説明

布状長繊維セルロース、この布状長繊維セルロースを用いた複合材料、及び、布状長繊維セルロースの製造方法

【課題】使用する樹脂毎に、バインダの設計・検討を必要としない、布状長繊維セルロース、この布状長繊維セルロースを用いた複合材料、及び、布状長繊維セルロースの製造方法を提供する。
【解決手段】短繊維セルロースを、長繊維セルロース表面に固着させた布状長繊維セルロース。長繊維セルロースの直径は、0.01〜5mmであると好ましく、また、短繊維セルロースの直径は、0.5〜10μmであり、短繊維セルロースの長さは、0.01〜5mmであると好ましい。また、短繊維セルロースが、長繊維セルロース表面において、繊維同士の物理的な絡み合いを形成していると好ましい。短繊維セルロース分散液に布状長繊維セルロースを含浸させる第1工程と、前記分散液の溶媒を除去する第2工程とにより製造される、布状長繊維セルロースの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、布状長繊維セルロース、この布状長繊維セルロースを用いた複合材料、及び、布状長繊維セルロースの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石油資源の安定供給への懸念と地球温暖化が問題となっている。こうした背景を元にリサイクル性やカーボンニュートラルの観点から、石油由来材料の代替として、植物由来材料に注目が集まっている。
ポリ乳酸といった植物由来の生分解性樹脂については、飛躍的に研究が進み実用化も始まっているが、既存の汎用樹脂と比較して、機械特性や耐熱性といった面での課題も未だ残されている(例えば、特許文献1、及び2参照)。
一方で、植物由来材料には、繊維材料としての側面も挙げられる。植物由来の繊維は、主にセルロースから構成され、その高い結晶化度に由来して優れた強度や耐熱性を有する。
また、植物由来の繊維は、ガラス繊維又はカーボン繊維に比べて比重が小さいことから、軽量化を実現する複合材料の、繊維強化材としての用途展開が期待される。
【0003】
植物由来の繊維を繊維強化材とする樹脂複合材料は、以前より検討されてきた(例えば、特許文献3及び4参照)。
しかし、植物由来の繊維と、樹脂との相溶性が低く、繊維と樹脂との界面の、接着性改善が課題であった。植物由来の繊維を構成するセルロースは、分子内、及び分子間に強固な水素結合を形成して結晶化する。よって、セルロースの化学的な反応性は低く、植物由来の繊維そのものを、直接変性化して利用することは困難である。
また、変性化により繊維の結晶性が失われると、機械的強度や耐熱性が低下するという問題も生じる。従って、セルロースの優れた物性を活かしつつ、繊維強化材料としての取扱性を改善する有効な手段の開発が望まれてきた。
【0004】
セルロース系材料と樹脂との複合材料では、バインダ添加によるセルロースと樹脂との界面接着性の改善が検討されてきた。例えば、木質チップとポリプロピレン(PP)との複合材料には、樹脂であるPPの一部に無水マレイン酸を導入して、木質チップへの相溶性を付与した、無水マレイン酸変性PPを添加する手法が取られている(例えば特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−88358号公報
【特許文献2】特開2003−96321号公報
【特許文献3】特開2004−130796号公報
【特許文献4】特開2006−205644号公報
【特許文献5】特開平11−12401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、無水マレイン酸変性PPを添加するような手法は、使用する樹脂毎に対応したバインダの設計・検討が必要となる。
【0007】
本発明は、使用する樹脂毎に、バインダの設計・検討を必要としない、布状長繊維セルロース、この布状長繊維セルロースを用いた複合材料、及び、布状長繊維セルロースの製造方法を提供することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下のものに関する。
(1)短繊維セルロースを、長繊維セルロース表面に固着させた布状長繊維セルロース。
(2)項(1)において、長繊維セルロースが、直径0.01〜5mmである布状長繊維セルロース。
(3)項(1)又は(2)において、長繊維セルロースが、織布形態である布状長繊維セルロース。
(4)項(1)乃至(3)の何れかにおいて、短繊維セルロースが、直径0.5〜10μmである布状長繊維セルロース。
(5)項(1)乃至(4)の何れかにおいて、短繊維セルロースが、長さ0.01〜5mmである布状長繊維セルロース。
(6)項(1)乃至(5)の何れかにおいて、短繊維セルロースが、長繊維セルロース表面において、繊維同士の物理的な絡み合いを形成している布状長繊維セルロース。
