説明

布帛、テント用膜材および再生紙製造方法

【課題】 容易に再利用することが可能であるとともに、高い強度を有する布帛、テント用膜材および再生紙製造方法を提供する。
【解決手段】 布帛1は、経糸および緯糸の少なくとも一方がケナフ繊維を含む織物から成る基布11を含む。基布11を構成する織物において、温度20℃、相対湿度65%で測定したときの織物全量中のケナフ繊維の割合は、織物全量の15重量%以上55重量%以下であり、経糸中のケナフ線維の割合は、経糸全量の55重量%以下あり、緯糸中のケナフ糸の割合は、緯糸全量の55重量%以下である。このような基布11を含む布帛1は、テント用膜材として好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえばドーム型野球場の屋根のようなテントに用いられる布帛、テント用膜材および再生紙製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ドーム型野球場の屋根のようなテントには、各種合成繊維糸から成る基布に樹脂を被覆した布帛が用いられる(たとえば、特許文献1および2参照)。合成繊維糸から成る基布を含む布帛は、再利用することが困難であるので、劣化して使用できない状態になると、産業廃棄物として廃棄される。
【0003】
省資源化および環境保護に資する観点から、使用後に再利用可能な布帛が求められる。このような布帛として、ケナフ繊維を含む繊維糸の織物から成るテント生地がある(たとえば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−147685号公報
【特許文献2】特開2003−171847号公報
【特許文献3】再表2002−31243号公報 テントに用いられる布帛には、再利用可能なだけでなく、高い強度を有することが求められる。特表2002−31243号公報に開示のケナフ繊維を含む繊維糸は、合成繊維を含む繊維糸に比べて強度が低いので、ケナフ繊維を含む繊維糸を用いると、合成繊維を含む繊維糸を用いる場合に比べて、布帛としての強度が低下する場合がある。特表2002−31243号公報に開示のテント生地には、強度の観点から、改良の余地がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、容易に再利用することが可能であるとともに、高い強度を有する布帛、テント用膜材および再生紙製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、経糸および緯糸の少なくとも一方がケナフ繊維を含む織物であって、温度20℃、相対湿度65%で測定したときの織物全量中のケナフ繊維の割合が織物全量の15重量%以上55重量%以下であり、経糸中のケナフ繊維の割合が経糸全量の55重量%以下であり、緯糸中のケナフ繊維の割合が緯糸全量の55重量%以下である織物から成る基布を含むことを特徴とする布帛である。
【0007】
また本発明は、基布の厚み方向一表面部に積層され、難燃剤を含有する難燃剤層を含むことを特徴とする。
【0008】
また本発明は、難燃剤層と基布との間に介在し、難燃剤層と基布とを接着する接着層を含むことを特徴とする。
【0009】
また本発明は、経糸および緯糸の少なくとも一方は、フィラメント糸を含むことを特徴とする。
【0010】
また本発明は、経糸および緯糸の少なくとも一方は、ポリエステル繊維を含むことを特徴とする。
【0011】
また本発明は、前記本発明の布帛から成ることを特徴とするテント用膜材である。
また本発明は、複数の膜部材が接合されて成るテント用膜材であって、
前記膜部材は、前記本発明の布帛から成ることを特徴とするテント用膜材である。
【0012】
また本発明は、前記本発明のテント用膜材を小片化し、
小片化したテント用膜材を水とともに撹拌することによってパルプを生成し、
生成したパルプを水中に拡散させて、抄紙して乾燥させることを特徴とする再生紙製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、布帛を構成する基布は、経糸および緯糸の少なくとも一方がケナフ繊維を含む織物から成る。この織物において、温度20℃、相対湿度65%で測定したときの織物全量中のケナフ繊維の割合(以下、単に「織物全量中のケナフ繊維の割合」という)は、織物全量の15重量%以上55重量%以下であり、温度20℃、相対湿度65%で測定したときの経糸中のケナフ繊維の割合(以下、単に「経糸中のケナフ繊維の割合」という)は、経糸全量の55重量%以下であり、温度20℃、相対湿度65%で測定したときの緯糸中のケナフ繊維の割合(以下、単に「緯糸中のケナフ繊維の割合」という)は、緯糸全量の55重量%以下である。織物全量中のケナフ繊維の割合が織物全量の15重量%未満であると、布帛を紙として再利用しようとした場合、紙状に形成することが困難となるので、布帛を再利用することは困難である。織物全量中のケナフ繊維の割合が織物全量の55重量%を超えると、布帛全体としての強度が充分に確保できない。また経糸中のケナフ繊維の割合が経糸全量の55重量%を超えると、布帛の経方向の強度が充分に得られず、緯糸中のケナフ繊維の割合が緯糸全量の55重量%を超えると、布帛の緯方向の強度が充分に得られない。
【0014】
前述のように織物全量中のケナフ繊維の割合を織物全量の15重量%以上55重量%以下とし、経糸中のケナフ繊維の割合を経糸全量の55重量%以下とし、緯糸中のケナフ繊維の割合を緯糸全量の55重量%以下とすることによって、布帛を容易に再利用することができる。たとえば布帛を紙として再利用することができる。また経方向および緯方向のいずれにも充分な強度を有し、かつ布帛全体としても高い強度を有する布帛を実現することができる。
【0015】
また本発明によれば、布帛は、基布の厚み方向一表面部に積層され、難燃剤を含有する難燃剤層を含む。これによって、難燃性に優れる布帛を実現することができる。
【0016】
また本発明によれば、難燃剤層と基布との間には、接着層が含まれる。難燃剤層と基布との間に接着層がない場合、難燃剤層に含有される難燃剤の影響で、難燃剤層と基布との密着強度が充分に得られず、難燃剤層と基布との接合強度が充分に得られないおそれがある。前述のように難燃剤層と基布との間に接着層を設けることによって、難燃剤層と基布との接合強度を充分なものとし、難燃剤層の剥離を防ぐことができる。また基布を構成する織物には、短繊維であるケナフ繊維が含まれるので、ケナフ繊維と接着層との絡み合いによって、基布を構成する織物がケナフ繊維を含まない場合に比べて、基布と接着層との接着性を高めることができる。これによって、基布と難燃剤層との接合強度を高めることができるので、難燃剤層の剥離をより確実に防ぐことができる。したがって、強度および難燃性に優れるとともに、耐久性に優れる布帛を実現することができる。
【0017】
また本発明によれば、基布を構成する織物の経糸および緯糸の少なくとも一方は、フィラメント糸を含む。フィラメント糸は、スパン糸に比べて、強度が高い。したがってフィラメント糸を含む織物で基布を構成することによって、一層強度の高い布帛を実現することができる。
【0018】
また本発明によれば、基布を構成する織物の経糸および緯糸の少なくとも一方は、ポリエステル繊維を含む。ポリエステル繊維は、他の合成繊維、たとえばポリアミド繊維に比べて、強度が高く、また耐光性に優れ、劣化しにくい。したがってポリエステル繊維を含む織物で基布を構成することによって、強度が高く、劣化しにくい布帛を実現することができる。
【0019】
また本発明によれば、テント用膜材は、前記本発明の布帛から成る。本発明の布帛は、前述のように容易に再利用可能であり、かつ強度が高いので、テント用膜材が本発明の布帛から成ることによって、容易に再利用することができ、かつ強度の高いテント用膜材を得ることができる。
【0020】
また本発明によれば、テント用膜材は、前記本発明の布帛から成る複数の膜部材が接合されて成る。本発明の布帛は、前述のように容易に再利用可能であり、かつ強度が高いので、本発明の布帛から成る複数の膜部材を接合することによって、容易に再利用することができ、かつ強度の高いテント用膜材を得ることができる。また本発明の布帛に含まれる基布は、前述のように短繊維であるケナフ繊維を含む織物で構成されるので、たとえば基布の厚み方向一表面部に接着層を介して難燃剤層が設けられる場合、ケナフ繊維を含まない織物から成る基布に接着層を介して難燃剤層が設けられる場合に比べて、基布と難燃剤層との接合強度を高めることができ、難燃剤層の剥離をより確実に防ぐことができる。これによって、膜部材が接合される接合部分において、基布から難燃剤層が剥離することを防ぐことができるので、膜部材同士の接合強度を高めることができる。したがって耐久性に優れるテント用膜材を実現することができる。
【0021】
また本発明によれば、本発明のテント用膜材を小片化し、小片化したテント用膜材を水とともに撹拌することによってパルプを生成し、生成したパルプを水中に拡散させて、抄紙して乾燥させることによって、再生紙が製造される。本発明のテント用膜材を構成する本発明の布帛は、織物全量の15重量%以上55重量%以下の割合でケナフ繊維を含む織物から成る基布を含むので、薬品を使用することなく、水のみで再生紙にすることができる。したがって容易に再生することができ、また再生するときの環境への負荷が小さい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の第1形態の布帛1を示す断面図である。
【図2】基布11の構成を示す平面図である。
【図3】経糸21を含む仮想平面における断面図である。
【図4】ケナフ糸23を含む仮想平面における断面図である。
【図5】非ケナフ糸24を含む仮想平面における断面図である。
【図6】テント用膜材の一例であるテント用膜材50を示す平面図である。
【図7】図6に示す切断面線S7−S7から見た断面図である。
【図8】試験片60に対する接合部引張強さ試験の様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は、本発明の実施の第1形態の布帛1を示す断面図である。布帛1は、基布11と、パッド層17と、プライマ層12,13と、コート層14,15と、防汚層16とを含む。布帛1は、複数、本実施形態では2つのプライマ層、すなわち表側プライマ層12,13を含む。布帛1は、複数、本実施形態では2つのコート層、すなわち表側コート層14および裏側コート層15を含む。本実施形態では、布帛1は、厚み方向一方Z1側が表側であり、厚み方向他方Z2側が裏側である。パッド層17およびコート層14,15は、難燃剤層に相当する。
【0024】
図2は基布11の構成を示す平面図であり、図3は基布11にパッド層17が形成された状態における厚み方向Zおよび経方向Yに平行な仮想平面における断面図であり、図4および図5は基布11にパッド層17が形成された状態における厚み方向Zおよび緯方向Xに平行な仮想平面における断面図である。図3は、経糸21を含む仮想平面における断面図であり、図2に示す切断面線S3−S3から見た断面図に相当する。図4は、ケナフ糸23を含む仮想平面における断面図であり、図2に示す切断面線S4−S4から見た断面図に相当する。図5は、非ケナフ糸24を含む仮想平面における断面図であり、図2に示す切断面線S5−S5から見た断面図に相当する。
【0025】
基布11は、織物から成り、経糸21と緯糸22とを一定の規則に従って交錯させて織られる。基布11は、本実施形態では平織、より詳細には、経畦織の織物から成り、経糸21と緯糸22とが一定の本数毎に交錯する組織を有する。複数の緯糸22が、経糸21の延在方向Yに配列され、複数の経糸21が、緯糸22の延在方向Xに配列される。以下、基布における経糸の延在方向Yを「布帛の経方向Y」といい、緯糸の延在方向Xを「布帛の緯方向X」という。経糸21の全重量と緯糸22の全重量との比は、特に制限されるものではなく、たとえば4:6(経糸21:緯糸22)である。
【0026】
基布11を構成する織物は、経糸21および緯糸22の少なくとも一方がケナフ繊維を含む。つまり、基布11を構成する織物は、経糸21および緯糸22の少なくとも一方が、ケナフ繊維を含むケナフ糸23を含む。図3〜図4では、ケナフ糸23を、右下がりの斜線を含むハッチングを付して示す。「ケナフ繊維」とは、アオイ科植物であるケナフから得られる繊維質のことである。本実施形態では、ケナフ繊維として、ケナフから得られる靭皮繊維を用いる。ケナフ繊維としては、原産地を問わず、各種のものを使用することができる。
【0027】
