の多層膜自体は、粘土を主原料(90重量%以上)として用い、基本構成として、好適には、例えば,層厚約1nm、粒子径約1μm、アスペクト比約300程度の天然又は合成の膨潤性粘土が90重量%以上と、分子の大きさ数nm以下の天然又は合成の低分子・高分子の添加物が10重量%以下の構成、が例示される。この多層膜は、例えば、厚さ約1nmの層状結晶を同じ向きに配向させて重ねて緻密に積層することで作製される。得られた多層膜は、膜厚が3〜100μmであり、ガスバリア性能は、厚さ30μmで酸素透過度0.00001cc/m/24hr/atm未満、水素透過度0.002cc/m/24hr/atm未満であり、面積は100×40cm以上に大面積化することが可能であり、高耐熱性を有し、600℃で24時間加熱処理後もガスバリア性の低下はみられない。
【0018】
本発明は、多層膜であって、布と粘土から構成され、柔軟性を有し、自立膜として利用可能であり、耐熱性を有し、クラックやピンホールが存在せず、ガスバリア性を有するものであって、粘土層が布の片面あるいは両面に存在するか、布が粘土層の両面に存在するか、あるいはこれらの構造を含み、自立膜あるいは支持膜の形態をとることを特徴とするものである。
【0019】
次に、本発明の多層膜の作製方法について説明すると、本発明では、粘土として、天然あるいは合成物、好ましくは、天然スメクタイト及び合成スメクタイトの何れか、あるいはそれらの混合物を用い、これを、水あるいは水を主成分とする液体に加え、希薄で均一な分散液を調製する。粘土として、雲母、バーミキュライト、モンモリロナイト、鉄モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト及びノントロナイトからなる群のうちの一種以上を用いることができる。粘土分散液の濃度は、好適には0.5から15重量パーセント、より好ましくは、1から10重量パーセントである。このとき、粘土分散液の濃度が薄すぎる場合、乾燥に時間がかかりすぎるという問題がある。また、粘土分散液の濃度が濃すぎる場合、よく粘土が分散しないため、粘土粒子の配向が悪く、均一な膜ができ難いという問題がある。
【0020】
次に、必要に応じて、秤量した固体状あるいは液体状の添加物を、粘土分散液に加え、均一な分散液を調製する。添加物としては、多層膜のフレキシビリティーあるいは機械的強度を向上させる、粘土と均一に混合するものであれば、特に限定されないが、例えば、エチレングリコール、グリセリン、イプシロンカプロラクタム、デキストリン、澱粉、セルロース系樹脂、ゼラチン、寒天、小麦粉、グルテン、アルキド樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、フェノール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリビニル樹脂、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアマイド、ポリエチレンオキサイド、タンパク質、デオキシリボヌクレイン酸、リボヌクレイン酸及びポリアミノ酸、フェノール類、安息香酸類化合物、シリコン樹脂のうちの1種以上を用いることができる。添加物の全固体に対する重量割合は、30パーセント以下であり、好ましくは1パーセントから10パーセントである。このとき、添加物の割合が低過ぎる場合、添加の効果が現れず、添加物の割合が高すぎる場合、調製した膜中で添加物と粘土の分布が不均一になり、結果として得られる多層膜の均一性が低下し、やはり添加効果が薄れる。また、添加物の割合が高すぎる場合、多層膜の耐熱性が低下する。
【0021】
次に、秤量した補強材を、粘土分散液に加え、均一な分散液を調製する。補強材として、鉱物繊維、グラスウール、炭素繊維、セラミックス繊維、植物繊維、有機高分子繊維樹脂、のうちの1種以上を用いることができる。補強材の全固体に対する重量割合は、30パーセント以下であり、好ましくは1パーセントから10パーセントである。このとき、補強材の割合が低過ぎる場合、添加の効果が現れず、補強材の割合が高すぎる場合、調製した膜中で補強材と粘土の分布が不均一になり、結果として得られる粘土膜の均一性が低下し、やはり添加効果が薄れる。なお、補強材と添加物の添加順序はどちらが先と決まっているわけではなく、どちらを先に加えてもよい。
