説明

布帛およびそれを用いたインナーウエア、ストッキング

【課題】着用中に汗をかいた際、十分な吸水性を発現しながらも、布帛表面はべとつかず、汗による冷えを感じないことで、インナーウエアやストッキングに用いられたときの着用快適性を高めることができる布帛を提供すること。
【解決手段】芯糸に弾性繊維が用いられ、該芯糸を、平均直径1〜250nmのナノファイバーで構成されたカバリング下糸と、熱可塑性マルチフィラメントから構成されるカバリング上糸とでカバリングしたダブルカバリング糸を少なくとも一部に含んでなることを特徴とする布帛、および該布帛を用いたインナーウエア、ストッキング。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダブルカバリング糸を一部に含む布帛および該布帛を用いたインナーウエア、ストッキングに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリウレタン糸等の弾性糸を芯糸として用い、この芯糸に熱可塑性マルチフィラメント糸を巻き付けたカバリング糸を少なくとも一部に用いて編成した布帛は知られており、特に、そのような糸の用途として、インナーウエアやストッキングはフィット性に優れ、補正効果や保温性効果をねらいとして広範に用いられている。
【0003】
しかしながら、このような布帛は、肌に接しているため、いったん汗をかくと吸水性が十分でないために汗が処理できなかったり、綿などの吸水性の高い素材の場合は逆にべとついたり、汗によって冷えを感じたりするため、着用快適性が損なわれているのが現状である。
【0004】
これに対して、キ型の突起部を有する特殊断面糸をカバリング糸の巻き糸(カバリング糸)とすることで吸汗性能を上げることが提案されている(特許文献1)。
【0005】
しかしながら、該特許文献1の実施例に挙げられているような繊度とフィラメント数の構成(10デニール、3〜5フィラメント)においては構成フィラメント数が少なく、発現される毛細管現象が限定され、保水量は十分でないことが予想される。また、保水しきれない汗や保水した繊維が肌に直接触れるため、べとついたり、冷えを感じることが懸念されるものであり、好ましくない。
【0006】
また、微細孔が横断面全体に散在し、しかもその一部は互いに連通してなる微細孔を有する多孔質合成繊維を含む織編物に天然タンパク質を含浸させた織編物が提案されている(特許文献2)。
【0007】
この特許文献2にかかる発明では、微細孔内に水となった汗が取り込まれるとともに、不感蒸泄である蒸気も取り込まれるため、衣服内の快適性が高まることが期待されるものである。しかしながら、繊維内に微細孔を有する繊維であるため、フィブリル化しやすく、摩擦によってすぐに白化が生じ、商品価値が低下するとともに、さらにフィブリル化が進むと微細孔が失われ、上記吸湿、吸水特性が大幅に低下することが懸念される。
【特許文献1】特開平6−81207号公報(段落0002〜0012、0021〜0028)
【特許文献2】特開平6−17373号公報(段落0003〜0010)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の布帛は、ストレッチ特性を有するインナー素材やストッキング用素材に吸水性を付与し、しかも着用時にべとつきが少なく、耐久性、吸湿性にも優れた布帛を提供すること、さらに、それらを用いたインナーウエア、ストッキングを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明の布帛は、以下の(1)の構成を有するものである。
(1)芯糸に弾性繊維が用いられ、該芯糸を、平均直径1〜250nmのナノファイバーで構成されたカバリング下糸と、熱可塑性マルチフィラメントから構成されるカバリング上糸とでカバリングしたダブルカバリング糸を少なくとも一部に含んでなることを特徴とする布帛。
【0010】
また、かかる本発明の布帛において、より具体的に好ましくは、以下の(2)の構成を有するものである。
(2)ナノファイバーと熱可塑性マルチフィラメントが、ポリアミド繊維からなることを特徴とする上記(1)記載の布帛。
