説明

希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末とその製造方法

【課題】優れた耐酸化性、高磁気特性を発揮し、特に減磁曲線の角形性が大きく高残留磁束密度を有する希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末とその製造方法を提供する。
【解決手段】希土類酸化物粉末、遷移金属粉末及び還元剤からなる混合物を非酸化性雰囲気下で加熱処理し還元反応を起こさせ、希土類金属を遷移金属粉末に拡散させる還元拡散法を用いて得られた母合金粉末を窒化して、希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末を製造する方法において、窒化後の希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末が、0.09deg.以下の結晶歪(積分幅)となるように解砕し、次いで分級することにより、粒径20μm未満の磁石粉末を17重量%以下にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末とその製造方法に関し、さらに詳しくは、優れた耐酸化性、高磁気特性を発揮し、特に減磁曲線の角形性が大きく高残留磁束密度を有する希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末の製造方法とそれにより得られた希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
Sm−Fe−N合金粉末で代表される希土類−遷移金属−窒素系磁石合金は、高性能でかつ安価な希土類−遷移金属−窒素系磁石材料として知られている。
従来、希土類−遷移金属−窒素系磁石合金は、希土類と遷移金属を溶解して合金を作製する溶解法や、希土類酸化物と遷移金属の原料にアルカリ土類金属を還元剤として配合し、希土類酸化物を金属に還元するとともに遷移金属との合金を合成させる還元拡散法によって製造されている。
【0003】
しかし、溶解法では、原料として使用する希土類金属が高価であるという理由から、希土類−遷移金属−窒素系磁石合金の製造方法としては、安価な希土類酸化物粉末を原料として利用できる還元拡散法の方が望ましいと考えられている。
【0004】
このような還元拡散法では、まず希土類酸化物原料、遷移金属粉末原料、および希土類酸化物の還元剤(アルカリ土類金属)を配合した混合物を非酸化性雰囲気中において加熱焼成して希土類−遷移金属系合金を合成する。その後、得られた希土類−遷移金属系合金を湿式処理して粉末状にした後、この希土類−遷移金属系合金を窒化処理することで所望の希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末を製造している。
さらに、これらにより得られた粉末状の希土類−遷移金属−窒素系磁石合金は、ある特定範囲の粒度まで微粉砕処理される。この場合、希土類−遷移金属−窒素系磁石合金における保磁力の発生機構はニュークリエーション型であることから、磁気特性の一つである減磁曲線の角形性、保磁力を高めるためには、数μmまで微粉砕し希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の粒度を揃えることが必要であった。
【0005】
しかし、希土類を含む磁石合金は、細かくすればするほど酸化が進みやすくなり、結果として磁石特性が低下し易くなる。特に、高温下における磁石特性の劣化は顕著である。このため、高温下での使用には限界があることが問題となっていた。
【0006】
この問題を解決するために、粗粉末でも高い保磁力が得られるピンニング型の磁石が提案されており(例えば、特許文献1参照)、母合金にMnを添加し、窒素をSmFe17の割合よりも過剰に入れることにより、平均粒径が10μm以上でも保磁力が高いSm−Fe−N系磁石が得られるとしている。この発明によれば高い保磁力、優れた耐酸化性が得られるものの、飽和磁化や残留磁束密度については低い値しか得られず、また、減磁曲線の角形性も低いため、最大エネルギー積が低いという問題があった。
【0007】
上記のようなMnを添加した母合金を窒化した希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石は、ThZn17型結晶構造を有するSm(Fe、Mn)17主相と該主相より窒素量の多いアモルファス相で構成され、約10nmの微細構造を有することによって高い保磁力(iHc)が得られ、主相の大きさが均一であれば高い角形性(Hk)が得られることが知られている。また、高磁気特性化には、窒素量をSm(Fe、Mn)17に対して3.5〜6重量%として、磁石粉末内のどの場所でも窒素が均一に分布していることが必要とされている。均一な窒化を行うためには、粒径が小さく粒度分布がシャープである必要がある。
【0008】
希土類−遷移金属合金粉末を窒化した場合、窒素は粒子の外側から内部へと拡散していく。したがって、大きな粒子ではその外周付近と内部で窒素量が異なり、窒素の分布が不均一になり減磁曲線の角形性が低下する場合がある。溶解法で作製した母合金を使用する場合は、上記問題を回避するために粗粉砕を行うが、この時10μm以下の粒子は表面が酸化しやすく磁気特性の保磁力を低下させる原因となるため通常除去されている。
【0009】
実際に、溶解法で作製した希土類−遷移金属合金では、窒化する前に合金を粗粉砕及び分級しており、例えば、希土類−遷移金属合金粉末を篩分け、平均粒径を50μm程度に粒度調整すること(特許文献2参照)、また、平均粒径を45μm程度に調整してから窒化すること(例えば、特許文献3参照)が行われている。これにより窒化の処理時間は短縮されるものの、実施例によれば得られた磁石粉末の磁気特性がそれほど高くない。これにより、粒度分布が広く、サブミクロンの小粒子や、100μmを超える粒径の大粒子も存在しているものと推定される。
【0010】
このような状況下、還元拡散法で得られた合金粉末を用いて、減磁曲線の角形性が大きく、高い残留磁束密度を持ち、優れた耐酸化性を有する希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末を比較的容易に製造し得る方法の出現が切望されていた。
【特許文献1】特開平8−55712号公報
【特許文献2】特開平8−144024号公報
