説明

布帛構造および接着方法

【課題】剥離やスリップ現象が発生する危険性を低くすることが可能な布帛構造および接着方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る布帛構造101は、第1布帛の一端部と第2布帛の一端部とが接合された接合布帛10の布帛構造であって、第1布帛と第2布帛との接合部11を覆うように接着される帯状シート40を備え、この帯状シート40の幅方向の伸長率は、中央部よりも端部の方が大きいことを特徴とする。第1布帛及び第2布帛は、織物、編物、または不織布である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば水着、スピードスケート用ウエア、体操用のレオタードなどのスポーツウエアや、ガードル、ボディスーツなどの補整用下着(ファンデーション)といった衣服における布帛構造および接着方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種スポーツ着、例えば特許文献1に記載されるフィットネス用水着やレース用水着は、身体に対してフィットする伸縮性のあるストレッチ生地から作られる。近年ではストレッチ性が高い様々な生地が使用されている。
【0003】
例えば水着を構成するストレッチ生地同士を接合する場合には超音波接着法が用いられる。ストレッチ生地同士を接合しただけでは接合部の目開きが発生してしまう虞があるので、接合部に沿う方向に対して伸縮性が比較的高く、当該方向に直交する方向(目開きが生じる方向)に対して伸縮性が比較的顕著に低いストレッチテープを接合部に接着することが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−105477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、生地として特にストレッチ織物素材やニット素材に上記ストレッチテープを接着した場合に、当該ストレッチテープ際に大きな負荷がかかると、このストレッチテープが剥離することや当該ストレッチテープに生地の一部が引き摺られる現象(スリップ現象)が発生し、接合部分に破損が生じることがあった。このような結果、水着等の衣服が着用できなくなってしまう問題があった。
【0006】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、剥離やスリップ現象が発生する危険性を低くすることが可能な布帛構造および接着方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る布帛構造は、第1布帛の一端部と第2布帛の一端部とが接合された接合布帛の布帛構造であって、第1布帛と第2布帛との接合部を覆うように接着される帯状シートを備え、帯状シートの幅方向の伸長率は、中央部よりも端部の方が大きいことを要旨とする。第1布帛及び第2布帛は、織物、編物、または不織布である。
【0008】
本発明に係る布帛構造においては、帯状シートの幅方向の中央部の伸長率をその端部の伸長率よりも小さくすることによって、接合部に大きな負荷がかかった場合でも、当該接合部の目開きを防止できる。また、帯状シートの幅方向の端部の伸長率をその中央部の伸長率よりも逆に大きくすることによって、帯状シートを接合布帛の幅方向の伸びに追随させることができるので、接合部に対する負荷を軽減することができる。その結果、帯状シートが剥離することや帯状シートに接合布帛の一部が引き摺られる現象(スリップ現象)が発生する危険性を低くすることができる。
【0009】
帯状シートの端部の幅方向の伸長率は、5%以上であることが好ましい。
【0010】
帯状シートの中央部の長さ方向の伸長率は、当該帯状シートの中央部の幅方向の伸長率の1.5倍以上であることが好ましい。
【0011】
帯状シートは、少なくとも第1シートおよび第2シートの積層構造を有し、第1シートは中央部に形成され、第2シートは端部および中央部を含む領域に形成されてもよい。この場合の接合布帛は強度に優れる。
【0012】
また、一つの帯状シートにおいてその中央部に上述の第1シートと同じ伸長率を有する第1伸長部と、その幅方向の両端部に位置し、上述の第2シートと同じ伸長率を有する第2伸長部とを設ける構成を採用してもよい。この場合、シートを設ける工程を1工程省略できるとともに、第1及び第2シートの双方が肌面側に積層されたものと比べ、肌あたりが良好となる。
【0013】
第1シートの幅方向の伸長率を第2シートの幅方向の伸長率よりも小さくすることによって、接合部に大きな負荷がかかった場合でも、当該接合部の目開きを防止できる。また、第2シートの幅方向の伸長率を第1シートの幅方向の伸長率よりも逆に大きくすることによって、第2シートを接合布帛の幅方向の伸びに追随させることができるので、接合部に対する負荷を軽減することができる。その結果、帯状シートが剥離することや上記スリップ現象が発生する危険性を低くすることができる。