【0011】
また、これらの本発明の布帛は、好ましくは、以下の(3)または(4)の具体的用途において使用されるものである。
(3)上記(1)または(2)の布帛が用いられてなることを特徴とするストッキング。
(4)上記(1)または(2)の布帛を用いられてなることを特徴とするインナーウエア。
【発明の効果】
【0012】
本発明の布帛によれば、ストレッチ特性を有するインナー素材やストッキング用素材に良好な吸水性を付与し、しかも、そのような吸水性がありながらも、着用時にべとつきが少なく、耐久性、吸湿性にも優れた布帛を提供することができる。
【0013】
本発明によれば、さらに該布帛を用いた、良好な吸水性を持ちながら、着用時にべとつき感を受けることが少なく、また、耐久性、吸湿性にも優れたインナーウエア、あるいはストッキングを提供することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の布帛などについて、さらに詳細に説明する。
本発明の布帛は、芯糸に弾性繊維が用いられ、該芯糸を、平均直径1〜250nmのナノファイバーで構成されたカバリング下糸と、熱可塑性マルチフィラメントから構成されるカバリング上糸とでカバリングしてなるダブルカバリング糸を少なくとも一部に含んでなることを特徴とするものである。
【0015】
すなわち、優れた吸水特性を有するナノファイバーをカバリング下糸に配し、カバリング上糸には熱可塑性マルチフィラメントを巻き付けることにより、べたつき感の抑制と耐久性の維持を達成するものである。
【0016】
ここで、上述のナノファイバーとは、繊維径が1ミクロンメートル未満の極細繊維であり、本発明では、特に平均直径が1〜250nmとなるナノファイバーを用いるものである。また、それが集合したものをナノファイバー集合体と言う。このナノファイバー集合体中の単糸繊度の平均値およびばらつきとしては、ナノファイバー集合体の横断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察し、同一横断面内で無作為抽出した300本以上の単糸直径を測定するが、これを少なくとも5カ所以上で行い、合計1500本以上の単糸直径を測定することで求めることができる。これらの測定位置は、ナノファイバー集合体から得られる繊維製品の均一性を保証する観点から、布帛の離れた任意の位置からサンプリングする。なお、カバリング下糸として、ナノファイバー以外の糸とナノファイバーを合糸して用いることは可能である。したがって、カバリング下糸中に、繊維径が1ミクロンメートル以上である繊維を含んでいるときには、該繊維径が1ミクロンメートル以上である繊維は、ナノファイバーではないので、ナノファイバー集合体全体の平均値を求める際の測定対象とはしないものである。すなわち、本発明では、まず、繊維径が1ミクロンメートル未満の極細繊維であるものをナノファイバーと分類し、そのナノファイバーの集合での平均直径を求めて、本発明の布帛を構成せしめるものである。
【0017】
単糸(単繊維)繊度の平均値は、以下のようにして求める。すなわち、測定した単糸(単繊維)直径から繊度を計算し、それの単純な平均値を求めるものである。
【0018】
そして、ナノファイバー中においても比較的、粗大な単糸(単繊維)が存在する場合、製糸性の悪化を招くことになるので好ましくない。したがって、ナノファイバーの集合体中においても、直径300nm以上の粗大単糸(単繊維)が総面積(総繊維断面積)に占める割合は3%以下であることが好ましい。なお、直径300nm以上の粗大単糸(単繊維)が総面積に占める割合は、粗大単糸(単繊維)の測定面積が、ナノファイバーの集合体中において占める割合で算出したものである。
【0019】
