説明

布地の処理方法

【課題】2種類以上の繊維を含む布地を処理する有効な方法を提供する。
【解決手段】タンパク繊維、綿繊維、ナイロン繊維、またはポリエステル繊維を少なくとも2種類以上含む布地を、亜臨界水温度200℃〜220℃で所定時間処理すると、羊毛などのタンパク繊維が分解され、アミノ酸を生ずる。その後250℃〜300℃で処理すると綿繊維が分解され、糖もしくは有機酸が生ずる。さらに300℃〜350℃で処理し、ポリエステル繊維、ナイロン繊維が分解する。亜臨界水の処理温度または処理時間を変える事で、繊維の原料となる分解物、残渣繊維として、分離、再利用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2種以上の繊維を含む布地の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
廃棄物中に含まれる廃繊維製品は、従来焼却処分や廃棄処分されている。環境の面からこのような廃繊維製品を再利用することが試みられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1には、ポリエステル繊維とウール繊維を、所定の条件で、水熱反応させ、ウール繊維を溶解させた後、ポリエステル繊維を回収する方法が開示されている。
【特許文献1】特開2003−164827号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、実際の廃繊維中には、ポリエステル繊維とウール繊維以外に、綿繊維やナイロン繊維などの多種類の繊維を含んでいる。これら多種類の繊維を含む廃繊維から、ポリエステル繊維とウール繊維とを分離することは、実情に沿わない。
【0005】
すなわち、本発明は、上記問題に鑑みなされたものであり、その目的は、2種類以上の繊維を含む布地を処理する有効な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく、鋭意検討した結果、2種類以上の繊維を含む布地を、処理温度または処理時間を変えて、亜臨界状態の水と接触させ、前記布地に含まれる繊維の分解物あるいは繊維を得ることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
前記布地は、タンパク繊維、綿繊維、ナイロン繊維、またはポリエステル繊維を少なくとも2種以上含むと好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、亜臨界状態の水を用いて、2種類以上の繊維を含む布地を処理することで、前記布地に含まれる繊維の分解物あるいは繊維を得る、布地の処理方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0010】
[布地に含まれる繊維]
本発明の処理方法に用いられる布地には、通常布地に用いられる繊維が含まれていればよい。具体的には、タンパク繊維、綿繊維、ナイロン繊維、またはポリエステル繊維を少なくとも2種以上含むものであればよい。
【0011】
タンパク質繊維としては、タンパク質(ケラチン)を主成分とする繊維であって、羊毛(ウール)、モヘヤ、カシミヤ、山羊毛、アルパカ、ラクダ、ウマ、ウサギの毛などの動物繊維が挙げられる。また、天然繊維を溶解して紡糸し再凝固させてつくった再生繊維、天然繊維の高分子に化学反応を施し誘導体として紡糸した半合成繊維などである。タンパク繊維を含有する布製品は、例えば布製品の廃棄物であってもよい。
【0012】
ナイロン繊維は、ナイロン6、ナイロン6−6、ナイロン6−10、ナイロン10、ナイロン12、ナイロン6−12などの脂肪族ポリアミド又はコポリアミドなどであればよい。
【0013】
ポリエステル繊維は、芳香族ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレートなどのポリアルキレンアリレート系樹脂など)、脂肪族ポリエステル(ポリ乳酸、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ヒドロキシブチレート−ヒドロキシバリレート共重合体、ポリカプロラクトンなどの脂肪族ポリエステル又はコポリエステルなど)などである。
【0014】
布地は、上記繊維に加え、他の天然繊維、合成繊維を含んでいてもよい。
【0015】
布地は、直接またはスラリー状態で反応器に供給される。前記処理物は、そのまま用いてもよく、前処理を施してもよい。布製品などの場合は、切断処理をして反応器に供給してもよい。
【0016】
[分解条件]
本発明の布地の処理方法は、2種類以上の繊維を含む布地を、処理温度または処理時間を変えて、亜臨界状態の水と接触させ、前記布地に含まれる繊維の分解物あるいは繊維を得る。布地と、亜臨界状態の水との混合比は、特に制限されないが、例えば、繊維を含有する処理物1質量部に対して、水を2〜30質量部、好ましくは3〜25質量部の範囲であるとよい。
【0017】
ここで、水の亜臨界状態とは、374℃以下でその温度における飽和蒸気圧以上の高温高圧状態をいう。本発明の布地の処理方法では、処理時間、処理温度は、布地に含まれる繊維の種類によって異なる。
【0018】
