説明

布帛、パンティーストッキングおよびインナーウェア並びに布帛の製造方法

【課題】ポリ乳酸繊維を衣料用途の繊維製品として用いる時に耐久性や、色落ち、汚染などの染色堅牢性を維持可能な布帛、ストッキング、インナーウェアおよび布帛の製造方法について提供する。
【解決手段】少なくとも以下の2種類の繊維から構成されることを特徴とする布帛。
(A)酸性染料、酸性媒染染料または金属錯塩酸性染料により染色されたポリアミド繊維(B)原着ポリ乳酸繊維全体の0.3〜6.0重量%の着色剤を含有させた原着ポリ乳酸繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原着ポリ乳酸を用い、ポリアミド繊維を染色することにより、鮮明な発色と実用性を満たす耐久性を有するポリアミド繊維とポリ乳酸繊維から構成された布帛とパンティーストッキング、インナーウェア、および布帛の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド繊維は例えばポリエチレンテレフタレート繊維に比べて柔らかいこと、吸湿性を有していること、耐摩耗性が高いことからインナーやストッキング、スポーツ衣料等に広く使用されている。ポリアミド繊維は一般に酸性染料、酸性媒染染料または金属錯塩酸性染料で常圧にて染色されている。また、例えばポリエチレンテレフタレート繊維と同時に染色する場合、ポリアミド繊維だけを酸性染料、酸性媒染染料または金属錯塩酸性染料で常圧にて染色して、ポリエチレンテレフタレート繊維を染めないか、加圧下にて120〜130℃の染色温度において分散染料にて染色することが一般に行われている。しかしながら、分散染料はポリエチレンテレフタレート繊維だけでなく、ポリアミド繊維中にも入り込み、たとえば湿摩擦堅牢度を下げる要因となっていた。さらに弾性繊維が一部に用いられていた場合には構造がルーズな弾性繊維中に分散染料が入り込み、汚染していた。この場合、入り込んだ分散染料を出すために強い条件での還元洗浄が不可避であった。
【0003】
一方、ポリ乳酸繊維は生分解性、カーボンニュートラルという特徴のほか、低い屈折率やキシミ感を有する触感などに特徴を有しており、環境対応素材としてたとえば、水切りネットや紅茶のリーフフィルタなどの資材用途については、開発や商品化が盛んに進められている。しかしながら、一般衣料用途については、難易度が高く、進んでいないのが現状である。その原因として、ポリアミド繊維やポリエチレンテレフタレート繊維に比べ、強度や耐久性が低い物性面の問題に加え、染色に関わる問題が大きい。例えば120〜130℃の加圧下で染色すると加水分解反応が進んでしまい、強度劣化が生じ、耐久性が十分でなくなってしまう。また、商品としての強度や耐久性、着用快適性を維持するためにポリアミド繊維や弾性繊維と共に用いたいとしても前述のように堅牢性向上や汚染を改善するため強い条件でのソーピングが行われることになり、これによっても同様にポリ乳酸繊維の加水分解が進んでしまい、強度低下を引き起こしてしまっていた。
【0004】
これに対して、原着ポリ乳酸繊維は例えば特許文献1には、染色が困難な非衣料用途について鮮明な発色を狙いとして提案されたり、特許文献2については染色加工時に機台を汚染しないように芯部のポリマーに原料着色することが提案されている。また、特許文献3には、原着剤を選定することにより耐候性を向上させることが提案されている。しかしながら本発明が目指す衣料用途への展開時に必要となる強度、耐久性、堅牢性、風合い、着用快適性などの基本特性を維持できていないのが現状であった。
【0005】
さらに用途特許においてもたとえば特許文献4にはポリ乳酸繊維とポリウレタン繊維からなる生分解性に優れたストッキングが提案されているが、ポリ乳酸繊維を用いることにより焼却や埋め立て時に環境への負荷を軽減することを狙いとしているため、ポリ乳酸繊維とポリウレタン繊維によりストッキングを編成することが前提であり、本発明が目指すポリアミド繊維とポリ乳酸繊維がそれぞれ有する特徴を生かしながら衣料品としての審美性と耐久性を満足させることは想定しておらず、達成できていない。さらに特許文献5には異形断面のポリ乳酸繊維をカバリング糸の巻き糸に用いることにより透明感、光沢に優れたストッキングが提案されているが、ポリ乳酸の耐摩耗性が十分でなく、少なくともレッグ部に用いることは困難であった。
【特許文献1】特開2000−234217号公報([0001])
【特許文献2】特開2004−137632号公報([0006])
【特許文献3】特開2004−324016号公報([0012]、[0018]〜[0020])
【特許文献4】特開平7−305203号公報([0002]〜[0006])
【特許文献5】特開2000−234205号公報([0011]〜[0013])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ポリ乳酸はカーボンニュートラル、生分解性など環境配慮型のポリマーであるが、前述のとおり染色工程で110℃を越える温度にさらすと強度が大幅に低下したり、耐摩耗性が低いためにフィブリル化や破損が生じやすいという課題を有していた。そこで、本発明は、ポリ乳酸を衣料用途の繊維製品として用いる時に必要な特性である強度、耐久性や、色落ち、汚染などの染色堅牢性を維持した上で、意匠性、審美性、着用快適性を満たす工業生産可能な布帛、ストッキング、インナーウェアおよび布帛の製造方法について提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題を解決するために、本発明は、次の構成を採用する。すなわち、
(1)少なくとも以下の2種類の繊維から構成されることを特徴とする布帛(第1発明)、
(A)酸性染料、酸性媒染染料または金属錯塩酸性染料により染色されたポリアミド繊維
(B)原着ポリ乳酸繊維全体の0.3〜6.0重量%の着色剤を含有させた原着ポリ乳酸繊維
(2)さらに(C)弾性繊維が含まれていることを特徴とする(1)記載の布帛、
(3)レッグ部が(A)酸性染料、酸性媒染染料または金属錯塩酸性染料により染色されたポリアミド繊維から少なくとも構成され、パンティー部が(B)原着ポリ乳酸繊維全体の0.3〜6重量%の着色剤を含有させた原着ポリ乳酸繊維から少なくとも構成されたことを特徴とするパンティーストッキング(第2発明)