また、本発明において、上述のナノファイバーの集合体は、長繊維糸形状および/または紡績糸形状となっていることが好ましい。ここで、長繊維糸形状および/または紡績糸形状とは、以下の状態を言うものである。すなわち、ナノファイバー同士が1次元で配向した集合体が有限の長さで連続している状態を言うものである。これに対して、例えば、ポリマーを電解質溶液に溶解して口金から押し出し、その静電反発作用でポリマー溶液を極細化する、いわゆるエレクトロスピニング法等で得られる不織布は、ナノファイバーは全く配向していない2次元集合体である点で、全く異なる形態である。中でも、ダブルカバリング糸の巻き糸として用いるため、高次通過性を考慮すると長繊維糸形状となっていることがより好ましい。ここで、長繊維糸形状とは、ナノファイバー単糸(単繊維)の長さは有限であっても、単糸(単繊維)間の吸着性からのみで配向した集合体をいい、撚によりナノファイバー集合体が集束した紡績糸形態とは異なる。
【0020】
本発明において用いられるナノファイバーは、単糸(単繊維)直径が従来の超極細糸・超極細繊維の1/10〜1/100であるため、比表面積が飛躍的に大きくなるという特徴がある。このため、通常の超極細糸・超極細繊維程度では見られなかった吸水性を示す。具体的には、例えば、後述する実施例1に使用したナノファイバーの筒編み(約10g)を用いて、これに水を含浸させた後、通常の家庭用電気洗濯機の脱水を3分間かけた後の重量Wと絶乾重量(D、105℃×2hr)から求められる吸水率(%)={(W−D)/D}×100は80%を越えるレベルにあり、綿と同等以上のものである。なお、ちなみに、本発明者等の試験によれば、33デシテックス、26フィラメントのポリカプロアミドマルチフィラメント糸を用いて同様に製造した筒編み(約10g)の吸水率は23%であった。また、速乾性にしても通常のポリカプロアミドマルチフィラメントと同レベルであり、洗濯後の速乾性や汗が引いた後の乾き方において優れているのである。
【0021】
また、吸湿性も高く、例えば、後述する実施例1のナノファイバーの吸湿性能の指標であるΔMRは5%に達し、綿とほぼ同等の吸湿性能も示している。ここで言うΔMRとは、30℃、90%RH下での吸湿率から25℃、65%RH下での吸湿率を差し引いた値である。
【0022】
本発明において用いられるナノファイバーは、その製造方法は特に限定されるものではないが、例えば、下記のような方法を採用して製造することができる。
【0023】
すなわち、難溶解性ポリマーと易溶解性ポリマーを溶融混練し、難溶解性ポリマーが易溶解性ポリマー中に微分散化した海島構造状のポリマーアロイを得る。そして、これを溶融紡糸することによりポリマーアロイ繊維を得ることができる。
【0024】
該ポリマーアロイ繊維の状態でダブルカバリング糸のカバリング下糸として用い、最終的には、該ダブルカバリング糸を布帛とした後、上述の易溶解性ポリマーを溶解させることにより、ナノファイバーからなるカバリング下糸を得ることができる。
【0025】
ここで、難溶解性ポリマーと易溶解性ポリマーを溶融混練の際、溶融混練方法が重要であり、押出混練機や静止混練器等により強制的に混練することにより粗大な凝集ポリマー粒子の生成を大幅に抑制することができる。強制的に混練する観点から、押出混練機としては二軸押出混練機、静止混練器としては分割数100万分割以上のものを用いることが好ましい。また、島ポリマーの再凝集を抑制する観点からポリマーアロイ形成、溶融から紡糸口金から吐出するまでの滞留時間も重要であり、ポリマーアロイの溶融部先端から紡糸口金から吐出するまでの時間は30分以内とすることが好ましい。
【0026】
上述のポリマーアロイ繊維に含まれる難溶解性ポリマーと易溶解性ポリマーの重量比は、易溶解性ポリマーを溶解除去して得られるナノファイバーの要求特性、またはそれらを安定して得るために、難溶解性ポリマーの重量:易溶解性ポリマーの重量=10:90〜50:50の範囲であることが好ましい。より好ましくは20:80〜40:60の範囲である。
【0027】
また、難溶解性ポリマーと易溶解性ポリマーの重量比が50:50のような中心値に近づくにつれ、易溶解性ポリマーと難溶解性ポリマーの接触界面が大きくなって相互作用が過大となるため、紡糸操業性不良を引き起こしたり、高次通過性を悪化させたりすることがある。また、易溶解性ポリマーと難溶解性ポリマーの組み合わせによっては、易溶解性ポリマーが難溶解性ポリマー中に微分散化したポリマーアロイとなるため、目的とするナノファイバーを得ることができなくなるので注意を要する。
【0028】
