説明

布帛用インクジェットインク、補強された布帛の製造方法

【課題】本発明は、インクジェット法により、耐洗濯性や耐折り曲げ性に優れる補強された布帛を、外観特性の変化を抑えながら製造することができ、布帛着弾時に滲みが抑制され、連続吐出安定性に優れる布帛用インクジェットインクを提供することを目的とする。
【解決手段】多官能重合性モノマーと、沸点が180℃未満の低沸点溶媒と、沸点が180〜250℃の高沸点溶媒とを含む布帛用インクジェットインクであって、多官能重合性モノマーの含有量がインク全量に対して15〜50質量%であり、高沸点溶媒の含有量が、インク全量に対して15〜45質量%であり、低沸点溶媒の含有量が高沸点溶媒の含有量以上であり、25℃におけるインク粘度(V1)と、布帛用インクジェットインクより低沸点溶媒を除いた残部の25℃における粘度(V2)との比(V2/V1)が20以上である布帛用インクジェットインク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、布帛用インクジェットインク、および、該インクを使用して得られる補強された布帛の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、スポーツ衣料、コート、防護服といった着衣製品など様々な繊維製品に布帛が使用されている。一般的に、布帛のほつれ防止やコシ強化などのために、布帛表面に樹脂などを圧着する樹脂加工が行われていた(特許文献1)。
【0003】
一方、近年、商品の美観に対する消費者の意識の向上に伴い、布帛に求められる要求性能が高まっており、従来の樹脂加工された布帛では必ずしもその要求特性に十分に答えることができなくなってきた。
具体的には、従来の樹脂加工された布帛では、樹脂加工前後によって表面の光沢感や色が変化してしまい、布帛自体の風合いが損なわれてしまう場合があった。また、商品の折り曲げや、商品の洗濯を繰り返すうちに、樹脂加工された部分が白化してしまい、商品の美観が損なわれてしまう場合もあった。
【0004】
さらには、布帛を使用した表品のデザインの多様化に伴い、ボタン周りなど局所的な加工が必要とされていたが、従来のような樹脂加工法ではそれらのニーズに対して十分な対応を行うことが困難であった。
【0005】
一方で、近年、インクジェット法によりインクを布帛に付与する方法が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平06−061909号公報
【特許文献2】特開2003−221529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、特許文献2を参照して製造したインクを用いてインクジェット法により布帛の要求特性の向上を試みた所、耐洗濯特性、耐折り曲げ性などの布帛の諸特性は、近年求められるレベルを満たしていないことを見出した。また、布帛の外観特性(光沢感など)に関しても、インクの付与前後において大きく異なり、布帛の風合いが損なわれる場合があることや、布帛上に着弾したインクが必要以上に拡がり(いわゆる「滲み」)などを生じる場合があることを見出した。
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みて、インクジェット法により、耐洗濯性や耐折り曲げ性に優れる補強された布帛を、外観特性の変化を抑えながら製造することができ、布帛着弾時に滲みが抑制され、連続吐出安定性に優れる布帛用インクジェットインクを提供することを目的とする。
さらに、本発明は、該インクを使用した補強された布帛の製造方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意検討を行った結果、所定量の低沸点溶媒および高沸点溶媒、並びに、多官能重合性モノマーを含むと共に、使用するインクの粘度を調整することにより、上記課題が解決できることを見出した。
即ち、本発明者らは、上記課題が下記構成により解決されることを見出した。
【0010】
(1) 多官能重合性モノマーと、
沸点が180℃未満の低沸点溶媒と、
沸点が180〜250℃の高沸点溶媒とを含む布帛用インクジェットインクであって、
前記多官能重合性モノマーの含有量がインク全量に対して15〜50質量%であり、
前記高沸点溶媒の含有量が、インク全量に対して15〜40質量%であり、
前記低沸点溶媒の含有量が前記高沸点溶媒の含有量以上であり、
25℃におけるインク粘度(V1)と、布帛用インクジェットインクより前記低沸点溶媒を除いた残部の25℃における粘度(V2)との比(V2/V1)が20以上である、布帛用インクジェットインク。
【0011】
(2) さらに、界面活性剤を含有する、(1)に記載の布帛用インクジェットインク。
(3) 前記高沸点溶媒と前記低沸点溶媒との沸点差が40℃以上である、(1)または(2)に記載の布帛用インクジェットインク。
(4) 25℃における、表面張力が20〜40mN/mである、(1)〜(3)のいずれかに記載の布帛用インクジェットインク。
【0012】
(5) (1)〜(4)のいずれかに記載の布帛用インクジェットインクを、インクジェット法により布帛に付与するインク付与工程と、
インクが付与された布帛に加熱処理または露光処理を施して、前記インクを硬化させる硬化工程とを備える、補強された布帛の製造方法。
(6) 前記インク付与工程において、布帛に加熱処理を施しながら、布帛にインクを付与する、(4)に記載の補強された布帛の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、インクジェット法により、耐洗濯性や耐折り曲げ性に優れる補強された布帛を、外観特性の変化を抑えながら製造することができ、布帛着弾時に滲みが抑制され、連続吐出安定性に優れる布帛用インクジェットインクを提供することができる。
さらに、本発明によれば、該インクを使用した補強された布帛の製造方法を提供することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明に係る布帛用インクジェットインク(以後、単にインクとも称する)、該インクを使用して得られる補強された布帛の製造方法について詳述する。