基布11を構成する織物において、織物全量中のケナフ繊維の割合は、織物全量の15重量%以上55重量%以下である。ケナフ繊維は、本実施形態では緯糸22のみに含まれ、経糸21には含まれない。ケナフ繊維は、緯糸22の全重量に対して、55重量%以下の割合で、緯糸22に含まれる。すなわち緯糸22中のケナフ繊維の割合は、緯糸22全量の55重量%以下である。本発明の他の実施形態では、ケナフ繊維は、経糸21および緯糸22の両方に含まれてもよく、経糸21のみに含まれてもよい。ケナフ繊維が経糸21に含まれる場合、経糸21中のケナフ繊維の割合は、経糸21全量の55重量%以下に選ばれる。
【0028】
「ケナフ繊維の割合」は、温度20℃、相対湿度65%で測定したときの値である。経糸21および緯糸22におけるケナフ繊維の割合は、基布11を経糸21と緯糸22とに分けて、経糸21および緯糸22をそれぞれ繊維毎にばらばらにして、経糸21および緯糸22について、それぞれ糸の全重量とケナフ繊維の重量とを測定した値から求められる。また織物全量中のケナフ繊維の割合は、前述のようにして測定した経糸21および緯糸22の全重量の合計とケナフ繊維の重量の合計とから求められる。
【0029】
ケナフ糸23は、本実施形態ではケナフ繊維のみから成り、ケナフ糸23におけるケナフ繊維の含有率は100重量%である。本発明の他の実施形態では、ケナフ糸23は、ケナフ繊維以外の繊維を含んでもよい。すなわちケナフ糸23は、ケナフ繊維とケナフ繊維以外の繊維との混紡糸であってもよい。ケナフ繊維以外の繊維としては、たとえば、黄麻(別名ジュート)および綿などのセルロース系繊維などの、ケナフ繊維以外の天然繊維、レーヨンなどの再生繊維、ポリエステル繊維などの合成繊維が挙げられる。これらの中でも、天然繊維が好ましい。ケナフ糸23がケナフ繊維以外の繊維を含む混紡糸である場合、ケナフ糸23におけるケナフ繊維の含有率は、10重量%以上90重量%以下であることが好ましいが、特にケナフ繊維以外の繊維が合成繊維である場合、ケナフ繊維の含有率は15重量%以上55重量%以下であることが好ましい。ケナフ糸23におけるケナフ繊維の含有率は、織物中の経糸21および緯糸22の割合、ならびに経糸21中のケナフ糸23の割合および緯糸21中のケナフ糸23の割合を考慮して、織物全量中のケナフ繊維の割合、経糸21中のケナフ繊維の割合および緯糸22中のケナフ繊維の割合が、前述の範囲内になるように選ばれる。「ケナフ糸におけるケナフ繊維の含有率」は、温度20℃、相対湿度65%で測定される重量から求められる値である。
【0030】
ケナフ繊維は、短繊維(以下「ステープル」ということがある)であり、ケナフ糸23は、ステープルを紡績して得られるスパン糸(以下「紡績糸」ともいう)である。ケナフ糸23がケナフ繊維のみから成る場合、ケナフ糸23は、ケナフ繊維を紡績することによって得られる。ケナフ糸23がケナフ繊維以外の繊維を含む場合、ケナフ糸23は、ケナフ繊維とそれ以外の繊維とを混合して紡績することによって得られる。
【0031】
具体的に述べると、ケナフ糸23は、たとえば、原料のケナフを水に浸漬して靭皮を分離し、分離した靭皮を乾燥して靭皮繊維を得、得られた靭皮繊維を適当な長さ、たとえば50mm程度に切断して、紡績機にかけて紡績することによって得ることができる。ケナフ糸23が混紡糸である場合には、ケナフの靭皮繊維に他の繊維を混合しながら紡績機にて紡績することによって、ケナフ糸23を得ることができる。
【0032】
ケナフ糸23は、前述のように経糸21および緯糸22の少なくとも一方に含まれる。本実施形態では、ケナフ糸23は、緯糸22のみに含まれ、経糸21には含まれない。本発明の他の実施形態では、ケナフ糸23は、経糸21および緯糸22の両方に含まれてもよく、経糸21のみに含まれてもよい。ケナフ糸23としては、たとえば、ジュート番手で7番手の単糸が用いられる。
【0033】
本実施形態において緯糸22は、ケナフ糸23と、ケナフ繊維を含まない非ケナフ糸24とによって構成される。本発明の他の実施形態では、緯糸22は、ケナフ糸23のみによって構成されてもよい。緯糸22のうち、ケナフ糸23を除く残余の糸、すなわち非ケナフ糸24は、ポリエステル繊維を含むポリエステル糸を含む。ポリエステル糸は、本実施形態では、長繊維(以下「フィラメント」ということがある)を集束して得られるフィラメント糸である。したがって非ケナフ糸24は、フィラメント糸を含む。図3〜図5では、非ケナフ糸24を、左下がりの斜線を含むハッチングで示す。
【0034】
ポリエステル糸は、本実施形態ではポリエステル繊維のみから成り、ポリエステル糸におけるポリエステル繊維の含有率は100重量%である。本実施形態においてポリエステル糸は、高強度ポリエステルから成る高強度ポリエステル糸である。ポリエステル糸としては、たとえばデシテックス表示で1620デシテックスのポリエステル糸、より詳細には1620デシテックス−フィラメント数192本のポリエステル糸が用いられる。本発明の他の実施の形態では、ポリエステル糸は、ポリエステル繊維以外の繊維を含んでもよい。ポリエステル繊維以外の繊維としては、たとえば、黄麻(別名ジュート)および綿などのセルロース系繊維などの、ケナフ繊維以外の天然繊維、レーヨンなどの再生繊維、ポリアミド繊維などの合成繊維が挙げられる。
【0035】
本実施形態では、全ての非ケナフ糸24が、ポリエステル糸である。本発明の他の実施形態では、非ケナフ糸24は、ポリエステル糸以外の糸を含んでもよい。ポリエステル糸以外の糸としては、たとえば、ポリアミド繊維から成るポリアミド糸、ポリエチレン繊維から成るポリエチレン糸、ポリプロピレン繊維から成るポリプロピレン糸などが挙げられる。
【0036】
緯糸22は、1本のケナフ糸23と2本の非ケナフ糸24とが、布帛1の経方向Yの一方Y1側から他方Y2側に向かって、非ケナフ糸24、非ケナフ糸24、ケナフ糸23の順に配列された構成単位Aを含み、この構成単位Aが、経方向Yに繰返し配列されて構成される。これによってケナフ糸23が、布帛1の経方向Yに等間隔に配置される。
【0037】
このように本実施形態では、緯糸22は、同じ構成単位が経方向Yに繰返し配列された構成であるが、本発明の他の実施形態では、これに限定されず、たとえば互いに異なる2つの構成単位が経方向Yに交互に配列された構成であってもよく、ケナフ糸23と非ケナフ糸24とがランダムに配列された構成であってもよい。
【0038】
構成単位Aとしては、たとえば本実施形態のように、m本のケナフ糸23およびn本の非ケナフ糸24をこの順に経方向Yに配列させて、1つの構成単位としてもよく、h本のケナフ糸23、i本の非ケナフ糸24、j本のケナフ糸23およびk本の非ケナフ糸24をこの順に経方向Yに配列させて、1つの構成単位としてもよい。
【0039】
経糸21は、本実施形態ではケナフ糸を含まず、非ケナフ糸によって構成される。図3〜図5では、経糸21を、緯糸22中の非ケナフ糸24を示すハッチングよりも広い間隔で左下がりの斜線を配置したハッチングで示す。非ケナフ糸としては、たとえば、前述のポリエステル糸、ポリアミド糸、ポリエチレン糸、ポリプロピレン糸などが挙げられる。これらの非ケナフ糸は、1種が単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0040】
本実施形態では、全ての経糸21が、ポリエステル糸である。ポリエステル糸は、他の非ケナフ糸に比べて強度が高く、ポリエステル糸を用いることによって、強度の高い基布11を実現することができるので、前述の非ケナフ糸の中でも、ポリエステル糸を用いることが好ましい。本実施形態においてポリエステル糸は、高強度ポリエステルから成る高強度ポリエステル糸である。ポリエステル糸としては、たとえばデシテックス表示で1620デシテックスのポリエステル糸、より詳細には1620デシテックス−フィラメント数192本のポリエステル糸が用いられる。本発明の他の実施形態では、経糸21は、ポリエステル糸以外の糸を含んでもよい。ポリエステル糸と併用される、ポリエステル糸以外の糸としては、たとえば、前述のポリアミド繊維から成るポリアミド糸、ポリエチレン繊維から成るポリエチレン糸、ポリプロピレン繊維から成るポリプロピレン糸などが挙げられる。
【0041】
このように基布11を構成する織物において、経糸21および緯糸22の少なくとも一方は、フィラメント糸であるポリエステル糸を含む。本実施形態では、経糸21および緯糸22の両方が、フィラメント糸であるポリエステル糸を含む。また基布11を構成する織物において、経糸21および緯糸22の少なくとも一方は、ポリエステル繊維を含む。本実施の形態では、経糸21および緯糸22の両方が、ポリエステル繊維を含む。
【0042】
本実施形態において基布11を構成する織物は、前述のように経畦織組織を有する。経畦織組織は、変化平織組織とも呼ばれ、経糸21と緯糸22とが1本毎に交錯する平織組織を変化させた組織である。基布11を構成する織物は、より詳細には、経糸21と緯糸22とが1本毎に交錯する平織組織を、経糸21の1本分だけ、経方向Yに拡大させた経畦織組織を有する。したがって経方向Yにおいて経糸21は、1本のケナフ糸23と2本の非ケナフ糸24とを交互に浮き沈みする。たとえば厚み方向一方Z1側から見て、第1の経糸21aがケナフ糸23の上に浮き、非ケナフ糸24の下に沈む場合、第1の経糸21に隣接する第2の経糸21bは、ケナフ糸23の下に沈み、非ケナフ糸24の上に浮く。
【0043】
基布11には、パッド層材料が付着しており、この基布11に付着したパッド層材料によって、パッド層17が構成される。パッド層17は、後述するようにパッド層材料を基布11に塗布した後、乾燥させることによって形成される。パッド層材料には、溶剤として水を含む水性材料が用いられる。
【0044】
ケナフ繊維は吸水性を有するので、基布11を構成する経糸21および緯糸21,22のうち、ケナフ糸23は吸水性を有する。したがってケナフ糸23を構成するケナフ繊維の内部にはパッド層材料が浸み込む。またパッド層材料は、毛細管現象によって、ケナフ糸23中のケナフ繊維とケナフ繊維との間の空隙、およびケナフ繊維と他の繊維との間の空隙に入り込む。このようにケナフ糸23の内部にはパッド層材料が浸み込む。
【0045】
またポリエステル糸21,24は、たとえば1620デシテックス−フィラメント数192本のフィラメント糸であり、フィラメント状の複数のポリエステル繊維で構成される。パッド層材料は、1本1本のポリエステル繊維の内部には浸み込まないが、毛細管現象によって、ポリエステル繊維とポリエステル繊維との空隙には入り込む。つまりポリエステル糸21,24を構成するポリエステル繊維自体は吸水性を有しないが、ポリエステル糸21,24は毛細管現象により、見掛け吸水性を有する。したがってポリエステル糸21,24の内部にもパッド層材料が浸み込む。
【0046】
このように、基布11を構成する経糸21および緯糸22は吸水性を有するので、基布11に塗布されるパッド層材料は、その少なくとも一部分が基布11に含浸される。基布11に塗布されたパッド層材料のうち、基布11に浸み込んだパッド層材料は、基布11を構成する各糸21,22と一体化し、基布11に浸み込み切れなかったパッド層材料の少なくとも一部は、基布11の表面部、より詳細には基布11を構成する各糸21,22の表面部に残る。パッド層17は、各糸21,22のパッド層材料が浸み込んだ部分と、浸み込み切れずに各糸21,22の表面部に残ったパッド層材料から成る層とを含んで構成される。
【0047】
図1,図3〜図5では、理解を容易にするために、パッド層17が基布11の表面部全体を覆うように記載しているが、実際にはパッド層17は、基布11の表面部全体を覆っているわけではなく、基布11は、その一部分が露出している。前述のように、パッド層材料は、ケナフ糸23を構成するケナフ繊維に含浸されるので、ケナフ糸23の部分では、パッド層材料が浸み込んだ部分のケナフ糸23がパッド層17の一部分を構成しており、ケナフ糸23が露出する部分が生じている。このケナフ糸23が露出した部分が、基布11の露出する部分であり、前述の図1に示す表側プライマ層12および裏側プライマ層13に接する部分となる。本発明の他の形態では、パッド層17は、基布11を構成する各糸21,22の全体を覆うように形成されてもよい。
【0048】
