説明

布帛およびその製造方法

【課題】ポリトリメチレンテレフタレート部分中空糸を含有した保温性、軽量性、反発感、耐引裂性に優れた織編物などの布帛を提供する。
【解決手段】先端部を有する芯鞘型複合繊維の該先端部から芯成分の一部を溶出して得たポリトリメチレンテレフタレート部分中空繊維を含有するポリトリメチレンテレフタレート部分中空糸からなる布帛であって、該ポリトリメチレンテレフタレート部分中空糸が以下の(1)〜(3)の要件を満足することを特徴とする布帛。
(1)平均中空度が20%以上85%以下
(2)中空部分の中空率が30%以上85%以下
(3)単繊維の捲縮数が5山/cm以上

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリトリメチレンテレフタレート部分中空糸を用いた保温性、軽量性、反発感、耐引裂性に優れた布帛(特に、織物または編物)およびその製造方法に関するものである。さらに詳しくは、部分的に大きな中空部を有しながら捲縮を有し、かつ撚糸状態でも中空部を維持する布帛およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
合成繊維の一つであるポリエステル繊維は、最も優れた汎用性繊維として、婦人衣料、スポーツ衣料、資材用途等、様々な用途に用いられている。
【0003】
しかしながら、ポリエステル繊維は元来その表面と内部構造が均一かつ単純であることから、単なる丸断面フィラメント糸では冷たい触感であり、冬季の衣料としての暖かさや保温性が不十分という欠点がある。これらの問題を解決すべく、繊維内部に中空層を持つ中空繊維により軽量性、保温性といった機能を高める技術が提案されている。
【0004】
ところが、これらの中空繊維は通常の溶融紡糸により製造されるため、紡糸口金の形状、ポリマー粘度などの工夫をしても中空率を高くすることには限界があり、しかも、ポリマ自体のモジュラスが低いことから、仮撚加工や、撚糸等の後加工工程において中空部が潰れ易いといった問題が発生していた。そして、これらの問題を改善するために単繊維を太繊度とすることが考えられるが、その場合は布帛の風合いが粗硬なものとなってしまうという問題を有する。
【0005】
また、ポリエステルやポリアミドで形成された鞘部と鞘部よりも溶解性または分解性の大きいポリマーで構成された芯部からなる複合糸を用い、仮撚加工のような物理的手段あるいは、膨潤処理等の化学的手段により鞘部に亀裂(クラック)を発生させた後、選択的に芯部を除去する提案がなされている(例えば、特許文献1〜3参照)。しかしながら、これらの提案はいずれも鞘部に亀裂を有するものであるため生地の引裂耐久性に乏しいといった問題を有していた。
【0006】
一方、吸水率が3%以上の耐アルカリ性のポリマーを鞘成分とし、特定範囲のアルカリ溶解速度を有するポリエステルを芯成分とした複合糸を作成し、アルカリ水溶液で芯成分を溶出する中空繊維の製造方法が提案されている(例えば、特許文献4参照)。この方法では確かに高中空糸を得ることは可能であるが、実際の生産においては溶出時間にかなりの時間を要し、コストアップに繋がっている。そのため、芯成分を溶出速度の速い、例えばイソフタル酸、アルキレングリコール、スルホイソフタル酸アルカリ金属塩等を共重合したポリエステルを用いることにより溶出時間を短縮させているがまだ不十分であり、生産化するまでには至っていない。
【0007】
さらに、中空繊維からなる仮撚加工糸が提案されているが(例えば、特許文献5参照)、製糸段階で中空部を有する糸を仮撚加工するため、仮撚加工時の加熱、加撚変形により中空部分が潰れ、中空率のばらつきを生じるものであった。
【0008】
一方、近年では脂肪族ポリエステル等、様々なプラスチックや繊維の研究・開発が活発化している。その中でも微生物により分解されるプラスチック、すなわち、生分解性プラスチックを用いた繊維に注目が集まっている。中でも力学特性や耐熱性が比較的高く、製造コストの低い生分解性のプラスチックとして、でんぷんの発酵で得られる乳酸を原料としたポリ乳酸が脚光を浴びている。このポリ乳酸は、優れた製糸性、アルカリ原料速度が速いなどの特徴を持っているため、繊維としての商品開発も活発化してきている。ポリ乳酸を溶出成分として用いた複合繊維が提案されているが(例えば、特許文献6参照)、鞘部がポリアミドであるため、ハリ腰が不十分であり、反発感に優れた織編物を得ることができなかった。