(4)パンティー部の色がXYZ表色系において(X,Y,Z)=(1.0〜5.0、0.5〜5.0、1.0〜5.0)のブラック系、または(X,Y,Z)=(13.0〜20.0、10.0〜18.0、5.0〜11.0)のブラウン系、または(X,Y,Z)=(20.0〜30.0、18.0〜25.0、8.0〜18.0)のベージュ系のいずれかであることを特徴とする(3)記載のパンティーストッキング、
(5)少なくとも以下の3種類の繊維から構成されている布帛を用いたインナーウェアのうち、原着ポリ乳酸繊維を使用している部分の色がXYZ表色系において(X,Y,Z)=(1.0〜5.0、0.5〜5.0、1.0〜5.0)のブラック系、または(X,Y,Z)=(13.0〜20.0、10.0〜18.0、5.0〜11.0)のブラウン系、または(X,Y,Z)=(20.0〜30.0、18.0〜25.0、8.0〜18.0)のベージュ系のいずれかであることを特徴とするインナーウェア(第3発明)
(A)酸性染料、酸性媒染染料または金属錯塩酸性染料により染色されたポリアミド繊維
(B)原着ポリ乳酸繊維全体の0.3〜6.0重量%の着色剤を含有させた原着ポリ乳酸繊維
(C)弾性繊維
(6)ポリアミド繊維と原着ポリ乳酸繊維全体の0.3〜6重量%の着色剤を含有させた原着ポリ乳酸繊維から少なくとも構成された布帛を常圧下にて酸性染料、酸性媒染染料または金属錯塩酸性染料により染色することを特徴とする布帛の製造方法(第4発明)。
【発明の効果】
【0008】
耐久性や、色落ち、汚染などの染色堅牢性を維持可能な布帛、ストッキング、インナーウェアおよび布帛の製造方法について提供する。 本発明は、上記の構成を採用することにより、ポリ乳酸繊維を衣料用途の繊維製品として用いる時に、一般に流通している布帛、ストッキング、インナーウェアと同様の耐久性、洗濯などの取り扱い性を満たすことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の第1発明は、酸性染料、酸性媒染染料または金属錯塩酸性染料により染色されたポリアミド繊維と原着ポリ乳酸繊維全体の0.3〜6.0重量%の着色剤を含有させた原着ポリ乳酸繊の少なくともの2種類の繊維から構成されている布帛である。
【0010】
すなわち前述のとおりポリ乳酸繊維は耐摩耗性が低く、フィブリル化しやすいことからポリ乳酸繊維だけからなる布帛は、水切りネットや使い捨てのフィルター用途など限定されているのが現状である。衣料用途に展開するに当たっては一般に流通している従来素材の布帛と同等レベルの強度、耐久性が求められるため、ポリ乳酸繊維と他の繊維を組み合わせて布帛化することが求められている。ポリ乳酸繊維が耐熱性が低く、アイロンを適用することができないため、織物への展開が困難で編み物での展開が適当であることが分かったが、衣料用途に展開するに当たっては、ポリ乳酸繊維とポリアミド繊維との組み合わせが最も適切であることがわかった。
【0011】
具体的には、ポリアミド繊維はポリエステル繊維に次ぐ汎用的な繊維であり、繊度やフィラメント数、断面形状や白色顔料の添加量など多種多様な製品が展開されていて布帛とするとき狙いとする強力や目付、風合いなどを設計しやすい。また、ポリ乳酸繊維が劣位である耐摩耗性に優れており、複合化したときの効果が高い。さらにヤング率が低いために風合いが柔らかいこと、吸湿性があり、編み物として多く使用される皮膚に近い部分に用いる布帛に最適であること、また強度が高いことからアウター用途にも好ましく使われているためである。
【0012】
さらにポリアミド繊維は一般に酸性染料、酸性媒染染料または金属錯塩酸性染料を用いて常圧下にて染色されるために染色温度を100℃以下とすることができる。したがって、染色工程によるポリ乳酸繊維の強度劣化を抑制しながら、希望とする色に染色することができる。一方、ポリエチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステルは一般に加圧下において120〜130℃で染色されており、このような温度にてポリ乳酸を染色すると加水分解が進み、強度劣化が激しく、布帛として必要な強度を保つことができないため、好ましくない。さらに綿糸との組み合わせにおいては、綿糸を漂白するために晒し工程が行われ、そこで使用されるアルカリ溶液により加水分解が生じ、同様に布帛として必要な強度を保つことができないため、好ましくない。
【0013】
酸性染料、酸性媒染染料または金属錯塩酸性染料を用いた染色ではポリ乳酸繊維を染色しない。そのため、ポリ乳酸を予め着色または染色しておく必要がある。したがって、ポリ乳酸繊維としては、0.3〜6.0重量%の着色剤を含有させた原着ポリ乳酸繊維を用いる必要がある。これにより、ポリ乳酸繊維を所望の色にすることができる。酸性染料、酸性媒染染料または金属錯塩酸性染料を用いた染色ではポリ乳酸繊維を汚染することはなく、ポリ乳酸繊維を鮮明な色に維持できる。
【0014】
ここで、染色時に分散染料とたとえば酸性染料によって染色する従来の方法は採用しない。理由は前述のとおり、堅牢性に劣るためである。そのため、ポリアミド繊維には実質的にポリ乳酸繊維に含まれる着色剤(白色顔料は除く)が含まれない。
【0015】
本発明においては、(A)酸性染料、酸性媒染染料または金属錯塩酸性染料により染色されたポリアミド繊維を使用する。
【0016】
本発明で使用するポリアミドは、いわゆる炭化水素基が主鎖にアミド結合を介して連結された高分子量体であって、好ましくは、染色性、洗濯堅牢度、機械特性に優れる点から、主としてポリカプラミド、もしくはポリヘキサメチレンアジパミドからなるポリアミドである。ここでいう主としてとは、ポリカプラミドではポリカプラミドを構成するε−カプロラクタム単位とし、ポリヘキサメチレンアジパミドではポリヘキサメチレンアジパミドを構成するヘキサメチレンジアンモニウムアジペート単位として80モル%以上であることをいい、さらに好ましくは90モル%以上である。その他の成分としては、特に制限されないが、例えば、ポリドデカノアミド、ポリヘキサメチレンアゼラミド、ポリヘキサメチレンセバカミド、ポリヘキサメチレンドデカノアミド、ポリメタキシリレンアジパミド、ポリヘキサメチレンテレフタラミド、ポリヘキサメチレンイソフタラミド等を構成するモノマーである、アミノカルボン酸、ジカルボン酸、ジアミンなどの単位が挙げられる。
【0017】
本発明でいうポリアミドの重合度は、必要とする糸強度、初期引張抵抗度等を考慮して適宜選択して良いが、98%硫酸相対粘度で2.0〜3.3の範囲が好ましい。
【0018】
さらに必要に応じて酸化チタン等の白色顔料、光安定剤、熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、末端基調節剤、染色性向上剤等が添加されていてもよい。また、紫外線吸収や接触冷感の付与のため、有機材料や無機粒子の添加を行うことはできる。添加する無機粒子の糸中の平均粒子径を1μm以下とすることが適切である。