本発明の布地の処理方法は、以下に説明するように、亜臨界水に対する各繊維の分解温度が異なることを用いる。図1は、羊毛、綿繊維、ナイロン繊維、ポリエステル繊維をそれぞれ、1質量部に対して、純水16質量部を反応管(SUS316)に充填して密閉した反応管を、それぞれ、175℃、200℃、225℃、250℃、275℃、300℃、325℃、350℃の恒温槽に浸漬して急激に加熱し、5分間保持して、分解反応を行った後、常温に戻した際の固相残存率を示す図である。混合繊維は、各単成分の値から求めた理論値である。図1において、横軸は、処理温度(Reaction temperature(℃))を、縦軸は下記式(1)に示す固相残存率を示す。
【数1】

【0019】
図1から、羊毛は、反応温度180℃、綿繊維は225℃で、ポリエステル繊維は250℃で、ナイロンは275℃で分解が始まることがわかる。ポリエステル繊維の固体残存率は、300℃付近から固体残存率が再び増加している。これは、固体残存率を常温で測定したためであると考えられる。ポリエステル繊維の分解物であるテレフタル酸エステルオリゴマーやテレフタル酸ジメチルが常温で析出したためと考えられた。
【0020】
また、個別の繊維の固体残存率から求めた混合繊維の固体残存率の理論値と、実際の混合繊維の固体残存率は、ほぼ一致している。このことから、混合繊維を用いた場合にも、それぞれの繊維はほぼ同様の温度で分解していることがわかる。
【0021】
図2は、綿繊維1質量部に対して、純水16質量部を反応管(SUS316)に充填して密閉した反応管を、反応温度270℃、310℃の恒温槽に浸漬して急激に加熱し、0〜12分間保持して、分解反応を行った後、常温に戻した際の核反応時間に対する糖生成率を示す図である。図2において、横軸は、反応時間(分)を、縦軸は、仕込み試料乾燥質量(g−dry sample)当たりの糖生成量(g/g−dry sample)を表す。
【0022】
図2から、綿繊維を亜臨界水で分解させると、グルコースなどの各種糖類が生成することがわかる。また、270℃と310℃とで比較すると、処理温度が高いほど、生成する糖の濃度のピークが短時間で現れている。
【0023】
図3は、綿繊維1質量部に対して、純水16質量部を反応管(SUS316)に充填して密閉した反応管を、270℃、310℃の恒温槽に浸漬して急激に加熱し、0〜10分間保持して、分解反応を行った後、常温に戻した際の核反応時間における有機酸生成率を示す図である。図3において、横軸は、反応時間(分)を、縦軸は、仕込み試料乾燥質量(g−dry sample)当たりの有機酸生成量(g/g−dry sample)を表す。
【0024】
図3から、綿繊維を亜臨界水で分解させると、グルコースなどの各種糖類が生成に比べ、有機酸の生成時間が遅いことがわかる。これは、糖類が分解して有機酸を生成するためである。また、270℃と310℃とで比較すると、処理温度が高いほど、生成する有機酸の収率が高くなる。例えば、グリコール酸は、310℃で約5質量%得られる。また。乳酸は、310℃で2分間処理した場合約1.5質量%得られ、10分間処理した場合は、約4質量%得られる。
【0025】
図2、3の結果から、綿繊維を亜臨界水で分解する場合に、糖を回収するか、有機酸を回収するかの目的により、好適な反応温度、反応時間を適宜選択すればよいことがわかる。
【0026】
図4は、ポリエステル繊維(ポリエチレンテレフタレート)1質量部に対して、純水16質量部を反応管(SUS316)に充填して密閉した反応管を、175℃〜330℃の間で温度条件を変えた恒温槽に浸漬して急激に加熱し、5分間保持して、分解反応を行った後、常温に戻した際の各反応時間における固相、0.1N NaOH溶解物、テレフタル酸、エチレングリコール、水相中のTOC(全有機炭素)生成率を示す図である。図4において、横軸は、処理温度(Reaction temperature(℃))を、縦軸は、仕込み試料乾燥質量(g−dry sample)当たりの生成量(g/g−dry sample)を表す。
【0027】
図4から、250℃以上でポリエステル繊維が分解し始め、300℃以上で、ポリエステル繊維の分解モノマーであるテレフタル酸、エチレングリコールの生成率が増加することがわかる。
【0028】
図5は、ポリエステル繊維(ポリエチレンテレフタレート)1質量部に対して、純水16質量部を反応管(SUS316)に充填して密閉した反応管を、350℃の恒温槽に浸漬して急激に加熱し、0〜10分間保持して、分解反応を行った後、常温に戻した際の核反応時間における固相、0.1N NaOH溶解物、テレフタル酸、エチレングリコール、水相中のTOC(全有機炭素)生成率を示す図である。図5において、横軸は、反応時間(分)を、縦軸は、仕込み試料乾燥質量(g−dry sample)当たりの生成量(g/g−dry sample)を表す。
【0029】
図5から、350℃で、5分間反応すると、エチレングリコールの収率が0.10であることがわかる。また、水相中の構成成分はほぼエチレングリコールであった。すなわち、350℃で、5分間の亜臨界処理で、ポリエステル繊維は完全にモノマー化が行えることがわかる。
【0030】