【特許文献3】特開平11−135311号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、優れた耐酸化性、高磁気特性を発揮し、特に減磁曲線の角形性が大きく高残留磁束密度を有する希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末の製造方法と、それにより得られた希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、粗粉末でも高い保磁力が得られるピンニング型の希土類−鉄−マンガン−窒素系合金磁石に着目し、還元拡散法によって得られる希土類−鉄−マンガン母合金粉末を窒化後、磁石粉末の結晶歪(積分幅)が特定値以下になるように解砕して、解砕で生じた20μm未満の粒子を除去することにより、比較的均一な粒子のみになって、得られる磁石粉末が高磁気特性を有し、特に角形性に優れ高い残留磁束密度を有することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、希土類酸化物粉末と鉄及びマンガンを必須成分として含有する遷移金属粉末とから還元拡散法によって得られる母合金粉末を窒化して優れた耐酸化性と高磁気特性を有する希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末を製造する方法において、窒化後に形成される希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末を、解砕後の磁石粉末の結晶歪(積分幅)が0.09deg.以下にするに十分な程度にまで解砕し、その後、引き続いて分級し、粒径20μm未満の磁石粉末を17重量%以下にすることを特徴とする希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末の製造方法が提供される。
【0014】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、さらに、分級によって粒径64μm以上の磁石粉末を5重量%以下にすることを特徴とする希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末の製造方法が提供される。
【0015】
一方、本発明の第3の発明によれば、第1又は2の発明により得られた優れた耐酸化性と高磁気特性を有する希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末であって、その組成は、22〜27重量%の希土類元素と、7重量%以下のMnと、4〜5重量%のNと、残部が実質的にFeであるか又はFeの20重量%以下をCoで置換したFeおよびCoからなり、かつ、ThZn17型結晶構造を有する主相とアモルファス相とを含有することを特徴とする希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末が提供される。
【0016】
また、本発明の第4の発明によれば、第3の発明において、残留磁束密度が1.0T(10kG)以上であって、かつ角形性が240kA/m(3kOe)以上であることを特徴とする希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末が提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、還元拡散法で製造された希土類−鉄−マンガン系母合金粉末を窒化した後、特定条件で解砕、分級しているので、該希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末のうち粒径20μm未満の粉末が特定量以下になることから、高い残留磁束密度、角形性と耐熱性を有する希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末を容易に提供することができ、その工業的価値は極めて大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末の製造方法、得られる希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末について項目毎に詳しく説明する。
【0019】
1.希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末の製造方法
本発明の希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末の製造方法は、(1)希土類酸化物粉末、鉄及びマンガンを必須成分として含有する遷移金属粉末、及び還元剤からなる混合物を用いて加熱処理して還元反応させ、必要により水素処理後、さらに水洗、デカンテーション、酸洗を行い、(2)得られた母合金粉末を窒化した後、(3)この希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末が、特定値以下の結晶歪(積分幅)となるように解砕し、(4)次いで分級することにより、粒径20μm未満の磁石粉末が17重量%以下となるようにする方法である。
【0020】
従来、希土類−鉄−マンガン系磁石用合金の原料となる合金粉末は、溶解法、共沈法あるいは還元拡散法で製造されているが、製造コストが低くなること、粉末の製造の容易さから、本発明では以下に詳述する還元拡散法を採用する。
【0021】
(1)希土類金属の遷移金属への還元拡散
まず、希土類酸化物粉末、鉄及びマンガンを必須成分として含有する遷移金属粉末、及び還元剤を配合し、互いに均一に混合し原料混合物を調製する。必要により、その他の原料粉末を配合してもよい。次いで、これらの混合物を所定の温度で加熱し、還元拡散法により希土類−鉄−マンガン系母合金粉末とする。
【0022】
(希土類酸化物粉末)
本発明に用いられる希土類酸化物粉末としては、特に制限されないが、Sm、Tb、およびCeから選ばれる少なくとも1種の元素、あるいは、さらにPr、Nd、Dy、Ho、Er、Tm、およびYbから選ばれる少なくとも1種の元素が含まれるものが好ましい。中でもSmが含まれるものは、本発明の効果を顕著に発揮させることが可能となるので特に好ましい。Smが含まれるものの場合、高い保磁力を得るためにはSmを希土類全体の60重量%以上、好ましくは90重量%以上にすることが必要である。
【0023】
(遷移金属粉末)
遷移金属粉末としては、Fe、Cu、Mn、Co、Cr、Ti、Ni、Zrの少なくとも1種以上を含有するものが挙げられるが、磁気特性の面からFeとMnを必須成分として含有する必要がある。Fe量は、40〜80重量%が好ましい。Feが40重量%未満であると磁化が低くなり、一方、80重量%より多くなっても保磁力が低くなってしまう。Feの20重量%以下をCoで置換すると磁気特性がさらに改善される。
【0024】