(7)項(1)乃至(6)の何れかにおいて、短繊維セルロースの長繊維セルロース表面に対する固着量が、0.1〜50質量%である布状長繊維セルロース。
(8)項(1)乃至(7)の何れかにおいて、長繊維セルロースが、その結晶化度を、70%以上とする布状長繊維セルロース。
(9)項(1)乃至(8)の何れかにおいて、短繊維セルロースが、その結晶化度を、10〜70%とする布状長繊維セルロース。
(10)項(1)乃至(9)の何れかにおいて、短繊維セルロースが、化学的に変性させられる布状長繊維セルロース。
(11)項(10)において、化学的に変成させるものが、シランカップリング剤である布状長繊維セルロース。
(12)項(1)乃至(11)の何れかにおいて、短繊維セルロースが、ビニル基、アリル基、アクリル基、メタクリル基、グリシジル基、脂環式エポシキ基、オキセタン基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、イソシアネート基、アミノ基、イミダゾール基、フェノール基から選ばれる少なくとも1種の置換基を有する布状長繊維セルロース。
(13)項(12)において、短繊維セルロースが、ビニル基、アリル基、アクリル基、メタクリル基、グリシジル基、脂環式エポシキ基、オキセタン基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、イソシアネート基、アミノ基、イミダゾール基、フェノール基から選ばれる少なくとも1種の置換基を、0.01〜40mmol/g有する布状長繊維セルロース。
(14)項(1)乃至(13)の何れかに記載の布状長繊維セルロースと、樹脂とを複合化して得られる複合材料。
(15)項(14)において、布状長繊維セルロースが、全質量に対して、5〜80質量%含まれる複合材料。
(16)項(1)乃至(13)に記載の布状長繊維セルロースが、短繊維セルロース分散液に布状長繊維セルロースを含浸させる第1工程と、前記分散液の溶媒を除去する第2工程とにより製造される、布状長繊維セルロースの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により得られた短繊維セルロース又は変性化短繊維セルロースを固着させた布状長繊維セルロースでは、セルロース材料の機械特性及び耐熱性を活かしつつ、任意に表面特性を設計することができる。これまでセルロース材料では機械的強度及び熱的特性と、化学的変性による機能化の両立が課題であった。本発明ではこの課題を克服した材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の、実施例1にて作製した織布状ラミー長繊維セルロースのSEM写真を示す。
【図2】本発明の、比較例4にて作製した織布状ラミー長繊維セルロースのSEM写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明にて用いる繊維セルロースは、植物性、動物性又は微生物性の何れでもよく限定されないが、生産性に優れる点で植物性であることが好ましい。
【0012】
植物では、木本由来あるいは草本由来の何れでもよく限定されない。木本植物では、スギ、ヒノキ、クスノキ、タブノキ、カエデ、マツ、ブナ、ケヤキ等が挙げられるが、これらには限定されない。草本植物では、麻(ヘンプ、フラックス、ラミー、ジュート、ケナフ、サイザル等)、木綿、竹等が挙げられるが、これらに限定されない。これらのうち、生長が速く生産性に優れる点で草本植物の方が好ましい。
【0013】
繊維セルロースは、その処理段階を限定しない。植物由来である場合、木本や草本から酸又はアルカリ処理により繊維を取り出したもの、それに更なる処理を加えて脱リグニン等の化学処理や紡糸等の機械処理を加えていてもよい。
【0014】
長繊維セルロースは、直径0.01〜5mmが好ましい。この範囲であれば、生産性が良好で、且つ機械的強度に優れる。長繊維セルロースの直径が0.01mm未満では、大量生産が困難である。また、長繊維セルロースの直径が5mmを超えるものである場合、繊維の取扱性が好ましくない。
尚、長繊維セルロースとは、短繊維セルロースよりも、繊維長が長いという意味で用いているが、具体的には、長繊維セルロースの長さを、5mm以上とすることが好ましく、このような長さにすることで、織布状にし易くなる。
【0015】
長繊維セルロースの形態としては、解繊状、不織布、織布等が挙げられるが、織布状にあることが好ましい。ここで、織布の作製方法及び種類は特に限定されない。織布の織り方としては平織、綾織、朱子織等が挙げられるが、これらの何れでもよく限定されない。また編み方としては、平編、リブ編、パール編、両面編、デンビー編、アトラス編、コード編、チェーン編等が挙げられるが、これらの何れでもよく限定されない。不織布状長繊維セルロースは、布内での繊維の分布に偏りが無いため機械的強度の均一性に優れる。解繊状長繊維セルロースは、織布状長繊維セルロースに比べて材料の成形性が、やや劣る。不織布状長繊維セルロースは、織布状長繊維セルロースに比べて材料の成形性が、やや劣る。また不織布状長繊維セルロースは、布内の繊維の分布に偏りが大きいため機械的強度の均一性が、やや劣る。