パッド層17は、難燃剤および撥水剤を含有する。パッド層17を設けることによって、布帛1に難燃性および撥水性を付与することができる。またパッド層17の材料として、難燃剤と撥水剤とを併用することによって、撥水剤のみを用いる場合に比べて、布帛1を切断したときの切断面からの水の浸み込みをより確実に防ぐことができる。撥水剤としては、たとえばフッ素系撥水剤が挙げられる。難燃剤としては、たとえばリン酸グアニジン系難燃剤、ポリリン酸系難燃剤、リン酸エステル系難燃剤などのリン系難燃剤が挙げられる。本実施形態では、リン酸グアニジン系難燃剤が用いられる。リン酸グアニジン系難燃剤としては、たとえばリン酸グアニジンと水との混合液が挙げられる。このリン酸グアニジン系難燃剤中のリン酸グアニジンの含有率は、たとえば40〜50重量%である。リン酸グアニジン系難燃剤は、ケナフ糸23およびポリエステル糸21,24の両方に効果があるので、本実施形態の布帛1には好適である。リン酸グアニジン系難燃剤を用いることによって、ケナフ糸23およびポリエステル糸21,24の両方の燃焼を抑制することができる。
【0049】
本実施形態で用いられるリン酸グアニジン系難燃剤は、溶剤として水を含む水性難燃剤である。ケナフ糸23は吸水性を有するので、水性難燃剤を用いることによって、ケナフ糸23に難燃剤を含浸させて、より確実に難燃性を付与することができる。難燃剤は、基布11を構成する糸21,22の種類に応じて適宜選択して用いられる。難燃剤としては、防炎剤として市販されているものを用いてもよい。
【0050】
パッド層17は、たとえば、難燃剤および撥水剤を含むパッド層材料を基布11に塗布して乾燥させることによって形成される。具体的に述べると、パッド層17は、たとえばパッド層材料が貯留される塗布槽に基布11を浸漬して、パッド層材料を基布11に塗布して乾燥させることによって形成される。またパッド層材料は、スプレーで基布11に吹付けることによって、基布11に塗布されてもよい。
【0051】
図1に戻って、表側プライマ層12および表側コート層14は、この順に基布11の厚み方向一表面部、すなわち厚み方向Zの一方Z1側の表面部に積層される。表側プライマ層12は、基布11の厚み方向一方Z1側において、基布11の露出する部分およびパッド層17の表面部に設けられ、基布11と表側コート層14との間に介在する。裏側プライマ層13および裏側コート層15は、この順に基布11の厚み方向他表面部、すなわち厚み方向Zの他方Z2側の表面部に積層される。裏側プライマ層13は、基布11の厚み方向他方Z2において、基布11の露出する部分およびパッド層17の表面部に設けられ、基布11と裏側コート層15との間に介在する。
【0052】
表側プライマ層12および裏側プライマ層13は、プライマ樹脂材料によって形成される。表側プライマ層12および裏側プライマ層13は、後述するようにプライマ樹脂材料を塗布した後、乾燥させることによって形成される。このとき基布11に塗布されるプライマ樹脂材料は、その一部分が基布11に含浸される。表側プライマ層12および裏側プライマ層13は、基布11のプライマ樹脂材料が浸み込んだ部分と、基布11に浸み込み切れずに基布11またはパッド層17の表面部に残ったプライマ樹脂材料から成る層とを含んで構成される。
【0053】
表側プライマ層12は、基布11と表側コート層14とを接着させる接着層として機能する。したがって表側プライマ層12には、基布11との密着性と、表側コート層14との密着性との両方が求められる。この両方の密着性を考慮すると、表側プライマ層12を形成するプライマ樹脂材料は、プライマ樹脂としてウレタン樹脂を含むウレタン樹脂材料が好ましい。ウレタン樹脂は、熱可塑性樹脂であって、熱融着することが可能であり、ハロゲン原子を含まない非ハロゲン系材料であるので、好適である。ウレタン樹脂材料におけるウレタン樹脂の固形分濃度は、一液型ウレタン樹脂の場合、たとえば10重量%以上40重量以下であり、一例を挙げると25重量%である。本実施形態では、一液型ウレタン樹脂が用いられる。
【0054】
ウレタン樹脂材料の中でも、プライマ樹脂としてポリカーボネート系ウレタン樹脂を含むポリカーボネート系ウレタン樹脂材料が好ましい。ポリカーボネート系ウレタン樹脂は、耐候性が高いので、耐久性に優れる布帛1を実現することができる。特に、布帛1を後述するように、屋外で使用されるテント用膜材として用いる場合には、ポリカーボネート系ウレタン樹脂を用いることが好ましい。
【0055】
ポリカーボネート系ウレタン樹脂材料は、具体的にはポリカーボネート系ウレタン樹脂と、希釈溶剤とを含む。希釈溶剤としては、たとえばメチルエチルケトン(略称MEK)、N,N−ジメチルホルムアミド(略称DMF)、トルエン(略称TOL)、イソプロピルアルコール(略称IPA)が挙げられる。これらの中でもMEKが好ましい。すなわちポリカーボネート系ウレタン樹脂材料としては、ポリカーボネート系ウレタン樹脂と、希釈溶剤としてMEKとを含むものが好ましい。本実施形態では、MEKを含むポリカーボネート系ウレタン樹脂材料が用いられる。MEKを含むポリカーボネート系ウレタン樹脂材料を用いることによって、基布11との接着性に優れる表側プライマ層12を実現することができる。これは、ポリカーボネート系ウレタン樹脂材料にMEKが入っていることによって、ポリカーボネート系ウレタン樹脂材料と基布11との相性が良くなり、ポリカーボネート系ウレタン樹脂材料が基布11と強固に絡み合うことができるためであると推察される。MEKを含むポリカーボネート系ウレタン樹脂材料において、希釈溶剤中のMEKの割合は、たとえば40〜100重量%であり、好ましくは40〜60重量%である。
【0056】
表側プライマ層12を構成するウレタン樹脂材料は、温度25℃における粘度が1000mPa・s以上200000mPa・s以下であることが好ましく、また100%モジュラスが10kg/cm以上300kg/cm以下であることが好ましい。100%モジュラスは、引張試験機を用いて測定される。具体的には、先ずウレタン樹脂の皮膜を作製する。次いで、作製した皮膜を引張試験機で引っ張り、元の倍の長さになった時点での負荷荷重を断面積(厚み×巾)で割った値を求める。この値が100%モジュラスである。裏側プライマ層13は、表側プライマ層12と同様の材料を用いて、同様にして形成することができる。
【0057】
表側プライマ層12および裏側プライマ層13に用いられるウレタン樹脂材料は、温度25℃における粘度が、たとえば12000〜18000mPa・sであり、100%モジュラスが、たとえば100〜110kg/cmであり、伸度が、たとえば220〜280%である。樹脂材料の伸度は、以下のようにして測定される。先ず5mm巾の樹脂フィルムを作製する。その後、引張試験機で引張り、切れたときの長さを求め、下記式から算出する。
伸度(%)=(切れたときの長さ−初期の長さ)/初期の長さ×100
【0058】
表側コート層14は、コート樹脂材料と難燃剤とを含有するコート層材料によって形成される。難燃剤としては、パッド層17に用いられる難燃剤と同様の難燃剤を用いることができ、具体的にはリン酸グアニジン系難燃剤、ポリリン酸系難燃剤、リン酸エステル系難燃剤などのリン系難燃剤およびアンチモン系難燃剤が挙げられる。本実施形態では、ポリリン酸系難燃剤が用いられる。ポリリン酸系難燃剤は、ポリリン酸類を含む。ポリリン酸類は、ポリリン酸およびその誘導体を含む。ポリリン酸類としては、たとえばポリリン酸アンモニウム、ポリリン酸アミド、ポリリン酸グアニジンが挙げられ、これらの中でも、ポリリン酸アンモニウムが好ましい。ポリリン酸系難燃剤としては、ポリリン酸類をそのまま用いてもよく、ポリリン酸類を溶剤に分散させて分散液として用いてもよい。
【0059】
コート樹脂材料としては、ウレタン樹脂材料および塩化ビニル樹脂材料などを用いることができる。ウレタン樹脂材料または塩化ビニル樹脂材料のいずれを用いる場合であっても、表側プライマ層12に用いるプライマ樹脂材料を適宜選択することにより表側コート層14の密着性を確保することができる。たとえば、コート樹脂材料としてウレタン樹脂材料を用いた場合は、プライマ樹脂材料としてポリカーボネート系ウレタン樹脂が好ましく、コート樹脂材料として塩化ビニル樹脂材料を用いた場合は、プライマ樹脂材料としてエステル系ウレタン樹脂が好ましい。表側プライマ層12との密着性の観点からは、コート樹脂材料としてウレタン樹脂を含むウレタン樹脂材料を用いることが好ましい。コート樹脂材料にウレタン樹脂材料を用いることによって、表側プライマ層12に強固に密着したコート樹脂層14を実現することができる。またウレタン樹脂および塩化ビニル樹脂は、熱可塑性樹脂であって、熱融着することが可能である。なおウレタン樹脂はハロゲン原子を含まない非ハロゲン系材料であるので、好適である。ウレタン樹脂材料におけるウレタン樹脂の固形分濃度は、一液型ウレタン樹脂の場合、たとえば10重量%以上40重量以下であり、一例を挙げると25重量%である。本実施形態では、一液型ウレタン樹脂が用いられる。
【0060】
ウレタン樹脂材料の中でも、コート樹脂としてポリカーボネート系ウレタン樹脂を含むポリカーボネート系ウレタン樹脂材料が好ましい。ポリカーボネート系ウレタン樹脂は、耐候性が高いので、耐久性に優れる布帛1を実現することができる。特に、布帛1を後述するように、屋外で使用されるテント用膜材として用いる場合には、ポリカーボネート系ウレタン樹脂を用いることが好ましい。
【0061】
ポリカーボネート系ウレタン樹脂材料は、具体的にはポリカーボネート系ウレタン樹脂と、希釈溶剤とを含む。希釈溶剤としては、たとえばメチルエチルケトン(略称MEK)、N,N−ジメチルホルムアミド(略称DMF)、トルエン(略称TOL)、イソプロピルアルコール(略称IPA)が挙げられる。本実施形態では、溶剤としてDMFを含むポリカーボネート系ウレタン樹脂材料が用いられる。表側コート層14を構成するウレタン樹脂材料は、粘度が1000mPa・s以上200000mPa・s以下であることが好ましく、また100%モジュラスが10kg/cm以上300kg/cm以下であることが好ましい。裏側コート層15は、表側コート層14と同様に構成される。表側コート層14および裏側コート層15に用いられるウレタン樹脂材料は、温度25℃における粘度が、たとえば20000〜30000mPa・sであり、100%モジュラスが、たとえば50〜60kg/であり、伸度が、たとえば300〜350%である。
【0062】
防汚層16は、防汚材料によって形成される、防汚材料としては、たとえばフッ素化合物、アクリルウレタン樹脂、光触媒酸化チタンなどが挙げられる。防汚層16を設けることによって、布帛1の汚れを可及的に防ぐことができる。用語「フッ素化合物」は、フッ素系樹脂を含む。
【0063】
本実施形態の布帛1は、以下のようにして製造される。まずパッド層材料が貯留される塗布槽に基布11を浸漬した後、乾燥させ、さらに加熱することによって、パッド層17を形成する。乾燥は、たとえば、パッド層材料が付着した基布11を乾燥機に一定の速度、たとえば10m/minで通すことによって行われる。乾燥させるときの加熱温度(以下「乾燥温度」ということがある)は、たとえば100℃以上150℃以下である。乾燥後の加熱(以下「キュア」ということがある)は、たとえば、乾燥後の基布11を加熱装置に一定の速度、たとえば20m/minで通すことによって行われる。キュアするときの加熱温度(以下「キュア温度」ということがある)は、たとえば160℃以上200℃以下である。キュアは、撥水剤の機能を発揮させるために行われる。パッド層17の付着量は、たとえば40g/m以上60g/m以下である。
【0064】
次いで、パッド層17が形成された基布11(以下「基布11A」ということがある)の厚み方向一方Z1側の表面部に、表側プライマ層12となるプライマ樹脂材料を塗布した後、乾燥させることによって、表側プライマ層12を形成する。プライマ樹脂材料は、本実施形態ではナイフコータを用いて、ナイフコーティングによって塗布される。プライマ樹脂材料は、基布11Aを一定の速度で搬送しながら、塗布される。基布11Aの搬送速度は、たとえば10m/minである。表側プライマ層12の塗布量は、たとえば20g/m以上60g/m以下である。
【0065】
プライマ樹脂材料の塗布後の乾燥は、複数の乾燥室が連続して並んだ乾燥装置、たとえば、3つの乾燥室が連続して並んだ3連式の乾燥装置を用いて行われる。3つの乾燥室は、基布11Aの搬送方向上流側から下流側へ向かって、第1乾燥室、第2乾燥室、第3乾燥室の順に並んで配置される。各乾燥室では、熱風を吹付けることによって乾燥を行なう。たとえば、第1乾燥室、第2乾燥室および第3乾燥室における熱風の温度はそれぞれ、60〜150℃の範囲で適宜選ばれる。各乾燥室における熱風の温度(以下「熱風温度」という)は、本実施形態では、第1乾燥室、第2乾燥室、第3乾燥室の順に高くなるように選ばれる。たとえば、第1乾燥室の熱風温度が80℃に選ばれ、第2乾燥室の熱風温度が110℃に選ばれ、第3乾燥室の熱風温度が130℃に選ばれる。本発明の他の実施形態では、第1乾燥室、第2乾燥室および第3乾燥室の熱風温度は、等しくてもよい。各乾燥室における熱風の風量(以下「熱風風量」という)は、本実施形態では、第1乾燥室の熱風風量が相対的に小さく選ばれ、第2および第3乾燥室の熱風風量が相対的に大きく選ばれる。これによって短時間に基布11Aを乾燥させることができる。
