説明

布バネ材用経編地

【課題】通気性が高く、着座時に蒸れ感が少なく、高い引張強力及び引裂強力を有する布バネ材用経編地であって、かつ、着座時に、面剛性が高く安定感があり、着座後の伸長回復性が良好な布バネ材用の経編地を提供する。
【解決手段】少なくとも2枚筬以上の筬列から供給された繊維により地組織が構成され、該2枚筬の地組織の1編目を構成する繊維の総繊度が900〜2500デシテックスであるメッシュ状の経編地であって、該地組織の2列以上の複数列のウエール列が略V字状に分岐してメッシュを形成しており、該メッシュ形状の一部である略V字部分を横切って、300〜3000デシテックスのモノフィラメント繊維が挿入編みされていることを特徴とする経編地。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、鉄道車両、航空機、チャイルドシート、ベビーカー、車椅子、家具、事務用等の座席シートにクッション材として用いられる布バネ材として好適な経編地に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエーテルエステル系弾性繊維やポリトリメチレンテレフタレート繊維等の弾性繊維で構成された織編物をフレームに張設することにより、弾性繊維の伸長回復性を活かしてクッション性を発現させることができ、金属バネや、ウレタンクッション材に比べて、薄型、軽量、高通気性等の特徴を有する座席が得られる。このような弾性繊維からなる織編物は布バネと称され、事務椅子、家具用椅子、乗物用座席等の多くの座席シートにクッション材として使用されつつある。
【0003】
特許文献1には、ベース編地が主編糸によってメッシュ状で構成され、該ベース編地に主弾性糸及び主挿入糸が一直線状に挿入された弾性経編布帛が提案されており、この弾性経編布帛は、腰掛け等の身体を支えるクッション面に用いる場合、形態安定性に優れ、通気性が高く蒸れ感を与えないと記載されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の経編地は、主編糸の繊度が細く、また、外力による負荷に対するメッシュ孔の応力集中部分の補強が工夫されていないため、引張強力や引裂強力が十分ではなく、乗物用の座席シートに用いる場合、衝突時の衝撃で編地が破壊されたり、刃物等により傷が生じた場合に傷が広がりやすく、強度的な不安の大きいものであった。
【0005】
特許文献2には、特定繊度の繊維を用い、地組織が鎖編と多針振りのトリコット編で構成され、タテ方向および/またはヨコ方向に挿入糸が挿入された特定編密度の経編地が提案されており、この経編地は、高い引裂き抵抗力を有し、刃物等による傷が広がり難く、安全性の高い布バネ材であると記載されている。
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載の経編地は、引裂き抵抗力は高いものの、編地が緻密過ぎて通気性が殆ど無いため、着座時に蒸れ易く、また、重量が重いため座席シートの軽量化の流れに逆行するものであった。
【特許文献1】特許第3928179号公報
【特許文献2】特開2006−97170号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来の問題を解決し、通気性が高く、着座時に蒸れ感が少なく、高い引張強力及び引裂強力を有する布バネ材であって、かつ、着座時に面剛性が高く安定感があり、着座後の伸長回復性が良好な布バネ材用の経編地を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の課題を解決するため、使用する素材、繊度、編構造について鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、少なくとも2枚筬以上の筬列から供給された繊維により地組織が構成され、該2枚筬の地組織の1編目を構成する繊維の総繊度が900〜2500デシテックスであるメッシュ状の経編地であって、該地組織の2列以上の複数列のウエール列が略V字状に分岐してメッシュを形成しており、該メッシュ形状の一部である略V字部分を横切って、300〜3000デシテックスのモノフィラメント繊維が挿入編みされていることを特徴とする経編地である。