【0016】
短繊維セルロースは、直径0.5〜10μm、長さ0.01〜5mmであることが好ましい。この範囲内であれば、取扱性に優れる。短繊維セルロースが、直径0.5μm未満又は10μmを超えるか、長さ0.01mm未満又は5mmを超えるものであると、大量生産が困難であるため好ましくない。また短繊維セルロースが、長さ0.01mm未満であると、繊維同士の物理的な絡み合いを、長繊維セルロースの表面にて形成することが困難であるため、好ましくない。
【0017】
短繊維セルロースの長繊維セルロースへの固着は、短繊維セルロース分散液に、布状長繊維セルロースを含浸させ、その後溶媒を除去することで、行える。この手法により、セルロース短繊維間、並びに短繊維と長繊維との間に、繊維同士の物理的な絡み合い、及び水素結合が形成されるため、短繊維セルロースを長繊維セルロースの表面に、強固に固着させることができる。
【0018】
短繊維セルロースの長繊維セルロース表面への固着量は、0.1〜50質量%であることが好ましい。短繊維セルロースの長繊維セルロース表面への固着量が0.1質量%未満であると、短繊維セルロース同士の繊維の物理的な絡み合いが形成されにくいため好ましくない。また、短繊維セルロースの長繊維セルロース表面への固着量が50質量%を超えると、短繊維セルロースと長繊維セルロースとの接着性が低下するため好ましくない。
【0019】
短繊維セルロースを分散させる溶媒としては、短繊維を均一に分散させることができれば特に制限はない。具体的には、水やメタノール等のプロトン性極性溶媒が挙げられるが、生産工程での環境負荷や廃液処理を考慮すると、水を用いることが好ましい。
【0020】
短繊維セルロースの分散液は、液中にセルロース固形分を全質量に対して、0.005〜5質量%含んでいることが好ましい。セルロース固形分が、0.005質量%未満であると、短繊維セルロースを長繊維セルロースの表面に、0.1〜50質量%の範囲で、固着させることが困難となる。また、セルロース固形分が、5質量%を超えたものであると、分散液の粘度が高く生産性が劣るため好ましくない。
【0021】
長繊維セルロースの結晶化度は、70%以上であることが好ましい。セルロースは、分子内、及び分子間に形成される水素結合のために、高結晶性である。この高結晶性に起因して、セルロースは、優れた機械的強度や耐熱性といった特性を有する。よって、機械的強度と耐熱性の観点からは、長繊維セルロースの結晶化度は、70%以上であることが好ましい。長繊維セルロースの結晶化度が、70%未満であると、特に機械的強度の低下が避けられないため好ましくない。
ここで述べる結晶化度(長繊維、短繊維共通)は、結晶領域の質量分率を意味するものであり、X線散乱強度分布を測定し、結晶領域からの散乱ピークと、非晶領域からの散乱ピークとを分離し、その比を計算する、X線回折法を用いることができる。
【0022】
短繊維セルロースの結晶化度は、10〜70%であることが好ましい。セルロースは、高い水素結合能を有し、結晶性であることから、化学的な反応性は低い。しかし、セルロースの構造中に非晶質部が存在していれば、その非晶質部領域は、化学的に変性化することができる。短繊維セルロースの結晶化度が70%を超えたものであると、短繊維セルロースを化学的に変性化することは困難である。また、短繊維セルロースの結晶化度が、10%未満であると、長繊維セルロース表面への固着が良好に得られない。
【0023】
短繊維セルロースは、これを化学的に変性化し、長繊維セルロースの繊維表面に固着させるのが好ましい。長繊維セルロースは、材料の機械的強度や耐熱性に寄与し、短繊維セルロースは、材料の表面特性に寄与している。よって、化学的に変性化した短繊維セルロースを布状長繊維セルロースの繊維表面に固着させることで、機械的強度及び耐熱性と、表面特性とを両立させた布状長繊維セルロースを得ることができる。
【0024】
短繊維セルロースに導入する置換基としては、樹脂と反応性を有する官能基を選択することが好ましい。短繊維セルロースに導入する樹脂に対して、反応性を有する置換基としては、ビニル基、アリル基、アクリル基、メタクリル基、グリシジル基、脂環式エポシキ基、オキセタン基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、イソシアネート基、アミノ基、イミダゾール基、フェノール基の中から少なくとも一種を選択することができる。