【0019】
また、本発明で使用するポリアミド繊維を染色する染料としては酸性染料、酸性染料、酸性媒染染料または金属錯塩酸性染料であり、この中で特に限定されるものではない。狙いとする色を発現させ、必要とする堅牢性を得るために発色系や染料選択を行うことができる。前述のとおり、堅牢性を考慮して分散染料は除く。ここで、酸性染料とは、スルフォン酸基を有する染料であり、酸性媒染染料とは、スルフォン酸基を有し.染色中にクロム錯塩化される染料であり、金属錯塩酸性染料とは、主としてクロム.コバルトにより錯塩化された酸性染料である。
【0020】
本発明においては、(B)原着ポリ乳酸繊維全体の0.3〜6.0重量%の着色剤を含有させた原着ポリ乳酸繊維を使用する。
【0021】
本発明でいうポリ乳酸とは、乳酸やラクチド等の乳酸のオリゴマーを重合したものであり、L体またはD体の光学純度は90%以上であると、融点が高く好ましい態様である。また、ポリ乳酸の性質を損なわない範囲で、乳酸以外の成分を共重合していても、ポリ乳酸以外のポリマーや粒子、難燃剤、帯電防止剤、艶消し剤などの添加物を含有していてもよい。ただし、バイオマス利用、生分解性の観点から、ポリマーとしての乳酸モノマーは50重量%以上とすることが重要である。乳酸モノマーは好ましくは75重量%以上、より好ましくは96重量%以上である。
【0022】
ただし、上記のように2種類の光学異性体が単純に混合している系とは別に、前記2種類の光学異性体をブレンドして繊維に成形した後、140℃以上の高温熱処理を施してラセミ結晶を形成させたステレオコンプレックスにすると、融点を飛躍的に高めることができるためより好ましい。
【0023】
このとき、乳酸モノマー以外の部分については、ポリ乳酸の性能を損なわない範囲で、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ナイロン、ポリブチレンサクシネートおよびポリヒドロキシブチレートなどのポリマーがブレンドされていても複合されていてもよい。更に、バイオマス、生分解性を維持する観点から、ポリブチレンサクシネートやポリヒドロキシブチレートなどの他の生分解性ポリマーを用いることがより好ましい。これらポリマーのブレンドはチップブレンドでも溶融ブレンドでもよく、また複合は芯鞘複合でも、サイドバイサイド型複合でもよい。ポリ乳酸の重量平均分子量は5万〜50万であると、力学特性と製糸性のバランスが良い。ポリ乳酸の分子量は、より好ましくは重量平均分子量で10万〜35万である。
【0024】
また、ポリ乳酸繊維に、エチレンビスステアリン酸アミドなどの脂肪酸ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪酸モノアミドを滑剤として含有させることで耐摩耗性を向上させることができ、好ましい。滑剤の添加方法は特に限定されるものではないが、合成段階で滑剤を投入して原料ポリマーを得る方法や、先に原料ポリマーと滑剤を溶融混練してマスター品を作成する方法、そのマスター品と原料ポリマーを混合して供給する方法、エクストルーダー型溶融押出機の途中から溶融させた滑剤を計量・添加する方法、原料ポリマーに乾燥工程で滑剤を付着させる方法などが挙げられる。これらのうち、連続運転を行った場合に滑剤の添加量が変動しにくいという点で、乾燥工程で滑剤を付着させる方法以外の方法を採用することが好ましい。更に、エクストルーダー型溶融押出機の途中から溶融させた滑剤を計量・添加する方法であれば、滑剤の熱分解を抑制でき、着色が少なくなり好ましい態様である。
【0025】
本発明で使用する原着ポリ乳酸繊維全体の0.3〜6.0重量%の着色剤を含有させた原着ポリ乳酸繊を得る方法としては、特に限定されるものではないが、例えば以下の方法が挙げられる。すなわち、乳酸を重合後得たポリ乳酸は、乾燥工程を経ることなく直接紡糸機に供給してもよいし、一旦乾燥工程を経た後に紡糸機に供給してもよい。溶融紡糸が好ましく用いられる。溶融紡糸時にポリ乳酸に着色剤を添加した後紡糸する方法が挙げられる。溶融紡糸時に着色剤を添加した後、常法により紡糸することにより、原着ポリ乳酸繊維を得ることができる。ポリ乳酸に着色剤をこの時点で添加して均一に分散させることが肝要である。ここで、溶融・押出されたポリマーは、計量ポンプを介して所定量に計量された後、加熱されたスピンブロック内に設置された紡糸パックに導かれる。このとき押出機としてはエクストルーダー型溶融押出機やプレッシャーメルター型溶融押出機を好ましく用いることができる。更に、紡糸パック内において異物除去のため濾過を行い、紡糸口金から紡出され、冷却装置にて冷却・固化される。紡糸温度としては210〜250℃が好ましい。ついで、ポリ乳酸糸条は、油剤供給装置にて集束され、同時に紡糸用油剤を付与される。ここで、ポリ乳酸の熱分解に伴うラクチド等の低分子量物や添加されている滑剤が昇華したり揮発したりして作業環境を悪化させる場合があるため、必要に応じて紡糸口金の下に吸引装置を設けることもできる。かくして、延伸摩擦仮撚加工に供するポリ乳酸未延伸糸を得ることができる。
【0026】
着色剤としては、例えば、カーボンブラック、酸化チタン、コバルトブルー、クロムイエロー、ウルトラマリンバイオレット、硫化カドミウム、酸化鉄、酸化クロム等の無機顔料や、例えば、ペリノンオレンジ、ペリレンレッド、アゾ系、フタロシアニン系、キナクリドン系、ジオキサジン系、アンスラキノン系、ペリレン系、ペリノン系、銅フタロシアニンを主成分とするもの等の有機顔料を用いることができ、着色する色によって一種又は複数の着色剤を使用してもよい。
【0027】
着色剤の添加量は、カーボンブラックの場合は原着ポリ乳酸繊維全体の0.3〜3質量%、無機顔料の場合は原着ポリ乳酸繊維全体の0.3〜6質量%、有機顔料の場合は原着ポリ乳酸繊維全体の0.3〜3質量%とするのが好ましい。本発明においてポリ乳酸繊維中に含まれる着色剤の重量が原着ポリ乳酸繊維全体の0.3〜6.0重量%とするのは、堅牢性と発色性、糸強度のバランス上最適であるためであり、これを下回ったり、超える場合はこれらの特性のいずれかまたは複数が満たされなくなる。
【0028】
油剤を付与する際、油剤は特に限定されるものではなく、ノズルを介した計量給油、ローラー給油、またはこれらの組み合わせでもよい。また、紡糸時にポリ乳酸未延伸糸に高速で給油する場合には、特にノズルを用いた計量給油が好ましく用いられる。