【特許文献1】特公昭60−37203号公報
【特許文献2】特公昭60−40539号公報
【特許文献3】特開平9−59834号公報
【特許文献4】特開平7−278947号公報
【特許文献5】特開平8−260269号公報
【特許文献6】特開2006−28692号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、上記の従来技術の問題点を解決しようとするものであり、ポリトリメチレンテレフタレート部分中空糸を用いた保温性、軽量性、反発感、耐引裂性に優れた織編物等の布帛およびその製造方法を提供することにあり、さらには、部分的に大きな中空部を有しながら捲縮を有し、かつ撚糸状態でも中空部を維持する織編物等の布帛およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記本発明の目的は次の構成を採用することで達成できる。すなわち
[1]先端部を有する芯鞘型複合繊維の該先端部から芯成分の一部を溶出して得たポリトリメチレンテレフタレート部分中空繊維を含有するポリトリメチレンテレフタレート部分中空糸からなる布帛であって、該ポリトリメチレンテレフタレート部分中空糸が以下の(1)〜(3)の要件を満足することを特徴とする布帛。
(1)中空糸の平均中空度が20%以上85%以下
(2)単繊維の中空部分の中空率が30%以上85%以下
(3)単繊維の捲縮数が5山/cm以上
[2]前記ポリトリメチレンテレフタレート部分中空糸を重量比で30%以上含んでいることを特徴とする前記[1]に記載の布帛。
【0011】
[3]前記芯成分がポリ乳酸であることを特徴とする前記[1]または[2]に記載の布帛。
【0012】
[4]鞘成分がポリトリメチレンテレフタレートであり、捲縮数が5山/cm以上の芯鞘型複合繊維を少なくとも一部に有する糸を用いて布帛を構成した後、該芯鞘型複合繊維に先端部を形成し、アルカリ性水溶液を用いて60〜120℃で加熱処理することによって先端部から芯成分を溶出し、該芯鞘型複合繊維の一部を中空化することを特徴とする布帛の製造方法。
【0013】
[5]芯成分がポリ乳酸であることを特徴とする前記[4]に記載の布帛の製造方法。
【0014】
[6]芯鞘型複合繊維に先端部を形成する手段が起毛加工であることを特徴とする前記[4]または前記[5]に記載の布帛の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ポリトリメチレンテレフタレート部分中空糸を含有した保温性、軽量性、反発感、耐引裂性に優れた織編物などの布帛を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に本発明をさらに詳細に説明する。
【0017】
まず、本発明の布帛は、布帛の少なくとも一部に、芯鞘型複合繊維の先端部から芯成分の一部を溶出して得たポリトリメチレンテレフタレート部分中空繊維を含有するポリトリメチレンテレフタレート部分中空糸を有し、以下の(1)〜(3)の要件を満足するポリトリメチレンテレフタレート部分中空糸が含有されていることが重要である。
(1)中空糸の平均中空度が20%以上85%以下。
(2)単繊維の中空部分の中空率が30%以上85%以下。
(3)単繊維の捲縮数が5山/cm以上。
【0018】
本発明におけるポリトリメチレンテレフタレート部分中空繊維とは、先端部を有した芯鞘型複合繊維のその先端部から芯成分の一部を溶出し、部分的に中空部を有する糸条のことである。すなわち、繊維の長手方向にみたときの繊維の先端部付近は中空構造を有し、繊維の先端部から遠ざかる部分は非中空部(中実部)を有する部分中空繊維である。
【0019】
また、本発明におけるポリトリメチレンテレフタレート部分中空糸とは、上記ポリトリメチレンテレフタレート部分中空繊維を少なくとも含む糸であり、具体的にはマルチフィラメント糸が好ましい。
【0020】