【0014】
第2シートの幅方向および長さ方向の各伸長率は、5%以上であることが好ましい。
【0015】
本発明に係る布帛構造において、接合布帛、第1シート、および第2シートの順で積層されていてもよく、接合布帛、第2シート、および第1シートの順で積層されていてもよく、第1シート、接合布帛、および第2シートの順で積層されていてもよい。このうち、第1シート、接合布帛、および第2シートの順で積層された布帛構造が他の布帛構造に比べ最も高い引張強度を有する。
【0016】
本発明に係る接着方法は、第1布帛の一端部と第2布帛の一端部とを接合し、第1布帛と第2布帛との接合布帛の接合部を覆うように帯状シートを接着する接着方法であって、帯状シートの幅方向の伸長率は、中央部よりも端部の方が大きいことを要旨とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、接合部に大きな負荷がかかった場合でも、当該接合部の目開きを防止できるとともに、帯状シートが剥離することやスリップ現象が発生する危険性を低くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】(a)帯状シートが剥離した状態を示す写真であり、(b)はスリップ現象を示す写真である。
【図2】(a)〜(e)は超音波接着縫製の工程を説明するための説明図である。
【図3】第1実施形態に係る布帛構造を示す断面図である。
【図4】第2実施形態に係る布帛構造を示す断面図である。
【図5】第3実施形態に係る布帛構造を示す断面図である。
【図6】第4実施形態に係る布帛構造を示す断面図である。
【図7】引張試験の様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本実施形態に係る布帛構造は、第1布帛の一端部と第2布帛の一端部とが接合された接合布帛の布帛構造であって、第1布帛と第2布帛との接合部を覆うように接着される帯状シートを備え、帯状シートの幅方向の伸長率は、中央部よりも端部の方が大きいものである。
【0020】
この布帛構造においては、帯状シートの幅方向の中央部の伸長率をその端部の伸長率よりも小さくすることによって、接合部に大きな負荷がかかった場合でも、当該接合部の目開きを防止できる。また、帯状シートの幅方向の端部の伸長率をその中央部の伸長率よりも逆に大きくすることによって、帯状シートを接合布帛の幅方向の伸びに追随させることができるので、接合部に対する負荷を軽減することができる。その結果、図1(a)に示すような帯状シートが剥離することや、図1(b)に示すような帯状シートに接合布帛の一部が引き摺られる現象(スリップ現象)が発生する危険性を低くすることができる。
【0021】
以下、布帛構造の例として第1〜第4実施形態を挙げて図面を参照しつつ説明する。
【0022】
1.第1実施形態
最初に、一般的な超音波接着縫製について説明する。図2は超音波接着縫製の工程を説明するための説明図である。
【0023】
図2(a)に示すように、まず一対の接合部材1の間に第1布帛10aおよび第2布帛10bを離間して配する。
【0024】
次に、図2(b)に示すように、一対の接合部材1の各々をそれぞれ第1布帛10aおよび第2布帛10bに近付けていきこれらを超音波溶着することで、図2(c)のような接合布帛10が作製される。
【0025】
続いて、図2(d)に示すように、接合布帛10の一方の面側における接合部11を覆うように帯状シート20を配した後、一対の接着部材2によって接合布帛10と帯状シート20とを熱溶着させる。これにより、図2(e)に示すように、接合布帛10と帯状シート20との積層構造である布帛構造100が完成する。
【0026】
図3は第1実施形態に係る布帛構造を示す断面図である。
【0027】
図3に示すように、第1実施形態に係る布帛構造101は、接合布帛10、第1シート30、および第2シート20の順で積層されて構成される。
【0028】
詳細には、布帛構造101においては接合布帛10の一方の面側の接合部11を覆うように帯状シートである第1シート30が接着され、当該第1シート30を覆うように帯状シートである第2シート20が接着される。なお、以下、第1シート30および第2シート20の組み合わせを帯状シート40と称することがある。
【0029】
上記のような構成により、第1シート30は帯状シート40の中央部に位置するように接着され、第2シート20は帯状シート40の端部および上記中央部を含む領域に位置するように接着される。
【0030】
第1シート30は、例えば幅が5〜10mmであり、厚みが0.2mmであり、その組成はナイロン(以下NYという)が91%、ポリウレタン(以下PUという)が9%である。
【0031】
第2シート20は、例えば幅が10〜20mmであり、厚みが0.28mmであり、その組成はNYが62%、PUが38%である。
【0032】