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の経編地は、布バネ材として好適に用いることができる。布バネ材とは、略4角形や、多角形、あるいは各種形状のフレームに布バネ材用の布帛を縫製、樹脂成型、ボルト止め等の各種方法で張設することにより、面状のクッション材を形成し、布バネ材の伸長特性を利用して、人が座った際のクッション性を発現させるものである。
【0011】
フレームと布バネ材のみでクッション材を形成することもでき、また、必要に応じて布バネ材の上に立体編物、硬綿、不織布等の繊維状クッション材やウレタン、表皮材等を積層したクッション材とすることも出来る。
【0012】
本発明の経編地は、引張強力及び引裂強力を高めるために、メッシュ状編地の1編目を構成する繊維の総繊度を900〜2500デシテックスとする。1編目を構成する繊維の総繊度とは、編機の1本の針に同時に引掛けられて編目を形成する繊維の総繊度のことであり、例えば、2枚筬から繊維が供給されて1本の針に同時に2本の繊維が引掛けられ、2本の繊維が束なって1つの編目構成する場合は、2本の繊維の繊度の合計で示されるものである。
【0013】
1編目を構成する繊維の総繊度が900デシテックス未満であると、引張強力及び引裂強力が低下する。1編目を構成する繊維の総繊度が2500デシテックスを超えると、メッシュ形状を作ることが困難となり、開口率が低下し通気性の乏しいものとなり、また、経編地の重量が過大になると共に編成も困難となる。
【0014】
経編地の地組織に用いられる繊維としては、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリトリメチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリエステル系エラストマー繊維、ポリアミド系繊維、ポリプロピレン系繊維等の合成繊維が好ましく用いられる。
【0015】
繊維の断面形状は、丸型、三角、L型、T型、Y型、W型、八葉型、偏平、ドッグボーン型等の多角形型、多葉型、中空型や不定形等、任意の断面形状が用いられるが、より高強度な地組織にするためには丸型が好ましい。繊維の形態は、未加工糸、紡績糸、撚糸、仮撚加工糸、流体噴射加工糸等いずれを採用してもよいが、地組織の引張強力、引裂強力を向上させるうえで、原糸(未加工糸)を用いることが好ましい。
【0016】
本発明のメッシュ状経編地は、1編目を構成する繊維の総繊度が900〜2500デシテックスであるが、編地の引張強度、引裂き強度を更に高め、かつ適度な通気性を得るためには、2.54cm角の編地の中に、編目数と、1編目を構成する繊維の総繊度の関係で示される地組織充填指数が3000〜11000であることが好ましい。
【0017】
但し、地組織充填指数=(1編目を構成する繊維の総繊度)0.5×(2.54cm角の編地中の編目数)
地組織充填指数が3000以上であると、十分な引張強度が得られ、11000以下であると、開口率が十分で通気性に優れたものとなると共に編成が容易である。
【0018】
本発明の経編地をメッシュ状にする方法としては、例えば、地組織を構成する繊維を少なくとも2枚筬以上を用いて、ガイドへの繊維の配列を1イン1アウト、2イン2アウト、3イン1アウト等の糸抜き配列とすることにより、6角形柄やダイヤ柄、略円形柄等のメッシュ状とすることが好ましい。
【0019】
メッシュ孔の形成については、経編地の一部分において隣り合うウエール列が分岐して開口が形成され、複数のコースを編成した後に分岐していたウエール列が再度結合することにより開口が閉じる。ウエール列が分岐して複数コース編成される長さがメッシュの大きさとなる。
【0020】
隣り合うウエール列が分岐する際は、例えば図1に示すように、分岐するウエール列が分岐直後に略V字の形状を形成するが、本発明では、編地の引裂強力を向上させるため、略V字部分を横切って300〜3000デシテックスのモノフィラメント繊維が挿入編みされる。モノフィラメント繊維は、曲げ剛性が高く、曲げに対する回復性に優れるため、メッシュ孔の略V字部分を横切る様に挿入することにより、編地の面剛性が向上し安定感のある座り心地になると共に、着座後の伸長回復性、形態安定性に優れた経編地となる。