【0066】
このようにして表側プライマ層12が形成された基布11(以下「基布11B」ということがある)の厚み方向他方Z2側の表面部に、表側プライマ層12と同様にして、裏側プライマ層13となるプライマ樹脂材料を塗布した後、乾燥させ、裏側プライマ層13を形成する。裏側プライマ層13を形成するときの基布11Bの搬送速度、乾燥装置の各乾燥室における熱風温度および熱風風量は、表側プライマ層12を形成するときと同様に選ばれる。裏側プライマ層13の塗布量は、たとえば20g/m以上60g/m以下である。
【0067】
このようにして裏側プライマ層13が形成された基布11(以下「基布11C」ということがある)の厚み方向一方Z1側の表面部、すなわち表側プライマ層12の厚み方向一方Z1側の表面部に、表側コート層14となるコート層材料を塗布した後、乾燥させることによって、表側コート層14を形成する。コート層材料は、本実施形態ではコンマコータを用いて、コンマコーティングによって塗布される。コート層材料は、基布11Cを一定の速度で搬送しながら、塗布される。基布11Cの搬送速度は、たとえば3m/minである。表側コート層14の塗布量は、たとえば150g/m以上250g/m以下である。
【0068】
コート層材料の塗布後の乾燥は、プライマ樹脂材料の乾燥に用いられるのと同様に複数の乾燥室が連続して並んだ乾燥装置、たとえば3連式の乾燥装置を用いて行われる。各乾燥室における熱風温度は、本実施形態ではプライマ樹脂材料を乾燥するときと同様に、基布11Cの搬送方向上流側から下流側に向かって高くなるように、具体的には第1乾燥室、第2乾燥室、第3乾燥室の順に高くなるように選ばれる。本発明の他の実施形態では、第1乾燥室、第2乾燥室および第3乾燥室の熱風温度は、等しくてもよい。コート層材料の塗布後の乾燥では、各乾燥室における熱風風量は、基布11Cの搬送方向上流側から下流側に向かって小さくなるように、具体的には、第1乾燥室の熱風風量が相対的に大きく選ばれ、第2および第3乾燥室の熱風風量が相対的に小さく選ばれる。これによって突沸の発生を抑え、乾燥後の表側コート層14への気泡の発生を抑えることができる。各乾燥室の熱風風量は、基布11Cの搬送方向上流側から下流側に向かって小さくなるように選ばれればよく、たとえば第2乾燥室の熱風風量と第3乾燥室の熱風風量とは同一でもよい。
【0069】
このようにして表側コート層14が形成された基布11(以下「基布11D」ということがある)の厚み方向他方Z2側の表面部、すなわち裏側プライマ層13の厚み方向他方Z2側の表面部に、裏側コート層15となるコート層材料を塗布した後、乾燥させることによって、裏側コート層15を形成する。裏側コート層15を形成するときのコート層材料の塗布および乾燥は、表側コート層14を形成するときと同様にして行われる。裏側コート層15の塗布量は、たとえば80g/m以上120g/m以下である。裏側コート層15の塗布量は、表側コート層14の塗布量よりも小さい値に選ばれる。
【0070】
このようにして裏側コート層15が形成された基布11(以下「基布11E」ということがある)を、ニップ装置の一対のニップロール間に通すことによってニップ処理する。一対のニップロールは、加熱部を内包する剛体ロールである加熱ロールと、加熱ロールに弾発的に当接する弾性体ロールである加圧ロールとを含む。基布11Eは、その厚み方向一方Z1側の表面部、すなわち表側コート層14の厚み方向Z1側の表面部が、加熱ロールに接するように、一対のニップロール間に送給される。基布11Eの搬送速度は、たとえば3m/minである。加熱ロールの加熱温度は、表側コート層14を形成するコート層材料に含まれるコート樹脂材料の軟化温度付近に選ばれ、本実施形態では、160℃以上200℃以下である。一対のニップロールによる加圧力は、たとえば4kg/cmである。この加圧力4kg/cmは、線圧では24.5kg/cmに相当する。
【0071】
コート樹脂材料の軟化温度は、以下のようにして求められる。降下式フローテスタ(商品名:CFT−500D、株式会社島津製作所製)を用い、試料1gに対し、内径1mm、長さ1mmのノズルから押出されるようにプランジャーで1.96MPaの荷重を与えながら、昇温速度毎分6℃で試料を加熱し、フローテスタのプランジャー降下量(流れ量)−温度曲線を求め、得られたS字曲線の高さをhとし、ノズルから試料が半分流出したときの温度として、hの2分の1(h/2)に対応する温度を求める。この温度を軟化温度とする。
【0072】
このようにして表側コート層14をニップ処理した後、基布11Eを、その厚み方向他方Z2側の表面部、すなわち裏側コート層15の厚み方向他方Z2側の表面部が加熱ロールに接するように配置して、ニップ装置の一対のニップロール間に送給し、ニップ処理する。基布11Eの厚み方向他方Z2側の表面部に対するニップ処理は、基布11Eの厚み方向一方Z1側の表面部に対するニップ処理と同様にして行われる。
【0073】
このようにしてニップ処理が行われた基布11Eの厚み方向一方Z1側の表面部、すなわち表側コート層14の厚み方向一方Z1側の表面部に、防汚材料を塗布して、乾燥させることによって、防汚層16を形成する。防汚材料は、本実施形態では基布11Eを一定の速度で搬送しながら、ナイフコーティングによって塗布される。基布11Eの搬送速度は、たとえば15m/minである。防汚層16の塗布量は、たとえば0.5g/m以上10g/m以下である。
【0074】
防汚材料の塗布後の乾燥は、プライマ樹脂材料の乾燥に用いられるのと同様の3連式の乾燥装置を用いて行われる。各乾燥室における熱風温度は、基布11Eの搬送方向上流側から下流側に向かって高くなるように選ばれ、具体的には、第1乾燥室が相対的に低く、第2および第3乾燥室が相対的に高く選ばれる。たとえば第1乾燥室の熱風温度は120℃に選ばれ、第2および第3乾燥室の熱風温度は130℃に選ばれる。本発明の他の実施形態では、第1乾燥室、第2乾燥室および第3乾燥室の熱風温度は、等しくてもよい。各乾燥室における熱風風量は、基布11Eの搬送方向上流側から下流側に向かって大きくなるように、具体的には、第1乾燥室が相対的に小さく、第2および第3乾燥室が相対的に大きく選ばれる。このようにして防汚層16が形成されて、布帛1が得られる。
【0075】
以上のように本実施形態では、基布11に塗布形成される各層、すなわちプライマ層12,13、コート層14,15および防汚層16は、各層の材料を、ナイフコーティングまたはコンマコーティングによって基布11に塗布することによって形成される。各層の材料を基布11に形成する方法としては、ナイフコーティングおよびコンマコーティング以外に、たとえば、ディップコーティング、両面ラミネート、フィルム状に成形した各層を、接着剤を用いて貼付ける方法がある。
【0076】
なお、表側コート層14および裏側コート層15の形成は、上記のようにコート層材料を塗布した後、乾燥させる方法に限らず、たとえば難燃剤を含むコート層材料をシート状に成型した樹脂シートを予め作製しておき、プライマ層が形成された基布11Eに対して、熱ロールでプレスする方法でも可能である。
【0077】
本実施形態では、プライマ層12,13を形成する前に、基布11にパッド層17を形成するので、プライマ層12,13、コート層14,15および防汚層16をディップコーティングで形成することは困難である。またプライマ層12,13の塗布量は、たとえば20g/m以上60g/m以下であり、表側コート層14の塗布量は、たとえば150g/m以上250g/m以下であり、裏側コート層15の塗布量は、たとえば80g/m以上120g/m以下である。
【0078】
このようにプライマ層12,13およびコート層14,15は、プライマ層材料またはコート層材料が多量に塗布されて形成される。ディップコーティングの場合、各層の材料が貯留される槽に被塗布物を浸漬した後、被塗布物を絞って溶剤を除去するので、数g/m程度しか、塗布することができない。したがってディップコーティングを用いて本実施形態のプライマ層12,13およびコート層14,15を形成することは困難である。
【0079】
これに対し、ナイフコーティングおよびコンマコーティングでは、被塗布物に前述のような多量の材料を塗布して形成される層を容易に、また生産性良く形成することができるので、本実施形態の布帛1の製造には、ナイフコーティングおよびコンマコーティングが好適である。本実施形態のようにナイフコーティングまたはコンマコーティングを用いることによって、プライマ層12,13、コート層14,15および防汚層16を容易に、また生産性良く形成することができる。
【0080】
また本実施形態では、コート層材料の塗布後の乾燥における乾燥装置の各乾燥室の熱風温度は、基布11Cの搬送方向上流側から下流側に向かって高くなるように、具体的には第1乾燥室、第2乾燥室、第3乾燥室の順に高くなるように選ばれる。また各乾燥室の熱風風量は、基布11Cの搬送方向上流側から下流側に向かって小さくなるように、具体的には第1乾燥室が相対的に大きく、第2および第3乾燥室が相対的に小さくなるように選ばれる。これによって、コート層14,15への気泡の発生を抑えることができる。
【0081】
気泡の発生原因としては、樹脂が急激に温められて突沸が発生することが挙げられる。熱風によって乾燥させる場合、層は表面から乾燥していくが、突沸によって層内部の未乾燥の部分の溶剤が急激に蒸発すると、表面の皮膜を突き破り、気泡が発生する。この現象は、乾燥させようとする層の反対側に厚塗りの層がある場合に顕著に見られる。
【0082】
本実施形態では、突沸による気泡の発生を抑えるために、基布11Cの搬送方向上流側の乾燥室では、熱風温度をたとえば80℃と相対的に低くするとともに、熱風風量を相対的に大きくして、層の内部から溶剤を蒸発させ、さらに基布11Cの搬送方向下流側に進むにつれて、徐々に熱風温度を上げて熱風風量を抑えることによって、突沸の発生を少なくしている。これによってコート層14,15への気泡の発生を抑えることができる。
【0083】
また本実施形態では、コート層14,15を形成した後、コート層14,15をニップ処理する。ニップ処理することによって、コート層材料および先に形成されたプライマ層12,13を基布11Eに含浸させて、コート層材料と基布11Eとの密着性を向上させることができる。またコート層14,15の表面の凹凸を無くし、滑らかな表面にすることができる。またコート層14,15の塗布量がたとえば150g/m以上と多い場合であっても、ニップ処理することによって、コート層14,15の厚み寸法を小さくし、繊維構造物としての厚み寸法、すなわち布帛の厚み寸法を小さくすることができる。たとえばニップ処理前の布帛の厚み寸法が1000μmである場合、ニップ処理によって、布帛の厚み寸法を900μm程度に小さくすることができる。
【0084】
本実施形態の布帛1は、たとえばドーム型野球場などの各種競技場の屋根、運動会などに用いられる小型テントの屋根、付帯設備および博覧会展示場などの屋根および壁などに用いられるテント用膜材として好適である。特に、本実施形態の布帛1は、テント用膜材の1種であるC種膜として好適である。「C種膜」とは、基布を除いた残余の部分の重さ、すなわち基布に積層される層の重さ、たとえば基布に積層される層が樹脂から成る場合には樹脂の重さが、400g/m以上である膜のことである。
【0085】
C種膜として用いられる従来の布帛としては、基布を塩化ビニル樹脂で被覆加工したものが知られている。この従来の布帛には、難燃剤としてハロゲン系難燃剤が用いられている。布帛1として、基布11を被覆する被覆樹脂にウレタン樹脂を用い、難燃剤にリン系難燃剤を用いた場合は、被覆樹脂に塩化ビニル樹脂を用い、また難燃剤としてハロゲン系難燃剤を用いる従来の布帛に比べて、環境への負荷が小さいので特に好ましい。
【0086】
また本実施形態の布帛1は、基布11として、緯糸22がケナフ繊維を含み、織物全量中のケナフ繊維の割合が、基布11を構成する織物の全量の15重量%以上55重量%以下である織物から成る基布11を含むので、たとえば紙として容易に再利用することが可能である。
【0087】
したがって本実施形態では、環境への負荷が小さく、かつ容易に再利用することができるとともに、C種膜として好適な布帛1を実現することができる。またケナフは、生長が早く、地球温暖化の一因となる二酸化炭素をより多く吸収する、すなわち炭酸ガスの固定能に優れているので、環境保全植物として注目されている。このようなケナフから得られるケナフ繊維を用いた布帛1をテント用膜材として使用することによって、地球温暖化を間接的に抑制し、環境浄化に貢献することができる。