【0029】
油剤供給装置にて集束、給油した後、第1引取ローラーと第2引取ローラーを介して巻取装置にて巻き取られる。ここで、第1引取ローラーの周速を本発明で言う紡糸速度とした。また、油剤供給装置から第1引取ローラーと第2引取ローラーと巻取装置の間の任意の場所で、ポリ乳酸未延伸糸に集束性を持たせたり、チーズの解舒性を向上させる目的で流体処理装置を設けてもよい。なお、流体処理装置に用いる流体としては、空気流や水流などが挙げられるが、空気流であれば高速で走行する糸条に十分な集束性と解舒性を付与することができる。
【0030】
さらに紡糸速度を4,000m/分以上にすることで、ポリ乳酸繊維が配向結晶化して繊維構造が発達するため、耐熱性が向上し、ヒーター上での糸条の軟化を抑制でき、工程安定性が向上する。また、高度に配向結晶化したポリ乳酸繊維を高温で延伸摩擦仮撚加工することで、耐熱性も向上する。更に、紡糸速度が適正な範囲にあれば、溶融紡糸工程での糸切れが少なく、安定した生産が可能となる。このことから、紡糸速度は好ましくは4,250m/分〜7,000m/分、更に好ましくは4,500m/分〜6,500m/分である。
【0031】
本発明の原着ポリ乳酸繊維の形状は特に限定されないが、丸断面、多葉断面、扁平断面、中空等目的に応じて従来公知の断面形状を選択することができる。
【0032】
また本発明の原着ポリ乳酸繊維およびポリアミド繊維は、どのような形態でも布帛中に存在することができ、フィラメント、紡績糸やその複合糸であっても問題ない。なかでもポリ乳酸繊維がフィラメントの場合、強度低下が布帛の耐久性に直接影響してしまうため、特に有効である。(たとえば、紡績糸の一部にポリ乳酸繊維が用いられており、混率が低い場合には強度低下による影響は発現しにくい。)また、両繊維ともフィラメントの場合、染着差や堅牢性の問題が発生しやすいため、本発明は特に有効である。
【0033】
また本発明の好ましい態様としては、酸性染料、酸性媒染染料または金属錯塩酸性染料料により染色されたポリアミド繊維と0.3〜6.0重量%の着色剤を含有させた原着ポリ乳酸繊維に加えて、弾性繊維とから少なくとも構成された布帛である。
【0034】
本発明でいう弾性繊維とは、ポリウレタン系弾性繊維、ポリアミド系エラストマ弾性繊維、ポリエステル系エラストマ弾性繊維、天然ゴム系繊維、合成ゴム系繊維、ブタジエン系繊維等が用いられ、弾性特性や熱セット性、耐久性等により適宜選択すればよい。中でも上記特性から好ましいのは、ポリウレタン系弾性繊維及びポリアミド系エラストマ弾性繊維である。弾性糸の太さは、用途、締め付け圧の設定により異なるが、耐久性と透明性を両立させるためには、一般に8〜155デシテックス程度であればよい。
【0035】
これまで、酸性染料、酸性媒染染料または金属錯塩酸性染料により染色されたポリアミド繊維と0.3〜6.0重量%の着色剤を含有させた原着ポリ乳酸繊維から少なくとも構成された布帛について説明してきた。それを用いて、一般衣料品を中心に他にも資材用途にも適用することができる。なかでも皮膚に近い衣料やスポーツ用途など高い耐摩耗性や耐久性が要求される衣料に最適である。それを用いた具体的な衣料品について好ましい態様を挙げる。
【0036】
すなわち、ポリアミド繊維が有する耐摩耗性、低ヤング率に由来する風合いの柔らかさ、優れた吸湿性などの特徴から肌に近い衣料として好ましく用いられる。この際、体のラインに沿った衣服とするために、編構造を工夫したり、縫製を工夫したりするほかに、布帛中に弾性繊維を用いてストレッチ特性を持たせることが好ましく行われる。たとえば、弾性繊維を用いて交編としたり、カバリング糸の芯糸として用いることができる。弾性繊維を含む布帛を分散染料で染めた場合、糸落ちや汚染のトラブルを生じやすいため還元洗浄を別に行う必要があり、ポリ乳酸繊維の強度低下を引き起こしてしまう。本発明の布帛においては少なくとも原着ポリ乳酸繊維、ポリアミド、弾性繊維からなる布帛に対して、ポリアミドを酸性染料、酸性媒染染料または金属錯塩酸性染料にて染めたものであり、洗濯時の堅牢性、耐久性において優れている。なお、本発明の布帛においては弾性繊維には実質的にポリ乳酸繊維に含まれる着色剤が含まれない。
【0037】
本発明の第2発明はレッグ部が(A)酸性染料、酸性媒染染料または金属錯塩酸性染料により染色されたポリアミド繊維から少なくとも構成され、パンティー部が(B)原着ポリ乳酸繊維全体の0.3〜6重量%の着色剤を含有させた原着ポリ乳酸繊維から少なくとも構成されたことを特徴とするパンティーストッキングである。
【0038】
すなわち、透明性やフィット性、柔らかな風合いを重視されるいわゆる薄手のパンティーストッキングにおいても保温性や同じく風合いの柔らかさを要求されるいわゆるタイツにおいてもレッグ部については、ポリアミド繊維を用いることが好ましい。これはポリ乳酸繊維と比較してポリアミド繊維が有する強度と耐摩耗性の高さ、熱セット性、ヤング率の低さに由来する風合いの柔らかさ、捲縮特性の良さ、優れた吸湿性によるものである。
【0039】
一方、パンティー部はレッグ部に比べて上記要求特性は高くない。いわゆる薄手のパンティーストッキングにおいてもパンティー部は比較的繊度が太い糸を使いやすく必要な強度は繊度を太くしたり、編密度を上げることにより対応できる。また透明性や保温性に対する要求も外衣から露出しているレッグ部に比べて外衣に隠れているために低く、強度を維持するために繊度を太く設計したり、ポリアミド繊維に比べて捲縮特性の劣るポリ乳酸繊維をパンティー部に用いても製品特性を維持できる。さらに原着ポリ乳酸繊維により構成されたパンティー部と酸性染料、酸性媒染染料または金属錯塩酸性染料により染色されたポリアミド繊維により構成されたレッグ部との間に若干の色差があったとしてもパンティー部は外衣に隠れているため許容されやすい。
【0040】
パンティーストッキングは一般的にウエスト部分からつま先部分まで靴下編み機で筒編みを2本編成し、2本のパンティー部を縫製することで製造される。したがって、本発明の示すとおり、原着ポリ乳酸をパンティー部に用いることにより、レッグ部のポリアミド繊維の堅牢性も維持することができる。
【0041】
ここで、レッグ部は酸性染料、酸性媒染染料または金属錯塩酸性染料により染色されたポリアミド繊維から少なくとも構成されるのであるが、ポリアミド繊維だけで構成されていてもよく、さらに例えばカバリング糸の芯糸として弾性繊維が用いられることも好ましく行われる。また、刺繍やボス糸として先染めのポリエステル繊維が用いられても問題ない。
【0042】