【0021】
また、メッシュ状の経編地が引裂かれる場合、ウエール列が分岐する個所の編目に応力が集中し、分岐部分の編目の繊維が破断することにより引裂きが連鎖していくが、本発明では、ウエール列が分岐する略V字部分を横切って、モノフィラメント繊維を挿入編みすることが、引裂強力を向上させる上で極めて重要である。これにより、ウエール列の分岐個所に応力が集中するのを防止し、引裂強力が向上する。
【0022】
略V字部分に挿入するモノフィラメントは、略V字を形成する編目列の少なくとも1編目に挿入されれば良いが、より引裂強力を向上させるためには、モノフィラメントが略V字部分の編目列に2本以上挿入されていることが好ましい。
また、モノフィラメント繊維を略V字のウエール列に挿入する位置は、略V字のどの位置であっても良いが、ウエール列が分岐した第1番目の編目に、モノフィラメント繊維が挿入されていることが好ましく、引裂き応力の分散に寄与する。
【0023】
略V字を形成するウエール列の少なくとも1つの編目にモノフィラメントを挿入する方法としては、編地の幅方向に一直線に挿入する方法、メッシュを形成するウエール列に沿って、メッシュ孔を横切る様に蛇行させながら挿入する方法が好ましく用いられる。
【0024】
この際、地組織に挿入されたモノフィラメント繊維がスリップすると、経編地の伸長回復性を阻害したり、地組織の編目が外力により容易に変形して不具合を起こすが、モノフィラメント繊維のスリップを防止するために、モノフィラメント繊維をメッシュ孔やウエール列を横切る様に蛇行させながら、経編地の長さ方向に挿入することが好ましい。また、よりいっそうスリップを防止するためには、表面が低融点のポリマーで形成された、熱融着性のモノフィラメント繊維を用いることが好ましい。
【0025】
モノフィラメント繊維を編地の幅方向に一直線に挿入する場合は、地組織の編目に保持されたモノフィラメント繊維がスリップし易いために、表面が低融点のポリマーで形成された熱融着性のモノフィラメント繊維を用いることが好ましい。
【0026】
本発明に用いるモノフィラメント繊維の種類としては、ポリトリメチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリアミド繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエーテルエステル系弾性繊維等が好ましく用いられる。モノフィラメント繊維は弾性糸であることが好ましく、弾性回復性に優れたポリトリメチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリエーテルエステル系弾性繊維がより好ましい。
【0027】
なお、熱融着性のモノフィラメント繊維としては、繊維断面を芯鞘構造とし、60℃〜20℃の融点差を有する様に、芯側の融点を高く設定したモノフィラメント繊維を用いることが好ましい。この際、芯側の面積構成比率は、糸断面積比で、芯成分が50%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましい。
【0028】
本発明において、略V字部分のV字の角度は、メッシュの形状や大きさによって任意であり、略V字を形成するウエール列は直線状であっても、湾曲していても良い。また、「略V字」は、編み終わり方向を上に見た場合であっても、編み始め方向を上に見た場合であっても良い。
【0029】
本発明の経編地は、通気性を高め、着座時の蒸れ感を防止するため、メッシュ形状である必要がある。メッシュの開口率は10〜50%であることが好ましく、10〜40%がより好ましい。開口率が10〜50%であると、引裂強力が十分であり、優れた通気性と蒸れ感防止効果が得られる。
【0030】
本発明の経編地は、厚み方向にクッション性を付与して、更に座り心地や振動吸収性を向上させる場合は、ダブルラッセル編機により編成し、立体編物とすることが好ましい。
立体編物とする場合は、裏面を本発明の経編地とし、表面を、裏面と同様のメッシュ状編地あるいは形状の異なるメッシュ状編地とした立体編物とすることができる。
【0031】
