説明

希土類アルミン酸マグネシウム蛍光体、及びその製造方法、並びに該蛍光体を用いた蛍光ランプ

【課題】蛍光ランプに用いる場合に管端色差の小さい蛍光体を提供する。
【解決手段】Mg、及びAlを必須とし、さらに、Ce、及び/又はL元素(Lは、La、Gd、及びYからなる群から選ばれる少なくとも1種の希土類元素である。)、並びに、Tb及び/又はMnを含有する希土類アルミン酸マグネシウム蛍光体であって、50ppm以上10000ppm以下の塩素を含有することを特徴とする、蛍光体。下記式[1]で表される化学組成を有するものであることが好ましい。
(LCeTb1−x―y3・zMgO・nAl23 ・・・ [1]
(ただし、前記式[1]中、Lは、La、Gd、及びYからなる群から選ばれる少なくとも1種の希土類元素を表し、x、y、z、及びnは、それぞれ0≦x<0.95、0≦y<0.95、0.1<z<4.0、及び7≦nなる条件を満たす数である)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類アルミン酸マグネシウム蛍光体、特に蛍光ランプに用いた場合に管端色差の小さい蛍光ランプに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ(LCD)に用いられるバックライトには、コストや省エネルギーの観点から、例えば、冷陰極蛍光ランプ(CCFL)や外部電極蛍光ランプ(EEFL)などの蛍光ランプが主として用いられている。液晶ディスプレイの色再現範囲は、用いられた蛍光ランプの発光色により決定されてしまう。現状としては、これら蛍光ランプに用いられる緑色系発光蛍光体として、Ce,Tb共付活のリン酸ランタン蛍光体(以下、「L
AP蛍光体」ともいう。)が用いられている。しかしながら、緑色系発光蛍光体としてLAP蛍光体を用いた蛍光ランプを備える液晶ディスプレイの色再現範囲は充分とはいえない。
【0003】
そこで、この色再現範囲を広げるために、バックライト用蛍光ランプの蛍光体として、CAT蛍光体(例えば、特許文献2に記載の具体的な組成として(Ce0.65Tb0.35)O1.5・MgO・5.5Al)等が挙げられる。)、やCMZ蛍光体(例えば、特許文献2に記載の具体的な組成としては、CeO1.5・(Mg0.34Zn0.40Mn0.26)O・5.5Al等が挙げられる。)の、Tb及び/又はMn付活希土類アルミン酸マグネシウム蛍光体の使用が検討されるようになってきた。しかしながら、これらの蛍光体は、蛍光ランプとしたときに、発光特性は良好であるものの、管の長さ方向での発光色度のずれを表す管端色差特性が問題となっていた。
【0004】
ここで、管端色差について説明する。液晶表示装置用バックライト用蛍光ランプ、及び照明用三波長形蛍光ランプにおいては、一般に青色発光蛍光体、緑色発光蛍光体、赤色発光蛍光体の少なくとも三種類の蛍光体を溶媒中で混合してスラリーとし、ガラス管内に塗布し、乾燥させた後、所望の膜厚の蛍光体層を作成している。このとき、青色、緑色、赤色のそれぞれの蛍光体には、粒子径、形状、比重、分散度等に違いがあるため、管内で塗布、乾燥する際に個々の蛍光体の流動特性に違いがあるため、塗布管の上部と下部で色度の違い(色度ずれ)が発生するという問題があった。このような蛍光ランプの両端の色度ずれのことを、管端色差という。
【0005】
このような管端色差を改善する技術として、特許文献1に、各色蛍光体の一次粒子径と二次粒子径の比率を規定することにより管端色差を改善しようとする技術が知られている。三波長形蛍光ランプに用いる緑色蛍光体、赤色蛍光体、及び青色蛍光体の凝集度を制御して蛍光ランプ両端の色度の差を小さくしよう(管端色差を改善しよう)とするものである。なお、特許文献1で用いられている緑色系発光蛍光体は、BaMgAl1017:Eu,Mn、LaPO:Ce,Tbの単色、若しくは2色混合蛍光体である。
【0006】
また、特許文献2に、CAT蛍光体やCMZ蛍光体の粒子形状、粒度分布についての記載がある。その中で、原料に特定のアルミナを用いることにより粉砕が容易でかつ微粒子が少ないために発光特性に優れ、製品歩留まりが高いアルミン酸塩系蛍光体が得られることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−197478号公報
【特許文献2】特許第3366987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、液晶表示用バックライト用、および照明用の三波長形蛍光ランプに希土類アルミン酸マグネシウム蛍光体を用いることが検討されるようになってきたが、この蛍光体を用いた蛍光ランプは、発光特性は良好であるものの管端色差の点で問題があり、この改善が強く要望されている。
特許文献1に記載の技術では、管端色差の改善の点で未だ不十分である。また、特許文献1に記載の蛍光体は、本発明の希土類アルミン酸マグネシウム蛍光体とは異なる結晶構造を有するものであることから、特許文献1の内容をそのまま希土類アルミン酸マグネシウム蛍光体に適用することはできない。
【0009】
また、特許文献2では、蛍光体による管端色差への影響については検討がなされていない。しかも、蛍光体原料の中で最も使用量の多いアルミナ原料が限定されてしまうことや、アルミナ原料のコストが大幅に高くなってしまう等の問題がある。
本発明は、管端色差の改善された希土類アルミン酸マグネシウム蛍光体を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために、Tb、及び/又はMn付活希土類アルミン酸マグネシウム蛍光体を用いた蛍光ランプの管端色差を改善するためには、蛍光ランプに用いるTb、及び/又はMn付活希土類アルミン酸マグネシウム蛍光体のランプ塗布時のスラリー流動性を改善することが重要であるとの仮説に基づき、蛍光体粒子の分布、形状、表面コート等について検討した。
【0011】