Mnは保磁力を発現させるための必須元素であるが、7重量%を超えると本発明の磁石粉末の磁化が低下する。好ましいMn量は2〜6重量%、より好ましくは3〜5重量%である。磁気特性を損なうことなく温度特性や耐食性を改善する目的で、その一部をCu、Cr、Ti、Ni、Zrから選択された1種以上で置換することができる(以下、これらの元素を添加元素Mという)。添加元素Mは、粗い粒径の合金粉末で高い保磁力を出すためには必須である。添加元素Mの中ではCuが好ましい。添加元素Mの量は、12重量%より多いと非磁性相の割合が多くなりすぎ、磁化が低くなってしまう。
【0025】
希土類酸化物粉末、鉄、マンガンを含む遷移金属粉末、及び還元剤からなる原料粉末混合物の粒度分布は、目標製品の粒度に近い分布が望ましい。すなわち、上記の遷移金属原料粉末としては、例えば、粒径10〜70μmの粉末が全体の80%以上を占める鉄粉末と、粒径0.1〜10μmの粉末が全体の80%以上を占めるマンガン酸化物粉末が好ましく、希土類酸化物粉末としては、粒径0.1〜10μmの粉末が全体の80%以上を占めるものを用いることによって、良好な角形性を有するとともに配向性が大きく高飽和磁化を有し、製造再現性に優れた希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末を得ることができる(特願2003−395676号参照)。
【0026】
(還元拡散)
上記希土類酸化物粉末、鉄、マンガンを含む遷移金属粉末の原料粉末と還元剤とを反応容器に投入し、特定条件で加熱処理することによって、希土類酸化物と他の酸化物原料とを還元するとともに希土類元素を鉄−マンガン粉末に拡散させて、希土類−鉄−マンガン系合金粉末を生成させる。
【0027】
還元剤としては、Li又はCa、あるいはこれらの元素とNa、K、Rb、Cs、Mg、SrあるいはBaから選ばれる少なくとも1種からなるアルカリ金属又はアルカリ土類金属元素が使用できる。
これら還元剤を使用するに当たっては、その投入量、還元剤および希土類酸化物の粉末性状、各種原料粉末の混合状態、還元拡散反応の温度と時間を注意深く制御する必要がある。なお、上記還元剤の中には、取り扱い安全性とコストの点から、金属Li又はCaが好ましく、特にCaが好ましい。
【0028】
Caが、希土類−鉄−マンガン合金粉末の結晶相内部に0.001〜0.1重量%含有して均一に分布している場合は、窒化処理を短くできる効果がある。ただし、0.1重量%を超えると希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石用合金の磁気特性、特に磁化が低下するので好ましくないことが知られている。
【0029】
還元剤は、上記原料粉末と混合するか、カルシウム蒸気が原料粉末と接触しうるよう分離して配置することもできる。分離して配置すると均一窒化を促進でき、得られた磁石粉末の角形性を向上させることができる。
上記原料粉末とともに、後の湿式処理工程において反応生成物の崩壊を促進させる添加剤を混合することも効果的である。崩壊促進剤としては、塩化カルシウムなどのアルカリ土類金属塩や酸化カルシウムなどを用い、原料粉末と同時に均一に混合することができる。
【0030】
各原料粉末は、それぞれの粉体特性差によって分離しないように均一に混合することが重要である。混合方法としては、たとえばリボンブレンダー、タンブラー、S字ブレンダー、V字ブレンダー、ナウターミキサー、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、ハイスピードミキサー、ボールミル、振動ミル、アトライタ、ジェットミルなどが使用できる。
【0031】
上記混合物は、アルゴンガスなどの不活性ガスが流通する非酸化性雰囲気中において、還元剤が蒸発しない温度まで昇温保持し加熱焼成する。加熱処理は900〜1250℃程度の温度範囲とし、5〜15時間かけて加熱する。加熱温度が900℃未満では鉄粉に対して希土類元素の拡散が不均一となり、これを用いて製造される希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末の保磁力や角形性が低下する。1250℃を越えると、生成した希土類−鉄−マンガン系金属母合金が粒成長を起こすとともに互いに焼結するため、均一窒化が困難になり磁石粉末の角形性が低下する。
【0032】
(水素処理)
希土類−鉄−マンガン系母合金を含んだ反応生成物は、粉砕が困難なことから、水中投入時の崩壊性の改善を目的として、水素処理を行うこともできる。水素処理では、希土類−遷移金属系合金を含んだ反応生成物をステンレス容器に入れ、アルゴンガスを封入し、容器を加熱炉に入れて加熱し、アルゴンガスを水素ガスに置換し、水素ガスを流しながら一定時間加熱する。水素を導入することにより、強固に凝集している反応生成物の未反応還元剤や酸化カルシウム等が反応し、凝集がほぐれていく。
【0033】
(水洗、デカンテーション、酸洗)
その後、得られた反応生成物を大気中に約0.5〜3時間放置した後、例えば反応生成物1kgあたり約1リットルの水中に投入し、0.1〜3.5時間撹拌して反応生成物を崩壊させる。その後、得られたスラリーは、粗い篩を通し水洗槽に移す。このときスラリーのpHは11〜12程度であり、崩壊せずに残留する塊はなく、篩上に残ったロスは非常に少なくなる。
この後、スラリーのpHが10以下になるまでデカンテーションを繰り返す。デカンテーション条件は、注水し、撹拌1分、静置分離1分、排水すること標準条件とすればよい、デカンテーション開始から終了までの時間を1回の水洗時間とし、その結果、スラリーのpHが10になるまでの水洗時間の合計量は約60〜120分を目安とする。
その後、スラリーのpHが5〜6になるように酢酸などの鉱酸を添加し、酸洗を行い固液分離し、乾燥すれば希土類−鉄−マンガン系合金粉末が得られる。
【0034】
上記のように水素処理された還元生成物は、室温に冷却された後では、水との反応性が増し、大気中に曝されるだけで大気中の水分と反応し、自然崩壊が進行し、還元生成物を1cm角大に破砕する工程が必要なく、その後の水洗分離工程において、篩い分け、デカンーション操作の回数などを大幅に削減して、合金粉末を得ることができる。
この時、還元剤として用いたCaは、希土類−鉄−マンガン系合金粉末の結晶相外に残留している量ができるだけ少なくなるようにすることが好ましい。
【0035】
(2)窒化処理
次に、上記で得られた希土類−鉄−マンガン系母合金粉末を窒化して磁石粉末にする。
【0036】
希土類−鉄−マンガン系母合金粉末は、電気炉に投入し、窒素雰囲気で加熱することで窒化できる。窒化を行うための窒素雰囲気は、窒素又はアンモニアを含む雰囲気であればよい。アンモニアは、水素との混合ガスとして用いることが好ましく、それは、窒素ガスに比較し短時間で行えるためである。また、静置で窒化するのに比較し、均一な窒化を行うために攪拌しながら窒化するのが好ましい。アンモニアと水素の混合割合は、特に限定されないが、10〜70:30〜90、好ましくは30〜60:40〜70とする。この範囲を外れ、アンモニアが少なすぎると窒化の効率が低下し、一方、アンモニアの割合が多すぎると部分的に窒化が進み、均一な窒化が行えない。