本発明に用いられ得る上述した難溶解性ポリマーは、ポリアミドであることが好ましい。ポリアミドが好ましい理由として、強度、耐久性、肌触りの柔らかさ、吸湿性などに優れており、ストッキング、インナーウエア、および外衣などに広く使用されているためである。さらに、ナノファイバーを形成させるために易溶解性ポリマーとしてアルカリ溶解性ポリマーを溶かし出すに際して、耐アルカリ性に優れているためである。
【0029】
ここで言うアルカリとは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等が挙げられるが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の強アルカリ(pH=10〜14)を0.5〜20重量%、60〜120℃で処理することが好ましい。
【0030】
本発明で言うポリアミドとは、いわゆる炭化水素基が主鎖にアミド結合を介して連結された高分子量体であって、その種類は特に制限されないが、好ましくは、染色性、洗濯堅牢性、機械特性に優れる点から主としてポリカプロアミド(6−ナイロン)またはポリヘキサメチレンアジパミド(6,6−ナイロン)からなるポリアミドであることが好ましい。
【0031】
ここで言う「主として」とは、ポリカプロアミドを構成するε−カプロラクタム単位、ポリヘキサメチレンアジパミドを構成するヘキサメチレンジアンモニウムアジペート単位として80モル%以上であることを言い、さらに好ましくは90モル%以上であることが好ましい。その他の成分としては、特に制限はないが、例えば、ポリドデカノアミド、ポリヘキサメチレンアゼラミド、ポリヘキサメチレンセバカミド、ポリヘキサメチレンドデカノアミド、ポリメタキシリレンアジパミド、ポリヘキサメチレンテレフタラミド、ポリヘキサメチレンイソフタラミド等を構成するモノマーである、アミノカルボン酸、ジカルボン酸、ジアミンなどの単位が挙げられる。さらに必要に応じて光安定剤、熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、末端基調節剤、染色性向上剤等が添加されていてもよい。また、酸化チタンなどの艶消し剤を機械特性を阻害しない程度に添加することは好ましく行われる。
【0032】
本発明に用いられる易溶解性ポリマーとしてはポリエステルであることが好ましい。本発明で言うポリエステルとは、いわゆる塩基酸とアルコールがエステル結合を介して連結された高分子量体であって、かかるポリエステルとしては、溶解除去が容易であり、また、バイオマス利用、生分解性の観点からも脂肪族ポリエステルであることが好ましい。ここで、前記脂肪族ポリエステルを例示すると、ポリ乳酸、ポリヒドロキシブチレート、ポリブチレンサクシネート、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン等が挙げられるが、溶融成形が容易であるという点でポリ乳酸がより好ましい。ポリ乳酸とは、乳酸モノマーを重合したものであり、L体またはD体の光学純度が90%以上であると、融点が高くなり好ましい。また、ポリ乳酸の性質が損なわれない範囲において、乳酸以外のモノマーを共重合していても良いが、好ましくはポリ乳酸を構成する乳酸単位として80モル%以上であり、さらに好ましくは90モル%以上である。
【0033】
本発明のダブルカバリング糸のカバリング上糸としては、熱可塑性繊維を用いるものである。カバリング上糸の目的としては、カバリング下糸のナノファイバーを保護すること、さらに下糸のナノファイバーが肌に直接触れないようにしてべとつき感や体の冷えを防止することである。
【0034】
この目的を満たす熱可塑性繊維であれば、特に限定されるものではないが、中でも弾性繊維を汚染することなく染色できることからポリアミド繊維を用いることが好ましく、さらに中でも、高次通過性からポリアミドマルチフィラメントを用いることがより好ましい。繊度やフィラメント数については限定されるものでなく、保温性や肌触り、地厚感等を考慮して決定すればよい。中でも衣料用との布帛としては、トータル繊度8〜250デシテックス、単糸(単繊維)繊度0.5〜5デシテックスのものを用いることが好ましい。中でも、特に風合いを考慮した場合、トータル繊度10〜168デシテックス、単糸(単繊維)繊度0.5〜3デシテックスとすることがより好ましい。また、熱可塑性繊維は、加工糸や生糸(延伸ストレート糸)のいずれでも問題なく、用途に合わせた糸を用いればよい。