その中で、特にコストアップにつながる主原料については固定したまま、微量成分であるフラックスについて、仕上がった蛍光体の粒子形状との関係につき、種々検討した結果、驚くべきことに、蛍光体を製造する際にCl(塩素)を含有する化合物の存在下で焼成した場合において特に得られた蛍光体の形状が球状に近くなることを見出した。そして、この蛍光体を用いた蛍光ランプにおいて、管端色差を大幅に改善することができることを見出し、本発明に至った。
【0012】
本発明は、このような知見をもとになし得たものであり、以下を要旨とする。
(1)Mg、及びAlを必須とし、さらに、Ce、及び/又はL元素(Lは、La、Gd、及びYからなる群から選ばれる少なくとも1種の希土類元素である。)、並びに、Tb及び/又はMnを含有する希土類アルミン酸マグネシウム蛍光体であって、50ppm以上10000ppm以下の塩素を含有することを特徴とする、蛍光体。
(2)前記希土類アルミン酸マグネシウム蛍光体が、下記式[1]で表される化学組成を有するものであることを特徴とする、(1)に記載の蛍光体。
(LCeTb1−x―y3・zMgO・nAl23 ・・・ [1]
(ただし、前記式[1]中、Lは、La、Gd、及びYからなる群から選ばれる少なくとも1種の希土類元素を表し、x、y、z、及びnは、それぞれ0≦x<0.95、0≦y<0.95、0.1<z<4.0、及び7≦nなる条件を満たす数である)
(3)QD値が、0.19以下であることを特徴とする、(1)又は(2)に記載の蛍光体。
(4)WD−50/FSSS値が、1.80以下であることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれかに記載の蛍光体。
(5)前記蛍光体の粒子表面の少なくとも一部が、酸化物、水酸化物、炭酸塩化合物の少
なくとも1種で被覆されていることを特徴とする、(1)〜(4)のいずれかに記載の蛍光体。
(6)Mg、及びAlを必須とし、さらに、Ce、及び/又はL元素(Lは、La、Gd、及びYからなる群から選ばれる少なくとも1種の希土類元素である。)、並びに、Tb及び/又はMnを含有する希土類アルミン酸マグネシウム蛍光体の製造方法であって、塩素を含む化合物の存在下で蛍光体原料混合物を焼成する工程(以下、「焼成工程」とする。)を有することを特徴とする、蛍光体の製造方法。
(7)前記塩素を含む化合物の量が、蛍光体1モルに対し、Clが0.03モル以上0.18モル以下となるようにすることを特徴とする、(6)に記載の蛍光体の製造方法。
(8)(1)〜(5)のいずれかに記載の蛍光体を含有する蛍光膜を備えることを特徴とする、蛍光ランプ。
(9)前記蛍光膜が、さらに、青色蛍光体としてEu付活アルカリ土類クロロ燐酸塩蛍光体を含有することを特徴とする、(8)に記載の蛍光ランプ。
(10)(8)、又は(9)に記載の蛍光ランプを備えることを特徴とする、液晶表示装置。
【発明の効果】
【0013】
本発明の蛍光体は、従来の希土類アルミン酸マグネシウム蛍光体と比較して、蛍光ランプに用いた場合に管端色差が大幅に改善される。また、本発明の蛍光体は、蛍光体粒子の形状が球状に近く、粒度分布がシャープで、しかも分散性も良好であるため、取り扱い性に優れている。
また、本発明の蛍光ランプは、上述のような本発明の蛍光体を有することから、管端色差が大幅に改善される。
【0014】
本発明の液晶表示装置は、上述のような本発明の蛍光ランプを備えていることから、画面の均整度を高めることができる。
さらに、本発明の蛍光体の製造方法によれば、蛍光体粒子の形状改善により、分散処理工程を簡略化することができるので、作業時間の短縮、分散処理による輝度の低下を抑えることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】BaCl添加量と、仕上がった蛍光体のWD-50/FSSS値との相関を例示するグラフである。
【図2】BaCl添加量と、仕上がった蛍光体中のCl量(ppm)との相関を例示するグラフである。
【図3】蛍光体中のCl量(ppm)と、管端色差(Δy)との相関を例示するグラフである。
【図4】本発明の蛍光体とSCA蛍光体とを組み合わせた時の管端色差(Δx、Δy)との相関を例示するグラフである。
【図5】蛍光体のWD-50/FSSSと管端色差(Δy)との相関を例示するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[1.蛍光体]
本発明の蛍光体は、Mg、及びAlを必須とし、さらに、Ce、及び/又はL元素(Lは、La、Gd、及びYからなる群から選ばれる少なくとも1種の希土類元素である。)、並びに、Tb及び/又はMnを含有する希土類アルミン酸マグネシウム蛍光体であって、50ppm以上10000ppm以下の塩素を含有することを特徴とするものである。
【0017】
(結晶構造)
希土類アルミン酸マグネシウム蛍光体は、マグネトプラムバイト型構造を有している。
そのため、従来の製法によれば、その結晶構造(六方晶系)に由来して粒子形状が偏平粒子になりやすい傾向にある。
これに対し、本発明では、微妙な凝集度を制御するのではなく、塩素の存在下で蛍光体を焼成することにより粒子形状そのものを球状化し、粒度分布をシャープ化することにより蛍光体粒子の分散性を高めることにより管端色差を無くそうというものである。
【0018】
(塩素の含有量)
本発明の蛍光体は、通常50ppm以上、好ましくは100ppm以上、より好ましくは200ppm以上、また、通常10000ppm以下、好ましくは3000ppm以下、より好ましくは1000ppm以下、特に好ましくは600ppm以下のCl(塩素)を含有する。
本発明の蛍光体は、塩素を含有することにより、結晶成長の安定化が図られ、粒度分布がシャープになる傾向にある。そのため、本発明の蛍光体では、粗大粒子が少なく、ランプ作製時においては、スラリーのメッシュパス性が大幅に改善することにより作業性が著しく向上し、また、蛍光膜の剥離の減少も期待できる。加えて、蛍光体粒子の結晶性の向上により、ランプ寿命も改善する。