【0037】
窒化温度は、300〜650℃の範囲が好ましい。300℃未満では窒化速度が遅く、650℃を超えると希土類の窒化物と鉄に分解してしまう。アンモニア−水素混合ガス中で窒化した後の合金粉中に水素が多く残留していると、この合金粉を磁石化しても磁気特性が低下するため、場合によっては真空加熱を行うなどの方法で十分に除去しておく必要がある。
【0038】
(3)希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末の解砕
窒化処理後、希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末に解砕処理を加えて、還元拡散時に焼結した粉末を一つ一つ解離させる。
【0039】
解離した粉末(以下、これを単一粒子ともいう)は、その内部にアモルファス相と微小強磁性相を有し、該微小強磁性相は結晶方向のほぼ揃った状態であり、磁石化時磁場中で単一粒子の結晶方向をより多く磁場方向に揃えることによって配向度を高め、高飽和磁化を達成できる。
【0040】
本発明の解砕方法では、焼結した部分や粒界のみを解砕することが好ましく、強磁性相の結晶方向が揃った単一粒子を砕いてしまったり、磁石粉末の結晶歪が大きくなるように解砕すると、耐熱性が低下しその結果保磁力が低くなる。したがって、解砕を行うには、マイルドな条件、すなわち粉末に必要以上の応力を加えることなく、短時間で解砕することが重要である。
【0041】
本発明者等は、特願2003−058679号において、アモルファス相と結晶方向が不揃いの微小強磁性結晶相が混在した希土類−遷移金属−窒素系合金粉末を粗粉砕した後、平均粒径が150μm以下になった合金粉末を解砕処理することにより、微小強磁性結晶相の結晶方向が揃った平均粒径が10μm以上の合金粒子を80体積%以上含有する合金粉末を得ることを提案した。
【0042】
本発明でも、例えば、アトライタやジェットミルなどの粉砕装置を用いて磁石粉末を解砕できる。粉砕装置として、ジェットミルを用いて解砕を行う場合には、SmFe17を粉砕するような強い粉砕条件では結晶方向の揃った粒子も砕いてしまうので目的の解砕はできず、ガス流量や流速を下げ、粉末供給量を多くするなどの条件で行わなければならない。
また、アトライタで解砕を行う場合には、メディアの量を減らす、溶媒量を多くする、解砕量を多くする、回転数を低くするなどの条件で行わなければ、本発明の目的とする解砕はできない。
【0043】
上記解砕で、飽和磁束密度、保磁力、角形性等に悪影響を与えないためには、解砕後の磁石粉末の結晶歪(積分幅)が、0.09deg.以下であることが必要である。0.09deg.を越えると、結晶歪が蓄積された部分で、その後の製造工程中でThZn17型を持つ相がα−Feと酸化サマリウムに分解しやすくなるからである。
【0044】
(4)希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末の分級
結晶歪(積分幅)が0.09deg.以下になるように解砕された希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末は、分級して、得られた粉末中の20μm未満の粉末を17重量%以下とする。さらには、得られた粉末中の粒径が64μm以上の粉末が5重量%以下となるように分級することが好ましい。
【0045】
上記希土類−鉄−マンガン母合金磁石粉末を篩い分けると、粒度分布は表1に示すようになる。全ての粒子径が106μm以下であるが、粒度分布は広くなっており、このまま該母合金を窒化すると、大きな粒子は窒化距離が長いために、粒子内部の窒素分布が不均一になりやすく窒化不足や不均一窒化を生じ、小さな粒子では過窒化となり磁気特性の低下が起こる傾向にある。
【0046】
そこで、窒化後、粒径が64μm以上の粉末が5重量%以下となるように分級し、篩上を除去することにより粒径が大きい粒子を除去するのである。
上記希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末を、目開き64μmの篩で分級して大粒径の磁石粉を除去した場合の分級後の粒度分布を表2に示す。篩下は平均粒径(D50)26μmであった。窒化磁石粉末の平均粒径(累積体積百分率粒径D50)は、レーザー回折式粒度分布計 HELOS Particle Size Analysisで測定した。
【0047】
この篩下となる希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末の粒度分布の中から粒径64μm以上、約40μm、20μm以下の粒子について、その断面の窒素分布をEPMAで調べたところ、図1−A、B、Cに示す結果が得られた。測定では、磁石粉末を樹脂中に埋め込み、研磨によって粒子断面を出し、該粒子断面でEPMA分析を行っており、粒子粒径と組成分析距離とは必ずしも一致しない。
【0048】
図1−Aに示す粒径が64μm以上の場合、磁石粉末の窒素は、高いところで4.5重量%、低いところで2.6重量%であり均一ではなかった。同様の粒径を有する5個の粒子について同様に窒素分布を測定したが同様の結果を示した。図1−Bに示した粒径が20μm以下の場合、粒子の窒素は、高いところで3.6重量%、低いところで2.9%であり均一ではなかった。一方、図1−Cに示した約40μmの場合、粒子の窒素は、3.7〜4.0重量%と均一であった。この篩下の粉末の窒素量は全体で4.6重量%であった。全体の窒素量が内部より高いのは、粒子内部の窒素分布が場所によって大きな差があることを示しているものと考えられる。
【0049】
次に、粒径>73μm、38〜53μm、<20μmの各粒度範囲に篩い分けした希土類−鉄−マンガン系合金粉末と、それを窒化した希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末のSEM像を図2(写真1)の(a)〜(f)に示す。
粒径が>73μmの場合、窒化後の磁石粉末(d)を見ると、大きな粒子の周りに20μm未満の鱗片状粒子が分散している状態が観察された。これは希土類−鉄−マンガン系母合金粉末の粒子が窒化膨張して割れ、小さな粒子を形成した部分が存在するためと考えられる。粒径が38〜53μmの場合、窒化後の磁石粉末(e)で、上記と同様に、大粒子の場合に比較して少ないが鱗片状の粒子が確認された。
一方、粒径が<20μmの場合、窒化前後で粒子の大きさ形状に変化はみられなかった。しかし、この磁石粉末(f)は、窒素の分布が均一ではなく、磁気特性が低かった。これは、粒径が<20μmでは窒化膨張割れが起こりにくく粒子表面に新生面が生成しないため、窒化しづらくなり窒素分布が均一にならなかったものと推定される。
【0050】