第2シート20の幅方向の伸長率は5%以上200%以下であることが好ましく、10%以上100%以下であることがより好ましい。第2シート20の長さ方向の伸長率は5%以上200%以下であることが好ましく、10%以上100%以下であることがより好ましい。
【0033】
また、第1シート30の幅方向の伸長率は第2シート20の幅方向の上記伸長率よりも小さく、すなわち10%未満であることが好ましく、5%未満であることがより好ましい。また、第1シート30の長さ方向の伸長率は、その幅方向の伸長率の1.5倍以上である。
【0034】
ここで伸長率E(%)は、JIS L 1096織物及び編物の生地試験方法の8.16伸縮織物及び編物の伸縮性の8.16.1伸び率のB法(織物の定荷重法)に基づくものであり、(L−L)/L×100からなる計算式によって算出することができる。なお、Lは元の印間の長さ(mm)であり、Lは14.7Nの荷重を加え1分間保持後の印間の長さ(mm)である。
【0035】
本実施形態では、接合布帛10、第1シート30、および第2シート20の順で積層した布帛構造101を採用し、第1シート30の幅方向の伸長率を第2シート20の幅方向の伸長率よりも小さくすることによって、接合部11に大きな負荷がかかった場合でも、接合部11の目開きを防止できる。また、第1シート30よりも幅の大きい第2シート20の幅方向の伸長率を第1シート30の幅方向の伸長率よりも逆に大きくすることによって、第2シート20を接合布帛10の幅方向の伸びに追随させることができるので、接合部11に対する負荷を軽減することができる。その結果、帯状シート40が剥離することや帯状シート40に接合布帛10の一部が引き摺られる現象(スリップ現象)が発生する危険性を低くすることができる。
【0036】
2.第2実施形態
図4は第2実施形態に係る布帛構造を示す断面図である。なお、以下の説明において第1実施形態と同一符号を付した同じ構成要素についてはその機能が同じであるので説明を省略する。
【0037】
図4に示すように、第2実施形態に係る布帛構造102は、接合布帛10、第2シート20、および第1シート30の順で積層されて構成される。
【0038】
詳細には、布帛構造102においては接合布帛10の一方の面側の接合部11を覆うように帯状シートである第2シート20が接着され、当該第2シート20の上に帯状シートである第1シート30が接着される。
【0039】
上記のような構成により、第1シート30は帯状シート40の中央部に位置するように接着され、第2シート20は帯状シート40の端部および上記中央部を含む領域に位置するように接着される。
【0040】
このように本実施形態では、接合布帛10、第2シート20、および第1シート30の順で積層した布帛構造102を採用し、第1シート30の幅方向の伸長率を第2シート20の幅方向の伸長率よりも小さくすることによって、接合部11に大きな負荷がかかった場合でも、接合部11の目開きを防止できる。また、第1シート30よりも幅の大きい第2シート20の幅方向の伸長率を第1シート30の幅方向の伸長率よりも逆に大きくすることによって、第2シート20を接合布帛10の幅方向の伸びに追随させることができるので、接合部11に対する負荷を軽減することができる。その結果、帯状シート40が剥離することやスリップ現象が発生する危険性を低くすることができる。
【0041】
3.第3実施形態
図5は第3実施形態に係る布帛構造を示す断面図である。
【0042】
図5に示すように、第3実施形態に係る布帛構造103は、第1シート30、接合布帛10、および第2シート20の順で積層されて構成される。
【0043】
詳細には、布帛構造103においては接合布帛10の一方の面側の接合部11を覆うように帯状シートである第1シート30が接着され、接合布帛10の他方の面側の接合部11を覆うように帯状シートである第2シート20が接着される。上記のような構成により、第1シート30は帯状シート40の中央部に位置するように接着され、第2シート20は帯状シート40の端部および上記中央部を含む領域に位置するように接着される。
【0044】
このように本実施形態では、第1シート30、接合布帛10、および第2シート20の順で積層した布帛構造103を採用し、第1シート30の幅方向の伸長率を第2シート20の幅方向の伸長率よりも小さくすることによって、接合部11に大きな負荷がかかった場合でも、接合部11の目開きを防止できる。また、第1シート30よりも幅の大きい第2シート20の幅方向の伸長率を第1シート30の幅方向の伸長率よりも逆に大きくすることによって、第2シート20を接合布帛10の幅方向の伸びに追随させることができるので、接合部11に対する負荷を軽減することができる。その結果、帯状シート40が剥離することやスリップ現象が発生する危険性を低くすることができる。なお、本実施形態に係る布帛構造103は他の実施形態の布帛構造に比べ最も高い引張強度を有する。
【0045】
4.第4実施形態
図6は第4実施形態に係る布帛構造を示す断面図である。