なお、上記の塩素濃度は、後述の実施例に記載するように分光光度計を用いた吸光光度法により測定することができる。
また、本発明の蛍光体に含有される塩素は、後述されるフラックスに由来するものであっても、その他の蛍光体の原料に由来するものであってもよい。
【0019】
(蛍光体の組成)
本発明の蛍光体は、Mg、及びAlを必須とし、さらに、Ce、及び/又はL元素(Lは、La、Gd、及びYからなる群から選ばれる少なくとも1種の希土類元素である。)、並びに、Tb及び/又はMnを含有するものである。ここで、L元素としては、塩素フラックスの粒子形状に及ぼす影響が大きいことや蛍光ランプに用いたときに高い光束と高い光束維持率が得られることから、Laが好ましい。
【0020】
上述の本発明の蛍光体の好ましい組成としては、具体的には、Ce(Mg,Mn)Al1119(以下、「CMM蛍光体」とする。)、 Ce(Mg,Zn,Mn)Al1119(以下、「CMZ蛍光体」とする。)、(Ce,Tb)MgAl1119(以下、「CAT蛍光体」とする。)、(La,Ce,Tb)MgAl1119(以下、「LAT蛍光体」とする。)、(Ce,Tb)(Mg,Mn)Al1119(以下、「CAT:Mn蛍光体」とする。)が挙げられる。これらの中でも、CAT蛍光体、LAT蛍光体、及びCAT:Mn蛍光体からなる群から選ばれるものであることがより好ましく、CAT蛍光体、又はLAT蛍光体であることが特に好ましい。Tb付活蛍光体は、最大比視感度波長付近に発光のピークを有し高い輝度を示す点で優れているからである。
【0021】
上述した中でも、本発明の蛍光体は、下記式[1]で表される組成を有することがより好ましい。
(LCeTb1−x―y3・zMgO・nAl23 ・・・ [1]
(ただし、前記式[1]中、Lは、La、Gd、及びYからなる群から選ばれる少なくとも1種の希土類元素を表し、x、y、z、及びnは、それぞれ0≦x<0.95、0≦y<0.95、0.1<z<4.0、及び7≦nなる条件を満たす数である)
【0022】
ここで、上述の説明では、x=0で、Lを含まない蛍光体をCAT蛍光体、x>0でL元
素を含む蛍光体をLAT蛍光体と呼んでいる。CAT蛍光体に比べ、LAT蛍光体では、形状、分
散度に対する改善効果がより大きいため、x>0であるLAT蛍光体を用いることがより好
ましい。
更に、Ba、Sr、Ca等のアルカリ土類金属を含有する複合酸化物とすることもでき
る。この場合、アルカリ土類金属は2価金属であるが、イオン半径が大きいために、Mg、Alのサイトでなく、Ce、Tbのサイトが置換される傾向にある。
【0023】
前記式[1]において、Lは、La、Gd、およびYからなる群から選ばれる少なくとも1種の希土類元素であるが、中でも、Laが好ましい。Laで置換すると、他の元素で置換した場合に比べ、172nmの真空紫外線及び254nmの紫外線で励起したときの相対輝度及び緑単色冷陰極蛍光ランプの光束が特に高いからである。
【0024】
前記式[1]において、本発明の蛍光体の特性に影響を与えない範囲内でAlの一部が、Gaおよび/またはScにより置換されていてもよい。
前記式[1]において、xは、通常0より大きく、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.2以上であり、また、通常0.95未満、好ましくは0.5以下である。
【0025】
前記式[1]において、yは、通常0以上、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.2以上であり、また、通常0.95未満、好ましくは0.6以下である。
前記式[1]において、zは、通常0.1以上、好ましくは0.2以上、より好ましくは1.1以上であり、また、通常4.0以下、好ましくは1.9以下、より好ましくは1.7以下である。zを2.0以下にすると残光時間を短縮できるので液晶ディスプレイの動画特性改善のために望ましいが、0.1以下になると発光輝度が低下してしまう傾向にある。
【0026】
前記式[1]において、n{蛍光体におけるCe23、Tb23及びL23(ただし、LはLa、Gd、Yの中の少なくとも1種の希土類元素を表す)とのモル数の総和に対するAl23のモル数の比率}は、通常7以上である。本発明の蛍光体では、化学量論組成からAl23の含有量を増加させても輝度の変化が小さいことに着目し、Al23の量を増加させることができる。一方で、このnの値が7未満であると、輝度特性が低下する傾向にある。nの値が11以上になるようにすると、結晶の形状が多少丸みを帯びる傾向があり、また、コストの低いアルミナの比率が高まるので製造コストも低下できるので好ましい。一方、20を超えると、輝度が下がり始めるため、発光輝度の点でn値としては、11≦n≦20がより好ましい。
【0027】
また、CAT:Mn蛍光体としては、下記式[2]で表される組成を有するものが好ましい。
(CeTb1−x3・y(Mg1−zMn)O・nAl23 ・・・[2]
(ただし、前記式[2]中、x、y、z及びnはそれぞれ、0<x<1、0.1≦y≦4.0、0<z≦1、7≦nの条件を満たす数である)
また、CMM蛍光体としては、下記式[3]で表される組成を有するものが好ましい。Ce・x(Mn1−y,Mg)O・nAl ・・・[3]
(ただし、前記式[3]中、x、y及びnはそれぞれ、0.2≦x≦1.8、0≦y≦0.9、7≦nの条件を満たす数である)
【0028】
(蛍光体の特性)
本発明の蛍光体は、緑色系に発光する。より具体的には、紫外領域の波長の光(例えば、254nm)を照射した場合に、発光ピーク波長が、通常470nm以上、好ましくは520nm以上、より好ましくは540nm以上、また、通常570nm以下、好ましくは550nm以下の範囲である。
本発明の蛍光体は、通常170nm以上、好ましくは180nm以上、また、通常300nm以下、好ましくは280nm以下の範囲の光で励起することができる。
【0029】
本発明の蛍光体の粒径に関しては、特に限定されないが、本発明の液晶バックライト用