上記の鱗片状の磁石粒子は、窒化を行うことによって、磁石粉末が窒化膨張して該粒子表面に割れが入り、さらに剥がれ落ちて生成したものと図2(写真1)のSEM像から推定される。
磁石粉末を窒化すると、膨張による表面割れが起こることによって粒子に新生面ができ、さらに該新生面の窒化が進むと考えられるが、40μmを越える母合金粒子では、窒化の進行に伴い鱗片状粒子の数が増え、該鱗片状粒子では、割れた面が新生面となり窒化の進行が早くなるため過窒化となり磁気特性が低下しやすくなり、また、粒子が大きいことから窒素の拡散距離も長くなるため粒子内部の窒素の分布も不均一になるものと考えられる。
【0051】
上記の知見に基づき、本発明においては、希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末を分級した篩上粉末中、20μm未満の粒子の量で磁気特性が変化し、その量は少ないほど良好であり、分級後の20μm未満の粒子量を17重量%以下とする。これにより磁気特性に効果が見られるようになる。
【0052】
上記に加えて、窒素分布の不均一な大粒子粉末を除去することによって、減磁曲線の角形性、残留磁束密度を高めることができる。分級後の粒度分布においては、粒径64μm以上の粉末が5重量%以下になるようにすることが好ましい。具体的には、篩い分けでは、目開き64μmを用い、さらには目開き53μmを用いることが好ましい。粒径が64μmを超えた大粒子の場合、上記の通り、窒素の拡散に時間がかかるため合金内の中心部と外側では、窒素の分布が不均一となり減磁曲線の角形性が低下してしまう。
また、前記20μm未満の粒径の粒子については、窒化時割れない粒子では粒子表面状態の影響で不均一な窒化が起こり、また、窒化膨張で割れてできた鱗片状粒子では、窒素が合金に過剰に入ることによって減磁曲線の角形性と磁化が低下するものと推定される。
【0053】
2.希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末
本発明の希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末は、上記の方法によって得られ、22〜27重量%の希土類元素と、7重量%以下のMnを含み、4〜5重量%のNと、残部が実質的にFeまたはFeおよびCoの組成を有するものであり、ThZn17型結晶構造を有する主相とアモルファス相とを含有する。
【0054】
希土類元素としては、Smを希土類全体の60重量%以上、好ましくは90重量%以上にすることが、高い保磁力を得るために必要である。希土類元素が22重量%未満であると、磁石粉末に希土類元素が未拡散の鉄(−コバルト)−マンガン相が残留するので、磁化、保磁力および角形性が低下する。また希土類元素が27重量%を超えると、ThZn17型のSm(Fe、Mn)17化合物結晶相よりも希土類リッチ窒化物相が形成され、磁石粉末の磁化と角形性が低下する。
【0055】
Mnは、保磁力を発現させるための必須元素であるが、7重量%を超えると本発明の磁石粉末の磁化が低下する。好ましいMn量は2〜6重量%、より好ましいMn量は3〜5重量%である。
【0056】
N量は、4重量%未満では保磁力と角形性が低下し、5重量%を超えると、磁石粉末中のアモルファス相が増加するとともに、個々のセルにおいてThZn17型結晶構造を持つSm(Fe、Mn)17化合物結晶相のc軸が揃わなくなってくるため、磁化が低下する。好ましいN量は、4.1〜4.9重量%、より好ましいN量は、4.2〜4.8重量%である。なおFeの20重量%以下をCoで置換するとキュリー温度が上昇し、磁化や磁化の温度係数を改善できる。
【0057】
なお、こうして得られた磁石粉末には、必要により、燐酸、カップリング剤などを用いて表面処理を施すことで大気中の酸素や高温高湿度に対する耐候性を向上させることができる。そして、この希土類−鉄−マンガン−窒素系合金粉末に熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂のいずれかをバインダーとして配合すれば、ボンド磁石用樹脂組成物を製造できる。さらに、このボンド磁石用樹脂組成物を成形することにより優れた磁気特性を有する希土類−遷移金属−窒素系ボンド磁石を得ることができる。
【実施例】
【0058】
次に、実施例、比較例を用いて本発明をさらに説明するが、本発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。なお、得られた窒化粉末は次の方法で測定した。
【0059】
(1)磁気特性
合金粉末の磁気特性は、日本ボンド磁石工業協会、ボンド磁石試験方法ガイドブック、BM−2002、BM−2005に準じて、1600kA/mの配向磁界をかけてパラフィン中で希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末を配向させ試料を作製し、4000kA/mの磁界で着磁して測定した。磁石合金粉末の比重を7.67g/cmとし、反磁場補正をせずに最大磁界1200kA/mの振動試料型磁力計を用いて、残留磁束密度:Br(T)、角形性:Hk(kA/m)を測定した。
なお、上記希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末の場合、残留磁束密度1.0T(10kG)以上、角形性240kA/m(3.0kOe)以上あれば十分な性能を有するものといえる。
【0060】
(2)結晶歪み測定
X線回折装置(理学電機株式会社製、Rotaflex RAD−rVB)を用いて、得られた窒化合金粉末のX線回折測定を行い、SmFe17(113)回折ピークの積分幅を求めた。積分幅は、(113)回折ピークの面積をピーク高さで割った値で算出した。
測定条件は、ゴニオン半径185mm、発散スリット1.0°、散乱スリット1.0°、受光スリット0.3mm、湾曲グラファイトモノメーターを用いた光学系で行った。
【0061】
(3)粗粉量、微粉末量の測定
粗粉、微粉末の分級は、ミクロ形電磁振動ふるい器M−2型(筒井理化学機器株式会社製)を用いて行った。測定粉末を目開き20μmの篩に投入し、振動調整(重力加速度 8g程度)振動時間20分で行い、測定粉末の投入量に対する篩下微粉末の重量から20μm未満の微粉末量の割合を算出した。また、測定粉末を目開き64μmの篩に投入し、振動調整(重力加速度8g程度)振動時間20分で行い、測定粉末の投入量に対する篩上粗粉末の重量から64μm以上の粗粉末量の割合を算出した。
【0062】
(4)粒子内部の窒素分布測定
窒素量は、樹脂に埋め込んだSm−Fe−Mn−N系磁石粉末を研磨し、個々の粒子断面を電子線プローブ微小部分析装置(EPMA)(島津製作所製、EPMA−2300)によって線分析および定量分析を行った。測定ビームサイズは約1μmとした。
【0063】