【0035】
本発明に用いられるカバリング糸の芯糸をなす弾性繊維としては、ポリウレタン系弾性繊維、ポリアミド系エラストマ弾性繊維、ポリエステル系エラストマ弾性繊維、天然ゴム系繊維、合成ゴム系繊維、あるいはブタジエン系繊維等が用いられ、弾性特性や熱セット性、耐久性等により適宜決定すればよい。中でも上記特性から好ましいのは、ポリウレタン系弾性繊維およびポリアミド系エラストマ弾性繊維である。
【0036】
弾性糸の太さは、用途、締め付け圧の設定により異なるが、一般に8〜180デシテックス程度であればよい。中でも好ましいのは14〜70デシテックスである。8デシテックス未満では、糸強力が不足するのでカバリング時及び編立て時に芯糸切れ等のトラブルを生じ易く、布帛の伸縮性、耐久性が不十分となりやすいので、用途面で制約を受ける場合があって好ましくない。逆に、180デシテックスを大きく越えると締付け力が強くなり過ぎて粗硬感が強くなり好ましくない。カバリング時のドラフト率としては使用する弾性繊維により、さらに着圧設計によって設計すればよいが2.5〜3.5倍程度が好ましい。
【0037】
本発明にかかるダブルカバリング糸の撚方向としては、下撚・上撚が反対方向であっても、同方向であっても問題ない。中でも下撚と上撚を同方向とすることによりシングルカバリングヤーンに近い伸縮性が得られるため、好ましい。もちろん、S撚・Z撚のいずれを選択しても問題ない。また、編地の斜行を防ぐためにトルク方向が逆のダブルカバリング糸を並べて編成したり、下撚・上撚を反対方向にするときにはトルクバランスを取ることによりダブルカバリング糸のトルクを軽減させることができる。トルクを軽減させたいときは、上撚カバリング数(T/m)としては、カバリング上糸とカバリング下糸が同繊度の場合、下撚カバリング数(T/m)の70〜85%を目安に設定することが望ましい。
【0038】
また、カバリング数の設定は、使用糸、用途により適宜決定すればよいが、設定の目安としては、上撚として式1、下撚として式2の範囲とすることが好ましい。
【0039】
1500/√D1≦Y1≦6500/√D1 ………式1
D1:カバリング上糸の糸条繊度(デシテックス)
Y1:カバリング上糸巻付け数(T/m)
2000/√D2≦Y2≦8000/√D2 ………式2
D2:カバリング下糸の糸条繊度(デシテックス)
Y2:カバリング下糸巻付け数(T/m)
【0040】
なお、カバリング下糸に用いるナノファイバーを編成後に減量加工をすることにより得る場合には、減量加工による影響を考慮して減量率に応じてやや多めに下撚を入れることが好ましい。減量加工により弾性繊維と下糸との間に空隙が生まれることにより吸水時の保水空間が形成されるからである。
【0041】
カバリング上糸と下糸の総繊度組合せ(重量比)は、特に限定されず、目的、用途等により適宜に設定可能である。中でも総繊度比として、カバリング上糸:カバリング下糸=20:80〜80:20とすることが好ましい。
【0042】
本発明の布帛は、上記ダブルカバリング糸を少なくとも一部に用いたものである。用い方には特に限定されないが、汗に直接触れる部分に用いることが有効であるため、編物に用いることが好ましく、さらに丸編に用いることがより好ましい。編組織は限定されず、用いられる用途に合わせた組織を決定すればよい。また、同時に用いる糸は限定されない。しかし、肌側に上記ダブルカバリング糸を配する組織とすることで汗の処理を速やかに行うことができ、好ましい。さらに布帛中に占める上記ダブルカバリング糸の重量%は30%を越えることが好ましい。
【0043】
前述の通り、本発明の布帛は肌に近い場所で用いることが好ましいため、インナーウエアに用いることが好ましい。ここでインナーウエアとは、Tシャツ、スリップ、ネグリジェ、ショーツ、キャミソール、シュミーズ、ペチコート、パンティー等のランジェリーや、ブラジャー、ガードル、コルセット等のファンデーション等を総称して言うものである。中でも、丸編が用いられることが多い、ランジェリーに用いることがより好ましい。