本発明のインクジェットインクの特徴点は、多官能重合性モノマー、低沸点溶媒および高沸点溶媒を含有し、製造されるインクとインクより低沸点溶媒を除いた残部の粘度とが所定の関係を満たす点にある。このようなインクであれば、インク吐出時においては優れた連続吐出安定性を達成することができる一方で、布帛への着弾時には低沸点溶媒などが揮発して粘度が上昇し、着弾位置からの拡がり(いわゆる「滲み」)が抑制される。さらに、インク着弾後においては、インク中に高沸点溶媒が一部残存することにより、インクが布帛に浸透し得る程度の浸透性を有しており、結果として布帛の風合いを変化させないように布帛内部に浸透し、硬化し得る。
まず、布帛用インクジェットインクに含有される各種成分(多官能重合性モノマー、低沸点溶媒、高沸点溶媒など)について詳述する。
【0015】
<多官能重合性モノマー>
多官能重合性モノマーとは、分子内に2個以上の重合性基を有する化合物である。
重合性基の数は2個以上であればよいが、得られる布帛のコシの強さの付与、耐折れ曲げ性、耐洗濯性がより優れる点から、3〜8個が好ましく、4〜6個がより好ましい。
重合性基の数が1個である場合、得られる布帛のコシの強さの付与、耐折れ曲げ性、耐洗濯性に劣る。
【0016】
多官能重合性モノマー中の重合性基の種類は特に限定されず、例えば、ラジカル重合性基、カチオン重合性基などが挙げられる。なかでも、素材の選択性が高く、布種に応じたインク作製の対応がより優れる点で、ラジカル重合性基が好ましい。
【0017】
ラジカル重合性基としては、例えば、エチレン性不飽和性基などが挙げられる。より具体的には、アクリル酸エステル基、メタクリル酸エステル基、イタコン酸エステル基、クロトン酸エステル基、イソクロトン酸エステル基、マレイン酸エステル基などの不飽和カルボン酸エステル基、スチリル基、ビニル基、アクリル酸アミド基、メタクリル酸アミド基などが挙げられる。なかでも、本発明の効果がより優れる点で、メタクリル酸エステル基(メタアクリロイルオキシ基)、アクリル酸エステル基(アクリロイルオキシ基)、ビニル基、スチリル基、アクリル酸アミド基、メタクリル酸アミド基が好ましい。
【0018】
カチオン重合性基としては、例えば、エポキシ基(例えば、脂環式エポキシ基、グリシジルエーテル基)、オキセタニル基、ビニルエーテル基、イソブチレン基、シクロペンタジエン基などが挙げられる。なかでも、本発明の効果がより優れる点で、エポキシ基、オキセタニル基が好ましい。
【0019】
多官能重合性モノマーの分子量は特に制限されないが、インクの連続吐出安定性とインクの保存安定性、描画時のインクの滲み防止の観点から、1200以下が好ましい。なお、下限としては、200以上が好ましく、300以上がより好ましい。
多官能重合性モノマーの粘度(25℃)は特に制限されないが、インクの連続吐出安定性、インクの保存安定性、描画時のインクの滲み防止の観点から、100〜30000mPa・sが好ましく、200〜20000mPa・sがより好ましい。
なお、粘度は、モノマーを25℃で保持した状態で、一般に用いられるE型粘度計(例えば、東機産業(株)製E型粘度計(RE−80L))を用いることにより測定される値である。
【0020】
多官能重合性モノマーの種類は特に制限されないが、入手容易性、選択可能な種類の自由度、反応性の観点から、多官能(メタ)アクリレートが好ましい。
例えば、2官能(メタ)アクリレートとしては、エチレングリコール(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノキシエタノールフルオレンジアクリレートなどが挙げられる。
【0021】
また、3官能以上の(メタ)アクリレートとしては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリ((メタ)アクリロイロキシエチル)フォスフェート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0022】
多官能重合性モノマーのインク中における含有量は特に制限されないが、インクの連続吐出安定性、インクの保存安定性、描画時のインクの滲み防止、得られる布帛の耐洗濯性、耐折り曲げ性の観点から、インク全量に対して、15〜50質量%であり、20〜35質量%が好ましい。含有量が15質量%未満の場合、描画時のインクの滲み防止の点で劣る。含有量が50質量%超の場合、インクの連続吐出安定性の点で劣る。
なお、インク中において、多官能重合性モノマーは1種のみを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0023】
なお、布帛用インクジェットインクには、単官能重合性モノマーが含まれていてもよい。
単官能重合性モノマーが含まれる場合は、多官能重合性モノマーと単官能重合性モノマーとの質量比(単官能重合性モノマーの質量/多官能重合性モノマーの質量)は、インクの連続吐出安定性、インクの保存安定性、描画時のインクの滲み防止、得られる布帛の耐洗濯性、耐折り曲げ性の観点から、0.01〜1であることが好ましい。
【0024】
<溶媒(低沸点溶媒および高沸点溶媒)>
本発明の布帛用インクジェットインクには、沸点が180℃未満の低沸点溶媒(第1の溶媒)と、沸点が180〜250℃の高沸点溶媒(第2の溶媒)とが含まれる。
低沸点溶媒の沸点は180℃未満であるが、インクの連続吐出安定性、および、描画時のインクの滲み防止の観点から、80〜170℃が好ましく、100〜160℃がより好ましい。
高沸点溶媒の沸点は180〜250℃であるが、インクの連続吐出安定性、および、得られる布帛の耐洗濯性、耐折り曲げ性の観点から、200℃以上が好ましく、220℃以上がより好ましい。
なお、本明細書において、“沸点”とは、圧力1atmのもとでの沸点を意味する。
【0025】
高沸点溶媒の沸点と、低沸点溶媒の沸点との差は、特に制限されないが、インクの連続吐出安定性と描画時のインクの滲み防止の両立の観点から、40℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましい。
【0026】
インク中における低沸点溶媒の含有量は、インク中における高沸点溶媒の含有量以上である。インクの連続吐出安定性と描画時の滲み防止の両立の観点から、低沸点溶媒の含有量は、インク中の低沸点溶媒と高沸点溶媒との合計量に対して、50〜90質量%が好ましく、60〜80質量%がより好ましい。
上記低沸点溶媒の含有量が高沸点溶媒の含有量より少ない場合、描画時のインクの滲みの点で劣る。
【0027】