一方、パンティー部は原着ポリ乳酸繊維全体の1〜6重量%の着色剤を含有させた原着ポリ乳酸繊維から少なくとも構成されるのであり、ポリ乳酸繊維だけにより構成されていても問題ない。しかし、ポリ乳酸繊維の仮撚糸によっても伸縮性は乏しいため、フィット性を高めるために弾性繊維が好ましく用いられる。さらに整形を目的として着圧の高いパンティー部とする場合、パンティー部の破裂強さを高めるためや耐久性維持のためにポリアミド繊維を一部に用いることも好ましく行われる。さらにマチ部において綿編地が用いられることはあるが、予め綿編地が晒し工程を含む染色工程を経られていれば問題なく縫製により他の部分と縫い合わせて使用することができる。
【0043】
ここで、レッグ部とは、大腿部からつま先までを指し、パンティー部とは、ガーター部からウエストまでを指す、マチ部とは股間部の縫い方を変えて伸び縮みに対応してフィット性を改善しているいわゆる「ダイヤマチ」を意味する。
【0044】
一般にいわゆる薄手のパンティーストッキングにおいては、ポリアミド繊維と弾性繊維から構成される場合でもレッグ部の糸とパンティー部の糸を切り替える場合が多い。この場合、レッグ部とパンティー部の色合わせが問題となり、一般にパンティー部の繊度やフィラメント数、白色顔料の添加率、編成方法、さらに染料選択や染料助剤により合わせる努力がなされているが、糸種や編み方が異なるため、一致することは困難であるのが現状である。
【0045】
一方、本発明において原着ポリ乳酸繊維をパンティー部に用いる場合、レッグ部の色に合わせて原着ポリ乳酸の色調を全て揃えるのは工業生産としては生産性が悪い。それは、レッグ部は肌の色や合わせる服装、着用するシチュエーションにより替えるためである。色のバリエーションとしては商品にもよるが黒色、ベージュ系数色、ブラウン系数色が一般的である。
【0046】
そのため、本発明の好ましい態様としてパンティー部の色がXYZ表色系において(X,Y,Z)=(1.0〜5.0、0.5〜5.0、1.0〜5.0)のブラック系、または(X,Y,Z)=(13.0〜20.0、10.0〜18.0、5.0〜11.0)のブラウン系、または(X,Y,Z)=(20.0〜30.0、18.0〜25.0、8.0〜18.0)のベージュ系のいずれかとするものである。
【0047】
すなわち、レッグ部の色はバラエティーに富んでおり、色調の好みは千差万別であるが、基本的にはベージュ系、ブラウン系、ブラック系となっており、原着ポリ乳酸繊維の色をコントロールしてパンティー部の色を上記範囲内にすることで、レッグ部との色差が小さくなり、商品価値として著しく低下させることはない。一方、原着ポリ乳酸繊維の色を3色に限定できるために生産量をまとめることができ、さらに色の切り替えが少なくなることから編成までの品種を絞り込むことができ、効率的で工業生産可能な生産が可能となる。
【0048】
パンティー部の色とはガーター部の上部において柄などの影響が入りにくい部分を抽出し、4点の平均を取ったものである。測定範囲内にポリ乳酸繊維以外の繊維が含まれていたとしても問題ない。
【0049】
ここで、パンティー部の色をXYZ表色系において(X,Y,Z)=(1.0〜5.0、0.5〜5.0、1.0〜5.0)のブラック系、または(X,Y,Z)=(13.0〜20.0、10.0〜18.0、5.0〜11.0)のブラウン系、または(X,Y,Z)=(20.0〜30.0、18.0〜25.0、8.0〜18.0)のベージュ系から外れた場合、レッグ部に合わせることができる色が限定され、顧客の好みから外れてしまうこと、さらに他のインナーウェアやアウターウェアとの間で色の差が顕著となってアウターウェアに響いてしまうため好ましくない。
【0050】
本発明の対象とするストッキングとは、パンティーストッキング、ロングストッキング、ショートストッキングで代表されるストッキング製品が挙げられる。
【0051】
また、編機として、通常の靴下編み機を用いることができ、制限はなく、2口あるいは4口給糸の編機を用い、供給糸として、生糸、加工糸、カバリング糸などを供給して編成するという通常の方法で編成すればよい。編機の針本数としては限定されず、使用する糸の繊度に合わせて選択すればよいが、おおむね320〜474本が用いられる。
【0052】
さらに編成後の染色については、常圧下にて酸性染料、酸性媒染染料または金属錯塩酸性染料によりポリアミド繊維を染色すること以外は、制限されず、それに続く後加工、ファイナルセット条件についても公知の方法にしたがい行えばよく、限定されるものではない。
【0053】
本発明の第3発明は、少なくとも以下の3種類の繊維から構成されている布帛を用いたインナーウェアのうち、原着ポリ乳酸繊維を使用している部分の色がXYZ表色系において(X,Y,Z)=(1.0〜5.0、0.5〜5.0、1.0〜5.0)のブラック系、または(X,Y,Z)=(13.0〜20.0、10.0〜18.0、5.0〜11.0)のブラウン系、または(X,Y,Z)=(20.0〜30.0、18.0〜25.0、8.0〜18.0)のベージュ系のいずれかであることを特徴とするインナーウェアである。
(A)酸性染料、酸性媒染染料または金属錯塩酸性染料により染色されたポリアミド繊維
(B)原着ポリ乳酸繊維全体の0.3〜6.0重量%の着色剤を含有させた原着ポリ乳酸繊維
(C)弾性繊維。
【0054】
すなわち、前述のとおりインナーウェアに関しても上記色の範囲とすることで、原着ポリ乳酸の色を3色に限定できるために生産量をまとめることができ、さらに色の切り替えが少なくなることから、少なくとも編成工程までの品種を絞り込むことができ、効率的な工業生産が可能となる。
【0055】
インナーウェアにおいては、酸性染料、酸性媒染染料または金属錯塩酸性染料料により染色されたポリアミド繊維、原着ポリ乳酸繊維全体の0.3〜6.0重量%の着色剤を含有させた原着ポリ乳酸繊維に加え、弾性繊維から少なくとも構成されている必要がある。これはストッキングに比べてインナーウェアは縫製による切り替えがデザインとして可能であり、ポリ乳酸繊維だけを用いることも可能であるが、弾性繊維を一部に用いているインナーウェアについては耐摩耗性や耐久性を考慮するとポリアミドとの混用とする必要があり、本発明の効果が発現しやすいからである。3種類の繊維の使われ方は限定されるものではなく、交編、表糸、裏糸、結節糸などの編成時だけでなく、カバリングや合糸、撚糸、紡績糸などによっても使用することができる。
【0056】