【0022】
次に、この分散液を、布を敷いた容器に流し込むあるいは布を接するように広げた支持体表面に塗布したのち、分散媒である液体を乾燥除去し、布と粘土層からなる多層膜を作製する。このとき、布として、有機高分子繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、ガラス繊維、セラミックス繊維又はそれらの中間組成物、あるいはこれら二種以上からなる複合体が例示される。布の材料については、300℃以上の耐熱性が必要となる場合には無機系のものを用いるのが好ましい。ただし、300℃程度までの耐熱性であれば十分である場合には、使用条件に応じてアラミド繊維、フッ素系樹脂、アミド樹脂、イミド樹脂などの耐熱性有機高分子を用いた布を用いることが可能である。このとき、布を支持膜として利用する場合には、布を物体に接着・溶着などして固定してから分散液を流し込むあるいは塗布することが考えられる。布と粘土膜の中に気泡が入り込まないように分散液層を形成させ、布の目の中に粘土の微結晶が入り込み、ピンホールやクラックがない緻密な多層膜を得る。
【0023】
多層膜の作製方法としては、例えば、分散液である液体をゆっくりと蒸発させ、膜状に成形する。分散液を支持体表面に塗布し、分散媒である液体を乾燥除去する、などの方法がある。分散媒である液体の乾燥除去法としては、例えば、種々の固液分離方法、例えば、遠心分離、ろ過、真空乾燥、凍結真空乾燥、加熱蒸発法の何れか、あるいはこれらの方法の組み合わせが可能である。これらの方法のうち、例えば、分散液を容器に流し込み加熱蒸発法を用いる場合、平坦なトレイ、好ましくはプラスチック製あるいは金属製のトレイ等の支持体に布を敷き、粘土の濃度を0.5〜3重量パーセントに調整し、事前に脱気処理した分散液を布の上から注ぎ、水平を保った状態で、強制送風式オーブン中で30から70℃の温度条件下、好ましくは30から50℃の温度条件下で、3時間から半日間程度、好ましくは3時間から5時間、乾燥して二層の多層膜を得る。
【0024】
また、別の例として、固液比の比較的高いゲル状分散液を物体に塗布し、加熱蒸発法を用いる場合、平坦な金属板の上に布を敷き、粘土の濃度を4〜7重量パーセントに調整し、事前に脱気処理した分散液を布の上に2mmの厚さに塗布し、強制送風式オーブン中で30から100℃の温度条件下、好ましくは30から80℃の温度条件下で、10分間から2時間程度、好ましくは20分間から1時間、乾燥して二層の多層膜を得る。これらの場合布の上面に粘土層が形成される。
【0025】
二層の多層膜を裏返し、粘土層を形成される上記の処理をすることによって布の両面に粘土層が形成された三層からなる多層膜を得ることができる。また、二層の多層膜を作製する過程で、粘土層が完全に乾燥する前にお互いを張り合わせるなどすることにより、粘土層を布でサンドイッチした三層からなる多層膜を得ることができる。更に、これらの手順の繰り返しによって、三層以上からなる多層膜を作製することができる。三層以上からなる多層膜を作製する場合に、接着剤を用いることが可能である。
【0026】
分散液を事前に脱気処理しない場合、粘土層に気泡に由来する孔ができ易くなるという問題がある場合がある。また、乾燥条件は、液体分を乾燥除去するのに十分であるように設定される。このとき、乾燥速度が遅すぎると、乾燥に時間がかかるという問題がある。また、乾燥速度が速すぎると、分散液の対流が起こり、多層膜の均一性が低下するという問題がある。粘土層の厚さは、分散液に用いる固体量を調整することによって、任意の厚さの膜を得ることができる。
【0027】
多層膜を自立膜として用いる場合は、多層膜を容器あるいは物体表面から剥離し、粘土自立膜を得る。粘土薄膜が容器等の支持体から自然に剥離しない場合は、好適には、真空引きにより剥離を促進させ自立膜を得る。また剥離の別の方法として、好適には、約110から200℃の温度条件下で乾燥し、剥離を容易にして自立膜を得る。このとき、温度が低すぎる場合には、剥離が起こりにくいという問題がある。温度が高すぎる場合には、添加物が劣化しやすくなるという問題がある。添加物を含まない場合には、更に、高温の処理により剥離を促進させることができる。このときの高温の処理は、700℃までの温度条件が可能である。