本発明におけるポリトリメチレンテレフタレート部分中空糸は、このポリトリメチレンテレフタレート部分中空繊維を含有していることが必要であり、その含有量は平均中空度として20%以上85%以下であることが、軽量感、保温性と耐引裂性を両立するために重要である。平均中空度が20%未満であると軽量感、保温性を得ることができず、85%を越えると耐引裂性を満足することができにくくなる。なお、本発明における平均中空度は、後述の実施例に記載した測定方法によって測定された値をいう。
【0021】
なお、本発明においては、先端部から芯成分の一部を溶出して、部分的に中空部を有する繊維はポリトリメチレンテレフタレート繊維であることが重要である。ポリトリメチレンテレフタレート糸に先端部を付与する際には糸に外力が付与される。すなわち、外力によってポリトリメチレンテレフタレート部分中空糸を構成する繊維の一部を切断する。ポリトリメチレンテレフタレート繊維は柔軟性とともに繊維長手方向での伸長回復性に優れるため複合界面で歪みエネルギーを蓄えにくいという特性を持つので先端断面に傷がつきにくく、また芯部溶解の際のアルカリ減量の際にもクラックが発生せず、高い耐引裂性を得ることができる。
【0022】
さらに、軽量性を達成するためにはポリトリメチレンテレフタレート部分中空糸を構成するポリトリメチレンテレフタレート部分中空繊維の中空率が30%以上であることが重要である。一方、85%を超えると、糸の強度が低く、織編物の耐引裂性が実用上問題となるレベルになるため好ましくなく、85%以下とするものである。さらに好ましくは40%〜75%である。なお、中空率とはポリトリメチレンテレフタレート部分中空繊維の中空部分の中空率のことであり、後述の実施例に記載した測定方法によって測定された値をいう。
【0023】
また、ポリトリメチレンテレフタレート部分中空糸を構成する繊維の捲縮のレベルはポリトリメチレンテレフタレート部分中空糸を単繊維に分解した際の単繊維の捲縮数が5山/cm以上であることが目的とする保温性、軽量性に優れた織編物を得るために重要である。しかし、40山/cm以上であると、捲縮が細かすぎて布帛の嵩高性が得られにくいことから、40山/cm未満であることが好ましい。なお、捲縮数とは後述の実施例に記載した測定方法によって測定された値をいう。
【0024】
本発明の布帛は上記ポリトリメチレンテレフタレート部分中空糸を含むものであるが、目的とする保温性、軽量性を得るためには織編物に、当該ポリトリメチレンテレフタレート部分中空糸が重量比で30%以上含まれていることが好ましい。ここで40%以上100%以下であると、さらに高い軽量性を得られるので好ましい。
【0025】
なお、本発明の布帛の形態としては、主として織物及び編物がある。
【0026】
次に、本発明の布帛の製造方法を述べつつ、本発明の布帛についてさらに説明する。
【0027】
まず、鞘成分がポリトリメチレンテレフタレートである芯鞘型複合繊維を、通常の方法に従い製造する。
【0028】
ここで、芯部と鞘部の複合割合は芯部が面積比で30〜85%であることが好ましい。芯成分が30%未満であると、芯成分を溶出した後でも中空率が低いために軽量性、保温性といった中空糸の特徴が不充分となる。また、芯成分が80%を超えると製糸性が不安定になるとともに、布帛とした後で中空部がつぶれやすくなり、保温性の効果が不充分となる。好ましくは芯部の割合は面積比で40〜75%である。
【0029】
鞘成分に用いるポリトリメチレンテレフタレートとしては、90モル%以上がトリメチレンテレフタレートの繰り返し単位からなるポリトリメチレンテレフタレートであり、テレフタル酸を主たる酸性分とし、1,3−プロパンジオールを主たるグリコール成分として得られるポリエステルを用いることができる。
【0030】
また、この芯鞘型複合繊維の芯部を形成するポリマーはポリトリメチレンテレフタレートと溶解性の異なるポリマーであればよいが、アルカリ原料速度が速いポリマーが好ましい。具体的には、好ましくは脂肪族ポリエステルなどを用いることができる。脂肪族ポリエステルとしては、例えば、ポリ乳酸、ポリヒドロキシブチレート、ポリブチレンサクシネート、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン等が挙げられが、このうち、耐熱性、耐摩耗性及び製造コストの面からポリ乳酸が好ましい。
【0031】