なお、高沸点溶媒のインク全量に対する含有量は、インクの連続吐出安定性と描画時のインクの滲み防止の両立の観点から、15〜40質量%であり、20〜35質量%がより好ましい。
また、高沸点溶媒と多官能重合性モノマーとの質量比(高沸点溶媒の質量/多官能重合性モノマーの質量)は、布帛へのインク浸透性と、画像滲み防止の観点から、0.1〜10が好ましく、0.15〜5がより好ましい。
【0028】
低沸点溶媒の粘度(25℃)は特に制限されないが、インクの連続吐出安定性などの吐出適正の観点から、30mPa・s以下が好ましく、20mPa・s以下がより好ましい。
高沸点溶媒の粘度(25℃)は特に制限されないが、インクの連続吐出安定性などの吐出適正とインクの保存安定性の観点から、10〜5000mPa・sが好ましく、20〜1500mPa・sがより好ましい。
なお、粘度は、溶媒を25℃で保持した状態で、一般に用いられるE型粘度計(例えば、東機産業(株)製E型粘度計(RE−80L)を用いることにより測定される値である。
【0029】
低沸点溶媒および高沸点溶媒の種類は、上記沸点を満たしていれば、特に制限されない。これら溶媒の具体例としては、水、炭化水素系溶媒、ハロゲン化炭化水素系溶媒、アルコール系溶媒、エーテル系溶媒、アセタール系溶媒、アルデヒド系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、アミド系溶媒、多価アルコール系溶媒とその誘導体、カルボン酸系溶媒およびカルボン酸無水物などが挙げられる。なかでも、取扱やすさ、使用する素材の溶解性などの点から、水、炭化水素系溶媒、ハロゲン化炭化水素系溶媒、アルコール系溶媒、エーテル系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒などが好ましい。
【0030】
炭化水素系溶媒の具体例としては、例えば、オクタン、ガソリン、シクロへキサン、シクロヘキセン、シクロペンタン、ジペンテン、デカリン、デカン、テトラリン、ドデカン、ノナン、ブタン、ヘキサン、ヘプタン、ペンタン、メチルシクロヘキサン、メチルシクロペンタン、流動パラフィン等の脂肪族炭化水素、アミルベンゼン、イソプロビルベンゼン、エチルベンゼン、キシレン類、ジエチルベンゼン類、ジメチルナフタレン、シメン類、スチレン、ドデシルベンゼン、トルエン、ナフタレン、ビフェニル、ベンゼン、メシチレン等の芳香族炭化水素などが挙げられる。
【0031】
ハロゲン化炭化水素系溶媒の具体例としては、例えば、塩化メチル、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,1-ジクロロエタン、1,2-ジクロロエタン、1,1-ジクロロエチレン、l,2-ジクロロエチレン、ジブロモエタン、ジブロモブタン、ジブロモプロパン、ジブロモペンタン、臭化アリル、臭化イソプロピル、臭化エチル、臭化オクチル、臭化ブチル、臭化プロピル、臭化メチル等の脂肪族ハロゲン化炭化水素、o-クロロトルエン、p-クロロトルエン、クロロベンゼン、2,3-ジクロロトルエン、2,4-ジクロロトルエン、2,5-ジクロロトルエン、2,6-ジクロロトルエン、ブロモナフタレン、ブロモベンゼン等の芳香族ハロゲン化炭化水素などが挙げられる。
【0032】
アルコール系溶媒の具体例としては、例えば、アリルアルコール、イソアミルアルコール、イソブチルアルコール、イソプロピルアルコール、ウンデカノール、エタノール、2-エチルブタノール、2-エチルヘキサノール、エチレンクロロヒドリン、2-オクタノール、n-オクタノール、グリシドール、シクロヘキサノール、n-デカノール、n-ブタノール、s-ブタノール、t-ブタノール、フルフリルアルコール、プロパルギルアルコール、1-プロパノール、n-ヘキサノール、2-ヘプタノール、3-ヘプタノール、n-ヘプタノール、ベンジルアルコール、3-ペンタノール、メタノール等の脂肪族アルコール、エチルフェノール、オクチルフェノール、カテコール、キシレノール、グアヤコール、p-クミルフェノール、クレゾール、m-クレゾール、o-クレゾール、p-クレゾール、ドデシルフェノール、ナフトール、ノニルフェノール、フェノール、ベンジルフェノール、p-メトキシエチルフェノール等の芳香族アルコールなどが挙げられる。
【0033】
エーテル系溶媒の具体例としては、例えば、アニソール、エチルイソアミルエーテル、エチル-t-ブチルエーテル、エチルベンジルエーテル、クレジルメチルエーテル、ジイソアミルエーテル、ジイソプロビルエーテル、ジエチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジブチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジベンジルエーテル、ジメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルメチルエーテル、フェネトール、ブチルフェニルエーテル、メチル-t-ブチルエーテル等の鎖状エーテル、エピクロロヒドリン、エポキシブタン、クラウンエーテル類、酸化プロピレン、ジオキサン、ジグリシジルエーテル、1,8-シネオール、テトラヒドロピラン、テトラヒドロフラン、トリオキサン、フラン、フルフラール、メチルフラン等の環状エーテルなどが挙げられる。
【0034】
アセタール系溶媒の具体例としては、例えば、ジエチルアセタール、メチラールなどが挙げられる。
【0035】
アルデヒド系溶媒の具体例としては、例えば、アクロレイン、アセトアルデヒドなどが挙げられる。
【0036】
ケトン系溶媒の具体例としては、例えば、シクロヘキサノン、アセチルアセトン、アセトフェノン、アセトン、イソホロン、ジアセトンアルコール、ジイソブチルケトン、ジイソプロピルケトン、ジエチルケトン、シクロヘキサノン、ジ-n-プロピルケトン、ホロン、メシチルオキシド、メチル-n-アミルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、メチルシクロヘキサノン、メチル-n-ブチルケトン、メチル-n-ピロピルケトン、メチル-n-ヘキシルケトン、メチル-n-ヘプチルケトンなどが挙げられる。
【0037】