インナーウェアにおいて原着ポリ乳酸繊維を使用している部分の色とは、原着ポリ乳酸繊維が表面に現れている領域において柄などの影響が入りにくい部分を抽出し、4点の平均を取ったものである。測定範囲内にポリ乳酸繊維以外の繊維が含まれていたとしても問題ない。
【0057】
ここで、原着ポリ乳酸繊維を使用している部分の色がXYZ表色系において(X,Y,Z)=(1.0〜5.0、0.5〜5.0、1.0〜5.0)のブラック系、または(X,Y,Z)=(13.0〜20.0、10.0〜18.0、5.0〜11.0)のブラウン系、または(X,Y,Z)=(20.0〜30.0、18.0〜25.0、8.0〜18.0)のベージュ系から外れた場合、顧客の好みから外れてしまうこと、さらに他のインナーウェアやアウターウェアとの間で色の差が顕著となってアウターに響いてしまうため好ましくない。
【0058】
本発明の対象とするインナーウェアとは、補正機能を有し、ブラジャー、ガードル、ボディスーツなどのファンデーションやラインを美しく仕上げるためのスリップ、キャミソール、ペチコートなどのランジェリー、季節に合わせた素材使いで、暑さや寒さからカラダを保護するショーツ、シャツ、ボトムなどのインナーウェアが該当する。
【0059】
本発明のインナーウェアに用いる編組織としては、緯編、経編に限定されないが、中でも緯編が伸縮性に優れていることから好ましく、平編、ゴム編、パール編およびこれらの変化編組織により作られたものが挙げられる。
【0060】
本発明の第4発明はポリアミド繊維と原着ポリ乳酸繊維全体の0.3〜6重量%の着色剤を含有させた原着ポリ乳酸繊維から少なくとも構成された布帛を常圧下にて酸性染料、酸性媒染染料または金属錯塩酸性染料により染色するものである。
【0061】
すなわち、常圧下で染色すること、さらに好ましくは染色温度100℃以下で染色することによりポリ乳酸繊維の強度劣化を抑制でき、ポリアミドを酸性染料、酸性媒染染料または金属錯塩酸性染料により染色することによりポリ乳酸、さらに布帛によっては弾性繊維への汚染を防ぎながら、ポリアミド繊維を自由に染色することが可能となる。
【0062】
ポリアミド繊維の色選択は限定されず、原着ポリ乳酸繊維と同系色として色を合わせたり、または色を変えて例えばメランジ調としたり、切り替えを強調することができる。
ここで染色時に用いられる染色助剤や染色機については限定されず、既存の薬剤、装置を用いることができる。また、後加工についても同様に公知の方法を選択することができる。
【0063】
布帛の染色方法は上記条件を満足する限り、常法によって行うことができる。 また、布帛を構成する繊維として上記以外の繊維が入っていることは、問題なく、それが先染めされていてもいなくても問題ない。しかしながら、染まっていない繊維が広い面積を占めることは意匠上好ましくないため、弾性繊維のように重量として概ね10%以下で用いる場合や先染めした繊維を用いた場合、常圧下にて酸性染料、酸性媒染染料または金属錯塩酸性染料により染色される繊維を用いることが好ましい。
【実施例】
【0064】
以下、実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明する。
なお、実施例および比較例における各測定値は、次の方法で得たものである。
【0065】
A.測色
日本電色工業株式会社製“COLOR MEASURING SYSTEM Σ80”を用い、測定条件としてはOPTICAL:Z−SENSOR、MEASUREMENT:REFLECTION、CONNECTOR:CN5、AVERAGE:DISABLE、TARGET:DISABLE、WHITE STD.:Y=93.52、X=91.58、Z=109.80にて測定した。
【0066】
パンティーストッキングのパンティー部の測定では、ガーター部より上方2cmの部分を置き寸状態で前後2カ所づつ、合計4カ所において測定部以外の布帛を折りたたんで、さらに黒色板で押さえて透過しない状態で測定し、平均値を測定値とした。
インナーウェアの測定では、キャミソールの裾から10cm上方部分を置き寸状態で前後2カ所づつ、合計4カ所おいて測定部以外の布帛を折りたたんで、さらに黒色板で押さえて透過しない状態で測定し、平均値を測定値とした。
【0067】
B.強度・伸度測定
JIS L1013−1992 7.5引張強さ及び伸び率に従って測定を行った。試験条件としては、試験機の種類としては定速緊張形、つかみ間隔50cmにて行った。
【0068】
C.ポリ乳酸の重量平均分子量(Mw)
ポリ乳酸のクロロホルム溶液にテトラヒドロフランを混合し測定溶液とした。これをゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、ポリスチレン換算でMwを求めた。
【0069】
D.沸騰水収縮率
沸騰水収縮率は、次の式で求められる。
沸騰水収縮率(%)=[(L0−L1)/L0]]×100(%)
(但し式中、L0は延伸糸をかせ取りし初荷重0.09cN/dtex下で測定したかせの原長であり、L1はL0を測定したかせを実質的に荷重フリーの状態で沸騰水中で15分間処理し、風乾後初荷重0.09cN/dtex下でのかせ長である。)。
【0070】
E.仮撚加工糸の捲縮保持率(CR値)
仮撚加工糸をかせ取りし、実質的に荷重フリーの状態で沸騰水中15分間処理し、24時間風乾した。このサンプルに0.088cN/dtex(0.1gf/d)相当の荷重をかけ水中に浸漬し、2分後のかせ長L’0を測定した。次に、水中で0.0088cN/dtex相当のかせを除き0.0018cN/dtex(2mgf/d)相当の微荷重に交換し、2分後のかせ長L’1を測定した。そして下式によりCR値を計算した。
CR(%)=[(L’0−L’1)/L’0]×100(%)。
【0071】
F.湿摩擦堅牢度
JIS L 0849:2004 7.2湿潤試験に従い評価した。評価場所としてタイツのパンティー部(P部)、レッグ部(R部)とインナーウェアの表糸主体に構成されたポリ乳酸側(L側)、裏糸主体に構成されたナイロン側(N側)をそれぞれ評価した。
【0072】
[参考例1](原着ポリ乳酸繊維の製造)