【0088】
前述のように本実施形態では、布帛1を構成する基布11において、ケナフ繊維は、基布11を構成する織物全量の15重量%以上55重量%以下の割合で基布11に含まれる。またケナフ繊維は、緯糸22のみに含まれ、緯糸22中のケナフ繊維の割合は、緯糸22の全量の55重量%以下である。
【0089】
布帛1をC種膜として用いる場合、布帛1には、経方向Yおよび緯方向Xともに、引張強さが2000N/3cm以上であることが求められる。ケナフ糸23は、スパン糸であり、たとえばポリエステルから成るフィラメント糸(以下「ポリエステルフィラメント糸」ということがある)などのフィラメント糸に比べて、引張強さが非常に小さい。たとえばポリエステルフィラメント糸のデシテックス表示で1620デシテックスの糸の引張強さは、約110N/1本であるが、ケナフ糸23のジュート番手で7番単糸の引張強さは、約20N/1本である。したがって、基布11に占めるケナフ糸23の比率、すなわち基布11を構成する織物全量に対するケナフ糸23の割合が増えるほど、同じ密度でポリエステル糸100%で形成された基布に比べて、基布11の引張強さが小さくなって、布帛1の引張強さが小さくなり、必要な引張強さを確保できない。具体的には、織物全量中のケナフ繊維の割合が織物全量の55重量%を超えると、布帛1全体としての強度、すなわち緯方向Xおよび経方向Yの引張強さが充分に確保できない。
【0090】
特に緯糸22中のケナフ繊維の割合が緯糸22の全量の55重量%を超えると、布帛1の緯方向Xの引張強さが充分に得られず、引張強さが2000N/3cm未満になるおそれがある。緯糸22中のケナフ繊維の割合を緯糸22の全量の55重量%以下にすることによって、布帛1の緯方向Xの引張強さを確保することができる。また本実施形態では、ケナフ繊維は経糸21には含まれないので、経糸21中のケナフ繊維の割合は、経糸21の全量の55重量%以下、具体的には0重量%である。したがって布帛1の経方向Yの引張強さを確保することができる。
【0091】
織物全量中のケナフ繊維の割合が織物全量の15重量%未満であると、布帛1を紙として再利用しようとした場合、紙状に形成することが困難となるので、布帛1を再利用することは困難である。
【0092】
前述のように織物全量中のケナフ繊維の割合を織物全量の15重量%以上55重量%以下とすることによって、布帛1を容易に再利用することができる。たとえば布帛1を紙として再利用することができる。また織物全量中のケナフ繊維の割合を織物全量の15重量%以上55重量%以下にするとともに、緯糸22中のケナフ繊維の割合を緯糸22の全量の55重量%以下とし、経糸21中のケナフ繊維の割合を経糸21の全量の55重量%以下にすることによって、経方向Yおよび緯方向Xのいずれにも充分な強度を有し、かつ布帛1全体としても高い強度を有する布帛1を実現することができる。
【0093】
本実施形態とは異なるが、ケナフ糸23が、ケナフ繊維以外の繊維を含む混紡糸である場合、ケナフ糸23におけるケナフ繊維の含有率は、10重量%以上90重量%以下であることが好ましい。特にケナフ繊維以外の繊維が合成繊維であるときには、15重量%以上55重量%以下であることが好ましい。このような範囲にケナフ糸23中のケナフ繊維の含有率を選ぶことによって、布帛1を容易に再利用することができる。
【0094】
また本実施形態では、布帛1は、難燃剤を含有する難燃剤層として、パッド層17およびコート層14,15を含む。このように難燃剤層を設けることによって、難燃性に優れる布帛1を実現することができる。
【0095】
また本実施形態では、パッド層17と、コート層14,15とは、互いに異なる難燃剤を含有する。このように難燃剤には、2種類以上の難燃剤を用いることが好ましい。これは、基布11を構成するケナフ糸23とケナフ糸23を除く残余の糸、すなわちポリエステル糸21,24とでは、燃焼機構が異なるためである。
【0096】
ポリエステル糸21,24を構成するポリエステル繊維は、炎の熱で熱溶融して燃える。ポリエステル繊維の場合、熱溶融を促進させて炎が燃え広がらないようにすることによって、難燃性を確保する。
【0097】
これに対し、ケナフ糸23を構成するケナフ繊維は、炭化して燃える。ケナフ繊維の場合、炭化膨張を促進させて炎が燃え広がらないようにすることによって、難燃性を確保する。
【0098】
このようにケナフ糸23とポリエステル糸24とでは、燃焼機構が異なるので、1種類の難燃剤を用いるだけでは、布帛1の難燃性が充分に確保できないおそれがある。たとえば、ポリエステル糸のみで織られた織物から成る生地の場合、難燃剤としてリン酸エステル系難燃剤を含む樹脂をコーティングすると難燃性に効果があったが、同じ難燃剤を含む樹脂を本実施形態の布帛1にコーティングしても、効果は見られなかった。
【0099】
本実施形態のように互いに異なる2種類の難燃剤を含有する難燃剤層17,14,15を設けることによって、1種類の難燃剤を用いる場合に比べて、ケナフ糸23およびポリエステル糸21,24の燃焼をより確実に抑えることができる。したがって、前述のように高い強度を有するとともに、難燃性に優れる布帛1を実現することができる。
【0100】
本実施形態では、難燃剤層17,14,15は、複数の層によって構成され、各層に含有される難燃剤は異なるが、難燃剤層は、1つの層で構成されてもよい。この場合、難燃剤層には、2種類の難燃剤が含有されることが好ましい。
【0101】
また本実施形態では、コート層14,15と基布11との間には、接着層であるプライマ層12,13が含まれる。コート層14,15と基布11との間にプライマ層12,13がない場合、コート層14,15に含有される難燃剤の影響で、コート層14,15と基布11との密着強度が充分に得られず、コート層14,15と基布11との接合強度が充分に得られないおそれがある。前述のようにコート層14,15と基布11との間にプライマ層12,13を設けることによって、コート層14,15と基布11との接合強度を充分なものとし、基布11からのコート層14,15の剥離を防ぐことができる。また基布11を構成する織物には、短繊維であるケナフ繊維が含まれるので、ケナフ繊維とプライマ層12,13との絡み合いによって、基布11を構成する織物がケナフ繊維を含まない場合に比べて、基布11とプライマ層12,13との接着性を高めることができる。これによって、基布11とコート層14,15との接合強度を高めることができるので、コート層14,15の剥離をより確実に防ぐことができる。したがって、強度および難燃性に優れるとともに、耐久性に優れる布帛1を実現することができる。
【0102】
また本実施形態では、基布11を構成する織物の経糸21および緯糸22は、フィラメント糸を含む。具体的には、経糸21および緯糸22のうち、ケナフ糸23を除く残余の糸である非ケナフ糸21,24は、フィラメント糸である。フィラメント糸は、スパン糸に比べて、強度が高い。したがってフィラメント糸を含む織物で基布11を構成することによって、フィラメント糸を含まない織物で基布11を構成する場合に比べて、一層強度の高い布帛1を実現することができる。
【0103】
このように基布11がフィラメント糸を含むことによって布帛1の強度を高めることができるが、プライマ層12,13に含まれる樹脂たとえばポリカーボネート系ウレタン樹脂は、フィラメント糸、特にフィラメント状のポリエステル繊維を含むポリエステル糸に対しては、スパン糸に対する場合と比べて、比較的接着しにくい。
【0104】
本実施形態では、基布11を構成する織物には、スパン糸であるケナフ糸23が含まれるので、スパン糸であるケナフ糸23とプライマ層12,13との絡み合いによって、スパン糸を含まない基布11にプライマ層12,13を設ける場合に比べて、基布11とプライマ層12,13との接着性を高めることができる。具体的に述べると、本実施形態では、スパン状のケナフ糸23が基布11に含まれるので、プライマ層12,13を構成するポリカーボネート系のウレタン樹脂がケナフ糸に絡まり、これによって接着性が発揮される。
【0105】
これは、フィラメント糸とスパン糸との違いによる。つまり、フィラメント糸、たとえばフィラメント状のポリエステル糸は、表面の凹凸がほとんどないが、スパン糸であるケナフ糸は、表面に凹凸があるので、プライマ層12,13を構成する樹脂、特にポリカーボネート系のウレタン樹脂が絡まり易く、強固な接着力が発揮される。したがって、本実施形態のように基布11にスパン糸であるケナフ糸23を含ませることによって、基布11とプライマ層12,13との接着性を高めて、基布11とコート層14,15との剥離をより確実に防ぐことができるので、耐久性に一層優れる布帛1を実現することができる。
【0106】
また本実施形態では、基布11を構成する織物の経糸21および緯糸22は、ポリエステル繊維を含む。具体的には、経糸21および緯糸22のうち、ケナフ糸23を除く残余の糸である非ケナフ糸21,24は、ポリエステル糸から成る。ポリエステル繊維は、他の合成繊維、たとえばポリアミド繊維に比べて、強度が高く、また耐光性に優れ、劣化しにくいので、ポリエステル糸は、他の合成繊維を含む糸、たとえばポリアミド繊維を含む糸に比べて、強度が高く、また耐光性に優れ、劣化しにくい。したがってポリエステル繊維を含む織物、より詳細にはポリエステル糸を含む織物で基布11を構成することによって、強度が高く、劣化しにくい布帛1を実現することができる。
【0107】
また本実施形態では、緯糸22は、1本のケナフ糸23と2本の非ケナフ糸24とが、布帛1の経方向Yの一方Y1側から他方Y2側に向かって、非ケナフ糸24、非ケナフ糸24、ケナフ糸23の順に配列された構成単位Aを含む。
【0108】
前述のように本実施形態において、ケナフ糸23は、ケナフ繊維のみから成り、非ケナフ糸24は、ポリエステル繊維のみから成るポリエステル糸である。ケナフ繊維100重量%のケナフ糸1本の重量は、ポリエステル繊維100重量%のポリエステル糸2本分の重量とほぼ等しいので、本実施形態では、1本のケナフ糸23の重量と2本の非ケナフ糸24の合計重量とは、ほぼ等しい。
【0109】
この場合に、本実施形態と異なって、各構成単位において、非ケナフ糸24の本数がケナフ糸23の本数の2倍になっておらず、たとえば各構成単位が1本のケナフ糸23と1本の非ケナフ糸24とを含んでいると、ケナフ糸23の混率、すなわち緯糸22中のケナフ糸23の割合が大きくなり過ぎて、緯糸22中のケナフ繊維の割合が緯糸22の全量の55重量%を超えてしまい、基布11の強度が充分に得られない。
【0110】
したがって各構成単位は、本実施形態のように非ケナフ糸24の本数がケナフ糸23の本数の2倍になっている、つまりm本のケナフ糸23と2m本の非ケナフ糸24とを含むことが好ましい。このようにm本のケナフ糸23と2m本の非ケナフ糸24とを含む構成単位を繰返し配置して緯糸22を構成することによって、緯糸22中のケナフ繊維の割合を55重量%以下にし、基布11の強度を充分なものとすることができる。ケナフ糸23がケナフ繊維以外の繊維を含む場合、非ケナフ糸24がポリエステル繊維以外の繊維を含むポリエステル糸である場合、および非ケナフ糸24がポリエステル糸以外の糸から成る場合には、各構成単位に含まれるケナフ糸23および非ケナフ糸24の本数は、ケナフ糸23と非ケナフ糸24との重量比、およびケナフ糸23中のケナフ繊維の割合に基づいて、緯糸22中のケナフ繊維の割合が緯糸22の全量の55重量%以下になるように選ばれる。
【0111】
また本実施形態では、図2に示すように基布11を構成する織物は、経糸21が1本のケナフ糸23と2本の非ケナフ糸24とを交互に浮き沈みするように構成される。これによって、経方向Yに並ぶ各構成単位Aにおいて、ケナフ糸23を基布11の厚み方向Zに関して同じ側に露出させることができる。たとえば第1の経糸21aに交差するケナフ糸23は、厚み方向他方Z2側に露出し、第1の経糸21aに隣接する第2の経糸21bに交差するケナフ糸23は、厚み方向一方Z1側に露出する。
【0112】
これに対し、基布11を構成する織物が、経糸21と緯糸22とを1本毎に交錯させた平織組織から成る単純平織で構成される場合、経方向Yにおいて隣接する2つの構成単位Aに含まれる2本のケナフ糸23は、基布11の厚み方向Zに関して、互いに反対側に露出する。したがって厚み方向一方Z1側から見て、経方向Yにおけるケナフ糸23の露出頻度は、基布11が経畦織で構成される場合に比べて小さい。