エステル系溶媒の具体例としては、例えば、アジピン酸ジエチル、アジピン酸ジオクチル等のアジピン酸エステル、アセチルクエン酸トリエチル、アセチルクエン酸トリブチル等のクエン酸エステル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸メチル等のアセト酢酸エステル、アビエチン酸メチル等のアビエチン酸エステル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸メチル等の安息香酸エステル、イソ吉草酸イソアミル、イソ吉草酸エチル等のイソ吉草酸エステル、ギ酸エチル、ギ酸ブチル、ギ酸メチル等のギ酸エステル、クエン酸トリブチル等のクエン酸エステル、ケイ酸エステル、ケイ皮酸エチル、ケイ皮酸メチル等のケイ皮酸エステル、酢酸ブチル、酢酸エチル、酢酸シクロヘキシル、酢酸プロピル、酢酸ベンジル、酢酸メチル等の酢酸エステル、サリチル酸イソアミル、サリチル酸ベンジル、サリチル酸メチル等のサリチル酸エステル、シュウ酸ジアミル、シュウ酸ジエチル、シェウ酸ジブチル等のシュウ酸エステル、酒石酸ジエチル、酒石酸ジブチル等の酒石酸エステル、ステアリン酸エチル、ステアリン酸ブチル等のステアリン酸エステル、セバシン酸ジオクチル、セバシン酸ジブチル等のセバシン酸エステル、炭酸ジエチル、炭酸ジフェニル、炭酸ジメチル等の炭酸エステル、乳酸アミル、乳酸エチル、乳酸ブチル、乳酸メチル等の乳酸エステル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル等のフタル酸エステル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸メチル等のプロピオン酸エステルなどが挙げられる。
【0038】
多価アルコール系溶媒とその誘導体の具体例としては、例えば、エチレングリコール、および、エチレンカルボナート、エチレングリコールジアセタート、エチレングリコールジエチルエーテル等のエチレングリコール誘導体:グリセリン、および、グリセリングリシジルエーテル等のグリセリン誘導体:ジエチレングリコール、および、ジエチレングリコールエチルメチルエ一テル、ジエチレングリコールクロロヒドリン、ジエチレシグリコールジアセタート、ジエチレングリコールジエチルエーテル等のジエチレングリコール誘導体:ジプロピレングリコール、および、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエ一テル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のジプロピレングリコール誘導体:トリエチレングリコール、および、トリエチレングリコールジ-2-エチルブチラート、トリエチレシグリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル等のトリエチレングリコール誘導体:トリプロピレングリコール、およびトリプロピレングリコールモノメチルエーテル等のトリプロピレングリコール誘導体:プロピレングリコール、および、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のプロピレングリコール誘導体、などが挙げられる。
【0039】
アミド系溶媒としては、例えば、アセトアミド、カプロラクタム、N,N-ジメチルホルムアミド、2-ピロリドン、ホルムアミド、N-メチルピロリドン、N-メチルホルムアミド、などが挙げられる。
【0040】
<任意成分:界面活性剤>
本発明の布帛用インクジェットインクには、界面活性剤が含まれていてもよい。界面活性剤がインク中に含まれることにより、インクの連続吐出安定性がより優れる。
使用される界面活性剤は、公知の界面活性剤を用いることができる。
界面活性剤の例として、ノニオン系界面活性剤、両性界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤などが挙げられる。ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリエチレングリコール誘導体、ポリプロピレングリコール誘導体が挙げられる。両性界面活性剤としては、例えば、長鎖アルキルのベタイン類が挙げられる。アンモニウムイオンを対イオンとするアニオン系界面活性剤としては、例えば、長鎖アルキル硫酸アンモニウム塩、アルキルアリール硫酸アンモニウム塩、アルキルアリールスルホン酸アンモニウム塩、アルキルリン酸アンモニウム塩、ポリカルボン酸系高分子のアンモニウム塩などが挙げられる。有機酸アニオンを対イオンとするカチオン系界面活性剤としては、例えば、長鎖アルキルアミンアセテート等が挙げられる。なお、上記以外にも、シリコーン系界面活性剤、含フッ素系界面活性剤、アクリル系界面活性剤が挙げられる。
【0041】
界面活性剤がインクに含まれる場合、インク中における界面活性剤の含有量は特に制限されないが、インクの連続吐出安定性がより優れる点で、インク全量に対して、0.01〜5質量%が好ましく、0.1〜3質量%がより好ましい。
【0042】
<任意成分:重合開始剤>
本発明の布帛用インクジェットインクには、重合開始剤が含まれていてもよい。重合開始剤がインク中に含まれることにより、より効率良く重合反応が進行し、得られる布帛の耐洗濯性および耐折り曲げ性がより優れる。
使用される重合開始剤は、公知の重合開始剤(例えば、ラジカル重合開始剤、カチオン重合開始剤)を用いることができる。また、後述するインクの硬化工程の処理(加熱処理または露光処理)に応じて、適宜最適な化合物(熱重合開始剤、光重合開始剤)が選択される。
【0043】
重合開始剤がインクに含まれる場合、インク中における重合開始剤の含有量は特に制限されないが、布帛の補強とインク安定性の両立の観点で、インク全量に対して、0.1〜5質量%が好ましく、0.5〜4質量%がより好ましい。
【0044】
<任意成分:色材>
本発明の布帛用インクジェットインクには、色材が含まれていてもよい。色材がインク中に含まれることにより、デザインと布強度の同時付与が可能であり、また、補強部分のみを視覚的に強調する事が可能となる。
使用される色材は、公知の色材(例えば、染料、顔料)を用いることができ、後述する硬化工程などで高温プロセスを使用する場合は、顔料の使用が好ましい。
なお、染料を使用する場合、耐久性、耐洗濯性などの観点より、反応性染料(反応性基を有する染料)、分散性染料(水に不溶で分散して使用する染料)を使用することが好ましい。
【0045】