【0028】
以上のようにして得られた粘土膜あるいは粘土自立膜は、基本的には、親水性であり、そのため、プラスチックフィルムや金属箔に比較して耐水性に劣る。そのため、結露する条件下、あるいは水に接する条件下では、膨潤し、脆弱になるという問題点がある。また、高い遮湿性を持たせることが困難である。ここで、粘土膜の表面を処理することにより、親水性から疎水性に変え、耐水性・高遮湿性を付与することが可能である。表面処理としては、粘土膜あるいは粘土自立膜表面を疎水化するものであれば、特に限定されるものではないが、例えば、被覆層作製法がある。
【0029】
被覆層作製による方法としては、フッ素系膜、シリコン系膜、ポリシロキサン膜、フッ素含有オルガノポリシロキサン膜、アクリル樹脂膜、塩化ビニル樹脂膜、ポリウレタン樹脂膜、高撥水メッキ膜、金属蒸着膜、カーボン蒸着膜などを表面に形成するものがある。この場合、膜作成法として湿式法、乾式法、蒸着法、噴霧法等の方法がある。表面に作製された被覆層は疎水性であり、そのため、結果として粘土膜表面の撥水性が実現する。この処理は、用途に応じて、粘土膜の片面のみ、あるいは両面とも行うことができる。表面処理法としては、他に、シリル化、イオン交換などの化学処理によって表面改質を行う方法がある。
【0030】
この表面処理により、以上述べた撥水性、防水性の付与の他に、膜強度を高める補強効果、表面における光散乱を押さえ、光沢を与え外見を美麗にする効果が期待できる。一方、被覆層を有機高分子とする場合、粘土膜の常用温度範囲が被覆層の材料の常用温度範囲によって規定される場合がある。そのため、用途によって表面処理に用いる材料の選定や膜厚が注意深く選択されることになる。
【0031】
本発明の複合膜は、例えば、はさみ、カッター等で容易に円、正方形、長方形などの任意の大きさ、形状に切り取ることができる。本発明の複合膜は、好適には、厚さは1mmよりも薄く、面積は1cm よりも大きい。また、本発明の多層膜は、自立膜として利用可能な機械的強度を有し、柔軟性が高く、耐熱性が高く、電気絶縁体であり、熱伝導率が低いといった特徴を有する。
【0032】
耐熱性の高い多層膜を作製する場合に、粘土に比較して耐熱性に劣る添加物の添加量を少なくすることは重要である。この場合、添加物の総固体に対する重量比は10%以下であることが好適である。特に耐熱性を要求されない場合はこの限りではない。本発明の多層膜は、粘土が主成分であることから、絶縁性に優れ、耐熱性絶縁膜として広範に使用することができる。また、本発明の多層膜は、断熱性に優れ、断熱膜として広範に使用することができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明により、(1)自立膜として利用可能な機械的強度と靭性を有し、しかも、優れた柔軟性、熱安定性、優れたガスバリア性、優れた水蒸気バリア性を併せ持つ多層膜の新技術・新素材を提供できる、(2)耐熱性及び柔軟性を併せ持つパッキンあるいは固体電解質燃料電池隔膜、電気絶縁材、断熱材として使用可能な部材等の新技術・新素材を提供できる、という効果が奏される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0035】
(1)多層膜の製造
長さ約30cm、幅20cmの真鍮製板に、それよりも一回り小さなガラス製平織り布(株式会社ソーラー製ガラスクロス)を敷いた。グラス製布の厚さは約0.1mmである。次に、粘土として、2グラムの天然モンモリロナイト(クニピアP、クニミネ工業株式会社製)を、60cmの蒸留水に加え、プラスチック製密封容器に、テフロン(登録商標)製回転子とともに入れ、激しく振とうし、均一な分散液を得た。この分散液を、ガラス平織り布の上に塗布し、これを水平に静置し、強制送風式オーブン中で60℃の温度条件下で30分乾燥して、厚さ約0.2mmの多層膜を得た。
【0036】