蛍光ランプの蛍光膜などに適用する場合には、取り扱いや色の均一性の点から、フィッシャー・サブ・シーブ・サイザー法で測定された粒度(以下、「FSSS粒度」という。)で1〜20(μm)程度の範囲から任意に選択すればよく、好ましくは2〜8(μm)、より好ましくは3〜7(μm)である。
【0030】
本発明の蛍光体は、蛍光体の粒度分布の指標であるQD値が、通常0.20以下、好ましくは0.19以下である。QD値が大きすぎると、蛍光体の微細粒子の含有量と粗大粒子の含有量が多くなり粒度分布が広くなる傾向にある。
なお、QD値は、後述の実施例に記載の方法にて測定することができる。
本発明の蛍光体は、蛍光体粒子の分散性の指標である「WD−50/FSSS」の値が、低いことが好ましい。本発明の蛍光体の「WD−50/FSSS」の値として、具体的には、通常1.80以下、好ましくは1.70以下である。
なお、「WD−50/FSSS」とは、「WD−50」(中央重量粒径)の値を「FSSS」(FSSS粒度)で割った値であり、後述の実施例に記載の方法にて測定することができる。
【0031】
(蛍光体の製造方法)
本発明の蛍光体の原料化合物としては、酸化セリウム、または炭酸セリウム、硝酸セリウムなどのCe化合物、酸化ランタン、または炭酸ランタン、硝酸ランタン、酸化ガドリニウム、または炭酸ガドリニウム、硝酸ガドリニウム、酸化イットリウム、炭酸イットリウム、硝酸イットリウムなどのL化合物(ここでLはランタン(La)、ガドリニウム(Gd)、イットリウム(Y)の中の少なくとも1種の希土類元素を表す)、酸化テルビウム、または炭酸テルビウム、硝酸テルビウムなどのTb化合物、酸化マグネシウム、または炭酸マグネシウムなどのMg化合物、及び酸化アルミニウム、または硫酸アルミニウムなどAl化合物が挙げられる。
上述した原料化合物を、例えば、前記式[1]〜[3]で表される組成式の割合で混合し、得られた蛍光体原料混合物を、焼成することによって本発明の蛍光体は製造される。
【0032】
すなわち、本発明の製造方法は、例えば、以下のような手順で行うことができる。1)上記のような原料を所定量秤取し、ボールミル、V型混合機などの混合手段により十分に混合して、蛍光体原料混合物を調製する。2)得られた蛍光体原料混合物をアルミナ坩堝等の耐熱容器に充填して、還元雰囲気において1400℃〜1600℃で、高温炉中において炉の昇降温に要する時間も含めて10時間〜26時間焼成する。3)得られた焼成物に、通常の蛍光体製造時に適用される後処理工程と同様の分散、洗浄、乾燥の諸処理を施す。なお、コートは必要に応じ、洗浄後に行うと、表面洗浄時に剥離することもなく、乾燥時の凝集等の影響も受けにくいので好ましい。
【0033】
(フラックス)
本発明の蛍光体は、塩素を含む化合物の存在下で蛍光体原料混合物を焼成する工程(以下、「焼成工程」とする。)を有することを特徴とする。従来のTb及び/又はMn付活希土類アルミン酸マグネシウム蛍光体は、フラックスとして通常AlF等のフッ化物フラックスを用いていたのに対し、塩素を含む化合物を用いる点で異なっている。
本発明に用いられる塩素を含む化合物としては、化合物中に塩素を含んでいれば、いずれの塩化物などの塩素を含む化合物であれば構わず、特に限定はされない。具体的には、BaCl、SrCl、CaCl等のアルカリ土類金属の塩化物、NHCl等が挙げられる。これらの中でも、SrCl、CaClは、粒子形状改善効果が大きく、他方、BaClは特に輝度面から有利である、という特徴を有する。
【0034】
塩素の仕込み量(添加量)は、蛍光体1モルに対し、Cl(塩素)が、通常0.03モル以上、好ましくは0.06モル以上であり、また、通常0.18モル以下、好ましくは
0.14モル以下である。塩素の仕込み量が蛍光体1モルに対し0.02モルより少ないと結晶成長が不充分となる傾向にある。塩素の添加量が、蛍光体1モルに対し0.02モルと少ない場合、ランプ作製時のベーキングを想定した加熱処理後の輝度維持率(800℃で20分間加熱処理する前の発光輝度に対する加熱処理後の発光輝度の比率)は96%であり、塩素の仕込み量0.10モルとした場合の輝度維持率(98%)と比べ、低くなっている。
【0035】
一方、塩素仕込み量が蛍光体1モルに対し0.18モルより多くなると、一部の結晶粒子が偏平形状の大粒子になってしまうことがある。大粒子の存在は、ランプ作製工程におけるスラリーのメッシュ詰まりや、蛍光膜の膜はがれにつながり、望ましくない。
塩素の供給方法はフラックス添加に限らず、例えば、塩化セリウム、塩化ランタン、塩化ガドリニウム、塩化イットリウム、塩化テルビウム、塩化マグネシウム、塩化アルミニウム等のように、母体や付活剤の原料に塩化物を用いることによっても同様な効果を得ることが可能である。
【0036】
また、塩化物系フラックスに加えて、粒度調整等を行うため必要に応じてフッ化アルミニウムなどの従来用いられていたフラックスを混合使用しても良い。
蛍光体を製造する際、フラックスは、通常、結晶を成長させる目的で用いられる。一般に、蛍光体の合成および結晶粒子が気相反応である場合には、フラックスとして、その昇華点が反応温度あるいは相転移点に近い気相フラックス(例えば、弗化物系フラックス)を用いるのが通常である。Tb及び/又はMn付活希土類アルミン酸マグネシウム蛍光体等のアルミン酸塩系蛍光体は、気相反応にて結晶成長するので、この場合、使用されるフラックスも通常気相フラックスが用いられている。従って、Tb及び/又はMn付活希土類アルミン酸マグネシウム蛍光体に用いられるフラックスとしては、従来、AlF、LiF、MgF等の弗化物系フラックスが用いられていた。
【0037】
また、フラックスの融点が反応温度あるいは原料の融点以下である液相フラックス(例えば、塩化物系フラックス)は、蛍光体の合成および結晶粒子が液相反応である場合に用いられるのが一般的である。塩化物系フラックス等の液相フラックスは、シリケート系蛍光体などの液相反応で結晶成長するような蛍光体を合成する場合に用いられることがある。
【0038】