また、脂肪族ポリエステルの性質を損なわない範囲で、主成分以外の成分を共重合していてもよい。ポリ乳酸を用いる場合、バイオマス利用、生分解性の観点から、ポリ乳酸中の乳酸モノマー比率は50重量%以上とすることが好ましい。乳酸モノマーは好ましくは75重量%以上、より好ましくは96重量%以上である。乳酸モノマーとしてはL−乳酸が好ましい。また、ポリ乳酸以外の熱可塑性重合体をブレンドしたりしてもよい。
【0032】
脂肪族ポリエステルには、さらに改質剤として、粒子、難燃剤、帯電防止剤、抗酸化剤や紫外線吸収剤等の添加物を含有していてもよい。また、分子量は繊維を形成するに十分な分子量があればよいが、例えばポリ乳酸の場合、分子量は、重量平均分子量で5万〜35万であると、力学特性と成形性のバランスがよく好ましく、10万〜25万であると、より好ましい。
【0033】
なお、本発明に用いるポリ乳酸の製造方法は、通常の方法を用いることができ、特に限定されない。具体的には、特開平6−65360号公報に開示されている方法が挙げられる。すなわち、乳酸を有機溶媒及び触媒の存在下、そのまま脱水縮合する直接脱水縮合法である。また、特開平7−173266号公報に開示されている少なくとも2種類のホモポリマーを重合触媒の存在下、共重合並びにエステル交換反応させる方法である。さらには、米国特許第2,703,316号明細書に開示されている方法がある。すなわち、乳酸を一旦脱水し、環状二量体とした後に、開環重合する間接重合法である。
【0034】
ここで、ポリトリメチレンテレフタレートを鞘成分とする芯鞘型複合繊維には目的に応じて艶消し剤、難燃剤、帯電防止剤、抗酸化剤や紫外線吸収剤等の添加物を含有していてもよい。
【0035】
なお、ポリトリメチレンテレフタレートを鞘成分とする芯鞘型複合繊維の単繊維繊度は1〜5dtexとすることが好ましい。単繊維繊度が0.5dtex未満であると、単繊維1本1本の精度が低下するため品質問題を起こしやすく、一方、単繊維繊度5より大きくなるとソフト感のある布帛が得られにくくなる。より好ましい単繊維繊度は、0.8〜4dtexである。
【0036】
次に、ポリトリメチレンテレフタレートを鞘成分とする芯鞘型複合繊維を用いて糸を形成する。糸は、トータル繊度が50〜350dtexのマルチフィラメント糸とすることが好ましい。トータル繊度が33dtex未満であると織物とした場合に強力低下の品質問題を起こしやすく、一方、トータル繊度が350dtexを超えると織物の風合いがかたくなりすぎ好ましくない。より好ましいトータル繊度は、60〜200dtexである。
【0037】
なお、ポリトリメチレンテレフタレートを鞘成分とする芯鞘型複合繊維は他の繊維と混繊や、撚糸などをして用いてもなんら問題がなく使用できる。
【0038】
上記のようにして得られたポリトリメチレンテレフタレートからなる芯鞘型複合繊維を含む糸に捲縮加工して使用する。
【0039】
ここで、単繊維の捲縮数が5山/cm以上の捲縮加工を施して使用するものであり、捲縮の付与方法として、仮撚加工や押し込みあるいはギヤによる賦型加工、さらにニットデニット法等が採用されるが、仮撚加工が最も捲縮が容易に付与できるため好ましい。
【0040】
また、本発明ではポリトリメチレンテレフタレートからなる芯鞘型複合繊維を含む糸に捲縮加工を施して織編物とする際、工程通過性を容易にするためと、得られる織編物の風合いを調整するために、ポリトリメチレンテレフタレートからなる芯鞘型複合繊維を含む糸に実撚を施しても良い。撚糸方法としてはダウンツイスター、アップツイスター、ダブルツイスターによる施撚の他、イタリー式撚糸機等も採用できる。
【0041】
こうして得られた該糸を少なくとも一部に用いて布帛を構成する。布帛の形態としては織物または編物が採用でき、その構成方法としても公知の製織、編成方法が採用でき、織組織や編組織は特に限定されない。なお、布帛を構成するにあたっては、最終的にポリトリメチレンテレフタレート部分中空糸が重量比で30%以上含まれるようにすることが好ましい。
【0042】
そして、布帛を構成した後、先端部を形成させる。先端部を形成するための方法としては、サンディング起毛加工が好ましい。どのくらい起毛するかは、サンドペーパーの粒度に大きく依存される。本加工のおけるサンドペーパーの粒度は、軽量感、保温性と耐引裂性を両立させる面から#40〜#2000の範囲が好ましい。特に好ましい範囲は#150〜#800である。
【0043】