図6は、ナイロン繊維(6−ナイロン)1質量部に対して、純水16質量部を反応管(SUS316)に充填して密閉した反応管を、175℃〜330℃の間で温度条件を変えた恒温槽に浸漬して急激に加熱し、5分間保持して、分解反応を行った後、常温に戻した際の各反応時間における残留固相、ε-カプロラクタム、6-アミノヘキサン酸、水相中のTOC(全有機炭素)生成率を示す図である。図6において、横軸は、処理温度(Reaction temperature(℃))を、縦軸は、仕込み試料乾燥質量(g−dry sample)当たりの生成量(g/g−dry sample)を表す。
【0031】
図6から、ナイロン繊維(6−ナイロン)は、反応時間5分の場合は、反応温度300℃以上の条件で分解することがわかる。これは、ポリエステル繊維の分解条件よりも高い。
【0032】
図7は、ナイロン繊維(6−ナイロン)1質量部に対して、純水16質量部を反応管(SUS316)に充填して密閉した反応管を、350℃の恒温槽に浸漬して急激に加熱し、0〜10分間保持して、分解反応を行った後、常温に戻した際の核反応時間における残留固相、ε-カプロラクタム、6-アミノヘキサン酸、水相中のTOC(全有機炭素)生成率を示す図である。図7において、横軸は、反応時間(分)を、縦軸は、仕込み試料乾燥質量(g−dry sample)当たりの生成量(g/g−dry sample)を表す。
【0033】
図7から、TOC収率が0.64の場合(反応時間10分)に、水相中にε-カプロラクタムのみが存在していることがわかる。このことから、ナイロン繊維(6−ナイロン)は、350℃で10分で全てモノマーまで分解していることがわかる。
【0034】
図1から、例えば処理温度を段階的に上げていくことで、布地に含まれる繊維の分解物あるいは未分解の繊維が得られることがわかる。図2〜図7から、各々の繊維を分解する際に、適切な温度と分解時間を選択すると、分解に用いる繊維に基づく分解物が得られることがわかる。例えば、200℃〜220℃の温度で所定時間処理すると、羊毛などのタンパク繊維が分解されてアミノ酸を生ずる。その後、250℃〜300℃程度の温度で所定時間処理すると、綿繊維が分解される。分解物として糖を得るか有機酸を得るかにより、処理温度、処理時間を適宜決定すればよい。その後、300℃〜350℃程度に昇温して、ポリエステル繊維、次にナイロン繊維を順次分解する。得られた分解物は、公知の方法により、分離・精製し、繊維の原料やその他の原料として再利用することができる。
【0035】
本発明の布地の処理方法は、回分式、半回分式、連続式いずれの方法で行ってもよい。一方、過度な条件で分解すると、有用な分解物までも分解される可能性がある。処理効率を考えると、好ましいのは、半回分式と連続式である。連続式では反応管を対象繊維の分解に最適な低温から高温に順次変え、それぞれの温度で取り出し口を設けて、各繊維の分解生成物を取りだす方法が考えられる。あるいは、複数の反応管を備える処理装置を用いてもよい。反応管内の処理温度の低い順から高い順に、設定温度を変えることで、各反応管ごとに、対象繊維を処理することができる。
【0036】
本発明の布地の処理方法は、亜臨界水に対する繊維の分解温度が異なることを用いる。したがって、動物繊維、綿製品、ポリエステル繊維、ナイロン繊維に限られず、他の繊維を含む布地に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】図1は、羊毛、綿繊維、ナイロン繊維、ポリエステル繊維を温度を変えて亜臨界水処理をした場合における、固相残存率を示す図である。
【図2】図2は、綿繊維を温度を変えて亜臨界水処理をした場合における、糖生成率を示す図である。
【図3】図3は、綿繊維を温度を変えて亜臨界水処理をした場合における、有機酸生成率を示す図である。
【図4】図4は、ポリエステル繊維を温度を変えて亜臨界水処理をした場合における、分解物の生成率を示す図である。
【図5】図5は、ポリエステル繊維を350℃で亜臨界水処理をした場合における、分解物の生成率を示す図である。
【図6】図6は、ナイロン繊維を温度を変えて亜臨界水処理をした場合における、分解物の生成率を示す図である。
【図7】図7は、ナイロン繊維を350℃で亜臨界水処理をした場合における、分解物の生成率を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種類以上の繊維を含む布地を、処理温度または処理時間を変えて、亜臨界状態の水と接触させ、前記布地に含まれる繊維の分解物あるいは繊維を得る、布地の処理方法。
【請求項2】
前記布地は、タンパク繊維、綿繊維、ナイロン繊維、またはポリエステル繊維を少なくとも2種以上含む、請求項1に記載の布地の処理方法。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−255554(P2008−255554A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−60970(P2008−60970)
【出願日】平成20年3月11日(2008.3.11)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】