そのため、従来、アルミネート系蛍光体を製造する際には、塩化物系フラックスが用いられることはなかった。また、塩化物系フラックスを用いた場合に、Tb及び/又はMn付活希土類アルミン酸マグネシウム蛍光体の粒子形状を球形の形状にしたり、分布を大幅にシャープに改善したりする効果については全く予想されなかった。なお、従来、アルミネート系蛍光体によく用いられていたAlFについて添加量を増加した場合、粒度は大きくなるものの分散性や形状が改善されることはなかった。
【0039】
(表面処理)
本発明の蛍光体は、蛍光体の粒子表面の少なくとも一部が、酸化物、水酸化物、炭酸塩化合物の少なくとも1種で被覆されていることが好ましい。
本発明のTb及び/又はMn付活希土類アルミン酸マグネシウム蛍光体では、塩素を含有することによる粒子形状、分散性、粒度分布の改善に加えて、さらに、コート処理を施すことによりスラリー中における蛍光体のフローイング性が改善され、より一層管端色差を改善することができるので好ましい。
【0040】
また、コートには輝度の経時劣化抑制や寿命特性の向上などの効果もある。そのため、無機化合物や有機化合物などの被覆物質により、蛍光体の表面をコート処理することが好ましい。
コート処理の方法としては、特に限定されず、例えば、微粒子にしたコート物質を、被覆される蛍光体と混合し、乾燥させて付着させる方法、コート物質が被覆される蛍光体の表面に析出するよう、pH等の調整を行う方法、電位を利用して被覆される蛍光体の表面に吸着させる方法、あるいは別にバインダーとなる物質を混合して被覆する方法など、被覆される蛍光体とコート物質の特性に応じて任意に選択することができる。
【0041】
被覆物質の具体例としては、例えば酸化マグネシウム、酸化ランタン、酸化イットリウムなど、各種の酸化物、アルカリ土類金属炭酸塩および希土類金属炭酸塩などの炭酸塩、水酸化イットリウム等の水酸化物などが挙げられるが、中でも、特許4199530号に記載された希土類金属の炭酸塩による被覆が、蛍光ランプ用として用いる場合、寿命の改善効果が大きい点で、好ましい。
希土類炭酸塩の炭酸塩として好ましいのは、炭酸イットリウム、炭酸ランタンなどである。また、被覆量は、蛍光体に対し0.05〜5重量%とすることが望ましい。
【0042】
[2.蛍光ランプ]
本発明の蛍光ランプは、上述した本発明の蛍光体を含有することを特徴とする。これにより、管端色差が小さくなり、例えば、本発明の蛍光ランプを照明用に用いると、蛍光ランプ両端の色の差が小さくなるので、他の蛍光ランプと並列に配置したときの、蛍光ランプ間での色の違いも無くなり、外観上の違いが気にならない照明ランプが得られるという効果が得られる。
本発明の蛍光ランプは、光に対して透明な管状の外囲器の内側に蛍光膜を形成すると共に、該外囲器に希ガスあるいは水銀を封入してなることが好ましい。
【0043】
(励起源)
本発明の蛍光ランプの励起源は、真空紫外線ないし紫外線であり、具体的には、通常170nm以上、好ましくは180nm以上、また、通常300nm以下、好ましくは280nm以下の真空紫外線ないし紫外線である。
励起源としては、通常、水銀、および/または希ガスの放電が用いられる。
【0044】
(蛍光体)
本発明の蛍光ランプは、上述した本発明の蛍光体を少なくとも1種以上有している。本発明の蛍光体の中でも、前記式[1]で表される組成の蛍光体を用いることが好ましい。なお、本発明の蛍光体を2種以上、組み合わせて使用してもよいし、後述するように他の蛍光体を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
(蛍光体の組み合わせ)
液晶表示装置用バックライト用蛍光ランプ、又は一般照明用蛍光ランプとして、本発明の蛍光体と共に用いられる青色系発光蛍光体としては、Eu2+付活アルカリ土類アルミン酸塩蛍光体(以下、「BAM蛍光体」ともいう)、あるいは、Eu2+付活アルカリ土類クロロ燐酸塩蛍光体(以下、「SCA蛍光体」ともいう)がある。これらの青色系蛍光体は、緑色系蛍光体である従来のTb及び/又はMn付活希土類アルミン酸マグネシウム蛍光体に比べて分散性が良いため、緑色系蛍光体との流動性のバランスがずれ、その結果、管端色差が大きくなるという問題点を有していた。
中でも、SCA蛍光体はTb及び/又はMn付活希土類アルミン酸マグネシウム蛍光体と組み合わせると、液晶表示装置においては色再現範囲がより拡がるので望ましいが、SCA蛍光体は、BAM蛍光体より更に分散性が高いのでSCA蛍光体との流動性のバランスをとるためにはTb及び/又はMn付活希土類アルミン酸マグネシウム蛍光体の流動特性を更に改善することが求められていた。
本発明の蛍光体は、分散性が良好であるので、SCA蛍光体と組み合わせて用いると、特に、管端色差の改善効果が顕著に表れるので好ましい。
【0046】
(蛍光ランプの製造方法)
本発明の冷陰極蛍光ランプは、波長170nm〜300nmの真空紫外線ないし紫外線により前記蛍光膜を発光させるものであり、ガラス管の内壁に形成される蛍光膜が本発明の蛍光体を含有すること以外は従来のバックライト用蛍光ランプ、又は一般照明用蛍光ランプと同様にして製造される。
すなわち、本発明の蛍光体に、必要に応じて他色の蛍光体を加え、例えば、低融点ガラス粉末、微粒子金属酸化物、あるいは微粒子金属硼酸塩または燐酸塩等の結着剤とともに水または酢酸ブチル、イソプロピルアルコール等有機溶媒の溶媒中にポリエチレンオキサイド、ニトロセルロースなどのバインダーとともに分散させてなる蛍光体塗布スラリーを調製する。得られたスラリーを光透過性の細管中に吸い上げて、管の内壁に塗布した後、温風などで乾燥させ蛍光膜を形成した後、これをベーキングしてから管内にアルゴン -
ネオン、あるいはキセノンなどの希ガス、あるいは水銀を封入してから管の両端を封ずることによって製造される。電極は従来のバックライト用蛍光ランプと同様に管の両端または管表面に取り付けられる。
【0047】
(液晶表示装置)