ポリ乳酸ポリマー(NatureWorks社製 Polylactide Resin 品番6201D、Mwが14.5万)に着色剤としてカーボンブラック(大日本インキ化学工業株式会社“スパンダイPLR”シリーズ品番FC121)10重量%練り込んだマスターチップを準備し、上記ポリ乳酸ポリマーチップとマスターチップをそれぞれ85:15の割合で計量し、日本油脂製のエチレンビスステアリン酸アミド(“アロフロ−H−50S”)粉末をこれらポリマー重量に対して0.75重量%ブレンドした上で、220℃で溶融・混練した後、さらにスタティックミキサーで更に混合した後、孔径0.2mm丸型の吐出孔を有する紡糸口金から吐出し、一方向からの冷却風によって冷却し、脂肪酸エステルを主体とする繊維用油剤を、0.6重量%塗布する給油を行い、交絡を付与したのち、第1引取ローラー(非加熱ローラー)に紡糸速度4500m/minで引取り、引き続き、第2引取ローラー(非加熱ローラー)を介して、巻き取り、68デシテックス40フィラメントの黒原着ポリ乳酸未延伸糸の7.5kg巻きチーズ状パッケージを得た。得られた黒原着ポリ乳酸未延伸糸は、ポリ乳酸繊維全体の1.5重量%の着色剤を含み、強度2.5cN/dtex、伸度45%、沸騰水収縮率21%であった。
【0073】
ついで、得られた黒原着ポリ乳酸未延伸糸を用いて延伸摩擦仮撚装置にて延伸仮撚加工を行った。延伸倍率1.18倍、ヒーター温度130℃(接触ヒーター1.5m)、ウレタン製3軸ディスク仮撚装置(D/Y比1.5)、仮撚加工速度300m/minの条件にて加工し、56デシテックス40フィラメントの黒原着ポリ乳酸仮撚糸を得た。得られた黒原着ポリ乳酸仮撚糸の強度2.0cN/dtex、伸度18%、沸騰水収縮率19%、CR値18%であった。
【0074】
[参考例2](原着ポリ乳酸繊維の製造)
以下の点を除き、参考例1と同様にしてポリ乳酸仮撚糸を得た。着色剤としてペリレンレッド(大日本インキ化学工業株式会社“スパンダイPLR”シリーズ品番FC222)1重量%、アンスラキノンイエロー(大日本インキ化学工業株式会社“スパンダイPLR”シリーズ品番FC422)3重量%、カーボンブラック(参考例1と同じ)5重量%を練り込んだマスターチップを用意した。ポリ乳酸ポリマーチップとマスターチップをそれぞれ95:5の割合で計量し、用いた。同様な紡糸工程を経て68デシテックス40フィラメントのブラウン原着ポリ乳酸未延伸糸の7.5kg巻きチーズ状パッケージを得た。得られたブラウン原着ポリ乳酸未延伸糸は、ポリ乳酸繊維全体の0.45重量%の着色剤を含み、強度2.5cN/dtex、伸度45%、沸騰水収縮率21%であった。
【0075】
参考例1と同様に延伸仮撚加工を行い、56デシテックス40フィラメントのブラウン原着ポリ乳酸仮撚糸を得た。得られたブラウン原着ポリ乳酸仮撚糸の強度2.0cN/dtex、伸度18%、沸騰水収縮率19%、CR値18%であった。
【0076】
[参考例3](原着ポリ乳酸繊維の製造)
以下の点を除き、参考例1と同様にしてポリ乳酸仮撚糸を得た。着色剤としてペリレンレッド(参考例2と同じ)0.8重量%、アンスラキノンイエロー(参考例2と同じ)3.0重量%、カーボンブラック(参考例1と同じ)3.0重量%を練り込んだマスターチップを用意した。ポリ乳酸ポリマーチップとマスターチップをそれぞれ95:5の割合で計量し、用いた。同様な紡糸工程を経て68デシテックス40フィラメントのベージュ原着ポリ乳酸未延伸糸の7.5kg巻きチーズ状パッケージを得た。得られたベージュ原着ポリ乳酸未延伸糸は、ポリ乳酸繊維全体の0.34重量%の着色剤を含み、強度2.5cN/dtex、伸度45%、沸騰水収縮率21%であった。
【0077】
参考例1と同様に延伸仮撚加工を行い、56デシテックス40フィラメントのブラウン原着ポリ乳酸仮撚糸を得た。得られたブラウン原着ポリ乳酸仮撚糸の強度2.0cN/dtex、伸度18%、沸騰水収縮率19%、CR値18%であった。
【0078】
[参考例4](ポリ乳酸繊維の製造)
マスターチップを用いなかった以外は参考例1と同様にして、紡糸を行い、68デシテックス40フィラメントのポリ乳酸未延伸糸の7.5kg巻きチーズ状パッケージを得た。得られたポリ乳酸未延伸糸の強度2.8cN/dtex、伸度52%、沸騰水収縮率22%、U%(half)0.8%、沸騰水収縮率22%であった。
【0079】
ついで、参考例1と同様に延伸仮撚加工を行い、56デシテックス40フィラメントのポリ乳酸仮撚糸を得た。得られたポリ乳酸仮撚糸の強度2.5cN/dtex、伸度22%、沸騰水収縮率19%、CR値20%であった。
【0080】
得られた仮撚糸をソフトチーズ巻した上でチーズ染を行った。染料として分散染料(ダイスタージャパン社製 Daianix Black SE−RN 300%、7%owf)、染色温度110℃×60分、染色助剤としてph調整剤をメーカー推奨量添加した。水洗後、乾燥させ、ポリ乳酸先染糸を得た。(強度2.0cN/dtex、伸度3.0%)。
【0081】
実施例1〜3、比較例1
上記各参考例1〜3にて得られた仮撚糸を被覆糸として、弾性糸としては“オペロン T−178C”20デシテックス(東レ・デュポン社製、ウレタン弾性糸)を用いて、ドラフト倍率2.9倍、カバリング撚数800T/mにてS撚、Z撚のカバリング糸を作成した。
【0082】
カバリング糸を用いて永田精機(株)製のスーパー4編機(針数400本)で、S方向シングルカバリング弾性糸とZ方向シングルカバリング弾性糸とを交互に編機の給糸口に供給し、パンティー部編地をカバリング弾性糸のみで編成した。なお、レッグ部は、同じ弾性糸に被覆糸としてナイロン66仮撚糸(56デシテックス40フィラメント)を上記同様の条件にてカバリングしたカバリング糸を用いてS撚、Z撚のカバリング糸が交互に編み込まれるように編成した。このようにして編成されたタイツを、常法どおり、精練・染色(98℃×20min)、柔軟剤付与、足型セット(スチームセット、110℃×60sec)してタイツを仕上げた。ただし、酢酸を用いてpHを5に調整した上で酸性染料を用い、実施例1〜3および比較例1として参考例1、2、3、4で得られた仮撚糸を各々用いたタイツを染色した。なお実施例1は黒色(三井東圧染料社製 Mitsui Nylon Black GL、4%owf)、実施例2はブラウン(いずれもSANDOZ社製 Nylosan Yellow E−RPL140 0.5%owf、Red E−G 0.5%owf、Blue EG−L 250% 0.5%owf)、実施例3はベージュ(いずれもSANDOZ社製 Nylosan Yellow E−RPL140 0.25%owf、Red E−G 0.27%owf、Blue EG−L 250% 0.10%owfに染色した。さらに比較例1を用いたタイツにおいては、高温高圧試験染色機(ミニカラー、テクサム技研株式会社製)を用いて分散染料(ダイスタージャパン社製 Daianix Black SE−RN 300%、7%owf)を用いて染色(110℃×60分)、湯洗している。なお、酸性染料は、ナイロン66糸の重量当たり計算し、分散染料は全繊維に入っていくことを考え、ポリ乳酸糸重量だけでなく、生地重量全体に対して計算している。