その後、前述の芯部を構成している溶解成分をアルカリ性水溶液を用いて60〜120℃で加熱処理することによって先端部から一部溶出し、該芯鞘型複合繊維を部分的に中空化する。すなわち、起毛加工によってポリトリメチレンテレフタレートからなる芯鞘型複合繊維の一部を切断して先端部を形成し、そこから、芯成分の一部を溶出除去することによって、部分中空繊維を得る。
【0044】
芯成分の溶出処理は好ましくは10〜100g/l、さらに好ましくは20〜80g/lのアルカリ溶液中でおこなう。アルカリ溶液は通常、水酸化ナトリウム溶液を用い、60〜120℃の温度で処理する。100℃以下の場合は常圧下でバッチ式の処理槽にて布帛を攪拌・流動させながら処理し、100℃を超える場合は加圧下で同様に処理を行う。平均中空度を20〜85%にするためには処理時間は最低30分は必要である。また5時間以上の処理を実施すると鞘部にクラックを発生しやすくなるので好ましくない。
【0045】
このように、織編物を構成した後に芯部を溶出処理して部分中空繊維とすることにより、糸加工、製織、編成などの工程で受ける外力による中空つぶれを防ぐことができる。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を実施例を用いて詳細に説明する。なお、実施例中の測定方法は以下の方法を用いた。
【0047】
A.平均中空度
糸(マルチフィラメント)断面の切片を作成して写真撮影し、該糸(マルチフィラメント)の中で中空部が発現しているフィラメントの百分率=中空部が発現しているフィラメント数/全フィラメント数、を計算し、この作業を任意のヶ所の断面で10回繰り返し、その平均を平均中空度(%)とした。
【0048】
B.中空率
糸(マルチフィラメント)断面の切片を作成して写真撮影して、中空部を有する単繊維の繊維断面積と中空部の断面積を測定し、繊維断面積と中空部断面積の和に対する中空部断面積の百分率で個々の単繊維の中空率を算出し、中空率(%)とした。
【0049】
C.捲縮数
布帛からマルチフィラメントを取り出し、単繊維に分解する。測定しやすい長さ(5cm程度)に切断し、切断した単繊維をガラス板上に置き、投影機でスクリーンに投影して1cm間の山と谷の数を読み、その合計を2分の1する。単繊維10本についての値を求め、その平均値(n=10)を算出した。
【0050】
D.引裂強力
JIS L 1096(1999年、確認2004年)に規定されている引裂き強さ(ペンジュラム法)に準拠する。
【0051】
実施例1
重量平均分子量16.5万、融点170℃、残留ラクチド量0.085重量%のポリL乳酸(光学純度97%L乳酸)に相溶化剤として(株)日清紡製ポリカルボジイミド“カルボジライト”HMV−8CAを1重量%添加、混合して芯成分とし、平均2次粒子径が0.4μmの酸化チタンを0.3重量%含有した極限粘度0.92のポリトレメチレンテレフタレートを鞘成分として、吐口孔直径0.25mm/孔深度0.75mmの同心円の芯鞘型複合用口金を用いて複合複合機にて芯鞘複合比(重量比)70/30で吐出し、さらに引き取り速度3000m/minで巻き取り、105dtex−36フィラメント(f)の芯鞘複合構造の延伸糸を得た。
【0052】
得られた複合フィラメントをピン仮撚機を使用して仮撚温度180℃、仮撚数3200(T/m)、仮撚加撚S方向で仮撚加工を行った。
【0053】
得られた仮撚加工糸を経糸に、緯糸にはポリエステルの通常仮撚加工糸110dtex−72フィラメントの糸を用いて、タテ密度180本/inch、ヨコ密度120本/inchのサテン織物を製織した。
【0054】
製織した織物を80℃でリラックス精練し、160℃で中間セットした後、針布起毛機により起毛加工を実施した。その後、15g/lの水酸化ナトリウム溶液中で浴比1:40、98℃、180分間処理をおこない、芯部の溶出処理を行った後160℃で仕上げセットした。得られた織物は軽量性に優れたものであった。 得られた織物を分解しマルチフィラメントを取り出し、包埋法により厚さ5ミクロンの糸断面切片を採取して断面写真を撮影して中空部分の形状を確認したところ、中空率は72.7%、平均中空度は53%、分解糸の捲縮数は19山/cmであった。
【0055】
また、得られた織物のヨコ方向の引裂強力を測定した結果、18.0Nと耐引裂性に優れた織物であった。