【0113】
本実施形態では、ケナフ糸23は、基布11の厚み方向Zに関して同じ側に露出するので、厚み方向一方Z1側から見て、経方向Yにおけるケナフ糸23の露出頻度は、基布11が単純平織で構成される場合に比べて大きい。前述のように、ケナフ糸23はスパン糸であり、スパン糸は表面に凹凸を有するので、フィラメント糸に比べて、プライマ層12,13を構成する樹脂が絡まり易く、樹脂との接着性に優れる。したがって基布11を経畦織で構成して、経方向Yにおけるケナフ糸23の露出頻度を大きくすることによって、単純平織で構成される場合に比べて、基布11とプライマ層12,13に含まれる樹脂との接着性を向上させることができる。
【0114】
また基布11を構成する織物が単純平織で構成されると、基布11の凹凸が多くなり、パッド層17などをコーティングしたときに気泡が含まれ易く、品位低下や接着強度低下を起こすおそれがある。この点からも、基布11は、本実施形態のように経畦織で構成されることが好ましい。
【0115】
本実施形態の布帛1は、適宜の形状および寸法に裁断されて、種々の用途に用いられ、たとえばテント用膜材として用いられる。裁断された布帛1は、そのままテント用膜材として用いられてもよく、たとえば図6に示すように複数枚が接合されてテント用膜材として用いられてもよい。
【0116】
図6は、テント用膜材の一例であるテント用膜材50を示す平面図である。図7は、図6に示す切断面線S7−S7から見た断面図である。テント用膜材50は、複数の膜部材51を含み、複数の膜部材51、本実施形態では2枚の膜部材51が接合されて成る。各膜部材51は、前述の図1に示す本実施形態の布帛1から成る。互いに接合される2つの膜部材51、すなわち第1膜部材53および第2膜部材54は、一方の膜部材51である第1膜部材53の緯方向Xにおける一端部、すなわち緯方向一方X1側の端部と、他方の膜部材51である第2膜部材54の緯方向Xにおける他端部、すなわち緯方向他方X2側の端部とが、経方向Y全体にわたって接合される。2つの膜部材51同士の接合部分52の緯方向Xにおける幅寸法(以下「接合幅」という)W1は、たとえば40mmである。
【0117】
テント用膜材50は、たとえば膜部材51同士を熱風融着させることによって製造される。具体的には、第1膜部材53の緯方向一方X1側の端部と、第2膜部材54の緯方向他方X2側の端部とを重ねて、重ねた部分の第1膜部材53と第2膜部材54との間に熱風機で熱風を通して、第1および第2膜部材53,54の表面を溶かすとともに、厚み方向一方Z1側から荷重をかけて接合していくことによって、テント用膜材50が製造される。膜部材51の接合は、たとえば、ライスター社製の熱風機を用い、熱風機の設定温度を600℃以下の範囲内で、200〜600℃程度の熱風が噴射されるように設定し、接合速度をたとえば2.0m/minとし、接合幅4cm当たりの線圧をたとえば12kgf(約117.6N)として行われる。
【0118】
テント用膜材50は、前述のように容易に再利用可能であり、かつ強度が高い本実施形態の布帛1から成る複数の膜部材51が接合されて成る。したがって、容易に再利用することができ、かつ強度の高いテント用膜材50を実現することができる。また本実施形態の布帛1に含まれる基布11は、前述のようにスパン糸であるケナフ糸23を含む織物で構成され、この基布11の厚み方向両表面部にプライマ層12,13を介してコート層14,15が設けられているので、スパン糸を含まない基布11にプライマ層12,13を介してコート層14,15が設けられる場合に比べて、基布11とプライマ層12,13との接合強度を高めることができ、基布11からのコート層14,15の剥離をより確実に防ぐことができる。したがって、膜部材51が接合される接合部分52において、基布11からコート層14,15が剥離することを防ぐことができるので、膜部材51同士の接合強度を高めることができる。したがって耐久性に優れるテント用膜材50を実現することができる。
【0119】
本実施形態の布帛1および布帛1から成る膜部材51を含むテント用膜材50は、長期間使用されて劣化したり、または一部が破断したりして使用できなくなった後には、これを回収して、たとえば紙に再生することが可能である。
【0120】
テント用膜材50を紙に再生する場合、テント用膜材50を小片化し、小片化したテント用膜材50を水とともに撹拌することによってパルプを生成し、生成したパルプを水中に拡散させて、抄紙して乾燥させることによって、再生紙が製造される。具体的に述べると、たとえば、テント用膜材50を適当な大きさに裁断して小片とし、この小片をパルプ抄紙機に投入して水と共に撹拌する。パルプ抄紙機に備わる2枚のグラインダが回転することによってテント用膜材50の小片同士が擦られてパルプになる。得られたパルプを水中に入れて拡散させ、抄紙機を用いて漉くことによって紙漉きを行なった後、アイロンなどで乾燥すると、紙(以下「再生紙」という)が得られる。布帛1も同様にして紙として再生することができる。再生紙は、手漉きによって抄紙されてもよい。
【0121】
本実施形態の布帛1およびテント用膜材50は、織物全量の15重量%以上55重量%以下の割合でケナフ繊維を含む織物から成る基布を含むので、前述のように、基布11を被覆していた樹脂と、基布11を構成する織物の繊維とを分離することなく、また薬品を使用することなく、水のみで再生紙にすることができる。したがって容易に再生することができ、また再生するときの環境への負荷が小さい。また布帛1またはテント用膜材50から得られるパルプは、木材資源に変わる紙の原料として多くの利用方法がある。
【0122】
布帛1およびテント用膜材50には、基布11のポリエステル糸24を構成するポリエステル繊維および基布11を被覆していた樹脂が入っているので、テント用膜材50から得られたパルプのみで再生紙を製造すると、「もさもさ」とした質感の紙になる。表面がより滑らかな再生紙を得るためには、テント用膜材50から得られたパルプ(以下「ケナフパルプ」という)に、古紙から得られるパルプ(以下「古紙パルプ」という)または新しいパルプを混合して、再生紙を製造することが好ましい。たとえば、テント用膜材50から得られるケナフパルプに対して、ケナフパルプの全重量の30重量%の古紙パルプを混合して、再生紙を製造すると、紙らしくなって、表面がより滑らかになり、実使用に好適な再生紙が得られる。
【0123】
以上に述べた本実施形態では、ケナフ糸23は、基布11を構成する織物の緯糸22に含まれるが、これに限定されず、経糸21に含まれてもよく、経糸21および緯糸22の両方に含まれてもよい。このようにケナフ糸23は、経糸21および緯糸22の両方に含まれてもよいが、いずれか一方のみに含まれる方が好ましい。すなわちケナフ繊維は、経糸21および緯糸22のいずれか一方のみに含まれることが好ましい。ケナフ繊維は、他の天然繊維および合成繊維に比べて、繊維自体が太いので、ケナフ糸23は、他の天然繊維または合成繊維から成る繊維糸に比べて太い。ケナフ繊維を経糸21および緯糸22の両方に含ませる、すなわちケナフ繊維を含むケナフ糸23を経糸21および緯糸22の両方に含ませると、基布11が厚くなり過ぎ、また経糸21に含まれるケナフ糸23と緯糸22に含まれるケナフ糸23とが交わる部分が突出してしまうので、コーティングに不向きであり、プライマ層12,13、コート層14,15および防汚層16を一定の層厚で形成することが困難になる。したがってケナフ糸23、より詳細にはケナフ繊維は、経糸21および緯糸22のいずれか一方に含まれることが好ましい。
【0124】
ケナフ繊維が経糸21に含まれる場合、ケナフ繊維が緯糸22に含まれる場合と同様に、経糸21中のケナフ繊維の割合は、経糸21の全量の55重量%以下に選ばれる。これによって、布帛1の経方向Yの引張強さを確保することができる。またケナフ繊維が経糸21および緯糸22の両方に含まれる場合、経糸21の全重量に対する経糸21に含まれるケナフ繊維の全重量の割合、および緯糸22の全重量に対する緯糸22に含まれるケナフ繊維の全重量の割合は、いずれも55重量%以下であり、基布11を構成する織物の全重量に対するケナフ繊維の全重量、すなわち経糸21に含まれるケナフ繊維および緯糸22に含まれるケナフ繊維の合計重量の割合は、15重量%以上55重量%以下に選ばれる。これによって経方向Yおよび緯方向Xのいずれにも充分な強度を有し、かつ布帛1全体としても高い強度を有する布帛1を実現することができる。
【0125】
また本実施形態では、基布11を構成する織物の組織は、平織であるが、これに限定されず、他の組織、たとえば綾織または朱子織であってもよい。
【実施例】
【0126】
以下のようにして布帛およびテント用膜材を製造し、得られた布帛およびテント用膜材について、以下に示す試験を実施し、C種膜としての基準を満足するか否かを評価した。C種膜には、表1に示す特性が求められる。表1において、コーティング材の質量とは、布帛のうち、基布を除く層の合計質量である。
【0127】
【表1】

【0128】
[布帛、基布およびコーティング材の質量]
布帛、基布およびコーティング材の質量は、日本工業規格(略称JIS)K6404に規定される測定方法に従って測定した。
【0129】
[引張強さ]
引張強さは、布帛について、JIS L1096に規定される試験方法に従って評価した。
【0130】
[破断伸び率]
破断伸び率は、布帛について、JIS L1096に規定される試験方法に従って評価した。
【0131】
[接合部引張強さ]
接合部引張強さは、テント用膜材について、JIS L1096に規定される試験方法に従って評価した。試験片としては、前述の図6に示すテント用膜材50を、緯方向Xにおける長さ寸法W2が300mmであり、経方向Yにおける幅寸法W3が30mmである長方形状に裁断した試験片60を用いた。
【0132】
図8は、試験片60に対する接合部引張強さ試験の様子を示す図である。図8(a)は、試験片60を厚み方向一方Z側から見た平面図であり、図8(b)は、試験片60を経方向Yの一方側から見た側面図である。接合部引張強さ試験は、図8に示すように、試験片60を構成する第1膜部材53の緯方向他方X2側の端部61および第2膜部材54の緯方向一方X1側の端部62をそれぞれチャックで挟んで行なう。チャック間の間隔を200mmとし、引張速度を200mm/minとした。
【0133】
[高温時接合部引張強さ]
高温時接合部引張強さは、テント用膜材について、JIS L1096に規定される試験方法に準じて評価した。試験温度は65℃とした。
【0134】
[接合部耐剥離強さ]
接合部耐剥離強さは、テント用膜材について、JIS K6404に規定される試験方法に従って評価した。
【0135】
[接合部耐引張クリープ性]
接合部耐引張クリープ性は、テント用膜材について、JIS K6859に規定される試験方法に準じて評価した。試験温度は65℃とし、負荷時間を24時間とし、荷重を引張強さの10分の1(1/10)とした。
【0136】
[耐水性]
耐水性は、布帛について、JIS L1092に規定される試験方法に従って評価した。
【0137】
[耐もみ性]
耐もみ性は、布帛について、JIS K6404−6に規定される試験方法に従って評価した。
【0138】
[耐寒性]
耐寒性は、布帛について、JIS M7102に規定される試験方法に従って評価した。
【0139】
[防炎試験]
防炎試験は、JIS A1322に規定されるメッケルバーナー法に従って行なった。
【0140】
C種膜の認定には防炎試験はないが、テント用膜材として使用する場合、飛び火試験において基準を満足する必要があるので、本評価では防炎試験を行っている。メッケルバーナー法は、飛び火試験の強条件を想定して実施している。実際の飛び火試験は、布帛の表面のみに実施されるので、本評価では、布帛の表面のみに防炎試験を行なった。
【0141】
本防炎試験では、防炎2級の基準を満足するか否かを評価した。防炎2級には、表2に示す特性が求められる。
【0142】
【表2】

【0143】
(実施例1)
以下のようにして、図1に示す布帛1を製造した。基布11は平織の織物とし、緯糸22のみにケナフ糸23を用いた。経糸21および緯糸22の非ケナフ糸24には、ポリエステル繊維のみから成り、デシテックス表示で1620デシテックスのポリエステルフィラメント糸を用い、緯糸22のうち、ケナフ糸23には、ケナフ繊維のみから成り、ジュート番手で7番単糸のケナフ糸23を用いた。緯糸22は、前述の図2に示すように、1本のケナフ糸23と2本の非ケナフ糸24とが、布帛1の経方向Yの一方Y1側から他方Y2側に向かって、非ケナフ糸24、非ケナフ糸24、ケナフ糸23の順に配列される構成単位Aが、経方向Yに繰返し配列される構成とした。基布11の質量は、349g/mであった。この基布11において、基布11を構成する織物全量中のケナフ繊維の割合は、織物全量の33重量%であり、緯糸22中のケナフ繊維の割合は、緯糸22の全量の52重量%であった。