(5)粒子形状観察
合金粉末および窒化粉末の粒子表面、形状観察は、走査電子顕微鏡(SEM)(日立製作所製 S800)で行った。
【0064】
(6)粒度分布測定
窒化して得られた磁石粉末の平均粒径(累積体積百分率粒径D50)は、レーザー回折式粒度分布計 HELOS Particle Size Analysisで測定した。
【0065】
(実施例1)
以下の要領で、(1)原料粉末、還元剤を混合して還元拡散法でSm−Fe−Mn系母合金粉末を調製し、(2)これを窒化後、解砕、分級して、Sm−Fe−Mn−N系磁石粉末を製造した。
(1)還元拡散
原料粉末として、アトマイズ法で製造された、粒径が10〜70μmの粉末が全体の94%を占める鉄粉末(Fe純度99%)690gと、粒径が0.1〜10μmの粉末が全体の83%を占める二酸化マンガン粉末(MnO純度91%)62.5gと、粒径が0.1〜10μmの粉末が全体の96%を占める酸化サマリウム粉末(Sm純度99.5%)335gを秤量し、5mm以下の金属カルシウム粒(Ca純度99%)208gをVブレンダーで混合した。
これをステンレススチール反応容器に挿入し、容器内をロータリーポンプで真空引きしてArガス置換した後、Arガスを流しながら1180℃まで昇温して、4時間保持し冷却した。次に、Arガスを水素ガスに切り替えて昇温して、250℃で4時間保持して冷却した。反応容器から取り出した時点で反応生成物は崩壊しており、その全量が16メッシュ(タイラーメッシュ、目開き0.991mm)の篩を通過するものであった(以下、特に記載がない限り、崩壊物全量が16メッシュの篩を通過した。)。
取り出した崩壊物を直ちに純水中に投入したところ、ガス発生を伴う反応が激しく起こった。このスラリーから、Ca(OH)懸濁物をデカンテーションによって分離し、純水を注水後2時間攪拌し、次いでデカンテーションを行う操作を5回繰り返した。得られた合金粉末スラリーを攪拌しながら希酢酸を滴下し、pH5.0に15分間保持した。合金粉末をろ過後、エタノールで数回掛水洗浄し50℃で真空乾燥することによって、約1000gのSm−Fe−Mn母合金粉末を得た。
この粉末組成は、Sm25.7重量%、Mn3.6重量%、Oが0.09重量%、Hが0.49重量%、Ca0.02重量%、残部Feとなっていた。
(2)窒化、解砕、分級
この合金500gをキルンに入れ、水素−アンモニア混合ガスを1:1の割合で流しながら、430℃で5時間かけて窒化した。窒化粉末520gを得た。該窒化粉末をアトライタ(三井鉱山(株)製)に入れ、エタノール1000gとともに、200rpm、1分間循環ポンプでスラリー状の試料を循環させながら解砕した。
所定の時間解砕した後、アトライタからポンプでろ過機に移して、ろ過し、溶媒がある程度除去できた時点でヘンシェルミキサーに移した。そして、ヘンシェルミキサー(三井鉱山(株)製 FM20C/I型)で真空引きを行いながら加熱乾燥を行った。加熱乾燥は500rpmで撹拌しながら真空引きし、120℃で1時間行った。
次に目開き20μmの篩で4分間分級した。20μm未満の粉末は15重量%であった。粉末の結晶歪みをX線回折装置で前記積分幅から算出した。また、磁気特性、および大気中で180℃環境下に10時間放置する耐熱試験後の保磁力を振動試料型磁力計(VSM)で評価した。得られたSm−Fe−Mn−N系磁石粉末の磁気特性、結晶歪み結果を表3に示す。併せて化学分析結果を表4に示す。
結晶歪(積算幅)は0.0399deg.であった。磁気特性は残留磁束密度(Br)1.08T、保磁力805kA/m、角形性(Hk)245kA/mという高特性が得られた。耐熱試験後の保磁力は803kA/mを示し、低下はほとんど見られなかった。化学分析から得られた粉末の窒素量は4.73重量%であった。
【0066】
(実施例2)
実施例1と同様にして窒化粉末を作製した。該窒化粉末をアトライタに入れエタノール1000gとともに、200rpm、3分間循環ポンプでスラリー状の試料を循環させながら解砕した。実施例1と同様にヘンシェルミキサーを用いて乾燥し、その後分級を行い実施例1と同様の評価を行った。
得られたSm−Fe−Mn−N系磁石粉末について、20μm未満の粉末量、磁気特性、結晶歪みを測定し、その結果を表3に示す。併せて化学分析結果を表4に示す。
20μm未満の粉末は16重量%であった。結晶歪み(積算幅)は0.0588deg.であった。磁気特性は残留磁束密度(Br)1.08T、保磁力820kA/m、角形性(Hk)255kA/mの高特性を得た。耐熱試験後の保磁力は810kA/mを示し、低下はほとんど見られなかった。化学分析から得られた粉末の窒素量は4.77重量%であった。
【0067】
(実施例3)
実施例1と同様にして窒化粉末を作製した。該窒化粉末をアトライタに入れエタノール1000gとともに、200rpm、5分間循環ポンプでスラリー状の試料を循環させながら解砕した。実施例1と同様にヘンシェルミキサーを用いて乾燥し、その後分級を行い実施例1と同様の評価を行った。
得られたSm−Fe−Mn−N系磁石粉末について、20μm未満の粉末量、磁気特性、結晶歪みを測定し、その結果を表3に示す。併せて化学分析結果を表4に示す。
20μm未満の粉末は17重量%であった。結晶歪み(積算幅)は0.0799deg.であった。磁気特性は残留磁束密度(Br)1.09T、保磁力840kA/m、角形性(Hk)265kA/mの高特性を得た。耐熱試験後の保磁力は830kA/mを示し、低下はほとんど見られなかった。化学分析から得られた粉末の窒素量は4.68重量%であった。
【0068】
(実施例4)
実施例1と同様にして窒化粉末を作製した。該窒化粉末をアトライタに入れエタノール1000gとともに、200rpm、7分間循環ポンプでスラリー状の試料を循環させながら解砕した。実施例1と同様にヘンシェルミキサーを用いて乾燥し、その後分級を行い、実施例1と同様の評価を行った。
得られたSm−Fe−Mn−N系磁石粉末について、20μm未満の粉末量、磁気特性、結晶歪みを測定し、その結果を表3に示す。併せて化学分析結果を表4に示す。
20μm未満の粉末量は17重量%であった。結晶歪み(積算幅)は0.0886deg.であった。磁気特性は残留磁束密度(Br)1.10T、保磁力880kA/m、角形性(Hk)280kA/mの高特性を得た。耐熱試験後の保磁力は850kA/mを示し、低下はほとんど見られなかった。化学分析から得られた粉末の窒素量は4.69重量%であった。
【0069】
(比較例1)
実施例1と同様にして窒化粉末を作製した。該窒化粉末をアトライタに入れエタノール1000gとともに、200rpm、1分循環ポンプでスラリー状の試料を循環させながら解砕した。実施例1と同様にヘンシェルミキサーを用いて乾燥し、その後目開き20μmの篩で2分間分級した。篩分けを行い実施例1と同様の評価を行った。