本発明の蛍光ランプは、管端色差が小さく高光束で高い光束維持率を有するため、液晶表示装置のバックライトとして好適に使用することができる。本発明のカラー液晶表示装置は、光シャッターとして機能する液晶からなる複数の液晶素子と、該複数の液晶素子のそれぞれに対応する少なくとも赤、緑、青の3色の色素を有するカラーフィルターと、透過照明用のバックライトとを組み合わせて構成され、該バックライトが本発明のバックライト用蛍光ランプを備えてなることを特徴とするものである。
本発明の液晶表示装置は、経時的に高輝度を維持することができ、残像感や輪郭のぼやけを低減した応答特性の速い色再現範囲の広い液晶表示装置となる。
【実施例】
【0048】
次に実施例により本発明を説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、実施例に限定されるものではない。
【0049】
[評価方法]
<管端色差評価法>
管端色差は、青色蛍光体として、BAM蛍光体(商品名:三菱化学製LP-B4)、又はS
CA蛍光体(商品名:三菱化学製LP-B1)、赤色蛍光体としてYOX蛍光体(商品名:三菱化学製LP-RE1)、緑色蛍光体を変更して、配合比をR:G:B=1:1:1とした混合蛍光体を、充分に混合した。次いで200メッシュの篩を通し、更に混合した蛍光体をランプ管FL40S(管径32mm1.2m長)に塗布、乾燥後、管の上下それぞれの端から10cmの塗布膜の色度を波長254nmの紫外線で励起して測定し、以下の計算式により管端色差を測定した。
Δx=x(下側)−x(上側)
Δy=y(下側)−y(上側)
【0050】
<FSSS粒度>
蛍光体の粒径(FSSS)を、フィッシャーサブシーブサイザー(フィッシャー社)にて測定した。
<WD−50、及びQD>
WD−50(中央重量粒径)、及びQDは、コールターカウンター マルチサイザーII(コールター社) にてアパーチュア50μmにて測定した。
ただし、WD−50は、蛍光体含有スラリーを5Wの超音波にて25秒間分散処理した後に測定したものである(以下、「弱分散条件」とする。)。
また、QDは蛍光体粒度分布を表す尺度であり、前記弱分散条件の重量分布ヒストグラムより25%径と75%径のデータから以下計算式により求めた。
(75%径−25%径)/(25%径+75%径)
また、WD−50の値を、前記FSSS粒度の値で割ることにより、「WD−50/FSSS」の値を求め、蛍光体粒子の分散性の指標として用いた。
【0051】
<Clの分析法>
Clの定量分析は、蛍光体をアルカリ溶融した後、1%AgNOと反応させ、分光光度
計(日本分光製V−550)にて、吸光光度法により、検量線より定量した。測定波長は430nmとした。
【0052】
<相対輝度、および色度座標>
相対輝度は、254nmの紫外線を照射して測定し、比較例1のLAP蛍光体との相対値で表した。
また、色度座標は波長254nmの紫外線を照射して測定した。
【0053】
<加熱処理後の輝度維持率>
蛍光体を空気雰囲気中において800℃で20分間加熱処理する前の発光輝度に対する加熱処理後の発光輝度の比率で表した。なお、発光輝度は波長254nmの紫外線を照射して測定した。
【0054】
<緑単色冷陰極蛍光ランプの光束>
蛍光体(緑色発光成分蛍光体)100重量部を、1.1%ニトロセルロースを含む酢酸ブチル200重量部と0.7重量部の硼酸塩系結合剤とともに十分に混合して蛍光体スラリーを調製した。得られた蛍光体スラリーを管径が外径2.6mm、内径2.0mmのガラスバルブ内面に塗布し乾燥させ、650℃で15分間ベーキング処理をして、内部に水銀5mgとNe−Arの混合ガスをおよそ10kPaの封入圧で封入して電極を取り付け、管長が300mmの冷陰極蛍光ランプを作製した。ランプ電流6mAにおける冷陰極蛍光ランプの光束を、比較例1のLAP蛍光体を使用した冷陰極蛍光ランプの光束との相対比で表した。
【0055】
<緑単色冷陰極蛍光ランプの光束維持率>
前記緑単色冷陰極蛍光ランプを、ランプ電流8mAで500時間連続点灯させた。そして、連続点灯させる前の光束に対する、500時間連続点灯させた後の光束の比率で表した。
【0056】
[実施例1]
Tb 0.095 mol
CeO 0.3 mol
La 0.16 mol
MgCO 0.65 mol
Al 6.5 mol
BaCl 0.03 mol
【0057】
上記各化合物からなる蛍光体原料を十分に混合し、坩堝に充填し、蓋をして水蒸気を含んだ窒素雰囲気中において最高温度1550℃として、昇降温時間を含めて12時間かけて常圧下で焼成した。
この場合塩素の仕込み量は、BaClとして0.03molであるので塩素の仕込み量としては0.06molとなる。
次いで、焼成粉を分散、洗浄、乾燥、篩の処理を行い、その組成式が(La0.32
0.30Tb0.38)O1.5・0.65MgO・6.5Al23で表される、実施例1のTb付活ランタン・セリウムアルミン酸マグネシウム蛍光体を得た。
【0058】
この実施例1の蛍光体の塩素の含有量を定量分析したところ蛍光体重量に対して180ppmであった。この蛍光体の発光スペクトルは、波長545nmに発光のピークを有しており、発光色のCIE表色系による発光色(x,y)は、x=0.338、y=0.603であり、緑色蛍光体として実用的な発光色であることがわかる。
この実施例1の蛍光体に254nmの紫外線を照射してそのときの発光輝度を測定したところ、これと同一の条件で測定した比較例1のLa0.55Ce0.30Tb0.15PO蛍光体(LAP蛍光体)の102%で充分な発光輝度を有していた。
この実施例1の蛍光体は、発光色、発光輝度ともに、添加物としてBaClに代えてAlFを用いたこと以外は実施例1と同様にして作成した比較例2の蛍光体に比べてほぼ同等であった。
【0059】
この実施例1の蛍光体の粒度特性は、FSSS粒度が4.6(μm)、WD−50/FSSSが1.54、QDが0.18であり、比較例2の蛍光体に比べ、分布がシャープで分散性の良好な粒度特性が得られた。