【0144】
基布11を、パッド層材料が貯留される塗布槽に浸漬した後、乾燥させ、さらに加熱してキュアし、パッド層17を形成した。パッド層材料には、フッ素系撥水剤(固形分20%)3重量%、リン酸グアニジン系難燃剤(リン酸グアニジン47重量%水溶液)40重量%およびイソプロピルアルコール(略称IPA)2重量%を含み、残部が水であるパッド層材料を用いた。乾燥温度を130℃とし、乾燥装置への基布11の搬送速度を10m/minとした。またキュア温度を180℃とし、加熱装置への基布11の搬送速度を20m/minとし、加熱装置における設定幅、すなわち加熱に供する基布11の幅を130cmとした。パッド層17の重量、すなわちパッド層17の付着量は、50g/mとした。
【0145】
次いで、パッド層17が形成された基布11Aの厚み方向一方Z1側の表面部に、プライマ樹脂材料をナイフコーティングで塗布した後、乾燥させ、表側プライマ層12を形成した。プライマ樹脂材料には、ポリカーボネート系ウレタン樹脂材料(ポリカーボネート系ウレタン樹脂溶液、固形分量25重量%、希釈溶剤:DMF/TOL/MEK=30/20/50、100%モジュラス100kg/cm)を用いた。ナイフコーティングに用いたナイフコータのナイフ丸刃深度は1.0mmとした。乾燥装置には、3連式の乾燥装置を用いた。塗布装置および乾燥装置における基布11Aの搬送速度を10m/minとした。熱風温度は、第1乾燥室を70℃とし、第2乾燥室を110℃とし、第3乾燥室を130℃とした。熱風風量は、第1乾燥室よりも第2および第3乾燥室の方を大きくし、第2乾燥室と第3乾燥室とは同一とした。具体的には、第1乾燥室の熱風風量を低とし、第2および第3乾燥室の熱風風量を高とした。表側プライマ層12の重量、すなわち表側プライマ層12の塗布量は、40g/mとした。
【0146】
次いで、表側プライマ層12が形成された基布11Bの厚み方向他方Z2側の表面部に、表側プライマ層12と同様にして裏側プライマ層13を形成した。プライマ樹脂材料には、表側プライマ層12と同じポリカーボネート系ウレタン樹脂材料を用いた。塗布装置および乾燥装置における基布11の搬送速度、ならびに乾燥装置の各乾燥室における熱風温度および熱風風量は、それぞれ表側プライマ層12を形成するときと同一とした。裏側プライマ層13の重量、すなわち裏側プライマ層13の塗布量は、40g/mとした。
【0147】
次いで、裏側プライマ層13が形成された基布11Cの厚み方向一方Z1側の表面部に、以下に示す組成のコート層材料をコンマコーティングで塗布した後、乾燥させ、表側コート層14を形成した。以下において「部」は、特に断らない限り、「重量部」を示す。
【0148】
〔コート層材料〕
ポリカーボネート系ウレタン樹脂材料 :100部
難燃剤 :20部
白色顔料 :5部
架橋剤 :4部
防かび剤 :0.2部
IPA :8部
TOL :8部
【0149】
ポリカーボネート系ウレタン樹脂材料には、ポリカーボネート系ウレタン樹脂の固形分量25重量%、希釈溶剤:DMF、100%モジュラス55kg/cmのポリカーボネート系ウレタン樹脂溶液を用いた。ポリカーボネート系ウレタン樹脂材料に含まれるポリカーボネート系ウレタン樹脂の軟化温度は150℃である。難燃剤には、ポリリン酸系難燃剤(ポリリン酸アンモニウム100%品)を用いた。
【0150】
コンマコーティングに用いたコンマコータのコンマと搬送ロールとの隙間(以下「クリアランス」という)を1500μmとし、表側コート層14の重量、すなわち表側コート層14の塗布量を200g/mとした。乾燥装置には、3連式の乾燥装置を用いた。塗布装置および乾燥装置における基布11Aの搬送速度を3m/minとした。熱風温度は、第1乾燥室を70℃とし、第2乾燥室を110℃とし、第3乾燥室を130℃とした。熱風風量は、第1乾燥室の方を第2および第3乾燥室よりも大きくし、第2乾燥室と第3乾燥室とは同一とした。具体的には、第1乾燥室の熱風風量を高とし、第2および第3乾燥室の熱風風量を低とした。
【0151】
次いで、表側コート層14が形成された基布11Dの厚み方向他方Z2側の表面部に、表側コート層14と同様にして裏側コート層15を形成した。コート層材料には、表側コート層14と同じものを用いた。塗布装置および乾燥装置における基布11の搬送速度、ならびに乾燥装置の各乾燥室における熱風温度および熱風風量は、それぞれ表側コート層14を形成するときと同一とした。コンマコーティングに用いたコンマコータのクリアランスを1100μmとし、裏側コート層15の重量、すなわち裏側コート層15の塗布量を125g/mとした。
【0152】
次いで、裏側コート層15が形成された基布11Eをニップ装置に送給し、表側コート層14、裏側コート層15の順に、それぞれニップ処理した。ニップ処理における基布11Eの搬送速度を3m/minとし、加熱ロールの加熱温度を180℃とし、一対のニップロールによる加圧力を4kg/cm(線圧で24.5kg/cm)とした。
【0153】
ニップ処理後の基布11Eの厚み方向一方Z1側の表面部に、防汚材料をナイフコーティングで塗布した後、乾燥させ、防汚層16を形成した。防汚材料には、アクリルウレタン系樹脂を用いた。ナイフコーティングに用いたナイフコータのナイフ丸刃深度は1.0mmとした。乾燥装置には、3連式の乾燥装置を用いた。塗布装置および乾燥装置における基布11Eの搬送速度を15m/minとした。熱風温度は、第1乾燥室を120℃とし、第2乾燥室を130℃とし、第3乾燥室を130℃とした。熱風風量は、第1〜第3乾燥室のいずれも同一とし、具体的には高とした。防汚層16の重量、すなわち防汚層16の塗布量は、5g/mとした。
【0154】
以上のようにして布帛1を製造した。得られた布帛1の重量は、809g/mであった。この布帛1におけるコーティング回数は、表側プライマ層12、裏側プライマ層13、表側コート層14、裏側コート層15および防汚層16の5回である。この布帛1において、コーティング材の質量は、460g/mであった。
【0155】
得られた布帛1を膜部材51として用い、図6に示すように膜部材51同士を熱風融着させて、テント用膜材50を製造した。熱風融着は、熱風機(ライスター社製)を用いて、熱風機の温度を(600℃)に設定し、接合速度を2.0m/minとし、接合部分に接合幅4cm当たり12kgf(約117.6N)の線圧を与えて行なった。接合部分の接合幅W1は、40mmとした。
【0156】
(実施例2)
基布11において、緯糸22中のケナフ糸23の本数と非ケナフ糸24の本数との比を、ケナフ糸23:非ケナフ糸24=15本:18本に変更すること以外は、実施例1と同様にして、布帛1およびテント用膜材50を製造した。用いた基布11の質量は354g/mであった。この基布11において、基布11を構成する織物全量中のケナフ繊維の割合は、織物全量の35重量%であり、緯糸22中のケナフ繊維の割合は、緯糸22の全量の55重量%であった。また、得られた布帛1の質量は814g/mであり、この布帛1におけるコーティング材の質量は460g/mであった。
【0157】
(比較例1)
基布11において、緯糸22中のケナフ糸23の本数と非ケナフ糸24の本数との比を、ケナフ糸23:非ケナフ糸24=16本:17本に変更すること以外は、実施例1と同様にして、布帛およびテント用膜材を製造した。用いた基布11の質量は358g/mであった。この基布11において、基布11を構成する織物全量中のケナフ繊維の割合は、織物全量の37重量%であり、緯糸22中のケナフ繊維の割合は、緯糸22の全量の58重量%であった。また、得られた布帛の質量は818g/mであり、この布帛におけるコーティング材の質量は460g/mであった。
【0158】
(比較例2)
基布11において、緯糸22中のケナフ糸23の本数と非ケナフ糸24の本数との比を、ケナフ糸23:非ケナフ糸24=17本:16本に変更すること以外は、実施例1と同様にして、布帛およびテント用膜材を製造した。用いた基布11の質量は363g/mであった。この基布11において、基布11を構成する織物全量中のケナフ繊維の割合は、織物全量の39重量%であり、緯糸22中のケナフ繊維の割合は、緯糸22の全量の61重量%であった。また、得られた布帛の質量は823g/mであり、この布帛におけるコーティング材の質量は460g/mであった。
【0159】
〔評価1〕
以上のようにして製造した実施例1,2および比較例1,2の布帛について、経方向および緯方向の引張強さ(N/3cm)をそれぞれ評価した。評価結果を表3に示す。
【0160】
【表3】

【0161】
表3に示す結果から、実施例1,2のように、織物全量中のケナフ繊維の割合を織物全量の55重量%以下とし、緯糸中のケナフ繊維の割合を緯糸全量の55重量%以下とし、経糸中のケナフ繊維の割合を経糸全量の55重量%以下とすることによって、経方向Yおよび緯方向Xのいずれにも充分な引張強さを有し、布帛全体として、高い引張強さを有する布帛が得られることが判った。
【0162】
これに対し、織物全量中のケナフ繊維の割合が織物全量の55重量%を超える比較例1,2では、ケナフ糸を含む緯方向において、引張強さが2000N/3cm未満となり、充分な引張強さが得られなかった。
【0163】
(実施例3)
基布11において、緯糸22中のケナフ糸23の本数と非ケナフ糸24の本数との比を、ケナフ糸23:非ケナフ糸24=1本:2本に変更し、パッド層17の付着量を50g/mに変更し、表側プライマ層12および裏側プライマ層13の塗布量をそれぞれ40g/mに変更し、表側コート層14の塗布量を200g/mに変更し、裏側コート層15の塗布量を90g/mに変更すること以外は、実施例1と同様にして、布帛1およびテント用膜材50を製造した。
【0164】
用いた基布11の質量は330g/mであった。この基布11において、基布11を構成する織物全量中のケナフ繊維の割合は、織物全量の27重量%であり、緯糸22中のケナフ繊維の割合は、緯糸22の全量の42重量%であった。また、得られた布帛1の質量は740g/mであり、この布帛1におけるコーティング材の質量は410g/mであった。
【0165】
(実施例4)
表側コート層14および裏側コート層15をニップ処理しないこと以外は、実施例3と同様にして布帛1およびテント用膜材50を製造した。得られた布帛1の質量は740g/mであり、この布帛1におけるコーティング材の質量は410g/mであった。
【0166】
(実施例5)
裏側コート層15の形成後であってニップ処理前に、表側コート層14の表面部に表側コート層14と同様にして第2表側コート層を形成し、裏側コート層15の表面部に表側コート層14と同様にして第2裏側コート層を形成する以外は、実施例3と同様にして布帛1およびテント用膜材50を製造した。得られた布帛の質量は796g/mであり、この布帛1におけるコーティング材の質量は463g/mであった。この布帛におけるコーティング回数は、表側プライマ層12、裏側プライマ層13、表側コート層14、裏側コート層15、第2表側コート層、第2裏側コート層および防汚層16の7回である。つまり本実施例では、コート層のコーティング回数を、実施例3の2回から4回に増やしている。
【0167】
(実施例6)
表側コート層14を形成する前に、表側プライマ層12の厚み方向一方Z1側の表面部に表側ベースコート層を形成し、裏側プライマ層13の厚み方向他方Z2側の表面部に裏側ベースコート層を形成し、表側プライマ層12および裏側プライマ層13のプライマ樹脂材料として、ポリカーボネート系ウレタン樹脂材料(ポリカーボネート系ウレタン樹脂溶液、固形分量25質量%、希釈溶剤:DMF、100%モジュラス55kg/cm)を用いること以外は、実施例5と同様にして布帛1およびテント用膜材50を製造した。表側ベースコート層および裏側ベースコート層は、表側コート層14および裏側コート層15と同様にして形成した。表側ベースコート層および裏側ベースコート層の重量は80g/mとし、表側コート層14の重量は120g/mとし、裏側コート層15の重量は100g/mとした。本実施例の布帛におけるコーティング回数は、表側プライマ層12、裏側プライマ層13、表側ベースコート層、裏側ベースコート層、表側コート層14、裏側コート層15、第2表側コート層、第2裏側コート層および防汚層16の9回である。
【0168】
(実施例7)