色材がインクに含まれる場合、インク中における色材の含有量は特に制限されないが、インクの連続吐出安定性と着色力の両立の観点で、インク全量に対して、0.5〜15質量%が好ましく、1〜10質量%がより好ましい。
【0046】
<任意成分:その他>
本発明の布帛用インクジェットインクには、必要に応じて、その他の添加剤(オリゴマー、バインダー樹脂、単官能重合性モノマーなど)が含まれていてもよい。
オリゴマーまたはバインダー樹脂がインクに含まれる場合、インク中におけるオリゴマーまたはバインダー樹脂の含有量が多すぎると、吐出安定性および保存安定性に悪影響を与えるおそれがあるため、インク全量に対して、0.1〜10質量%が好ましい。
また、オリゴマーおよびバインダー樹脂の分子量としては、吐出安定性の観点から、5000〜30000程度であることが好ましい。
【0047】
<布帛用インクジェットインク>
本発明の布帛用インクジェットインクは、布帛を補強するために使用される。より具体的には、布帛の外観特性の変化を抑えつつ、耐洗濯性、耐折れ曲がり性を向上させることができる。
【0048】
本発明の布帛用インクジェットインクのインク粘度は、インクジェットヘッドで吐出可能な範囲であれば特に限定されないが、吐出安定性の観点から、25℃において50mPa・s以下であることが好ましく、2〜20mPa・sであることがより好ましく、2〜15mPa・sであることが特に好ましい。
なお、上記粘度は、一般に用いられるE型粘度計(例えば、東機産業(株)製E型粘度計(RE−80L)を用いることにより測定される値である。
【0049】
本発明の布帛用インクジェットインクの25℃におけるインク粘度(V1)と、該インクより上記低沸点溶媒を除いた残部の25℃における粘度(V2)との比(V2/V1)は、20以上であり、インクの連続吐出安定性と画像滲み防止の両立などの点から、20〜1000が好ましく、25〜350がより好ましく、25〜200がさらに好ましい。比(V2/V1)が所定値以上であれば、低沸点溶媒が所定量揮発して着弾したインクが、着弾位置から不要な部分に拡がることを抑制できる。
比(V2/V1)が20未満であると、画像滲み防止の点で劣る。
なお、上記残部とは、インクから低沸点溶媒を除いたインク成分(例えば、高沸点溶媒、多官能モノマーなど)を意図する。
【0050】
また、布帛用インクジェットインクの25℃の表面張力(静的表面張力)としては、布帛に対する濡れ性の向上、および、吐出安定性の点で、20〜40mN/mが好ましく、20〜35mN/mがより好ましい。
上述の表面張力は、一般的に用いられる表面張力計(例えば、協和界面科学(株)製、表面張力計FACE SURFACE TENSIOMETER CBVB−A3など)を用いて、ウィルヘルミー法で液温25℃、60%RHにて測定される値である。
【0051】
(布帛用インクジェットインクの製造方法)
本発明の布帛用インクジェットインクの製造方法は特に制限されず、公知のインクジェットインクの製造方法を適用することが可能である。例えば、溶媒(低溶媒沸点および高沸点溶媒)中に多官能重合性モノマーを溶解させた後、任意成分(例えば、界面活性剤、重合開始剤)を溶解させて布帛用インクジェットインクを調製することができる。
【0052】
<補強された布帛の製造方法>
本発明のインクジェットインクを使用して補強された布帛を製造する方法は特に制限されないが、以下の工程を有することが好ましい。
(インク付与工程) 上記布帛用インクジェットインクを、インクジェット法により布帛に付与する工程
(硬化工程) インクが付与された布帛に加熱処理または露光処理を施して、インクを硬化させる工程
以下に、各工程の手順について詳述する。
【0053】
<インク付与工程>
インク付与工程は、上記布帛用インクジェットインクを、インクジェット法により布帛に付与する工程である。該工程においては、インクを布帛の任意の位置に付与することができ、付与されたインクは布帛表面から内部に浸透することができる。
まず、本工程で使用される布帛について詳述し、その後本工程の手順について詳述する。
【0054】
(布帛)
本工程で使用される布帛を形成する繊維は特に制限されないが、例えば、天然繊維、再生繊維、合成繊維などが挙げられ、なかでも天然繊維、合成繊維が好ましい。より具体的には、セルロース繊維(例えば、綿、レーヨン、麻等)、ウール、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アクリル繊維、ポリプロピレン繊維、アセテート繊維、ガラス繊維、カーボン繊維、アラミド繊維、ポリイミド繊維、ポリアクリルニトリル繊維、サルフォン系繊維などが挙げられる。
なお、繊維としては、上述した繊維(例えば、合成繊維)を2種以上含む混紡繊維であってもよい。
【0055】
布帛を形成する繊維の太さ、および、フィラメント数は特に制限されないが、本補強により得られる本発明の効果(耐洗濯性や、耐折れ曲がり性など)がより大きい点から、繊維の太さは10〜500デニールが好ましく、40〜300デニールがより好ましく、フィラメント数は、5〜100本が好ましく、10〜50本がより好ましい。
【0056】
布帛を形成する繊維の織り方は特に制限されず、不織布、編物、平織、二重織、綾織り、朱子織などが挙げられる。なかでも、取扱い性に優れるなどの点から、編物および平織が好ましく、編物が特に好ましい。
【0057】
布帛の目付は特に制限されないが、本補強により得られる本発明の効果(耐洗濯性や、耐折れ曲がり性など)がより大きい点から、から、100〜1000g/m2が好ましく、200〜500g/m2がより好ましい。
【0058】
布帛表面の表面張力は使用されるインクにより適宜調整されるが、インクの浸透と、描画時のインクの滲み防止の両立の観点から、布帛表面の表面張力と上記布帛用インクジェットインクの表面張力との差は、1〜30mN/mであることが好ましい。
【0059】
布帛の厚みは特に制限されないが、本補強により得られる本発明の効果(耐洗濯性や、耐折れ曲がり性など)がより大きい点から、100〜1000μmが好ましく、150〜500μmがより好ましい。
布帛の形状は特に限定されず、例えば、長尺状、円状、楕円状などが挙げられる。
【0060】
(工程の手順)
インクジェット法は、液体吐出孔(インクジェットヘッド)から記録信号(デジタルデータ)に応じたピコリットルオーダーの液体を基材などの対象物に向けて吐出させパターンを形成させるものであり、微細なパターン形成に優れた方法である。
