説明

布帛の液流式処理装置における布帛牽引装置

【課題】繊維の太さに影響されることなく布帛の牽引力を確保し、かつ、布帛に与えるダメージが少ない布帛牽引装置を提供することを目的とする。
【解決手段】無端状の処理布帛(以下、布帛という)を滞留部と移送管よりなる環状通路に架設して、布帛牽引装置と処理液の噴射により循環移行させて処理するようにした布帛の液流式処理装置において、前記布帛牽引装置を、前記滞留部出口上部と処理液噴射部との間に設けられて布帛の移行方向に対して直交して設けたドラム部21と、該ドラム部21を回転する駆動手段とで構成し、前記ドラム部21には開口部22をドラム部21の軸方向に沿って設けるとともに、該開口部22をドラム部21の周方向に所定の間隔を有して複数形成したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、布帛の液流式処理装置における布帛牽引装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、処理布帛(以下、布帛という)を無端状にして処理する液流染色機のバッチ式処理装置において、滞留部出口上方と処理液噴射部の間に、布帛を引き上げるための牽引装置が設けられている。この牽引装置として、従来、駆動装置を具備した図4に示すようなリール100や図5に示すようなドラム200が使用されている。
【0003】
前記のリール100の形状のものは、両側に設けた円形の側板101と、該両側板101間に、該側板101の中心部AからD1の半径を有する円周上(仮想線Cで示す円)に等間隔で架設された外径20A乃至25Aのパイプ102とで形成されたものであり、リール外径2×D1は200mm乃至300mmである。
【0004】
前記のドラム200の形状のものは、両側に設けた円形の側板201と、無開口状のドラム部(円筒部)202とを同心状で接合したものであり、ドラム部外径(円筒部の外径)D3は200mm乃至300mmである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記従来のリール100においては、各パイプ102間の間隔D2が大きく、その開口空間103が広いことから、開口空間103により布帛104の水分が除かれすぎるため、リール100と布帛104とのすべりが少なく布帛104の送りの力は強い。
【0006】
しかし、パイプ102の相互間の開口空間103が広く、かつ、布帛104が各パイプ102と線で接触しているため、布帛104は各パイプ102で図4に示すように折れ曲がり、リール100により布帛104が牽引されるとき、布帛104の表面がしごかれる。また、布帛104とリール100との接触面積が少ないため、リール100から布帛104にかかるテンションが高い。このテンションの高さやしごきが、繊維の極めて細いデリケートな布帛においてはシワやスレの原因となり布帛の品位を損なう問題点がある。
【0007】
一方、無開口状のドラム部202においては、ドラム部202の表面全体が布帛と接するため、接触面積が大きく、ドラム部202の布帛にかかるテンションは抑えられ、繊維の細いデリケートな布帛については処理することができる。
【0008】
しかし、このドラム200におけるドラム部202においては、布帛保有の液と、引き上げの持ち込み液と、布帛とドラム部間の空気が除かれないために、ドラム部202と布帛との間に水膜が形成されてしまい、この水膜によりドラム200の回転力が布帛に伝わらずスリップが生じ、布帛の牽引力が弱い問題がある。また、繊維の太い通常の布帛においては、スリップの発生が不規則で布帛の送り速度とドラムの回転速度の関係が安定せず、布帛とドラム部202の接触面において布帛が擦られてスレやシワの原因となり、処理できる繊維の太さが限定され汎用性の点において問題点がある。
【0009】
そこで、本発明は、繊維の太さに影響されることなく布帛の牽引力を確保し、かつ、布帛に与えるダメージが少ない布帛牽引装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の課題を解決するために、請求項1記載の発明は、無端状の処理布帛(以下、布帛という)を滞留部と移送管よりなる環状通路に架設して、布帛牽引装置と処理液の噴射により循環移行させて処理するようにした布帛の液流式処理装置において、
前記布帛牽引装置を、前記滞留部出口上部と処理液噴射部との間に設けられて布帛の移行方向に対して直交して設けたドラム部と、該ドラム部を回転する駆動手段とで構成し、
前記ドラム部には開口部をドラム部の軸方向に沿って設けるとともに、該開口部をドラム部の周方向に所定の間隔を有して複数形成したことを特徴とするものである。
【0011】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記開口部が、ドラム部の軸方向に沿ったスリット形状であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、布帛牽引装置のドラム部に開口部を設けたことにより、布帛が布帛牽引装置のドラム部との接触面積を大きく確保しつつ、布帛からの水分を除くことができる。