表側プライマ層12および裏側プライマ層13のプライマ樹脂材料として、コート層材料に用いたものと同じポリカーボネート系ウレタン樹脂材料を用いること以外は、実施例3と同様にして布帛1およびテント用膜材50を製造した。得られた布帛1の質量は761g/mであり、この布帛1におけるコーティング材の質量は431g/mであった。
【0169】
(実施例8)
表側プライマ層12および裏側プライマ層13のプライマ樹脂材料として、ポリカーボネート系ウレタン樹脂材料(ポリカーボネート系ウレタン樹脂溶液、固形分量25重量%、希釈溶剤:DMF、100%モジュラス55kg/cm)を用い、表側コート層14および裏側コート層15を乾燥させるときの乾燥装置のすべての乾燥室における熱風温度を130℃としたこと以外は、実施例3と同様にして布帛1およびテント用膜材50を製造した。得られた布帛1の質量は814g/mであり、この布帛1におけるコーティング材の質量は484g/mであった。
【0170】
(実施例9)
表側コート層14および裏側コート層15のコート層材料として、ポリリン酸系難燃剤に代えて、リン酸エステル系難燃剤を含むコート層材料を用い、防汚層16を形成しないこと以外は、実施例3と同様にして布帛1およびテント用膜材50を製造した。本実施例の布帛におけるコーティング回数は、表側プライマ層12、裏側プライマ層13、表側コート層14および裏側コート層15の4回である。得られた布帛1の質量は802g/mであり、この布帛1におけるコーティング材の質量は472g/mであった。
【0171】
〔評価2〕
以上のようにして製造した実施例3〜9の布帛について、防炎試験を実施した。防炎試験は、各布帛について、3回ずつ行なった。結果を表4に示す。表4において「−」は、試験を実施しなかったことを意味する。表4には、3回の防炎試験の結果を列記する。実施例7,8については、後述する接合部耐引張クリープ性の評価において、はがれが見られたので、防炎試験は1回のみ行なった。実施例9については、経方向の評価において、残炎時間が5秒以上で、炭化長が無限大という結果になったので、緯方向の評価については行わなかった。
【0172】
【表4】

【0173】
表4に示す結果から、実施例1〜8のように、表側コート層14および裏側コート層15の難燃剤としてポリリン酸系難燃剤を用いることによって、他の難燃剤、たとえば実施例9のようにリン酸エステル系難燃剤を用いる場合に比べて、難燃性に優れる布帛が得られることが判った。
【0174】
〔評価3〕
実施例3〜8の布帛について、経方向および緯方向の引張強さ(N/3cm)および破断伸び率(%)をそれぞれ評価した。また実施例3〜8のテント用膜材について、経方向および緯方向の接合部引張強さ(N/3cm)、高温時接合部引張強さ(N/3cm)、接合部耐剥離強さ(N/2cm)および接合部耐引張クリープ性をそれぞれ評価した。評
価結果を表5に示す。表5において「−」は、評価を行わなかったことを意味する。表5中の()内の数値は、引張強さに対する保持率(%)を示し、[]内の数値は、接合部引張強さに対する保持率(%)を示す。
【0175】
【表5】

【0176】
表5に示す結果から、実施例3〜7のように、各乾燥室の熱風温度を基布の搬送方向上流側から下流側に向かって高くし、各乾燥室の熱風風量を基布の搬送方向上流側から下流側に向かって小さくすることによって、接合部引張強さ、高温時接合部引張強さ、および接合部耐剥離強さに優れるテント用膜材が得られることが判った。これは、コート層14,15への気泡の発生を抑えることができ、これによって膜部材同士の接着強度が向上したためであると考えられる。
【0177】
また実施例3〜5のように、プライマ層の材料として、前述の100%モジュラス100kg/cm、希釈溶剤:DMF/TOL/MEK=30/20/50のポリカーボネート系ウレタン樹脂材料を用いることによって、接合部耐引張クリープ性に優れるテント用膜材が得られることが判った。
【0178】
また実施例3,5のように、コート層を形成した後にニップ処理することによって、接合部耐引張クリープ性に特に優れるテント用膜材が得られることが判った。これは、ニップ処理によって、コート層材料および先に形成されたプライマ層を基布に含浸させて、コート層材料と基布との密着性を向上させることができるためであると考えられる。
【0179】
〔評価4〕
実施例3〜5の布帛について、耐水性をそれぞれ評価した。また実施例3,5の布帛の経方向および緯方向について、耐もみ性および耐寒性をそれぞれ評価した。結果を表6に示す。実施例4については、前述の接合部耐引張クリープ性の評価において、はがれが見られたので、耐もみ性および耐寒性については評価を行わなかった。表6において「−」は、評価を行わなかったことを意味する。
【0180】
【表6】

【0181】
表6の結果から、実施例5のように、コート層のコーティング回数を増やすことによって、布帛の耐もみ性および耐寒性を向上させることができることが判った。
【0182】
(実施例10)
基布11において、表側プライマ層12および裏側プライマ層13のプライマ樹脂材料として接着加工用ウレタン樹脂材料(エステル系ウレタン樹脂溶液、固形分量19重量%、希釈溶剤:TOL/MEK=30/70)を用い、表側プライマ層12および裏側プライマ層13の塗布量をそれぞれ30g/mに変更し、難燃剤(三酸化アンチモン)を含有する塩化ビニル樹脂シート(厚さ200μm、質量249g/m)を、130℃に加熱した熱ロールでプレスして表側コート層14および裏側コート層15を形成したこと以外は、実施例1と同様にして、布帛1およびテント用膜材50を製造した。得られた布帛1の質量は828g/mであり、この布帛1におけるコーティング材の質量は498g/mであった。
【0183】
〔評価5〕
実施例10の布帛について、経方向および緯方向の引張強さ(N/3cm)および破断伸び率(%)をそれぞれ評価した。また実施例10のテント用膜材について、緯方向の接合部引張強さ(N/3cm)、経方向の接合部耐剥離強さ(N/2cm)および緯方向の接合部耐引張クリープ性をそれぞれ評価した。さらに、実施例10の布帛について、耐水性、経方向および緯方向の耐もみ性および耐寒性をそれぞれ評価した。評価結果を表7に示す。表7中の()内の数値は、引張強さに対する保持率(%)を示す。
【0184】
【表7】

【0185】
(比較例3)
基布として、ポリエステル繊維のみから成り、デシテックス表示で1100デシテックスのポリエステルスパン糸を用いて織られた平織の生地を用い、基布の厚み方向一方側の表面部に、実施例1と同様にしてコート層材料をコンマコーティングで塗布して乾燥させ、表側コート層を形成した。コート層材料には、実施例1のコート層材料に用いたものと同じポリカーボネート系ウレタン樹脂材料100重量部と、リン酸エステル系難燃剤25重量部との混合物を用いた。
【0186】
次いで、基布の厚み方向他方側の表面部に、コート層材料をシート状に形成したものをラミネートし、裏側コート層を形成した。コート層材料には、表側コート層14と同じものを用いた。このようにして布帛を製造した。
【0187】
得られた布帛について、前述のようにして引張強さを測定したところ、経方向1920N/3cm、緯方向1640N/3cmであった。またJIS A1322に規定される試験方法に従って防炎試験を実施したところ、残炎時間0秒、炭化長5.2cmであり、防炎2級を満足する結果となった。防炎試験における加熱時間は、2分間とした。
【0188】
(実施例11)
基布11において、緯糸22中のケナフ糸23の本数と非ケナフ糸24の本数との比を、ケナフ糸23:非ケナフ糸24=6本:27本に変更すること以外は、実施例1と同様にして、布帛1およびテント用膜材50を製造した。用いた基布11の質量は314g/mであった。この基布11において、基布11を構成する織物全量中のケナフ繊維の割合は、織物全量の15重量%であり、緯糸22中のケナフ繊維の割合は、緯糸22の全量の24重量%であった。また、得られた布帛1の質量は774g/mであり、この布帛1におけるコーティング材の質量は460g/mであった。
【0189】
(比較例4)
基布11において、緯糸22中のケナフ糸23の本数と非ケナフ糸24の本数との比を、ケナフ糸23:非ケナフ糸24=4本:29本に変更すること以外は、実施例1と同様にして、布帛およびテント用膜材を製造した。用いた基布11の質量は305g/mであった。この基布11において、基布11を構成する織物全量中のケナフ繊維の割合は、織物全量の10重量%であり、緯糸22中のケナフ繊維の割合は、緯糸22の全量の17重量%であった。また、得られた布帛の質量は765g/mであり、この布帛におけるコーティング材の質量は460g/mであった。
【0190】
〔評価6〕
実施例1で得られたテント用膜材を、粉砕機を用いておおよそ2cmの大きさに切断した。次にパルプ化機械に水を入れながら、小片化したテント用膜材を投入し、室温下にて高速回転で粉砕および擦過し、パルプを調製した。ここでは特にコート層などのコーティング材と基布の繊維との分離は行っておらず、全てが混在したパルプが得られた。次に、このパルプを水中に入れて拡散させ、手漉きによって抄紙を試みたところ、紙状に形成することができた。このようにして抄紙したものをアイロンで乾燥させて、紙を得た。得られた紙、すなわち再生紙に対して、インクジェットプリンタで画像を印刷したところ、明瞭な画像を印刷することできた。このことから、実施例1で得られたテント用膜材は、インクジェットプリンタで明瞭な画像を印刷可能な程度の平滑な表面を有する紙に再生できることが判った。
【0191】
同様にして、実施例2〜11で得られたテント用膜材について、再生紙の製造を試みたところ、実施例1と同様に、インクジェットプリンタで明瞭な画像を印刷可能な程度の平滑な表面を有する紙(再生紙)が得られた。
【0192】
比較例4で得られたテント用膜材についても、同様にして再生紙の製造を試みたが、紙状に形成することができなかった。
【0193】
以上の結果を表8に示す。表8では、紙として再生可能な場合を「○」と記載し、紙として再生不可能な場合を「×」と記載する。
【0194】
【表8】

【符号の説明】
【0195】
1 布帛
11 基布
12 表側プライマ層
13 裏側プライマ層
14 表側コート層
15 裏側コート層
16 防汚層
17 パッド層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
経糸および緯糸の少なくとも一方がケナフ繊維を含む織物であって、温度20℃、相対湿度65%で測定したときの織物全量中のケナフ繊維の割合が織物全量の15重量%以上55重量%以下であり、経糸中のケナフ繊維の割合が経糸全量の55重量%以下であり、緯糸中のケナフ繊維の割合が緯糸全量の55重量%以下である織物から成る基布を含むことを特徴とする布帛。
【請求項2】
基布の厚み方向一表面部に積層され、難燃剤を含有する難燃剤層を含むことを特徴とする請求項1に記載の布帛。
【請求項3】
難燃剤層と基布との間に介在し、難燃剤層と基布とを接着する接着層を含むことを特徴とする請求項2に記載の布帛。
【請求項4】
経糸および緯糸の少なくとも一方は、フィラメント糸を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の布帛。
【請求項5】
経糸および緯糸の少なくとも一方は、ポリエステル繊維を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の布帛。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1つに記載の布帛から成ることを特徴とするテント用膜材。
【請求項7】
複数の膜部材が接合されて成るテント用膜材であって、
前記膜部材は、請求項1〜5のいずれか1つに記載の布帛から成ることを特徴とするテント用膜材。
【請求項8】
請求項6または7に記載のテント用膜材を小片化し、
小片化したテント用膜材を水とともに撹拌することによってパルプを生成し、
生成したパルプを水中に拡散させて、抄紙して乾燥させることを特徴とする再生紙製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−256861(P2009−256861A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−69151(P2009−69151)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(000182247)サカイオーベックス株式会社 (35)
【出願人】(000204192)太陽工業株式会社 (174)
【Fターム(参考)】