立体編物において、表面に用いる繊維としては、任意の繊維を用いることができるが、易リサイクル性、耐久性、低コストの観点からポリエチレンテレフタレート繊維を用いることが好ましい。また、連結糸として、モノフィラメント繊維やマルチフィラメント繊維を使用して、厚み方向のクッション性を付与することができる。クッション性をより発現するためには、連結糸としてモノフィラメント繊維を用いることが好ましい。連結糸として用いるモノフィラメント繊維の素材は、地組織に挿入するモノフィラメント繊維と同様の繊維を用いることができる。
【0032】
本発明の経編地は、タテ方向及びヨコ方向の引張強力が800N/4cm幅以上であることが好ましく、さらに好ましくは1000N/4cm幅以上である。引張強力が800N/4cm幅以上であることにより、衝突時や過度な負荷が編地に掛かった際も、編地が破壊されることなく、座席シートの安全性が維持できる。タテ方向及びヨコ方向の引張強力は高いほど好ましいが、その上限は繊維の性能から自ずと限度がある。
【0033】
タテ方向及びヨコ方向の伸長率は、タテ向またはヨコ方向に5%伸長した際に、応力が大きい方向をA方向、応力が小さい方向をB方向とするとき、A方向の5%伸長時の応力(A)と、B方向の5%伸長時の応力(B)の比が(A)/(B)=1.1〜10.0であることが好ましい。
【0034】
応力比(A)/(B)が1.1以上であると、人体へのフィット性に優れ、良好な座り心地が得られる。応力比が10.0以下であると、着座時にA方向に皺が入り難く、臀部の違和感が生じることが無く、また、A方向に張力を掛け、両端2辺を固定して使用する場合に、A方向に沿った未固定の2辺の幅が収縮し難く、臀部の違和感が生じることが無いと共に、しっかりした安定感のある座り心地が得られる。
【0035】
本発明の経編地は、フレームに張設して座部および/または背部を形成する座席に好適に用いられるが、布バネ材として経編地をフレームに張設する状態は限定されるものではなく、布バネ材の周囲または少なくとも2辺を背部または座席のフレームに緊張状態または弛ませた状態で張ることにより、布バネ材が座席の座部や背部を形成すればよい。
【0036】
布バネ材として経編地をフレームに固定する方法は任意の方法を用いることができる。例えば、特開2002−219985号公報に記載のように、編地の末端部に、断面が略U字状で溝部を有するプレート部材を固着し、該プレート部材の溝部を適宜のフレーム材に係合する方法、布バネ材の末端部を溶着、縫製、樹脂加工等により処理した後、端部を押さえ部材等で押さえてボルト止め等でフレームに固定する方法、端部を折り返して縫製した空洞の中に金属棒を通し、金属棒をフレームに固定する方法等、任意の方法を用いることができる。
【0037】
なお、本発明の経編地を、布バネ材としてコイルスプリング、トーションバー等の金属バネを介してフレームに固定する方法等を用いることにより、よりいっそうストローク感のあるクッション性を付与することができる。
本発明の経編地は、ラッセル編機を用いて編成することが好ましく、編機のゲージは、好ましくは9ゲージから28ゲージまでが用いられ、より好ましくは9ゲージから18ゲージまでが用いられる。
【0038】
経編地の目付は、目的に応じて任意に設定できるが、シングル編地の場合は、好ましくは250〜1000g/m2、より好ましくは300〜800g/m2であり、立体編物の場合は、好ましくは500〜1500g/m2、より好ましくは600〜1300g/m2である。
【0039】
経編地の仕上げ加工方法としては、生機を精練、染色、ヒートセット等の工程を通して仕上げることができるが、精練や染色工程を省いて生機をヒートセットのみで仕上げることもできる。
また仕上げセット時には、本発明の目的を損なわない限り、通常、繊維加工に用いられている樹脂加工、吸水加工、制電加工、抗菌加工、撥水加工、難燃加工などの仕上げ加工を適用できる。
【0040】
仕上げセットで用いる熱処理機としては、ピンテンター、クリップテンター、ショートループドライヤー、シュリンクサーファードライヤー、ドラムドライヤー、連続およびバッチ式タンブラー等が使用できる。
本発明の経編地は、仕上げ加工後、融着、縫製、樹脂加工等の手段で端部を処理したり、熱成型等により所望の形状に加工し、布バネ材として張設タイプの座席等に用いることができる。