【0013】
そのため、従来のリールよりも布帛と布帛牽引装置のドラム部との接触面積を大きくすることで、ドラム部から布帛にかかるテンションを軽減でき、布帛におけるスレやシワの発生や程度を緩和することができ、布帛の商品価値の低下を抑えることができる。
【0014】
また、布帛から水分が除かれるため、従来のドラムよりも布帛と布帛牽引装置のドラム部との間での水膜の形成が抑制され、スリップの発生を抑えて繊維の太さに影響されることなく確実に安定して布帛を牽引することができる。また、スリップの発生を抑えることができるため、布帛と布帛牽引装置のドラム部との擦れをおさえることができ、布帛のスレやシワの発生を抑えることができる。
【0015】
したがって、リールの優位性とドラムの優位性を兼ね備えた牽引が行え、種々な布帛に対する汎用性が高く、かつ、布帛の品位を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明を実施するための最良の形態を図1乃至図3に示す実施例に基づいて説明する。
図1は、布帛の液流式処理装置1の略側断面図を示すものである。
【0017】
布帛の液流式処理装置1は滞留槽2を有し、該滞留槽2は、滞留部2aと該滞溜部2aの出口に設けられた斜面部2bで構成されている。その斜面部2bの出口、すなわち、滞留部出口上方には、ボックス3が設けられ、該ボックス3の下部には処理液噴射部4が設けられている。ボックス3の内部には、布帛牽引部材5が設けられている。
【0018】
該布帛牽引部材5は、変速モーターなどの駆動手段Mにより、図1において反時計方向に回転するようになっている。この布帛牽引部材5と駆動手段Mにより布帛牽引装置5Aを構成している。
【0019】
移送管6の上流側は、前記処理液噴射部4の下部に接続され、下流側は滞留槽2の入口部2cに接続されている。滞留槽2とボックス3と処理液噴射部4と移送管6により環状の処理通路を形成している。
【0020】
無端状に結合された処理布帛7(以下、布帛という)は、滞溜部2aの処理液8内で蛇行状に移行しながら一時滞留し、変速モーター等の駆動手段Mで駆動される布帛牽引部材5の回転により滞溜部2aより斜面部2bに沿って引き上げられ、処理液噴射部4より噴射された処理液8と共に移送管6内を移動し、下流端である滞留槽入口部2cより滞留槽2の滞溜部2aに再び送り込まれて循環する。
【0021】
処理液8は、滞留部2aの底部2dより、処理液の吸い込み配管10を介して、循環ポンプ11に吸い込まれ吐出配管12を通って熱交換器13に入り所要温度に加熱昇温され、吐出配管14を介して処理液噴射部4に入り、噴出圧力が流量調節弁15にて調節されて布帛7に噴射される。
【0022】
処理液8は、処理液噴射部4より図1において下向きに噴射された後、移送管6を通り滞留槽入口部2cより滞留槽2の滞留部2aに戻り、この処理液8の流れとともに布帛7が移送される。
【0023】
次に、前記布帛牽引装置5Aの布帛牽引部材5について図2及び図3により説明する。
布帛牽引部材5は、一対の円形の側板20とこれらの間に設けられた円筒状のドラム部(牽引部)21からなり、ドラム部21は側板20の中心と同芯の円状に形成され、かつ、該ドラム部21にはドラム部21の内外に貫通する開口部(隙間)22が、ドラム部21の軸方向に、つまり、布帛7の進行方向と直交する方向に設けられている。本実施例においては、開口部22がドラム部21の軸方向に長いスリット状に形成され、かつ、開口部22は円形側板20、20間の全長にわたって設けられているが、布帛7と接触する部分にのみ開口部22を設けても良い。
【0024】
前記開口部22は、ドラム部21の周方向において複数本、適宜間隔を有して設けられている。
【0025】
なお、ドラム部21の外径D4は、任意に設定するものであるが、本実施例においては200mm乃至300mmに設定した。
【0026】
スリット状の開口部22の隙間D5は、任意に設定するものであるが、3mm乃至20mm、好ましくは、6mm乃至13mmであり、本実施例においては、10mmに設定した。スリット状の開口部22の隙間D5を20mmよりも広くすると、布帛7が開口端22aにおいて、折れ曲がり、この状態で布帛7と布帛牽引部材5のドラム部21との間でスリップが起きると、開口端22aで布帛7を擦ってしまい布帛7のスレやシワの原因となる。また、隙間D5を3mmよりも狭くすると、開口部22からの水分の除去が不十分で布帛7と布帛牽引部材5のドラム部21との間に水膜が生じるおそれがあり、水膜が生じると布帛牽引部材5による牽引力が布帛7に伝わらずスリップが生じてしまい布帛7を牽引する力が弱くなるからである。
【0027】