【0044】
また、同様に本発明の布帛は肌に近い場所で用いることが好ましいので、例えば、ストッキングに用いることが好ましい。ここで、ストッキングとは、パンティストッキング、ロングストッキング、ショートストッキングで代表されるストッキング製品・タイツなどのレッグ関連製品などのことである。ストッキングでの使用部位としては、レッグ部、パンティ部が特に好ましく用いられ、本発明にかかるダブルカバリング糸のみから構成されたいわゆるゾッキ編、あるいは加工糸や生糸を交編糸として用いた交編のいずれによるものに用いてもよい。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により本発明の布帛について、さらに具体的に説明する。
なお、実施例および比較例における各測定値は、次の方法で得たものである。
【0046】
A.TEMによる繊維横断面観察
繊維の横断面方向または縦断面方向にミクロトームにより超薄切片を切り出し、下記の透過型電子顕微鏡(TEM)で繊維横断面を観察した。また、必要に応じて金属染色を施した。
TEM装置 : 日立製作所社製H−7100FA型。
【0047】
B.ナノファイバーの直径、直径300nm以上の粗大単糸が総面積に占める割合
単糸(単繊維)繊度の平均値は、以下のようにして求める。すなわち、TEMによる繊維横断面写真を画像処理ソフト(三谷商事株式会社 WINROOF)を用いて断面積を円換算して単糸(単繊維)直径を算出し、それの単純な平均値を求めた。また、直径300nm以上の粗大単糸(単繊維)が総面積に占める割合は、粗大単糸(単繊維)の測定面積に占める割合で算出した。
【0048】
このとき、測定に用いるナノファイバー数は同一横断面内で無作為に抽出した300本以上の単糸(単繊維)直径を測定するものであるが、該測定を5カ所で行い、合計1500本以上の単糸(単繊維)直径を用いて計算した。これらの測定位置は、ナノファイバー集合体から得られる繊維製品の均一性を保証する観点から、布帛の離れた任意の位置からサンプリングするものである。
【0049】
C.吸水性
布帛を、水を含浸させた後、家庭用電気洗濯機(松下電器産業社製NA−F60VP1)において脱水を3分間かけた後の重量Wと絶乾重量(D、105℃×2hr)から、以下の数式に基づいて吸水率(%)を求めた。
吸水率(%)=(W−D)/D×100
【0050】
なお、本発明においては、タイツおよびキャミソール製品をサンプル(n=5)として用い平均値をとった。
【0051】
D.98%硫酸相対粘度(ηr)
オストワルド粘度計にて下記溶液の25℃での落下秒数を測定し、下式により算出した。
【0052】
ポリカプロアミドを1g/100mlとなるように溶解した98%濃硫酸(T1)、98%濃硫酸(T2)とすると、
(ηr)=T1/T2
【0053】
E.ポリ乳酸の重量平均分子量(Mw)
ポリ乳酸のクロロホルム溶液にテトラヒドロフランを混合し測定溶液とした。これをゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、ポリスチレン換算でMwを求めた。
【0054】
F.吸湿率(ΔMR)
繊維または生地サンプルを秤量瓶に1〜2g程度はかり取り、110℃に2時間保ち乾燥させ、重量を測定し(W0)、次に対象物質を20℃、相対湿度65%に24時間保持した後、重量を測定する(W65)。そして、これを30℃、相対湿度90%に24時間保持した後、重量を測定する(W90)。そして、以下の式にしたがい計算を行う。
【0055】
MR65=[(W65−W0)/W0]×100% ・・・・・(1)
MR90=[(W90−W0)/W0]×100% ・・・・・(2)
ΔMR=MR90−MR65 ・・・・・・・・・・・・(3)
【0056】
実施例1
ポリアミドとしてηrが2.6、酸化チタン量が0.02重量%のポリカプロアミドと、ポリエステルとしてMwが12万のポリ乳酸(NatureWorks社製 Polylactide Resin 品番6251D)とを、両者の水分率が0.03重量%以下になるまで乾燥した後、それぞれの重量比で4:6となるように、二軸押出混練機を用い、240℃で溶融混練して、海がポリ乳酸、島がポリカプロアミドの海島構造状のポリマーアロイチップを得た。