【発明の効果】
【0041】
本発明の布バネ材用経編地は、通気性が高く、着座時に蒸れ感が少なく、高い引張強力及び引裂強力を有し、かつ、着座時に面剛性が高く、安定感があり、着座後、良好な伸長回復性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、各特性の評価法および測定法は下記の通りである。
また、例中で使用した熱融着モノフィラメントの製造方法は、参考例として示した。
【0043】
(1)メッシュの開口率H(%)
キーエンス社製の画像解析装置(VH−7000)を用い、本発明の経編地の地組織のニードルループ側の拡大写真(5〜20倍)を編地表面の直角方向から撮影し、10cm角の写真(又は、撮影写真のコピー)を得る。
写真(又はコピー)から、繊維がなく貫通している開口部と、繊維が存在している非開口部の境界に線を引き、開口部を全て切り取る。開口部の重量をA(g)、非開口部の重量をB(g)としたときに、次式に示す割合で開口率を算出する。
H(%)=〔A/(A+B)〕×100
【0044】
(2)経編地の引張強力(N)
経編地を20cm×4cmの短冊状にカットした試験片を、タテ方向(編地長さ方向)及びヨコ方向(編地の幅方向)に、それぞれ3枚づつ採取する。
島津オートグラフAG−B型((株)島津製作所製)を用い、試験片を自重で垂らした状態で、つかみ間隔10cmで上下のチャックに固定し、50mm/分の速度で試験片を引張り、経編地が破断するまでの最高の引張強力(N/4cm幅)を測定する。値は3回測定した平均値とする。
【0045】
(3)5%伸長時の応力(N)
経編地の引張強力を評価した結果の荷重−変位曲線から、5%まで伸長させた時の引張り応力を求める。タテ方向とヨコ方向を各3回測定し、それぞれの平均値を求める。5%伸長時の応力が高い方向をA方向とする。
【0046】
(4)引裂強力(N)
経編地を25cm×5cmの短冊状にカットした試験片に、短辺(5cm側)の中央部から長辺に並行に10cmの切り込みを入れる。
島津オートグラフAG−B型((株)島津製作所製)を用い、切り込みによって2.5cm幅となった2つの端部の一方を上側のチャックに固定し、試験片を自重で垂らした状態でもう一方の2.5cm幅の端部を下側のチャックに固定し、この際、つかみ間隔10cmとし、200mm/分の速度で試験片を引張り、引裂強力の最大値を測定する。値は3回測定した平均値とする。
【0047】
(5)通気度
JIS−L−1096(フラジール法)に準拠して測定する。
【0048】
(6)張設座席での座り心地(蒸れ感、幅入りによる違和感、安定感)及び回復性
座部が幅52cm、奥行き47cm、高さ32cmの口型金属パイプ材からなる座席フレーム(背もたれなし)を作製する。
幅50cm×長さ57cmの経編地(上記(3)の5%伸長時の応力の測定で得たA方向を長さ方向とする)の長さ方向の両端2辺(短辺側)の全幅にポリブチレンテレフタレート樹脂製の略U字状のプレートを縫製で取り付ける。
【0049】
経編地の一方の略U字プレートを、座席フレーム前縁下に取り付けた金属製略U字プレートとかみ合わせ、経編地の全幅に均一に10Kgの荷重をかけて張力を付与した状態で座席フレームの前後に経編地を張り、座席フレームの後ろ縁下の金属製略U字プレートと経編地の樹脂製略U字状のプレートとかみ合わせて経編地を張設する。10Kgの張力により金属製略U字プレートの位置と樹脂製略U字プレートの位置がずれる場合は、金属製樹脂略U字プレートのボルト止めした位置をずらせて調節する。
【0050】
経編地のA方向と膝の向きを合せて、座席の上に体重65Kgの男性が10分間座った後、退席する。
着座時の座り心地の評価として、経編地の蒸れ感を下記の4段階で相対評価する。
【0051】
◎:全く蒸れ感がない
○:ほとんど蒸れ感がない
△:やや蒸れ感がある
×:非常に蒸れ感がある、
【0052】
また、着座時の違和感(尻の凹部に編地が盛り上がって異物上に座ったような感覚)を、官能評価によって下記の4段階で相対評価する。
◎:違和感が全くない
○:違和感が殆どない
△:違和感がややある
×:違和感が激しい
【0053】