また、開口部22の周方向の数は、6乃至10本が望ましく、本実施例においては8本に設定した。開口部22の数が多すぎると、布帛牽引部材5のドラム部21と布帛7との接触面積が少なくなる。そのため、布帛7が開口部22の開口端部22aで折れ曲がり布帛7が布帛牽引部材5でしごかれたり、布帛牽引部材5から布帛7にかかるテンションが分散しないために、繊維の細いデリケートな布帛7においてはスレやシワの原因となり商品価値が低下してしまう。また、開口部22の数が少なすぎると布帛7からの水分の除去が不十分で布帛7と布帛牽引装置5のドラム部21間に水膜が生じるおそれがあり、前記のような問題が生じる。そこで、実施例のようにドラム部21の直径D4を前記のように設定した場合には、開口部22の本数は前記の値が望ましい。
【0028】
また、開口部22の開口端22aが角状に形成されていると、その角により布帛7がしごかれる等の損傷をうけるおそれがあるために、実施例においては開口端22aを曲面に形成して、布帛7に損傷を与えることを抑えている。
【0029】
前記のように開口部22を有するドラム部21を形成するために、本実施例では、図3に示すように、前記の中心Aを中心とする半径の円弧からなる円弧部21aと、該円弧部21aの周方向両端を内側へ折曲した折曲部21bを金属板から一体形成した分割体21cを複数、実施例では8枚を、周方向に配置してドラム部(牽引部)21を構成している。そして各分割体21cの両端を側板20に溶接にて固着している。
【0030】
以上の構造により、布帛7を牽引する際には、布帛7と布帛牽引部材5のドラム部21との接触面積をできるだけ大きく確保しつつ、布帛7の水分を除くことができる。
【0031】
従来のドラム200ではドラム部202と布帛との間に水膜が生じるため、安定した牽引ができないために、布帛とドラム部202との間のスリップによりシワやスレが生じ、処理することができない布帛の繊維の太さが存在した。しかし、本発明の布帛牽引部材5を用いることにより、布帛7から水分が除かれ布帛7と布帛牽引部材5のドラム部21との間に、スリップを生じるような水膜が生じず、布帛の繊維の太さに影響されることなく、例えばナイロン・ポリエステルなどの織物や混紡織物、ナイロン・ポリエステルなどの編物や混紡編物、複合素材繊維の織物や編物等の布帛においても牽引力を確保できる。
【0032】
また、従来のリール100では、布帛がリールに線接触してシワやスレの発生が大きいが、本発明においてはリールよりも広い接触面積で牽引できるため、布帛7のシワやスレの発生や程度を緩和することができる。
【0033】
更に、繊維の極めて細いデリケートな布帛においてもスレやシワの発生や程度を緩和することができる。
【0034】
したがって、本発明においては、前記従来の無開口状のドラムとリールの長所を生かし、かつ、無開口状のドラムとリールの短所を除く機能を有し、種々な布帛に対する汎用性が高く、かつ、品位の良い布帛を提供できる。
【0035】
前記布帛牽引部材5の駆動手段Mには、布帛牽引部材5の回転数を制御するインバーターと、ドラム部21の速度に設定された回転のトルク調整を行なう回転トルク調整器を有する。なお、インバーター又はトルク調整器のいずれか一つのみを有しても良い。また、インバーター及びトルク調整器を有しなくても良い。
【0036】
インバーターやトルク調整器を有することにより、布帛7と布帛牽引部材5のドラム部21との間のスリップを一層抑えることができ、繊維の極めて細いデリケートな布帛等におけるスレやシワの発生や程度をより一層緩和することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の布帛の液流式処理装置の略側断面図。
【図2】本発明の布帛牽引部材を、その軸方向と直交した側からみた図。
【図3】図2におけるB−B線断面図。
【図4】従来の布帛牽引装置であるリールの軸方向に直交した断面図。
【図5】従来の布帛牽引装置であるロールの軸方向に直交した断面図。
【符号の説明】
【0038】
4 処理液噴射部
5A 布帛牽引装置
7 布帛
21 ドラム部
22 開口部
22a 開口端

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無端状の処理布帛(以下、布帛という)を滞留部と移送管よりなる環状通路に架設して、布帛牽引装置と処理液の噴射により循環移行させて処理するようにした布帛の液流式処理装置において、
前記布帛牽引装置を、前記滞留部出口上部と処理液噴射部との間に設けられて布帛の移行方向に対して直交して設けたドラム部と、該ドラム部を回転する駆動手段とで構成し、
前記ドラム部には開口部をドラム部の軸方向に沿って設けるとともに、該開口部をドラム部の周方向に所定の間隔を有して複数形成したことを特徴とする布帛の液流式処理装置における布帛牽引装置。
【請求項2】
前記開口部が、ドラム部の軸方向に沿ったスリット形状であることを特徴とする請求項1記載の布帛の液流式処理装置における布帛牽引装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−77337(P2006−77337A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−260463(P2004−260463)
【出願日】平成16年9月8日(2004.9.8)
【出願人】(000135070)株式会社ニツセン (3)
【Fターム(参考)】