これらの置換基を導入する方法としては、変性化剤として既存のシランカップリング剤を用いる他に、セルロースのヒドロキシ基と反応性を有する化合物とのカップリングが挙げられる。セルロースのヒドロキシ基と反応性を有する化合物としては、イソシアネート化合物、エポキシ化合物、カルボン酸化合物、酸無水物、アミノ化合物、ハロゲン化合物等が挙げられる。
【0025】
短繊維セルロースに、樹脂と反応性を有する置換基を導入する手法としては、変性化剤にシランカップリング剤を用いることが好ましい。シランカップリング剤は、ガラス繊維強化樹脂のガラス繊維の改質に使用されており、樹脂と反応性を有する既存の変性化剤として種類も多く好ましい。また、シランカップリング剤は、イソシアネート化合物等前記の化合物とのカップリングに比べると、水系での柔和な反応で、且つ処理時間が短時間に抑えられる。
【0026】
短繊維セルロースに導入されたビニル基、アリル基、アクリル基、メタクリル基、グリシジル基、脂環式エポシキ基、オキセタン基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、イソシアネート基、アミノ基、イミダゾール基、フェノール基から選ばれる少なくとも一種の置換基は、短繊維セルロースに対して、0.01〜40mmol/g導入されていることが好ましい。
ここで述べる導入の量は、短繊維セルロース1gに対して、上記各種置換基から選択されるものが、0.01〜40mmol存在することを意味する。
短繊維セルロースに対する前記の置換基の導入量が、0.01mmol/g未満では、短繊維セルロースに樹脂との反応性を付与しにくい。短繊維セルロースに対する前記の置換基の導入量が、40mmol/gを超える場合は、短繊維セルロースの長繊維セルロースに対する接着性が徐々に低下するため、長繊維表面への固着が良好に得にくい。また、短繊維セルロースに対する前記の置換基の導入量が、40mmol/gを超えるようなものは、合成上困難である。
【0027】
短繊維セルロース並びに変性化した短繊維セルロースを、長繊維セルロース表面に固着させた、布状長繊維セルロースと複合化する樹脂は、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂のどちらでも用いることができ、限定されない。
また、複合化は、布状長繊維セルロースと樹脂との合計質量に対し、布状長繊維セルロースが、5〜80質量%であることが好ましく、この範囲であれば、布状長繊維セルロースの特性を生かす複合材料とすることができる。
熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、アルキド樹脂、ジアリールフタレート樹脂、シリコーン樹脂、フラン樹脂、ケトン樹脂、キシレン樹脂等が挙げられる。
熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリエステル、アクリル樹脂、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体)樹脂、AS(アクリロニトリル・スチレン共重合体)樹脂、スチレン系樹脂、ポリアミド、ポリメタクリレート、ポリ塩化ビニル、生分解性樹脂等が挙げられる。
また、生分解性樹脂としては、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリビニルアルコール、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシ酪酸等が挙げられる。
【0028】
短繊維セルロース並びに変性化した短繊維セルロースを、長繊維セルロース表面に固着させた、布状長繊維セルロースと樹脂とを複合化する方法は、特に限定されない。具体的には、樹脂ワニスに、短繊維セルロース並びに変性化した短繊維セルロースを繊維表面に固着させた布状長繊維セルロースを含浸させる、短繊維セルロース並びに変性化した短繊維セルロースを、長繊維セルロース表面に固着させた、布状長繊維セルロースに、樹脂ワニスをスプレー吹き付け又は塗布する、若しくは、短繊維セルロース並びに変性化した短繊維セルロースを、長繊維セルロース表面に固着させた、布状長繊維セルロースとシート状の樹脂とをラミネートする等の手法が挙げられる。
【0029】
また、複合材料の成形方法としては、圧縮成形、トランスファー成形、押出成形、射出成形、SMC成形、BMC成形等が挙げられるが、何れでもよく限定はされない。
【実施例】
【0030】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0031】
<実施例1>非変性短繊維セルロースを長繊維セルロース表面に固着させた織布状ラミー長繊維セルロースと不飽和ポリエステルとの複合材料