さらに、着座時の安定感を、下記の4段階で相対評価する。
◎:適度な面剛性で安定感に優れる
○:面剛性がやや高めで安定感がある
△:面剛性がやや低く安定感がやや劣る
×:面剛性が低く安定感が劣る、
【0054】
さらにまた、退席後の布バネの回復状態を目視評価し、下記の4段階で相対評価する。
◎:完全に元通りに回復している
○:ほぼ元通りに回復している
△:ややくぼみ(変形)が残る
×:大きくくぼみが残る
【0055】
〔参考例〕(熱融着性モノフィラメント繊維の製造)
実施例において使用した熱融着性モノフィラメント繊維を以下の方法により製造した。
テレフタル酸ジメチルとエチレングリコールを仕込み、少量の触媒と共に常法に従いエステル交換反応を行い、オリゴマーを得た。一方、アジピン酸とエチレングリコールを仕込み、少量の触媒と共に常法に従いエステル化反応を行い、オリゴマーを得た。次いで、得られた各オリゴマーと少量の酸化防止剤を混合し、引き続き重縮合反応を行い、融点が120℃、ガラス転移温度0℃、密度1.25g/cmの共重合ポリエステルを得た。
【0056】
得られた共重合ポリエステルを鞘成分とし、ポリトリメチレンテレフタレート(固有粘度[η]0.92、融点227℃、密度1.35g/cm)を芯成分として、以下の製造条件で鞘芯構造のモノフィラメント繊維を製造した。
【0057】
鞘成分ポリマー吐出量 :2.4g/分
鞘成分ポリマー溶融温度 :200℃
芯成分ポリマー吐出量 :4.9g/分
芯成分ポリマー溶融温度 :260℃
紡糸温度 :260℃
冷却浴水温 :40℃
【0058】
引き取りロール(第1ロール)周速:8.8m/分
延伸浴水温 :55℃
延伸ロール(第2ロール)周速 :44m/分
乾熱ヒーター温度 :140℃
第3ロール周速 :40m/分
巻取速度 :40m/分
【0059】
前記製造条件により、丸断面で、芯部の面積比が65%、繊度が3230dtex、破断強度が2.2cN/dtex、破断伸度が50%の鞘芯型モノフィラメント繊維を得た。鞘成分の融点は121℃、ガラス転移温度は0℃であった。
【0060】
なお、固有粘度[η](dl/g)は、次式の定義に基づいて求められる値である。
【数1】

式中のηrは、純度98%以上のo−クロロフェノール溶媒で溶解したポリトリメチレンテレフタレート糸またはポリエチレンテレフタレート糸の稀釈溶液の35℃での粘度を、同一温度で測定した上記溶媒の粘度で除した値であり、相対粘度と定義されているものである。Cはg/100mlで表されるポリマー濃度である。
【0061】
〔実施例1〕
4枚筬を装備した14ゲージのラッセル編機を用い、地組織を形成する筬(L1、L2)から1376デシテックス/192フィラメントのポリエチレンテレフタレート繊維の原糸を、L1の筬から1イン1アウトの配列で、L2の筬から1アウト1インの配列で供給し、挿入糸用の筬(L3)から390デシテックスのポリトリメチレンテレフタレート繊維のモノフィラメント(ソロテックス(株)社製)を2本引き揃えた状態で、1イン1アウトの配列で供給した。
【0062】
以下に示す編組織で、メッシュ形状のほぼ全コースを横切る様に挿入糸を挿入し、機上コース14.0個/2.54cmの密度で生機を編成した。得られた生機を25%幅出しして170℃×2分で乾熱ヒートセットし経編地を得た。得られた経編地の諸物性を表1に示す。
【0063】
(編組織)
L1:20/24/20/24/20/24/
46/42/46/42/46/42/(1イン1アウト)
L2:46/42/46/42/46/42/
20/24/20/24/20/24/(1アウト1イン)
L3:00/88/00/88/00/22/
1010/22/1010/22/1010/88/(1イン1アウト)
得られた経編地は、引張強力、引裂強力が高く、また、通気性が高く蒸れ感の少ない経編地であった。また、ヨコ方向に伸び過ぎることもなく回復性に優れた経編地であった。
【0064】
〔実施例2〕
実施例1において、L3の編組織を下記に示す編組織とし、挿入糸を、メッシュ形状の略V字部分を1コース、および、メッシュが最も開口してウエール列が編地の長さ方向と並行となっている部分(非略V字部分)を2コース横切る様に挿入した以外は、実施例1と同様にして経編地を得た。得られた経編地の諸物性を表1に示す。