本工程で使用されるインクジェット方式は特に限定されず、帯電したインクジェットインクを連続的に噴射し電場によって制御する方法、圧電素子を用いて間欠的にインクジェットインクを噴射する方法、インクジェットインクを加熱してその発泡を利用して間欠的に噴射する方法等の、各種の従来公知の方法を採用できる。つまり、インクジェット描画は、ピエゾインクジェット方式や、熱インクジェット方式等、従来公知のいずれの方式によって行なってもよい。また、通常のインクジェット描画装置はもちろん、ヒーター等を搭載した描画装置なども使用できる。
【0061】
使用されるインクジェットヘッドとしては、コンティニュアス型やオンデマンド型のピエゾ方式、サーマル方式、ソリッド方式、静電吸引方式等の種々の方式のインクジェットヘッド(吐出ヘッド)を用いることができる。なお、インクジェットヘッドには、必要に応じて、インク粘度を調整するための加熱手段(例えば、ヒーター)が備え付けられていてもよい。
また、インクジェットヘッドの吐出部(ノズル)は、単列配置に限定されず、複数列としても千鳥格子状に配置としてもよい。
【0062】
本工程において、インクジェットヘッドから吐出される1滴あたりのインク吐出量は、2〜30plが好ましく、2〜15plがより好ましい。上記範囲内であれば、インクが布帛に着弾する時に粘度が上昇しやすく、インク画像の滲みをより抑えることができる。
【0063】
上記インクジェット法により、本発明のインクを布帛上の任意の場所に滴下(吐出)する。このとき、布帛の全面に滴下してもよいし、所望のパターン状に滴下してもよい。
吐出した後、溶媒の除去を行うため、必要に応じて乾燥処理を施してもよい。このような乾燥処理は、例えば、ホットプレート、電気炉などによる処理の他、ランプアニールによって行うこともできる。
【0064】
該インク付与工程においては、布帛に加熱処理を施しながら、布帛にインクを付与してもよい。該処理を施すことにより、布帛またはヒーターの輻射熱により、インク着弾前より溶媒の揮発効率が向上し、着弾されたインクから溶媒が素早く除去され、インクが布帛上の不要な部分に拡がるのを防ぐことができる。
加熱処理が施された布帛の温度は特に制限されないが、40〜100℃であることが好ましく、50〜80℃であることがより好ましい。
【0065】
本工程において、インクが布帛に着弾した時の粘度(25℃)が50〜4500mPa・s(より好ましくは、300〜4000mPa・s)となるように、吐出条件(吐出量、布帛の温度など)を調整することが好ましい。上記範囲内であれば、インク画像の滲みをより抑えることができる点で好ましい。
【0066】
<硬化工程>
硬化工程は、上記インク付与工程によりインクが付与された布帛に加熱処理または露光処理を施して、インクを硬化させる工程である。布帛に付与されたインクは一部が布帛表面付近に浸透し、該インクを硬化することで、布帛のほつれ防止やコシ強化につながり、耐洗濯性および耐折り曲げ性などが向上する。
露光処理の方法はインクを硬化できれば特に制限されないが、例えば、UVランプ、可視光線などによる光照射、電子線照射、X線照射などが挙げられる。光源としては、例えば、水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、ケミカルランプ、カーボンアーク灯等がある。さらに、g線、i線、Deep−UV光、高密度エネルギービーム(レーザービーム)も使用できる。
より具体的な態様としては、赤外線レーザーによる走査露光、キセノン放電灯などの高照度フラッシュ露光や、赤外線ランプ露光などが好適に挙げられる。
露光時間としては、光源により異なるが、通常、0.1秒〜5分の間である。露光エネルギーとしては、使用される材料によって適宜選択されるが、1000〜200000mW/cm2が好ましい。
【0067】
加熱処理の方法はインクが硬化できれば特に制限されないが、例えば、送風乾燥機、オーブン、赤外線乾燥機、加熱ドラムなどを用いることができる。
加熱条件は特に限定されないが、温度40〜120℃が好ましく、60〜100℃がより好ましく、加熱時間10〜90分が好ましく、20〜60分がより好ましい。
【0068】
必要に応じて、加熱処理と露光処理とを組み合わせて実施してもよい。例えば、露光処理を行った後、加熱処理を施してもよい。
【0069】
(任意工程:前処理工程)
上記インク付与工程の前に、布帛に対して滲み防止剤を付与する前処理工程を実施してもよい。布帛に対して滲み防止剤を付与することにより、インクが付与された時にインクの拡がりがより抑制され、所望の位置にインクを付与することができる。
【0070】
使用される滲み防止剤は、公知の材料を使用することができ、例えば、各種樹脂ワックスやエマルション、石灰とでんぷん質、天然の糊剤などが挙げられる。
滲み防止剤を付与する方法は特に制限されず、上述したインクジェット法や、滲み防止剤を布帛に塗布する方法などが挙げられる。なお、必要に応じて、滲み防止剤を所定の溶媒に溶かした組成物を製造し、該組成物を布帛に付与してもよい。
【0071】
また、滲み防止剤を布帛に付与後、溶媒などを除去するために、必要に応じて乾燥処理を施してもよい。
【0072】
<補強された布帛>
上述した方法により製造される補強された布帛は、様々な用途に使用される。例えば、被服、家具装飾、包装用布、テント、幌などの外装品などが挙げられる。
より具体的には、所望の大きさに切り離され、その切り離された片は、縫着、接着、溶着などの最終的な加工品を得るための工程を施され、ワンピース、ドレス、ネクタイ、水着などの衣類や、布団カバー、ソファーカバー、ハンカチ、カーテンなどを得ることができる。
【実施例】
【0073】
以下、実施例により、本発明について更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0074】
<布帛用インクジェットインクの調製>
下記の成分を表1に記載の配合割合で混合し、1時間撹拌し、布帛用インクジェットインクを調製した。
なお、表1で製造された各インクを50℃の環境下、10日間放置しても、その物性が変化せず、優れた保存安定性を有していた。
【0075】
(モノマー)
・ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)
・ジペンタエリスリトールヘキサグリシジルエーテル(DPHG)
・ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート(DTMPTA)
・エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリアクリレート(商標:SR―9035、サートマー製)
・フェノキシエチルアクリレート(PhEA、沸点300℃以上)
【0076】
(溶媒)
・蒸留水(沸点100℃)
・プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA、沸点146℃)
・シクロヘキサノン(沸点156℃)
・トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(TPGmME、沸点243℃)
・2−ピロリドン(沸点245℃)
・ジエチレングリコール(沸点244℃)
・グリセリン(沸点290℃)
【0077】
(界面活性剤)
・オルフィンE1010(日信化学社製、アセチレンジオール系界面活性剤)
・BYK−323(BYKケミー社製)
【0078】
(オリゴマー)
・アロニックスM−1200(東亞合成社製)
(バインダー)
・PEG5000(Aldrich社製)
・アクリル樹脂(Aldrich社製、PMMA-nBMA copolymer(Mw:20000))
【0079】
(色材)
・顔料分散液A(以下の調製法で得られた分散液)
以下の素材を下記の組成にて混合し、ミキサー(シルバーソン社製L4R)を用いて2,500回転/分にて10分撹拌した。その後、ビーズミル分散機DISPERMAT LS(VMA社製)に入れ、直径0.65mmのYTZボール(ニッカトー社製)を用い、2,500回転/分で6時間分散を行い、顔料分散物Aを得た。
【0080】
・IRGALITTE BLUE GLVO 30質量部
・RAPI−CURE DVE−3 25質量部
・アジピン酸ジビニル 25質量部
・DISPERBYK−168 20質量部
【0081】
・顔料分散液B(以下の調製法で得られた分散液)
イソプロパノール(187.5質量部)を窒素雰囲気下、80℃に加温した中に、メタクリル酸メチル(478質量部)/メタクリル酸(172質量部)/2−エチルヘキシルメタクリレート(350質量部)/2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(22.05質量部)の混合液を2時間かけて滴下した。滴下終了後、更に4時間、80℃に保った後に、25℃まで冷却した。溶媒を減圧除去することにより、平均重量分子量約30000、酸価154mgKOH/gの水溶性樹脂分散剤P−1(水溶性分散剤)を得た。
【0082】
水溶性樹脂分散剤P−1(150質量部)を水に溶かして、水酸化カリウム水溶液を用いて中和後のpHが10.1、水溶性樹脂分散剤濃度が30.6質量%となるように水溶性樹脂分散剤水溶液を調製した。この水溶性樹脂分散剤水溶液147質量部に対し、ピグメントブルー15:3(大日精化株式会社製 フタロシアニンブル−A220)90質量部と水362質量部を混合し、ビーズミル(0.1mmΦジルコニアビーズ)を使い、3時間分散し、顔料濃度15質量%の未架橋の顔料含有樹脂粒子の分散物N1を得た。
未架橋の顔料含有樹脂粒子の分散物N1(70質量部)に対し、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル0.35質量部を添加し、50℃にて6時間半反応後、25℃に冷却することにより、顔料濃度14.9%の架橋された顔料含有樹脂粒子の分散物Bを得た。
【0083】
・Blue CN−MG(日本化薬社製)
・Blue E−BG(日本化薬社製)
【0084】
(重合開始剤)
・V−30(Wako製、アゾ系熱開始剤)
・IRGACURE819(チバスペシャルティケミカルズ製)
【0085】
【表1】

【0086】
<インクジェット法による補強された布帛の製造方法>
Dimatix社製インクジェットヘッド(SE−128:ヘッド温度はインク粘度が7〜13cPになる様に加温調整、ステージ温度を60℃に設定)を搭載した富士フイルム製インクジェットプリンターDMP−3000を用いて、上記で調製したインクを布帛に付与した。インクジェットヘッドから吐出される1滴あたりのインク吐出量は、10pl(ピコリットル)であった。また、布帛表面の温度は58℃であった。
その後、以下の硬化方法Aまたは硬化方法Bにて、付与されたインクの硬化を行った。
(硬化方法A):布帛をオーブンにて180℃、30分間加熱した。
(硬化方法B):三永電機製作所製UVE−251S(光源:EL−100)にて布帛を露光(露光時間:120秒、露光エネルギー:3600mJ/cm2)し、その後オーブンにて130℃、30分間加熱した。
【0087】
なお、使用する布帛としては、以下の3種類を使用した。
・布帛A 綿100% 20/16オックス平織布
・布帛B ポリエステル100%ツイル布
・布帛C:タテ糸にポリエステル100%のフィラメントウーリー加工糸、ヨコ糸にポリエステル50%、綿50%の混紡糸を使用した生地の目付けが250g/m2の1/2ツイル織物
【0088】
<評価方法>
(インクの粘度、表面張力)
上記で調製されたインクの粘度、および表面張力を測定した。
インク粘度は、得られたインクを25℃に調温したまま、東機産業(株)製E型粘度計(RE−80L)を用いて以下の条件で測定した。結果を表2に示す。
(測定条件)
・使用ロータ:1° 34’×R24
・測定時間 :2分間
・測定温度 :25℃
【0089】
表面張力は、得られたインクを25℃に調温したまま、協和界面科学(株)製表面張力計(FACE SURFACE TENSIOMETER CBVB−A3)を用いて測定した。結果を表2に示す。
【0090】
上記で調製されたインクから沸点が180℃未満の低沸点溶媒を除去された残部の粘度を、上記と同様の方法で測定した(表2中、インク粘度(低沸点溶媒除去時)と表記する)。
【0091】
(連続吐出安定性)
富士フイルムDimatix社製インクジェットプリンターDMP−2831を用い、10ノズルを使用して4kHzの周波数で各インクの吐出を20分間連続して行った。評価基準は以下の通りである。なお、実用上、「△」以上であることが必要である。
「○」:20分後に0〜1ノズルにおいて不吐出または飛翔曲がりが生じている場合