【0057】
そして、該ポリマーアロイチップを水分率が0.03重量%以下になるまで乾燥した後、プレッシャーメルタータイプ溶融紡糸機で、240℃で溶融吐出し、18℃の冷風で冷却、給油した後に、延伸し、135℃で熱セットしてから巻取速度4000m/分で高速直接紡糸延伸を行い、54デシテックス−26フィラメントのポリマーアロイ繊維を得た。
【0058】
また、ポリアミドとしてηrが2.6、酸化チタン量が0.3重量%のポリヘキサメチレンアジパミドを、水分率が0.1重量%以下になるまで乾燥した後、プレッシャーメルタータイプ溶融紡糸機で、290℃で溶融吐出し、18℃の冷風で冷却、給油した後に、巻取速度4200m/分で高速直接紡糸延伸を行い、54デシテックス−34フィラメントの半延伸糸(以下、POYと呼ぶ)を得た。得られたPOYを、延伸仮撚機としてIVF805(石川製作所社製)を用いて、加工速度700m/min、延伸倍率1.23倍、ヒーター温度187℃に設定して仮撚加工を行い、44デシテックス−34フィラメントの仮撚糸を得た。
【0059】
得られた上述のポリマーアロイ繊維をカバリング用下糸として、また、上述の仮撚糸をカバリング用上糸としてそれぞれ用いて、ポリウレタン弾性糸(東レ・デュポン(株)社製T−178C 20デシテックス)をカバリング糸の芯糸として用いて、次の条件でダブルカバリング糸を製造した。すなわち、ドラフト2.9倍に設定し、カバリング用上糸750T/mと、カバリング用下糸850T/mで同方向に巻付け、上撚・下撚ともS方向とZ方向の2種のダブルカバリングヤーン(以下、DCYと呼ぶ)を製造した。
【0060】
得られたDCYを用い、永田精機(株)製のスーパー4編機(針本数360本)の給糸口に、上撚・下撚がS、S同方向であるDCYと、上撚・下撚がZ、Z同方向であるDCYを交互に給糸して、レッグ部、パンティ部ともに編成し、タイツを編成した。
【0061】
このタイツを通常の方法で精練した後、水酸化ナトリウムの3重量%水溶液(浴比1:100)を用いて90℃の温度で溶解処理2時間処理し、カバリング下糸の海成分であるポリ乳酸を除去し、水洗した。乾燥後、重量を測定して、ポリ乳酸が99%以上加水分解除去されていることを確認した。その後、スチーム加圧下110℃×30秒の条件で足型セットすることで、最終的にタイツ製品を得た。
【0062】
該タイツからナノファイバーをサンプリングして直径を測定した結果、ナノファイバーの数平均による単糸(単繊維)直径は122nmであり、単糸(単繊維)直径300nm以上の粗大単糸が総面積に占める割合は、0.7%と低かった。
【0063】
比較例1
実施例1で用いた仮撚糸をカバリング用鞘糸として、実施例1で用いたポリウレタン弾性糸(東レ・デュポン(株)社製T−178C、20デシテックス)をカバリング糸の芯糸として用いた。ドラフト2.9倍に設定し、カバリング撚数750T/mで巻付け、S方向とZ方向の2種のシングルカバリングヤーン(以下、SCYと呼ぶ)を製造した。
【0064】
得られたSCYを用い、実施例1と同様にして、S方向SCYと、Z方向SCYを交互に給糸し、レッグ部、パンティ部とも編成し、タイツを編成した。このタイツを通常の方法で精練した。その後、スチーム加圧下110℃×30秒の条件で足型セットすることでタイツを得た。
【0065】
実施例1のタイツについて吸水性を評価した結果、39%と保水性が高いことがわかった。一方、比較例1のタイツの吸水性は23%であった。また、脱水後のタイツのべとつき感は比較例1のタイツと同等であり、吸水してもべとつき感の少ないことを確認した。さらに脱水後のタイツを実施例、参考比較品とも20℃、60%RHの室内に3時間吊して干したところ両者とも乾燥しており、速乾性にも優れていることを確認した。
【0066】
さらに実施例1のタイツはΔMR=3.8%と高い吸湿性を有しているのに対して、比較例1のタイツはΔMR=2.5%にとどまった。
【0067】