【0065】
得られた経編地は、引張強力、引裂強力が高く、また、通気性が高く蒸れ感の少ない経編地であった。また、ややヨコ方向に伸び易い経編地であった。
(編組織)
L3:00/44/00/88/00/22/
1010/66/1010/22/1010/88/(オールイン)
【0066】
〔実施例3〕
緯糸挿入装置を装備した14Gのラッセル機を使用し、実施例1と同一の地組織において、参考例で作製した熱融着性モノフィラメント繊維をメッシュ形状の略V字部分に1コース緯糸挿入し、実施例1と同様に乾熱ヒートセットして経編地を得た。
【0067】
得られた経編地は、挿入糸が経編地の全幅に一直線状に伸びて挿入されており、乾熱ヒートセット時に挿入糸のモノフィラメント鞘部が溶融し、地組織の繊維と融着しているものであった。得られた経編地の諸物性を表1に示す。
得られた経編地は、引張強力、引裂強力が高く、また、通気性が高く蒸れ感の少ない経編地であった。また、面剛性も高く、安定感のある座り心地となるものであった。
【0068】
〔実施例4〕
14Gのダブルラッセル機を用い、地組織を形成する筬(L4、L5)から1376デシテックス/192フィラメントのポリエチレンテレフタレート繊維の原糸を、L4の筬から1イン1アウトの配列で、L5の筬から1アウト1インの配列で供給し、一方、挿入糸用の筬(L6)から390デシテックスのポリトリメチレンテレフタレート繊維のモノフィラメント(ソロテックス(株)社製)を2本引き揃えた状態で、1イン1アウトの配列で供給した。
【0069】
更に、片面の地組織を形成する筬(L1、L2)から500デシテックス/144フィラメントのポリエチレンテレフタレート繊維の仮撚糸を、L1の筬から1イン1アウトの配列で、L2の筬から1アウト1インの配列で供給し、一方、連結糸を構成するL3の筬から390デシテックスのポリトリメチレンテレフタレート繊維のモノフィラメント(ソロテックス(株)社製)を2本引き揃えて、オールインの配列で供給した。
【0070】
以下に示す編組織で、地組織のメッシュ形状のほぼ全コースを横切る様に挿入糸を挿入し、機上コース14.0個/2.54cmの密度で生機を編成した。
得られた生機を25%幅出しして170℃×2分で乾熱ヒートセットし経編地を得た。得られた経編地の諸物性を表1に示す。
【0071】
(編組織)
L1:2022/2422/2022/2422/2022/2444/
4644/4244/4644/4244/4644/4222/
(1イン1アウト)
L2:4644/4244/4644/4244/4644/4222/
2022/2422/2022/2422/2022/2444/
(1アウト1イン)
L3:2024/(オールイン)
【0072】
L4:2220/2224/2220/2224/2220/2224/
4446/4442/4446/4442/4446/4442/
(1イン1アウト)
L5:4446/4442/4446/4442/4446/4442/
2220/2224/2220/2224/2220/2224/
(1アウト1イン)
L6:0000/8888/0000/8888/0000/2222/
10101010/2222/10101010/2222/10101010/8888/
【0073】
得られた経編地は、引張強力、引裂強力が高く、また、通気性が高く蒸れ感の少ない経編地であった。さらには厚み方向のクッション性の優れたものであった。
【0074】
〔比較例1〕
4枚筬を装備した14ゲージのラッセル編機を用い、地組織を形成する筬(L1、L2)から840デシテックス/144フィラメントのポリエチレンテレフタレート繊維の原糸をオールインの配列で供給し、挿入糸用の筬(L3)から390デシテックスのポリトリメチレンテレフタレート繊維のモノフィラメント(ソロテックス(株)社製)を2本引き揃えて、オールインの配列で供給した。
【0075】
以下に示す編組織で、機上コース17.0個/2.54cmの密度で生機を編成した。得られた生機を有り幅で150℃×3分で乾熱ヒートセットし、経編地を得た。得られた経編地の諸物性を表1に示す。
【0076】
(編組織)
L1:20/02/(オールイン)