これら蛍光体の電子顕微鏡写真を観察したところ、比較例2の蛍光体では粒子形状が粒子ごとに不均一であり、また、偏平粒子の存在もみられたが、実施例1の蛍光体形状は丸く、均一な粒子形状を示していた。
【0060】
青色蛍光体として、BAM蛍光体(商品名:三菱化学製LP-B4)、赤色蛍光体としてY
OX蛍光体(商品名:三菱化学製LP-RE1)、緑色蛍光体としてこの実施例1の蛍光体を用いて管端色差を評価した。緑色蛍光体として、BaClに代えてAlFをフラックスに用いたこと以外は実施例1と同様にして作製した比較例2の蛍光体を用いた場合の管端色差に比べ、管端色差は大きく改善されていた。
【0061】
[比較例1]
緑色蛍光体として代表的なLAP蛍光体{三菱化学株式会社製の、組成式が(La0.55Ce0.3T b0.15)POであるLAP蛍光体}を用いた。
[比較例2]
Tb 0.095 mol
CeO 0.30 mol
La 0.16 mol
MgCO 0.65 mol
Al 6.5 mol
AlF 0.01 mol
【0062】
蛍光体原料として上記原料を用いる以外は実施例1と同様にして、蛍光体原料を焼成し、次いで、焼成粉を分散、洗浄、乾燥、篩の処理を行い、その組成式が(La0.32Ce0.30Tb0.38)O1.5・0.65MgO・6.5Al23で表される、比較例2のTb付活ランタン・セリウムアルミン酸マグネシウム蛍光体を得た。
【0063】
この比較例2の蛍光体の塩素の仕込み量は、0molであり、仕上がった蛍光体中の塩素の含有量を定量分析したところ検出下限値以下(≦20ppm)であった。
この比較例2の蛍光体の発光スペクトルは波長545nmに発光のピークを有しており、発光色のCIE表色系による発光色(x,y)は、x=0.338、y=0.603であり、254nmの紫外線を照射してそのときの発光輝度を測定したところ、これと同一の条件で測定した比較例1のLa0.55Ce0.30Tb0.15PO蛍光体(LAP蛍光体)の103%であった。
この比較例2の蛍光体の粒度特性は、FSSS粒度が3.5(μm)、WD−50/FSSSが1.97、QDが0.19であった。
【0064】
[実施例2〜9、比較例3]
蛍光体原料添加物として表1に示す添加物、添加量としたこと以外は実施例1と同様にして実施例2〜9、および比較例3の蛍光体を製造し、得られた蛍光体の塩素の含有量の分析値、色輝度特性として254nmの紫外線を照射したときのCIE表色系による発光色(x,y)、254nmの紫外線を照射してそのときの発光輝度(Y)、粒度特性としてWD−50、QD、WD−50/FSSS、FSSS粒度、青色蛍光体としてBAM蛍光体、赤色蛍光体としてYOX蛍光体と組み合わせた場合の管端色差の結果について実施例1、比較例2とともに表1に示す。
【0065】
実施例の蛍光体は比較例2,3の蛍光体に比べ、特にWD−50/FSSSが小さくなっており、分散性が改善されている。又、分散性が改善されたことにより管端色差(Δy)も小さくなっている。
比較例3では塩素量が不十分であり、結晶成長が不十分であるために、FSSS粒度が2.9(μm)であり、粒度が小さめになっている。
【0066】
図1に、実施例1〜4、9、及び比較例2〜3について、BaCl2仕込み量(添加量)(
mol)と仕上がった蛍光体中のWD−50/FSSS値との相関を示す。蛍光体粒子の分散度を表すWD−50/FSSSの値は、小さい方ほど分散性が高いことを表すが、BaCl2添加量が少なすぎても、逆に多すぎてもこの値が大きくなる傾向にあることがわかる。
【0067】
WD−50/FSSSの値を小さくするためにはBaClの添加量が0.015molから0.09mol、塩素のモル数としては0.03molから0.18molとすることが望ましい。但し、BaCl添加量が0.015molより少ない場合WD−50/FSSSの値は大幅に大きくなってしまうが、0.09molより大きくなっても、WD−50/FSSSの上昇はそれほど大きくないのでWD−50/FSSSには多すぎてもあまり問題ではない。
【0068】
図2に、実施例1〜4及び比較例2〜3について、BaCl仕込み量(添加量)と仕上がった蛍光体中のCl量(分析値)との相関を示す。仕込み量に対し、焼成し、処理した後の残存Cl量は、1/20程度と大幅に減少しているが、分散性を向上させるためには、上記のようにBaCl添加量が0.015molから0.09molが望ましく、多い方は余り制約がないので、蛍光体中に含有するCl量としては50ppm以上600ppm以下が最も望ましい。しかしながら、仕込み量に対して1/20程度までに減少することから、後処理、洗浄工程等により洗い流されていることもあり、このことを考慮すると10000ppm以下が望ましい。
【0069】
図3に、実施例1〜4及び比較例2について、蛍光体中に含有するCl量(分析値)と、管端色差(Δy)との相関を示す。蛍光体中に含有するCl量が少ないと管端色差(Δy)は大きいが、蛍光体中に含有するCl量が180ppm以上になるとΔyは大幅に小さくなり、その後600ppm程度までなだらかに大きくなる傾向がみられる。このことから蛍光体中に含有するCl量としては600ppm以下が最も望ましいが、多い方ではそれほどΔyが大きくならないので更に多くしてもかまわないと考えられる。
【0070】
これ等蛍光体の粒子形状を電子顕微鏡写真にて観察したところ、比較例3の蛍光体では塩素量が不十分であるため、粒度は小さく、結晶成長が不十分であったが、実施例2〜4の蛍光体の形状は丸く、均一な粒子形状を示していた。実施例4では一部に偏平粒子の発生がみられた。
添加物としてSrClを用いた実施例7の蛍光体や、CaCl・2HOを用いた
実施例8の蛍光体では、WD−50/FSSSが特に小さくなり、電子顕微鏡観察では、より球状化していることが確認できた。
このように、塩素を含有させた実施例の蛍光体は粒子形状が丸くなっていることが特徴である。
【0071】
【表1】

【0072】
[実施例10〜12、比較例4〜6]