また、実施例1、比較例1のタイツを用いて5名の女性モニターに日中スカートの下に着用してもらい、着用後は洗濯用ネットに入れて家庭洗濯用洗剤(たとえば、ライオン社製「トップ」など)を標準量入れた上で、全自動電気洗濯機(たとえば、松下電器産業社製NA−F60VP1)の標準コースで一般の洗濯物と一緒に洗濯し、これを10回繰り返したあとのサンプルを回収して表面状態を観察した結果、いずれのタイツも表面状態に変化は見られず、実用耐久性として問題ないレベルであることを確認した。
【0068】
実施例2
実施例1で用いたDCYを中糸として、綿紡績糸(単糸98.4デシテックス、綿番手60単糸)を裏糸として給糸し、表糸として44デシテックス10フィラメントのポリカプロアミドマルチフィラメント(生糸)を給糸して、フライスリバーシブルをダブルニット(福原精機製作所製)にて編成(36口、19G)した。
【0069】
上記フライスリバーシブルを通常の方法で精練した後、水酸化ナトリウムの3重量%水溶液(浴比1:100)を用いて90℃の温度で溶解処理2時間処理し、カバリング下糸の海成分であるポリ乳酸を除去し、水洗した。乾燥後、重量を測定して、ポリ乳酸が99%以上加水分解除去されていることを確認した。その後、180℃で乾熱セットして仕上げた。上記フライスリバーシブルの生地を用いて縫製を行い、インナーウエアとしてのキャミソールを得た。
【0070】
比較例2
比較例1で用いたSCYと実施例2で用いた綿紡績糸を1:1の割合で裏糸として給糸し、表糸として実施例2で用いたポリカプロアミドマルチフィラメント(生糸)を給糸して、実施例2と同様にフライスリバーシブルを編成(22ゲージ)した。
【0071】
上記フライスリバーシブルを通常の方法で精練した。その後、180℃で乾熱セットして仕上げた。上記フライスリバーシブルの生地を用いて縫製を行い、キャミソールを得た。
【0072】
実施例2のキャミソールについて吸水性を評価した結果、61%と保水性が高いことが判った。一方、比較例2のキャミソールの吸水性は52%であった。また、脱水後のキャミソール表糸側のべとつき感は従来の比較例2のキャミソール表糸側と同等であり、吸水してもべとつき感の少ないことを確認した。さらに脱水後のキャミソールを、実施例2、参考比較品ともに20℃、60%RHの室内に6時間吊して干したところ両者とも乾燥しており、実施例2のものは速乾性にも優れていることを確認した。
【0073】
さらに実施例2のキャミソールはΔMR=4.1%と高い吸湿性を有しているのに対して、比較例2のキャミソールはΔMR=3.7%にとどまった。
【0074】
また、実施例2、比較例2のキャミソールを用いて5名の女性モニターに日中着用してもらい、着用後は洗濯用ネットに入れて家庭洗濯用洗剤(たとえばライオン社製「トップ」など)を標準量入れた上で、全自動電気洗濯機(たとえば松下電器産業社製NA−F60VP1)の標準コースで一般の洗濯物と一緒に洗濯し、これを10回繰り返したあとのサンプルを回収して表面状態を観察した結果、いずれのキャミソールも表面状態に変化は見られず、実用耐久性として問題ないレベルであることを確認した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯糸に弾性繊維が用いられ、該芯糸を、平均直径1〜250nmのナノファイバーで構成されたカバリング下糸と、熱可塑性マルチフィラメントから構成されるカバリング上糸とでカバリングしたダブルカバリング糸を少なくとも一部に含んでなることを特徴とする布帛。
【請求項2】
ナノファイバーと熱可塑性マルチフィラメントが、ポリアミド繊維からなることを特徴とする請求項1記載の布帛。
【請求項3】
請求項1または2記載の布帛が用いられてなることを特徴とするストッキング。
【請求項4】
請求項1または2記載の布帛が用いられてなることを特徴とするインナーウエア。

【公開番号】特開2007−204864(P2007−204864A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−22872(P2006−22872)
【出願日】平成18年1月31日(2006.1.31)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】