L2:20/1012/(オールイン)
L3:44/00/(オールイン)
得られた経編地は、引張強力、引裂強力が高いものの、開口が無い(即ち、メッシュ状でない)ために、通気性が低く、非常に蒸れ感のある経編地であった。
【0077】
〔比較例2〕
実施例1において、L3の編組織を下記に示す編組織とし、挿入糸がメッシュの略V字部分を横切ることなく、地組織のウエール列に沿って挿入した以外は、実施例1と同様にして経編地を得た。得られた経編地の諸物性を表1に示す。
【0078】
(編組織)
L3:00/44/00/44/00/22/
66/22/66/22/66/44/(1イン1アウト)
得られた経編地は、通気性が高く蒸れ感が少ないものの、引裂強力が低く、また、ヨコ方向に伸び過ぎる経編地であった。また、面剛性が低く安定感に劣る共に、着座後の回復性の悪いものであった。
【0079】
〔比較例3〕
4枚筬を装備した18ゲージのラッセル編機を用い、地組織を形成する筬(L1、L2)から560デシテックス/96フィラメントのポリエチレンテレフタレート繊維の原糸を、L1の筬から1イン1アウトの配列で、L2の筬から1アウト1インの配列で供給し、一方、挿入糸用の筬(L3)から390デシテックスのポリトリメチレンテレフタレート繊維のモノフィラメント(ソロテックス(株)社製)を2本引き揃えた状態で、1イン1アウトの配列で供給した。
【0080】
実施例1と同様の編組織で、機上コース20.0個/2.54cmの密度で生機を編成した。得られた生機を25%幅出しをして170℃×2分で乾熱ヒートセットし経編地を得た。得られた経編地の諸物性を表1に示す。
得られた経編地は、引張強力、引裂強力共に低過ぎるものであった。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の経編地は、自動車、鉄道車両、航空機、チャイルドシート、ベビーカー、車椅子、家具、事務用等の座席シート用クッション材として用いることができ、高い引張強力、引裂強力を有し、刃物等による傷や、タバコの火等によって空いた穴が広がり難く、安全性の高い布バネ材として好適に使用される。また、通気性が高く、着座時の蒸れ感が少なく、かつ、面剛性が高く、安定感のある座り心地が得られ、着座後の伸長回復性に優れた布バネ材として好適に用いることができる。
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の経編地において、メッシュ形状の略V字部分の一例を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2枚筬以上の筬列から供給された繊維により地組織が構成され、該2枚筬の地組織の1編目を構成する繊維の総繊度が900〜2500デシテックスであるメッシュ状の経編地であって、該地組織の2列以上の複数列のウエール列が略V字状に分岐してメッシュを形成しており、該メッシュ形状の一部である略V字部分を横切って、300〜3000デシテックスのモノフィラメント繊維が挿入編みされていることを特徴とする経編地。
【請求項2】
開口率が10〜50%であることを特徴とする請求項1に記載の経編地。
【請求項3】
モノフィラメント繊維が弾性糸であることを特徴とする請求項1又は2に記載の経編地。
【請求項4】
タテ及びヨコ方向の引張強力が、いずれも800N/4cm幅以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の経編地。
【請求項5】
ダブルラッセル編機で編成された立体編物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の経編地。

【図1】
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【公開番号】特開2010−43387(P2010−43387A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−209272(P2008−209272)
【出願日】平成20年8月15日(2008.8.15)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】