「△」:20分後に2〜3ノズルにおいて不吐出または飛翔曲がりが生じている場合
「×」:20分後に4ノズル以上で不吐出若しくは飛翔曲がりが生じている場合、または、すべてのノズルで吐出開始自体が不可能な場合
【0092】
(硬化性)
得られた布帛の表面を触り、タック性が観測されない場合を「○」、硬化不完全によりタック性が観測される場合を「×」とした。
【0093】
(外観評価(光沢感))
インク付与前の布帛と、インク付与後の布帛との光沢感に関して、以下の基準に従って、評価した。
「○」:インク付与前後における光沢度の変化が10%以下である場合
「×」:インク付与前後における光沢度の変化が10%超である場合
なお、光沢度は、インク付与前および付与後の布帛に対して、JIS Z8741(1997年)に従い、デジタル変角光度計(商品名:UGV−5D、スガ試験機(株)製)を用いて、入射角60°、受光角60°で測定した。
【0094】
(外観評価(色相))
インク付与前の布帛と、インク付与後の布帛との色相に関して、以下の基準に従って、評価した。なお、該色相の評価は、使用されるインクに色材が含まれない場合のみ実施した。
「○」:インク付与前後におけるΔEabが10以下である場合
「×」:インク付与前後におけるΔEabが10%超である場合
なお、色相の測定には、UV−560(日本分光社製)を用いた。ΔEabは、CIE1976(L*,a*,b*)空間表色系による以下の色差公式から求められる値である(日本色彩学会編 新編色彩科学ハンドブック(昭和60年)p.266)。
ΔEab={(ΔL)2+(Δa)2+(Δb)21/2
【0095】
(耐折曲げ性)
試験布(インク付与後の布帛)に対してJIS K−5600対応の屈曲試験機を用い、180℃折り曲げを一定回数行い、その後の外観変化を目視にて確認した。表面の割れや、色または光沢感に変化を生じた時点で評価を終了し、以下のように評価した。
「◎」:1000回以上の折り曲げ試験にて外観変化があった場合。
「○」:500回以上1000回未満の折り曲げ試験にて外観変化があった場合。
「△」:100回以上500回未満の折り曲げ試験にて外観変化があった場合。
「×」:100回未満の折り曲げ試験にて外観変化があった場合。
尚、実用上、△以上の評価が必要となる。
【0096】
(耐洗濯性)
JIS L 0844で使用されるラウンダオメータを用い、液量100mL、石鹸0.5gと試験布を入れ、40℃で30分間攪拌、水洗、脱水、乾燥を所定回数行い、その後の外観変化を目視にて確認した。表面の割れや、色または光沢感に変化を生じた時点で評価を終了し、以下の様に評価した。
「○」:400回以上の洗濯試験にて外観変化があった場合。
「△」:100回以上400回未満の洗濯試験にて外観変化があった場合。
「×」:100回未満の洗濯試験にて外観変化があった場合。
尚、実用上、△以上の評価が必要となる。
【0097】
(滲み評価)
試験布帛上へ、5mm□の範囲に、滴量10pl、打滴間隔10μmで10箇所の描画を行い、描画画像の各辺の平均拡がり長さ(4辺×10箇所の計40辺の平均)を測定し、以下の様に評価した。
「○」:インク拡がりが2mm以内であった場合。
「△」:インク拡がりが2mmより大きく、4mm以内であった場合。
「×」:インク拡がりが4mmより大きかった場合。
尚、実用上、△以上の評価が必要となる。
【0098】
なお、表2中における比較例7は、アイロンを用いてアイロンプリントペーパーKJ−PS10(コクヨ社製)を布帛に熱圧着(温度:200℃、時間:2分間)して得られる布帛に対して、各種評価を行った結果を示す。
また、表2中における比較例8は、EPICLON TSR−960(DIC社製)に対し、テトラエチレンペンタミンを10質量%添加し、メチルエチルケトンを用いて2倍に希釈した液を布帛表面に塗布して、加熱処理(温度:130℃、時間:30分間)を行って得られた布帛に対して、各種評価を行った結果を示す。
【0099】
【表2】

【0100】
上記表2の結果より、本発明の布帛用インクジェットインクを使用すると、優れた連続吐出安定性を示しつつ、インクの滲みが抑制され、得られる布帛の外観特性を損なうことなく、耐折り曲げ性および耐洗濯性を向上させることができる。
一方、比較例においては、インクの連続吐出安定性、描画画像のインクの滲み、布帛への強度付与、布帛の外観維持の鼎立が困難である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多官能重合性モノマーと、
沸点が180℃未満の低沸点溶媒と、
沸点が180〜250℃の高沸点溶媒とを含む布帛用インクジェットインクであって、
前記多官能重合性モノマーの含有量がインク全量に対して15〜50質量%であり、
前記高沸点溶媒の含有量が、インク全量に対して15〜40質量%であり、
前記低沸点溶媒の含有量が前記高沸点溶媒の含有量以上であり、
25℃におけるインク粘度(V1)と、布帛用インクジェットインクより前記低沸点溶媒を除いた残部の25℃における粘度(V2)との比(V2/V1)が20以上である、布帛用インクジェットインク。
【請求項2】
さらに、界面活性剤を含有する、請求項1に記載の布帛用インクジェットインク。
【請求項3】
前記高沸点溶媒と前記低沸点溶媒との沸点差が40℃以上である、請求項1または2に記載の布帛用インクジェットインク。
【請求項4】
25℃における、表面張力が20〜40mN/mである、請求項1〜3のいずれかに記載の布帛用インクジェットインク。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の布帛用インクジェットインクを、インクジェット法により布帛に付与するインク付与工程と、
インクが付与された布帛に加熱処理または露光処理を施して、前記インクを硬化させる硬化工程とを備える、補強された布帛の製造方法。
【請求項6】
前記インク付与工程において、布帛に加熱処理を施しながら、布帛にインクを付与する、請求項5に記載の補強された布帛の製造方法。

【公開番号】特開2012−158683(P2012−158683A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−18940(P2011−18940)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】