蛍光体原料添加物として表2に示す添加物、添加量、コート量としたこと以外は実施例1と同様にして実施例10〜12、および比較例4〜6の蛍光体を製造した。なお、実施例10、12、比較例4、5については0.3%の炭酸イットリウムコート処理を行った。得られた蛍光体のWD−50、QD、WD−50/FSSS、FSSS粒度、並びに青色蛍光体としてSCA蛍光体(商品名:三菱化学製LP-B1)、赤色蛍光体としてYOX蛍光体と組み合わせた場合の管端色差の結果について表2に示す。
【0073】
実施例10〜12の蛍光体は、比較例4〜6の蛍光体に比べ分散度を表すWD−50/FSSSの値、QDの値が小さく、その結果管端色差(Δy)も小さくなっている。
図4に、各蛍光体のSCA蛍光体およびYOX蛍光体と組み合わせた時の管端色差(Δx、Δy)
を示す。比較例4(CAT蛍光体)及び比較例5(LAT蛍光体)の蛍光体に比べ、実施例10(Cl-CAT蛍光体),及び実施例12(Cl-LAT蛍光体)の蛍光体の管端色差(Δy)が小さくなっている。
【0074】
図5に、実施例10、12、及び比較例4〜5について、WD−50/FSSSと管端色差(
Δy)との相関を示す。蛍光体粒子の分散性が向上し、蛍光体粒子の分散度を表すWD−50/FSSSの値が小さくなると管端色差(Δy)が小さくなるのが分かる。このように、管端
色差を改善するためにはWD−50/FSSSの値を小さくすることが必要である。
【0075】
(単色冷陰極蛍光ランプ)
次に、実施例11、および比較例6の蛍光体100重量部を、1.1%ニトロセルロースを含む酢酸ブチル200重量部と0.7重量部の硼酸塩系結合剤とともに十分に混合して蛍光体スラリーを調製した。得られた蛍光体スラリーを管径が外径2.6mm、内径2.0mmのガラスバルブ内面に塗布し乾燥させ、650℃で15分間ベーキング処理をして、内部に水銀5mgとNe−Arの混合ガスをおよそ10kPaの封入圧で封入して電極を取り付け、管長が300mmでランプ電流6mAの実施例11および比較例6の緑単色の冷陰極蛍光ランプを製造した。
【0076】
この実施例11の緑単色の冷陰極蛍光ランプの光束は、比較例6の冷陰極蛍光ランプの光束の100%と同等であり、ランプ電流8mAで500時間連続点灯させた後に光束を測定したところ、実施例11の緑単色の冷陰極蛍光ランプでは連続点灯させる前の94%の光束を示し、比較例6の冷陰極蛍光ランプでは連続点灯させる前の92%の光束を示した。
実施例11の緑単色の冷陰極蛍光ランプは、比較例6の冷陰極蛍光ランプにくらべ長時間点灯による光束の低下は小さく、ランプ寿命が向上したことがわかる。
【0077】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、光を用いる任意の分野において用いることができ、例えば、照明装置、画像表示装置等に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mg、及びAlを必須とし、さらに、Ce、及び/又はL元素(Lは、La、Gd、及びYからなる群から選ばれる少なくとも1種の希土類元素である。)、並びに、Tb及び/又はMnを含有する希土類アルミン酸マグネシウム蛍光体であって
50ppm以上10000ppm以下の塩素を含有する
ことを特徴とする、蛍光体。
【請求項2】
前記希土類アルミン酸マグネシウム蛍光体が、下記式[1]で表される化学組成を有するものである
ことを特徴とする、請求項1に記載の蛍光体。
(LCeTb1−x―y3・zMgO・nAl23 ・・・ [1]
(ただし、前記式[1]中、Lは、La、Gd、及びYからなる群から選ばれる少なくとも1種の希土類元素を表し、x、y、z、及びnは、それぞれ0≦x<0.95、0≦y<0.95、0.1<z<4.0、及び7≦nなる条件を満たす数である)
【請求項3】
QD値が、0.19以下である
ことを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の蛍光体。
【請求項4】
WD−50/FSSS値が、1.80以下である
ことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の蛍光体。
【請求項5】
前記蛍光体の粒子表面の少なくとも一部が、酸化物、水酸化物、炭酸塩化合物の少なくとも1種で被覆されている
ことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の蛍光体
【請求項6】
Mg、及びAlを必須とし、さらに、Ce、及び/又はL元素(Lは、La、Gd、及びYからなる群から選ばれる少なくとも1種の希土類元素である。)、並びに、Tb及び/又はMnを含有する希土類アルミン酸マグネシウム蛍光体の製造方法であって、
塩素を含む化合物の存在下で蛍光体原料混合物を焼成する工程(以下、「焼成工程」とする。)を有することを特徴とする、蛍光体の製造方法。
【請求項7】
前記塩素を含む化合物の量が、蛍光体1モルに対し、Clが0.03モル以上0.18モル以下となるようにする
ことを特徴とする、請求項6に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の蛍光体を含有する蛍光膜を備える
ことを特徴とする、蛍光ランプ。
【請求項9】
前記蛍光膜が、さらに、青色蛍光体としてEu付活アルカリ土類クロロ燐酸塩蛍光体を含有する
ことを特徴とする、請求項8に記載の蛍光ランプ。
【請求項10】
請求項8、又は請求項9に記載の蛍光ランプを備える
ことを特徴とする、液晶表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−84620(P2011−84620A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−237317(P2009−237317)
【出願日】平成21年10月14日(2009.10.14)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】