短繊維セルロース(ダイセル化学工業株式会社製、商品名「セリッシュ KY−100G」、セルロース固形分:10質量%):25gを、純水:125g中に加え、高圧ホモジナイザを用いて、13500回転/分で5分間攪拌処理し、短繊維セルロース分散液を調製した。この短繊維セルロース分散液:4gを、純水:60g中に加え、低濃度短繊維セルロース分散液を調製した。これに、織布状ラミー長繊維セルロースを含浸し、溶媒を除去した。続いて、100℃にて1時間乾燥させ、短繊維セルロースを、織布状ラミー長繊維セルロースの、繊維表面上に固着させた。
【0032】
短繊維セルロースが、織布状ラミー長繊維セルロースの繊維表面上に、絡み合いを形成して固着している様子は、図1に示されるSEM像により観察された。また、このとき、短繊維セルロースの、織布状ラミー長繊維セルロースへの固着量は、9.7質量%であった。
【0033】
こうして得られた短繊維セルロースを固着した織布状ラミー長繊維セルロースを、3枚積層させ、不飽和ポリエステル(ディーエイチ・マテリアル株式会社製、商品名「サンドーマ FH−111」)と複合化した。硬化剤には、ベンジルパーオキサイド(Lancaster株式会社製、75質量%)を使用し、不飽和ポリエステルに対して1.5質量%添加した。複合化は、注型重合法により行い、硬化条件は100℃にて20分間とした。
【0034】
この複合材料は、セルロース含有量:32質量%、引張特性:強度181MPa、弾性率7.29GPa(25℃)であった。
【0035】
<実施例2〜7>メタクリル変性化短繊維セルロースを長繊維セルロース表面に固着させた織布状ラミー長繊維セルロースと不飽和ポリエステルとの複合材料
短繊維セルロース(ダイセル化学工業株式会社製、商品名「セリッシュ KY−100G」、セルロース固形分:10質量%):70gを、シランカップリング剤溶液:3000g中に加え、70℃にて1時間攪拌した。尚、シランカップリング剤には、メタクリル変性されたLS−3380(信越化学工業株式会社製、商品名)を使用した。シランカップリング剤溶液は、塩酸にてpH3に調製した水溶液:2950gに、メタクリル変性されたLS−3380(信越化学工業株式会社製、商品名):52.5g加え、室温(25℃)で5分間攪拌することで得られた。攪拌終了後、短繊維セルロースは純水を用いて十分に洗浄した。
【0036】
短繊維セルロースの変性化は、KBr法による赤外吸収スペクトの1724cm−1に、メタクリル基のカルボニル由来の吸収が測定されることから確認した。
【0037】
得られたメタクリル変性化短繊維セルロースを用いて、前記実施例1の手順に従い、メタクリル変性化短繊維セルロースの固着量を変えた、織布状ラミー長繊維セルロースと不飽和ポリエステルとの複合材料を得た。尚、メタクリル変性化短繊維セルロースの固着量は、低濃度短繊維セルロース分散液の濃度を変えることで調整した。この複合材料のセルロース含有量、並びに引張特性は、表1の実施例2〜7に示した通りとなった。
【0038】
【表1】

【0039】
<比較例1>解繊状ラミー長繊維セルロースと不飽和ポリエステルとの複合材料(短繊維セルロースの固着なし)
解繊状ラミー長繊維セルロース:20gを、純水:2000g中に浸し、高圧ホモジナイザで13500回転/分にて5分間粉砕した。その後溶媒を除去し、100℃にて1時間乾燥させて、シート形状の解繊状ラミー長繊維セルロースを得た。得られた解繊状ラミー長繊維セルロースは、先に述べて実施例1と同様に、不飽和ポリエステルを用いて、手順に従って複合化した。得られた複合材は、セルロース含有量:36質量%、引張特性:強度35.7MPa、弾性率4.77GPaであった。
【0040】
<比較例2>不織布状ラミー長繊維セルロースと不飽和ポリエステルとの複合材料(短繊維セルロースの固着なし)
不織布状ラミー長繊維セルロースと、不飽和ポリエステルとを、実施例1の手順と同様にして複合化した。得られた複合材は、セルロース含有量:41質量%、引張特性:強度89.1MPa、弾性率6.36GPaであった。
【0041】
<比較例3>織布状ラミー長繊維セルロースと不飽和ポリエステルとの複合材料(短繊維セルロースの固着なし)
織布状ラミー長繊維セルロースと、不飽和ポリエステルとを、実施例1の手順と同様にして複合化した。得られた複合材は、セルロース含有量:33質量%、引張特性:強度155MPa、弾性率7.3GPaであった。
【0042】
<比較例4>粒状セルロースを繊維表面に固着させた織布状ラミー長繊維セルロースと不飽和ポリエステル複合材料
粒状セルロース(旭化成ケミカルズ株式会社製、商品名「セオラス TG−101」):5gを、純水:60g中に加え、高圧ホモジナイザを用いて13500回転/分で5分間攪拌処理し、粒状セルロース分散液を調製した。これに、織布状ラミー長繊維セルロースを含浸させて、その後溶媒を除去した。100℃にて1時間乾燥させ、粒状セルロース処理した織布状ラミー長繊維セルロースを得たれた。