得られたSm−Fe−Mn−N系磁石粉末について、20μm未満の粉末量、磁気特性、結晶歪みを測定し、その結果を表3に示す。併せて化学分析結果を表4に示す。
20μm未満の粉末は19重量%であった。結晶歪み(積算幅)は0.0410deg.であった。磁気特性は残留磁束密度(Br)0.99T、保磁力780kA/m、角形性(Hk)200kA/mと低かった。耐熱試験後の保磁力は775kA/mを示し、低下はほとんど見られなかった。化学分析から得られた粉末の窒素量は4.70重量%であった。
【0070】
(比較例2)
実施例1と同様にして窒化粉末を作製した。該窒化粉末をアトライタに入れエタノール1000gとともに、200rpm、3分循環ポンプでスラリー状の試料を循環させながら解砕した。実施例1と同様にヘンシェルミキサーを用いて乾燥し、その後目開き20μmの篩で2分間分級した。篩分けを行い実施例1と同様の評価を行った。
得られたSm−Fe−Mn−N系磁石粉末について、20μm未満の粉末量、磁気特性、結晶歪みを測定し、その結果を表3に示す。併せて化学分析結果を表4に示す。
20μm未満の粉末は18重量%であった。結晶歪み(積算幅)は0.0621deg.であった。磁気特性は残留磁束密度(Br)0.98T、保磁力785kA/m、角形性(Hk)210kA/mと低かった。耐熱試験後の保磁力は780kA/mを示し、低下はほとんど見られなかった。化学分析から得られた粉末の窒素量は4.72重量%であった。
【0071】
(比較例3)
実施例1と同様にして窒化粉末を作製した。該窒化粉末をアトライタに入れエタノール1000gとともに、200rpm、5分間循環ポンプでスラリー状の試料を循環させながら解砕した。実施例1と同様にヘンシェルミキサーを用いて乾燥し、その後目開き20μmの篩で2分間分級した。篩分けを行い実施例1と同様の評価を行った。
得られたSm−Fe−Mn−N系磁石粉末について、20μm未満の粉末量、磁気特性、結晶歪みを測定し、その結果を表3に示す。併せて化学分析結果を表4に示す。
20μm未満の粉末は19重量%であった。結晶歪み(積算幅)は0.0825deg.であった。磁気特性は残留磁束密度(Br)0.97T、保磁力796kA/m、角形性(Hk)220kA/mの高特性を得た。耐熱試験後の保磁力は790kA/mを示し、低下はほとんど見られなかった。化学分析から得られた粉末の窒素量は4.77重量%であった。
【0072】
(比較例4)
実施例1と同様にして窒化粉末を作製した。該窒化粉末をアトライタに入れエタノール1000gとともに、200rpm、7分間循環ポンプでスラリー状の試料を循環させながら解砕した。実施例1と同様にヘンシェルミキサーを用いて乾燥し、その後目開き20μmの篩で2分間分級し、実施例1と同様の評価を行った。
得られたSm−Fe−Mn−N系磁石粉末について、20μm未満の粉末量、磁気特性、結晶歪みを測定し、その結果を表3に示す。併せて化学分析結果を表4に示す。
20μm未満の粉末は19重量%であった。結晶歪み(積算幅)は0.0900deg.であった。磁気特性は残留磁束密度(Br)1.02T、保磁力830kA/m、角形性(Hk)230kA/mと低かった。耐熱試験後の保磁力は820kA/mを示し、低下はほとんど見られなかった。化学分析から得られた粉末の窒素量は4.75重量%であった。
【0073】
(比較例5)
実施例1と同様にして窒化粉末を作製した。該窒化粉末をアトライタに入れエタノール1000gとともに、200rpm、10分間循環ポンプでスラリー状の試料を循環させながら解砕した。実施例1と同様にヘンシェルミキサーを用いて乾燥し、その後目開き20μmの篩で2分間分級し、実施例1と同様の評価を行った。
得られたSm−Fe−Mn−N系磁石粉末について、20μm未満の粉末量、磁気特性、結晶歪みを測定し、その結果を表3に示す。併せて化学分析結果を表4に示す。
20μm未満の粉末は19重量%であった。結晶歪み(積算幅)は0.1200deg.であった。磁気特性は残留磁束密度(Br)1.13T、保磁力900kA/m、角形性(Hk)283kA/mの高特性を得た。耐熱試験後の保磁力は705kA/mを示し、保磁力の低下は大きかった。化学分析から得られた粉末の窒素量は4.79重量%であった。
【0074】
(実施例5)
実施例1と同様にして窒化粉末を作製した。該窒化粉末をアトライタに入れエタノール1000gとともに、200rpm、7分間循環ポンプでスラリー状の試料を循環させながら解砕した。実施例1と同様にヘンシェルミキサーを用いて乾燥し、その後、目開き20μmと38μmの篩を重ね窒化物を投入して、4分間振動させ分級を行い、得られた粉末の磁気特性と20μm未満の粉末量の評価を行った。結果を表5示す。併せて表6に化学分析結果も示す。
得られたSm−Fe−Mn−N系磁石粉末の磁気特性は、残留磁束密度(Br)1.08T、保磁力(iHc)840kA/m、角形性(Hk)260kA/mの高特性を得た。化学分析から得られた粉末の窒素量は4.73重量%であった。20μm未満の粉末は15重量%であった。
【0075】
(実施例6)
実施例1と同様にして窒化粉末を作製した。該窒化粉末をアトライタに入れエタノール1000gとともに、200rpm、7分間循環ポンプでスラリー状の試料を循環させながら解砕した。実施例1と同様にヘンシェルミキサーを用いて乾燥し、その後、目開き38μmと53μmの篩を重ね窒化物を投入して、4分間振動させ分級を行い、得られた粉末の磁気特性と20μm未満の粉末量の評価を行った。結果を表5示す。併せて表6に化学分析結果も示す。
得られたSm−Fe−Mn−N系磁石粉末の磁気特性は残留磁束密度(Br)1.09T、保磁力(iHc)870kA/m、角形性(Hk)300kA/mの高特性を得た。化学分析から得られた粉末の窒素量は4.69重量%であった。20μm未満の粉末は5重量%であった。
【0076】
(実施例7)
実施例1と同様にして窒化粉末を作製した。該窒化粉末をアトライタに入れエタノール1000gとともに、200rpm、7分間循環ポンプでスラリー状の試料を循環させながら解砕した。実施例1と同様にヘンシェルミキサーを用いて乾燥し、その後目開き53μmと64μmの篩を重ね窒化物を投入して、4分間振動させ分級を行い、得られた粉末の磁気特性と20μm未満の粉末量の評価を行った。結果を表5示す。併せて表6に化学分析結果も示す。
得られたSm−Fe−Mn−N系磁石粉末の磁気特性は残留磁束密度(Br)1.08T、保磁力(iHc)840kA/m、角形性(Hk)260kA/mの高特性を得た。化学分析から得られた粉末の窒素量は4.72重量%であった。20μm未満の粉末は1重量%であった。
【0077】
(比較例6)
実施例1と同様にして窒化粉末を作製した。該窒化粉末をアトライタに入れエタノール1000gとともに、200rpm、7分間循環ポンプでスラリー状の試料を循環させながら解砕した。実施例1と同様にヘンシェルミキサーを用いて乾燥し、その後<20μmだけを採取し粉末の磁気特性の評価を行った。結果を表5示す。併せて表6に化学分析結果も示す。