【0083】
仕上げたタイツについて、パンティー部の測色測定すると共にタイツを分解して得たポリ乳酸糸の分解糸強度とパンティー部(P部)とレッグ部(R部)の湿摩擦堅牢度について評価し、表1にまとめた。
【0084】
実施例1,2,3の糸を用いたタイツのパンティー部の色は、汎用的な色となっており、レッグ部をそれぞれブラック系、ブラウン系、ベージュ系に染める際に合わせやすい色となっていた。また、分解糸強度を比較すると比較例1の糸を用いたタイツと同等であると同時に実用耐久性として問題ないことを確認した。一方、湿摩擦堅牢度は実施例の糸を用いたタイツは、レッグ部、パンティー部とも合格レベルにあるのに対して、比較例1の糸を用いたタイツは特にレッグ部の堅牢度が不合格(合格レベル3級以上)であった。これは、染色に用いた分散染料によりナイロン66糸と弾性糸が汚染されたためであると推定する。
【0085】
実施例4、比較例2
また、表糸として参考例1にて得られた黒原着ポリ乳酸仮撚糸(56デシテックス40フィラメント)を、裏糸としてナイロン66仮撚糸(78デシテックス68フィラメント、酸化チタン添加量0.3%)、さらに中糸としてナイロン66仮撚糸(56デシテックス40フィラメント、酸化チタン添加量0.3%)をカバリング用鞘糸として、ポリウレタン弾性糸(東レ・デュポン(株)社製T−178C 20デシテックス)をカバリング糸の芯糸として用いたカバリング糸(ドラフト倍率2.9倍、カバリング撚数800T/m)を。給糸して、フライスリバーシブルをダブルニット(福原精機製作所製)を用いて編成(19ゲージ)した。
【0086】
上記フライスリバーシブルを通常の方法で精練した後、液流染色機を用いて酢酸を用いてpHを5に調整した上で、酸性染料(三井東圧染料社製 Nylon Black GL、4%owf)を用いて黒に染色した。ただし、酸性染料は、ナイロン66糸重量に対して計算した。得られた染色品は、180℃×60secの乾熱セットを行い、仕上げた。この布帛を用いて縫製を行い、インナーウェア(キャミソール)を得た。
【0087】
さらに上記フライスリバーシブルにおいて、表糸のみ参考例4にて得られたポリ乳酸仮撚糸を用いて同様にフライスリバーシブルを編成した。これを通常の方法で精練した後、液流染色機を用いて分散染料(ダイスタージャパン社製 Daianix Black SE−RN 300%、7%owf)を用いて染色(染色助剤としてph調整剤をメーカー推奨量添加)、湯洗している。得られた染色品は、180℃×60secの乾熱セットを行い、仕上げた。この布帛を用いて縫製を行い、インナーウェア(キャミソール)を得た。
【0088】
仕上げたインナーウェアについて、表糸としてのポリ乳酸側(L側)の測色測定を行うと共に、インナーウェアを分解して得たポリ乳酸糸の分解糸強度と表糸主体により構成されたポリ乳酸側(L側)と裏糸主体により構成されたナイロン側(N側)の湿摩擦堅牢度について評価し、表1にまとめた。
【0089】
参考例1の糸を用いたキャミソールの表糸主体により構成されたポリ乳酸側の色は、汎用的な黒色となっており、裏糸主体により構成されたナイロン側の色に合わせやすい色となっていた。また、分解糸強度を比較すると比較例1の糸を用いたキャミソールと同等であると同時に実用耐久性として問題ないことを確認した。一方、湿摩擦堅牢度は参考例1の糸を用いたキャミソールは、表糸主体により構成されたポリ乳酸側(L側)と裏糸主体により構成されたナイロン側(N側)とも合格レベルにあるのに対して、参考例4の糸を用いたキャミソールは特に裏糸主体により構成されたナイロン側(N側)の堅牢度が不合格(合格レベル3級以上)であった。これは、染色に用いた分散染料によりナイロン66糸と弾性糸が汚染されたためであると推定する。
【0090】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも以下の2種類の繊維から構成されることを特徴とする布帛。
(A)酸性染料、酸性媒染染料または金属錯塩酸性染料により染色されたポリアミド繊維(B)原着ポリ乳酸繊維全体の0.3〜6.0重量%の着色剤を含有させた原着ポリ乳酸繊維
【請求項2】
さらに(C)弾性繊維を含有することを特徴とする請求項1記載の布帛。
【請求項3】
レッグ部が(A)酸性染料、酸性媒染染料または金属錯塩酸性染料により染色されたポリアミド繊維から少なくとも構成され、パンティー部が(B)原着ポリ乳酸繊維全体の0.3〜6重量%の着色剤を含有させた原着ポリ乳酸繊維から少なくとも構成されることを特徴とするパンティーストッキング。
【請求項4】
パンティー部の色がXYZ表色系において(X,Y,Z)=(1.0〜5.0、0.5〜5.0、1.0〜5.0)のブラック系、または(X,Y,Z)=(13.0〜20.0、10.0〜18.0、5.0〜11.0)のブラウン系、または(X,Y,Z)=(20.0〜30.0、18.0〜25.0、8.0〜18.0)のベージュ系のいずれかであることを特徴とする請求項3記載のパンティーストッキング。
【請求項5】
少なくとも以下の3種類の繊維から構成される布帛を用いたインナーウェアのうち、原着ポリ乳酸繊維を使用している部分の色がXYZ表色系において(X,Y,Z)=(1.0〜5.0、0.5〜5.0、1.0〜5.0)のブラック系、または(X,Y,Z)=(13.0〜20.0、10.0〜18.0、5.0〜11.0)のブラウン系、または(X,Y,Z)=(20.0〜30.0、18.0〜25.0、8.0〜18.0)のベージュ系のいずれかであることを特徴とするインナーウェア。
(A)酸性染料、酸性媒染染料または金属錯塩酸性染料により染色されたポリアミド繊維
(B)原着ポリ乳酸繊維全体の0.3〜6.0重量%の着色剤を含有させた原着ポリ乳酸繊維
(C)弾性繊維
【請求項6】
ポリアミド繊維と原着ポリ乳酸繊維全体の0.3〜6重量%の着色剤を含有させた原着ポリ乳酸繊維から少なくとも構成された布帛を常圧下にて酸性染料、酸性媒染染料または金属錯塩酸性染料により染色することを特徴とする請求項1記載の布帛の製造方法。

【公開番号】特開2007−303005(P2007−303005A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−129803(P2006−129803)
【出願日】平成18年5月9日(2006.5.9)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】