【0043】
これの粒状セルロース固着量は1.7質量%であったが、図2に示すSEM観察からは、粒状セルロースが、織布状ラミー長繊維セルロースの繊維表面上に固着したことは確認できなかった。
【0044】
続いて、実施例1と同様の手順で、粒状セルロース処理織布状ラミー長繊維セルロースと、不飽和ポリエステルとの複合化を行った。得られた複合材料は、セルロース含有量:35質量%、引張特性:強度152MPa、弾性率7.14GPaであった。
【0045】
<比較例5>織布状ラミー長繊維セルロースの変性化
織布状ラミー長繊維セルロース:5gを、シランカップリング剤水溶液:100g中に浸し、70℃にて1時間攪拌した。シランカップリング剤水溶液の調製並びに変性化の確認は、実施例2〜7に記載の手法に従って行った。赤外吸収スペクトルにメタクリル基のカルボニル由来の吸収ピークが観測されなかったことから、織布状ラミー長繊維セルロースを直接的に変性化することは困難であることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
短繊維セルロースを、長繊維セルロース表面に固着させた布状長繊維セルロース。
【請求項2】
請求項1において、長繊維セルロースが、直径0.01〜5mmである布状長繊維セルロース。
【請求項3】
請求項1又は2において、長繊維セルロースが、織布形態である布状長繊維セルロース。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかにおいて、短繊維セルロースが、直径0.5〜10μmである布状長繊維セルロース。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れかにおいて、短繊維セルロースが、長さ0.01〜5mmである布状長繊維セルロース。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れかにおいて、短繊維セルロースが、長繊維セルロース表面において、繊維同士の物理的な絡み合いを形成している布状長繊維セルロース。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れかにおいて、短繊維セルロースの長繊維セルロース表面に対する固着量が、0.1〜50質量%である布状長繊維セルロース。
【請求項8】
請求項1乃至7の何れかにおいて、長繊維セルロースが、その結晶化度を、70%以上とする布状長繊維セルロース。
【請求項9】
請求項1乃至8の何れかにおいて、短繊維セルロースが、その結晶化度を、10〜70%とする布状長繊維セルロース。
【請求項10】
請求項1乃至9の何れかにおいて、短繊維セルロースが、化学的に変性させられる布状長繊維セルロース。
【請求項11】
請求項10において、化学的に変成させるものが、シランカップリング剤である布状長繊維セルロース。
【請求項12】
請求項1乃至11の何れかにおいて、短繊維セルロースが、ビニル基、アリル基、アクリル基、メタクリル基、グリシジル基、脂環式エポシキ基、オキセタン基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、イソシアネート基、アミノ基、イミダゾール基、フェノール基から選ばれる少なくとも1種の置換基を有する布状長繊維セルロース。
【請求項13】
請求項12において、短繊維セルロースが、ビニル基、アリル基、アクリル基、メタクリル基、グリシジル基、脂環式エポシキ基、オキセタン基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、イソシアネート基、アミノ基、イミダゾール基、フェノール基から選ばれる少なくとも1種の置換基を、0.01〜40mmol/g有する布状長繊維セルロース。
【請求項14】
請求項1乃至13の何れかに記載の布状長繊維セルロースと、樹脂とを複合化して得られる複合材料。
【請求項15】
請求項14において、布状長繊維セルロースが、全質量に対して、5〜80質量%含まれる複合材料。
【請求項16】
請求項1乃至13に記載の布状長繊維セルロースが、短繊維セルロース分散液に布状長繊維セルロースを含浸させる第1工程と、前記分散液の溶媒を除去する第2工程とにより製造される、布状長繊維セルロースの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2010−196211(P2010−196211A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−44079(P2009−44079)
【出願日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】