得られたSm−Fe−Mn−N系磁石粉末の磁気特性は残留磁束密度(Br)0.91T、保磁力(iHc)750kA/m、角形性(Hk)195kA/mと低かった。化学分析から得られた粉末の窒素量は4.82重量%であった。
【0078】
(参考例1)
実施例1と同様にして窒化粉末を作製した。該窒化粉末をアトライタに入れエタノール1000gとともに、200rpm、7分間循環ポンプでスラリー状の試料を循環させながら解砕した。実施例1と同様にヘンシェルミキサーを用いて乾燥し、その後、目開き>64μmで4分間振動させ分級を行い、篩上で得られた粉末の磁気特性と粒度分布の評価を行った。結果を表5示す。併せて表6に化学分析結果も示す。
得られたSm−Fe−Mn−N系磁石粉末の磁気特性は残留磁束密度(Br)0.99T、保磁力(iHc)780kA/m、角形性(Hk)220kA/mと低かった。化学分析から得られた粉末の窒素量は4.55重量%であった。篩上の20μm未満の粉末はなかった。
【0079】
[評価]
以上の結果から、実施例1〜4では、還元拡散した希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末に対して、粉末の結晶歪(積分幅)が0.09deg.以下というマイルドな解砕を行うことで、残留磁束密度、耐熱特性に優れた磁石粉末が得られた。粉末の粒度分布は、粒径20μm未満が17重量%以下となり磁気特性に優れた磁石粉末が得られた。
それに対して、比較例1〜4では20μm未満の粉末が18〜19重量%となり、本発明の範囲から外れた篩い分けで得られたため、磁石粉末内の窒素量は同等であっても減磁曲線の角形性、残留磁束密度が低下している。比較例5では、解砕後の磁気特性は高くなるが耐熱特性は大きく低下した。これは、解砕時間が長くなるにつれて磁石化時の配向性が良くなり残留磁束密度が高くなる傾向を示すが、結晶歪(積分幅)が0.09deg.以上と大きくなり、結晶歪が蓄積された部分では、その後の製造工程中でThZn17型を持つ相がα−Feと酸化サマリウムに分解しやすくなったため耐熱特性が低下したものと考えられる。
また、実施例5〜7では、還元拡散した希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末を解砕して、目開き20−38μm、38−53μm、53−64μmで分級しているので、磁気特性に優れた磁石粉末が得られている。これに対して、参考例1は、>64μmの磁石粉末であり、比較例6は<20μmの磁石粉末であるため、窒化のばらつき、過窒化等の影響を受けて、減磁曲線の角形性、残留磁束密度が低下している。
【0080】
以上から、本発明によれば、還元拡散した希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末を粒径20μm未満の粉末が17重量%以下になるように解砕、分級し、結晶歪(積分幅)が0.09deg.以下の希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末としていることによって、磁気特性に優れた磁石粉末が得られることが分かる。また、上記希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末を、粒径が64μm以上の粉末が5重量%以下となるように分級することによって、さらに磁気特性を向上させた希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末が得られることも分かる。
【0081】
【表1】

【0082】
【表2】

【0083】
【表3】

【0084】
【表4】

【0085】
【表5】

【0086】
【表6】

【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】図1は、還元拡散法で作製したSm−Fe−Mn−N系磁石粉末の粒径が異なる粒子断面をEPMA線で分析した結果のグラフである。
【図2】図2は、希土類−鉄−マンガン系母合金と希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末のSEM像(写真1)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類酸化物粉末と鉄及びマンガンを必須成分として含有する遷移金属粉末とから還元拡散法によって得られる母合金粉末を窒化して優れた耐酸化性と高磁気特性を有する希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末を製造する方法において、
窒化後に形成される希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末を、解砕後の磁石粉末の結晶歪(積分幅)が0.09deg.以下にするに十分な程度にまで解砕し、その後、引き続いて分級し、粒径20μm未満の磁石粉末を17重量%以下にすることを特徴とする希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末の製造方法。
【請求項2】
さらに、分級によって粒径64μm以上の磁石粉末を5重量%以下にすることを特徴とする請求項1に記載の希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法で得られた優れた耐酸化性と高磁気特性を有する希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末であって、
その組成は、22〜27重量%の希土類元素と、7重量%以下のMnと、4〜5重量%のNと、残部が実質的にFeであるか又はFeの20重量%以下をCoで置換したFeおよびCoからなり、かつ、ThZn17型結晶構造を有する主相とアモルファス相とを含有することを特徴とする希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末。
【請求項4】
残留磁束密度が1.0T(10kG)以上であって、かつ角形性が240kA/m(3kOe)以上であることを特徴とする請求項3に記載の希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−60049(P2006−60049A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−240907(P2004−240907)
【出願日】平成16年8月20日(2004.8.20)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】