(2)多層膜の特性
本多層膜の室温における、空気、酸素ガス、窒素ガス、水素ガス、又はヘリウムガスに対する透過係数は、1×10−12cm−1cmHg−1未満であった。本多層膜の熱重量測定から、200℃から600℃にかけての加熱による重量減少は、わずかに0.23%であった。走査型電子顕微鏡写真(図1、図2)より、ガラス製平織り布の片面に粘土層が密に製膜されている様子が分かる。また、本多層膜を600℃で24時間過熱処理後もガス透過係数は1×10−12cm−1cmHg−1未満であった。以上のことから、本多層膜は、耐熱性が高いことが示された。膜に対して、垂直方向の直流電気抵抗を交流二端子法で測定した結果,1メガΩ以上であった。
【実施例2】
【0037】
(1)多層膜の製造
長さ約30cm、幅20cmの真鍮製板に、それよりも一回り小さなガラス製平織り布(株式会社ソーラー製ガラスクロス)を敷いた。グラス製布の厚さは約0.1mmである。次に粘土として、1.82グラムの天然モンモリロナイト(クニピアP、クニミネ工業株式会社製)を、60cmの蒸留水に加え、プラスチック製密封容器に、テフロン(登録商標)製回転子とともに入れ、激しく振とうし、均一な分散液を得た。この分散液に、添加剤として、イプシロン−カプロラクタム(和光純薬工業株式会社製)を0.18グラム含む水溶液を加え、得られた分散液を、ガラス平織り布の上に塗布し、これを水平に静置し、強制送風式オーブン中で60℃の温度条件下で30分乾燥して、厚さ約0.2mmの多層膜を得た。次に、生成した多層膜をトレイから剥離して自立多層膜を得た。次に、この多層膜を250℃で所定時間加熱して、イプシロンカプロラクタムが重合したナイロン6を含む多層膜を得た。
【0038】
(2)多層膜の特性
本多層膜の室温における、空気、酸素ガス、窒素ガス、水素ガス、又はヘリウムガスに対する透過係数は、1×10−12cm−1cmHg−1未満であった。また、本多層膜を600℃で24時間過熱処理後もガス透過係数は、1×10−12cm−1cmHg−1未満であった。以上のことから、本多層膜は、耐熱性が高いことが示された。膜に対して、垂直方向の直流電気抵抗を交流二端子法で測定した結果,1メガΩ以上であった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
以上詳述したように、本発明は、多層膜、その製造方法及びその用途に係るものであり、自立膜として利用可能な機械的強度を有し、しかも、優れたフレキシビリティーを有し、高温条件下で使用できる新しい多層膜、その製造技術及びその製品を提供することができる。本発明は、耐熱性に優れた膜を提供することを可能とする。また、本発明の粘土薄膜は、自立膜として使用可能であり、耐熱性及びフレキシビリティーに優れ、ガスバリア性に優れることから、例えば、化学産業分野の配管の接続部分に用いられるパッキン材、電子・電機機器などに用いられる絶縁膜、断熱材として使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の、多層膜の粘土層側の平面を走査型電子顕微鏡で撮影した写真を示す図である。
【図2】本発明の、多層膜の断面を走査型電子顕微鏡で撮影した写真を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
布と粘土から構成され、柔軟性を有し、自立膜として利用可能であり、耐熱性を有し、粘土層にクラックやピンホールが存在せず、ガスバリア性を有する、粘土層及び布の複合多層構造を有することを特徴とする多層膜。
【請求項2】
粘土層が、布の片面あるいは両面に存在するか、又は布が粘土層の両面に存在するか、又はそれらの構造を含む請求項1に記載の多層膜。
【請求項3】
粘土層が、粘土のみ、粘土と少量の添加物、粘土と少量の補強材、又は粘土と少量の添加物と少量の補強材から構成される請求項1に記載の多層膜。
【請求項4】
粘土層の主要構成成分が、天然粘土又は合成粘土である請求項1に記載の多層膜。
【請求項5】
前記天然粘土又は合成粘土が、雲母、バーミキュライト、モンモリロナイト、鉄モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト、及びノントロナイトからなる群のうちの一種以上である請求項4に記載の多層膜。