【0046】
図6に示すように、第4実施形態に係る布帛構造104は、接合布帛10および帯状シート41の順で積層されて構成される。布帛構造104においては接合布帛10の一方の面側の接合部11を覆うように帯状シート41が接着される。
【0047】
本実施形態における帯状シート41は、当該帯状シート41の幅方向の中央部に位置し、上述の第1シート30と同じ伸長率を有する第1伸長部43と、その幅方向の両端部に位置し、上述の第2シート20と同じ伸長率を有する第2伸長部42とからなる構成となっている。
【0048】
このように本実施形態では、第1伸長部43の幅方向の伸長率を第2伸長部42の幅方向の伸長率よりも小さくすることによって、接合部11に大きな負荷がかかった場合でも、接合部11の目開きを防止できる。また、第2伸長部42の幅方向の伸長率を第1伸長部43の幅方向の伸長率よりも大きくすることによって、第2伸長部42を接合布帛10の幅方向の伸びに追随させることができるので、接合部11に対する負荷を軽減することができる。その結果、帯状シート41が剥離することやスリップ現象が発生する危険性を低くすることができる。
【0049】
本発明はもとより上記実施形態によって制限を受けるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0050】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0051】
図7は接合布帛10の引張試験の様子を示す説明図である。なお図7では帯状シートは図示していない。
【0052】
図7に示すように、接合布帛10の両端部にそれぞれチャック61,62を取り付け、チャック61を矢印Dの方向に引っ張ったときの引張強度(N)を測定した(JIS L 1093)。比較例として接合布帛10上に幅20mmの第1シート30のみを接着したものを用い、本実施例として接合布帛10上に幅10mmの第1シート30と幅20mmの第2シート20とを積層して接着したものを用いた(上記図3と同じ構成)。なお引張試験条件として、試験回数を実施例及び比較例共に各2回とし、引張速度を300mm/分とし、チャック61,62のつかみ間隔を76mmとし、フルスケールを1000Nとし、接合布帛10の長さを100mmとし、各チャック61,62のつかみ幅を各々25mmとした。測定結果を表1に示す。なお表1中、※印で示した初期強度は、帯状シートの基布とホットメルト層の剥離が始まった時点での強度を意味する。
【0053】
【表1】

【0054】
表1に示すように、比較例の破断時の引張強度に比べ、実施例の破断時の引張強度は約2倍程度となり、また、実施例の布帛構造では接着部分は剥離しなかったので、当該実施例の布帛構造は大きな負荷にも耐え得ることが確認された。
【符号の説明】
【0055】
10 接合布帛
11 接合部
20 第2シート
30 第1シート
40,41 帯状シート
42 第2伸長部
43 第1伸長部
101,102,103,104 布帛構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1布帛の一端部と第2布帛の一端部とが接合された接合布帛の布帛構造であって、前記第1布帛と前記第2布帛との接合部を覆うように接着される帯状シートを備え、前記帯状シートの幅方向の伸長率は、中央部よりも端部の方が大きいことを特徴とする布帛構造。
【請求項2】
前記帯状シートの端部の幅方向の伸長率は、5%以上である請求項1に記載の布帛構造。
【請求項3】
前記帯状シートの中央部の長さ方向の伸長率は、当該帯状シートの中央部の幅方向の伸長率の1.5倍以上である請求項1または2に記載の布帛構造。
【請求項4】
前記帯状シートは、少なくとも第1シートおよび第2シートの積層構造を有し、前記第1シートは前記中央部に形成され、前記第2シートは前記端部および前記中央部を含む領域に形成される請求項1〜3のいずれか1項に記載の布帛構造。
【請求項5】
前記第2シートの幅方向および長さ方向の各伸長率は、5%以上である請求項4に記載の布帛構造。
【請求項6】
前記接合布帛、前記第1シート、および前記第2シートの順で積層されている請求項4または5に記載の布帛構造。
【請求項7】
前記接合布帛、前記第2シート、および前記第1シートの順で積層されている請求項4または5に記載の布帛構造。
【請求項8】
前記第1シート、前記接合布帛、および前記第2シートの順で積層されている請求項4または5に記載の布帛構造。
【請求項9】
第1布帛の一端部と第2布帛の一端部とを接合し、前記第1布帛と前記第2布帛との接合布帛の接合部を覆うように帯状シートを接着する接着方法であって、前記帯状シートの幅方向の伸長率は、中央部よりも端部の方が大きいことを特徴とする接着方法。

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図1】
image rotate