【0056】
実施例2
5−ナトリウムスルホイソフタル酸4.5モル%共重合した極限粘度[η]が0.56のポリエチレンテレフタレートを芯成分とし、平均2次粒子径が0.4μmの酸化チタンを0.3重量%含有した極限粘度0.92のポリトレメチレンテレフタレート(融点228℃)を鞘成分として、吐口孔直径0.25mm/孔深度0.75mmの同心円の芯鞘型複合用口金を用いて複合複合機にて芯鞘複合比(重量比)70/30で吐出し、さらに引き取り速度3000m/minで巻き取り、105dtex−36fの芯鞘複合構造の延伸糸を得た。
【0057】
得られた複合フィラメントをピン仮撚機を使用して仮撚温度180℃、仮撚数3200(T/m)、仮撚加撚S方向で仮撚加工を行った。
【0058】
得られた糸を経糸に、緯糸にはポリエステルの通常仮撚加工糸110dtex−72フィラメントの糸を用いて、タテ密度180本/inch、ヨコ密度120本/inchのサテン織物を製織した。
【0059】
製織した織物を80℃でリラックス精練し、160℃で中間セットした後、針布起毛機により起毛加工を実施した。その後、15g/lの水酸化ナトリウム溶液中で浴比1:40、98℃、180分間処理をおこない、芯部の溶出処理を行った後160℃で仕上げセットした。得られた織物は軽量性に優れたものであった。 得られた織物を分解しマルチフィラメントを取り出し、包埋法により厚さ5ミクロンの糸断面切片を採取して断面写真を撮影して中空部分の形状を確認したところ、中空率は71.5%、平均中空度は45%、分解糸の捲縮数は18山/cmであった。
【0060】
また、得られた織物のヨコ方向の引裂強力を測定した結果、16.0Nと耐引裂性に優れた織物であった。
【0061】
比較例1
実施例1の芯鞘複合比(重量比)20/80で吐出する以外は、実施例1と同様にして織物を得た。
【0062】
得られた織物の中空率は19.8%、平均中空度は48%、分解糸の捲縮数は21山/cmであり、軽量感に乏しいものであった。
【0063】
比較例2
実施例1の鞘成分を平均2次粒子径が0.4μmの酸化チタンを0.3重量%含有したポリエチレンテレフタレート(融点264℃)とする以外は実施例1と同様にして織物を得た。
【0064】
得られた織物は軽量性に優れたものであったが、また得られた織物のヨコ方向の引裂強力を測定した結果、8.3Nと引裂性に問題があった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端部を有する芯鞘型複合繊維の該先端部から芯成分の一部を溶出して得たポリトリメチレンテレフタレート部分中空繊維を含有するポリトリメチレンテレフタレート部分中空糸からなる布帛であって、該ポリトリメチレンテレフタレート部分中空糸が以下の(1)〜(3)の要件を満足することを特徴とする布帛。
(1)中空糸の平均中空度が20%以上85%以下
(2)単繊維の中空部分の中空率が30%以上85%以下
(3)単繊維の捲縮数が5山/cm以上
【請求項2】
前記ポリトリメチレンテレフタレート部分中空糸を重量比で30%以上含んでいることを特徴とする請求項1に記載の布帛。
【請求項3】
前記芯成分がポリ乳酸であることを特徴とする請求項1または2に記載の布帛。
【請求項4】
鞘成分がポリトリメチレンテレフタレートであり、捲縮数が5山/cm以上の芯鞘型複合繊維を少なくとも一部に有する糸を用いて布帛を構成した後、該芯鞘型複合繊維に先端部を形成し、アルカリ性水溶液を用いて60〜120℃で加熱処理することによって先端部から芯成分を溶出し、該芯鞘型複合繊維の一部を中空化することを特徴とする布帛の製造方法。
【請求項5】
芯成分がポリ乳酸であることを特徴とする請求項4に記載の布帛の製造方法。
【請求項6】
芯鞘型複合繊維に先端部を形成する手段が起毛加工であることを特徴とする請求項4または5に記載の布帛の製造方法。

【公開番号】特開2008−169522(P2008−169522A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−5417(P2007−5417)
【出願日】平成19年1月15日(2007.1.15)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】