【請求項6】
添加物が、エチレングリコール、グリセリン、イプシロンカプロラクタム、デキストリン、澱粉、セルロース系樹脂、ゼラチン、寒天、小麦粉、グルテン、アルキド樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、フェノール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリビニル樹脂、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアマイド、ポリエチレンオキサイド、タンパク質、デオキシリボヌクレイン酸、リボヌクレイン酸及びポリアミノ酸、フェノール類、安息香酸類化合物、及びシリコン樹脂のうちから選択される一種以上である請求項1に記載の多層膜。
【請求項7】
補強材が、鉱物繊維、グラスウール、セラミックス繊維、セラミックス繊維、植物繊維、及び有機高分子繊維からなる群のうちの一種以上である請求項1に記載の粘土膜。
【請求項8】
布が、有機高分子繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、ガラス繊維、セラミックス繊維、又はそれらの中間組成物、あるいはそれら二種以上からなる複合体である請求項1に記載の多層膜。
【請求項9】
加熱、光照射等の任意の手段により、付加反応、縮合反応、重合反応等の化学反応を行わせ、粘土、添加物、及び布の成分同士、あるいは成分間において、新たな化学結合を生じさせて、耐水性、ガスバリア性、又は機械的強度を改善させた請求項1から8のいずれかに記載の多層膜。
【請求項10】
室温における、空気、酸素ガス、窒素ガス、水素ガス、又はヘリウムガスに対する透過係数が、1×10−12cm−1cmHg−1未満である請求項1に記載の多層膜。
【請求項11】
600℃、24時間、通常空気雰囲気下で熱処理後の、空気、酸素ガス、窒素ガス、水素ガス、又はヘリウムガスに対する透過係数が、1×10−12cm−1cmHg−1未満である請求項1に記載の多層膜。
【請求項12】
通常空気雰囲気下の示差熱分析で、200℃から600℃までの減量が5%以下である請求項1に記載の多層膜。
【請求項13】
円、正方形、長方形等の任意の平面形状を有し、自立膜として用いることが可能である請求項1に記載の多層膜。
【請求項14】
粘土層の厚さが、1mmよりも薄く、多層膜の面積が、1cmよりも大きい請求項1に記載の多層膜。
【請求項15】
添加物の、全固体に対する重量割合が、30パーセント以下である請求項1に記載の多層膜。
【請求項16】
補強材の、全固体に対する重量割合が、30パーセント以下である請求項1に記載の多層膜。
【請求項17】
表面処理を施して、撥水、防水、補強、及び/又は表面平坦化をした請求項1に記載の多層膜。
【請求項18】
前記表面処理が、フッ素系膜、シリコン系膜、ポリシロキサン膜、フッ素含有オルガノポリシロキサン膜、アクリル樹脂膜、塩化ビニル樹脂膜、ポリウレタン樹脂膜、高撥水メッキ膜、金属蒸着膜、又はカーボン蒸着膜を表面に形成することである請求項17に記載の多層膜。
【請求項19】
膜に対して、垂直方向の直流電気抵抗が、1メガΩ以上である請求項1に記載の多層膜。
【請求項20】
請求項1から19のいずれかに記載の多層膜からなることを特徴とするガスバリア性、水蒸気バリア性、及び/又は電気絶縁性を有する部材。
【請求項21】
部材が、シール材、絶縁材、又は断熱材である請求項20に記載の部材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−159865(P2006−159865A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−358627(P2004−358627)
【出願日】平成16年12月10日(2004.12.10)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】